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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B60H
審判 全部申し立て 2項進歩性  B60H
管理番号 1399410
総通号数 19 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-03-13 
確定日 2023-07-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第7138578号発明「車両の空気浄化装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7138578号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7138578号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成31年1月16日に出願され、令和4年9月8日にその特許権の設定登録がされ、同年9月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1〜8に係る特許に対し、令和5年3月13日に特許異議申立人 松本 征二(以下、「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行い、同年4月4日に申立人は、上申書を提出した。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜8の特許に係る発明(以下、それぞれを「本件特許発明1」〜「本件特許発明8」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
空気中の二酸化炭素と水蒸気を吸着する複数の吸着ユニットと、
車室内の空気を前記吸着ユニットに導入し、前記吸着ユニットで二酸化炭素と水蒸気を吸着除去された空気を車室内に戻す浄化用通路と、
再生用空気を前記吸着ユニットに導入し、前記吸着ユニットを再生した使用済み再生用空気を車外に排出する再生用通路と、を備えた空気浄化装置であって、
前記再生用通路と前記浄化用通路の前記吸着ユニットの上流側は、車室内の空気を導入する内気導入配管によって構成され、
前記内気導入配管は、複数に分岐して各前記吸着ユニットに接続され、
隣接する前記吸着ユニットの上流側は、仕切壁によって二つの分岐通路に仕切られ、前記二つの分岐通路の集合通路側の端部には、前記内気導入配管から各前記吸着ユニットに分配する空気量の比率を調整可能な吸気分配機構が配置されていることを特徴とする車両の空気浄化装置。
【請求項2】
前記内気導入配管の上流部には、車室内の空気を導入する空気導入ファンが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の空気浄化装置。
【請求項3】
各前記分岐通路には、前記吸着ユニットの再生時に、前記吸着ユニットに導入する前の空気を加熱する加熱装置が設置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の空気浄化装置。
【請求項4】
前記仕切壁には、一方の前記分岐通路内の空気を加熱し、他方の前記分岐通路内の空気を冷却する冷温供給装置が設置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の空気浄化装置。
【請求項5】
各前記吸着ユニットの下流側には、前記浄化用通路の一部を構成する戻し配管と、前記再生用通路の一部を構成する車外排出配管と、が接続されるとともに、各前記吸着ユニットの下流側を前記戻し配管と前記車外排出配管のいずれかに選択的に接続可能な流路切換機構が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両の空気浄化装置。
【請求項6】
前記流路切換機構は、前記吸着ユニットによる吸着時に、当該吸着ユニットの下流側を前記戻し配管に接続し、前記吸着ユニットの再生時に、当該吸着ユニットの下流側を前記車外排出配管に接続するように作動するアクチュエータを備えていることを特徴とする請求項5に記載の車両の空気浄化装置。
【請求項7】
隣接する前記吸着ユニットの下流側は、仕切壁によって相互に仕切られ、
前記仕切壁には、隣接する一方の前記吸着ユニットの下流側の空気の熱を、隣接する他方の前記吸着ユニットの下流側の空気に伝達する熱移動装置が設置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両の空気浄化装置。
【請求項8】
前記熱移動装置は、前記吸着ユニットの再生を行い車外に排出する前の使用済み再生用空気の熱を、前記吸着ユニットによる吸着を行い車室内に戻す前の空気に伝達することを特徴とする請求項7に記載の車両の空気浄化装置。」

第3 申立理由の概要
1 証拠方法
申立人は、証拠方法として、甲第1号証〜甲第10号証(以下、それぞれ「甲1」〜「甲10」という。)を提出した。また、令和5年4月4日に、上申書とともに、甲6の公表公報である参考資料(以下、「甲6’」という。)を提出した。

<甲号証一覧>
甲1:国際公開第2018−137831号(翻訳文も添付)
甲2:特表2000−502289号公報
甲3:特開2000−146220号公報
甲4:特開平7−275642号公報
甲5:特許第5896429号公報
甲6:特許第6653320号公報
甲6’:特表2017−528316号公報
甲7:工業材料大辞典(初版)、1997年、株式会社工業調査会、p649
甲8:基本物性、2017年、ユニオン昭和株式会社、URL:https://web.archive.org/web/20171009192501/http://www.uskk.co.jp/products/molecularsieve/property
甲9:MS−セラム−W、2019年、株式会社東海化学工業所、URL:https://web.archive.org/web/20190101183631/http://www.tokai-chem.co.jp/publics/index/32/
甲10:広辞苑(第7版)、2018年、株式会社岩波書店、p1263, p3104

2 申立理由の概要
申立人が申し立てた特許異議申立ての理由は、概略以下のとおりである。

(1)申立理由1(特許法第29条第1項第3号及び同法第29条2項(同法第113条2号))
ア 申立理由1−1(特許法第29条第1項第3号(同法第113条2号))
本件特許発明1、2、5、6は、甲1に記載された発明であるから、請求項1、2、5、6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
イ 申立理由1−2(特許法第29条第2項(同法第113条2号))
本件特許発明1、2、5、6は、甲1に記載された発明、甲2に記載された発明、及び、本件特許の出願時における周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、
本件特許発明3は、甲1に記載された発明及び甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか、又は、甲1に記載された発明、甲6に記載された発明、甲2に記載された発明、及び、本件特許の出願時における周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件特許発明4は、甲1に記載された発明、及び、甲3又は甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか、又は、甲1に記載された発明、甲3又は甲4に記載された発明、甲2に記載された発明、及び、本件特許の出願時における周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件特許発明7、8は、甲1に記載された発明、及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか、又は、甲1に記載された発明、甲3に記載された発明、甲2に記載された発明、及び、本件特許の出願時における周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)申立理由2(特許法第29条第2項(同法第113条2号))
本件特許発明1〜3、5、6は、甲6に記載された発明及び甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか、又は、甲6に記載された発明、甲1に記載された発明、甲2に記載された発明、及び、本件特許の出願時における周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件特許発明4は、甲6に記載された発明、甲1に記載された発明、及び、甲3又は甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか、又は、甲6に記載された発明、甲1に記載された発明、甲3又は甲4に記載された発明、甲2に記載された発明、及び、本件特許の出願時における周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件特許発明7、8は、甲6に記載された発明、甲1に記載された発明、及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか、又は、甲6に記載された発明、甲1に記載された発明、甲3に記載された発明、甲2に記載された発明、及び、本件特許の出願時における周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

