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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01B 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01B 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B |
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管理番号 | 1397447 |
総通号数 | 18 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2023-06-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-07-02 |
確定日 | 2023-05-09 |
事件の表示 | 特願2020−504061「超電導線材の接続構造体および超電導線材の接続構造体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月12日国際公開、WO2019/172432、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成31年(2019年)3月8日(優先権主張 平成30年3月9日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和3年 1月 6日付け 拒絶理由通知書 令和3年 3月15日 意見書、手続補正書の提出 令和3年 3月22日付け 拒絶査定 令和3年 7月 2日 審判請求書、手続補正書の提出 令和4年11月16日付け 拒絶理由通知書(以下、この拒絶理由通知書 による拒絶理由を「当審拒絶理由1」という 。) 令和5年 1月11日 意見書、手続補正書の提出 令和5年 1月31日付け 拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書(以下 、この拒絶理由通知書による拒絶理由を「当 審拒絶理由2」という。) 令和5年 3月14日 意見書、手続補正書の提出 第2 原査定の概要 原査定(令和3年3月22日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 (進歩性)この出願の請求項1〜4に係る発明は、その優先権主張日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2017−117523号公報 2.特開2011−165435号公報 3.特開2016−110816号公報 第3 当審拒絶理由の概要 (1)当審拒絶理由1の概要は次のとおりである。 1(新規性)この出願の請求項1〜4、6に係る発明は、その優先権主張日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2(進歩性)この出願の請求項1〜4、6、7に係る発明は、その優先権主張日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <拒絶の理由を発見しない請求項> 請求項5に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。 <引用文献等一覧> 1.特開2017−117523号公報(拒絶査定時の引用文献1) 2.特開2011−165435号公報(拒絶査定時の引用文献2) (2)当審拒絶理由2の概要は次のとおりである。 (明確性)この出願は、請求項3、4の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 <拒絶の理由を発見しない請求項> 請求項1、2に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。 第4 本願発明 特許請求の範囲の請求項1〜4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明4」という。)は、令和5年3月14日にされた手続補正により補正された、特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1〜4は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 基板上に超電導層を有する複数の接続線材を備え、 前記複数の接続線材が接続され、 前記複数の接続線材の接続部が銅の安定化メッキ層により被覆され、 前記安定化メッキ層は、前記接続部を連続して被覆しており、かつ前記複数の接続線材の長手方向の端面を被覆しており、 前記複数の接続線材がそれぞれ有する前記超電導層は、直接接触している、超電導線材の接続構造体。 