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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G09C
管理番号 1398148
総通号数 18 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-10-18 
確定日 2023-05-30 
事件の表示 特願2020−547531「変換装置、変換方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 3月26日国際公開、WO2020/059063、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)9月20日を国際出願日とする特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和4年 1月31日付け:拒絶理由通知書
令和4年 3月16日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 8月 2日付け:拒絶査定(原査定)
令和4年10月18日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和4年12月23日 :前置報告書

第2 原査定の概要
原査定(令和4年8月2日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし12に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:ZHANG, Yihua et al.,PICCO: A General-Purpose Compiler for Private Distributed Computation,The Proceedings of the 2013 ACM SIGSAC Conference on Computer and Communications Security (CCS'13),ACM,2013年11月04日,pp. 813-825

第3 審判請求時の補正について
上記前置報告書において、令和4年10月18日に審判請求書と同日に提出された手続補正書に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)について、以下のような報告がなされている。(なお、下線は前置報告書にひかれたとおりである。)

「 本件手続補正は、補正前の請求項1に「入力関数、出力関数の変換処理に関する規則および、パラメータや型に関する変換処理に関する規則が含まれる設定情報を記憶している記憶部と、」という発明特定事項を追加して、補正前の請求項1の「複数の秘密計算サーバに実行させる秘密計算に関する設定情報に基づき、前記入力されたソースコードを秘密計算コンパイラが処理可能な秘密計算専用コードに変換するよう構成され」を「前記入力されたソースコードを前記設定情報に記載されている規則に従って秘密計算コンパイラが処理可能な秘密計算専用コードに変換するよう構成され」として、補正後の請求項1とする補正(以下、本件補正という)を含むものである。
そうすると、本件補正は、実質的に、補正前の請求項1の「複数の秘密計算サーバに実行させる秘密計算に関する設定情報に基づき、前記入力されたソースコードを秘密計算コンパイラが処理可能な秘密計算専用コードに変換するよう構成され」を「前記入力されたソースコードを入力関数、出力関数の変換処理に関する規則および、パラメータや型に関する変換処理に関する規則が含まれる設定情報に記載されている規則に従って秘密計算コンパイラが処理可能な秘密計算専用コードに変換するよう構成され」とする補正を含むから、本件補正は、「設定情報」が「複数の秘密計算サーバに実行させる秘密計算に関する」ものである点を特定する記載を削除する補正を含むといえる。
また、「前記入力されたソースコードを入力関数、出力関数の変換処理に関する規則および、パラメータや型に関する変換処理に関する規則が含まれる設定情報に記載されている規則に従って秘密計算コンパイラが処理可能な秘密計算専用コードに変換する」処理が、「複数の秘密計算サーバに実行させる秘密計算に関する設定情報に基づき、前記入力されたソースコードを秘密計算コンパイラが処理可能な秘密計算専用コードに変換する」処理を、概念的に、より下位としたものであるともいえない。
したがって、本件補正は、発明特定事項を限定する補正であるといえない。
また、補正後の請求項1に記載された発明の範囲は、補正前の請求項11に記載された発明の範囲を減縮したものであるともいえない。
したがって、本件補正は、補正前の請求項1について、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではないから、特許法第17条の2第5項第2号に記載された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また、本件補正は、請求項を削除するものではなく、誤記を訂正するものでもなく、拒絶の理由についてする明りょうでない記載を釈明するものでもないから、特許法第17条の2第5項第1号、第3号、第4号のいずれにも該当しない。」

