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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01H
管理番号 1400173
総通号数 20 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-08-02 
確定日 2023-07-10 
事件の表示 特願2020− 99588「材料パラメータ推定装置、材料パラメータ推定方法、及び材料パラメータ推定プログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年10月15日出願公開、特開2020−170000〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年1月13日(以下「遡及日」という。)に出願した特願2016−4689号の一部を令和2年6月8日に新たな特許出願としたものであって、令和2年7月8日に手続補正書が提出され、令和3年9月1日付けで拒絶理由が通知され、同年12月24日に意見書が提出され、令和4年4月21日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたのに対し、同年8月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、審判請求書に対する手続補正書(方式)が同年9月12日に提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1〜6に係る発明は、令和2年7月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項3】
多孔質材料の変形前における多孔度φ(1)と、前記変形に伴う前記多孔質材料の体積変化率Pとの入力を受け付ける受付ステップと、
前記多孔質材料の変形後における多孔度φ(P)を、
【数3】

により推定する推定ステップと
を含む材料パラメータ推定方法。」
なお、請求項1及び5に係る発明は、上記方法に対応して発明のカテゴリーを替えた、装置の発明及びプログラムの発明である。

第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、次のとおりのものである。
1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願(遡及日)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願(遡及日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項1〜6
請求項1、3及び5については、以下のように説示している。
[引用文献1について]
引用文献1には、多孔質材料であるファイバーマットを1軸圧縮した場合の変形後の多孔度を推定するにあたって、変形前の多孔度をφ(0)、変形後の多孔度をφ(n)、圧縮率をnとした場合に、φ(n)=1−n(1−φ(0))という数式(10)を用いること、圧縮率nは圧縮前のファイバーマットの厚みh0と圧縮後のファイバーマットの厚みhとの比すなわちn=h0/hであること、が開示されている。(特に、pp.175-176「3.Variations of the physical parameters versus the compression rate」)
[判断]
引用文献1において、圧縮率nはファイバーマットの1軸圧縮時の1軸方向の変化率で示されているものの、多孔度φはファイバーマットの外形が占める体積(ファイバーの体積と空隙部分の空気の体積の合計)とファイバーマット中で空気の占める体積の比、φ=Vair/Vtotalで定義されていること、ファイバーマットの圧縮前と圧縮後のパラメータ変化を検討していること、1次元モデル自体の解析で終わるのでなくファイバーマットという具体的な構造物の解析を対象としていること、を考慮すると、引用文献1では実質的には体積変化を意図していると理解される。
そうすると、引用文献1記載の上記数式(10)における圧縮率nとしてファイバーマットの体積の圧縮率を用いる動機は、引用文献1の開示内容から当業者であれば十分に得られると思料される。
したがって、引用文献1において数式(10)のような多孔質材料のパラメータの推定式が公知の場合に、多孔質材料のパラメータの推定技術の実用化に際して、体積の圧縮率を対応させた推定式を用いるシミュレータ等といった推定装置、推定する方法、推定するプログラムに想到し本願の請求項1、3、5に係る発明をなすことは、当業者であれば容易になし得ることである。

<引用文献等一覧>
1.Bernard Castagnede, Achour Aknine, Bruno Brouard, Viggo Tarnow,“Effects of compression on the sound absorption of fibrous materials”,Applied Acoustics, 2000年,Vol.61,No.2,pp.173-182

第4 引用文献1について
1 記載事項
本願の遡及日前に頒布された上記引用文献1には、次の事項が記載されている。なお「・・・」は摘記を略していること表しており、原文の摘記の後に当審訳を示す(下線は、下記2で記載する引用発明の認定に関与する部分として当審が付与したものである)。
(引1ア)「Abstract
During the compression of a fibrous mat, it is well known that the absorption properties are decreasing. In order to predict this change, some heuristic formulae are proposed which take into account the modifications of the physical parameters (porosity, resistivity, tortuosity and shape factors) which enter the standard “equivalent fluid” model. Numerical predictions are then discussed and compared to experimental data obtained on a fibrous material (uncompressed and then compressed) used in the automotive industry.」(173頁Abstract)
「要約
繊維状マットを圧縮している間、吸収特性が減少することが知られている。この変化を推定するために、標準的な“等価流体”モデルに入力する物理的パラメータ(多孔度、流れ抵抗、迷路度、及び形状因子)の修正を考慮した経験的法則による式が推奨される。数値的な推定は、検討され、自動車業界で使用される(圧縮されていない、そして、圧縮された)繊維状材料について得られた実験的データと比較する。」

