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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1400487
総通号数 20 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-12-02 
確定日 2023-07-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第7080269号発明「ハードコート積層フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7080269号の請求項1〜12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7080269号の請求項1〜12に係る特許についての出願は、平成27年3月18日に出願した特願2015−54439号の一部を、平成27年12月25日に新たな特許出願の一部とした特願2015−252778号の一部を、さらに平成29年3月31日に新たな特許出願とした特願2017−69555号の一部を、さらに令和2年3月26日に新たな特許出願としたものであって、令和4年5月26日にその特許権の設定登録がされ、令和4年6月3日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜12に係る特許に対し、令和4年12月2日に特許異議申立人砂川幸子(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。それ以降の経緯は以下のとおりである。

令和5年 3月15日付け 取消理由通知書
令和5年 5月 2日 意見書(特許権者)

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜12に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明12」という。まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
表面側から順に第1ハードコート、第2ハードコート、及び透明樹脂フィルムの層を有し、
上記第1ハードコートは撥水剤を含み、かつ無機粒子を含まない塗料からなり;
上記第2ハードコートは平均粒子径1〜300nmの無機微粒子を含む塗料からなり;
下記、(イ)、(ロ)を満たすハードコート積層フィルム。
(イ)全光線透過率が85%以上。
(ロ)上記第1ハードコート表面の鉛筆硬度が5H以上。
【請求項2】
上記第1ハードコート表面の鉛筆硬度が6H以上である請求項1に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項3】
更に下記(ハ)及び(ニ)を満たす請求項1又は2に記載のハードコート積層フィルム。
(ハ)ヘーズが2.0%以下。
(ニ)最小曲げ半径が40mm以下。
【請求項4】
更に下記(ホ)及び(ヘ)を満たす請求項1〜3の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
(ホ)上記第1ハードコート表面の水接触角が100度以上。
(ヘ)上記第1ハードコート表面の往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上。
【請求項5】
上記透明樹脂フィルムが、
第一ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂層(α1);
芳香族ポリカーボネート系樹脂層(β);
第二ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂層(α2);が、
この順に積層された透明多層フィルムである
請求項1〜4の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項6】
上記第1ハードコートが撥水剤、及びシランカップリング剤含み、かつ無機粒子を含まない塗料からなる;
請求項1〜5の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項7】
上記撥水剤が、(メタ)アクリロイル基含有フルオロポリエーテル系撥水剤を含む、請求項1〜6の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項8】
上記第1ハードコートの厚みが、0.5〜5μmである
請求項1〜7の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項9】
上記第2ハードコートの厚みが、15〜30μmである
請求項1〜8の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項10】
上記第2ハードコートが平均粒子径1〜300nmの無機微粒子、及びレベリング剤を含む塗料からなる
請求項1〜9の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載のハードコート積層フィルムを含む画像表示装置。
【請求項12】
請求項1〜10の何れか1項に記載のハードコート積層フィルムの製造方法であって、
(1)上記透明樹脂フィルムの上に、上記第2ハードコート形成用塗料からなるウェット塗膜を形成する工程;
(2)上記第2ハードコート形成用塗料からなる上記ウェット塗膜に、活性エネルギー線を積算光量が1〜230mJ/cm2となるように照射し、上記第2ハードコート形成用塗料からなる上記ウェット塗膜を、指触乾燥状態の塗膜にする工程;
(3)上記第2ハードコート形成用塗料からなる上記指触乾燥状態の塗膜の上に、上記第1ハードコート形成用塗料からなるウェット塗膜を形成する工程;及び
(4)上記第1ハードコート形成用塗料からなる上記ウェット塗膜を温度30〜100℃に予熱し、活性エネルギー線を積算光量が240〜10000mJ/cm2となるように照射する工程;
を含む方法。」

第3 取消理由の概要
当審において通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
なお、上記取消理由通知において申立人の特許異議申立理由は、甲第1号証(引用文献1)に基づく新規性に係る取消理由を除き全て通知された。

取消理由1(進歩性
本件発明1〜12は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2〜38に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明1〜11は、引用文献5に記載された発明及び引用文献1〜4、6〜38に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

