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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 E06B |
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管理番号 | 1400420 |
総通号数 | 20 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-08-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-01-25 |
確定日 | 2023-05-22 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6914689号発明「建具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6914689号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6914689号の請求項1、2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6914689号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成29年3月28日に出願され、令和3年7月16日にその特許権の設定登録がされ、同年8月4日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の特許異議の申立ての経緯は以下のとおりである。 令和4年 1月25日 特許異議申立人伊澤 武登(以下「申立人」 という。)による請求項1、2に係る発明の 特許に対する特許異議の申立て 同年 5月12日付け 取消理由通知 同年 7月 7日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 9月 8日 申立人による意見書の提出 同年10月31日 申立人による上申書の提出 同年11月17日付け 取消理由通知(決定の予告) 令和5年 1月17日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 3月22日 申立人による意見書の提出 なお、令和5年1月17日に訂正の請求がされたので、令和4年7月7日にされた先の訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和5年1月17日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、特許第6914689号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを求めるものであって、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所を示す。) (1)本件訂正後の特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の請求項1、2を 「【請求項1】 枠体と、前記枠体内に配置された障子とを備えた建具であって、 前記枠体は、上枠、下枠および左右の縦枠によって構成され、 前記障子は、上框、下框および左右の縦框によって形成された框体の内方に面材を配置して構成され、 前記左右の縦枠および前記左右の縦框のうちの少なくとも一つは、上端から下端まで貫通した中空部が形成された形材によって構成され、 前記中空部の上端部および下端部のみには、前記建具の見込み方向において室内側熱膨張耐火材および室外側熱膨張耐火材が向かい合って配置されており、 前記形材の上端部および下端部には、可燃性部材としてのビスキャップが装着され、 前記室内側熱膨張耐火材および前記室外側熱膨張耐火材は、前記建具の見込み方向において前記ビスキャップを間に挟んで配置されている ことを特徴とする建具。 【請求項2】 請求項1に記載の建具において、 前記形材を補強する補強材が前記中空部に配置され、 前記室内側熱膨張耐火材および前記室外側熱膨張耐火材のうちの少なくとも一方は、前記補強材に取り付けられている ことを特徴とする建具。」 (2)本件訂正の内容 特許請求の範囲の請求項1に「 前記中空部の上端部および下端部には、前記建具の見込み方向において室内側熱膨張耐火材および室外側熱膨張耐火材が向かい合って配置されており、 前記形材の上端部および下端部のうちの少なくとも一方には、可燃性部材が装着され、 前記室内側熱膨張耐火材および前記室外側熱膨張耐火材は、前記建具の見込み方向において前 記可燃性部材を間に挟んで配置されている」と記載されているのを、 「 前記中空部の上端部および下端部のみには、前記建具の見込み方向において室内側熱膨張耐火材および室外側熱膨張耐火材が向かい合って配置されており、 前記形材の上端部および下端部には、可燃性部材としてのビスキャップが装着され、 前記室内側熱膨張耐火材および前記室外側熱膨張耐火材は、前記建具の見込み方向において前記ビスキャップを間に挟んで配置されている」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。 (3)訂正の単位について 本件訂正前の請求項1、2について、訂正前の請求項2は請求項1の記載を直接的に引用しているから、本件訂正前の請求項1及び同請求項1を直接的に引用する請求項2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項に係る訂正は、当該一群の請求項〔1、2〕に対し請求されたものである。 2 本件訂正についての当審の判断 (1)訂正の目的について 訂正事項に係る訂正は、「可燃性部材」について、「可燃性部材としてのビスキャップ」に限定するもの、「建具の見込み方向において室内側熱膨張耐火材および室外側熱膨張耐火材が向かい合って配置され」る形態として、「前記中空部の上端部および下端部のみ」に限定するもの、及び、「前記形材の上端部および下端部のうちの少なくとも一方には、・・・が装着され」とされていたものを、「前記形材の上端部および下端部には、・・・が装着され」と「のうちの少なくとも一方」を削除することにより「装着され」る形態として、「前記形材の上端部および下端部」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)新規事項の追加について 訂正事項に係る訂正が、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるか、検討する。 ア 「可燃性部材としてのビスキャップ」、「前記形材の上端部および下端部には、可燃性部材としてのビスキャップが装着され」ること、「前記室内側熱膨張耐火材および前記室外側熱膨張耐火材は、前記建具の見込み方向において前記ビスキャップを間に挟んで配置され」ることについて 本件明細書等の【0034】には、以下の記載がある(下線は当審において付した。)。 「【0034】 縦框34の下側の小口には、図3に示す樹脂製のガイド部材39およびキャップ部材37が取り付けられている。ガイド部材39は、中空部345を形成している見込み片部342に嵌装されており、キャップ部材37は、ガイド部材39よりも室内側部分において下側の小口を閉塞している。 