なお、甲6は、本件特許の出願前に発行又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になったものではないが、令和5年4月4日提出の上申書において、甲6の公表公報であり、本件特許の出願前に発行又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった甲6’を考慮してほしい旨の上申があることに鑑みて、申立ての理由における「甲6」を「甲6’」に読み替えて、以下の判断を行った。

第4 各甲号証
1 甲1について
(1)甲1に記載された事項(なお、下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。原文の摘記は省略し、翻訳文のみ記載する。なお、翻訳文及び段落番号として、申立人が甲1に添付した翻訳文を援用する。)。

ア「[0012]
脱着されたCO2は、上述したように除去装置を用いて除去される。この目的のために、好都合な展開例に従うと、輸送気体は除去装置によって吸着装置へと搬送可能であり得るとともに、輸送気体と脱着された(すなわち、再び気体状態となった)CO2との混合物が排気配管を介して除去され得る。筐体では吸着だけでなく脱着も行われ、当該筐体は、一方では浄化すべき空気を供給することができ、他方では脱着されたCO2を除去するための輸送空気を供給することができるように、対応する配管システムに組込まれている。対応する配管も出口側に設けられており、具体的には、一方側は浄化された空気を空間内に戻すための戻り配管であり、他方側は排気配管である。当然ながら、それぞれの空気経路を切替えるために、対応する弁手段などが設けられている。」

イ「[0018]
本発明の好都合な展開例に従うと、吸着装置の上流側又は下流側にフィルタ手段を接続することができ、このフィルタ手段により、供給すべき空気又は空間に再び供給すべき浄化済み空気に含まれる汚染物質をろ過して除去することができる。このため、CO2の浄化に加えて、さらなる不所望な成分に関しても空気の浄化が実行される。フィルタ手段は、例えばNO、NO2、CO、微粒子、炭化水素及び/又は揮発性有機物質をろ過するように設計されており、すなわち、上記フィルタ手段を用いて、CO2に加えて1つ又は複数のさらなる有害物質を空気中からろ過除去することができる。例えば、モレキュラーシーブ、ゼオライトなどの形態の上記フィルタ手段は、吸着装置の上流側又は下流側、すなわち吸着筐体自体又は吸着剤、さらには任意には吸着筐体にて接続することができる。」

ウ「[0027]
図1は、乗員区画2を備えた、本発明に従った自動車1を示す。乗員区画2は、閉鎖空間を形成するとともに、例えば空調システムの形態であるか又は空調システムを含む関連する換気装置3を有する。通常動作では、外気は、1つ以上の空気供給配管4を通じて吸い込まれ、任意には空調後、矢印Aによって示すように1つ以上の空気出口5を通って乗員区画2内に出力される。
[0028]
しかしながら、換気装置3は、再循環空気モードで動作させることもできる。この場合、空気供給配管4は弁手段6によって閉止される。当然ながら1つ以上の好適な送風機又はファンなどを含む換気装置3を介して、空気が矢印Bで示すように空間2から吸引して排出される。この吸引は1つ以上の吸引入口7を介して行われる。
[0029]
CO2を含む吸引された空気は、CO2の空気を浄化するための装置8に供給される。装置8は、例えば吸着カートリッジの形態の吸着装置9を備え、当該吸着装置9は、内部に吸着剤11が設置されている筐体10を有する。CO2を含む空気は送風機等によって搬送され、供給配管12を介して筐体10に供給される。筐体10内にはフィルタ手段13が設けられている。フィルタ手段13は、NO、NO2、CO又は微粒子などの、供給された空気中に含まれる他の汚染物質をろ過して除去する。次いで、CO2を含む空気は、筐体10に到達して吸着剤11と接触し、空気中に含まれるCO2がこの吸着剤11に吸着される。浄化された空気は、戻り配管14を介して換気装置3及び空気出口5を通って再び内部に搬送される。これにより空気循環が行われ、外気は乗員区画2内に搬送されず、単に内部空気を循環させながらこれを浄化する。」

エ「[0034]
このため、この実施形態では、再循環空気モードでは、空気は、矢印Bによって示すように、換気装置3を介して、任意にはその空調システムを介して、内部から吸引して送り出される。その下流側には弁手段23が接続されている。弁手段23は、吸引又は搬送された空気を供給配管12a、12b経由で浄化用枝路I又は浄化用枝路IIに導く役割を果たす。さらなる搬送が、例えば、それぞれの浄化用枝路I、IIに関連付けられた対応する送風機24a、24bを介して行なわれる。各吸着装置9a、9bが上流のフィルタ手段13a、13bを含むので、汚染物質のろ過もここで行われる。対応する弁手段25a、25bが、それぞれの吸着装置9a、9b又はその筐体10a、10bの出口に設けられており、これら弁手段は、動作モードに応じて、除去すべき空気が浄化された空気である場合にはこの除去すべき空気を戻り配管14a若しくは14bにまで誘導するか、又は、脱着されたCO2を含む空気を除去配管21a、21bにまで誘導して除去する(矢印Cを参照)。戻り配管14aと14bとが合流し、浄化された空気を矢印Aで示すように再び内部に戻すことができる。当然ながら、その後、2つの除去配管21a、21bもつなぎ合わされて共通の出口につなぐことができる。
[0035]
動作中、浄化用枝路I又はIIのうち一方は吸着モードで動作し、浄化用枝路II又はIのうち他方はいずれの場合も脱着モードで動作する。すなわち、吸着が一方の枝路で行われ、他方の枝路では脱着が行なわれることで再生がなされる。従って、いずれの場合にも、再生される吸着剤11a若しくは11bを含むか、又はCO2を吸着する吸着剤11a若しくは11bを含む、十分に機能的な吸着装置が利用可能である。
[0036]
個々の構成要素の制御は、1つ以上の制御手段(ここでは詳細には図示せず)によって行なわれる。上記制御手段は、例えば脱着装置15、15a、15b又は様々な弁手段18、19、22、23、25a、25bの対応する動作を制御する。これにより、任意には、様々な送風機又はファン、又は換気装置3の動作も制御される。」

