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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
管理番号 1400524
総通号数 20 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-05-11 
確定日 2023-08-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第7173202号発明「ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサ並びにそれらの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7173202号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7173202号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)5月11日(優先権主張 平成27年5月12日、2件、平成27年12月15日、及び平成28年3月17日)を国際出願日とする特願2016−533217号の一部を令和3年4月20日に新たな特許出願としたものであって、令和4年11月8日にその特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和5年5月11日に特許異議申立人 笠原 佳代子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし12)がされた。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
広角X線回折で測定されるα晶(110)面の結晶配向度が0.78以上であり、幅方向および長手方向の120℃で10分間加熱処理後の熱収縮率の和が4.0%以下であり、125℃における長手方向の伸度50%時の応力(F50値)が13MPa以上であり、110℃での体積抵抗率が8×1014Ω・cm以上である、ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
幅方向における伸度5%時の応力(TD−F5値)と長手方向における伸度5%時の応力(MD−F5値)との関係が(MD−F5値)/(TD−F5値)>0.4である、請求項1に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
長手方向における最大点強度(St)と最大点伸度(El)の関係が(St)/(El)≧1.2である、請求項1または2に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
110℃での体積抵抗率が1×1015Ω・cm以上である、請求項1〜3のいずれに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
少なくとも片表面の光沢度が130%以上150%未満であり、重ね合わせた際の静摩擦係数(μs)が0.1以上1.5以下である、請求項1〜4のいずれに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
少なくとも片表面において、X線光電子分光法(XPS)により検出される窒素元素組成量が1atomic%以上である、請求項1〜5のいずれに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
少なくとも片表面をプラズマ処理してなる、請求項1〜6のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜が設けられてなる金属膜積層フィルム。
【請求項9】
請求項8に記載の金属膜積層フィルムを用いてなるフィルムコンデンサ。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリプロピレンフィルムの少なくとも片表面をプラズマ処理する工程を有する、ポリプロピレンフィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のポリプロピレンフィルムの製造方法により得られるポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜を設ける金属膜付与工程を有する、金属膜積層フィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の金属膜積層フィルムの製造方法により得られる金属膜積層フィルムを用いる、フィルムコンデンサの製造方法。」

第3 特許異議の申立ての理由の概要
令和5年5月11日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は以下のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許発明において、解決すべき課題は「高温環境下でも高い絶縁破壊電圧を示し、コンデンサとしたときに高温環境下でも耐電圧性および信頼性を発現できること」である。しかし、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」は、「高温環境下で使用される電気用途(特にコンデンサ)」に限られており、出願時の技術常識に照らしても、それ以外の用途を含む「ポリプロピレンフィルム」の全般にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。

3 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2015/012324号
甲第2号証:特許第2795655号公報
甲第3号証:特開2006−93688号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
当審は、以下に述べるように、上記申立理由1ないし2にはいずれも理由がないと判断する。
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)主な証拠に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項等
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、「延伸ポリプロピレンフィルム」に関し、おおむね次の事項が記載されている。

・「[請求項1] 以下の要件(a)〜(c)を満たすプロピレン系重合体を用いた延伸フィルムであり、かつ、以下の要件(d)及び(e)を満たすことを特徴とする延伸ポリプロピレンフィルム。
(a)メソペンタッド分率が96%以上である。
(b)プロピレン以外のコモノマーの含有量が0.5モル%以下である。
(c)メルトフローレート(MFR)が0.5g/10分以上、20g/10分以下である。
(d)広角X線散乱法により測定されるポリプロピレンのα型結晶の110面の散乱強度を方位角に対してプロットした時の最大ピークの半値幅が30度以下である。
(e)示差走査熱量計を用いて昇温速度20℃/分で測定された融解吸熱ピーク面積(全融解熱)が115J/g以上であり、かつ、150℃以下の面積(150℃融解熱)の全融解熱に対する比(150℃融解熱/全融解熱)が0.12以下である。
・・・(略)・・・
[請求項4] 150℃におけるTD方向の熱収縮率及び150℃におけるMD方向の熱収縮率が共に10%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の延伸ポリプロピレンフィルム。」

