• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
管理番号 1398238
総通号数 18 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-07 
確定日 2023-04-05 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6932512号発明「インクセット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6932512号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−10〕について訂正することを認める。 特許第6932512号の請求項1−5、7−9に係る特許を維持する。 特許第6932512号の請求項6、10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6932512号の請求項1〜10に係る特許についての出願は、平成29年1月30日に出願され、令和3年8月20日に特許権の設定登録がされ、同年9月8日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1〜10に係る特許に対し、令和4年3月7日に特許異議申立人 目黒 茂(以下「申立人A」という。)により特許異議の申立てがされ、同年同月8日に特許異議申立人 加藤 浩志(以下「申立人B」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年6月7日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である同年8月5日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、当審は、特許権者から訂正請求があったこと及び意見書が提出されたことを、同年同月16日付けで申立人A及び申立人Bに通知し、それに対して、申立人A及び申立人Bは、その指定期間内である同年9月20日にそれぞれ意見書を提出し、当審は、同年11月8日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、特許権者は、その指定期間内である令和5年1月6日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)を行い、当審は、特許権者から訂正請求があったこと及び意見書が提出されたことを、同年同月17日付けで申立人A及び申立人Bに通知し、それに対して、申立人A及び申立人Bは、何ら応答しなかった。なお、本件訂正請求がされたことにより、令和4年8月5日にされた訂正の請求は取り下げたものとみなされる。

第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項1〜9からなる。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が150nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より大きく、」と記載されているのを、「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2,5,7〜9も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記オレンジインクに含まれる有機顔料の90体積%粒子径(D90)が150nm以上700nm以下であることを特徴とするインクセット。」と記載されているのを、「前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であり、前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレッ卜19から選択される顔料を含み、前記イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含み、前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み、前記オレンジインクに含まれる有機顔料の90体積%粒子径(D90)が150nm以上700nm以下であることを特徴とするインクセット。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2,5,7〜9も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が150nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より大きく、」と記載されているのを、「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項5,8,9も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に「前記オレンジインクが、塩基性分散剤を更に含むことを特徴とするインクセット。」と記載されているのを、「前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であり、前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレット19から選択される顔料を含み、前記イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含み、前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み、前記オレンジインクが、塩基性分散剤を更に含むことを特徴とするインクセット。」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項5,8,9も同様に訂正する)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が150nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より大きく、」と記載されているのを、「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5,7,8も同様に訂正する)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に「前記オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが、それぞれ独立して、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂と、顔料分散剤と、下記一般式(1):」と記載されているのを、「前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であり、
前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、
前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレット19から選択される顔料を含み、
前記イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含み、
前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み、
前記オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが、それぞれ独立して、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂と、顔料分散剤と、下記一般式(1):」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5,7,8も同様に訂正する)。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1から7のいずれか一項に記載のインクセット」と記載されているものを、「請求項1から5及び7のいずれか一項に記載のインクセット」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

2 一群の請求項について
訂正前の請求項1、2及び5〜10について、請求項2及び5〜10は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるから、訂正前の請求項1、2及び5〜10に対応する訂正後の請求項1、2及び5〜10は「一群の請求項A」を構成する。
訂正前の請求項3、5、6及び8〜10について、請求項5、6及び8〜10は請求項3を引用しているものであって、訂正事項3及び4によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるから、訂正前の請求項3、5、6及び8〜10に対応する訂正後の請求項3、5、6及び8〜10は「一群の請求項B」を構成する。
訂正前の請求項4〜8及び10について、請求項5〜8及び10は請求項4を引用しているものであって、訂正事項5及び6によって記載が訂正される請求項4に連動して訂正されるから、訂正前の請求項4〜8及び10に対応する訂正後の請求項4〜8及び10は「一群の請求項C」を構成する。
ここで、一群の請求項Aと一群の請求項Bは共通して請求項5、6及び8〜10を有し、一群の請求項Aと一群の請求項Cは共通して請求項5〜8及び10を有し、一群の請求項Bと一群の請求項Cは共通して請求項5、6、8及び10を有しており、これらの一群の請求項は組み合わされて、請求項1〜10が1つの「一群の請求項」になる。
したがって、訂正前の請求項1〜10に対応する訂正後の請求項1〜10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求項1〜10について請求されているものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1は、「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が150nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より大き」いことを記載しており、オレンジインクに含まれる有機顔料のD50が特定されると共に、当該有機顔料のD50とマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50の大小関係が特定されている。
これに対して、訂正後の請求項1は、「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大き」いことを記載しており、上記有機顔料のD50を200nm以上400nm以下に限定すると共に、上記大小関係における差が40nm以上であるものに限定するものである。
以上のことから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといる。
訂正後の請求項2、5及び7〜9は、訂正後の請求項1の記載を引用することにより、請求項2、5及び7〜9に係る発明を同様に限定するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、請求項1の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。
訂正後の請求項2、5及び7〜9は、訂正後の請求項1の記載を引用することにより、その範囲を同様に減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1においてオレンジインクに含まれる有機顔料のD50並びに当該有機顔料のD50とマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50の大小関係を「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、」とする訂正は、明細書段落【0021】において「上記オレンジインクは、有機顔料を含み、該有機顔料のD50が150nm以上400nm以下であり、170nm以上350nm以下であることが好ましく、200nm以上300nm以下であることが最も好ましい。」と記載され、明細書段落【0022】において「また、上記オレンジインクに含まれる有機顔料のD50は、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50より大きく、この差は25nm以上であることが好ましく、40nm以上であることが更に好ましい。」と記載されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1は、インクセットにオレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが含まれることを特定している。
これに対して、訂正後の請求項1は、「前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であり、前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254並びにピグメントバイオレット19から選択される顔料を含み、前記イエローイングが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含み、前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み」との記載により、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50並びにオレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の種類を限定するものである。
以上のことから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
訂正後の請求項2、5及び7〜9は、訂正後の請求項1の記載を引用することにより、請求項2、5及び7〜9に係る発明を同様に限定するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項2は、請求項1の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。
訂正後の請求項2、5及び7〜9は、訂正後の請求項1の記載を引用することにより、その範囲を同様に減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2においてマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50並びにオレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の種類を限定する訂正は、明細書段落【0023】において「本発明のインクセットにおいて、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50は、インク中における貯蔵安定性を確保しつつ、長期に亘る印刷物全体の美観を維持する観点から、90nm以上175nm以下であることが好ましい。」と記載され、明細書段落【0027】において「上記オレンジインクに使用できる有機顔料としては、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含む顔料が好ましい。」と記載され、明細書段落【0028】において「上記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに使用できる顔料としては、特に限定されず、有機顔料及び無機顔料をいずれも使用できる。また、耐候性の観点から、マゼンタインクに使用できる顔料として、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレット19が好適に挙げられ、イエローインクに使用できる顔料として、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185が好適に挙げられ、シアンインクに使用できる顔料として、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28が好適に挙げられる。」と記載されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は因面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項3は、「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が150nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より大き」いことを記載しており、オレンジインクに含まれる有機顔料のD50が特定されると共に、当該有機顔料のD50とマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50の大小関係が特定されている。
これに対して、訂正後の請求項3は、「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大き」いことを記載しており、上記有機顔料のD50を200nm以上400nm以下に限定すると共に、上記大小関係における差が40nm以上であるものに限定するものである。
以上のとおり、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
訂正後の請求項5、8及び9は、訂正後の請求項3の記載を引用することにより、請求項5、8及び9に係る発明を同様に限定するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項3は、請求項3の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。
訂正後の請求項5、8及び9は、訂正後の請求項3の記載を引用することにより、その範囲を同様に減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3においてオレンジインクに含まれる有機顔料のD50並びに当該有機顔料のD50とマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50の大小関係を「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、」とする訂正は、明細書段落【0021】において「上記オレンジインクは、有機顔料を含み、該有機顔料のD50が150nm以上400nm以下であり、170nm以上350nm以下であることが好ましく、200nm以上300nm以下であることが最も好ましい。」と記載され、明細書段落【0022】において「また、上記オレンジインクに含まれる有機顔料のD50は、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50より大きく、この差は25nm以上であることが好ましく、40nm以上であることが更に好ましい。」と記載されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項3は、インクセットにオレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが含まれることを特定している。
これに対して、訂正後の請求項3は、「前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であり、前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレット19から選択される顔来を含み、前記イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含み、前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み」との記載により、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50並びにオレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の種類を限定するものである。
以上のことから、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
訂正後の請求項5、8及び9は、訂正後の請求項3の記載を引用することにより、請求項5、8及び9に係る発明を同様に限定するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項4は、請求項3の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。
訂正後の請求項5、8及び9は、訂正後の請求項3の記載を引用することにより、その範囲を同様に減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4においてマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50並びにオレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の種類を限定する訂正は、明細書段落【0023】において「本発明のインクセットにおいて、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50は、インク中における貯蔵安定性を確保しつつ、長期に亘る印刷物全体の美観を維持する観点から、90nm以上175nm以下であることが好ましい。」と記載され、明細書段落【0027】において「上記オレンジインクに使用できる有機顔料としては、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含む顔料が好ましい。」と記載され、明細書段落【0028】において「上記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに使用できる顔料としては、特に限定されず、有機顔料及び無機顔料をいずれも使用できる。また、耐候性の観点から、マゼンタインクに使用できる顔料として、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレット19が好適に挙げられ、イエローインクに使用できる顔料として、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185が好適に挙げられ、シアンインクに使用できる顔料として、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28が好適に挙げられる。」と記載されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。

(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項4は、「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が150nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より大き」いことを記載しており、オレンジインクに含まれる有機顔料のD50が特定されると共に、当該有機顔料のD50とマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50の大小関係が特定されている。
これに対して、訂正後の請求項4は、「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大き」いことを記載しており、上記有機顔料のD50を200nm以上400nm以下に限定すると共に、上記大小関係における差が40nm以上であるものに限定するものである。
以上のとおり、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
訂正後の請求項5、7及び8は、訂正後の請求項4の記載を引用することにより、請求項5、7及び8に係る発明を同様に限定するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項5は、請求項4の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。
訂正後の請求項5、7及び8は、訂正後の請求項4の記載を引用することにより、その範囲を同様に減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5においてオレンジインクに含まれる有機顔料のD50並びに当該有機顔料のD50とマセンタインク イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50の大小関係を「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、」とする訂正は、明細書段落【0021】において「上記オレンジインクは、有機顔料を含み、該有機顔料のD50が150nm以上400nm以下であり、170nm以上350nm以下であることが好ましく、200nm以上300nm以下であることが最も好ましい。」と記載され、明細書段落【0022】において「また、上記オレンジインクに含まれる有機顔料のD50は、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50より大きく、この差は25nm以上であることが好ましく、40nm以上であることが更に好ましい。」と記載されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。

(6)訂正事項6
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項4は、インクセットにオレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが含まれることを特定している。
これに対して、訂正後の請求項4は、「前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であり、前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、前記マゼンタインクが ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレット19から選択される顔料を含み、前記イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含み、前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み、」との記載により、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50並びにオレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の種類を限定するものである。
以上のことから、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
訂正後の請求項5、7及び8は、訂正後の請求項4の記載を引用することにより、請求項5、7及び8に係る発明を同様に限定するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項6は、請求項4の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。
訂正後の請求項5、7及び8は、訂正後の請求項4の記載を引用することにより、その範囲を同様に減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6においてマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50並びにオレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の種類を限定する訂正は、明細書段落【0023】において「本発明のインクセットにおいて、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50は、インク中における貯蔵安定性を確保しつつ、長期に亘る印刷物全体の美観を維持する観点から、90nm以上175nm以下であることが好ましい。」と記載され、明細書段落【0027】において「上記オレンジインクに使用できる有機顔料としては、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含む顔料が好ましい。」と記載され、明細書段落【0028】において「上記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに使用できる顔料としては、特に限定されず、有機顔料及び無機顔料をいずれも使用できる。また、耐候性の観点から、マゼンタインクに使用できる顔料として、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレット19が好適に挙げられ、イエローインクに使用できる顔料として、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185が好適に挙げられ、シアンインクに使用できる顔料として、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28が好適に挙げられる。」と記載されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。

