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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1397226
総通号数 17 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-12-21 
確定日 2023-04-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第7088431号発明「艶消物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7088431号の請求項1〜29に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7088431号の請求項1〜29に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和3年8月31日に出願した特願2021−141630号(優先権主張 令和2年9月14日)の一部を、令和3年12月22日に新たな出願とした特願2021−208113号の一部を、更に令和4年4月14日に新たな特許出願としたものであって、令和4年6月13日に特許権の設定登録がされ、同年6月21日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜29に係る特許に対し、令和4年12月21日に、特許異議申立人齊藤恵美子(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜29に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明29」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜29に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
被着材と積層、複合又は組み合わせて建築物の化粧部材として用いるための艶消物品であって、
前記建築物の前記化粧部材は、内装用部材、外装用部材、建具又は造作部材であり、
前記艶消物品は、シート状であり、かつ基材と、装飾層と艶消層とをこの順に有し、
前記艶消層は、前記艶消物品の表面を構成する凹凸面を有し、
前記凹凸面は、シワ形状を有し、
前記凹凸面の、ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下であり、
前記凹凸面の60°グロス値が10.0以下である、
艶消物品。
【請求項2】
前記基材が、熱可塑性樹脂、金属、非金属無機材料、繊維質材料及び木質系材料から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の艶消物品。
【請求項3】
前記基材が、着色されている、請求項1又は2に記載の艶消物品。
【請求項4】
前記艶消層が、硬化物を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項5】
前記艶消層が、シワ形成安定剤又は艶消剤を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項6】
前記艶消層が、紫外線吸収剤又はヒンダードアミン系光安定剤を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項7】
前記装飾層が、着色層又は絵柄層を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項8】
前記絵柄層の絵柄が、木目柄、石目柄、皮シボ柄、幾何学模様、文字、図形、又はこれらを組み合わせた絵柄である、請求項7に記載の艶消物品。
【請求項9】
前記絵柄層の絵柄が、布地又は金属の表面の絵柄である請求項7に記載の艶消物品。
【請求項10】
前記絵柄層の絵柄が、上質紙、オックスフォード生地、シルク生地、テンセル生地、ベビースキン、ヘアライン加工された金属、又はシルキーブラスト加工された金属の絵柄である、請求項7に記載の艶消物品。
【請求項11】
前記装飾層と前記艶消層との間に、透明性樹脂層を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項12】
前記透明性樹脂層は、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリル樹脂及び塩化ビニル樹脂から選ばれる少なくとも一種の樹脂を含む、請求項11に記載の艶消物品。
【請求項13】
前記透明性樹脂層の厚さが、20μm以上150μm以下である、請求項11又は12に記載の艶消物品。
【請求項14】
前記透明性樹脂層と前記艶消層との間に、プライマー層を有する、請求項11〜13のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項15】
前記プライマー層の厚さが、0.1μm以上10μm以下である、請求項14に記載の艶消物品。
【請求項16】
前記凹凸面の、ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.03以上1.50以下であり、かつSku(クルトシス)が1.00以上2.95以下である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項17】
前記凹凸面の、ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.05以上1.00以下であり、かつSku(クルトシス)が1.50以上2.95以下である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項18】
前記凹凸面の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の横方向のパラメータであるRSm(曲線要素の平均長さ)が、100.00μm以下である、請求項1〜17のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項19】
前記凹凸面の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の横方向のパラメータであるRSm(曲線要素の平均長さ)が、15.00μm以上90.00μm以下である、請求項1〜18のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項20】
前記凹凸面の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の横方向のパラメータであるRSm(曲線要素の平均長さ)が、15.00μm以上40.00μm以下である、請求項1〜19のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項21】
前記凹凸面の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の山及び高さパラメータであるRz(最大高さ)が、3.00μm以上である、請求項1〜20のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項22】
前記凹凸面の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の山及び高さパラメータであるRz(最大高さ)が、3.25μm以上12.50μm以下である、請求項1〜21のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項23】
前記凹凸面の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)が、2.00μm以下である、請求項1〜22のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項24】
前記凹凸面の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)が、0.10μm以上1.90μm以下である、請求項1〜23のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項25】
前記凹凸面の、JIS B0601:2013に規定される輪郭曲線の高さ方向のパラメータであるRa(算術平均粗さ)が、0.60μm以上1.90μm以下である、請求項1〜24のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項26】
前記凹凸面の、60°グロス値が5.0以下である、請求項1〜25のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項27】
JIS K7361−1:1997に準拠して測定した全光線透過率が、20%以下である、請求項1〜26のいずれか1項に記載の艶消物品。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれか1項に記載の艶消物品と、被着材とが、積層、複合、又は組み合わされ、内装用部材、外装用部材、建具又は造作部材である、建築物の化粧部材。
【請求項29】
前記化粧部材は、木質部材、金属部材、窯業部材及び樹脂部材から選ばれる少なくとも一種の被着材を有し、前記艶消物品の前記基材と前記被着材とが接着剤層により接着している、請求項28の化粧部材。」