・「発明が解決しようとする課題
[0010] 本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、150℃でポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに匹敵する低収縮率を有し、高剛性である延伸ポリプロピレンフィルムを提供することにある。」

・「[0027] 本発明における延伸ポリプロピレンフィルムは、その構造、特にフィルムの配向に特徴がある。
(フィルムの配向)
延伸されたポリプロピレンフィルムは、一般的に結晶配向を有し、その方向や程度がフィルム物性に大きな影響を及ぼす。結晶配向の程度は、用いられるポリプロピレンの分子構造や、フィルム製造におけるプロセスや条件によって変化する。また、延伸ポリプロピレンフィルムの配向方向は、広角X線回折法により、X線をフィルム面に対して垂直に入射し、結晶由来の散乱ピークの方位角依存性を測定することによって、決定することができる。詳しくは、延伸ポリプロピレンフィルムは、典型的には単斜晶のα型結晶構造を有する。そしてそのα型結晶は、広角X線回折法により110面(面間隔:6.65オングストローム)の散乱強度の方位角依存性を測定すると、主として一軸に強い配向をもつ。つまり、α型結晶の110面由来の散乱強度を方位角に対してプロットした場合、最も強いピークが、分子軸の配向の垂直方向に観察される。本発明は、この最大ピークの半値幅によって、配向の程度を規定するものである。
・・・(略)・・・
[0028] 本発明の延伸ポリプロピレンフィルムでは、広角X線散乱法により測定される110面の散乱強度を方位角に対してプロットした時の最大ピークの半値幅が30度以下である。この半値幅の上限は、好ましくは29度であり、より好ましくは28度である。110面由来の散乱強度の方位角依存性の半値幅が前記範囲よりも大きいと、配向が十分でなく、耐熱性や剛性が十分でない。110面由来の散乱強度の方位角依存性の半値幅の下限は、好ましくは5度であり、より好ましくは7度であり、さらに好ましくは8度である。110面の半値幅が前記範囲よりも小さいと、耐衝撃性の低下や配向割れを生じることがある。」

・「[0038](フィルム物性)
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムは、以下のような物性を示す。なお、以下の各物性は、例えば実施例で後述する方法で測定、評価することができる。
(熱収縮率)
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂を主体として構成された延伸フィルムであって、150℃でのMD方向およびTD方向の熱収縮率が10%以下であることが好ましい。ここで、MD方向とは、フィルムの流れ方向(長さ方向または長手方向と言うこともある)であり、TD方向とは、フィルムの流れ方向に垂直な方向(横方向または幅方向と言うこともある)である。従来の延伸ポリプロピレンフィルムでは、MD方向およびTD方向の150℃熱収縮率は15%以上であり、120℃熱収縮率は3%程度である。熱収縮率を10%以下とすることで、耐熱性の優れたフィルムを得ることができる。」

・「[0050](延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法)
本発明の延伸フィルムとしては長手方向(MD方向)もしくは横方向(TD方向)の一軸延伸フィルムでも良いが、二軸延伸フィルムであることが好ましい。二軸延伸の場合は逐次二軸延伸であっても同時二軸延伸であっても良い。本発明では、少なくとも一軸に延伸することで、従来のポリプロピレンフィルムでは予想できなかった150℃でも熱収縮率が低いというフィルムを得ることができる。
[0051] 以下に最も好ましい例である縦延伸−横延伸の逐次二軸延伸フィルムの製造方法を説明する。
まず、ポリプロピレン樹脂を単軸または二軸の押出機で加熱溶融させ、チルロール上に押出して未延伸シートを得る。溶融押出条件としては、樹脂温度が200〜280℃となるようにして、Tダイよりシート状に押出し、10〜100℃の温度の冷却ロールで冷却固化する。ついで、120〜165℃の延伸ロールでフィルムを長さ(MD)方向に3〜8倍、好ましくは3〜7倍に延伸し、引き続き幅(TD)方向に155℃〜175℃、好ましくは158℃〜170℃の温度で4〜20倍、好ましくは6〜12倍延伸を行う。さらに、165〜175℃、好ましくは166〜173℃の雰囲気温度で1〜15%のリラックスを許しながら熱処理を施す。こうして得られたポリプロピレンフィルムに、必要に応じて、少なくとも片面にコロナ放電処理を施した後、ワインダーで巻取ることによりロールサンプルを得ることができる。」