(7)訂正事項7
ア 訂正の目的について
訂正事項7は、訂正前の請求項6を削除するものである。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項7は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項7は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。

(8)訂正事項8
ア 訂正の目的について
訂正事項8は、訂正前の請求項8が訂正前の請求項6を引用する記載であったものを、訂正事項7で削除された請求項6を引用しないものとする訂正であることから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項8は、請求項間の引用関係を訂正するものにすぎず、実質的な内容の変更を伴うものではないことから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項8は、請求項間の引用関係を訂正するものにすぎず、実質的な内容の変更を伴うものではないことから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。

(9)訂正事項9
ア 訂正の目的について
訂正事項9は、訂正前の請求項10を削除するものである。
したがて、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項9は、訂正前の請求項10を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項9は、訂正前の請求項10を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(10)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許第6932512号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−10〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項〔1−10〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1〜10に係る発明は、令和5年1月6日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件特許発明1」〜「本件特許発明10」、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。

「【請求項1】
オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であり、
前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、
前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレッ卜19から選択される顔料を含み、
前記イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含み、
前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み、
前記オレンジインクに含まれる有機顔料の90体積%粒子径(D90)が150nm以上700nm以下であることを特徴とするインクセット。
【請求項2】
前記オレンジインク中に含まれる有機顔料のD90がいずれもマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD90より大きいことを特徴とする、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であり、
前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、
前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレット19から選択される顔料を含み、
前記イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含み、
前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み、
前記オレンジインクが、塩基性分散剤を更に含むことを特徴とするインクセット。
【請求項4】
オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の500体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であり、
前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、
前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレッ卜19から選択される顔料を含み、
前記イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含み、
前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:l、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み、
前記オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが、それぞれ独立して、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂と、顔料分散剤と、下記一般式(1):
RlO−(R2O)m−R3 ・・・(1)
[式中、Rl及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、1以上4以下の整数を表す]で表される化合物を含有する溶剤とを更に含み、
前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂は、重量平均分子量/数平均分子量が5.0〜7.0であり、塩化ビニル単位(a)と酢酸ビニル単位(b)との質量比(a/b)が80/20〜90/10であり、
また、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂は、該塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂20質量%及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル80質量%からなる樹脂溶液を調製した場合、該樹脂溶液のヘイズ値が10.0%以下となることを特徴とするインクセット。
【請求項5】
前記オレンジインクに含まれる有機顔料の90体積%粒子径(D90)が150nm以上700nm以下で、10体積%粒子径(D10)が100nm以上300nm以下であり、且つ、前記オレンジインク中に含まれる有機顔料のD90及びD10がいずれもマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD90及びD10より大きいことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記オレンジインクが、塩基性分散剤を更に含むことを特徴とする、請求項1、2及び4のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項8】
前記オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが溶剤を含み、各インク中に含まれる溶剤が、それぞれ独立して、下記一般式(1):
R1O−(R2O)m−R3 ・・・(1)
[式中、Rl及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、1以上4以下の整数を表す]で表される化合物と、環状エステル化合物とを含むことを特徴とする、請求項1から5及び7のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項9】
前記オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが、それぞれ独立して、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂と、顔料分散剤と、下記一般式(1):
R1O−(R2O)m−R3 ・・・(1)
[式中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、1以上4以下の整数を表す]で表される化合物を含有する溶剤とを更に含み、
前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂は、重量平均分子葦/数平均分子量が5.0〜7.0であり、塩化ビニル単位(a)と酢酸ビニル単位(b)との質量比(a/b)が80/20〜90/10であり、
また、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂は、該塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂20質量%及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル80質量%からなる樹脂溶液を調製した場合、該樹脂溶液のヘイズ値が10.0%以下となることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項10】(削除)」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 特許権設定登録時の請求項1〜10に係る特許に対して、当審が令和4年6月7日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由(進歩性):本件特許の請求項1〜10に係る発明は、下記第5の、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 本件訂正前の請求項1〜10に係る特許に対して、当審が令和4年11月8日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由(進歩性):本件特許の請求項1〜10に係る発明は、下記第5の、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第5 前記第4における進歩性についての判断
1 甲号証について
以下、申立人Aの提示した甲号証を「甲A第1号証」などといい、申立人Bの提示した甲号証を「甲B第1号証」などという。
甲B第1号証:特開2009−227812号公報
甲B第2号証:特開2007−314771号公報
甲B第3号証:Technical Sheet No.00007、「機器紹介 粒度分布測定装置」、2000年、大阪府立産業技術総合研究所
甲B第4号証:特開2009−66946号公報
甲B第5号証:特開2016−155909号公報
甲B第6号証:特開2016−141746号公報
甲B第7号証:橋本 勲、Organic Pigments Handbook 有機顔料ハンドブック、2006年、カラーオフィス、第42〜47、130〜143、248、249、496〜501、504〜507ページ
甲B第8号証:特開2007−161850号公報
甲A第6号証:特開2015−67763号公報

2 甲号証及び引用文献の記載について
(1)甲B第1号証(以下、「甲B1」という。)
1a「【請求項1】
少なくとも第1の油性インク、第2の油性インクおよび第3の油性インクがそれぞれ色材を含有すると共に組み合わされる油性インクセットであり、かつ、該第1の油性インク、第2の油性インクおよび第3の油性インクがいずれも波長領域400〜700nmの範囲において記録媒体上での反射率が80%から5%に変わる波長領域を有する油性インクセットであって、上記第1の油性インクにおける反射率80%から5%に変わる波長領域において、上記第2の油性インクにおける反射率が第1の油性インクの反射率よりも連続して高く、且つ、第2の油性インクにおける反射率80%から5%に変わる波長領域において、第3の油性インクにおける反射率が前記第2の油性インクの反射率よりも連続して高く、さらに、前記第1の油性インク、第2の油性インクおよび第3の油性インクにおける色材がすべて異なることを特徴とする油性インクセット。」
1b「【0075】
なお、分析には、樹脂溶液から樹脂のみをヘキサンにて精製したサンプルを使用した。重量平均分子量は、東ソー(株)製の「HLC−8220GPC」にて、ポリスチレンを標準としたゲル浸透クロマトグラフ(GPC)により測定を行った。また、ガラス転移温度(Tg)は、島津製作所(株)製の示差走査熱量計「DSC−50」にて測定した。平均粒径(D50)は、日機装(株)製の粒度分析計マイクロトラックUPA150を使用して測定した。
【0076】
(重合体1の合成)
100℃に保たれたジエチレングリコールジエチルエーテル300g中に、メタクリル酸メチル200gとt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3.6gを1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で2時間反応させた後に冷却し、無色透明のポリメタクリル酸メチルの重合体1溶液を得た。Tgは105℃であった。重合体1の重量平均分子量は30,000であった。熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計を使用して分析したところ、ジエチレングリコールジエチルエーテルとメタクリル酸メチルが結合した分子が検出された。
・・・
【0081】
(インク2の調製)
溶媒として下記の組成とした。
・ ジエチレングリコールジエチルエーテル ・・・ 60.0質量部
・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル ・・・ 15.0質量部
・ γ−バレロラクトン ・・・ 15.0質量部。
【0082】
次に、上記組成の溶媒の一部に、ピグメントイエロー180(クラリアント社製、NOVOPERM YELLOW P−HG)を3.0質量部と分散剤としてルーブリゾール社製「ソルスパース32000」を2.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。得られる顔料粒子の平均粒径は5μm以下であった。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、顔料分散液を得た。この本分散で得られる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。
【0083】
得られた顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として上記で合成した重合体1を4.0質量部とダウケミカル社「VAGC」(ヒドロキシアルキルアクリレート変性塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、Tg65℃、重量平均分子量24,000)を1.0質量部、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して油性インク2(20℃での粘度4.7mPa・s)を調製した。
【0084】
(インク3の調製)
溶媒として下記の組成とした。
・ ジエチレングリコールジエチルエーテル ・・・ 51.0質量部
・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル ・・・ 25.0質量部
・ γ−ブチロラクトン ・・・ 15.0質量部。
【0085】
次に、上記組成の溶媒の一部にピグメントオレンジ64(チバスペシャリティーケミカルズ社製、CROMOPHTAL(R) ORANGE GP)を3.0質量部と分散剤として味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」を1.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。得られる顔料粒子の平均粒径は5μm以下であった。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、顔料分散液を得た。この本分散で得られる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。
【0086】
得られた顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として上記で合成した重合体1を5.0質量部と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、油性インク3(20℃での粘度4.3mPa・s)を調製した。
・・・
【0093】
(インク6の調製)
溶媒として下記の組成とした。
・ ジエチレングリコールジエチルエーテル ・・・ 48.0質量部
・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル ・・・ 28.0質量部
・ γ−ブチロラクトン ・・・ 15.0質量部。
【0094】
次に、上記組成の溶媒の一部に、ピグメントレッド122(大日本インキ化学工業社製、FASTGEN SUPER MAGENTA RG)を3.0質量部と分散剤として味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」を1.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。得られる顔料粒子の平均粒径は5μm以下であった。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、顔料分散液を得た。この本分散で得られる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。
【0095】
得られた顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として上記で合成した重合体1を5.0質量部と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、油性インク6(20℃での粘度4.2mPa・s)を調製した。
【0096】
(インク7の調製)
溶媒として下記の組成とした。
・ ジエチレングリコールジエチルエーテル ・・・ 60.0質量部
・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル ・・・ 10.0質量部
・ γ−ブチロラクトン ・・・ 20.0質量部。
【0097】
次に、上記組成の溶媒の一部に、ピグメントブルー15:4(大日精化社製、シアニンブルーCP−1)を3.0質量部と分散剤としてルーブリゾール社製「ソルスパース32000」を2.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。得られる顔料粒子の平均粒径は5μm以下であった。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、顔料分散液を得た。この本分散で得られる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。
【0098】
得られた顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として上記で合成した重合体1を5.0質量部と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、油性インク7(20℃での粘度4.1mPa・s)を調製した。
【0099】
(インク8の調製)
溶媒として下記の組成とした。
・ ジエチレングリコールジエチルエーテル ・・・ 52.0質量部
・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル ・・・ 19.0質量部
・ γ−ブチロラクトン ・・・ 5.0質量部
・ γ−バレロラクトン ・・・ 15.0質量部。
・・・
【0108】
(インク11の調製)
溶媒として下記の組成とした。
・ ジエチレングリコールジエチルエーテル ・・・ 62.0質量部
・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル ・・・ 10.0質量部
・ γ−ブチロラクトン ・・・ 18.0質量部。
【0109】
次に、上記組成の溶媒の一部に、ピグメントブラック7(三菱化学社製、CARBON BLACK MA−8)を3.0質量部と分散剤としてルーブリゾール社製「ソルスパース32000」を2.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。得られる顔料粒子の平均粒径は5μm以下であった。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、顔料分散液を得た。この本分散で得られる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。
【0110】
得られた顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として上記で合成した重合体1を5.0質量部と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、油性インク11(20℃での粘度4.3mPa・s)を調製した。
・・・
【0132】
(第1の油性インクセット)
下記表1に示す各油性インクを組合せて実施例1〜6、比較例A、比較例1、2のインクセットとし、実施例1〜6、比較例A、比較例1、2を用いて第1の油性インクセットについて説明する。
【0133】
【表1】



(2)甲B第2号証(以下、「甲B2」という。)
2a「【0044】
下記の方法により、グラフトポリマーの重量平均分子量(Mw)、得られた各顔料分散体について、D50(散乱強度の頻度分布における、小粒子側から計算した累積50%の値)の測定、及び保存安定性の評価を行った。結果を第1表に示す。
(1)グラフトポリマーの重量平均分子量(Mw)の測定
前記のゲルクロマトグラフィー(GPC)法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。
(2)D50の測定
顔料分散体を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートにて300倍に希釈し、日機装株式会社製のレーザードップラー式粒度分布計「マイクロトラック UPA150」を用いて、顔料分散体のD50を測定(20℃)した。」

