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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61M 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61M |
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管理番号 | 1400438 |
総通号数 | 20 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-08-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-04-27 |
確定日 | 2023-06-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6956069号発明「医療デバイスイントロデューサのための止血弁」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6956069号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜14〕について訂正することを認める。 特許第6956069号の請求項1〜6、8、9に係る特許を維持する。 特許第6956069号の請求項7、10〜14に係る特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6956069号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜14に係る特許についての出願は、2016年(平成28年) 8月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年 8月24日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、令和 3年10月 6日にその特許権の設定登録がされ、令和3年10月27日に特許掲載公報が発行された。 その後、令和 4年 4月27日に特許異議申立人 遠藤 楓実(以下「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、当審は、令和 4年 9月 6日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和 4年12月 7日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求は、令和 4年12月 7日に提出された訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正後の請求項1〜14について訂正を求めるものであって、その内容は以下のとおりである(以下、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。下線は、訂正箇所を当審で示した。)。 本件訂正請求は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1〜14〕について請求するものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を 「医療デバイスを患者の脈管系に挿入するためのイントロデューサであって、 長軸、基端側領域、先端側領域、および内腔を有する、細長いイントロデューサボディ; 該イントロデューサボディの該基端側領域に結合されている、ハブ;および 該ハブ内に配置されており、該内腔を横切る液密シールを形成している、止血弁 を含み、 該止血弁が、先端側表面および基端側表面を含むとともに、該止血弁の中心の剛性を下げる中央空隙を含み、該基端側表面が、該止血弁を通しての物体の挿入中に該物体を該止血弁の中心へと誘導するように構成されている傾斜領域を有し、かつ、 該基端側表面が、該細長いイントロデューサボディの長軸に対して実質的に垂直である平坦な中央領域を含む、 前記イントロデューサ。」に訂正する。 請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜6、8及び9も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項7及び10〜14を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項8を 「前記イントロデューサが、前記イントロデューサボディの長軸に対して実質的に平行な分割面に沿って分割されるように構成されている、請求項1〜6のいずれか一項記載のイントロデューサ。」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項9を 「前記止血弁が、前記イントロデューサボディの長軸と実質的に平行な分割面に沿って分割されるように構成されている、請求項1〜6および8のいずれか一項記載のイントロデューサ。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1を、該請求項1を引用する請求項10で限定したものを訂正後の請求項1とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、当該訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。 (2)訂正事項2 訂正事項2に係る訂正は、訂正事項1に伴い、訂正前の請求項10を削除するとともに、請求項7及び11〜14を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。