取消理由2(サポート要件)
本件明細書には、「透明樹脂フィルム」として、P1〜P3(α1、β、α2の三層)とP5(アクリル系樹脂)を用いることで鉛筆硬度5H以上の表面硬度を得た実施例のみが記載されているところ、本件発明1〜4、6〜12においては、「透明樹脂フィルム」との特定しかなされていないから、請求項1〜4、6〜12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

<引用文献一覧>
引用文献1:特開2010−131771号公報(申立人が提出した甲第1号証(以下「甲1」等という。))
引用文献2:特開2016−71085号公報(申立人が提出した甲2)
引用文献3:「界面活性剤・表面改質剤 製品ラインナップ」、[online]、DIC株式会社のウェブサイト、[令和4年11月22日検索]、インターネット<URL:https://www.dic-global.com/ja/products/fluoro/megaface/lineup.html>(申立人が提出した甲3)
引用文献4:特開2015−34285号公報(申立人が提出した甲4)
引用文献5:特開2010−224150号公報(申立人が提出した甲5)
引用文献6:特開2014−206707号公報(申立人が提出した甲6あるいは同甲9、周知技術A及び周知技術Bを示す文献)(当審注:申立人は、同じ文書に対して、「甲6」あるいは「甲9」と、異なる証拠の表示をすることがある。上記取消理由通知において、同じ文書に対しては、同じ引用文献の表示とする。)
引用文献7:特開2014−16608号公報(申立人が提出した甲7、甲10、周知技術A及び周知技術Bを示す文献)
引用文献8:特開2013−155341号公報(申立人が提出した甲8、周知技術Aを示す文献)
引用文献11:特開2013−186236号公報(申立人が提出した甲11、周知技術Bを示す文献)
引用文献12:特開2015−7732号公報(申立人が提出した甲12、周知技術Cを示す文献)
引用文献13:特開2014−25061号公報(申立人が提出した甲13、周知技術Cを示す文献)
引用文献14:特開2009−241458号公報(申立人が提出した甲14、周知技術Cを示す文献)
引用文献15:特開2010−121013号公報(申立人が提出した甲15、周知技術Dを示す文献)
引用文献16:特開2010−38945号公報(申立人が提出した甲16、周知技術Dを示す文献)
引用文献17:特開2009−255544号公報(申立人が提出した甲17、同第28、周知技術D及び周技術Hを示す文献)
引用文献18:特開2005−298572号公報(申立人が提出した甲18、周知技術Eを示す文献)
引用文献19:特開2000−129247号公報(申立人が提出した甲19、周知技術Eを示す文献)
引用文献20:特開平7−126606号公報(申立人が提出した甲20、周知技術Eを示す文献)
引用文献21:特開2012−150154号公報(申立人が提出した甲21、周知技術Fを示す文献)
引用文献22:特開2011−83912号公報(申立人が提出した甲22、周知技術Fを示す文献)
引用文献23:特開2010−5817号公報(申立人が提出した甲23、周知技術Fを示す文献)
引用文献24:特開2014−126662号公報(申立人が提出した甲24、周知技術Gを示す文献)
引用文献27:特開2013−205477号公報(申立人が提出した甲27、周知技術Hを示す文献)
引用文献31:特開2008−90230号公報(申立人が提出した甲31、周知技術Iを示す文献)
引用文献32:特開2006−313239号公報(申立人が提出した甲32、周知技術Iを示す文献)
引用文献33:特開2015−34286号公報(申立人が提出した甲33、周知技術Jを示す文献)
引用文献34:特開2014−197210号公報(申立人が提出した甲34、周知技術Jを示す文献)
引用文献36:特開2012−206313号公報(申立人が提出した甲36、周知技術Kを示す文献)
引用文献37:国際公開第2010/147142号(申立人が提出した甲37、周知技術Kを示す文献)
引用文献38:特開2011−88962号公報(申立人が提出した甲38、周知技術Kを示す文献)

