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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 特29条の2  C04B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
管理番号 1400484
総通号数 20 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-11-10 
確定日 2023-06-09 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7066129号発明「押出成形用組成物、及び押出成形体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7066129号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕について訂正することを認める。 特許第7066129号の請求項1ないし3、5ないし7に係る特許を維持する。 特許第7066129号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第7066129号の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成30年1月30日に出願され、令和4年5月2日にその特許権の設定登録がされ、同年同月13日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年11月10日 :特許異議申立人前田健一(以下「申立人」という。)による請求項1〜7に係る特許に対する特許異議の申立て
同年12月27日付け:取消理由通知書
令和5年 3月 3日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 4月13日 :申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求書による請求の趣旨は、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜7について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たす、」とあるのを、「前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし、前記微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基がカルボキシル基である、」に訂正(「訂正事項1−1」という。)し、さらに「(b)平均アスペクト比が50以上1000以下」とあるのを、「(b)平均アスペクト比が50以上500以下」に訂正(「訂正事項1−2」という。)する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5〜7も同様に訂正する。)。なお、下線は訂正箇所を示す(以下同様)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし、」とあるのを、「前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし、前記微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基がカルボキシル基であり、」に訂正(「訂正事項2−1」という。)し、さらに「(b)平均アスペクト比が10以上1000以下」とあるのを、「(b)平均アスペクト比が10以上500以下」に訂正(「訂正事項2−2」という。)する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5〜7も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし、」とあるのを、「前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし、前記微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基がカルボキシル基であり、」に訂正(「訂正事項3−1」という。)し、さらに「(b)平均アスペクト比が10以上1000以下」とあるのを、「(b)平均アスペクト比が10以上500以下」に訂正(「訂正事項3−2」という。)する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5〜7も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれか1項に記載の押出成形用組成物。」とあるのを、「請求項1〜3のいずれか1項に記載の押出成形用組成物。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1〜5のいずれか1項に記載の押出成形用組成物。」とあるのを、「請求項1〜3及び5のいずれか1項に記載の押出成形用組成物。」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1〜6のいずれか1項に記載の押出成形用組成物」とあるのを、「請求項1〜3、5及び6のいずれか1項に記載の押出成形用組成物」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
(1)訂正事項1について
ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1−1は、「微細繊維状セルロース(B)が」「満た」す「条件(d)」である「アニオン性官能基」を「カルボキシル基」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1−2は、「(b)平均アスペクト比」の数値範囲を「50以上1000以下」から「50以上500以下」に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、「アニオン性官能基」を「カルボキシル基」に限定すること、及び、「平均アスペクト比」の数値範囲を「50以上500以下」に減縮することは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 新規事項の有無
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の請求項4には「アニオン性官能基がカルボキシル基である」と記載されていることから、訂正事項1−1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、訂正事項1−2については、本件特許明細書等の【0019】に「微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は、例えば50以上でもよく、100以上でもよく、800以下でもよく、500以下でもよい。」と記載されていることから、訂正事項1−2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2−1は、訂正事項1−1と同じであり、訂正事項2−2は、数値範囲の上限を「1000以下」から「500以下」に減縮する点で訂正事項1−2と同じである。
そうすると、訂正事項2−1及び訂正事項2−2は、上記(1)で記載したとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、そして、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3−1は、訂正事項1−1と同じであり、訂正事項3−2は、数値範囲の上限を「1000以下」から「500以下」に減縮する点で訂正事項1−2と同じである。
そうすると、訂正事項3−1及び訂正事項3−2は、上記(1)で記載したとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、そして、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項を削除することは、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5〜7について
訂正事項5〜7は、いずれも、訂正事項4により請求項4が削除されたことにともない、引用する請求項から請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、引用する請求項から請求項4を削除することは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

3 一群の請求項について
訂正前の請求項4〜7は、各々独立項である請求項1〜3を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1、4〜7、請求項2、4〜7、及び請求項3、4〜7は、いずれも一の請求項を他の請求項が引用する関係にあるうえ、これらは請求項4〜7を介して連関しており、特許法施行規則第45条の4所定の関係を有しているから、訂正前の請求項1〜7は一群の請求項である。そして、標記の訂正の請求は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項を訂正の単位として請求されているものである。

4 訂正についてのまとめ
上記のとおり、訂正事項1〜7に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜7〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1〜3及び5〜7に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明3」及び「本件発明5」〜「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜3及び5〜7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
無機材料(A)と、微細繊維状セルロース(B)と、水(C)と、バインダー成分(D)とを含有し、前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし、前記微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基がカルボキシル基である、押出成形用組成物。
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下
(b)平均アスペクト比が50以上500以下
(c)セルロースI型結晶構造を有する
(d)アニオン性官能基を有する
【請求項2】
無機材料(A)と、微細繊維状セルロース(B)と、水(C)と、バインダー成分(D)とを含有し、前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし、前記微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基がカルボキシル基であり、前記微細繊維状セルロース(B)の含有量が、100質量部の前記無機材料(A)に対して、0.05〜0.5質量部である、押出成形用組成物。
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下
(b)平均アスペクト比が10以上500以下
(c)セルロースI型結晶構造を有する
(d)アニオン性官能基を有する
【請求項3】
無機材料(A)と、微細繊維状セルロース(B)と、水(C)と、バインダー成分(D)とを含有し、前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし、前記微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基がカルボキシル基であり、硬度が10以上である、押出成形用組成物。
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下
(b)平均アスペクト比が10以上500以下
(c)セルロースI型結晶構造を有する
(d)アニオン性官能基を有する」
「【請求項5】
前記微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基の含有量が、微細繊維状セルロースの乾燥質量あたり、1.2〜2.2mmol/gである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の押出成形用組成物。
【請求項6】
前記バインダー成分(D)の含有量が、100質量部の前記無機材料(A)に対して、2〜20質量部である、請求項1〜3及び5のいずれか1項に記載の押出成形用組成物。
【請求項7】
請求項1〜3、5及び6のいずれか1項に記載の押出成形用組成物を押出成形して、押出成形体を製造する、押出成形体の製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要
令和4年12月27日付け取消理由通知書は、次の取消理由1及び2を通知したものである。
1 取消理由1(拡大先願)
本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願(甲第1号証)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないのであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
・訂正前の請求項1〜7
<甲号証等一覧>
以下、甲第○号証は、「甲○」という。
甲1:特願2016―206291号(特開2018−65727号公報参照)
甲2:第一工業製薬「セルロースナノファイバー レオクリスタ(R) RHEOCRYSTA」((R)は○囲いRである)カタログのウェブサイト出力物(https://www.dks-web.co.jp/pdf/catalog/rheocrysta.pdf#page=)
甲3:磯貝明、「TEMPO酸化セルロースナノファイバーの調整と特性解析」、東京大学農学部演習林報告、126号、2012年、pp.1-43
公知文献4:後居洋介、「TEMPO酸化セルロースナノファイバーの増粘剤としての利用」、森林科学、No.81、2017年10月、pp.27-30

