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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B01D 審判 全部申し立て 2項進歩性 B01D |
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管理番号 | 1398296 |
総通号数 | 18 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-06-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-01-06 |
確定日 | 2023-06-02 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7100531号発明「分離膜エレメント及び分離膜モジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7100531号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7100531号の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成30年8月10日に出願され、令和4年7月5日にその特許権の設定登録がされ、同年同月13日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜7に係る特許に対し、令和5年1月6日に特許異議申立人岡幹男(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年3月8日に特許異議申立書に対する手続補正書(1)及び証拠説明書に対する手続補正書(2)が提出された。 第2 本件発明 特許第7100531号の請求項1〜7の特許に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 集水管と、 前記集水管に巻きつけられた分離膜と、 前記分離膜の端面を覆うように配置された端面部材と、 を備えた分離膜エレメントであって、 前記集水管の長手方向に平行な方向において、前記端面部材の端面からの前記集水管の突出長さが0mmよりも大きく、かつ2mm以下であり、 前記集水管の長手方向に平行な方向において、隣り合う前記分離膜エレメントの前記端面部材の端面同士が互いに接する構造に適している、分離膜エレメント。 【請求項2】 前記集水管の前記突出長さが0.5mm以上2mm以下である、請求項1に記載の分離膜エレメント。 【請求項3】 前記端面部材は、前記集水管を通すための貫通孔が設けられた内側筒部と、前記内側筒部を周方向に囲んでいる外側筒部とを有し、 前記端面部材の前記端面は、前記内側筒部の端面である、請求項1又は2に記載の分離膜エレメント。 【請求項4】 前記集水管の構成材料が樹脂を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の分離膜エレメント。 【請求項5】 前記集水管がFRP製である、請求項1から4のいずれか1項に記載の分離膜エレメント。 【請求項6】 圧力容器と、 前記圧力容器の内部に配置され、互いに接続された複数の分離膜エレメントと、 を備え、 前記複数の分離膜エレメントのそれぞれは、請求項1から5のいずれか1項に記載の分離膜エレメントである、分離膜モジュール。 【請求項7】 前記集水管の長手方向に平行な方向において隣り合う前記分離膜エレメントの前記端面部材の前記端面同士が接している、請求項6に記載の分離膜モジュール。」 第3 申立理由の概要 手続補正書(1)により補正された特許異議申立書及び手続補正書(2)により補正された証拠説明書によれば、申立人は、以下の(3)証拠方法に記載する甲第1号証の1〜11(以下「甲1の1」〜「甲1の11」という。)、甲第2号証〜甲第7号証(以下「甲2」〜「甲7」という。)、甲第8号証の1〜4(以下「甲8の1」〜「甲8の4」という。)及び甲第9号証の1〜4(以下「甲9の1」〜「甲9の4」という)を提示し、以下の(1)イ及び(2)イの申立理由1、2により、本件発明1〜7に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。 (1)申立理由1について ア 手続補正書(1)の31頁4〜12行には、申立理由1について、以下のとおり記載されている。 「・特許法第29条第1項第3号 請求項1−3、6:請求項1−3、6は、甲第1号証の1に記載の発明である。なお、甲第1号証の2は、甲第1号の1における音声を文字起こしした補助資料である。また、甲第1号証の3〜甲第1号証の10は、甲第1号証の1のうち、一部の場面を抽出した画像である。また、甲第1号証の11は、甲第1号証の3〜6、8〜10に表示された日付が、動画の公開日を示すことを説明する補助資料である。