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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
管理番号 1398295
総通号数 18 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-01-04 
確定日 2023-06-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第7093918号発明「自動車乗員のバイタルサインの非接触の検知および監視システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7093918号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7093918号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)8月1日(優先権主張外国庁受理 2017年8月2日 米国)を国際出願日として出願されたものであり、、令和4年6月23日にその特許権の設定登録がされ、令和4年7月1日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年1月4日に特許異議申立人アイイーイー インターナショナル エレクトロニクス アンド エンジニアリング エス エイ.(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
特許第7093918号の請求項1ないし13の特許に係る発明(以下それぞれ請求項の番号に対応して「本件発明1」などといい、それらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
車両内の乗員のバイタルサインを決定する方法であって、
(1)乗員に信号を伝達し、該信号を乗員から反射された信号として受信する工程と、
車両の少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程と、
(2)修正済の信号を生成するために、得られた振動データに基づいて少なくとも1つのフィルタを調整することで、受信された反射信号をフィルタリングする工程と、および、修正済の信号をセグメントに分割する分割工程であって、前記セグメントの各々は周波数に対応する、分割工程、
(3)前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用すること、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積すること、および、乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること、を含む工程と、を含んでなる、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
バイタルサインは、呼吸数、心拍数および心拍変動の1つ以上を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記信号はドップラーレーダーからである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
反射信号はアナログ形式で得られ、デジタル形式に変換され、修正済の信号が修正済のデジタル信号を含んでいる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記バイタルサインは乗員の呼吸数を含み、乗員から反射された信号は、呼吸数の高調波に基づいた信号に帰着する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項2に記載の方法であって、
心拍変動を決定することは、次のプロセス、すなわち、
修正済の信号を得ること、
修正済の信号中の偽信号を決定すること、
偽信号間の連続するピークの修正済の信号を分析すること、
および、
少なくとも所定の数の連続するピークを持つ修正済の信号の一部を決定すること、
および、
少なくとも所定の数の連続するピークを持つ修正済の信号から心拍変動パラメーターを算出すること、を含んでなる、方法。
【請求項7】
反射信号を呼吸速度周波数に対する第1の経路に分割し、反射信号の分析前に心拍数周波数に対する第2の経路に分割する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
車両(100)の乗員のバイタルサインを決定するためのシステムであって、前記システムは、
乗員に信号を伝達し、乗員から反射された信号を受信するためのレーダー送受信機(101a/404)と、
プロセッサ(408)によって処理するために反射信号を変換された信号に変換するための信号変換器(407)と、
乗員に局所的な振動を検出し、前記局所的な振動を表す振動データを提供するための振動検知ユニット(406)であって、前記局所的な振動データは車両の動きのデータと加速のデータを含む、振動検知ユニット(406)と、および、
信号変換器(407)および振動検知ユニット(406)と電子通信するプロセッサ(408)であって、a)修正済の信号を生成するために振動データに基づいて少なくとも1つのフィルタ(413a−3)を調整することで、変換された信号をフィルタする工程、b)修正済の信号をセグメントに分割する分割工程であって、前記セグメントの各々は周波数に対応する、分割工程、c)前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用し、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積してなる、複数のピークを分析する工程、および、d)心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定する工程、を含むプログラムを実行するプロセッサ(408)を含んでなる、システム。
【請求項9】
乗員のバイタルサインを決定するために修正済の信号を分析するようにプログラムされるプロセッサ(408)が、呼吸数、心拍数および心拍変動の1つ以上を含むバイタルサインを決定する、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
振動検知ユニットは慣性計測装置(IMU)(411)を含み、信号変換器はA−D変換器(ADC)(407)を含んでいる請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
反射信号の呼吸数周波数と心拍数周波数の分離のために2つの通過帯域経路(406a,406b)を含む、レーダー送受信機(404)及び信号変換器と電子通信する、フィルトレーション及び増幅回路(406)をさらに含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
車両の客室で乗員を決定するための方法であって、前記方法は、
車両の客室に信号を伝達し反射信号を受信する工程、
少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程、
修正済の信号を生成するために、得られた振動データに基づいて少なくとも1つのフィルタを調整することで、受信された反射信号をフィルタリングする工程、
修正済の信号をセグメントに分割する分割工程であって、前記セグメントの各々は周波数に対応する工程、
前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用する、複数のピークを分析する工程、
ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積する工程、
および、
車両の客室の乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定することを含む工程を、含み、
もしバイタルサインが存在すれば、乗員は車両の客室で検知される、方法。
【請求項13】
車両の乗員の数を決定する方法であって、前記方法は、
車両の客室に信号を伝達し、1人以上の乗員から反射されたレーダー信号を受信する工程、
少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程、
修正済の信号を生成するために、得られた振動データに基づいて、少なくとも1つのフィルタを調整することで受信された反射信号をフィルタリングする工程、
修正済の信号をセグメントに分割する分割工程であって、前記セグメントの各々は周波数に対応する工程、
前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用すること、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積すること、および、
車両客室の1人以上の乗員に関連するバイタルサインを決定するために、心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること、を含む工程、および、
検知されたバイタルサインの数に基づいて、車両の客室内の乗員の数を決定する工程、を含んでなる方法。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 申立人は、主たる証拠として甲第1号証又は甲第3号証、及び従たる証拠として甲第2号証、甲第4ないし6号証を提出し、請求項1ないし13に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし13に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。また、申立人は、証拠方法として、下記2の甲第1号証ないし甲第6号証を提出した。

2 証拠方法
(1)甲第1号証:国際公開第2016/038148号
(2)甲第2号証:米国特許第6753780号明細書
(3)甲第3号証:特開2013−153782号公報
(4)甲第4号証:特開2014−39666号公報
(5)甲第5号証:特開2017−12650号公報
(6)甲第6号証:特開2017−104360号公報

第4 各甲号証等の記載事項
1 甲第1号証(以下「甲1」という。他の甲号証についても同様。)の記載事項及び甲1に記載された発明
(1)甲1の記載事項
甲1には以下の記載がある(下線は当審で付加した。以下同じ。)。
(甲1−ア)
「Abstract:A method for sensing occupancy status within an automotive vehicle uses a radar sensor system comprising an antenna system, at least one sensor and processing circuitry. The method comprises illuminating, using the antenna system, at least one occupiable position within the vehicle with an outgoing radar signal; receiving, using at least one sensor, at least one sensor signal reflected as a result of the outgoing radar signal, obtaining accelerometer data value from at least one accelerometer, said accelerometer data containing information regarding vibration or motion of said automotive vehicle and supplying said accelerometer data to said processing circuitry; operating the processing circuitry for generating, based on the at least one sensor signal and on the accelerometer data, one or more occupancy status signals, the occupancy status signal indicating a property related to said at least one occupiable position.」
(当審訳:要約:自動車内の占有状態を感知する方法は、アンテナシステム、少なくとも1つのセンサ、および処理回路を含むレーダーセンサシステムを使用する。この方法は、アンテナシステムを用いて、発信レーダー信号で自動車内の少なくとも1つの占有可能な位置を照らすことと、少なくとも1つのセンサを用いて、発信レーダー信号の結果として反射した少なくとも1つのセンサ信号を受信することと、少なくとも1つの加速度計から加速度計データ値を取得し、前記加速度計データは前記自動車車両の振動または運動に関する情報を含み、前記処理回路に供給された加速度計データと、からなる; 前記少なくとも1つのセンサ信号と前記加速度計データとに基づいて、1つ以上の占有状態信号を生成するために前記処理回路を動作させ、前記占有状態信号は、前記少なくとも1つの占有可能位置に関連する特性を示す。)

