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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01H
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01H
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01H
管理番号 1397231
総通号数 17 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-12-28 
確定日 2023-04-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第7094681号発明「Xanthomonas抵抗性のBrassica oleracea植物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7094681号の請求項1ないし30に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7094681号の請求項1〜30に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年9月29日(パリ条約による優先権主張 2016年9月30日 米国)に出願され、令和4年6月24日にその特許権の設定登録がされ、同年7月4日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年12月28日に特許異議申立人中川太佑(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜30に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜30に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
(以下、本件特許の請求項1〜30に係る発明を、その請求項に付された番号順にしたがい「本件発明1」などといい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。また、本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書等」という。)。

【請求項1】
Brassica oleracea植物の栽培品種であって、遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitataの第3染色体に由来する遺伝子移入を含み、前記抵抗性が共優性であり、且つ相加的であり、そして、当該遺伝子移入を含む種子の試料がATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている、前記Brassica oleracea植物の栽培品種。
【請求項2】
ブロッコリー植物またはカリフラワー植物であって、遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitataの第3染色体に由来する遺伝子移入を含み、前記抵抗性が共優性であり、且つ相加的であり、そして、当該遺伝子移入を含む種子の試料がATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託され ている、前記ブロッコリー植物またはカリフラワー植物。
【請求項3】
前記遺伝子移入が、植物の生育遅延を付与するものに遺伝的に連鎖する対立遺伝子を欠く請求項1に記載の植物。
【請求項4】
前記遺伝子移入が、前記植物におけるマーカーNH0265157(配列番号5)及びマーカーNH0266951(配列番号12)が隣接する、Brassica oleracea var.capitataに由来する染色体セグメントを含む請求項1に記載の植物。
【請求項5】
前記遺伝子移入が、前記植物におけるマーカーNH0265597(配列番号11)にてBrassica oleracea var.capitataに由来する染色体セグメントを含む請求項1に記載の植物。
【請求項6】
前記遺伝子移入が約2cM以下のサイズである請求項1に記載の植物。
【請求項7】
前記スペクトルの広い抵抗性が複数のXanthomonas campestris pv.campestris病原型に対する抵抗性を含む請求項1に記載の植物。
【請求項8】
前記スペクトルの広い抵抗性がXanthomonas campestris pv.campestris病原型1及び4に対する抵抗性を含む請求項7に記載の植物。
【請求項9】
前記スペクトルの広い抵抗性がXanthomonas campestris pv.campestris病原型1、4、6及び9に対する抵抗性を含む請求項7に記載の植物。
【請求項10】
前記植物が、ブロッコリー、カリフラワー、発芽ブロッコリー、芽キャベツ、白キャベツ、赤キャベツ、サボイキャベツ、カーリーケールキャベツ、カブカンラン、またはポルトガルキャベツの植物である請求項1に記載の植物。
【請求項11】
前記植物が白キャベツ植物ではない請求項1に記載の植物。
【請求項12】
前記植物が前記遺伝子移入についてホモ接合性である請求項1に記載の植物。
【請求項13】
請求項1に記載の植物を生産する種子。
【請求項14】
請求項1に記載の植物の植物部位。
【請求項15】
前記植物部位が、細胞、種子、根、茎、葉、頭花、花または花粉である請求項14に記載の植物部位。
【請求項16】
マーカーNH0265157(配列番号5)及びマーカーNH0266951(配列番号12)が隣接する、Brassica oleracea var.capitataに由来する染色体セグメントを含む遺伝子移入断片であって、当該遺伝子移入断片を含む種子の試料はATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託された、前記遺伝子移入断片。
【請求項17】
マーカーNH0265597(配列番号11)にてBrassica oleracea var.capitataに由来する染色体セグメントを含む遺伝子移入断片であって、当該遺伝子移入断片を含む種子の試料はATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託された、前記遺伝子移入断片。
【請求項18】
Xanthomonas campestris pv.campestrisに対する改善された抵抗性を持つBrassica oleracea植物の栽培品種の生産方法であって、遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitataの第3染色体に由来する染色体セグメントを前記植物品種に遺伝子移入することを含み、前記抵抗性は共優性であり、付加的であり、当該遺伝子移入を含む種子の試料はATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託された、前記生産方法。
【請求項19】
前記遺伝子移入することが、(a)前記染色体セグメントを含む植物をそれ自体と、または異なる遺伝子型の第2のBrassica oleracea植物と交配して1つ以上の子孫植物を生産することと、(b)前記染色体セグメントを含む子孫植物を選択することとを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
子孫植物を選択することが、マーカーNH0265157(配列番号5)及びマーカーNH0266951(配列番号12)が隣接する少なくとも1つの対立遺伝子を検出することを含む請求項 19に記載の方法。
【請求項21】
子孫植物を選択することが、マーカーNH0265597(配列番号11)にて少なくとも1つの対立遺伝子を検出することを含む請求項 19に記載の方法。
【請求項22】
前記植物品種が、ブロッコリー、カリフラワー、発芽ブロッコリー、芽キャベツ、白キャベツ、赤キャベツ、サボイキャベツ、カーリーケールキャベツ、カブカンラン、またはポルトガルキャベツの植物品種である請求項 18に記載の方法。
【請求項23】
前記抵抗性が、複数のXanthomonas campestris pv.campestris病原型に対する抵抗性を含む請求項 18に記載の方法。
【請求項24】
前記抵抗性がXanthomonas campestris pv.campestris病原型1及び4に対する抵抗性を含む請求項 23に記載の方法。
【請求項25】
前記抵抗性がXanthomonas campestris pv.campestris病原型1、4、6及び9に対する抵抗性を含む請求項 23に記載の方法。
【請求項26】
前記子孫植物がF2〜F6の子孫植物である請求項 19に記載の方法。
【請求項27】
前記交配が戻し交配を含む請求項 19に記載の方法。
【請求項28】
前記戻し交配が戻し交配の2〜7世代を含む請求項 27に記載の方法。
【請求項29】
請求項 18に記載の方法によって生産されるBrassica oleracea植物。
【請求項30】
食料または飼料の生産方法であって、請求項1または 29に記載の植物またはその一部を得ることと、前記植物またはその一部から前記食料または飼料を生産することとを含む、前記生産方法。

第3 異議申立理由の概要及び提出した証拠
1 異議申立理由の概要
異議申立人が主張する異議申立理由の概要は、次のとおりのものである。

(1)申立理由1(サポート要件違反及び実施可能要件違反)
本件明細書の発明の詳細な説明には、次のア〜ウについて、十分な記載がないので、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明に記載したものということができず、また、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができないから、本件発明1〜30についての本件特許は、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

ア Xanthomonas campestris pv.campestris(Xcc)抵抗性遺伝子座と生育遅延遺伝子座の連鎖の解消
イ ATCC受入番号PTA−123409が有する多重抵抗性
ウ Xcc抵抗性対立遺伝子及び生育遅延遺伝子の配列

(2)申立理由2(明確性要件違反)
特許請求の範囲の記載が、次のア〜オについて不明確であるので、本件発明1〜30についての本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、本件特許は、同法113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

ア 「Xanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性」
イ 「マーカーNH0265157(配列番号5)及びマーカーNH0266951(配列番号12)が隣接する」
ウ 「マーカーNH0265597(配列番号11)にて」
エ 「当該遺伝子移入を含む種子の試料がATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」
オ Xccに対する抵抗性を付与する遺伝子移入の範囲

