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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C11D
管理番号 1400941
総通号数 21 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-10-22 
確定日 2023-08-02 
事件の表示 特願2019−177533「洗剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 2月13日出願公開、特開2020− 23704〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)4月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年(平成27年)4月29日 欧州特許庁、同年10月15日 欧州特許庁)を国際出願日とする特願2017−556542号の一部を令和1年9月27日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

令和 1年10月 7日 手続補正書
令和 2年11月17日付 拒絶理由通知書
令和 3年 2月17日 意見書
令和 3年 2月17日 手続補正書
令和 3年 7月27日付 補正の却下の決定
令和 3年 7月27日付 拒絶査定
(令和 3年 7月30日 謄本の送達)
令和 3年10月22日 審判請求書
令和 3年10月22日 手続補正書
令和 4年11月24日付 当審から拒絶理由通知書
令和 5年 2月17日 意見書


第2 本願発明
この出願の特許を受けようとする発明は、令和3年10月22日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
ヌクレアーゼ酵素と、アニオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤を含む界面活性剤系と、を含み、アニオン性界面活性剤の非イオン性界面活性剤に対する重量比が1.5:1〜1:10であり、
前記ヌクレアーゼ酵素が、E.C.クラスE.C.3.1.21.x(式中、x=1、2、3、4、5、6、7、8、9)、E.C.3.1.22.y(式中、y=1、2、4、5)、E.C.3.1.30.z(式中、z=1、2)若しくはE.C.3.1.31.1のいずれか、又はこれらの混合物から選択される、洗浄組成物。」


第3 当審で通知した拒絶理由
当審で通知した拒絶理由は、以下の1に示す理由を含むものである。

1 本願発明1は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献1〜6に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 刊行物及び刊行物に記載された事項
当審で通知した拒絶理由における文献1〜6は以下の1に示すとおりであり、各文献にはそれぞれ以下の2に示すとおりの事項が記載されていえる。

1 刊行物
(1)特開昭63−105098号公報(原査定における引用文献1。以下、「文献1」という。)
(2)国際公開第2014/087011号(周知技術を示す文献、原査定における引用文献2。以下、「文献2」という。)
(3)特表2002−513808号公報(周知技術を示す文献、原査定における引用文献3。以下、「文献3」という。)
(4)米国特許出願公開第2012/0266329号明細書(周知技術を示す文献。以下、「文献4」という。)
(5)国際公開第2014/177709号(周知技術を示す文献。以下、「文献5」という。)
(6)国際公開第2011/098579号(周知技術を示す文献。以下、「文献6」という。)

2 刊行物に記載された事項
(1)文献1に記載された事項
ア 「[産業上の利用分野]
本発明は、酵素を配合した一般家庭用および業務用の液体状あるいはゲル状の洗剤、詳しく言えば衣類の洗濯、食器洗浄、家具あるいは住居の洗浄用等のいわゆるハウスホールド洗剤、シャンプーおよび身体洗浄用洗剤に関する。
[従来の技術およびその問題点]
洗剤に酵素を添加することは、洗浄率の向上等、洗浄に対し好ましい結果を与えるものであり、種々の酵素が使用あるいは提案されている。
例えば、プロテアーゼは人体汚垢に含まれるタンパク質成分を加水分解することにより洗浄率を向上する(小野打 喬、バイオインダストリー 3,181,(1986)等)。リパーゼは表面活性剤では除去しにくい人体脂質中のトリグリセリドをジグリセリドあるいはモノグリセリドに変えることにより洗浄率を向上する(M.Minagawa等,J.Am.Oil Chem,Soc.,62 1053−1058(1985)等)。アミラーゼは食品の汚れ等に含まれるデンプン質を加水分解して汚れを除去し易くし、またセルラーゼはドロ汚れを除去する際に有効であり、木綿布の洗浄仕上りの色を良くする(特開昭59−1598号、同57−108199号)。リゾチームは溶菌作用による生菌数の減少および身体洗浄時の消炎作用を期待して添加される。」(1頁左下欄19行〜2頁左上欄3行)