(甲1−イ)
「[0001]The present invention generally relates to the technical field of sensing objects internal to a vehicle, and more specifically to radar sensing for detecting occupants in a vehicle.」
(当審訳:[0001] 本発明は、一般に、車両内部の物体をセンシングする技術分野に関し、より具体的には、車両内の乗員を検出するためのレーダーセンシングに関するものである。)

(甲1−ウ)
「[0006] According to one aspect of the invention there is provided a method for sensing occupancy status within an automotive vehicle using a radar sensor system, the radar sensor system comprising an antenna system, at least one sensor and processing circuitry.
・・・
[0007] The above method advantageously includes accelerometer data to the classification software of the system and is therefore able to compensate for the motion or vibration of the vehicle. The information regarding vibration or motion can be taken in consideration when the classification (interior human detection) algorithm needs to classify. This information will help to filter out exterior influences that might falsify the classification (passing traffic, wind shakes, various vibrations of the engine or any exterior event leading to a vehicle movement).」
(当審訳:[0006] 本発明の一態様によれば、レーダーセンサシステムを使用して自動車内の占有状態を感知する方法が提供され、レーダーセンサシステムは、アンテナシステム、少なくとも1つのセンサおよび処理回路を備える。
・・・
[0007] 上記の方法は、有利には、システムの分類ソフトウェアに加速度計データを含み、したがって、車両の動きまたは振動を補償することが可能である。振動または運動に関する情報は、分類(内部の人間検出)アルゴリズムが分類する必要があるときに考慮することができる。この情報は、分類を偽る可能性のある外部からの影響(通過する交通量、風揺れ、エンジンの様々な振動、または車両の動きにつながるあらゆる外部イベント)をフィルタリングするのに役立つ。)

(甲1−エ)
「[0010] The one or more occupancy status signals may comprise an occupant detection signal, indicating whether or not an occupant is present in the occupiable position, an occupant classification signal, indicating a classification for an occupant present in the occupiable position, and/or an occupant vital signs signal, indicating the extent to which vital signs are exhibited in the occupiable position or by an occupant in the occupiable position.
・・・
[0012] In another aspect of the invention, a radar sensor system for sensing occupancy status within an automotive vehicle comprises an antenna system for illuminating at least one occupiable position within the vehicle with an outgoing radar signal; at least one sensor for receiving at least one sensor signal reflected as a result of the outgoing radar signal, and a processing circuitry coupled to the at least one sensor, the processing circuitry being operable for obtaining accelerometer data from at least one accelerometer, said accelerometer data containing information regarding vibration or motion of said automotive vehicle, and for generating, based on the at least one sensor signal and on the accelerometer data, one or more occupancy status signals, the occupancy status signal indicating a property related to said at least one occupiable position.」
(当審訳:[0010] 1又は複数の占有状態信号は、占有可能位置に占有者が存在するか否かを示す占有者検出信号、占有可能位置に存在する占有者の分類を示す占有者分類信号、及び/又は占有可能位置において又は占有可能位置にいる占有者によってバイタルサインが示される程度を示す占有者バイタルサイン信号からなる場合がある。
・・・
[0012]本発明の別の態様では、自動車車両内の占有状態を感知するためのレーダーセンサシステムは、発信レーダー信号で車両内の少なくとも1つの占有可能な位置を照らすためのアンテナシステムから構成される; 前記発信レーダー信号の結果として反射された少なくとも1つのセンサ信号を受信するための少なくとも1つのセンサと、前記少なくとも1つのセンサに結合された処理回路であって、前記処理回路は、少なくとも1つの加速度計から加速度計データを得るために動作可能であり、前記加速度計データには前記自動車車両の振動または運動に関する情報が含まれ、少なくとも1つのセンサ信号および加速度計データに基づいて、1以上の占有状態信号を生成し、占有状態信号には前記少なくとも1の占有位置に関係するプロパティが示されている。)

(甲1−オ)
「[0015] In possible embodiments, the at least one accelerometer is a dedicated accelerometer and forms an integral part of said radar sensor and/or an accelerometer associated to existing vehicle components, such as an airbag control unit accelerometer.」
(当審訳:[0015] 可能な実施形態では、少なくとも1つの加速度計は、専用の加速度計であり、前記レーダーセンサの一体的な部分を形成し、かつ/またはエアバッグ制御ユニットの加速度計などの既存の車両コンポーネントに関連する加速度計である。)

(甲1−カ)
「[0022] The radar sensor system for sensing occupancy status within an automotive vehicle shown in Fig. comprises an antenna system (Tx) for illuminating at least one occupiable position within the vehicle with an outgoing radar signal. At least one sensor (Radar Sensor) is receiving (via RX) at least one sensor signal reflected as a result of the outgoing radar signal. A processing circuitry (Interior Radar Algorithm) is coupled to the radar sensor.
[0023] At least one accelerometer is operatively coupled to the processing circuitry. The accelerometer may be an existing accelerometer in the car, such as an accelerometer of the airbag control unit, or a dedicated accelerometer embedded into the radar sensor. It will be noted that several (different) accelerometers may be read out by the processing circuitry.
[0024] The processing circuitry is configured and operable for obtaining accelerometer data containing information regarding vibration or motion of said automotive vehicle from the accelerometer and for generating, based on the at least one sensor signal and on the accelerometer data, one or more occupancy status signals (CPS), the occupancy status signal indicating a property related to said at least one occupiable position.
[0025] Due to the use of the accelerometer data, external influences, vibrations and vehicle motion may be filtered out and the classification of the occupancy status is improved.」
(当審訳:[0022]図に示す自動車内の占有状態を感知するためのレーダーセンサシステムは、発信レーダー信号で自動車内の少なくとも1つの占有可能な位置を照射するためのアンテナシステム(Tx)からなる。少なくとも1つのセンサ(レーダーセンサ)は、発信レーダー信号の結果として反射された少なくとも1つのセンサ信号を受信している(RXを介して)。処理回路(内部のレーダーアルゴリズム)がレーダーセンサに結合されている。
[0023]少なくとも1つの加速度計が、処理回路に動作的に結合されている。加速度計は、エアバッグ制御ユニットの加速度計のような自動車内の既存の加速度計であってもよいし、レーダーセンサに埋め込まれた専用の加速度計であってもよい。複数の(異なる)加速度計が、処理回路によって読み出される可能性があることに留意されたい。
[0024]処理回路は、加速度計から前記自動車車両の振動または運動に関する情報を含む加速度計データを取得し、少なくとも1つのセンサ信号と加速度計データとに基づいて、1つまたは複数の占有状態信号(CPS)を生成し、占有状態信号は前記少なくとも1つの占有可能位置に関連する特性を示すように構成され動作可能である。
[0025]加速度計データの使用により、外部の影響、振動及び車両の動きがフィルタリングされ、占有状態の分類が改善される。)

(2)甲1に記載された発明
上記(甲1−ア)〜(甲1−カ)の記載から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(甲1発明)
「車両内の乗員を検出するためのレーダーセンサシステムを使用して自動車内の占有状態を感知する方法において、
発信レーダー信号で自動車内の少なくとも1つの占有可能な位置にいる占有者を照射し、発信レーダー信号の結果として反射された少なくとも1つのセンサ信号を受信することと、
処理回路に結合された少なくとも1つの加速度計から自動車車両の振動または運動に関する情報を含む加速度計データを取得することと、
少なくとも1つのセンサ信号と加速度計データとに基づいて、外部の影響、振動及び車両の動きがフィルタリングされるようにして、1つまたは複数の占有状態信号(CPS)を生成し、
前記占有状態信号は占有者バイタルサイン信号であること、
を含む方法。」