また、当該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは、明らかである。 (3)訂正事項3 訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項8が請求項1〜7のいずれか一項の記載を引用するものであったところ、訂正事項2で請求項7が削除されたことに伴い、請求項1〜6のいずれか一項の記載を引用するものとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。また、当該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは、明らかである。 (4)訂正事項4 訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項9が請求項1〜8のいずれか一項の記載を引用するものであったところ、訂正事項2で請求項7が削除されたことに伴い、請求項1〜6および8のいずれか一項の記載を引用するものとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。また、当該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは、明らかである。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜14〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1〜14に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明14」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 医療デバイスを患者の脈管系に挿入するためのイントロデューサであって、 長軸、基端側領域、先端側領域、および内腔を有する、細長いイントロデューサボディ; 該イントロデューサボディの該基端側領域に結合されている、ハブ;および 該ハブ内に配置されており、該内腔を横切る液密シールを形成している、止血弁 を含み、 該止血弁が、先端側表面および基端側表面を含むとともに、該止血弁の中心の剛性を下げる中央空隙を含み、該基端側表面が、該止血弁を通しての物体の挿入中に該物体を該止血弁の中心へと誘導するように構成されている傾斜領域を有し、かつ、 該基端側表面が、該細長いイントロデューサボディの長軸に対して実質的に垂直である平坦な中央領域を含む、 前記イントロデューサ。 【請求項2】 前記傾斜領域が漏斗である、請求項1記載のイントロデューサ。 【請求項3】 前記傾斜領域が、前記イントロデューサボディの長軸に対して垂直な平面に対して30°以上の角度で傾斜している、請求項1記載のイントロデューサ。 【請求項4】 前記傾斜領域が、前記イントロデューサボディの長軸に対して垂直な平面に対して45°以上の角度で傾斜している、請求項1記載のイントロデューサ。 【請求項5】 前記傾斜領域が、前記イントロデューサボディの長軸に対して垂直な平面に対して60°以上の角度で傾斜している、請求項1記載のイントロデューサ。 【請求項6】 前記平坦な中央領域が3mm以下の直径を有する、請求項1記載のイントロデューサ。 【請求項7】(削除) 【請求項8】 前記イントロデューサが、前記イントロデューサボディの長軸に対して実質的に平行な分割面に沿って分割されるように構成されている、請求項1〜6のいずれか一項記載のイントロデューサ。 【請求項9】 前記止血弁が、前記イントロデューサボディの長軸と実質的に平行な分割面に沿って分割されるように構成されている、請求項1〜6および8のいずれか一項記載のイントロデューサ。 【請求項10】(削除) 【請求項11】(削除) 【請求項12】(削除) 【請求項13】(削除) 【請求項14】(削除)」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 本件訂正前の請求項1〜14に係る特許に対して、当審が令和 4年 9月 6日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。 理由1.(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 理由2.(新規性)下記の請求項に係る発明は、本件特許優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 理由3.(進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 甲第1号証:特表2003−520652号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:特開平11−4893号公報(以下「甲2」という。) 甲第3号証:米国特許出願公開第2006/0145116号明細書(以下「甲3」という。) 甲第4号証:国際公開第2013/005607号(以下「甲4」という。) 甲第6号証:特開平11−128359号公報(以下「甲6」という。) 甲第7号証:特開2011−130846号公報(以下「甲7」という。) 甲第11号証:特開2011−212417号公報(以下「甲11」という。) 甲第12号証:特表2011−510686号公報(以下「甲12」という。) 1 理由1について (1)請求項7の「前記漏斗が前記止血弁から独立している」との記載は、請求項1の記載と整合しておらず、請求項7に係る発明を明確に把握することができない。 よって、請求項7に係る発明は明確でない。また、請求項7を直接的又は間接的に引用する請求項8〜10に係る発明についても同様である。 (2)請求項11の「前記傾斜領域が前記ハブ上に形成されている」との記載は、引用する請求項1の記載と整合しておらず、請求項11に係る発明を明確に把握することができない。 よって、請求項11に係る発明は明確でない。また、請求項11を直接的又は間接的に引用する請求項12〜14に係る発明についても同様である。 2 理由2について (1)請求項1〜6に係る発明は、甲1に記載された発明である。 (2)請求項1及び2に係る発明は、甲2に記載された発明である。 (3)請求項1、2及び8に係る発明は、甲3に記載された発明である。 3 理由3について (1)請求項1〜9及び11〜14に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、又は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)請求項1〜9及び11〜14に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、又は、甲2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)請求項1〜9及び11〜14に係る発明は、甲3に記載された発明に基いて、又は、甲3に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 取消理由についての判断 1 理由1について 当審で通知した取消理由の理由1は、本件訂正前の請求項7及び11に記載された事項に係るものであるところ、上記第2に示したとおり、本件訂正により請求項7及び11は削除された。 したがって、本件訂正により、上記理由1は解消した。 2 理由2及び3について 当審で通知した取消理由の理由2及び3は、本件訂正前の請求項10に対しては通知していない。そして、訂正後の請求項1は、請求項1の記載を引用する請求項10であるので、訂正後の請求項1についての上記理由2及び3は解消した。また、訂正後の請求項2〜6、8及び9に係る発明は、訂正後の請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記理由2及び3は解消した。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 異議申立人が申立てた申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかった申立理由は、特許異議申立書の申立理由1−1(明確性)、訂正前の請求項10(訂正後の請求項1)に対する申立理由2(新規性、進歩性)、申立理由3(進歩性)及び申立理由4(進歩性)である。 1 申立理由1−1(明確性)について (1)申立理由の概要 請求項1の「基端側表面が、該細長いイントロデューサボディの長軸に対して実質的に垂直である平坦な中央領域を含む」(以下「構成要件F」という。)との記載が不明確であり、本件発明1〜14はいずれも、特許請求の範囲の記載により、特許を受けようとする発明が明確でない。よって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 特に、異議申立人は、概略、次のように主張する(特許異議申立書第27ページ第1行〜第34ページ第10行)。 令和 2年 8月26日付け拒絶理由通知で引用された引用文献2(甲第9号証)等の公知文献や第三者の実施品に含まれた傾斜面及び底面の組合せが、本件発明1の構成要件Fで規定された中央領域と、単なる小穴の一部分と、のいずれに該当するのかの判断は著しく不明確である。 (2)当審の判断 ア 明確性要件の趣旨 特許法第36条第6項第2号において、発明の明確性を特許要件とする趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断される。 イ 構成要件Fに係る記載について 本件発明1の特許請求の範囲において、構成要件Fに係る記載は、止血弁の基端側表面の構成を特定するものである。そして、「平坦」とは、「(土地などが)平らなこと」を意味し、「中央」とは、「中心。まんなか」を意味することからすれば、構成要件Fの「基端側表面が、該細長いイントロデューサボディの長軸に対して実質的に垂直である平坦な中央領域を含む」との記載は、基端側表面が、その中心部分を含む領域が平らであることを意味すると理解できる。また、該構成要件Fの「イントロデューサボディの長軸に対して実質的に垂直である」「領域」とは、該領域が、イントロデューサボディの長軸と実質的に直角に交わることを意味すると理解できる。 してみると、構成要件Fの「基端側表面が、該細長いイントロデューサボディの長軸に対して実質的に垂直である平坦な中央領域を含む」との記載は、止血弁の基端側表面が、その中心部分を含む領域が平らであり、該平らな領域は、細長いイントロデューサボディの長軸と実質的に直角に交わるものであることを意味すると解することができるので、当該記載が不明確であるとはいえない。 そして、本件明細書(特に段落0012〜0015)及び図面(特に図1〜3)を参酌しても、上記解釈と矛盾する記載はない。また、本件特許の出願日当時において、上記解釈以外の解釈が技術常識であったともいえない。 以上のとおり、本件発明1の構成要件Fに係る記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。 したがって、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすので、異議申立人の申立理由1−1に係る主張を採用することはできない。 2 申立理由2(新規性、進歩性) (1)申立理由の概要 訂正前の請求項10に係る発明(訂正後の請求項1に係る発明であるので、以下「本件発明1」という。他の請求項についても同様。)は、甲第1号証に記載された発明である。