第3 申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1号証〜甲第15号証(以下、それぞれ、「甲1」〜「甲15」ともいう。)を提出して、以下の申立理由により請求項1〜29に係る特許を取り消すべきである旨主張する。

1 証拠方法
甲1:株式会社キーエンス、「表面粗さ測定入門 面粗さ編」、[online]、令和4年8月22日検索、URL: https://www.nsfellows.com/files/user/site/hyoumenarasa.pdf
甲2:株式会社キーエンス、「粗さ入門.com」、[online]、令和4年10月21日検索、URL: https://www.keyence.co.jp/ss/products/microscope/roughness/
甲3:韓国公開特許第10−2020−0025050号公報
甲4:甲3の訳文
甲5:特開2015−205505号公報
甲6:BASF SE、「Soft touch matt coatings with high scratch resistance via optimized coating formulation & alternative curing methods」、2017年10月26日
甲7:甲6の訳文
甲8:EUROPEAN COATINGS JOURNAL 05-2018、TECHNICAL PAPER、「THE HEART OF THE MATTER」、2018年5月、20〜26ページ
甲9:甲8の訳文
甲10:韓国公開特許第10−2020−0031282号公報
甲11:甲10の訳文
甲12:韓国公開特許第10−2020−0059905号公報
甲13:甲12の訳文
甲14:特開2014−69507号公報
甲15:特開2020−124860号公報

2 申立理由
(1)申立理由1(サポート要件違反)
本件発明1〜29は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1〜29に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1〜29に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2−1(甲3を主引用文献とする進歩性欠如)
本件発明1〜29は、甲3に記載された発明及び周知技術(甲6、甲8,甲10、甲12、甲14、甲15参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1〜29に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1〜29に係る特許は、取り消されるべきものである。

(3)申立理由2−2(甲5を主引用文献とする進歩性欠如)
本件発明1〜29は、甲5に記載された発明及び周知技術(甲6、甲8,甲10、甲12、甲14、甲15参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1〜29に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1〜29に係る特許は、取り消されるべきものである。

(4)申立理由3(明確性要件違反)
本件発明5〜29は、不明確であるから、請求項5〜29に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、請求項5〜29に係る特許は、取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
1 甲号証の記載事項等
(1)甲3について
ア 記載事項
甲3には、以下の事項が記載されていると認められる(甲4参照。下線は当審が付与。以下同様。)。

「[0009]
本発明の目的は、床材の低光沢を実現し、同時に表面に疎水性を導入し、表面粗さを制御することにより耐汚染性を改善する一方、ノンスリップ性が向上された床材を提供することにある。」

「[0011]
そこで、本発明は、1つの実施形態では、
[0012]
発泡層、基材層及びアクリル樹脂組成物の硬化層を含み、
[0013]
前記硬化層は、表面には点を中心部と、前記中心部から周辺部に延在する放射状の屈曲構造のデンドライト状を含み、
[0014]
表面粗度(Rz)が平均5μm〜40μmであり、
[0015]
平均静的水接触角(static water contact angle)80゜〜120゜の間の床材を提供する。」

「[0047]
本発明に係る床材、家庭や事務室などで使用される室内用床材として、発泡層、基材層及び硬化層を含む。ここで、前記硬化層は、アクリル樹脂組成物の硬化層として床材の最外層に位置し、その表面には一定の表面粗さと形態を有する微細な屈曲構造を有する。具体的に、前記屈曲構造は、硬化層表面に存在する任意の一点を中心とし、該中心部から周辺部に延出して中心部から周辺部に行くほど高さが低くなる放射状の凹凸がランダムに分散された構造を有する。例えば、前記放射状屈曲構造は、硬化層表面の任意の一点を中心とする樹状構造(arborescence structure)やデンドライト構造(dendrite structure)がランダムに分散された構造を含むことができる。」

