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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02K
管理番号 1400509
総通号数 20 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-04-18 
確定日 2023-07-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第7164791号発明「波動歯車減速機用モータユニット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7164791号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第7164791号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成28年7月5日に出願した特願2016−133624号の一部を令和3年2月4日に新たな特許出願としたものであって、令和4年10月25日にその特許権の設定登録がされ、同年11月2日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年4月18日に特許異議申立人株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがされた。

2 本件発明
特許第7164791号の請求項1ないし5の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
軸線方向に延びる筒状のケーシングと、
前記ケーシング内に該ケーシングに対して相対回転可能に配置され、内周側に内歯を有する環状の内歯歯車と、
前記内歯歯車の径方向内方に配置されるとともに前記軸線方向の一方側が前記ケーシングに固定され、且つ、外周側に前記内歯と噛み合う外歯を有する、可撓性の環状の外歯歯車と、
前記外歯歯車の径方向内方に配置され、回転によって、前記外歯歯車を径方向に変形させる楕円状のカムと、
を備えた波動歯車減速機に対して、取り付けられるモータユニットであって、
前記軸線方向に延びる回転軸部と、
前記回転軸部に対して、該回転軸部と一体で回転可能に設けられたロータ部と、
前記ロータ部に対向して配置されたステータ部と、
前記回転軸部、前記ロータ部及び前記ステータ部を覆い、且つ、該ステータ部が固定されたモータケーシングと、を備え、
前記モータケーシングは、前記ロータ部及び前記ステータ部を前記軸線方向の他方側から覆うカバー部を有し、
前記回転軸部は、前記軸線方向の他方側に延び、前記カバー部を貫通し、且つ前記カムに接続され、
前記カバー部は、支持部を有し、
前記支持部は、前記軸線方向の他方側に延び、前記回転軸部の一部を覆い、且つ前記回転軸部を回転可能に支持し、前記モータケーシングに前記波動歯車減速機が取り付けられた状態で、前記外歯歯車の内方に位置し、
前記回転軸部と該回転軸部の一部を覆う前記支持部との間には、前記軸線方向に並んで複数の軸受が配置されており、
前記軸受の1つは、前記回転軸部と、前記支持部の前記軸線方向の他方側端部との間に配置される、波動歯車減速機用モータユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の波動歯車減速機用モータユニットにおいて、
前記回転軸部は、
前記先端部分に位置し、前記カムが有する挿入孔内 に挿入される挿入部と、
前記挿入部に対して前記軸線方向の一方側に位置し、該挿入部よりも大きい外径を有する大径部と、を有する、波動歯車減速機用モータユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の波動歯車減速機用モータユニットにおいて、
前記カバー部は、径方向内周側に、前記波動歯車減速機が組み合わされた状態で、該波動歯車減速機に設けられた凹部が位置付けられる凸部を有する、波動歯車減速機用モータユニット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の波動歯車減速機用モータユニットにおいて、
前記ロータ部は、前記軸線方向において、前記ステータ部に対向して配置されている、波動歯車減速機用モータユニット。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の波動歯車減速機用モータユニットにおいて、
前記ロータ部は、前記ステータ部を挟んで配置される2つの磁界発生部を有する、波動歯車減速機用モータユニット。」

3 異議申立て理由の概要
令和5年4月18日に申立人より申立てられた特許異議の申立ての理由は、概略次のとおりである。
(1)本件発明1は、甲第1号証(以下、「甲1」といい、他の証拠についても同様とする。)に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)本件発明2は、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)本件発明3は、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(4)本件発明4は、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(5)本件発明5は、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲1ないし5は、次のとおりである。なお、甲3ないし5は、周知技術を示す文献である。
甲1:実願昭59−2611号(実開昭60−114350号)のマイクロフィルム
甲2:特開2007−336759号公報
甲3:実願昭60−60336号(実開昭61−177243号)のマイクロフィルム
甲4:特開2005−312223号公報
甲5:実公平6−15515号公報