又は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第5号証及び甲第15号証に記載された事項に基き、あるいは、甲第1号証及び周知技術又は慣用技術に基き、当業者が容易に発明をすることができたものである。 甲第1号証:特表2003−520652号公報(以下「甲1」という。再掲。) 甲第3号証:米国特許出願公開第2006/0145116号明細書(以下「甲3」という。再掲。) 甲第4号証:国際公開第2013/005607号明細書(以下「甲4」という。再掲。) 甲第5号証:特開平6−154336号公報(以下「甲5」という。) 甲第7号証:特開2011−130846号公報(以下「甲7」という。再掲。) 甲第11号証:特開2011−212417号公報(以下「甲11」という。再掲。) 甲第15号証:米国特許出願公開第2012/0221024号明細書(以下「甲15」という。) (2)当審の判断 ア 甲1発明 (ア)甲1の図1及び2に示される管状導入器シース100は、カテーテルやガイドワイヤー等の医療装置120を患者の血管に導入するために用いられるものであり、長軸、基端側領域、先端側領域、および内腔を有する細長いものであることは自明である。 (イ)甲1の段落【0040】、【0046】、【0047】及び【0067】の記載並びに図1及び5Aの図示内容から、止血バルブ10は、近位バルブガスケット20および遠位バルブガスケット40からなり、該近位バルブガスケット20の入口面21は、止血バルブ10を通して医療装置120を挿入する際に該医療装置120を該近位バルブガスケット20の中心に案内するように構成されている円錐形受容領域22を有し、細長い管状導入器シース100の長軸に対して実質的に垂直である平面25を含んでいる。 (ウ)上記(ア)及び(イ)の事項に加え、甲1の段落【0038】〜【0041】、【0046】、【0047】、【0051】、【0059】及び【0067】の記載、並びに図1〜5Bの図示内容からみて、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「医療装置120を患者の血管に導入するための止血カニューレアセンブリ70であって、 長軸、基端側領域、先端側領域、および内腔を有する、細長い管状導入器シース100; 該管状導入器シース100の該基端側領域に結合されている、ハブ90;および 該ハブ90内に配置されており、該ハブ90の内部に流れ込む血液に対するシールを形成している、止血バルブ10を含み、 該止血バルブ10が、近位バルブガスケット20および遠位バルブガスケット40からなり、遠位バルブガスケット40の出口面43および近位バルブガスケット20の入口面21を含み、該近位バルブガスケット20の入口面21が、該止血バルブ10を通して医療装置120を挿入する際に該医療装置120を該近位バルブガスケット20の中心に案内するように構成されている円錐形受容領域22を有し、かつ、 該近位バルブガスケット20の入口面21が、該細長い管状導入器シース100の長軸に対して実質的に垂直である平面25を含む、 前記止血カニューレアセンブリ70。」 イ 対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、後者の「医療装置120」は前者の「医療デバイス」及び「物体」に相当し、以下同様に、「血管に導入するための止血カニューレアセンブリ70」は「脈管系に挿入するためのイントロデューサ」に、「管状導入器シース100」は「イントロデューサボディ」に、「ハブ90」は「ハブ」に、「近位バルブガスケット20および遠位バルブガスケット40からな」る「止血バルブ10」は「止血弁」に、「遠位バルブガスケット40の出口面43」は「先端側表面」に、「近位バルブガスケット20の入口面21」は「基端側表面」に、「円錐形受容領域22」は「傾斜領域」に、「平面25」は「平坦な中央領域」に、それぞれ相当する。 また、甲1の段落【0059】の「止血バルブ(10)によって、止血バルブ(10)の外部の周囲の血液流に対するより良好な円周シールがバルブハウジング(90)内部に形成される。」との記載から、止血バルブ10は、管状導入器シース100及びハブ90に形成された内腔内の血液流に対して、その外周部でシールするものであるから、甲1発明の「ハブ90の内部に流れ込む血液に対するシールを形成」は、本件発明1の「内腔を横切る液密シールを形成」に相当する。 さらに、甲1発明の「止血バルブ10を通して医療装置120を挿入する際に該医療装置120を該近位バルブガスケット20の中心に案内する」は、本件発明1の「止血弁を通しての物体の挿入中に該物体を該止血弁の中心へと誘導する」に相当する。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、 「医療デバイスを患者の脈管系に挿入するためのイントロデューサであって、 長軸、基端側領域、先端側領域、および内腔を有する、細長いイントロデューサボディ; 該イントロデューサボディの該基端側領域に結合されている、ハブ;および 該ハブ内に配置されており、該内腔を横切る液密シールを形成している、止血弁 を含み、 該止血弁が、先端側表面および基端側表面を含み、該基端側表面が、該止血弁を通しての物体の挿入中に該物体を該止血弁の中心へと誘導するように構成されている傾斜領域を有し、かつ、 該基端側表面が、該細長いイントロデューサボディの長軸に対して実質的に垂直である平坦な中央領域を含む、 前記イントロデューサ。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点A] 止血弁に関し、本件発明1は、「該止血弁の中心の剛性を下げる中央空隙を含」むのに対し、甲1発明は、止血バルブ10がそのような構成を備えているか不明である点。 ウ 判断 上記相違点Aについて以下検討する。 (ア)甲1には、止血バルブ10が中心の剛性を下げる中央空隙を含むことは何ら記載されておらず、実質的な相違点である。 異議申立人は、甲1発明における止血バルブ10が、近位バルブガスケット20及び遠位バルブガスケット40を含むので、イントロデューサの使用中にカテーテル等が止血バルブに挿通されると、当然に、近位バルブガスケット20及び遠位バルブガスケット40の間となる中央に空隙が生じ、止血バルブの剛性が低下するので、甲1発明との相違点とはならない旨を主張する(異議申立書第84ページ)。 しかしながら、甲1には、カテーテルを止血バルブ10に挿通した際に、近位バルブガスケット20と遠位バルブガスケット40との間に空隙が生じることは記載されておらず、当然に空隙が生じるものとも認められない。仮にカテーテルを挿通した際に空隙が生じることがあるとしても、本件発明1における止血弁の中央空隙は、カテーテル等が挿通されるか否かにかかわらず空隙が形成されているものである(本件明細書の段落0013及び図2を参照。)から、甲1発明の止血バルブ10が、カテーテル挿通時のみ空隙が生じることをもって、止血バルブ10が「中心の剛性を下げる中央空隙を含」むとはいえない。 したがって、相違点Aが相違点とはならないとする異議申立人の主張を採用することはできない。 (イ)さらに、異議申立人は、甲1以外にも、イントロデューサの長軸方向に重ねられた二つの部品によって止血弁を構成することは、甲3、甲4、甲7及び甲11等の多数の公知文献に記載された周知技術又は慣用技術、あるいは当業者が通常の創作能力の発揮として行い得る設計事項であり、複数の部品で構成された止血弁においては、上述のように、相違点Aに係る構成を有することになり、結果として、当業者であれば相違点Aに係る構成に容易に想到することができる旨を主張する(異議申立書第84〜85ページ)。 しかしながら、甲3、甲4、甲7及び甲11のいずれにも「中心の剛性を下げる中央空隙を含」む止血弁は記載されておらず、また、上記(ア)で甲1発明について検討したとおり、複数の部品で構成された止血弁が、「中心の剛性を下げる中央空隙を含」むものであるとする理由はないので、複数の部品で構成された止血弁が、周知技術又は慣用技術、あるいは当業者が通常の創作能力の発揮として行い得る設計事項であったとしても、相違点Aに係る構成とすることが当業者であれば容易に想到できるとする異議申立人の主張を採用することはできない。 (ウ)甲5(段落0030〜0034,0036,0044及び図1を参照。)には、シール手段6の略中央に密封室15を設けることが記載され、甲15(段落0022,0025,0029,0031,図1,4及び5を参照。)には、シール装置100の略中央にデバイスキャビティ122,322を設けることが記載されている。甲5の密封室15及び甲15のデバイスキャビティ122,322のいずれも空間であるといえることから、甲5及び甲15には、止血弁において、略中央に空隙を含む技術が記載されているといえる。 しかしながら、甲1発明における止血バルブ10は、近位バルブガスケット20と遠位バルブガスケット40とが協働してガイドワイヤーに対してシールを与えるように設計されたものであり(甲1の段落0051を参照。)、また、近位バルブガスケット20と遠位バルブガスケット40とを背中合わせに配置することにより、内部を医療装置が通過することに対する止血バルブ10の抵抗を低減するために、医療装置が止血バルブを通過する距離を最小に保持するものであるので(甲1の段落0054参照)、甲1発明の止血バルブ10に、前記甲5及び甲15に記載の技術を適用した場合、甲1の止血バルブ10が有する機能を果たせなくなることは明らかである。 したがって、甲1発明に甲5及び甲15に記載の技術を適用して、本件発明1の相違点Aに係る構成が容易に想到し得るということはできない。 (エ)よって、本件発明1は、甲1発明と同一の発明であるとはいえず、また、甲1発明並びに甲5及び甲15に記載された事項に基いて、あるいは、甲1発明及び周知技術又は慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3 申立理由3(進歩性) (1)申立理由の概要 本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術又は慣用技術に基き、又は、甲第2号証に記載された発明並びに甲第5号証及び甲第15号証に記載された事項に基き、当業者が容易に発明をすることができたものである。 甲第2号証:特開平11−4893号公報(以下「甲2」という。再掲。) 甲第3号証:米国特許出願公開第2006/0145116号明細書(以下「甲3」という。再掲。) 甲第4号証:国際公開第2013/005607号明細書(以下「甲4」という。再掲。) 甲第5号証:特開平6−154336号公報(以下「甲5」という。再掲。) 甲第7号証:特開2011−130846号公報(以下「甲7」という。再掲。) 甲第11号証:特開2011−212417号公報(以下「甲11」という。再掲。) 甲第15号証:米国特許出願公開第2012/0221024号明細書(以下「甲15」という。再掲。) (2)当審の判断 ア 甲2発明 (ア)甲2の図8に示されるイントロデューサー7は、カテーテルを血管内に導入するために用いられるものであり、長軸、基端側領域、先端側領域、および内腔を有する細長いものであることは自明である。 (イ)甲2の段落【0002】の「このようなイントロデューサーには、シースの基部に止血弁が組み込まれており、カテーテル等がシースを通して血管内に導入されている間においても血液の露出がなく、かつカテーテル等の操作がスムーズに行えることが要求される。」との記載から、止血弁1は、イントロデューサー7の内腔を横切る液密シールを形成しているといえる。 (ウ)甲2の段落【0006】並びに図1、3及び4には、止血弁1の中心から外周方向に複数条に伸びるスリット4が形成されることが記載されており、段落【0007】の「凹部6を形成することによりカテーテル等の先端部を容易にスリット4に挿入することができる」との記載から、凹部6は、カテーテルを止血弁1の中心へと誘導するように構成されているといえる。 (エ)甲2の図4から、止血弁1の天面に形成された凹部6のスリット4が形成されている領域は、イントロデューサー7の長軸に対して実質的に垂直である平坦な領域である。 (オ)上記(ア)〜(エ)の事項に加え、段落【0001】〜【0002】、【0006】〜【0007】及び【0009】の記載、並びに図1、4及び8の図示内容からみて、甲2には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。 「カテーテルを血管内に導入するためのカテーテルイントロデューサーであって、 長軸、基端側領域、先端側領域、および内腔を有する、細長いイントロデューサー7; 該イントロデューサー7の該基端側領域に結合されている、キャップ8;および 該キャップ8とイントロデューサー7とで挟持されており、該内腔を横切る液密シールを形成している、止血弁1 を含み、 該止血弁1が、底面および天面を含み、該天面が、該止血弁1を通してのカテーテルの挿入中に該カテーテルを止血弁1の中心へと誘導するように形成されている凹部6を有し、かつ、 該天面が、該細長いイントロデューサー7の長軸に対して実質的に平坦な領域を含む、 カテーテルイントロデューサー。」 イ 対比 本件発明1と甲2発明とを対比すると、後者の「カテーテル」は前者の「医療デバイス」及び「物体」に相当し、以下同様に、「血管内に導入」は「患者の脈管系に挿入」に、「カテーテルイントロデューサー」は「イントロデューサ」に、「イントロデューサー7」は「イントロデューサボディ」に、「キャップ8」は「ハブ」に、「止血弁1」は「止血弁」に、「底面」は「先端側表面」に、「天面」は「基端側表面」に、「凹部6」は「傾斜領域」に、「平坦な領域」は「平坦な中央領域」に、それぞれ相当する。 したがって、本件発明1と甲2発明とは、 「医療デバイスを患者の脈管系に挿入するためのイントロデューサであって、 長軸、基端側領域、先端側領域、および内腔を有する、細長いイントロデューサボディ; 該イントロデューサボディの該基端側領域に結合されている、ハブ;および 該内腔を横切る液密シールを形成している、止血弁 を含み、 該止血弁が、先端側表面および基端側表面を含み、該基端側表面が、該止血弁を通しての物体の挿入中に該物体を該止血弁の中心へと誘導するように構成されている傾斜領域を有し、かつ、 該基端側表面が、該細長いイントロデューサボディの長軸に対して実質的に垂直である平坦な中央領域を含む、 前記イントロデューサ。」 である点で一致し、以下の点で一応装置又は相違する。 [相違点B] 本件発明1は、止血弁が「ハブ内に配置」されているのに対し、甲2発明は、止血弁1がキャップ8とイントロデューサー7とで挟持されている点。 [相違点C] 止血弁に関し、本件発明1は、「該止血弁の中心の剛性を下げる中央空隙を含」むのに対し、甲2発明は、止血弁1がそのような構成を備えているか不明である点。 ウ 判断 事案に鑑み、まず相違点Cについて以下検討する。 [相違点Cについて] (ア)異議申立人は、申立理由2において説明したとおり、イントロデューサの長軸方向に重ねられた複数の部品によって止血弁を構成することは、設計事項、周知技術または慣用技術であり、複数の部品で構成された止血弁においては、部品間となる中央に空隙が生じる構を有するので、当業者であれば上記相違点Cに係る構成に容易に想到することができる旨を主張する(異議申立書第102ページ)。 しかしながら、甲3、甲4、甲7及び甲11のいずれにも「中心の剛性を下げる中央空隙を含」む止血弁は記載されておらず、また、複数の部品で構成された止血弁が、「中心の剛性を下げる中央空隙を含」むものであるとする理由はないので、複数の部品で構成された止血弁が、周知技術又は慣用技術、あるいは当業者が通常の創作能力の発揮として行い得る設計事項であったとしても、相違点Cに係る構成とすることが当業者であれば容易に想到できるとする異議申立人の主張を採用することはできない。 (イ)甲5及び甲15には、止血弁において、略中央に空隙を含む技術が記載されているといえる。 甲2発明における止血弁1は、スリット4の外周に該スリット4と接触しないようにハーフスリット5,5a,5bを形成することで、スリット4へのカテーテル等の挿入時に止血弁の伸びを助長して抵抗を軽減するものであり(甲2の段落0006〜0008及び図1〜7を参照。)、すなわち、ハーフスリット5,5a,5bによって止血弁の中心の剛性を下げているといえる。そのような止血弁1において、甲5及び甲15に記載された技術を適用し、上記相違点Cに係る構成である中央空隙をさらに設けることは、止血弁1の剛性をさらに下げることとなり、シール性確保等の観点から、積極的な動機付けがあるとはいえない。 したがって、甲2発明に甲5及び甲15に記載の技術を適用して、本件発明1の相違点Cに係る構成が容易に想到し得るとする理由は見いだせない。 (ウ)以上のとおりであるので、相違点Bについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び周知技術又は慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、甲2発明並びに甲5及び甲15に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 4 申立理由4(新規性、進歩性) (1)申立理由の概要 本件発明1は、甲第3号証に記載された発明である。又は、甲第3号証に記載された発明並びに甲第5号証及び甲第15号証に記載された事項に基き、あるいは、甲第3号証及び周知技術又は慣用技術に基き、当業者が容易に発明をすることができたものである。 