また、甲第2号証〜甲第7号証は、周知技術を示す刊行物として参照される。さらに、甲第8号証の1〜甲第9号証の4は、参考資料として参照される。」 ここで、以下の証拠方法で記載するように、甲1の1はYouTube動画であり、甲1の2は甲1の1における音声を文字起こしした補助資料、甲1の3〜10は甲1の1の一部の場面を抽出した画像であることから、これら甲の1〜甲1の10をまとめて「甲1」といい、甲1で認定される発明を「甲1発明」とすると、上記申立理由1は、以下のとおりにまとめられる。 イ 申立理由1 本件発明1〜3及び6は、甲1発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものである。よって、本件発明1〜3及び6に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2について ア 手続補正書(1)の31頁13〜21行には、申立理由2について、以下のとおり記載されている。 「・特許法第29条第2項 請求項1−7:請求項1−7は、甲第1号証の1〜甲第7号証に記載の発明に基づき容易想到である。なお、甲第1号証の2は、甲第1号の1における音声を文字起こしした補助資料である。また、甲第1号証の3〜甲第1号証の10は、甲第1号証の1のうち、一部の場面を抽出した画像である。また、甲第1号証の11は、甲第1号証の3〜6、8〜10に表示された日付が、動画の公開日を示すことを説明する補助資料である。また、甲第2号証〜甲第7号証は、周知技術を示す刊行物として参照される。さらに、甲第8号証の1〜甲第9号証の4は、参考資料として参照される。」 手続補正書(1)で補正された特許異議申立書のその余の記載を参照しても、甲1発明以外の発明を主たる発明としていないことから、以下のとおりにまとめられる。 イ 申立理由2 本件発明1〜7は、甲1発明に基いて、又は、甲1発明及び甲2〜7に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、本件発明1〜7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。 (3)証拠方法 甲1の1:YouTube動画「第3回ものづくり日本大賞 東レ(株)」、チャンネル管理者monodzukuri、公開日2011年3月25日、https://www.youtube.com/watch?v=munSlssiNEg 甲1の2:甲1の1の動画中の音声の文字起こし 甲1の3:甲1の1の動画の一部の場面(経過時間2分11秒)を抽出した画像 甲1の4:甲1の1の動画の一部の場面(経過時間2分2秒)を抽出した画像 甲1の5:甲1の1の動画の一部の場面(経過時間1分53秒)を抽出した画像 甲1の6:甲1の1の動画の一部の場面(経過時間4分2秒)を抽出した画像 甲1の7:甲1の6の部分拡大写真 甲1の8:甲1の1の動画の一部の場面(経過時間4分27秒)を抽出した画像 甲1の9:甲1の1の動画の一部の場面(経過時間4分2秒)を抽出した画像 甲1の10:甲1の1の動画の一部の場面(経過時間2分13秒)を抽出した画像 甲1の11:Youtubeヘルプページ、https://support.google.com/youtube/answer/57407?hl=ja&ref_topic=9257439#zippy=%2C%E5%85%AC%E9%96%8B%E8%A8%AD%E5%AE%9A%2C%E8%A9%B3%E7%B4%B0%2C%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF%2C%E5%8B%95%E7%94%BB%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89%E6%97%A5%E3%81%A8%E5%85%AC%E9%96%8B%E6%97%A5%E3%81%8C%E7%95%B0%E3%81%AA%E3%82%8B%E7%90%86%E7%94%B1%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6、2023年2月21日(印刷日) 甲2:特開2015−150545号公報 甲3:特開2015−24376号公報 甲4:特開2013−103182号公報 甲5:特開2009−226395号公報 甲6:特許第4228324号公報 甲7:特開2017−47417号公報 甲8の1:TLFシリーズに関するプロダクトデータシート、東レ(株)、2021年3月31日発行 甲8の2:TLF−400DGのスペックシート、東レ(株)、2018年3月発行 甲8の3:分離膜エレメントTLF−400DGの拡大写真 甲8の4:分離膜エレメントTLF−400DGの拡大写真 甲9の1:TM800Vシリーズに関するプロダクトデータシート、東レ(株)、2021年3月31日発行 甲9の2:TM800Vのスペックシート、東レ(株)、2014年7月発行 甲9の3:分離膜エレメントTM820V−440の拡大写真 甲9の4:分離膜エレメントTM820V−440の拡大写真 第4 甲号証の記載 1 甲1について (1)甲1の1 甲1の1は、下記(3)の甲1の11の記載を参照すると、本件特許出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった動画であり、その内容は、以下の(2)で摘記したものである。 (2)甲1の2〜10 ア 甲1の2 甲1の2は、甲1の1の動画中の音声を文字起こししたものであり、音声は次のとおりである。なお、下線は当審において付与したものである。 「松山城を有する愛媛県松山市の隣、愛媛県伊予郡に東レ愛媛工場はある。 1938年に創業を開始した愛媛工場は、炭素繊維やポリエステル系高性能樹脂などを使った様々な商品を開発、生産している。 井上岳治さんを中心に、高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメントを開発し、今回ものづくり日本大賞製品技術開発部門において特別賞を受賞した。 「私一人じゃなくて、社内の関係者みんなの力でこういう賞を頂けたということで、非常に嬉しく思います。」(井上さん) 高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメント 逆浸透膜の技術を用いて、海水の淡水化や下水や排水を、飲料水レベルまで浄化することが出来る。 逆浸透膜とは水以外の不純物を通さない性質を持つ膜のことで、孔の大きさは1ミリの100万分の1以下だ。 逆浸透膜で効率よく、ろ過する為、逆浸透膜のシートとメッシュスペーサーを幾重にも巻き筒状のエレメントを作った。 仕組みはこうだ。 エレメントの中に圧力をかけて送った海水は、幾重にも巻かれた逆浸透膜とメッシュスペーサーの間を通り、不純物をろ過しながら透過水となって中心にあるパイプに流れ出る。 すると出口では濃縮水と透過水に分かれて出てくるのだ。 井上さんが開発を始めたのは10年前。きっかけは世界的に注目されている問題にあった。 「やっぱり世界的な水不足ですとか、そういったところは非常に注目されていまして、よりいい膜を安い価格でというニーズが非常に強くなっています。ですので今回、よりお客様の要望に応えられるような、高性能の膜を開発しようということで頑張ってきました。」(井上さん)」 イ 甲1の3 甲1の3は、甲1の1の動画の一部の場面(経過時間2分11秒)を抽出した画像であり、次の画像である。 ウ 甲1の4 甲1の4は、甲1の1の動画の一部の場面(経過時間2分2秒)を抽出した画像であり、次の画像である。 エ 甲1の5 甲1の5は、甲1の1の動画の一部の場面(経過時間1分53秒)を抽出した画像であり、次の画像である。 オ 甲1の6 甲1の6は、甲1の1の動画の一部の場面(経過時間4分2秒)を抽出した画像であり、次の画像である。 カ 甲1の7 甲1の7は、上記甲1の6の部分拡大写真であり、次の写真である。 キ 甲1の8 甲1の8は、甲1の1の動画の一部の場面(経過時間4分27秒)を抽出した画像であり、次の画像である。 ク 甲1の9 甲1の9は、甲1の1の動画の一部の場面(経過時間4分2秒)を抽出した画像であり、次の画像である。 ケ 甲1の10 甲1の10は、甲1の1の動画の一部の場面(経過時間2分13秒)を抽出した画像であり、次の画像である。 (3)甲1の11 甲1の11は、Youtubeヘルプページであり、以下の事項が記載されている。 「・公開日:動画が公開された日付です。ライブ動画の下に表示され、太平洋標準時(PST)に設定されてます。」 (4)看取事項について ア 甲1の2の「幾重にも巻かれた逆浸透膜とメッシュスペーサー」は、甲1の3及び甲1の4によれば、中心にあるパイプに巻き付けられていることが看取される。 イ 甲1の5及び甲1の10によれば、エレメントの端面には、パイプを通すための貫通孔がある内側部と前記内側部を周方向に囲んでいる外側部とがリブによってつながっている車輪状の端面部材があり、前記端面部材は、幾重にも巻かれた逆浸透膜とメッシュスペーサーの端面を覆うように配置されていることが看取される。 ウ 甲1の6、甲1の7及び甲1の10によれば、パイプが、長手方向において、上記イで記載した端面部材の端面から突出していることが看取される。 (5)甲1発明 上記(2)で摘記した事項及び上記(4)で記載した看取事項から、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。 「エレメントの中に圧力をかけて送った海水が、幾重にも巻かれた逆浸透膜とメッシュスペーサーの間を通り、不純物をろ過しながら透過水となって中心にあるパイプに流れ出る、高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメントであって、 逆浸透膜とメッシュスペーサーは、中心にあるパイプに巻き付けられており、 エレメントの端面には、パイプを通すための貫通孔がある内側部と前記内側部を周方向に囲んでいる外側部とがリブによってつながっている車輪状の端面部材があり、前記端面部材は、幾重にも巻かれた逆浸透膜とメッシュスペーサーの端面を覆うように配置されており、 パイプが、長手方向において、端面部材の端面から突出している、高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメント。」