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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1398263
総通号数 18 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-06-16 
確定日 2023-03-20 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6994184号発明「発電デバイス、発電方法及び濃度測定方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6994184号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3〜13〕について訂正することを認める。 特許第6994184号の請求項1〜7、10〜15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第6994184号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜15に係る特許についての出願は、2017年(平成29年) 9月28日(優先権主張 平成28年 9月30日)を国際出願日とする出願(特願2018−542876号。以下、「本願」という。)であって、令和 3年12月15日にその特許権の設定登録がされ、令和 4年 1月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1〜7、10〜15に係る特許について、令和 4年 6月16日に特許異議申立人である八代 瑞子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 9月20日付けで取消理由が通知され、同年10月21日に特許権者から訂正請求書及び意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 4年10月21日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3〜13について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項3に
「燃料と、アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素と、前記発電デバイスに供給される液体中の物質の酸化を促進する酵素とを含み、
下記(1)〜(3)の少なくともいずれかの条件を満たす発電デバイス。
(1)発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい
(2)液体の供給により発電する
(3)水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である」
と記載されているのを
「燃料と、アノードと、カソードとを含む発電デバイスであって、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素と、前記発電デバイスに供給される液体中の物質の酸化を促進する酵素とを含み、
下記(1)〜(3)の少なくともいずれかの条件を満たす発電デバイス。
(1)発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい
(2)液体の供給により発電する
(3)水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である」
に訂正する。
請求項3を引用する請求項4〜13も同様に訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的、特許請求の範囲の拡張、変更の存否、及び新規事項の有無について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項3において、「前記発電デバイス」との文言より前に「発電デバイス」が記載されておらず、上記「前記発電デバイス」が何を意味するのか不明であったところ、訂正によって上記「前記発電デバイス」の記載の前に「発電デバイス」との文言を加えることで記載を明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1に係る訂正は、上記のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

イ 独立特許要件について
(ア)本件においては、本件訂正前の請求項1〜7、10〜15に係る特許について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項3〜7、10〜13に係る訂正事項1に関しては、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

(イ)また、特許異議の申立てがされていない、本件訂正前の請求項8、9に係る訂正事項1に関しても、上記アのとおり、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項3〜13について、訂正前の請求項4〜13はそれぞれ訂正前の請求項3を直接又は間接的に引用するものであって、請求項3の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項3〜13は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔3〜13〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。

(3)なお、上記のとおり、本件訂正請求は、その内容が軽微なものであって、申立人に意見を聴く必要がないと認められる特別な事情がある場合に該当するから、申立人に意見書を提出する機会を与えなかった。

3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3〜13〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜15に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本願の請求項1〜15に係る発明を「本件発明1」等といい、総称して「本件発明」ということがある。

「【請求項1】
燃料と、アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
前記燃料は前記アノードと前記カソードの間に配置され、
下記(1)〜(3)の少なくともいずれかの条件を満たす発電デバイス。
(1)発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい
(2)液体の供給により発電する
(3)水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である
【請求項2】
燃料と、アノードと、カソードと、基材とを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
前記基材の同じ面上に前記アノードと前記カソードがそれぞれ前記基材に接するように配置され、
下記(1)〜(3)の少なくともいずれかの条件を満たす発電デバイス。
(1)発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい
(2)液体の供給により発電する
(3)水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である
【請求項3】
燃料と、アノードと、カソードとを含む発電デバイスであって、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素と、前記発電デバイスに供給される液体中の物質の酸化を促進する酵素とを含み、
下記(1)〜(3)の少なくともいずれかの条件を満たす発電デバイス。
(1)発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい
(2)液体の供給により発電する
(3)水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である
【請求項4】
前記燃料は、溶媒を含まないか、溶媒の含有率が50質量%以下である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発電デバイス。
【請求項5】
前記カソードは酸素の還元を促進する触媒を含む、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の発電デバイス。
【請求項6】
前記燃料は単糖類を含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の発電デバイス。
【請求項7】
前記アノード及び前記カソードからなる少なくとも一方が形成された基材と、前記燃料を含む基材とを含む積層物である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の発電デバイス。
【請求項8】
複数の前記発電デバイスが連結した状態で基材上に形成されたシート状物又はそのロール状物である、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の発電デバイス。
【請求項9】
所望の大きさにカットして用いることができる、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の発電デバイス。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の発電デバイスに液体を供給する工程を含む、発電方法。
【請求項11】
前記液体が水を含む、請求項10に記載の発電方法。
【請求項12】
前記液体の供給量が、前記液体と前記燃料とが混合したときの前記燃料の濃度が、使用温度において0.01mol/dm3〜10mol/dm3の範囲となる量である、請求項10又は請求項11に記載の発電方法。
【請求項13】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の発電デバイスに液体を供給する工程と、前記液体中に含まれる物質の濃度を測定する工程と、を含む、濃度測定方法。
【請求項14】
燃料と、アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である発電デバイスに液体を供給する工程と、前記液体中に含まれる物質の濃度を測定する工程と、を含む、濃度測定方法。
【請求項15】
前記燃料は前記基材に含まれる、請求項2に記載の発電デバイス。」

第4 申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書において、後記3の甲第1号証〜甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」〜「甲3」という。)を提出し、以下の理由により、本件訂正前の請求項1〜7、10〜15に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(新規性:取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1〜7、10〜11、13〜15に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(進歩性:取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1〜7、10〜15に係る発明は、甲1に記載された発明、甲2、甲3の記載事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 証拠方法
甲1:特開2014−207987号公報
甲2:特開2011−258393号公報
甲3:特開2006−24555号公報

