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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1399256
総通号数 19 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-12-06 
確定日 2023-07-11 
事件の表示 特願2020−553210「事例検索方法および事例検索システム」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 4月23日国際公開、WO2020/080376、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)10月15日(パリ条約による優先権主張 日本国特許庁受理 2018年10月16日)を国際出願日とする特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和3年 4月15日 :手続補正書の提出
令和4年 4月 5日付け:拒絶理由通知書
令和4年 6月 7日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 9月 1日付け:拒絶査定(原査定)
令和4年12月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和5年 1月17日 :手続補正書(方式)の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和4年9月1日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1、2、5、9及び10に係る発明は、以下の引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、本願請求項3、4、6及び7に係る発明は、以下の引用文献1ないし5に記載された発明に基いて、本願請求項8に係る発明は、以下の引用文献1ないし3及び6に記載された発明に基づいて、本願請求項11ないし13に係る発明は、以下の引用文献1ないし3及び7に記載された発明に基いて、本願請求項14及び15に係る発明は、以下の引用文献1ないし5及び7に記載された発明に基いて、それぞれ、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(引用文献一覧)
1.特開2003−173340号公報
2.特表2017−528842号公報
3.特開2018−132347号公報
4.S. Zhou, N. Okazaki, K. Matsuda, R. Tian, K. Inui,Supervised Approaches for Japanese Wikification,Journal of Information Processing Vol.25,日本,Information Processing Society of Japan,2017年04月,p.341-350
5.特開2006−146621号公報
6.特開2012−059182号公報
7.特開2004−295396号公報

第3 本願発明
本願請求項1ないし15に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明15」という。)は、令和4年12月6日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定される発明であり、このうち、本願発明1は、以下のとおりの発明である。

「 ユーザより提示された試料に対する1つまたは複数の分析事例を検索する事例検索方法であって、各分析事例には、分析装置に関する情報が含まれ、
受信手段が、ユーザが入力した前記提示された試料を含む検索文字列を受信する工程と、
解釈手段が、前記提示された試料の分析事例についての前記検索文字列の持つ意味内容を解釈する解釈工程と、
検索手段が、前記解釈の結果をもとに、あらかじめ記憶部に蓄積された分析事例より前記提示された試料と一致あるいは類似する試料についての分析事例を検索する検索工程と、
出力手段が、前記検索された分析事例を、前記分析装置に関する情報を含めて出力する工程と、
を備え、
前記検索工程は、前記試料に含まれる化合物に類似する化合物の分析事例を検索することを含むことを特徴とする事例検索方法。」

なお、本願発明2ないし8、11ないし15は本願発明1を減縮する発明であり、本願発明9は、本願発明1をシステムの発明として特定したものであり、本願発明10は本願発明9を減縮する発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は強調のため当審が付与した。(これ以降の下線についても同様。)

「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータを利用した機器分析用データ管理装置に関し、更に詳しくは、分析によって得られた各種のデータや該データに基づく計算結果などを含む情報をレポートとして作成するレポート作成機能を備えた機器分析用データ管理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、クロマトグラフ装置や分光光度計などの分析装置のデータ処理装置としては、汎用のコンピュータが用いられるのが一般的である。こうしたデータ処理装置には、ソフトウエアの1つとしてレポート作成機能を有するプログラムが搭載されており、測定により取得したデータに基づいた図表や計算結果などを含む多様な情報を、定型又は自由な形式でレイアウトしたレポートを作成して印刷することができるようになっているものがある。
【0003】更に、近年、機器分析の分野においてもLAN(Local Area Network)等を利用したネットワーク化が進んでおり、複数の分析装置が互いに接続され、分析により得られたデータが共有化されるようになってきている。こうした分析システムでは、或る1種類の分析装置により取得したデータのみならず、例えば同一の試料を異なる種類の複数の分析装置で測定して得られた分析データを組み合わせて又は統合して、より高度なレポートを作成することができるようにもなっている。」

「【0005】本発明はこのような点に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、分析結果などを材料として作成された多様なレポートを一括して管理することができるとともに、所望のレポートを迅速に検索して取り出すことができるような管理機能を有する機器分析用データ管理装置を提供することにある。」