(引1イ)「For instance, in the field of automotive acoustics, the seat padding, is subjected under the passengers weight to some compression/expansion cycles which end by squeezing down the porous materials (fibrous or cellular). For a given homogeneous porous layer, such compression is followed by a decrease in terms of porosity as well as the same trend on the characteristic lengths, and in the same time by an increase of tortuosity and resistivity. The basic idea of the present work is to quantify these variations for a uniaxial (1D) and a surface-like (2D) compression sollicitation, and to determine the influence of such variations on those of the acoustical impedances and absorption coefficient.」(173頁6行〜174頁2行)
「例えば、自動車の音響についての分野では、シートの詰め物は、乗客の重さによって圧縮/膨張のサイクルにさらされ、最終的に多孔質材料(繊維状又は小区画状)が押しつぶされる。均質な多孔質層において、そのような圧縮により、特徴的な長さと同じような傾向で多孔度が減少し、それと同時に迷路度及び流れ抵抗は増加する。この研究の基本的考えは、一軸的な(1D)そして表面的な(2D)圧縮による刺激に対する変化を定量化すること、音響インピーダンスと吸収係数の変化の影響を決定することにある。」

(引1ウ)「Finally, Section 5 provides some experimental results during a compression test which clearly demonstrates that the computations and numerical predictions are basically correct (at least for a moderate compression rate, in the range of 2).」(174頁6〜8行)
「最後に、第5節では、コンピューターによる計算と数値の推定が基本的に正しい(少なくとも適当な圧縮率である2の範囲において)ことを明らかに例示している圧縮テストの実験的な結果を提供している。」

(引1エ)「3. Variations of the physical parameters versus the compression rate
One can ask the question of predicting the changes in terms of the five physical parameters occurring during a 1D compression of a fibrous mat. The general and rigorous answer to such question is not trivial for the parameters (tortuosity, resistivity, viscous characteristic length, cf. their definition below) which include in their definition some quantities related to fluid mechanics (mainly the microscopic fluid velocities). On the other hand, such dependance is eventually much easier to predict for the “geometrical” parameters [porosity, thermal characteristic length, as given by Eq (8)]:
φ=Vair/Vtotal ; ・・・ (8)
In these expressions, the volume and surface integrals are calculated over an “average” pore inside an homogenization domain having a volume V. The microscopic velocity of the air particles is noted by u, while Δp represents a pressure difference between both sides of a porous layer having a thickness h, for which a QV air flow circulates through the surface S. Some tortuosity measurements have been performed on compressed and uncompressed fibrous mats and are collected in Table 1 below.
Table 1 ・・・
The compression was done by using a special sample holder with a two grid (one coarse and one finer) system on each side enabling to decrease the thickness of the fibrous material (1D compression), with a ratio n=h0/h, fixed to an arbitrary value (n=2). These measurements done with ultrasonic techniques did show that the tortuosity slightly increases, following a simple law of variation, as noted in Eq.(9). In fact, the part over one of tortuosity is simply multiplied by the compression rate factor.
・・・(9)
This relation is difficult to rigorously demonstrate. By contrast, an analogous equation exists for the porosity, that could easily be derived by some simple calculations.
φ(n)=1−n(1−φ(0)) (10) ・・・
In the case of a 2D compression, the above results can be generalized and one obtains the following equations (cf.Appendix for detailed calculations and further explanations):
・・・; φ(n)=1−n2(1−φ(0)) (12) 」(175頁15行〜176頁22行)
「3.圧縮率に対する物理的パラメータの変化
繊維状マットを1次元圧縮している間に生じる5つの物理的パラメータの変化を推定することについての問題に答える。このような問題に対する一般的で正確な答えは、流体力学(主にミクロ的な流体速度)に関する定義上の量を含むパラメータ(迷路度、流れ抵抗、粘性特性長、これらの定義については下記参照)に少なからず関係する。一方で、これにより幾何学的なパラメータ(式(8)で表される多孔度、熱的特性長)を推定することは結果的により簡単となる。
φ=Vair/Vtotal; ・・・ (8)
これらの式において、体積と平面の積分は、体積Vの均質化領域内にある平均的な孔に対して計算される。気流中の粒子のミクロ的な速度はuで表され、表面Sを通してQv空気流れが計算されるのに対して、厚さがhである多孔質層の両側の圧力差がΔpで表される。圧縮された繊維状マットと圧縮されてない繊維状マットに対して迷路度が測定され、下記の表1にまとめて記載された。
表1 ・・・
圧縮は、各側に対して2つのグリッドシステム(一方は粗く他方は細かい)をもつ特殊なサンプルホルダーによって行われ、n=h0/hの比率で繊維状材料の厚さを減らす(1次元圧縮)ことを可能とし、任意にはその値(n=2)は固定される。超音波技術によって行われるこれらの測定は、迷路度が少し増加することを示し、その変化の単純な法則として式(9)で表される。実際、迷路度の一部は圧縮率の要素によって単純に掛けられる。この関係は、正確に行うことは難しい。それに対し、多孔度に対する類似する式が存在し、それは、単純な計算によって簡単に導出されうる。
φ(n)=1−n(1−φ(0)) (10)
・・・
2次元圧縮の場合は、上記結果は、一般化されて、以下の式を得ることができる(詳しい計算と更なる説明は付録参照)。
・・・; φ(n)=1−n2(1−φ(0)) (12) 」

