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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23K
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A23K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23K
管理番号 1398218
総通号数 18 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-05 
確定日 2023-03-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6856529号発明「菜種皮及びその用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6856529号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4、8〜10〕、〔5〜7〕について訂正することを認める。 特許第6856529号の請求項1〜10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6856529号(以下「本件特許」という。)についての出願は、2016年(平成28年)6月13日(優先権主張 平成27年7月2日)を国際出願日とするものであり、令和3年3月22日にその特許権の設定登録がされ、同年4月7日に特許掲載公報がされ、その後、その請求項1〜10に係る特許について、同年10月5日に特許異議申立人 安銀珍(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたところ、その後の経緯は以下のとおりである。

令和4年 3月14日付け:取消理由通知
同年 5月16日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年 6月13日付け:訂正請求があった旨の通知
同年 7月 8日 :意見書の提出(申立人)
同年 8月12日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年10月13日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年11月 4日付け:訂正請求があった旨の通知
同年12月 6日 :意見書の提出(申立人)

なお、令和4年10月13日に訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされたので、同年5月16日にされた先の訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求における訂正の内容(以下「本件訂正」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)一群の請求項1〜4並びに8〜10に係る訂正
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「250〜1400μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上であり」と記載されているのを、「250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上であり」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2〜4並びに8〜10も同様に訂正する)。
(2)一群の請求項5〜7に係る訂正
ア 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に「250〜1400μmの粒度を有する粒子の割合を80重量%以上に調整する」と記載されているのを、「250〜850μmの粒度を有する粒子の割合を80重量%以上に調整する」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6及び7も同様に訂正する)。
(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1〜4並びに8〜10について、請求項2〜4並びに8〜10は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1により記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正前の請求項1〜4並びに8〜10は、一群の請求項である。
訂正前の請求項5〜7について、請求項6及び7は、請求項5を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項2により記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものであり、訂正前の請求項5〜7は、一群の請求項である。
そして、本件訂正は、一群の請求項ごとに請求がされたものである。

2 訂正の適否
(1)一群の請求項1〜4並びに8〜10に係る訂正について
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項1は、菜種を脱皮して得られる菜種皮の粒度分布について、訂正前の請求項1に「250〜1400μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上」であると特定されていたのを「250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上」であると粒度の範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1で特定された「250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上」であるとの事項について、願書に添付した明細書(以下、特許請求の範囲及び図面の記載と併せて「本件明細書等」という。)の段落【0051】に「粒度分布の調整方法は・・・通常、粉砕する。・・・ここでいう粉砕品とは、例えば篩目開き850μm上で50重量%以下・・・であるものをいう。」と記載されていること、及び段落【0064】【表5】に、実施例1(菜種皮発明品)の粒度分布について、250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が84.4重量%以上であることが示されていることに基づくものといえる。
したがって、訂正事項1は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
イ 小括
以上から、訂正事項1は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び6項の規定に適合する。

(2)一群の請求項5〜7に係る訂正について
ア 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1と同様に、菜種を脱皮して得られる菜種皮の粒度分布について、訂正前の請求項5に「250〜1400μmの粒度を有する粒子の割合を80重量%以上」に調整することが特定されていたのを「250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上」であると粒度の範囲を限定するものである。
したがって、訂正事項2は、訂正事項1と同様の理由により、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

(3)申立人の令和4年12月6日付け意見書における主張に対して
申立人は、上記意見書において、本件訂正について、以下の理由により新規事項を含むものであるという旨主張する(2頁1行〜5頁8行)。
ア 本件明細書等には、粒度の上限を1400μmから850μmに下げられること及びそのように下げたとしても「250μ〜1400μmの粒度を有する粒子の割合が80%重量以上」と同様に発明の効果が奏されることは何ら具体的に記載されていない、
イ 請求項には実施例1の菜種皮と同様の粒度となることまでは記載されておらず、粒度が比較的大きい710〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上のものも含まれており実施例1の菜種皮のようにはバランスよく配合されておらず、発明の効果が奏される蓋然性が高いとはいえない、
ウ 請求項には細粒度側の250〜300μmの粒度を有する粒子の割合が80%重量%以上のものも含まれており、ルーメンアシドーシスを招くおそれが高い、
エ 本件明細書の段落【0043】によれば必須であるはずの「850〜1400μmの粒度を有する粒子(6.04重量%)が発明から取り除かれても発明の効果を奏するか予測できない。

しかし、本件訂正は、本件明細書の【表5】に、実施例1(菜種皮発明品)の粒度分布について、250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が84.4重量%以上であることが示されていることに基づくものであり、訂正前の「250μ〜1400μmの粒度を有する粒子の割合が80%重量以上」であるとの記載が含意していた「250μ〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80%重量以上」に限定したにすぎないから、訂正前に本件明細書等に記載のなかったものが本件訂正により新たに導入されることとなる事情は認められない。
したがって、申立人の上記いずれの主張にも理由がない。