「[0056]
別の例として、本発明に係る床材は、硬化層表面に形成された放射状溝の構造を介して表面に入射される光の散乱を誘導することで硬化層に艶消し剤をごく少量を含むか、または場合によっては含まなくても、顕著に低い光沢を具現することができる。具体的に、前記床材は、光沢計(Gloss Meter)を用いた60°光沢度(グロス60°条件)を測定し、表面光沢度が5未満であり、より具体的には、上限が4.5以下、4以下、3.5以下、3以下、2.5以下又は2.3以下であり、下限が0.1超、0.5超、1超、または1.1超または2またはそれ以上であり得る。例えば、前記床材の平均の表面光沢度は、0.1〜4.8、0.1〜4.5、0.1〜4、0.1〜3.5、0.1〜3、0.1〜2.8、0.1〜2.4、0.5〜1.8、3.2〜4.7、0.1〜0.4、0.5〜4、0.5〜3 1〜2.5、1〜2.2、1.7〜2.9、0.8℃〜1.9、1.3〜2.2、1.2〜1.7、1.8〜2.2、1.3〜2.4であってもよい。」

「[0060]
一方、本発明に係る床材は発泡層、基材層及び硬化層以外に別途の層をさらに含むことができる。具体的に、前記床材は、発泡層と基材層との間に印刷層と寸法安定層のうちいずれか一つ以上をさらに含むことができる。例えば、前記床材は、発泡層、印刷層、基材層及び硬化層とが順次積層された構造を有するか、または発泡層、寸法安定層、印刷層、基材層及び硬化層が順次積層された構造を有することができる。」

イ 甲3発明
上記ア(特に、[0056]、[0060])を総合すると、甲3には、次の発明(以下「甲3発明という。)が記載されていると認められる。

「発泡層、印刷層、基材層及び硬化層がこの順で積層され、硬化層表面に放射状溝の構造が形成され、硬化層表面の60°光沢度(グロス60°条件)が5未満である床材。」

(2)甲5について
ア 記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。

「【0008】
本発明は、低艶感に優れ、且つ、表面に斜光が入射しても光の乱反射が抑制され、斜めから見た際に表面が白く見え難く、表現する意匠が視認可能であり、意匠性に優れたシートを提供することを目的とする。」

「【0013】
以下、本発明のシートについて詳細に説明する。なお、本発明のシートにおいて、表面とは、いわゆる「おもて面」であり、本発明のシートが被着材等に積層して用いられる際に、被着材と接触する面とは反対側の面であり、積層後に視認される面である。また、本明細書では、本発明のシートについて、上記表面の方向を「おもて」又は「上」と称し、その反対側を「裏」又は「下」と称する場合がある。
【0014】
[シート]
本発明のシートは、JIS B0633:2001に準拠して測定した表面の算術平均粗さRaが0.7μm以下である。上記Raが0.7μmを超えると、シート表面で入射光が乱反射し易くなり、正反射角±5°での反射率を、正反射角での反射率の50%以下に調整することが困難となり、表面に斜光が入射すると光が乱反射して斜めから見た際にシート表面の特定の箇所が白く見えてしまい、シートが本来表現する意匠が視認できない。上記Raは、0.6μm以下が好ましい。
なお、本明細書において、後述する体質顔料、樹脂ビーズ、エンボス賦型等により表面の算術平均粗さRaを0.7μm以下に調整することによりシートの表面に形成された、意匠性に寄与し、触感を付与する凹凸形状を、単に「凹凸形状」と示し、後述するダクによる凹凸形状を表す「凹凸形状(ダク)」;視覚的に凹凸として認識される、「視覚凹部」、「視覚的凹凸感」;「艶調整層による凸形状」とは区別される。
・・・
【0016】
本発明のシートは、表面に上述の凹凸形状を備えるものであるが、本発明の効果を妨げない範囲であれば、図1のように木目板導管溝等の他のエンボス形状が賦型されていてもよい。図1は、本発明のシートの一例を示す断面図である。図1に例示する本発明のシート1は、表面に上述の体質顔料等により形成された凹凸形状を備える平面部9を備えており、平面部9の間に木目板導管溝10が賦型されている。上記他のエンボス形状としては、木目板導管溝に限定されず、例えば、石板表面凹凸(花崗岩劈開面等)、布表面テクスチャア、梨地、砂目、ヘアライン、万線条溝等が挙げられる。」