2 甲2の記載事項及び甲2に記載された技術事項
(1)甲2の記載事項
甲2には以下の記載がある。
(甲2−ア)要約
「A motion sensing system and method for detecting an occupant in a vehicle with enhanced sensitivity to detect small movement, such as movement caused by heartbeat and breathing of an occupant. The system includes a radar motion sensor located in a compartment of the vehicle. The radar sensor transmits and receives signals within the compartment and generates sensed signals. The system has a controller for converting the sensed signals to a frequency domain. The controller further processes the frequency domain of sensed signals and determines the presence of movement of an occupant due to one of heartbeat and breathing of the occupant.」
(当審訳:乗員の心拍や呼吸による動きなど、小さな動きを検出する感度を高めた、車両内の乗員を検出するためのモーションセンシングシステムおよび方法である。このシステムは、車両のコンパートメント内に設置されたレーダーモーションセンサを含む。レーダーセンサーは、コンパートメント内で信号を送受信し、感知した信号を生成する。システムは、感知された信号を周波数領域に変換するためのコントローラを有する。コントローラは、さらに、感知された信号の周波数領域を処理し、乗員の心拍および呼吸のうちの1つに起因する乗員の動きの存在を決定する。)

(甲2−イ)第1欄第58行〜第1欄第65行
「The radar motion sensor transmits and receives signals within the compartment and generates sensed signals. The motion detection system further includes a controller converting the sensed signals to a frequency domain. The controller further processes the frequency domain of sensed signals and determines the presence of movement of an occupant due to one of heartbeat and breathing of an occupant.」
(当審訳:レーダーモーションセンサは、区画内で信号を送受信し、センシングされた信号を生成する。動き検出システムは、センシングされた信号を周波数領域に変換するコントローラをさらに含む。コントローラは、さらに、感知された信号の周波数領域を処理し、乗員の心拍および呼吸のうちの1つに起因する乗員の動きの存在を決定する。)

(甲2−ウ)第4欄第22行〜第5欄第20行
「The data acquired in the frequency domain data sets is processed to determine whether an occupant is detected within the vehicle. In doing so, a plurality of frequency domain data sets are averaged so as to obtain an average frequency domain signal. One example of a frequency domain average signal is shown by line 60 in FIG.4. The average signal 60 shows peaks at certain frequencies which could be indicative of occupant body movement caused by heartbeat and breathing of an occupant in the vehicle. In order to capture occupant body (e.g., chest) movement due to breathing and heartbeat of occupants such as human beings, a frequency window is selected generally in the range of about 0.2 to 2.0 Hz, according to one example. The averaged signal within the frequency window is compared to a threshold and is also compared to known frequency characteristics of expected movement due to heartbeat and breathing to determine occupant movement within the vehicle.
Referring to FIG.5, the control functions of the radar motion sensing system 20 performed by the microcontroller 20 are illustrated therein. Radar motion sensing system 20 includes an analog-to-digital (A/D) converter 64 for converting the analog output signal VOUT 62 to digital signals.
・・・
Radar motion sensing system 20 further performs a fast Fourier transform (FFT) 70 to convert the time domain signal to a frequency domain signal. Historic data memory 72 stores the frequency-domain signals as sets of data {F0(ω), F1(ω),. . . Fn(ω)}.According to one embodiment, twenty sets (n=20) of data sets may be saved in the historic data memory 72, representing a continuous record of the data signal output for the past one hundred seconds.
The radar sensing system 20 further has decision-making mechanisms 75 for processing the signal classifier output and the frequency domain data stored in the historic data memory 72. The decision-making mechanism 75 includes first, second, and third decision-making mechanisms DMM1 74, DMM2 76, and DMM3 78, respectively. The decision-making mechanism 74,76, and 78 process the frequency domain information to determine a high, low, or intermediate C-level of confidence that an occupant is present within the vehicle.
・・・
Each of the decision-making mechanisms 74,76, and 78 outputs a confidence level based signal to a voting machine 80 which processes the information and makes a decision 82 as to whether an occupant is detected within the vehicle.」
(当審訳:周波数領域データセットで取得されたデータは、車両内で乗員が検出されたかどうかを判断するために処理される。その際、複数の周波数領域データセットは、周波数領域平均信号を取得するように平均化される。周波数領域平均信号の一例は、図4の線60で示されている。平均信号60は、車両内の乗員の心拍や呼吸による乗員体動を示すと思われる特定の周波数にピークを示す。人間などの乗員の呼吸や心拍に起因する乗員体(例えば、胸部)の動きを捉えるために、一例によれば、約0.2〜2.0Hzの範囲内で一般的に周波数ウィンドウが選択される。周波数ウィンドウ内の平均化された信号は、閾値と比較され、また、車両内の乗員の動きを決定するために、心拍及び呼吸による予想される動きの既知の周波数特性と比較される。
図5を参照すると、マイクロコントローラ20によって実行されるレーダー動き感知システム20の制御機能がそこに図示されている。レーダー動き感知システム20は、アナログ出力信号VOUT62をデジタル信号に変換するためのアナログ/デジタル(A/D)変換器64を含む。
・・・
レーダーモーションセンシングシステム20は、さらに、高速フーリエ変換(FFT)70を実行して、時間領域の信号を周波数領域の信号に変換する。ヒストリカルデータメモリ72は、データ{F0(ω), F1(ω),. . . Fn(ω)}のセットとして、周波数領域の信号を格納する。一実施形態によれば、過去100秒間のデータ信号出力の連続記録を表す、20セット(n=20)のデータセットがヒストリカルデータメモリ72に保存され得る。
レーダーセンシングシステム20は、信号分類器の出力と履歴データメモリ72に格納された周波数領域データとを処理するための意思決定機構75をさらに有する。意思決定機構75は、それぞれ第1、第2、および第3の意思決定機構DMM1 74、DMM2 76、およびDMM3 78を含む。意思決定機構74,76,78は、周波数領域情報を処理して、乗員が車両内に存在するという信頼度の高い、低い、または中間のCレベルを決定する。
・・・
意思決定機構74,76,78の各々は、信頼度に基づく信号を投票機80に出力し、投票機80はその情報を処理し、車両内で乗員が検出されたかどうかについての決定82を行う。)