第4 当審の判断
1 サポート要件に係る取消理由について
事案に鑑み、取消理由2(サポート要件)から検討する。
本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明の解決しようとする課題について、「透明性、表面硬度、耐曲げ性、耐擦傷性、色調、及び表面外観に優れ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、及びエレクトロルミネセンスディスプレイなどの画像表示装置の部材(タッチパネル機能を有する画像表示装置及びタッチパネル機能を有しない画像表示装置を含む。)、特にタッチパネル機能を有する画像表示装置のディスプレイ面板として好適なハードコート積層フィルムを提供することにある。」(段落【0005】)と記載されている。
また、上記課題の解決のために、本件特許の発明の詳細な説明には「無機粒子・・・は、ハードコートの硬度を高めるのに効果が大きい。一方、塗料の樹脂成分との相互作用は弱く、耐擦傷性を不十分なものにする原因となっていた。そこで本発明においては、最表面を形成する第1ハードコートには無機粒子を含まないようにして耐擦傷性を保持し、一方、第2ハードコートには無機粒子を、・・・含ませて硬度を高めることにより、この問題を解決したものである。」(段落【0019】)ことが記載されており、第1ハードコート層に無機粒子を含まないようにして耐擦傷性を保持し、第2ハードコート層に無機粒子を含ませて硬度を高めることにより、上記課題を解決し得ると当業者は認識できる。
また、本件発明1の「上記第1ハードコートは撥水剤を含み、かつ無機粒子を含まない塗料からなり;上記第2ハードコートは平均粒子径1〜300nmの無機微粒子を含む塗料からなり;」という構成を有する「ハードコート積層フィルム」が、「(イ)全光線透過率が85%以上。(ロ)上記第1ハードコート表面の鉛筆硬度が5H以上。」を満たすことが、【表5】〜【表13】の例1〜4、6〜29、3C、31〜53で裏付けられている。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。

2 引用文献の記載
(1)引用文献1の記載、発明
引用文献1の【0197】、【0203】、【0210】【表2】、【0211】、【0214】〜【0215】及び【0218】の記載事項を総合し、特に実施例5に着目すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「光透過性基材フィルムとしてのTACフィルムの片面に、第一の硬化性樹脂組成物として、硬化性樹脂組成物1−5を塗布し、塗膜を硬化させることにより、膜厚10μmの第一のハードコート層(下層)を形成し、さらに、当該第一のハードコート層上に、第二の硬化性樹脂組成物として、硬化性樹脂組成物2−1を塗布し、塗膜を硬化させることにより、膜厚5μmの第二のハードコート層(上層)を形成して作製される、ハードコートフィルムであって、
前記硬化性樹脂組成物1−5は、反応性シリカ微粒子(5):105重量部(固形分42重量部)、バインダー成分(1):58重量部、イルガキュア184:4重量部、メガファックMCF350−5:0.2重量部、MIBK:90重量部を配合したものであり、
前記硬化性樹脂組成物2−1は、バインダー成分(1):100重量部、イルガキュア184:4重量部、メガファックMCF350−5:0.2重量部、MIBK:150重量部を配合したものであり、
前記反応性シリカ微粒子(5)は、日揮触媒化成(株)製、DP1039SIV(異形形状、平均1次粒径55nm、平均連結数3.5個、固形分40%液(溶剤;MIBK)、反応性官能基はメタクリレート基)であって、
鉛筆硬度が6Hである、ハードコートフィルム。」

(2)引用文献5の記載、発明
引用文献5の【0234】、【0236】、【0243】、【0249】、【0252】【表1】及び【0256】の記載事項を総合し、特に実施例1に着目すると、引用文献5には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
「TAC基材の片面に、2スロットダイコーターを用いて第一の硬化性樹脂組成物として、硬化性樹脂組成物1−1がTAC基材に隣接するように(硬化した際に下層となるように)、且つ第二の硬化性樹脂組成物として、硬化性樹脂組成物2−1を硬化性樹脂組成物1−1上に(硬化した際に上層となるように)、塗布速度50m/minにて同時に塗布し、塗膜を硬化させ、TAC基材上にそれぞれ、厚さ15μmの第一のHC層及び第二のHC層をこの順で形成した光学シートであって、
前記硬化性樹脂組成物1−1は、反応性シリカ微粒子(1):30質量部(固形分:12質量部)、DPHA:13質量部、BS371:13質量部、イルガキュアー184:4質量部、MEK:80質量部を配合したものであり、
前記硬化性樹脂組成物2−1は、PET30:30質量部、MEK:70質量部を配合したものであり、
前記反応性シリカ微粒子(1)は、表面処理された平均1次粒径44nmの反応性シリカ微粒子(1)であって、
鉛筆硬度が4H以上である、光学シート。」