(以下「甲1発明」という。) 2 甲2について 甲2には、以下の事項が記載されている。 「【0001】 本発明は、逆浸透膜等の分離膜を用いたスパイラル型液体分離素子に関するものである。」 「【0014】 図1は、本発明が適用されるスパイラル型流体分離素子の一例を示す部分破断した斜視図である。スパイラル型流体分離素子の代表例は、図1に示されるように、第1の分離膜3、第2の分離膜4、原液流路材11および透過液流路材10が積層状態で、有孔の集液管2の周囲にスパイラル状に巻回された円筒状巻回体を備え、その分離膜巻回体の両端にテレスコープ防止板9が設置されている。」 「【0022】 集液管2は、管の側面に複数の孔を有するものであり、集液管2の材質としては、樹脂や金属など何れでもよいが、“ノリル”(登録商標)樹脂、PPE樹脂、PPO樹脂やABS樹脂等のプラスチック、ポリサムフォン、塩化ビニル、ポリプロピレン、およびガラスファイバーなどの繊維強化樹脂(FRP)が通常使用される。」 3 甲3について 甲3には、以下の事項が記載されている。 「【0001】 本発明は、分離膜を用いたスパイラル型分離膜流体分離素子及びその製造方法に関するものである。」 「【0024】 図1は、本発明が適用されるスパイラル型分離膜流体分離素子の一例を示す部分破断した斜視図である。代表的なスパイラル型分離膜流体分離素子は、図1に示すように、分離膜3と4、原液流路材11、および透過液流路材10が積層状態で、有孔の中心管2の周囲にスパイラル状に巻回されて分離膜巻回体15が形成され、その分離膜巻回体15の両端にテレスコープ防止板9が設置されている。」 「【0027】 中心管2は、管の側面に複数の孔を有するものであり、中心管2の材質は、樹脂や金属などでもよいが、変性PPE樹脂、ABS樹脂等のプラスチックあるいは、そのガラスファイバー含有物、さらにFRP、PSおよびPVCが通常使用される。」 4 甲4について 甲4には、以下の事項が記載されている。 「【0001】 本発明は、逆浸透装置やナノ濾過装置に好適に用いられる流体分離素子およびその製造方法に関する。」 「【0020】 図1は、本発明が適用されるスパイラル型流体分離素子の一例を示す部分破断した斜視図である。スパイラル型流体分離素子の代表例は、図1に示すように、第1の分離膜3、第2の分離膜4、原液流路材11、および透過液流路材10が積層状態で、有孔の集液管2の周囲にスパイラル状に巻回され、その分離膜巻回体の両端にテレスコープ防止板9が設置されている。」 「【0026】 集液管2は、管の側面に複数の孔を有するものであり、集液管2の材質は、樹脂、金属など何れでもよいが、ノリル(登録商標)樹脂、ABS樹脂等のプラスチックや、ガラスファイバーなどの繊維強化樹脂(FRP)が通常使用される。」 5 甲5について 甲5には、以下の事項が記載されている。 「【0001】 本発明は、端面保持部材を有する分離膜エレメントを、複数直列に連結して耐圧容器内に装填する連結部材と、これを用いた分離膜モジュールに関する。」 「【図1】本発明の分離膜モジュールの一例を示す概略断面図である。 【図2】図1の分離膜モジュールのエレメント連結部を示す要部断面図である。」 【図1】 【図2】 6 甲6について 甲6には、以下の事項が記載されている。 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、流体分離素子に関する。詳しくは、逆浸透装置や限外濾過装置、精密濾過装置、さらには気体分離装置等に用いるのに好適な流体分離素子に関する。」 「【図2】図1の流体分離素子組立体を用いた流体分離膜モジュールの部分縦断面図である。」 【図2】 7 甲7について 甲7には、以下の事項が記載されている。 「【0001】 本発明は、液体、気体等の流体に含まれる成分を分離するために使用する分離膜モジュールに関する。」 「【図8】本発明の分離膜エレメント同士の接続部の一例を示す断面図である。」 【図8】 8 甲8について (1)甲8の1 甲8の1は、東レ株式会社のTLFシリーズに関するプロダクトデータシートであり、その発行日は本件特許出願後の2021年3月31日であることから、本件発明1〜7の新規性及び進歩性の判断に直接的な影響を及ぼすものではないが、一応、図面について摘記すると、以下のとおりである。 (2)甲8の2 甲8の2は、東レ株式会社のTLF−400DGのスペックシート(2018年3月発行)であり、以下の図面が記載されている。 (3)甲8の3及び甲8の4 甲8の3には、分離膜エレメントの端面付近の写真が、甲8の4には、分離膜エレメントの端面の中心付近の写真が、それぞれ以下のとおり記載されている。 