3 まとめ
以上検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、訂正後の請求項〔1〜4、8〜10〕、〔5〜7〕について本件訂正のとおり訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正後の請求項1〜10に係る発明(以下「本件発明1」などという。まとめて「本件発明」ということがある。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
菜種を脱皮して得られる菜種皮であって、250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上であり、粗蛋白を12〜16重量%、粗繊維を23〜36重量%、そして油分を0.1〜14重量%含む、前記菜種皮。
【請求項2】
請求項1に記載の菜種皮を含有する飼料。
【請求項3】
前記菜種皮を0.9〜22.5重量%含有する、請求項2に記載の飼料。
【請求項4】
反芻動物向けである、請求項2又は3に記載の飼料。
【請求項5】
菜種を脱皮する工程、及び前記菜種を脱皮して得られ、粗蛋白を12〜16重量%、粗繊維を23〜36重量%、そして油分を0.1〜14重量%含む菜種皮を、250〜850μmの粒度を有する粒子の割合を80重量%以上に調整する工程を含む菜種皮の製造方法。
【請求項6】
前記粒度の調整工程が、前記菜種を脱皮して得られる菜種皮を粉砕する工程を含む、請求項5に記載の菜種皮の製造方法。
【請求項7】
前記粒度の調整工程の後に、粒度調整された前記菜種皮を圧縮加工することを含む、請求項5又は6に記載の菜種皮の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の菜種皮を飼料原料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の育成方法。
【請求項9】
請求項1に記載の菜種皮を飼料原料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の消化管内発酵調整方法。
【請求項10】
請求項1に記載の菜種皮を飼料原料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の疾病予防方法。」

第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について

1 取消理由の概要
当審が令和4年8月12日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

●特許法36条6項1号(サポート要件)
本件特許は、令和4年5月16日付け訂正請求時の特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件請求項1〜10に係る特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 当審の判断
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)判断
ア 本件発明に共通する課題は、本件明細書の段落【0012】(以下、単に【0012】などと記載することがある。)の記載によれば、菜種皮を飼料原料として有効利用する技術を提供すること、特に、家畜動物の消化管内での発酵の観点から最適な利用を可能とする技術を提供することであり、さらに、高エネルギーかつルーメン内の微生物発酵を阻害しない飼料を提供することであると認められる。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、従来の菜種皮は、約1500μm以上の粒度が大部分を占めていたところ(【0023】)、上記課題を解決するための手段として、菜種を脱皮して得られる菜種皮の粒度を250〜1400μmが80重量%以上とするようにしたものであり、これにより、飼料原料に添加して家畜に摂取させれば、約1500μm以上の粒度が大部分を占める菜種皮を摂取させる場合と比較して、発酵物中で乳酸が減少するとともにプロピオン酸が増加するので、乳酸の合成の抑制及びルーメンアシドーシスの抑制に有効であり、本件発明に共通する上記課題を解決することができるものとされている(【0013】、【0018】、【0023】、【0024】)。
イ そこで、本件発明は、「菜種を脱皮して得られる菜種皮」を「250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上」とすることを共通の構成として有しているところ、この構成を採用することにより、発明の詳細な説明の記載や示唆、出願時の技術常識に照らして上記課題を解決できることを当業者が認識できるかについて検討する。
ウ 本件明細書の【0061】以下において、「菜種皮従来品」(表5の比較例1)と「菜種皮発明品」(表5の実施例1。本件発明の実施例)の比較実験について記載されるところ、表5に両者の粒度分布が示され、表6に両者で全有機酸発生量は殆ど同じである一方、乳酸とプロピオン酸の発生量が逆転したことが示されており、菜種皮従来品を粉砕することで粒度分布を表5の実施例1に示されるものにしたものであれば、発酵物中で乳酸が減少するとともにプロピオン酸が増加し、乳酸の合成を抑制し、ルーメンアシドーシスを抑制するという本件発明の共通の課題を解決できることが理解できる。
そして、表5に示される菜種皮従来品の粒度分布と菜種皮発明品の粒度分布を比較すると、菜種皮従来品の場合、粒度1.18mm以上のもので96以上%を占め、粒度850μm以下のものは1%も占めないのに対し、菜種皮発明品の場合、粒度850μm以下のもので93%以上を占め、粒度1.18mm以上のものは2%も占めないことがみてとれる。
すなわち、菜種皮従来品と菜種皮発明品とでは、前者のものは1.18mm以上の粒度のもので大部分が構成されるのに対し、後者のものは850μm以下の粒度もので大部分が構成され、両者の粒度分布は重ならないと評価できる程度に大きく異なっており、このことが、菜種皮従来品を粉砕した菜種皮発明品において発酵物中で乳酸が減少し、プロピオン酸が増加する現象に寄与し、本件発明に共通する上記課題を解決できるものと認められる。
してみれば、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜10に「250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上」であることが特定されている以上、その記載はサポート要件に適合する。

3 申立人の令和4年12月6日付け意見書における主張に対して
(1)申立人は、上記意見書において、以下の理由により、訂正後の請求項の記載は依然としてサポート要件に違反するという旨主張する。
ア 20重量%程度まで1400μmより粒度の大きい菜種皮を増やした場合には従来品の菜種皮が5分の1程度も含まれることとなるから発明の効果を奏するかどうか予想がつかないし、文言上、710〜350μmの比較的粒度の小さい粒子を殆ど含まない菜種皮が含まれているから、粒度の小さい皮(850μmより小さい皮)が著しく増大しているとはいえない(5頁9行〜8頁17行)、
イ 特許権者が乳酸とプロピオン酸の発生量が逆転する現象を見いだしたのは、本件明細書の【表5】に記載の実施例1の菜種皮ただ1つのみであるのに、訂正後の発明には710〜850μmの粒度を有する粒子の割合が100重量%である菜種皮が文言上含まれるところ、250〜710μmの粒度を有する菜種皮が発明の効果にとって重要である蓋然性が高く、710〜850μmの粒度を有する粒子の割合が100重量%である菜種皮が発明の効果を奏する蓋然性が高いとはいえない(8頁18行〜9頁最終行)。