【請求項2】 前記安定化メッキ層が、前記複数の接続線材を連続して被覆する、請求項1に記載の超電導線材の接続構造体。 【請求項3】 基板上に超電導層を有する複数の接続線材が接続された超電導線材の接続構造体の製造 方法であって、 前記超電導層が露出されている、前記複数の接続線材を準備し、 前記複数の接続線材を、露出した前記超電導層が互いに接するように重ね合わせ、 前記複数の接続線材の接続部及び長手方向の端面を銅の安定化メッキ層により被覆し、前記複数の接続線材の間に連続して前記安定化メッキ層を形成する、 超電導線材の接続構造体の製造方法。 【請求項4】 前記安定化メッキ層が、前記複数の接続線材を連続して被覆する、請求項3に記載の超電導線材の接続構造体の製造方法。」 第5 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について 原査定及び当審拒絶理由1に引用された引用文献1(当審拒絶理由1の引用文献1)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付した。以下同じ。) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、超電導線材の接続構造及び超電導線材の接続方法に関する。」 「【0019】 [超電導線材] 図1は、本発明の第1実施形態に係る超電導線材の斜視図である。 図1に示すように、超電導線材10は、超電導成膜用基材1(以下、「基材1」とする)の厚み方向の一方の主面(以下、成膜面11という)に、中間層2及び酸化物超電導導体層3、金属保護層4がこの順に積層されており、さらに、基材1の主面とは逆側の面にも金属保護層4aが形成されている。即ち、超電導線材10は、金属保護層4、基材1、中間層2、酸化物超電導導体層3(以下、「超電導導体層3」とする)、金属保護層4aによる積層構造を有しており、さらに、この積層構造の周囲を被覆する銅安定化層5(安定化層)を有している。」 「【0024】 上記超電導導体層3の表面(中間層2とは逆側の面)及び基材1の主面11とは逆側の面には、それぞれ金属保護層4,4aが積層されている。金属保護層4,4aは、良導体の金属層であり、Ag,Au又はCuの内の少なくとも一つを含む金属が望ましい。ここでは、金属保護層4,4aがAgである場合を例示する。 超電導導体層3側の金属保護層4は厚さ2μm程度、基材1側の金属保護層4aは厚さ1.8μm程度であり、基材1側の金属保護層4aの方が薄く形成されている。」 「【0031】 [超電導線材の接続方法] 上記超電導線材の接続構造100を形成する超電導線材の接続方法について図4(A)〜図4(C)に基づいて説明する。 まず、第一と第二の超電導線材10A,10Bの接続端部の銅安定化層5を除去し、露出した金属保護層4の一部を線材本体101の全幅に渡って矩形に除去する。金属保護層4の矩形の除去は、機械的研磨、化学的研磨(例えば、エッチング処理)又はこれらの組み合わせにより行う(除去工程)。 なお、この金属保護層4の矩形の除去は、超電導導体層3が完全に露出する深さまで行われる。 また、露出した超電導導体層3を除去した部分の表面粗さは十分小さくしておくことが望ましい。例えば、その表面粗さ(中心線平均粗さRa)は、50nm以下とすることが望ましく、10nm以下とすることがより望ましい。 【0032】 そして、図4(A)に示すように、第一と第二の超電導線材10A,10Bの金属保護層4,4のそれぞれの接続端部側の矩形の除去部分に、MOD法(Metal Organic Deposition法/有機金属堆積法)によるMOD液31mがスピンコート又は塗布により充填される(塗布工程)。 このMOD液は、例えば、RE(Y(イットリウム)、Gd(ガドリニウム)、Sm(サマリウム)及びHo(ホルミウム)等の希土類元素)とBaとCuとが約1:2:3の割合で含まれているアセチルアセトナート系MOD溶液が使用される。 【0033】 そして、図4(B)に示すように、塗布されたMOD液に含まれる有機成分を除去するための仮焼成工程が行われる。仮焼成工程については、第一と第二の超電導線材10A,10Bの接続端部をN2+O2ガスの雰囲気内で、400℃以上500℃以下の温度範囲、より好ましくは500°で熱処理する。 これにより、第一と第二の超電導線材10A,10Bの超電導導体層3,3のそれぞれの接続端部側の矩形の除去部分には堆積層31t,31tが形成される。 