また、縦框材34Aの見込み片部342には、ビスが挿通される孔部が形成されており、各孔部には樹脂製のビスキャップ353が装着されている。上側の熱膨張耐火材11A,11Bは、縦框34の上側の小口から下方に延びてビスキャップ353を間にして対向して配置されている。下側の熱膨張耐火材11A,11Bは、縦框34の下側の小口から上方に延びてビスキャップ353を間に挟んで配置されている。 前述したキャップ部材37、溝形成部材38、ガイド部材39およびビスキャップ353は、可燃性部材である。」 上記の記載から、本件明細書等の【0034】には、「ビスキャップ353は、可燃性部材である」こと、「上側の熱膨張耐火材11A,11Bは、縦框34の上側の小口から下方に延びてビスキャップ353を間にして対向して配置され」ること、「下側の熱膨張耐火材11A,11Bは、縦框34の下側の小口から上方に延びてビスキャップ353を間に挟んで配置され」ることが記載されている。 イ 「前記中空部の上端部および下端部のみ」について 本件明細書等の【0032】には、以下の記載がある(下線は当審において付した。) 「【0032】 室外見付け片部341の内面および補強材36の補強見付け片部363の室外側の面に沿って熱膨張耐火材11A,11Bがそれぞれ配置されている。 熱膨張耐火材11A,11Bは、図3に示すように縦框34の上端部側および下端部にそれぞれ配置されている。上方の熱膨張耐火材11A,11Bは、図4(A)に示すように、縦框34の見込み方向において互いに対向して配置されている。下方の熱膨張耐火材11A,11Bは、図4(B)に示すように、縦框34の見込み方向において互いに対向して配置されている。」 また、本件明細書等の図3には、以下の記載がある。 「【図3】 ![]() 」 本件明細書等の【0032】には、「熱膨張耐火材11A,11Bは、図3に示すように縦框34の上端部側および下端部にそれぞれ配置され」ることが記載されており、図3から、熱膨張耐火材11A,11Bは、縦框34の上端部側および下端部のみに配置されていることが看取できる。 ウ 新規事項の追加についてのまとめ よって、訂正事項に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 (3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記(1)のとおり、訂正事項に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 小括 したがって、訂正事項に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。 第3 本件訂正発明 上記第2で示したとおり、本件訂正は認容されるので、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ請求項の番号に合わせて「本件訂正発明1」等といい、まとめて「本件訂正発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 枠体と、前記枠体内に配置された障子とを備えた建具であって、 前記枠体は、上枠、下枠および左右の縦枠によって構成され、 前記障子は、上框、下框および左右の縦框によって形成された框体の内方に面材を配置して構成され、 前記左右の縦枠および前記左右の縦框のうちの少なくとも一つは、上端から下端まで貫通した中空部が形成された形材によって構成され、 前記中空部の上端部および下端部のみには、前記建具の見込み方向において室内側熱膨張耐火材および室外側熱膨張耐火材が向かい合って配置されており、 前記形材の上端部および下端部には、可燃性部材としてのビスキャップが装着され、 前記室内側熱膨張耐火材および前記室外側熱膨張耐火材は、前記建具の見込み方向において前記ビスキャップを間に挟んで配置されている ことを特徴とする建具。 【請求項2】 請求項1に記載の建具において、 前記形材を補強する補強材が前記中空部に配置され、 前記室内側熱膨張耐火材および前記室外側熱膨張耐火材のうちの少なくとも一方は、前記補強材に取り付けられている ことを特徴とする建具。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由(決定の予告)について 訂正前の請求項1、2に係る特許に対して、当審において令和4年11月17日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 (進歩性)訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第16号証、甲第17号証)、又は甲第2号証に記載された発明及び周知技術(甲第16号証、甲第17号証)に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項1、2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 ・甲第1号証:特開2016−108835号公報(以下「甲1」という。) ・甲第2号証:特開2015−169023号公報(以下「甲2」という。) ・甲第6号証:特開2014−118748号公報(以下「甲6」という。) ・甲第12号証:特開2017−57709号公報(以下「甲12」という。) ・甲第16号証:実公昭56−3503号公報(以下「甲16」という。) ・甲第17号証:実公昭64−1436号公報(以下「甲17」という。) 2 各甲号証について (1)甲1の記載 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1には以下の記載がある。 ア「【0001】 本発明は、建具に関するもので、特に建具の防火対策に関するものである。 ・・・ 【0007】 本発明は、上記実情に鑑みて、火災発生時に高温状態となった場合に初期段階においても火炎が貫通する事態を防止することのできる建具を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 上記目的を達成するため、本発明に係る建具は、左右の縦框の下端部間に下框を備えるとともに、樹脂製のキャップ部材を前記縦框の下端に装着した障子を開口枠に対して開閉可能に支持させ、かつ前記障子と前記開口枠の下枠との間には、高温状態となった場合に膨張して互いの間の隙間を埋める加熱膨張材を配設した建具であって、前記下框と前記下枠との間においては、前記下框の全長にわたって前記加熱膨張材を配設し、かつ前記縦框と前記下枠との間においては、前記下枠の上面であって前記縦框の下端面を覆う部位に前記加熱膨張材を配設したことを特徴とする。 ・・・ 【0021】 (実施の形態1) 図1〜図3は、本発明の実施の形態1である建具を示したものである。ここで例示する建具は、開口枠10に対して2枚の障子20,30をそれぞれ左右方向に沿ってスライド可能となるように支持させた引き違い窓と称されるものである。 【0022】 開口枠10は、上枠11、下枠12及び左右の縦枠13,14を四周枠組みすることにより構成してある。上枠11、下枠12及び縦枠13,14は、それぞれアルミニウムやアルミニウム合金によって成形した押し出し形材からなる金属枠部分11A,12A,13A,14Aと、樹脂によって成形した押し出し形材からなる樹脂枠部分11B,12B,13B,14Bとを有して構成したものである。