「【0019】
本発明のシートは、表面の60°グロスが10以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましい。本発明のシートの表面の60°グロスを上述の範囲とすることにより、低艶感により優れたシートとすることができる。なお、本明細書において、上記60°グロスは、JIS Z−8741に準拠した方法により、光沢度測定器(株式会社村上色彩技術研究所製 商品名:GMX−202)を用いて測定される値である。」

「【0021】
[シートの層構成]
本発明のシートは、表面の算術平均粗さRa(JIS B0633:2001)が0.7μm以下であれば、その具体的構成(層構成)については限定されない。例えば、本発明のシートが化粧シートである場合、基材シート上に、絵柄模様層、透明性接着剤層、透明性樹脂層、プライマー層及び表面保護層を順に積層してなるシートが挙げられる。」

「【0111】
[化粧シート]
本発明のシートは、低艶感に優れ、且つ、斜めから見た際にもシートが表現する意匠が視認可能であり、優れた意匠性を示すので、化粧シートとして好適に用いることができる。このような化粧シートの用途としては特に限定されず、意匠性が求められる様々な用途に用いることが可能であるが、例えば、床材に用いる床材用化粧シートや、壁装材に用いる壁装材用化粧シートとして有用である。」

イ 甲5発明
上記ア(特に、【0016】、【0019】、【0021】、【0111】)を総合すると、甲5には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。

「基材シート上に、絵柄模様層、透明性接着剤層、透明性樹脂層、プライマー層及び表面保護層を順に積層してなり、表面に凹凸形状を備え、表面の60°グロスが10以下である床材用化粧シート。」

2 申立理由
事案に鑑み、まず、申立理由2−1、2−2から検討し、その後、申立理由1、3を検討する。

(1)申立理由2−1(甲3発明を主引用発明とする進歩性欠如)
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、後者の「印刷層」は、その機能や構造からみて、前者の「装飾層」に相当し、以下同様に、「基材層」は「基材」に、「放射状溝の構造」は「凹凸面」、「シワ形状」に、「60°光沢度(グロス60°条件)」は「60°グロス値」に、それぞれ相当する。
後者の「硬化層」は、硬化層表面の60°光沢度(グロス60°条件)が5未満であるから、前者の「艶消層」に相当する。
後者の「床材」は、前者の「建築物の化粧部材」、「艶消部品」、「内装用部材」に相当するから、前者の「被着材と積層、複合又は組み合わせて建築物の化粧部材として用いるための艶消物品」、「内装用部材、外装用部材、建具又は造作部材」にも相当する。
そうすると、後者の「硬化層表面」は、床材の表面でものあるから、前者の「前記艶消物品の表面」に相当し、後者の「硬化層表面に放射状溝の構造が形成され」ることは、前者の「前記艶消層は、前記艶消物品の表面を構成する凹凸面を有」することに相当し、後者の「硬化層表面の60°光沢度(グロス60°条件)が5未満である」ことは、前者の「前記凹凸面の60°グロス値が10.0以下である」ことに相当する。
また、後者の「床材」が「発泡層、印刷層、基材層及び硬化層がこの順で積層され」ることは、前者の「前記艶消物品は、シート状であり、かつ基材と、装飾層と艶消層とをこの順に有」することと、「前記艶消物品は、シート状であり」という点で共通する。
以上より、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点1>
「被着材と積層、複合又は組み合わせて建築物の化粧部材として用いるための艶消物品であって、
前記建築物の前記化粧部材は、内装用部材、外装用部材、建具又は造作部材であり、
前記艶消物品は、シート状であり、
前記艶消層は、前記艶消物品の表面を構成する凹凸面を有し、
前記凹凸面は、シワ形状を有し、
前記凹凸面の60°グロス値が10.0以下である、
艶消物品。」