4 文献の記載
(1)甲1
ア 甲1記載事項
甲1には、次の事項が記載されている(下線は、理解のため当審で付与した。以下同様。)。
(ア)「2.実用新案登録請求の範囲
偏平な電動機の回転軸、この回転軸に連結された撓み発生部材、この撓み発生部材の外周に装着され、外周部に複数の歯を有する可撓スプライン、この可撓スプラインと一体に形成されると共に上記電動機を支持するケースに固定され、径方向に対して可撓であり円周方向には剛性を有する可撓フランジ、上記可撓スプラインの歯数より多い歯数の歯を内周部に有し、上記撓み発生部材の回転によりその内周の複数個所でその内周部の歯と上記可撓スプラインの歯と噛合させる円形スプライン、及び上記円形スプラインの外周部と上記ケースとの間に設けられ、上記円形スプラインを回転自在に支持するクロスローラベアリングを備えた偏平な減速機構付伝動装置。」(明細書1ページ4行ないし同ページ19行)

(イ)「[考案の技術分野]
この考案は偏平な電動機と偏平なハーモニツクギヤ装置を結合して得られる偏平な減速機構付伝動装置に関する。
[従来技術]
一般にを産業用ロボツトのアーム駆動などに使用される減速機構付伝動装置、即ち減速装置付電動機は空間利用効率上、可能な限り偏平な外形であることが望ましい場合がある。」(明細書2ページ1行ないし同ページ9行)

(ウ)「[考案の実施例]
以下、図に示すこの考案の一実施例について説明する。
偏平な直流サーボ電動機の高速軸(1)によつて撓み発生部材(2)が回転させられ、可撓ベアリング(3)を介して外周にN枚の歯を有する可撓スプライン(4)へその楕円近似形状の撓みの移動が伝達され、これと内周のM枚の歯で噛み合う円形スプライン(6)との噛合位置が撓み発生部材(2)の回転と一致して移動する。円筒状の可撓スプライン(4)は、半径方向に可撓であつて円周方向には剛性を有する円環状の可撓フランジ(5)の内径側と一体に接続されており、可撓フランジ(5)の外径側はケース(8)へ固定されており、また円形スプライン(6)はケース(8)に外輪を固定したクロスローラベアリング(7)の内輪により回転自在に取り付けられており、高速軸(1)が回転するとその回転方向を逆方向に(M−N)/N(当審注:「(M−N)/N」は、分数の形式で記載されている。)の減速比で円形スプライン(6)が回転して低速大トルクの出力を取り出すことができる。
クロスローラベアリング(7)は軸方向力、モーメント力を受けることができ、図のように取り付けることによつて産業用ロボツトのアームの回転支持機構をこの偏平な減速装置付電動機の中に内蔵させることができて空間利用効率上好都合である。
この考案は、偏平な減速装置として本件考案者が既に出願した前述のフラツト形ハーモニツクギヤ装置を使用し、その円形スプライン(6)の外周に回転支持機構となるクロスローラベアリング(7)を使用し、高速軸(1)の駆動に偏平な電動機を使用するようにしたものである。」(明細書3ページ16行ないし5ページ7行)

(エ)「偏平な電動機として図では光学式エンコーダ付の円板状回転子を用いた直流サーボ電動機を組み合せており、(9)、(9’)は継鉄でもあるケース、(10)はコイルを樹脂で固め整流子を取り付けた円板状電機子、(11)は永久磁石、(12)は刷子、(13)は光学式エンコーダのスケール板、(14)はその発光受光素子、(15)はそのカバー、(16)、(17)は高速軸(1)のベアリングである。
偏平な電動機は直流電動機に限定されるのではなく、偏平な誘導電動機、同期電動機等もその対象となる。」(明細書5ページ8行ないし同ページ18行)

(オ)甲1には、次の図が記載されている。


イ 上記アよりわかること
(ア) 高速軸(1)は、偏平な電動機によって回転させられるものであるから(上記ア(ア)及びア(ウ))、回転の中心軸となる回転軸を有している。そして、ア(ウ)及びア(オ)に示す図より、ケース(8)は、高速軸(1)の回転軸と中心軸が一致する円筒状であることがわかる。