オ「



カ「



キ 段落[0018]、[0029]、[0034]の記載及び図2の図示内容から、吸着装置9a、9bは、それぞれ、空気中に含まれるCO2を吸着する吸着剤11a、11b及びモレキュラーシーブやゼオライトの形態のフィルタ手段13a、13bを備えることが理解できる。

ク 段落[0029]、[0034]、[0035]の記載及び図2の図示内容から、吸着モードでは、自動車1の乗員区画2から排出された空気Bを、供給配管12a、12bを経て吸着装置9a、9bへ供給してCO2を吸着し浄化し、浄化された空気Aを、戻り配管14a、14bを経て、再び乗員区画2内に戻すことが理解できる。

ケ 段落[0034]、[0035]の記載及び図2の図示内容から、脱着モードでは、空気Bを供給配管12a、12bを経て吸着装置9a、9bに供給して吸着剤11a又は11bを再生し、脱着されたCO2を含む空気を除去配管21a、21bにまで誘導して除去することが理解できる。

コ 段落[0034]の記載及び図2の図示内容から、乗員区画2から排出された空気Bは、換気装置3に接続される配管から導入され、換気装置3、換気装置3と弁手段23とを接続する配管を経て、弁手段23において供給用配管12a、12bに分岐し、送風機24a、24b及びそれらに続く配管を経て吸着装置9a、9bに供給されることが理解できる。

サ 段落[0012]、[0034]の記載から、弁手段23は、空気Bの経路を供給配管12a又は12bに切替えるものであることが理解できる。

(2)引用発明1
上記(1)を総合すると、甲1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「空気中に含まれるCO2を吸着する吸着剤11a、11b及びモレキュラーシーブやゼオライトの形態のフィルタ手段13a、13bをそれぞれ備える吸着装置9a、9bと、
吸着モードでは、自動車1の乗員区画2から排出された空気Bを、供給配管12a、12bを経て吸着装置9a、9bへ供給してCO2を吸着し浄化し、浄化された空気Aを、戻り配管14a、14bを経て、再び乗員区画2内に戻し、
脱着モードでは、空気Bを供給配管12a、12bを経て吸着装置9a、9bに供給して吸着剤11a又は11bを再生し、脱着されたCO2を含む空気を除去配管21a、21bにまで誘導して除去する、空気の浄化装置であって、
乗員区画2から排出された空気Bは、換気装置3に接続される配管から導入され、換気装置3、換気装置3と弁手段23とを接続する配管を経て、弁手段23から供給用配管12a、12bに分岐し、送風機24a、24b及びそれらに続く配管を経て吸着装置9a、9bに供給され、弁手段23は空気Bの経路を供給配管12a又は12bに切替える、自動車の空気の浄化装置。」

2 甲2について
(1)甲2に記載された事項
ア 第12ページ第11〜17行
「吸収サイクルにおいては、二酸化炭素と水(存在すれば)とを含有するインレットエアの流れ20は、ベッド12へと二方向バルブ22を通して供給される。二酸化炭素を含有する上記空気流が上記ベッド12の吸収剤14を通過すると、二酸化炭素と上記アミンの発熱反応が発生し、上記アミン錯体が形成され、上記空気流から二酸化炭素が除去される。このアミンは、またこの気体流に存在していれば水も吸収するように作用する。排出される空気は、二酸化炭素と水蒸気が除去されており、居住環境へとバルブ24を介して送られる。」

イ「【図1】



3 甲3について
(1)甲3に記載された事項
ア「【0016】図1は、本発明の空気調和装置の一実施形態の概略を示す断面図である。同図において、この空気調和装置は、吸気口と排気口を有する空気流路16と、空気流路16に収容された熱交換部12と、この熱交換部12に直列に配置された通気性の吸湿部材13とを備えており、また、熱交換部12と吸湿部材13とで本発明の空気調和手段が構成されている。本実施形態において、空気流路16は2個の吸気口1,2及び排気口3,4を有し、熱交換部12はこれら排気口と吸気口との間に配置されており、吸湿部材13は熱交換部12より排気口3,4側に設置されている。
【0017】上記熱交換部12は、吸熱部8と放熱部10を有するペルチェモジュール7を熱伝導部9と熱伝導部11とで挟持して成り、これに対応して、空気流路16の排気口側が仕切り板18によって仕切られ、冷却排気流路の一例である送風路5と加熱排気流路の一例である送風路6とが形成され、送風路5の末端には排気口3が、送風路6の末端には排気口4が設けられている。また、本実施形態では、空気流路16の吸気口側も仕切り板17によって仕切られており、冷却用吸気流路の一例である送風路5’と加熱用吸気流路6’とが形成されており、それぞれ末端には吸気口1と吸気口2が設けられている。
【0018】更に、本実施形態では、吸湿部材13が熱交換部12の直後に配置されており、この通気性を有する吸湿部材13は、送風路5及び6の双方に亘って配置、即ち具体的には、双方の断面の大部分を覆うような断面形状を有し、双方を通過する空気の流れを妨げ乃至は遮るように設置されており、仕切り板18はこの吸湿部材13より排気口側を仕切るように形成されている。」