「【0014】すなわち、ここでは図2に示すデータ管理装置は、或る1台のコンピュータにより具現化されているのではなく、サーバ10又はクライアントであるコンピュータ25〜28、31〜34の何れか1台、ネットワーク回線11、及びサーバ10の組み合わせにより具現化されているとみることができる。このデータ管理装置において、制御・処理の中心には中央制御部40が据えられ、これに記憶部45として例えばハードディスク(HD)が接続されている。また、入出力インタフェイス44を介して、キーボードやマウス等のポインティングデバイスである操作部47、CRTや液晶ディスプレイである表示部46、プリンタである印刷部48が接続されている。
【0015】中央制御部40は機能的に、上記データベース管理部43のほか、レポート作成部41、検索情報ファイル作成部42などを含んでいる。一方、データベース50には、検索情報記憶部51、レポート文書ファイル記憶部52、マルチ計算レポート文書ファイル記憶部53などが用意されている。ここで、「レポート」とは、GCMS22やLC21などの或る1台の分析装置により取得された分析データに基づいて作成された報告書のことを言い、「マルチ計算レポート」とは、複数の分析装置により取得されたデータを組み合わせたり、統合したり、更には、この組み合わせに基づく計算などを行った結果を利用して作成された報告書のことを言い、文章のほか表などを含むという形式的な点では両者に相違はない。
【0016】上記構成を有する本実施例のデータ管理装置における特徴的な動作を、図3及び図4のフローチャートを参照しつつ説明する。図3はデータベース管理部43を除く中央制御部40の動作、図4はデータベース管理部43の動作を示すフローチャートである。
【0017】或る操作者は操作部47より記憶部45に格納されている分析データや、ネットワーク回線11を介して接続されている他のコンピュータに保存されている分析データなどを材料としてレポートを作成する。中央制御部40において、このレポートの作成作業にはレポート作成部41が関与する。表示部46の画面上には、印刷イメージとして上記レポートを表示することができ、そのレポート表示画面上で、グラフやテーブルなどを自由に組み合わせてレイアウトすることができる。
【0018】こうしてレポートやマルチ計算レポートが完成すると、ユーザは、操作部47より印刷実行の指示を行う(ステップS1)。この指示を受けて中央制御部40は、作成されたレポートを構成するデータを入出力インタフェイス44を介して印刷部48へと出力し、印刷部48から紙の上に印刷する。また、これと並行して、中央制御部40では、印刷されたレポートと同じ内容の文書ファイルを作成し、これを記憶部45の所定のフォルダに格納する(ステップS2)。このときのデータ形式としては例えばPDF形式とすることができる。更に、そのレポートを構成するデータの中から、検索情報として「試料名」、「登録日時」、「分析装置」、「分析者」などを抽出し(ステップS3)、これら情報を含む検索情報ファイルを別途作成して所定フォルダに格納する(ステップS4)。
【0019】一方、データベース管理部43は、図4に示すように、上記所定フォルダに検索情報ファイルが存在するか否かを常時監視する(ステップS11)。そして、検索情報ファイルが見つかると、その検索情報ファイルに含まれる検索情報をデータベース50に取り込む(ステップS12)。また、その検索情報ファイルに対応したレポート文書ファイルやマルチ計算レポート文書ファイルをデータベース50に取り込む(ステップS13)。そして、検索情報記憶部51に格納される検索情報に関連付けて、つまりその検索情報をキーワードとする検索が可能であるように、レポート文書ファイルやマルチ計算レポート文書ファイルをそれぞれ所定の記憶部52又は53に格納する。更に、データベース管理部43は検索情報ファイルを取り込んだ後、元のフォルダに残っている検索情報ファイルを削除して(ステップS14)ステップS11へと戻る。
【0020】したがって、データベース管理部43は、ユーザにより新しいレポートが作成されて印刷される毎に、そのレポートを適宜の電子文書のファイル形式で、且つ検索情報に関連付けてデータベース50に登録することになる。
【0021】以上のような処理により、データベース50にはレポート及びマルチ計算レポートのデータベースが構築されるから、ユーザはクライアントの各コンピュータ25〜28、31〜34を操作して、適宜の検索用のキーワードを指定したり、キーワードによるソート処理を行ったりすることによって、目的とするレポートやマルチ計算レポートをデータベース50から引き出し、これを表示部46の画面上に表示させたり、或いは印刷部48により印刷させたりすることができる。」

