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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1400492
総通号数 20 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-01-23 
確定日 2023-07-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第7105051号発明「積層透明フィルム、表示装置用ウィンドウおよび表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7105051号の請求項1〜19に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第70105051号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜19に係る特許についての出願は、平成29年10月20日(パリ条約による優先権主張 平成28年10月21日 韓国)を出願日とする出願であって、令和4年7月13日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行:令和4年7月22日)がされ、その後、その特許について、令和5年1月23日に特許異議申立人石川照子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜19に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜19に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、各発明を「本件発明1」のようにいい、総称して「本件発明」ともいう。)。
【請求項1】
アミド構造単位およびイミド構造単位を含むポリ(アミド−イミド)コポリマーを含有し、波長550nmの光の屈折率が1.65〜1.75であり、かつ弾性率が5.5GPa以上である高分子フィルムと、
前記高分子フィルムの一方の面に配置される第1コーティング層および前記高分子フィルムの前記第1コーティング層が形成される面とは反対側の面に配置される第2コーティング層の少なくとも1つと、
を含み、
前記第1コーティング層は、波長550nmの光の屈折率が1.45〜1.55であり、
前記第2コーティング層は、波長550nmの光の屈折率が1.50〜1.65である、積層透明フィルム。
【請求項2】
前記積層透明フィルムの可視光線領域での光透過率は、前記高分子フィルムの可視光線領域での光透過率より高い、請求項1に記載の積層透明フィルム。
【請求項3】
ASTM D3363規格に準じて測定される前記積層透明フィルムの鉛筆硬度は、ASTM D3363規格に準じて測定される前記高分子フィルムの鉛筆硬度より高い、請求項1または2に記載の積層透明フィルム。
【請求項4】
前記高分子フィルムの鉛筆硬度は2H以上であり、前記積層透明フィルムの鉛筆硬度は4H以上である、請求項3に記載の積層透明フィルム。
【請求項5】
ASTM D1925規格に準じて測定される前記積層透明フィルムの黄色度の絶対値は、ASTM D1925規格に準じて測定される前記高分子フィルムの黄色度の絶対値より小さい、請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層透明フィルム。
【請求項6】
前記高分子フィルムの黄色度の絶対値は4.0以下であり、
前記積層透明フィルムの黄色度の絶対値は2.0以下である、請求項5に記載の積層透明フィルム。
【請求項7】
前記第1コーティング層は、架橋構造を有するシロキサン共重合体を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層透明フィルム。
【請求項8】
前記第1コーティング層は、前記シロキサン共重合体中に分散しているかまたは前記シロキサン共重合体と化学結合しているナノ粒子をさらに含む、請求項7に記載の積層透明フィルム。
【請求項9】
前記第1コーティング層は、570nm〜780nmの波長領域の少なくとも一部の光を吸収する吸光材料を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層透明フィルム。
【請求項10】
前記第2コーティング層は、570nm〜780nmの波長領域の少なくとも一部の光を吸収する吸光材料を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の積層透明フィルム。
【請求項11】
前記積層透明フィルムは前記第2コーティング層を含み、
前記第2コーティング層の前記高分子フィルムが配置されている面と反対側の面に配置される透明接着層をさらに含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の積層透明フィルム。
【請求項12】
前記透明接着層の波長550nmの光の屈折率は、1.45〜1.55である、請求項11に記載の積層透明フィルム。
【請求項13】
前記積層透明フィルムは、可視光線領域での光透過率が85%以上であり、ASTM D3363規格に準じて測定される鉛筆硬度が4H以上であり、かつASTM D1925規格に準じて測定される黄色度の絶対値が2.0以下である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の積層透明フィルム。
【請求項14】
