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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M |
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管理番号 | 1397670 |
総通号数 | 18 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2023-06-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2022-01-12 |
確定日 | 2023-05-11 |
事件の表示 | 特願2017−130574「積層膜ロールおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月31日出願公開、特開2019− 16436〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成29年7月3日の出願であって、令和3年3月11日付けで拒絶理由が通知され、令和3年5月14日に手続補正がされたが、令和3年10月5日付けで拒絶査定がされ、これに対し、令和4年1月12日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において、令和4年12月5日付けで拒絶理由が通知され、令和5年2月3日に手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし13に係る発明は、令和5年2月3日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである(下線は、令和5年2月3日の手続補正によって補正された箇所を示す。)。 「【請求項1】 円筒形状のコアと、前記コアに巻き付けられた積層膜とからなり、 前記積層膜の巻き取り長さが、2000m以上20000m以下であり、 幅方向の最大外径と最小外径との差△R1が、0.05〜1.5mmであり、 前記積層膜が、ポリオレフィン微多孔フィルムと、その表面に形成された無機粒子を含有する無機粒子層とを有し、 前記ポリオレフィン微多孔フィルムは、ポリエチレン層を中間層とし、ポリプロピレン層を外層とした三層構造であり、前記ポリプロピレン層は、重量平均分子量が50万以上のポリプロピレンにより構成されており、前記コアとして、側面の円筒度が0.2mm以下のコアを用いたことを特徴とする積層膜ロール。」 第3 当審における拒絶の理由の概要 当審において、令和4年12月5日付けで通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。 「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項1ないし3 ・引用文献1、及び、引用文献7、引用文献8 ・請求項4、5、10、11 ・引用文献1、及び、引用文献7、引用文献8、引用文献2 ・請求項6ないし9、12、13 ・引用文献1、及び、引用文献7、引用文献8、引用文献2、引用文献3 <引用文献等一覧> 1.特開2016−197505号公報 2.国際公開第2011/129169号 3.特表2017−517834号公報 7.特開2016−23255号公報 8.特開平09−219184号公報 」 第4 引用文献 1 引用文献1について (1)引用文献1に記載された事項 引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。 「【0001】 本発明は捲回体に関する。」 「【0009】 本発明によれば、しわの発生が抑制された捲回体を提供することができる。」 「【0016】 〔セパレータ〕 本実施形態に用いるセパレータは、基材と、該基材の少なくとも一方の面に熱可塑性ポリマーを含む部分と熱可塑性ポリマーを含まない部分とが海島状に存在する熱可塑性ポリマー層と、を有する。 【0017】 〔基材〕 基材としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン微多孔膜、並びに、ポリオレフィン微多孔膜及び該ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の面に配される無機層を備えるものが挙げられる。」 「【0028】 (無機層) 無機層としては、特に限定されないが、例えば、無機フィラーと樹脂製バインダを含むものが挙げられる。」 「【0046】 〔熱可塑性ポリマー層〕 熱可塑性ポリマー層は、基材の少なくとも一方の面に熱可塑性ポリマーを含む部分と熱可塑性ポリマーを含まない部分とが海島状に存在する層である。より具体的には、熱可塑性ポリマー層2は、セパレータの巻長方向に隣り合う2つの島状部3を選び、2つの島状部3の中心をそれぞれ第1の中心及び第2の中心とするとき、第1の中心と第2の中心とを通る線lと、セパレータの巻長方向に並行な線mとが交差する島状部が存在する層である(図1(a),(b)参照)。」 【図1】 「【0088】 〔セパレータの製造方法〕 (基材の製造方法) 基材を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、公知の製造方法を採用することができる。・・・(省略)・・・ことにより多孔化させる方法等が挙げられる。