(甲2−エ)第6欄第61行〜第7欄第18行
「The routine 200 for performing the operations of DMM1 is further shown in FIG. 7 beginning at step 202. The DMM1 routine 200 obtains an average power level (PAVE) in the frequency window (ω0-ω1). The average power level is computed as an average value of the average signal obtained from within the frequency window (ω0-ω1). An optional step 206 applies a weighting function to add weight (e.g., multiplication factor) to a specific frequency, if desired. Proceeding to step 208, DMM1 routine 200 checks for whether the average power PAVE is greater than an upper threshold T1 and, if not, proceeds to step 212 to see if the average power PAVE is less than a lower threshold T2. If the average power PAVE is greater than upper threshold T1, DMM1 routine 200 sets an output to high confidence occupant detected as input break1 of the voting machine, in step 210.If the average power PAVE is less than the lower threshold T2, DMM1 routine 200 sets an output to high confidence of no occupant detected as input break2 of the voting machine, in step 214. Once a high confidence level is set in steps 210 or 214, DMM1 routine 200 goes to the voting machine in step 216 to make a final decision.
If neither the average power PAVE is greater than the upper threshold T1 nor lower than the lower threshold T2, DMM1 routine 200 sets a low confidence occupant detected level in step 218, and thereafter proceeds to a routine to perform the operations of DMM2 in step 220.」
(当審訳:DMM1の動作を実行するためのルーチン200は、図7において、ステップ202からさらに示されている。DMM1ルーチン200は、周波数ウィンドウ(ω0-ω1)内の平均パワーレベル(PAVE)を取得する。平均パワーレベルは、周波数ウィンドウ(ω0-ω1)内から得られた平均信号の平均値として計算される。オプションのステップ206は、所望により、特定の周波数に重み(例えば、乗算係数)を付加するために重み付け関数を適用する。ステップ208に進み、DMM1ルーチン200は、平均パワーPAVEが上限閾値T1より大きいかどうかをチェックし、そうでなければ、ステップ212に進み、平均パワーPAVEが下限閾値T2より小さいかどうかを確認する。平均パワーPAVEが上側閾値T1より大きい場合、DMM1ルーチン200は、ステップ210で、投票機のbreak1入力として、高い信頼性で乗員が検出されたとの出力を設定する。平均パワーPAVEが下側閾値T2より小さい場合、DMM1ルーチン200は、ステップ214で、投票機のbreak2入力として、高い信頼性で乗員が検出されていないとの出力を設定する。ステップ210または214で高い信頼性レベルが設定されると、DMM1ルーチン200は、ステップ216で投票機に行き、最終決定を下す。
平均パワーPAVEが上限閾値T1より大きくもなく、下限閾値T2より小さくもない場合、DMM1ルーチン200は、ステップ218で、低い信頼性での乗員検出レベルを設定し、以後ステップ220でDMM2の動作を実行するルーチンに進む。)

(2)甲2に記載された技術事項
上記(甲2−ア)〜(甲2−エ)の記載から、甲2には、以下の技術事項(以下「甲2技術事項」という。)が記載されているものと認められる。

(甲2技術事項)
「レーダーセンシングシステムにおいて、第1、第2、および第3の意思決定機構DMM1、DMM2、およびDMM3を含み、上記意思決定機構の各々は、信頼度に基づく信号を投票機に出力し、投票機はその情報を処理し、車両内で乗員が検出されたかどうかについての決定を行うものであり、
上記意思決定機構DMM1の動作を実行するためのルーチンは、周波数ウィンドウ(ω0-ω1)内の平均パワー(PAVE)を取得し、平均パワーは、周波数ウィンドウ(ω0-ω1)内から得られた平均信号の平均値として計算するステップと、特定の周波数に重み(例えば、乗算係数)を付加するために重み付け関数を適用するステップと、平均パワーPAVEが上限閾値T1より大きいかどうかをチェックするステップと、平均パワーPAVEが上側閾値T1より大きい場合、投票機にて高い信頼性で乗員が検出されたとの出力を設定するステップとを少なくとも含み、
ここで、上記平均信号は、車両内の乗員の心拍や呼吸による乗員体動を示すと思われる特定の周波数にピークを示すものである、こと。」

3 甲3の記載事項及び甲3に記載された発明
(1)甲3の記載事項
甲3には以下の記載がある。

(甲3−ア)
「【0017】
外部振動には、被験者が位置する場所の振動(たとえば、車両における振動)や、音楽や騒音などによる空気の振動などが該当する。このような振動によるノイズを心拍信号からあらかじめ除去することで、より精度の良く心拍特性を検出できる。
【0018】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を含む心拍信号処理装置として捉えることができる。また、上記処理の少なくとも一部を含む心拍信号処理方法として捉えることもできる。また、上記方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムとして捉えることもできる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。」

(甲3−イ)
「【0022】
(システム構成)
図1は、本実施形態に係る心拍検知装置の機能構成を示した図である。心拍検知装置は、大略、心拍センサ10と心拍信号処理装置20から構成される。
・・・
【0023】
心拍センサ10は、アンテナ11、送受信部12、検波部13を備える。本実施形態においては、送受信部12からアンテナ11を介して、10GHzのマイクロ波を被検体の体表面に照射し、体表面からの反射波を送受信部12で受信して検波部13で検波する。
【0024】
アンテナ11は、被験者の体表にマイクロ波を照射し、その反射波を受信するための手段である。
・・・
【0026】
検波部13は、受信した反射波の検波を行う手段である。検波部13は、包絡線検波(振幅検波)もしくは位相検波によってマイクロ波の検波を行う。
・・・
【0028】
心拍信号処理装置20は、心拍センサ10から出力(心拍信号)を取得するインタフェース(不図示)を備える。」
【0029】
ADC21によってデジタル化された心拍信号は、LPF25によって、心拍信号を除去して呼吸信号(基本波)が取り出される。心拍数は一般に60〜180回/分、すなわち1〜3Hz程度であり、呼吸数は10〜20回/分、すなわち0.15〜0.3Hz程度である。したがって、この間の周波数を、遮断周波数とするLPF25を採用することで、心拍信号から呼吸信号の基本波を取り出すことができる。なお、後述するように呼吸信号の高域補完処理を行うので、フィルタ後の信号が呼吸信号の基本波だけでなく、いくつかの高調波を含むように、LPF25の遮断周波数を決定することが好ましい。図2AにLPF25のフィルタ特性の例を示している。この例では、心拍信号の基本周波数よりも低い周波数の中で最も高い呼吸の高調波(図の例では、第3高調波)と、心拍信号の基本周波数との間の周波数を、LPF25の遮断周波数としている。
【0030】
LPF25によって呼吸信号の高調波成分が失われるので、高域補完フィルタ26によって、準周期性信号である呼吸信号の調波構造を保つ高域補完処理を行って、呼吸信号の高調波成分を生成する。高域補完処理は公知な技術であるので詳しい説明は省略するが、基本的には振幅変調を用いて呼吸信号の中域成分(LPF25の遮断周波数以下の呼吸信号の高調波成分)を、高域部分(LPF25の遮断周波数以上)にコピーすることで実現される。この際、入力される呼吸信号の周波数スペクトルの包絡線に基づいて高域部分のレベルを調節する。
【0031】
高域補完フィルタ26によって呼吸の高調波成分が補完された信号は、HPF27に入力されて、呼吸信号の高調波成分が取り出される。後述するように、呼吸信号の高調波成分は、HPF22によって分離した心拍信号から除去する成分なので、HPF27の遮断周波数は、HPF22の遮断周波数と同じまたはそれ以上にすることが好ましい。
【0032】
また、ADC21によってデジタル化された心拍信号は、HPF22によって、呼吸信号が除去されて心拍信号が取り出される。本実施形態では、HPF22の遮断周波数は、図2Aに示すように、LPF25の遮断周波数と同じである。ただし、入力された信号から、呼吸信号(基本波)と心拍信号を分離可能な周波数、すなわち呼吸の基本周波数よりも高く、心拍の基本周波数よりも低い周波数であれば、LPF25の遮断周波数と異なっていても構わない。

(甲3−ウ)
「【0037】
<第2の実施形態>
本実施形態に係る心拍検知装置は、車両内での使用を想定する。車両内では、振動や騒音等の影響によって、被験者の体に振動が加えられる。このような環境での使用は、外部振動の影響を抑制できることが求められる。
【0038】
図3は、本実施形態に係る心拍検知装置の機能構成を示した図である。本実施形態においては、心拍検知装置は、心拍センサ10と加速度センサ30と心拍信号処理装置20から構成される。心拍センサ10は第1の実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0039】
加速度センサ30は、たとえば車内に固定して設置されて、車両に加わる加速度信号を取得する。車両に加わる加速度から、被験者に加わる振動を取得することができる。
・・・
【0040】
心拍信号処理装置20は、加速度センサ30からの信号も入力として利用する。AD変換器28は、加速度センサ30から得られるアナログの振動信号をデジタル化する。そして、適応フィルタ29は、心拍センサ10の出力である心拍信号から、加速度センサ30の出力である振動信号を参照信号として参照信号と相関が高い信号を除去する。適応フィルタ29は、適応フィルタ26と同様にノイズを除去するためのフィルタであり、同様の構成を有するので詳しい説明は省略する。
【0041】
心拍信号から振動信号を除去した後の処理は、第1の実施形態と同様である。すなわち、心拍信号を低周波側と高周波側に分離し、低周波側の信号から呼吸の高調波を生成し、高周波側の信号から呼吸の高調波を除去する。」