(3)甲B第3号証(以下、「甲B3」という。)
3a「当研究所に設置されていますレーザードップラー方式の粒度分布測定装置の測定範囲は0.003〜6μmで、粒子の体積で重みづけられた粒度分布が得られます。散乱光を測定するので、精度良く測定するためには、懸濁液を適切な濃度に調整することが必要です。
・・・
粒度分布の測定例
セラミックスの原料であるアルミナの粉末の粒度分布測定例として、平均粒径0.6μmのアルミナ粉末をビーズミル粉砕処理する前と後の粒度分布を、レーザードップラー方式にて測定した結果を図2に示します。ビーズミル粉砕は、ベッセル中で高速回転しているビーズにより水中に分散しているセラミックス原料粉末を粉砕する方法です。ビーズには、材料としては靭性の高いジルコニアを、大きさは直径1mmのものを使用しました。粉砕後、粒度分布のピークが小さいほうにシフトしていることがわかります。粉砕前の体積平均粒径(粒子の体積によって重み付けられた平均粒径は0.709μmで、粉砕後は0.513μmとなりました。ビーズミル粉砕により、アルミナ粒子の大きさが平均で約0.2μm小さくなったことがわかります。

」(第2ページ左欄第25行〜右欄最終行)

(4)甲B第4号証「以下、「甲B4」という。」
4a「【0020】
(イエロー顔料)
C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー2、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー73、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー75、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー98、C.I.ピグメントイエロー101、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー114、C.I.ピグメントイエロー117、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー129、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエローなど;
【0021】
(オレンジ顔料)
C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントオレンジ61、C.I.ピグメントオレンジ71、C.I.ピグメントオレンジ81など;
【0022】
(レッド顔料)
C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド112、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド 254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド272など;
【0023】
(マゼンタ顔料)
C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド12、C.I.ピグメントレッド48(Ca)、C.I.ピグメントレッド48(Mn)、C.I.ピグメントレッド57(Ca)、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド168、C.I.ピグメントレッド184、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド207、C.I.ピグメントレッド208、C.I.ピグメントレッド269、C.I.ピグメントバイオレット19など;
【0024】
(バイオレット顔料)
C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット2、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23など;
【0025】
(ブルー顔料)
C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー3、C.I.ピグメントブルー22など;
【0026】
(シアン顔料)
C.I.ピグメント ブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー16など;
【0027】
(グリーン顔料)
C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36など;
他の適切な着色顔料の例は、The Colour Index、第三版(The Society of Dyers and Colourists,1982)に記載されている。」

(5)甲B第5号証(以下、「甲B5」という。)
5a「【請求項1】
溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ−43(PO−43)と、を含む非水系インクジェットインク組成物。
・・・
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、さらに、溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含む、非水系インクジェットインク組成物。
R1O−(R2O)m−R3 ・・・(2)
[一般式(2)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2〜6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
・・・
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系シアンインクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系マゼンタインクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系イエローインクジェットインク組成物と、を少なくとも備えるインクセット。」
5b「【0005】
しかしながら、非水系インクジェットインク組成物を、サイン用途に使用する場合には、記録物の耐候性が不十分となる場合があった。すなわち、サイン用途の記録物は、雨や日光等にさらされる屋外環境で使用されることが多く、屋内での使用よりも高い耐候性が求められている。発明者らによると、インクのうちでも、オレンジ色系の顔料を含むインクを使用することで暖色系の色再現領域を広げようとする際に、耐候性にも優れたインクとすることが重要であること、暖色系の色再現領域の特に広いインクとすることが重要であることがわかってきた。また、インクの発色性がよいことも色再現領域を広げる機能を十分発揮するために重要であることが分かってきた。」
5c「【0056】
本実施形態のインクジェットインク組成物に含有されるPO−43の体積平均粒子径は、吐出安定性や耐候性や発色性の点で100nm以上400nm以下が好ましく、より好ましくは150nm以上300nm以下である。ここで顔料の体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により評価することができる。具体的には、インク化した検体(顔料)を、DEGdEE(ジエチレングリコールジエチルエーテル)にて1000ppm以下となるように希釈し、これをレーザー回折・散乱測定装置(例えば、マイクロトラックUPA250(日機装株式会社製))を用いて20℃の環境下で、メディアン径D50の値を読み取ることにより測定することができる。したがって、異なる体積平均粒子径を有するPO−43を混合して使用する場合においても、それぞれの体積平均粒子径及び混合物の体積平均粒子径を測定することもできる。」

(6)甲B第6号証(以下、「甲B6」という。)
6a「【請求項1】
顔料としてC.I.ピグメントオレンジ43と、
溶剤として下記一般式(1)で表される化合物の1種以上と、
を含み、
インク組成物中に含まれる水の含有量が0.1質量%以上2質量%以下である、非水系インクジェットインク組成物。
R1O−(R2O)m−R3 ・・・・・(1)
(一般式(1)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは、炭素数1以上4以下のアルキル基である。R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表す。mは2〜3の整数を表す。)」
6b「【0004】
一方、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの各色インクに加えてオレンジインク(特色インク)を備えることで、ガマットの広い色再現が可能であるが、オレンジインクの顔料の耐候性が他のインクと比べて劣ることが分かってきた。そこで、オレンジインクの耐候性を向上させる観点から、比較的耐候性に優れているC.I.ピグメントオレンジ43(以下、単に「PO43」ともいう。)をオレンジインクの顔料として含有する水系インク組成物や非水系インク組成物、インクセットが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。」
6c「【0047】
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、顔料として、体積平均粒子径が100nm以上400nm以下であるC.I.ピグメントオレンジ43(PO43)を含むことにより、耐候性、印字安定性、耐擦性を含む総合的な性能のバランスを良好にすることができる。」

(7)甲B第7号証(以下、「甲B7」という。)
7a「2.4.5 粒子径と耐候(光)性(weather fastness, light fastness)
有機顔料は不安定な不飽和結合を持っているため紫外線などのエネルギーによって切断され、退色したり黒ずんだりする可能性がある。
化学構造が耐候(光)性を基本的に決定づけるのであるが、同じ化学構造であれば結晶径が大きいほど堅牢になる。
紫外線による顔料の破壊は表面から始まり次第に内部に及んでいく。また、紫外線は粒子の内部にも進入するが、X線ほどエネルギーは強くはないから表面付近のみがまず侵され、内部は時間がかかる。粒子が小さいと破壊が容易に起こるが、大きな粒子では、表面は破壊されても内部の色は残っているため結果的に耐候(光)性は向上するのである。」(第45ページ第1〜9行)
7b


」(第504ページ第4〜25行)
7c


」第506ページ第24〜36行)

(8)甲B第8号証(以下、「甲B8」という。)
8a「【図1】



(9)甲A第6号証(以下、「甲A6」という。)
9a「【請求項1】
顔料(A)と、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)と、顔料分散剤(C)と、下記式(1):
R1O−(AO)n−R2 ・・・(1)
[式中、AOは、炭素数が2又は3のアルキレンオキサイドであり、R1及びR2は、それぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基であり、nは、1〜4の整数である]によって表される化合物を含有する有機溶媒(D)とを含み、
前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)は、重量平均分子量/数平均分子量が5.0〜7.0であり、塩化ビニル単位(a)と酢酸ビニル単位(b)との質量比(a/b)が80/20〜90/10であり、
また、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)は、該塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(B)20質量%及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル80質量%からなる樹脂溶液を調製した場合、該樹脂溶液のヘイズ値が10.0%以下となることを特徴とするポリ塩化ビニル基材用インクジェット印刷用インク組成物。」

3 甲B1に記載された発明
甲B1には、実施例4として「ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、γ−ブチロラクトンからなる溶媒の一部に、ピグメントレッド122(大日本インキ化学工業社製、FASTGEN SUPER MAGENTA RG)と分散剤として味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散し、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、得られた、日機装(株)製の粒度分析計マイクロトラックUPA150を使用して測定した平均粒径(D50)が250nmである顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として無色透明のポリメタクリル酸メチルの重合体1溶液と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、調製した油性インク6(20℃での粘度4.2mPa・s)、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、γ−ブチロラクトンからなる溶媒の一部にピグメントオレンジ64(チバスペシャリティーケミカルズ社製、CROMOPHTAL(R)ORANGE GP)と分散剤として味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散し更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、得られた、日機装(株)製の粒度分析計マイクロトラックUPA150を使用して測定した平均粒径(D50)が250nmである顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として無色透明のポリメタクリル酸メチルの重合体1溶液と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、調製した油性インク3(20℃での粘度4.3mPa・s)、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、γ−バレロラクトンからなる溶媒の一部に、ピグメントイエロー180(クラリアント社製、NOVOPERM YELLOW P−HG)と分散剤としてルーブリゾール社製「ソルスパース32000」とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散し、更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、得られた、日機装(株)製の粒度分析計マイクロトラックUPA150を使用して測定した平均粒径(D50)が250nmである顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として無色透明のポリメタクリル酸メチルの重合体1溶液と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、調製した油性インク2(20℃での粘度4.7mPa・s)、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、γ−ブチロラクトンからなる溶媒の一部に、ピグメントブルー15:4(大日精化社製、シアニンブルーCP−1)と分散剤としてルーブリゾール社製「ソルスパース32000」とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散し、更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、得られた、日機装(株)製の粒度分析計マイクロトラックUPA150を使用して測定した平均粒径(D50)が250nmである顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として無色透明のポリメタクリル酸メチルの重合体1溶液と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、調製した油性インク7(20℃での粘度4.1mPa・s)、及び、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、γ−ブチロラクトンからなる溶媒の一部に、ピグメントブラック7(三菱化学社製、CARBON BLACK MA−8)と分散剤としてルーブリゾール社製「ソルスパース32000」とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散し、更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、得られた、日機装(株)製の粒度分析計マイクロトラックUPA150を使用して測定した平均粒径(D50)が250nmである顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として無色透明のポリメタクリル酸メチルの重合体1溶液と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、調製した油性インク11(20℃での粘度4.3mPa・s)からなるインクセット。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる(摘記1b参照)。

4 対比・判断
(1)本件特許発明1
ア 引用発明との対比
引用発明の「ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、γ−ブチロラクトンからなる溶媒の一部に、ピグメントレッド122(大日本インキ化学工業社製、FASTGEN SUPER MAGENTA RG)と分散剤として味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散し、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、得られた、日機装(株)製の粒度分析計マイクロトラックUPA150を使用して測定した平均粒径(D50)が250nmである顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として無色透明のポリメタクリル酸メチルの重合体1溶液と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、調製した油性インク6(20℃での粘度4.2mPa・s)」、「ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、γ−バレロラクトンからなる溶媒の一部に、ピグメントイエロー180(クラリアント社製、NOVOPERM YELLOW P−HG)と分散剤としてルーブリゾール社製「ソルスパース32000」とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散し、更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、得られた、日機装(株)製の粒度分析計マイクロトラックUPA150を使用して測定した平均粒径(D50)が250nmである顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として無色透明のポリメタクリル酸メチルの重合体1溶液と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、調製した油性インク2(20℃での粘度4.7mPa・s)」及び「ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、γ−ブチロラクトンからなる溶媒の一部に、ピグメントブルー15:4(大日精化社製、シアニンブルーCP−1)と分散剤としてルーブリゾール社製「ソルスパース32000」とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散し、更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、得られた、日機装(株)製の粒度分析計マイクロトラックUPA150を使用して測定した平均粒径(D50)が250nmである顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として無色透明のポリメタクリル酸メチルの重合体1溶液と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、調製した油性インク7(20℃での粘度4.1mPa・s)」は、それぞれ、本件特許発明1の「マゼンタインク」、「イエローインク」、「シアンインク」、「前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレッ卜19から選択される顔料を含み」及び「前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み」に相当する。
引用発明の「ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、γ−ブチロラクトンからなる溶媒の一部にピグメントオレンジ64(チバスペシャリティーケミカルズ社製、CROMOPHTAL(R)ORANGE GP)と分散剤として味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散し更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、得られた、日機装(株)製の粒度分析計マイクロトラックUPA150を使用して測定した平均粒径(D50)が250nmである顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として無色透明のポリメタクリル酸メチルの重合体1溶液と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、調製した油性インク3(20℃での粘度4.3mPa・s)」は、ピグメントオレンジ64は有機顔料であるから(摘記7b参照)、本件特許発明1の「オレンジインク」及び「前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と引用発明は、「オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり、
前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレッ卜19から選択される顔料を含み、
前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含む、
インクセット。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1は、オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクの有機顔料の50体積%粒子径(D50)がマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であるのに対し、引用発明では、オレンジインクに含まれる有機顔料が、日機装(株)製の粒度分析計マイクロトラックUPA150を使用して測定した平均粒径(D50)が250nmであり、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の平均粒径(D50)と同じである点。