金属枠部分11A,12A,13A,14A及び樹脂枠部分11B,12B,13B,14Bは、見込み方向に並設し、かつ金属枠部分11A,12A,13A,14Aを室外側に配置した状態で躯体Bに取り付けてある。 ・・・ 【0024】 2枚の障子20,30は、いずれも矩形状を成すガラス21,31の四周に上框22,32、下框23,33及び左右の縦框24,25,34,35を装着することによって構成したものである。本実施の形態1では、左右の縦框24,25,34,35の間に上框22,32及び下框23,33を配設するようにした障子20,30を示している。上框22,32、下框23,33及び縦框25,34,35は、それぞれアルミニウムやアルミニウム合金によって成形した押し出し形材からなる金属框部分22A,23A,25A,32A,33A,34A,35Aと、樹脂によって成形した押し出し形材からなる樹脂框部分22B,23B,25B,32B,33B,34B,35Bとを有したものである。これら金属框部分22A,23A,25A,32A,33A,34A,35A及び樹脂框部分22B,23B,25B,32B,33B,34B,35Bは、見込み方向に並設した状態で互いに係合し、金属框部分22A,23A,25A,32A,33A,34A,35Aを室外側に配置して障子20,30の框を構成している。これらの障子20,30は、互いに一方の縦框24,35を重ね合わせた状態で左右に並設した場合に開口枠10を閉じることのできる大きさに形成してある。尚、図3からも明らかなように、室外側に配設した障子(以下、区別する場合に「外障子20」という)において室内側に配設した障子(以下、区別する場合に「内障子30」という)の縦框35と重なる縦框24については、アルミニウムやアルミニウム合金によって成形した押し出し形材のみから構成してある。 ・・・ 【0028】 図4−1に代表して示すように、左右の縦框24,25,34,35には、それぞれの下端面にキャップ部材40が装着してある。キャップ部材40は、縦框24,25,34,35の小口端面を覆うように装着するもので、その下面にレール摺動溝41を有している。レール摺動溝41は、下方収容溝20LM,30LMよりも幅の狭い溝であり、下方レール部12aを摺動可能に収容している。 図4−2に示すように、縦框24,25,34,35においてキャップ部材40に対向する内壁面には、加熱膨張材(以下、「縦框膨張材42」という)が配設してある。縦框膨張材42は、下框23,33に配設したものと同様、加熱した場合に膨張するもので、帯状に構成したものが接着剤により縦框24,25,34,35に貼り付けてある。縦框膨張材42は、キャップ部材40を装着した場合、図4−1に示すように、キャップ部材40によって覆われた状態となり、外 部から直接視認することができない。つまり、縦框膨張材42は、縦框24,25,34,35及びキャップ部材40によって囲まれた空間に配設された状態にあり、外部に露出していない。」 イ「【図2】 ![]() 」 ウ「【図3】の一部拡大図 ![]() 」 エ「【図4−1】 ![]() 」 オ「【図4−2】 ![]() 」 図3の一部拡大図からは、図番34Bの引き出し線の始点付近の部材が縦框34であると理解でき、また、図番34Aの引き出し線の始点付近と図番34Bの引き出し線の始点付近の間にあるハッチングされた部材が左に開放されたコ字状部材であることを看取できる。 また、【0028】に、「縦框24,25,34,35においてキャップ部材40に対向する内壁面には、加熱膨張材(以下、「縦框膨張材42」という)が配設してある。」と記載されていることを踏まえると、図4−2からは、縦框24,25,34,35の下端部の内壁面に、縦框膨張材42が室内側の内壁面と室外側の内壁面に配設されることが看取され、また、室外側の縦框膨張材42の左端下部から下に向けて延び、室内側の縦框膨張材42の下部にL字状部材が配設されることが看取される。 そして、建具の技術分野における技術常識を勘案すれば、これらコ字状部材とL字状部材が縦框34の補強部材であることは明らかであるから、縦框24,25,34,35の内壁面に補強部材を設け、室内側の縦框膨張材42は補強部材に配設されているといえる。 また、図4−2からは、縦框24,25,34,35の下端部が中空となっていることが看取でき、【0024】には、縦框24については、アルミニウムやアルミニウム合金によって成形した押し出し形材のみから構成することが記載されているところ、押し出し形材の断面形状が全長にわたって略一定であることは技術常識であるから、縦框24は、上端部から下端部まで中空部が形成された形材から構成されているといえる。 カ 上記ア〜オの記載によれば、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 【甲1発明】 開口枠10に対して2枚の障子20,30をそれぞれ左右方向に沿ってスライド可能となるように支持させた引き違い窓であって、 開口枠10は、上枠11、下枠12及び左右の縦枠13,14を四周枠組みすることにより構成してあり、 2枚の障子20,30は、いずれも矩形状を成すガラス21,31の四周に上框22,32、下框23,33及び左右の縦框24,25,34,35を装着することによって構成したものであり、 縦框25,34,35は、それぞれアルミニウムやアルミニウム合金によって成形した押し出し形材からなる金属框部分22A,23A,25A,32A,33A,34A,35Aと、樹脂によって成形した押し出し形材からなる樹脂框部分22B,23B,25B,32B,33B,34B,35Bとを有し、金属框部分22A,23A,25A,32A,33A,34A,35A及び樹脂框部分22B,23B,25B,32B,33B,34B,35Bは、見込み方向に並設した状態で互いに係合し、金属框部分22A,23A,25A,32A,33A,34A,35Aを室外側に配置して障子20,30の框を構成し、縦框35と重なる縦框24については、アルミニウムやアルミニウム合金によって成形した押し出し形材のみから構成してあり、 縦框24は、上端部から下端部まで中空部が形成された形材から構成され、 左右の縦框24,25,34,35には、それぞれの下端面に縦框24,25,34,35の小口端面を覆うように樹脂製のキャップ部材40が装着してあり、 縦框24,25,34,35において樹脂製のキャップ部材40に対向する室内側の内壁面と室外側の内壁面には、縦框膨張材42が配設してあり、 縦框24,25,34,35の内壁面に補強部材を設け、室内側の縦框膨張材42は補強部材に配設されている 引き違い窓。 (2)甲2の記載 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2には以下の記載がある。 ア「【0007】 そこで、本発明では、引戸本体に形成される欠損部(開口部)に生じる隙間を通じた煙や火炎の噴出、さらには、隙間を通じた延焼を防ぐための新規な構造を提案するものである。 ・・・ 【0019】 図1は、引戸式開口部装置1の全体構成について示す図である。引戸式開口部装置1は、開口部枠10と、引戸本体20を有している。