2 引用発明について
上記(引1ウ)の「繊維状材料」は、上記(引1イ)の「多孔質材料(繊維状又は小区画状)」の記載によれば、「多孔質材料」といえる。
そうすると、引用文献1(特に下線部参照)には、次の発明が記載されていると認められる。
「圧縮率に対する物理的パラメータである多孔度の変化を推定する方法であって、
多孔度は、φ=Vair/Vtotalで表され、
n=h0/hの比率で多孔質材料の厚さを減らす(1次元圧縮)とき、多孔度に対して、
φ(n)=1−n(1−φ(0))の式となり、
2次元圧縮の場合は、一般化されて、
φ(n)=1−n2(1−φ(0))の式となる方法。」(以下「引用発明」という。)

第5 対比・判断
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1)変形について
引用発明の「多孔質材料の厚さを減らす」「1次元圧縮」及び「2次元圧縮」は、本願発明の「多孔質材料の変形」に相当する。

(2)受付ステップについて
ア 引用発明の「h0」は、圧縮前の多孔質材料の厚さを示すことから、同じく(0)の添え字を有する引用発明の「φ(0)」は、圧縮前における多孔度を示すことになる。また、引用発明の「φ(n)」は、「n=h0/hの比率で多孔質材料の厚さを減らす」「1次元圧縮」あるいは「2次圧縮」後における多孔度を示すことになる。そうすると、引用発明の「φ(0)」及び「φ(n)」はそれぞれ、本願発明の「多孔質材料の変形前における多孔度φ(1)」及び「多孔質材料の変形後における多孔度φ(P)」に相当する。

イ また、本願発明の「P」は「多孔質材料の体積変化率」であるのに対し、引用発明の「n」は「多孔質材料の厚さを減らす」「比率」である「n=h0/h」であり、n自体は厚さの変化率であるといえるし、n2も厚さの変化率の自乗であるから、多孔質材料のサイズに関する変化率であるといえる。

ウ そして、引用発明において、「φ(n)=1−n(1−φ(0))」又は「φ(n)=1−n2(1−φ(0))」を計算し、「圧縮」後における「多孔度」「φ(n)」を「推定する」するにあたり、(引1ウ)を参照すると「コンピューターによる計算と数値の推定」と記載されていることから、「n」又は「n2」及び「φ(0)」をコンピューターに入力する(すなわちコンピュータが入力を受け付ける)といえる。

エ そうすると、引用発明「φ(n)=1−n(1−φ(0))」又は「φ(n)=1−n2(1−φ2(0))」を計算することと、本願発明の「多孔質材料の変形前における多孔度φ(1)と、前記変形に伴う前記多孔質材料の体積変化率Pとの入力を受け付ける受付ステップ」とは、「多孔質材料の変形前における多孔度φ(1)と、前記変形に伴う前記多孔質材料のサイズに関する変化率との入力を受け付ける受付ステップ」の点で共通する。

(3)【数3】式について
本願発明の(1−φ(1))に対する係数(1/P)と引用発明の(1−φ(0))に対する係数(n又はn2)の両者を、多孔質材料のサイズ(大きさ)に関する変化率についての係数「A」として総称すると、本願発明の「φ(P)=1−(1−φ(1))/P」と、引用発明の「φ(n)=1−n(1−φ(0))」又は「φ(n)=1−n2(1−φ(0))」とは、前記「P」も、「多孔質材料の体積変化率」すなわち、多孔質材料の大きさ(サイズ)の変化率といえることから、「φ(P)=1−A(1−φ(1))」の点で共通するといえる。