(イ)可撓スプライン(4)の外周の歯に円形スプライン(6)の内周の歯が噛み合う(上記ア(ウ))ことから、可撓スプライン(4)は、円形スプライン(6)の径方向内側に配置されていることがわかる。また、可撓スプラインは、撓み発生部材の外周に装着されている(上記ア(ア))から、撓み発生部材は、可撓スプラインの内周に配置されていることがわかる。

(ウ)上記ア(エ)に記載された偏平な直流サーボ電動機は、技術的にみて、円板状電機子(10)が回転し、その回転により高速軸(1)が回転することが明らかであるから、高速軸(1)と円板状電機子(10)は、共に回転する。また、この円板状電機子(10)は、上記ア(オ)に示す図の記載からみて、永久磁石(11)と対面するように配置されている。

(エ)上記ア(オ)に示す図の記載からみて、継鉄でもあるケース(9)、(9’)には、高速軸(1)、円板状電機子(10)及び永久磁石(11)が内在しており、このうち永久磁石(11)は継鉄でもあるケース(9’)に取り付けられている。また、回転軸方向のフラツト形ハーモニツクギヤ装置側を継鉄でもあるケース(9)が覆っている。

(オ)上記ア(オ)に示す図の記載から、継鉄でもあるケース(9)、(9’)は、ベアリング(16)、(17)が取り付けられる2つのベアリング取付部を有しており、そのうちの一方は、前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)内の前記回転軸方向のフラツト形ハーモニツクギヤ装置側に位置し、前記高速軸(1)の径方向外側に位置し、前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)に前記フラツト形ハーモニツクギヤ装置が取り付けられた状態で、前記可撓スプライン(4)の径方向内側に位置し、前記ベアリング取付部の他方は、前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)内の前記回転軸方向のフラツト形ハーモニツクギヤ装置とは反対側に位置し、前記高速軸(1)の径方向外側に位置し、前記高速軸(1)と該高速軸(1)の径方向外側に位置する2つのベアリング取付部との間には、それぞれベアリング(16)、(17)が取付けられていることがわかる。

ウ 甲1に記載された発明
上記ア及びイより、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

・甲1発明
「高速軸(1)の回転軸と中心軸が一致する円筒状のケース(8)と、
ケース(8)に外輪を固定したクロスローラベアリング(7)の内輪により回転自在に取り付けられ、内周に歯を有する円形スプライン(6)と、
前記円形スプライン(6)の径方向内側に配置されるとともに外径側の回転軸方向の一端がケース(8)へ固定される可撓フランジ(5)の内径側と一体に接続され、且つ、前記円形スプライン(6)が有する歯と噛み合う歯を外周に有する、半径方向に可撓の可撓スプライン(4)と、
前記可撓スプライン(4)の内周に配置され、回転させられると、前記可撓スプライン(4)へ楕円近似形状の撓みの移動が伝達される楕円近似形状の撓み発生部材(2)と、
を備えたフラツト形ハーモニツクギヤ装置に対して、使用される偏平な直流サーボ電動機であって、
前記回転軸方向に延びる高速軸(1)と、
前記高速軸(1)と共に回転する円板状電機子(10)と、
前記円板状電機子(10)に対面するように配置された永久磁石(11)と、
前記高速軸(1)、前記円板状電機子(10)及び前記永久磁石(11)が内在し、且つ、該永久磁石(11)が取り付けられた継鉄でもあるケース(9)、(9’)と、を備え、
前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)は、前記円板状電機子(10)及び前記永久磁石(11)を前記回転軸方向のフラツト形ハーモニツクギヤ装置側から覆う継鉄でもあるケース(9)を有し、
前記高速軸(1)は、前記回転軸方向のフラツト形ハーモニツクギヤ装置側に延び、前記継鉄でもあるケース(9)を抜けて、且つ前記撓み発生部材(2)が取り付けられ、
前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)は、ベアリング(16)、(17)が取り付けられる2つのベアリング取付部を有し、
前記ベアリング取付部の一方は、前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)内の前記回転軸方向のフラツト形ハーモニツクギヤ装置側に位置し、前記高速軸(1)の径方向外側に位置し、前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)に前記フラツト形ハーモニツクギヤ装置が取り付けられた状態で、前記可撓スプライン(4)の径方向内側に位置し、
前記ベアリング取付部の他方は、前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)内の前記回転軸方向のフラツト形ハーモニツクギヤ装置とは反対側に位置し、前記高速軸(1)の径方向外側に位置し、
前記高速軸(1)と該高速軸(1)の径方向外側に位置する2つのベアリング取付部との間には、それぞれベアリング(16)、(17)が取付けられている偏平な直流サーボ電動機。」