開口部枠10は、建物開口部に設置されるものであり、上枠(開口部上枠)11と、下枠(開口部下枠)12と、縦枠(戸先側開口部縦枠)13,縦枠14とから矩形状に組んで構成される。 ・・・ 【0022】 引戸本体20の上部は上枠11内に配置される吊車によって吊設されている。引戸本体20の下部は下枠12に設けたガイド部によってガイドされる。なお、本実施例では吊車により引戸本体が吊り下げられる吊タイプの引戸式開口部装置とするが、この実施例に限定されるものではなく、本発明は、戸車により引戸本体の荷重を支える構成とする引戸式開口部装置にも適用することができる。 ・・・ 【0024】 図2に示すごとく、引戸本体20の上框21と下框22の間は断熱面材27で構成されており、断熱仕様の引戸として構成されている。 ・・・ 【0032】 図3は、図1のB−B線における引戸式開口部装置1の水平断面図である。図3において、引戸本体20の下側の空間を室外側Mとし、上側の空間を室内側Nとし、この二つの空間が引戸本体20を閉じることによって分離される。引戸本体20の戸先框23と戸尻框24の間は断熱面材27で構成されており、断熱仕様の引戸として構成されている。また、戸先框23は、引戸本体20の戸先部を構成し、戸尻框24は、引戸本体20の戸尻部を構成している。 ・・・ 【0037】 次に、図4に示すごとく、引戸本体20の戸先側の戸先框23の部位について説明する。 戸先框23は、受け部23a,23b、接続部23c,23dを有する断面視矩形状の長尺部材にて構成されており、本実施例では、中空部23mを有するアルミ押出形材(ホロー形材)にて構成されている。 ・・・ 【0039】 引戸式開口部装置1の縦枠13において、端面部材23xと対向する見込面部13cには、耐火部材53aが設けられる。この耐火部材53aは、市販品を用いることができ特に限定されるものではないが、例えば、積水化学工業株式会社製の商品名「フィブロック」(登録商標)といった、有機系耐火材を使用することができる。このような耐火材は、通称、「加熱発泡材」として知られるものであり、通常の状態では柔軟な薄いシート状で、200℃以上に加熱されると発泡して厚さ方向に5〜40倍に膨張し、断熱層を形成するため、本発明の実施に好適である。また、火災時の焼失や、有害ガス発生もないといった利点もある。また、貼着で設置することやリベット留めが可能なため、特に、長尺部材に対する施工においては、施工性にも優れたものとなる。 ・・・ 【0044】 また、図4乃至図6に示すごとく、引戸本体20の戸先側の戸先框23において、内部の中空部23mには、戸先框23の内部に耐火部材53b,53cを配設するための不燃材26が配置される。不燃材26は、その見込面部26dを戸先框23の接続部23dにビス留めなどにより固定することができる。 【0045】 本実施例の不燃材26は、断面視略コ字状の長尺の枠材にて構成され、特に強度を確保することを目的とするものでなく、スチール製の薄板を板金加工したもので構成されている。後述する欠損部26kは、板金加工(折り曲げ加工)の前に、プレス打ち抜きなどにより形成することができる。なお、内装部材26を補強目的も含めて設置する場合には、より肉厚の構造部材を用いることとしてもよい。 ・・・ 【0054】 さらに、不燃材26の対向部26a,26b,見込面部26dの各部位の内側面には、それぞれ耐火部材53cが配設されている。これにより、火災時には、不燃材26の内側の空間、即ち、戸先框23の中空部23mの内部を耐火部材53cで隙間無く埋めることが可能となり、中空部23mを通じた煙や火炎の噴出、及び、それに伴う延焼を防止することができる。 ・・・ 【0056】 また、図7(A)(B)に示すように、複数の不燃材26A,26Bを連続させて戸先框23内に配設することとしてもよい。また、戸先框23に形成される欠損部23kの各形状と、当該欠損部23kに対応する位置に配置されることになる不燃材26A,26Bの欠損部26kの各形状は、同一であってもよく、また、別形状であってもよい。 ・・・ 【0143】 また、図6に示すごとく、不燃材26は、互いに対向する対向部26a,26bと、対向部26a,26bを渡すように設けられる接続部26dと、からなる断面コ字状の部材で構成され、対向部26a,26bと接続部26dで囲まれる領域に耐火部材53cが配置される。 【0144】 これにより、耐火部材53cを設置するための広い面積を確保することができ、高い防火性能を確保できる。また、開放側から箱錠等の各種の付属部品を挿入して配設することができ、組立容易性を確保できる。」 イ「【図4】 ![]() 」 ウ「【図5】 ![]() 」 図4、5からは、戸先框23の不燃材26の見込み方向の対向部26a,26b,見込面部26dの各部位の内側面には、それぞれ耐火部材53cが配設されていることが看取される。 エ 上記ア〜ウの記載によれば、甲2には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 【甲2発明】 開口部枠10と、引戸本体20を有した引戸式開口部装置1であって、 開口部枠10は、上枠(開口部上枠)11と、下枠(開口部下枠)12と、縦枠(戸先側開口部縦枠)13,縦枠14とから矩形状に組んで構成され、 引戸本体20の上部は上枠11内に配置される吊車によって吊設され、引戸本体20の上框21と下框22と戸先框23と戸尻框24の間は断熱面材27で構成され、 戸先框23は、中空部23mを有するアルミ押出形材(ホロー形材)にて構成され、 戸先框23の内部に加熱発泡材である耐火部材53b,53cを配設するための補強目的の構造部材を用いた複数の不燃材26を連続させて配置し、不燃材26の見込み方向の対向部26a,26b,見込面部26dの各部位の内側面には、それぞれ加熱発泡材である耐火部材53cが配設される 引戸式開口部装置1。 (3)甲6の記載 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6には以下の記載がある。 ア「【0015】 図1に示すように、下框19の中空部20の内部には断面略コ字形状を成すスチール製の補強材45が設けてあり、図2及び図3に示すように、左右の竪框21a、21bの中空部22の内部にも断面略コ字形状を成すスチール製の補強材46が設けてある。 下框補強材45の左右端部には、その室内側見付面に第9熱膨張耐火材32iが設けてあり、各竪框補強材46の上端部と下端部とには、各々室内側見付面に第10熱膨張耐火材32jが設けてある。 第9熱膨張耐火材32iは、火災時の熱により膨張して補強材45を下框19に止めているねじとねじ孔との隙間を塞ぎ、第10熱膨張耐火材32jは、火災時の熱により膨張して補強材46を各竪框21a、21bに止めているねじとねじ孔との隙間を塞ぐ。 尚、図1に示すように、下框19の補強材45の下面には、水抜き孔(図示せず)に対向する位置に第13熱膨張耐火材32nが設けてあり、火災時に対向する位置に形成してある水抜き孔を塞ぐようになっている。 図1及び図2に示すように、ガラス4の四周にはガラスの端部を保持するグレイジングガスケット49が設けてあり、各障子の框17、19、21a、21bのガラス保持溝29には、溝壁とグレイジングガスケット49との間にスチール製のガラス保持溝補強材53が設けてある。」 イ「【図2】 ![]() 」 ウ「【図3】 ![]() 」 (4)甲12の記載 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲12には以下の記載がある。 