• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D06M
審判 全部申し立て 2項進歩性  D06M
管理番号 1400450
総通号数 20 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-06-20 
確定日 2023-06-08 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7023453号発明「抗ピリング性織編物製造方法及び抗ピリング性織編物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7023453号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1−3〕、4について訂正することを認める。 特許第7023453号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 特許第7023453号の請求項2に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7023453号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許についての出願は、平成29年8月8日の出願であって、令和4年2月14日にその特許権の設定登録がされ、令和4年2月22日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。
令和4年 6月20日 :特許異議申立人弁理士法人朝日奈特許事務所
(以下「申立人」という。)による本件特許
に対する特許異議の申立て
令和4年12月23日付け:取消理由通知書
令和5年 3月 2日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
(令和5年 3月15日 :特許権者による訂正請求書の補正書の提出)
なお、当審から令和5年3月28日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を、期間を指定して行ったが、当該期間内に申立人からは応答がなかった。

第2 本件訂正
1 本件訂正の内容
令和5年3月15日に提出された補正書により補正された令和5年3月2日の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)により、特許権者が求める訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「コンパクトヤーンを原料糸とした撚数1,000T/m以上の紡績糸で形成され、JIS L 1076 A法におけるピリングが4級以上である織編物に撥水加工を施す工程を含む抗ピリング性織編物製造方法。」とあるのを、「コンパクトヤーンを原料糸とした撚数1,000T/m以上の獣毛糸による紡績糸で形成され、JIS L 1076 A法におけるピリングが4級以上である織編物に撥水加工を施す工程を含む抗ピリング性織編物製造方法。」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「フッ素系撥水加工剤を用いる請求項1又は2記載の抗ピリング性織編物製造方法。」とあるのを、「フッ素系撥水加工剤を用いる請求項1記載の抗ピリング性織編物製造方法。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「コンパクトヤーンを原料糸とした撚数1,000T/m以上の紡績糸で形成され、JIS L 1076 A法におけるピリングが4級以上であり、撥水加工が施された抗ピリング性織編物。」とあるのを、「コンパクトヤーンを原料糸とした撚数1,000T/m以上の獣毛糸による紡績糸で形成され、JIS L 1076 A法におけるピリングが4級以上であり、撥水加工が施された抗ピリング性織編物。」に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1〜3について、請求項2、3は、それぞれ請求項1を引用する関係にあるから、本件訂正は一群の請求項について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の「紡績糸」について、「獣毛糸による」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記特定事項は、訂正前の請求項2、本件特許明細書の段落【0003】、【0020】、【0030】に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
また、訂正事項1は、上記のとおり訂正前の請求項1における「紡績糸」を更に限定し、「獣毛糸による紡績糸」との特定を行うものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項2により削除する請求項2を引用しない記載へと改めるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4に記載の「紡績糸」について、「獣毛糸による」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記特定事項は、訂正前の請求項2、本件特許明細書の段落【0003】、【0020】、【0030】に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