第5 令和 4年 9月20日付けで通知した取消理由
当審は、上記第4の各申立理由をいずれも採用せず、職権により、令和 4年 9月20日付けで以下の取消理由を通知した。
1 取消理由1(明確性
本件訂正前の請求項3の記載において、「前記発電デバイス」との文言より前に「発電デバイス」は記載されておらず、その結果、上記した「前記発電デバイス」が何を意味するのか不明であるから、本件訂正前の請求項3及び請求項3を直接又は間接的に引用する請求項4〜7、10〜13の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
したがって、本件訂正前の請求項3〜7、10〜13の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

第6 当審の判断
当審は、以下のとおり、令和 4年 9月20日付けで通知した取消理由、及び特許異議申立ての理由のいずれによっても、本件特許の請求項1〜7、10〜15に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由1について
本件訂正により訂正後の請求項3は、「燃料と、アノードと、カソードとを含む発電デバイスであって、前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素と、前記発電デバイスに供給される液体中の物質の酸化を促進する酵素とを含み、・・・」(「・・・」は省略を表す。以下同様。)と訂正され、その「前記発電デバイス」は、「燃料と、アノードと、カソードとを含む発電デバイス」を意味することが明確なものとなった。
したがって、本件特許の請求項3及び請求項3を直接又は間接的に引用する請求項4〜7、10〜13の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるから、取消理由1によっては、本件特許の請求項3〜7、10〜13に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由1、申立理由2について
(1)甲1〜甲3の記載事項、及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
本願の優先日前に公知となった甲1には、「生体組織貼付用キット及び生体組織貼付用パッチ」(発明の名称)に関して、以下の記載がある(なお、下線は当審が付したものである。以下同様。)。
(ア)「【0001】
本発明は、生体組織貼付用キット及び生体組織貼付用パッチに関し、特に、高い安全性、低い環境負荷を実現しつつ、生体組織に電流を流すことが可能な生体組織貼付用キット及び生体組織貼付用パッチに関する。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般的な乾電池を用いる既存の生体組織貼付用パッチは、金属性の電極等を含む電解液を含む既存の電池を備えるため、人体に対する影響を低減し、安全性を高める余地、及び、廃棄処理を簡便化し、環境負荷を低減する余地が存在していた。
【0005】
そこで、本発明は、高い安全性、低い環境負荷を実現しつつ、生体組織に電流を流すことが可能な生体組織貼付用キット及び生体組織貼付用パッチを提供することを目的とする。」

(ウ)「【0021】
(生体組織貼付用キット)
以下、図面を参照して、本発明の生体組織貼付用キットの実施形態について詳細に例示説明する。
本発明の生体組織貼付用キットは、酵素反応によって発生させた電気により、生体表面を介して生体組織の内部に電流を流すためのキットである。このキットは、生体組織に貼り付けて用いられる生体組織貼付用パッチ(後述)を作製するために用いることができる。
【0022】
図1(a)、(b)に、生体組織に貼り付けて使用する前の状態における、本発明の第一実施形態の生体組織貼付用キットを示す。図1(a)に、組み立て前のキットを斜視図で示し、図1(b)に、組み立て後のキットを断面図で示す。
また、図2(a)、(b)に、生体組織に貼り付けて使用している状態における、本発明の第一実施形態の生体組織貼付用キットを示す。図2(a)に、キットを外観図で示し、図2(b)に、キットを断面図で示す。
【0023】
本発明の第一実施形態の生体組織貼付用キット10(以下、「キット10」ともいう。)は、陽極(カソード)2a、及び陰極(アノード)2bからなる2つの電極2と、2つの電極2(2a、2b)を電気的に接続するための導電性部材4とを含む。ここで、陽極2aには、還元反応を触媒する酵素3aが担持され、陰極2bには、酸化反応を触媒する酵素3bが担持されている。
【0024】
図1(a)に示すように、キット10は、更に、電極2(2a、2b)、及び導電性部材4を固定するために用いられ、2つの穴部6hと、該穴部6hを隔てる橋梁部6bと、穴部間を連通する連通部6tとを有する平板状のフレーム6と、2つの電極2(2a、2b)、導電性部材4、フレーム6を封止する外面カバー7とをも含む。なお、「封止する」とは、少なくとも、キット10の組立体を生体組織1に貼り付けて使用する状態で封止することを意味する。
【0025】
なお、このキット10では、酵素3(3a、3b)が担持された電極2a、2bは、凍結乾燥等により乾燥されている。
【0026】
ここで、キット10の使用方法の一例を記載する。
まず、キット10の使用前に、ユーザーは、図1(b)に示すように、2つの電極2(2a、2b)、導電性部材4、フレーム6、外面カバー7を組み立てることによって組立て体10aを作製する。組立て体10aでは、2つの電極2(2a、2b)と導電性部材4とが接触した状態になる。そして、ユーザーは、図2(a)、(b)に示すように、電極2が生体組織1に接触するように、上記組立て体10aを貼り付ける。
【0027】
また、キット10の使用時の作用効果について記載する。
生体組織1には生体排液が付着している場合(例えば、皮膚には汗が付着している場合)があり、この場合、生体排液に含まれる物質が酵素3(3a、3b)の基質となる場合がある。陰極2bにおいて酵素3bによる酸化反応により発生した電子は、導電性部材4を通って、陽極2aに送達され、陽極2aにおいて酵素3aによる還元反応に用いられる。このとき、電極2(2a、2b)が、皮膚に接触するため、陽極2a−陰極2b間にある皮膚部分に電気が流れる。
【0028】
本発明の第一実施形態の生体組織貼付用キット10は、酵素やその基質といった人体に無害な物質を用いて電気を発生させる一方、既存の生体組織貼付用キットは、金属性の電極等を含む電解液を備える既存の電池を用いる。そのため、キット10によれば、人体を害する虞を低減して、安全性を高めることができ、且つ、廃棄処理を容易にして、環境負荷を低減することができる。
【0029】
また、キット10を組み立てて生体組織1に用いれば、キットを酵素反応に適した温度条件下に置くことができるため、酵素の酸化還元反応を利用して電気を発生させるバイオ発電を効率的に行うことができる。
更に、キット10を組み立てて生体組織1に用いれば、金属等の高価な材料の必要性を低減させることができるため、低コストで生体組織1に電流を流すことができる。
【0030】
特に、生体排液に含まれる物質を酵素3(3a、3b)の基質として用いる上記キット10によれば、例えば、生体排液に含まれる特定の物質の濃度に依存した大きさの電流を検知することが可能になり、生体に関する情報を得ることが可能になる。
また、上記キット10によれば、薬剤、化粧料、及び製剤からなる群から選択される少なくとも一つ(以下、「薬剤等」ともいう。後述)が予め塗布されている生体組織1(例えば、皮膚)に対して貼り付けることによって、薬剤等の生体組織1への投与(浸透・貯留)を効率的に行うことができる。
更に、上記キット10によれば、生体に関する情報を得ながら、この情報に基づいて、薬剤等の生体組織1への投与を行うことができる。
また、特に、上記キット10によれば、生体組織1を構成する細胞(例えば、皮膚表面に位置する角層を構成する角層細胞)に微弱な電流(マイクロカレント)を流して細胞を活性化することも可能になる。
【0031】
なお、キット10では、乾燥された酵素3及び電極2が用いられるため、キットの製造時から使用時までの間に酵素3が失活することを防ぐことができる。」