【0034】 そして、図4(C)に示すように、第二の超電導線材10Bを裏返して、第一と第二の超電導線材10A,10Bの金属保護層4,4を互いに対向させると共に、線材長手方向Lについて互いの堆積層31t,31tを位置合わせして密接させる。 さらに、第一と第二の超電導線材10A,10Bの接続端部を厚さ方向に加圧しながら加熱してMOD法における本焼成工程が行われる。また、この加圧加熱により、重合範囲J内で互いに密接した金属保護層4,4においてAg−Ag拡散接合が行われる。 本焼成工程については、第一と第二の超電導線材10A,10Bの接続端部をAr+O2ガスの雰囲気内で、760℃以上800℃以下の温度範囲で熱処理することが望ましい。 これにより、第一の超電導線材10Aの堆積層31tと第二の超電導線材10Bの堆積層31tが密着しながらエピタキシャル成長し、一体的な接続用超電導導体層31が形成される。 また、接続用超電導導体層31の線材長手方向Lの両側では、加圧加熱された第一の超電導線材10Aの金属保護層4と第二の超電導線材10Bの金属保護層4とがAg−Ag拡散接合されて重合範囲Jの内側に一体的な接続金属保護層41,41が形成される。 【0035】 そして、本焼成工程の後には、接続用超電導導体層31に対して酸素をドープする酸素アニール工程が行われる。この酸素アニール処理は、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの接続端部を酸素雰囲気内に収容し、所定温度で加熱する。 具体的な例示としては、酸素アニールの対象部位を、350℃以上500℃以下の温度範囲の酸素の雰囲気下に置き、この条件下で酸素ドープを行う。 接続用超電導導体層31は、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの全幅に渡って形成されているので、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの線材本体101,101の幅方向両側の側面から接続用超電導導体層31の端面が露出した状態となっており、この露出した端面から効果的に酸素ドープが行われる。 【0036】 また、さらに、酸素アニール工程の後、第一及び第二の超電導線材10A,10Bの接続端部の外周の表面に対して、電解めっき法で銅安定化層5を再び形成する(安定化層形成工程)。 【0037】 これらの各工程により、超電導線材の接続構造100が形成される。」 「【図1】 」 「【図2】 」 「【図4】 」 したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。 「超電導成膜用基材1の厚み方向の一方の主面に、中間層2及び酸化物超電導導体層3、Agからなる金属保護層4がこの順に積層され、さらに、超電導成膜用基材1の主面とは逆側の面にAgからなる金属保護層4aが積層され、この積層構造の周囲を被覆する銅安定化層5を有する超電導線材10を備え、(【0019】、【0024】、【図1】) 第一と第二の超電導線材10A、10Bを接続する際に、 第一と第二の超電導線材10A、10Bの接続端部の銅安定化層5を除去し、(【0031】) 露出した金属保護層4の一部を線材本体101の全幅に渡って、超電導導体3が完全に露出する深さまで、矩形に除去し、(【0031】) 第一と第二の超電導線材10A、10Bの金属保護膜4、4のそれぞれの接続端部側の矩形の除去部に堆積層31t、31tを形成し、(【0032】、【0033】、【図4】(A)、【図4】(B)) 第一と第二の超電導線材10A、10Bの金属保護層4、4を互いに対向させると共に、線材長手方向Lについて互いの堆積層31t、31tを位置合わせして密着させ、(【0034】、【図4】(C)) 重合範囲J内で互いに密接した金属保護層4、4においてAg−Ag拡散接合を行い、一体的な接続用超伝導導体層31を形成し、(【0034】、【図4】(C)) 第一及び第二の超電導線材10A、10Bの接続部の外周の表面に対して、電解めっき法で銅安定化層5を再び形成し、(【0036】) これらの各工程により形成された、超電導線材の接続構造100。(【0037】、【図2】)」 また、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。 