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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
管理番号 1398209
総通号数 18 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-18 
確定日 2023-03-28 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6761554号発明「研磨用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6761554号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−16〕について訂正することを認める。 特許第6761554号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件請求項1〜16に係る特許についての出願は、令和2年2月20日(優先権主張 令和2年1月22日(以下「本件優先日」という。) 日本国)の出願であって、同年9月8日にその特許権の設定登録(請求項の数は16)がされ、同年9月23日に特許掲載公報が発行され、令和3年3月18日に特許異議申立人北原 陽子(以下「申立人A」という。)、同年3月22日に特許異議申立人藤井 正剛(以下「申立人B」という。)により特許異議の申立がされたものである。
2 令和3年8月18日付けで当審は取消理由を通知し(発送は、同年同月24日)、同年9月24日に特許権者から上申書が提出され、同年同月29日付けで、当審は、指定期間を30日延期する通知をし、同年11月18日に特許権者は訂正請求書及び意見書を提出し、同年12月23日に申立人Bから、また同年同月24日に申立人Aから意見書が提出され、令和4年3月9日付けで当審が訂正拒絶理由を通知し、同年4月11日に特許権者から意見書が提出されたものである。
3 令和4年6月22日付けで当審は取消理由(決定の予告)を通知し(発送は、同年同月27日)、同年8月24日に特許権者は訂正請求書(この訂正請求を以下「本件訂正請求」といい、訂正の内容を以下「本件訂正」という。)及び意見書を提出した。(これにより、令和3年11月18日にされた訂正請求は取り下げられたものとみなされる。)令和4年10月6日に申立人Bから意見書が提出され、同年同月7日に申立人Aから意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正について
1 訂正の趣旨
本件訂正の趣旨は、「特許第6761554号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜16について訂正することを求める。」というものである。
2 本件訂正は、次の訂正事項からなるものである。当審が、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上3000mPa・s以下のビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む研磨用組成物(ただし、酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物を除く)。」と記載されているのを、
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下又は100mPa・s以上3000mPa・s以下のビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(A)〜(D)の組成物を除く。
(A)酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物)。」と訂正する。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項4〜16も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上3000mPa・s以下のビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む、単結晶シリコン基板の研磨用組成物。」と記載されているのを、
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下のビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である、単結晶シリコン基板の研磨用組成物(ただし、下記(D)の組成物を除く。
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物)。」と訂正する。(請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項4〜16も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
訂正前の請求項3に、
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、20℃における4%水溶液粘度が60mPa・s以上3000mPa・s以下のビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む研磨用組成物。」と記載されているのを、
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、20℃における4%水溶液粘度が100mPa・s以上3000mPa・s以下のビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(B)〜(C)の組成物を除く。
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物)。」
に訂正する。(請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4〜16も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
訂正前の請求項4に、
「水溶性高分子のけん化度が80〜99.9モル%である請求項1〜3のいずれかに記載の研磨用組成物。」と記載されているのを、
「水溶性高分子のけん化度が80〜89.7モル%又は98.3〜99.3モル%である請求項1〜3のいずれかに記載の研磨用組成物。」に訂正する。(請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5〜16も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
訂正前の請求項5に、
「さらに、砥粒を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の研磨用組成物。」と記載されているのを、
「砥粒の平均一次粒子径が5nm以上100nm未満であり、
下記(E)及び(F)の組成物を含まない、請求項1〜4のいずれかに記載の研磨用組成物。
(E)エチレンジアミンテトラ酢酸又はエチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウムを含む組成物
(F)ポリエチレンオキサイドーポリプロピレンオキサイドーポリエチレンオキサイド型トリブロック共重合体を含む組成物」に訂正する。(請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6〜16も同様に訂正する。)
3 訂正要件についての判断
(1)一群の請求項について
ア 請求項1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項4〜16は、訂正事項1によって訂正されるから、請求項1、4〜16は特許法第120条の5第4項本則に定められた一群の請求項といえる。
イ 請求項2及び請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項4〜16は、訂正事項2によって訂正されるから、請求項2、4〜16は特許法第120条の5第4項本則に定められた一群の請求項といえる。
ウ 請求項3及び請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4〜16は、訂正事項3によって訂正されるから、請求項3、4〜16は特許法第120条の5第4項本則に定められた一群の請求項といえる。
エ 前記ア〜ウより、請求項1〜16は、特許法第120条の5第4項に規定された経済産業省令第45条の4に規定された連関している関係を満たすから、請求項1〜16は、一群の請求項と認められる。
(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的
(ア)砥粒に関する訂正について
訂正前の請求項1に係る発明では、a 砥粒を含むこと、b 砥粒が無機酸化物を含むこと、c 砥粒の平均一次粒子径が100nm未満であること、が規定されていない。これに対して、訂正後の請求項1に係る発明は、これらで特定するものであるから、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
(イ)粘度に関する訂正について
訂正前の請求項1に係る発明においては、水溶性高分子について、20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上3000mPa・s以下と特定されていたが、訂正後の請求項1に係る発明は、20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下又は100mPa・s以上3000mPa・s以下と特定されている。この訂正は、訂正前の粘度範囲から、28.9mPa・s超100mPa・s未満の範囲を除く訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
(ウ)「除く」クレームに関する訂正について
訂正前の請求項1に係る発明においては、「酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物を除く」と特定されていたところ、訂正後の請求項1に係る発明においては、「下記(A)〜(D)の組成物を除く。
(A)酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物」とされており、除く対象を(A)のみから、(A)〜(D)と増加する訂正であるから、この訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 実質上の拡張・変更の有無
(ア)砥粒に関する訂正について
前記ア(ア)の理由から、この訂正事項は、特許請求範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものといえる。
(イ)粘度に関する訂正について
前記ア(イ)の理由から、この訂正事項は、特許請求範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものといえる。
(ウ)「除く」クレームに関する訂正について
前記ア(ウ)の理由から、この訂正事項は、特許請求範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものといえる。
新規事項の追加の有無
(ア)砥粒に関する訂正について
研磨用組成物が無機酸化物を含む砥粒を含むこと、及び砥粒の平均一次粒子径が100nm未満であることは、本件特許明細書の段落【0064】の「これらの砥粒の中でも、無機粒子が好ましく、無機酸化物(例えば、金属酸化物、半金属酸化物)がより好ましく」という記載及び同段落【0067】の「ヘイズ低減などの観点から、砥粒の平均一次粒子径DP1は、好ましくは100nm未満」という記載に基づいて導き出される事項であり、新規事項を導入するものでない。したがって、この訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(イ)粘度に関する訂正について
粘度に関する訂正は、令和4年6月22日付けの取消理由において指摘した証拠に記載された引用発明を除外するため、28.9mPa・s超100mPa・s未満の範囲を除く訂正であるから、新たな技術的事項を追加するものではない。
また、28.9mPa・sという数値及び100mPa・sという数値は、本件特許明細書の【表1】の実施例6及び7及び段落【0035】にそれぞれ記載されている。
したがって、この訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)「除く」クレームに関する訂正について
この訂正は、請求項1に係る発明から除く対象を(A)のみから、(A)〜(D)と増加する訂正であるから、新たな技術事項を追加するものではない。したがって、この訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
(ア)砥粒に関する訂正について
訂正前の請求項2に係る発明では、a 砥粒を含むこと、b 砥粒が無機酸化物を含むこと、c 砥粒の平均一次粒子径が100nm未満であること、が規定されていない。これに対して、訂正後の請求項2に係る発明は、これらで特定するものであるから、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
(イ)粘度に関する訂正について
訂正前の請求項2に係る発明においては、水溶性高分子について、20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上3000mPa・s以下と特定されていたが、訂正後の請求項2に係る発明は、20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下と特定されている。この訂正は、訂正前の粘度範囲から、28.9mPa・s超3000mPa・s以下の範囲を除く訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
(ウ)「除く」クレームに関する訂正について
訂正前の請求項2においては、除くクレームとなっていなかったが、訂正後の請求項2においては、「(ただし、下記(D)の組成物を除く。
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物)」との特定を追加するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 実質上の拡張・変更の有無
(ア)砥粒に関する訂正について
前記ア(ア)の理由から、この訂正事項は、特許請求範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものといえる。
(イ)粘度に関する訂正について
前記ア(イ)の理由から、この訂正事項は、特許請求範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものといえる。
(ウ)「除く」クレームに関する訂正について
前記ア(ウ)の理由から、この訂正事項は、特許請求範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものといえる。
新規事項の追加の有無
(ア)砥粒に関する訂正について
研磨用組成物が無機酸化物を含む砥粒を含むこと、及び砥粒の平均一次粒子径が100nm未満であることは、本件特許明細書の段落【0064】の「これらの砥粒の中でも、無機粒子が好ましく、無機酸化物(例えば、金属酸化物、半金属酸化物)がより好ましく」という記載及び同段落【0067】の「ヘイズ低減などの観点から、砥粒の平均一次粒子径DP1は、好ましくは100nm未満」という記載に基づいて導き出される事項であり、新規事項を導入するものでない。したがって、この訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(イ)粘度に関する訂正について
粘度に関する訂正は、令和4年6月22日付けの取消理由において指摘した証拠に記載された引用発明を除外するため、28.9mPa・s超3000mPa・s以下の範囲を除く訂正であるから、新たな技術的事項を追加するものではない。
また、28.9mPa・sという数値は、本件特許明細書の【表1】の実施例6及び7に記載されている。
したがって、この訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)「除く」クレームに関する訂正について
この訂正は、請求項2に係る発明から除く対象(D)を追加する訂正であるから、新たな技術事項を追加するものではない。したがって、この訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
(ア)砥粒に関する訂正について
訂正前の請求項3に係る発明では、a 砥粒を含むこと、b 砥粒が無機酸化物を含むこと、c 砥粒の平均一次粒子径が100nm未満であること、が規定されていない。これに対して、訂正後の請求項3に係る発明は、これらで特定するものであるから、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
(イ)粘度に関する訂正について
訂正前の請求項3に係る発明においては、水溶性高分子について、20℃における4%水溶液粘度が60mPa・s以上3000mPa・s以下と特定されていたが、訂正後の請求項3に係る発明は、20℃における4%水溶液粘度が100mPa・s以上3000mPa・s以下と特定されている。この訂正は、訂正前の粘度範囲から、60mPa・s以上100mPa・s未満の範囲を除く訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
(ウ)「除く」クレームに関する訂正について
訂正前の請求項3においては、除くクレームとなっていなかったが、訂正後の請求項3においては、「(ただし、下記(B)〜(C)の組成物を除く。
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物」との特定を追加するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 実質上の拡張・変更の有無
(ア)砥粒に関する訂正について
前記ア(ア)の理由から、この訂正事項は、特許請求範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものといえる。
(イ)粘度に関する訂正について
前記ア(イ)の理由から、この訂正事項は、特許請求範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものといえる。
(ウ)「除く」クレームに関する訂正について
前記ア(ウ)の理由から、この訂正事項は、特許請求範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものといえる。
新規事項の追加の有無
(ア)砥粒に関する訂正について
研磨用組成物が無機酸化物を含む砥粒を含むこと、及び砥粒の平均一次粒子径が100nm未満であることは、本件特許明細書の段落【0064】の「これらの砥粒の中でも、無機粒子が好ましく、無機酸化物(例えば、金属酸化物、半金属酸化物)がより好ましく」という記載及び同段落【0067】の「ヘイズ低減などの観点から、砥粒の平均一次粒子径DP1は、好ましくは100nm未満」という記載に基づいて導き出される事項であり、新規事項を導入するものでない。したがって、この訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(イ)粘度に関する訂正について
粘度に関する訂正は、令和4年6月22日付けの取消理由において指摘した証拠に記載された引用発明を除外するため、60mPa・s以上100mPa・s未満の範囲を除く訂正であるから、新たな技術的事項を追加するものではない。
また、100mPa・sという数値は、本件特許明細書の段落【0035】に記載されている。
したがって、この訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)「除く」クレームに関する訂正について
この訂正は、請求項3に係る発明から除く対象(B)(C)を追加する訂正であるから、新たな技術事項を追加するものではない。したがって、この訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4は、請求項4における水溶性高分子のけん化度の特定を訂正前の「80〜99.9モル%」から、89.7モル%超98.3モル%未満及び99.3モル%超99.9モル%以下の場合を除くことにより、「80〜89.7モル%又は98.3〜99.3モル%」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 実質上の拡張・変更の有無
前記アの理由から、訂正事項4は、特許請求範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものといえる。
新規事項の追加の有無
訂正事項4は、訂正前の請求項4に係る発明から、水溶性高分子のうちけん化度が89.7モル%超98.3モル%未満及び99.3モル%超99.9モル%以下の場合を除くものであるから、新たな技術事項を追加するものではない。
また、本件特許明細書の表1の実施例3、6、2には、けん化度(モル%)が89.7、98.3、99.3であることが記載されている。
したがって、この訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(6)訂正事項5
ア 訂正の目的
(ア)砥粒に関する訂正について
訂正前の請求項5に係る発明では、砥粒を含むことが規定されているものの、平均一次粒子径が5nm以上100nm未満であることは規定されていない。訂正後の請求項5はそれを特定するから、この訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
(イ)除くクレームに関する訂正について
訂正前の請求項5に係る発明においては、除くクレームとなっていなかったが、訂正後の請求項5に係る発明は、「下記(E)及び(F)の組成物を含まない、請求項1〜4のいずれかに記載の研磨用組成物。
(E)エチレンジアミンテトラ酢酸又はエチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウムを含む組成物
(F)ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド型トリブロック共重合体を含む組成物」と特定されているから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 実質上の拡張・変更の有無
(ア)砥粒についての訂正について
前記ア(ア)の理由から、この訂正事項は、特許請求範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものといえる。
(イ)「除く」クレームに関する訂正について
前記ア(イ)の理由から、この訂正事項は、特許請求範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものといえる。
新規事項の追加の有無
(ア)砥粒に関する訂正について
訂正事項5のうち「砥粒の平均一次粒子径が5nm以上100nm未満」であることは、本件特許明細書の段落【0067】の「砥粒の平均一次粒子径DP1は、・・・研磨速度などの観点から、例えば、5nm以上」及び「砥粒の平均一次粒子径DP1は、好ましくは100nm未満」という記載に基づいて導き出される構成であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(イ)除くクレームとする訂正について
この訂正は、請求項5に係る発明から除く対象(E)(F)を追加する訂正であるから、新たな技術事項を追加するものではない。したがって、この訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
4 申立人の主張について
(1)申立人A及び申立人Bは、訂正事項1〜3において、「除く」とされた特定事項が本件特許明細書に記載された事項ではないから、本件訂正が新規事項を追加するものと主張する。
(2)しかしながら、知財高裁特別部平成18年(行ケ)10563号判決によれば、新規事項の追加であるか否かの判断は、「明細書又は図面に具体的に記載されていない事項を訂正事項とする訂正についても、平成6年改正前の特許法134条2項ただし書が適用されることに変わりはなく、このような訂正も、明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し、新たな技術的事項を導入しないものであると認められる限り、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」する訂正であるというべきである。」とされているから、本件訂正についても新規事項を追加するものということはできず、申立人らの主張は採用できない。