(エ)「【0035】
図3(a)、(b)に、生体組織に貼り付けて使用する前の状態における、本発明の第二実施形態の生体組織貼付用キットを示す。図3(a)に、組み立て前のキットを斜視図で示し、図3(b)に、組み立て後のキットを断面図で示す。
本発明の第二実施形態の生体組織貼付用キット20(以下、「キット20」ともいう。)は、導電層を更に含む点以外は、前述の第一実施形態の生体組織貼付用キット10と同様である。
以下では、図1に示す本発明の第一実施形態の生体組織貼付用キット10と同様の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0036】
本発明の第二実施形態の生体組織貼付用キット20(以下、「キット20」ともいう。)は、電極2(2a、2b)、導電性部材4、フレーム6、外面カバー7に加えて、酵素3(3a、3b)の基質を含む導電層5を含む。
【0037】
なお、このキット20では、導電層5は、酵素3の基質以外に、水、薬剤等、及び電解質を含む。また、このキット20では、酵素3(3a、3b)が担持された電極2a、2bは、乾燥されている。
【0038】
ここで、キット20の使用方法の一例を記載する。
まず、キット20の使用前に、ユーザーは、導電層5を生体組織1(図3(a)では、頭部の頬部の表面)に、予め塗布しつつ、図3(b)に示すように、2つの電極2(2a、2b)、導電性部材4、フレーム6、外面カバー7を組み立てることによって組立て体20aを作製する。組立て体20aでは、2つの電極2(2a、2b)と導電性部材4とが接触した状態になる。そして、ユーザーは、電極2がこの導電層5に接触するように、導電層5を形成した領域に上記組立て体20aを貼り付ける(図示せず)。
【0039】
キット20の使用時の作用効果としては、前述の第一実施形態の生体組織貼付用キット10による作用効果と同様のものが得られる。
【0040】
特に、キット20は、酵素3(3a、3b)の基質を含む導電層5を含むため、キット20が、酵素反応により自発的に電流を生じさせることができる。
・・・」

(オ)「【0046】
図4(a)、(b)に、生体組織に貼り付けて使用する前の状態における、本発明の第三実施形態の生体組織貼付用キットを示す。図4(a)に、組み立て前のキットを斜視図で示し、図4(b)に、組み立て後のキットを断面図で示す。
【0047】
本発明の第三実施形態の生体組織貼付用キット30(以下、「キット30」ともいう。)は、導電層を、組立て体とは別に生体組織に形成させるのではなく、組立て体に組み入れる点以外は、前述の第二実施形態の生体組織貼付用キット20と同様である。
以下では、図3に示す本発明の第二実施形態の生体組織貼付用キット20と同様の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0048】
なお、このキット30では、導電層5は、酵素3の基質以外に、水を含み、任意選択的に、薬剤等を含む。また、このキット30では、酵素3(3a、3b)が担持された電極2a、2bは、乾燥されている。
【0049】
キット30では、酵素3の基質を含む導電層5は、陽極側導電層5a及び陰極側導電層5bからなる。また、キット30では、導電層5(5a、5b)は、導電層取付け部5haとフレーム取付け部5hfとを含む、導電層ホルダー5hに固定されている。また、フレーム6の橋梁部6bには、導電層ホルダー5hのフレーム取付け部5hfに適合する溝6dが設けられている。
【0050】
キット30の使用時の作用効果としては、前述の第二実施形態の生体組織貼付用キット20による作用効果と同様のものが得られる。【0051】
特に、キット30は、酵素3(3a、3b)の基質を含む導電層5が組立て体30aに組み込まれているため、組立て体30aが酵素反応により自発的に電流を生じさせることができる。
・・・」