イ 「[発明の概要]
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、通常使用されている液体あるいはゲル状の洗剤中では不溶性であるが、洗剤と共に水に混合した場合には容易に溶解するポリビニルアルコールにより、含水ポリヒドロオキシ化合物に溶解あるいは分散した状態の酵素を被覆してマイクロカプセルとし、このマイクロカプセルを洗剤に配合した場合に酵素活性が長期間安定に保持されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は酵素をポリビニルアルコールで被覆したマイクロカプセルとし、このマイクロカプセルを液体状あるいはゲル状の洗剤に均一分散してなる洗剤組成物である。」(2頁右上欄17行〜左下欄11行)

ウ 「界面活性剤
本発明の洗剤組成物においては、従来、酵素を失活させるため酵素含有液体洗剤では利用が制限されていたアニオン界面活性剤およびカチオン界面活性剤をも含む、一般の洗剤用界面活性剤を広く使用することができる。
例えば、アニオン界面活性剤としては、
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(アルキル:C10〜C16)(LAS)、
α−オレフィンスルホン酸ナトリウム(オレフィン:C6〜C22)(AOS)、
アルキル硫酸ナトリウム(アルキル:C9〜C17)(AS)、
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(アルキル:C9〜C17、EOP=1〜20)(当審注:Pはオーバーライン付き。以下、単に、「EOP」と記載する。)(AES)、
2−スルホ脂肪酸エステルナトリウム(脂肪酸:C11〜C17、アルコール:C1〜C6)(SFE)、
2級アルカンスルホン酸ナトリウム(アルカン:C12〜Cl8)(SAS)、
セッケン(脂肪酸:C12〜C18)、
アルキルリン酸ナトリウム(アルキル:C9〜C17)等が挙げられ、
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(アルキル:C5〜C17、EOP=4〜20)(AE)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(アルキル:C6〜C12、EOP:4〜20)(APE)等が挙げられ、
カチオン界面活性剤としては、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムが挙げられ、
また両性イオン界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ステアリルベタインが挙げられる。」(4頁右下欄7行〜5頁左上欄20行)

エ 「洗剤組成物の組成
本発明による洗剤の基本的な組成は下記のとおりである。
酵素含有カプゼル 0.01〜10%(重量%)
界面活性剤 3〜70%
水 5〜70%
配合する酵素含有カプセルは1種類に限定されない。従来、液体洗剤のような水の存在する系で数種の酵素を混合することは困難であったが、本発明によれば、例えば、プロアテーゼ、アミラーゼ等を各々別個にマイクロカプセル化して、複数種のマイクロカプセルを同時に配合しても保存安定性の良好な状態に維持することができる。
本発明の洗剤組成物では、上記の基本的な組成の他に、プロピレングリコール、エタノール、蛍光染料、およびクエン酸などの、洗剤で通常用いられているビルダーが必要に応じて添加される。」(5頁右上欄1行〜17行)

オ 「実施例1
特開昭58−134990号に記載のBacillus SP.FERM BP−93を培養し、力価105nkat/mgのプロテアーゼ(API−21)原末を得た(力価の測定は特開昭58−134990号に記載の方法に従って行なった。)。
このプロテアーゼを下記の混合物を含む溶液に調製した。
プロテアーゼ(API−21)原末 70g
酢酸カルシウム 8g
プロピレングリコール 480g
ポリビニルアルコール
(平均重合度 2,000、鹸化率95%) 55g
蒸溜水 387g
この溶液をフィルターで濾過後、ホウ酸飽和水溶液に細いノズルから滴下してマイクロカプセルを形成させた。このマイクロカプセルを濾過により分離し、水25%を含有するプロピレングリコール中に保管した。
マイクロカプセルの大きさは直径約150〜800μであった。
次に上記のマイクロカプセルを分散させたプロピレングリコールを含む、下記組成の液体洗剤組成物を調製した。
組成物の組成重量%
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(C14〜15,EOP=15)15
ポリオキシエチレンアルキルエーテル(C12〜15,EOP=10) 18
カルボキシメチルセルロース 1
ポリエチレングリコール(MW 6,000) 1
エタノール 10
クエン酸ナトリウム・2水塩 8
マイクロカプセルのプロピレングリコール分散液(平均プロテアーゼ力価 4,000nkat/ml)5
蒸溜水 42」(5頁左下欄9行〜6頁左上欄3行)

