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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1400174
総通号数 20 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-08-02 
確定日 2023-07-13 
事件の表示 特願2018− 69825「ヒーター」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月17日出願公開、特開2019−179726〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年3月30日の出願であって、その手続の主な経緯は、以下のとおりである。
令和 3年10月27日付け:拒絶理由通知書
同 年12月22日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年 4月14日付け:拒絶査定
同 年 8月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 令和4年8月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年8月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
流れる電流に応じて熱放出をする線状の発熱部材と、前記発熱部材の外面に設けられた絶縁層と、からなるヒーターであって、
前記発熱部材が、50質量%以上のカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ線材を備え、
前記カーボンナノチューブ全体に対する2層構造又は3層構造をもつ前記カーボンナノチューブの割合が、50個数%以上であり、前記カーボンナノチューブがドーピングされているヒーター。
【請求項2】
前記発熱部材が、90質量%以上の前記カーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ線材を備えている請求項1に記載のヒーター。
【請求項3】
前記発熱部材が、前記カーボンナノチューブ線材とカーボンナノチューブ線材以外の材料からなる線材とが併用された部材である請求項1または2に記載のヒーター。
【請求項4】
さらに、前記絶縁層の外面にシースが設けられている請求項1乃至3のいずれか1項に記載のヒーター。
【請求項5】
前記発熱部材の、25℃の雰囲気温度における抵抗値に対する150℃の雰囲気温度における抵抗値の比率が、1.5以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のヒーター。
【請求項6】
前記発熱部材が、長手方向に曲部を有し、前記曲部における前記発熱部材が、カーボンナノチューブ線材である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のヒーター。
【請求項7】
前記発熱部材が屈曲試験を受ける前の発熱量に対する、前記発熱部材が荷重100gf、曲げR2.5mm、曲げ速度1回/秒の条件にて、屈曲試験を10,000回受けた後の発熱量の変化率が50%以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のヒーター。
【請求項8】
前記発熱部材が、カーボンナノチューブ線材の撚り線である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のヒーター。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ線材が、前記絶縁層と接触している請求項1乃至8のいずれか1項に記載のヒーター。
【請求項10】
海中用または宇宙空間用である請求項1乃至9のいずれか1項に記載のヒーター。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のヒーターを用いた温調装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の令和3年12月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
流れる電流に応じて熱放出をする線状の発熱部材と、前記発熱部材の外面に設けられた絶縁層と、からなるヒーターであって、
前記発熱部材が、50質量%以上のカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ線材を備えているヒーター。
【請求項2】
前記発熱部材が、90質量%以上の前記カーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ線材を備えている請求項1に記載のヒーター。
【請求項3】
前記発熱部材が、前記カーボンナノチューブ線材とカーボンナノチューブ線材以外の材料からなる線材とが併用された部材である請求項1または2に記載のヒーター。
【請求項4】
さらに、前記絶縁層の外面にシースが設けられている請求項1乃至3のいずれか1項に記載のヒーター。
【請求項5】
前記発熱部材の、25℃の雰囲気温度における抵抗値に対する150℃の雰囲気温度における抵抗値の比率が、1.5以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のヒーター。
【請求項6】
前記発熱部材が、長手方向に曲部を有し、前記曲部における前記発熱部材が、カーボンナノチューブ線材である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のヒーター。
【請求項7】