「【図2】



「【図3】



「【図4】



(2)引用発明
引用文献1の【0005】の記載を参酌すれば、引用文献1には、「分析結果などを材料として作成された多様なレポートを一括して管理することができるとともに、所望のレポートを迅速に検索して取り出すことができる」ようにするための方法、に関する発明が記載されているといえる。また、引用文献1の【0014】ないし【0016】の記載を参酌すれば、上記方法は、「データ管理装置」により実現されるものである。
よって、前記(1)の特に下線部に着目すれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 データ管理装置により、分析結果などを材料として作成された多様なレポートを一括して管理することができるとともに、所望のレポートを迅速に検索して取り出すことができるようにするための方法であって、
操作者は操作部47より記憶部45に格納されている分析データや、ネットワーク回線11を介して接続されている他のコンピュータに保存されている分析データなどを材料としてレポートを作成し、中央制御部40において、このレポートの作成作業にはレポート作成部41が関与し、
レポートやマルチ計算レポートが完成すると、ユーザは、操作部47より印刷実行の指示を行い、この指示を受けて中央制御部40は、作成されたレポートを構成するデータを入出力インタフェイス44を介して印刷部48へと出力し、印刷部48から紙の上に印刷し、
これと並行して、中央制御部40では、印刷されたレポートと同じ内容の文書ファイルを作成し、これを記憶部45の所定のフォルダに格納し、
更に、そのレポートを構成するデータの中から、検索情報として「試料名」、「登録日時」、「分析装置」、「分析者」などを抽出し、これら情報を含む検索情報ファイルを別途作成して所定フォルダに格納し、
データベース管理部43は、その検索情報をキーワードとする検索が可能であるように、レポート文書ファイルやマルチ計算レポート文書ファイルをそれぞれ所定の記憶部52又は53に格納し、
ユーザはクライアントの各コンピュータを操作して、適宜の検索用のキーワードを指定したり、キーワードによるソート処理を行ったりすることによって、目的とするレポートやマルチ計算レポートをデータベース50から引き出し、これを表示部46の画面上に表示させたり、或いは印刷部48により印刷させたりすることができる、
方法。」

2 引用文献2ないし7について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2ないし7には、その記載からして、以下の事項が記載されていると認められる。(各引用文献の摘記は省略する。)

(引用文献2記載事項)
電子文書の検索に、セマンティック検索を使用すること。(【0011】等)
(引用文献3記載事項)
質量分析対象試料の水溶性、脂溶性等に応じた最適なイオン化方法を選択する支援をすること。(【0012】、【0013】等)
(引用文献4記載事項及び引用文献5記載事項)
テキストを単語(特徴)ベクトルにより検索すること。(引用文献4の「4.1 Word Vector」、「4.3 Paragraph Vector」等、引用文献5の【0056】、【0057】等)
(引用文献6記載事項)
検索回数が急上昇した検索クエリを流行の検索クエリとして出力すること。(【請求項1】、【0003】等)
(引用文献7記載事項)
コールセンターにおいて、顧客が特定される場合には、顧客データに基づいて知識データを絞り込むこと。(【0002】、【0021】等)

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「レポートやマルチ計算レポート」は、本願発明1の「1つまたは複数の分析事例」に相当する。
また、引用発明において、「ユーザはクライアントの各コンピュータを操作して、適宜の検索用のキーワードを指定したり、キーワードによるソート処理を行ったりすることによって、目的とするレポートやマルチ計算レポートをデータベース50から引き出」すことは、本願発明1の「1つまたは複数の分析事例を検索する」ことに相当する。
また、引用発明において、「データベース管理部43は、その検索情報をキーワードとする検索が可能であるように、レポート文書ファイルやマルチ計算レポート文書ファイルをそれぞれ所定の記憶部52又は53に格納」するように構成され、また、前記「検索情報」としては、「「試料名」、「登録日時」、「分析装置」、「分析者」など」を想定しているところ、引用発明は、「検索情報」としての「試料名」に対応した「キーワード」が「ユーザ」の操作により提示され、当該提示された「キーワード」に対する「レポートやマルチ計算レポート」を引き出す(検索する)場合を含むところ、このような場合は、本願発明の「ユーザより提示された試料に対する1つまたは複数の分析事例を検索する」に相当する。
よって、引用発明の「データ管理装置により、分析結果などを材料として作成された多様なレポートを一括して管理することができるとともに、所望のレポートを迅速に検索して取り出すことができるようにするための方法」は、後述する相違点を除いて、本願発明1の「ユーザより提示された試料に対する1つまたは複数の分析事例を検索する事例検索方法」に相当する場合があるといえる。