なお、甲2及び3並びに公知文献4は、甲1に記載されている「(レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)」が、セルロースI型結晶構造を有するものであること、及びカルボキシル基(すなわちアニオン性官能基)を有するものであることを示すために提示したものである。

2 取消理由2(サポート要件)
本件特許は、その特許請求の範囲の下記の請求項に係る記載が、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・訂正前の請求項1〜3、5〜7
下記第7の2(本ア)で摘記した本件明細書の【0009】に記載される本件発明の課題が解決できることが示されているのは、同(本オ)で摘記した表1を参照するに、セルロース水分散体(B1)〜(B3)であり、それらは、同(本エ)で摘記した【0040】によれば、全て「TEMPO酸化微細繊維状セルロース」である。そして、TEMPO酸化微細繊維状セルロースが有するアニオン性官能基は、下記第5の3で摘記した甲3に記載されているように「カルボキシル基」であり、TEMPO酸化微細繊維状セルロースが有するアニオン性官能基としてカルボキシル基以外のものがあることが、本件出願時に周知ともいえない。
そうすると、本件発明の課題を解決する上記微細繊維状セルロースは「TEMPO酸化微細繊維状セルロース」のみであることから、カルボキシル基以外のアニオン性官能基については、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものではない。
よって、アニオン性官能基をカルボキシル基に限定していない訂正前の請求項発明1〜3及び5〜7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

第5 甲号証等の記載
1 甲1について
(1)記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与したものである(以下同様)。
(甲1ア)「【請求項1】
湿式成形用の結合剤であって、
水と、
直径1nm以上100nm以下、長さ0.1μm以上500μm以下のナノセルロースファイバと、
有機成分(前記ナノセルロースファイバを除く)と、
を含有する、結合剤。」

(甲1イ)「【0014】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、乾燥工程において、特に特殊なおよび/または高額な装置を使用したり、煩雑な処置を実施したりしなくても、成形体の乾燥割れを有意に抑制することが可能な、湿式成形用の結合剤を提供することを目的とする。」

(甲1ウ)「【0033】
また、ナノセルロースファイバは、比較的アスペクト比(全長/直径の比)が大きい。このため、ナノセルロースファイバは、粒子と絡まり易く、これにより粒子同士を繋ぎ止める効果を発揮する。換言すれば、ナノセルロースファイバは、成形体中において、ランダムな配向で3次元的に分散され、原料粉末の粒子は、これらのナノセルロースファイバに絡まれた状態となる。その結果、粒子間の「結束」が強化される。」

(甲1エ)「【0048】
(ナノセルロースファイバ)
前述のように、結合剤に含有されるナノセルロースファイバは、直径が1nm〜100nmの範囲であり、長さが0.1μm〜500μmの範囲である。
【0049】
ナノセルロースファイバの直径は、1nm〜10nmの範囲であることが好ましく、3nm〜4nmの範囲であることがより好ましい。一方、ナノセルロースファイバの長さは、0.5μm〜100μmの範囲であることが好ましく、1μm〜50μmの範囲であることがより好ましい。」

(甲1オ)「【実施例】
【0095】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0096】
(実施例1)
まず、水12.1重量部、ナノセルロースファイバ0.2重量部、およびポリビニルアルコール(固形分)0.2重量部を混合して、結合剤を調製した。ナノセルロースファイバには、(レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)中のナノセルロースファイバを使用した。このナノセルロースファイバは、直径が10nm、全長が約10000nmである。
【0097】
図2には、使用したナノセルロースファイバの走査型電子顕微鏡(SEM)像を示した。」

(甲1カ)「【0116】
(実施例4)
まず、水9.8重量部、ナノセルロースファイバ0.2重量部、およびメチルセルロース(固形分)2重量部を混合して、結合剤を調製した。ナノセルロースファイバには、前述の実施例1と同様のものを使用した。
【0117】
次に、調製した結合剤12重量部に、アルミナ粉末(中心粒径0.6μm)100重量部、および水17重量部を混合し、原料組成物(アルミナ坏土)を調製した。
【0118】
このアルミナ坏土を、底部に直径3mmの口金を有する金型に充填した。また、万能試験機を使用して、アルミナ坏土を口金から押出した。これにより、直径3mmの麺状形状の成形体が連続して押出された。その後、成形体を70℃の乾燥機内に設置して、乾燥を行った。」

(2)甲1発明について
上記(甲1カ)の実施例4には「ナノセルロースファイバには、前述の実施例1と同様のものを使用した。」と記載されていることから、実施例4において使用する「ナノセルロースファイバ」は、実施例1の「直径が10nm、全長が約10000nmである(レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)」である。また、実施例4の「アルミナ坏土を口金から押出した。これにより、直径3mmの麺状形状の成形体が連続して押出された。」との記載から、アルミナ坏土は「押出成形用」のものである。 そうすると、上記実施例4の記載に基づいて甲1に記載されている発明(以下「甲1発明」という。)を認定すると、以下のとおりである。

「水9.8重量部、ナノセルロースファイバ0.2重量部、およびメチルセルロース(固形分)2重量部を混合して、結合剤を調製し、調製した結合剤12重量部に、アルミナ粉末(中心粒径0.6μm)100重量部、および水17重量部を混合して調整した、押出成形用原料組成物(アルミナ坏土)において、
ナノセルロースファイバとして、直径が10nm、全長が約10000nmである(レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)を使用した、押出成形用原料組成物(アルミナ坏土)。」

2 甲2について
甲2の公知日が不明であるものの、以下の事項が記載されている。


」(2頁)
3 甲3について
甲3は「TEMPO酸化セルロースナノファイバーの調整と特性解析」について記載されており、以下の事項が記載されている。
「5. 天然セルロースのTEMPO触媒酸化
TEMPO触媒酸化反応を,製紙用の漂白クラフトパルプや綿由来のリンターセルロース,ラミー,バクテリアセルロース等の高結晶性の各種天然セルロースに適用した場合には,酸化物中に相当量のカルボキシル基を導入できるが,どのような酸化条件でも水浴性のセロウロン酸を高収率で得ることはできない5,15,36-38)。また,酸化後のセルロースを光学顕微鏡,電子顕微鏡で観察したところ,元の天然セルロースの繊維形態やフィブリル構造を維持していた37)。次亜塩素酸ナトリウムの添加量の増加によってカルボキシル基量が増加して短繊維化が起こっているが,著しい水膨潤性は認められない。
・・・
図-9には,元々0.01mmol/gのカルボキシル基を有する製紙用の針葉樹漂白クラフトパルプ(セルロース含有量約90%,ヘミセルロース含有量約10%) に対して,NaClOの添加量を変えてTEMPO/NaBr/NaClO系の触媒酸化をpH10で行った場合の結果を示す。TEMPO触媒酸化後でも元の繊維形状は変わらず,水不溶のTEMPO酸化物としての回収率は90%以上となる。この繊維状酸化物中には少量のアルデヒド基と共に,最大で1.7mmol/g程度のカルボキシル基を導入することができ,重合度は元の半分ほどに低下する5)。
・・・
図-9の結果から,元の針葉樹漂白クラフトパルプの170 倍量までカルボキシル基を導入可能であるが,酸化処理後でも元のパルプと同じセルロースI型の結晶化度,結晶幅を有し、同じ繊維形状を維持している(図-10)5,44)。
・・・
すなわち、天然セルロースのTEMPO触媒酸化では,元のセルロースI型の結晶溝造,結晶化度を変化させることなく,ミクロフィブリル表面に高密度でカルポキシル基を導人できる(最大1.7個のカルボキシル基/nm2),極めて特徴的な天然セルロースの化学改質と言える。」(8頁19行〜14頁1行)