(2)甲3に記載された発明
上記(甲3−ア)〜(甲3−ウ)の記載から、甲3には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。

(甲3発明)
「車両内の被験者の心拍信号処理方法であって、
心拍センサ10は、アンテナ11、送受信部12、検波部13を備え、
心拍センサ10の送受信部12からアンテナ11を介して10GHzのマイクロ波を被検体の体表面に照射し、体表面からの反射波を送受信部12で受信して検波部13で検波する処理と、
車両内での使用において、車内に固定して設置された加速度センサ30が車両に加わる加速度信号を取得して車両に加わる加速度から被験者に加わる振動信号を取得する処理と、
適応フィルタ29にて、心拍センサ10の出力である心拍信号から、加速度センサ30の出力である振動信号を参照信号として参照信号と相関が高い信号を除去する処理とを含み、
精度の良く心拍特性を検出できる、
方法。」

第5 当審の判断
1 甲1に基づく進歩性について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「占有状態信号は占有者バイタルサイン信号である」によれば、「占有状態」は「占有者バイタルサイン」を示すものと解される。また、甲1発明の「自動車内の」「占有者」は、本件発明1の「乗員」に相当する。
すると、甲1発明の「自動車内の占有状態を感知する方法」は、本件発明1の「車両内の乗員のバイタルサインを決定する方法」に相当するといえる。

(イ)甲1発明の「発信レーダー信号」及び「反射された少なくとも1つのセンサ信号」は、それぞれ本件発明1の「信号」及び「反射された信号」に相当し、甲1発明の「発信レーダー信号で自動車内の少なくとも1つの占有可能な位置にいる占有者を照射し、発信レーダー信号の結果として反射された少なくとも1つのセンサ信号を受信すること」は、本件発明1の「(1)乗員に信号を伝達し、該信号を乗員から反射された信号として受信する工程」に相当するものであるといえる。

(ウ)甲1発明の「加速度計データ」は、「少なくとも1つの加速度計」から取得するので、加速のデータが含まれるものと解される。また、甲1発明の「加速度計データ」に基づいて「外部の影響、振動及び車両の動き」がフィルタリングされることから、当該「加速度計データ」は、振動といった車両の動きに関するデータも含まれるものと解される。
すると、甲1発明の「処理回路に結合された少なくとも1つの加速度計」及び「加速度計データ」は、本件発明1の「車両の少なくとも1つのセンサー」及び「振動データ」に相当し、甲1発明の「処理回路に結合された少なくとも1つの加速度計から自動車車両の振動または運動に関する情報を含む加速度計データを取得すること」は、本件発明1の「車両の少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程」に相当するといえる。

(エ)上記(イ)によれば、「反射された少なくとも1つのセンサ信号」は、本件発明1の「反射された信号」に相当し、上記(ウ)によれば、甲1発明の「加速度計データ」は本件発明1の「振動データ」に相当する。
すると、甲1発明の「1つまたは複数の占有状態信号(CPS)」を「生成」するために、「少なくとも1つのセンサ信号と加速度計データとに基づいて、外部の影響、振動及び車両の動きがフィルタリングされる」ことは、本件発明1の「修正済の信号」を「生成」するために、「得られた振動データに基づいて少なくとも1つのフィルタを調整することで、受信された反射信号をフィルタリングする工程」に相当するといえる。

(オ)上記(ア)〜(エ)より、本件発明1と甲1発明とは、
「車両内の乗員のバイタルサインを決定する方法であって、
(1)乗員に信号を伝達し、該信号を乗員から反射された信号として受信する工程と、
車両の少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程と、
(2)修正済の信号を生成するために、得られた振動データに基づいて少なくとも1つのフィルタを調整することで、受信された反射信号をフィルタリングする工程と、を含んでなる方法。」
の発明である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点1)
「修正済の信号」に対し、本件発明1は、「セグメントに分割」し、「前記セグメントの各々は周波数に対応する、分割工程」を含むのに対し、甲1発明は、各々が周波数に対応するセグメントに分割する工程が含まれるのか否か明らかではない点。

(相違点2a)
本件発明1は「前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用すること、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積すること、および、乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること、を含む工程」を含むのに対し、甲1発明は、高調波に対する複数のピークを分析する工程を含まない点。

イ 事案に鑑み、上記相違点2aについて検討する。
(ア)甲2技術事項によれば、「重み付け関数を適用する」対象が、「車両内の乗員の心拍や呼吸による乗員体動を示すと思われる特定の周波数にピークを示すもの」である「平均信号」であると解される。しかしながら、上記「平均信号」が、「高調波に対する複数のピーク」である点について甲2に開示されていない。また、甲2技術事項によれば、「平均信号」の平均値として計算する「平均パワー(PAVE)を取得する」工程を備えるものの、「ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積する」点について甲2に開示されていない。

(イ)甲2技術事項によれば、平均パワーPAVEと上限閾値T1を比較して、上限閾値T1を超えている場合に高い信頼性で乗員が検出されたと決定する工程を備えるものの、「乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定する」点について甲2に開示されていない。

(ウ)また、甲3ないし甲6にも、「高調波に対する複数のピーク」「のおのおのに対して」「ウエイトファクターを適用する」点、「ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積する」点、「乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定する」点について開示されていないし、上記各点に関する技術が、本件特許の優先日前において周知の技術であるとも認められない。
そして、本件発明1は、相違点2aに係る当該構成を採用することにより、「最も可能性がある心拍数(HR)が決定される。」(本件特許明細書の段落【0102】)という効果を奏するものである。

(エ)したがって、甲1ないし甲6に接した当業者といえども、甲1発明において、「前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用すること、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積すること、および、乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること、を含む工程」を含むようにすることは、容易に想起し得ることであるとはいえない。

ウ 申立人は、令和5年1月4日付け特許異議申立書(以下「異議申立書」という。)において、甲第2号証では、DMMが周波数に重み(例えば、乗算係数)を付加するために重み付け関数を適用して得た周波数窓(ω0−ω1)の平均電カレベル(PAVE)を履歴データメモリ72から取待し、平均電力PAVEと上限閾値Tlを比較して、その比較結果に基づき乗員検出(乗員の心拍および呼吸のうちの1つに起因する乗員の動きの検出)を行っている。ここで、平均電カレベルは、周波数窓(ω0−ω1)から得られる平均信号の平均値として計算され(上記(Viii))、平均信号は、車両内の乗員の心拍および呼吸によって引き起こされる乗員の身体運動を示す可能性のある特定の周波数でのピークを示す(上記(V))のであるから、この一連の処理は、結局のところ、相違点2に係る構成1D「前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用すること」、構成1E「ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積すること」、および、構成1F「乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること」、を含む工程」と実質的に同じである、旨主張する。
しかし、上記主張の「この一連の処理」の記載前に記載された記載事項と、「実質的に同じである」と結論づけている相違点2(上記ア(オ)の「相違点2a」に相当。)の各構成要素の記載事項が何ら対応していないため、両者は「実質的に同じ」ではない。
したがって、申立人の上記主張には理由がない。