前記発熱部材が屈曲試験を受ける前の発熱量に対する、前記発熱部材が荷重100gf、曲げR2.5mm、曲げ速度1回/秒の条件にて、屈曲試験を10,000回受けた後の発熱量の変化率が50%以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のヒーター。
【請求項8】
前記発熱部材が、カーボンナノチューブ線材の撚り線である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のヒーター。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ線材が、前記絶縁層と接触している請求項1乃至8のいずれか1項に記載のヒーター。
【請求項10】
海中用または宇宙空間用である請求項1乃至9のいずれか1項に記載のヒーター。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のヒーターを用いた温調装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「カーボンナノチューブ」について、上記のとおり特定の構造を持つカーボンナノチューブの割合及びカーボンナノチューブ線材への含有処理の限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)の請求項1に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2010−251327号公報(平成22年11月4日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線を当審で付した。以下同様。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、線熱源に関し、特にカーボンナノチューブを利用した線熱源に関するものである。」
「【0076】
前記基体材料と前記自立構造体を有するカーボンナノチューブ構造体とを直接複合して製造する加熱素子において、前記カーボンナノチューブは均一的に分布し、その含有量が1%〜99%であるので、前記加熱素子を利用した熱源の放熱温度を高めることができる。前記加熱素子におけるカーボンナノチューブが、均一的に分布し、導電通路を形成することができ、従来技術におけるカーボンナノチューブが、溶液に分散された濃度に制限されることと比べて、該カーボンナノチューブは、前記加熱素子における含有量が99%に達することができる。」
「【0082】
前記保護層の材料は、例えば、プラスチック、ゴム及び樹脂などの絶縁材料である。前記保護層の厚さは、0.5ミリメートル〜2ミリメートルであることが好ましい。前記保護層を前記加熱素子の、前記反射層と対向する表面と反対する表面に被覆させることにより、前記線熱源を絶縁状態で使用でき、ほこりが前記加熱素子に付着することを防止できる。勿論、前記保護層を設置しなくてもよい。
【0083】
前記線熱源の二つの電極をそれぞれ電源(図示せず)に電気的に接続させ、前記二つの電極により前記加熱素子に電圧を印加した場合、該線熱源における加熱素子のカーボンナノチューブ複合構造体は、所定の波長を有する電磁波を放出することができる。加熱対象が、前記線熱源に直接接触し、又は、前記線熱源と所定の距離を置いて設置されてもよい。前記カーボンナノチューブ構造体から放出された電磁波が生じた熱により、前記加熱対象を加熱することができる。前記加熱素子の寸法及び該加熱素子に印加された電圧を制御することにより、前記加熱素子から放出される熱を制御することができる。前記電圧が一定である場合、前記加熱素子の厚さを変化させることにより、前記加熱素子から放出された電磁波の波長を調整することができる。即ち、前記加熱素子が厚くなるほど、前記加熱素子から放出された電磁波の波長は短くなる。前記加熱素子の厚さが一定である場合、前記加熱素子に印加された電圧が大きくなるほど、前記加熱素子から放出された電磁波の波長は短くなる。従って、前記線熱源は簡単に制御することができる。」
「【0105】
(実施例1)
図15〜図17を参照すると、本発明実施例1は、線熱源20を提供する。該線熱源20は、線状の支持体202と、反射層210と、加熱素子204と、保護層208と、二つの電極206とを含む。」
「【0110】
前記保護層208はゴムからなり、その厚さが0.5ミリメートルである。」
「【0156】
(実施例2)
図21を参照すると、本発明の実施例2による線熱源が提供される。該線熱源30は、加熱素子304、該加熱素子304に間隔を置いて設置され、該加熱素子304に電気的に接続する二つの電極306を含む。前記加熱素子304は、線状のカーボンナノチューブ複合構造体を含む。該線状のカーボンナノチューブ複合構造体は、前記線状のカーボンナノチューブ複合構造体と同じである。前記線状のカーボンナノチューブ複合構造体は、少なくとも、一つのカーボンナノチューブ線状構造体及び基体材料を含み、該基体材料が前記カーボンナノチューブ線状構造体の微孔の中に浸漬される。前記線状のカーボンナノチューブ複合構造体は、基体及び該基体の中に複合された少なくとも一つのカーボンナノチューブ線状構造体を含む。
【0157】
前記カーボンナノチューブ線状構造体を前記金型の中に置って前記液体の熱硬化性の高分子材料を前記金型の中に注射して、該カーボンナノチューブ線状構造体を浸漬した後、加熱することにより、液体の熱硬化性の高分子材料を固化し、線状のカーボンナノチューブ複合構造体を形成するようになることは理解されたい。前記カーボンナノチューブ線状構造体及び基体材料は、実施例1におけるカーボンナノチューブ線状構造体及び基体材料と同じである。前記カーボンナノチューブ線状構造体が自立構造を有するので、前記線状のカーボンナノチューブ複合構造体も自立構造を有する。前記電極306は、前記線状のカーボンナノチューブ複合構造体の表面に設置し、カーボンナノチューブ線状構造体に電気的に接続する。前記電極306の材料は、前記実施例1における電極206の材料と同じである。」