<相違点1−1>
艶消物品は、本件発明1では、「基材と、装飾層」と艶消層とをこの順に有するのに対し、甲3発明では、「印刷層、基材層」及び硬化層がこの順で積層される点。

<相違点1−2>
凹凸面について、本件発明1では、「ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下である」のに対し、甲3発明では、そのように特定されていない点。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、まず相違点1−2について検討する。
甲3だけでなく、甲1、2、5、6、8、12、14、15にも、床材や床材と技術的に関連する化粧シート等の表面がISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下であることについて、何ら記載も示唆もなく、他に、該下線部が、技術常識や周知技術であることを認めるに足る証拠もない。
したがって、甲3発明において、相違点1−2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書(特に、52〜54ページ参照。)において、(a)本件の明細書の実施例1と比較例3を比較すると、材料は一致しており、実施例1では、「エキシマ光を照射する前に波長395nmの紫外線を照射する」点(以下「前処理技術」という。)でのみ相違し、該前処理技術により、相違点1−2に係る本件発明1の構成としていると推認できるところ、甲6、8で示されるように、上記前処理技術は周知技術であり、甲3発明の製造に該周知技術を適用すると、相違点1−2に係る本件発明1の構成となる蓋然性が高いこと、(b)本件の原出願(特願2021−208113号)の審査段階で拒絶理由に引用された引用文献1(特開2019−124908号公報)を参照すれば、甲3発明において、相違点1−2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるから、本件発明1は、甲3発明及び周知技術(甲6、甲8等参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
しかしながら、上記(a)については、本件の明細書の実施例1と、材料や製造の各工程の加工条件等が同じになれば、結果として同じ特性のものとなる蓋然性は高くなるとも考えられるが、甲3をみる限り、甲3発明の材料や上記前処理技術以外の製造工程が本件の明細書の実施例1と同じとは認められないから、甲3発明の製造に上記前処理技術を適用しても、相違点1−2に係る本件発明1の構成となるとはいえない。
上記(b)について、引用文献1には、積層フィルムの防眩性表面のクルトシス(Rku)やスキューネス(RSk)の数値範囲(【0072】、【0073】参照。)が開示されており、その数値範囲は、相違点1−2に係る本件発明1の構成と一部重なるが、開示された積層フィルムは、液晶ディスプレイの偏光板等の用いるものであり、甲3発明とは、属する技術分野が異なり、技術的な関連性はないから、甲3発明に引用文献1に記載の上記数値範囲を適用する動機付けがあるとは認められない。
以上によれば、申立人の上記主張は、当を得たものとはいえず、採用できない。

(エ)小括
以上によれば、相違点1−1を検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び周知技術(甲6、甲8等参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2〜29について
本件発明2〜29は、本件発明1の全ての構成を含み、かつ、更なる限定を加えたものであるから、上記ア(イ)〜(エ)で説示したのと同様の理由により、甲3発明及び周知技術(甲6、甲8等参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、申立理由2−1は成り立たない。

(2)申立理由2−2(甲5発明を主引用発明とする進歩性欠如)
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲5発明とを対比すると、後者の「基材シート」は、前者の「基材」に相当し、以下同様に、「絵柄模様層」は「装飾層」に、「凹凸形状」は「凹凸面」に、「60°グロス」は「60°グロス値」に、それぞれ相当する。
後者の「表面保護層」は、表面の60°グロスが10以下であるから、前者の「艶消層」に相当する。
後者の「床材用化粧シート」は、前者の「建築物の化粧部材」、「艶消部品」、「内装用部材」に相当するから、前者の「被着材と積層、複合又は組み合わせて建築物の化粧部材として用いるための艶消物品」、「内装用部材、外装用部材、建具又は造作部材」にも相当する。
そうすると、後者の「床材用化粧シート」が「基材シート上に、絵柄模様層、透明性接着剤層、透明性樹脂層、プライマー層及び表面保護層を順に積層してな」ることは、前者の「前記艶消物品は、シート状であり、かつ基材と、装飾層と艶消層とをこの順に有」することに相当し、後者の「表面」は、前者の「前記艶消物品の表面」に相当し、後者の「表面に凹凸形状を備え」ることは、前者の「前記艶消層は、前記艶消物品の表面を構成する凹凸面を有」することに相当し、後者の「表面の60°グロスが10以下である」ことは、前者の「前記凹凸面の60°グロス値が10.0以下である」ことに相当する。
以上より、本件発明1と甲5発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点2>
「被着材と積層、複合又は組み合わせて建築物の化粧部材として用いるための艶消物品であって、
前記建築物の前記化粧部材は、内装用部材、外装用部材、建具又は造作部材であり、
前記艶消物品は、シート状であり、かつ基材と、装飾層と艶消層とをこの順に有し、
前記艶消層は、前記艶消物品の表面を構成する凹凸面を有し、
前記凹凸面の60°グロス値が10.0以下である、
艶消物品。」