第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件発明は次のとおりの発明(請求項の番号に従い「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。)である。
「【請求項1】
水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下又は100mPa・s以上3000mPa・s以下のビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(A)〜(D)の組成物を除く。
(A)酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物)。
【請求項2】
水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下のビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である、単結晶シリコン基板の研磨用組成物(ただし、下記(D)の組成物を除く。
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物)。
【請求項3】
水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、20℃における4%水溶液粘度が100mPa・s以上3000mPa・s以下のビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(B)〜(C)の組成物を除く。
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物)。
【請求項4】
水溶性高分子のけん化度が80〜89.7モル%又は98.3〜99.3モル%である請求項1〜3のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項5】
砥粒の平均一次粒子径が5nm以上100nm未満であり、
下記(E)及び(F)の組成物を含まない、請求項1〜4のいずれかに記載の研磨用組成物。
(E)エチレンジアミンテトラ酢酸又はエチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウムを含む組成物
(F)ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド型トリブロック共重合体を含む組成物
【請求項6】
砥粒がシリカを含む請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
水溶性高分子の単量体全体に対して、酸基を有する単量体の割合が、0.1モル%未満である請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
さらに、pH調整剤を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項9】
さらに、砥粒及びpH調整剤を含む研磨用組成物であって、砥粒がシリカを含み、pH調整剤が塩基性化合物を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項10】
さらに、界面活性剤を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項11】
さらに、界面活性剤を含む研磨組成物であって、界面活性剤が、オキシエチレン−オキプロピレン構造を有する共重合体及びポリオキシエチレンアルキルエーテルから選択された少なくとも1種を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項12】
さらに、界面活性剤を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子と界面活性剤の割合が、質量比で、1:0.01〜1:200である、請求項1〜11のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項13】
さらに、少なくとも水を含む溶媒を含み、水溶性高分子の濃度が1ppm以上である、請求項1〜12のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項14】
さらに、少なくとも水を含む溶媒を含み、固形分濃度が0.01質量%以上である、請求項1〜13のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項15】
研磨対象物の表面を、請求項1〜14のいずれかに記載の研磨用組成物で研磨する工程を含む、研磨物の製造方法。
【請求項16】
研磨用組成物を少なくとも水を含む溶媒で希釈する希釈工程を含み、研磨工程において、希釈工程で得られた希釈液で研磨する、請求項15記載の研磨物の製造方法。」

第4 取消理由通知の理由について
令和4年6月22日付けの取消理由通知(決定の予告)は、サポート要件違背並びに新規性欠如及び進歩性欠如を理由とするものであり、その内容は次のとおりである。なお、第4における「本件発明1」〜「本件発明16」は、本件訂正前の請求項1〜16に係る発明である。
1 証拠の一覧
(1)申立人Aが提示した証拠は次のとおりである。なお、甲第1号証を甲A1などという。
甲A1:国際公開第2017/150158号
甲A2:長野浩一外2名、株式会社高分子刊行会、ポバール、137〜141頁(1984年)
甲A3:株式会社クラレ発行、クラレポバールグレード表と題したウェブアーカイブ(2002年)
甲A4:特開2005−85858号公報
甲A5:国際公開2018/096991号
(2)申立人Bが提示した証拠は次のとおりである。なお、甲第1号証を甲B1などという。
甲B1:特開2010−99757号公報
甲B2:特開2014−38906号公報
甲B3:国際公開第2019/124442号
甲B4:株式会社クラレ発行、クラレポバール、1〜23頁(2019年9月)
甲B5:吉田靖著、ピッツコールV−7154の製品情報の頁、第一工業製薬社報No.566、16頁(2013年)
甲B6:特許第5862739号公報(2016年)
甲B7:三菱ケミカル株式会社のゴーセノールの特殊銘柄「アニオン性PVOH Tシリーズ」と題するウェブページ(2021年2月22日印刷)
甲B8:特開2009−94233号公報
甲B9:国際公開第2014/126051号
甲B10:特開2013−138153号公報
甲B11:国際公開第2017/069202号
甲B12:国際公開第2019/187969号
甲B13:特開2013−153149号公報
(3)特許権者が提示した証拠は次のとおりである。
乙1:東京高等裁判所、平成13年(行ケ)334号審決取消訴訟の判決文
2 取消理由1(サポート要件違背)
(1)本件発明の課題について
ア 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には次の記載がある。
(ア)「【0005】
本発明の目的は、新規な研磨用組成物を提供することにある。」
(イ)「【0006】
本発明の他の目的は、研磨(特に、シリコンウエハなどの半導体基板の研磨)後の表面のAFM粗さ(AFMによって測定される粗さ)を低減しうる研磨用組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、前記研磨後の表面のヘイズが小さい研磨用組成物を提供することにある。」
(ウ)「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、半導体基板などの基板の研磨後の表面において、AFM粗さに着目したところ、水溶性高分子を含む研磨用組成物を用いて半導体基板表面を研磨した場合、水溶性高分子の種類によっては、研磨後の表面のAFM粗さが大きくなる場合があることを見出した。
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の水溶性高分子などを含む研磨用組成物を用いることなどによって、研磨後の半導体基板表面のAFM粗さを低減しうることなどを見出した。」
(エ)「【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規な研磨用組成物を提供できる。
このような組成物によれば、研磨(特に、シリコンウエハなどの半導体基板の研磨)後の表面において、AFM粗さ(特に、長波長の粗さ)を低減し得るため、高品位の表面を有する研磨物を得ることができる。また、半導体デバイス作製の露光時にフォーカスを効率よく合わせうる。
【0013】
また、このような組成物によれば、前記研磨後の表面のヘイズを小さくし得るため、高品位の表面を有する研磨物を得ることができる。
【0014】
また、このような組成物によれば、半導体デバイスなどを効率よく形成し得る。」
(オ)「【0149】
表1が示すように、実施例では、研磨面のAFM粗さが低減された。
また、実施例では、研磨面のヘイズが小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明の組成物は、研磨対象物のAFM粗さの低減などを実現し得るため、表面に保護膜を形成させた基材の加工を効率良く行うことができ、工業的に極めて有用である。」
イ 本件発明の課題
本件特許明細書の前記ア(ア)〜(オ)の記載から、本件発明の課題は、「研磨(特に、シリコンウエハなどの半導体基板の研磨)後の表面のAFM粗さの低減及びヘイズの低減が可能な研磨用組成物の提供」であると認められる。
(2)検討
ア 本件特許明細書の段落【0127】〜【0149】における実施例において、前記課題が解決できるものとして記載されているのは、砥粒として平均一次粒子径35nmのコロイダルシリカを用いたものに限られている。
イ 一方、本件特許1〜3においては、砥粒を発明特定事項とするものでもなく、砥粒の材質及び平均粒径についても何ら特定するものでもない。
ウ 研磨用組成物において、砥粒が存在しない場合に、前記アに記載の実施例と同様に本件発明における課題が解決できるということはできない。
エ また、砥粒が存在したとしても、研磨用組成物においてどのような砥粒を用いても、前記アに記載の実施例と同様に本件発明における課題が解決できるということはできない。
オ そうすると、本件発明1〜3は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、本件発明の課題が解決できると認識できる範囲を超えるものであるから、本件特許請求の範囲の請求項1〜3の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものである。
カ また、本件特許請求の範囲の請求項4〜16の記載についても同様に、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものではない。
3 取消理由2(新規性進歩性
(1)主引用例となる発明が記載された甲号証の記載事項
ア 甲A1には次の記載がある。
(ア)「[請求項1]
シリコン基板を研磨する方法であって、
研磨対象のシリコン基板に対し、第1研磨スラリーS1および第2研磨スラリーS2を、この順に、前記シリコン基板の研磨途中で切り替えて供給することを含み、
前記第1研磨スラリーS1は、砥粒A1および水溶性高分子P1を含有し、
前記第1研磨スラリーS1の研磨能率は、前記第2研磨スラリーS2の研磨能率よりも高い、研磨方法。
[請求項2]
前記第1研磨スラリーS1は、前記水溶性高分子P1を0.001重量%以上の濃度で含む、請求項1に記載の研磨方法。
[請求項3]
前記水溶性高分子P1は、ビニルアルコール系ポリマー鎖を含む、請求項1または2に記載の研磨方法。
・・・」
(イ)「[0022]<第1研磨スラリーS1>
第1研磨スラリーS1は、砥粒A1および水溶性高分子P1を含み、典型的にはさらに水を含む。
[0023] (砥粒A1)
砥粒は、シリコン基板の表面を物理的に研磨する働きをする。・・・
[0025] シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。シリカ粒子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。研磨対象物表面にスクラッチを生じにくく、かつ良好な研磨性能を発揮し得ることから、コロイダルシリカが特に好ましい。コロイダルシリカとしては、例えば、イオン交換法により水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカや、アルコキシド法コロイダルシリカを好ましく採用することができる。ここで、アルコキシド法コロイダルシリカとは、アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されたコロイダルシリカである。コロイダルシリカは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
・・・
[0027] 第1研磨スラリーS1に含まれる砥粒(典型的にはシリカ粒子)A1のBET径は特に限定されない。研磨効率等の観点から、上記BET径は、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、特に好ましくは20nm以上、例えば25nm以上である。より高い研磨効果を得る観点から、BET径が30nmを超える砥粒A1を好ましく用いることができる。例えば、BET径が32nm以上の砥粒A1を好ましく用いることができる。また、スクラッチ防止等の観点から、砥粒A1のBET径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは70nm以下、例えば60nm以下である。ここに開示される技術は、砥粒A1のBET径が、好ましくは60nm未満、より好ましくは55nm以下、さらに好ましくは45nm以下、例えば40nm以下である態様で実施することができる。このような砥粒A1を含む第1研磨スラリーS1を用いて研磨(典型的には仕上げ研磨)を行うことにより、抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板について、高品位な表面を効率よく得ることができる。
なお、本明細書においてBET径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、BET径(nm)=6000/(真密度(g/cm3)×BET値(m2/g))の式により算出される粒子径をいう。例えばシリカ粒子の場合、BET径(nm)=2727/BET値(m2/g)によりBET径を算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
・・・
[0032] (水)
第1研磨スラリーS1は、典型的には水を含む。・・・
[0033] (水溶性高分子P1)
第1研磨スラリーS1は、水溶性高分子P1を含有する。上記水溶性高分子P1としては、分子中に、カチオン性基、アニオン性基およびノニオン性基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するポリマーを、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。より具体的には、例えば、分子中に水酸基、カルボキシ基、アシルオキシ基、スルホ基、第1級アミド構造、複素環構造、ビニル構造、ポリオキシアルキレン構造等を有するポリマーから選択される1種または2種以上のポリマーを水溶性高分子P1として使用し得る。凝集物の低減や洗浄性向上等の観点から、水溶性高分子P1としては、ノニオン性のポリマーを好ましく採用し得る。
水溶性高分子P1として使用し得るポリマーの非限定的な例には、ビニルアルコール系ポリマー(例えば、ポリビニルアルコール)、セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシエチルセルロース)、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー等が含まれる。窒素原子を含有するポリマーの非限定的な例には、N−ビニルラクタムやN−ビニル鎖状アミド等のようなN−ビニル型のモノマー単位を含むポリマー;イミン誘導体;N−(メタ)アクリロイル型のモノマー単位を含むポリマー;等が含まれる。
[0034] ここに開示される技術の好ましい一態様において、水溶性高分子P1は、少なくともビニルアルコール系ポリマー鎖を含む。このような第1研磨スラリーS1を用いて第1段階の研磨を行うことにより、抵抗率の異なる複数種類のシリコン基板の表面粗さを効率よく低下させることができる。
・・・
[0060] 水溶性高分子PAの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。水溶性高分子PAのMwは、通常、0.2×104以上であることが適当であり、好ましくは0.4×104以上、より好ましくは1×104以上、さらに好ましくは1.5×104以上である。水溶性高分子PAのMwの増大につれて、研磨後の表面の平滑性が高まる傾向にある。水溶性高分子PAのMwは、通常、200×104以下であることが適当であり、好ましくは150×104以下、より好ましくは100×104以下、さらに好ましくは50×104以下である。水溶性高分子PAのMwの減少につれて、第1研磨スラリーS1から第2研磨スラリーS2への切り替えがより円滑に進行しやすくなる傾向にある。水溶性高分子PAのMwは、30×104以下であってもよく、20×104以下であってもよく、例えば10×104以下であってもよい。
・・・
[0104] 各研磨スラリーは、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態、すなわち研磨スラリーの濃縮液の形態であってもよい。上記濃縮液は、研磨スラリーの原液としても把握され得る。このように濃縮された形態の研磨スラリーは、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は特に限定されず、例えば、体積換算で2倍〜100倍程度とすることができ、通常は5倍〜50倍程度(例えば10倍〜40倍程度)が適当である。
[0105] このような濃縮液は、所望のタイミングで希釈して研磨スラリー(ワーキングスラリー)を調製し、該研磨スラリーを研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、例えば、上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。」
(ウ)「実施例
[0121] 以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
[0122] 1.研磨液の調製
・・・
[0124] (スラリーC〜E,J,K)
イオン交換水中にコロイダルシリカ(BET径35nm)、PVA、PVPおよびKOHを含む、表1に示す組成のスラリーC〜E,J,Kをそれぞれ調製した。各スラリーの調製に使用したPVAおよびPVPのMwは、表1に示すとおりである。これらのスラリーの調製に用いたPVAのけん化度は、いずれも98モル%以上である。また、これらのスラリーの調製に用いたPVPは、いずれもビニルピロリドンの単独重合体である。表1中のC10PEO5は、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5のポリオキシエチレンデシルエーテルを表す。
[0125] (スラリーF〜H)
イオン交換水中にコロイダルシリカ(BET径35nm)、PVA主鎖−PVPグラフト共重合体およびKOHを含む、表1に示す組成のスラリーF〜Hを調製した。各スラリーの調製に使用したPVA主鎖−PVPグラフト共重合体の主鎖および側鎖のMwは、表1に示すとおりである。これらのグラフト共重合体は、いずれも、主鎖を構成するPVAのけん化度が98モル%以上であり、側鎖を構成するPVPがビニルピロリドンの単独重合体である。
・・・
[0128]
[表1]