甲第3号証:米国特許出願公開第2006/0145116号明細書(以下「甲3」という。再掲。) 甲第4号証:国際公開第2013/005607号明細書(以下「甲4」という。再掲。) 甲第5号証:特開平6−154336号公報(以下「甲5」という。再掲。) 甲第7号証:特開2011−130846号公報(以下「甲7」という。再掲。) 甲第11号証:特開2011−212417号公報(以下「甲11」という。再掲。) 甲第15号証:米国特許出願公開第2012/0221024号明細書(以下「甲15」という。再掲。) (2)当審の判断 ア 甲3発明 (ア)甲3の図1に示されるシース35は、医療機器を患者の体腔内に導入するために用いられるものであり、長軸、基端側領域、先端側領域、および内腔を有する細長いものであることは自明である。 (イ)甲3の段落[0045]の記載及び図6の図示内容によれば、可撓性膜100,101は、それぞれ弁壁45,46の内側に設けられ、一方の可撓性膜101が他方の可撓性膜100上に積み重ねられているので、積み重ねられた可撓性膜100,101は、弁壁45,46内に設けられているといえる。 (ウ)甲3の図6から、可撓性膜101の円錐面101aは、平面101b側に向かって縮径する傾斜領域を有しているといえる。また、該円錐面101aの最も径が小さい領域は、シース35の長軸に対して実質的に垂直である平坦な領域であるといえる。 (エ)上記(ア)〜(ウ)の事項に加え、段落[0031]、[0033]、[0043]、[0045]及び[0066]〜[0068]の記載、並びに図1、2及び6の図示内容からみて、甲3には以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。 「医療機器を患者の体腔に導入するための装置であって、 長軸、基端側領域、先端側領域、および内腔を有する、細長いシース35; 該シース35の該基端側領域に結合されている、弁壁45,46;および 該弁壁45,46内に設けられており、入口端15の開口部30からの血液の漏出を防ぐ積み重ねられた可撓性膜100,101 を含み、 該積み重ねられた可撓性膜100,101が、可撓性膜100の円錐面100aおよび可撓性膜101の円錐面101aを含み、該可撓性膜101の円錐面101aが傾斜領域を有し、かつ、 該可撓性膜101の円錐面101aが、該細長いシース35の長軸に対して実質的に垂直である平坦な領域を含む、 前記装置。」 イ 対比 本件発明1と甲3発明とを対比すると、後者の「医療機器」は前者の「医療デバイス」に相当し、以下同様に、「患者の体腔に導入するための装置」は「患者の脈管系に挿入するためのイントロデューサ」に、「シース35」は「イントロデューサボディ」に、「弁壁45,46」は「ハブ」に、「積み重ねられた可撓性膜100,101」は「止血弁」に、「可撓性膜100の円錐面100a」は「先端側表面」に、「可撓性膜101の円錐面101a」は「基端側表面」に、「平坦な領域」は「平坦な中央領域」に、それぞれ相当する。 また、甲3の段落[0043]の記載を参酌すると、積み重ねられた可撓性膜100,101は、延在する弁壁45,46とは反対側の弁壁46,45に着座するものであるから、可撓性膜100,101の周縁部によってシース35及び弁壁45,46の内腔に対してシールを形成しているといえるので、甲3発明の「開口部30からの血液の漏出を防ぐ」は、請求項1に係る発明の「内腔を横切る液密シールを形成している」に相当する。 さらに、甲3の「可撓性膜101の円錐面101aが傾斜領域を有し」と、本件発明1の「基端側表面が、該止血弁を通しての物体の挿入中に該物体を該止血弁の中心へと誘導するように構成されている傾斜領域を有し」とは、「基端側表面が、傾斜領域を有し」ている限りで一致する。 したがって、本件発明1と甲3発明とは、 「医療デバイスを患者の脈管系に挿入するためのイントロデューサボディであって、 長軸、基端側領域、先端側領域、および内腔を有する、細長いイントロデューサボディ; 該イントロデューサボディの該基端側領域に結合されている、ハブ;および 該ハブ内に配置されており、該内腔を横切る液密シールを形成している、止血弁 を含み、 該止血弁が、先端側表面および基端側表面を含み、該基端側表面が、傾斜領域を有し、かつ、 該基端側表面が、該細長いイントロデューサボディの長軸に対して実質的に垂直である平坦な中央領域を含む、 前記イントロデューサ。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点D] 本件発明1は、基端側表面が「止血弁を通しての物体の挿入中に該物体を該止血弁の中心へと誘導するように構成されている」傾斜領域を有するのに対し、甲3発明は、可撓性膜101の円錐面101aが傾斜領域を有しているものの、「止血弁を通しての物体の挿入中に該物体を該止血弁の中心へと誘導するように構成されている」かどうか明らかでない点。 [相違点E] 止血弁に関し、本件発明1は、「該止血弁の中心の剛性を下げる中央空隙を含」むのに対し、甲3発明は、止血弁1がそのような構成を備えているか不明である点。 ウ 判断 事案に鑑み、まず相違点Eについて以下検討する。 [相違点Eについて] (ア)甲3発明において本件発明1の止血弁に相当する「積み重ねられた可撓性膜100,101」は、膜100及び膜101が協働してカテーテル等に対してシールを与えるように設計されたものであるが(甲3の段落0067〜0068及び図6を参照。)、カテーテルを積み重ねられた可撓性膜100,101に挿通した際に、膜100と膜101との間に空隙が生じることは記載されておらず、当然に空隙が生じるものとも認められない。仮にカテーテルを挿通した際に空隙が生じることがあるとしても、カテーテル挿通時のみ空隙が生じることをもって積み重ねられた可撓性膜100,101が「中心の剛性を下げる中央空隙を含」むものであるとはいえない。 