(2)甲2
甲2には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、ディスクドライブ用の駆動モータなどとして利用されている面対向型の扁平ブラシレスモータに関し、特に、扁平を維持しつつ小径化を図ることのできる構造を備えた面対向型の扁平ブラシレスモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
CD、DVDなどのディスクドライブの駆動モータなどの薄型駆動装置や、その他のテーブル回転機構には、面対向型の扁平ブラシレスモータが多用されている。面対向型の扁平ブラシレスモータでは、モータ回転軸線の方向において、ロータマグネットとステータコイルが一定のギャップで対向配置されている。たとえば、扇形のステータコイルを、モータ回転軸線に直交する軸直角平面上において円環状に配列して、モータの界磁部が形成されている。」

イ 「【0013】
図1は、本実施の形態に係る面対向型の扁平ブラシレスモータを示す半断面図である。面対向型の扁平ブラシレスモータ1は、モータ回転軸2と、このモータ回転軸2と一体回転するロータアセンブリ3と、このロータアセンブリ3にモータ回転軸線1aの方向から同軸状態で対向配置したステータアセンブリ4とを有している。また、ステータアセンブリ4と共にロータアセンブリ3を覆っているモータケース5を有しており、モータケース5は軸受け6を介して、モータ回転軸2を回転自在の状態で支持している。」

ウ 甲2には、図1として次の図が記載されている。


(3)甲3
甲3には、次の事項が記載されている。
ア 「駆動源としてのサーボモータ1は、ケーシング10を貫通して上記のフレクスプライン15の内部空間18に深く挿入した状態に取り付けられる。よって従来モータ端部に設けたモータ1の取付けフランジ19は、そのモータ挿入分だけ、中央部にずらして形成されている。」(明細書7ページ5行ないし同ページ11行)

イ 「以上説明してきたように、この考案によれば、従来利用されていない調和減速機の中空構造の内部空間を積極的に活用して、そこに駆動源のモータを埋め込む形で一体化したアクチュエータユニットとしたため、軸方向の長さの短いコンパクトなユニットとなり、周囲の障害物と干渉する機会を減少できるという効果が得られる。」(明細書8ページ12行ないし同ページ18行)

ウ 甲3には、第1図として、次の図が記載されている。


(4)甲4
甲4には、次の事項が記載されている。

ア 「【解決手段】 アクチュエータ1は、モータ2と、この前面から前方に突出している出力軸4に同軸状態に波動発生器34が連結固定された波動歯車減速機3とを有している。波動歯車減速機3の可撓性外歯歯車34における円筒状胴部34aの内側を同軸状態で出力軸4の軸部分4aが延びており、当該軸部分4aに、出力軸回転を検出するための磁気式エンコーダ5が取り付けられている。円筒状胴部34aの内側のデッドスペースを磁気式エンコーダ5の配置スペースとして利用しているので、モータ、波動歯車減速機およびエンコーダを軸線方向に配列した構成のアクチュエータに比べて全長を短くすることができる。」

イ 「【0012】
ここで、モータの出力軸4は、可撓性外歯歯車34の円筒状胴部34aの後端側から同軸状態に挿入され、円筒状胴部34aの前端側に嵌め込まれている波動発生器35に連結固定されている。円筒状胴部34aの内側に位置している出力軸4の軸部分4aに、磁気式エンコーダ5が取り付けられている。
【0013】
本例のアクチュエータ1においては、波動歯車減速機3の可撓性外歯歯車34における円筒状胴部34a内部のデッドスペースが磁気式エンコーダ5の設置スペースとして利用されている。したがって、磁気式エンコーダ5をモータ2の後端部に同軸状態に取り付けた場合のように、当該磁気式エンコーダ5の軸長だけアクチュエータ1の全長が長くなってしまうことがない。よって、波動歯車減速機3を備えた全長の短いアクチュエータ1を実現できる。」