4 公知文献4について
公知文献4には、以下の事項が記載されている。
「はじめに
近年、セルロースの新たな利用方法として、セルロースナノファイバー(CNF)が注目されている。CNFは植物の細胞壁から取り出したセルロース繊維をナノレベルにまで微細化したもので、環境負荷が少ないうえに鉄よリも強くて軽いというような特長を持つことから、「夢の新素材」とも言われている。中でも、東京大学の磯貝明教授らのグループが見出した「セルロ-スのTEMPO触媒酸化によってCNFを調製する手法」を用いた場合、繊維幅3〜4nmの均ーなCNFが得られることが知られている1、2)。」(27頁左欄1〜11行)
「増粘剤としてのTEMPO酸化CNFの特徴
第一工業製薬(株)では、TOCNFを水系増粘・ゲル化剤「レオクリスタ(R)」((R)は○囲いRである)として製造販売している(図−1)5,6)。」(27頁右欄10〜13行)

5 意見書での追加甲号証
申立人は、令和5年4月13日に提出の意見書(以下「意見書」という。)で、以下の甲5〜7を追加しているので、ここであわせて記載する。
甲5:磯貝明、「木材セルロースナノファイバーの特性と応用展開」、平成28年度海外産業植林センターセミナー資料
甲6:特開2017−193793号公報
甲7:特開2023−20854号公報

(1)甲5について
甲5には、「天然セルロースのTEMPO酸化で得られるTOCNのサイズマップ」(パワーポイントで作成の資料と思われる13枚目)には、以下の事項が記載されている。




(2)甲6について
甲6には、以下の事項が記載されている。
(甲6ア)「【0006】
そこで本発明の目的は、抗菌性および消臭性からなる群から選ばれる機能性を有する機能性材料を含み、かかる機能性が十分に発揮され、かつ耐洗濯性に優れる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、上記機能性材料を、ナノファイバーを介して繊維素材表面に担持させることにより、機能性材料が有する機能性が十分に発揮され、しかも洗濯による機能性材料の脱落が少ない(耐洗濯性に優れる)繊維製品が得られることを新たに見出し、本発明を完成させた。」
(甲6イ)「【0036】
使用したナノファイバー含有水溶液、機能性材料、繊維素材、およびバインダー樹脂の詳細は、以下の通りである。
【0037】
<ナノファイバー(セルロースナノファイバー)含有水溶液>
第一工業製薬株式会社製RHEOCRYSTA(以下、「CNF−W」)
組成:セルロースナノファイバー2質量%、純水98質量%
セルロースナノファイバーの繊維径2〜4nm、アスペクト比250〜500」

(3)甲7について
甲7は、本件出願後に公開になった公開公報であるから、参考程度のものであるが、以下の事項が記載さている。
(甲7ア)「【0001】
本開示は、感光性組成物、硬化膜、感光性転写材料及びその製造方法、膜、タッチパネル、劣化抑制方法、並びに積層体及びその製造方法に関する。」
(甲7イ)「【0051】
セルロースナノファイバーの具体例としては、ELLEX−☆(平均直径4nm、アスペクト比187、大王製紙社製)、アウロ・ヴィスコ(平均直径5nm、アスペクト比44、王子ホールディングス社製)、レオクリスタ(平均直径18nm、アスペクト比138、第一工業製薬社製)、セリッシュKY100G(平均直径25nm、アスペクト比144、ダイセルファインケム社製)、cellenpia(平均直径3nm、アスペクト比227、日本製紙社製)等が挙げられる。」

第6 取消理由についての判断
1 取消理由1について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)本件発明1の「バインダー成分(D)」について、本件明細書の実施例には「・セルロース系バインダー:メチルセルロース」(【0040】)と記載されていることから、甲1発明の「結合剤」に「混合」されている「メチルセルロース(固形分)」は、本件発明1の「バインダー成分(D)」に相当する。
そうすると、甲1発明の「アルミナ粉末」、「ナノセルロースファイバ」、「水」及び「メチルセルロース」は、本件発明1の「無機材料(A)」、「微細繊維状セルロース(B)」、「水(C)」及び「バインダー成分(D)」に相当し、そして、甲1発明の「押出成形用原料組成物(アルミナ坏土)」は、本件発明1の「押出成形用組成物」に相当する。

(イ)本件発明1における「平均アスペクト比」について、本件明細書の【0020】に「微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は、次のようにして測定することができる。すなわち、先に述べた方法に従い数平均繊維径を算出するとともに、同様の観察画像から微細繊維状セルロースの数平均繊維長を算出し、これらの値を用いて平均アスペクト比を下記式に従い算出する。平均アスペクト比=数平均繊維長(nm)/数平均繊維径(nm)」と記載され、そして、本件明細書の【0018】を参照すると、数平均繊維径についても観察画像から算出されることが記載されている。
一方、甲1発明の「ナノセルロースファイバ」についても、上記(甲1ア)の【0096】には「走査型電子顕微鏡(SEM)像」が記載されており、観察像から算出したものと解されることから、「直径が10nm、全長が約10000nm」は、数平均繊維径が10nm程度、数平均繊維長が10000nm程度であるといえ、平均アスペクト比として計算すると1000程度となる。
そうすると、甲1発明の「直径が10nm、全長が約10000nmである(レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)」「ナノセルロースファイバ」と、本件発明1の「(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下 (b)平均アスペクト比が50以上500以下 (c)セルロースI型結晶構造を有する (d)アニオン性官能基を有する」「条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし」「アニオン性官能基がカルボキシル基である」「微細繊維状セルロース(B)」とは、「(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下」の「条件(a)を満た」す「微細繊維状セルロース(B)」の点で共通する。

(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、
(一致点)
「無機材料(A)と、微細繊維状セルロース(B)と、水(C)と、バインダー成分(D)とを含有し、前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)を満たす、押出成形用組成物。
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。

(相違点1)
微細繊維状セルロースが、本件発明1では「(c)セルロースI型結晶構造を有する (d)アニオン性官能基を有する」もので「アニオン性官能基がカルボキシル基」であるのに対し、甲1発明の「(レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)」が、このようなものであるかどうか不明である点。