(3)申立理由3(新規性欠如、進歩性欠如)
ア 甲第1号証に基づく新規性欠如、進歩性欠如
本件発明1〜2、4〜5、7〜15、18〜30は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本件発明1〜2、4〜30は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1〜2、4〜30についての本件特許は、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 甲第3号証に基づく新規性欠如、進歩性欠如
本件発明1、4〜5、7〜15、18〜30は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本件発明1〜2、4〜30は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1〜2、4〜30についての本件特許は、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
甲第1号証:L.E.A. Camargo et al.,Phytopathology,1995年,Vol.85,No.10,pp.1296−1300、甲第1号証補足資料(Phytopathologyの第85巻第11号(1995年11月)の表紙と10月号の発行日を掲載したページ)及びその抄訳文
甲第2号証:A.Ignatov et al.,Can. J. Bot.,1999年, 77:442−446、甲第2号証補足資料1(https://cdnsciencepub.com/toc/cjbl/77/3)、甲第2号証補足資料2(https://cd nsciencepub.com/doi/10.1139/b98-224のスクリーンショット画像)及びその抄訳文
甲第3号証: J. Lee et al.,BMC Plant Biology (2015) 15:32、甲第3号証補足資料1(https://bmcplantbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12870-015-0424-6)、甲第3号証補足資料2 (https://bmcplantbiol.biomedcentral. com/counter/pdf/10.1186/s12870-015-0424-6.pdfのスクリーンショット画像)及びその抄訳文
甲第4号証:J.G.Vicente et a1.,Phytopathology,2002年,Vol.92,No.10,pp.1134−1141、甲第4号証補足資料(Phytopathologyの第92巻第1 1号(2002年1 1月)の表紙と10月号の発行日を掲載したページ)及びその抄訳文
甲第5号証:Brassica napusのマーカーwg6b4の塩基配列を示すウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/CZ906444.1?report=genbank)(令和4年(2022年)12月17日出力)及びその抄訳文
甲第6号証:Brassica napusのマーカーec3g3aの塩基配列を示すウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/DT469143.1?report=genbank)(令和4年(2022年)12月17日出力)及びその抄訳文
甲第7号証:Brassica napusのマーカーwg2e12の塩基配列を示すウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/CZ906408.1?report=genbank)(令和4年(2022年)12月17日出力)及びその抄訳文
甲第8号証:Brassica napusのマーカーwg9a2の塩基配列を示すウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/CZ906479.1?report=genbank)(令和4年(2022年)12月17日出力)及びその抄訳文
甲第9号証:Brassica napusのマーカーec4d11の塩基配列を示すウェブサイト(https: //www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/DT469150.1?report=genbank)(令和4年(2022年)12月17日出力)及びその抄訳文
甲第10号証:Brasica napusのマーカーwg8a9bの塩基配列を示すウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/CZ906472.1?report=genbank)(令和4年(2022年)12月17日出力)及びその抄訳文
甲第11号証:Brassica napusのマーカーec2d9の塩基配列を示すウェプサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/DT469122.1?report=genbank)(令和4年(2022年)12月17日出力)及びその抄訳文
甲第12号証:Brassica oleracea(系統名:HDEM)の各染色体の塩基配列を公開するウェブサイト(https://www.ncbi.n1m.nih.gov/assembly/GCA_900416815.2)(令和4年(2022年)12月2日出カ)及びその抄訳文
甲第13号証:Brassica oleracea(系統名:HDEM)の第3染色体(Cromosome C3)の塩基配列(Genbank:LS974629.1)を公開するウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/LS974629.1)(令和4年(2022年)12月2日出力)及びその抄訳文
甲第14号証:NCBI(米国国立生物工学情報センター) BLASTを用いた、本件特許の発明の詳細な説明に記載のマーカーNH0267115(配列番号22)と、B.oleracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第15号証:NCBI BLASTを用いた、本件特許の発明の詳細な説明に記載のマーカーNH0265344(配列番号10)と、B.o1eracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第16号証:NCBI BLASTを用いた、本件特許の発明の詳細な説明に記載のマーカーNH0254582(配列番号27)と、B.o1eracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第17号証:NCBI BLASTを用いた、本件特許の発明の詳細な説明に記載のマーカーsN10957(配列番号28)と、B.o1eracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第18号証:NCBI BLASTを用いた、本件特許の発明の詳細な説明に記載のマーカーNH0266951(配列番号12)と、B.o1eracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第19号証:NCBI BLASTを用いた、本件特許の発明の詳細な説明に記載のマーカーNH0265597(配列番号11)と、B.o1eracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第20号証:NCBI BLASTを用いた、本件特許の発明の詳細な説明に記載のマーカーNH0265157(配列番号5)と、B.o1eracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第21号証:NCBI BLASTを用いた、本件特許の発明の詳細な説明に記載のマーカーNH0267108(配列番号17)と、B.o1eracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第22号証:NCBI BLASTを用いた、Brass1ca napusのマーカーwg 6b4の塩基配列(甲第5号証)と、B.oleracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第23号証:NCBI BLASTを用いた、Brassica napusのマーカーec 3g3aの塩基配列(甲第6号証)と、B.o1eracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第24号証:NCBI BLASTを用いた、Brassica napusのマーカーw g2e12の塩基配列(甲第7号証)と、B.o1eracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第25号証:NCBI BLASTを用いた、Brassica napusのマーカーwg 9a2の塩基配列(甲第8号証)と、B.o1eracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第26号証:NCBI BLASTを用いた、Brassica napusのマーカーec 4d11の塩基配列(甲第9号証)と、B.o1eracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第27号証:NCBI BLASTを用いた、Brassica napusのマーカーwg 8a9bの塩基配列(甲第10号証)と、B.o1eracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第28号証:NCBI BLASTを用いた、Brassica napusのマーカーec 2d9の塩基配列(甲第11号証)と、B.o1eracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第29号証:NCBI BLASTを用いた、甲第3号証に記載のBoR−Sdcaps3−12−Forwardプライマーの塩基配列と、B.oleracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第30号証:NCBI BLASTを用いた、甲第3号証に記載のBoR−Sdcaps3−12−Reverseプフイマーの塩基配列と、B.oleracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第31号証:NCBI BLASTを用いた、甲第3号証が引用する甲第33号証に記載のBoESSR291−Reverseプライマーの塩基配列と、B.oleracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第32号証:NCBI BLASTを用いた、甲第3号証が引用する甲第33号証に記載のBoESSR29l−Forwardプライマーの塩基配列と、B.oleracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列(Genbank:LS974629.1)とのアライメントの結果
甲第33号証:N. K. Izzah et al. BMC Genomics (2014) 15:149、甲第33号証補足資料1(https://bmcgenomics.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-2164-15-149)、甲第33号証補足資料2(https://bmcgenomics.biomedcentral.com/counter/pdf/10.1186/1471-2164-15-149.pdfのスクリーンショット画像)及びその抄訳文
(以下、「甲第1号証」ないし「甲第33号証」をそれぞれ「甲1」ないし「甲33」ともいう。)

第4 当審の判断
当審は、異議申立人が主張する上記の申立理由は、いずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件発明1〜30に係る特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきものと判断する。

1 本件明細書等の記載
本件明細書等には、以下の事項が記載されている。

本a
「【技術分野】
【0001】
本発明は農業の分野に関するものであり、さらに具体的にはXanthomonas campestris pv.campestrisに対する改善された抵抗性を示すBrassica oleracea植物を生産する方法及び組成物に関する。
・・・
【背景技術】
【0003】
病害抵抗性は、農業において、特に食用作物の生産にとって重要な形質である。Brassicaでは病害抵抗性対立遺伝子が特定されているが、栽培品種の系統にこれらの対立遺伝子を導入する試みは、その対立遺伝子に連鎖する特異的なマーカーの欠如、許容できない植物品質をもたらす連鎖引きずり及びスペクトルの広い抵抗性の欠如によって妨げられている。・・・
【発明の概要】
【0004】
本発明は、遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitataの第3染色体由来の遺伝子移入を含むBrassica oleracea植物の栽培品種を提供し、その際、抵抗性は共優性であり、且つ相加的である。特定の実施形態では、遺伝子移入は、植物の生育遅延を付与するものに遺伝的に連鎖した対立遺伝子を欠く。さらなる実施形態では、遺伝子移入は、植物にてマーカーNH0265157(配列番号5)及びマーカーNH0266951(配列番号12)が隣接するBrassica oleracea var.capitataに由来する染色体セグメントを含む。他の実施形態では、遺伝子移入は、植物においてマーカーNH0265597(配列番号11)にてBrassica oleracea var.capitataに由来する染色体セグメントを含む。追加の実施形態では、遺伝子移入は約2cM以下のサイズである。さらに他の実施形態では、植物は遺伝子移入についてホモ接合体である。追加の実施形態では、遺伝子移入を含む種子の試料はATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託された。
【0005】
特定の態様では、スペクトルの広い抵抗性は複数のXanthomonas campestris pv.campestris病原型に対する抵抗性を含む。一例については、スペクトルの広い抵抗性はXanthomonas campestris pv.campestris病原型1及び4に対する抵抗性を含む。別の例については、スペクトルの広い抵抗性はXanthomonas campestris pv.campestris病原型1、4、6及び9に対する抵抗性を含む。
・・・
【0009】
本発明はさらに、遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitataの第3染色体に由来する染色体セグメントを植物品種に遺伝子移入することを含む、Xanthomonas campestris pv.campestrisに対する改善された抵抗性を持つBrassica oleracea植物の栽培品種を生産する方法を提供し、その際、抵抗性は共優性であり、且つ相加的である。特定の実施形態では、遺伝子移入することは、染色体セグメントを含む植物をそれ自体とまたは異なる遺伝子型の第2のBrassica oleracea植物と交配して1つ以上の子孫植物を生産することと、染色体セグメントを含む子孫植物を選択することとを含む。・・・」