しかし、上記主張アについて、仮に20重量%程度まで1400μm以上の粒度を有する菜種皮を増やしたとしても、850μm以下の粒度のもので菜種皮の大部分が構成されることに変わりはなく、20重量%程度の粒度の大きい菜種皮が存在するからといって80重量%は存在する粒度の小さい菜種皮により生じる効果が消滅すると理解すべき根拠はない。また、仮に850μm程度の粒度のもののみで菜種皮が構成され、710〜350μmの粒度範囲のものを含まないとしても、菜種皮従来品が1.18mm以上の粒度のもので大部分が構成されることを踏まえれば、粒度の大きさの観点からみて十分に小さいといえる粒子から構成されていると理解される。
上記主張イについて、仮に710〜850μmの粒度範囲の粒子のみで構成される菜種皮を想定したとしても、菜種皮従来品が1.18mm以上の粒度のもので大部分が構成されることを踏まえれば、710〜850μmの粒度範囲も粒度の大きさの観点からみて十分に小さいといえ、申立人が発明の効果にとって重要である蓋然性が高いとする250〜710μmの粒度範囲に隣接する710〜850μmの粒度範囲に属する菜種皮について発明の効果が生じないとする具体的な根拠はなく、むしろ発明の効果を奏する蓋然性が高いといえる。
したがって、申立人の上記主張には理由がない。

4 申立人の特許異議申立書における主張に対して
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記2で検討したとおり、サポート要件に適合するところ、申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件訂正前の特許請求の範囲の記載について取消理由1〜4として別個の理由によりサポート要件違反にする旨主張しているので以下に検討する。
(1)取消理由1
ア 主張の概要
本件発明1〜10には「250〜1400μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上」であるという幅広い粒度分布を有する菜種皮に関する発明が記載されている。
しかし、本件明細書に具体的に開示されている菜種皮は、表5に記載された特定の粒度分布を有する菜種皮(実施例1)ただ1つのみであり、出願時の技術常識や本件特許明細書の他の記載を参酌しても、本件発明1〜10の幅広い粒度分布を有する菜種皮の全てにおいて、乳酸合成の抑制及びルーメンアシドーシスの抑制という所望の効果を奏する蓋然性が高いとはいえない。
また、250μmや1400μmのような極端に細かい粒度や極端に粗い粒度を有する菜種皮が実施例1に記載の菜種皮と同様に所望の効果を奏する蓋然性が高いとはいえない。
イ 当審の判断
訂正後の本件発明では、訂正前と異なり、「250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上」であることが特定されているところ、特許請求の範囲にかかる特定がされている以上、サポート要件に適合することは、上記2で検討したとおりである。
また、上記2で検討したところによれば、仮に粒度250μmの菜種皮のみからなるものを想定したとしても、実施例1に記載の菜種皮が奏する効果を得られないとする根拠はない。
したがって、申立人の取消理由1に係る主張には理由がない。

(2)取消理由2について
ア 主張の概要
本件発明1〜10には「油分を0.1〜14重量%含む、菜種皮」に関する発明が記載されている。
本件発明が解決しようとする課題は、「高エネルギーかつルーメン内の微生物発酵を阻害しない飼料を提供する」ことであり(【0012】)、本件明細書の課題を参酌すると、「ルーメン内の微生物発酵を阻害しない」とは、反芻動物のルーメン内の乳酸の蓄積を抑え、プロピオン酸の生成を促進することであると認められる(【0004】)。
しかし、本件明細書の実施例で用いた菜種皮は、脱脂済みの菜種皮であり、通常の菜種皮に比べて乳酸の発生量が多くなっているものであり、乳酸の発生量が多くなる条件下においてプロピオン酸の発生を増大できたことが確認できたとしても、脱脂していない油分の多い菜種皮を所定の粒度分布となるように粉砕したものである場合にプロピオン酸の発生を増大するという効果が得られるか当業者といえどもやってみなければわからない。
してみると、高油分の菜種皮を含んでいる、本件発明1〜10の「油分を0.1〜14重量%含む、菜種皮」は、当業者が課題を解決できることを推認できないものを含んでいる。
したがって、本件発明1〜10は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
イ 当審の判断
ルーメン内に蓄積したままの乳酸の量に対する生成したプロピオン酸の量の比を大きくすることに関し、油分の少ない脱脂済みの菜種皮を訂正後の本件発明で特定される粒度分布にしたものに比べれば、油分の多い菜種皮を本件発明で特定される粒度分布にしたものの効果が劣るとしても、油分の多い菜種皮を本件発明で特定される粒度分布にしないものと比較して効果がないという根拠はない。そして、油分の多い菜種皮の場合、本件明細書の【0025】に記載されるように、油分の少ない菜種皮と比較すると発酵が抑制されず有用な有機酸が生成されることから、高エネルギーにもかかわらず反芻胃内の微生物発酵を阻害しない飼料用原料を提供するという課題を達成できる。
したがって、申立人の取消理由2に係る主張には理由がない。