このようにして得られた樹脂組成物の成形体を以下「多孔膜」とも呼ぶ。 【0089】 (無機層の形成方法) 基材が無機層を有する場合において、無機層の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーと樹脂製バインダとを含む塗布液を塗布して無機層を形成する方法を挙げることができる。」 「【0098】 〔捲回体の製造方法〕 以上のようにして得られたセパレータを、巻回することにより捲回体を製造することができる。 【0099】 〔第2の実施態様〕 〔捲回体〕 本実施形態の第2の実施態様に係る捲回体は、 セパレータが巻回される捲回体であって、 セパレータは、基材と、該基材の少なくとも一方の面に熱可塑性ポリマーを含む部分と熱可塑性ポリマーを含まない部分とが海島状に存在する熱可塑性ポリマー層と、を有し、6インチの管に、セパレータを500m巻き取った時の、捲回体の外径差の最大値が0.5mm以下である。 【0100】 第2の実施態様に係る捲回体において、以下の態様以外については上記第1の実施態様と同様の態様であってもよい。 【0101】 図2に第2の実施態様に係る捲回体を説明する概略図を示す。捲回体6の外径の差の最大値は、0.5mm以下であり、0.3mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましい。図2に示されるように、外径の差の最大値(Rmax−Rmin)が0.5mm以下であれば、捲回体に捲回されたセパレータにしわが発生することを抑制することができる。 【0102】 外径差を測定する場合のセパレータ幅は、製品としてしようされる幅であれば良いため。特に限定されないが、一般的には20mm以上1500mm以下である。 【0103】 セパレータを巻く管の直径は、製品としてしようされる直径であれば良いため、特に限定されないが、2インチ以上が好ましく、より好ましくは3インチ以上、さらに好ましくは6インチ以上である。管の直径を大きくするほど、捲回数が少なくなり、外径差が小さくなるため好ましい。 【0104】 セパレータの巻長は、特に限定されないが、電池を作製する場合の生産性の観点から、300m以上が好ましく、より好ましくは400m以上、さらに好ましくは500m以上である。」 「【0110】 より具体的には、本実施形態のセパレータを幅10〜500mm(好ましくは80〜500mm)、長さ200〜4000m(好ましくは1000〜4000m)の縦長形状のセパレータとして作製し、当該セパレータを、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は負極−セパレータ−正極−セパレータの順で重ね、必要に応じて加熱及び/又はプレスして製造することができる。」 「【0137】 (18)外径差の測定 作製したセパレータ捲回体の外径差は、LSM902/6900(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。幅400mm、直径6インチのプラスチック管に、作製したセパレータ(300mm幅)を巻取り張力8Nで500m巻き、セパレータ捲回体を作製した。セパレータ捲回体を図5のようにセットし、光源、受光部膜幅方向に50mm/secで移動させ、セパレータ捲回体の幅方向の外径の最大値と最小値を測定し、外径の最大値と最小値の差から外径差を算出した。」 【図2】 「【0151】 [製造例1−2A](ポリオレフィン微多孔膜2Aの製造) 水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.0μm)を96.0質量部とアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、最低成膜温度0℃以下)4.0質量部、ポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468)1.0質量部を100質量部の水に均一に分散させて塗布液を調製し、ポリオレフィン樹脂多孔膜1Aの表面にマイクログラビアコーターを用いて塗布した。60℃にて乾燥して水を除去し、多孔層を2μmの厚さで形成して、ポリオレフィン微多孔膜2Aを得た。得られたポリオレフィン微多孔膜2Aを製造例1−1Aと同様に上記方法により評価した。得られた結果を表1に示す。」 【表1】 (2)引用文献1に記載された技術事項 ア 段落【0017】、【0028】より、「基材」は、「ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の面に配される無機層を備え」、「無機層としては、」「無機フィラーと樹脂製バインダを含む」との技術事項を読み取ることができる。 イ 段落【0099】、【0101】より、「セパレータが巻回される捲回体であって、」「セパレータは、基材と、該基材の少なくとも一方の面に熱可塑性ポリマーを含む部分と熱可塑性ポリマーを含まない部分とが海島状に存在する熱可塑性ポリマー層と、を有し、6インチの管に、セパレータを500m巻き取った時の、捲回体の外径差の最大値が0.5mm以下であ」り、「外径の差の最大値(Rmax−Rmin)が0.5mm以下であれば、捲回体に捲回されたセパレータにしわが発生することを抑制することができる。」との技術事項を読み取ることができる。 ウ 段落【0104】より、「セパレータの巻長は、」「電池を作製する場合の生産性の観点から、」「500m以上である」との技術事項を読み取ることができる。 