本b
「【0014】
Xanthomonas campestris pv.campestrisの病原型または種類の分類は、種類または病原型の分類及び数における幾つかの多様性によって種々のグループにより行われている。Xccの少なくとも7つの病原型が特定されている・・・。これらの病原型は1つの優性の病原型と同時に生じることが多いであろう。種類1及び4は主に重要なものと見なされている。抵抗性の対立遺伝子、好ましくは単一遺伝子を特定すること及び対立遺伝子にとって2種類を超えるXccに対して抵抗性を提供することが重要である。加えて、複数の種類のXccに対して抵抗性(「スペクトルの広い抵抗性」)を有するBrassica oleracea植物の栽培品種を開発するのに使用することができる対立遺伝子を特定することが重要である。複数の種類のXccに対して抵抗性(「スペクトルの広い抵抗性」)を有するブロッコリー及びカリフラワーの栽培品種を開発するのに使用することができる対立遺伝子を特定することが特に重要である。
・・・
【0025】
本発明の遺伝子マーカー及びアッセイを用いて、驚くべきことに本出願者らは、公知のキャベツ系統C517と優良なブロッコリー系統(BRL51−99sc)との間での交配で特定されたBrassica oleracea var.capitataから新規のXcc抵抗性領域を特定することができた。この遺伝子移入のマッピングによってXcc抵抗性のQTLはマーカーNH0265597(76.4cM)に位置し、マーカーNH0265157(74.98cM)及びNH0266951(77.14cM)が隣接することが示された。当業者は、区間値は、たとえば、使用される参照マップ、配列決定範囲及びアセンブリソフトウエアの設定のような因子に基づいて変化してもよいことを理解するであろう。しかしながら、そのようなパラメータ及びマッピングのプロトコールは当該技術で既知であり、当業者は本明細書で提供されるマーカー配列を使用して、本明細書に記載されている遺伝子移入をそのような方法を用いた所与のマップに物理的に且つ遺伝的に固定することができる。・・・」

本c
「【0064】
VI.寄託情報
本明細書に記載されているようなBrassica oleracea var.capitataに由来する遺伝子移入を含むカリフラワー系統C517×BRL51−99の少なくとも2500の種子の寄託を行った。寄託は、American Type Culture Collection(ATCC),10801 University Boulevard,Manassas,Va.20110−2209 USAで行った。寄託はATCC受入番号PTA−123409を割り当てられ、寄託の日付は2016年8月4日だった。・・・」

本d
「【0065】
実施例1
Xcc抵抗性対立遺伝子の特定及びマッピング
倍加半数体(DH)集団を構築して抵抗性対立遺伝子を特定した。キャベツ育種系統(C517)をSeminis Vegetable Seeds,Inc.に由来する優良なブロッコリー系統(BRL51−99sc)と交配して交雑種を生産した。交雑種を用いてDH植物を生産した。これらのDH0植物を自家受粉させ、その後のDH1集団を用いて温室条件下で黒斑病試験を実施した。手短には、黒斑病試験には以下の手順が関与する。5〜6の本葉段階のBrassica苗を試験材料として用いる。土入り12cmポットにて通常の温室条件下で苗を生育させる。1×10 6個の細胞/mLの濃度でのXanthamonas campestris campestrisの浮遊液を用いて苗に植菌する。注射器を用いて2つの異なる点で茎に0.2mLのXcc浮遊液を注入することによって苗に細菌を感染させる。対照が予想された反応を示し始めると苗の応答を記録し、それは一般に感染後14日前後である。症状は、症状無し(抵抗性)の1つ及び多数の壊疽斑点及び/または植物の死である(感受性)9による1〜9のスケールでスコア化する。中間的な表現型は、2:植物全体で約2つの小さな斑点が見える(植物の全体的印象は抵抗性である);3:葉の上での非常に少ない萎黄病斑点(植物の全体的印象は抵抗性である);4:葉の表面及び植物全体の約30%における萎黄病斑点(植物の全体的印象はIRである);5:葉の表面の約40%における萎黄病斑点(植物の全体的印象はIRである);6:葉及び植物全体の約50%における萎黄病斑点及び壊疽斑点(IR);7:葉表面の約60%における萎黄病斑点及び壊疽斑点(感受性);8:葉の表面及び植物全体の約70%を超える部分での壊疽斑点(感受性)である。各実験には試験苗に対して比較するための対照が含まれるであろう。これらの対照にはマッピング集団の元々の親が含まれてもよい。
【0066】
SSR遺伝子座を用いて分子マーカーマップを構築した。マップ及び定量的病害データを組み合わせることによって染色体O3における黒斑病抵抗性のための1つの主要なQTLの検出を生じた(図2)。
【0067】
実施例2
複数の単離体への抵抗性
157のXccの単離体を世界中からのBrassica oleracea作物(ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ)から収集した。この収集では、改善された差異植物シリーズ(Vicente,2001)を用いて単離体はほとんど病原型1、4、6及び9として分類された。一部の単離体はVicente、2001の方法に従って病原型の群に分類することができなかった。以前の知見(Vicente,2001;Taylor,2002)に相当する世界中の病原型の分布は地理的に関連していなかった。主要な病原型はすべてあらゆる大陸に存在することが見いだされた。このことは世界中の生産地域すべてにおいてXccの変異があることを示唆している。次いで実施例1に記載されているプロトコールに従って単離体すべてを抵抗性QTLに対して調べた。抵抗性QTLは調べた単離体すべてに対して抵抗性を提供することが見いだされた(表1)。
表1.異なる国々から収集された単離体を用いてC517に人工的に感染させた。結果は、C517について感受性(S)、中間抵抗性(IR)及び抵抗性(R)の反応の数として示す。NP=非病原性

【0068】
実施例3
ブロッコリーにて連鎖引きずりを除くこと
Xcc抵抗性の育種系統(C517)とブロッコリー系統(BRL51−99sc)の間での当初の交配は抵抗性遺伝子座に関連する連鎖引きずりを生じた。これらの植物は遅延した生育及び/または小型の植物を示した(図1)。元々のDH1集団をBRL51−99scとさらに戻し交配し、その後自家受粉させて、Xcc抵抗性遺伝子座の精細マッピング及び連鎖引きずりの除去に使用することができるさらなる組換え体を生成した。これらの家系の種子を無加温温室の苗トレイに播き、6週間生育させた。苗を試験圃場における無作為完全ブロック計画(試験区当たり2回の折り返しと20本の植物)で植えた。ほぼ3ヵ月後、植物を評価した。主要部の品質及び葉の型について試験区内で植物は無作為に分離した。試験全体では、生育遅延についての分離があった(図1を参照)。この試験については植物は、1=生育遅延、3=正常生育、2=中間の生育、及び0=観察なし、によってスコア化した。
【0069】
次いで、QTLの付近に位置する図2で示されるような6つのマーカーについて植物をスクリーニングした。生育遅延について分離していない試験区から得た4つの植物を試料にし、生育遅延について分離している試験区では植物すべてを試料にした。生育遅延の形質は、マーカーNH0267115からNH0267108までの抵抗性QTLと高度に相関し、劣性であると思われる(表2)。NH0267115からsN10957までのホモ接合性O3遺伝子移入を伴った組換え体及びNH0265157及びNH0267108についての反復親(HP99)は生育遅延を示さない。
【表2】

【0070】
QTLのマッピング(図2)及び連鎖引きずりの結果(表2)に基づき、sN10957とNH0265157との間での組換えに基づいて植物を選択した。抵抗性はsN10957から左に位置し、引きずりはsN10957から右に位置する。24の組換え植物及び一部のチェックを特定し、温室に持ち込んで実験用の種子を作出した。これらの種子から生成された植物をXanthomonas抵抗性及び植物重量について圃場で調べた。植物重量と抵抗性レベルの相関にて連鎖引きずりのない植物を選択した(図3)。これらの植物すべてが第3染色体上にてC517に由来する小さな遺伝子移入を有することが見いだされた。この遺伝子移入のマッピングによって、Xanthomonas抵抗性のためのQTLは最大でも2cMのサイズであり、マーカーNH0265597(76.45cM)に位置することが見いだされた。さらに、QTLにはマーカーNH0265157(74.98cM)及びNH0266951(77.14cM)が隣接する。
【0071】
表2におけるプローブ、プライマー及びマーカーの配列を表3に示す。
【表3】

