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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D |
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管理番号 | 1399889 |
総通号数 | 20 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2023-08-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-12-23 |
確定日 | 2023-07-18 |
事件の表示 | 特願2017−71821「電子レンジ用包装袋および積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月8日出願公開、特開2018−172151〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成29年3月31日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和2年12月25日付け:拒絶理由通知書 令和3年 3月 2日 :意見書、手続補正書の提出 令和3年 5月21日付け:拒絶理由通知書(最後の拒絶理由通知) 令和3年 7月 9日 :意見書、手続補正書の提出 令和3年 9月16日付け:令和3年7月9日の手続補正についての補正却下の決定、拒絶査定 令和3年12月23日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和4年12月27日付け:拒絶理由通知書 令和5年 2月27日 :意見書、手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。) 第2 本願発明 本願の請求項に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「少なくとも、基材層と、接着剤層と、シーラント層とをこの順に備える積層体を用いた、電子レンジ用包装袋であって、 前記包装袋が、蒸気抜け機構を備え、 前記積層体が、前記基材層と前記接着剤層または前記接着剤層と前記シーラント層の間に、部分的に熱軟化性樹脂層を備え、 前記熱軟化性樹脂層が、前記蒸気抜け機構を構成し、 前記熱軟化性樹脂層が、ポリアミド、硝化綿、およびポリエチレンワックスを含有し、 前記シーラント層が、バイオマス由来の低密度ポリエチレンと、化石燃料由来の低密度ポリエチレンとからなり、 前記シーラント層のバイオマス度が5%以上19%以下である、電子レンジ用包装袋。」 第3 拒絶の理由 令和4年12月27日付けで当審が通知した拒絶理由は、次の理由を含むものである。 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2000−190912号公報 引用文献2:特開2017−56693号公報(周知技術を示す文献) 引用文献3:特開2013−177531号公報(周知技術を示す文献) 引用文献4:特開2015−231870号公報(周知技術を示す文献) 第4 引用文献の記載、引用発明及び周知技術 1 引用文献1 (1)引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。他の文献についても同様。)。 ア 「【請求項1】 耐熱性基材層とシーラント層の間に、室温以下の温度環境では所定の強度を有するが、高温の温度環境では前記所定の強度が低下する樹脂層を少なくとも一領域に設けたことを特徴とする電子レンジ対応包装材料。 【請求項2】 前記樹脂層が、60〜90℃の融点を有する材料からなることを特徴とする請求項1に記載の電子レンジ対応包装材料。 【請求項3】 前記樹脂層が、エチレン−酢酸ビニル系共重合体樹脂、またはポリアミド、硝化綿及びポリエチレンワックスを含有する樹脂からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子レンジ対応包装材料。 【請求項4】 前記樹脂層の厚さが、1〜5μmであることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の電子レンジ対応包装材料。 