イ「【0021】なお、本実施形態においては、吸気口を吸気口1及び2と2個設けたが、室外のみから空気を取り入れる場合には吸気口を1個とすることも可能である。また、仕切り板17は必須の部材ではなく、これを省略することが可能であり、特に吸気口が1個の場合には設ける必要はない。更には、仕切り板17を短縮又は縮小して、送風路5’と6’とが完全に分離されず若干連通しているような構成とすることも可能である。また、仕切り板17と仕切り板18とを一体形成することも可能である。排気口も2個設けたが(排気口3及び4)、送風路5と送風路6とが分離されていれば十分であり、このように分離されている送風路が個別に複数個の排気口を有していてもよいのは言うまでもない。」

ウ「【図2】



4 甲4について
(1)甲4に記載された事項
ア「【0016】図1において、1は電子冷却素子であり、2は冷却フィンおよび放熱フィンとこれに担持した吸着材で、3は前記吸着材に空気を送る送風機、4は室外および室内空気の吸込口、5は室外および室内吹出口である。
【0017】上記のように構成された除湿装置は、室内空気の除湿時には、送風機3によって室内の水蒸気を含んだ空気を冷却フィン側の吸着部2に送り込み、吸着材を通過させて水蒸気を吸着させ、乾燥空気として再び室内へ放出する。一方、放熱フィン側の吸着部2には、再生用の室外空気を送り、吸着材中の水蒸気を脱着させて、この水蒸気を送風機3によって送られた空気とともに室外へ放出し、吸着材の再生を行う。冷却フィン側の吸着材が破過に達し、また放熱フィン側の吸着材の再生が終了すると、冷却側と放熱側の吸着部を入れ換え、同時に電子冷却素子1の端子電圧の正負を逆にかけることによって冷却と放熱を切り換える。そして新たに冷却側になった吸着材に室内空気を送って除湿を行い、新たに放熱側になった吸着材は再生を行う。」

イ「【図2】



5 甲5について
(1)甲5に記載された事項
ア「【0025】
図2は本発明に係る再生型圧縮空気乾燥装置の除湿再生ユニット内部を説明する図である。前述の通り、除湿再生ユニット11は2つの除湿再生素子111、112を備え、各除湿再生素子111、112によってそれぞれ通気道が形成され、2つの通気道内にはそれぞれ少なくとも1つの空洞を有し、図2に示す通り、除湿再生素子111は3つの空洞を有し、除湿再生素子112も3つの空洞を有する。さらに、除湿再生素子111の各空洞内にはそれぞれ除湿モジュール1111、1112、1113が設けられ、除湿再生素子112の各空洞内にはそれぞれ除湿モジュール1121、1122、1123が設けられる。
【0026】
除湿再生ユニット11は、空気の入口側(気体分流ユニット16側)に第一接続口113と、第二接続口114と、第三接続口115と、第四接続口116とを備え、第一接続口113と第二接続口114は、図1の第一管路セット14の第一除湿管路141と第一再生管路142に接続され、第三接続口115と第四接続口116は図1の第二管路セット15の第二除湿管路151と第二再生管路152とに接続される。すなわち、除湿再生素子111と除湿再生素子112が除湿または再生のいずれの機能を行うかによって、適切な気体(高圧高湿空気または再生空気)を提供し、除湿乾燥と再生還元などの反応を行うことができる。
【0027】
具体的には、除湿再生ユニット11内には除湿再生素子111と除湿再生素子112とを備えることで、圧縮空気の除湿と内部除湿材料の再生を達成する。除湿再生素子111と除湿再生素子112の前後両側に入口蓋120と出口蓋121とを有すると共に、除湿再生素子111と除湿再生素子112の両者は、分離板119によって分離されることで、除湿と再生の2つの機能を交互に実施することができる通気道となり、互いに干渉されない。第一接続口113と、第二接続口114と、第三接続口115と、第四接続口116は入口蓋120に位置する。入口蓋120と分離板119の一端の分離板117により、2つの空間が形成される。同様に、分離板119の他端の分離板118と出口蓋121により、2つの空間が形成される。上述した分離板118と分離板117は共にそれぞれ分離板119という1つの分離板の一部である。分離板119は除湿再生素子111と除湿再生素子112との間に設けられ、入口蓋120と出口蓋121はそれぞれ除湿再生素子111と除湿再生素子112の両端面に密着固定され、2つの通気道を形成すると共に、互いに空気の案内を干渉しない。したがって、除湿再生素子111と除湿再生素子112とを介して、乾燥後の圧縮乾燥空気が気体保存室に案内されて保存され、後続の使用に供され、再生後の高温高湿空気が後続の処理装置に案内されることで、凝結または排出処理を行うことができる。」

イ「【図2】



6 甲6’について
(1)甲6’に記載された事項
ア「【0001】
本発明は、ビークルのキャビン内の雰囲気を制御するためのシステム及び方法に関する。」

イ「【0039】
数多くの他の収着剤も本発明の再生可能な二酸化炭素収着剤としての使用に適している。例えば、ゼオライト又はMOF(金属−有機構造体)を使用してもよい。」

ウ「【0043】
図1から4を参照して以下で概要が示されているように、好適な実施形態では、二酸化炭素除去アセンブリは、再生可能な二酸化炭素収着剤の床を2つ以上含み得る。典型的に、収着剤の一方の床は、二酸化炭素収着(収着モードで動作する)に使用され、もう一方の床は、再生される(再生の対象とされる)。1つ又は複数のアクチュエータ(例えば、バルブ又は可動フラップ)は、各床への流れを、床が収着モードで機能している際の乗客キャビンからの空気(二酸化炭素除去導管を介して到達))と、床が再生の対象となっている際の脱離ガス(再生導管を介して到達)との間で切り替わるよう設けてもよい。同様に、1つ又は複数のアクチュエータ(例えば、バルブ又は可動フラップ)は、各床からの流れを、床が収着モードで動作している際に処理された空気を乗客キャビン(二酸化炭素除去導管を介して)に戻すことと、床が再生の対象となっている際に(再生導管を介して)脱着された二酸化炭素を乗客キャビン外の位置で吐出することとの間で切り替わるよう設けてもよい。」