以下、本件補正が適法になされたものであるか否かについて検討する。
請求項1に係る本件補正は、請求項1に「入力関数、出力関数の変換処理に関する規則および、パラメータや型に関する変換処理に関する規則が含まれる設定情報を記憶している記憶部と、」との事項を付加するとともに、本件補正前の請求項1に記載されていた「複数の秘密計算サーバに実行させる秘密計算に関する設定情報に基づき、前記入力されたソースコードを秘密計算コンパイラが処理可能な秘密計算専用コードに変換する」を「前記入力されたソースコードを前記設定情報に記載されている規則に従って秘密計算コンパイラが処理可能な秘密計算専用コードに変換する」に変更する補正とからなる。ここで、本件補正後の請求項1に記載の「前記設定情報」とは、「入力関数、出力関数の変換処理に関する規則および、パラメータや型に関する変換処理に関する規則が含まれる設定情報」を指している。
また、本件補正後の請求項1の「前記入力されたソースコードを前記設定情報に記載されている規則に従って秘密計算コンパイラが処理可能な秘密計算専用コードに変換する」において、「前記設定情報」である「入力関数、出力関数の変換処理に関する規則および、パラメータや型に関する変換処理に関する規則が含まれる設定情報」は、「秘密計算専用コード」に変換するために使用されるものであるところ、「秘密計算」に関する「設定情報」であることは自明である。
加えて、本願明細書の【0002】には、本願の背景技術として「秘密計算(秘密分散型計算)では、複数のパーティ(秘密計算サーバ)がそれぞれの持つ秘密情報を隠しながら当該秘密情報を用いた種々の計算を行う。」と記載されていることから、本願において、「秘密計算」は「複数の秘密計算サーバ」に実行させるものであることは当然の前提といえる。
したがって、請求項1に係る本件補正は、「変換装置」の構成を、「記憶部」を含むものに限定すると共に、「複数の秘密計算サーバに実行させる秘密計算に関する設定情報」を、「秘密計算」が「複数の秘密計算サーバ」に実行させるものであることを前提として「入力関数、出力関数の変換処理に関する規則および、パラメータや型に関する変換処理に関する規則が含まれる設定情報」に限定するものであるから、特許法第17条の2第5項の「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また、請求項1に係る本件補正は、他の補正の要件に違反しているともいえない。
請求項11及び12に係る本件補正についても同様である。
したがって、本件補正は、適法になされたものである。

第4 本願発明
本願請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明12」という。)は、令和4年10月18日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される発明であり、このうち本願発明1は以下のとおりの発明である。

「 ソースコードを入力する、入力部と、
入力関数、出力関数の変換処理に関する規則および、パラメータや型に関する変換処理に関する規則が含まれる設定情報を記憶している記憶部と、
変換部を備え、
前記変換部は、メモリに記憶されたプログラムに基づき、プロセッサを介して、
前記入力されたソースコードを前記設定情報に記載されている規則に従って秘密計算コンパイラが処理可能な秘密計算専用コードに変換するよう構成され、
ユーザ装置及び秘密計算サーバにデータの送受信可能に接続可能である、変換装置。」

なお、本願発明2ないし9は、本願発明1を減縮するものであり、本願発明10は、本願発明1を方法の発明として特定したものであり、本願発明11は、本願発明1をプログラムの発明として特定したものである。

第5 引用文献、引用発明
1 引用文献1記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は、強調のため当審が付与した。(これ以降の下線についても同様。)

(1)第813ページ左欄〜同右欄
「1. INTRODUCTION
This work is motivated by the broad goal of developing techniques suitable for secure and general data processing and outsourcing. The desire to compute on sensitive data without having to reveal more information about the data than necessary has led to several decades of research in the area of secure multi-party computation (SMC). Today, cloud computing serves as a major motivation for the development of secure data processing techniques suitable for use in outsourced environments. This is because security and privacy considerations are often cited as one of the top impediments to harnessing the benefits of cloud computing to the fullest extent. Despite the sheer volume of research literature on privacy-preserving computation and newly appearing secure outsourcing techniques, most of the available techniques focus on a rather narrow domain, namely, integer-based arithmetic. Little or no attention has been paid to other types of computation, as well as to data structures and algorithms suitable for secure data processing in not fully trusted environments. With the recent progress in the performance of basic secure computation techniques and the shift toward cloud computing, we believe that it is the prime time to enable privacy-preserving execution of any functionality or program, or general-purpose secure data processing. Toward this goal, this work introduces PICCO (Private dIstributed Cmputation COmpiler) - a system for translating a general-purpose program for computing with private data into its secure implementation and executing the program in a distributed environment. The main component of PICCO is a source-to-source compiler that translates a program written in an extension of the C programming language with provisions for annotating private data to its secure distributed implementation in C. The resulting program can consequently be compiled by the native compiler and securely run by a number of computational nodes in the cloud or similar environment. Besides the compiler, PICCO includes programs that aid secure execution of user programs in a distributed environment by preprocessing private inputs and recovering outputs at the end of the computation.