【請求項5】 前記電子レンジ対応包装材料を、前記シーラント層が向かい合うように重ね合わせてシールした時に、前記樹脂層を設けた領域のシール強度が、室温以下の温度領域では700(g/15mm)以上となり、80℃以上の高温の温度領域では300(g/15mm)以下となることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の電子レンジ対応包装材料。 【請求項6】 前記シーラント層が、低密度ポリエチレンフィルム、超低密度ポリエチレンフィルム、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、中密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、無延伸ポリプロピレンフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン−アクリル酸共重合体フィルム、エチレン−メタクリル酸共重合体フィルム、エチレン−メチルアクリレート共重合体フィルム、エチレン−エチルアクリレート共重合体フィルム、エチレン−メチルメタクリレート共重合体フィルムまたはアイオノマーフィルムの何れか一種以上からなる、単層シーラント層または多層シーラント層であることに特徴を有する請求項1乃至請求項5の何れかに記載の電子レンジ対応包装材料。 【請求項7】 請求項1乃至請求項6に記載の電子レンジ対応包装材料のシーラント層が包装袋の内側になるように配置され、所定の被シール部をシールして作製された電子レンジ対応包装袋であって、 前記樹脂層が、シールされた前記被シール部の少なくとも一領域を、前記包装袋の内側から外側に向かって横断するように形成されたことを特徴とする電子レンジ対応包装袋。 【請求項8】 請求項1乃至請求項6に記載の電子レンジ対応包装材料を容器蓋体とし、当該容器蓋体を、シーラント層が容器本体側になるように配置して、所定の被シール部をシールして作製された電子レンジ対応容器であって、 前記樹脂層が、シールされた前記被シール部の少なくとも一領域を、前記容器の内側から外側に向かって横断するように形成されたことを特徴とする電子レンジ対応容器。」 イ 「【0018】図1は、本発明の電子レンジ対応包装材料(以下「包装材料1」という。)の一例を示す断面図である。包装材料1は、図1に示すように、耐熱性基材層2、印刷層3、樹脂層4、接着層5、シーラント層6の順に積層されている。なお、印刷層3と接着層5は、後述するように、必須の層ではなく、適宜必要に応じて設けられる層である。従って、本発明の包装材料は、少なくとも耐熱性樹脂層2とシーラント層6の間に樹脂層4を備えた積層体である。」 ウ 「【0023】本発明では、このような性質を有する樹脂層4を、包装材料1の所定の位置、すなわち包装袋や容器の作製時にシールされる所定の被シール部の少なくとも一領域に、包装袋又は容器の内側から外側に向かって横断するように設ける。こうした位置に設けられた樹脂層4は、電子レンジで加熱されて高温になることによってその強度が低下する。 【0024】図2の包装袋21のシール部分22の拡大断面図に示すように、形成された樹脂層4は、電子レンジで加熱等されて包装袋21内の空気の膨張や内容物に含まれる水蒸気によって内圧が上昇したとき、シール部22近傍のシーラント層6の任意の個所23を起点として、強度が低下した樹脂層4が破壊される(符号24は、破壊する仮想線を示す。)。その結果、シール部22のシーラント層6と耐熱性基材層2との間に、包装袋21の内側から外側に向かって樹脂層4の破壊による比較的小さい大きさの空気抜けが生じるので、包装袋21内の水蒸気等が逃げ、その内圧を低下させることができる。本発明では、破壊が部分的に起こるので、比較的小さい大きさの空気抜けが生じ、包装袋21の内圧が一気に低下することがなく、内容物の飛散が起こらない。」 エ 「【0029】シーラント層6は、必須の層として、樹脂層4上に設けられ、包装袋や容器蓋体が作製された際には内容物に接触する最内層となる。シーラント層6としては、低密度ポリエチレンフィルム、超低密度ポリエチレンフィルム、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、中密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルム、無延伸ポリプロピレンフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン−アクリル酸共重合体フィルム、エチレン−メタクリル酸共重合体フィルム、エチレン−メチルアクリレート共重合体フィルム、エチレン−エチルアクリレート共重合体フィルム、エチレン−メチルメタクリレート共重合体フィルム、アイオノマーフィルムのうち、何れか一種以上のフィルムが使用され、単層シーラント層または多層シーラント層とすることができる。