・「実施例
[0063] ・・・(略)・・・
[0069]5)広角X線回折
本発明の実施例では、大型放射光施設SPring―8の中にフロンティアソフトマター開発産学連合体(FSBL)が所有するビームラインBL03XUの第2ハッチにおいて、X線源方向とフィルム面とのなす角が垂直となすようし、測定フィルムをセットし、広角X線(WAXS)測定を行った。測定条件を下記に示す。
X線波長は0.1nmとし、検出器としてイメージングプレート(RIGAKU R−AXIS VII)またはイメージインテンシファイア付きCCDカメラ(Hamamatsu Photonics V7739P + ORCA R2)を用い、試料前後にセットしたイオンチェンバーの値から透過率を算出した。得られた2次元像に対して暗電流(ダークノイズ)および透過率を勘案した空気散乱補正を行った。カメラ長の測定には酸化セリウム(CeO2)を用い、Fit2D (European Synchrotron Radiation Facility製のソフトウェア[http://www.esrf.eu/computing/scientific/FIT2D/])を用いて(110)面の方位角プロファイルを算出した。」

・「[0080](実施例1)
ポリプロピレン樹脂として、Mw/Mn=7.7、Mz+1/Mn=140、MFR=5.0g/10分、メソペンタッド分率[mmmm]=97.3%であるプロピレン単独重合体(日本ポリプロ(株)製「ノバテック(登録商標)PP SA4L」:共重合モノマー量は0モル%;以下「PP−1」と略する)を用いた。
このポリプロピレン樹脂を、60mm押出機を用いて、250℃でTダイよりシート状に押出し、30℃の冷却ロールで冷却固化した後、135℃で長さ方向(MD方向)に4.5倍に縦延伸し、次いで両端をクリップで挟み、熱風オーブン中に導いて、170℃で予熱後、160℃で横方向(TD方向)に8.2倍に横延伸し、次いで6.7%のリラックスを掛けながら168℃で熱処理した。その後、フィルムの片面にコロナ処理を行い、ワインダーで巻き取って、本発明の延伸ポリプロピレンフィルムとした。
得られたフィルムの厚みは20μmであった。表1にフィルムを構成するポリプロピレンの構造を、表2に製膜条件をそれぞれ示す。得られたフィルムの物性は、表3に示すとおりであり、熱収縮率は低く、ヤング率は高かった。また、このフィルムの示差走査熱量測定(DSC)で得られたチャートを図2に示す。」

・「[0090]
[表1]

[0091][表2]

[0092]
[表3]



(イ)甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を特に請求項1及び4に関して整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。

<甲1発明>
「以下の要件(a)〜(c)を満たすプロピレン系重合体を用いた延伸フィルムであり、かつ、以下の要件(d)〜(f)を満たす延伸ポリプロピレンフィルム。
(a)メソペンタッド分率が96%以上である。
(b)プロピレン以外のコモノマーの含有量が0.5モル%以下である。
(c)メルトフローレート(MFR)が0.5g/10分以上、20g/10分以下である。
(d)広角X線散乱法により測定されるポリプロピレンのα型結晶の110面の散乱強度を方位角に対してプロットした時の最大ピークの半値幅が30度以下である。
(e)示差走査熱量計を用いて昇温速度20℃/分で測定された融解吸熱ピーク面積(全融解熱)が115J/g以上であり、かつ、150℃以下の面積(150℃融解熱)の全融解熱に対する比(150℃融解熱/全融解熱)が0.12以下である。
(f)150℃におけるTD方向の熱収縮率及び150℃におけるMD方向の熱収縮率が共に10%以下である。」