エ 段落【0151】及び【表1】より、「ポリオレフィン微多孔膜」に塗布する塗布液の無機フィラーとして「水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.0μm)」を用いた場合、外径差が「0.2mm」であることを読み取ることができる。 (3)引用文献1に記載された発明 上記(2)アないしエより、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「セパレータが巻回される捲回体であって、セパレータは、基材と、該基材の少なくとも一方の面に熱可塑性ポリマーを含む部分と熱可塑性ポリマーを含まない部分とが海島状に存在する熱可塑性ポリマー層と、を有し、6インチの管に、セパレータを500m巻き取った時の、捲回体の幅方向の外径の最大値と最小値の差である捲回体の外径差の最大値(Rmax−Rmin)が0.5mm以下であり、外径差の最大値が0.5mm以下であれば、捲回体に捲回されたセパレータにしわが発生することを抑制することができ、 ここで、基材は、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の面に配される無機層を備え、無機層としては、無機フィラーと樹脂製バインダを含むものであり、 無機フィラーとして水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.0μm)を用いた場合、外径差が0.2mmである、 捲回体。」 2 引用文献7について (1)当審で引用した引用文献7には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。 「【0011】 ・・・(省略)・・・なお、上記の本実施形態における多孔性フィルムは電池セパレータとして好適に用いられる。すなわち、本実施形態の多孔性フィルム捲回物において、多孔性フィルムが電池セパレータであることが好ましい。」 「【0014】 本実施形態の多孔性フィルム捲回物の外径の最大値と最小値の差は、0.5mm以下である。上記外径の最大値と最小値の差は、0.01mm以上0.5mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05mm以上0.5mm以下である。上記範囲内であると良好な繰り出し性を得ることができる。」 「【0033】 [実施例2] ポリプロピレン樹脂(MFR0.5、密度0.91)を口径30mm、L/D=30、200℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、また、ポリエチレン樹脂(MI0.3、密度0.95)を口径30mm、L/D=30、180℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、ポリプロピレン樹脂を表層、ポリエチレン樹脂を中間層とした、押出機先端に設置したリップ厚3.0mmの2種3層共押出Tダイ(200℃)から押し出した。その後直ちに、溶融した樹脂にエアナイフを用いて25℃の冷風を当て、95℃に設定したキャストロールでドロー比200、巻き取り速度20m/分の条件で巻き取り、3層積層フィルムを成形した。 【0034】 得られた3層積層フィルムを、125℃に加熱された熱風循環オ−ブン中で1時間アニールを施した。次に、アニール後の3層積層フィルムを25℃の温度で縦方向に1.3倍で一軸延伸して、延伸積層フィルムを得た。次いで、延伸積層フィルムを125℃の温度で縦方向に2.5倍で一軸延伸して、130℃で熱固定を行い、第1の多孔層と第2の微多孔層とが積層された積層多孔性フィルムを得た。得られた積層多孔性フィルムを、500mmの幅にスリットし、多孔性フィルム捲回物とした。得られた多孔性フィルム捲回物の評価結果を表1に示す。」 【表1】 (2)引用文献7に記載された技術について 上記(1)より、引用文献7には、次の技術(以下、「引用文献7に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。 「ポリプロピレン樹脂を表層、ポリエチレン樹脂を中間層とした3層積層フィルムを成形し、得られた3層積層フィルムを延伸して、第1の多孔層と第2の微多孔層とが積層された積層多孔性フィルムを得、得られた積層多孔性フィルムを多孔性フィルム捲回物とし(段落【0033】、【0034】)、 多孔性フィルム捲回物の外径の最大値と最小値の差は、0.5mm以下であると良好な繰り出し性を得ることができ(段落【0014】)、 多孔性フィルムは電池セパレータとして用いられる(段落【0011】)」技術。 3 引用文献8について 当審で引用した引用文献8には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。 「【0014】すなわち、本発明者らは、上記課題を解決するために、電池用セパレータの構成およびその形成材料や物性等について一連の研究を行った。その結果、多孔質積層フィルムを構成する層として、重量平均分子量が50万以上の多孔質高分子量ポリプロピレン層を形成すると、電池用セパレータの機械的強度が充分なものとなり、かつ耐熱温度も高くなることを突き止めた。」 「【0019】そして、上記本発明の電池用セパレータにおいて、表面層に高強度の層を設置したほうが電池組み込み時等における膜(電池用セパレータ)の損傷を防止するのに有利であるという理由から、上記多孔質積層フィルムが三層以上の積層構造を有し、この多孔質積層フィルムの表面層が、重量平均分子量が50万以上の多孔質高分子量ポリプロピレン層であることが好ましい。」 