イ 甲A4には次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
(A)下記一般式(1)で示されるブロック型ポリエーテル、(B)二酸化ケイ素、(C)塩基性化合物、(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールから選ばれる少なくとも一種並びに(E)水の各成分を含有する研磨用組成物。
HO−(EO)a−(PO)b−(EO)c−H …(1)
(式中、EOはオキシエチレン基を示すとともにPOはオキシプロピレン基を示し、a、b及びcは1以上の整数を示す。)」
(イ)「【0034】
成分(C)の塩基性化合物は、シリコンウエハ表面を腐食又はエッチングすることにより、シリコンウエハ表面をケミカル研磨する。塩基性化合物としては、水酸化カリウム(以下、「PHA」という。以下において化合物名の後の括弧内はその略号を示す。)、水酸化ナトリウム(NHA)、炭酸水素カリウム(PCAH)、炭酸カリウム(PCA)、炭酸水素ナトリウム(NCAH)、炭酸ナトリウム(NCA)等の無機アルカリ化合物、アンモニア(A)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、炭酸水素アンモニウム(ACAH)、炭酸アンモニウム(ACA)等のアンモニウム塩、メチルアミン(MA)、ジメチルアミン(DMA)、トリメチルアミン(TMA)、エチルアミン(EA)、ジエチルアミン(DEA)、トリエチルアミン(TEA)、エチレンジアミン(EDA)、モノエタノールアミン(MEA)、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン(AEEA)、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、無水ピペラジン(PIZ)、ピペラジン・六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン(AEPIZ)及びN−メチルピペラジン(MPIZ)等のアミン等が挙げられる。これら塩基性化合物は、単独で含有してもよいし二種以上を組み合わせて含有してもよい。
・・・
【0038】
成分(D)のHEC及びPVAから選ばれる少なくとも一種は、ヘイズレベルを改善する。これは、成分(B)によるシリコンウエハ表面のメカニカル研磨において成分(D)が緩衝剤として作用し、シリコンウエハ表面に形成される微細な凹凸が小さくなるためと推察される。さらに、成分(D)は、シリコンウエハ表面の濡れ性を向上させて研磨後のシリコンウエハ表面の乾燥を防止し、研磨後のシリコンウエハ表面に成分(B)等の異物(パーティクル)が付着するのを抑制することによりLPD(Light Point Defect)を改善する。ここで、LPDとはシリコンウエハの表面欠陥のことであり、研磨が施されたシリコンウエハ表面に付着した異物等に起因している。成分(D)は、ヘイズレベル改善作用が強いとともに、シリコンウエハ表面の濡れ性を向上させる作用が強くLPDをより低減することができるとともにシリコンウエハ表面にシミが発生するのを防止することができるために、HECが好ましい。
【0039】
HECの平均分子量は300,000〜3,000,000が好ましく、600,000〜2,000,000がより好ましく、900,000〜1,500,000が最も好ましい。一方、PVAの平均分子量は1,000〜1,000,000が好ましく、5,000〜500,000がより好ましく、10,000〜300,000が最も好ましい。また、研磨用組成物中のHECの含有量は0.01〜3質量%が好ましく、0.05〜2質量%がより好ましく、0.1〜1質量%が最も好ましい。一方、研磨用組成物中のPVAの含有量は0.002〜4質量%が好ましく、0.01〜2質量%がより好ましく、0.05〜1質量%が最も好ましい。
【0040】
HEC又はPVAの平均分子量又は含有量が前記範囲未満では、ヘイズレベルの改善が困難になるとともに研磨後のシリコンウエハ表面の濡れ性を十分に向上させることができない。一方、HEC又はPVAの平均分子量又は含有量が前記範囲を超えると、研磨用組成物の粘度が過大となってゲル化し、取扱いが困難になる。
・・・
【0043】
研磨用組成物は、成分(E)の水に他の成分を混合し、例えば翼式撹拌機による撹拌や超音波分散等によって、各成分を分散又は溶解させることにより調製される。ここで、成分(E)の水に対する他の成分の混合順序は限定されない。また、本発明の研磨用組成物は、実際の研磨工程時に希釈して使用することもできる。前記各成分の含有量は、容易に貯蔵又は輸送等できるように予め比較的高濃度な研磨用組成物を調製する場合について記載したものであり、通常、使用時に成分(E)と同等の水で希釈して使用される。尚、希釈して使用する場合には、研磨用組成物1容量に対する水の配合量は1〜50倍量が好ましく、1〜40倍量がより好ましく、1〜25倍量が最も好ましい。水の配合量が1倍量未満では、研磨用組成物の濃縮の度合いが低いために貯蔵コストや輸送コストが嵩み、不経済となりやすい。一方、50倍量を超えると、研磨用組成物の濃縮の度合いが高すぎるために、希釈前の研磨用組成物がゲル化するおそれがある。」
(ウ)「【実施例】
【0050】
(試験例1〜11及び比較例1〜8)
試験例1においては、まず成分(A)、成分(B)としてのコロイダルシリカ、成分(C)としてのAの29質量%水溶液及び成分(D)としてのHECを成分(E)の水に混合して研磨用組成物を調製した。研磨用組成物中のコロイダルシリカの含有量は10質量%であり、このコロイダルシリカの20質量%水溶液中における鉄、ニッケル、銅、クロム、亜鉛及びカルシウムの含有量の合計は20ppb以下であった。さらに、コロイダルシリカの平均粒子径は、FlowSorbII2300(micromeritics社製の製品名)で測定されたDSAで35nmであり、N4 Plus Submicron Particle Sizer(Beckman Coulter, Inc.の製品名)で測定されたDN4で70nmであった。また、研磨用組成物中のAの29質量%水溶液の含有量は1質量%であった。加えて、HECの粘度平均分子量は1,000,000であり、研磨用組成物中の含有量は0.3質量%であった。研磨用組成物における(B)及び(E)の各成分以外の組成を表1に示す。
【0051】
試験例2〜11及び比較例1〜8においては、各成分の種類又は含有量を表1に示すように変更した以外は、試験例1と同様にして研磨用組成物を調製した。尚、表1において、PVAは、数平均分子量が105,000及びけん化度が98%であり、研磨用組成物中の含有量は0.2質量%であった。PEOの粘度平均分子量は300,000であった。PEPは、dとfとの合計が30であり、eの値は5であった。尚、表2において、各成分の含有量は質量%で示す。
【0052】
そして、試験例1〜11及び比較例1〜8の各例の研磨用組成物に超純水を混合してその体積を20倍にそれぞれ希釈した後、希釈された各例の研磨用組成物を用いてシリコンウエハ表面に下記の研磨条件で研磨を施した。尚、シリコンウエハとしてはケミカルエッチングが施された後にエッヂポリッシュが施された6インチシリコンウエハ(p型、結晶方位<100>、抵抗率0.01Ω・cm未満)を使用し、予備研磨として予め研磨用組成物(GLANZOX−1102;株式会社フジミインコーポレーテッド製)を用いて12μm研磨除去した。
・・・
【0057】
【表2】

表2に示すように、試験例1〜11においては、ヘイズレベルの値が低いとともにCOPの数が少なく、シリコンウエハに対する研磨速度は高い値となった。このため、各試験例の研磨用組成物は、シリコンウエハに対する研磨速度を向上させるとともにCOP及びヘイズレベルを改善することができた。さらに、各試験例の研磨用組成物はパーティクルについて優れた評価となり、LPDを改善することができた。」
ウ 甲A5には次の記載がある。
(ア)「[請求項1]
砥粒、塩基性化合物および表面保護剤を含む研磨用組成物であって、
前記表面保護剤は、セルロース誘導体とビニルアルコール系分散剤とを含み、
前記表面保護剤の分散性パラメータαが100未満である、研磨用組成物。
[請求項2]
前記セルロース誘導体の重量平均分子量は5×104以上50×104未満である、請求項1に記載の研磨用組成物。
[請求項3]
前記ビニルアルコール系分散剤の重量平均分子量は、前記セルロース誘導体の重量平均分子量の90%以下である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
[請求項4]
前記ビニルアルコール系分散剤の含有量は、前記セルロース誘導体100gに対して0.1g以上80g以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
[請求項5]
前記セルロース誘導体と前記ビニルアルコール系分散剤との合計含有量は、前記砥粒100gに対して1.5g以上20g以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
・・・
[請求項8]
前記砥粒はシリカ粒子である、請求項1から7のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
[請求項9]
シリコンウェーハの研磨に用いられる、請求項1から8のいずれか一項に記載の研磨用組成物。」
(イ)「[0035]
(ビニルアルコール系分散剤)
ここに開示される表面保護剤は、ビニルアルコール系分散剤を含む。以下、ビニルアルコール系分散剤を「分散剤VA」と表記することがある。セルロース誘導体と分散剤VAとを組み合わせて用いることにより、研磨用組成物中におけるセルロース誘導体の分散性を改善し、該セルロース誘導体の使用に起因する欠陥(例えば、LPD−N)を効果的に低減することができる。
[0036]
分散剤VAとしては、その繰返し単位としてビニルアルコール単位を含む水溶性有機物(典型的には水溶性高分子)が用いられる。ここで、ビニルアルコール単位(以下「VA単位」ともいう。)とは、次の化学式:−CH2−CH(OH)−;により表される構造部分である。VA単位は、例えば、酢酸ビニル等のようなビニルエステル系モノマーがビニル重合した構造の繰返し単位を加水分解(けん化ともいう。)することにより生成し得る。」
(ウ)「[0051]
分散剤VAの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されず、例えば2000以上であってよく、5000より大であってもよい。分散性向上効果を適切に発揮しやすくする観点から、分散剤VAのMwは、7000以上であってもよく、1×104以上であってもよく、1.2×104以上であってもよい。一態様において、Mwが2×104以上、例えば3×104以上、または5×104以上、または7×104以上の分散剤VAを好ましく採用し得る。また、分散剤VAのMwは、通常、100×104以下が適当であり、例えば50×104以下であってよく、30×104以下であってもよく、20×104以下であってもよい。より高い分散性向上効果を得る観点から、一態様において、Mwが17×104以下、例えば15×104以下の分散剤VAを好ましく採用し得る。
・・・
[0088] (濃縮液)
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態であってもよい。上記濃縮された形態とは、研磨液の濃縮液の形態であり、研磨液の原液としても把握され得る。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は特に限定されず、例えば、体積換算で2倍〜100倍程度とすることができ、通常は5倍〜50倍程度が適当であり、例えば10倍〜40倍程度であり得る。」
(エ)「[0098]<研磨用組成物の調製>
(実施例1)
イオン交換水中に、BET径が25nmのコロイダルシリカを0.175%、Mwが9000のPEO−PPO−PEOブロック共重合体を0.00125%、アンモニアを0.005%の濃度でそれぞれ含み、さらにMwが25×104のヒドロキシエチルセルロース(HEC)を0.0085%、Mwが13000のポリビニルアルコール(PVA、けん化度95%以上)を0.0003%の濃度でそれぞれ含む研磨用組成物を調製した。
[0099] (実施例2)
実施例1において、Mwが13000のPVAに代えて、Mwが106000のPVAを使用した。その他の点は実施例1と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。
[0100] (実施例3)
実施例1において、PVAに代えて、けん化度95%以上のポリビニルアルコール(PVA)を主鎖とし、ポリビニルピロリドン(PVP)を側鎖とする、Mwが175000のグラフト共重合体(以下「PVA−g−PVP」と表記する。)を使用した。その他の点は実施例1と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。
[0101]
(実施例4)
実施例1において、PVAの濃度を0.0002%に変更した。また、Mwが600のポリエチレングリコール(PEG)を0.0001%の濃度でさらに含有させた。その他の点は実施例1と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。
[0102] (実施例5)
イオン交換水中に、BET径が25nmのコロイダルシリカを0.088%、Mwが400のポリオキシエチレンデシルエーテルを0.0006%、アンモニアを0.006%の濃度でそれぞれ含み、さらにMwが25×104のHECを0.0075%、Mwが106000のポリビニルアルコール(PVA、けん化度95%以上)を0.004%の濃度でそれぞれ含む研磨用組成物を調製した。」
エ 甲B1には次の記載がある。
(ア)「【0050】
なお、上記において説明した各成分の含有量は、使用時における含有量であるが、本実施形態の研磨液組成物は、その安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存および供給されてもよい。この場合、製造および輸送コストをさらに低くできる点で好ましい。濃縮液は、必要に応じて前述の水系媒体で適宜希釈して使用すればよい。
・・・
【0067】
<ポリ(N-アシルアルキレンイミン)の合成>
硫酸ジエチルと2−オキサゾリン系化合物とを脱水した酢酸エチルに溶解し、窒素雰囲気下で加熱還流し、表1の実施例1〜19に示した重合体を合成した。
【0068】
(1)研磨液組成物の調整
研磨材(コロイダルシリカ)、重合体、28%アンモニア水(キシダ化学(株)試薬特級)、およびイオン交換水を攪拌混合して得た研磨液組成物の濃縮液(pH10.0〜11.0)を、イオン交換水で20倍希釈して、pH10.0〜11.0の研磨液組成物を得た。上記研磨液組成物中のシリカ粒子の含有量および重合体の含有量は表1に示すとおりとした。また、各濃縮液中のアンモニアの含有量は0.4重量%とした。濃縮液の残部は、アンモニア水中の水とイオン交換水である。
【0069】
(2)研磨方法
得られた研磨液組成物を用いて、下記の研磨条件で下記研磨対象を20分間研磨した。
<研磨対象>2インチシリコン片面鏡面ウエハ(二段研磨終了後のもの、厚さ0.7mm)を4cm×4cmに切断して使用
<研磨条件>
研磨機:片面研磨機MA-300(武蔵野電子(株)製、プラテン直径300mm)
研磨パッド:SUPREME RN H(Nitta Haas製)
回転盤回転数:90r/min(線速度45m/min)
プラテン回転数:16r/min
研磨液組成物供給量:15ml/min(回転盤中心に供給)
研磨荷重:100g/cm2
研磨時間:15min
【0070】
上記研磨条件で研磨されたウエハを、ウエハジェット洗浄機WJS−150B(エムテック(株)製)を用いて洗浄した後、乾燥させた。具体的には、イオン交換水を用いたスピンリンス(回転速度1500rpm、30秒間)、イオン交換水を用いたスクラブリンス(回転速度100rpm、60秒間)、イオン交換水を用いたスピンリンス(回転速度1500rpm、30秒間)をこの順で行った後、スピン乾燥(回転速度3000rpm、30秒間)を行った。
【0071】
(3)評価方法
<研磨速度の評価>
実施例1〜19及び比較例1〜4の研磨液組成物を用いたときの研磨速度は、以下の方法で評価した。まず、研磨前後の各シリコンウエハの重さを計り(Sartorius社製「BP−210S」)を用いて測定し、得られた重量差をシリコンウエハの密度、面積および研磨時間で除して、単位時間当たりの片面研磨速度を求めた。なお、表1には、比較例1の研磨液組成物を用いた場合の片面研磨速度を「1.00」として、他の研磨液組成物を用いた場合の研磨速度を相対値で示した。
【0072】
<通液量の評価>
1.通液量の測定条件
(1)吸引圧力設定手段:水循環式アスピレーター(「CIRCULATING ASPIRATOR WJ−15」、柴田科学器械工業社製)を用い、アスピレーターと吸引濾過器との間(吸引濾過器から20cm離れた位置)に圧力計を接続して、濾過中の圧力を−100kPaに調整した。
(2)吸引濾過器:減圧濾過用フィルターホルダー(型番:KGS−47、アドバンテック東洋株式会社製)付の1L吸引瓶
(3)フィルター:メンブランフィルター(「H050A047A」、アドバンテック東洋株式会社製)材質:親水性PTFE、孔径:0.5μm、厚さ:35μm、ろ過面積:17.3cm2(直径=47mm)
(4)通液時間:1分(300gの研磨液組成物を2秒間で上記フィルター上のファンネルに投入し終わった時点から1分)
(5)通液量:通液1分後の吸引瓶中の研磨液組成物の重量(g)をフィルターのろ過面積で除して求めた。」
(イ)「【0073】
【表1】