<相違点2>
本件特許発明1では、オレンジインクの有機顔料がジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含むのに対し、引用発明では、オレンジインクがピグメントオレンジ64であり、オレンジインクの有機顔料がジケトピロロピロール化合物顔料を含まず、イエローインクがピグメントイエロー180(クラリアント社製、NOVOPERM YELLOW P−HG)である点。

<相違点3>
本件特許発明1は、オレンジインクに含まれる有機顔料の90体積%粒子径(D90)が150nm以上700nm以下であるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。

イ 相違点についての検討
<相違点1>について
甲B5及び甲B6には、本件特許の出願前にオレンジ顔料を含むオレンジインクに耐候性低下等の課題があることが記載されており(摘記5a、5b、6a、6b参照)、耐候性の点でその体積平均粒子径を100nm〜400nmとすることが好ましいことが記載されており(摘記5c、6c参照)、甲B7によれば、顔料インクにおいて耐候性等に課題がある場合の解決手段として、インク中の顔料の粒径を大きくすることが記載されている(摘記7a参照)。
しかし、インクセットを構成する1つのインクに含まれる顔料の平均粒径のみを大きい値に変更した場合には、その顔料は、粒径の変更前に比べて、他の顔料を隠蔽しやすくなり、カラーバランスが損なわれることが考えられ、このため、引用発明のように、各色インクに含まれる顔料の平均粒径を揃えているインクセットにおいて、例えば、あるインクに含まれる顔料の平均粒径を大きい値に変更することが求められるような場合には、カラーバランスを損なわないよう、他のインクに含まれる顔料の平均粒径も同様に大きい値に変更することが一般的であるといえる。
そうすると、引用発明のインクセットにおいて、耐候性低下等の課題があるオレンジインクにおいてのみ、その有機顔料の50体積%粒子径(D50)を甲B5及び甲B6に記載されるように400nmまでの範囲内で、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より大きく設定し、さらに、その差を40nm以上とすることは、当業者が容易に想到することであるとはいえない。
さらに、甲B1には、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)を250nmより小さくすることについて、記載も示唆もなく、甲B5〜甲B7にも、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)を250nmより小さくすることについて、記載も示唆もなく、前記のとおり、カラーバランスを損なわないようにするためには、引用発明のインクセットにおいて、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)を250nmより小さくし、90nm以上175nm以下とする動機付けがあるとはいえない。

ウ 本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下としたことにより、本件特許発明1はより一層耐候性が優れているという効果を奏するものであり、引用発明や甲B5〜甲B7の記載から当業者が予測できない顕著なものであるといえる。

エ 小括
したがって、本件特許発明1は、<相違点2>及び<相違点3>について検討するまでもなく、甲B1に記載された発明及び甲B5〜甲B7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(2)本件特許発明2
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用してさらに限定するものであり、上記本件特許発明1と引用発明との<相違点1>と同じ相違点を有するものであって、<相違点1>については前記(1)イ及びウで検討したとおりである。
したがって、本件特許発明2は、甲B1に記載された発明及び甲B5〜甲B7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(3)本件特許発明3
ア 引用発明との対比
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、前記(1)アのとおりであり、さらに、引用発明の「分散剤として味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」」は、ピグメントオレンジ64を含むインク3に含まれ、塩基性ポリマーであるから、本件特許発明3の「前記オレンジインクが、塩基性分散剤を更に含む」に相当する。
そうすると、本件特許発明3と引用発明は、「オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり、
前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレッ卜19から選択される顔料を含み、
前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み、
前記オレンジインクが、塩基性分散剤を更に含む、インクセット。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4>
本件特許発明3は、オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクの有機顔料の50体積%粒子径(D50)がマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であるのに対し、引用発明では、オレンジインクに含まれる有機顔料が、日機装(株)製の粒度分析計マイクロトラックUPA150を使用して測定した平均粒径(D50)が250nmであり、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の平均粒径(D50)と同じである点。

<相違点5>
本件特許発明3では、オレンジインクの有機顔料がジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含むのに対し、引用発明では、オレンジインクがピグメントオレンジ64であり、オレンジインクの有機顔料がジケトピロロピロール化合物顔料を含まず、イエローインクがピグメントイエロー180(クラリアント社製、NOVOPERM YELLOW P−HG)である点。

イ 相違点についての検討
<相違点4>について
<相違点4>は、前記(1)アの<相違点1>と同じであり、上記(1)イ<相違点1>についてと同様の理由により、引用発明のインクセットにおいて、オレンジインクの有機顔料の50体積%粒子径(D50)をマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きくすることは、当業者が容易に想到することであるとはいえない。また、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)を90nm以上175nm以下とする動機付けがあるとはいえない。

ウ 本件特許発明3の効果について
前記(1)ウと同様の理由により、本件特許発明3の効果は、引用発明や甲B5〜甲B7の記載から当業者が予測できない顕著なものであるといえる。

エ 小括
したがって、本件特許発明3は、<相違点5>について検討するまでもなく、甲B1に記載された発明及び甲B5〜甲B7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(4)本件特許発明4
ア 引用発明との対比
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、前記(1)アのとおりであり、さらに、引用発明の「分散剤としてルーブリゾール社製「ソルスパース32000」」は、ピグメントイエロー180を含むインク2及びピグメントブルー15:4を含むインク7に含まれ、引用発明の「分散剤として味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」」は、ピグメントオレンジ64を含むインク3及びピグメントレッド122を含むインク6に含まれ、引用発明の「ジエチレングリコールジエチルエーテル」及び「テトラエチレングリコールジメチルエーテル」は、ピグメントイエロー180を含むインク2、ピグメントオレンジ64を含むインク3、ピグメントレッド122を含むインク6及びピグメントブルー15:4を含むインク7に含まれるものであり、本件特許発明4の一般式(1)において、R1及びR3が炭素数2のアルキル、R2が炭素数2のアルキレン、mが2であるもの、及び、R1及びR3が炭素数1のアルキル、R2が炭素数2のアルキレン、mが4であるものに相当するから、引用発明の「分散剤としてルーブリゾール社製「ソルスパース32000」」及び「分散剤として味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」」、並びに、「ジエチレングリコールジエチルエーテル」及び「テトラエチレングリコールジメチルエーテル」は、本件特許発明4の「前記オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが、それぞれ独立して」、「顔料分散剤と、下記一般式(1):
R1O−(R2O)m−R3 ・・・(1)
[式中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、1以上4以下の整数を表す]で表される化合物を含有する溶剤とを更に含み」に相当する。
そうすると、本件特許発明4と引用発明は「オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり、
前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレッ卜19から選択される顔料を含み、
前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み、
前記オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが、それぞれ独立して、顔料分散剤と、下記一般式(1):
R1O−(R2O)m−R3 ・・・(1)
[式中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、1以上4以下の整数を表す]で表される化合物を含有する溶剤とを更に含む、
インクセット。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点6>
本件特許発明4は、オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクの有機顔料の50体積%粒子径(D50)がマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であるのに対し、引用発明では、オレンジインクに含まれる有機顔料が、日機装(株)製の粒度分析計マイクロトラックUPA150を使用して測定した平均粒径(D50)が250nmであり、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の平均粒径(D50)と同じである点。

<相違点7>
本件特許発明4では、オレンジインクの有機顔料がジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含むのに対し、引用発明では、オレンジインクがピグメントオレンジ64であり、オレンジインクの有機顔料がジケトピロロピロール化合物顔料を含まず、イエローインクがピグメントイエロー180(クラリアント社製、NOVOPERM YELLOW P−HG)である点。

<相違点8>
本件特許発明4は、前記オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが、それぞれ独立して、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂を含み、
前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂は、重量平均分子量/数平均分子量が5.0〜7.0であり、塩化ビニル単位(a)と酢酸ビニル単位(b)との質量比(a/b)が80/20〜90/10であり、
また、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂は、該塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂20質量%及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル80質量%からなる樹脂溶液を調製した場合、該樹脂溶液のヘイズ値が10.0%以下となるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。

イ 相違点についての検討
<相違点6>について
<相違点6>は、前記(1)アの<相違点1>と同じであり、上記(1)イ<相違点1>についてと同様の理由により、引用発明のインクセットにおいて、オレンジインクの有機顔料の50体積%粒子径(D50)をマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きくすることは、当業者が容易に想到することであるとはいえない。また、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)を90nm以上175nm以下とする動機付けがあるとはいえない。

ウ 本件特許発明3の効果について
前記(1)ウと同様の理由により、本件特許発明4の効果は、引用発明や甲B5〜甲B7の記載から当業者が予測できない顕著なものであるといえる。

エ 小括
したがって、本件特許発明3は、<相違点7>及び<相違点8>について検討するまでもなく、甲B1に記載された発明及び甲B5〜甲B7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(5)本件特許発明5、7〜9
本件特許発明5、7〜9は、本件特許発明1、3又は4を引用してさらに限定するものであり、上記本件特許発明1、3又は4と引用発明との<相違点1>、<相違点4>又は<相違点6>と同じ相違点を有するものであって、<相違点1>、<相違点4>及び<相違点6>については前記(1)イ及びウ、(3)イ及びウ、並びに、(4)イ及びウで検討したとおりである。
したがって、本件特許発明5、7〜9は、甲B1に記載された発明及び甲B5〜甲B7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人A及び申立人Bが申立てた取消理由のうち令和4年6月7日付けの取消理由通知及び同年11月8日付けの取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、申立人Aが申立てた取消理由である理由(特許法第29条第1項第3号(下記理由1)、特許法第29条第2項(下記理由2)、特許法第36条第6項第1号(下記理由3)及び特許法第36条第6項第2号(下記理由4))、並びに、申立人Bが申立てた取消理由である理由のうち理由2(特許法第36条第6項第1号(下記理由5))である。
申立人Bが申立てた取消理由である理由のうち理由1(特許法第29条2項)は、令和4年6月7日付けの取消理由通知及び同年11月8日付けの取消理由通知において採用されている。

1 申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立理由
理由1(新規性)本件特許の請求項1〜3、6、7、10に係る発明は、下記3(1)の、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記の請求項1〜3、6、7、10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

理由2(進歩性)本件特許の請求項1〜10に係る発明は、下記3(1)の、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項1〜10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