(相違点2)
微細繊維状セルロースの平均アスペクト比について、本件発明1では「50以上500以下」であるのに対し、甲1発明では、計算すると1000程度となる点。

相違点の判断
(ア)相違点1について
上記第5の2で述べたとおり、甲2の公知日が不明であるものの、甲2には、「(レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)」が、TEMPO酸化セルロースナノファイバーでカルボキシル基(すなわちアニオン性官能基)を有することが記載されている。また、上記公知文献4を参照すると、同レオクリスタは、天然セルロースをTEMPO酸化することによって製造されたTEMPO酸化セルロースナノファイバーのことであり、TEMPO酸化セルロースナノファイバーが、セルロースI型結晶構造を有するものであること、及びカルボキシル基を有するものであることは、上記甲3に記載されている。
そうすると、「(レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)」は、セルロースI型結晶構造を有するものであり、カルボキシル基を有するものであることから、上記相違点1は実質的な相違点であるとはいえない。

(イ)相違点2について
a 甲1発明の「押出成形用原料組成物(アルミナ坏土)」においては、「ナノセルロースファイバ」として、「直径が10nm、全長が約10000nmである」「(レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)」を混合させている。当該ナノセルロースファイバの平均アスペクト比については、上記ア(イ)で述べたとおり、1000程度であるといえることから、本件発明1の「50以上500以下」とは、数値として大きな隔たりがあることから、数値としては同一視することはできない。

b 一方、甲1には、上記第5の1で摘記したように、(甲1ア)に「湿式成形用の結合剤であって、水と、直径1nm以上100nm以下、長さ0.1μm以上500μm以下のナノセルロースファイバと、有機成分(前記ナノセルロースファイバを除く)と、を含有する、結合剤」との記載もあり、これからアスペクト比のとり得る範囲を計算すると、1(0.1μm/100nm)〜500000(500μm/1nm)の範囲となり、数値上「50以上500以下」を含むことになる。
そこで、甲1発明における「ナノセルロースファイバ」について、当該記載を踏まえた検討、すなわち、甲1発明の「直径が10nm、全長が約10000nm」を「直径1nm以上100nm以下、長さ0.1μm以上500μm以下」と置き替えることについての検討を加える。

(a)「平均」アスペクト比について
一般に、ナノファイバにおいて、その製造方法にも依存するが、ファイバ一本一本の直径及び全長が同じ値になることはなく、分布をもつものとして存在することが通常であるから、上記ア(イ)で述べたとおり、甲1発明の「直径が10nm、全長が約10000nm」は、一つの値として記載されていることからも、数平均としての10nm、数平均としての10000nm程度であるといえ、平均アスペクト比は1000程度であるといえる。
それに対し、上記(甲1ア)の「直径1nm以上100nm以下、長さ0.1μm以上500μm以下」については、広い範囲をもって記載されていることから、ナノセルロースファイバの直径、長さの分布がそれらの範囲内に存在することをいっているとも解釈され、その場合には、平均アスペクト比の値は計算することはできない。
仮に、「直径1nm以上100nm以下、長さ0.1μm以上500μm以下」が直径、長さの数平均としての範囲であり、計算されるアスペクト比が平均アスペクト比としても、以下(b)及び(c)で述べるとおりとなる。

(b)レオクリスタ(RHEOCRYSTA)として
甲1では、実施例において「(レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)」を用いており、「(レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)」は、上記(ア)で述べたとおり、天然セルロースをTEMPO酸化することによって製造されたTEMPO酸化セルロースナノファイバーであり、セルロースI型結晶構造を有し、カルボキシル基を有するものであり、この点では、本件発明1の微細繊維状セルロース(B)に対応するものであることから、上記第4の1(2)で記載したとおり、実施例の記載に基づいて甲1発明を認定したところである。
それに対し、上記1〜500000である(平均)アスペクト比は、上記甲5の記載を参照するに、本件出願前に天然セルロースのTEMPO酸化で得られるアスペクト比の範囲(50〜800)を大きく超えるものであり、また、甲6及び7に記載のレオクリスタ(RHEOCRYSTA)のアスペクト比を参照しても、1〜500000の(平均)アスペクト比をもつナノセルロースファイバが、実施例における「(レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)」そのものとはいえないことから、甲1発明の「レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)」である「ナノセルロースファイバ」の平均アスペクト比について、すなわち、セルロースI型結晶構造を有し、カルボキシル基を有するものであるとの前提を保持したまま、平均アスペクト比のみに着目し、(甲1ア)の記載を踏まえて、「直径が10nm、全長が約10000nm」を「直径1nm以上100nm以下、長さ0.1μm以上500μm以下」とただちに置き替えて甲1発明を構成することはできない。

(c)選択性について
仮に、甲1発明の「ナノセルロースファイバ」の直径と全長について、(甲1ア)の記載を踏まえて、「直径が10nm、全長が約10000nm」を「直径1nm以上100nm以下、長さ0.1μm以上500μm以下」と置き替えることができるとしても、1〜500000の(平均)アスペクト比の範囲から、本件発明1の「50以上500以下」の範囲を選択しなければならない。
本件発明1は、本件明細書の下記第7の2で摘記する【0009】及び【0014】に記載されているとおり、「本発明の実施形態は、口金を通過する際の流動性と口金を通過した後の保形性を両立することができる押出成形用組成物を提供することを目的と」し、「押出成形用セラミックス坏土組成物において、その成形助剤として微細繊維状セルロース(B)を用いるものである。本発明者らはかかる押出成形用組成物が口金を通過する際に低い成形圧を有し、かつ口金を通過した後に従来の添加剤に比べ高い強度を有する成形助剤を得るため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で微細繊維状セルロースに着目し、微細繊維状セルロースを添加することにより流動性と保形性を両立できることを見出した。」という技術的思想の発明である一方で、甲1発明は、上記第5の1の(甲1イ)に記載されているとおり、「本発明では、乾燥工程において、特に特殊なおよび/または高額な装置を使用したり、煩雑な処置を実施したりしなくても、成形体の乾燥割れを有意に抑制することが可能な、湿式成形用の結合剤を提供する」という技術的思想の発明であり、両者の技術的思想は全く異なるものである。特にナノセルロースファイバのアスペクト比について、甲1の(甲1ウ)には「【0033】また、ナノセルロースファイバは、比較的アスペクト比(全長/直径の比)が大きい。このため、ナノセルロースファイバは、粒子と絡まり易く、これにより粒子同士を繋ぎ止める効果を発揮する。換言すれば、ナノセルロースファイバは、成形体中において、ランダムな配向で3次元的に分散され、原料粉末の粒子は、これらのナノセルロースファイバに絡まれた状態となる。その結果、粒子間の「結束」が強化される。」と記載され、甲1発明において、ナノセルロースファイバのアスペクト比は比較的大きいものが指向されていることが理解できる。
そうすると、仮に、甲1発明の「ナノセルロースファイバ」の平均アスペクト比が、「直径1nm以上100nm以下、長さ0.1μm以上500μm以下」から計算できるものとしても、その1〜500000の平均アスペクト比の範囲から流動性と保形性の両立という異なる技術的思想のもと「50以上500以下」の範囲を選択したと考えることができる本件発明1が、甲1発明と同一であるとはいえない。
加えて、甲1発明におけるナノセルロースファイバのアスペクト比の技術的意義は、上記【0033】に記載されているとおりのものであるから、甲1の実施例から計算される1000程度のものから、より小さくして「50以上500以下」の範囲を選択することは、甲1における「ナノセルロースファイバ」の技術的意義とは逆の方向に選択することとなる。
よって、仮に、甲1発明の「ナノセルロースファイバ」の直径と全長について、(甲1ア)の記載を踏まえて、「直径1nm以上100nm以下、長さ0.1μm以上500μm以下」としたとしても、本件発明1の微細繊維状セルロースの平均アスペクト比が「50以上500以下」であるという相違点2は、実質的な相違点である。