これらのシーラント層6の厚さは、通常20〜60μmである。本発明においては、包装袋や容器が作製される際に、シーラント層6どうしが包装袋や容器の被シール部でシール面を形成するので、従来の包装袋や容器のように、シール強度の弱い剥離剤層によって一部のシール面が形成されることがないので、冷凍時、輸送時、保管時等において、貼り合わされたシール面が破れて内容物の露出が起こることがない。」 オ 「【0036】(実施例1)耐熱性基材層2として厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、その上に樹脂層4としてエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(融点:66.8℃、WT−PC剤:ザ・インクテック株式会社製)を図3に示すようなパターンで、厚さ3μmとなるようにパターンコートした。さらにその上に、シーラント層6として厚さ30μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルムを用い、二液硬化型ポリウレタン接着剤を接着層5として用いて貼り合わせてドライラミネートし、実施例1の電子レンジ対応包装材料を作製した。」 カ 「【0040】(実施例3)耐熱性基材層2として厚さ20μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルムを用い、その上に樹脂層4としてポリアミド、硝化綿及びポリエチレンワックスを含有する樹脂(融点:83.8℃、EOPワニス:ザ・インクテック株式会社製)を図3に示すようなパターンで、厚さ3μmとなるようにパターンコートした。さらにその上に、シーラント層6として低密度ポリエチレン樹脂を用い、厚さ30μmとなるように溶融押出しして積層させ、実施例2の電子レンジ対応包装材料を作製した。」 キ 「【0048】 【発明の効果】以上説明したように、本発明の電子レンジ対応包装材料によれば、室温以下の温度環境で所定の強度を有するが、高温の温度環境で常温時の強度が低下する樹脂層が設けられているので、この包装材料を用いて作製した包装袋又は容器蓋体を、食品包装袋または食品容器等に用いて加熱した場合に、この樹脂層の強度の低下を契機にして、樹脂層とシーラント層の一部が部分的に破壊する。その結果、包装袋又は容器の内容物を飛散させることなくその内圧を低下させることができる。また、樹脂層は、耐熱性樹脂層とシーラント層の間に設けられているので、内容物に直接接触することがない。そのため、樹脂層をパターン形成する場合に、パターン形成の精度を厳しくしなくてもよいので、容易にパターン形成することができ、更に、樹脂層を全面に設けることもできる。また、融点が60〜90℃の樹脂層を用いることによって、電子レンジで加熱した際に、樹脂層とシーラント層の一部の部分的な破壊を起こりやすくさせることができる。」 ク 「【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の電子レンジ対応包装材料の一例を示す断面図である。 【図2】本発明の包装材料によって作製された包装袋のシール部分の一例を示す拡大断面図である。 【図3】本発明の電子レンジ対応包装材料の原反の所定の領域に樹脂層がパターンコートされた状態を示す平面図である。 【図4】図3に示す電子レンジ対応包装材料を用いて作製された本発明の電子レンジ包装袋の一例を示す平面図である。」 ケ 「 ![]() 」 コ 「 ![]() 」 サ 「 ![]() 」 シ 「 ![]() 」 (2)上記(1)を総合し、特に実施例3に着目すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「耐熱性基材層2として厚さ20μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルムを用い、その上に樹脂層4としてポリアミド、硝化綿及びポリエチレンワックスを含有する樹脂(融点:83.8℃、EOPワニス:ザ・インクテック株式会社製)を、包装袋の作製時にシールされる所定の被シール部の少なくとも一領域に、包装袋の内側から外側に向かって横断するように厚さ3μmとなるようにパターンコートし、さらにその上に、シーラント層6として低密度ポリエチレン樹脂を用い、厚さ30μmとなるように溶融押出しして積層させ、電子レンジ対応包装材料を作製し、 当該電子レンジ対応包装材料を用いて作製した包装袋。」 