また、訂正事項4は、上記のとおり訂正前の請求項4における「紡績糸」を更に限定し、「獣毛糸による紡績糸」との特定を行うものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(5)小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1〜3]、4について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1、3〜4に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3〜4に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】
コンパクトヤーンを原料糸とした撚数1,000T/m以上の獣毛糸による紡績糸で形成され、JIS L 1076 A法におけるピリングが4級以上である織編物に撥水加工を施す工程を含む抗ピリング性織編物製造方法。
【請求項3】
前記撥水加工において、撥水剤としてフッ素系撥水加工剤を用いる請求項1記載の抗ピリング性織編物製造方法。
【請求項4】
コンパクトヤーンを原料糸とした撚数1,000T/m以上の獣毛糸による紡績糸で形成され、JIS L 1076 A法におけるピリングが4級以上であり、撥水加工が施された抗ピリング性織編物。」

第4 取消理由の概要
当審が通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1.(新規性)請求項1、4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(甲第1号証)であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
2.(進歩性)請求項1、3、4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(甲第1号証)及び周知技術(甲第2号証、甲第5号証)に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

証拠方法
甲第1号証:特開2015−98662号公報
甲第2号証:特開2006−16698号公報
甲第5号証:特開平6−346340号公報
甲第6号証:「JISハンドブック 31繊維」、一般財団法人日本規格協会、2018年6月29日、p.1125〜1133
(以下甲第1号証を「甲1」といい、他の甲各号証についても同様とする。)

第5 取消理由についての当審の判断
1 甲1に記載された事項、発明
(1) 甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度0.5〜3.0dtexのトリアセテート系短繊維Aとセルロース系短繊維Bとの複合紡績糸であって、短繊維A及びBの質量比率(A/B)が20/80〜80/20の範囲にあり、さらに3mm以上の毛羽指数が50個/m以下であり、かつ平均強力が100CN以上の範囲にあることを特徴とする複合紡績糸。」
イ 「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、トリアセテート系短繊維とセルロース系短繊維とを所定量併用するとともに、繊維束の集積度を上げることで紡績糸の毛羽を減らす。これにより、織編物に優れた風合いを与えるとともに吸水速乾性や接触冷感性などの物性を向上させ、併せて強力に劣るというトリアセテート系短繊維の短所をも同時に克服できることを見出し、本発明をなすに至った。」
ウ 「【0017】
複合紡績糸の撚係数としては、2.0〜4.0の範囲にあることが好ましい。撚係数とは、A=T/N1/2(A:撚係数、T:撚数(回/インチ)、N:得られた複合紡績糸の太さ(英式綿番手))なる式で算出されるものである。」
エ 「【0020】
本発明の紡績糸を用いて織編物を得る際は、主として当該複合紡績糸を用いることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲で、他の糸を併用してもよい。
【0021】
製織編後の後加工としても特に限定されず、通常、精練、リラックス、ファイナルセットすることにより、目的の織編物を仕上げることができる。一連の後加工の途中もしくは最終段階において、公知の知見に基づき布帛を染色、着色プリント、エンボス加工、撥水加工、抗菌加工、蓄光加工、消臭加工などしてもよい。一般にはリラックスの後、染色することが好ましい。」
オ 「【0027】
(4)織編物の抗ピリング性
JIS L1076 ICI法に基づいて測定した。100mm×120mmの試験片を経方向及び緯方向に2枚ずつ採取し、ピリング試験用ゴム管に巻きつけ、ゴム管に巻いた試験片を4個1組としてICI形試験機の回転箱に入れ、5時間回転させた。そして、試験片をゴム管から取り外し、試験片とピリング判定標準写真とを比較して、ピリングの発生の程度を等級判定した。」
カ 「【0032】
(実施例1)
単糸繊度が1.7dtexで平均繊維長が38mmであって、公定水分率が3.5%である単糸菊形断面のトリアセテート系短繊維A(三菱レイヨン社製「ブライト」)と、スーピマ超長綿とを混打綿の過程で混合することにより、混紡スライバーを得た。この混紡スライバーにおける両繊維の質量比率(短繊維A/超長綿)は、50/50であった。