3 引用文献1を主引用文献とする新規性又は進歩性に係る取消理由について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
引用発明1の「光透過性基材フィルムとしてのTACフィルム」、「第一のハードコート層(下層)」、「第二のハードコート層(上層)」、「ハードコートフィルム」はそれぞれ、本件発明1の「透明樹脂フィルム」、「第2ハードコート層」、「第1ハードコート層」、「ハードコート積層フィルム」に相当する。
引用発明1の「反応性シリカ微粒子(5)」は、引用文献1の「反応性シリカ微粒子(5)として、日揮触媒化成(株)製、DP1039SIV(異形形状、平均1次粒径55nm、・・・を用いた。」(【0197】)との記載からみて、本件発明1の「平均粒子径1〜300nmの無機粒子」に相当する。そうすると、引用発明1の「第一のハードコート層(下層)」が、「前記硬化性樹脂組成物1−5は、反応性シリカ微粒子(5):105重量部(固形分42重量部)、バインダー成分(1):58重量部、イルガキュア184:4重量部、メガファックMCF350−5:0.2重量部、MIBK:90重量部を配合したものであ」り、「TACフィルムの片面に、第一の硬化性樹脂組成物として、硬化性樹脂組成物1−5を塗布し、塗膜を硬化させることにより、膜厚10μmの第一のハードコート層(下層)を形成」したものであることは、本件発明1の「第2ハードコート」が、「平均粒子径1〜300nmの無機微粒子を含む塗料からな」ることに相当する。
引用発明1の「イルガキュア184」及び「メガファックMCF350−5」と本件発明1の「撥水剤」は、「添加剤」である限りにおいて一致する。そうすると、引用発明1の「第二のハードコート層(上層)」は、「前記硬化性樹脂組成物2−1は、バインダー成分(1):100重量部、イルガキュア184:4重量部、メガファックMCF350−5:0.2重量部、MIBK:150重量部を配合したものであり、」「当該第一のハードコート層上に、第二の硬化性樹脂組成物として、硬化性樹脂組成物2−1を塗布し、塗膜を硬化させることにより、膜厚5μmの第二のハードコート層(上層)を形成した」ものであることと、本件発明1の「上記第1ハードコートは撥水剤を含み、かつ無機粒子を含まない塗料からな」ることは、「上記第1ハードコートは添加剤を含み、かつ無機粒子を含まない塗料からな」る限りにおいて一致する。

以上を総合すると、本件発明1と引用発明1は、以下の点で一致し、相違する。
<一致点1>
「表面側から順に第1ハードコート、第2ハードコート、及び透明樹脂フィルムの層を有し、
上記第1ハードコートは添加剤を含み、かつ無機粒子を含まない塗料からなり;
上記第2ハードコートは 平均粒子径1〜300nmの無機微粒子を含む塗料からなり;
下記、(イ)、(ロ)を満たすハードコート積層フィルム。
(イ)全光線透過率が85%以上。
(ロ)上記第1ハードコート表面の鉛筆硬度が5H以上。」

<相違点1−1>
ハードコート積層フィルムについて、本件発明1は「全光線透過率が85%以上」であるのに対し、引用発明1は全光線透過率が不明な点。
<相違点1−2>
「上記第1ハードコートは添加剤を含み、かつ無機粒子を含まない塗料からな」ることに関して、本件発明1では「上記第1ハードコートは撥水剤を含み、かつ無機粒子を含まない塗料からな」るのに対し、引用発明1では「第二のハードコート層(上層)」は、「前記硬化性樹脂組成物2−1は、バインダー成分(1):100重量部、イルガキュア184:4重量部、メガファックMCF350−5:0.2重量部、MIBK:150重量部を配合したものであり、」「当該第一のハードコート層上に、第二の硬化性樹脂組成物として、硬化性樹脂組成物2−1を塗布し、塗膜を硬化させることにより、膜厚5μmの第二のハードコート層(上層)を形成した」ものである点。