2 引用文献2〜4に記載された事項 (1)引用文献2 引用文献2には、以下の事項が記載されている。 「【0004】 近年、このような化石燃料由来の材料に対して、環境に配慮して様々な用途で石油代替原料を使用する動きが年々強まってきており、CO2排出削減を図るため、化石燃料からの脱却が望まれている。こうした化石燃料の使用削減の試みとして、包装材料として、各種の樹脂の原料の一部にバイオマス原料を用いたバイオマスプラスチックの実用化が進んでいる。一例として、ポリエステル樹脂では、モノマー成分であるエチレングリコールとしてバイオマス由来のものを用いたものが実用化されており、このようなバイオマス由来原料を含むポリエステル樹脂を、包装材料に適用することも提案されている。例えば、特許文献1には、バイオマス由来のエチレングリコールと化石燃料由来のジカルボン酸とを用いて得られたポリエステル(以下、バイオマスポリエステルとも言う。)を含む樹脂フィルムを基材層とした包装用フィルム等が提案されている。また、特許文献2には、バイオマスポリエステルを50〜95質量%の割合で含む樹脂を用いてフィルムとした場合であっても、従来の化石燃料由来のポリエステル樹脂を用いたフィルムと遜色ない物性が得られることも提案されている。」 「【0045】 [第1のシーラント層] 第1のシーラント層は、包装体とした場合に最内層側となるものである。シーラント層は、熱によって相互に融着し得るヒートシール性樹脂により形成される層である。第1のシーラント層は、化石燃料由来の樹脂材料を含んでいてもよいし、バイオマス由来の樹脂材料を含んでいてもよい。 【0046】 第1のシーラント層を形成する樹脂材料としては、熱によって相互に融着し得る樹脂であれば、特に限定されず、具体的には、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン(LLDPE)、メタロセン触媒を利用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体、エチレン・ポリプロピレンのランダムもしくはブロック共重合体、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、アイオノマー樹脂、ヒートシール性エチレン・ビニルアルコール樹脂、または、共重合した樹脂メチルペンテン系樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリブテンポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレンまたは環状オレフィンコポリマーなどのポリオレフィン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、その他などの樹脂などが挙げられる。これらは、単独でも二種以上の混合物として使用してもよい。シーラント層は、上記のような樹脂のフィルムないしシート、あるいはそのコーティング膜などとして使用することができる。 【0047】 第1のシーラント層を形成する樹脂材料として、ポリエチレンを用いる場合、その原料として、化石燃料から得られるエチレンの他に、バイオマス由来のエチレンを重合したものを用いてもよい。バイオマス由来のエチレンとしては、具体的には、例えば、特開2012―251006号公報に記載のものを使用することができる。バイオマス由来のエチレンを重合して得られたポリエチレンを、第1のシーラント層を構成する材料として用いることにより、カーボンニュートラルな材料からなる層で形成できるため、ポリエステル樹脂層1との併用によって、より一層、化石燃料の使用量を削減することができ、環境負荷を減らすことができる。 【0048】 バイオマス由来のエチレンとしては、市販のものを使用してもよく、例えば、ブラスケム社製の「C4LL−LL118(d=0.916、MFR=1.0g/10分)」のサトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂や「SBC118(d=0.918、MFR=8.1g/10分)」のサトウキビ由来低密度ポリエチレン系樹脂を使用することができる。」 「【0070】 [包装袋] 本発明による積層体をスタンディングパウチに適用した場合について説明する。図3は、スタンディングパウチの構成の一例を簡略に示す図である。図3に示すように、スタンディングパウチ20は、2枚の胴部(側面シート)21と、底部(底面シート)22とで構成されている。スタンディングパウチ20は、側面シート21および底面シート22が同部材で構成されている。