イ 引用発明は、「そのレポートを構成するデータの中から、検索情報として「試料名」、「登録日時」、「分析装置」、「分析者」などを抽出」するよう構成されているところ、「レポート」(「マルチ計算レポート」を含むものと認められる。)には、「分析装置」に関する情報が含まれる場合がある。
よって、引用発明は、本願発明1の「各分析事例には、分析装置に関する情報が含まれ」る場合を含むといえる。

ウ 引用発明において、「ユーザはクライアントの各コンピュータを操作して、適宜の検索用のキーワードを指定したり、キーワードによるソート処理を行ったりすることによって、目的とするレポートやマルチ計算レポートをデータベース50から引き出」すにあたり、「データ管理装置」は、「クライアントの各コンピュータ」から「キーワード」を受信するものと認められ、その際には「データ管理装置」は“受信手段”として機能しているといえる。
また、「キーワード」が文字列として提供されることは本願優先日前における技術常識であるところ、引用発明において、「検索情報」としての「試料名」に対応した「キーワード」は、本願発明1の「ユーザが入力した前記提示された試料を含む検索文字列」に相当する。
よって、引用発明において、「検索情報」としての「試料名」に対応した「キーワード」が「ユーザ」の操作により提示された場合に“受信手段”として機能する「データ管理装置」が当該「キーワード」を受信することは、本願発明1の「受信手段が、ユーザが入力した前記提示された試料を含む検索文字列を受信する工程」に相当する。

エ 引用発明において、「レポートやマルチ計算レポート」が記憶される、すなわち、あらかじめ蓄積される「データベース50」は、本願発明1の「記憶部」に相当する。
また、引用発明においては「検索情報をキーワードとする検索」を想定しているところ、「データ管理装置」は、「検索情報」としての「試料名」に対応した「キーワード」が「ユーザ」の操作により提示された場合には、当該「キーワード」に一致する「試料名」についての「レポートやマルチ計算レポート」を検索するものと認められ、その際には「データ管理装置」は“検索手段”として機能しているといえる。
よって、引用発明において、「検索情報」としての「試料名」に対応した「キーワード」が「ユーザ」の操作により提示された場合に“検索手段”として機能する「データ管理装置」が当該「キーワード」に一致する「試料名」についての「レポートやマルチ計算レポート」を検索する受信することと、本願発明の「検索手段が、前記解釈の結果をもとに、あらかじめ記憶部に蓄積された分析事例より前記提示された試料と一致あるいは類似する試料についての分析事例を検索する検索工程」とは、「検索手段が、あらかじめ記憶部に蓄積された分析事例より前記提示された試料と一致する試料についての分析事例を検索する検索工程」である点において共通する。

オ 引用発明において、「データ管理装置」が、「目的とするレポートやマルチ計算レポートをデータベース50から引き出し、これを表示部46の画面上に表示させたり、或いは印刷部48により印刷させたりする」ことは、「データ管理装置」が検索結果を出力する“出力手段”として機能しているといえる。
よって、“出力手段”として機能する「データ管理装置」が「目的とするレポートやマルチ計算レポートをデータベース50から引き出し、これを表示部46の画面上に表示させたり、或いは印刷部48により印刷させたりする」ことと、本願発明1の「出力手段が、前記検索された分析事例を、前記分析装置に関する情報を含めて出力する工程」とは、「出力手段が、前記検索された分析事例を、出力する工程」である点において共通する。

(2)一致点、相違点
前記(1)より、本願発明1と引用発明は、次の点において一致ないし相違する。

○一致点
「 ユーザより提示された試料に対する1つまたは複数の分析事例を検索する事例検索方法であって、各分析事例には、分析装置に関する情報が含まれ、
受信手段が、ユーザが入力した前記提示された試料を含む検索文字列を受信する工程と、
検索手段が、あらかじめ記憶部に蓄積された分析事例より前記提示された試料と一致する試料についての分析事例を検索する検索工程と、
出力手段が、前記検索された分析事例を、出力する工程と、
を備える事例検索方法。」