したがって、相違点Eが相違点とはならないとする異議申立人の主張を採用することはできない。 (イ)また、甲3、甲4、甲7及び甲11のいずれにも「中心の剛性を下げる中央空隙を含」む止血弁は記載されておらず、また、複数の部品で構成された止血弁が、「中心の剛性を下げる中央空隙を含」むものであるとする理由はないので、複数の部品で構成された止血弁が、周知技術又は慣用技術、あるいは当業者が通常の創作能力の発揮として行い得る設計事項であったとしても、相違点Eに係る構成とすることが当業者であれば容易に想到できるとする異議申立人の主張を採用することはできない。 (ウ)さらに、甲5及び甲15には、止血弁において、略中央に空隙を含む技術が記載されているといえる。 しかしながら、甲3発明における積み重ねられた可撓性膜100,101は、上記(ア)で説示したとおり、膜100及び膜101が協働してカテーテル等に対してシールを与えるように設計されたものであり、甲3発明の積み重ねられた可撓性膜100,101に、前記甲5及び甲15に記載の技術を適用した場合、甲3の積み重ねられた可撓性膜100,101が有する機能を果たせなくなることは明らかである。 したがって、甲3発明に甲5及び甲15に記載の技術を適用して、本件発明1の相違点Eに係る構成が容易に想到し得るということはできない。 (エ)よって、相違点Dについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明と同一の発明であるとはいえず、また、甲3発明並びに甲5及び甲15に記載された事項に基いて、あるいは、甲3発明及び周知技術又は慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜6、8、9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜6、8、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件請求項7及び10〜14に係る特許は、本件訂正により削除された。これにより、異議申立人による請求項7及び10〜14に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 医療デバイスを患者の脈管系に挿入するためのイントロデューサであって、 長軸、基端側領域、先端側領域、および内腔を有する、細長いイントロデューサボディ; 該イントロデューサボディの該基端側領域に結合されている、ハブ;および 該ハブ内に配置されており、該内腔を横切る液密シールを形成している、止血弁 を含み、 該止血弁が、先端側表面および基端側表面を含むとともに、該止血弁の中心の剛性を下げる中央空隙を含み、該基端側表面が、該止血弁を通しての物体の挿入中に該物体を該止血弁の中心へと誘導するように構成されている傾斜領域を有し、かつ、 該基端側表面が、該細長いイントロデューサボディの長軸に対して実質的に垂直である平坦な中央領域を含む、 前記イントロデューサ。 【請求項2】 前記傾斜領域が漏斗である、請求項1記載のイントロデューサ。 【請求項3】 前記傾斜領域が、前記イントロデューサボディの長軸に対して垂直な平面に対して30°以上の角度で傾斜している、請求項1記載のイントロデューサ。 【請求項4】 前記傾斜領域が、前記イントロデューサボディの長軸に対して垂直な平面に対して45°以上の角度で傾斜している、請求項1記載のイントロデューサ。 【請求項5】 前記傾斜領域が、前記イントロデューサボディの長軸に対して垂直な平面に対して60°以上の角度で傾斜している、請求項1記載のイントロデューサ。 【請求項6】 前記平坦な中央領域が3mm以下の直径を有する、請求項1記載のイントロデューサ。 【請求項7】(削除) 【請求項8】 前記イントロデューサが、前記イントロデューサボディの長軸に対して実質的に平行な分割面に沿って分割されるように構成されている、請求項1〜6のいずれか一項記載のイントロデューサ。 【請求項9】 前記止血弁が、前記イントロデューサボディの長軸と実質的に平行な分割面に沿って分割されるように構成されている、請求項1〜6および8のいずれか一項記載のイントロデューサ。 【請求項10】(削除) 【請求項11】(削除) 【請求項12】(削除) 【請求項13】(削除) 【請求項14】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2023-05-25 |
出願番号 | P2018-510515 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(A61M)
P 1 651・ 121- YAA (A61M) P 1 651・ 537- YAA (A61M) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
内藤 真徳 |
特許庁審判官 |
安井 寿儀 村上 哲 |
登録日 | 2021-10-06 |
登録番号 | 6956069 |
権利者 | アビオメド インコーポレイテッド |
発明の名称 | 医療デバイスイントロデューサのための止血弁 |
代理人 | 川本 和弥 |
代理人 | 春名 雅夫 |
代理人 | 佐藤 利光 |
代理人 | 川本 和弥 |
代理人 | 山口 裕孝 |
代理人 | 新見 浩一 |
代理人 | 小寺 秀紀 |
代理人 | 佐藤 利光 |
代理人 | 春名 雅夫 |
代理人 | 新見 浩一 |
代理人 | 小寺 秀紀 |
代理人 | 大関 雅人 |
代理人 | 小林 智彦 |
代理人 | 刑部 俊 |
代理人 | 大関 雅人 |
代理人 | 刑部 俊 |
代理人 | 小林 智彦 |
代理人 | 井上 隆一 |
代理人 | 山口 裕孝 |
代理人 | 清水 初志 |
代理人 | 清水 初志 |
代理人 | 井上 隆一 |