「超電導成膜用基材1の厚み方向の一方の主面に、中間層2及び酸化物超電導導体層3、Agからなる金属保護層4がこの順に積層され、さらに、超電導成膜用基材1の主面とは逆側の面にAgからなる金属保護層4aが積層され、この積層構造の周囲を被覆する銅安定化層5を有する超電導線材10を接続する方法であって、(【0019】、【0024】、【0031】、【図1】、【図4】) 第一と第二の超電導線材10A、10Bの接続端部の銅安定化層5を除去し、(【0031】) 露出した金属保護層4の一部を線材本体101の全幅に渡って、超電導導体3が完全に露出する深さまで、矩形に除去し、(【0031】) 第一と第二の超電導線材10A、10Bの金属保護膜4、4のそれぞれの接続端部側の矩形の除去部に堆積層31t、31tを形成し、(【0032】、【0033】、【図4】(A)、【図4】(B)) 第一と第二の超電導線材10A、10Bの金属保護層4、4を互いに対向させると共に、線材長手方向Lについて互いの堆積層31t、31tを位置合わせして密着させ、(【0034】、【図4】(C)) 重合範囲J内で互いに密接した金属保護層4、4においてAg−Ag拡散接合を行い、一体的な接続用超伝導導体層31を形成し、(【0034】、【図4】(C)) 第一及び第二の超電導線材10A、10Bの接続部の外周の表面に対して、電解めっき法で銅安定化層5を再び形成する、(【0036】) 超電導線材10を接続する方法。」 2 引用文献2について 原査定及び当審拒絶理由1に引用された引用文献2(当審拒絶理由1の引用文献2)には、次の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、2つの超電導線材を接続するための超電導線材の接続構造体に関する。 【背景技術】 【0002】 超電導機器等に用いられる超電導線材は、十分な長さが要求されるため、超電導線材同士を接続して用いられるものであり、超電導線材同士を簡易に接続する場合には、超電導線材の端部同士を重ね合わせて半田で接続する(特許文献1)。」 「【0017】 〈実施の形態1〉 図1は、この発明の超電導線材の接続構造体を示す断面図である。図2(a)〜(c)は、本発明に係る超電導線材の接続構造体の製造工程を説明する断面図である。 【0018】 超電導線材1は、テープ状であって、超電導線材1の両面は銅合金からなるシート状の補強材2により被覆され、超電導線材1の両面と補強材2とは半田層(図示略)により貼り合わされている。 【0019】 超電導線材の接続構造体Bは、2つの超電導線材1の端部同士を重ね合わせて接続されるものであるが、重ね合わせる超電導線材1の端部の両面にある補強材2は剥がされて超電導線材1の露出部3が形成され、露出部3同士は半田層2aによって接続されている。 【0020】 重ね合わされた露出部3の外側は、半田層5を介して柔軟で薄肉の接続補強材4により被覆されている。接続補強材4の両端部は露出部3近傍の補強材2の切断端部に重ね合わされ、接続補強材4は露出部3を跨ぐようにして配置されている。 【0021】 本実施の形態においては、接続補強材4の材質はSUS304であり、接続補強材4の厚さを0.02mmに設定することにより接続補強材4が強度や柔軟性を発揮できる。 【0022】 次に、超電導線材の接続構造体Bの製造工程を図2に基づいて説明する。図2(a)に示すように超電導線材1の両面は補強材2により補強されており、本製造工程においては、まず、図2(b)に示すように補強材2の段剥ぎ処理によって超電導線材1の端部を露出させる。 【0023】 具体的には、例えば半田ごてにより補強材2を外側から加熱しながら補強材2を剥がし、剥がした補強材2をカッターで切断することにより超電導線材1の露出部3を形成する。 【0024】 次に、図2(c)に示すように2つの超電導線材1の露出部3を半田層2aを挟んで重ね合わせ、この状態で加熱することにより2つの超電導線材1の端部同士を接続する。 【0025】 そして、図1に示すように露出部3の重なり部分の外側を半田材料により被覆し、その上から柔軟なシート状の接続補強材4を被覆し、接続補強材4の両端部を露出部3近傍の補強材2の切断端部に重ね合わせて半田材料により貼り付けることにより接続構造体Bを作製する。 【0026】 このように、超電導線材1の接続構造体Bは、銅合金の補強材2を剥がし、高強度のシート状のSUS製の接続補強材を配置する構成であるため、超電導線材1の接続部分の柔軟性を発揮させる一方、十分な強度を確保することができるものである。」 3 引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、超電導線材の接続構造体および超電導線材の接続構造体の製造方法に関する。」 「【0033】 <第2実施形態> 第2実施形態の接続構造体31について説明する。 図2は、接続構造体31を示す断面模式図である。第2実施形態の接続構造体31は、の基本構造は、第1実施形態の接続構造体30と同様である。接続構造体31は、短尺の酸化物超電導線材1Aが一対の酸化物超電導線材1を橋渡しするように配置されている。また、接続構造体31は、接続部5を含む酸化物超電導線材1の外周が金属テープ15により覆われている。 