c また、甲1には、上記第5の1で摘記したように、(甲1ウ)に「ナノセルロースファイバの直径は、1nm〜10nmの範囲であることが好ましく、3nm〜4nmの範囲であることがより好ましい。一方、ナノセルロースファイバの長さは、0.5μm〜100μmの範囲であることが好ましく、1μm〜50μmの範囲であることがより好ましい。」とも記載されており、「より好ましい」範囲からアスペクト比のとり得る範囲を計算すると、250(1μm/4nm)〜16667(50μm/3nm)の範囲となり、数値上「50以上500以下」を含むことになる。
しかし、甲1発明における「ナノセルロースファイバ」について、当該記載を踏まえた検討を行ったとしても、上記bの(a)〜(c)と同じ検討結果になることから、本件発明1の微細繊維状セルロースの平均アスペクト比が「50以上500以下」であるという相違点2は、実質的な相違点である。

d 小括
以上のことから、微細繊維状セルロースの平均アスペクト比について、本件発明1では「50以上500以下」であるという相違点2は、甲1の実施例以外の記載を踏まえたとしても、実質的な相違点であるといえる。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、意見書において、おおむね以下の主張をしている。
a 上記甲5の8頁上図(上記第5の5(1)で摘記した図)を参照すれば、「TEMPO酸化セルロースのアスペクト比及び幅としては、100〜1000程度及び1〜10nm程度の範囲で入手可能なことが理解できる。」(当審注:当該図でTEMPO酸化セルロースに相当するものは「woodTOCN」であり、これを参照するとアスペクト比及び幅は50〜800、3〜4nmである)であるから、甲1の請求項1の記載(上記第4の(甲1ア)参照)又は【0049】(同(甲1エ)参照)の記載から、甲1発明のナノセルロースファイバについて「直径が1nm〜10nm、アスペクト比が100〜1000」と修正した発明を認定することができる。

b 甲1の【0049】で記載する「直径」及び「長さ」は、甲1発明と同様、【0097】に記載される観察画像から算出する数値、すなわち数平均繊維径及び数平均繊維長に相当するものと解される。

c 甲1の【0033】の「比較的アスペクト比(全長/直径の比)が大きい」について、「平均アスペクト比が1000程度ないしそれ以上」とは記載されていないから、甲1発明のナノセルロースファイバの平均アスペクト比を1000程度ないしそれ以上のものとすることはできない。

d 相違点として認めるためには、訂正発明1(本件発明1)が、甲1に記載の技術的思想を超えた、新たな技術的思想と認められるか否かを基準として認定すべきである。

e TEMPO酸化セルロースのアスペクト比及び幅としては、100〜1000程度及び1〜10nm程度の範囲で入手可能であり(甲5)、かつ周知技術ないし慣用技術に当たる。このことは、甲1発明の(レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)と同じ製品名であり、アスペクト比が異なるものとして、甲6に記載される第一工業製薬株式会社製RHEOCRYSTA、セルロースナノファイバー(繊維径2〜4nm、アスペクト比250〜500) や、甲7に記載されるレオクリスタ(平均直径18nm、アスペクト比138、第一工業製薬社製)が、同様のアスペクト比を有することからも裏付けられている。

(イ)申立人の主張に対する当審の判断
a 主張aについて
本件出願前に入手可能なTEMPO酸化セルロースとしては、甲5の上記第5の5(1)で摘記した図を参照すると、アスペクト比及び幅として50〜800程度及び3〜4nm程度のものである。そうすると、甲1の請求項1の記載又は【0049】の記載から認定される1〜500000の平均アスペクト比又は250〜16667の平均アスペクト比であるナノセルロースファイバは、TEMPO酸化セルロースとして入手可能でないアスペクト比のものともいえることから、上記イ(イ)b及びcで述べたとおり、実施例の「(レオクリスタ(RHEOCRYSTA):第一工業製薬社製)」そのものとすることはできない。
そうすると、実施例から認定した甲1発明を、ナノセルロースファイバについてのみ、特に、アスペクト比についてのみ実施例でない甲1の請求項1の記載又は【0049】の記載から修正した発明を認定することができないことから、申立人の主張aは受け入れられない。

b 主張bについて
上記イ(イ)b(a)で述べたとおり、甲1発明は「直径が10nm、全長が約10000nm」と一つの数値として記載されているのに対し、請求項1及び【0049】の記載は数値の範囲で記載されているところ、ナノファイバは、製造方法にもよるが、分布をもつものとして存在することが通常であるから、その数値範囲が直径又は長さの分布範囲であるとする余地があり、その数値範囲が、ただちに数平均繊維径及び数平均繊維長の数値範囲であるとはいえない。

c 主張cについて
甲1の【0033】に記載されている「ナノセルロースファイバは、粒子と絡まり易く、これにより粒子同士を繋ぎ止める効果を発揮する。換言すれば、ナノセルロースファイバは、成形体中において、ランダムな配向で3次元的に分散され、原料粉末の粒子は、これらのナノセルロースファイバに絡まれた状態となる。その結果、粒子間の「結束」が強化される」との機序を参照すれば、「平均アスペクト比が1000程度ないしそれ以上」と明記されていなくとも、実施例の平均アスペクト比が「1000程度」より大きいものも想定されることは明らかであり、【0033】に「平均アスペクト比が1000程度ないしそれ以上」とは記載されていないから、甲1発明のナノセルロースファイバの平均アスペクト比を1000程度ないしそれ以上のものとすることはできないとの主張は当を得ない。

d 主張dについて
本件発明1の技術思想は、上記イ(イ)b(c)で述べたとおり、甲1に記載の技術的思想とは異なるものであるから、申立人の主張dは受け入れられない。

e 主張eについて
上記甲5及び甲6(さらには公知日が本件出願後である甲7を参考)の記載を参照すると、本件出願前に第一工業製薬社製レオクリスタ(RHEOCRYSTA)の製品ラインアップとして、本件発明1の「数平均繊維径が3nm以上100nm以下」及び「平均アスペクト比が50以上500以下」を満たすものが存在していたといえるものの、第一工業製薬社製レオクリスタ(RHEOCRYSTA)の製品であれば、必然的に数平均繊維及び平均アスペクト比が上記条件を満たすとはいえない。その証拠として、例えば、本件出願前の甲1の実施例には平均アスペクト比が1000程度である第一工業製薬社製レオクリスタ(RHEOCRYSTA)の製品が記載されている。
そうすると、「第一工業製薬社製レオクリスタ(RHEOCRYSTA)の製品」の中でも、「数平均繊維径が3nm以上100nm以下」及び「平均アスペクト比が50以上500以下」を満たすものを選択する必要があるところ、その選択については、上記イ(イ)b(c)で述べたとおりであるから、甲5〜7の記載を参照しても、上記相違点2を実質的な相違点ではないとすることはできない。

f 小括
よって、申立人の意見書による主張a〜eはいずれも当を得たものではなく、主張a〜eによって上記イ(イ)で述べた当審の判断が覆ることはない。

エ まとめ
したがって、本件発明1は、相違点2の点で、甲1発明と同一とはいえないことから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえず、取消理由1によって取り消すことはできない。