ア「【技術分野】 【0001】 本発明は、建物開口部に設けられ、アルミ材の押出形材により形成される建具に関する。」 イ「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 建具の分野においては、以前より、耐食性に優れ、軽量で施工性にも優れたアルミニウム合金による建具が開発され、現在では主流となっているが、アルミニウムは強度面においては鉄に及ぶものではなく、大型の窓等の長尺の枠材や框材等においてはアルミニウムよりも強度の高い鋼製の補強部材により補強することが行われていた。 また、近年、建具においても高い防火性能が求められるようになり、融点が鉄よりも低いアルミニウム合金よりなる建具に対しては、防火上有害な変形が生じないように鋼製の補強部材を設けることなどが求められ(例えば、社団法人カーテンウォール・防火開口部協会が2002年に発行した「アルミニウム合金製防火戸標準仕様書の解説」等)、また、先行技術文献に示すようにアルミ製の框材に鋼製の補強部材を配置することにより、火災時に框材が融解して障子が崩れ落ちる等の変形を防止する建具が開発されている。 このように、従来の建具においては、アルミニウムという材料の特性を生かして軽量で施工性、操作性に優れた建具を形成しながら、アルミニウム製であることの弱点を鋼製の補強部材によって補うことで、強度の高い、防火性にも優れ、全体としてバランスのとれた建具を形成していた。」 ウ「【0019】 召合框(右縦框)34の縦框本体部34aの中空部内には、アルミ製の補強部材74が縦框の長手方向に沿って挿入されている。補強部材74は、中空部内の室外側に配置される見付面74a及び見付面74aの左右端から室内側に向けて連続する左右の見込面74b,74cからなる断面略U字形状の長尺部材からなり、見付面74aの左端に連続する見込面74cがガラス間口に配置される鋼製の補強部材62とともに、召合框34のガラス間口の底部にネジ等の固定手段によって連結固定されている。そして、補強部材74は、上下框との接合に影響を及ぼすなど特段の事情がなければ、できるだけ召合框(右縦框)34の長手方向の広範囲に亘って配置することが好ましく、少なくともガラス間口の全長に亘って配置できる長さを有することが好ましい。もっとも、補強部材74に上下框との接合に必要なネジ孔を設けるなどの処理を施すことにより召合框(右縦框)34の略全長に亘って設けることも可能であり、また、建具の使用形態等に応じて、特に補強が必要となる召合框(右縦框)34の長手方向の一部区間に設けることも可能である。 なお、補強部材74の見付面74aには、熱膨張部材fが配置されている。」 (5)甲16の記載 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲16には以下の記載がある。 ア「この考案は、アルミニウム製サツシ堅框材側壁面等に並設された穿切円孔、例えば障子組立ビス透孔、戸車調整孔を一筒の部品で塞ぐ孔塞片に関するものである。」(1欄22行〜25行) イ「以下実施例を図面により説明すると、障子外召合框Bの側壁下部に上下に並設して障子組立ビス透孔および戸車調整孔を穿設した上下円孔7,8に孔塞片Aを外接挿嵌したもので、孔塞片Aは弾性に富む樹脂からなり、基板1の裏面上部に水平に突出し、中間部に頸部2が設けられた先細筒状体3が設けられている。」(1欄36行〜2欄5行) ウ「 ![]() 」 エ「 ![]() 」 オ「 ![]() 」 (6)甲17の記載 本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲17には以下の記載がある。 ア「本考案を図面に示した実施例について説明すれば、1は竪框、2は横框で、横框2の端縁にはタツピングねじ孔3を設けてあり、前記竪框1は互に対応する内外の部片4a,4bを備え、内部片4aに前記ねじ孔3に螺入するタツピングねじ5の頭部5′を係止するねじ通し孔6を設け、この通し孔6と一致する位置にして透孔7を前記外部片4bに設けてある。 図示8は孔塞ぎで、孔塞ぎ8は軟質合成樹脂から成る筒体9の外周に、外側鍔10と外側テーパー突縁11との間に前記透孔7に嵌合する凹部12を設け、筒体9の内側中間位置に肉薄の塞板13を設け、この塞板13に放射方向の数個の切目14を附して成りこの孔塞ぎ8を前記透孔7に嵌着したとき、該先端8′とねじ通し孔6を設けた前記内部片4aとの間隙aよりも前記タツピングねじ5を長く構成するのである。 しかして、孔塞ぎ8を竪框1の外部片4bに設けた透孔7に圧入し、透孔7に凹部12において嵌着して、透孔7を孔塞ぎ8の内部における軟質合成樹脂からなる塞板13によつて塞ぐ。」(2欄14行〜3欄10行) イ「 ![]() 」 ウ「 ![]() 」 3 進歩性(甲1を主引用発明とするもの)について (1)本件訂正発明1について ア 対比 本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「開口枠10」、「障子20,30」、「引き違い窓」は、それぞれ本件訂正発明1の「枠体」、「障子」、「建具」に相当し、これを踏まえると、甲1発明の「開口枠10に対して2枚の障子20,30をそれぞれ左右方向に沿ってスライド可能となるように支持させた引き違い窓」は、本件訂正発明1の「枠体と、前記枠体内に配置された障子とを備えた建具」に相当する。 (イ)甲1発明の「上枠11」、「下枠12」、「左右の縦枠13,14」は、それぞれ本件訂正発明1の「上枠」、「下枠」、「左右の縦枠」に相当し、これを踏まえると、甲1発明の「開口枠10は、上枠11、下枠12及び左右の縦枠 13,14を四周枠組みすることにより構成してあり」は、本件訂正発明1の「前記枠体は、上枠、下枠および左右の縦枠によって構成され」に相当する。 (ウ)甲1発明の「上框22,32」、「下框23,33」、「左右の縦框24,25,34,35」、「矩形状を成すガラス21,31」は、それぞれ本件訂正発明1の「上框」、「下框」、「左右の縦框」、「面材」に相当し、これを踏まえると、甲1発明の「2枚の障子20,30は、いずれも矩形状を成すガラス21,31の四周に上框22,32、下框23,33及び左右の縦框24,25,34,35を装着することによって構成したものであり」は、本件訂正発明1の「前記障子は、上框、下框および左右の縦框によって形成された框体の内方に面材を配置して構成され」に相当する。 (エ)甲1発明の「縦框24」が「上端部から下端部まで中空部が形成された形材から構成され」ることは、本件訂正発明1の「前記左右の縦枠および前記左右の縦框のうちの少なくとも一つは、上端から下端まで貫通した中空部が形成された形材によって構成され」ることに相当する。 (オ)甲1発明では「縦框24,25,34,35において樹脂製のキャップ部材40に対向する室内側の内壁面と室外側の内壁面には、縦框膨張材42が配設してあり」、「左右の縦框24,25,34,35には、それぞれの下端面に縦框24,25,34,35の小口端面を覆うように樹脂製のキャップ部材40が装着してあ」ることから、甲1発明の「縦框24,25,34,35」の下端部では、対向する室内側の内壁面と室外側の内壁面、すなわち、引き違い窓の見込み方向において、縦框膨張材42が配設されている。