(4)推定ステップについて
引用発明の「圧縮率に対する物理的パラメータである多孔度の変化」を「φ(n)=1−n(1−φ(0))」又は「φ(n)=1−n2(1−φ(0))」で「推定する」ことは、「圧縮」後における「多孔度」「φ(n)」を「推定する」ことであるから、本願発明の「多孔質材料の変形後における多孔度φ(P)を」「推定する推定ステップ」に相当する。(5)上記(1)〜(4)を踏まえると、引用発明の「多孔質材料」の「物理的パラメータ」「を推定する方法」は、本願発明の「材料パラメータ推定方法」に相当する。

(6)一致点・相違点について
以上のことから、本願発明と引用発明とは、
(一致点)
「多孔質材料の変形前における多孔度φ(1)と、前記変形に伴う前記多孔質材料のサイズに関する変化率との入力を受け付ける受付ステップと、
前記多孔質材料の変形後における多孔度φ(P)を、
φ(P)=1−A(1−φ(1))
により推定する推定ステップと
を含む材料パラメータ推定方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明では、入力する多孔質材料のサイズに関する変化率が「体積変化率P」であり、係数Aが「1/P」であるのに対し、
引用発明では、入力する多孔質材料のサイズに関する変化率が「多孔質材料の厚さを減らす」「比率」である「n」又はその自乗である「n2」であり、係数Aが「n」又は「n2」である点。

相違点の判断
(1)本願発明の「多孔質材料の変形」について、本願明細書の【0024】に「多孔質材料1は、骨格2と、骨格2の間の空隙3とを有している。多孔質材料1が、成型加工等による圧縮又は膨張といった変形をする場合、骨格2の間の空隙3が変形することが多く、骨格2自体が変形することは稀である。そこで、多孔質材料の変形に伴って空隙のみが変形すると仮定する。」と記載されており、成型加工等による圧縮は、1〜3次元の圧縮を含むものである。

(2)まず、1次元圧縮及び2次元圧縮の場合について検討するに、1次元圧縮の場合は、多孔材料の面積(縦×横)は変わらず、高さのみ「n」(n=h0/h)の比率で圧縮されるから、体積が1/nになり、体積変化率Pとの関係でみると、1/n=P(すなわちn=1/P)となる。また、2次元圧縮の場合は、例えば、多孔材料の縦の長さは変わらず、横と高さが「n」(n=h0/h)の比率で圧縮されるとすると、体積は1/n2となり、体積変化率Pとの関係でみると、1/n2=P(すなわちn2=1/P)となる。
そうすると、1次元圧縮及び2次元圧縮の場合は、「1/P」と「n」及び「n2」とは同じであるから、係数Aの点において両者は同じである。 そして、その際、入力する多孔質材料のサイズに関する変化率として、本願発明では、引用発明の「多孔質材料の厚さを減らす」「比率」である「n」又はその自乗である「n2」に替えて「P」を入力することになる。

(3)次に、3次元圧縮の場合について検討するに、引用発明では3次元圧縮の場合の式について特定されていないが、そもそも、引用発明の「多孔度」は「φ=Vair/Vtotal」として体積(3次元)の比率として定義されるものであるから、引用発明の「圧縮率に対する物理的パラメータである多孔度の変化を推定する方法」は、3次元圧縮についても適用されるものであり、このとき、縦、横、高さの全てが「n」(n=h0/h)の比率で圧縮されるとすると、体積は1/n3となり、体積変化率Pとの関係でみると、1/n3=P(すなわちn3=1/P)となる。
そうすると、引用発明は3次元圧縮の場合について特定されていないが、3次元圧縮の場合についても、係数Aをn3とする、すなわち「1/P」とすることは当業者が容易になし得たことである。
そして、その際、入力する多孔質材料のサイズに関する変化率として、「多孔質材料の厚さを減らす」「比率」である「n」の三乗である「n3」に替えて「P」を入力することになる。

3 効果について
本願明細書は、本願発明の効果について、
「【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、多孔質材料の変形後において材料パラメータを再測定せずに、多孔質材料の変形前における材料パラメータを用いて、当該多孔質材料の変形後における材料パラメータを推定することができるとともに、その推定精度を向上させることができる。」と記載されている。
しかし、本願明細書には、実際に多孔質材料の変形前における多孔度φ(1)と変形に伴う多孔質材料の体積変化率Pを測定し、それらの値から多孔質材料の変形後における多孔度φ(P)を計算した実施例が記載されておらず、本願発明の推定方法によって求めた変形後における多孔度φ(P)の値が、上記引用発明の方法によって求めたものと比較して精度が向上しているとは認められない。そもそも、推定する式の成り立ちが、本願発明と引用発明では基本的に同じであることを鑑みると、精度も同じ程度であると解するのが相当である。