(3)取消理由3について
ア 主張の概要
本件発明1〜10には「油分を0.1〜14重量%含む、菜種皮」に関する発明が記載されている。
本件発明が解決しようとする課題は、「高エネルギーかつルーメン内の微生物発酵を阻害しない飼料を提供する」ことであり(【0012】)、本件明細書の課題を参酌すると、「高エネルギー」とは、通常の13重量%程度の高油分の油分を有することであると認められる(【0025】他)。
しかし、本件明細書には、油分が高くても有機酸の産生や粗繊維の消化が阻害されないことから油分が高い菜種皮は菜種ミールよりも優れた飼料原料であることが記載されているとしても、低油分(脱脂済み)の菜種皮は、高エネルギーに係る上記課題を解決できるものとはいえないから、低油分の菜種皮を含んでいる本件発明の「油分を0.1〜14重量%含む、菜種皮」は、当業者が課題が解決できることを推認できない。
したがって、本件発明1〜10は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
イ 当審の判断
本件発明では「250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上」であることが特定されており、特許請求の範囲にかかる特定がされている以上、サポート要件に適合することは、上記2で検討したとおりであるところ、低油分の菜種皮の場合に油分が高い菜種皮に比べて高エネルギーの飼料を提供することができないとしても、本件発明が油分が高い菜種皮と同様の高エネルギーの飼料を提供するという課題を併せて解決することまではサポート要件として要求されるものではない。
したがって、申立人の取消理由3に係る主張には理由がない。

(4)取消理由4について
ア 主張の概要
本件発明2、3、8〜10には、任意の動物に対する「飼料」に関する発明が記載されている。
本件発明が解決しようとする課題は、「高エネルギーかつルーメン内の微生物発酵を阻害しない飼料を提供する」ことであり(【0012】)、本件明細書の課題を参酌すると、「ルーメン内の微生物発酵を阻害しない」とは、反芻動物のルーメン内の乳酸の蓄積を抑え、プロピオン酸の生成を促進することであると認められる(【0004】)。
しかし、本件発明の飼料が、ルーメンを持たない、反芻動物以外の動物でも所望の効果を奏することは何ら具体的に記載されておらず、出願時の技術常識を考慮するとそのような蓋然性は低いといわざるを得ないから、任意の動物に関する本件発明2、3、8〜10は、当業者が課題を解決できることを認識できないものである。
したがって、本件発明2、3、8〜10は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
イ 当審の判断
本件発明では「250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上」であることが特定されており、特許請求の範囲にかかる特定がされている以上、サポート要件に適合することは、上記2で検討したとおりであるところ、本件発明の飼料をルーメンを持たない動物に与えた場合にルーメンを持つことを前提とした効果が得られないことは当然である一方、本件発明の飼料をルーメンを持たない動物に与えた場合でもルーメンの存在を前提としない飼料に要求される効果が得られることは自明であるから、当業者は、このことを踏まえて本件発明の飼料をルーメンを持たない動物に与えるか否かを決すればよいだけのことである。
したがって、申立人の取消理由4に係る主張には理由がない。

第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった異議申立理由について

1 申立ての理由及び証拠
(1)申立ての理由の概要
申立人は、申立書において、特許法29条1項3号新規性)、29条2項進歩性)違反に関し、甲第1号証を主引用例とするもの(取消理由5)、甲第2号証を主引用例とするもの(取消理由6)、甲第3号証を主引用例とするもの(取消理由7)、甲第4号証を主引用例とするもの(取消理由8)について申し立てている。
(2)申立人が提出した証拠
なお、申立人が申立書に添付して提出した証拠(以下、「甲第1号証」を単に「甲1」などということがある。)は、以下のとおりである。
甲1:“Dehulling Responses of Rapeseed as Influenced by Grain and
Machine Parameters”,Journal of Food Science and Technology
,Vol.38, No.6, p.577-582 (2001)
甲2:“Dehulling of Canola by Hydrothermal Treatments”,Journal
of the American Oil Chemists’Society,vol.72, no.5,
p.597-602 (1995)
甲3:“Rapeseed Hulls Fat Characteristics”,Fat Sci.Technol.,
90.Jahrgang,Nr.6,p.216-219 (1988)
甲4:特開2012−116877号公報
甲5:特開平5−1296号公報
甲6:「ニッサン 酪農・豆知識 第85号」,日産合成工業株式会社
学術・開発部,平成25年10月

また、申立人は、令和4年7月8日及び同年12月6日付け意見書に添付して以下の証拠を提出している。
引用例1:特公昭62−35731号公報
引用例2:特開平11−243872号公報
引用例3:特開2008−283957号公報
引用例4:“The effects of soybean hulls and their particle size
on growth performance and carcass characteristics of
finishing pigs”, Kansas Agricultural Experiment Station
Research Reports, p.148-154 (2012)
引用例5:“Effects of different grinding levels(particle size) of
soybean hull on starting pigs performance and
digestibility”, Brazilian Archives of Biology and
Technology., Vol.52, No.5, p.1243-1252 (2009)
引用例6:“Hull content and chemical composition of whole seeds,
hulls and germs in cultivars of rapeseed(Brassica napus)
”, OCL, Vol.23, No.3, A302, p.1-8 (2016)