(カ)「【0053】
図5(a)、(b)に、生体組織に貼り付けて使用する前の状態における、本発明の第四実施形態の生体組織貼付用キットを示す。図5(a)に、組み立て前のキットを斜視図で示し、図5(b)に、組み立て後のキットを断面図で示し、図5(c)に、導電層に水を加えた状態の組み立て後のキットを断面図で示す。
本発明の第四実施形態の生体組織貼付用キット40(以下、「キット40」ともいう。)は、導電層5を水を含むものから実質的に水を含まないものとした点以外は、前述の第三実施形態の生体組織貼付用キット30と同様である。
以下では、図3に示す本発明の第三実施形態の生体組織貼付用キット30と同様の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0054】
なお、このキット40では、導電層5は、酵素3の基質以外に、任意選択的に、薬剤等を含む。また、このキット40では、酵素3(3a、3b)が担持された電極2a、2bは、乾燥されている。
【0055】
キット40では、導電層5は、実質的に水を含まない。「実質的に水を含まない」とは、水の導電層に対する重量割合が、10%未満であることを指す。因みに、上記割合は、5%未満であることが好ましく、2%未満であることが更に好ましい。
【0056】
キット40では、使用時に導電層5に水を加えるまでは、酵素3が導電層5に含まれる酵素3の基質に対して露出することを抑制することができるため、酵素3による酸化還元反応の反応速度を極めて小さくすることができる。一方、図5(c)に示すように、導電層5に水を加えると、基質の水溶液が酵素3と混ざり合うため、酵素3による酸化還元反応が可能な条件を実現することができる。上記の通り、キット40では、使用時に導電層5に水を加えることによって、酵素3による酸化還元反応を開始させることができる。言い換えれば、キット40では、実質的に水を含まない電極2及び導電層5が、反応開始手段となる。これにより、キットが電流を生じさせることを開始する時を、キットの使用時に合わせることができる。そのため、キットの使いやすさを向上させることができる。」

(キ)「【図1】



(ク)「【図2】



(ケ)「【図3】



(コ)「【図4】



(サ)「【図5】



イ 甲1に記載された発明
(ア)上記アに摘記した事項を総合勘案し、特に、図5に示された「第四実施形態の生体組織貼付用キット40」に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。

「陽極(カソード)2a、及び陰極(アノード)2bからなる2つの電極2と、2つの電極2(2a、2b)を電気的に接続するための導電性部材4とを含み、上記陽極2aには、還元反応を触媒する酵素3aが担持され、上記陰極2bには、酸化反応を触媒する酵素3bが担持されており、更に、電極2(2a、2b)、及び導電性部材4を固定するために用いられ、2つの穴部6hと、該穴部6hを隔てる橋梁部6bと、穴部間を連通する連通部6tとを有する平板状のフレーム6と、2つの電極2(2a、2b)、導電性部材4、フレーム6を封止する外面カバー7とを含む組立て体40aに、実質的に水を含まず、酵素3の基質を含む導電層5を組み入れてなる、生体組織貼付用キット40であって、
生体組織1に接触するように上記組立て体40aを貼り付けたときに、生体組織1に付着している汗等の生体排液が上記導電層5に加えられ、基質の水溶液が酵素3と混ざり合うため、酵素3による酸化還元反応が可能な条件が実現され、陰極2bにおいて酵素3bによる酸化反応により発生した電子は、導電性部材4を通って、陽極2aに送達され、陽極2aにおいて酵素3aによる還元反応に用いられ、このとき、電極2(2a、2b)が皮膚に接触するため、陽極2a−陰極2b間にある皮膚部分に電気が流れる、
生体組織貼付用キット40。」(以下、「甲1キット発明」という。)

(イ)また、上記アに摘記した事項を総合勘案し、特に、図1,図2に示された「第一実施形態の生体組織貼付用キット10」及び【0030】の記載に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。

「陽極(カソード)2a、及び陰極(アノード)2bからなる2つの電極2と、2つの電極2(2a、2b)を電気的に接続するための導電性部材4とを含み、上記陽極2aには、還元反応を触媒する酵素3aが担持され、上記陰極2bには、酸化反応を触媒する酵素3bが担持されており、更に、電極2(2a、2b)、及び導電性部材4を固定するために用いられ、2つの穴部6hと、該穴部6hを隔てる橋梁部6bと、穴部間を連通する連通部6tとを有する平板状のフレーム6と、2つの電極2(2a、2b)、導電性部材4、フレーム6を封止する外面カバー7とを含む組立て体10aを作製し、
該組立て体10aを生体組織1に接触するように貼り付け、
生体組織1に付着している汗等の生体排液に含まれる物質が酵素3(3a、3b)の基質となり、陰極2bにおいて酵素3bによる酸化反応により発生した電子は、導電性部材4を通って、陽極2aに送達され、陽極2aにおいて酵素3aによる還元反応に用いられ、このとき、電極2(2a、2b)が皮膚に接触するため、陽極2a−陰極2b間にある皮膚部分に電気が流れ、
生体排液に含まれる特定の物質の濃度に依存した大きさの電流を検知することにより、生体に関する情報を得る方法。」(以下、「甲1電流検知方法発明」という。)

ウ 甲2の記載事項
本願の優先日前に公知となった甲2には、「燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
本発明は、酸化還元酵素を用いたバイオ燃料電池に関する。より詳しくは、バイオ燃料電池の性能を向上させるための技術に関する。」