理由3(サポート要件)本件特許の請求項1〜10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(1)本件特許発明1〜10について
本件特許発明の課題は、屋外暴露後もその美観性が大きく損なわれない印刷物を得ることができるインクセットを提供することである(【0018】)。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下のように当該課題を解決できることが記載されている。
「本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットにおいて、オレンジインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)(以下、単にD50ともいう)を150nm以上400nm以下とすると共に、オレンジインクに含まれる顔料のD50をマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50よりも大きくすることで、オレンジインクに含まれる顔料が有機顔料であっても、オレンジ色の退色の進みをマゼンタインク、イエローインクやシアンインクと同程度にすることができ、長期に亘って印刷物全体の美観を維持できることを見出し、本発明を完成させるに至った。」(【0010】)
上記【0010】の記載、および化学の分野では組成物中に含まれる化合物の構造や含量が変化するとその組成物の特性も大きく変化することは技術常識であることを考慮すると、請求項1、3および4の「オレンジインクに含まれる顔料」である「有機顔料」の種類やインク中の含量によって、オレンジインクの特性は、大きく変化するものと考えられる。
しかしながら、本件特許明細書の実施例には該「有機顔料」として3質量%のピグメントオレンジ71、73、81、または64を含むオレンジインクを使用した例しか示されていない。この実施例の記載に基づいて、「有機顔料」の種類を具体的に特定していない請求項1、3および4に係る特許発明の範囲にまで、拡張ないし一般化できるとはいえない。同様に、実施例の記載に基づいて、請求項1、3および4に直接的または間接的に従属する請求項2、5〜10に係る特許発明の範囲にまで、拡張ないし一般化できるとはいえない。

(2)本件特許発明3、5〜10について
請求項3および7には、オレンジインクが「塩基性分散剤」を更に含むことが記載されている。本件特許明細書の実施例には該「塩基性分散剤」として、ソルスパース37500を使用した例しか示されていない。また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、下記【0029】に記載の通り「塩基性分散剤」について、「顔料分散剤の中でも、塩基性分散剤は、分散安定性及び印刷物の鮮鋭性の向上効果が高いため、特に好ましい。」と記載されるに過ぎない。この実施例および【0029】の記載に基づいて、「塩基性分散剤」の種類を具体的に特定していない請求項3および7に係る特許発明の範囲にまで、拡張ないし一般化できるとはいえない。同様に、実施例の記載に基づいて、請求項3および7に直接的または間接的に従属する請求項5〜6、8〜10に係る特許発明の範囲にまで、拡張ないし一般化できるとはいえない。

理由4(明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、本件特許の請求項3、5〜10に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

本件特許発明3、5〜10について
請求項3および7には「塩基性分散剤」が記載されている。ここで、本件特許明細書には、「塩基性分散剤」について具体的に記載されているのは、下記の【0029】である。
【0029】
本発明のインクセットにおいて、オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクは、いずれも顔料分散剤を含むことが好ましい。各インク中の顔料分散剤は同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、顔料分散剤としては、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアミドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアミドと酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合体、酸末端ポリエステル、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエステルアミド樹脂等が挙げられる。これら顔料分散剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。顔料分散剤の中でも、塩基性分散剤は、分散安定性及び印刷物の鮮鋭性の向上効果が高いため、特に好ましい。なお、顔料分散剤は、市販品を好適に使用できる。また、各インク中における顔料分散剤の含有量は、それぞれ0.5質量%以上10質量%以下が好ましい。
上記【0029】の記載だけでは、「塩基性分散剤」の意義が不明確であり、どのような化学構造の分散剤が「塩基性分散剤」に含まれるのか、が明確ではない。
従って、本件特許発明3および7は明確ではない。
同様に、請求項3および7に直接的または間接的に従属する請求項5、6、8〜10に係る本件特許発明5、6、8〜10も明確ではない。

2 申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立理由

理由5(サポート要件)本件特許の請求項1〜5、7〜10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

請求項1〜5、7〜10に係る発明は、オレンジインクに含まれる有機顔料としてありとあらゆる顔料種を含むものである。
甲9アによれば、耐光性について表示は8級法により8が最良であり、dは暗色化を表すことが理解できる。その上で甲9イ〜キによれば、同じ色のインクであっても、使用する顔料種によって耐候性に違いがあることが理解できる。
−方、本件特許において課題であるオレンジ色の耐候性改善効果(【0008】〜【0009】)が確認されているのは、オレンジインクに含まれる有機顔料がピグメントオレンジ71、ピグメントオレンジ73、ピグメントオレンジ81及びピグメントオレンジ64の場合(【表1】及び【表3】)のみであり、オレンジインクに含まれる有機顔料としてありとあらゆる顔料種まで上記課題が解決できると当業者は推認することはできない。
さらに本件特許権者は、令和3年2月2日提出の意見書にて「オレンジインクについて、オレンジ色の再現に関して様々な提案がされていますが、屋外に設置される対象に対してオレンジ色を表現する場合、他の色に比べて、屋外に曝されると退色が早く進む問題があります。特に、より鮮やかな色を表現するため、オレンジ色の有機顔料を用いた場合、その退色は著しくなります。初期の印刷物が色鮮やかであるだけにその落差は深刻な問題となっています。例えば、サイン用途や建築用途の基材に印刷を行う場合、通常、複数色のインクを用いて印刷が行われますが、オレンジ色が退色を起こすだけでも、印刷物全体の色調が変化する結果となり、印刷物全体が劣化して見えてしまうことになります。(段落[0008]参照。)そこで、本願発明は、屋外暴露後もその美観性が大きく損なわれない印刷物を得ることができるインクセットを提供することを目的とする発明であります(段落[0009]参照)。本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットにおいて、オレンジインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)を150nm以上400nm以下とすると共に、オレンジインクに含まれる顔料のD50をマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD50よりも大きくすることで、オレンジインクに含まれる顔料が有機顔料であっても、オレンジ色の退色の進みをマゼンタインク、イエローインクやシアンインクと同程度にすることができ、長期に亘って印刷物全体の美観を維持できることを見出し、本願発明を完成させるに至りました(段落[0010]参照)。」と主張する。
しかしながら、例えば甲9エによれば、C.I.ピグメントオレンジ36は、耐光性濃色8であり、甲9エによれば、C.I.ピグメントオレンジ43は、耐光性淡色7であり、甲9オによれば、C.I.ピグメントレッド122は、耐光性濃色8であり、甲9カによれば、C.I.ピグメントバイオレット19は、耐光性濃色8であり、甲9キによれば、C.I.ピグメントブルー28は、耐光性濃色7〜8、淡色7であり、甲9イによればC.I.ピグメントイエロー12は、耐光性濃色4、淡色2〜3であって、オレンジインクに含まれるオレンジ顔料の方が、その他のシアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクに含まれる顔料よりも耐光性が良好又は同等レベルであり、採用する顔料種によっては、上記本件特許権者の主張とは一致しない場合もあり得、上記本件特許権者の主張は、全ての顔料種についてまで成り立つわけではないことは明らかである。
以上のとおりであるから、請求項1〜5、7〜10に係る発明は、発明の詳細に記載されたものではない。

3 取消理由通知において採用しなかった、申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立理由についての判断
(1)理由1(新規性)及び理由2(進歩性
ア 甲号証について
甲A1号証:特開2009−66946号公報
甲A2号証:特開2005−15546号公報
甲A3号証:特開2011−107328号公報
甲A4号証:特開2016−83844号公報
甲A5号証:特開2016−155909号公報
甲A6号証:特開2015−67763号公報

イ 甲号証及び引用文献の記載について
(ア)甲A第1号証(以下、「甲A1」という。)
A1a「【請求項1】
インク−記録用メデイアのセットであって、該インクはシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色の原インクのうちの少なくとも1つの原インクに、少なくとも顔料あるいは水不溶性染料、水溶性溶剤、及び水からなるレッド、グリーン、ブルー、バイオレット、オレンジのインク用組成物から選ばれる1つ以上の組成物を加えてなるインク組成物であり、
前記記録用メディアが支持体と該支持体の少なくとも一方の面に塗工層を有してなり、動的走査吸液計で測定した接触時間40msにおける純水の該記録用メディアへの転移量が2〜9ml/m2であり、かつ接触時間400msにおける純水の該記録用メディアへの転移量が7〜29ml/m2であることを特徴とするインク記録用メデイアセット。」
A1b「【0019】
また、本発明で使用する各インク用組成物、各インクに含有される顔料は、本発明のために新たに製造されたものでも使用可能である。有機顔料としてはピラントロン、ペリレン、および(チオ)インジゴイドが挙げられる。このなかでも、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、モノアゾイエロー系顔料、ジスアゾイエロー系顔料、複素環式イエロー顔料は、発色性の面で優れている。具体的には以下のようなものであるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
・・・
【0021】
(オレンジ顔料)
C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントオレンジ61、C.I.ピグメントオレンジ71、C.I.ピグメントオレンジ81など;」
A1c「【0050】
−浸透剤−
浸透剤をインク(インク組成物)、原インク又はインク用組成物に添加することで、表面張力が低下し、紙等の記録媒体にインク滴が着弾した後の記録用メディア中への浸透が速くなるため、フェザリングやカラーブリードを軽減することができる。本発明の適正な表面張力の範囲としては35mN/m以下である。浸透剤としては、一般的にアニオン系界面活性剤またはノニオン系界面活性剤が用いられ、色材の種類や湿潤剤、水溶性有機溶剤の組合せによって、分散安定性を損なわない界面活性剤を選択する。
アニオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩などが挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオール、グリコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、アセチレングリコールなどが挙げられる。
アセチレングリコール系の界面活性剤としては、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどのアセチレングリコール系(例えばエアープロダクツ社(米国)のサーフィノール104、82、465、485あるいはTGなど)をもちいることができるが、特にサーフィノール465、104やTGが良好な印字品質を示す。
フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエーテル化合物等が挙げられるが、フッ素系化合物として市販されているものを挙げると、サーフロンS-111,S-112,S-113,S121,S131,S132,S-141,S-145(旭硝子社製)、フルラードFC-93,FC-95,FC-98,FC-129,FC-135,FC-170C,FC-430,FC-431(住友スリーエム社製)、メガファックF-470,F1405,F-474(大日本インキ化学工業社製)、Zonyl TBS,FSP,FSA,FSN-100,FSN,FSO-100,FSO,FS-300,UR(DuPont社製)、FT-110,250,251,400S(株式会社ネオス社製)等が簡単に入手でき本発明に用いることができる。
上記界面活性剤は、単独または二種以上を混合して用いることができる。
特に、本発明においては、浸透剤として、炭素数8以上で11以下のポリオール、または、下記式[化1]〜[化7]の界面活性剤を用いることでより良好な印字品質を得ることができる。
・・・
【0055】
【化5】