オ 甲B3には次の記載がある。
(ア)「[請求項1]
レーザーマークが付されたウェハーのレーザーマーク周辺部の隆起を解消するための研磨用組成物であって、該研磨用組成物は水溶性化合物とキレート剤と金属酸化物粒子とを含み、且つ7〜12のpHを有し、該水溶性化合物は疎水性部分と親水性部分とを有し、該親水性部分は、その末端もしくは側鎖にヒドロキシル基と、ヒドロキシアルキル基、アシルオキシ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、又はスルホン酸塩基とを有し、該水溶性化合物は研磨用組成物中で5〜700ppmの含有量となる上記研磨用組成物。
[請求項2]
前記金属酸化物粒子が、5〜100nmの平均一次粒子径を有するシリカ粒子、ジルコニア粒子、又はセリア粒子である請求項1に記載の研磨用組成物。
[請求項3]
前記水溶性化合物の疎水性部分は、グルコース構造、アルキレン基、アルキレンオキシド基、又はその繰り返し単位を有するものである請求項1に記載の研磨用組成物。
[請求項4]
前記水溶性化合物が、下記式(1)、式(2)、又は式(3):
[化1]



(式中、n1は1〜5の整数、n2は100〜10000の整数、n3は1〜30の整数、R1は−OCOCH3基、−COOH基、−COOM基、−SO3H基、又は−SO3M基を示し、MはNa、K、又はNH4を示し、式(3−1)の単位構造の数n4と、式(3−2)の単位構造の数n5との合計n4+n5は100〜10000の整数を示す。)の単位構造を有する化合物である請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の研磨用組成物。」
(イ)「[0019] 本発明に用いられるシリカ粒子は、窒素吸着法から求められる平均一次粒子径が5〜100nmのコロイダルシリカであることが好ましい。平均一次粒子径が5nmより小さいと研磨速度が低くなる可能性があり、またシリカ粒子の凝集が起こりやすいために研磨液組成物の安定性が低くなる。平均一次粒子径が100nmより大きいとウェハー表面にスクラッチが発生しやすく、また研磨面の平坦性は悪くなる可能性がある。」
(ウ)「[0033] 式(3)の単位構造を有する水溶性化合物、即ち式(3−1)及び式(3−2)の繰り返し単位(単位構造)を有する水溶性化合物はポリマーであって、変性ポリビニルアルコールである。式(3−2)において、R1はアセトキシ基、カルボン酸基(カルボキシル基)、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基である。カルボン酸、及びスルホン酸は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の水溶液で中和する事によりNa+、K+、NH4+等の対イオンを導入する事ができる。アセトキシ基の導入はポリビニルアルコールに酢酸を反応させ、ヒドロキシル基の水素原子をアセチル基で置き換える事でアルキレン骨格にアセトキシ基を導入する事ができる。カルボン酸基やスルホン酸基は、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸と、ビニルアルコールとを共重合させることで導入する事ができる。アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸と、ビニルアルコールとはブロック共重合でも、ランダム共重合でも可能である。また、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸と、酢酸ビニルとを共重合させ、その後アセチル基の一部又は全部を加水分解させることで、カルボン酸基やスルホン酸基を導入した式(3)の単位構造を有する水溶性化合物を得る事ができる。ヒドロキシル基を有するアルキレン単位(式(3−1))と、R1のアセトキシ基、カルボン酸基(カルボキシル基)、カルボン酸塩基、スルホン酸基、又はスルホン酸塩基を有するアルキレン単位(式(3−2))とは、それらがブロック体でも、ランダム体でも存在するが、一般的にランダム共重合体を好ましく用いることができる。式(3)の変性ポリビニルアルコール中で式(3−1)の単位構造の数n4と、式(3−2)の単位構造の数n5との合計n4+n5は100〜10000の整数を示す事ができる。
[0034] ポリアルキレン骨格の側鎖のヒドロキシル基は、R1のアセトキシ基、カルボン酸基(カルボキシル基)、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基による変換により親水性を付与することができ、その一部又は全部を変換することが可能であるが、全体の50モル%以上を変換する事が好ましい。
[0035] これらの水溶性化合物(ポリマー)はアセトキシ基導入ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール(株)製、商品名JP−03、平均分子量1万5千)、スルホン酸塩基導入ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)、商品名L−3266、平均分子量2万)、カルボン酸塩基導入ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)、商品名T−330、平均分子量14万)が挙げられる。特にスルホン酸塩基導入ポリビニルアルコールとカルボン酸塩基導入ポリビニルアルコールが好ましい。」
(エ)「実施例
[0043] 市販のシリコンウェハーを以下の方法で研磨した。
1)キレート剤と金属酸化物粒子とを含む組成物の調製
窒素吸着法から求められる平均一次粒子径40nmのコロイダルシリカ(シリカゾルに基づくシリカ粒子)0.33質量%と、塩基性化合物(アルカリ成分)として、水酸化アンモニウム25ppm、キレート剤として、エチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウム(試薬)110ppm、各種添加剤を下記表1に示す割合で添加し、残部は水となるようなキレート剤と金属酸化物粒子とを含む組成物(A)を製造した。
組成物(A)と同様に各成分の添加を行い、各組成物を作成した。上記組成物(A)中において、平均一次粒子径40nmのコロイダルシリカ(シリカゾルに基づくシリカ粒子)の含有量(質量%)、塩基性物質の種類と含有量(ppm)、キレート剤の種類と含有量(ppm)を以下表1に示す割合に変更して同様に組成物(B)〜(J)を作成した。
表中、エチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウムはEDTA、水酸化アンモニウムはNH4OH、水酸化カリウムはKOH、水酸化エチルトリメチルアンモニウムはETMAHで示す。
[0044]
[表1]

[0045] 2)研磨条件
研磨機:浜井産業社製両面研磨機13BF
荷重:150g/cm2
上定盤回転数:7rpm
下定盤回転数:20rpm
研磨パッド:発泡ポリウレタン製研磨パッド
研磨希釈液の供給量:6.0L/分
研磨時間:5分
シリコンウェハー:直径200mm、伝導型P型、結晶方位が<100>、抗率が100Ω・cm未満
3)洗浄条件
水洗浄を行った後、40℃に加温したSC1洗浄液(29%アンモニア水:30%過酸化水素水:水の重量比=1:1:28の洗浄液)で洗浄し、ウェハー表面の不純物を除去した。
4)レーザーマーク高さの測定方法
(株)ニコンインステック社製光干渉顕微鏡システムBW−M7000を用い、一定幅(500μm)をスキャンして得られる粗さ曲線に対し、ウェハー表面の最も高い部分と最も低い部分の高さの差分を測定した。
[0046]<実施例1>
上記組成物の調製で調製した組成物(A)に、水溶性化合物としてヒドロキシエチルセルロース(平均分子量60万、ダイセルファインケム(株)社製、商品名SE−400)を添加量が研磨用組成物中に100ppmとなるように加え、実施例1の研磨用組成物を製造した。該研摩用組成物を用いてシリコンウェハーを5分間研磨した。引き続きシリコンウェハーを洗浄し、レーザーマーク高さの測定を行った。研磨前のレーザーマーク周辺部の高さが151nmであったものが、研磨後にレーザーマーク高さは0nmとなり、良好な結果を得た。研磨速度は0.06μm/分であった。
[0047]<実施例2〜20、比較例1〜5>
下記表2に示す様に、実施例1と同様に各組成物に水溶性化合物の添加を行い各実施例2〜20及び各比較例1〜5の研磨用組成物を作成した。各実施例において使用した上記組成物の種類と、研磨用組成物中での水溶性化合物の種類と濃度(ppm)を下表2に示した。実施例1〜実施例20、比較例1〜5の研磨用組成物のpHは、使用した組成物(A)〜(J)のpHと同じであった。
下表2では、ヒドロキシエチルセルロース(平均分子量60万、ダイセルファインケム(株)社製、商品名SE−400)を水溶性化合物(a)、
ヒドロキシエチルセルロース(平均分子量120万、住友精化(株)製、商品名CF−X)を水溶性化合物(b)、
グリセリン(阪本薬品工業(株)社製、商品名精製グリセリン)を水溶性化合物(c)、
ポリグリセリン(平均分子量750、阪本薬品工業(株)社製、商品名ポリグリセリン♯750)を水溶性化合物(d)、
スルホン酸基変性ポリビニルアルコール(平均分子量2万、日本合成化学工業(株)社製、商品名L−3266)を水溶性化合物(e)、
カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(平均分子量14万、日本合成化学工業(株)社製、商品名T−330)を水溶性化合物(f)、
変性ポリグリセリン(阪本薬品工業(株)社製、ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテル、商品名SC−E1500、ポリグリセリンのヒドロキシル基の水素原子を、ヒドロキシエチル基に変換した。)を水溶性化合物(g)、
変性ポリグリセリン(阪本薬品工業(株)社製、カプリル酸エステル、商品名MCA750、ポリグリセリンのヒドロキシル基とカプリル酸とを反応させた。)を水溶性化合物(h)、
変性ポリグリセリン(阪本薬品工業(株)社製、ポリオキシプロピレンポリグリセリルエーテル、商品名SC−E1600、ポリグリセリンのヒドロキシル基の水素原子を、1−メチルヒドロキシエチル基に変換した。)を水溶性化合物(i)、
ポリビニルアルコール(平均分子量3500、試薬)を水溶性化合物(j)とした。
[0048]
[表2]

[0049] 各実施例において、研磨試験の条件と研磨試験結果を下表3に示す。
[表3]

[0050] 研磨速度の値はシリコンウェハーの研磨速度を求めたものであるが、シリコンウェハー上での研磨速度の大小はレーザーマーク周辺部の隆起の解消(研磨)に必ずしも関連するものではない。レーザーマーク周辺部の隆起部分が水溶性化合物の親水性部分とのコンタクトにより、効率的に研磨成分と接触でき、その隆起部分が研磨されたものと考えられる。これはシリコンウェハー用の公知の研磨用組成物からは、レーザーマーク周辺部の隆起を解消する研磨用組成物を予期できないことを示すものである。」
(2)4%水溶液粘度についての技術常識が示された甲号証の記載事項
ア 甲A2には次の記載がある。
(ア)137頁1〜13行(空行は除く)
「1.市販ポバールの種類
・・・当社の場合を例にとると,表1のように,基幹銘柄のみで十数銘柄,細かく分類すると100銘柄以上になっている。
ポバールの基本的な性質は重合度と鹸化度によって支配される。図1に世界中のポバールの主要メーカーであるDu Pont,Hoechst,Airco,Shawinigan,Wacker,Rhone,Poulenc,Borden,Revertex,日本合成,各社の市販ポバールを当社のものと比較して,鹸化度と重合度(4%水溶液粘度)に関して整理したものを示した。」
(イ)137頁14〜139頁1行
「市場に出廻っているポバールの種類は非常に多いが,図1のように鹸化度,重合度別に分類してみると,十数種類にグループ分けされる。先ず鹸化度についてみると,鹸化度98%以上の完全鹸化ポパールと称せられるグループと,鹸化度87〜89%の一般に部分鹸化ポパールと呼ばれるグループに大別され,部分鹸化ボパールには鹸化度80%程度のサプグループがある。一方,重合度について4%水溶液粘度(20℃)をベースにしてみると,5 cps程度の低重合度グループと20〜30cpsの中重合度グループと,高重合度グループとしては40〜50cpsのものが主体をなし,一部に60cps程度のサブグループがある。中重合度と低重合度グループの中間に10〜20cspのサブグループが一部ある。重合度で示すと,500,1700,2000程度の主グループと,1000,2400のサブグループに分類される。以上のように大別すると市販ポバールの銘柄は3種類の鹸化度と4〜5種類の重合度のものに集約される。」
(ウ)138頁表1「


(エ)139頁図1「


イ 甲A3には次の記載がある。
(ア)一般銘柄のタブ



(イ)2頁左欄
「<クラレポバール>の品質規格と用途
銘柄の始めの数字はけん化度の分類を表し、次の二つの数字に100を掛けたものが重合度の目安を表します。
(例)
PVA−117 初めの数字1…けん化度(約98.0%〜99.0mol%)
17×100=1700…重合度
PVA−205 初めの数字2…けん化度(約87.0〜89.0mol%)
05×100=500…重合度」
ウ 甲B4の記載事項
(ア)12頁
「II.「クラレポバール」一般銘柄の品質規格と用途


(イ)14頁「


(ウ)18頁
「III−1.「クラレポバール」変性銘柄の品質規格と用途
ポバールは共重合などにより、さまざまな改良・改質がされています。
次に「クラレポバール」変性銘柄の紹介をします。