ここで、甲1発明の「室内側の縦框膨張材42」、「室外側の」「縦框膨張材42」は、それぞれ本件訂正発明1の「室内側熱膨張耐火材」、「室外側熱膨張耐火材」に相当する。 よって、甲1発明の上記の点と本件訂正発明1の「前記中空部の上端部および下端部のみには、前記建具の見込み方向において室内側熱膨張耐火材および室外側熱膨張耐火材が向かい合って配置されて」いる点とは、「前記中空部の下端部には、前記建具の見込み方向において室内側熱膨張耐火材および室外側熱膨張耐火材が向かい合って配置されて」いる点で共通する。 (カ)甲1発明の「縦框24」の「下端面」、「樹脂製のキャップ部材40」は、それぞれ本件訂正発明1の「前記形材の」「下端部」、「可燃性部材」に相当する。 よって、甲1発明と本件訂正発明1とは「前記形材の下端部には、可燃性部材が装着され」ている点で共通する。 以上によれば、本件訂正発明1と甲1発明は、以下の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「枠体と、前記枠体内に配置された障子とを備えた建具であって、 前記枠体は、上枠、下枠および左右の縦枠によって構成され、 前記障子は、上框、下框および左右の縦框によって形成された框体の内方に面材を配置して構成され、 前記左右の縦枠および前記左右の縦框のうちの少なくとも一つは、上端から下端まで貫通した中空部が形成された形材によって構成され、 前記中空部の下端部には、前記建具の見込み方向において室内側熱膨張耐火材および室外側熱膨張耐火材が向かい合って配置されており、 前記形材の下端部には、可燃性部材が装着される 建具。」 【相違点1】 本件訂正発明1では、「前記中空部の上端部および下端部のみには、前記建具の見込み方向において室内側熱膨張耐火材および室外側熱膨張耐火材が向かい合って配置されて」いるのに対して、 甲1発明では、「縦框膨張材42」が、少なくとも縦框24,25,34,45の下端部には配設してあるものの、上端部と下端部のみに配設してあるか否かが不明である点。 【相違点2】 「可燃性部材」について、 本件訂正発明1では、「前記形材の上端部および下端部には、可燃性部材としてのビスキャップが装着され、前記室内側熱膨張耐火材および前記室外側熱膨張耐火材は、前記建具の見込み方向において前記ビスキャップを間に挟んで配置されている」のに対して、 甲1発明では、樹脂製のキャップ部材40(可燃性部材)が縦框24の下端面に配設されてはいるものの、ビスキャップは配設されておらず、それにより、室内側の縦框膨張材42(室内側熱膨張耐火材)、室外側の縦框膨張材42(室外側熱膨張耐火材)は、引き違い窓(建具)の対向する室内側の内壁面と室外側の内壁面(見込み方向)において、ビスキャップを間に挟んで配設されていない点。 イ 上記相違点1について検討する。 甲1発明は、縦框の中空部の下端部に関する発明であって上端部の詳細については不明であり、特に建具の防火対策に関するもの(【0001】)であり、初期の段階においては、下枠に対する障子の変形を抑えることが困難となり、障子の変形に起因して火炎が貫通するおそれがある(【0006】)ところ、 火災発生時に高温状態となった場合に初期段階においても火炎が貫通する事態を防止することのできる建具を提供することを目的(【0007】)とする発明である。 そして、火災時において、縦框の中空部の上端部の温度上昇と、その下端部の温度上昇とが同条件とはならないことは技術常識であるといえる。 そうすると、下枠に対する障子の変形に起因して火炎が貫通することを防止する甲1発明において、縦框24,25,34,35の下端部において、対向する室内側の内壁面と室外側の内壁面に配設された縦框膨張材42と同じ態様の縦框膨張材42を、火災時に温度上昇が同条件とはならない縦框24,25,34,35の上端部のみに配設する動機付けがあるとはいえないことから、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 また、縦框膨張材42を、縦框24,25,34,35の上端部及び下端部のみに配設することは、甲1には記載も示唆もされておらず、また、取消理由において提示した他の甲号証の記載及び周知技術を検討しても、当業者といえども容易になし得たことではない。 さらに、上記取消理由通知では引用しなかったものの、申立人が異議申立書に添付して提出した甲第3号証(特開2016−79722号公報)、甲第4号証(特許第5658079号公報)、甲第5号証(特開2015−187332号公報)、甲第8号証(特許第3996860号公報)、甲第10号証(特開2012−62675号公報)、甲第11号証(特開2016−30989号公報)、甲第13号証(特開2015−57540号公報)、甲第14号証(特開2001−241266号公報)及び令和4年9月8日付け意見書に添付して提出したその他の甲号証にも縦框の上端部及び下端部のみに熱膨張耐火材を配設することは記載も示唆もされていない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、令和5年3月22日付け意見書において、「・・・下端部であろうが上端部であろうが火災時に塞がれていなければ、縦框の中空部に火炎が入り込むことや中空部がその経路になることは当業者であれば分かることである。甲1に火災時に縦框の中空部自体の貫通防止という課題や効果は、明示の記載がないとしても、甲1発明が係る課題や効果を有することは当該一致点の構成から自明な事項として導けるものである。 ・・・ よって、縦框の下端部と同じ構造が上端部にあるのは当然のことであり、上端部に縦框膨張材を設けることに動機付けがないとする主張は的外れである。 したがって、特許権者の主張は、決定の予告の訂正発明1と甲1発明の相違点に関する、「イ」の相違点1の検討結果(第27頁)及び「ウ」の相違点2の検討結果(第28頁)を何ら左右するものではない。」(3頁8〜24行)と主張する。 しかしながら、上記イで検討したとおり、甲1発明の縦框膨張材42を縦框24,25,34,35の上端部及び下端部のみに配設することは、甲1には記載も示唆もされておらず、また、取消理由において提示した他の甲号証の記載及び周知技術を検討しても、当業者が容易になし得たことであるということはできない。 したがって、申立人の主張には理由がない。 エ 小括 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件訂正発明2について 本件訂正発明2は、本件訂正発明1が有する構成を全て有し、さらに構成を付加したものである。 そして、上記(1)に示したとおり、本件訂正発明2が有する本件訂正発明1の構成は、甲1発明及び周知技術を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、本件訂正発明2において付加された構成について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲1発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4 進歩性(甲2を主引用発明とするもの)について (1) 本件訂正発明1について ア 対比 本件訂正発明1と甲2発明とを対比する。 (ア)甲2発明の「開口部枠10」、「引戸本体20」、「引戸式開口部装置1」は、それぞれ本件訂正発明1の「枠体」、「障子」、「建具」に相当し、これを踏まえると、甲2発明の「開口部枠10と、引戸本体20を有した引戸式開口部装置1」は、本件訂正発明1の「枠体と、前記枠体内に配置された障子とを備えた建具」に相当する。 (イ)甲2発明の「上枠(開口部上枠)11」、「下枠(開口部下枠)12」、「縦枠(戸先側開口部縦枠)13,縦枠14」は、それぞれ本件訂正発明1の「上枠」、「下枠」、「左右の縦枠」に相当し、これを踏まえると、甲2発明の「開口部枠10は、上枠(開口部上枠)11と、下枠(開口部下枠)12と、縦枠(戸先側開口部縦枠)13,縦枠14とから矩形状に組んで構成され」は、本件訂正発明1の「前記枠体は、上枠、下枠および左右の縦枠によって構成され」に相当する。 (ウ)甲2発明の「上框21」、「下框22」、「戸先框23と戸尻框24」、「断熱面材27」は、それぞれ本件訂正発明1の「上框」、「下框」、「左右の縦框」、「面材」に相当し、これを踏まえると、甲2発明の「引戸本体20の上框21と下框22と戸先框23と戸尻框24の間は断熱面材27で構成され」は、本件訂正発明1の「前記障子は、上框、下框および左右の縦框によって形成された框体の内方に面材を配置して構成され」に相当する。 (エ)甲2発明の「戸先框23」、「中空部23mを有するアルミ押出形材(ホロー形材)にて構成され」ることは、それぞれ本件訂正発明1の「前記左右の縦枠および前記左右の縦框のうちの少なくとも一つ」、「上端から下端まで貫通した中空部が形成された形材によって構成され」ることに相当する。 (オ)甲2発明では、「見込み方向の対向部26a,26b」に「それぞれ加熱発泡材である耐火部材53cが配設され」ているから、甲2発明の「それぞれ」「配設され」た「加熱発泡材である耐火部材53c」は、本件訂正発明1の「室内側熱膨張耐火材および室外側熱膨張耐火材」に相当する。 また、甲2発明では、「戸先框23の内部に加熱発泡材である耐火部材53b,53cを配設するための・・・複数の不燃材26を連続させて配置し」ていることから、「戸先框23」の「中空部23m」の上端部及び下端部には「見込み方向の対向部26a,26b」に「それぞれ加熱発泡材である耐火部材53cが配設され」ているといえる。 よって、甲2発明と本件訂正特許1とは「前記中空部の上端部および下端部には、前記建具の見込み方向において室内側熱膨張耐火材および室外側熱膨張耐火材が向かい合って配置され」る点で共通する。 以上によれば、本件訂正発明1と甲2発明は、以下の点で一致点及び相違点を有する。 (一致点) 枠体と、前記枠体内に配置された障子とを備えた建具であって、 前記枠体は、上枠、下枠および左右の縦枠によって構成され、 前記障子は、上框、下框および左右の縦框によって形成された框体の内方に面材を配置して構成され、 前記左右の縦枠および前記左右の縦框のうちの少なくとも一つは、上端から下端まで貫通した中空部が形成された形材によって構成され、 前記中空部の上端部および下端部には、前記建具の見込み方向において室内側熱膨張耐火材および室外側熱膨張耐火材が向かい合って配置されている 建具。 【相違点A】 本件訂正発明1では、「前記中空部の上端部および下端部のみには、前記建具の見込み方向において室内側熱膨張耐火材および室外側熱膨張耐火材が向かい合って配置されている」のに対して、 甲2発明では、「戸先框23の内部に加熱発泡材である耐火部材53b,53cを配設するための補強目的の構造部材を用いた複数の不燃材26を連続させて配置し、不燃材26の見込み方向の対向部26a,26b,見込面部26dの各部位の内側面には、それぞれ加熱発泡材である耐火部材53cが配設され」ているものの、戸先框23の上端部および下端部のみに、耐火部材53cが配設されていない点。 【相違点B】 本件訂正発明1では、「前記形材の上端部および下端部には、可燃性部材としてのビスキャップが装着され、前記室内側熱膨張耐火材および前記室外側熱膨張耐火材は、前記建具の見込み方向において前記ビスキャップを間に挟んで配置されている」のに対して、 甲2発明では、戸先框23の上端部および下端部に可燃性部材としてのビスキャップが装着されているか否かが不明であり、それにより、可燃性部材としてのビスキャップを間に挟んで引戸式開口部装置1の見込み方向に加熱発泡材である耐火部材53cが配置されているかも不明である点。 イ 上記相違点Aについて検討する。 甲2の【0044】には、「また、図4乃至図6に示すごとく、引戸本体20の戸先側の戸先框23において、内部の中空部23mには、戸先框23の内部に耐火部材53b,53cを配設するための不燃材26が配置される。不燃材26は、その見込面部26dを戸先框23の接続部23dにビス留めなどにより固定することができる。」と記載され、同【0054】には、「さらに、不燃材26の対向部26a,26b,見込面部26dの各部位の内側面には、それぞれ耐火部材53cが配設されている。これにより、火災時には、不燃材26の内側の空間、即ち、戸先框23の中空部23mの内部を耐火部材53cで隙間無く埋めることが可能となり、中空部23mを通じた煙や火炎の噴出、及び、それに伴う延焼を防止することができる。」と記載されている。 そうすると、甲2においては、戸先框23(前記左右の縦枠および前記左右の縦框のうちの少なくとも一つ)において、内部の中空部23mには、戸先框23の上端部から下端部にわたって不燃材26が配置され、不燃材26に耐火部材53cが配設されていることから、耐火部材53cは、戸先框23の上端部から下端部にわたって配置されることとなるため、戸先框23の上端部から下端部のみに耐火部材53cを配設することは、記載も示唆もされておらず、また、甲2におけるその余の記載、及び、取消理由において提示した他の甲号証の記載、周知技術を検討しても、当業者といえども容易になし得たことではない。 また、上記取消理由通知では引用しなかったものの、申立人が異議申立書に添付して提出した甲第3号証(特開2016−79722号公報)、甲第4号証(特許第5658079号公報)、甲第5号証(特開2015−187332号公報)、甲第8号証(特許第3996860号公報)、甲第10号証(特開2012−62675号公報)、甲第11号証(特開2016−30989号公報)、甲第13号証(特開2015−57540号公報)、甲第14号証(特開2001−241266号公報)及び令和4年9月8日付け意見書に添付して提出したその他の甲号証にも縦框の上端部及び下端部のみに熱膨張耐火材を配設することは記載も示唆もされていない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、令和5年3月22日付け意見書において、「特許権者は、意見書(第5頁第15行〜第6頁第22行)において、甲2の[0054]・・・戸先框23の中空部mの内部を耐火部材53cで隙間なく埋めることが可能となり」という記載を指摘し、「この点を考慮すると、甲2では、耐火部材53cは中空部23mの内部を隙間無く埋めるために戸先框23の全長にわたって設けられるものであると考えられ」(意見書第5頁第25〜26行)るなどと、記載もされていないことを導いている。 甲2に、耐火部材を戸先框23の全長にわたって設けるなどということは一言も記載されていない。 甲2に記載の発明は、甲2「[0052] これにより、火災時においては、戸先框23の受け部23a,23bに形成された欠損部23kと、不燃材26の対向部26a,26bに形成された欠損部26kとの間の隙間を耐火部材53bによって埋める、或いは、狭めることができ、当該隙間を通じた煙や火炎の噴出、及び、それに伴う延焼を防止することができる。」