(3)各証拠の記載
ア 甲1
甲1には、以下の記載がある。訳文は、申立人によるものを当審にて一部修正した。
・577頁Abstract,1〜2行
“A study was carried out to determine the dehulling behaviour of
rapeseed with respect to grain and machine parameters so as to
establish the optimum level of parameters for maximum recovery.
...”
<訳文>
「最大回収率を得るための最適パラメータを確立するために、穀物及び機械のパラメータに関して菜種皮をむく挙動を決定するための研究が行われた。・・・」
・577頁右欄下から4行〜578頁右欄7行
“Dehulling: Dehulling of the samples was carried out in a Satake
rice dehusker. The desired speed and clearance between the rolls
were set before conducting experiments. Peripheral speeds of 10, 9
and 8 m/s were obtained by adjusting the rpm of the second roll to
approximately 2000, 1800 and 1600, respectively. The clearances of
0.3, 0.4, 0.5, 0.6 and 0.7 mm were set with the help of filler gauge
and the side screw provided on the machine. Samples weighing 200 g
each were fed through the hopper and allowed to pass between the
rubber rolls at the specified clearances. This caused the seeds to
split between the rubber rolls. The products of dehulling process
were collected in the receptacles at the bottom of the dehusker. The
dehulled products consisted of mainly two fractions i.e. (i)dehulled
and unhulled whole seeds and dehulled broken seeds and (ii)hulls and
fines including powder.
Separation: The dehulled products were separated into unhulled
seeds, dehulled seeds, brokens, powder and hulls by sieving process using sieve sizes of 2 mm, 1.4 mm, 1 mm, 0.71 mm and less than 0.71 mm. The seeds retained over 2 mm sieve were the unhulled seeds. The fractions retained over 1.4 mm and 1 mm sieves consisted of dehulled
seeds. Brokens were collected over 0.71 mm sieve and powder passed
through 0.71 mm sieve. The unhulled fraction, which contained some
parts of dehulled seeds, was further separated manually. Wherever
required, manual separation of other fractions was also carried out. ...
<訳文>
「皮むき:サンプルの脱皮は、サタケ製米皮むき機で行った。実験を行う前に、ロール間の望ましい速度とクリアランスを設定した。2段目のロールのrpmを約2000、1800および1600に調整することにより、それぞれ10、9及び8m/sの周辺速度が得られた。隙間ゲージと機械に付属のサイドスクリューを使用して、0.3、 0.4、 0.5、0.6、0.7mmのクリアランスを設定した。それぞれ200gのサンプルをホッパーに通し、指定されたクリアランスでゴムロール間を通過させた。これにより、種子がゴムロール間で分割された。脱皮プロセスの生成物は、皮むき機の底にある入れ物に集められた。皮をむいた製品は、主に2つの画分、すなわち(i)皮をむいたおよび皮をむいていない全種子および皮をむいた壊れた種子、および(ii)殻および粉末を含む微粉から構成されていた。
分離:皮をむいた製品は、2mm、1.4mm、1mm、0.71mmおよび0.71mm未満のふるいサイズを使用するふるい分けプロセスによって、皮をむかれていない種子、皮をむかれている種子、壊れたもの、粉末および殻に分離された。2mm以上のふるいに保持された種子は、皮をむかれていない種子であった。1.4mmおよび1mmのふるいで保持された画分は、皮をむかれている種子で構成されていた。壊れたものを0.71mmのふるいで集め、粉末を0.71mmのふるいに通した。皮をむかれている種子の一部を含む皮をむかれていない画分をさらに手作業で分離した。必要に応じて、他の画分の手動分離も実行された。・・・」
・図1(578頁左欄)(訳文を付した図を右に示す。)

図1には、菜種の脱皮プロセスにより、皮をむかれていない種子2-1.4mm、皮をむかれている種子1.4-1mmとともに皮1.4-1mmを分離することが示されている。

以上によれば、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)及び方法の発明(以下「甲1方法発明」という。)が記載されている。
(甲1発明)
米皮むき機により種子をゴムロール間で分割することにより菜種皮をむき、菜種の脱皮プロセスの生成物のふるい分けプロセスによって、皮をむかれていない種子2-1.4mm、皮をむかれている種子1.4-1mmと分離された、皮1.4-1mm。
(甲1方法発明)
甲1発明の皮1.4-1mmの製造方法。

イ 甲2
甲2には、以下の記載がある。訳文は、当審及び申立人による。
(摘記2)
「ABSTRACT: Hydrothermal pretreatments for loosening the hull of
Westar canola(Brassica napus L.) to promote dehulling of the seeds
were investigated. The samples tested had on average 14.5% hull on
a mass basis. Conditioning treatments involved soaking the seeds in
distilled water or exposing the seeds to saturated steam. The
moistened seed was treated with one of the following drying methods:
unheated-air drying, infrared drying, and fluidized-bed drying. The
dried grain was milled in an abrasive dehuller to break the hulls
loose. The hulls were removed from the mix by aspiration.
The treated seeds yielded a minimum of 11.4% to a maximum of 14.9%
of the seed mass as the hull fraction. Nontreated seeds yielded 9.4%
of the seed mass in hull fraction after abrasive dehulling and
aspiration. Among treatments, raising the moisture content of the
whole seed from 6 to 15% by exposure to steam, followed by drying in
a fluidized bed, resulted in the maximum percent dehulling
efficiency. The hull fraction contained about 24% crude fiber, 18%
oil, and 18% protein on a dry-mass basis.」(597頁左欄1行から18行)
<翻訳文>
「概要:種子の脱皮を促進するためにウェスターキャノーラ(Brassica napus L.)の外皮をほぐすための熱水前処理を調べた。試験されたサンプルは、質量ベースで平均14.5%の外皮を有していた。コンディショニング処理で種子は蒸留水に浸漬されるか、飽和蒸気に曝された。湿らせた種子は、非加熱空気乾燥、赤外線乾燥、及び流動床乾燥のいずれかで乾燥された。乾燥した穀粒は、外皮をほぐすために研磨剤の脱皮機で粉砕された。外皮は吸引によって混合物から除去された。処理された種子は、種子質量の最小で11.4%から最大で14.9%の外皮画分を含んでいた。非処理種子は、研磨剤による脱皮と吸引の後、種子質量の9.4%の外皮画分が得られた。処理の中で、蒸気への曝露によって種子全体の水分含有量を6%から15%に上げた後、流動床で乾燥させると、最大の除皮効率が得られた。外皮画分には、乾量ベースで約24%の粗繊維、18%の油、及び18%のタンパク質が含まれていた。」