「【発明の実施の形態】つぎに、本発明の電池用セパレータを具体的に説明する。 【0026】本発明の電池用セパレータにおける上記重量平均分子量が50万以上の多孔質高分子量ポリプロピレン層は、主として、電池用セパレータの機械的強度を確保し、かつ電池内部温度が上昇しても電池用セパレータのセパレータ形状(フィルム形状)を保持するものである。この多孔質層一層の厚みは、通常2〜50μmであり、好ましくは5〜30μmである。 【0027】また、上記融点が100〜140℃の範囲の材料を含有する多孔質層における上記材料としては、例えば、高密度PE,中密度PE,低密度PE等のポリエチレン(PE)やポリブテンがあげられる。」 「【0032】つぎに、本発明の電池用セパレータの積層構造は、特に限定するものではなく、例えば、図1に示すような構造があげられる。すなわち、(1)上記多孔質高分子量ポリプロピレン層1の片面に融点100〜140℃の材料を含有する多孔質層2を設ける構造(同図(a))、(2)上記多孔質高分子量ポリプロピレン層1の両面に融点100〜140℃の材料を含有する多孔質層2を設ける構造(同図(b)),(3)融点100〜140℃の材料を含有する多孔質層2の両面に多孔質高分子量ポリプロピレン層1を設ける構造(同図(c))等がある。これらのなかで、上記(3)の積層構造が、電池用セパレータの機械的強度的が高くなるので好ましい。」 上記記載を総合すると、引用文献8には、次の技術が記載されているものと認められる。 「電池用セパレータを、ポリエチレン(PE)の多孔質層の両面に、重量平均分子量が50万以上の多孔質高分子量ポリプロピレン層を設けた積層構造とすることで、電池用セパレータの機械的強度及び耐熱温度を高める」技術。 第5 対比・判断 1 対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 (ア)引用発明1における「6インチの管」が、本願発明1における「円筒形状のコア」に相当する。 (イ)引用発明1における「6インチの管に」「捲回されたセパレータ」は、その「基材」が「ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の面に配される無機層を備え」ているから、積層膜と言え、本願発明1における「前記コアに巻き付けられた積層膜」に相当する。 (ウ)積層膜の巻き取り長さが、本願発明1では「2000m以上20000m以下であ」るのに対し、引用発明1では、「500m」である点で相違する。 (エ)引用発明1における「捲回体の幅方向の外径の最大値と最小値の差である捲回体の外径差」が、本願発明1における「幅方向の最大外径と最小外径との差△R1」に相当する。 (オ)引用発明1における上記「外径差」の「最大値が0.5mm以下であり」、「無機フィラーとして水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.0μm)を用いた場合、外径差が0.2mmである」ことは、本願発明1における上記「差△R1」が「0.05〜1.5mmであ」るとの条件を満たしている。 (カ)引用発明1における「ポリオレフィン微多孔膜」、「無機フィラー」、「無機層」が、それぞれ本願発明1における「ポリオレフィン微多孔フィルム」、「無機粒子」、「無機粒子層」に相当し、引用発明1における「基材は、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の面に配される無機層を備え、無機層としては、無機フィラーと樹脂製バインダを含むものである」ことが、本願発明1における「前記積層膜が、ポリオレフィン微多孔フィルムと、その表面に形成された無機粒子を含有する無機粒子層とを有」することに相当する。 (キ)ポリオレフィン微多孔フィルムが、本願発明1では「ポリエチレン層を中間層とし、ポリプロピレン層を外層とした三層構造であり、前記ポリプロピレン層は、重量平均分子量が50万以上のポリプロピレンにより構成され」ているのに対し、引用発明1では、そのような構成は示されていない点で相違する。 (ク)上記(ア)を踏まえると、コアとして、本願発明1では「側面の円筒度が0.2mm以下のコアを用い」ているのに対し、引用発明1では、そのような構成が示されていない点で相違する。 よって、上記(ア)ないし(ク)より、本願発明1と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりのものであると認められる。 (一致点) 「円筒形状のコアと、前記コアに巻き付けられた積層膜とからなり、 幅方向の最大外径と最小外径との差△R1が、0.05〜1.5mmであり、 前記積層膜が、ポリオレフィン微多孔フィルムと、その表面に形成された無機粒子を含有する無機粒子層とを有することを特徴とする積層膜ロール。」 (相違点1) 積層膜の巻き取り長さが、本願発明1では「2000m以上20000m以下であ」るのに対し、引用発明1では、「500m」である点。 (相違点2) ポリオレフィン微多孔フィルムが、本願発明1では「ポリエチレン層を中間層とし、ポリプロピレン層を外層とした三層構造であり、前記ポリプロピレン層は、重量平均分子量が50万以上のポリプロピレンにより構成され」ているのに対し、引用発明1では、そのような構成は示されていない点。 (相違点3) コアとして、本願発明1では「側面の円筒度が0.2mm以下のコアを用い」ているのに対し、引用発明1では、そのような構成が示されていない点。 