イ 判断
(ア)相違点1−1について
a 引用文献1の【0040】等には、基材フィルムとしてTACフィルムの光透過率に関する記載はあるが、積層体としてのハードコートフィルムの具体的な光透過率に関する記載はなく、引用発明1に係るハードコートフィルムの全光線透過率が85%以上であることを示す証拠は提出されておらず、そのような技術常識もないから、相違点1−1は実質的な相違点であり、本件発明1は引用発明1ではない。
b 引用発明1がディスプレイ等の表面を保護するハードコートフィルムであるところ、ディスプレイ等のハードコートフィルムにおいて、全光線透過率を85%以上とすることが周知技術(引用文献6〜8に例示)であるとしても、ディスプレイ等のハードコートフィルムの全光線透過率は、その適用箇所や要求される光学的特性等に応じて設定されるものであるし、引用文献1には、「光学積層体に用いられる基材フィルムには、透明、半透明、無色又は有色を問わないが、光透過性が要求される。」(【0036】)と記載されているように、光透過性を要求している反面、半透明でもよいとされており、引用発明1の積層体としてのハードコートフィルムの「全光線透過率」を高くすることが要求されているとはまではいえないから、引用発明1において、「全光線透過率が85%以上」とする構成を採用することの動機付けはない。
そうすると、引用発明1において、相違点1−1に係る本件発明1の構成とすることは、その他の提出された証拠を参照しても、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(イ)相違点1−2について
a 引用発明1の「メガファックMCF350−5」は、引用文献1の【0197】を踏まえるとレベリング剤である。ここで、引用文献3の「フッ素系添加剤(界面活性剤・表面改質剤)「メガファックの物性」との記載を踏まえると、前記「メガファックMCF350−5」は、撥水・防汚効果を有するフッ素系レベリング剤として一般に販売されているものといえる。しかしながら、レベリング剤とは、塗料に添加することで塗料の表面張力を下げて均一な塗装面を得るための添加剤であり、その効果の一側面として撥水効果があるとしても、撥水剤とは区別して使用されるものであることは技術常識であるから、相違点1−2は実質的な相違点であり、本件発明1は引用発明1ではない。
b 引用文献1には、引用発明1のハードコートフィルムに撥水性が要求される旨の記載も示唆もない。そうすると、引用発明1の硬化性樹脂組成物2−1に「撥水剤」を添加する動機付けはない。また、ハードコート層に撥水剤を添加する構成は、その他の提出された証拠にも記載も示唆もされていない。
そうすると、引用発明1において、相違点1−2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(ウ)以上を総合すると、本件発明1は引用発明1及び引用文献2〜38に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2〜12について
本件発明1〜12は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えて限定するものであるから、上記(1)で検討したのと同じ理由により、本件発明2〜12は、引用発明1及び引用文献2〜38に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 引用文献5を主引用文献とする進歩性に係る取消理由について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明2とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
引用発明2の「TAC基材」は引用文献5の「最も光透過性に優れた材料は、・・・トリアセチルセルロース」(【0036】)との記載からみて、本件発明1の「透明樹脂フィルム」に相当する。
そうすると、引用発明2の、「TAC基材」の片面に「第一のHC層」及び「第二のHC層」をこの順に形成した「光学シート」はそれぞれ、本件発明1の、「透明樹脂フィルム」、「第2ハードコート層」、「第1ハードコート層」に相当する。
引用発明2の「平均1次粒径44nmの反応性シリカ微粒子(1)」は、本件発明の「平均粒子径1〜300nmの無機微粒子」に相当する。
引用発明2において、第一のHC層(下層)の素材である「反応性シリカ微粒子(1):30質量部(固形分:12質量部)、DPHA:13質量部、BS371:13質量部、イルガキュアー184:4質量部、MEK:80質量部を配合した」「前記硬化性樹脂組成物1−1」は、本件発明1において、第2ハードコートの素材である「平均粒子径1〜300nmの無機微粒子を含む塗料」に相当する。
引用発明2において、第二のHC層(上層)の素材である、「PET30:30質量部、MEK:70質量部を配合したものであ」る「前記硬化性樹脂組成物2−1」は、「無機粒子を含まない塗料」である限りにおいて、本件発明1において、第1ハードコートの素材である「撥水剤を含み、かつ無機粒子を含まない塗料」に相当する。
引用発明2の「鉛筆硬度が4H以上である、光学シート」は、所定の鉛筆硬度を有するハードコート積層フィルムである限りにおいて、本件発明1の「第1ハードコート表面の鉛筆硬度が5H以上」である「ハードコート積層フィルム」に相当する。