<甲1製法発明>
「甲1発明の製造方法。」

イ 甲2に記載された事項
甲2には、「同時押出しされた二軸延伸多層フィルム及びこれよりなる電気絶縁フィルム」に関し、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項1】基層及び1方側又は両側上の外層を有する同時押出しされた二軸延伸多層フィルムにおいて、基層及び外層はプロピレンポリマー及びプロピレンポリマー用安定剤を含有し、ここで、基層原料は、260〜300℃の範囲の理想熱酸化温度を有し、外層原料は、240〜300℃の範囲の理想熱酸化温度を有し、この多層フィルムは、全体として250〜290℃の理想熱酸化温度を有し、原料中の有機中和剤の含量は、100ppm又はそれより少なく、外層の安定剤含量は、基層の安定剤含量と等しいか又はそれより少ないことを特徴とする、同時押出しされた二軸延伸多層フィルム。
【請求項2】基層及び外層用の原料は、極めて純粋なポリプロピレン又はポリプロピレンと他のポリオレフィンとのポリマー混合物又はポリプロピレンと殊にエチレンとのブロックコポリマー又はランダムコポリマーからなる、請求項1記載の多層フィルム。
【請求項3】基層及び外層の原料用の安定剤は、チオエーテル及び/又はホスホナイト、立体障害されたフェノール及び/又はホスファイト又はこれら物質の混合物を包含する物質の群から選択されている、請求項1又は2記載の多層フィルム。
【請求項4】立体障害フェノールは300g/モルより大きい分子量を有する、請求項3記載の多層フィルム。
【請求項5】700g/モルより低い分子量を有する他の有機添加物含量は、最大0.1重量%である、請求項4記載の多層フィルム。
【請求項6】残留灰分含量は50ppmより低い、請求項1から5までのいずれか1項記載の多層フィルム。
【請求項7】塩素含量は10ppmより低い、請求項1から6までのいずれか1項記載の多層フィルム。
【請求項8】多層フィルムの全体の厚さは3〜30μmの範囲内にある、請求項1から7までのいずれか1項記載の多層フイルム。
【請求項9】各外層は0.3〜2.0μmの厚さを有する、請求項8記載の多層フィルム。
【請求項10】粗面度RZは1.5μm以下であり、2枚の外層の粗面度は同じ又は異なる、請求項8又は9記載の多層フィルム。
【請求項11】1枚の金属外層が添加されている、請求項1から10までのいずれか1項記載の多層フィルム。
【請求項12】請求項1から11までのいずれか1項記載の多層フィルムよりなる電気絶縁フィルム。」

・「〔発明が解決しようとする課題〕
本発明は、低い誘電損率、高い破壊電圧及び改良された長期間作業性を有する電気絶縁フイルムを提供する課題を有する。これは、公知方法で、方法変更なしにフイルムを製造することが可能であるべきであり、このフイルムはフイルム箔コンデンサ及び金属化ポリプロピレンフイルム製のコンデンサの双方を得るために使用するのに好適であるべきである。
〔課題を解決するための手段〕
この課題は、請求の範囲1に記載の特徴を有する多層フイルムにより達成される。請求項2〜12には、このフイルムの更に好適な態様が示されている。更に、この課題は請求項13に記載の電気絶縁フイルムの使用により達成される。」(第2頁第4欄第2〜15行)