なお、上述の第1実施形態と同一態様の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略する。」 第6 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明1の「超電導成膜用基材1」、「酸化物超電導導体層3」、及び「第一と第二の超電導線材10A、10B」は、それぞれ本願発明1の「基板」、「超電導層」、及び「複数の接続線材」に相当する。 イ 引用発明1の「第一と第二の超電導線材10A、10Bを接続する」ことは、本願発明1の「前記複数の接続線材が接続され」ることに相当する。 ウ 引用発明1は、「第一及び第二の超電導線材10A、10Bの接続部の外周の表面に対して、電解めっき法で銅安定化層5を再び形成し」ているから、「第一と第二の超電導線材10A、10B」の接続部は、電解めっき層である「銅安定化層5」により被覆されている。 そうすると、引用発明1は、本願発明1の「前記複数の接続線材の接続部が銅の安定化メッキ層により被覆され」ることと同様の構成を備えているといえる。 エ 引用発明1の、「第一及び第二の超電導線材10A、10Bの接続部の外周の表面に対して」、再び形成された「銅安定化層5」は、「電解めっき法」により形成されているから、「第一及び第二の超電導線材10A、10Bの接続部」を連続して被覆しているといえ、かつ「第一及び第二の超電導線材10A、10B」の長手方向の端面を被覆しているといえる。 そうすると、引用発明1の「第一と第二の超電導線材10A、10B」の接続部を被覆する「銅安定化層5」は、本願発明1の「前記接続部を連続して被覆しており、かつ前記複数の接続線の長手方向の端面を被覆して」いる「安定化メッキ層」に相当する。 オ 引用発明1の「超電導線材の接続構造100」は、本願発明1の「超電導線材の接続構造体」に対応する。 カ そうすると、本願発明1と引用発明1の間には、次の一致点、相違点があるといえる。 [一致点] 「基板上に超電導層を有する複数の接続線材を備え、 前記複数の接続線材が接続され、 前記複数の接続線材の接続部が銅の安定化メッキ層により被覆され、 前記安定化メッキ層は、前記接続部を連続して被覆しており、かつ前記複数の接続線材の長手方向の端面を被覆している、 超電導線材の接続構造体。」 [相違点1] 本願発明1は、「前記複数の接続線材がそれぞれ有する前記超電導層は、直接接触している」のに対して、引用発明1は、対応する構成を備えていない点。 (2)相違点についての当審判断 相違点1について検討すると、相違点1に係る本願発明1の「前記複数の接続線材がそれぞれ有する前記超電導層は、直接接触している」構成は、上記引用文献1〜3には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。 したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2について 本願発明2も、本願発明1の「前記複数の接続線材がそれぞれ有する前記超電導層は、直接接触している」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 3 本願発明3について (1)対比 本願発明3と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明2の「超電導成膜用基材1」、「酸化物超電導導体層3」、及び「第一と第二の超電導線材10A、10B」は、それぞれ本願発明3の「基板」、「超電導層」、及び「複数の接続線材」に相当する。 イ 引用発明2の「第一と第二の超電導線材10A、10Bの接続端部の銅安定化層5を除去し、露出した金属保護層4の一部を線材本体101の全幅に渡って、超電導導体3が完全に露出する深さまで、矩形に除去」することは、本願発明3の「前記超電導層が露出されている、前記複数の接続線材を準備」することに相当する。 ウ 引用発明2の「第一と第二の超電導線材10A、10Bの金属保護層4、4を互いに対向させると共に、線材長手方向Lについて互いの堆積層31t、31tを位置合わせして密着させ」ることと、本願発明3の「前記複数の接続線材を、露出した前記超電導層が互いに接するように重ね合わせ」ることは、「前記複数の接続線材を、重ね合わせ」る点で共通する。 オ 引用発明2の再び形成された「銅安定化層5」は、「第一及び第二の超電導線材10A、10Bの接続部の外周の表面に対して、電解めっき法で」形成されたものであるから、「第一及び第二の超電導線材10A、10Bの接続部」及び「第一及び第二の超電導線材10A、10B」の長手方向の端面を被覆しているといえる。 また、この「銅安定化層5」は、「第一と第二の超電導線材10A、10B」の間に連続して形成されているといえる。 