【図2】



2 申立理由1(サポート要件違反及び実施可能要件違反)について
(1)本件発明が解決しようとする課題
本件明細書等の【0004】に「本発明は、遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitataの第3染色体由来の遺伝子移入を含むBrassica oleracea植物の栽培品種を提供」すること(本a)、同【0009】に「本発明はさらに、遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitataの第3染色体に由来する染色体セグメントを植物品種に遺伝子移入することを含む、Xanthomonas campestris pv.campestrisに対する改善された抵抗性を持つBrassica oleracea植物の栽培品種を生産する方法を提供」すること(本a)が、それぞれ記載されていることからすると、本件発明は、遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestris(Xcc)に対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitata(合議体注:キャベツのことである。)の第3染色体由来の遺伝子移入を含むBrassica oleracea植物の栽培品種を提供することを課題とするものと認められる。

(2)本件発明のサポート要件、実施可能要件の検討
本件発明1は、上記第2のとおり、「Brassica oleracea植物の栽培品種」に関するものであり、「遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitata(合議体注:キャベツのことである。)の第3染色体に由来する遺伝子移入を含」むことと「当該遺伝子移入を含む種子の試料がATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」ことにより特定されているから、本件発明1では、「遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitata(合議体注:キャベツのことである。)の第3染色体に由来する遺伝子移入」が、「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」に含まれるものであることが特定されているといえる。そして、本件発明2〜30は、いずれも、当該遺伝子移入を利用する発明である。
このような本件発明が、本願明細書等に上記課題を解決できると当業者が認識できるように記載されている(サポート要件を満たす)というためには、(a)本件明細書等に、「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」に含まれる遺伝子移入が、「遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestris(Xcc)に対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitata(合議体注:キャベツのことである。)の第3染色体に由来する遺伝子移入」であることが理解できるように記載されていること、及び(b)本件明細書等に、当該遺伝子移入を特定ないし追跡することができるように記載されていること、が必要である。
そこで、まず、上記(a)について検討すると、本件明細書等の実施例2、表1には、キャベツ育種系統(C517)が、Xccに対するスペクトルの広い抵抗性を有することが記載されている(本d)。
そして、本件明細書等の実施例1、図2には、キャベツ育種系統(C517)とブロッコリー系統(BRL51−99sc)の交雑種の倍加半数体DH0植物を生産し、DH0植物を自家受粉して得たDH1集団を用いてXcc抵抗性試験を実施し、SSR遺伝子座を用いた分子マーカーマップ及び定量的病害データを組み合わせることにより、染色体O3(第3染色体)におけるXcc抵抗性のための1つの主要なQTLを検出したことが記載されている(本d)。
さらに、実施例3には、「Xcc抵抗性の育種系統(C517)とブロッコリー系統(BRL51−99sc)の間での当初の交配は抵抗性遺伝子座に関連する連鎖引きずりを生じた。これらの植物は遅延した生育及び/または小型の植物を示した(図1)。」(本d)と記載された上で、DH1集団(実施例1で作出したものと解される。)をブロッコリー系統(BRL51−99sc)と戻し交配し、次いで自家受粉させて得た植物体について、生育状況と実施例1で検出したXcc抵抗性QTL付近のマーカー遺伝子型とが表2にまとめられている(本d)。表2には、生育遅延を示す植物体(遺伝子型1)のマーカー遺伝子型は、当該QTL付近全体を通じて全てC517(キャベツ)型であること、及びマーカー遺伝子型が反復親型の植物体(遺伝子型3)は生育遅延を示さないことが記載され、【0070】にも「植物重量と抵抗性レベルの相関にて連鎖引きずりのない植物を選択した(図3)。これらの植物すべてが第3染色体上にてC517に由来する小さな遺伝子移入を有することが見いだされた。」と記載されている(本d)。
このとおりの実施例の記載によれば、実施例1で検出されたXcc抵抗性QTLが、C517(キャベツ)の第3染色体に由来するものであることを疑う余地はない。そして、本件明細書等の【0064】には、「寄託情報」として、「本明細書に記載されているようなBrassica oleracea var.capitata(合議体注:キャベツのことである。)に由来する遺伝子移入を含むカリフラワー系統C517×BRL51−99の少なくとも2500の種子の寄託を行った。寄託は、American Type Culture Collection(ATCC),10801 University Boulevard,Manassas,Va.20110−2209 USAで行った。寄託はATCC受入番号PTA−123409を割り当てられ、寄託の日付は2016年8月4日だった。」と記載されているのだから(本c)、「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」に含まれる遺伝子移入は、「遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestris(Xcc)に対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitata(合議体注:キャベツ、具体的にはC517のことである。)の第3染色体に由来する遺伝子移入」であると理解することができる。
次に、上記(b)について検討すると、【0025】には、「本発明の遺伝子マーカー及びアッセイを用いて、驚くべきことに本出願者らは、公知のキャベツ系統C517と優良なブロッコリー系統(BRL51−99sc)との間での交配で特定されたBrassica oleracea var.capitataから新規のXcc抵抗性領域を特定することができた。この遺伝子移入のマッピングによってXcc抵抗性のQTLはマーカーNH0265597(76.4cM)に位置し、マーカーNH0265157(74.98cM)及びNH0266951(77.14cM)が隣接することが示された。当業者は、区間値は、たとえば、使用される参照マップ、配列決定範囲及びアセンブリソフトウエアの設定のような因子に基づいて変化してもよいことを理解するであろう。しかしながら、そのようなパラメータ及びマッピングのプロトコールは当該技術で既知であり、当業者は本明細書で提供されるマーカー配列を使用して、本明細書に記載されている遺伝子移入をそのような方法を用いた所与のマップに物理的に且つ遺伝的に固定することができる。」と記載され(本d)、実施例3には、当該マッピングを裏付ける具体的データ(図2)とともに、マーカーやそれを検出するためのプローブ、プライマーの配列(表3)が記載されている(本d)。
そして、例えば、本件明細書等の【0034】〜【0047】にも記載されているとおり、当業者にとって植物ゲノムの多型(マーカー)解析は本件出願日以前の周知技術なのだから、上記記載に基づいて、「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」に含まれる、「遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestris(Xcc)に対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitata(合議体注:キャベツのことである。)の第3染色体に由来する遺伝子移入」を特定ないし追跡することができるといえる。
以上のとおりであるから、本件発明は、サポート要件を満たすものである。
同様の理由により、本件発明について、実施可能要件も満たされている。

(3)申立理由1(サポート要件違反及び実施可能要件違反)の検討
ア 申立人の主張
(ア)Xanthomonas campestris pv.campestris(Xcc)抵抗性遺伝子座と生育遅延遺伝子座の連鎖の解消
本件特許発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書段落0003、0017、0019、0025、0068の記載から、(課題1)「Xccの少なくとも2つの病原型、さらに詳しくは少なくとも病原型1及び4に対して抵抗性を提供する単一の抵抗性QTLを提供すること」に加えて、(課題2)「関連遺伝子座を欠いている植物に比べて生育遅延を付与する関連遺伝子のない抵抗性遺伝子座を提供する」ことであるところ、本件発明は、課題2を解決するための構成を含まない。

(イ)ATCC受入番号PTA−123409が有する多重抵抗性多重抵抗性
上記課題1である、Xccの少なくとも2つの病原型に対する多重抵抗性を有することが確認されているのは、育種親として用いた公知のキャベツ系統C517のみであり、ATCC受入番号PTA−123409に係るカリフラワー系統C517×BRL51−99が、Xcc多重抵抗性を有することは確認されていない。

(ウ)Xcc抵抗性対立遺伝子及び生育遅延遺伝子の配列
Xcc抵抗性対立遺伝子と、Xcc感受性対立遺伝子との配列の違いについて記載がないし、生育遅延を引き起こす対立遺伝子の具体的な配列についても記載がないため、上記課題1、2の解決を目的とした遺伝子移入を実施することができない。
遺伝子移入断片が、マーカーにより特定された発明についても、これらマーカー配列は、B.oleraceaが第3染色体上に一般的に有する配列であり、Brassica oleracea(系統名:HDEM)にも同じマーカー配列が存在していることから、Xcc抵抗性及び生育遅延に特異的なマーカーとはいえない。

イ 判断
(ア)Xanthomonas campestris pv.campestris(Xcc)抵抗性遺伝子座と生育遅延遺伝子座の連鎖の解消
本件発明が解決しようとする課題は、上記の2(1)で示されるとおりのものであり、いずれも、申立人が主張する「(課題2)「関連遺伝子座を欠いている植物に比べて生育遅延を付与する関連遺伝子のない抵抗性遺伝子座を提供する」ことまでも課題とするものではない。
したがって、本件発明は、いずれもサポート要件、実施可能要件を満たすので、申立人の主張(ア)は、採用できない。

(イ)ATCC受入番号PTA−123409が有する多重抵抗性
上記2(2)で検討したとおり、本件発明における「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」に含まれる遺伝子移入は、「遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestris(Xcc)に対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitata(合議体注:キャベツ、具体的にはC517のことである。)の第3染色体に由来する遺伝子移入」であることを当業者は理解できる。
よって、申立人の主張(イ)は、採用できない。