【0056】
【化6】

p、qは0〜40」
A1d「【0103】
[実施例1]
・ミルベースB 40重量部
・グリセリン 6重量部
・トリエチレングリコール 18重量部
・[化5]で表される界面活性剤 2重量部
・3−メチル−2,4−ヘプタンジオール 2重量部
・トリエタノールアミン 0.2重量部
・プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤) 0.1重量部
・イオン交換水 31.7重量部
上記インク処方を用い、グリセリン、トリエチレングリコール、[化5]で表される界面活性剤、3−メチル−2,4−ヘプタンジオール、トリエタノールアミン、プロキセルLVをイオン交換水に溶解してビヒクルを作成し、ミルベースBと混合した後、1μmのフィルターでろ過して、インクジェット記録用ブルーインクを得た。
【0104】
[実施例2]
・ミルベースG 40重量部
・グリセリン 10重量部
・ジプロピレングリコール 30重量部
・FT−110((株)ネオス社製、フッ素系界面活性剤) 1重量部
・3−メチル−2,4−ヘプタンジオール 2重量部
・2−アミノ−2−メチル−1、3プロパンジオール 0.2重量部
・プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤) 0.1重量部
・イオン交換水 16.7重量部
上記インク処方を用い、実施例1と同様の方法で、インクジェット記録用グリーンインクを得た。
【0105】
[実施例3]
・ミルベースR2 40重量部
・ポリマー微粒子 24重量部
(高松油脂(株)製、ポリエステル微粒子水分散体ペスレジンA115GE、
固形分25%)
・グリセリン 6重量部
・トリメチロールプロパン 18重量部
・[化5]で表される界面活性剤 2重量部
・2−アミノ−2−メチル−1、3プロパンジオール 0.2重量部
・プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤) 0.1重量部
・イオン交換水 9.7重量部
上記インク処方を用い、実施例1と同様の方法で、インクジェット記録用レッドインクを得た。
【0106】
[実施例4]
・ミルベースR2 40重量部
・ポリマー微粒子 18重量部
(BASF・ジャパン(株)製、アクリル微粒子水分散体PDX−7630A、
固形分32%)
・グリセリン 9重量部
・1,3−ブタンジオール 18重量部
・[化6]で表される界面活性剤 2重量部
・3−メチル−2,4−ヘプタンジオール 2重量部
・トリエタノールアミン 0.2重量部
・プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤) 0.1重量部
・イオン交換水 10.7重量部
上記インク処方を用い、実施例1と同様の方法で、インクジェット記録用レッドインクを得た。
【0107】
[実施例5]
・ミルベースB 40重量部
・ポリマー微粒子 20重量部
(高松油脂(株)製、ポリエステル微粒子水分散体ペスレジンA210、
固形分30%)
・グリセリン 9重量部
・プロピレングリコール 18重量部
・[化6]で表される界面活性剤 2重量部
・3−メチル−2,4−ヘプタンジオール 2重量部
・トリエタノールアミン 0.2重量部
・プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤) 0.1重量部
・イオン交換水 8.7重量部
上記インク処方を用い、実施例1と同様の方法で、インクジェット記録用ブルーインクを得た。
【0108】
[実施例6]
・ミルベースV 40重量部
・グリセリン 11重量部
・3−メチル−1,3−ブタンジオール 22重量部
・FT−110((株)ネオス社製、フッ素系界面活性剤) 1重量部
・2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール 2重量部
・2−アミノ−2−メチル−1、3プロパンジオール 0.2重量部
・プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤) 0.1重量部
・イオン交換水 23.7重量部
上記インク処方を用い、実施例1と同様の方法で、インクジェット記録用バイオレットインクを得た。
【0109】
[実施例7]
・ミルベースR1 40重量部
・グリセリン 7重量部
・エチレングリコールモノブチルエーテル 21重量部
・[化6]で表される界面活性剤 2重量部
・2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール 2重量部
・2−アミノ−2−メチル−1、3プロパンジオール 0.2重量部
・プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤) 0.1重量部
・イオン交換水 27.7重量部
上記インク処方を用い、実施例1と同様の方法で、インクジェット記録用レッドインクを得た。
【0110】
[実施例8]
・ミルベースO 40重量部
・グリセリン 9重量部
・1,5−ペンタンジオール 18重量部
・[化5]で表される界面活性剤 2重量部
・3−メチル−2,4−ヘプタンジオール 2重量部
・水酸化リチウム 0.2重量部
・プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤) 0.1重量部
・イオン交換水 28.7重量部
上記インク処方を用い、実施例1と同様の方法で、インクジェット記録用オレンジインクを得た。
【0111】
[実施例9]
・ミルベースG 40重量部
・ポリマー微粒子 14重量部
(BASF・ジャパン(株)製、アクリル微粒子水分散体ジョンクリル632、
固形分42%)
・グリセリン 7重量部
・1,6−ヘキサンジオール 21重量部
・FT−110((株)ネオス社製、フッ素系界面活性剤) 1重量部
・3−メチル−2,4−ヘプタンジオール 2重量部
・プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤) 0.1重量部
・イオン交換水 14.9重量部
上記インク処方を用い、実施例1と同様の方法で、インクジェット記録用グリーンインクを得た。
【0112】
[実施例10]
・ミルベースR1 40重量部
・グリセリン 7重量部
・1,3−ブタンジオール 21重量部
・FT−110((株)ネオス社製、フッ素系界面活性剤) 1重量部
・3−メチル−2,4−ヘプタンジオール 2重量部
・2−アミノ−2−メチル−1、3プロパンジオール 0.2重量部
・プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤) 0.1重量部
・イオン交換水 28.7重量部
上記インク処方を用い、実施例1と同様の方法で、インクジェット記録用レッドインクを得た。
・・・
【0114】
[比較例2]
イエローインクとシアンインクによるグリーン画像(2次色)の作成。
<イエローインク>
・ミルベースY 40重量部
・グリセリン 7重量部
・3−メチル−1,3−ブタンジオール 21重量部
・2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール 2重量部
・[化6]で表される界面活性剤 2重量部
・2−アミノ−2−メチル−1、3プロパンジオール 0.2重量部
・プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤) 0.1重量部
・イオン交換水 27.7重量部
上記インク処方を用い、実施例1と同様の方法で、インクジェット記録用イエローインクを得た。
<シアンインク>
ミルベースYをミルベースCに変えた以外は、上記イエローインクと同様の処方および同様の方法で、インクジェット記録用シアンインクを得た。
・・・
【0123】
記録装置としてIpsio GX5000((株)リコー製)を用いて、実施例3、4、6、7、10で作成したレッドインクあるいはバイオレットインクをマゼンタ用カートリッジに充填し、所定の場所にセットした。同様に、実施例1、2、5、9で作成したブルーインクあるいはグリーンインクをシアン用カートリッジに充填し、所定の場所にセットした。同様に、実施例8で作成したオレンジインクをイエロー用カートリッジに充填し、所定の場所にセットした。これらの各インク単独(100%)で形成したベタ画像を、実施例A、B、および比較例A、Bの4種類の記録メディアに出力し、記録物を得た。
上記方法で得た実施例インクを実施例記録メディアに記録した記録物の画像品質評価結果を[表5]に示す。また、上記方法で得た実施例インクを比較例記録メディアに記録した記録物の画像品質評価結果を[表6]に示す。画像品質評価項目としては、(1)ビーディング(濃度ムラ)、(2)拍車汚れ、(3)彩度の4項目を評価し、評価方法は以下に掲載する方法を用いた。
(1)ビーディング(濃度ムラ)
ベタ部の濃度ムラの程度を目視で評価した。ランク評価は段階見本
(ランク 悪い1⇔5 良い、許容レベルは4以上)を用いて行った。
(2)拍車汚れ
ベタ部から地肌部への拍車によるオフセット汚れの程度を目視で評価した。
ランク評価は以下の基準で行った。
ランク1;はっきり見える
ランク2;かすかに見える
ランク3;全く無し
(許容レベルは3以上)
(3)彩度
反射型カラー分光測色濃度計(X−Rite社製)で測定した。測定した彩度の値と、標準色(Japan color ver.2)の彩度の値(レッド:83.64、ブルー:54.78、グリーン:77.64)との比率を算出し、下の評価基準にしたがって評価した結果を表4に示す。
なお、オレンジインクはイエローの標準色の彩度(91.34)と、バイオレットインクはマゼンタの標準色の彩度(74.55)との比率を算出した。
◎:1.0以上
○:0.85以上 1.0未満
△:0.7以上 0.85未満
×:0.7未満
(許容レベルは○以上)
・・・
【0125】
【表1】

・・・
【0129】
【表5】



(イ)甲A第2号証(以下、「甲A2」という。)
A2a「【請求項1】
顔料と、分散剤樹脂と、バインダー樹脂と、有機溶剤とを含有する被覆剤であって、以下の特性、
(1)前記分散剤樹脂及び前記バインダー樹脂の全固形分濃度が、0.1〜40質量%である、
(2)前記被覆剤の20℃における粘度が、100mPa・s以下である、
(3)前記被覆剤の静置状態における表面張力が、38mN/m以下である、
(4)前記被覆剤中で形成される顔料分散体の体積平均粒子径が、35〜500nmであり、かつ、体積累積10%粒子径(D10)が、10nm以上であり、体積累積90%粒子径(D90)が、800nm以下である、
を有することを特徴とする被覆剤。
・・・
【請求項3】
インクジェット印刷用のインク組成物である請求項1又は請求項2に記載の被覆剤。」
A2b「【0012】
なお、本発明の被覆剤中においては、顔料表面には、分散剤樹脂及びバインダー樹脂が付着又は吸着されて、その表面を完全に又は部分的に被覆していると考えられ、この状態で、被覆剤中に均一に分散されているものと考えられる。この状態を、本件明細書では、「顔料分散体」と呼ぶ。
上記(4)においては、顔料分散体の体積平均粒子径は、好ましくは、50〜400nm、体積累積10%粒子径は、好ましくは、15nm以上(上限は、例えば、300nmである)、体積累積90%粒子径は、好ましくは、700nm以下(下限は、例えば、50nmである)である。顔料分散体の体積平均粒子径が35〜500nmの範囲以外では、分散安定性や透明性が悪くなり易い。顔料分散体の体積累積10%粒子径が、10nm未満では、顔料の耐光性が悪くなり、また、にじみも生じ易くなる。体積累積90%粒子径が、800nmを超えると、分散安定性や、透明性、パターン精度が悪くなり易い。一旦、本発明が開示されれば、被覆剤における顔料分散体を、このような体積平均粒子径、体積累積10%粒子径、体積累積90%粒子径に調整することは、当業者には、容易である。」

(ウ)甲A第3号証(以下、「甲A3」という。)
A3a「【請求項1】
結着樹脂としてのドデセニルコハク酸構造を構成単位として含むポリエステル樹脂と、配合量が5〜18質量%のC.I.ピグメントオレンジ71とを含有してなることを特徴とするオレンジトナー。」
A3b「【0209】
<着色剤分散液(OR1)の調製>
・オレンジ顔料(チバジャパン(株)社製、Orange TR (C.I.ピグメントオレンジ71)): 200質量部
・アニオン系界面活性剤(第一工業製薬社製、ネオゲンSC): 33質量部(有効成分60質量%。着色剤に対して10質量%)
・イオン交換水: 750質量部
【0210】
上記成分を全て投入した際に液面の高さが容器の高さの1/3程度になる大きさのステンレス容器に、上記イオン交換水のうち280質量部と上記アニオン系界面活性剤を入れ、温度40℃に加温して充分に界面活性剤を溶解させた後25℃に冷却し、上記オレンジ顔料全てを投入し、攪拌器を用いて、濡れていない顔料が無くなるまで攪拌するとともに、充分に脱泡させた。
【0211】
脱泡後に残りのイオン交換水を加え、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて、5000回転で10分間分散した後、攪拌器で一昼夜攪拌させて脱泡した。脱泡後、再度ホモジナイザーを用いて、6000回転で10分間分散した後、攪拌器で一昼夜攪拌させて脱泡した。続けて、分散液を高圧衝撃式分散機アルティマイザー((株)スギノマシン社製、HJP30006)を用いて、圧力240MPaで分散した。分散は、トータル仕込み量と装置の処理能力とから換算して25パス相当行った。
【0212】
得られた分散液を72時間放置して沈殿物を除去し、イオン交換水を加えて、固形分濃度を15質量%になるように調整した。得られた着色剤分散液中の粒子の体積平均粒径D50Vは165nmであり、250nm以上の粗粉は観測されなかった。なお、該体積平均粒径D50Vは、マイクロトラックにて5回測定した内の、最大値と最小値を除いた3回の測定値の平均値を用いた。この着色剤分散液を(M1)とする。」

(エ)甲A第4号証(以下、「甲A4」という。)
A4a「【請求項1】
水性インクと、前記水性インクを収容する、繊維積層体又は多孔質体により構成された収容部材と、を備えるインクジェット用のインクカートリッジであって、
前記水性インクが、体積基準の粒度分布の累積50%粒径D50が80nm以上300nm以下である顔料を含有し、
前記収容部材の平均空隙半径が、50μm以上800μm以下であることを特徴とするインクカートリッジ。
・・・
【請求項9】
前記顔料の体積基準の粒度分布の累積90%粒径D90が、350nm以下である請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。」
A4b「【0084】