(当審訳)
「1.はじめに
この研究は、安全で一般的なデータ処理とアウトソーシングに適した技術を開発するという広い目標に動機づけられている。データに関する情報を必要以上に公開することなく、機密性の高いデータを計算したいという要望から、秘密マルチパーティ計算(SMC)の分野で数十年にわたる研究が行われてきた。今日、クラウドコンピューティングは、アウトソーシング環境での使用に適した安全なデータ処理技術の開発の主要な動機となっている。これは、クラウドコンピューティングの利点を最大限に活用する上で、セキュリティとプライバシーへの配慮がしばしば最大の阻害要因として挙げられるからだ。プライバシー保護計算や新しく登場した安全なアウトソーシング技術に関する研究文献は非常に多いにもかかわらず、利用可能な技術のほとんどは、整数ベースの算術というかなり狭い領域に焦点を当てている。他の種類の計算や、完全には信頼されていない環境での安全なデータ処理に適したデータ構造やアルゴリズムについては、ほとんど、あるいは全く注目されていない。近年、セキュアな計算技術の基本性能が向上し、クラウドコンピューティングへの移行が進む中、あらゆる機能・プログラムのプライバシー保護実行や、汎用的なセキュアデータ処理を可能にする絶好の機会だと考えている。そこで、本研究では、個人情報を扱う汎用プログラムを秘密実装に変換し、分散環境で実行するためのシステムPICCO(Private dIstributed Computation COmpiler)を紹介する。PICCOの主なコンポーネントは、プライベートデータのアノテーションが可能なC言語の拡張版で書かれたプログラムを、C言語による秘密分散実装に変換するソース間ソースコンパイラだ。PICCOには、コンパイラの他に、プライベートな入力を前処理し、計算終了時に出力を回復することで、分散環境におけるユーザプログラムの秘密実行を支援するプログラムが含まれている。」

(2)第815ページ右欄
「4. COMPILER DESIGN
4.1 Overview
We choose to implement our compiler as a source-to-source translator. It is designed to take a program written in an extension of C, where data to be protected are marked as private, and transform it into a C program that implements SMC. The transformed program can then be compiled by each computational party using a native compiler into an executable code. The C language was chosen due to its popularity and, more importantly, performance reasons. By translating a user program into the source code of its secure implementation and using a native compiler to produce binary code, we can ensure that our compiler can be used on any platform and we are able to take advantage of optimizations available in native compilers. Figure 1(a) shows the compilation process of a user specified program. Besides the user program itself, our compiler takes as its input a configuration file which contains parameters associated with the setup of secure computation that do not change with each program. These parameters include the specification of the secret sharing scheme (the values n and t and optional modulus or its size in bits), and the number of input and output parties. The compiler determines the optimal modulus size for secret sharing based on the program content. After the user translates her program into C code corresponding to its secure implementation, the user supplies the transformed program to each computational party. Each computational party locally compiles the code and is ready to start the execution upon the receipt of the input data.」
(当審訳)
「4.コンパイラ設計
4.1 概要
我々は、このコンパイラをソース間トランスレータとして実装することにした。このコンパイラは、保護すべきデータがプライベートであることを示すC言語の拡張で書かれたプログラムを、SMCを実装したC言語プログラムに変換するように設計されている。変換されたプログラムは、各計算者がネイティブコンパイラを使って実行可能なコードにコンパイルすることができる。C言語が選ばれた理由は、その人気と、より重要な性能上の理由だ。ユーザプログラムを秘密実装のソースコードに変換し、ネイティブコンパイラを使ってバイナリコードを生成することで、どのプラットフォームでもコンパイラを使用できるようにし、ネイティブコンパイラで利用できる最適化を利用することができる。図1(a)は、ユーザが指定したプログラムのコンパイル過程を示している。コンパイラは、ユーザプログラム以外に、秘密計算の設定に関連するパラメータを含む設定ファイルを入力として受け取るが、このパラメータはプログラムごとに変わることはない。これらのパラメータには、秘密分散方式の指定(値nとt、オプションのモジュラスまたはその大きさ(ビット単位))、入出力相手の数などを指定する。コンパイラは、プログラムの内容から秘密分散に最適なモジュラスサイズを決定する。ユーザは、自分のプログラムを秘密実装に対応するCコードに変換した後、変換されたプログラムを各計算当事者に提供する。各計算当事者は、入力データを受け取ると、ローカルでコードをコンパイルし、実行を開始する準備ができる。」