カ 「実施例2
豚の膵臓より分離した市販リパーゼ(天野製薬、パンクレアチンTA、リパーゼ力価5,000 U/g)、Bacillus subtilisを培養して得られるアミラーゼ(大和化成、クライスターゼ)M20、力価220,000 U/g)およびBacillus subtilisを培養して得られるプロテアーゼ(大和化成、プロチンAS、力価600,000 PU/g)を用いて下記の組成の溶液A、B、Cを作成した。
重量%
組成 ABC
リパーゼ 5 − −
アミラーゼ − 5 −
プロテアーゼ − − 8
酢酸カルシウム 0.7 0.9 0.5
プロピレングリコール 45 4.5 50
ポリビニルアルコール 6 5 6
(平均重合度1、500、鹸化率97%)
蒸溜水 43.3 44.1 35.5
次に、溶液A、B、Cを各々50%エタノールを含むホウ酸飽和水溶液に細いノズルより滴下してマイクロカプセルを形成させ、実施例1の場合と同様に処理して水25%を含有するプロピレングリコール中に保管した。
次いで、上記3種のマイクロカプセルを配合した下記組成の液体洗剤組成物を調製した。
組成物の組成重量%
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(C14〜15,EOP=5)10
ポリオキシエチレンアルキルエーテル(C13〜15,EOP=12) 25
ヤシ脂肪酸ナトリウム塩 5
カルボキシメチルセルロース 1
リパーゼマイクロカプセル−プロピレン分散液(平均リパーゼ力価、100U/ml) 3
アミラーゼマイクロカプセル−プロピレン分散液(平均アミラーゼ力価、3,300U/ml) 3
プロテアーゼマイクロカプセル−プロピレン分散液(平均プロテアーゼ力価、1,800 nkat/ml)10
ジエチレングリコール 7
蒸溜水 36」(6頁左上欄19行〜 左下欄19行)

キ 「[発明の効果]
本発明は、酵素の安定化溶液をマイクロカプセル化して液体あるいはゲル状の洗剤に配合した洗剤組成物を提供したものであり、本発明によれば、
(1)洗剤中では不溶性で、水には可溶性のポリビニルアルコールで酵素を被覆しているので、洗剤の保存時には酵素は安定化状態に維持されること、
(2)水の存在下で酵素を失活させる傾向のある界面活性剤およびその他の洗剤用ビルダーと、洗剤保存時には酵素がじかに接触しないため、従来の酵素配合液体洗剤に比べて酵素の保存安定性が格段に向上すること、
(3)酵素を失活させるため、酵素の洗浄力を加味できなかったカチオン界面活性剤あるいはアニオン界面活性剤の場合にも適用できること、
(4)液体洗剤のように水の存在下では困難であった複数種の酵素の混合が、別個にマイクロカプセル化した酵素を利用することにより可能となったこと等の優れた効果が得られる。」(8頁右下欄5行〜9頁左上欄3行)

(2)文献2に記載された事項
なお、摘記事項の後ろに当審の仮訳を掲載した。
ア 特許請求の範囲



・・・

・・・


・・・

・・・

・・・」
(特許請求の範囲
請求項1 以下を含む洗剤組成物。
a.1種又は複数のアニオン界面活性剤;
b.プロテアーゼ、リパーゼ、クチナーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ、マンナーゼ、アラビナーゼ、ガラクタナーゼ、キシラナーゼ、及びオキシダーゼからなる群から選択される酵素;並びに
c.デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)
・・・
請求項7 以下を含む布地の洗浄方法。
a.DNase又は請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物を含む洗浄液に布地を暴露するステップ、
b.少なくとも1回の洗浄サイクルを完了するステップ;及び
c.任意選択で前記布地をすすぐステップ
・・・
請求項9 生地の白色度が維持又は改善される、先行する方法クレームのいずれか一項に記載の方法。
・・・
請求項12 洗濯物及び/又は布地の悪臭を除去するためのデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)の使用。
・・・
請求項14 布地の白色度を維持又は向上するためのDNaseの使用。
・・・)