と記載されているように欠損部の防火に注目した発明である。」(3頁30行〜4頁10行)と主張する。 しかしながら、甲2の【0052】には、「戸先框23の受け部23a,23bに形成された欠損部23kと、不燃材26の対向部26a,26bに形成された欠損部26kとの間の隙間を耐火部材53bによって埋める、或いは、狭める」ことにより、「戸先框23の受け部23a,23bに形成された欠損部23kと、不燃材26の対向部26a,26bに形成された欠損部26kとの間の」「隙間を通じた煙や火炎の噴出、及び、それに伴う延焼を防止すること」が記載されており、申立人が主張するような欠損部の防火に注目した発明であるとはいうことはできない。 また、申立人は、同意見書において、「甲2の図5で示されるように至る所に欠損部がある例では、多数ある欠損部周囲の隙間を埋めるべく、結果的に戸先框2の全長に耐火部材が取り付けられることもあるであろう。 しかし、甲2には「[0053]なお、耐火部材53bは、図6に示すように、不燃材26の対向部26a,26bにおいて、欠損部26kの全周を取り囲むように配置されることとするほか、欠損部26kの周囲の一部に配置されることとしてもよい」ことが記載されている。 特許権者が指摘する甲2[0054]の耐火部材53cに関する記載は、この甲2[0053]の記載に続くものであり、耐火部材53cが欠損部の周囲の一部に配置されることを許容していることは明らかである。そして、耐火部材53cが欠損部の周囲の一部に配置されても「中空部23mの内部を耐火部材53cで隙間無く埋める」(甲2[0054])ことができるから、何の矛盾もなく理解できる。」(4頁11〜24行)と主張する。 しかしながら、甲2の【0053】には、「欠損部26kの周囲の一部に配置されることとしてもよい」ことが記載されており、ここに配置された耐火部材53bは、戸先框23の受け部23a,23bに形成された欠損部23kと、不燃材26の対向部26a,26bに形成された欠損部26kとの間の隙間を埋める、或いは、狭めるものであり、同【0054】の「・・・これにより、火災時には、不燃材26の内側の空間、即ち、戸先框23の中空部23mの内部を耐火部材53cで隙間無く埋めることが可能となり、中空部23mを通じた煙や火炎の噴出、及び、それに伴う延焼を防止することができる。」との記載は、その直前の記載である「さらに、不燃材26の対向部26a,26b,見込面部26dの各部位の内側面には、それぞれ耐火部材53cが配設されている。」ことによるものであるから、【0053】における「隙間」とは別の「中空部23m」に関するものであり、上記申立人の主張は妥当ではない。 また、申立人は、同意見書において、「ここでいう「挿通孔」が甲2発明の欠損部になる。 そして、ビスキャップが取付けられる挿通孔(欠損部)を火災時に塞ぐべく、「中空部23mの内部を耐火部材53cで隙間なく埋める」(甲2[0054])ように、框にある欠損部周辺の「一部に配置」(甲2[0053])すれば、訂正発明1のように構成されることになる。 訂正発明1は、決定の予告のとおり容易に発明できたものである。 念のために述べると、訂正で室内側熱膨張「上端部および下端部のみ」という事項が訂正発明1の構成に加わった。しかし、欠損部が上端部及び下端部にあるビスキャップを取り付ける「挿通孔」のみの縦框は、例示するまでもなく周知である。そのような縦框に甲2に記載の技術事項を適用すれば、必然的に訂正発明1のように構成されることになるから、決定の予告の判断を左右するものではない。 また、訂正発明1の効果は、「隙間を通じた煙や火炎の噴出、及び、それに伴う延焼を防止することができる」(甲2[0052])などの記載から予測できるものである。」(4頁32行〜5頁12行)と主張する。 しかしながら、仮に、「挿通孔」が甲2発明の欠損部となり、ビスキャップが取り付けられる挿通孔の周辺の一部に耐火部材53cを配置することが容易であったとしても、そのような配置では、戸先框23の見込み方向において、耐火部材53cがビスキャップを間に挟んで配置されることとはならないことが明らかである。 以上により、申立人の上記各主張には理由がない。 エ 小括 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件訂正発明2について 本件訂正発明2は、本件訂正発明1が有する構成を全て有し、さらに構成を付加したものである。 そして、上記(1)に示したとおり、本件訂正発明2が有する本件訂正発明1の構成は、甲2発明及び周知技術を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、本件訂正発明2において付加された構成について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲2発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、本件訂正発明1、2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正発明1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 枠体と、前記枠体内に配置された障子とを備えた建具であって、 前記枠体は、上枠、下枠および左右の縦枠によって構成され、 前記障子は、上框、下框および左右の縦框によって形成された框体の内方に面材を配置して構成され、 前記左右の縦枠および前記左右の縦框のうちの少なくとも一つは、上端から下端まで貫通した中空部が形成された形材によって構成され、 前記中空部の上端部および下端部のみには、前記建具の見込み方向において室内側熱膨張耐火材および室外側熱膨張耐火材が向かい合って配置されており、 前記形材の上端部および下端部には、可燃性部材としてのビスキャップが装着され、 前記室内側熱膨張耐火材および前記室外側熱膨張耐火材は、前記建具の見込み方向において前記ビスキャップを間に挟んで配置されている ことを特徴とする建具。 【請求項2】 請求項1に記載の建具において、 前記形材を補強する補強材が前記中空部に配置され、 前記室内側熱膨張耐火材および前記室外側熱膨張耐火材のうちの少なくとも一方は、前記補強材に取り付けられている ことを特徴とする建具。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2023-05-11 |
出願番号 | P2017-063049 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(E06B)
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最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
居島 一仁 |
特許庁審判官 |
澤田 真治 西田 秀彦 |
登録日 | 2021-07-16 |
登録番号 | 6914689 |
権利者 | YKK AP株式会社 |
発明の名称 | 建具 |
代理人 | 弁理士法人樹之下知的財産事務所 |
代理人 | 弁理士法人樹之下知的財産事務所 |