(イ)「【0006】
バイオ燃料電池において、燃料極(アノード)で発電をし続けるには、燃料溶液中にグルコースなどの燃料成分を十分に存在させる必要があり、更に電池容量を高めるためには燃料より成分濃度が高い燃料溶液を使用する必要がある。しかしながら、グルコースなどの燃料成分濃度を高くすると、燃料溶液の粘度が上昇するため、浸水系バイオ燃料電池の場合、拡散係数が低下して、空気極(カソード)の特性が低下するという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は、カソード特性を低下させずに、電池容量を高めることができる燃料電池を提供することを主目的とする。」

(ウ)「【0015】
[アノード2]
アノード2は、燃料極であり、例えば導電性多孔質材料からなる電極の表面に酸化還元酵素が固定化されているものを使用することができる。その際使用する導電性多孔質材料には、公知の材料を使用することができるが、特に、多孔質カーボン、カーボンペレット、カーボンフェルト、カーボンペーパー、炭素繊維又は炭素微粒子の積層体などのカーボン系材料が好適である。
【0016】
また、アノードの表面に固定化される酵素としては、例えば燃料成分がグルコースである場合は、グルコースを分解するグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を使用することができる。更に、燃料成分にグルコースなどの単糖類を用いる場合には、アノード表面に、GDHのような単糖類の酸化を促進して分解する酸化酵素と共に、補酵素酸化酵素や電子メディエーターが固定化されていることが望ましい。」

(エ)「【0022】
[カソード3]
カソード3は、空気極であり、直接又は気液分離膜を介して、気相(空気)にも接触している。このカソード3を構成する電極は、特に限定されるものではないが、例えば導電性多孔質材料からなる電極の表面に、酸化還元酵素及び電子メディエーターが固定化されているものを使用することができる。カソード3を形成する導電性多孔質材料も、公知の材料を使用することができるが、特に、多孔質カーボン、カーボンペレット、カーボンフェルト、カーボンペーパー、炭素繊維又は炭素微粒子の積層体などのカーボン系材料が好適である。」

(オ)「【0035】
[動作]
次に、本実施形態のバイオ燃料電池の動作について説明する。本実施形態のバイオ燃料電池では、先ず、燃料溶液導入口9から、燃料溶液10をアノード溶液部4に導入する。その後、選択透過膜6を介して、カソード溶液部5にも燃料溶液が供給されるが、選択透過膜6によって燃料溶液10中の燃料成分の透過が抑制されるため、カソード溶液部5には、燃料成分濃度が低い溶液が導入されることになる。即ち、本実施形態のバイオ燃料電池では、アノード2に接触する燃料溶液の方が、カソード3に接触する燃料溶液よりも、燃料成分の濃度が高くなる。」

(カ)「【0055】
<第1実施例>
以下、本発明の実施例により、本発明の効果について具体的に説明する。先ず、本発明の第1実施例として、図1に示す第1の実施形態のバイオ燃料電池において、アノード溶液部4とカソード溶液部5との間に選択透過膜としてセロハン26を配置し、グルコース濃度を0〜1Mの範囲で変化させた燃料溶液10を使用して、0.25Vで5分間発電させたときの電流値を測定した。また、比較例として、アノード溶液部4とカソード溶液部5との間に不織布106を配置して同様の測定を行った。」

(キ)「【図1】



エ 甲3の記載事項
本願の優先日前に公知となった甲3には、「燃料電池、電気機器、移動体、発電システム及びコージェネレーションシステム」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
この発明は、触媒に酵素を用いる燃料電池、電子機器、移動体、発電システム及びコージェネレーションシステムに関する。」

(イ)「【0041】
図1には、一例として、多糖類がデンプン、多糖類から単糖類への分解に関与する酵素がデンプンをグルコースに分解するグルコアミラーゼ(GAL)、生成した単糖類(β−D−グルコース)の分解に関与する酵素がグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、単糖類の分解プロセスにおける酸化反応に伴って還元体が生成される補酵素がNAD+ 、補酵素の還元体であるNADHを酸化する補酵素酸化酵素がジアホラーゼ(DI)、補酵素酸化酵素から補酵素の酸化に伴って生じる電子を受け取って電極11に渡す電子メディエータがACNQである場合が図示されている。」

(ウ)「【0048】
次に、この燃料電池の燃料の供給方法について説明する。ここでは、燃料としてデンプンを用いる場合を考える。
図5Aは、デンプン溶液(アミロース、アミロペクチン)、デンプン糊等からなる燃料31を内部に充填したカード状の燃料カートリッジ32の未使用の状態を示す。燃料31には、グルコース、NADH等を含ませてもよく、こうすることで、デンプンのみを燃料31とした場合に比べて、スタート時の電流をより大きくすることができる。図5Bは、この燃料カートリッジ32の燃料31を使い切った使用後の状態を示す。図5A及びBにおいて、符号33a、33bは燃料押し出し具を示す。符号33cはこれらの燃料押し出し具33a、33bに両端が固定された押し出し用のスプリングを示す。燃料押し出し具33aは燃料カートリッジ32に固定され、燃料押し出し具33bはスプリング33cにより燃料31を押し付けている。
【0049】
図6は、燃料電池の燃料カートリッジ32の燃料31を使い切った状態を示す。燃料カートリッジ32は燃料カートリッジ収納部34に収納されている。燃料カートリッジ収納部34は、外部からその内部に燃料カートリッジ32を挿入するためのカートリッジ挿入口34a及び燃料カートリッジ32を外部に取り出すためのカートリッジ取り出し口34bを有する。この燃料電池は、多孔質カーボンに酵素を固定化した酵素固定化カーボン電極からなる空気極5と、実施例1と同様に多孔質カーボンに酵素や電子メディエータを固定化材で固定化した酵素固定化カーボン電極からなる燃料極1とが、プロトン伝導体としてのセパレータ35(電解質層3に相当)を介して対向した構成を有している。図6には空気極5と燃料極1との間に接続された外部回路の負荷の一例として電球36が接続されている。この燃料カートリッジ32は燃料31を使い切ったものであるため、電球36は点灯していない。燃料カートリッジ32は通常、空気極5及び燃料極1よりサイズが大きい。」