前記高分子フィルムの厚さは、20μm〜100μmである、請求項1〜13のいずれか1項に記載の積層透明フィルム。
【請求項15】
アミド構造単位とイミド構造単位とを含むポリ(アミド−イミド)コポリマーを含有し、厚さが20μm〜100μmであり、波長550nmの光の屈折率が1.65〜1.75であり、かつ弾性率が5.5GPa以上である、ポリ(アミド−イミド)コポリマーフィルム。
【請求項16】
ASTM D3363規格に準じて測定される鉛筆硬度が2H以上である、請求項15に記載のポリ(アミド−イミド)コポリマーフィルム。
【請求項17】
ASTM D1925規格に準じて測定される黄色度の絶対値が4.0以下である、請求項15または16に記載のポリ(アミド−イミド)コポリマーフィルム。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の積層透明フィルム、または請求項15〜17のいずれか1項に記載のポリ(アミド−イミド)コポリマーフィルムを含む、表示装置用ウィンドウ。
【請求項19】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の積層透明フィルム、または請求項15〜17のいずれか1項に記載のポリ(アミド−イミド)コポリマーフィルムを含む、表示装置。

第3 特許異議の申立てについて
1.特許異議の申立ての概要
申立人は、次の甲第1号証〜甲第10号証(以下「甲1」〜「甲10」という。)を提出して、以下(2)及び(3)の理由を申立てている。

(1)提出された証拠
甲1:特開2016−125063号公報
甲1’:韓国特許出願公開第20160083738号明細書
甲2:特開2012−141459号公報
甲3:特開2012−72275号公報
甲4:特開2016−157068号公報
甲5:小檜山光信、「光学薄膜の基礎理論 増補改訂版−フレネル係数、特性マトリクス−」、株式会社オプトロニクス社、平成23年2月25日増補改訂版第1刷発行、44〜47頁
甲6:特開2000−347003号公報
甲7:米国特許出願公開第2016/0053138号明細書
甲8:国際公開第2016/089021号
甲8’:特表2018−500594号公報
甲9:「3MTM Optically Clear Adhesives 8211・8212・8213・8214・8215」、Technical Data、2010年1月
甲10:特開2003−13029号公報

(2)新規性進歩性に係る申立理由
本件発明1〜19は、以下ア〜オの理由により、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反し、それらの特許は特許法第113条第2号に該当する。
ア 本件発明1〜4、11〜19は、甲1に記載された発明である。
イ 本件発明1〜4、11〜19は、甲1に記載された発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件発明5、6、9、10は、甲1に記載された発明及び技術常識、並びに甲7記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 本件発明7、8は、甲1に記載された発明及び技術常識、並びに甲8記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 本件発明11は、甲1に記載された発明及び技術常識、並びに甲6記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)記載不備に係る申立理由
本件発明は、以下の理由により、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反し、それらの特許は特許法第113条第4号に該当する。
本件特許明細書は、実施例1〜13において、特定の高分子フィルムの一面に屈折率が1.51の第1コーテイング層と、他の面に屈折率が1.63の第2コーティング層及び屈折率1.53の透明接着層とをこの順に設けた例と、実施例14において、特定のポリ(アミド−イミド)コポリマーフィルムの一面に屈折率が1.51の第1コーテイング層と、他の面に屈折率1.53の透明接着層(=波長550nmの光の屈折率が1.50〜1.65の第2コーティング層に相当)とを設けた例というように、特定の高分子フィルムの“両面に”、第1コーテイング層と第2コーティング層とを設けた例において、積層フィルムの透過率が高くなることが示されているに過ぎない。
また、本件特許明細書は、実施例1〜13において、第2コーティング層にジオキサジンバイオレット(λmax=600〜610nm)を特定量添加したことにより、積層フィルムの黄色度が低減すること、実施例13〜14において、製造例13のポリ(アミド−イミド)コポリマーフィルムにジオキサジンバイオレット(λmax=600〜610nm)を特定量添加したことにより、積層フィルムの黄色度が低減することが示されているに過ぎない。
しかし、本件発明は、特定の高分子フィルムの一方の面のみに「第1コーティング層は、「波長550nmの光の屈折率が1.45〜1.55」の「第1コーティング層」又は「波長550nmの光の屈折率が1.50〜1.65」の「第2コーティング層」が配置されている態様や、高分子フィルムの黄色度を低くする特定の吸収波長を有する青色顔料、青色染料、紫色顔料または紫色染料を含有しない態様も含み得る記載となっており、これらの態様は、本件発明の課題を解決できるとはいえない。

2.新規性進歩性に係る申立理由についての判断
(1)甲1に記載された発明