(3)第816ページ



(当審訳)省略

2 引用発明
上記1(3)より、「source-to-source SMC compiler」(ソース間SMCコンパイラ)を実行する「user」(これは「ユーザ計算機」であることは自明である。)が看取され、当該「ソース間SMCコンパイラ」は、前記1(2)の「ソース間トランスレータとして実装」した「コンパイラ」のことと同一視できる。加えて、上記1(2)の「ユーザ」は、上記1(3)の「user」すなわち「ユーザ計算機」と同一視できる。
また、上記1(1)より、「SMC」は、「secure multi-party computation」すなわち「秘密マルチパーティ計算」の略である。
よって、引用文献1には、「ソース間トランスレータとして実装したソース間秘密マルチパーティ計算(SMC)コンパイラを実行するユーザ計算機」の発明が記載されているといえる。
さらに、上記1(3)より、「ユーザ計算機」は、当該「コンパイラ」によりコンパイルした「SMC program」(SMCプログラム)を「native compiler」(ネイティブコンパイラ)を実行する「compute node」(計算ノード)に送信することが看取され、ここでの「compute node」(計算ノード)は、上記1(2)の「計算当事者」と同一視できる。
以上と、上記1の特に下線部に着目すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 ソース間トランスレータとして実装したソース間秘密マルチパーティ計算(SMC)コンパイラを実行するユーザ計算機であって、
コンパイラは、保護すべきデータがプライベートであることを示すC言語の拡張で書かれたプログラムを、SMCを実装したC言語プログラムに変換するように設計され、
コンパイラは、ユーザプログラム以外に、秘密計算の設定に関連するパラメータを含む設定ファイルを入力として受け取り、これらのパラメータには、秘密分散方式の指定(値nとt、オプションのモジュラスまたはその大きさ(ビット単位))、入出力相手の数などを指定し、
ユーザ計算機は、変換されたプログラムを各計算ノードに提供し、
各計算ノードは、入力データを受け取ると、ローカルでコードをコンパイルする、
ユーザ計算機。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「ユーザ計算機」は、「C言語の拡張で書かれたプログラムを、SMCを実装したC言語プログラムに変換する」「コンパイラ」を実装し、「ユーザプログラム以外に、安全な計算の設定に関連するパラメータを含む設定ファイルを入力として受け取」るものであるから、「ユーザプログラム」を入力する“入力部”を備えることは明らかである。
また、引用発明の「ユーザプログラム」は、「C言語の拡張で書かれたプログラム」であるところ、本願発明1の「ソースコード」に相当する。
よって、引用発明の「ユーザ計算機」は、本願発明1の「ソースコードを入力する、入力部」に相当する手段を備えているといえる。