エ「【0049】
再生可能な二酸化炭素収着剤が再生されると、典型的に、脱離ガスが材料の上に流される。脱離ガスの性質は特に制限されていない。例えば、脱離ガスは、乗客キャビン外から持ち込まれた外部空気であってもよく、ビークルの他の部分からの廃空気又はその他のガスであってもよい。典型的に、収着材料をその再生温度を上回る温度にまで加熱するために、脱離ガスは加熱される。廃ガスの使用は、ビークル内の他のプロセスからの廃熱を再生可能な二酸化炭素収着剤の再生のために使用することを可能にして、エネルギー負荷を減らすことができるため、特に有利である。」

オ「【0070】
好適な実施形態の説明
図1は、本発明の好適な実施形態に係るビークルの乗客キャビン(1)内の雰囲気を制御するためのシステムの概略図を提供する。二酸化炭素除去導管(2)は、キャビン(1)から保護チャンバ(3)への空気の流路を設ける。保護チャンバ(3)は、NOx及びSOxを捕集可能な材料を含む。二酸化炭素除去導管(2)は、続いて、空気が汚染物質除去チャンバ(4)に通り抜ける流路を設ける。汚染物質除去チャンバ(4)は、1つ又は複数の汚染物質除去材料を含む。二酸化炭素除去導管は、次いで、2つの二酸化炭素除去チャンバ(5、6)に流路を設けるよう分岐する。二酸化炭素除去チャンバ(5、6)はそれぞれ、再生可能な二酸化炭素収着材料を含む。
【0071】
第1のバルブ(12)は、二酸化炭素除去導管が分岐する点に設けられ、キャビン(1)からの空気が2つの二酸化炭素除去チャンバ(5、6)のうちの1つに流れることを可能にする。再生導管(7)が、2つの二酸化炭素除去チャンバ(5、6)のうちの他方に脱離ガスを流すように設けられる。この流れはさらに第1のバルブ(12)によって制御される。二酸化炭素除去のために処理されたキャビンからの空気は、二酸化炭素除去チャンバ(5、6)のうちの1つを通過した後、二酸化炭素除去導管(2)を介してキャビン(1)に戻される。脱離ガスは、2つの二酸化炭素除去チャンバ(5、6)のうちの他方を通過した後、再生導管(7)を介してキャビン(1)外の位置で排出される(8)。キャビン(1)へ戻るガスの流れ(9)又は排出されるガスの流れ(8)は、第2のバルブ(13)によって制御される。典型的に、ヒーター(図示せず)が、再生可能な二酸化炭素収着材料から二酸化炭素を脱着するのに適した温度に脱離ガスを加熱するよう設けられる。
【0072】
第1のバルブ(12)及び第2のバルブ(13)は、二酸化炭素除去導管(2)と再生導管(7)との流れを切り替えるように動作可能であり、2つの二酸化炭素除去チャンバ(5、6)のうちのどちらが二酸化炭素を除去し、どちらが再生されるかを変更する。使用時において、この切り替えは、周期的に(例えば、10分ごとに)行なわれる。」

カ「【図1】



キ 段落【0070】、【0071】の記載及び図1の図示内容から、二酸化炭素の収着時に、乗客キャビン1からの空気は、二酸化炭素除去導管2から第1のバルブ12を経て二酸化炭素除去チャンバ5、6に流れ、二酸化炭素が除去され、第2のバルブ13を経てキャビン1へ戻るガスの流れ9となることが理解できる。

ク 段落【0049】、【0070】、【0071】の記載及び図1の図示内容から、二酸化炭素除去チャンバ5、6の上流側に、乗客キャビン1からの空気が流れる二酸化炭素除去導管2、及び、乗客キャビン外から持ち込まれた外部空気、ビークルの他の部分からの廃空気又はその他のガスからなる脱離ガスが導入される再生導管7が配置されることが理解できる。

ケ 段落【0071】、【0072】の記載及び図1の図示内容から、二酸化炭素除去導管2及び再生導管7は、第1のバルブ12において二酸化炭素除去チャンバ5、6に向けて分岐し、第1のバルブ12は、二酸化炭素除去導管2と再生導管7との流れを切り替えるように動作可能であり、2つの二酸化炭素除去チャンバ5、6のうちの一方が二酸化炭素を除去し、他方が再生されるかを変更することが理解できる。

(2)引用発明2
上記(1)を総合すると、甲6’には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「ビークルの乗客キャビン1の二酸化炭素を収着し、再生可能な二酸化炭素収着材料を含む二酸化炭素除去チャンバ5、6と、
二酸化炭素の収着時に、乗客キャビン1からの空気は、二酸化炭素除去導管2から第1のバルブ12を経て二酸化炭素除去チャンバ5、6に流れ、二酸化炭素が除去され、第2のバルブ13を経てキャビン1へ戻るガスの流れ9となり、
二酸化炭素収着材料の再生時に、再生導管7からの脱離ガスは、第1のバルブ12を経て二酸化炭素除去チャンバ5、6に流れ、乗客キャビン1外に排出されるガスの流れ8となる、二酸化炭素を除去するシステムであって、
二酸化炭素除去チャンバ5、6の上流側に、乗客キャビン1からの空気が流れる配管、及び、乗客キャビン外から持ち込まれた外部空気、ビークルの他の部分からの廃空気又はその他のガスからなる脱離ガスが導入される再生導管7が配置され、
二酸化炭素除去導管2及び再生導管7は、第1のバルブ12において二酸化炭素除去チャンバ5、6に向けて分岐し、第1のバルブ12は、二酸化炭素除去導管2と再生導管7との流れを切り替えるように動作可能であり、2つの二酸化炭素除去チャンバ5、6のうちの一方が二酸化炭素を除去し、他方が再生されるかを変更する、ビークルの二酸化炭素を除去するシステム。」