(エ)「【0053】
燃料31としては、水分を極端に減らしたもの、あるいは水分が殆どない状態のものを用いることもできる。ちなみに、デンプンをそのままプレスすることで固形化することもできる。この固形化はグルコースでも可能であるが、成形性が悪い。しかしながら、このような固形化した燃料31はその内部で分子の拡散が起きにくいため、そのままでは使用できない。このような場合には、燃料31と燃料極1とが互いに接触した状態で、水を外部から、あるいは、燃料カートリッジ32の内部から(デンプン固形物と水とが隔離されている)供給するようにすればよく、こうすることで燃料電池は発電を開始するようになる。この水は、直接メタノール型燃料電池(DMFC)のメタノール100%燃料を用いる場合と同じ原理に基づいて、空気極5で生成される水を利用するようにしてもよい。これは原理的に、燃料極1と空気極5との全体で水が生成する系である。このときの反応式は
C6 H12O6 +6O2 →6CO2 +6H2 O ΔG°=−4928kJ/mol
と表される。
【0054】
次に、この燃料電池を乾電池等の一次電池のように使い捨てで使用する場合の燃料の供給方法について説明する。
この場合には、燃料電池に対して燃料カートリッジ32を出し入れする機構は不要であり、図9に示すように、あらかじめ燃料カートリッジ32を燃料極1と一体化しておく。この場合の燃料カートリッジ32から燃料極1への燃料31の供給方法は上記と同様である。」

(オ)「【0057】
〈実施例2〉
実施例1のGAL/GDH/NADH/DI/ACNQ固定化電極上に、デンプン50%リン酸緩衝溶液を70℃で糊化させたもの5mgを塗布し、反応溶液を0.1Mリン酸緩衝溶液(pH7、I.S.=0.3)1mlとした以外は、実施例1と同様にして電気化学測定を行った。」

(カ)「【0064】
以上の結果からも明らかなように、グルコースはメタノールやエタノールと比較して拡散係数が小さく、溶液状態の燃料を取り扱う際、より拡散が律速となりやすい問題があったが、デンプンを燃料に用いたり、デンプンを糊化して電極表面に固定化したりすることにより、その問題を解決することができる。また、ゲル状の固形化燃料を用いることにより、燃料の取り扱いが容易となり、燃料供給システムを簡素化することができるため、携帯電話等のモバイル機器に搭載する燃料電池として非常に有効となる。」

(キ)「【図1】



(ク)「【図9】



(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1キット発明との対比
本件発明1と甲1キット発明とを対比する。
(ア)甲1キット発明の「陽極(カソード)2a」、「陰極(アノード)2b」は、それぞれ本件発明1の「カソード」、「アノード」に相当する。

(イ)甲1キット発明の「陰極(アノード)2b」は、「酸化反応を触媒する酵素3bが担持され」ている点、すなわち「酸化を促進する酵素」を含む点で、本件発明1の「アノード」と共通する。

(ウ)一般に、本件発明のような酸化還元反応を利用した「発電デバイス」、すなわち「化学電池」とは、「内部の化学反応によって電気を起こし、その電気エネルギーを取り出す電池」(一般社団法人 電池工業会ウェブサイト「化学・物理電池について」参照)を意味するものであるところ、甲1キット発明の「生体組織貼付用キット40」と、本件発明1の「発電デバイス」とは、内部の化学反応によって電気を起こすデバイスである限りにおいて、共通する。

(エ)甲1キット発明の「導電層5」は、「実質的に水を含まず、酵素3の基質を含む」ものであって、「生体組織1に付着している汗等の生体排液が」「加えられ、基質の水溶液が酵素3と混ざり合うため、酵素3による酸化還元反応が可能な条件が実現され」るものであるから、上記「導電層5」に含まれる「基質」は、本件発明1の「発電デバイス」に含まれる「燃料」に相当する。

(オ)甲1キット発明の「生体組織貼付用キット40」において、「生体組織1に付着している汗等の生体排液が上記導電層5に加えられ、基質の水溶液が酵素3と混ざり合うため、酵素3による酸化還元反応が可能な条件が実現され、陰極2bにおいて酵素3bによる酸化反応により発生した電子は、導電性部材4を通って、陽極2aに送達され、陽極2aにおいて酵素3aによる還元反応に用いられ、このとき、電極2(2a、2b)が皮膚に接触するため、陽極2a−陰極2b間にある皮膚部分に電気が流れる」ことは、内部の化学反応によって電気を起こしている点で「発電」が行われていると認められるから、本件発明1の「発電デバイス」が、「(1)発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい」又は「(2)液体の供給により発電する」のいずれかの条件を満たす点と共通する。

(カ)そうすると、本件発明1と甲1キット発明とは、
「燃料と、アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
下記(1)〜(3)の少なくともいずれかの条件を満たす、内部の化学反応によって電気を起こすデバイス。
(1)発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい
(2)液体の供給により発電する
(3)水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である」
点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は、「前記燃料は前記アノードと前記カソードの間に配置され」るのに対して、甲1キット発明は、「導電層5」に含まれる「基質」が「陽極(カソード)2a」と「陰極(アノード)2b」の間に配置されているか否か不明な点。