イ 第8頁35行〜第9頁7行





(デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)
デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)は、DNA骨格中のホスホジエステル結合の加水分解的開裂を触媒し、これによってDNAを分解する任意の酵素である。
本発明によれば、細菌から得ることができるDNaseが好ましく;特に、バチルス属(Bacillus)から取得可能なDNaseが好ましく;とりわけ、枯草菌(Bacillus subtilis)又はバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)から取得可能なDNaseが好ましい。
本発明で用いられるDNaseとして、枯草菌(Bacillus subtilis)に由来する、配列番号1のアミノ酸1〜110(27〜136)として示される、配列番号1の成熟ポリペプチド;又はバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)に由来する、配列番号2のアミノ酸1〜109として示される配列番号2の成熟ポリペプチドが挙げられる。)

ウ 第32頁22行〜28行



(アッセイIDNase活性の確認 DNase活性とは、本出願で定義するように、デオキシリボ核酸(DNA)を分解することのできるデオキシリボヌクレアーゼ活性のことをいい、その酵素活性とは、例えばEC3.1.21.−、またはEC3.1.22.−に示されるような酵素活性のことであり、好ましくはEC3.1.21.−、最も好ましくはEC3.1.21.1であり;国際生化学分子生物学連合(IUBMB)推奨に基づく。)

エ 配列番号1「



オ 配列番号2「



(3)文献3に記載された事項
ア 「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項9】 洗濯洗剤および/または布帛ケア成分、ならびに請求項1〜8のいずれか一項に記載された修飾タンパク質を含有した、洗濯洗剤および/または布帛ケア組成物。
・・・」

イ 「【0039】 本発明の洗濯洗剤および/または布帛ケア組成物中に含有される好ましい酵素は、エキソ−α−N−アセチルグルコサミニダーゼ(EC3.21.50)、エンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ(EC3.21.96)、N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ(EC3.2.1.52)、デキストラナーゼ(EC3.2.1.11)、リチカーゼ、キサンチンオキシダーゼ(EC1.1.3.22)、プロトカテク酸、3,4−オキシドレダクターゼ(EC1.13.11.3)、カテコールジオキシゲナーゼ(EC1.13.11.1)、リボキシゲナーゼ(EC1.13.11.12)およびそれらの混合物である。」

(4)文献4に記載された事項
なお、摘記事項の後ろに当審の仮訳を掲載した。
ア 「


([0237] ・・・Table 2は、下にあるが、EC番号をリストしたものであり、それは各酵素のクラス、サブクラス、サブ−サブクラスに対応して与えられた名称とともに示されている。Table 1及び2は、本発明のポリペプチドの酵素的活性の例示的リストであり、それは、配列との同等性(つまりホモロジー)で決定され得る・・・)

イ 「


([0789] 洗剤組成物
[0790] この発明は、この発明の一つ以上のポリペプチドを含む洗剤組成物(表1、2及び3に記載される酵素、たとえば、セルラーゼ、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、マンナナーゼ及び/又はベータ−グルコシダーゼ活性を有するもの)及びそれらの組成物を製造し、使用する方法を提供する。・・・)

ウ 「

」(第47頁右欄)
(・・・
EC3.1.21.1 ・・・
EC3.1.21.2 ・・・
EC3.1.21.3 ・・・
EC3.1.21.4 ・・・
EC3.1.21.5 ・・・
EC3.1.21.6 ・・・
EC3.1.21.7 ・・・
EC3.1.22.1 ・・・
EC3.1.22.2 ・・・
EC3.1.22.4 ・・・
EC3.1.22.5 ・・・
・・・
EC3.1.30.1 ・・・
EC3.1.30.2 ・・・
EC3.1.31.1 ・・・
・・・)

エ 「

」(第48頁左欄)
(・・・
E.C.3.2.1.52 ・・・
・・・)

(5)文献5に記載された事項
なお、摘記事項の後ろに当審の仮訳を掲載した。
ア 「


・・・」
(特許請求の範囲
請求項1.マイクロカプセル膜が、1kDaを超える分子量を有する多分枝型ポリアミンの架橋によって生成され、洗剤酵素が、プロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、マンナナーゼ、ペクチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、ラッカーゼ、ペルオキシダーゼ、ハロペルオキシダーゼ、ペルヒドロラーゼ、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、洗剤酵素含有マイクロカプセルを含んでなる、マイクロカプセル組成物。
請求項2.少なくとも3重量%の総濃度の界面活性剤および洗剤ビルダーと、洗剤酵素含有マイクロカプセルとを含んでなり、前記マイクロカプセルの膜が1kDaを超える分子量を有する多分岐型ポリアミンの架橋によって生成される、液体洗剤組成物。
・・・)