スタンディングパウチ20の側面シート21および底面シート22は、例えば、図4に示すように、ポリエステル樹脂層1、薄膜層2、第1のシーラント層4が順に積層された積層体10Aを用いて形成することができる。なお、本実施形態においては、スタンディングパウチ20は、側面シート21と底面シート22とが同部材で構成されているが、これに限定されるものではなく、側面シート21および底面シート22が別部材で構成されていてもよい。」 (2)引用文献3 引用文献3には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 基材層に積層して用いるシーラントフィルムであって、(a)植物由来ポリエチレン系樹脂、(b)石油由来ポリエチレン系樹脂、並びに(c)シリカ、酸化チタン、アイオノマー樹脂、及びエチレン・メタクリル酸共重合体からなる群より選択されるブリードアウト抑制剤、を含んでなるシーラントフィルムにおいて、該成分(a)がシーラントフィルム全体に占める割合は、15〜70質量%であることを特徴とする、上記シーラントフィルム。 【請求項2】 前記成分(a)、(b)及び(c)を含む樹脂組成物からなる単層フィルムであることを特徴とする、請求項1に記載のシーラントフィルム。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、植物由来ポリエチレン系樹脂を含んでなるシーラントフィルム、及びそれを用いた包装材に関し、更に詳しくは、高いバイオマス度を示しながらも、隣接する層と高い層間接着強度を示すシーラントフィルム、及びそれを用いた包装材に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、環境への負荷を低減するために、樹脂フィルムの原料の一部を、石油由来の樹脂から、植物由来成分を主成分とする樹脂(以下「植物由来樹脂」と呼ぶ)に置き換えることが検討されている(特許文献1)。そして、植物由来樹脂は、従来の石油由来の樹脂と、化学構造的には変わりがなく、同等の物性を有することが期待されている。 【0003】 しかしながら、実際には、植物由来樹脂を含む樹脂フィルム、例えば植物由来ポリエチレン系樹脂を含むシーラントフィルムは、石油由来のポリエチレン系樹脂のみからなるシーラントフィルムとは異なる性質を示す。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 石油由来のポリエチレン系樹脂を含んでなるシーラントフィルムにおいて、原料のポリエチレン系樹脂の一部を、植物由来ポリエチレン系樹脂に変えると、その配合率が高くなるにつれて、その上に積層する基材層との層間接着強度が低下し、層間剥離が起き易くなることが分かった。 したがって、基材層との高い層間接着強度と、高いバイオマス度との両方を達成することは困難であった。 【0006】 本発明は、この問題点を解決し、基材層と高い層間接着強度を示し、且つ、フィルム全体として少なくとも15%の高いバイオマス度を示すことから環境への負荷が低減されたシーラントフィルム、及びそれを用いた包装材を提供することを目的とする。」 「【0016】 ここで、該シーラントフィルムは、成分(a)〜(c)を混合して得られる樹脂組成物を成形してなる、単層のシーラントフィルム〔1〕である。このフィルム中に含まれる成分(a)の量は15〜70質量%である。この構成により、基材層との良好な層間接着強度及びヒートシール強度を示しながら、且つ、高いバイオマス度を示すシーラントフィルムを、簡易且つ低コストで生産性良く製造することができる。」 「【0033】 <II>植物由来ポリエチレン系樹脂(成分(a)) 本発明において、「植物由来」とは、植物を原料として得られるアルコールから製造される、植物原料に由来する炭素を含むことを意味する。 【0034】 本発明において、植物由来ポリエチレン系樹脂は、植物原料から得られたバイオエタノールから誘導された植物由来エチレンの単独重合体、あるいは、該植物由来エチレンと他の少量のコモノマーとの共重合体である。 【0035】 具体的には、バイオエタノールから誘導されたエチレンを重合して得られる高密度ポリエチレン(HDPE、密度0.940g/cm3以上)、中密度ポリエチレン(MDPE、密度0.925以上0.940g/cm3未満)、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE、密度0.925g/cm3未満)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、エチレンとα−オレフィンとの共重合体)、及びこれらの混合物を挙げることができる。