甲8の3 甲8の4 なお、申立人は、上記甲8の3及び甲8の4は、甲8の2の上記図面に記載の「TLF−400DG」(分離膜エレメント)の拡大写真であるとしているが、上記甲8の3及び甲8の4の分離膜エレメントの写真には、「TLF−400DG」に関するものが写っていないことから、写真に写っている分離膜エレメントが「TLF−400DG」であると判断することはできない。 9 甲9について (1)甲9の1 甲9の1は、東レ株式会社のTM800Vシリーズに関するプロダクトデータシートであり、その発行日は本件特許出願後の2021年3月31日であることから、本件発明1〜7の新規性及び進歩性の判断に直接的な影響を及ぼすものではないが、一応、図面について摘記すると、以下のとおりである。 なお、上記TM810Vの図(図1)では、集水管が端面部材の端面から突出しているが、その突出長さ(D)は、26mmである。 (2)甲9の2 甲9の2は、東レ株式会社のTM800Vのスペックシート(2014年7月発行)であり、以下の図面が記載されている。 なお、上記TM810Vの図(上側)では、集水管が端面部材の端面から突出しているが、その突出長さは、26mmである。 (3)甲9の3及び甲9の4 甲9の3には、分離膜エレメントの端面付近の写真が、甲9の4には、分離膜エレメントの端面の中心付近の写真が、それぞれ以下のとおり記載されている。 甲9の3 甲9の4 なお、申立人は、上記甲9の3及び甲9の4は、甲9の2の上記図面に記載の「TM820V−440」(分離膜エレメント)の拡大写真であるとしているが、上記甲9の3及び甲9の4の分離膜エレメントの写真には、「TM820V−440」に関するものが写っていないことから、写真に写っている分離膜エレメントが「TM820V−440」であると判断することはできない。 第5 当審の判断 1 本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 ア 甲1発明の「透過水」が「流れ出る」「中心にあるパイプ」は、本件発明1の「集水管」に相当する。 イ 甲1発明の「中心にあるパイプに巻き付けられ」た「逆浸透膜」は、本件発明1の「集水管に巻きつけられた分離膜」に相当する。 ウ 甲1発明の「幾重にも巻かれた逆浸透膜」「の端面を覆うように配置され」た「端面部材」は、本件発明1の「分離膜の端面を覆うように配置された端面部材」に相当する。 エ 「長手方向」と「長手方向に平行な方向」とは、方向において同じ方向である。そうすると、甲1発明の「パイプが、長手方向において、端面部材の端面から突出している」ことと、本件発明1の「集水管の長手方向に平行な方向において、前記端面部材の端面からの前記集水管の突出長さが0mmよりも大きく、かつ2mm以下であ」ることとは、「集水管の長手方向に平行な方向において、前記端面部材の端面から前記集水管が0mmよりも大きく突出している」という点で共通している。 オ 甲1発明の「高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメント」は、本件発明1の「分離膜エレメント」に相当する。 カ 上記ア〜オを踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 (一致点) 「集水管と、 前記集水管に巻きつけられた分離膜と、 前記分離膜の端面を覆うように配置された端面部材と、 を備えた分離膜エレメントであって、 前記集水管の長手方向に平行な方向において、前記端面部材の端面から前記集水管が0mmよりも大きく突出している、分離膜エレメント。」 (相違点1) 集水管の端面部材の端面から突出している長さが、本件発明1では「2mm以下」であるのに対し、甲1発明では「2mm以下」かどうか不明である点。 (相違点2) 本件発明1の「分離膜エレメント」は、「集水管の長手方向に平行な方向において、隣り合う前記分離膜エレメントの前記端面部材の端面同士が互いに接する構造に適している」のに対し、甲1発明の「高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメント」が、パイプの長手方向に平行な方向において、前記逆浸透膜エレメントを隣り合うようにする場合、前記逆浸透膜エレメントの端面部材の端面同士が互いに接する構造に適しているかどうか不明である点。 (2)相違点の判断 事案に鑑み、相違点1について検討する。 ア 実質的な相違点かどうかについて (ア)甲1発明の「高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメント」は、「パイプが、長手方向において、端面部材の端面から突出している」ものであるものの、甲1の6及び甲1の7の画像を見ても、それらの画像のスケール(縮尺、倍率)が不明であり、パイプの端面部材の端面から突出している長さが「2mm以下」と判断することはできない。 (イ)参考資料(甲8及び甲9)を踏まえた判断 a 甲8の1及び甲9の1は、上記第4の8(1)及び9(1)に記載したとおり、発行日が本件特許出願後であるから、本件発明1の新規性の判断に直接的な影響を及ぼすものではないが、一応その図面を参照するに、甲9の1の図面には、「TM810V」(分離膜エレメント)として、集水管が端面部材の端面から突出しているものが記載されている。