<相違点2>
凹凸面について、本件発明1では、「シワ形状を有し」、「ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下である」のに対し、甲3発明では、そのように特定されていない点。

(イ)相違点についての判断
相違点2は、相違点1−2と実質的に同じ相違点を含むものであるので、上記(1)ア(イ)〜(エ)で説示したのと同様に理由により、本件発明1は、甲5発明及び周知技術(甲6、甲8等参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2〜29について
本件発明2〜29は、本件発明1の全ての構成を含み、かつ、更なる限定を加えたものであるから、上記ア(イ)で説示したのと同様の理由により、甲5発明及び周知技術(甲6、甲8等参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、申立理由2−2は成り立たない。

(3)申立理由1(サポート要件)
申立人は、特許異議申立書(特に、46〜51ページ参照。)において、発明の詳細な説明には、表1において、Ssk、Sku、RSm、Rz、Raの5つのパラメータについて、請求項1〜5の記載で特定される範囲の全てを満たす実施例1〜6のみが優れた質感とさらさらとした感触であることが開示されており、上記5つのパラメータについて、上記範囲の全てを満たすものが「優れた艶消効果の視認性及び質感を有し、かつさらさらした触感に優れる艶消物品を提供すること」(【0008】)との課題を解決できるものであると認められるところ、請求項1の記載では、SskとSkuのみの範囲が特定されているのにすぎず、本件発明1は、上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、本件発明2〜29も同様である旨主張する。

しかしながら、請求項1には、「ISO25178−2:2012に規定される、Ssk(スキューネス)が0.00以上であり、かつSku(クルトシス)が3.50以下である」と記載されているところ、発明の詳細な説明には、SskとSkuについて、請求項1の上記記載を満たすものとして、表1に実施例1〜6が開示されているとともに、請求項1の上記記載を満たさないものとして、表1〜3に比較例1〜7が開示され、また、表1〜3には、実施例1〜6は、質感とさらさらとした感触がともにA評価であるのに対し、比較例1〜7は、質感とさらさらとした感触の少なくとも一方がB又はC評価であることも開示されていることから、当業者であれば、表1〜3の記載等を参照して、請求項1の上記記載を満たすものは、上記課題を解決できるものであると認識できるのは明らかである。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件発明2〜29も、発明の詳細な説明に記載されたものである。
以上より、申立人の上記主張は、当を得たものでなく、採用をすることはできない。
よって、申立理由1は成り立たない。

(4)申立理由3(明確性要件)
申立人は、特許異議申立書(56ページ参照。)において、請求項5には、「前記艶消層が、シワ形成安定剤又は艶消剤を含む」と記載されているが、明細書を参酌しても、上記シワ形成安定剤と上記艶消剤との区別が付かず不明確であるから、本件発明5〜19は不明確である旨主張する。

しかしながら、申立人の主張どおり、上記シワ形成安定剤と上記艶消剤のいずれに含まれるものか不明なものが存在するとしても、そのようなものが上記「シワ形成安定剤又は艶消剤」に含まれるのは明らかであるから、請求項5の上記記載の表す技術的範囲は明確である。
したがって、申立人の上記主張は、当を得たものといえず、採用することはできない。
よって、申立理由3は成り立たない。

第5 むすび
以上によれば、特許異議の申立理由及び証拠によっては、請求項1〜29に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜29に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-03-30 
出願番号 P2022-066818
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
P 1 651・ 537- Y (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 八木 誠
一ノ瀬 覚
登録日 2022-06-13 
登録番号 7088431
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 艶消物品  
代理人 弁理士法人大谷特許事務所  

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