上記LLDPEのコモノマーとなるα−オレフィンとしては、炭素数3〜20のα−オレフィン、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−オクテン、1−ノネン、4−メチルペンテン等、及びこれらの混合物が上げられる。これらのα−オレフィンは、バイオエタノールから誘導された植物由来α−オレフィンであっても、非植物由来、すなわち石油由来のα−オレフィンであってもよい。石油由来α−オレフィンとしては多種多様なものが入手可能であるため、これらを用いて製造することにより、ポリエチレン系樹脂の物性等を容易に調整することができる。植物由来α−オレフィンを用いることにより、最終製品のバイオマス度をより一層高めることができる。」 「【0038】 本発明において好適に使用される植物由来ポリエチレン系樹脂としては、ブラスケム(Braskem S.A.)社製のグリーンPE等が挙げられる。」 「【0040】 <III>石油由来ポリエチレン系樹脂(成分(b)) 本発明において、「石油由来」とは、植物原料に由来する炭素を含まず、従来どおり、石油から得られるナフサを熱分解して得られるエチレンに由来する構造を主成分とするものである。 【0041】 本発明で使用される石油由来ポリエチレン系樹脂は、シーラントフィルムとしてヒートシール性を有するものとして一般的に用いられる任意のポリエチレン系樹脂である。 【0042】 より具体的には、石油由来エチレンの単独重合体、あるいは石油由来エチレンと他の少量のコモノマーとの共重合体であって、高密度ポリエチレン(HDPE、密度0.940g/cm3以上)、中密度ポリエチレン(MDPE、密度0.925以上0.940g/cm3未満)、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE、密度0.925g/cm3未満)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、エチレンとα−オレフィンとの共重合体)、及びこれらの混合物を挙げることができる。上記LLDPEのコモノマーとなるα−オレフィンとしては、炭素数3〜20のα−オレフィン、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−オクテン、1−ノネン、4−メチルペンテン等、及びこれらの混合物が上げられる。」 (3)引用文献4 引用文献4には、以下の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、蓋材とそれを用いた包装容器に関するものである。さらに詳細には、カップ、トレーなどに用いる、熱可塑性樹脂層を主体とする多層構成を有する蓋材であって、植物由来のポリエチレン樹脂を使用することで環境への負荷が軽減されるとともに、易開封性を付与するだけでなく、開封時に発生する糸引きなどの問題を解消させることが可能な蓋材と、それを用いた包装容器に関するものである。 【背景技術】 【0002】 プラスチックは化学製品の主幹産業であり、日常生活の多くの場面で利用されてきている。種々あるプラスチック材料の中で、ポリエチレンは製膜加工性、ヒートシール性、耐衝撃性、柔軟性等に優れた材料であり、食品・トイレタリー製品など様々な包装容器に幅広く用いられている。 【0003】 近年、地球温暖化防止ならびに枯渇資源である石油使用量低減の意識の高まりにより、従来の石油由来プラスチック材料からカーボンニュ―トラルな植物由来プラスチック材料への置き換えが検討されている。製品中の植物由来プラスチックの重量比率が25%以上の基準を満たしている場合、日本バイオプラスチック協会よりバイオマスプラマークの使用が許可される。 【0004】 植物由来ポリエチレン樹脂は、2011年にBraskem社によって直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)と高密度ポリエチレン(HDPE)のグレードが、2014年に低密度ポリエチレン(LDPE)のグレードが製造・販売開始されている。該植物由来LLDPEは、C4−LLDPEもしくはC6−LLDPEと表記される炭素数4もしくは6のα−オレフィンを側鎖に有するものである。該植物由来LLDPE及び植物由来HDPEを用いて、従来の石油由来ポリエチレンからの置き換えが検討されている(特許文献1〜5参照)。」 「【0025】 シーラント層2は、低密度ポリエチレン樹脂に、ポリブテン樹脂をブレンドした樹脂からなる凝集剥離型のシーラント層である。