<相違点2>
内部の化学反応によって電気を起こすデバイスが、本件発明1では、内部の化学反応によって電気を起こし、その電気エネルギーを取り出す装置である「発電デバイス」に係るものであるのに対して、甲1キット発明の「生体組織貼付用キット40」では、化学反応によって起こした電気エネルギーを取り出す装置であるとまではいえない点。

イ 相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点2について、まず検討する。
(ア)上記(1)アに摘記した甲1の記載や、本願優先日当時の技術常識を考慮しても、甲1キット発明の「生体組織貼付用キット40」が、内部の化学反応によって電気を起こし、その電気エネルギーを取り出しているものと認められる根拠は見当たらない。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点である。

(イ)次に、上記相違点2の容易想到性について検討する。
a 甲1には、第一実施形態のキット10に関して、「キット10を組み立てて生体組織1に用いれば、キットを酵素反応に適した温度条件下に置くことができるため、酵素の酸化還元反応を利用して電気を発生させるバイオ発電を効率的に行うことができる。」(【0029】)との記載はあるものの、この記載における「バイオ発電」が、「酵素の酸化還元反応を利用して電気を発生させる」ことに加えて、得られた電気エネルギーを取り出すことを意味するとまではいえないから、このことにより、甲1キット発明において、「生体組織貼付用キット40」を「発電デバイス」とすることが動機付けられるとはいえない。

b 上記aについては、甲2、甲3の記載事項、及び本願優先日当時の技術常識を考慮しても、同様である。

(ウ)そうすると、甲2、甲3の記載事項、及び本願優先日当時の技術常識を考慮しても、甲1キット発明において、上記相違点2に係る発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ 小括
したがって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1キット発明であるとはいえず、甲1キット発明、及び甲2、甲3に記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)本件発明2、3について
ア 本件発明2、3と甲1キット発明とを対比すると、上記(2)アにおいて検討したのと同様であり、両者は、少なくとも上記相違点2と同様の点で相違する。

イ そして、上記相違点2については、上記(2)イにおいて検討したのと同様である。

ウ したがって、本件発明2、3は、甲1キット発明であるとはいえず、甲1キット発明、及び甲2、甲3に記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件発明4〜7、10〜13、15について
本件発明4〜7、10〜13、15は、本件特許の請求項1〜3の記載を直接又は間接的に引用することにより、本件発明1〜3のいずれかの発明特定事項をすべて備えるものであるから、本件発明1〜3が、上記(2)、(3)のとおり、甲1キット発明であるとはいえず、甲1キット発明、及び甲2、甲3に記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない以上、同様に、甲1キット発明であるとはいえず、甲1キット発明、及び甲2、甲3に記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5)本件発明14について
ア 本件発明14と甲1電流検知方法発明との対比
本件発明14と甲1電流検知方法発明とを対比する。
(ア)甲1電流検知方法発明の「陽極(カソード)2a」、「陰極(アノード)2b」は、それぞれ本件発明14の「カソード」、「アノード」に相当する。

(イ)甲1電流検知方法発明の「陰極(アノード)2b」は、「生体組織1に付着している汗等の生体排液に含まれる物質」、すなわち燃料となる「基質」に対して「酸化反応を触媒する酵素3bが担持され」ている点、すなわち燃料の「酸化を促進する酵素」を含む点で、本件発明14の「アノード」と共通する。

(ウ)一般に、本件発明のような酸化還元反応を利用した「発電デバイス」、すなわち「化学電池」とは、「内部の化学反応によって電気を起こし、その電気エネルギーを取り出す電池」(一般社団法人 電池工業会ウェブサイト「化学・物理電池について」参照)を意味するものであるところ、甲1電流検知方法発明の「組立て体10a」と、本件発明14の「発電デバイス」とは、内部の化学反応によって電気を起こすデバイスである限りにおいて、共通する。

(エ)甲1電流検知方法発明の「該組立て体10aを電極2が生体組織1に接触するように貼り付け、生体組織1に付着している汗等の生体排液に含まれる物質が酵素3(3a、3b)の基質とな」るようにすることは、本件発明14の「デバイスに液体を供給する工程」に相当する。

(オ)甲1電流検知方法発明の「陽極2a−陰極2b間にある皮膚部分に電気が流れ、生体排液に含まれる特定の物質の濃度に依存した大きさの電流を検知することにより、生体に関する情報を得る方法」は、本件発明14の「前記液体中に含まれる物質の濃度を測定する工程、を含む、濃度測定方法」に相当する。

(カ)そうすると、本件発明14と甲1電流検知方法発明とは、
「アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは燃料の酸化を促進する酵素を含み、
内部の化学反応によって電気を起こすデバイスに液体を供給する工程と、前記液体中に含まれる物質の濃度を測定する工程、
を含む、濃度測定方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>
本件発明14は、「デバイス」が「燃料」を含むのに対して、甲1電流検知方法発明は、「組立て体10a」には「酵素3(3a、3b)の基質」となる物質が含まれず、「組立て体10aを電極2が生体組織1に接触するように貼り付け」られた後に「生体組織1に付着している汗等の生体排液に含まれる物質が酵素3(3a、3b)の基質とな」る点。

<相違点4>
本件発明14は、「液体を供給する」対象が、内部の化学反応によって電気を起こし、その電気エネルギーを取り出すものであり、「水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である」「発電デバイス」であるのに対して、甲1電流検知方法発明の「組立て体10a」は、内部の化学反応によって電気を起こすデバイスではあるものの、その電気エネルギーを取り出しているとはいえず、水分含有率も不明な点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点4について、まず検討する。
(ア)上記(1)アに摘記した甲1の記載や、本願優先日当時の技術常識を考慮しても、甲1電流検知方法発明の「組立て体10a」が、内部の化学反応によって電気を起こし、その電気エネルギーを取り出すものと認められる根拠は見当たらず、また、その水分含有率が燃料、アノード及びカソードの「合計の10質量%以下である」と認められる根拠も見当たらない。
したがって、上記相違点4は、実質的な相違点である。