次に、混紡スライバーを粗紡機へ導入して粗糸を2本作製し、後にコンパクトスピニングシステムを備えた精紡機に2本の粗糸を同時に導入し、精紡交撚することで100番手双糸の複合紡績糸を得た。」
キ 「【0043】


(2)甲1に記載された発明
以上より、特に実施例1に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「単糸繊度が1.7dtexで平均繊維長が38mmであって、公定水分率が3.5%である単糸菊形断面のトリアセテート系短繊維A(三菱レイヨン社製「ブライト」)と、スーピマ超長綿とを混打綿の過程で混合することにより、混紡スライバーを得て、次に、混紡スライバーを粗紡機へ導入して粗糸を2本作製し、後にコンパクトスピニングシステムを備えた精紡機に2本の粗糸を同時に導入し、精紡交撚することで100番手双糸の複合紡績糸を得て、
複合紡績糸の撚係数としては、2.0〜4.0の範囲にあり、撚係数とは、A=T/N1/2(A:撚係数、T:撚数(回/インチ)、N:得られた複合紡績糸の太さ(英式綿番手))なる式で算出されるものであり、
当該複合紡績糸を用いて織編物を得て、
JIS L1076 ICI法に基づいて測定した織編物の抗ピリング性(級)が4−5であり、
一連の後加工の途中もしくは最終段階において、公知の知見に基づき布帛を撥水加工してもよい、織編物を得る方法。」
2 取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
・本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「複合紡績糸」は、本件発明1の「紡績糸」に、「織編物」は「織編物」に、それぞれ相当する。
・甲1発明の「トリアセテート系短繊維A(三菱レイヨン社製「ブライト」)と、スーピマ超長綿とを混打綿の過程で混合することにより、混紡スライバーを得て、次に、混紡スライバーを粗紡機へ導入して粗糸を2本作製し、後にコンパクトスピニングシステムを備えた精紡機に2本の粗糸を同時に導入し、精紡交撚することで100番手双糸の複合紡績糸を得」ることは、コンパクトスピニングシステムを備えた精紡機を用いて紡績していることから、本件発明1の「コンパクトヤーンを原料糸とした」「紡績糸」を得ることに相当する。
・甲1発明の「複合紡績糸」が「複合紡績糸の撚係数としては、2.0〜4.0の範囲にあり、撚係数とは、A=T/N1/2(A:撚係数、T:撚数(回/インチ)、N:得られた複合紡績糸の太さ(英式綿番手))なる式で算出され」て、「100番手双糸」であることは、A=2.0〜4.0、N=100、1インチ=0.0254mであり、T(回/m)≒787〜1575となるから、本件発明1の「紡績糸」が「撚数1,000T/m以上」であることを包含している。
・甲1発明の「当該複合紡績糸を用いて織編物を得て」いることは、本件発明1の「織編物」を「紡績糸で形成」して得ていることに相当する。
・甲1発明の「JIS L1076 ICI法」はICI形試験機を用いる方法である(段落【0027】参照)。ここで、ICI形試験機を用いる方法はJIS L1076 A法と言われるものである(甲6の第1125〜1127、1129〜1130ページ参照)。
また、JIS L1076 A法における等級において(甲6の第1132ページ参照)、「4−5」(級)は4級(号)と5級(号)の中間程度のものであることから、4級以上の評価であるといえ、甲1発明の「織編物」は、本件発明1の「JIS L 1076 A法におけるピリングが4級以上である織編物」の態様を備えるものである。
・甲1発明の「一連の後加工の途中もしくは最終段階において、公知の知見に基づき布帛を撥水加工」することは、本件発明1の「撥水加工を施す工程」に相当する。
・甲1発明の「抗ピリング性(級)が4−5であ」る「織編物を得る方法」は、本件発明1の「抗ピリング性織編物製造方法」に相当する。
イ 一致点・相違点
以上のことから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「コンパクトヤーンを原料糸とした撚数1,000T/m以上の紡績糸で形成され、JIS L 1076 A法におけるピリングが4級以上である織編物に撥水加工を施す工程を含む抗ピリング性織編物製造方法。」
[相違点]
紡績糸について、本件発明1が、「獣毛糸による」ものとされているのに対し、甲1発明では、「単糸繊度が1.7dtexで平均繊維長が38mmであって、公定水分率が3.5%である単糸菊形断面のトリアセテート系短繊維A(三菱レイヨン社製「ブライト」)と、スーピマ超長綿とを混打綿の過程で混合することにより、混紡スライバーを得て、次に、混紡スライバーを粗紡機へ導入して粗糸を2本作製し、後にコンパクトスピニングシステムを備えた精紡機に2本の粗糸を同時に導入し、精紡交撚することで」得た「100番手双糸の複合紡績糸」とされている点。
ウ 判断
上記相違点について検討する。
甲1発明は、「トリアセテート系短繊維の優れた点を活かし、織編物に高級感のある光沢感、着用快適性、抗ピリング性、吸水速乾性、接触冷感性などの他、適度な強度をも付与できる、新規な複合紡績糸を提供することを目的」(段落【0006】)とするもので、「トリアセテート系短繊維」を用いることを前提とするものである。