しかし、その突出長さ(D)は26mmである。さらに、「TM810V」以外の分離膜エレメントについては、パイプが端面部材の端面から突出していない。 また、甲8の2及び甲9の2は、発行日が本件特許出願前であり、その甲9の2の図面には、「TM810V」(分離膜エレメント)として、集水管が端面部材の端面から突出しているものが記載されているが、上記甲9の1と同様に、その突出長さは26mmであり、「TM810V」以外の分離膜エレメントについては、パイプが端面部材の端面から突出していない。 申立人は、上記甲8の3及び甲8の4は、甲8の2の図面に記載の「TLF−400DG」(分離膜エレメント)の拡大写真であるとしているが、上記第4の8(3)で述べたとおり、上記甲8の3及び甲8の4の分離膜エレメントの写真には「TLF−400DG」に関するものが写っていないことから、写真に写っている分離膜エレメントが「TLF−400DG」であると判断することはできない。同様に、申立人は、上記甲9の3及び甲9の4は、甲9の2の図面に記載の「TM820V−440」(分離膜エレメント)の拡大写真であるとしているが、上記甲9の3及び甲9の4の分離膜エレメントの写真には「TM820V−440」に関するものが写っていないことから、写真に写っている分離膜エレメントが「TM820V−440」であると判断することはできない。 よって、甲8の2に記載されている「TLF−400DG」(分離膜エレメント)及び甲9の2に記載されている「TM820V−440」(分離膜エレメント)について、図面上、パイプが端面部材の端面から突出していないし、上記甲8の3及び甲8の4の写真並びに上記甲9の3及び甲9の4の写真から、パイプが端面部材の端面から突出し、その突出している長さが「2mm以下」であると判断することはできない。 b そもそも、甲1の2の音声を文字起こししたもの、及び甲1の3〜10の画像を参照しても、「TLF−400DG」又は「TM820V−440」を把握できるものはなく、さらに甲1の1の動画全体を参照しても、「TLF−400DG」又は「TM820V−440」を確認することはできないから、甲1発明の「高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメント」が、甲8の2に記載されている「TLF−400DG」(分離膜エレメント)又は甲9の2に記載されている「TM820V−440」(分離膜エレメント)と判断することはできない。 したがって、仮に、「TLF−400DG」(分離膜エレメント)及び「TM820V−440」(分離膜エレメント)の集水管の端面部材の端面から突出している長さが「2mm以下」であるとしても、甲1発明の「高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメント」が、「TLF−400DG」(分離膜エレメント)又は「TM820V−440」(分離膜エレメント)と判断することはできないのであるから、甲1発明の「高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメント」について、パイプの端面部材の端面から突出している長さが「2mm以下」と判断することはできない。 c よって、参考資料(甲8及び9)を踏まえても、甲1発明の「高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメント」について、パイプの端面部材の端面から突出している長さが「2mm以下」と判断することはできない。 (ウ)以上のことから、相違点1は、実質的な相違点である。 イ 相違点1の容易性について 本件発明は、本件明細書に、 「【0012】 本発明者らの知見によれば、圧力損失に起因して破損する可能性がある構成部材としては、集水管、シェル及び端面部材が挙げられる。シェルは、分離膜の外周面を覆っている筒状の部材である。端面部材は、分離膜の端面を覆っている部材である。当初、破損の原因は、構成部材の強度不足にあると考えられていた。しかし、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、破損の原因が単なる強度不足ではないことを突き止めた。 【0013】 特許文献1に記載された分離膜モジュールにおいて、隣り合う分離膜エレメントの端面部材(特許文献1では、テレスコープ防止板)は、互いに接している。この構造は、しばしば、フラッシュカット構造と呼ばれる。フラッシュカット構造によれば、圧力容器の内部の無駄な空間を減らし、分離膜の面積を増やすことができる。フラッシュカット構造を構築するために、スラスト方向において、集水管の端面の位置は、端面部材の端面の位置に揃えられている。 【0014】 集水管は、シェルと同様、スラスト荷重を受ける重要な部材である。