(2)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、上記第3で記載したとおり、少なくとも「数平均繊維径が3nm以上100nm以下」及び「平均アスペクト比が10以上500以下」を発明特定事項とするものであるから、甲1発明との相違点は、少なくとも、微細繊維状セルロースの平均アスペクト比について、本件発明2及び3では「10以上500以下」であるのに対し、甲1発明では、計算すると1000程度となるという点(「相違点3」という。)である。そして、相違点3に対する判断は、上記(1)イ(イ)で述べた相違点2に対する判断と同様であるから、本件発明2及び3は、少なくとも相違点3の点で、甲1発明と同一とはいえない。
よって、本件発明2及び3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえず、取消理由1によって取り消すことはできない。

(3)本件発明5〜7について
本件発明5〜7は、上記第3で記載したとおり、本件発明1〜3を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件発明1〜3に係る特許と同様に、本件発明5〜7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえず、取消理由1によって取り消すことはできない。

2 取消理由2について
上記第2で記載したように、訂正により、本件発明1〜3はいずれも「微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基がカルボキシル基」であることが発明特定事項となったことから、本件発明1〜3及びそれらを直接的又は間接的に引用する本件発明5〜7は、発明の詳細な説明に記載したものとなった。
したがって、本件発明1〜3及び5〜7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないことから、取消理由2によって取り消すことはできない。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(以下「申立理由」という。)は、以下の申立理由1及び2であり、その概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(サポート要件)
本件特許実施例では、カルボキシル基の含有量が1.98、1.97、1.97mmol/gのアニオン変性の微細繊維状セルロースを用いた例のみによって本件発明の効果を検証しているため、比較的少量(例えば、上記の1/10程度である0.2mmol/g)のカルボキシル基の含有量のアニオン変性の微細繊維状セルロースを用いた場合であっても、本件発明の効果を奏することができるのかが当業者であっても推認することは非常に困難である。
よって、比較的少量のカルボキシル基の含有量のアニオン変性の微細繊維状セルロースを用いた場合の実施の形態に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、訂正前の請求項1〜4、6及び7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

(2)申立理由2(実施可能要件
本件特許の詳細な説明には、当業者が出願時の技術常識を考慮しても、比較的少量(例えば、上記の1/10程度である0.2mmol/g)のカルボキシル基の含有量のアニオン変性の微細繊維状セルロースを用いた場合に、訂正前の請求項1〜4、6及び7に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない。

2 本件明細書の記載
本件明細書には、以下の事項が記載されている。
(本ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の実施形態は、口金を通過する際の流動性と口金を通過した後の保形性を両立することができる押出成形用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係る押出成形用組成物は、無機材料(A)と、微細繊維状セルロース(B)と、水(C)と、バインダー成分(D)とを含有し、前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たすものである。(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下(b)平均アスペクト比が10以上1000以下(c)セルロースI型結晶構造を有する(d)アニオン性官能基を有する 本発明の実施形態に係る押出成形体の製造方法は、該押出成形用組成物を押出成形して、押出成形体を製造するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態に係る押出成形用組成物であると、押出成形時に口金を通過する際に成形圧の上昇が抑えられ、また口金を通過した後の保形性を有するため、流動性と保形性の相反する性能を両立することができる。」

(本イ)「【0014】
このように本実施形態は、押出成形に用いられる無機物含有組成物に関するものであり、より詳細には、押出成形により製造されるセラミックス製品の製造工程において調製される押出成形用セラミックス坏土組成物において、その成形助剤として微細繊維状セルロース(B)を用いるものである。本発明者らはかかる押出成形用組成物が口金を通過する際に低い成形圧を有し、かつ口金を通過した後に従来の添加剤に比べ高い強度を有する成形助剤を得るため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で微細繊維状セルロースに着目し、微細繊維状セルロースを添加することにより流動性と保形性を両立できることを見出した。本実施形態はかかる知見に基づくものである。」

(本ウ)「【0019】
上記(b)のように微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は10〜1000であり、数平均繊維径とともにこのような平均アスペクト比を持つものを用いることにより、流動性と保水性の両立効果を高めることができると考えられる。微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は、例えば50以上でもよく、100以上でもよく、800以下でもよく、500以下でもよい。
・・・
【0026】
微細繊維状セルロースにおけるアニオン性官能基の含有量は、特に限定されず、微細繊維状セルロースの乾燥質量あたり、例えば1.2〜2.2mmol/gでもよく、1.2〜2.0mmol/gでもよく、1.6〜2.0mmol/gでもよい。」