4 請求人の主張について
(1)請求人は、令和4年9月12日に提出された審判請求書に対する手続補正書において、概ね次の主張をしている。
ア 「引用文献1においては、材料の体積が3次元の物理量であるということを踏まえつつ、材料の体積変化の原因となる圧縮が1次元の場合と2次元の場合とに分けそれぞれに限定してパラメータの推定が議論されている、という点が考慮されるべきである。」

イ 「材料の体積変化の原因となる圧縮が、1次元の場合と2次元の場合とに分けそれぞれに限定して議論されている文献1に基づいて、変形の次元に依存しない一般的な体積変化を対象とし単一の式を発明特定事項の一つとしてそれぞれ有する請求項1〜6に係る発明をするに到ることが容易であったとはいえない。」

ウ 「仮に、引用文献1の「n」(compression rate)を、本願の体積変化率Pに置き換えることが可能であったとしても、多孔度φ(n)に関する2つの式(式(10)と、式(12)の右側の式)(引用文献1の第176頁)が単一の式にまとめられることは技術的に有り得ません。したがって、容易であったか否か以前に、請求項1、3及び5の各々に明示されている式に想到すること自体が、引用文献1の文脈上、有り得ません。」

(2)請求人の主張に対する当審の判断
アの主張について
引用発明は、上記第4の2で記載したように、「多孔度は、φ=Vair/Vtotalで表され、n=h0/hの比率で多孔質材料の厚さを減らす(1次元圧縮)とき、多孔度に対して、φ(n)=1−n(1−φ(0))の式となり、2次元圧縮の場合は、一般化されて、φ(n)=1−n2(1−φ(0))の式となる」と認定しており、多孔度の定義が体積比という3次元の物理量であることを踏まえつつ、圧縮が1次元の場合と2次元の場合とに分けて式を認定している。
請求人は「引用文献1では、材料の体積変化の原因となる圧縮が、1次元の場合と2次元の場合とに分けそれぞれに限定して、パラメータの推定が議論されている」と主張しているが、上記2(3)で述べたように、「多孔度」は「φ=Vair/Vtotal」として体積(3次元)の比率として定義されるものであるから、引用発明の「圧縮率に対する物理的パラメータである多孔度の変化を推定する方法」は、3次元圧縮についても適用されるものであり、1次元の場合と2次元の場合とに限定されるべき物理的な理由はない。

イの主張について
上記2(1)で述べたように、例えば、1次元圧縮の場合はPが1/nとなり、2次元圧縮の場合はPが1/n2となり、3次元圧縮の場合はPが1/n3となるだけであり、次元に分けて(縦、横、高さ方向の1〜3次元の圧縮率として)3つの式で記載するか、次元をまとめて(体積の変化率として)1つの式で記載するかは、物理・数学的には同じことであり、請求人の主張する「変形の次元に依存しない一般的な体積変化を対象とし単一の式を発明特定事項の一つとするに到ることが容易であったとはいえない」との主張は、当を得ないことである。

ウの主張について
請求人は「多孔度φ(n)に関する2つの式(式(10)と、式(12)の右側の式)が単一の式にまとめられることは技術的に有り得ません」と主張しているが、式(10)は圧縮が1次元の場合の式であり、式(12)の右側は圧縮が2次元の場合の式であり、上記「イの主張について」で述べたとおり、次元に分けて(縦、横、高さ方向の1〜3次元の圧縮率として)3つの式で記載するか、次元をまとめて(体積の変化率として)1つの式で記載するかは、物理・数学的には同じことであるから、「技術的に有り得ません」との主張は、当を得ないことである。

5 小括
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2023-05-02 
結審通知日 2023-05-08 
審決日 2023-05-23 
出願番号 P2020-099588
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01H)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 樋口 宗彦
特許庁審判官 三崎 仁
伊藤 幸仙
発明の名称 材料パラメータ推定装置、材料パラメータ推定方法、及び材料パラメータ推定プログラム  
代理人 森本 聡二  
代理人 田中 祐  
代理人 奥山 尚一  
代理人 中村 綾子  

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