甲1の、特に実施例1のフィルムの片側または両側の表面にハードコーティング層を設けた「表示装置用ウィンドウフィルム」について着目すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「窒素雰囲気下で、反応器に84000gのジメチルアセトアミドを入れ、ピリジン 15.614モルを投入し、前記反応器に2,2’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ビフェニルジアミン(TFDB)15.614モルを添加し溶解して、TFDB溶液を製造し、前記TFDB溶液にテレフタロイルクロリド(TPCL)7.807モルを添加し、30℃で120分間攪拌して、ポリアミドを含むTFDB溶液を得、
前記ポリアミドを含むTFDB溶液に、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物(6FDA)2.3421モル、および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)5.4649モルを添加して、30℃で36時間反応を行って、ポリアミド−アミド酸共重合体を得、
得られたポリアミド−アミド酸共重合体溶液に、化学的イミド化触媒として無水酢酸11.7105モルを投入し、30分間攪拌した後、同じモル数のピリジンを添加して、30℃で36時間攪拌し、化学的イミド化を終えた溶液は、沈澱過程を通してパウダー形態に精製し、得られたパウダーを、120℃で24時間真空乾燥し、ジメチルアセトアミドにさらに溶解して、ポリアミドイミド共重合体溶液を製造し、
製造した溶液を、ガラス板にドクターブレードを使用して塗布し、フィルム状に塗布し、その後、80℃のホットプレートで1時間プリベーク(pre−baking)した後、焼成炉(furnace)で1分当り3℃で昇温させ250℃まで加熱して、フィルムの乾燥および熱的イミド化を行い、厚さ50μmのフィルムを製造し、
このフィルムの表面鉛筆硬度は4H、黄色度YIは2.3、引張強度は6.1GPaであり、
フィルムの片側または両側の表面にハードコーティング層を設けた、表示装置用ウィンドウフィルム。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の、TFDB、TPCL、6FDA及びBPDAを含むポリアミドイミド共重合体溶液から製造されたフィルムは、本件発明1の「アミド構造単位およびイミド構造単位を含むポリ(アミド−イミド)コポリマーを含有」する「高分子フィルム」に相当し、甲1発明のフィルムの引張強度が6.1GPaであることは、本件発明1の「高分子フィルム」の「弾性率が5.5GPa以上である」ことに相当する。
甲1発明のフィルムの片側または両側の表面に設けたハードコーティング層は、本件発明1の「前記高分子フィルムの一方の面に配置される第1コーティング層および前記高分子フィルムの前記第1コーティング層が形成される面とは反対側の面に配置される第2コーティング層の少なくとも1つ」に相当する。
甲1発明の表示装置用ウィンドウフィルムは、本件発明1の「積層透明フィルム」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点1で一致し、相違点1、2で相違する。
《一致点1》
アミド構造単位およびイミド構造単位を含むポリ(アミド−イミド)コポリマーを含有し、弾性率が5.5GPa以上である高分子フィルムと、
前記高分子フィルムの一方の面に配置される第1コーティング層および前記高分子フィルムの前記第1コーティング層が形成される面とは反対側の面に配置される第2コーティング層の少なくとも1つを含む、
積層透明フィルム。
《相違点1》
本件発明1の高分子フィルムにおける「波長550nmの光の屈折率が1.65〜1.75」であるのに対し、甲1発明のフィルムにおける波長550nmの光の屈折率は不明である点。
《相違点2》
本件発明1の「前記第1コーティング層は、波長550nmの光の屈折率が1.45〜1.55であり、前記第2コーティング層は、波長550nmの光の屈折率が1.50〜1.65である」のに対し、甲1発明のハードコーティング層における波長550nmの光の屈折率は不明である点。
イ 上記相違点1について検討する。
甲1には、フィルムにおける波長550nmの光の屈折率に係る記載はなく、示唆する記載もなく、甲1発明のフィルムにおける波長550nmの光の屈折率について、「1.65〜1.75」の数値範囲を選択する動機付けがない。
ウ 申立人は、「甲1発明の実施例1〜6に記載されたTFDBと、TPCL又はBPCLと、BPDAと6FDAとからなるポリアミドイミド共重合体のフィルムのモル比は、本件特許発明の実施例と同様のモノマーで同様のモル比であり、・・・・甲1発明の実施例1〜6に記載されたTFDBと、TPCL又はBPCLと、BPDAと6FDAとからなるポリアミドイミド共重合体のフィルムは、「波長550nmの光の屈折率が1.65〜1.75」を満たしているといえるから、前記相違点1は、甲1発明に内在している事項であって、実質的な相違点ではない。」旨(特許異議申立書39頁23行〜末行)主張する。
そこで、甲1発明のフィルムを製造するポリアミドイミド共重合体溶液と、本件発明1の高分子フィルムを製造するポリ(アミド−イミド)コポリマー溶液中の、モノマーのモル比について比較する。
甲1発明のフィルムを製造するポリアミドイミド共重合体溶液(実施例1)は、TFDBを100モルとした場合、TPCL50モル、6FDAは15モル、BPDAは35モルを含む(甲1の【0081】〜【0082】)ものであり、フィルムは、TFDBとTPCLを合わせて150モル、6FDAとBPDAを合わせて50モルを混合したポリアミドイミド共重合体溶液から製造される。