(ウ)Xcc抵抗性対立遺伝子及び生育遅延遺伝子の配列
上記(ア)でも述べたとおり、本件発明が解決しようとする課題は、上記の2(1)で示されるとおりのものであり「(課題2)「関連遺伝子座を欠いている植物に比べて生育遅延を付与する関連遺伝子のない抵抗性遺伝子座を提供する」ことを課題とするものではないから、本件発明の課題の解決や本件発明の実施において、生育遅延に特異的な配列を特定することが必要であるとはいえない。
また、上記2(2)で述べたように、「遺伝子移入を欠いている植物に比べてXccに対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitata(合議体注:キャベツのことである。)の第3染色体に由来する遺伝子移入」は、本件明細書等において提供されるマーカー配列を解析し、「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」における該マーカー配列と一致することにより確認できるのであるから、これらマーカーにより特定ないし追跡できるものであるといえ、「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」におけるXcc抵抗性QTL全体の塩基配列を特定することが必要であるとはいえない。
したがって、申立人の主張(ウ)は、採用できない。

(4)小括
以上のとおりであるから、申立人が主張する申立理由1(サポート要件違反及び実施可能要件違反)は、いずれも理由がない。

3 申立理由2(明確性要件違反)について
(1)異議申立人の主張
ア 「Xanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性」
請求項1、2及び18の「Xanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性」について、本件特許の発明の詳細な説明の段落0005には、「特定の態様では、スペクトルの広い抵抗性は複数のXanthomonas campestris pv.campestris病原型に対する抵抗性を含む。」と記載されていることから、「スペクトルの広い抵抗性」が、「複数のXcc病原型に対する抵抗性」以外にどのような態様が含まれるか明確ではない。

イ 「マーカーNH0265157(配列番号5)及びマーカーNH0266951(配列番号12)が隣接する」
請求項4の「前記植物におけるマーカーNH0265157(配列番号5)及びマーカーNH0266951(配列番号12)が隣接するBrassica oleracea var.capitataに由来する染色体セグメント」における、「隣接する」とは、上記2つのマーカーの配列を含むのか否か、直接隣接することのみを意味するのか、離れて隣接することも包含するのか明らかでない。

ウ 「マーカーNH0265597(配列番号11)にて」
請求項5の「マーカーNH0265597(配列番号11)にてBrassica oleracea var.capitataに由来する染色体セグメントを含む」における「マーカーNH0265597(配列番号11)にて」とは、染色体セグメントが前記マーカーを含むことを意味するのか、他の意味であるのか、明確でない。

エ 「当該遺伝子移入を含む種子の試料がATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」
請求項1には「当該遺伝子移入を含む種子の試料がATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」とあるが、本件特許の発明の詳細な説明の段落0064によれば、ATCC受入番号PTA−123409に係る植物は、Xcc多重抵抗性のキャベツ育種系統(C517)と、Xcc感受性のブロッコリー系統(BRL51−99sc)を交配させたF1世代の交雑種であり、これは、C517の第3染色体に由来するXcc多重抵抗性対立遺伝子と、BRL51−99scの第3染色体に由来するXcc感受性対立遺伝子をとヘテロで含んでいるものといえるから、ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託された種子に含まれ得る遺伝子移入の配列を一義的に特定できない。

オ Xccに対する抵抗性を付与する遺伝子移入の範囲
請求項1において、「遺伝子移入」、すなわちXcc抵抗性QTLは、「Xanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitataの第3染色体に由来する」ことと「当該遺伝子移入を含む種子の試料がATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」ことにより特定されている。しかし、甲3には、試験により検出されるキャベツのXcc抵抗性QTLは、接種病原菌、環境等の条件により変動することが記載されているから、ATCC受入番号PTA−123409に係る植物の第3染色体上のXcc抵抗性QTLといっても、一義的に特定できず、遺伝子移入の範囲が不明確である。

(2)判断
ア 「Xanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性」
本件明細書等の【0005】には、「スペクトルの広い抵抗性は複数のXanthomonas campestris pv.campestris病原型に対する抵抗性を含む。」と記載されているが(本a)、同【0014】に「複数の種類のXccに対して抵抗性(「スペクトルの広い抵抗性」)」と記載されているように(本b)、病原菌に対するスペクトルの広い抵抗性とは、通常、複数の型の病原菌に対して抵抗性を有することを意味するものであり、本件明細書等には、「スペクトルの広い抵抗性」が、「複数のXanthomonas campestris pv.campestris病原型に対する抵抗性」以外の意味を含むと解せるような記載はない。
そうすると、上記【0005】に、「・・・を含む。」との記載があるとしても、請求項における「スペクトルの広い抵抗性」という記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものであるとは認められない。

イ 「マーカーNH0265157(配列番号5)及びマーカーNH0266951(配列番号12)が隣接する」
「隣接する」が、異議申立人が主張する位置関係のいずれを意味するとしても、「隣接する」が示す範囲が不明確であるとまでは解されないし、請求項4記載の「Brassica oleracea var.capitataに由来する染色体セグメント」は、請求項1の「遺伝子移入」に含まれるものであって、それは、「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」に含まれ、これらは、実施例3によれば、マーカーNH0265157(配列番号5)及びマーカーNH0266951(配列番号12)により特定や追跡が可能といえるものであるから(本d)、請求項における「隣接する」の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものであるとは認められない。

ウ 「マーカーNH0265597(配列番号11)にて」
「にて」は、場所や手段等を表す助詞として一般的なものであるから、その語自体は不明確であるとはいえないし、上記イで述べたとおり、「Brassica oleracea var.capitataに由来する染色体セグメント」は、「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」に含まれ、これらは、実施例3によれば、マーカーNH0265597(配列番号11)により特定や追跡が可能といえるものであるから(本d)、請求項における「にて」の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものであるとは認められない。

エ 「当該遺伝子移入を含む種子の試料がATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」
上記2(2)で述べたとおり、「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」は、「Xanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitataの第3染色体に由来する遺伝子」を含むものであるから、上記の「種子の試料」に、当該遺伝子の他に、「BRL51−99scの第3染色体に由来するXcc感受性対立遺伝子」がヘテロで含まれていたとしても、前者の遺伝子、すなわち、Xcc多重抵抗性対立遺伝子が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確になるとはいえない。

オ Xccに対する抵抗性を付与する遺伝子移入の範囲
甲3に、試験により検出されるキャベツのXcc抵抗性QTLが、接種病原菌、環境等の条件により変動することが記載されていたとしても、「Xanthomonas campestris pv.campestrisに対するスペクトルの広い抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitataの第3染色体に由来する遺伝子」、すなわち、Xcc多重抵抗性対立遺伝子は、「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」に含まれ、当該遺伝子は、実施例3によれば、マーカーNH0265157(配列番号5)及びマーカーNH0266951(配列番号12)、マーカーNH0265597(配列番号11)により、特定や追跡が可能といえるものなので(本d)、請求項に記載された「遺伝子移入」の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものであるとはいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから、申立人が主張する申立理由2(明確性要件違反)は、いずれも理由がない。

4 申立理由3(新規性欠如、進歩性欠如)について
(1)甲1に基づく新規性欠如、進歩性欠如
ア 甲1の記載事項
甲1の記載事項は以下に示すとおりである。なお、甲1は英文なので、申立人が提出した翻訳文を採用した。

1−a
「B.oleraceaの幼若植物体及び成体植物体のX.campestris pv.campestrisに対する応答性を制御する量的形質遺伝子座(QTL)を、抵抗性キャベツ×感受性ブロッコリーの交配からのF3個体の制限酵素断片長多型遺伝子座及び病害評価を用いてマッピングした。温室では、2.5週齢の植物体を、病原体を導管に直接接種し罹患葉面積を測定することによりスクリーニングした。圃場では、11週齢の植物体を、正常な植物体へ接種し相互作用表現型スケールを用いた症状の評価によりスクリーニングした。リンケージグループ1及び9における2つの遺伝子領域が、幼若及び成体の植物体の抵抗性に関連していた。」(第1296頁、要約、左欄第3行〜右欄第5行)