(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は、カーボンナノチューブを利用した線熱源に関するものである(【0001】)。
b 線熱源30は、線状の加熱素子304からなり、加熱素子304は、カーボンナノチューブを含有する線状のカーボンナノチューブ複合構造体を備え、線状のカーボンナノチューブ複合構造体は、自立構造を有するカーボンナノチューブ線状構造体と基体材料とを直接複合して製造されるものである(【0156】、【0157】、【図21】)。
c 二つの電極306をそれぞれ電源に電気的に接続させ、二つの電極306により加熱素子304に電圧を印加した場合、加熱素子304が所定の波長を有する電磁波を放出し、放出された電磁波が生じた熱により、加熱対象を加熱することができる(【0083】、【0156】、【0157】、【図21】)。
d 加熱素子204の外面に絶縁材料であるゴムからなる保護層208を設けて、線熱源20を絶縁状態で使用できるようにし、ほこりが加熱素子204に付着することを防止する(【0082】、【0105】、【0110】、【図17】)。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「電圧を印加すると熱を生じる電磁波を放出する線状の加熱素子からなる線熱源であって、
前記加熱素子が、カーボンナノチューブを含有する線状のカーボンナノチューブ複合構造体を備えている線熱源。」

(エ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の技術(以下、それぞれ「引用文献1記載の技術1」、「引用文献1記載の技術2」という。)が記載されていると認められる。
<引用文献1記載の技術1>
「加熱素子の外面に設けられた絶縁材料であるゴムからなる保護層を備える線熱源。」
<引用文献1記載の技術2>
「基体材料と自立構造体を有するカーボンナノチューブ構造体とを直接複合して製造する加熱素子において、カーボンナノチューブの含有量を99%にする。」

イ 引用文献2、引用文献3
(ア)本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、国際公開第2017/033482号(平成29年3月2日公開。)には、次の記載がある。
「[0022] そこで本実施形態では、低抵抗率のCNT集合体を得るために、ドーピング処理の効果を最大限に引き出すことができる層数を有するCNTが所定比率となるように構成し、且つ、CNT集合体を構成するCNTの総数に対する半導体性CNTの個数の割合を最適化する。
[0023] <CNT集合体を構成する複数のCNTの個数に対する、2層構造又は3層構造を有するCNTの個数の和の比率が75%以上であること>
本実施形態では、複数のCNT11a,11a,・・・を束ねて構成されるCNT集合体11において、複数のCNT11a、11a,・・・の個数に対する、2層構造又は3層構造を有するCNTの個数の和の比率が75%以上である。CNT集合体11を構成するCNTの層数を測定した結果の一例を図3のグラフに示す。同図において、CNT集合体11を構成するCNTの総数(186個)に対し、2層構造を有するCNTの個数(55個)と3層構造を有するCNTの個数(90個)との和の割合が78.0%(=145/186×100)である。すなわち、一のCNT集合体を構成する全CNTの総数をNTOTAL、上記全CNTのうち2層構造を有するCNT(2)の数の和をNCNT(2)、上記全CNTのうち3層構造を有するCNT(3)の数の和をNCNT(3)としたとき、下記式(1)で表すことができる。
(NCNT(2)+NCNT(3))/NTOTAL×100(%)≧75(%) ・・・(1)
[0024] 2層構造又は3層構造のような層数が少ないCNTは、それより層数の多いCNTよりも比較的導電性が高い。また、ドーパントは、CNTの最内層の内部、もしくは複数のCNTで形成されるCNT間の隙間に導入される。CNTの層間距離はグラファイトの層間距離である0.335nmと同等であり、多層CNTの場合その層間にドーパントが入り込むことはサイズ的に困難である。このことからドーピング効果はCNTの内部および外部にドーパントが導入されることで発現するが、多層CNTの場合は最外層および最内層に接していない内部に位置するチューブのドープ効果が発現しにくくなる。以上のような理由により、複層構造のCNTにそれぞれドーピング処理を施した際には、2層構造又は3層構造を有するCNTでのドーピング効果が最も高い。また、ドーパントは、強い求電子性もしくは求核性を示す、反応性の高い試薬であることが多い。単層構造のCNTは多層よりも剛性が弱く、耐薬品性に劣るためにドーピング処理を施すと、CNT自体の構造が破壊されることがある。よって本発明ではCNT集合体に含まれる2層構造又は3層構造を有するCNTの個数に着目する。また、2層又は3層構造のCNTの個数の和の比率が75%未満であると、単層構造或いは4層以上の複層構造を有するCNTの比率が高くなり、CNT集合体全体としてドーピング効果が小さくなり、高導電率が得られない。よって、2層又は3層構造のCNTの個数の和の比率を上記範囲内の値とする。」