一方、本件発明1の高分子フィルムは、TFDB(1モル当量)とTPCL(0.7モル当量)の合成例1のアミド基含有オリゴマー0.0152モルに、6FDA0.0084モルとBPDA0.0068モルの合計0.0152モルを添加したポリ(アミド−イミド)コポリマー溶液から製造(製造例1)する。また、他の製造例6〜10も、いずれも、TFDBとTPCLのアミド基含有オリゴマーを0.0152モルに対し、6FDAとBPDAを合わせて0.0152モル混合したポリ(アミド−イミド)コポリマー溶液から製造するものである。
ポリ(アミド−イミド)コポリマー溶液中に、「TFDB」と「TPCL」と「6FDA」と「BPDA」を含有する本件発明1の製造例1、6〜10は、いずれも、「TFDB」と「TPCL」は合計0.0152モル、「6FDA」と「BPDA」は合計0.0152モルであるのに対し、同じく「TFDB」と「TPCL」と「6FDA」と「BPDA」を含有する甲1発明は、「TFDB」と「TPCL」が合計150モル、「6FDA」と「BPDA」が合計50モルであり、「TFDB」と「TPCL」の合計モル数に対し「6FDA」と「BPDA」の合計モル数は3倍である。
ポリ(アミド−イミド)コポリマー溶液を構成するモノマーの内訳が、本件発明1に係る製造例と甲1発明とで異なるから、申立人がいうような「甲1発明の実施例1〜6に記載されたTFDBと、TPCL又はBPCLと、BPDAと6FDAとからなるポリアミドイミド共重合体のフィルムのモル比は、本件特許発明の実施例と同様のモノマーで同様のモル比」ではない。
よって、甲1発明と本件発明1とが、同様のモノマーで同様のモル比であることをもって、「甲1発明の実施例1〜6に記載されたTFDBと、TPCL又はBPCLと、BPDAと6FDAとからなるポリアミドイミド共重合体のフィルムは、「波長550nmの光の屈折率が1.65〜1.75」を満たしているといえる」とする申立人の主張は、その前提を欠くものであって、採用することはできない。
エ 申立人は、甲5及び甲6を提出して、「透明基材フィルムの表面、特に表裏の両面に、透明基材フィルムの屈折率の値よりも小さい屈折率を有する層を設けると、当該積層体は、空気(屈折率は約1)界面との屈折率差が小さくなり、界面反射が抑制されて、透過率が高くなる」ことは技術常識である旨(特許異議申立書41頁8〜13行)主張するが、このことが申立人の主張のとおり技術常識であったとしても、甲1発明のフィルムにおける波長550nmの光の屈折率について、「1.65〜1.75」の数値範囲を選択する動機付けを示すものではない。また、当該動機付けは、提出された他の文献にも記載されていない。
オ よって、上記相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は甲1発明ではない。
また、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、甲1発明に基いて当業者が容易に想到し得たものではなく、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2〜14について
本件発明2〜14は、いずれも本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明1は、上記(2)で述べたように、甲1発明ではなく、甲1発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2〜4、11〜14も、甲1発明ではなく、また、本件発明2〜14は、甲1発明及び技術常識、並びに甲6〜甲8記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明15〜17について
ア 本件発明15と甲1発明を対比する。
甲1発明の、TFDB、TPCL、6FDA及びBPDAを含むポリアミドイミド共重合体溶液から製造された厚さ50μmのフィルムは、本件発明15の「アミド構造単位およびイミド構造単位を含むポリ(アミド−イミド)コポリマーを含有し、熱さが20μm〜100μmであ」る「ポリ(アミド−イミド)コポリマーフィルム」に相当し、甲1発明のフィルムの引張強度が6.1GPaであることは、本件発明15の「ポリ(アミド−イミド)コポリマーフィルム」の「弾性率が5.5GPa以上である」ことに相当する。
そうすると、本件発明15と甲1発明とは、次の一致点2で一致し、相違点3で相違する。
《一致点2》
アミド構造単位およびイミド構造単位を含むポリ(アミド−イミド)コポリマーを含有し、厚さが20μm〜100μmであり、弾性率が5.5GPa以上である、ポリ(アミド−イミド)コポリマーフィルム。
《相違点3》
本件発明15のポリ(アミド−イミド)コポリマーフィルムにおける「波長550nmの光の屈折率が1.65〜1.75」であるのに対し、甲1発明のフィルムにおける波長550nmの光の屈折率は不明である点。
イ 上記相違点3について検討する。
相違点3は、上記(2)アで述べた相違点1と実質的に同じであり、この相違点1は、上記(2)イ〜オで述べたように実質的な相違点である。
よって、上記相違点3も同様に、実質的な相違点であり、本件発明15は甲1発明ではない。