ウ 甲4には、図1として次の図が記載されている。


(5)甲5
ア 「本考案を図に示す実施例について説明する。
第1図は本考案の実施例の一部を断面で示した側断面図、第2図はその正断面図で、中空円筒状のアクチュエータフレーム1の外周に冷却フィン11が設けられ、一方端面には軸方向に伸びる複数個の外側挿入穴12が円周方向に等間隔に設けられ、外側挿入穴12の間に取付けボルト穴13が設けられている。アクチュエータフレーム1の他方端面に負荷側ブラケット2が固定されている。負荷側ブラケット2には軸受21を介してリング状のサーキュラスプライン3を設け、端面にアクチュエータの出力軸31を構成している。また、サーキュラスプライン3の内周に接触させてシルクハット状のフレックススプライン4を設け、フレックススプライン4のフランジ部41をアクチュエータフレーム1の一方端面に固定してある。フランジ部41には前記外側挿入穴12と同じピッチで貫通穴42が設けられている。また、フレックススプライン4の内周には軸受43を介して接触された楕円状のウエーブジェネレータ5が設けられている。ウエーブジェネレータ5の内周には、モータ6のモータ出力軸61が固定されている。モータ出力軸61の一方端部は軸受62を介してサーキュラスプライン3の内周に支持されている。」(3ページ左欄2行ないし同欄23行)