(イ)本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、国際公開第2016/208371号(平成28年12月29日公開。)には、次の記載がある。
「[0050] [ナノカーボン層]
本発明におけるナノカーボン層は、少なくともナノカーボンを含有する層である。ナノカーボンとしては、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンの他、短冊形状のグラフェンリボン、カーボンナノチューブの内部にフラーレンを配したピーポッド、円錐形状のナノホーンなどが挙げられる。ナノカーボン層は、これらのナノカーボンを含む塗液を基材やアンダーコート層の上に積層して形成することができる。
[0051] ナノカーボン層の材料として、導電性や生産性の観点からカーボンナノチューブが好ましく用いられる。以下、ナノカーボン層に含有されるナノカーボンとして、カーボンナノチューブを代表例として説明するが、カーボンナノチューブに限定されない。」
「[0054] カーボンナノチューブは、実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有するものであれば特に限定されず、グラファイトの1枚面を1層に巻いた単層カーボンナノチューブ、多層に巻いた多層カーボンナノチューブいずれも適用できるが、中でもグラファイトの1枚面を2層に巻いた特に2層カーボンナノチューブが100本中に50本以上含まれているカーボンナノチューブであると、導電性ならびに塗布用分散液中でのカーボンナノチューブの分散性が極めて高くなることから好ましい。さらに好ましくは100本中75本以上が2層カーボンナノチューブ、最も好ましくは100本中80本以上が2層カーボンナノチューブである。なお、2層カーボンナノチューブが100本中に50本含まれていることを、2層カーボンナノチューブの割合が50%と表示することもある。また、2層カーボンナノチューブは酸処理などによって表面が官能基化されても導電性などの本来の機能が損なわれない点からも好ましい。
[0055] カーボンナノチューブは、例えば次のように製造される。マグネシアに鉄を担持した粉末状の触媒を、縦型反応器中、反応器の水平断面方向全面に存在させ、該反応器内にメタンを鉛直方向に供給し、メタンと前記触媒を500〜1,200℃で接触させ、カーボンナノチューブを製造した後、カーボンナノチューブを酸化処理することにより、単層〜5層のカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブを得ることができる。カーボンナノチューブは製造した後、酸化処理を施すことにより単層〜5層の割合を、特に2層〜5層の割合を増加させることができる。酸化処理は例えば、硝酸処理する方法により行われる。硝酸はカーボンナノチューブに対するドーパントとして作用するため、好ましい。ドーパントとは、カーボンナノチューブに余剰の電子を与える、または電子を奪ってホールを形成する作用をなすものであり、自由に動くことのできるキャリアを生じさせることにより、カーボンナノチューブの導電性を向上させるものである。硝酸処理法はカーボンナノチューブが得られる限り、特に限定されないが、通常、140℃のオイルバス中で行われる。硝酸処理時間は特に限定されないが、5〜50時間の範囲であることが好ましい。」

(ウ)上記(ア)、(イ)から、次の周知技術(以下「周知技術1」という。)が認められる。
<周知技術1>
「カーボンナノチューブ全体に対する2層構造をもつカーボンナノチューブの割合を75個数%以上にし、カーボンナノチューブをドーピングして導電性を向上させる。」