しかし、構成部材の寸法精度、組立精度などの問題によって集水管が端面部材の貫通孔の中に僅かに引き下がっていたり、集水管が僅かに収縮したりすると、集水管がスラスト荷重を十分に受けことができない。この場合、シェル及び端面部材が負担すべきスラスト荷重が増え、結果として、シェル及び/又は端面部材が破損することがある。本発明者らは、このような破損のメカニズムに関する知見を得て、本開示の分離膜エレメント及び分離膜モジュールを完成させるに至った。」 「【0030】 本実施形態によれば、複数の分離膜エレメント2をモジュール化させるとき、隣り合う分離膜エレメント2の集水管21と集水管21とが確実に接触する。運転が始まると集水管21がスラスト方向に押されて僅かに収縮及び/又は撓み、集水管21の端面21pの位置が端面部材3の端面3pの位置に揃い、隣り合う端面部材3と端面部材3とが互いに接触する。その結果、圧力損失に基づくスラスト荷重を集水管21及びシェル28のそれぞれで受けることができ、ひいては、端面部材3及び/又はシェル28の破損を防止することができる。つまり、本実施形態の分離膜エレメント2は、圧力損失に対する優れた耐圧性を有する。隣り合う端面部材3と端面部材3とは、互いに面接触していてもよい。 【0031】 集水管21の突出長さGが大きすぎると、隣り合う端面部材3と端面部材3との接触が不十分になるおそれがある。この場合、圧力損失に基づくスラスト荷重が集水管21に集中し、集水管21の破損を招くおそれがある。そのため、集水管21の突出長さGが2mm以下であることが望ましい。 【0032】 端面部材3の端面3pは、集水管21を通すための貫通孔3hが設けられた部分の端面であって、分離膜エレメント2の外部に向かって露出している端面である。本実施形態において、貫通孔3hが設けられた部分は、内側筒部31である。このような構成によれば、集水管21の長手方向に平行な方向の荷重を集水管21で確実に受けることができる。本実施形態では、内側筒部31の端面及び外側筒部32の端面が同一平面上に存在する。さらに、内側筒部31の端面、外側筒部32の端面、及び、リブ33の端面は、同一平面上に存在していてもよい。 【0033】 集水管21の突出長さGは、0.5mm以上であってもよい。集水管21の突出長さGは、1.5mm以下であってもよく、1.0mm以下であってもよい。突出長さGを適切に調整することによって、構成部材の破損をより確実に防止できる。」 と記載されているとおり、従来、隣り合う分離膜エレメントの端面部材を互いに接して隣り合うようにする場合には、スラスト方向において、集水管の端面の位置は、端面部材の端面の位置に揃えられているところ、本発明者は、集水管が端面部材の貫通孔の中に僅かに引き下がっていたり、集水管が僅かに収縮したりすると、集水管がスラスト荷重を十分に受けことができず、シェル及び端面部材が負担すべきスラスト荷重が増え、結果として、シェル及び/又は端面部材が破損することを見いだし、運転が始まると集水管がスラスト方向に押されて僅かに収縮及び/又は撓み、集水管の端面の位置が端面部材の端面の位置に揃い、隣り合う端面部材と端面部材とが互いに接触するようにし、圧力損失に基づくスラスト荷重を集水管及びシェルのそれぞれで受けることができ、ひいては、端面部材及び/又はシェルの破損を防止することができるようにしたもので、突出長さGを適切に調整することによって、構成部材の破損をより確実に防止できるようにしたものである。 一方、甲1発明の「高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメント」は、「パイプが、長手方向において、端面部材の端面から突出している」ものであるものの、どのような技術的理由に基づき意図的にパイプを端面部材の端面から突出させているのか不明であり、ましてや、突出長さGを適切に調整することによって構成部材の破損をより確実に防止できるようにするという技術的思想を把握することはできない。 この点、上記甲2〜7には、上記第4の2〜7で摘記したとおり、分離膜エレメントにおいて、集水管を端面部材の端面から突出させることについて記載されておらず、ましてや、構成部材の破損をより確実に防止できるようにするためにその突出長さを適切に調整するという技術的思想は記載されていない。 そうすると、甲1発明の「高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメント」において、上記甲1の1〜甲1の10及び甲2〜7の記載を参照しても、パイプの端面部材の端面からの突出長さを調整するという動機はないことから、突出長さを調整して「2mm以下」とすることが、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (3)申立人の主張について ア 申立人は、甲1発明の「パイプが、長手方向において、端面部材の端面から突出している」ことにおける突出長さについて、「甲1発明の分離膜エレメントにおいて、以下の甲第1号証の6および甲第1号証の7に示されるように、端面部材の端面から集水管がわずかに突出している。