イ 甲5には、第1図として次の図が記載されている。


5 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「高速軸(1)の回転軸と中心軸が一致する円筒状のケース(8)」は、本件発明1の「軸線方向に延びる筒状のケーシング」に相当する。
甲1発明の円形スプライン(6)は、「ケース(8)に外輪を固定したクロスローラベアリング(7)の内輪により回転自在に取り付けられ」るものであるから、ケース(8)内にケース(8)に対して相対回転可能に配置されていることとなる。したがって、甲1発明の「ケース(8)に外輪を固定したクロスローラベアリング(7)の内輪により回転自在に取り付けられ」ることは、本件発明1の「前記ケーシング内に該ケーシングに対して相対回転可能に配置され」ることに相当し、また、甲1発明の「内周に歯を有する円形スプライン(6)」は、本件発明1の「内周側に内歯を有する環状の内歯歯車」に相当する。
甲1発明の「前記円形スプライン(6)の径方向内側に配置される」ことは、本件発明1の「前記内歯歯車の径方向内方に配置される」ことに相当する。甲1発明の「外径側の回転軸方向の一端がケース(8)へ固定される可撓フランジ(5)の内径側と一体に接続され」る可撓スプライン(4)は、可撓スプライン(4)の回転軸方向の一端が可撓フランジ(5)を介して、ケース(8)に固定されることとなるから、甲1発明の「外径側の回転軸方向の一端がケース(8)へ固定される可撓フランジ(5)の内径側と一体に接続され」ることは、本件発明1の「前記軸線方向の一方側が前記ケーシングに固定され」ることに相当する。さらに、甲1発明の「前記円形スプライン(6)が有する歯と噛み合う歯を外周に有する」ことは、本件発明1の「外周側に前記内歯と噛み合う外歯を有する」ことに相当し、甲1発明の「半径方向に可撓の可撓スプライン(4)」は、本件発明1の「可撓性の環状の外歯歯車」に相当する。
甲1発明の「前記可撓スプライン(4)の内周に配置され」ることは、本件発明1の「前記外歯歯車の径方向内方に配置され」ることに相当し、甲1発明の「回転させられると、前記可撓スプライン(4)へ楕円近似形状の撓みの移動が伝達される楕円近似形状の撓み発生部材(2)」は、本件発明1の「回転によって、前記外歯歯車を径方向に変形させる楕円状のカム」に相当する。
甲1発明の「フラツト形ハーモニツクギヤ装置」は、本件発明1の「波動歯車減速機」に相当し、甲1発明の「使用される偏平な直流サーボ電動機」は、本件発明1の「取り付けられるモータユニット」に相当する。
甲1発明の「前記回転軸方向に延びる高速軸(1)」は、本件発明1の「前記軸線方向に延びる回転軸部」に相当する。
甲1発明の「前記高速軸(1)と共に回転する円板状電機子(10)」は、本件発明1の「前記回転軸部に対して、該回転軸部と一体で回転可能に設けられたロータ部」に相当する。
甲1発明の「前記円板状電機子(10)に対面するように配置された永久磁石(11)」は、本件発明1の「前記ロータ部に対向して配置されたステータ部」に相当する。
甲1発明の「前記高速軸(1)、前記円板状電機子(10)及び前記永久磁石(11)が内在し」ていることは、本件発明1の「前記回転軸部、前記ロータ部及び前記ステータ部を覆」っていることに相当し、甲1発明の「該永久磁石(11)が取り付けられた継鉄でもあるケース(9)、(9’)」は、本件発明1の「該ステータ部が固定されたモータケーシング」に相当する。
甲1発明の「前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)は、前記円板状電機子(10)及び前記永久磁石(11)を前記回転軸方向のフラツト形ハーモニツクギヤ装置側から覆う継鉄でもあるケース(9)を有し」ていることは、本件発明1の「前記モータケーシングは、前記ロータ部及び前記ステータ部を前記軸線方向の他方側から覆うカバー部を有し」ていることに相当する。
甲1発明の「前記高速軸(1)は、前記回転軸方向のフラツト形ハーモニツクギヤ装置側に延び、前記継鉄でもあるケース(9)を抜けて、且つ前記撓み発生部材(2)が取り付けられ」ていることは、本件発明1の「前記回転軸部は、前記軸線方向の他方側に延び、前記カバー部を貫通し、且つ前記カムに接続され」ていることに相当する。
甲1発明の「前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)は、ベアリング(16)、(17)が取り付けられる2つのベアリング取付部を有し」ていることは、本件発明1の「前記カバー部は、支持部を有し」ていることに相当する。
甲1発明の「前記ベアリング取付部の一方は、前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)内の前記回転軸方向のフラツト形ハーモニツクギヤ装置側に位置し、前記高速軸(1)の径方向外側に位置し、前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)に前記フラツト形ハーモニツクギヤ装置が取り付けられた状態で、前記可撓スプライン(4)の径方向内側に位置し」ていることは、本件発明1の「前記支持部は、前記軸線方向の他方側に延び、前記回転軸部の一部を覆い、且つ前記回転軸部を回転可能に支持し、前記モータケーシングに前記波動歯車減速機が取り付けられた状態で、前記外歯歯車の内方に位置し」ていることに相当する。
本件発明1の「前記回転軸部と該回転軸部の一部を覆う前記支持部との間には、前記軸線方向に並んで複数の軸受が配置されて」いることと、甲1発明の「前記高速軸(1)と該高速軸(1)の径方向外側に位置する2つのベアリング取付部との間には、それぞれベアリング(16)、(17)が取付けられている」こととは、回転軸部と該回転軸部の一部を覆う支持部との間には、軸受が配置されている限りで一致する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
・一致点
軸線方向に延びる筒状のケーシングと、
前記ケーシング内に該ケーシングに対して相対回転可能に配置され、内周側に内歯を有する環状の内歯歯車と、
前記内歯歯車の径方向内方に配置されるとともに前記軸線方向の一方側が前記ケーシングに固定され、且つ、外周側に前記内歯と噛み合う外歯を有する、可撓性の環状の外歯歯車と、
前記外歯歯車の径方向内方に配置され、回転によって、前記外歯歯車を径方向に変形させる楕円状のカムと、
を備えた波動歯車減速機に対して、取り付けられるモータユニットであって、
前記軸線方向に延びる回転軸部と、
前記回転軸部に対して、該回転軸部と一体で回転可能に設けられたロータ部と、
前記ロータ部に対向して配置されたステータ部と、
前記回転軸部、前記ロータ部及び前記ステータ部を覆い、且つ、該ステータ部が固定されたモータケーシングと、を備え、
前記モータケーシングは、前記ロータ部及び前記ステータ部を前記軸線方向の他方側から覆うカバー部を有し、
前記回転軸部は、前記軸線方向の他方側に延び、前記カバー部を貫通し、且つ前記カムに接続され、
前記カバー部は、支持部を有し、
前記支持部は、前記軸線方向の他方側に延び、前記回転軸部の一部を覆い、且つ前記回転軸部を回転可能に支持し、前記モータケーシングに前記波動歯車減速機が取り付けられた状態で、前記外歯歯車の内方に位置し、
前記回転軸部と該回転軸部の一部を覆う前記支持部との間には、軸受が配置されている、波動歯車減速機用モータユニット。