(エ)23頁
「IV−3.旧銘柄名との対比一覧表


エ 甲B6の記載事項
(ア)「【0064】
−立体造形用粉末材料1の調製−
−−コート液1の調製−−
表1に示すように、前記有機材料(表1において「No.1」)として水溶性樹脂である無変性の部分けん化ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA−205C、平均重合度500、けん化度88.0mol%)6質量部に、水114質量部を混合し、ウォーターバス中で80℃に加熱しながら、スリーワンモーター(新東科学株式会社製、BL600)を用いて1時間攪拌し、前記ポリビニルアルコールを前記水に溶解させ、5質量%のポリビニルアルコール水溶液120質量部を調製した。こうして得られた調製液をコート液1とした。
なお、前記ポリビニルアルコールの4質量%(w/w%)水溶液の20℃における粘度を粘度計(ブルックフィールド社製回転粘度計、DV−E VISCOMETER HADVE115型)を用いて測定したところ、表1に示すとおり、5.0mPa・s〜6.0mPa・sであった。」
(イ)「【0087】
(実施例11)
実施例10において、水溶性樹脂をカルボキシル基変性ポリビニルアルコール(ゴーセネックスT−330、日本合成化学工業株式会社製)に変更した以外は、実施例10と同様にして、立体造形物11を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示した。」
(ウ)「【0101】
【表1】(当審注:一部のみを示した)


オ 甲B7には次の記載がある。
(ア)ウェブページ冒頭
「特殊銘柄
アニオン性PVOH Tシリーズ
ゴーセネックスTM Tシリーズ
分子内にカルボキシル基を有するアニオン性の特殊変性PVOHです。」
(イ)ゴーセネックスTM Tの品質と規格の項
「ゴーセネックスTM Tの品質と規格