イ 上記第3で述べたことを参酌すれば、本願発明1の「入力関数、出力関数の変換処理に関する規則および、パラメータや型に関する変換処理に関する規則が含まれる設定情報」は、「秘密計算に関する設定情報」といえる。
また、引用発明の「秘密計算の設定に関連するパラメータ」は「秘密分散方式の指定(値nとt、オプションのモジュラスまたはその大きさ(ビット単位))、入出力相手の数などを指定」するものであるところ、「秘密計算に関する設定情報」といい得るものである。
よって、引用発明の「秘密計算の設定に関連するパラメータ」と本願発明1の「入力関数、出力関数の変換処理に関する規則および、パラメータや型に関する変換処理に関する規則が含まれる設定情報」とは、「秘密計算に関する設定情報」である点において共通する。
また、引用発明の「ユーザ計算機」は、「秘密計算の設定に関連するパラメータを含む設定ファイルを入力として受け取り」、当該「パラメータ」を、「C言語の拡張で書かれたプログラム」を「SMCを実装したC言語プログラムに変換する」ために一時的に又は非一時的に記憶する「記憶部」を備得ることは明らかであり、また、「パラメータ」を記憶したときには「記憶している」状態となることは明らかである。
よって、引用発明において、「ユーザ計算機」が備える「パラメータ」を記憶する何らかの「記憶部」と、本願発明1の「入力関数、出力関数の変換処理に関する規則および、パラメータや型に関する変換処理に関する規則が含まれる設定情報を記憶している記憶部」とは、「秘密計算の設定に関する設定情報を記憶している記憶部」である点において共通する。

ウ 引用発明の「ユーザ計算機」が実行する「ソース間秘密マルチパーティ計算(SMC)コンパイラ」は、「C言語の拡張で書かれたプログラムを、SMCを実装したC言語プログラムに変換する」ものであるため、後述する相違点を除いて、本願発明1の「変換部」に相当する。

エ コンパイラがメモリに記憶されたプログラムに基づいて、かつ、プロセッサを介して自身の機能を実現することは技術常識であるところ、引用発明の「コンパイラ」もそのように構成されているといえる。
また、引用発明の「各計算ノードは、入力データを受け取ると、ローカルでコードをコンパイルする」によれば、「各計算ノード」は、「コンパイル」する機能を備えているところ、「コンパイラ」といい得るものであるので、本願発明1の「秘密計算コンパイラ」とは「コンパイラ」である点で共通する。
そして、「コンパイル」の対象となる「コード」(入力データ)は「ユーザ計算機」から提供される「変換されたプログラム」すなわち「SMCを実装したC言語プログラム」であるところ、「SMCを実装したC言語プログラム」は、「各計算ノード」がコンパイル(処理)可能な「秘密計算専用コード」といい得るものである。
よって、上記イを参酌すれば、引用発明の「コンパイラ」が「C言語の拡張で書かれたプログラムを、SMCを実装したC言語プログラムに変換する」ことと、本願発明1の「前記変換部は、メモリに記憶されたプログラムに基づき、プロセッサを介して、前記入力されたソースコードを前記設定情報に記載されている規則に従って秘密計算コンパイラが処理可能な秘密計算専用コードに変換するよう構成され」ていることとは、「前記変換部は、メモリに記憶されたプログラムに基づき、プロセッサを介して、前記入力されたソースコードを前記設定情報に従ってコンパイラが処理可能な秘密計算専用コードに変換するよう構成され」ている点において共通する。

オ 引用発明の「ユーザ計算機」は、「変換されたプログラムを各計算ノードに提供」するものであるので、「各計算ノード」にデータの送受信可能に接続可能であるといえる。
そして、引用発明の「各計算ノード」と本願発明1の「ユーザ装置及び秘密計算サーバ」とは、「他の計算機」である点において共通する。
よって、引用発明の「ユーザ計算機」と本願発明1の「ユーザ装置及び秘密計算サーバにデータの送受信可能に接続可能である」こととは、「他の計算機にデータの送受信可能に接続可能である」ことである点において共通する。

カ 引用発明の「ユーザ計算機」は、後述する相違点を除いて、本願発明1の「変換装置」に相当する。

(2)一致点、相違点
前記(1)より、本願発明1と引用発明は、次の点において一致ないし相違する。

○一致点
「ソースコードを入力する、入力部と、
秘密計算に関する設定情報を記憶している記憶部と、
変換部を備え、
前記変換部は、メモリに記憶されたプログラムに基づき、プロセッサを介して、
前記入力されたソースコードを前記設定情報に従ってコンパイラが処理可能な秘密計算専用コードに変換するよう構成され、
他の計算機にデータの送受信可能に接続可能である、変換装置。」