エ 以上のとおりであるから、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2技術事項、甲3ないし甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2ないし7について
本件発明2ないし7は本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2ないし7は、上記(1)で検討した本件発明1と同じ理由により、甲1発明、甲2技術事項、甲3ないし甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明8について
本件発明8(「車両(100)の乗員のバイタルサインを決定するためのシステム」)は、本件発明1(「車両内の乗員のバイタルサインを決定する方法」)とカテゴリーのみが相違する。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明8は、甲1発明、甲2技術事項、甲3ないし甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明9ないし11について
本件発明9ないし11は本件発明8の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明9ないし11は、上記(4)で検討した本件発明8と同じ理由により、甲1発明、甲2技術事項、甲3ないし甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明12について
ア 本件発明12と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「自動車内の占有状態を感知する方法」は、「車両内の乗員を検出するため」に「レーダーセンサシステムを使用して」実行されるものであるから、甲1発明の「車両内の乗員を検出するため」の「自動車内の占有状態を感知する方法」は、本件発明12の「車両の客室で乗員を決定するため」の「方法」に相当するといえる。

(イ)甲1発明の「発信レーダー信号」及び「反射された少なくとも1つのセンサ信号」は、それぞれ本件発明12の「信号」及び「反射信号」に相当し、甲1発明の「発信レーダー信号で自動車内の少なくとも1つの占有可能な位置にいる占有者を照射し、発信レーダー信号の結果として反射された少なくとも1つのセンサ信号を受信すること」は、本件発明12の「車両の客室に信号を伝達し反射信号を受信する工程」に相当するものであるといえる。

(ウ)甲1発明の「加速度計データ」は、「少なくとも1つの加速度計」から取得するので、加速のデータが含まれるものと解される。また、甲1発明の「加速度計データ」に基づいて「外部の影響、振動及び車両の動き」がフィルタリングされることから、当該「加速度計データ」は、振動といった車両の動きに関するデータも含まれるものと解される。
すると、甲1発明の「少なくとも1つの加速度計」及び「加速度計データ」は、本件発明12の「少なくとも1つのセンサー」及び「振動データ」に相当し、甲1発明の「処理回路に結合された少なくとも1つの加速度計から自動車車両の振動または運動に関する情報を含む加速度計データを取得すること」は、本件発明12の「少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程」に相当するといえる。

(エ)上記(イ)によれば、「反射された少なくとも1つのセンサ信号」は、本件発明12の「反射信号」に相当し、上記(ウ)によれば、甲1発明の「加速度計データ」は本件発明12の「振動データ」に相当する。
すると、甲1発明の「1つまたは複数の占有状態信号(CPS)」を「生成」するために、「少なくとも1つのセンサ信号と加速度計データとに基づいて、外部の影響、振動及び車両の動きがフィルタリングされる」ことは、本件発明12の「修正済の信号」を「生成」するために、「得られた振動データに基づいて少なくとも1つのフィルタを調整することで、受信された反射信号をフィルタリングする工程」に相当するといえる。
また、甲1発明において「前記占有状態信号は占有者バイタルサイン信号である」ことから、上記「1つまたは複数の占有状態信号(CPS)」が検知されれば、それは車両の客室の乗員から検知されるバイタルサイン信号であると解される。
すると、甲1発明は、本件発明12の「もしバイタルサインが存在すれば、乗員は車両の客室で検知される」に相当する技術事項を備えるといえる。

(オ)上記(ア)〜(エ)より、本件発明12と甲1発明とは、
「車両の客室で乗員を決定するための方法であって、前記方法は、
車両の客室に信号を伝達し反射信号を受信する工程、
少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程、
修正済の信号を生成するために、得られた振動データに基づいて少なくとも1つのフィルタを調整することで、受信された反射信号をフィルタリングする工程と、を含み、
もしバイタルサインが存在すれば、乗員は車両の客室で検知される、方法。」
の発明である点で一致し、上記(1)ア(オ)における相違点1に加え、以下の相違点2bで相違する。

(相違点2b)
本件発明12は「前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用する、複数のピークを分析する工程、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積する工程、および、車両の客室の乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定することを含む工程」を含むのに対し、甲1発明は、高調波に対する複数のピークを分析する工程を含まない点。

イ 事案に鑑み、上記相違点2bについて検討する。
上記相違点2bは、上記(1)ア(オ)における相違点2aにおける「高調波の各々にウエイトファクターを適用すること」を「高調波の各々にウエイトファクターを適用する、複数のピークを分析する工程」と特定し、相違点2aにおける「乗員の心拍数」を「車両の客室の乗員の心拍数」と特定するものであるから、上記相違点2bは、上記相違点2aの発明特定事項を含むといえる。
すると、上記(1)イで検討したとおり、甲1〜甲6に接した当業者といえども、甲1発明において、「前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用する、複数のピークを分析する工程、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積する工程、および、車両の客室の乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定することを含む工程」を含むようにすることは、容易に想起し得ることであるとはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明12は、甲1発明、甲2技術事項、甲3ないし甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)本件発明13について
ア 本件発明13と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「自動車内の占有状態を感知する方法」は、「車両内の乗員を検出するため」に「レーダーセンサシステムを使用して」実行されるものであるから、甲1発明の「車両内の乗員」を「検出する」「自動車内の占有状態を感知する方法」は、本件発明13の「車両の乗員」を「決定する」「方法」である点で共通している。

(イ)甲1発明の「発信レーダー信号」及び「反射された少なくとも1つのセンサ信号」は、それぞれ本件発明12の「信号」及び「1人以上の乗員から反射されたレーダー信号」に相当し、甲1発明の「発信レーダー信号で自動車内の少なくとも1つの占有可能な位置にいる占有者を照射し、発信レーダー信号の結果として反射された少なくとも1つのセンサ信号を受信すること」は、本件発明13の「車両の客室に信号を伝達し、1人以上の乗員から反射されたレーダー信号を受信する工程」に相当するものであるといえる。

(ウ)甲1発明の「加速度計データ」は、「少なくとも1つの加速度計」から取得するので、加速のデータが含まれるものと解される。また、甲1発明の「加速度計データ」に基づいて「外部の影響、振動及び車両の動き」がフィルタリングされることから、当該「加速度計データ」は、振動といった車両の動きに関するデータも含まれるものと解される。
すると、甲1発明の「少なくとも1つの加速度計」及び「加速度計データ」は、本件発明12の「少なくとも1つのセンサー」及び「振動データ」に相当し、甲1発明の「処理回路に結合された少なくとも1つの加速度計から自動車車両の振動または運動に関する情報を含む加速度計データを取得すること」は、本件発明13の「少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程」に相当するといえる。

(エ)上記(イ)によれば、「反射された少なくとも1つのセンサ信号」は、本件発明13の「1人以上の乗員から反射されたレーダー信号」に相当し、上記(ウ)によれば、甲1発明の「加速度計データ」は本件発明13の「振動データ」に相当する。
すると、甲1発明の「1つまたは複数の占有状態信号(CPS)」を「生成」するために、「少なくとも1つのセンサ信号と加速度計データとに基づいて、外部の影響、振動及び車両の動きがフィルタリングされる」ことは、本件発明13の「修正済の信号」を「生成」するために、「得られた振動データに基づいて少なくとも1つのフィルタを調整することで、受信された反射信号をフィルタリングする工程」に相当するといえる。

(オ)上記(ア)〜(エ)より、本件発明13と甲1発明とは、
「車両の乗員を決定する方法であって、前記方法は、
車両の客室に信号を伝達し反射信号を受信する工程、
少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程、
修正済の信号を生成するために、得られた振動データに基づいて少なくとも1つのフィルタを調整することで、受信された反射信号をフィルタリングする工程と、を含んでなる方法。」
の発明である点で一致し、上記(1)ア(オ)における相違点1に加え、相違点2c及び相違点3で相違する。