そして、甲1の段落【0016】には、「本発明の紡績糸には、本発明の目的を損なわない範囲で、トリアセテート系短繊維A及びセルロース系短繊維B以外の繊維が含まれていてもよい。他の繊維としては、任意のものが使用できる。」との記載があるものの、これは、段落【0007】に記載されているように、「トリアセテート系短繊維とセルロース系短繊維を所定量併用するとともに、繊維束の集積度を上げることで紡績糸の羽毛を減らす」ことを目的としたもので、「トリアセテート系短繊維A」を用いないようにするものではない。
そうすると、甲1発明において、「単糸繊度が1.7dtexで平均繊維長が38mmであって、公定水分率が3.5%である単糸菊形断面のトリアセテート系短繊維A(三菱レイヨン社製「ブライト」)と、スーピマ超長綿とを混打綿の過程で混合することにより、混紡スライバーを得て、次に、混紡スライバーを粗紡機へ導入して粗糸を2本作製し、後にコンパクトスピニングシステムを備えた精紡機に2本の粗糸を同時に導入し、精紡交撚することで」得た「100番手双糸の複合紡績糸」に代えて、相違点に係る本件発明1の特定事項である「獣毛糸による紡績糸」とすることは、想定できない。
なお、甲1の実施例1〜4を参酌しても、「トリアセテート系短繊維」と「スーピマ超長綿」又は「リヨセル短繊維」との組み合わせしか記載されておらず、甲1に接した当業者において「トリアセテート系短繊維」とセルロース系繊維以外の繊維を含ませる動機付けもない。
さらに、本件特許明細書の段落【0003】に記載されているように、「一般的に、毛玉は、織物よりも編物の方が出やすく、また、絹で出にくく、羊毛などの獣毛糸で出やすい」ことを踏まえると、羽毛を減らすことを目的とした甲1発明において、あえて毛玉(羽毛)が出やすい獣毛糸とする動機付けはないといわざるを得ない。
よって、甲1発明において、相違点に係る本件発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、本件発明1は、甲1発明でなく、また、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したのと同様に、本件発明3は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1で特定される「抗ピリング性織編物製造方法」である方法の発明を「抗ピリング性織編物」としたものの発明であり、上記相違点である「獣毛糸による紡績糸」との特定事項があることから、本件発明1と同様に、本件発明4は、甲1発明でなく、また、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(19〜20ページ)において、本件訂正前の請求項2に係る特許に対して、「織物の技術分野において、獣毛糸を用いることは周知であ」り、甲1のいずれにも「獣毛糸を採用することを阻害するような特段の開示は無い」から、新規性進歩性がない旨指摘している。
(2)上記申立理由についての判断
申立人が指摘するように、織物の技術分野において、獣毛糸を用いることが周知であったとしても、相違点について上記「第5 2(1)ウ」で検討したとおり、甲1発明において、獣毛糸を用いる動機付けはない。
したがって、上記(1)の申立人の理由は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人が提出した特許異議の申立理由によっては、請求項1、3、4に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1、3、4に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
また、請求項2に係る特許は、上記のとおり、本件訂正によって削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンパクトヤーンを原料糸とした撚数1,000T/m以上の獣毛糸による紡績糸で形成され、JIS L 1076 A法におけるピリングが4級以上である織編物に撥水加工を施す工程を含む抗ピリング性織編物製造方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記撥水加工において、撥水剤としてフッ素系撥水加工剤を用いる請求項1記載の抗ピリング性織編物製造方法。
【請求項4】
コンパクトヤーンを原料糸とした撚数1,000T/m以上の獣毛糸による紡績糸で形成され、JIS L 1076 A法におけるピリングが4級以上であり、撥水加工が施された抗ピリング性織編物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-05-30 
出願番号 P2017-153157
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D06M)
P 1 651・ 113- YAA (D06M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 武市 匡紘
藤原 直欣
登録日 2022-02-14 
登録番号 7023453
権利者 有限会社イノベーティブマーケットリンク
発明の名称 抗ピリング性織編物製造方法及び抗ピリング性織編物  
代理人 丹羽 俊輔  
代理人 丹羽 俊輔  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