○相違点
(相違点1)
共通点である「設定情報」が、本願発明1は、「入力関数、出力関数の変換処理に関する規則および、パラメータや型に関する変換処理に関する規則が含まれる設定情報」であり、「変換部」が、「前記設定情報に記載されている規則」に従って変換するのに対し、引用発明の「秘密計算の設定に関連するパラメータ」は、「秘密分散方式の指定(値nとt、オプションのモジュラスまたはその大きさ(ビット単位))、入出力相手の数などを指定」するものであって、「変換処理に関する規則」として特定されていない点。

(相違点2)
共通点である「秘密計算専用コード」が、本願発明1においては、「秘密計算コンパイラが処理可能な秘密計算専用コード」であるのに対し、引用発明においては、「各計算ノード」がコンパイル(処理)可能な「SMCを実装したC言語プログラム」である点。

(相違点3)
共通点である「データの送受信可能に接続可能」の対象となる「他の計算機」が、本願発明1においては、「ユーザ装置及び秘密計算サーバ」であるのに対し、引用発明は、「各計算ノード」である点。

(3)相違点についての判断
事案に鑑みて上記相違点2について先に検討する。
本願発明1の「秘密計算コンパイラ」について、明細書の【0007】には、次のように記載されている。

「 上述のように、秘密計算の実行には秘密計算実行コードの生成が必要である。その際、秘密計算コンパイラが使用されるが、当該秘密計算コンパイラが処理可能なソースコードは秘密計算用に作成されたソースコード(以下、秘密計算専用コードと表記する)である。つまり、秘密計算コンパイラは、C言語やPython等の汎用的な言語で記載されたソースコードから秘密計算実行コードを生成することができない。そのため、秘密計算に精通した専門家が、汎用の言語で記載されたソースコードを改編するなどして秘密計算専用コードを生成したりしている。換言すれば、秘密計算に関する専門的な知識を有さない技術者が、秘密計算専用コードを生成するのは困難な状況にある。」

以上からすると、本願発明1の「秘密計算コンパイラが処理可能な秘密計算専用コード」は、C言語やPython等の汎用的な言語で記載されたコードは除外され、汎用的な言語ではない言語で記載されたコードを意味している。
一方、引用文献1に「C言語の拡張で書かれたプログラムを、SMCを実装したC言語プログラムに変換する」ものであり、また、引用文献1に「変換されたプログラムは、各計算者がネイティブコンパイラを使って実行可能なコードにコンパイルすることができる。C言語が選ばれた理由は、その人気と、より重要な性能上の理由だ。ユーザプログラムを秘密実装のソースコードに変換し、ネイティブコンパイラを使ってバイナリコードを生成することで、どのプラットフォームでもコンパイラを使用できるようにし、ネイティブコンパイラで利用できる最適化を利用することができる。」(上記第5の1(2)参照)と記載されているように、引用発明は、各計算者が、汎用的な言語であるC言語のネイティブコンパイラを使用してコンパイルできるようにすることを目的としている以上、仮に、汎用的な言語で記載されたコードを汎用的ではない言語で記載されたコードに変換する技術が本願出願日前における周知技術であるとしても、引用発明の上記目的を捨象して、引用発明の「ソース間秘密マルチパーティ計算(SMC)コンパイラ」を、汎用的な言語で記載されたコードを汎用的な言語ではない言語で記載されたコードに変換するように構成を変更することは当業者といえども容易に想到することはできたとはいえない。
したがって、上記相違点1及び3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし9について
本願発明2ないし9は、本願発明1の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明10及び11について
本願発明10は、本願発明1を方法の発明として特定したものであり、本願発明11は、本願発明1をプログラムの発明として特定したものであるところ、本願発明10及び11は、上記相違点1に係る本願発明1の構成に対応する構成を備えているため、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 原査定について
本願発明1ないし11は、上記相違点2に係る本願発明1の構成又はこれに対応する構成を有するものであるから、当業者であっても、原査定において引用された引用文献1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2023-05-08 
出願番号 P2020-547531
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G09C)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 吉田 美彦
特許庁審判官 稲垣 良一
林 毅
発明の名称 変換装置、変換方法及びプログラム  
代理人 加藤 朝道  
代理人 内田 潔人  

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