○相違点
(相違点1)
本願発明1は、「解釈手段が、前記提示された試料の分析事例についての前記検索文字列の持つ意味内容を解釈する解釈工程」を備えるとともに、「検索工程」において、「前記解釈の結果をもとに」「分析事例を検索する」のに対し、引用発明は、当該「解釈工程」に対応する構成を具体的に特定していない点。

(相違点2)
本願発明1においては、「出力手段」が「前記検索された分析事例を、前記分析装置に関する情報を含めて出力する」のに対し、引用発明は、「目的とするレポートやマルチ計算レポートをデータベース50から引き出し、これを表示部46の画面上に表示させたり、或いは印刷部48により印刷させたりする」にあたり、「前記分析装置に関する情報を含めて出力する」ことを具体的に特定していない点。

(相違点3)
本願発明1は、「前記検索工程は、前記試料に含まれる化合物に類似する化合物の分析事例を検索することを含む」との構成を備えるのに対し、引用発明は、当該構成を具体的に特定していない点。

(3)相違点についての判断
事案に鑑みて、先に相違点2について検討する。
まず、本願の明細書の記載「従来の情報検索システムでは、入力されたキーワードが試料名だけの場合、顧客が測定方法等を知りたい場合の適切な検索キーワードとならないため、どのような分析装置を使えばよいか等を、顧客が装置メーカーに相談する窓口が必要となる。」(明細書【0012】)及び「本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、ユーザ等の分析したい試料に対応した分析装置、前処理等の事例を提供する事例検索方法および事例検索システムを提供することである。」(明細書【0015】)によれば、本願の課題は、試料に対応した分析装置を検索することであるところ、本願発明1は、前記課題を解決するための手段として、「試料についての分析事例を検索する検索工程」と「検索された分析事例を、前記分析装置に関する情報を含めて出力する工程」を備えていると認められる。
一方、引用発明において、記憶されているすべての「レポートやマルチ計算レポート」が「分析情報」に関する情報を含むものとは限定されていないから、その中に「分析情報」に関する情報が含まれるものがあるとしても、検索結果として出力(表示、印刷)される「レポートやマルチ計算レポート」に必ずしも「分析装置に関する情報」が含まれるとは限らない。
また、引用発明は、「分析結果などを材料として作成された多様なレポートを一括して管理することができるとともに、所望のレポートを迅速に検索して取り出すことができるようにする」ことを目的とするものであり、また、検索に使用する「キーワード」に対応する「検索情報」としては、「「試料名」、「登録日時」、「分析装置」、「分析者」など」種々のものを想定しているところ、ユーザがどのような「キーワード」を使用して検索を行い、その結果、どのようなレポートが出力されるかは、ユーザが所望するレポート及び検索対象となる既存のレポートの内容により異なるから、検索により出力される「所望のレポート」が「分析装置に関する情報」を含むものには限定されていない。
また、引用発明は、上述したことからすれば、「試料名」に対応する「分析装置」を検索することを目的とするものではないから、本願とは解決しようとする課題が異なっている。よって、引用発明において、想定し得る種々の検索の中に、「試料名」に対応する「キーワード」が使用される場合があり、かつ、検索結果として出力(表示、印刷)される「レポートやマルチ計算レポート」に「分析装置」に関する情報が含まれる場合があるとしても、そのことのみをもって、当業者が、本願発明1の「前記分析装置に関する情報を含めて出力する」に相当する構成を、引用文献1に記載された事項から容易に着想し得るとはいえない。
また、引用文献2ないし7にも、「試料を含む検索文字列」に基づいた検索を行い、「出力手段」が、「検索された分析事例」を「前記分析装置に関する情報を含めて出力する」ことは記載も示唆もなく、また、当該構成が、本願優先日前における技術常識であるとも認められない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1ないし7に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし8及び11ないし15について
本願発明2ないし8及び11ないし15は、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献1ないし7に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明9及び10について
本願発明9は、本願発明1をシステムの発明として特定したものであり、本願発明10は、本願9を減縮するものであり、いずれも本願発明1に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用文献1ないし7に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1ないし15は、「前記分析装置に関する情報を含めて出力する」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1ないし7に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2023-06-27 
出願番号 P2020-553210
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 吉田 美彦
特許庁審判官 林 毅
稲垣 良一
発明の名称 事例検索方法および事例検索システム  
代理人 妹尾 明展  
代理人 岸本 雅之  
代理人 阿久津 好二  
代理人 江口 裕之  

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