・相違点
回転軸部と該回転軸部の一部を覆う支持部との間には、軸受が配置されている点に関して、本件発明1は、「軸線方向に並んで複数の軸受が配置されて」おり、「軸受の1つは、前記回転軸部と、前記支持部の前記軸線方向の他方側端部との間に配置される」のに対し、甲1発明は、「高速軸(1)と該高速軸(1)の径方向外側に位置する2つのベアリング取付部との間には、それぞれベアリング(16)、(17)が取付けられている」ものの、「前記ベアリング取付部の他方は、前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)内の前記回転軸方向のフラツト形ハーモニツクギヤ装置とは反対側に位置し」ていることから、ベアリング(16)、(17)は、「前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)内の前記回転軸方向のフラツト形ハーモニツクギヤ装置側」で回転軸方向に並んで配置されるものではなく、また、ベアリング(16)、(17)は回転軸方向に並んで配置されるものでないことから、これらのベアリング(回転軸方向に並んで配置されるベアリング)のうちの1つが、高速軸(1)と、ベアリング取付部の回転軸方向の端部との間に配置されているものでもない点。

イ 相違点の検討
甲1発明の直流サーボ電動機には、2つのベアリング(16)、(17)があることから、まず、ベアリング(17)の取付け位置を替えて、ベアリング(16)とベアリング(17)とが回転軸方向に並んで配置されるようにすることの容易性について検討する。
甲1発明は、「偏平な電動機と偏平なハーモニツクギヤ装置を結合して得られる偏平な減速機構付伝動装置に関」(上記4(1)ア(イ))するものであって、「減速装置付電動機は空間利用効率上、可能な限り偏平な外形であることが望ましい場合がある」(上記4(1)ア(イ))ことから、甲1発明の直流サーボ電動機は、可能な限り偏平な外形となるようにしたものと理解できる。甲1には、継鉄でもあるケース(9)にベアリング(16)が取り付けられるベアリング取付部周辺の空間について格別の記載はないが、甲1発明の直流サーボ電動機が可能な限り偏平な外形となるようにしたものであることを考慮すると、このようなベアリング取付部周辺の空間は、可能な限り回転軸方向に短くしており、ベアリング(16)の回転軸方向に並んでもう一つのベアリングを配置する空間はないと解するのが妥当である。このような理解は、甲1に示された図面(上記4(1)ア(オ))の記載とも整合する。そうすると、ベアリング(16)に並んでもう一つのベアリングを設けるには、そのための空間が必要となり、そのためには、円板状電機子(10)、永久磁石(11)を回転軸方向のフラツト形ハーモニツクギヤ装置とは反対側にずらさなければならなくなる。そして、その結果、撓み発生部材(2)から永久磁石(11)までの回転軸方向の長さは、甲1の図面に示されているものよりも長くなって、これは、甲1発明の直流サーボ電動機を可能な限り偏平な外形にすることに反することとなる。
また、甲1発明の偏平な直流サーボ電動機の2つのベアリング(16)、(17)は、継鉄でもあるケース(9)、(9’)内におけるフラツト形ハーモニツクギヤ装置側とこれとは反対側に配置されている。これは、2つのベアリング(16)、(17)が回転する高速軸(1)を支持する位置間の距離を長くすることで、高速軸(1)を安定的に支持するためのものと理解できるから、ベアリング(17)の取付け位置を替えて、ベアリング(16)とベアリング(17)とが回転軸方向に並んで配置されるようにすることは、該安定的な支持にも反することとなる。
そうすると、甲2にモータ回転軸線1aの方向に並んで2組の軸受け6、6が配置された面対向型の扁平ブラシレスモータが記載されているとしても、甲1発明において、ベアリング(17)の取付け位置を替えて、ベアリング(16)とベアリング(17)とが回転軸方向に並んで配置されるようにすることには、阻害要因があり、このように配置することは、当業者にとって容易であるとはいえない。
次に、甲1発明のベアリング(16)及びベアリング(17)に加えて、ベアリング(16)と回転軸方向に並んで配置されるベアリングを設けることの容易性について検討すると、上記のように、甲1発明において、ベアリング(16)の回転軸方向に並んでもう一つのベアリングを配置する空間はないと解され、また、そのような空間を設けることは、甲1発明の直流サーボ電動機を可能な限り偏平な外形にすることに反することとなる。
そうすると、甲1発明において、ベアリング(16)と回転軸方向に並んでもう一つのベアリングを設けることには、甲1発明の直流サーボ電動機を可能な限り偏平な外形にすることに反する阻害要因があり、当業者であっても容易であるとはいえない。
したがって、甲2にモータ回転軸線1aの方向に並んで2組の軸受け6、6が配置された面対向型の扁平ブラシレスモータが記載されているとしても、これを甲1発明に適用することには阻害要因があり、甲1発明に甲2に記載された事項を適用して、本件発明1を得ることは当業者であっても容易ではない。