(相違点2c)
本件発明13は「前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用すること、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積すること、および、車両客室の1人以上の乗員に関連するバイタルサインを決定するために、心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること、を含む工程」を含むのに対し、甲1発明は、高調波に対する複数のピークを分析する工程を含まない点。

(相違点3)
本件発明13は「車両の乗員の数」を決定するものであって、「検知されたバイタルサインの数に基づいて、車両の客室内の乗員の数を決定する工程」を含むのに対し、甲1発明は、車両内の乗員を検出するものであるが、車両の乗員の数を決定するものではない点。

イ 事案に鑑み、上記相違点2cについて検討する。
上記相違点2cは、上記(1)ア(オ)における相違点2aにおける「乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること」を「車両客室の1人以上の乗員に関連するバイタルサインを決定するために、心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること」と特定するものであるから、上記相違点2cは、上記相違点2aの発明特定事項を含むといえる。
すると、上記(1)イで検討したとおり、甲1〜甲6に接した当業者といえども、甲1発明において、「前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用すること、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積すること、および、車両客室の1人以上の乗員に関連するバイタルサインを決定するために、心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること、を含む工程」を含むようにすることは、容易に想起し得ることであるとはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、上記相違点1及び相違点3について検討するまでもなく、本件発明13は、甲1発明、甲2技術事項、甲3ないし甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 甲3に基づく進歩性について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明の「車両内の被験者の心拍信号」は車両内の乗員のバイタルサインであると解される。また、甲3発明の「心拍信号処理方法」は、心拍センサ10で検出される心拍信号を処理して、精度の良く心拍特性を検出するものである。
すると、甲3発明の「車両内の被験者の心拍信号処理方法」は、本件発明1の「車両内の乗員のバイタルサインを決定する方法」に相当するといえる。

(イ)甲3発明は、心拍センサ10の送受信部12から10GHzのマイクロ波を被検体の体表面に照射し、体表面からの反射波を送受信部12で受信して検波部13で検波するものであるから、甲3発明の「被検体」、「10GHzのマイクロ波」及び「反射波」は、それぞれ本件発明1の「乗員」、「信号」及び「反射された信号」に相当し、甲1発明の「送受信部12からアンテナ11を介して、10GHzのマイクロ波を被検体の体表面に照射し、体表面からの反射波を送受信部12で受信して検波部13で検波する処理」は、本件発明1の「(1)乗員に信号を伝達し、該信号を乗員から反射された信号として受信する工程」に相当するものであるといえる。

(ウ)甲3発明によれば、「車内に固定して設置された加速度センサ30」から「加速度信号」を取得し、「車両に加わる加速度から被験者に加わる振動信号」を取得する。
すると、甲3発明の「車内に固定して設置された加速度センサ30」及び「振動信号」は、本件発明1の「車両の少なくとも1つのセンサー」及び「振動データ」に相当し、甲3発明の「車両内での使用において、車内に固定して設置された加速度センサ30が車両に加わる加速度信号を取得して車両に加わる加速度から被験者に加わる振動を取得する処理」は、本件発明1の「車両の少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程」に相当するといえる。

(エ)甲3発明によれば、「加速度センサ30の出力である振動信号」に基づいて「適応フィルタ39」にて、「心拍センサ10の出力である心拍信号」から「除去」されることになるので、甲3発明の「加速度センサ30の出力である振動信号」に基づいて「適応フィルタ39」にて、「心拍センサ10の出力である心拍信号」から「振動信号を参照信号として参照信号と相関が高い信号を除去する処理」は、本件発明1の「得られた振動データに基づいて少なくとも1つのフィルタを調整することで、受信された反射信号をフィルタリングする工程」に相当するといえる。
そして、甲3発明の「振動信号を参照信号として参照信号と相関が高い信号を除去」した「心拍信号」は、本件発明1の「修正済の信号」に相当する。

(オ)上記(ア)〜(エ)より、本件発明1と甲3発明とは、
「車両内の乗員のバイタルサインを決定する方法であって、
(1)乗員に信号を伝達し、該信号を乗員から反射された信号として受信する工程と、
車両の少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程と、
(2)修正済の信号を生成するために、得られた振動データに基づいて少なくとも1つのフィルタを調整することで、受信された反射信号をフィルタリングする工程と、を含んでなる方法。」
の発明である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点4)
「修正済の信号」に対し、本件発明1は、「セグメントに分割」し、「前記セグメントの各々は周波数に対応する、分割工程」を含むのに対し、甲3発明は、各々が周波数に対応するセグメントに分割する工程が含まれるのか否か明らかではない点。

(相違点5a)
本件発明1は「前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用すること、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積すること、および、乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること、を含む工程」を含むのに対し、甲3発明は、高調波に対する複数のピークを分析する工程を含まない点。

イ 事案に鑑み、上記相違点5aについて検討する。
(ア)上記1(1)イ(ア)〜(イ)で述べたように、「ウエイトファクターを適用する」対象が「高調波に対する複数のピーク」である点、「ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積する」点、「乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定する」点について甲2に開示されていない。

(イ)また、甲1及び甲4ないし甲6にも、「高調波に対する複数のピーク」「のおのおのに対して」「ウエイトファクターを適用する」点、「ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積する」点、「乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定する」点について開示されていないし、上記各点に関する技術が、本件特許の優先日前において周知の技術であるとも認められない。
そして、本件発明1は、相違点5aに係る当該構成を採用することにより、「最も可能性がある心拍数(HR)が決定される。」(本件特許明細書の段落【0102】)という効果を奏するものである。

(ウ)したがって、甲1ないし甲6に接した当業者といえども、甲3発明において、「前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用すること、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積すること、および、乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること、を含む工程」を含むようにすることは、容易に想起し得ることであるとはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、上記相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明、甲1発明、甲2技術事項、甲4ないし甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2ないし7について
本件発明2ないし7は本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2ないし7は、上記(1)で検討した本件発明1と同じ理由により、甲3発明、甲1発明、甲2技術事項、甲4ないし甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明8について
本件発明8(「車両(100)の乗員のバイタルサインを決定するためのシステム」)は、本件発明1(「車両内の乗員のバイタルサインを決定する方法」)とカテゴリーのみが相違するので、本件発明1と同様に判断される。
すなわち、本件発明8は、甲3発明、甲1発明、甲2技術事項、甲4〜甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明9ないし11について
本件発明9ないし11は本件発明8の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明9ないし11は、上記(4)で検討した本件発明8と同じ理由により、甲3発明、甲1発明、甲2技術事項、甲4ないし甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明12について
ア 本件発明12と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明は、心拍センサ10の送受信部12から10GHzのマイクロ波を被検体の体表面に照射し、体表面からの反射波を送受信部12で受信して検波部13で検波するものであるから、甲3発明の「10GHzのマイクロ波」及び「反射波」は、それぞれ本件発明12の「信号」及び「反射信号」に相当し、甲1発明の「送受信部12からアンテナ11を介して、10GHzのマイクロ波を被検体の体表面に照射し、体表面からの反射波を送受信部12で受信して検波部13で検波する処理」は、本件発明12の「車両の客室に信号を伝達し反射信号を受信する工程」に相当するものであるといえる。