以上を総合すると、本件発明1と引用発明2は、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点2−1>
上層である第1ハードコートの素材である無機粒子を含まない塗料が、本件発明1では「撥水剤を含」むのに対し、引用発明2では撥水剤を含まない点。
<相違点2−2>
ハードコート積層フィルムについて、本件発明1は「全光線透過率が85%以上」であるのに対し、引用発明2は全光線透過率が不明な点。
<相違点2−3>
ハードコート積層フィルムが有する鉛筆硬度が、本件発明1では「5H以上」であるのに対し、引用発明2では「4H以上」である点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点2−2及び相違点2−3について検討する。
(ア)相違点2−2について
引用発明2は、ディスプレイ等の表面を保護する、硬化塗膜を有する光学シートであるところ、ディスプレイ等のハードコートフィルムにおいて、全光線透過率を85%以上とすることが周知技術(引用文献6〜8に例示)であるとしても、ディスプレイ等のハードコートフィルムの全光線透過率は、その適用箇所や要求される光学的特性等に応じて設定されるものであるし、引用文献5には、「光学シートに用いられる基材には、透明、半透明、無色又は有色を問わないが、光透過性が要求される。」(【0032】)とあるように、光透過性を要求している反面、半透明でもよいとされているため、積層体としてのハードコートフィルムの「全光線透過率」を高くすることが要求されているとはまではいえないから、引用発明2において、「全光線透過率が85%以上」とする構成を採用することに動機付けがあるとまではいえない。
そうすると、引用発明2において、相違点2−2に係る本件発明1の構成とすることは、その他の提出された証拠を参照しても、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(イ)相違点2−3について
引用発明2は、十分な光学シートの鉛筆硬度として4H以上であることを特定しているところ、引用文献5の【0134】等に、ハードコート層の硬度を維持しつつクラックを抑制する点が記載されているように、ハードコート層を有する積層体において、硬度と耐クラック性はトレードオフの関係にあることは技術常識である。そうすると、引用発明2において鉛筆硬度として4H以上であることが特定されており、ハードコートフィルムにおいて表面の鉛筆硬度を特に5H以上とすることが周知技術(引用文献1、33、34に例示)であるとしても、ハードコートフィルムにおいて、常に鉛筆硬度5H以上が要求されるわけではない。
また、引用文献5には、鉛筆硬度5H以上の具体的な数値も、そのための手段も記載されていない。
そうすると、引用発明2のハードコート積層フィルムの鉛筆硬度を、クラック等のデメリットを発生させてまで5H以上とすることに動機付けがあるとまではいえない。
したがって、引用発明2において、相違点2−3に係る本件発明1の構成とすることは、その他の提出された証拠を参照しても、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(ウ)以上を総合すると、相違点2−1について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明2及び引用文献1〜4、6〜38に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2〜12について
本件発明1〜12は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えて限定するものであるから、上記(1)で検討したのと同じ理由により、本件発明2〜12は、引用発明2及び引用文献1〜4、6〜38に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
したがって、請求項1〜12に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-07-14 
出願番号 P2020-055297
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 537- Y (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 中野 裕之
稲葉 大紀
登録日 2022-05-26 
登録番号 7080269
権利者 リケンテクノス株式会社
発明の名称 ハードコート積層フィルム  
代理人 瀬田 寧  
代理人 弁理士法人浅村特許事務所  

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