第5 当審の判断
1 申立理由1(甲1を主引用とした場合)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「吸着装置」は、本件特許発明1の「吸着ユニット」に相当する。そして、引用発明1の「空気中に含まれるCO2を吸着する吸着剤11a、11b及びモレキュラーシーブやゼオライトの形態のフィルタ手段13a、13bをそれぞれ備える吸着装置9a、9bと」は、「空気中の二酸化炭素を吸着する複数の吸着ユニット」という限りにおいて、本件特許発明1の「空気中の二酸化炭素と水蒸気を吸着する複数の吸着ユニット」に一致する。
引用発明1の「供給配管12a、12b」から「吸着装置9a、9b」、「戻り配管14a、14b」を経て「再び乗員区画2内に戻」す配管は、本件特許発明1の「浄化用通路」に相当する。
また、引用発明1の「自動車1の乗員区画2」及び「乗員区画2内」は、本件特許発明1の「車室」及び「車室内」に相当する。
そして、引用発明1において、「吸着モードでは、自動車1の乗員区画2から排出された空気Bを、供給配管12a、12bを経て吸着装置9a、9bへ供給してCO2を吸着し浄化し、浄化された空気Aを、戻り配管14a、14bを経て、再び乗員区画2内に戻」すことは、「車室内の空気を前記吸着ユニットに導入し、前記吸着ユニットで二酸化炭素を吸着除去された空気を車室内に戻す浄化用通路」という限りにおいて、本件特許発明1の「車室内の空気を前記吸着ユニットに導入し、前記吸着ユニットで二酸化炭素と水蒸気を吸着除去された空気を車室内に戻す浄化用通路」に一致する。
引用発明1の「供給配管12a、12b」から「吸着装置9a、9b」を経て「除去配管21a、21b」に至る配管は、本件特許発明1の「再生用通路」に相当する。そして、引用発明1において、「脱着モードでは、空気Bを供給配管12a、12bを経て吸着装置9a、9bに供給して吸着剤11a又は11bを再生し、脱着されたCO2を含む空気を除去配管21a、21bにまで誘導して除去する」ことは、本件特許発明1において「再生用空気を前記吸着ユニットに導入し、前記吸着ユニットを再生した使用済み再生用空気を車外に排出する再生用通路」を有することに相当する。
引用発明1の「空気の浄化装置」は、本件特許発明1の「空気浄化装置」に相当する。
引用発明1において、空気Bを導入する「換気装置3に接続される配管」から「換気装置3」、「弁手段23」及び「供給用配管12a、12b」で構成される流路は、「吸着装置9a、9b」の上流側に配置され、「乗員区画2から排出された空気B」を導入するものであって、「弁手段23から供給用配管12a、12bに分岐」するものであるから、引用発明1において、「乗員区画2から排出された空気Bは、換気装置3に接続される配管から導入され、換気装置3、換気装置3と弁手段23とを接続する配管を経て、弁手段23から供給用配管12a、12bに分岐」することは、本件特許発明1において、「前記再生用通路と前記浄化用通路の前記吸着ユニットの上流側は、車室内の空気を導入する内気導入配管によって構成され、前記内気導入配管は、複数に分岐して各前記吸着ユニットに接続され」ることに相当する。
引用発明1の「自動車」は、本件特許発明1の「車両」に相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

(一致点1)
「空気中の二酸化炭素を吸着する複数の吸着ユニットと、
車室内の空気を前記吸着ユニットに導入し、前記吸着ユニットで二酸化炭素を吸着除去された空気を車室内に戻す浄化用通路と、
再生用空気を前記吸着ユニットに導入し、前記吸着ユニットを再生した使用済み再生用空気を車外に排出する再生用通路と、を備えた空気浄化装置であって、
前記再生用通路と前記浄化用通路の前記吸着ユニットの上流側は、車室内の空気を導入する内気導入配管によって構成されている、
車両の空気浄化装置。」

(相違点1)
「吸着ユニット」に関して、本件特許発明1は、空気中の二酸化炭素に加えて「水蒸気」も吸着するのに対し、引用発明1は、水蒸気を吸着するか不明な点。
(相違点2)
「浄化用通路」により「車室内に戻す」「車室内の空気を前記吸着ユニットに導入し、前記吸着ユニットで二酸化炭素を吸着除去された空気」に関して、本件特許発明1は、「水蒸気」も含むのに対し、引用発明1は、そのことが不明である点。
(相違点3)
本件特許発明1は、「隣接する前記吸着ユニットの上流側は、仕切壁によって二つの分岐通路に仕切られ、前記二つの分岐通路の集合通路側の端部には、前記内気導入配管から各前記吸着ユニットに分配する空気量の比率を調整可能な吸気分配機構が配置されている」のに対し、引用発明1は、「隣接する前記吸着ユニットの上流側は、仕切壁によって二つの分岐通路に仕切られ」ている構成を備えるかが不明であり、「弁手段23は空気Bの経路を供給配管12a又は12bに切替える」点。

イ 判断
事案に鑑みて、まず、相違点3について検討する。
甲1の段落[0012]の「・・・筐体では吸着だけでなく脱着も行われ、当該筐体は、一方では浄化すべき空気を供給することができ、他方では脱着されたCO2を除去するための輸送空気を供給することができるように、対応する配管システムに組込まれている。・・・当然ながら、それぞれの空気経路を切替えるために、対応する弁手段などが設けられている。」との記載、及び、段落[0034]の「・・・弁手段23は、吸引又は搬送された空気を供給配管12a、12b経由で浄化用枝路I又は浄化用枝路IIに導く役割を果たす。」との記載から、引用発明1の「弁手段23」は、浄化用枝路I又は浄化用枝路IIのいずれか一方に択一的に空気経路を切替える機能を有するものといえる。
ここで、甲1の段落[0036]に記載された「制御手段」による「弁手段23」の「対応する動作を制御」することは、浄化用枝路I又は浄化用枝路IIのいずれか一方に択一的に空気経路を切替えるための動作制御を意味するものと解され、当該「弁手段23」が、浄化用枝路I及び浄化用枝路IIに供給する「空気量の比率を調整可能」とする機能については、甲1に記載も示唆もない。