(イ)甲3発明によれば、「加速度センサ30」から「加速度信号」を取得し、「車両に加わる加速度から被験者に加わる振動信号」を取得する。
すると、甲3発明の「加速度センサ30」及び「振動信号」は、本件発明12の「少なくとも1つのセンサー」及び「振動データ」に相当し、甲3発明の「車両内での使用において、車内に固定して設置された加速度センサ30が車両に加わる加速度信号を取得して車両に加わる加速度から被験者に加わる振動を取得する処理」は、本件発明12の「少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程」に相当するといえる。

(ウ)甲3発明によれば、「加速度センサ30の出力である振動信号」に基づいて「適応フィルタ39」にて、「心拍センサ10の出力である心拍信号」から「除去」されることになるので、甲3発明の「加速度センサ30の出力である振動信号」に基づいて「適応フィルタ39」にて、「心拍センサ10の出力である心拍信号」から「振動信号を参照信号として参照信号と相関が高い信号を除去する処理」は、本件発明12の「得られた振動データに基づいて少なくとも1つのフィルタを調整することで、受信された反射信号をフィルタリングする工程」に相当するといえる。
そして、甲3発明の「振動信号を参照信号として参照信号と相関が高い信号を除去」した「心拍信号」は、本件発明12の「修正済の信号」に相当する。

(エ)上記(ア)〜(ウ)より、本件発明12と甲3発明とは、
「車両の客室に信号を伝達し反射信号を受信する工程、
少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程、
修正済の信号を生成するために、得られた振動データに基づいて少なくとも1つのフィルタを調整することで、受信された反射信号をフィルタリングする工程と、を含んでなる方法。」
の発明である点で一致し、上記(1)ア(オ)における相違点4に加え、以下の相違点5b及び相違点6で相違する。

(相違点5b)
本件発明12は「前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用する、複数のピークを分析する工程、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積する工程、および、車両の客室の乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定することを含む工程」を含むのに対し、甲3発明は、高調波に対する複数のピークを分析する工程を含まない点。

(相違点6)
本件発明12は、「車両の客室で乗員を決定するための方法」であり、「もしバイタルサインが存在すれば、乗員は車両の客室で検知される」ものであるのに対し、甲3発明は、車両の客室で乗員を決定するための方法であるか否か不明である点。

イ 事案に鑑み、上記相違点5bについて検討する。
上記相違点5bは、上記(1)ア(オ)における相違点5aにおける「高調波の各々にウエイトファクターを適用すること」を「高調波の各々にウエイトファクターを適用する、複数のピークを分析する工程」と特定し、相違点5aにおける「乗員の心拍数」を「車両の客室の乗員の心拍数」と特定するものであるから、上記相違点5bは、上記相違点5aの発明特定事項を含むといえる。
すると、上記(1)イで検討したとおり、甲1ないし甲6に接した当業者といえども、甲3発明において、「前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用する、複数のピークを分析する工程、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積する工程、および、車両の客室の乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定することを含む工程」を含むようにすることは、容易に想起し得ることであるとはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、上記相違点4及び相違点6について検討するまでもなく、本件発明12は、甲3発明、甲1発明、甲2技術事項、甲4ないし甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)本件発明13について
ア 本件発明13と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明は、心拍センサ10の送受信部12から10GHzのマイクロ波を被検体の体表面に照射し、体表面からの反射波を送受信部12で受信して検波部13で検波するものであるから、甲3発明の「10GHzのマイクロ波」及び「反射波」は、それぞれ本件発明13の「信号」及び「1人以上の乗員から反射されたレーダー信号」に相当し、甲1発明の「送受信部12からアンテナ11を介して、10GHzのマイクロ波を被検体の体表面に照射し、体表面からの反射波を送受信部12で受信して検波部13で検波する処理」は、本件発明13の「車両の客室に信号を伝達し、1人以上の乗員から反射されたレーダー信号を受信する工程」に相当するものであるといえる。

(イ)甲3発明によれば、「加速度センサ30」から「加速度信号」を取得し、「車両に加わる加速度から被験者に加わる振動信号」を取得する。
すると、甲3発明の「加速度センサ30」及び「振動信号」は、本件発明13の「少なくとも1つのセンサー」及び「振動データ」に相当し、甲3発明の「車両内での使用において、車内に固定して設置された加速度センサ30が車両に加わる加速度信号を取得して車両に加わる加速度から被験者に加わる振動を取得する処理」は、本件発明13の「少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程」に相当するといえる。

(ウ)甲3発明によれば、「加速度センサ30の出力である振動信号」に基づいて「適応フィルタ39」にて、「心拍センサ10の出力である心拍信号」から「除去」されることになるので、甲3発明の「加速度センサ30の出力である振動信号」に基づいて「適応フィルタ39」にて、「心拍センサ10の出力である心拍信号」から「振動信号を参照信号として参照信号と相関が高い信号を除去する処理」は、本件発明13の「得られた振動データに基づいて少なくとも1つのフィルタを調整することで、受信された反射信号をフィルタリングする工程」に相当するといえる。
そして、甲3発明の「振動信号を参照信号として参照信号と相関が高い信号を除去」した「心拍信号」は、本件発明13の「修正済の信号」に相当する。

(エ)上記(ア)〜(ウ)より、本件発明13と甲3発明とは、
「車両の客室に信号を伝達し、1人以上の乗員から反射されたレーダー信号を受信する工程、
少なくとも1つのセンサーから車両の動きのデータと車両の加速のデータを含む振動データを得る工程、
修正済の信号を生成するために、得られた振動データに基づいて、少なくとも1つのフィルタを調整することで受信された反射信号をフィルタリングする工程と、を含んでなる方法。」
の発明である点で一致し、上記(1)ア(オ)における相違点4に加え、以下の相違点5c及び相違点7で相違する。

(相違点5c)
本件発明13は「前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用すること、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積すること、および、車両客室の1人以上の乗員に関連するバイタルサインを決定するために、心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること、を含む工程」を含むのに対し、甲3発明は、高調波に対する複数のピークを分析する工程を含まない点。

(相違点7)
本件発明13は、「車両の乗員の数を決定する方法」であり、「検知されたバイタルサインの数に基づいて、車両の客室内の乗員の数を決定する工程」を含むのに対し、甲3発明は、車両の乗員の数を決定するものではない点。

イ 事案に鑑み、上記相違点5cについて検討する。
上記相違点5cは、上記(1)ア(オ)における相違点5aにおける「乗員の心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること」を「車両客室の1人以上の乗員に関連するバイタルサインを決定するために、心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること」と特定するものであるから、上記相違点5cは、上記相違点5aの発明特定事項を含むといえる。
すると、上記(1)イで検討したとおり、甲1〜甲6に接した当業者といえども、甲3発明において、「前記セグメントの高調波に対する複数のピークを分析する工程であって、前記ピークのおのおのに対して、高調波の各々にウエイトファクターを適用すること、ウエイトファクターによって乗じられる高調波からのエネルギーを蓄積すること、および、車両客室の1人以上の乗員に関連するバイタルサインを決定するために、心拍数に対応する最も高い累積エネルギーをもつピークを決定すること、を含む工程」を含むようにすることは、容易に想起し得ることであるとはいえない。

ウ 以上のとおりであるから、上記相違点4及び相違点7について検討するまでもなく、本件発明13は、甲3発明、甲1発明、甲2技術事項、甲4ないし甲6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし13に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2023-05-30 
出願番号 P2020-503923
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 石井 哲
特許庁審判官 伊藤 幸仙
上田 泰
登録日 2022-06-23 
登録番号 7093918
権利者 レッド ベンド リミテッド
発明の名称 自動車乗員のバイタルサインの非接触の検知および監視システム  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 健策  
代理人 飯田 貴敏  
代理人 加治 信貴  
代理人 石川 大輔  
代理人 根本 恵司  
代理人 山本 秀策  

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