・・・
【0086】



(オ)甲A第5号証(以下、「甲A5」という。)
A5a「【請求項1】
溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ−43(PO−43)と、を含む非水系インクジェットインク組成物。
・・・
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、さらに、溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含む、非水系インクジェットインク組成物。
R1O−(R2O)m−R3 ・・・(2)
[一般式(2)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2〜6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
・・・
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系シアンインクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系マゼンタインクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系イエローインクジェットインク組成物と、を少なくとも備えるインクセット。」
A5b「【0005】
しかしながら、非水系インクジェットインク組成物を、サイン用途に使用する場合には、記録物の耐候性が不十分となる場合があった。すなわち、サイン用途の記録物は、雨や日光等にさらされる屋外環境で使用されることが多く、屋内での使用よりも高い耐候性が求められている。発明者らによると、インクのうちでも、オレンジ色系の顔料を含むインクを使用することで暖色系の色再現領域を広げようとする際に、耐候性にも優れたインクとすることが重要であること、暖色系の色再現領域の特に広いインクとすることが重要であることがわかってきた。また、インクの発色性がよいことも色再現領域を広げる機能を十分発揮するために重要であることが分かってきた。」
A5c「【0056】
本実施形態のインクジェットインク組成物に含有されるPO−43の体積平均粒子径は、吐出安定性や耐候性や発色性の点で100nm以上400nm以下が好ましく、より好ましくは150nm以上300nm以下である。ここで顔料の体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により評価することができる。具体的には、インク化した検体(顔料)を、DEGdEE(ジエチレングリコールジエチルエーテル)にて1000ppm以下となるように希釈し、これをレーザー回折・散乱測定装置(例えば、マイクロトラックUPA250(日機装株式会社製))を用いて20℃の環境下で、メディアン径D50の値を読み取ることにより測定することができる。したがって、異なる体積平均粒子径を有するPO−43を混合して使用する場合においても、それぞれの体積平均粒子径及び混合物の体積平均粒子径を測定することもできる。」
A5d「【0082】
また、分散剤としては、金属石鹸、塩基性基を有する高分子分散剤等を用いることもでき、塩基性基を有する高分子分散剤が好ましい。特に、塩基性基としてアミノ基、イミノ基又はピロリドン基を有するものが好ましい。塩基性基を有する高分子分散剤として、ポリアルキレンポリアミン、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、変性ポリウレタン、ポリエステルポリアミン等を用いることができる。
【0083】
塩基性基を有する高分子分散剤の具体例としては、BYKChemie社製の「Anti−Terra−U(ポリアミノアマイドリン酸塩)」、「Anti−Terra−204(高分子量ポリカルボン酸塩)」、「Disperbyk−101(ポリアミノアマイドリン酸塩と酸エステル)130(ポリアマイド)を挙げることができる。また、アビシア社製のソルスパース5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13940(ポリエステルポリイミン)、17000、18000、19000(ポリエステルポリアミン)、11200(ポリエステルポリイミン)を挙げることができる。また、ISP社製のV−216、V−220(長鎖アルキル基を持ったポリビニルピロリドン)を挙げることができる。」

(カ)甲A第6号証(以下、「甲A6」という。)
前記第5 2(9)のとおり。

ウ 甲A1に記載された発明
甲A1には、「記録装置としてIpsio GX5000((株)リコー製)を用いて、実施例3、4、6、7、10で作成したレッドインクあるいはバイオレットインクをマゼンタ用カートリッジに充填し、所定の場所にセットした。同様に、実施例1、2、5、9で作成したブルーインクあるいはグリーンインクをシアン用カートリッジに充填し、所定の場所にセットした。同様に、実施例8で作成したオレンジインクをイエロー用カートリッジに充填し、所定の場所にセットした。」と記載されているから(摘記A1d参照)、レッドインク及びブルーインクとして、それぞれ、実施例3及び1のものを含む、「ポリマー微粒子(高松油脂(株)製、ポリエステル微粒子水分散体ペスレジンA115GE、固形分25%)、グリセリン、トリメチロールプロパン、[化5]で表される界面活性剤、2−アミノ−2−メチル−1、3プロパンジオール、プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤)をイオン交換水に溶解してビヒクルを作成し、色材として体積平均粒径128nmのピグメント レッド 208を含むミルベースR2と混合した後、1μmのフィルターでろ過して得た、インクジェット記録用レッドインク、
グリセリン、トリエチレングリコール、[化5]で表される界面活性剤、3−メチル−2,4−ヘプタンジオール、トリエタノールアミン、プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤)をイオン交換水に溶解してビヒクルを作成し、色材として体積平均粒径109nmのピグメント ブルー 1を含むミルベースBと混合した後、1μmのフィルターでろ過して得た、インクジェット記録用ブルーインク、及び、
グリセリン、1,5−ペンタンジオール、[化5]で表される界面活性剤、3−メチル−2,4−ヘプタンジオール、水酸化リチウム、プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤)をイオン交換水に溶解してビヒクルを作成し、色材として体積平均粒径182nmのピグメント オレンジ 61を含むミルベースOと混合した後、1μmのフィルターでろ過して得た、インクジェット記録用オレンジインクからなるインクセット。」(以下、「甲A1発明」という。)が記載されているといえる(摘記A1d参照)。

エ 対比・判断
(ア)本件特許発明1
a.甲A1発明との対比
本件特許発明1と甲A1発明とを対比する。
甲A1発明の「ポリマー微粒子(高松油脂(株)製、ポリエステル微粒子水分散体ペスレジンA115GE、固形分25%)、グリセリン、トリメチロールプロパン、[化5]で表される界面活性剤、2−アミノ−2−メチル−1、3プロパンジオール、プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤)をイオン交換水に溶解してビヒクルを作成し、色材として体積平均粒径128nmのピグメント レッド 208を含むミルベースR2と混合した後、1μmのフィルターでろ過して得た、インクジェット記録用レッドインク」及び「グリセリン、トリエチレングリコール、[化5]で表される界面活性剤、3−メチル−2,4−ヘプタンジオール、トリエタノールアミン、プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤)をイオン交換水に溶解してビヒクルを作成し、色材として体積平均粒径109nmのピグメント ブルー 1を含むミルベースBと混合した後、1μmのフィルターでろ過して得た、インクジェット記録用ブルーインク」は、それぞれ、本件特許発明1の「マゼンタインク」及び「シアンインク」に相当する。
甲A1発明の「グリセリン、1,5−ペンタンジオール、[化5]で表される界面活性剤、3−メチル−2,4−ヘプタンジオール、水酸化リチウム、プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤)をイオン交換水に溶解してビヒクルを作成し、色材として体積平均粒径182nmのピグメント オレンジ 61を含むミルベースOと混合した後、1μmのフィルターでろ過して得た、インクジェット記録用オレンジインク」は、ピグメント オレンジ 61は有機顔料であるから(摘記A1b参照)、本件特許発明1の「オレンジインク」及び「前記オレンジインクが有機顔料を含み」に相当し、甲A1発明において、体積平均粒径が、ピグメント オレンジ 61は182nmであり、レッドインクのピグメントレッド 208は128nmであり、ブルーインクのピグメント ブルー 1は109nmであるから、本件特許発明1の「且つマゼンタインク」及び「シアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく」、並びに、「前記マゼンタインク」及び「シアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であり」を充足する。
そうすると、本件特許発明1と甲A1発明は「オレンジインク、マゼンタインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)がマゼンタインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
前記マゼンタインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下である、
インクセット。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2−1>
インクセットが、本件特許発明1は、イエローインクを含み、
オレンジインクに含まれる有機顔料の50体積%粒子径(D50)がイエローインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
イエローインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であり、
前記イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含むのに対し、甲A1発明はイエローインクを含まない点。

<相違点2−2>
本件特許発明1は、オレンジインクの有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり、前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、
前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレッ卜19から選択される顔料を含み、
前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含むのに対し、甲A1発明は、オレンジインクの有機顔料の50体積%粒子径(D50)が182nmであり、マゼンタインクがピグメント レッド 208であり、シアンインクがピグメント ブルー 1である点。

<相違点2−3>
本件特発明1は、オレンジインクに含まれる有機顔料の90体積%粒子径(D90)が150nm以上700nm以下であるのに対し、甲A1発明ではそのような特定がない点。

b.相違点についての検討
<相違点2−1>について
<相違点2−1>は実質的な相違点である。
そして、甲A1には、甲A1発明のインクセットがイエローインクを含むことが記載されているが(摘記A1a参照)、オレンジインクに含まれる有機顔料の50体積%粒子径(D50)がイエローインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きいものとすることは、記載されていない。
また、イエローインクとして、グリセリン、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、[化6]で表される界面活性剤、2−アミノ−2−メチル−1、3プロパンジオール、プロキセルLV(アベシア社製、防腐防黴剤)をイオン交換水に溶解してビヒクルを作成し、色材として体積平均粒径105nmのピグメント イエロー 74を含むミルベースYと混合した後、1μmのフィルターでろ過して得た、インクジェット記録用イエローインクが記載されており(摘記1d参照)、体積平均粒径182nmのピグメント オレンジ 61は、体積平均粒径105nmのピグメント イエロー 74より40nm以上大きいものであるが、インクジェット記録用イエローインクは、甲A1発明に対して、比較例のものであるから、甲A1発明のインクセットにおいて、そのようなインクジェット記録用イエローインクを採用する動機付けがあるとはいえない。
そうすると、甲A1の上記記載から、甲A1発明のインクセットにおいて、イエローインクを含むものとするとしても、オレンジインクに含まれる有機顔料の50体積%粒子径(D50)がイエローインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きいものとすることまでは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
また、甲A2〜甲A6にも、インクセットにおいて、オレンジインクに含まれる有機顔料の50体積%粒子径(D50)がイエローインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きいものとすることは、記載も示唆もされていない。
したがって、甲A1発明のインクセットにおいて、イエローインクを含むものとするとしても、オレンジインクに含まれる有機顔料の50体積%粒子径(D50)がイエローインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きいものとすることまでは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

c.本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、上記<相違点2−1>に係る構成を採用し、オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きくすることにより、耐候性が優れているという効果を奏するものであり、甲A1発明から当業者が予測できない顕著なものであるといえる。

d.小括
したがって、本件特許発明1は、甲A1に記載された発明ではなく、また、<相違点2−2>及び<相違点2−3>について検討するまでもなく、甲A1に記載された発明、あるいは、甲A1に記載された発明及び甲A2〜甲A6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(イ)本件特許発明2
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用してさらに限定するものであり、上記本件特許発明1と甲A1発明との<相違点2−1>と同じ相違点を有するものであって、<相違点2−1>については前記(ア)b及びcで検討したとおりであり、甲A1に記載された発明、あるいは、甲A1に記載された発明及び甲A2〜甲A6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(ウ)本件特許発明3
a.甲A1発明との対比
本件特許発明1と甲A1発明とを対比すると、上記(ア)aのとおりであるから、この対比も踏まえると、本件特許発明3と甲A1発明は、「オレンジインク、マゼンタインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)がマゼンタインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
前記マゼンタインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下である、
インクセット。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2−4>
インクセットが、本件特許発明3は、イエローインクを含み、
オレンジインクに含まれる有機顔料の50体積%粒子径(D50)がイエローインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
イエローインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であり、
前記イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含むのに対し、甲A1発明はイエローインクを含まない点。

<相違点2−5>
本件特許発明3は、オレンジインクの有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり、前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、
前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレッ卜19から選択される顔料を含み、
前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含むのに対し、甲A1発明は、オレンジインクの有機顔料の50体積%粒子径(D50)が182nmであり、マゼンタインクがピグメント レッド 208であり、シアンインクがピグメント ブルー 1である点。