ウ 甲3
甲3には、以下の記載がある。訳文は、申立人によるものを当審にて一部訂正した。
・217頁左欄17、18行
“Hulls were separated from crashed seeds by air-classification.”
<訳文>
「圧搾された実から空気分級することによって菜種皮が分離された。」
・217頁左欄28〜35行
“Discussion of Results
Isolated hull fractions in both investigated rapeseed varieties
had similar chemical composition hence Table 1 shows average values compared with whole seeds and cotyledons composition. Fat of the
greatest interest for us was present in hulls in considerable
amounts, i.e. ab. 14 %, which approximated the amount of determined
protein (N×6.25). ”
<訳文>
「結果の議論
分析調査された両方の菜種品種の分離された外皮画分は類以した化学組成を有していた。表1は種子全体および中身の組成と比較した平均値を示している。私たちにとって最大の関心のある脂質は平均14%とかなりの量で皮に存在していた。これは、測定されたタンパク質の量に近似している(N×6.25)。」
・表1

<訳文>
表1
菜種種子中の平均成分組成%
脂質 タンパク質 灰分 繊維
( N×6.25)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
皮 14.0 13.0 4.5 27.4
中身 50.4 28.2 4.0 6.0
種子 45.0 23.0 4.0 8.0

表1には、「菜種種子中の平均成分組成%」が示されているところ、「皮」について、脂質が14.0%、タンパク質が13.0重量%、繊維が27.4重量%であることが示されている。

エ 甲4
甲4には、以下の記載がある。
「【0002】
従来、菜種(キャノーラ種を含む)、ジャトロファなどの植物種子を圧搾又は圧搾・抽出して、植物油を製造することが広く行われている。一方で、大豆、米糠等の油分の少ない植物原料については、圧搾を行わず最初から溶剤で油分を抽出することも行われている。」
「【0036】
この上記脱脂処理によって得られた脱脂菜種種皮は、本発明の製造方法において、後述するように、脱皮菜種種子を圧搾する際に脱皮菜種種子に対して所定量配合する用途として用いられ得るが、脱脂菜種種皮(特に、脱皮菜種種子に対して所定量配合した後の余剰量)は、本発明の他の実施形態である、脱皮ジャトロファ種子又は米糠からの植物油の製造方法において、これらの脱皮種子又は米糠に対し圧搾に先立ち同様に所定量配合する用途として用いられ得る。また、脱脂菜種種皮は、繊維質分を多く含むものであるため、繊維分が必要とされる牛などの飼料への添加剤や、土壌改良剤用としての用途等に用いることも可能である。」
「【0038】
そして、本実施形態に係る菜種油および菜種粕の製造においては、上記脱脂処理によって得られた脱脂菜種種皮を、前記脱皮処理によって菜種種皮より分離された脱皮菜種種子に対し、所定量配合し、脱皮菜種種子と脱脂菜種種皮とが均一分散するように混合した後、この混合物を圧搾処理にかける。
なお、脱脂菜種種皮は、脱皮菜種種子への配合に先立ち、必要に応じて粉砕処理を施されることができる。」
「【0073】
実施例1
菜種種子1000gの脱皮を行い、脱皮種子872gと種皮128gに分けた。なお、脱皮の割合は75%であった。
本種皮128gの抽出を行い、油分をはじめとする各種成分を取り除いた。本抽出種皮の重量は104gであり、 残油分は1.24%であった。
本抽出種皮104gを粉砕した後、脱皮種子872gと混合し、圧搾を行った。製造された圧搾油は黄金色様であり、精製に要する負担を大きく軽減するものであり、例えば、後述する比較例1と比べて精製に要する吸着剤の使用量を約30%低減できた。圧搾粕の残油分は7%であった。・・・」

オ 甲5
甲5には、以下の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は菜種の種実(以後「菜種粒」という)の脱皮方法、それによって得られた脱皮菜種、およびその脱皮菜種を含有する飼料に関する。」
「【0007】
【発明の内容】上記の点から、本発明者らは菜種粒の外皮を簡単に効率よく、しかも経済的に除去し得る方法を求めて研究を行ってきた。その結果、上記した従来の菜種粒脱皮技術で用いているのとは全く異なった形式の装置であるエントレーター型の衝撃式粉砕機を使用すると、実部分の微粉砕を生ずることなく菜種粒の外皮を実部分から極めて簡単に剥離させることができることを見出した。」
「【0023】更に、実部分から油を採取した後の菜種粕は、蛋白質含量が極めて高く、しかも消化されにくい繊維質の含量が極めて少ないために、繊維質の消化吸収能力の低い動物・・・用の蛋白供給用飼料に有効に使用することができる。また、上記で回収された外皮部分は、繊維質を多量に含んでいるので、繊維質成分を多量に必要とする家畜(牛、馬、羊、ヤギ等)の飼料として有効に使用できる。
【0024】
【実施例】
《実施例 1》
[エントレーター型の衝撃式粉砕機による菜種粒の脱皮処理]図1に示したハイスピードミキサーMXH−75型・エントレーター衝撃式粉砕機の供給口6から菜種粒を300kg/分の割合で供給し、モーター4によって2枚の円盤2,3を3,000回/分の回転速度で回転させて、菜種粒を円盤に設けたピンからなる障害部材5に衝突させながら円盤間から排出させると同時に粉砕機内壁8および衝突兼排出部9のテーパー壁にも衝突させ、その間に菜種粒同士をも衝突させて、外皮と脱皮された実部分との混合物を排出口10から回収した。この混合物中では、外皮が実部分からきれいに剥離しており、実部分における外皮の付着残留がほとんどなかった。
【0025】上記で得た外皮と実部分との混合物をピューリファイヤー(東京製粉機製作所製)に20kg/分の割合で供給して、外皮と実部分の各々に分けて回収した。実部分は約2個に分割されており、その表面に油の浸み出しがないために、サラサラとしていて流動性に富み、凝集等を生じにくく、取扱性が良好であった。また、実部分と別に回収された外皮部分は、半割の状態の繊維質に富む、実部分よりも軽い粗粒であった。」