(本エ)「【実施例】
【0038】
以下、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0039】
下記表1に示す配合に従い、実施例1〜8及び比較例1〜5の押出成形用組成物(坏土)を調製した。詳細には、無機材料、セルロース水分散体、水、及びバインダー成分を表1の配合に従い秤量し、高速ミキサー(宮崎鉄工株式会社製)により、室温で1分間撹拌混合を行った。得られた混合物を、宮崎鉄工(株)製の混錬真空押出成形機FM−P30の上部混錬部に適量を通して混錬し、押出成形用組成物を得た。
【0040】
表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。
・無機材料(A1):アルミナ、住友化学(株)製「AES−11」
・無機材料(A2):部分安定化ジルコニア、第一稀元素工業(株)製「HSY−3.0」
・セルロース水分散体(B1):TEMPO酸化微細繊維状セルロースの2質量%分散体
・セルロース水分散体(B2):TEMPO酸化微細繊維状セルロースの2質量%分散体
・セルロース水分散体(B3):TEMPO酸化微細繊維状セルロースの2質量%分散体
・セルロース水分散体(B4):TEMPO酸化未解繊セルロース繊維の2質量%分散体
・セルロース水分散体(B5):結晶性のないセルロースの2質量%水分散体
・セルロース水分散体(B6):未変性セルロース、ダイセルファインセル(株)製「セリッシュKY100G」(セルロース繊維を機械粉砕して微細化した未変性の微細繊維状セルロース、10質量%水分散体、数平均繊維径=100nm、平均アスペクト比=5000)を水で2質量%に希釈したもの
・セルロース系バインダー:メチルセルロース、信越化学工業(株)製「メトローズ」・有機系バインダー:市販セラミックス成形用バインダー、ユケン工業(株)製「YB−131D」
【0041】
セルロース水分散体(B1)〜(B4)は以下の方法により調製した。
【0042】
[セルロース水分散体(B1)の製造]
まず、針葉樹パルプ2gに、水150mlと、臭化ナトリウム0.25gと、TEMPO0.025gとを加え、充分撹拌して分散させた後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が12.0mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10〜11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応させた(反応時間:120分)。反応終了後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化されたセルロース繊維を得た。続いて、遠心分離機で固液分離した後、精製水を加えて固形分濃度4質量%に調整した。その後、24%NaOH水溶液にてスラリーのpHを10に調整した。スラリーの温度を30℃としてNaBH4を0.3g(0.2mmol/g)を加え2時間反応させることにより還元処理した。反応後、1MのHClを添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、セルロース繊維を得た。次に、上記セルロース繊維に純水と水酸化ナトリウムを適量加えて2質量%に希釈し、高圧ホモジナイザー(H11、三和エンジニアリング社製)を用いて圧力100MPaで1回処理し、セルロース水分散体(B1)を得た。後述する方法で測定したところ、得られたセルロース水分散体(B1)が含有するアニオン変性の微細繊維状セルロースのカルボキシル基の含有量は1.98mmol/g、カルボニル基の含有量は0.10mmol/gであり、一方、アルデヒド基の検出は認められなかった。セルロース水分散体(B1)が含有するアニオン変性の微細繊維状セルロースの数平均繊維径は4nm、平均アスペクト比は280であった。該変性微細繊維状セルロースが含有するセルロースの結晶構造を広角X線回折像測定により確認したところ、I型結晶構造が「あり」であった。また、酸化前のセルロースの13C−NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに、178ppmにカルボキシル基に由来するピークが現れていた。よって、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基等に酸化されていることが確認された。
【0043】
[セルロース水分散体(B2)の製造]
添加する次亜塩素酸ナトリウム 水溶液を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が5.2mmol/gとした以外は、セルロース水分散体(B1)と同様の手法で酸化し、還元、精製した。次に、上記セルロース繊維に純水と水酸化ナトリウムを適量加えて2質量%に希釈し、高圧ホモジナイザー(H11、三和エンジニアリング社製)を用いて圧力100MPaで1回処理し、セルロース水分散体(B2)を得た。後述する方法で測定したところ、得られたセルロース水分散体(B2)が含有するアニオン変性の微細繊維状セルロースのカルボキシル基の含有量は1.97mmol/g、カルボニル基の含有量は0.10mmol/gであり、一方、アルデヒド基の検出は認められなかった。セルロース水分散体(B2)が含有するアニオン変性の微細繊維状セルロースの数平均繊維径は89nm、平均アスペクト比は92であった。該変性微細繊維状セルロースが含有するセルロースの結晶構造を広角X線回折像測定により確認したところ、I型結晶構造が「あり」であった。また、酸化前のセルロースの13C−NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに、178ppmにカルボキシル基に由来するピークが現れていた。よって、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基等に酸化されていることが確認された。
【0044】
[セルロース水分散体(B3)の製造]
酸化及び還元処理後のセルロース繊維の分散工程において、水酸化ナトリウムに代えてトリエタノールアミンを適量用いること以外は、セルロース水分散体(B1)の製造と同様にして、セルロース水分散体(B3)を得た。【0045】
後述する方法で測定したところ、得られたセルロース水分散体(B3)が含有するアニオン変性の微細繊維状セルロースのカルボキシル基の含有量は1.97mmol/g、カルボニル基の含有量は0.10mmol/gであり、一方、アルデヒド基の検出は認められなかった。セルロース水分散体(B3)が含有するアニオン変性の微細繊維状セルロースの数平均繊維径は6nm、平均アスペクト比は245であった。該変性微細繊維状セルロースが含有するセルロースの結晶構造を広角X線回折像測定により確認したところ、I型結晶構造が「あり」であった。また、酸化前のセルロースの13C−NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに、178ppmにカルボキシル基に由来するピークが現れていた。よって、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基等に酸化されていることが確認された。
【0046】
[セルロース水分散体(B4)の製造]
添加する次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が4.1mmol/gとした以外は、セルロース水分散体(B1)と同様の手法で酸化、還元後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化された未解繊のセルロース繊維を含むセルロース水分散体(B4)を得た。後述する方法で測定したところ、得られたセルロース水分散体(B4)が含有するアニオン変性の未解繊のセルロース繊維のカルボキシル基の含有量は1.0mmol/g、カルボニル基の含有量は0.10mmol/gであり、一方、アルデヒド基の検出は認められなかった。セルロース水分散体(B4)が含有するアニオン変性の未解繊のセルロース繊維の数平均繊維径は182nm、平均アスペクト比は77であった。該変性未解繊のセルロース繊維が含有するセルロースの結晶構造を広角X線回折像測定により確認したところ、I型結晶構造が「あり」であった。また、酸化前のセルロースの13C−NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに、178ppmに、カルボキシル基に由来するピークが現れていた。よって、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基等に酸化されていることが確認された。
【0047】
[セルロース水分散体(B5)の製造]
原料を針葉樹パルプに替えて再生セルロースを使用し、添加する次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、再生セルロース1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が27.0mmol/gとした以外は、セルロース水分散体(B1)と同様の手法で、セルロース水分散体(B5)を作製した。得られたセルロース水分散体(B5)は、数平均繊維径は測定不可能(1nm以下)で、カルボキシル基量3.1mmol/gであり、結晶構造を有していなかった。」
と記載され、その表1として以下の表が記載されている。

(本オ)「【表1】


(本カ)「【0059】
結果は表1に示す通りである。セルロース繊維を添加していないコントロールである比較例1に対し、アニオン変性の微細繊維状セルロース(TEMPO酸化セルロースナノファイバー)を添加した実施例1〜8であると、成形圧の大幅の上昇を抑えながら、硬度を向上し、かつ3点曲げ強度を向上させることができた。」

3 申立理由に対する当審の判断
(1)申立理由1について
ア 本件発明の課題は、上記2の(本ア)に記載されているとおり、「口金を通過する際の流動性と口金を通過した後の保形性を両立することができる押出成形用組成物を提供すること」であり、そのため(本イ)に記載されているように、「押出成形用セラミックス坏土組成物において、その成形助剤として微細繊維状セルロース(B)を用いるものである。本発明者らはかかる押出成形用組成物が口金を通過する際に低い成形圧を有し、かつ口金を通過した後に従来の添加剤に比べ高い強度を有する成形助剤を得るため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で微細繊維状セルロースに着目し、微細繊維状セルロースを添加することにより流動性と保形性を両立できることを見出した」ものであり、本件発明の構成としたものである。
そして、(本エ)〜(本カ)に記載の実施例を参照すると、実施例では微細繊維状セルロースとして「TEMPO酸化微細繊維状セルロース」のみを用いており、(本カ)に「(TEMPO酸化セルロースナノファイバー)を添加した実施例1〜8であると、成形圧の大幅の上昇を抑えながら、硬度を向上し、かつ3点曲げ強度を向上させることができた。」と記載されている。
そうすると、押出成形用セラミックス坏土組成物において、成形助剤としてTEMPO酸化微細繊維状セルロースを添加することにより流動性と保形性を両立でき、「口金を通過する際の流動性と口金を通過した後の保形性を両立することができる押出成形用組成物を提供する」という本件発明の課題を解決できると認識されるものである。
そして、上記第6の1(1)イ(ア)で述べたとおり、TEMPO酸化微細繊維状セルロースは、セルロースI型結晶構造を有し、カルボキシル基を有するものであるから、「・・・微細繊維状セルロース(B)と、・・・とを含有し、前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし、前記微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基がカルボキシル基である、押出成形用組成物。・・・(c)セルロースI型結晶構造を有する(d)アニオン性官能基を有する」ことを特定している本件発明1〜3、及びそれらを直接的又は間接的に引用する本件発明5〜7は、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものといえる。