(3)甲A1を主引用例とする検討
ア 甲A1発明の認定
(ア)前記(1)ア(ウ)に摘記した甲A1の段落[0128]の[表1]中のスラリーKの欄に注目すると、水溶性高分子として、Mwが10.56×104のPVAを0.00250wt%、Mwが4.5×104のPVPを0.00125wt%含有し、さらに、砥粒を0.225wt%、塩基化合物としてKOHを0.011wt%、界面活性剤としてC10PEO5を0.000075wt%含有するスラリーKが読み取れる。
(イ)前記(1)ア(ウ)に摘記した甲A1の段落[0124]には、前記スラリーKのPVAのけん化度は98モル%以上であり、砥粒がコロイダルシリカ(BET径35nm)であり、C10PEO5は、ポリオキシエチレンデシルエーテルであると記載されている。
(ウ)また、前記(1)ア(イ)に摘記した甲A1の段落[0023]からスラリーKは、シリコン基板を研磨するためのスラリーであることが読み取れる。
(エ)以上から、甲A1には次の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されていると認定できる。
「水溶性高分子として、Mwが10.56×104、けん化度が98%モル以上のPVA(ポリビニルアルコール)を0.00250wt%、PVP(ポリビニルピロリドン)を0.00125wt%含有し、さらに、砥粒としてコロイダルシリカ(BET径35nm)を0.225wt%を含有し、塩基化合物としてKOHを0.011wt%含有し、界面活性剤としてポリオキシエチレンデシルエーテルを0.000075wt%含有するシリコン基板の研磨用スラリー。」
イ 本件発明1との対比・判断
(ア)対比
甲A1発明の「ポリビニルアルコール」は、本件発明1の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当する。また、甲A1発明に係る「研磨用スラリー」について、甲A1発明には「酸化セリウム」が含まれないから、本件発明1の「研磨用組成物(ただし、酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物を除く)」に相当する。
(イ)一致点
そうすると、本件発明1と甲A1発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む研磨用組成物(ただし、酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物を除く)」である点。
(ウ)相違点A1−1
本件発明1と甲A1発明との相違点(以下「相違点A1−1」という。)は、次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明1においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A1発明においては、「Mwが10.56×104、けん化度が98モル%以上のポリビニルアルコール」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
a 甲A1発明のポリビニルアルコールの分子量は、105600ダルトンであって、ポリビニルアルコールの繰り返し単位(−CH2CHOH−)のダルトン数44を考慮すると、甲A1発明のポリビニルアルコールの重合度は、2400となる。
b ここで、前記(2)ア(イ)に摘記した甲A2の記載を参照する。「重合度について4%水溶液粘度(20℃)をベースにしてみると,5cps程度の低重合度グループと20〜30cpsの中重合度グループと,高重合度グループとしては40〜50cpsのものが主体をなし,一部に60cps程度のサブグループがある。」及び「重合度で示すと,500,1700,2000程度の主グループと,1000,2400のサブグループに分類される。」という2つの記載を対比すると、重合度が2400の場合には、20℃における4%水溶液粘度が60cps(センチポイズ)となることが理解できる。
c そうすると、甲A1発明のポリビニルアルコールの20℃における4%粘度は、60cps=60mPa・s程度と推認できる。
d よって、本件発明1における「15mPa・s以上3000mPa・s以下」という特定は、当業者が容易になし得ることである。
(オ)したがって、本件発明1は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
ウ 本件発明2との対比・判断
(ア)対比
甲A1発明の「ポリビニルアルコール」は、本件発明2の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当する。また、甲A1発明に係る「研磨用スラリー」は、本件発明2の「研磨用組成物」に相当する。そして、甲A1発明の「シリコン基板」は、単結晶のシリコンインゴットをスライスして得られるものであることは技術常識であるから、甲A1発明の「シリコン基板の研磨用スラリー」は、本件発明2の「単結晶シリコン基板の研磨用組成物」に相当する。
(イ)一致点
そうすると、本件発明2と甲A1発明の一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む単結晶シリコン基板の研磨用組成物」である点。
(ウ)相違点A1−2
本件発明2と甲A1発明との相違点(以下「相違点A1−2」という。)は、次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明2においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A1発明においては、「Mwが10.56×104、けん化度が98モル%以上のポリビニルアルコール」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
相違点A1−2は、相違点A1−1と同じであるから、前記イ(エ)の検討と同様に、本件発明2は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の記載により特許を受けることができない発明である。
エ 本件発明3との対比・判断
(ア)対比
甲A1発明の「ポリビニルアルコール」は、本件発明3の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当する。また、甲A1発明に係る「研磨用スラリー」は、本件発明3の「研磨用組成物」に相当する。
(イ)一致点
そうすると、本件発明3と甲A1発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む研磨用組成物」である点。
(ウ)相違点A1−3
本件発明3と甲A1発明との相違点(以下「相違点A1−3」という。)は、次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明3においては「20℃における4%水溶液粘度が60mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A1発明においては、「Mwが10.56×104、けん化度が98モル%以上のポリビニルアルコール」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
a 甲A1発明のポリビニルアルコールの分子量は、105600ダルトンであって、ポリビニルアルコールの繰り返し単位(−CH2CHOH−)のダルトン数44を考慮すると、甲A1発明のポリビニルアルコールの重合度は、2400となる。
b ここで、前記(2)ア(イ)に摘記した甲A2の記載を参照する。「重合度について4%水溶液粘度(20℃)をベースにしてみると,5cps程度の低重合度グループと20〜30cpsの中重合度グループと,高重合度グループとしては40〜50cpsのものが主体をなし,一部に60cps程度のサブグループがある。」及び「重合度で示すと,500,1700,2000程度の主グループと,1000,2400のサブグループに分類される。」という2つの記載を対比すると、重合度が2400の場合には、20℃における4%水溶液粘度が60cps(センチポイズ)となることが理解できる。
c そうすると、甲A1発明のポリビニルアルコールの20℃における4%水溶液粘度は、60cps=60mPa・s程度と推認できる。
d ここで、前記(2)ア(ウ)に摘記した甲A2の表1によると、けん化度98モル%以上かつ粘度60cpsを充足するポバールの銘柄は、PVA124であって、甲A1発明におけるポリビニルアルコールとして、PVA124を採用することは当業者が容易になし得ることである。
e その場合の粘度は、甲A2によると55.0〜67.0cpsであり、甲A3によると54.0〜66.0mPa・sであり、甲B4の23頁によるとPVA124は、新銘柄が「60−98」とされ、同12頁の表によると54.0〜66.0mPa・sとされており、いずれの情報によっても60mPa・s以上である蓋然性が高いものである。
f そうすると、本件発明3における「60mPa・s以上3000mPa・s以下」という特定は、当業者が容易になし得ることである。
(オ)したがって、本件発明3は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
オ 本件発明4〜14との対比・判断
本件発明4〜14において特定された事項は、いずれも甲A1発明も有しており新たな相違点は生じないから、本件発明1〜3と同様に本件発明4〜14は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
カ 本件発明15〜16との対比・判断
本件発明15、16に係る研磨物の製造方法は、甲A1発明にかかる研磨用スラリーを、前記(1)ア(イ)に摘記した甲A1の段落[0104][0105]の示唆にしたがって、研磨に用いることにより当業者が容易に想到できることである。
(4)甲A4を主引用例とする検討
ア 甲A4発明の認定
(ア)前記(1)イ(ウ)に摘記した甲A4の段落【0050】、【0051】及び【0057】の【表2】中の試験例8に注目すると、「成分(A)としてブロック形ポリエーテルを0.05質量%、成分(B)としてコロイダルシリカを10質量%、成分(C)として塩基性成分としてのアンモニア(アンモニア29質量%水溶液)を1.0質量%、成分(D)としてHEC及びPVAの混合物を用い、その混合物中のPVAの数平均分子量が105,000及びけん化度98%であり、研磨用組成物中のPVAの含有量が0.2質量%であり、(E)成分として水を100質量%となるまで含有する研磨用組成物」が記載されていると認められる。
(イ)そして、同甲A4の段落【0052】から、この研磨用組成物は、シリコンウエハを研磨する用途に用いるものであることが読み取れる。
(ウ)甲A4発明
そうすると、甲A4から次の発明(以下「甲A4発明」という。)が読み取れる。
「成分(A)としてブロック形ポリエーテルを0.05質量%、成分(B)としてコロイダルシリカ(DN4=70nm)を10質量%、成分(C)として塩基性化合物としてのアンモニア(アンモニア29質量%水溶液)を1.0質量%、成分(D)としてHEC及びPVAの混合物を用い、その混合物中のPVAの数平均分子量が105,000及びけん化度98%であり、研磨用組成物中のPVAの含有量が0.2質量%であり、(E)成分として水を100質量%となるまで含有するシリコンウエハ研磨用組成物」
イ 本件発明1との対比・判断
(ア)対比
甲A4発明の「PVA」は、本件発明1の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当する。また、甲A4発明に係る「研磨用組成物」について、甲A4発明には「酸化セリウム」が含まれないから、本件発明1の「研磨用組成物(ただし、酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物を除く)」に相当する。
(イ)一致点
そうすると、本件発明1と甲A4発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む研磨用組成物(ただし、酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物を除く)」である点。
(ウ)相違点A4−1
本件発明1と甲A4発明との相違点(以下「相違点A4−1」という。)は、次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明1においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A4発明においては、「数平均分子量が105,000、けん化度が98%のポリビニルアルコール」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
a 甲A4発明のPVAの分子量は、105000ダルトンであって、ポリビニルアルコールの繰り返し単位(−CH2CHOH−)のダルトン数44を考慮すると、甲A4発明のポリビニルアルコールの重合度は、2386となる。
b 甲A4発明における重合度2386は、甲A1発明における重合度2400ときわめて近いから、前記(3)イ(エ)における検討と同様に、甲A4発明におけるPVAの20℃における4%水溶液粘度は60mPa・s程度と認められる。
c そうすると、本件発明1における「15mPa・s以上3000mPa・s以下」という特定は、当業者が容易になし得ることである。
(オ)したがって、本件発明1は、甲A4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
ウ 本件発明2との対比・判断
(ア)対比
甲A4発明の「PVA」は、本件発明2の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当する。そして、甲A4発明の「シリコンウエハ」は、単結晶のシリコンインゴットをスライスして得られるものであることは技術常識であるから、甲A4発明の「シリコンウエハ研磨用組成物」は、本件発明2の「単結晶シリコン基板の研磨用組成物」に相当する。
(イ)一致点
そうすると、本件発明2と甲A4発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む単結晶シリコン基板の研磨用組成物」である点。
(ウ)相違点A4−2
本件発明2と甲A4発明との相違点(以下「相違点A4−2」という。)は、次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明2においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A4発明においては、「数平均分子量が105,000、けん化度が98%以上のポリビニルアルコール」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
相違点A4−2は、相違点A4−1と同じであるから、前記イ(エ)の検討と同様に、本件発明2は、甲A4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の記載により特許を受けることができない発明である。
エ 本件発明3との対比・判断
(ア)対比
甲A4発明の「PVA」は、本件発明3の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当する。また、甲A4発明に係る「シリコンウエハ研磨用組成物」は、本件発明3の「研磨用組成物」に相当する。
(イ)一致点
そうすると、本件発明3と甲A4発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む研磨用組成物」である点。
(ウ)相違点A4−3
本件発明3と甲A4発明との相違点(以下「相違点A4−3」という。)は、次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明3においては「20℃における4%水溶液粘度が60mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A4発明においては、「数平均分子量が105,000、けん化度が98%以上のポリビニルアルコール」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
a 甲A4発明のPVAの分子量は、105000ダルトンであって、ポリビニルアルコールの繰り返し単位(−CH2CHOH−)のダルトン数44を考慮すると、甲A4発明のポリビニルアルコールの重合度は、2386となる。
b 前記(3)ア(エ)aにおいて検討したように、甲A1発明における重合度は2400であるが、甲A4発明における重合度とは微差であるから、前記(3)ア(エ)〜(オ)における検討と同様に、本件発明3は甲A4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
オ 本件発明4〜14との対比・判断
本件発明4〜14において特定された事項は、いずれも甲A4発明も有しており、新たな相違点は生じないから、本件発明1〜3と同様に本件発明4〜14は、甲A4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
カ 本件発明15〜16との対比・判断
本件発明15、16に係る研磨物の製造方法は、甲A4発明に係る研磨用組成物を、前記(1)イ(イ)に摘記した甲A4の段落【0043】の「実際の研磨工程時に希釈して使用することもできる。前記各成分の含有量は、容易に貯蔵又は輸送等できるように予め比較的高濃度な研磨用組成物を調製する場合について記載したものであり、通常、使用時に成分(E)と同等の水で希釈して使用される。」という示唆にしたがって、研磨に用いることにより当業者が容易に想到できることである。
(5)甲A5を主引用例とする検討
ア 甲A5発明の認定
(ア)前記(1)ウ(エ)に摘記した甲A5の段落[0102]に記載された実施例5に注目すると、「コロイダルシリカ(BET径25nm)を0.088質量%、Mwが400のポリオキシエチレンデシルエーテルを0.0006質量%、アンモニアを0.006質量%、Mwが25×104のHECを0.0075質量%、Mwが106000のポリビニルアルコール(PVA、けん化度95%以上)を0.004質量%含有する研磨用組成物」が記載されていることが読み取れ、残部がイオン交換水であることも読み取れる。(イ)前記(1)ウ(ア)に摘記した甲A5の請求項9の記載から、研磨用組成物は、シリコンウエハを研磨する用途であることが読み取れる。
(ウ)そうすると、甲A5から次の発明(以下「甲A5発明」という。)が読み取れる。
「コロイダルシリカ(BET径25nm)を0.088質量%、Mwが400のポリオキシエチレンデシルエーテルを0.0006質量%、アンモニアを0.006質量%、Mwが25×104のHECを0.0075質量%、Mwが106000のポリビニルアルコール(PVA、けん化度95%以上)を0.004質量%含有し、残部がイオン交換水からなるシリコンウエハ研磨用組成物」
イ 本件発明1との対比・判断
(ア)対比
甲A5発明の「ポリビニルアルコール」は、本件発明1の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当する。また、甲A5発明に係る「研磨用組成物」について、甲A5発明には「酸化セリウム」が含まれないから、本件発明1の「研磨用組成物(ただし、酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物を除く)」に相当する。
(イ)一致点
そうすると、本件発明1と甲A5発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む研磨用組成物(ただし、酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物を除く)」である点。
(ウ)相違点A5−1
本件発明1と甲A5発明との相違点(以下「相違点A5−1」という。)は、次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明1においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A5発明においては、「Mwが106000、けん化度が95%以上のポリビニルアルコール」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
a 甲A5発明のポリビニルアルコールのMwは、106000ダルトンであって、ポリビニルアルコールの繰り返し単位(−CH2CHOH−)のダルトン数44を考慮すると、甲A5発明のポリビニルアルコールの重合度は、2409となる。
b 甲A5発明における重合度2409は、甲A1発明における重合度2400ときわめて近いから、前記(3)イ(エ)における検討と同様に、甲A5発明におけるPVAの20℃における4%水溶液粘度は60mPa・s程度と認められる。
c そうすると、本件発明1における「15mPa・s以上3000mPa・s以下」という特定は、当業者が容易になし得ることである。
(オ)したがって、本件発明1は、甲A5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
ウ 本件発明2との対比・判断
(ア)対比
甲A5発明の「ポリビニルアルコール」は、本件発明2の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当する。そして、甲A5発明の「シリコンウエハ」は、単結晶のシリコンインゴットをスライスして得られるものであることは技術常識であるから、甲A5発明の「シリコンウエハ研磨用組成物」は、本件発明2の「単結晶シリコン基板の研磨用組成物」に相当する。
(イ)一致点
そうすると、本件発明2と甲A5発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む単結晶シリコン基板の研磨用組成物」である点。
(ウ)相違点A5−2
本件発明2と甲A5発明との相違点(以下「相違点A5−2」という。)は、次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明2においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A5発明においては、「Mwが106000、けん化度が95%以上のポリビニルアルコール」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
相違点A5−2は、相違点A5−1と同じであるから、前記イ(エ)における検討と同様であり、相違点A5−2に係る本件発明2の構成は当業者が容易に想到しうることである。
(オ)したがって、本件発明2は、甲A5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
エ 本件発明3との対比・判断
(ア)対比
甲A5発明の「ポリビニルアルコール」は、本件発明3の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当する。そして、甲A5発明の「シリコンウエハ研磨用組成物」は、本件発明3の「研磨用組成物」に相当する。
(イ)一致点
そうすると、本件発明3と甲A5発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む研磨用組成物」である点。
(ウ)相違点A5−3
本件発明3と甲A5発明との相違点(以下「相違点A5−3」という。)は、次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明3においては「20℃における4%水溶液粘度が60mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A5発明においては、「Mwが106000、けん化度が95%以上のポリビニルアルコール」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
a 甲A5発明のポリビニルアルコールのMwは、106000ダルトンであって、ポリビニルアルコールの繰り返し単位(−CH2CHOH−)のダルトン数44を考慮すると、甲A5発明のポリビニルアルコールの重合度は、2409となる。
b 前記(3)ア(エ)aにおいて検討したように、甲A1発明における重合度は2400であるが、甲A5発明における重合度とは微差であるから、前記(3)ア(エ)〜(オ)における検討と同様に、本件発明3は甲A5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
オ 本件発明4〜14との対比・判断
本件発明4〜14において特定された事項は、いずれも甲A5発明も有しており、新たな相違点は生じないから、本件発明1〜3と同様に本件発明4〜14は、甲A5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
カ 本件発明15、16との対比・判断
本件発明15、16に係る研磨物の製造方法は、甲A5発明に係る研磨用組成物を、前記(1)ウ(ウ)に摘記した甲A5の段落[0088]の「ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態であってもよい。上記濃縮された形態とは、研磨液の濃縮液の形態であり、研磨液の原液としても把握され得る。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。」という示唆にしたがって、研磨に用いることにより当業者が容易に想到できることである。
(6)甲B1を主引用例とする検討
ア 甲B1発明の認定
(ア)対比
前記(1)エ(イ)に摘記した甲B1の段落【0073】の【表1】に記載された比較例2に注目し、前記(1)エ(ア)に摘記した甲B1の段落【0068】の調製方法を参照すると、当該比較例2は、「コロイダルシリカ2(脚注から平均一次粒子径38nm)を1.0重量%、分子量10万の完全鹸化ポリビニルアルコール(脚注からPVA−124、クラレ製)を0.005重量%、28%アンモニア水を0.4重量%を含有し、残部が水である研磨用組成物」であると読み取れる。
(イ)前記(1)エ(イ)に摘記した甲B1の段落【0069】の記載から、前記(ア)の研磨用組成物は、シリコンウエハを研磨するためのものと認められる。
(ウ)そうすると、甲B1から次の発明(以下「甲B1発明」という。)が読み取れる。
「コロイダルシリカ2(平均一次粒子径38nm)を1.0重量%、分子量10万の完全鹸化ポリビニルアルコールPVA−124を0.005重量%、28%アンモニア水を0.4重量%を含有し、残部が水であるシリコンウエハ研磨用組成物」
イ 本件発明1との対比・判断
(ア)対比
甲B1発明における「分子量10万の完全鹸化ポリビニルアルコールPVA−124」は、本件発明1の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当する。また、甲B1発明の「シリコンウエハ研磨用組成物」は、本件発明1の「研磨用組成物」に相当する。
(イ)一致点
そうすると、本件発明1と甲B1発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む研磨用組成物(ただし、酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物を除く)」である点。
(ウ)相違点B1−1
本件発明1と甲B1発明との相違点(以下「相違点B1−1」という。)は、次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明1においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲B1発明においては、「分子量10万の完全鹸化ポリビニルアルコールPVA−124」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
a PVA−124の20℃における4%水溶液粘度については、前記(2)ア(ウ)に摘記した甲A2の表1によると、55.0〜67.0cps(=mPa・s)である。
b PVA−124の20℃における4%水溶液粘度については、前記(2)イ(ア)に摘記した甲A3のグレード表によれば、54.0〜66.0mPa・sであると認められる。
c PVA−124は、前記(2)ウ(エ)に摘記した甲B4の表によると、その新銘柄は、「60−98」であると認められ、同(ア)に摘記した甲B4の表によると、4%20℃粘度が、54.0〜66.0mPa・sとされている。
(オ)いずれにせよ、その粘度は、本件発明1の「15mPa・s以上3000mPa・s以下」の範囲内であるから、相違点B1−1は実質的な相違点ではなく、本件発明1は甲B1発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。また、本件発明1は甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
ウ 本件発明2との対比・判断
(ア)対比
甲B1発明の「分子量10万の完全鹸化ポリビニルアルコールPVA−124」は、本件発明2の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当する。そして、甲B1発明の「シリコンウエハ」は、単結晶のシリコンインゴットをスライスして得られるものであることは技術常識であるから、甲B1発明の「シリコンウエハ研磨用組成物」は、本件発明2の「単結晶シリコン基板の研磨用組成物」に相当する。
(イ)一致点
そうすると、本件発明2と甲B1発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む単結晶シリコン基板の研磨用組成物」である点。
(ウ)相違点B1−2
本件発明2と甲B1発明との相違点(以下「相違点B1−2」という。)は、次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明2においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲B1発明においては、「分子量10万の完全鹸化ポリビニルアルコールPVA−124」と特定されている点。
(エ)上記イ(エ)における検討と同様に、相違点B1−2は実質的な相違点ではない。したがって、本件発明2は、甲B1発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定される発明に該当し、特許を受けることができない。また、本件発明2は甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
エ 本件発明3との対比・判断
(ア)対比
甲B1発明の「分子量10万の完全鹸化ポリビニルアルコールPVA−124」は、本件発明3の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当する。また、甲B1発明の「シリコンウエハ研磨用組成物」は、本件発明3の「研磨用組成物」に相当する。
(イ)一致点
そうすると、本件発明3と甲B1発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む研磨用組成物」である点。
(ウ)相違点B1−3
本件発明3と甲B1発明との相違点(以下「相違点B1−3」という。)は、次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明3においては「20℃における4%水溶液粘度が60mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲B1発明においては、「分子量10万の完全鹸化ポリビニルアルコールPVA−124」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
PVA−124の20℃における4%水溶液粘度については、前記(2)ア(ウ)に摘記した甲A2の表1によると、55.0〜67.0cps(=mPa・s)、前記(2)イ(ア)に摘記した甲A3のグレード表及び前記(2)ウ(ア)に摘記した甲B4の品質規格によれば、54.0〜66.0mPa・sであると認められる。
(オ)そして、それらの中央値は、甲A2では、61mPa・sであり、甲A3及び甲B4では、60mPa・sであって、いずれも本件発明3の下限値である60mPa・s又はそれを超えているから、甲B1発明を複数回追試すれば、必然的に本件発明3の特定事項を満たすことになる。
(カ)したがって、相違点B1−3は実質的な相違点ではなく、本件発明3は甲B1発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。また、本件発明3は甲B1発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
オ 本件発明4〜14との対比・判断
本件発明4〜14において特定された事項は、いずれも甲B1発明も有しているか、本願出願時周知の技術であるから、本件発明1〜3と同様に本件発明4〜14は、甲B1発明であるか、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第1項第3号の発明に該当するか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
カ 本件発明15、16との対比・判断
本件発明15、16に係る研磨物の製造方法は、甲B1発明に係る研磨用組成物を、前記(1)エ(ア)に摘記した甲B1の段落【0050】の「なお、上記において説明した各成分の含有量は、使用時における含有量であるが、本実施形態の研磨液組成物は、その安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存および供給されてもよい。この場合、製造および輸送コストをさらに低くできる点で好ましい。濃縮液は、必要に応じて前述の水系媒体で適宜希釈して使用すればよい。」という示唆にしたがって、研磨に用いることにより当業者が容易に想到できることである。
(7)甲B3を主引用例とする検討
ア 甲B3発明の認定
(ア)前記(1)オ(エ)に摘記した甲B3の段落[0048]の[表2]から、実施例9として、組成物(A)及び水溶性化合物として(f)を100ppm用いる例が読み取れる。
(イ)ここで、組成物(A)は、前記(1)オ(エ)に摘記した甲B3の段落[0043]の記載から「コロイダルシリカ(平均一次粒子径40nm)0.33質量%と水酸化アンモニウム25ppmとエチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウム110ppmと残部が水である組成物であると認められる。
(ウ)一方、水溶性化合物(f)は、同段落[0047]に「下表2では、・・・カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(平均分子量14万、日本合成化学工業(株)社製、商品名T−330)を水溶性化合物(f)」と記載されており、当該実施例9に用いられる組成物が、組成物(A)に水溶性化合物(f)を添加したものであることが読み取れる。
(エ)前記(1)オ(エ)に摘記した段落[0043]の「シリコンウエハーを・・研磨した」との記載から、前記組成物がシリコンウエハ研磨用組成物であることがわかる。
(オ)そうすると、甲B3から次の発明(以下「甲B3発明」という。)が把握できることになる。
「コロイダルシリカ(平均一次粒子径40nm)0.33質量%と水酸化アンモニウム25ppmとエチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウム110ppmとカルボキシル基変性ポリビニルアルコール(平均分子量14万、日本合成化学工業(株)社製、商品名T−330)100ppmを含有し、残部が水であるシリコンウエハ研磨用組成物」
イ 本件発明1との対比・判断
(ア)対比
甲B3発明の「カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(平均分子量14万、日本合成化学工業(株)社製、商品名T−330)」は、本件発明1の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当する。また、甲B3発明に係る「研磨用組成物」について、甲B3発明には「酸化セリウム」が含まれないから、本件発明1の「研磨用組成物(ただし、酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物を除く)」に相当する。
(イ)一致点
そうすると、本件発明1と甲B3発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む研磨用組成物(ただし、酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物を除く)」である点。
(ウ)相違点B3−1
本件発明1と甲B3発明との相違点(以下「相違点B3−1」という。)は、次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明1においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲B3発明においては、「カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(平均分子量14万、日本合成化学工業(株)社製、商品名T−330)」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
a 甲B3発明における「カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(平均分子量14万、日本合成化学工業(株)社製、商品名T−330)」は、前記(2)エ(イ)に摘記した甲B6の段落【0087】に記載された「(実施例11)・・・水溶性樹脂をカルボキシル基変性ポリビニルアルコール(ゴーセネックスT−330、日本合成化学工業株式会社製)に変更・・・」の水溶性樹脂と同じであると認められ、前記(2)エ(ウ)に摘記した甲B6の段落【0101】の【表1】の実施例11の行における粘度は、27.0〜33.0mPa・sとされている。
b 甲B3発明における「カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(平均分子量14万、日本合成化学工業(株)社製、商品名T−330)」は、前記(2)オ(イ)における表にT−330と表記されたゴーセネックスT−330と同じであると認められ、その20℃4%水溶液粘度は、27.0〜33.0mPa・sとされている。