ウ 申立人の主張について
甲1発明に甲2に記載された事項を適用することが容易でないのは上記イに示すとおりである。
申立人は、さらに、甲3及び甲4を例として、「モータと波動歯車減速機から構成されるアクチュエータにおいて、その扁平化を図るために、波動歯車減速機の可撓性外歯歯車の内部空間を利用するという考え方は、当該分野における周知技術」(特許異議申立書18ページ4行ないし同ページ7行)であり、「2組のベアリングをモータにおける波動歯車減速機の側の端部に並べて配置した場合に、扁平化のために、それらを、可撓性外歯歯車の内部に入れ込むように配置することは当然に試される設計的事項の範疇に入ることである」(特許異議申立書18ページ22行ないし同ページ24行)と主張し、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとする。
しかし、仮に申立人が主張するような周知技術があるとしても、甲1発明は、既に、「ベアリング取付部の一方は」、「前記継鉄でもあるケース(9)、(9’)に前記フラツト形ハーモニツクギヤ装置が取り付けられた状態で、前記可撓スプライン(4)の径方向内側に位置」することで、申立人が主張する周知技術における「可撓性外歯歯車の内部空間を利用」しているものであり、甲1発明において、この「可撓性外歯歯車の内部空間」にさらにベアリングを設ける空間がないことは、上記イに示すとおりであるから、申立人の主張は採用することができない。

エ 本件発明1についてのまとめ
上記アないしウに示すとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は、請求項1を直接または間接的に引用する請求項であって、本件発明2ないし5は、本件発明1をさらに限定したものである。
申立人は、本件発明2について、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項、及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであると主張し、当該周知技術の例として甲5に「モータと波動歯車減速機から構成されるアクチュエータにおいて、モータの回転軸部の先端を、波動歯車減遼機における波動発生器のカムに挿入する挿入部とし、それよりも後側の部分を一回り大きな径の軸部分として、これらの間に、軸線方向にカムを位置決めする円環状の段差面を形成すること」が記載されていると主張するが、この甲5をみても、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項は、記載されていない。
そうすると、上記(1)に示すように、本件発明1が甲1発明、甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえないのと同様の理由により、本件発明2ないし5も甲1発明、甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、また、甲1発明、甲2に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2023-06-30 
出願番号 P2021-016973
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H02K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 五十嵐 康弘
長馬 望
登録日 2022-10-25 
登録番号 7164791
権利者 日本電産シンポ株式会社
発明の名称 波動歯車減速機用モータユニット  
代理人 横沢 志郎  
代理人 梶原 慶  

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