1−b
「植物材料:黒腐病抵抗性キャベツ系統Badger Inbred−16(BI− 16、B.oleracea subsp.capitata)を雌親として、感受性近交ブロッコリー系統OSU Cr−7(B.oleracea subsp.ita1ica)と交配した。単一のF1雑種植物体を、8週間4℃にて春化処理した後に閉鎖花自家受粉させた。無作為に選択したF2植物体を、春化処理し閉鎖花自家受粉してF3個体の種子を得た。F3個体を、温室試験及び圃場試験での病害抵抗性の評価に用いた。各親系統の自家受精後代、F1雑種、及び、黒腐病感受性のキャベツ栽培品種であるTitanic 90(雑種)及びGolden Acre(開花受粉されたもの)を、温室試験及び圃場試験においてコントロールに含めた。」(第1296頁右欄第12行〜第22行)

1−c
「温室試験:温室中で、合計で83のF3個体とコントロールとを、3つのブロックからなる無作為化完全ブロック法を用いて黒腐病抵抗性に関してスクリーニングした。・・・the Crucifer Genetics Cooperative(ウィスコンシン大学、マジソン)からのX.campestris pv.campestris単離株PHW1205の接種材料を、100m1のポテトーデキストロースブロス(PDB)中で定常撹拌下で48時間28℃にて培養し、108個細胞/mLに濃度調整した。完全に展開した初生葉を、植生から18日後に葉の先端をクリッピングし、傷ついた部位に菌体を含ませたコットンスワブを擦りつけることにより接種した。・・・接種から14日後に、アセテート透明シートに個々の病変部位の縁部をトレースし、リーフエリアメーター(Li−Cor,リンカーン、ネブラスカ州)によりトレースされた面積を測定することにより病変面積(平方センチメートル)を評価した。3回の試験の平均病変葉面積(DLA)をQTL解析に用いた。」(第1296頁第23行〜第1297頁左欄第18行)

1−d
「圃場試験:合計で92のF3個体とコントロールを、圃場における黒腐病に関してスクリーニングした(温室試験に用いた76のF3個体を含む)。実生を上記のように育て、5週齢の植物体を移植まで2週間、屋外でハードニングした。1993年の夏に、ウィスコンシン大学のthe West Madison Agricultural Research Stationにおいて2つの試験を行った。・・・1つの試験では下記のように接種し黒腐病抵抗性を評価した。2つ目の試験では接種せずに葉柄の長さ及び葉面積の測定に用いた。実験を通じて通常の栽培手順を用いた。接種菌体は、1.8LのPDBに病原菌の12時間液体培養物をlmL接種し、同じ条件で72時間インキュベートしたことを除いて、上記の通り調製した。背負式殺虫剤噴霧器(Solo,インディアナ州インディアナポリス)を用いて菌体懸濁液を噴霧することにより、植物体に、移植から1月後の連続した日に2回接種した。・・・病害の症状を接種から22日目に、1刻みで0〜9の相互作用表現型(IP)レーティングスケールを用いてスコア付けした(0=無症状、9=しばしば葉全体を枯らすことを伴う急速に進行する周辺病変、しばしば軟腐症状を伴う植物の全身的な侵害、及び、植物の深刻な障害又は死)。植物あたり2枚の感染葉、試験群あたり合計24枚の葉を、2人が独立して評価し、2人の評価の平均IPを用いて試験群の平均値を算出した。形態評価のために、全てのファミリーの各植物から1つの成熟した葉を、移植後35日目に集め、葉柄長(センチメートル)及び葉面積(平方センチメートル)を測定した。IPスコア、葉柄長及び葉面積の試験群毎の平均値をQTL解析に用いた。」(第1297頁左欄第19行〜右欄第2行)

1−e
「RFLP及びデータ解析:124のF2植物個体から得られた112のマーカー遺伝子座の分離データに基づいてRFLPリンケージマップを構築した。マップは、9.9cMの平均マーカー感覚で1,002センチモルガン(CM)をカバーした。QTL解析に先立って、正規性に関するShapiro−Wi1k相関検定を用いて正規性を検定した。また、温室試験におけるF3群と黒腐病評価についてのブロック効果について、分散分析により有意性を検証した。・・・QTLを、区間マッピングに基づく最尤法を用いてマッヒングした。2.5を上回る、オッズ比のLog10(LOD)を、マーカーインターバルにおけるQTLの存在の証拠とした。」(第1297頁右欄第3行〜第18行)

1−f
「感受性コントロールTitanic 90の平均DLAは、全ての他のコントロールと有意に異なっていた。更に、2つの親の全体の平均DLAは有意に異なり、一方で、感受性親の親F1雑種、及び感受性コントロールGolden Acreの間で有意差は認められなかった(表1)。F3個体の平均DLAは正規分散(P<0.05、図1)しており、F3個体の一部は親の1.5〜2.0倍高い又は低い値を有し、超越分離を示唆した。・・・3回反復試験の全体の平均DLAを用いたインターバルマッピング解析により、3つのリンケージグループ(LGs)に位置する推定QTLを含む4つの領域が示された(表2)。LGl上の主たる遺伝子座はDLAの変化の34.7%を説明した。このインターバルにおけるBI−16由来の対立遺伝子は、付加的遺伝子作用の負の値により示されるように、付加的に作用し、抵抗性に寄与した(表2)。
・・・LG9上の第4のインターバルもまた、DLAと有意に関連していた。BI−16由来の対立遺伝子が抵抗性に寄与し、付加的又は劣性な態様で作用した。」(第1297頁第44行〜第1298頁右欄第7行)

1−g
「圃場評価:親はIPスコアにより明確に区別された。一方で、感受性コントロールTitanic 90は、Cr−7よりも僅かであるが有意に高い値を示した(表1)。BI−16の全ての植物体は、排水機構に微細な壊死斑があり、葉の葉身を越えて病変が進行することはなかった。ブロッコリー親株は典型的なV字型病斑と菌糸感染が見られた。また、Cr−7株は感染により落葉した。このことは、病害の症状の目視による評価を妨げ、感受性の過小評価につながった可能性がある。F3ファミリー個体の平均IPスコアは正規分布しており(図1)、超過分離は認められなかった。温室試験で同定されたインターバルに近接して、LGl上で2cM、LG9上で10cMだけ離れたピークLODスコアを有する推定QTLを含む二つのマーカーインターバルが、LGl及びLG9に同定された(図2)。BI−16アリールが、抵抗性に寄与し、温室中と同じ遺伝子作用モードを示した。複数遺伝子座モデルと組み合わせた場合、2つの遺伝子座が表現型の変化の46.6%を説明した。」(第1298頁右欄第9〜25行)

1−h
「表1.温室で測定した病害葉面積(DLA)、並びに、圃場で測定した、相互作用表現型(IP)スコア(Xanthomonas campestris pv.campestrisの接種に基づく)、葉柄長及び葉面積に関する、Brassica o1eracea親系統(Badger Inbred−16[BI−16]キャベツ、及び、OSU Cr−7ブロッコリー)、F1植物及び感受性コントロール(キャベツ栽培品種Golden Acre及びTitanic90)の平均及び標準誤差、並びに、F3ファミリーの平均値の範囲

an=推定に用いた植物体数
」(第1297頁、表1)

1−i


病害葉面積(cm2) 相互作用表現型スコア
図1.Xanthomonas campestris pv.campessに対する、温室における抵抗性(A)、並びに、圃場における抵抗性(B)、葉柄長(C)、及び葉面積(D)に関する、Brassica o1eraca F3 世代平均値の表現型分布。親(Badger Inbred−16、及び、OSU Cr−7)並びにF1世代の位置を示す。」(第1298頁、図1A、B)

1−j
「表2.Badger Inbred−16キャベツ×OSU Cr−7ブロッコリー交配のF3系統に基づく、Brassica o1eraceaの黒腐病に対する、温室における抵抗性(病害葉面積(DLA))、並びに、圃場における抵抗性(相互作用表現型(IP)スコア)、葉柄長及び葉面積、と有意に関連するマーカーインターバル(オッズ比のLog10[LOD]≧2.5)

」(第1298頁、表2)

1−k


図2.・・・B(リンケージグループ9)に示す、Brassica o1eraceaの黒腐病に対する、湿室における抵抗性(DLA=病害葉面積)、並びに、圃場における抵抗性(IPスコア=相互作用表現型)及び葉柄長に関する、オッズ比のLog10(LOD)スコア。各形質についてピークLODスコアを矢印で示す。マーカー遺伝子座をx軸上に示す。有意な分離ひずみを有するマーカー遺伝子座を下線で示す。」(第1299頁、図2B)