カ 甲6
甲6には、以下の記載がある。
「3)飼料の粒度が小さい場合
粉砕した濃厚飼料は、未粉砕のものよりも消化率が高くなりますが、破砕やフレーク状などと比べて飼料の重量あたりの表面積が大となり、微生物は表面から分解することにより、発酵は早期に集中し、SARA(当審注:「亜急性ルーメンアシドーシス」のこと)の恐れが出てきます。これを防ぐにはある程度以上の粒度を持つ飼料を給与し、咀嚼を刺激しなければなりません。唾液の分泌量は粗剛な繊維性飼料の摂取で増加します。」

2 取消理由5(甲1を主引用例とするもの)について
取消理由5は、本件発明1は、甲1に記載された発明である、本件発明2〜4、8〜10は、甲1に記載の発明及び甲4、甲5、甲6に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた、というものである(申立書34頁12行〜36頁下から3行)。
(1)本件発明1について
ア 対比、判断
甲1発明の「皮1.4-1mm」における「皮」は、「菜種」の「種子」を米皮むき機により「脱皮」して得られた生成物のうちの「菜種皮」に相当し、「皮1.4-1mm」における「1.4-1mm」は、1.4mmのふるいを通り、1mmのふるいで保持される画分を意味することは明らかである。なお、「1mm」は「1000μm」に等しい。
したがって、甲1発明における「皮1.4-1mm」は、粒度が1000μmから1400μmの間にある菜種皮を意味する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
菜種を脱皮して得られる菜種皮である、前記菜種皮。
【相違点1】
菜種を脱皮して得られる菜種皮について、本件発明1は、250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上であるのに対し、
甲1発明は、1000〜1400μmの粒度を有する粒子がふるい分けされたものである点。
【相違点2】
本件発明1では、菜種皮が粗蛋白を12〜16重量%、粗繊維を23〜36重量%、そして油分を0.1〜14重量%含むのに対し、甲1発明では、菜種皮の成分組成が明らかでない点。

相違点1について検討する。
甲1発明は、ふるい分けされた「皮1.4-1mm」(粒度が1000μmから1400μmの間にある菜種皮を意味する)が大部分を占めるところ、甲1は、最大収率を得るための最適パラメータを得るために穀物や機械のパラメータと菜種種子の脱皮プロセスとの関係について研究したものであり、分離された「皮1.4-1mm」についてその用途や粒度を更に細かくする点について記載や示唆をするものではない。
また、甲4には、「なお、脱脂菜種種皮は、脱皮菜種種子への配合に先立ち、必要に応じて粉砕処理を施されることができる。」(【0038】)との記載があるが、かかる記載からは、甲1発明の「皮1.4-1mm」を仮に甲4に倣い脱皮菜種種子へ配合するとしても更なる粉砕が必要なのか、又、どの程度の粒度にまで粉砕すればよいのかが理解できず、菜種皮を「250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上」とすることが当業者が容易に想到し得ることとまでは認めることができない。
甲5には、エントレーター型の衝撃式粉砕機を使用すると、実部分の微粉砕を生ずることなく菜種粒の外皮を実部分から極めて簡単に剥離できること(【0007】)、実施例によれば、実部分と別に回収された外皮部分は、半割の状態の粗粒であること(【0025】)が記載されているが、菜種皮の具体的な粒度に関する記載がない。
甲6には、粉砕した濃厚飼料は未粉砕のものよりも消化率が高くなることや、ある程度以上の粒度を持つ飼料を給与し咀嚼を刺激することが記載されているが、菜種皮に関する記載や具体的な粒度に関する記載がない。

したがって、「皮1.4-1mm」(粒度が1000μmから1400μmの間にある菜種皮を意味する)が大部分を占める菜種を脱皮して得られる甲1発明における菜種皮において、甲4、甲5、甲6に記載の技術的事項に基づいて、相違点1に係る本件発明1の構成とすることが容易に想到し得たこととは認められない。