(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明において、「加熱素子」に電圧を印加すると電流が流れることが明らかであり、熱を生じる電磁波を放出するということは、熱を放出するといえるので、引用発明の「電圧を印加すると熱を生じる電磁波を放出する線状の加熱素子」は、本件補正発明の「流れる電流に応じて熱放出をする線状の発熱部材」に相当する。
また、引用発明の「線熱源」は、全体として発熱する部材であるので、本件補正発明の「ヒーター」に相当し、引用発明の「線状のカーボンナノチューブ複合構造体」は、本件補正発明の「カーボンナノチューブ線材」に相当する。
以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「流れる電流に応じて熱放出をする線状の発熱部材からなるヒーターであって、
前記発熱部材が、カーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ線材を備えているヒーター。」
【相違点1】
本件補正発明は、「前記発熱部材の外面に設けられた絶縁層」を備えるのに対し、引用発明は、当該構成について特定されていない点。
【相違点2】
「発熱部材」の「カーボンナノチューブ線材」について、本件補正発明は、「50質量%以上のカーボンナノチューブを含有する」ものであるのに対し、引用発明は、カーボンナノチューブの質量含有率が特定されていない点。
【相違点3】
本件補正発明は、「前記カーボンナノチューブ全体に対する2層構造又は3層構造をもつ前記カーボンナノチューブの割合が、50個数%以上であり、前記カーボンナノチューブがドーピングされている」のに対し、引用発明は、当該構成について特定されていない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用文献1記載の技術1の「保護層」は、絶縁材料であるゴムからなる層であるから、絶縁層であるといえる。
引用発明と引用文献1記載の技術1とは、どちらも線熱源に関するものであり、その技術分野が共通する。そして、上記(2)ア(イ)dのとおり、引用文献1記載の技術1の「保護層」は、線熱源を絶縁状態で使用できるようにし、ほこりが加熱素子に付着することを防止するものであるところ、引用発明のヒーターを絶縁状態で使用できるようにし、発熱部材へのほこりの付着を防止することは、引用発明においても状況に応じて要求され得ることであるから、引用発明において、引用文献1記載の技術1を適用し、発熱部材の外面に絶縁層を設けることは、当業者が容易になし得ることである。

イ 相違点2について
引用文献1の段落【0076】に記載のとおり、カーボンナノチューブは、加熱素子を利用した熱源の放熱温度を高めるものであるから、引用発明において、カーボンナノチューブ線材におけるカーボンナノチューブの含有量は、ヒーターの放熱温度等を考慮して当業者が適宜選択すべき事項であるところ、上記(2)ア(イ)bのとおり、引用発明の発熱部材も基体材料と自立構造体を有するカーボンナノチューブ構造体とを直接複合して製造されるものであるから、引用文献1記載の技術2を適用して、引用発明の発熱部材におけるカーボンナノチューブの含有量を99%にすることに格別の技術的困難性を見いだせない。そして、このようにカーボンナノチューブの含有量を99%にすると、カーボンナノチューブ線材におけるカーボンナノチューブの質量含有率は、本件補正発明と同様の50質量%以上になると認められる。

ウ 相違点3について
引用発明において、発熱部材の導電性を向上させると放熱性能も向上することが明らかであるから、引用発明は、発熱部材の導電性を向上させるという課題を内在するものであるといえる。
そうすると、引用発明において、カーボンナノチューブを含む導電部材の導電性を向上させる技術である周知技術1を適用して、発熱部材のカーボンナノチューブ全体に対する2層構造をもつカーボンナノチューブの割合を75個数%以上にし、カーボンナノチューブをドーピングすることは、当業者が容易になし得ることである。

エ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献1記載の技術1、引用文献1記載の技術2及び周知技術1の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献1記載の技術1、引用文献1記載の技術2及び周知技術1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
令和4年8月2日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年12月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)の請求項1に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1(上記「引用文献1」と同一の文献である。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。



引用文献1:特開2010−251327号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項、並びに、引用発明、引用文献1記載の技術1及び引用文献1記載の技術2は、上記第2[理由]2(2)アに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2[理由]2で補正の適否を検討した本件補正発明から、「前記カーボンナノチューブ全体に対する2層構造又は3層構造をもつ前記カーボンナノチューブの割合が、50個数%以上であり、前記カーボンナノチューブがドーピングされている」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比した場合の相違点は、上記第2[理由]2(3)で挙げた相違点1及び相違点2となるから、上記第2[理由]2(4)における検討内容をふまえれば、本願発明は、引用発明、引用文献1記載の技術1及び引用文献1記載の技術2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2023-05-08 
結審通知日 2023-05-09 
審決日 2023-05-22 
出願番号 P2018-069825
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 岩▲崎▼ 則昌
槙原 進
発明の名称 ヒーター  
代理人 上島 類  
代理人 前川 純一  
代理人 住吉 秀一  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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