(イ)次に、上記相違点4の容易想到性について検討する。
a 甲1には、第一実施形態のキット10に関して、「キット10を組み立てて生体組織1に用いれば、キットを酵素反応に適した温度条件下に置くことができるため、酵素の酸化還元反応を利用して電気を発生させるバイオ発電を効率的に行うことができる。」(【0029】)との記載はあるものの、この記載における「バイオ発電」が、「酵素の酸化還元反応を利用して電気を発生させる」ことに加えて、得られた電気エネルギーを取り出すことを意味するとまではいえないから、このことにより、甲1電流検知方法発明において、「組立て体10a」を「発電デバイス」とすることが動機付けられるとはいえない。
この点については、甲2、甲3の記載事項、及び本願優先日当時の技術常識を考慮しても、同様である。

b また、甲1には、第一実施形態のキット10を構成する「組立て体10a」の水分含有率に関する記載は見当たらず、甲1のそれ以外の記載事項、甲2、甲3の記載事項、及び本願優先日当時の技術常識を考慮しても、甲1電流検知方法発明において、「組立て体10a」の「水分含有率」を「前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下」とすることが動機付けられるとはいえない。

(ウ)そうすると、甲2、甲3の記載事項、及び本願優先日当時の技術常識を考慮しても、甲1電流検知方法発明において、上記相違点4に係る発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ 小括
したがって、上記相違点3について検討するまでもなく、本件発明14は、甲1電流検知方法発明であるとはいえず、甲1電流検知方法発明、及び甲2、甲3に記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(6)申立理由1、申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1〜7、10〜11、13〜15は、甲1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
また、本件発明1〜7、10〜15は、甲1に記載された発明、及び甲2、甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。

3 むすび
以上のとおり、令和 4年 9月30日付けで通知した取消理由、及び特許異議の申立ての理由のいずれによっても、本件特許の請求項1〜7、10〜15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜7、10〜15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料と、アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
前記燃料は前記アノードと前記カソードの間に配置され、
下記(1)〜(3)の少なくともいずれかの条件を満たす発電デバイス。
(1)発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい
(2)液体の供給により発電する
(3)水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である
【請求項2】
燃料と、アノードと、カソードと、基材とを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
前記基材の同じ面上に前記アノードと前記カソードがそれぞれ前記基材に接するように配置され、
下記(1)〜(3)の少なくともいずれかの条件を満たす発電デバイス。
(1)発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい
(2)液体の供給により発電する
(3)水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である
【請求項3】
燃料と、アノードと、カソードとを含む発電デバイスであって、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素と、前記発電デバイスに供給される液体中の物質の酸化を促進する酵素とを含み、
下記(1)〜(3)の少なくともいずれかの条件を満たす発電デバイス。
(1)発電していないときよりも発電しているときの水分含有量が大きい
(2)液体の供給により発電する
(3)水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である
【請求項4】
前記燃料は、溶媒を含まないか、溶媒の含有率が50質量%以下である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発電デバイス。
【請求項5】
前記カソードは酸素の還元を促進する触媒を含む、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の発電デバイス。
【請求項6】
前記燃料は単糖類を含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の発電デバイス。
【請求項7】
前記アノード及び前記カソードからなる少なくとも一方が形成された基材と、前記燃料を含む基材とを含む積層物である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の発電デバイス。
【請求項8】
複数の前記発電デバイスが連結した状態で基材上に形成されたシート状物又はそのロール状物である、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の発電デバイス。
【請求項9】
所望の大きさにカットして用いることができる、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の発電デバイス。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の発電デバイスに液体を供給する工程を含む、発電方法。
【請求項11】
前記液体が水を含む、請求項10に記載の発電方法。
【請求項12】
前記液体の供給量が、前記液体と前記燃料とが混合したときの前記燃料の濃度が、使用温度において0.01mol/dm3〜10mol/dm3の範囲となる量である、請求項10又は請求項11に記載の発電方法。
【請求項13】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の発電デバイスに液体を供給する工程と、前記液体中に含まれる物質の濃度を測定する工程と、を含む、濃度測定方法。
【請求項14】
燃料と、アノードと、カソードとを含み、
前記アノードは前記燃料の酸化を促進する酵素を含み、
水分含有率が前記燃料、前記アノード及び前記カソードの合計の10質量%以下である発電デバイスに液体を供給する工程と、前記液体中に含まれる物質の濃度を測定する工程と、を含む、濃度測定方法。
【請求項15】
前記燃料は前記基材に含まれる、請求項2に記載の発電デバイス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-03-06 
出願番号 P2018-542876
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (H01M)
P 1 652・ 121- YAA (H01M)
P 1 652・ 537- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 粟野 正明
羽鳥 友哉
登録日 2021-12-15 
登録番号 6994184
権利者 国立大学法人 筑波大学 学校法人東京理科大学
発明の名称 発電デバイス、発電方法及び濃度測定方法  
代理人 弁理士法人太陽国際特許事務所  
代理人 加藤 和詳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 弁理士法人太陽国際特許事務所  
代理人 福田 浩志  
代理人 弁理士法人太陽国際特許事務所  
代理人 福田 浩志  
代理人 弁理士法人太陽国際特許事務所  

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