イ 甲1発明の認定
甲1には、Xcc抵抗性キャベツBI−16と感受性ブロッコリー系統OSU Cr−7とを交配して得た、Xcc抵抗性F3植物が記載されている(記載事項1−a、1−b、1−f、1−g、1−h、1−i)。そして、前記F3植物の、温室中での幼若期の植物体にXccを接種したときの平均病変葉面積(DLA)を測定したところ(記載事項1−c)、QTL解析よれば、リンケージグループ9(LG9)上のマーカーインターバルwg8a9b−wg4d7が、LODスコアのピークを示すDLAと相関するQTLであることが示されていると認められる(記載事項1−e、1−f、1−j、1−k)。
また、前記F3植物の、圃場栽培時の成体期の植物体にXccを接種したときの黒腐病の重篤度を示す相互作用表現型(IP)スコア等を測定したところ(記載事項1−d)、QTL解析によれば、リンケージグループ9(LG9)上のマーカーインターバルec2d9−wg8a9bが、LODスコアのピークを示すIPスコアと相関するQTLであることが示されていると認められる(記載事項1−e、1−f、1−g、1−j、1−k)。

以上より、甲1には、以下の発明が記載されているものと認める(以下、「甲1発明」という。)
「Xcc抵抗性キャベツBI−16と感受性ブロッコリー系統OSU Cr−7とを交配して得た、Xcc抵抗性F3植物であって、リンケージグループ9(LG9)上の病変葉面積(DLA)と相関するQTLであるwg8a9b−wg4d7及び相互作用表現型(IP)スコアと相関するQTLであるec2d9−wg8a9bを含むXcc抵抗性F3植物。」

ウ 本件発明1と甲1発明の対比
甲1発明における、「Xcc抵抗性キャベツBI−16と感受性ブロッコリー系統OSU Cr−7とを交配して得た、Xcc抵抗性F3植物」は、本件発明1における「Brassica oleracea植物の栽培品種」に相当する。
甲1発明における「LG9上の病変葉面積(DLA)と相関するQTLであるwg8a9b−wg4d7及び相互作用表現型(IP)スコアと相関するQTLであるec2d9−wg8a9bを含む」ことは、Xcc抵抗性キャベツBI−16に由来するec2d9−wg4d7を含む遺伝子座が、該遺伝子座を含まない感受性ブロッコリー系統OSU Cr−7に移入されたことを意味するので、本件発明1の「遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対する」「抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitata」(抵抗性を付与するキャベツ)の「遺伝子移入を含」むことに相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「Brassica oleracea植物の栽培品種であって、遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対する抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitataに由来する遺伝子移入を含む、前記Brassica oleracea植物の栽培品種。」であるという点で一致し、以下の点で相違していると認められる。

(相違点1)
遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対する抵抗性を付与する遺伝子移入が、
本件発明1では、「Brassica oleracea var.capitataの第3染色体に由来」し、「当該遺伝子移入を含む種子の試料が、ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」ことが特定されているのに対し、
甲1発明では、Xcc抵抗性キャベツBI−16に由来し、LG9上のec2d9−wg4d7を含むものである点

(相違点2)
本件発明1では、「Xanthomonas campestris pv.campestrisに対する抵抗性」が、「スペクトルの広い抵抗性」で、「共優性であり、且つ相加的であ」ることが特定されているのに対して、
甲1発明では、これらが特定されていない点

エ 相違点1の判断
相違点1について検討する。
上記2(2)によれば、本件発明1の「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」は、キャベツ育種系統(C517)とブロッコリー系統(BRL51−99)を交配させて得られ、キャベツ育種系統(C517)の第3染色体に由来する、Xcc抵抗性を付与する遺伝子座(QTL)(Xanthomonas campestris pv.campestris(Xcc)に対するスペクトルの広い抵抗性を付与する・・・遺伝子)を含むのに対し、甲1に記載されるXcc抵抗性F3植物は、キャベツ育種系統(C517)とは異なるXcc抵抗性キャベツであるBI−16と、ブロッコリー系統(BRL51−99)とは異なる感受性ブロッコリー系統であるOSU Cr−7を交配させて得られ、LG9上のec2d9−wg4d7を含むものである。
よって、両者の遺伝子は、共に、Xcc抵抗性に寄与するものではあるが、異なるキャベツ個体に由来するものであるため、同じ塩基配列を有するものとは認められないし、甲1発明の「LG9上のec2d9−wg4d7」が、本件発明1のXcc抵抗性を付与する遺伝子座(QTL)と同様に、第3染色体に由来するものであるとも直ちに判断できない。
ここで、異議申立人は、甲1には、ec2d9等の塩基配列は開示されていないが、甲5〜甲11には、Brassica oleraceaの近縁のBrassica napusにおける対応するマーカーの塩基配列が開示されていること、及び、該塩基配列を、甲12、甲13において示される、Brassica oleracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列とアラインメントすることにより(甲14〜甲28)、異議申立書第84頁に記載された表に示されるとおり、LG9上のDLAと相関するQTL(wg8a9b−wg4d7)及びIPスコアと相関するQTL(ec2d9−wg8a9b)(以下、これらを総称して「LG9上のXcc抵抗性QTL」と称する。)を含む両側に位置するマーカーec4d11及びec2d9が、本件発明1の「ATCC受入番号PTA−123409」の植物が有するXcc抵抗性QTLマーカーのうちNH0267108(配列番号17)以外のマーカーを含む領域の両側に位置し、ec2d9については、NH0267108(配列番号17)と略同じ位置に位置するので、甲1発明の「LG9上のXcc抵抗性QTL」は、本件発明1の「ATCC受入番号PTA−123409」に係る植物の第3染色体上にあるXcc抵抗性QTLと区別できない旨を主張している。
しかし、異議申立書第84頁に記載された表は、Brassica oleraceaの近縁のBrassica napusの塩基配列に基づき作成されたものなので、当該表に基づき、甲1発明の「LG9上のec2d9−wg4d7」の染色体における位置を推論するのが相当とはいえないし、甲1の記載事項1−kによれば、マーカーは、ec4d11、wg8a9b、ec2d9の順に存在すると認められるところ、上記異議申立書第84頁に記載された表では、ec4d11、ec2d9の順に存在し、その後に大きく離れて、wg8a9bが存在しているから、当該表と甲1の記載には大きな矛盾が存在する。
以上からすると、甲1発明の「LG9上のXcc抵抗性QTL」と、本件発明1のキャベツ育種系統(C517)の第3染色体に由来する、Xcc抵抗性を付与する遺伝子座(QTL)は、交配元のキャベツ個体が異なることから、塩基配列が異なると認められ、しかも、甲1発明の「LG9上のXcc抵抗性QTL」と本件発明1の「ATCC受入番号PTA−123409」に係る植物の第3染色体に存在し、キャベツ育種系統(C517)の第3染色体に由来する、Xcc抵抗性を付与する遺伝子座(QTL)とは、染色体における位置の観点からも同一とはいえないものといえる。

オ 小括
以上からすると、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明と同一であるとは認められない。
また、甲1や他の甲各号証をみても、甲1発明の「LG9上のXcc抵抗性QTL」を本件発明1のキャベツ育種系統(C517)の第3染色体に由来する、Xcc抵抗性を付与する遺伝子座(QTL)、すなわち「Xanthomonas campestris pv.campestris(Xcc)に対するスペクトルの広い抵抗性を付与する・・・遺伝子」に置き換えることを動機付ける記載は見当たらないから、本件発明1が、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。
さらに、本件発明2〜30は、いずれも、本件発明1の「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」に「移入」された「遺伝子」を発明特定事項とする点で共通するから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明と同一であるとも、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)甲3に基づく新規性欠如、進歩性欠如
ア 甲3の記載事項
甲3の記載事項は以下に示すとおりである。なお、甲3は英文なので、申立人が提出した翻訳文を採用した。

3−a
「2つのキャベツ(Brassica oleracea L. var.capitata)近交系C1184及びC1234を、マッピング集団を展開するための親として選択した。前記2系統は、黒腐病に対して異なる応答を示す。C1184は、X.campestris pv.campestris(Xcc)に対して感受性であるのに対し、C1234は抵抗性である。前記マッピング集団は、以前に報告されたようにC1184とC1234との交配により作出された97のF2植物からなる。更に、前記97のF2植物を春化処理し自家受粉させて、接種試験のためのF3子孫の種子を作出した。」(第9頁左欄第3行〜第12行)

3−b
「3回の試験のそれぞれについてQTL解析を行った。我々は、並べ替え検定により算出された閾値よりもLODスコアが高いことに基づいて、有意なQTLを検出した。2012年、2013年、2014年の試験におけるLOD閾値は、それぞれ3.063、2.912、2.906であった。2012年に行った最初の試験では3つのQTLとして、第1染色体上のBRQTL−C1_1及びBRQTL−C1_2、並びに第3染色体上のBRQTL−C3が存在した。これらのうちで、BRQTL−C1_2が最も高いLODスコア、付加的効果、及び因子寄与を有していた(表4、図2)。2回目の試験では、2012年の試験で検出されたBRQTL−C1_2に含まれる1つのQTLが検出された。なおこのQTLは3回の試験で検出された全てのQTLのうち最も小さなLODスコアを有していた。2014年に行った最後の試験では、BRQTL−C1_1及び2に加えて、第6染色体に新たなQTLとしてBRQTL−C6が特定された。」(第4頁左欄第1行〜第16行)