・「第II表では、各フイルムの電気特性を比較する。略字は次のものを意味する:
Dc 10KHzで測定した誘電率
tan 10KHzで測定した誘電損率
R 固有抵抗(Ω・cm)
ED,0 貯蔵しない場合の直流電圧強度(kV/mm)
ED,1000 120℃で1000時間貯蔵後の直流電流強度(kV/mm)
ΔED 直流電圧強度の変化率(%)
誘電率、tanδ(10KHzで測定)及び固有抵抗の測定は120℃で実施し、破壊電圧の測定は25℃で実施した。
第II表から、比較例1及び2では、コンデンサの用途に認容しうる上限即ち2.0×10-4を越える誘電損率を生じることが認められる。比較例3及び4における誘電率及び破壊電圧は明らかに優れているが、高められた温度で貯蔵の後には迅速に悪化する。
対照的に、本発明による例1及び2は、120℃での貯蔵の前にも後にも共に、良好な値を有する。
前記の多層フイルムは、一般にこの種の2枚の多層フイルムと2枚の金属箔(後者は電極として作動する)よりなる電気箔コンデンサ中で誘電体として使用される。箔とフイルムは一緒になつてコンデンサコイルを形成する。



」(第4頁第8欄第22行〜第5頁)

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「延伸ポリプロピレンフィルム」は、本件特許発明1の「ポリプロピレンフィルム」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリプロピレンフィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は「広角X線回折で測定されるα晶(110)面の結晶配向度が0.78以上」と特定されるのに対し、甲1発明においてはこのような特定がない点

<相違点2>
「熱収縮率」に関し、本件特許発明1は「幅方向および長手方向の120℃で10分間加熱処理後の熱収縮率の和が4.0%以下であり」と特定されるのに対し、甲1発明では「150℃におけるTD方向の熱収縮率及び150℃におけるMD方向の熱収縮率が共に10%以下である」点

<相違点3>
本件特許発明1は「125℃における長手方向の伸度50%時の応力(F50値)が13MPa以上」と特定されるのに対し、甲1発明においてはこのような特定がない点

<相違点4>
本件特許発明1は「110℃での体積抵抗率が8×1014Ω・cm以上」と特定されるのに対し、甲1発明においてはこのような特定がない点

イ 判断
事案に鑑み、相違点4について検討する。
甲1及び他の証拠をみても、甲1発明において、コンデンサの高温環境下での耐電圧性及び信頼性を高めるために、110℃での体積抵抗率を8×1014Ω・cm以上とすることの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0177】の参考例1及び実施例2ないし5の記載からみて、本件特許発明1は、相違点4に係る発明特定事項を有することにより、甲1発明に比してコンデンサの耐電圧性及び信頼性に優れるという顕著な効果を有するものである。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において下記(ア)、(イ)を述べ、相違点4は当業者が容易に想到し得たものである旨主張する。

(ア)本件特許の明細書の実施例と比較例の結果に基づき、結晶配向度と体積抵抗率の関係を示した散布図が示すように、結晶配向度が0.80以上であれば110℃での体積抵抗率が8×1014Ω・cm以上であるため、結晶配向度が0.83以上である甲1発明は110℃での体積抵抗率が8×1014Ω・cm以上である蓋然性が高い(特許異議申立書第9頁第5行〜第10頁第8行、第23頁第15−22行)。

(イ)甲2には、高温で長時間にわたり電気的及び誘電特性を高く保持することが要求されるような、コンデンサ用二軸延伸多層フィルムについて、120℃での体積抵抗率を1.5×1016Ω・cm以上とすることで高い破壊電圧となることが記載されており、ここで、110℃での体積抵抗率が8×1014Ω・cm以上である蓋然性は高い。このため、コンデンサ用途も想定されている甲1発明において、周知の課題である高い破壊電圧を目的として、甲2に記載された120℃での体積抵抗率を1.5×1016Ω・cm以上とすることを採用することで、当業者は相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項に容易に想到することができる(特許異議申立書第24頁第4〜13行)。

上記主張について検討する。
・(ア)について
甲1の表1及び表2の記載によれば、甲1発明のポリプロピレンフィルムは、本件特許発明のポリプロピレンフィルムとは、原料やフィルム製膜条件といった製造条件が異なるから、特許異議申立人が提示する本件特許発明の実施例及び比較例に基づく散布図を、甲1発明のポリプロピレンフィルムに適用できるとはいえない。
また、該散布図をみても、結晶配向度と110℃での体積抵抗率との間に正の相関関係があるとはいえないから、「結晶配向度が0.80以上であれば110℃での体積抵抗率が8×1014Ω・cm以上である」とまではいえない。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