集水管が突出する長さは、2mm以下である蓋然性が高い。」(手続補正書(1)の21頁1〜4行)と主張しているが、上記(2)ア(ア)で述べたように、甲1の6及び甲1の7の画像のスケール(縮尺、倍率)が不明であり、いかなる理由で「集水管が突出する長さは、2mm以下である蓋然性が高い」としているのか明らかでないことから、当該主張を受け入れることはできない。 イ また、申立人は、「甲第8号証の1〜4によれば、甲1発明と同様の分離膜エレメントTLF−400DGにおける集水管が突出する長さは、2mm以下である。甲第9号証の1〜4によれば、甲1発明と同様の分離膜エレメントTM820V−440における集水管が突出する長さは、2mm以下である。以上より、甲第1号証の1に開示された分離膜エレメントの集水管が突出する寸法に関しても2mm以下であると推測される。」(手続補正書(1)の22頁11〜23頁4行)と主張しているが、上記(2)ア(イ)bで述べたように、甲1の2の音声を文字起こししたもの、甲1の3〜10の画像、さらには甲1の1の動画全体を参照しても、甲1の1の分離膜エレメントが「TLF−400DG」又は「TM820V−440」であることを示す内容を確認することはできないのであるから、甲1発明の「高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメント」を分離膜エレメントTLF−400DG又は分離膜エレメントTM820V−440と同様なものと判断することはできない。さらに、上記甲8の3及び甲8の4の写真並びに上記甲9の3及び甲9の4の写真が、分離膜エレメントTLF−400DG及び分離膜エレメントTM820V−440の写真かどうか不明であることから、これらをもとに、分離膜エレメントTLF−400DG及び分離膜エレメントTM820V−440の集水管の突出する長さが2mm以下であるともいえない。 よって、上記申立人の主張も受け入れられない。 ウ そして、甲1発明の「高性能海水淡水化用逆浸透膜エレメント」において、パイプの端面部材の端面からの突出長さを調整して「2mm以下」とすることについては、申立人は、「本件特許発明1は、甲第1号証の1に記載の発明であり、新規性がなく、進歩性もない。」(手続補正書(1)の25頁3〜4行)と主張するのみであり、具体的な容易論については言及していないことから、当該主張によって、上記(2)イで述べた判断が変わることはない。 (4)小括 よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、相違点1の点で、甲1発明ではないことから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、そして、相違点1の点で、甲1発明に基づいて、又は甲1発明及び甲2〜7に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。 よって、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではないことから、申立理由1又は2によって取り消すことはできない。 2 本件発明2〜7について 本件発明2〜7は、上記第2で記載したとおり、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるから、少なくとも相違点1の点で、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、そして、甲1発明に基づいて、又は甲1発明及び甲2〜7に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。 よって、本件発明2、3及び6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではないことから、申立理由1によって取り消すことはできない。また、本件発明2〜7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないことから、申立理由2によって取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1〜7係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-05-22 |
出願番号 | P2018-151897 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(B01D)
P 1 651・ 121- Y (B01D) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
原 賢一 |
特許庁審判官 |
金 公彦 三崎 仁 |
登録日 | 2022-07-05 |
登録番号 | 7100531 |
権利者 | 日東電工株式会社 |
発明の名称 | 分離膜エレメント及び分離膜モジュール |
代理人 | 古田 昌稔 |
代理人 | 鎌田 耕一 |