(オ)前記のように甲B3発明のカルボキシル基変性ポリビニルアルコールの20℃4%水溶液粘度は、本件発明1の「15〜3000mPa・s」の範囲内であるから、相違点B3−1は実質的な相違点ではなく、本件発明1は甲B3発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。また、本件発明1は甲B3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
ウ 本件発明2との対比・判断
(ア)対比
甲B3発明の「カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(平均分子量14万、日本合成化学工業(株)社製、商品名T−330)」は、本件発明2の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当する。そして、甲B3発明の「シリコンウエハ」は、単結晶のシリコンインゴットをスライスして得られるものであることは技術常識であるから、甲B3発明の「シリコンウエハ研磨用組成物」は、本件発明2の「単結晶シリコン基板の研磨用組成物」に相当する。
(イ)一致点
そうすると、本件発明2と甲B3発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子を含む研磨用組成物であって、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含む単結晶シリコン基板の研磨用組成物」である点。
(ウ)相違点B3−2
本件発明2と甲B3発明との相違点(以下「相違点B3−2」という。)は、次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明2においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲B3発明においては、「カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(平均分子量14万、日本合成化学工業(株)社製、商品名T−330)」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
相違点B3−2は、前記イ(ウ)における相違点B3−1と同じであるから、前記イ(エ)における検討と同様に実質的な相違点ではない。
(オ)したがって、相違点B3−2は実質的な相違点ではなく、本件発明2は甲B3発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。また、本件発明2は甲B3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
エ 本件発明4〜14との対比・判断
本件発明4〜14において特定された事項は、いずれも甲B3発明も有しているか、本願出願前に周知の技術であるから、本件発明1、2と同様に本件発明4〜14は、甲B3発明であるか、甲B3発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第1項第3号の発明に該当する発明であるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
オ 本件発明15、16との対比・判断
本件発明15、16に係る研磨物の製造方法は、甲B3発明に係る研磨用組成物を、前記(3)カ、(4)カ、(5)カ、(6)カにおいて検討した、甲A1、甲A4、甲A5、甲B1に記載された周知の技術に用いることによって、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 取消理由通知の理由に対する判断
1 サポート要件について
本件訂正により、本件発明1〜3およびそれらを引用する本件発明4〜16の全てにおける「研磨用組成物」に、平均一次粒子径が100nm未満である無機酸化物を含む砥粒が含まれることになったため、砥粒を含むことと、砥粒の材質及び平均粒径について規定されたから、取消理由において通知した前記第4、2のように指摘したサポート要件違背は解消したといえる。
新規性進歩性について
(1)甲A1を主引用例とする検討
ア 甲A1発明の認定
前記第4、3(3)ア(エ)において認定したとおりである。
イ 本件発明1との対比・判断
(ア)対比
甲A1発明の「ポリビニルアルコール」は、本件発明1の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当し、甲A1発明の「砥粒としてコロイダルシリカ(BET径35nm)を0.225wt%を含有」は、本件発明1の「砥粒が無機酸化物を含み、砥粒の平均一次粒子径が100nm未満」を充足し、甲A1発明の「研磨用スラリー」は、本件発明1の「研磨用組成物」に相当する。また、甲A1発明は、ビニルピロリドンの単独重合体を含むものであるが、酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物、βグルコース単位を含むポリマー及びカルボン酸基を有するポリビニルアルコール系樹脂を含んでいない。
(イ)一致点
本件発明1と甲A1発明は次の点で一致する。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(A)、(C)、(D)の組成物を除く。
(A)酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物)。」
(ウ)相違点
本件発明1と甲A1発明は次の2つの相違点で相違する。
a 相違点A1−1−1
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明1においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下又は100mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A1発明においては、「Mwが10.56×104、けん化度が98モル%以上のポリビニルアルコール」と特定されている点。
b 相違点A1−1−2
本件発明1においては、「(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物」が除かれているのに対して、甲A1発明においては、組成物にビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体が含まれている点。
(エ)相違点についての判断
a 相違点A1−1−1について検討する。前記第4、3(3)イ(エ)a〜cで検討したように、甲A1発明におけるポリビニルアルコールは、60mPa・s程度の20℃における4%水溶液粘度を持つと解される。
b そうすると、相違点A1−1−1は実質的な相違点である。そして、甲A1発明における60mPa・s程度の20℃における4%水溶液粘度を持つポリビニルアルコールに代えて、「15mPa・s以上28.9mPa・s以下又は100mPa・s以上3000mPa・s以下」の20℃における4%水溶液粘度を持つポリビニルアルコールを採用することが当業者にとって容易と認めるに足りる証拠はない。
c 前記第4、3(1)ア(イ)に摘記した甲A1の段落[0060]には、水溶性高分子の重量平均分子量の範囲が示されているが、結局0.2×104以上、200×104以下とすることが適当と記載されているだけであり、その中から「15mPa・s以上28.9mPa・s以下又は100mPa・s以上3000mPa・s以下」の20℃における4%水溶液粘度を持つポリビニルアルコールを選択する動機付けとなる記載ではない。
d そうすると、相違点A1−1−2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
ウ 本件発明2との対比・判断
(ア)対比
甲A1発明の「ポリビニルアルコール」は、本件発明2の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当し、甲A1発明の「砥粒としてコロイダルシリカ(BET径35nm)を0.225wt%を含有」は、本件発明2の「砥粒が無機酸化物を含み、砥粒の平均一次粒子径が100nm未満」を充足し、甲A1発明に係る「研磨用スラリー」は、本件発明2の「研磨用組成物」に相当する。甲A1発明の「シリコン基板」は、単結晶のシリコンインゴットをスライスして得られるものであることは技術常識であるから、甲A1発明の「シリコン基板の研磨用スラリー」は、本件発明2の「単結晶シリコン基板の研磨用組成物」に相当する。また、甲A1発明には、カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するポリビニルアルコールを含んでいない。
(イ)一致点
本件発明2と甲A1発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である、単結晶シリコン基板の研磨用組成物(ただし、下記(D)の組成物を除く。
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物)。」
(ウ)相違点
本件発明2と甲A1発明との相違点(以下「相違点A1−2−1」という。)は次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明2においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A1発明においては、「Mwが10.56×104、けん化度が98モル%以上のポリビニルアルコール」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
相違点A1−2−1は、相違点A1−1−1に包含されるものであって、相違点A1−1−1のうち、「100mPa・s以上3000mPa・s以下」という部分を持たないものである。
そうすると、前記イ(エ)における相違点A1−1−1の検討と同様に、相違点A1−2−1は、当業者が容易に想到しうるものではない。
エ 本件発明3との対比・判断
(ア)対比
甲A1発明の「ポリビニルアルコール」は、本件発明3の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当し、甲A1発明の「砥粒としてコロイダルシリカ(BET径35nm)を0.225wt%を含有」は、本件発明3の「砥粒が無機酸化物を含み、砥粒の平均一次粒子径が100nm未満」を充足し、甲A1発明の「研磨用スラリー」は、本件発明3の「研磨用組成物」に相当する。また、甲A1発明は、ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含むものであるが、β−グルコース単位を含むポリマーを含んでいない。
(イ)一致点
本件発明3と甲A1発明は次の点で一致する。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(C)の組成物を除く。
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物)。」
(ウ)相違点
本件発明3と甲A1発明は次の2つの相違点で相違する。
a 相違点A1−3−1
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明3においては「20℃における4%水溶液粘度が100mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A1発明においては、「Mwが10.56×104、けん化度が98モル%以上のポリビニルアルコール」と特定されている点。
b 相違点A1−3−2
本件発明3においては、「(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物」が除かれているのに対して、甲A1発明においては、組成物にビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体が含まれている点。
(エ)相違点についての判断
相違点A1−3−1は、相違点A1−1−1に包含されるものであって、相違点A1−1−1のうち、「15mPa・s以上28.9mPa・s以下」という部分を持たないものである。
そうすると、前記イ(エ)における相違点A1−1−1の検討と同様に、相違点A1−3−1は、当業者が容易に想到しうるものではない。
オ 本件発明4〜16について
本件発明4〜16は、本件発明1〜3のいずれかを包含し、さらに発明特定事項を追加したものであるから、本件発明1〜3と同様に甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明できたものということはできない。
(2)甲A4を主引用例とする検討
ア 甲A4発明の認定
前記第4、3(4)ア(ウ)において認定したとおりである。
イ 本件発明1との対比・判断
(ア)対比
甲A4発明の「PVA」は、本件発明1の「水溶性高分子」及び「ビニルアルコール系樹脂」に相当し、甲A4発明の「成分(B)としてコロイダルシリカ(DN4=70nm)を10質量%」は、本件発明1の「砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である」を充足する。また、甲A4発明に係る「研磨用組成物」は「HEC」すなわち、β−グルコース単位を含むポリマーを含むが、「酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコール」、「ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体」、「カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂」を含んでいない。
(イ)一致点
そうすると、本件発明1と甲A4発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(A)、(B)、(D)の組成物を除く。
(A)酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物)。」である点。
(ウ)相違点
本件発明1と甲A4発明とは次の2点で相違する。
a 相違点A4−1−1
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明1においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下又は100mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A4発明においては、「数平均分子量が105,000、けん化度が98%のポリビニルアルコール」と特定されている点。
b 相違点A4−1−2
本件発明1においては、「(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物」が除かれているのに対し、甲A4発明には、β−グルコース単位を含むポリマーが含まれている点。
(エ)相違点についての検討
a 相違点A4−1−1について検討する。前記第4、3(4)イ(エ)a〜cで検討したように、甲A4発明におけるポリビニルアルコールは、60mPa・s程度の20℃における4%水溶液粘度を持つと解される。
b そうすると、相違点A4−1−1は実質的な相違点である。そして、甲A4発明における60mPa・s程度の20℃における4%水溶液粘度を持つポリビニルアルコールに代えて、「15mPa・s以上28.9mPa・s以下又は100mPa・s以上3000mPa・s以下」の20℃における4%水溶液粘度を持つポリビニルアルコールを採用することが当業者にとって容易と認めるに足りる証拠はない。
c 前記第4、3(1)イ(イ)に摘記した甲A4の段落【0039】には、「PVAの平均分子量は1,000〜1,000,000が好ましく、5,000〜500,000がより好ましく、10,000〜300,000が最も好ましい。」と記載されているが、その中から「15mPa・s以上28.9mPa・s以下又は100mPa・s以上3000mPa・s以下」の20℃における4%水溶液粘度を持つポリビニルアルコールを選択する動機付けとなる記載ではない。
d そうすると、相違点A4−1−2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
ウ 本件発明2との対比・判断
(ア)対比
甲A4発明の「成分(B)としてコロイダルシリカ(DN4=70nm)を10質量%」、「成分(D)としてHEC及びPVAの混合物を用い、その混合物中のPVAの数平均分子量が105,000及びけん化度98%」は、本件発明2の「砥粒が無機酸化物を含み、砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である」、「水溶性高分子が、・・・ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み」にそれぞれ相当する。また、甲A4発明は、カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含むものではない。そして、甲A4発明の「シリコンウエハ」は、単結晶のシリコンインゴットをスライスして得られるものであることは技術常識であるから、甲A4発明の「シリコンウエハ研磨用組成物」は、本件発明2の「単結晶シリコン基板の研磨用組成物」に相当する。
(イ)一致点
本件発明2と甲A4発明の一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である、単結晶シリコン基板の研磨用組成物(ただし、下記(D)の組成物を除く。
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物)。
(ウ)相違点
本件発明2と甲A4発明は次の点で相違する。
(相違点A4−2−1)
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明2においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A4発明においては、「PVAの数平均分子量が105,000」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
相違点A4−2−1は、相違点A4−1−1に包含されるものであって、相違点A4−1−1のうち、「100mPa・s以上3000mPa・s以下」という部分を持たないものである。
そうすると、前記イ(エ)における相違点A4−1−1の検討と同様に、相違点A4−2−1は、当業者が容易に想到しうるものではない。
エ 本件発明3との対比・判断
(ア)対比
甲A4発明における砥粒及びPVAについては、前記イ(ア)と同様の相当関係がある。また、甲A4発明におけるHECは、ヒドロキシエチルセルロースであって、これはβ−グルコース単位を含むポリマーである。さらに、甲A4発明は、「ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体」を含んでいない。
(イ)一致点
そうすると、本件発明3と甲A4発明との一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(B)の組成物を除く。
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物)。」
(ウ)相違点
本件発明3と甲A4発明とは次の点で相違する。
a 相違点A4−3−1
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明3においては、「20℃における4%水溶液粘度が100mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A4発明においては、「数平均分子量が105,000及びけん化度98%」と特定されている点。
b 相違点A4−3−2
本件発明3においては、「(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物」を除くと特定されているのに対して、甲A4発明には、(C)が含まれる点。
(エ)相違点についての検討
相違点A4−3−1について検討する。相違点A4−3−1は、前記イ(ウ)aにおいて検討した相違点A4−1−1の上位概念となっているから、前記イ(エ)においての検討と同様当業者が容易に想到することができたとはいえない。
オ 本件発明4〜16について
本件発明4〜16は、本件発明1〜3のいずれかを包含し、さらに発明特定事項を追加したものであるから、本件発明1〜3と同様に甲A4発明に基づいて当業者が容易に発明できたものということはできない。
(3)甲A5を主引用例とする検討
ア 甲A5発明の認定
前記第4、3(5)ア(ウ)において認定したとおりである。
イ 本件発明1との対比・判断
(ア)対比
甲A5発明における「コロイダルシリカ(BET径25nm)を0.088質量%」、「Mwが106000のポリビニルアルコール(PVA、けん化度95%以上)を0.004質量%」は、本件発明1の「砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満」、「水溶性高分子が、・・・ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み」にそれぞれ相当する。
(イ)一致点
本件発明1と甲A5発明の一致点は次のとおりである。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(A)〜(D)の組成物を除く。
(A)酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物)。」
(ウ)相違点
本件発明1と甲A5発明は次の点(以下「相違点A5−1−1」という。)で相違する。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明1においては、「水溶性高分子が、20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下又は100mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A5発明においては、「Mwが106000のポリビニルアルコール(PVA、けん化度95%以上)」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
相違点A5−1−1は、前記(2)イ(ウ)における相違点A4−1−1と同様であるから、前記(2)イ(エ)における検討と同様に当業者が容易に想到し得るということができない。
ウ 本件発明2との対比・判断
(ア)対比
砥粒及びビニルアルコール系樹脂については、前記イ(ア)と同様である。また、甲A5発明における「シリコンウエハ研磨用」は、本件発明2の「単結晶シリコン基板の研磨用」に相当する。さらに、甲A5発明は、カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するポリビニルアルコールを含んでいない。
(イ)一致点
本件発明2と甲A5発明の一致点は、次のとおりである。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である、単結晶シリコン基板の研磨用組成物(ただし、下記(D)の組成物を除く。
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するポリビニルアルコールを含む組成物)。」
(ウ)相違点
本件発明2と甲A5発明との相違点(以下「相違点A5−2−1」という。)は次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明2においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A5発明においては「Mwが106000のポリビニルアルコール(PVA、けん化度95%以上)」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
相違点A5−2−1は、前記イ(ウ)の相違点A5−1−1の上位概念であるから、前記イ(エ)における検討と同様に、当業者が容易に想到することができるといえない。
エ 本件発明3との対比・判断
(ア)対比
砥粒及びビニルアルコール系樹脂については、前記イ(ア)と同様である。また、甲A5発明は、(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物を含まず、(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物も含まない。
(イ)一致点
本件発明3と甲A5発明とは次の点で一致する。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(B)〜(C)の組成物を除く。
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物)。」
(ウ)相違点
本件発明3と甲A5発明との相違点(以下「相違点A5−3−1」という。)は次のとおりである。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明3においては、「20℃における4%水溶液粘度が100mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲A5発明においては、「Mwが106000のポリビニルアルコール(PVA、けん化度95%以上)」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
相違点A5−3−1は、前記イ(ウ)における相違点A5−1−1の上位概念である。そうすると、前記イ(エ)における検討と同様に当業者が容易に想到しうるということはできない。
オ 本件発明4〜16について
本件発明4〜16は、本件発明1〜3のいずれかを包含し、さらに発明特定事項を追加したものであるから、本件発明1〜3と同様に甲A5発明に基づいて当業者が容易に発明できたものということはできない。
(4)甲B1を主引用例とする検討
ア 甲B1発明の認定
前記第4、3(6)ア(ウ)において認定したとおりである。
イ 本件発明1との対比・判断
(ア)対比
甲B1発明における「コロイダルシリカ2(平均一次粒子径38nm)」、「分子量10万の完全鹸化ポリビニルアルコール」は、本件発明1の「砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満」、「水溶性高分子が、・・・ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み」にそれぞれ相当する。また、甲B1発明には、本件発明1の(A)〜(D)成分は含まれていない。
(イ)一致点
本件発明1と甲B1発明は、次の点で一致する。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(A)〜(D)の組成物を除く。
(A)酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物)。」
(ウ)相違点
本件発明1と甲B1発明は次の点(以下「相違点B1−1−1」という。)で相違する。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明1では、「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下又は100mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲B1発明においては「分子量10万の完全鹸化ポリビニルアルコールPVA−124」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
前記第4、3(6)イ(エ)において検討したように、甲B1発明におけるポリビニルアルコールは、PVA−124と認められるから、その20℃における4%水溶液の粘度は、54〜67mPa・s程度である。そうすると、相違点B1−1−1は、実質的な相違点である。
そして、前記(1)イ(エ)において検討したのと同様に、相違点B1−1−1について、当業者が容易に想到しうるものとすることはできない。
ウ 本件発明2との対比・判断
(ア)対比
砥粒及びビニルアルコール系樹脂については、前記イ(ア)と同様である。また、甲B1発明における「シリコンウエハ研磨用組成物」は、本件発明2の「単結晶シリコン基板の研磨用組成物」に相当し、また、甲B1発明は、(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するポリビニルアルコールを含むものでない。
(イ)一致点
本件発明2と甲B1発明は次の点で一致する。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である、単結晶シリコン基板の研磨用組成物(ただし、下記(D)の組成物を除く。
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するポリビニルアルコールを含む組成物)。」
(ウ)相違点
本件発明2は、甲B1発明と次の点(以下「相違点B1−2−1」という。)で相違する。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明2においては、「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲B1発明においては、「分子量10万の完全鹸化ポリビニルアルコールPVA−124」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
相違点B1−2−1は、前記イ(ウ)において検討した相違点B1−1−1の上位概念となっている。そうすると、前記イ(エ)と同様の理由によって、当業者が容易に想到できたということはできない。
エ 本件発明3との対比・判断
(ア)対比
砥粒及び樹脂の対応関係は、前記イ(ア)と同様である。また、甲B1発明は、(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物を含まず、また、(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物を含まない。
(イ)一致点
本件発明3と甲B1発明は、次の点で一致する。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(B)〜(C)の組成物を除く。
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物)。」
(ウ)相違点
本件発明3は、甲B1発明と次の点(以下「相違点B1−3−1」という。)で相違する。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明3では「20℃における4%水溶液粘度が100mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲B1発明においては、「分子量10万の完全鹸化ポリビニルアルコールPVA−124」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
相違点B1−3−1は、前記イ(ウ)で認定した相違点B1−1−1の上位概念となっているから、前記イ(エ)の理由と同様に当業者が容易に想到することができたとはいえない。
オ 本件発明4〜16について
本件発明4〜16は、本件発明1〜3のいずれかを包含し、さらに発明特定事項を追加したものであるから、本件発明1〜3と同様に甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明できたものということはできない。
(5)甲B3を主引用例とする検討
ア 甲B3発明の認定
前記第4、3(7)ア(オ)において認定したとおりである。
イ 本件発明1との対比・判断
(ア)対比
甲B3発明における「コロイダルシリカ(平均一次粒子径40nm)0.33質量%」、「カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(平均分子量14万、日本合成化学工業(株)社製、商品名T−330)100ppm」は、本件発明1における「砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満」、「水溶性高分子が、・・・ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み」にそれぞれ相当する。また、甲B3発明は、カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含んでいるが、本件発明1における(A)〜(C)に規定の成分は含んでいない。
(イ)一致点
本件発明1と甲B3発明は次の点で一致する。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(A)〜(C)の組成物を除く。
(A)酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物」
(ウ)相違点
本件発明1は、次の点で甲B3発明と相違する。
a 相違点B3−1−1
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明1においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下又は100mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲B3発明においては「カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(平均分子量14万、日本合成化学工業(株)社製、商品名T−330)」と特定されている点。
b 相違点B3−1−2
本件発明1においては、「(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物」が除かれているのに対して、甲B3発明は「(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物」を含んでいる点。
(エ)相違点についての検討
a 相違点B3−1−1について検討する。前記第4、3(7)イ(エ)において検討したように、甲B3発明における「日本合成化学工業(株)社製、商品名T−330」の20℃における4%水溶液粘度は、27.0〜33.0mPa・sとされている。
b この粘度は、本件発明1における「15mPa・s以上28.9mPa・s以下又は100mPa・s以上3000mPa・s以下」とは、27.0〜28.9mPa・sの範囲で重複しているものの、甲B3発明における「27.0〜33.0mPa・s」の中から27.0〜28.9mPa・sを選択する動機付けがあるということはできない。
c したがって、相違点B3−1−2について検討するまでもなく、本件発明1は甲B3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。
ウ 本件発明2との対比・判断
(ア)対比
砥粒と樹脂の相当関係は、前記イ(ア)と同様。また、本件発明2は、「(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物」を除くのに対して、甲B3発明は、それを含む点で相違する。
(イ)一致点
本件発明2と甲B3発明は次の点で一致する。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である、単結晶シリコン基板の研磨用組成物」
(ウ)相違点
本件発明2と甲B3発明は次の点で相違する。
a 相違点B3−2−1
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明2においては「20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下」と規定されているのに対し、甲B3発明においては、「カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(平均分子量14万、日本合成化学工業(株)社製、商品名T−330)」と規定されている点。
b 相違点B3−2−2
本件発明2においては、「下記(D)の組成物を除く。
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物」と規定されているのに対し、甲B3発明においては、カルボン酸基を有するポリビニルアルコールを含有している点。
(エ)相違点についての検討
相違点B3−2−1は、前記イ(ウ)で認定した相違点B3−1−1の上位概念となっている。そうすると、前記イ(エ)と同様の理由により、相違点B3−2−1は当業者が容易に想到しうるものということができない。
エ 本件発明3との対比・判断
(ア)対比
砥粒と樹脂の相当関係は、前記イ(ア)と同様。また、甲B3発明は、(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物、(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物、をいずれも含むものでない。
(イ)一致点
本件発明3と甲B3発明は、次の点で一致する。
「水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、ビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(B)〜(C)の組成物を除く。
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物)。」
(ウ)相違点
本件発明3は、次の点(以下「相違点B3−3−1」という。)で相違する。
ビニルアルコール系樹脂について、本件発明3においては、「20℃における4%水溶液粘度が100mPa・s以上3000mPa・s以下」と特定されているのに対して、甲B3発明においては、「カルボキシル基変性ポリビニルアルコール(平均分子量14万、日本合成化学工業(株)社製、商品名T−330)」と特定されている点。
(エ)相違点についての検討
相違点B3−3−1は、前記イ(ウ)で認定した相違点B3−1−1の上位概念となっている。そうすると、前記イ(エ)と同様の理由により、相違点B3−3−1は当業者が容易に想到しうるものということができない。
オ 本件発明4〜16について
本件発明4〜16は、本件発明1〜3のいずれかを包含し、さらに発明特定事項を追加したものであるから、本件発明1〜3と同様に甲B3発明に基づいて当業者が容易に発明できたものということはできない。