<相違点2−6>
本件特発明3は、オレンジインクが、塩基性分散剤を更に含むのに対し、甲A1発明ではそのような特定がない点。

b.相違点についての検討
<相違点2−4>について
<相違点2−4>は実質的な相違点である。
そして、<相違点2−4>は、上記(ア)aの<相違点2−1>と同じであり、上記(ア)b<相違点2−1>についてと同様の理由により、甲A1発明のインクセットにおいて、イエローインクを含むものとするとしても、オレンジインクに含まれる有機顔料の50体積%粒子径(D50)がイエローインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きいものとすることまでは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

c.本件特許発明3の効果について
上記(ア)cと同様の理由により、本件特許発明3の効果は、甲A1発明から当業者が予測できない顕著なものであるといえる。

d.小括
したがって、本件特許発明3は、甲A1に記載された発明ではなく、また、<相違点2−5>及び<相違点2−6>について検討するまでもなく、甲A1に記載された発明、あるいは、甲A1に記載された発明及び甲A2〜甲A6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(エ)本件特許発明4
a.甲A1発明との対比
本件特許発明1と甲A1発明とを対比すると、上記(ア)aのとおりであるから、この対比も踏まえると、本件特許発明4と甲A1発明は、「オレンジインク、マゼンタインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)がマゼンタインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
前記マゼンタインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下である、
インクセット。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2−7>
インクセットが、本件特許発明4は、イエローインクを含み、
オレンジインクに含まれる有機顔料の50体積%粒子径(D50)がイエローインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
イエローインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であり、
前記イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含むのに対し、甲A1発明はイエローインクを含まない点。

<相違点2−8>
本件特許発明4は、オレンジインクの有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり、前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、
前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレッ卜19から選択される顔料を含み、
前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含むのに対し、甲A1発明は、オレンジインクの有機顔料の50体積%粒子径(D50)が182nmであり、マゼンタインクがピグメント レッド 208であり、シアンインクがピグメント ブルー 1である点。

<相違点2−9>
本件特許発明4は、オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが、それぞれ独立して、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂と、顔料分散剤と、下記一般式(1):
R1O−(R2O)m−R3 ・・・(1)
[式中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、1以上4以下の整数を表す]で表される化合物を含有する溶剤とを更に含み、
前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂は、重量平均分子量/数平均分子量が5.0〜7.0であり、塩化ビニル単位(a)と酢酸ビニル単位(b)との質量比(a/b)が80/20〜90/10であり、
また、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂は、該塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂20質量%及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル80質量%からなる樹脂溶液を調製した場合、該樹脂溶液のヘイズ値が10.0%以下となるのに対し、甲A1発明ではそのような特定がない点。

b.相違点についての検討
<相違点2−7>について
<相違点2−7>は実質的な相違点である。
そして、<相違点2−7>は、上記(ア)aの<相違点2−1>と同じであり、上記(ア)b<相違点2−1>についてと同様の理由により、甲A1発明のインクセットにおいて、イエローインクを含むものとするとしても、オレンジインクに含まれる有機顔料の50体積%粒子径(D50)がイエローインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きいものとすることまでは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

c.本件特許発明4の効果について
上記(ア)cと同様の理由により、本件特許発明4の効果は、甲A1発明から当業者が予測できない顕著なものであるといえる。

d.小括
したがって、本件特許発明4は、甲A1に記載された発明ではなく、また、<相違点2−8>及び<相違点2−9>について検討するまでもなく、甲A1に記載された発明、あるいは、甲A1に記載された発明及び甲A2〜甲A6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(オ)本件特許発明5、7〜9
本件特許発明5、7〜9は、本件特許発明1、3又は4を引用してさらに限定するものであり、上記本件特許発明1、3又は4と甲A1発明との<相違点2−1>、<相違点2−4>又は<相違点2−7>と同じ相違点を有するものであって、<相違点2−1>、<相違点2−4>及び<相違点2−7>については前記(ア)b及びc、(ウ)b及びc、並びに、(エ)b及びcで検討したとおりであり、甲A1に記載された発明、あるいは、甲A1に記載された発明及び甲A2〜甲A6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(2)理由3(サポート要件)
ア 本件特許発明の課題
本件特許発明の課題は、本件特許明細書【0009】の記載からみて、屋外暴露後もその美観性が大きく損なわれない印刷物を得ることができるインクセットを提供することにあると認められる。

イ 判断
(ア)本件特許発明1〜10について
確かに、「オレンジインクに含まれる顔料」である「有機顔料」の種類やインク中の含量によって、オレンジインクの特性は、大きく変化するものと考えられ、本件特許明細書の実施例には該「有機顔料」として3質量%のピグメントオレンジ71、73、81、または64を含むオレンジインクを使用した例しか示されていない。
しかし、「有機顔料」として3質量%のピグメントオレンジ71、73、81、または64を含むオレンジインクを使用した例と多少程度は異なるかもしれないが、それらの例から、本件特許発明1、3及び4で特定されるオレンジインクの有機顔料の大きさを備えれば、他の「有機顔料」を含み、3質量%以外の含量で使用したものも前記課題を解決できると十分推認できるし、申立人Aは、前記課題を解決できないことについて、なんら具体的な立証や証拠を示していない。
そうすると、この実施例の記載に基づいて、「有機顔料」の種類を具体的に特定していなくても、本件特許発明の範囲にまで、拡張ないし一般化できるといえる。


(イ)本件特許発明3、5、7〜9について
本件特許明細書の実施例からみて、本件特許発明3、5、7〜9のインクセットにおいて塩基性分散剤としてソルスパース37500の他にソルスパース27000を用いたものが、前記課題を解決できることが理解できるから、本件特許発明3、5、7〜9のインクセットにおいて塩基性分散剤としてソルスパース37500のみを用いた例しかないという異議申立の前提が誤っており、この異議申立は採用できない。
仮に、この異議申立を採用するとしても、実施例で実際に用いられているソルスパース37500及びソルスパース27000以外のその他の塩基性分散剤についても、塩基性分散剤であれば、同様に前記課題を解決できることは十分推認できるといえるし、申立人Aは、前記課題を解決できないことについて、なんら具体的な立証や証拠を示していない。
そうすると、この実施例の記載に基づいて、「塩基性分散剤」の種類を具体的に特定していなくても、本件特許発明の範囲にまで、拡張ないし一般化できるといえる。

(3)理由4(明確性要件)
「塩基性分散剤」の「塩基性」も「分散剤」もその用語自体明確であり、「塩基性分散剤」も明確であり、さらに、本件特許発明の実施例で用いられている「ソルスパース37500(ルーブリゾール社製、塩基性顔料分散剤)」(【0049】)や【0051】に記載の「ソルスパース27000」はルーブリゾール社から入手可能な脂肪酸アミン系顔料分散剤であるという記載から、「塩基性分散剤」がどのようなものであるか把握でき、「塩基性分散剤」は意義が明確である。また、甲A5の【0082】には塩基性基を有する高分子分散剤が記載され、【0083】にその具体例が列記されており、それらの記載からも、どのような化学構造の分散剤が「塩基性分散剤」に含まれるのか、明確である。
したがって、本件特許発明3および7は明確である。
同様に、請求項3および7に直接的または間接的に従属する請求項5、8、9に係る本件特許発明5、8、9も明確である。

4 取消理由通知において採用しなかった、申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立理由についての判断
(1)理由5(サポート要件)
確かに、上記本件特許権者の主張とは一致しない場合もあり得るが、それをもって、直ちに上記本件特許権者の主張は、全ての顔料種についてまで成り立つわけではないとまではいえない。本件特許において課題であるオレンジ色の耐候性改善効果(【0008】〜【0009】)が確認されているのは、オレンジインクに含まれる有機顔料がピグメントオレンジ71、ピグメントオレンジ73、ピグメントオレンジ81及びピグメントオレンジ64の場合(【表1】及び【表3】)のみであり、それらの有機顔料を含む場合と多少程度が異なるかもしれないが、それにより、本件特許発明1、3及び4で特定されるオレンジインクの有機顔料の大きさを備えれば、前記具体的に記載された以外の顔料種についても前記課題が解決できると当業者は推認することができ、特に、申立人Bが異議申立書において挙げている耐光性の良いオレンジインクについては前記課題を解決できることは明らかである。
そうすると、この実施例の記載に基づいて、「有機顔料」の種類を具体的に特定していなくても、本件特許発明の範囲にまで、拡張ないし一般化できるといえるし、有機顔料をジケトピロロピロール化合物顔料を含むものに特定している本件特許発明の範囲にまで、拡張ないし一般化できるといえる。

第7 むすび
以上のとおりであるから、令和4年6月7日付けの取消理由通知に記載した取消理由、同年11月8日付けの取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜5、7〜9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜5、7〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正前の請求項6及び10は削除されているので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項6及び10に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50が90nm以上175nm以下であり、
前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、
前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレット19から選択される顔料を含み、
前記イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含み、
前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み、
前記オレンジインクに含まれる有機顔料の90体積%粒子径(D90)が150nm以上700nm以下であることを特徴とするインクセット。
【請求項2】
前記オレンジインク中に含まれる有機顔料のD90がいずれもマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD90より大きいことを特徴とする、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径D50)が90nm以上175nm以下であり、
前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を小なくとも含み、
前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレット19から選択される顔料を含み、
前記イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含み、
前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15;1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み、
前記オレンジインクが、塩基性分散剤を更に含むことを特徴とするインクセット。
【請求項4】
オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクを少なくとも含むインクセットであって、前記オレンジインクが有機顔料を含み、該有機顔料の50体積%粒子径(D50)が200nm以上400nm以下であり且つマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体積%粒子径(D50)より40nm以上大きく、
前記マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料の50体%粒子径(D50)が90nm以上175nm以下であり、
前記有機顔料が、ジケトピロロピロール化合物顔料を少なくとも含み、
前記マゼンタインクが、ピグメントレッド9、101、122、202及び254、並びにピグメントバイオレット19から選択される顔料を含み、
前記イエローインクが、ピグメントイエロー12、42、120、150、155及び185から選択される顔料を含み、
前記シアンインクが、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4及び28から選択される顔料を含み、
前記オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが、それぞれ独立して、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂と、顔料分散剤と、下記一般式(1):
R1O−(R2O)m−R3 ・・・(1)
[式中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、1以上4以下の整数を表す]で表される化合物を含有する溶剤とを更に含み、
前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂は、重量平均分子量/数平均分子量が5.0〜7.0であり、塩化ビニル単位(a)と酢酸ビニル単位(b)との質量比(a/b)が80/20〜90/10であり、
また、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂は、該塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂20質量%及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル80質量%からなる樹脂溶液を調製した場合、該樹脂溶液のヘイズ値が10.0%以下となることを特徴とするインクセット。
【請求項5】
前記オレンジインクに含まれる有機顔料の90体積%粒子径(D90)が150nm以上700nm以下で、10体積%粒子径(D10)が100nm以上300nm以下であり、且つ、前記オレンジインク中に含まれる有機顔料のD90及びD10がいずれもマゼンタインク、イエローインク及びシアンインクに含まれる顔料のD90及びD10より大きいことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記オレンジインクが、塩基性分散剤を更に含むことを特徴とする、請求項1、2及び4のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項8】
前記オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが溶剤を含み、各インク中に含まれる溶剤が、それぞれ独立して、下記一般式(1):
R1O−(R2O)m−R3 ・・・(1)
[式中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、1以上4以下の整数を表す]で表される化合物と、環状エステル化合物とを含むことを特徴とする、請求項1から5及び7のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項9】
前記オレンジインク、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが、それぞれ独立して、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂と、顔料分散剤と、下記一般式(1):
R1O−(R2O)m−R3 ・・・(1)
[式中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、1以上4以下の整数を表す]で表される化合物を含有する溶剤とを更に含み、
前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂は、重量平均分子量/数平均分子量が5.0〜7.0であり、塩化ビニル単位(a)と酢酸ビニル単位(b)との質量比(a/b)が80/20〜90/10であり、
また、前記塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂は、該塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂20質量%及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル80質量%からなる樹脂溶液を調製した場合、該樹脂溶液のヘイズ値が10.0%以下となることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のインクセット。
【請求項10】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-03-29 
出願番号 P2017-013928
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09D)
P 1 651・ 121- YAA (C09D)
P 1 651・ 537- YAA (C09D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 田澤 俊樹
瀬下 浩一
登録日 2021-08-20 
登録番号 6932512
権利者 大日本塗料株式会社
発明の名称 インクセット  
代理人 飯野 陽一  
代理人 小野 誠  
代理人 飯野 陽一  
代理人 小野 誠  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