・(イ)について
甲2には、体積抵抗率と破壊電圧との関係の明示的な記載はない。そうすると、甲2には、特許異議申立人が主張する「120℃での体積抵抗率を1.5×1016Ω・cm以上とすることで高い破壊電圧となること」が記載されているとはいえず、特許異議申立人の当該主張は採用できない。

よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2ないし9について
本件特許発明2ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明2ないし9は、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明10について
本件特許発明10と甲1製法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点4と同様の相違点があって、当該相違点については上記(2)イと同様に判断される。
したがって、本件特許発明10は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件特許発明11ないし12について
本件特許発明11ないし12は、請求項10を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明10の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明11ないし12は、本件特許発明10と同様に、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)申立理由1についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由1は、その理由がない。

2 申立理由2(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
これを踏まえ、以下検討する。

(2)判断
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「詳細な説明」という。)の【0011】によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「高温環境下でも高い絶縁破壊電圧を示し、コンデンサとしたときに高温環境下でも耐電圧性および信頼性を発現できるポリプロピレンフィルム、それを用いた金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサ、並びにそれらの製造方法を提供すること」である。
また、詳細な説明の【0017】及び【0020】ないし【0024】には、「広角X線回折で測定されるα晶(110)面の結晶配向度が0.78以上であり、幅方向および長手方向の120℃で10分間加熱処理後の熱収縮率の和が4.0%以下である、ポリプロピレンフィルム」が上記の発明の課題を解決できることを見出した旨の記載がある。そして、【0072】ないし【0087】には「広角X線回折で測定されるα晶(110)面の結晶配向度が0.78以上であり、幅方向および長手方向の120℃で10分間加熱処理後の熱収縮率の和が4.0%以下である、ポリプロピレンフィルム」を得るための製造方法について記載され、特に【0086】には重要な製造条件が記載されている。
さらに、詳細な説明の【0153】ないし【0168】及び【0176】ないし【0179】には、「広角X線回折で測定されるα晶(110)面の結晶配向度が0.78以上であり、幅方向および長手方向の120℃で10分間加熱処理後の熱収縮率の和が4.0%以下である」を満たす実施例又は参考例1ないし9が、「広角X線回折で測定されるα晶(110)面の結晶配向度が0.78以上であり、幅方向および長手方向の120℃で10分間加熱処理後の熱収縮率の和が4.0%以下である」を満たさない比較例1ないし5よりもコンデンサの耐電圧性及び信頼性に優れることが記載されている。
そうすると、当業者は、「広角X線回折で測定されるα晶(110)面の結晶配向度が0.78以上であり、幅方向および長手方向の120℃で10分間加熱処理後の熱収縮率の和が4.0%以下である、ポリプロピレンフィルム」(以下、「特定事項A」という。)とすることで発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明は、特定事項Aを全て有し、かつ、さらに特定するものであるから、当業者は、当然に発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、本件特許発明は、詳細な説明に記載された発明で、詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(3)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、上記第3 2に記載のとおり、詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」は、「高温環境下で使用される電気用途(特にコンデンサ)」に限られており、出願時の技術常識に照らしても、それ以外の用途を含む「ポリプロピレンフィルム」の全般にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない旨主張し、本件特許発明はサポート要件違反であるとしている。
しかしながら、サポート要件については上記(2)で述べたように判断され、特許異議申立人の主張は上記判断に影響しない。

(4)申立理由2についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由2は、その理由がない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-07-28 
出願番号 P2021-070774
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08J)
P 1 651・ 537- Y (C08J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 三上 晶子
植前 充司
登録日 2022-11-08 
登録番号 7173202
権利者 東レ株式会社
発明の名称 ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサ並びにそれらの製造方法  

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