そして、本件発明1は、相違点1に係る構成を採用することで、本件明細書の【0012】に記載の効果を奏するものと認められる。

イ 申立人の主張に対して
申立人は、令和4年12月6日付け意見書において、引用例4、5にある大豆皮と同じ油糧樹脂の皮であり、かつ同じ成分である菜種皮を飼料として用いる際、430〜750μmになるまで粉砕して用いることに格別の困難性はないから、本件発明1に進歩性は認められない旨主張する(10頁1行〜15頁下から3行)。
しかし、甲4の【0002】によれば、菜種と大豆とでは油分の含有量が大きく異なっており、油分の抽出の際に圧搾を行うか否かに違いがあるし、引用例4、5は、いずれも大豆を養豚用の飼料とすることに関するもので、かかる証拠からは、大豆ではなく菜種である甲1発明のふるい分けされた「皮1.4-1mm」を更に粉砕して、菜種皮を「250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上」とすることが当業者が容易に想到し得ることとまでは認めることができない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件発明2〜4、8〜10について
本件発明2〜4、8〜10は、本件発明1を引用するものであり、甲1発明と上記相違点1と同様の相違点を有するから、本件発明1について検討したのと同様の理由により、当業者が甲1発明に基づいて発明をすることができたものということはできない。

2 取消理由6(甲2を主引用例とするもの)について
取消理由6は、本件発明1〜4、8〜10は、甲2に記載の発明及び甲4、甲5、甲6に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた、というものである(申立書36頁下から2行〜40頁4行)。
しかし、甲2は、脱皮を促進するためにウェスターキャノーラ(Brassica napus L.)の外皮をほぐすための熱水前処理の影響を調べるものであり、他の品種のものについて調べることは示唆されいないし、外皮を何らかの用途に用いることも記載されておらず、本件発明1で特定される「粗蛋白を12〜16重量%、粗繊維を23〜36重量%、そして油分を0.1〜14重量%含む」菜種皮を得る動機付けがあるものとは認められない。
したがって、本件発明1は、当業者が甲2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。
よって、本件発明1〜4、8〜10について取消理由6は成り立たない。

3 取消理由7(甲3を主引用例とするもの)について
取消理由7は、本件発明1〜10は、甲3に記載の発明及び甲4、甲5、甲6に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた、というものである(申立書40頁5行〜43頁下から7行)。
甲3には、圧搾された実から空気分級により分離された菜種皮の化学組成に関する記載はあるが、甲3に記載の「菜種皮」を粉砕することに関する記載はない。
取消理由5で検討したとおり、甲4、甲5、甲6には、粉砕処理により菜種皮をどの程度の粒度とするのかについて具体的な記載がない。引用例4、5は、いずれも大豆を養豚用の飼料とすることに関するもので、かかる証拠をもって、菜種皮を「250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上」とすることまで示唆するものとは認められない。
したがって、本件発明1は、当業者が甲3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。
よって、本件発明1〜10について取消理由7は成り立たない。

4 取消理由8(甲4を主引用例とするもの)について
取消理由8は、本件発明1〜10は、甲4に記載の発明及び甲6に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた、というものである(申立書43頁下から6行〜48頁下から8行)。
甲4には、「なお、脱脂菜種種皮は、脱皮菜種種子への配合に先立ち、必要に応じて粉砕処理を施されることができる。」(【0038】)との記載があるが、かかる記載からは、甲4に記載の「脱脂菜種種皮」を仮に「脱皮菜種種子」へ配合するとしても更なる粉砕が必要なのか、又、どの程度の粒度にまで粉砕すればよいのかが理解できないし、甲4の【0002】によれば、菜種と大豆とでは油分の含有量が大きく異なり、油分の抽出の際に圧搾を行うか否かに違いがあるし、引用例4、5は、いずれも大豆を養豚用の飼料とすることに関するから、かかる証拠からは、甲4に記載の「脱脂菜種種皮」を「250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上」とすることが当業者が容易に想到し得ることとまでは認めることができない。
したがって、本件発明1は、当業者が甲4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。
したがって、本件発明1〜10について取消理由8は成り立たない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
菜種を脱皮して得られる菜種皮であって、250〜850μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上であり、粗蛋白を12〜16重量%、粗繊維を23〜36重量%、そして油分を0.1〜14重量%含む、前記菜種皮。
【請求項2】
請求項1に記載の菜種皮を含有する飼料。
【請求項3】
前記菜種皮を0.9〜22.5重量%含有する、請求項2に記載の飼料。
【請求項4】
反芻動物向けである、請求項2又は3に記載の飼料。
【請求項5】
菜種を脱皮する工程、及び前記菜種を脱皮して得られ、粗蛋白を12〜16重量%、粗繊維を23〜36重量%、そして油分を0.1〜14重量%含む菜種皮を、250〜850μmの粒度を有する粒子の割合を80重量%以上に調整する工程を含む菜種皮の製造方法。
【請求項6】
前記粒度の調整工程が、前記菜種を脱皮して得られる菜種皮を粉砕する工程を含む、請求項5に記載の菜種皮の製造方法。
【請求項7】
前記粒度の調整工程の後に、粒度調整された前記菜種皮を圧縮加工することを含む、請求項5又は6に記載の菜種皮の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の菜種皮を飼料原料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の育成方法。
【請求項9】
請求項1に記載の菜種皮を飼料原料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の消化管内発酵調整方法。
【請求項10】
請求項1に記載の菜種皮を飼料原料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の疾病予防方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-03-02 
出願番号 P2017-526265
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A23K)
P 1 651・ 113- YAA (A23K)
P 1 651・ 841- YAA (A23K)
P 1 651・ 121- YAA (A23K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 居島 一仁
特許庁審判官 有家 秀郎
長井 真一
登録日 2021-03-22 
登録番号 6856529
権利者 株式会社J−オイルミルズ
発明の名称 菜種皮及びその用途  
代理人 中嶋 伸介  
代理人 中嶋 伸介  
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