低密度ポリエチレン樹脂はシーラント層2の50質量%以上、90質量%以下を占める必要がある。 【0026】 低密度ポリエチレン樹脂は、植物由来のエチレンを合成して得られた低密度バイオマスポリエチレン樹脂を含んでいる。植物由来とは、植物を発酵させて得られたアルコールを原料として合成され、植物由来の炭素を含むことを意味する。」 (4)周知技術 上記(1)〜(3)に記載したとおり、環境負荷の低減等を目的として、包装用積層体のシーラント層に使用されるエチレン重合体を「バイオマス由来」の低密度ポリエチレンと「化石燃料由来」の低密度ポリエチレンとの混合物とすること、及び、「バイオマス由来」の低密度ポリエチレンがブラスケム社製から市販されていることは、周知の技術(以下「周知技術」という。)である。 第5 対比 引用発明の「耐熱性基材層2」、「シーラント層6」、「電子レンジ対応包装材料」、「電子レンジ対応包装材料を用いて作製した包装袋」は、その機能、構造又は技術的意義を考慮してみると、それぞれ本願発明の「基材層」、「シーラント層」、「積層体」、「電子レンジ用包装袋」に相当する。 また、上記第4の1(1)ウ及びキの記載から、引用発明の「ポリアミド、硝化綿及びポリエチレンワックスを含有する樹脂(融点:83.8℃、EOPワニス:ザ・インクテック株式会社製)」からなる「樹脂層4」は、電子レンジ加熱によってシール強度が低下する性質を有し、電子レンジで加熱され、樹脂層4の破壊により包装袋内の水蒸気等が逃げ、内圧を低下させるものである。そうすると、引用発明の「ポリアミド、硝化綿、およびポリエチレンワックスを含有し、」「包装袋の作製時にシールされる所定の被シール部の少なくとも一領域に、包装袋の内側から外側に向かって横断するように厚さ3μmとなるようにパターンコート」された「樹脂層4」は、本願発明の「部分的に」「備え」られた「熱軟化性樹脂層」に相当するとともに、当該「樹脂層4」が本願発明の「蒸気抜け機構を構成し」ているといえる。 さらに、引用発明の「耐熱性基材層2」の「上に樹脂層4としてポリアミド、硝化綿及びポリエチレンワックスを含有する樹脂」を「パターンコートし、さらにその上に、シーラント層6として低密度ポリエチレン樹脂を用い」て「溶融押出しして積層させ」た「電子レンジ対応包装材料」の層構成と、本願発明の「少なくとも、基材層と、接着剤層と、シーラント層とをこの順に備える積層体」の層構成とは、「基材層と、シーラント層とをこの順に備える積層体」の層構成である限りにおいて一致する。 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「基材層と、シーラント層とをこの順に備える積層体を用いた、電子レンジ用包装袋であって、 前記包装袋が、蒸気抜け機構を備え、 前記積層体が、部分的に熱軟化性樹脂層を備え、 前記熱軟化性樹脂層が、前記蒸気抜け機構を構成し、 前記熱軟化性樹脂層が、ポリアミド、硝化綿、およびポリエチレンワックスを含有した、電子レンジ用包装袋。」 【相違点1】 積層体の層構成について、本願発明は、「少なくとも、基材層と、接着剤層と、シーラント層とをこの順に備え」、「前記基材層と前記接着剤層または前記接着剤層と前記シーラント層の間に、部分的に熱軟化性樹脂層を備え」るのに対して、引用発明は、「接着剤層」を備えていない点。 【相違点2】 シーラント層について、本願発明は、「バイオマス由来の低密度ポリエチレンと、化石燃料由来の低密度ポリエチレンとからなり」、「バイオマス度が5%以上19%以下である」のに対して、引用発明は、「低密度ポリエチレン樹脂」からなるものの、その詳細な構成が不明である点。 第6 判断 以下、相違点1及び2について検討する。 1 相違点1について 積層体を構成する複数の層を貼り合わせる手法として、接着層を用いるドライラミネートも溶融押出しも一般的であり、例えば、引用文献1にも前者が実施例1(上記第4の1(1)オ)として、後者が実施例3(上記第4の1(1)カ)として記載されている。 そして、引用文献1には、接着層は必要に応じて設けられる層である点が記載されている(上記第4の1(1)イ)とともに、接着層を用いた構成として、耐熱性基材層2、樹脂層4、接着層5、シーラント層6の順に積層する積層体の構成が記載されている(上記第4の1(1)イ及びオ)。 また、引用文献1には、シーラント層6として、低密度ポリエチレンフィルムが使用可能であることが記載されている(上記第4の1(1)アの【請求項6】及びエ)。 