2 判断 上記相違点について検討する。 (1)相違点1について 引用文献1の段落【0104】に「セパレータの巻長は、特に限定されないが、電池を作製する場合の生産性の観点から、・・・(省略)・・・さらに好ましくは500m以上である。」と記載され、また、引用文献1の段落【0110】に「より具体的には、本実施形態のセパレータを幅10〜500mm(好ましくは80〜500mm)、長さ200〜4000m(好ましくは1000〜4000m)の縦長形状のセパレータとして作製し」と記載されていることから、引用発明1における「セパレータ」の「巻き取」る長さを、例えば引用文献1の段落【0110】に上限として例示された「4000m」程度とし、上記相違点1に係る本願発明1の条件を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たことである。 (2)相違点2について 引用文献8には「電池用セパレータを、ポリエチレン(PE)の多孔質層の両面に、重量平均分子量が50万以上の多孔質高分子量ポリプロピレン層を設けた積層構造とすることで、電池用セパレータの機械的強度及び耐熱温度を高める」技術が示されている。 引用発明1においても、セパレータの機械的強度及び耐熱温度を高めることが望ましいことはいうまでもないことであるから、引用発明1において、引用文献8に記載された技術を適用し、引用発明1における「ポリオレフィン微多孔膜」(セパレータ)として、「ポリエチレン(PE)の多孔質層の両面に、重量平均分子量が50万以上の多孔質高分子量ポリプロピレン層を設けた積層構造」のものを用い、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 なお、引用文献7に記載された技術には「ポリプロピレン樹脂を表層、ポリエチレン樹脂を中間層とした3層積層フィルム」を用いて「多孔性フィルム捲回物の外径の最大値と最小値の差」を「0.5mm以下」にすることが示されているように、引用発明1に引用文献8に記載された技術を適用して、引用発明1における「ポリオレフィン微多孔膜」(セパレータ)を「ポリエチレン(PE)の多孔質層の両面に、重量平均分子量が50万以上の多孔質高分子量ポリプロピレン層を設けた積層構造」としても、セパレータ巻回体の「外径差」の「最大値」は、依然として「0.5mm以下」とすることができるものと認められる。 (3)相違点3について 例えば、特開2008−138103号公報の段落【0022】に「巻取コアの円筒度も、0.20mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.15mm以下である。振れ、円筒度がかかる範囲を満たさない場合、フィルムを巻き取る際にしわなどが発生しやすくなるために好ましくない。」と記載されているとおり、巻き取るフィルムにしわなどが発生するのを防ぐために巻取コアの円筒度を0.20mm以下とすることは周知の事項であって、しかも、円筒度が0.20mm以下の巻取コアは、本願の出願前に既に市販されているものである(必要であれば、上記特開2008−138103号公報の段落【0057】に「円筒度が0.05mm・・(省略)・・・の繊維強化プラスチック(FWP)コアA(天龍工業(株)製FWP10)」と記載されている点、及び、2015年3月3日にキャプチャされたインターネット・アーカイブ<URL:https://web.archive.org/web/20150303145816/http://www.kurimoto.co.jp/product/item/j10/products-10..php>に掲載された「クリカFRPコア[R]」(登録商標の記号を[R]と記載した。)について、「仕様」における「円筒度」の項目に、次のとおり「0.15mm」と記載されている点を参照。)。 これらのことを踏えると、引用発明1においても、6インチの管を円筒度が0.2mm以下のものとし、相違点3に係る構成とすることは当業者であれば普通になし得たことである。 (4)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明1の奏する作用効果は、引用発明1、引用文献7、8に記載された技術、及び周知の事項から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 3 まとめ 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献7、引用文献8に記載された技術、及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび したがって、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2023-03-08 |
結審通知日 | 2023-03-14 |
審決日 | 2023-03-30 |
出願番号 | P2017-130574 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01M)
|
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
井上 信一 |
特許庁審判官 |
清水 稔 畑中 博幸 |
発明の名称 | 積層膜ロールおよびその製造方法 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 田▲崎▼ 聡 |
代理人 | 荒 則彦 |