また、上記相違点3に係る本件発明15の構成は、甲1発明に基いて当業者が容易に想到し得たものではなく、本件発明15は、甲1発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明16、17は、いずれも本件発明15の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明15は、上記イで述べたように、甲1発明ではなく、甲1発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明16、17も、甲1発明ではなく、甲1発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明18、19について
本件発明18、19は、いずれも本件発明1または本件発明15の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明1については上記(2)で、本件発明15については上記(4)で述べたように、甲1発明ではなく、甲1発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明18、19も、甲1発明ではなく、甲1発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.記載不備に係る申立理由についての判断
(1)ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の記載によれば
「柔軟性を有し、かつ光学的特性および機械的特性が向上した積層透明フィルムを提供すること」(【0005】)である。
イ この課題の解決に関し、「積層体」について本件明細書には、次の事項が記載されている。
(ア)「高分子フィルム11は、波長550nm(以下、「基準波長」とも称する)の光の屈折率が1.65〜1.75である。高分子フィルム11が上記範囲の屈折率を有することによって、後述する第1コーティング層12および/または第2コーティング層13との相乗的効果により、積層透明フィルム10の光学的特性を改善することができる。」(【0060】)
(イ)「第1コーティング層12は、波長550nmの光の屈折率が、1.45〜1.55であることが好ましい。第1コーティング層12がこのような範囲の屈折率を有することによって、高分子フィルム11との相乗的効果により積層透明フィルム10の光透過率を高めることができる。」(【0119】)
(ウ)「第2コーティング層13は、波長550nmの光の屈折率が1.50〜1.65であることが好ましい。第2コーティング層13の屈折率が、上記のような範囲であることによって、高分子フィルム11および選択的な第1コーティング層12との相乗的効果により積層透明フィルム10の光透過率を高めることができる。」(【0123】)
ウ 上記イの事項から、高分子フィルムの「波長550nmの光の屈折率が1.65〜1.75」、第1コーティング層の「波長550nmの光の屈折率が、1.45〜1.55」、第2コーティング層の「波長550nmの光の屈折率が1.50〜1.65」とすることにより、「積層透明フィルム10の光透過率を高めることができる」ものと理解される。
これらの事項を備える本件発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。

(2)ア 申立人は、高分子フィルムの一方の面のみに、第1又は第2コーティング層が配置されている態様は、本件発明の課題を解決できないと主張する。
しかし、実施例14の、一方の面に第1コーティング層のみ配置され、他の面(第1コーティング層が形成されていない面)に透明接着層が形成され第2コーティング層が形成されていない態様でも、積層透明フィルムの光透過度は「90.3%」であり、本件発明の課題を解決できることが確認されているから、申立人の上記主張は採用できない。
イ また、申立人は、高分子フィルムの黄色度を低くする特定の吸収波長を有する青色顔料、青色染料、紫色顔料または紫色染料を含有しない態様は、本件発明の課題を解決できないとも主張する。
しかし、青色顔料、青色染料、紫色顔料または紫色染料は、本件明細書の記載によれば「高分子フィルム11の黄変現象により黄色度(YI)が高くなるのを抑制し、積層透明フィルム10の黄色度を効果的に低くすることができる。」(【0117】、【0124】)とされるものである。
本件発明の課題の「光学的特性の向上」は、上記(2)アで述べたとおり、高分子フィルムの「波長550nmの光の屈折率が1.65〜1.75」、第1コーティング層の「波長550nmの光の屈折率が、1.45〜1.55」、第2コーティング層の「波長550nmの光の屈折率が1.50〜1.65」として、「積層透明フィルム10の光透過率を高める」ことにより解決できるから、その課題の解決に、青色顔料、青色染料、紫色顔料または紫色染料を含有することが必要ということはなく、申立人の上記主張は採用できない。
ウ よって、記載不備に係る申立理由には、理由がない。

第4 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-07-04 
出願番号 P2017-203891
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 537- Y (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 稲葉 大紀
井上 茂夫
登録日 2022-07-13 
登録番号 7105051
権利者 三星電子株式会社 三星エスディアイ株式会社
発明の名称 積層透明フィルム、表示装置用ウィンドウおよび表示装置  
代理人 IBC一番町弁理士法人  
代理人 IBC一番町弁理士法人  

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