そして、たとえ、「空気浄化装置」において、複数の「吸着ユニット」が「隣接」し、「仕切壁」によって「仕切られ」る構成が、甲3〜5に例示される周知技術であったとしても、「吸気分配機構」が「前記内気導入配管から各前記吸着ユニットに分配する空気量の比率を調整可能」とする点は、甲1に記載も示唆もなく、また、甲2〜5、6’、7〜10にも記載も示唆もなく、当業者にとって自明な事項でもない。
よって、相違点1、2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明1及び甲2〜5、6’、7〜10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書(3(4)イ(ア)a(f)iii)において、「甲第1号証には,・・・弁手段23は,吸引又は搬送された空気を供給配管12a,12b経由で浄化用枝路I又は浄化用枝路IIに導く役割を果たす。」(和訳文段落0034)と記載され,さらに,「個々の構成要素の制御は,1つ以上の制御手段(ここでは詳細には図示せず)によって行なわれる。上記制御手段は,例えば脱着装置15,15a,15b又は様々な弁手段18,19,22,23,25a,25bの対応する動作を制御する。」(和訳文段落0036)と記載されている。・・・また,「弁手段23」は,制御手段によりその動作を制御され,「供給配管12a,12b経由で浄化用枝路I又は浄化用枝路IIに導く」ものであるから,「供給配管12a,12b」から「吸着装置9a,9b」に分配する空気量の比率を調整可能なものである。」と主張する。
しかしながら、上記イに記載のとおり、甲1の段落[0036]に記載された「制御手段」により「弁手段23」の「対応する動作を制御」することは、浄化用枝路I又は浄化用枝路IIのいずれか一方に択一的に空気経路を切替えるための動作制御であると認められ、「吸気分配機構」が「前記内気導入配管から各前記吸着ユニットに分配する空気量の比率を調整可能」である点は、甲1に記載も示唆もない。
よって、申立人の主張は、採用できない。

エ 小括
本件特許発明1は、引用発明1と同一ではない。
また、本件特許発明1は、引用発明1及び甲2〜5、6’、7〜10に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明2〜8について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜8は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2〜8は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
そうしてみると、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明2〜8は、引用発明1と同一ではない。
また、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明2〜8は、引用発明1及び甲2〜5、6’、7〜10記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 申立理由2(甲6’を主引用とした場合)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「二酸化炭素除去チャンバ5、6」は、本件特許発明1の「複数の吸着ユニット」に相当する。そして、引用発明2の「ビークルの乗客キャビン1の二酸化炭素を収着し、再生可能な二酸化炭素収着材料を含む二酸化炭素除去チャンバ5、6」は、「空気中の二酸化炭素を吸着する複数の吸着ユニット」という限りにおいて、本件特許発明1の「空気中の二酸化炭素と水蒸気を吸着する複数の吸着ユニット」に一致する。
引用発明2の「乗客キャビン1」又は「キャビン1」は、本件特許発明1の「車室内」に相当する。
そして、引用発明2において、「二酸化炭素の収着時に、乗客キャビン1からの空気は、二酸化炭素除去導管2から第1のバルブ12を経て二酸化炭素除去チャンバ5、6に流れ、二酸化炭素が除去され、第2のバルブ13を経てキャビン1へ戻るガスの流れとな」る流路は、「車室内の空気を前記吸着ユニットに導入し、前記吸着ユニットで二酸化炭素を吸着除去された空気を車室内に戻す浄化用通路」という限りにおいて、本件特許発明1の「車室内の空気を前記吸着ユニットに導入し、前記吸着ユニットで二酸化炭素と水蒸気を吸着除去された空気を車室内に戻す浄化用通路」に一致する。
引用発明2において、「二酸化炭素収着材料の再生時に、再生導管7からの脱離ガスは、第1のバルブ12を経て二酸化炭素除去チャンバ5、6に流れ、乗客キャビン1外に排出されるガスの流れ8となる」流路は、本件特許発明1の「再生用空気を前記吸着ユニットに導入し、前記吸着ユニットを再生した使用済み再生用空気を車外に排出する再生用通路」に相当する。
引用発明2の「ビークルの二酸化炭素を除去するシステム」は、本件特許発明1の「車両の空気浄化装置」に相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

(一致点2)
「空気中の二酸化炭素を吸着する複数の吸着ユニットと、
車室内の空気を前記吸着ユニットに導入し、前記吸着ユニットで二酸化炭素を吸着除去された空気を車室内に戻す浄化用通路と、
再生用空気を前記吸着ユニットに導入し、前記吸着ユニットを再生した使用済み再生用空気を車外に排出する再生用通路と、を備えた車両の空気浄化装置。」