第6 取消理由通知に採用しなかった申立理由などについて
新規性進歩性について
(1)甲B2を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如
申立人Bは、甲B2を提示して、本件発明は、甲B2により新規性進歩性を欠くと主張する。
しかしながら、甲B2におけるポリビニルアルコールは、溶解抑制剤と反応させられているから、分子量が推定できても、その20℃における4%水溶液の粘度の推定ができないものであるから採用できない。
2 記載要件について
(1)実施可能要件
ア 申立人Bの特許異議申立書における主張の概要
本件特許明細書の実施例において得られたとされるポリビニルアルコールは、本件特許明細書の段落【0131】の記載によると、甲B13の製造例1に記載の方法に準じて、各種条件を変更することで、本件特許明細書の段落【0148】の【表1】に記載された特定の粘度を有するPVA−1〜PVA−6を製造するとされているが、各種条件をどのように変更することで製造できるかが記載されていないため、本件発明を実施するためには、当業者であっても過度の試行錯誤を要するものであるから、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たさないものである。
イ 当審の判断
しかしながら、重合反応において、生成される高分子の分子量を調整するために、各種の周知の手段を用いることは常套手段であるから、本件明細書に詳細が記載されていなくても、当業者であれば前記周知の手段を適用することは適宜なし得ることであって、本件特許明細書に記載がなくとも当業者であれば、製造可能であるといえる。
(2)サポート要件
ア 申立人Bは、特許異議申立書において、本件発明1〜16は、課題を解決できない範囲を含むから、その記載が、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさないと主張する。
しかしながら、申立人Bは、本件発明1が、具体的に課題が解決できないことを示していないから、その主張を採用することはできない。
イ 申立人Bは、令和4年10月6日提出の意見書において、本件特許明細書における実施例を本件発明1〜16に拡張・一般化することができないと主張する。
しかしながら、この主張も、課題が解決できないことを具体的に示していないから、採用できない。
(3)明確性要件
申立人Bは、本件発明1の「カチオン性ポリビニルアルコール」の外延が不明確であり、その記載が、特許法第36条第6項第2号の規定を満たさないと主張する。
しかしながら、カチオン性という用語は、正のイオンとなり得るという意味で明確である。したがって、カチオン性ポリビニルアルコールという語句も明確であり、申立人Bの主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜16に係る特許を取り消すことはできない。また、他に取り消すべき理由を発見しない。
したがって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下又は100mPa・s以上3000mPa・s以下のビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(A)〜(D)の組成物を除く。
(A)酸化セリウム及びカチオン性ポリビニルアルコールを含む組成物
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するビニルアルコール系樹脂を含む組成物)。
【請求項2】
水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、20℃における4%水溶液粘度が15mPa・s以上28.9mPa・s以下のビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である、単結晶シリコン基板の研磨用組成物(ただし、下記(D)の組成物を除く。
(D)カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有するポリビニルアルコールを含む組成物)。
【請求項3】
水溶性高分子及び砥粒を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子が、20℃における4%水溶液粘度が100mPa・s以上30O0mPa・s以下のビニルアルコール系樹脂を少なくとも含み、
砥粒が無機酸化物を含み、
砥粒の平均一次粒子径が100nm未満である研磨用組成物(ただし、下記(B)〜(C)の組成物を除く。
(B)ビニルピロリドンの単独重合体又はビニルピロリドンの共重合体を含む組成物
(C)β−グルコース単位を含むポリマーを含む組成物)。
【請求項4】
水溶性高分子のけん化度が80〜89.7モル%又は98.3〜99.3モル%である請求項1〜3のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項5】
砥粒の平均一次粒子径が5nm以上100nm未満であり、下記(E)及び(F)の組成物を含まない、請求項1〜4のいずれかに記載の研磨用組成物。
(E)エチレンジアミンテトラ酢酸又はエチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウムを含む組成物
(F)ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド型トリブロック共重合体を含む組成物
【請求項6】
砥粒がシリカを含む請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
水溶性高分子の単量体全体に対して、酸基を有する単量体の割合が、0.1モル%未満である請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
さらに、pH調整剤を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項9】
さらに、砥粒及びpH調整剤を含む研磨用組成物であって、砥粒がシリカを含み、pH調整剤が塩基性化合物を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項10】
さらに、界面活性剤を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項11】
さらに、界面活性剤を含む研磨組成物であって、界面活性剤が、オキシエチレン−オキプロピレン構造を有する共重合体及びポリオキシエチレンアルキルエーテルから選択された少なくとも1種を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項12】
さらに、界面活性剤を含む研磨用組成物であって、水溶性高分子と界面活性剤の割合が、質量比で、1:0.01〜1:200である、請求項1〜11のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項13】
さらに、少なくとも水を含む溶媒を含み、水溶性高分子の濃度が1ppm以上である、請求項1〜12のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項14】
さらに、少なくとも水を含む溶媒を含み、固形分濃度が0.01質量%以上である、請求項1〜13のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項15】
研磨対象物の表面を、請求項1〜14のいずれかに記載の研磨用組成物で研磨する工程を含む、研磨物の製造方法。
【請求項16】
研磨用組成物を少なくとも水を含む溶媒で希釈する希釈工程を含み、研磨工程において、希釈工程で得られた希釈液で研磨する、請求項15記載の研磨物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-03-22 
出願番号 P2020-027613
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09K)
P 1 651・ 537- YAA (C09K)
P 1 651・ 536- YAA (C09K)
P 1 651・ 121- YAA (C09K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 門前 浩一
田澤 俊樹
登録日 2020-09-08 
登録番号 6761554
権利者 日本酢ビ・ポバール株式会社
発明の名称 研磨用組成物  
代理人 岩谷 龍  
代理人 勝又 政徳  
代理人 岩谷 龍  
代理人 勝又 政徳  

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