3−c
「Xcc KACC 10377に対する抵抗性が特定されたQTL

」(第6頁、表4)

3−d


図4:Xcc懸濁液の噴霧後のB.oleraceaの葉の、黒腐病の代表的な症状。病害指数:黒腐病の症状を呈する葉面積(0)15%未満、(1)15〜30%、(2)30〜55%、(3)55〜75%、(4)75%超」(第9頁、図4)

3−e
「追加ファイル2 図S1.接種したF3植物から得た平均スコアにより評価した、F2集団の病害指数の分布


(追加ファイル2 図S1)

3−f
「追加ファイル1:表S1.この研究で用いた、C1184とC1234との間の多形マーカーの説明


」(追加ファイル1:表S1)

3−g 「103個の新規多形マーカー遺伝子座(追加ファイル1及び2:表S1及びS2)を、従来の265個のマーカー[21]に加えて、より高密度の遺伝子マップを開発した。全部で368個のマーカーをマップ上に位置付け、9つのリンケージグループ(LGs)を含み、各LGが32個よりも多いマーカーを含むリンケージマップを生成した(図2,表3)。


(第3頁右欄第8行〜第14行、及び、第11頁左欄「21」)

イ 甲3発明の認定
甲3には、キャベツのXcc抵抗性系統C1234とXcc感受性系統C1184とを親として交配させて得られたF2植物及びF3植物が記載されており(記載事項3−a)、Xcc抵抗性QTLとして、第3染色体上のBRQTL−C3が見出されたことが記載されている(記載事項3−b)。そして、記載事項3−cによれば、BRQTL−C3は、第3染色体のBoRSdcaps3−12とBoESSR291との間の7.6cMのインターバル上に存在することが記載されている。
更に、記載事項3−d、3−eによれば、Xcc抵抗性系統C1234とXcc感受性系統C1184とを親として交配させて得られたF2植物及びF3植物の一部はXcc抵抗性を有することが記載されている。
よって、甲3には、以下の発明が記載されているものと認められる(以下、「甲3発明」という。)

「キャベツのXcc抵抗性系統C1234とXcc感受性系統C1184とを親として交配させて得られた、Xcc抵抗性のF2植物及びF3植物であって、第3染色体上のBoRSdcaps3−12とBoESSR291との間の7.6cMのインターバル上に、Xcc抵抗性QTLであるBRQTL−C3を含むF2植物及びF3植物。」

ウ 本件発明1と甲3発明の対比
甲3発明における、「キャベツのXcc抵抗性系統C1234とXcc感受性系統C1184とを親として交配させて得られた、Xcc抵抗性のF2植物及びF3植物」は、本件発明1における「Brassica oleracea植物の栽培品種」に相当する。
また、甲3発明における「第3染色体上」に「Xcc抵抗性QTLであるBRQTL−C3を含む」ことは、Xcc抵抗性系統C1234に由来する遺伝子であるXcc抵抗性QTLであるBRQTL−C3を、Xcc感受性系統C1184に移入することを意味するので、本件発明1の「遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対する」「抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitata」(抵抗性を付与するキャベツ)の「遺伝子移入を含」むことに相当する。

そうすると、本件発明1と甲3発明は、「Brassica oleracea植物の栽培品種であって、遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対する抵抗性を付与するBrassica oleracea var.capitataに由来する遺伝子移入を含む、前記Brassica oleracea植物の栽培品種。」であるという点で一致し、以下の点で相違していると認められる。

(相違点3)
遺伝子移入を欠いている植物に比べてXanthomonas campestris pv.campestrisに対する抵抗性を付与する遺伝子移入が、
本件発明1では、「Brassica oleracea var.capitataの第3染色体に由来」し、「当該遺伝子移入を含む種子の試料が、ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」ことが特定されているのに対し、
甲3発明では、Xcc抵抗性QTLであるBRQTL−C3であり、第3染色体上のBoRSdcaps3−12とBoESSR291との間の7.6cMのインターバル上に存在する点

(相違点4)
本件発明1では、「Xanthomonas campestris pv.campestrisに対する抵抗性」が、「スペクトルの広い抵抗性」で、「共優性であり、且つ相加的であ」ることが特定されているのに対して、
甲3発明では、これらが特定されていない点

エ 相違点3の判断
相違点3について検討する。
上記2(2)によれば、本件発明1の「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」は、キャベツ育種系統(C517)とブロッコリー系統(BRL51−99)を交配させて得られ、キャベツ育種系統(C517)の第3染色体に由来する、Xcc抵抗性を付与する遺伝子座(QTL)(Xanthomonas campestris pv.campestris(Xcc)に対するスペクトルの広い抵抗性を付与する・・・遺伝子)を含むのに対し、甲3に記載されるF2植物及びF3植物は、キャベツ育種系統(C517)とは異なるXcc抵抗性キャベツであるC1234と、ブロッコリー系統(BRL51−99)とは異なる感受性キャベツであるC1184を交配させて得られ、Xcc抵抗性QTLであるBRQTL−C3を含むものである。
よって、両者の遺伝子は、共に、Xcc抵抗性に寄与するものではあるが、異なるキャベツ個体に由来するものであるため、同じ塩基配列を有するとは認められない。
異議申立人は、上記記載事項3−fに記載されたBoRSdcaps3−12を増幅するためのプライマー配列、並びに、上記記載事項3−gで引用されている参考文献21(甲33)に記載のBoESSR291を増幅するためのプライマー配列(追加ファイル2、No.44)を、甲12、甲13において示される、Brassica oleracea(HDEM)の第3染色体の塩基配列とアラインメントすることにより(甲14〜甲21、甲29〜甲32)、異議申立書第106頁に記載された表に示されるとおり、甲3に記載のXcc抵抗性QTLであるBRQTL−C3は、本件発明1の「ATCC受入番号PTA−123409」に係る植物の第3染色体上にあるXcc抵抗性QTLと重複する旨を主張している。
しかし、上記のとおり、甲3発明の「Xcc抵抗性QTLであるBRQTL−C3」と、本件発明1のキャベツ育種系統(C517)の第3染色体に由来する、Xcc抵抗性を付与する遺伝子座(QTL)は、交配元のキャベツ個体が異なることから、塩基配列が異なると認められ、しかも、異議申立書第106頁に記載された表を参照すると、それらのアラインメントに基づく存在位置は、前者が「22,168,891〜23,341,232」であるのに対し、後者が「18,068,981〜22,946,802」と、重複範囲は小さいので、両者の遺伝子は、染色体における位置の観点でも同一とはいえないものである。

オ 小括
以上からすると、本件発明1は、相違点4を検討するまでもなく、甲3発明、すなわち甲3に記載された発明と同一であるとは認められない。
また、甲3や他の甲各号証をみても、甲3発明の「Xcc抵抗性QTLであるBRQTL−C3」を本件発明1のキャベツ育種系統(C517)の第3染色体に由来する、Xcc抵抗性を付与する遺伝子座(QTL)、すなわち「Xanthomonas campestris pv.campestris(Xcc)に対するスペクトルの広い抵抗性を付与する・・・遺伝子」に置き換えることを動機付ける記載は見当たらないから、本件発明1が、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。
さらに、本件発明2〜30は、いずれも、本件発明1の「ATCC受入番号PTA−123409のもとで寄託されている」「種子の試料」に「移入」された「遺伝子」を発明特定事項とする点で共通するから、本件発明1と同様の理由により、甲3に記載された発明と同一であるとも、また、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る特許異議申立てにおいて申立人が主張する申立理由は、いずれも理由がないから、本件発明1〜30に係る特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件発明1〜30に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2023-04-05 
出願番号 P2017-190862
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A01H)
P 1 651・ 537- Y (A01H)
P 1 651・ 113- Y (A01H)
P 1 651・ 121- Y (A01H)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 福井 悟
飯室 里美
登録日 2022-06-24 
登録番号 7094681
権利者 セミニス・ベジタブル・シーズ・インコーポレイテツド
発明の名称 Xanthomonas抵抗性のBrassica oleracea植物  
代理人 市川 祐輔  
代理人 櫻田 芳恵  
代理人 河野 隆  
代理人 飯野 陽一  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 小野 誠  
代理人 安藤 健司  
代理人 重森 一輝  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 城山 康文  
代理人 市川 英彦  
代理人 金山 賢教  
代理人 坪倉 道明  
代理人 森山 正浩  
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