そうしてみると、これらの記載を参酌し、引用発明のシーラント層を溶融押出しして積層する構成から、接着層を介して低密度ポリエチレンフィルムを積層する構成に変更することは、当業者が容易に想到し得たものである。 そして、このように構成した際は、熱軟化性樹脂層に相当する樹脂層4が、基材層と接着層との間に部分的に備えられる構成となることは、当業者にとって明らかである。 2 相違点2について 上記周知技術を参酌し、引用発明におけるシーラント層6を形成する低密度ポリエチレンとして、「バイオマス由来」の低密度ポリエチレンと、「化石燃料由来」の低密度ポリエチレンの混合物を採用することは、当業者が容易に想到し得たものである。 そして、具体的なバイオマス度の値については、所望の性能等を勘案しながら当業者が適宜決定する設計的事項であり、それを5%以上19%以下とすることが格別なこととはいえない。 3 本願発明の効果について 上述した相違点1及び2を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 4 請求人の主張について (1)請求人は、令和5年2月27日に提出された意見書において、次の主張をしている(「4.2 本願発明と引用発明との比較」を参照。)。 「引用文献1の実施例においては、シーラント層が直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の場合は、接着剤層を介して積層する方法、いわゆるドライラミネートが採用され、シーラント層が低密度ポリエチレン(LDPE)の場合は溶融押出が採用されていると言えます。当業者が、実施例3でドライラミネートを採用するのであれば、シーラント層をLLDPEに変更するのが自然であり、シーラント層としてLDPEを用いながら積層方法としてドライラミネートを採用しようとする動機は無い」(以下「主張A」という。) 「実施例3の23℃でのシール強度は860(g/15mm)であり、実施例1,2でのシール強度(2380(g/15mm),1860(g/15mm))に比べて著しく低い」、「引用文献1の発明は、通常の輸送時や保管時に加わる圧力や衝撃によるシールの剥離を抑制することを目的としています。実施例1〜3の中からあえて、最もシール強度の低い実施例3を選択し、さらに、実施例3のシーラント層6を、溶融押出で形成されるものから、フィルムの形態のシーラントフィルムがドライラミネートされたものに置き換えようとする動機は存在しない」(以下「主張B」という。) (2)上記各主張点について検討する。 ア 主張Aについて 上記第4の1(1)アの【請求項6】及びエに記載したとおり、引用文献1には、「樹脂層4」上に設けられる「シーラント層6」を「低密度ポリエチレンフィルム」とする例が記載されている。 そして、「シーラント層6」に「フィルム」を採用した際には、「樹脂層4」と接着させるため、上記第4の1(1)オに記載されたように接着剤層を介してドライラミネートすることは一般的である。 そうしてみると、請求人が主張するような「実施例3でドライラミネートを採用するのであれば、シーラント層をLLDPEに変更する」必要性はない。 イ 主張Bについて 上記1に記載したとおり、積層体を構成する複数の層を貼り合わせる手法として、接着層を用いるドライラミネートも溶融押出しも一般的である。 そして、前者は後者よりも接着強度が高まることは当業者にとって技術常識である。 そうしてみれば、接着強度を高めるため、引用発明の「シーラント層」を溶融押出しして積層する構成から、接着層を介して低密度ポリエチレンフィルムを積層する構成に変更することは、当業者が容易に想到し得たものである。 よって、請求人の当該主張は採用できない。 5 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2023-05-24 |
結審通知日 | 2023-05-26 |
審決日 | 2023-06-06 |
出願番号 | P2017-071821 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(B65D)
P 1 8・ 561- WZ (B65D) P 1 8・ 121- WZ (B65D) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
山崎 勝司 |
特許庁審判官 |
森本 哲也 稲葉 大紀 |
発明の名称 | 電子レンジ用包装袋および積層体 |
代理人 | 岡村 和郎 |
代理人 | 堀田 幸裕 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 宮嶋 学 |