(相違点4)
「吸着ユニット」に関して、本件特許発明1は、空気中の二酸化炭素に加えて「水蒸気」も吸着するのに対し、引用発明2は、水蒸気を吸着するか不明な点。
(相違点5)
「浄化用通路」により「車室内に戻す」「車室内の空気を前記吸着ユニットに導入し、前記吸着ユニットで二酸化炭素を吸着除去された空気」に関して、本件特許発明1は、「水蒸気」も含むのに対し、引用発明2は、そのことが不明である点。
(相違点6)
本件特許発明1は、「前記再生用通路と前記浄化用通路の前記吸着ユニットの上流側は、車室内の空気を導入する内気導入配管によって構成され、前記内気導入配管は、複数に分岐して各前記吸着ユニットに接続され」るのに対し、引用発明2は、「二酸化炭素除去チャンバ5、6の上流側に、乗客キャビン1からの空気が流れる配管、及び、乗客キャビン外から持ち込まれた外部空気、ビークルの他の部分からの廃空気又はその他のガスからなる脱離ガスが導入される再生導管7が配置され、二酸化炭素除去導管2及び再生導管7は、第1のバルブ12において二酸化炭素除去チャンバ5、6に向けて分岐」する点。
(相違点7)
本件特許発明1は、「隣接する前記吸着ユニットの上流側は、仕切壁によって二つの分岐通路に仕切られ、前記二つの分岐通路の集合通路側の端部には、前記内気導入配管から各前記吸着ユニットに分配する空気量の比率を調整可能な吸気分配機構が配置されている」のに対し、引用発明2は、「隣接する前記吸着ユニットの上流側は、仕切壁によって二つの分岐通路に仕切られ」ている構成を備えるかは不明であり、「第1のバルブ12は、二酸化炭素除去導管2と再生導管7との流れを切り替えるように動作可能であり、2つの二酸化炭素除去チャンバ5、6のうちのどちらが二酸化炭素を除去し、どちらが再生されるかを変更する」点。

イ 判断
事案に鑑みて、まず、相違点7について検討する。
引用発明2の「第1のバルブ12」について、甲6’の段落【0043】の「1つ又は複数のアクチュエータ(例えば、バルブ又は可動フラップ)は、各床への流れを、床が収着モードで機能している際の乗客キャビンからの空気(二酸化炭素除去導管を介して到達))と、床が再生の対象となっている際の脱離ガス(再生導管を介して到達)との間で切り替わるよう設けてもよい。」との記載、段落【0071】の「第1のバルブ(12)は、二酸化炭素除去導管が分岐する点に設けられ、キャビン(1)からの空気が2つの二酸化炭素除去チャンバ(5,6)のうちの1つに流れることを可能にする。・・・」との記載、及び、段落【0072】の「第1のバルブ(12)及び第2のバルブ(13)は、二酸化炭素除去導管(2)と再生導管(7)との流れを切り替えるように動作可能であり、2つの二酸化炭素除去チャンバ(5,6)のうちのどちらが二酸化炭素を除去し、どちらが再生されるかを変更する。」との記載から、「第1のバルブ12」は、二酸化炭素除去チャンバ5又は6のいずれか一方に択一的に空気経路を切替える機能を有するものといえる。
ここで、当該「第1のバルブ12」が、二酸化炭素除去チャンバ5又は6に供給する「空気量の比率を調整可能」とする機能について、甲6’の段落【0071】の「第1のバルブ(12)は、二酸化炭素除去導管が分岐する点に設けられ、キャビン(1)からの空気が2つの二酸化炭素除去チャンバ(5,6)のうちの1つに流れることを可能にする。再生導管(7)が、2つの二酸化炭素除去チャンバ(5,6)のうちの他方に脱離ガスを流すように設けられる。この流れはさらに第1のバルブ(12)によって制御される。」との記載における「第1のバルブ(12)によって制御される」点は、キャビン1からの空気を、二酸化炭素除去チャンバ5,6のいずれか一方に択一的に空気経路を切替えるための動作制御を意味すると解され、「吸気分配機構」が「前記内気導入配管から各前記吸着ユニットに分配する空気量の比率を調整可能」である点は、甲6’に記載も示唆もない。


そして、たとえ、「空気浄化装置」において、複数の「吸着ユニット」が「隣接」し、「仕切壁」によって「仕切られ」る構成が、甲3〜5に例示される周知技術であったとしても、「吸気分配機構」が「前記内気導入配管から各前記吸着ユニットに分配する空気量の比率を調整可能」とする点は、甲6’に記載も示唆もなく、また、甲1〜5、7〜10にも記載も示唆もなく、当業者にとって自明な事項でもない。
よって、相違点4〜6について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明2及び甲1〜5、7〜10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書(3(4)ウ(ア)a(f)iii)において、「甲第6号証には,「第1のバルブ(12)は,二酸化炭素除去追管が分岐する点に設けられ,キャビン(1)からの空気が2つの二酸化炭素除去チャンバ(5,6)のうちの1つに流れることを可能にする。再生導管(7)が,2つの二酸化炭素除去チャンバ(5,6)のうちの他方に脱離ガスを流すように設けられる。この流れはさらに第1のバルブ(12)によって制御される。」(段落0071)と記載されている。・・・また,「第1のバルブ(12)」は,二つの分岐通路に分配される空気流を制御するものであるから,「二酸化炭素除去導管(2)」及び「再生導管(7)」から「二酸化炭素除去チャンバ(5,6)」に分配する空気量の比率を調整可能なものである。)」と主張する。
しかしながら、上記イに記載のとおり、段落【0071】に記載の「第1のバルブ(12)によって制御される」点は、キャビン1からの空気を、二酸化炭素除去チャンバ5、6のいずれか一方に択一的に空気経路を切替えるための動作制御を意味すると認められ、「吸気分配機構」が「前記内気導入配管から各前記吸着ユニットに分配する空気量の比率を調整可能」である点は、甲6’に記載も示唆もない。
よって、申立人の主張は、採用できない。

エ 小括
本件特許発明1は、引用発明2及び甲1〜5、7〜10に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明2〜8について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2〜8は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2〜8は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
そうしてみると、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明2〜8は、引用発明2及び甲1〜5、7〜10記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-06-26 
出願番号 P2019-005243
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B60H)
P 1 651・ 113- Y (B60H)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 間中 耕治
白土 博之
登録日 2022-09-08 
登録番号 7138578
権利者 本田技研工業株式会社
発明の名称 車両の空気浄化装置  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 酒井 太一  
代理人 渡辺 伸一  

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