イ 上記アを踏まえると、実施例におけるカルボキシル基の含有量である1.98又は1.97mmol/gよりも少ない比較的少量(申立人は、その技術的理由は不明であるが「比較的少量」を「0.2mmol/g」としている)のカルボキシル基の含有量でアニオン変性したTEMPO酸化微細繊維状セルロースを用いた場合であっても、カルボキシル基がなく変性されてない微細繊維状セルロースと比べて、「押出成形時に口金を通過する際に成形圧の上昇が抑えられ、また口金を通過した後の保形性を有するため、流動性と保形性の相反する性能を両立することができる」(上記2で摘記した(本ア)の【0011】参照)という効果を多少なりとも奏するものといえることから、本件発明の課題を解決するものであることが理解できる。
よって、1.98又は1.97mmol/gよりも少ない比較的少量であるカルボキシル基の含有量によっても、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるものといえる。

ウ 小括
したがって、本件発明1〜3、6及び7は、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものといえ、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件発明1〜3、6及び7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、申立理由1によって取り消すことはできない。

(2)申立理由2について
本件発明1〜3、6及び7は、上記(1)で述べたとおり、発明の詳細な説明に記載したものであり、上記2の(本エ)には、本件発明1〜3で特定される微細繊維状セルロースの製造方法、本件発明1〜3、6及び7の押出成形用組成物の製造方法、及び本件発明7の押出成形体の製造方法について詳細に記載されていることから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜3、6及び7を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、本件発明1〜3、6及び7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、申立理由2によって取り消すことはできない。

第8 意見書で主張する新たな取消理由について
1 申立人は、意見書で新たな取消理由を主張しており、要するに次のとおりであるといえる。
本件明細書を参照すると、平均アスペクト比の範囲を一般的に記載しているものの、特に実施例を参照するに、平均アスペクト比が92〜280の微細繊維状セルロースの効果を検証しているに留まり、本件発明1の「平均アスペクト比が50以上500以下」並びに本件発明2及び3の「平均アスペクト比が10以上500以下」において、本件発明の課題を解決していることが理解できるように、発明の詳細な説明が記載されているとは認められない。

2 新たな取消理由に対する当審の判断
上記のとおり申立人の主張する新たな取消理由は、訂正によって生じた理由とはいいがたいので、本来採用するに値しないが、念のため検討するに、上記第7の3(1)アで述べたように、本件発明は、押出成形用セラミックス坏土組成物において、成形助剤としてTEMPO酸化微細繊維状セルロースを添加することにより流動性と保形性を両立でき、「口金を通過する際の流動性と口金を通過した後の保形性を両立することができる押出成形用組成物を提供する」という本件発明の課題を解決できると認識されるものである。そして、上記第7の2で摘記した本件明細書の【0019】には「微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は10〜1000であり、数平均繊維径とともにこのような平均アスペクト比を持つものを用いることにより、流動性と保水性の両立効果を高めることができると考えられる。」と記載されていることから、実施例での平均アスペクト比が92〜280であるTEMPO酸化微細繊維状セルロースとしても、「平均アスペクト比が50以上500以下」及び「平均アスペクト比が10以上500以下」であるTEMPO酸化微細繊維状セルロースにおいても、本件発明の課題を解決できると認識されるものである。また、上記第7の2で摘記した発明の詳細な説明の記載によれば、例えば、平均アスペクト比が、本件発明1〜3における範囲の上限及び下限付近の値の微細繊維状セルロースを用いた実施例がないとしても、成形助剤としてTEMPO酸化微細繊維状セルロースを用いることのない従来技術に比べれば、「押出成形時に口金を通過する際に成形圧の上昇が抑えられ、また口金を通過した後の保形性を有するため、流動性と保形性の相反する性能を両立することができる」(上記第7の2で摘記した【0011】参照)という効果を奏するものであり、本件発明の課題を解決するものであることが理解できる。
よって、本件発明1〜3及び5〜7は、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるものといえ、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件発明1〜3及び5〜7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、新たな取消理由によって取り消すことはできない。

第9 むすび
以上のとおり、本件発明1〜3及び5〜7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって、取り消すことはできない。
さらに、他に本件発明1〜3及び5〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項4に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料(A)と、微細繊維状セルロース(B)と、水(C)と、バインダー成分(D)とを含有し、前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし、前記微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基がカルボキシル基である、押出成形用組成物。
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下
(b)平均アスペクト比が50以上500以下
(c)セルロースI型結晶構造を有する
(d)アニオン性官能基を有する
【請求項2】
無機材料(A)と、微細繊維状セルロース(B)と、水(C)と、バインダー成分(D)とを含有し、前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし、前記微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基がカルボキシル基であり、前記微細繊維状セルロース(B)の含有量が、100質量部の前記無機材料(A)に対して、0.05〜0.5質量部である、押出成形用組成物。
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下
(b)平均アスペクト比が10以上500以下
(c)セルロースI型結晶構造を有する
(d)アニオン性官能基を有する
【請求項3】
無機材料(A)と、微細繊維状セルロース(B)と、水(C)と、バインダー成分(D)とを含有し、前記微細繊維状セルロース(B)が下記条件(a)、(b)、(c)及び(d)を満たし、前記微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基がカルボキシル基であり、硬度が10以上である、押出成形用組成物。
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下
(b)平均アスペクト比が10以上500以下
(c)セルロースI型結晶構造を有する
(d)アニオン性官能基を有する
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記微細繊維状セルロース(B)のアニオン性官能基の含有量が、微細繊維状セルロースの乾燥質量あたり、1.2〜2.2mmol/gである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の押出成形用組成物。
【請求項6】
前記バインダー成分(D)の含有量が、100質量部の前記無機材料(A)に対して、2〜20質量部である、請求項1〜3及び5のいずれか1項に記載の押出成形用組成物。
【請求項7】
請求項1〜3、5及び6のいずれか1項に記載の押出成形用組成物を押出成形して、押出成形体を製造する、押出成形体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-05-29 
出願番号 P2018-014067
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C04B)
P 1 651・ 536- YAA (C04B)
P 1 651・ 16- YAA (C04B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 原 賢一
特許庁審判官 三崎 仁
松井 裕典
登録日 2022-05-02 
登録番号 7066129
権利者 第一工業製薬株式会社 地方独立行政法人京都市産業技術研究所
発明の名称 押出成形用組成物、及び押出成形体の製造方法  
代理人 弁理士法人蔦田特許事務所  
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代理人 弁理士法人蔦田特許事務所  
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