そうすると、引用発明2の「第一及び第二の超電導線材10A、10Bの接続部の外周の表面に対して、電解めっき法で銅安定化層5を再び形成する」ことは、本願発明3の「前記複数の接続線材の接続部及び長手方向の端面を銅の安定化メッキ層により被覆し、前記複数の接続線材の間に連続して前記安定化メッキ層を形成する」ことに相当する。 カ 引用発明2の「超電導線材10を接続する方法」は、本願発明3の「超電導線材の接続構造体の製造方法」に対応する。 ク そうすると、本願発明3と引用発明2の間には、次の一致点、相違点があるといえる。 [一致点] 「基板上に超電導層を有する複数の接続線材が接続された超電導線材の接続構造体の製造方法であって、 前記超電導層が露出されている、前記複数の接続線材を準備し、 前記複数の接続線材を、重ね合わせ、 前記複数の接続線材の接続部及び長手方向の端面を銅の安定化メッキ層により被覆し、前記複数の接続線材の間に連続して前記安定化メッキ層を形成する、 超電導線材の接続構造体の製造方法。」 [相違点2] 「前記複数の接続線材を、重ね合わせ」ることについて、本願発明3は、「前記複数の接続線材を、露出した前記超電導層が互いに接するように重ね合わせ」ているのに対して、引用発明2は、そのようになっていない点。 (2)相違点についての当審判断 相違点2について検討すると、相違点2に係る本願発明3の「前記複数の接続線材を、露出した前記超電導層が互いに接するように重ね合わせ」ることは、上記引用文献1〜3には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。 したがって、本願発明3は、当業者であっても、引用発明2及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 4 本願発明4について 本願発明4も、本願発明3と同様に、「前記複数の接続線材を、露出した前記超電導層が互いに接するように重ね合わせ」るものであるから、本願発明3と同じ理由により、当業者であっても、引用発明2及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 第7 原査定についての判断 令和5年3月14日にされた手続補正により、補正後の請求項1、2は、「前記複数の接続線材がそれぞれ有する前記超電導層は、直接接触している」という技術的事項を有し、また、補正後の請求項3、4は、「前記複数の接続線材を、露出した前記超電導層が互いに接するように重ね合わせ」るという技術的事項を有するものとなった。 当該「前記複数の接続線材がそれぞれ有する前記超電導層は、直接接触している」こと、及び「前記複数の接続線材を、露出した前記超電導層が互いに接するように重ね合わせ」ることは、原査定における引用文献1〜3には記載されておらず、本願優先日前における周知技術でもないので、本願発明1〜4は、当業者であっても、原査定における引用文献1〜3に基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。 第8 当審拒絶理由について 1 当審拒絶理由1について (1)(新規性)特許法第29条第1項第3号について 令和5年3月14日にされた手続補正により補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 (2)(進歩性)特許法第29条第2項について 令和5年3月14日にされた手続補正により補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 2 当審拒絶理由2について 令和5年3月14日にされた手続補正により、特許請求の範囲の請求項3の記載が補正された結果、請求項3、4の記載が明確でないとの拒絶の理由は解消した。 第9 むすび 以上のとおり、原査定及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2023-04-12 |
出願番号 | P2020-504061 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(H01B)
P 1 8・ 121- WY (H01B) P 1 8・ 113- WY (H01B) |
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
瀧内 健夫 |
特許庁審判官 |
鈴木 聡一郎 小田 浩 |
発明の名称 | 超電導線材の接続構造体および超電導線材の接続構造体の製造方法 |
代理人 | 清水 雄一郎 |
代理人 | 片岡 央 |
代理人 | 及川 周 |
代理人 | 丹野 拓人 |