イ 「

」(第14頁第16〜22行)
(デオキシリボヌクレアーゼ(DNase):適切なデオキシリボヌクレアーゼ(DNases)は、DNA主鎖中のリン酸ジエステル結合の加水開裂を触媒し、したがってDNAを分解するいずれかの酵素である。本発明によれば、細菌から得られるDNaseが好ましく;特に、バチルス属(Bacillus)から得られるDNaseが好ましく;特に、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)またはバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)から得られるDNaseが好ましい。このようなDNasesの例は、国際公開第2011/098579号パンフレットまたはPCT/欧州特許第2013/075922号明細書に記載される。)

(6)文献6に記載された事項
なお、摘記事項の後ろに当審の仮訳を掲載した。
ア 「




([0061]Figure 9は、EI-34-6系統Bacillus licheniformis nucBタンパク質前駆体の配列を、シグナルペプチドと予測される配列無しで示したものである(SEQ ID No:4))

イ Figure 9




ウ SEQ ID No:4





第5 当審の判断
1 刊行物に記載された発明
文献1の実施例2(上記第4の2(1)カ)には、「3種のマイクロカプセルを配合した」「液体洗剤組成物」が記載されている。そうすると、文献1には、
「ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(C14〜15,EOP=5)10重量%、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(C13〜15,EOP=12)25重量%、ヤシ脂肪酸ナトリウム塩 5重量%、カルボキシメチルセルロース 1重量%、リパーゼマイクロカプセル−プロピレン分散液(平均リパーゼ力価、100U/ml)3重量%、アミラーゼマイクロカプセル−プロピレン分散液(平均アミラーゼ力価、3,300U/ml)3重量%、プロテアーゼマイクロカプセル−プロピレン分散液(平均プロテアーゼ力価、1,800 nkat/ml)10重量%、ジエチレングリコール 7重量%、蒸溜水 36重量%を配合した、液体洗剤組成物」の発明(以下、「引用組成物発明」という。)が記載されているといえる。

2 本願発明1について(当審拒絶の理由1について)
(1)対比
本願発明1と引用組成物発明とを対比する。
引用組成物発明の「ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(C14〜15、EOP=5)」及び「ヤシ脂肪酸ナトリウム塩」は、アニオン界面活性剤であるから(上記第4の2(1)ウ)、本願発明1の「アニオン性界面活性剤」に相当する。
引用組成物発明の「ポリオキシエチレンアルキルエーテル(C13〜15、EOP=12)」は、非イオン界面活性剤であるから(上記第4の2(1)ウ)、本願発明1の「非イオン性界面活性剤」に相当する。
そして、引用組成物発明の「ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(C14〜15,EOP=5)」及び「ヤシ脂肪酸ナトリウム塩」の和の、「ポリオキシエチレンアルキルエーテル(C13〜15,EOP=12)」に対する重量比は、(10+5):25であり、これは本願発明1の「アニオン性界面活性剤の非イオン性界面活性剤に対する重量比が1.5:1〜1:10」である範囲内にある。
また、引用組成物発明の「リパーゼマイクロカプセル−プロピレン分散液(平均リパーゼ力価,100U/ml)」に含まれる「リパーゼ」、「アミラーゼマイクロカプセル−プロピレン分散液(平均アミラーゼ力価,3,300U/ml)」に含まれる「アミラーゼ」、及び「プロテアーゼマイクロカプセル−プロピレン分散液(平均プロテアーゼ力価,1,800 nkat/ml)」に含まれる「プロテアーゼ」は、本願発明1の「ヌクレアーゼ酵素」と、酵素である点で共通する。
引用組成物発明の「液体洗剤組成物」は、本願発明1の「洗浄組成物」に相当する。

そうすると、本願発明1と引用組成物発明とは、以下のとおりの点で一致し、また相違する。
<一致点>
「酵素と、アニオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤を含む界面活性剤系と、を含み、アニオン性界面活性剤の非イオン性界面活性剤に対する重量比が1.5:1〜1:10である、洗浄組成物」
<相違点1>
酵素が、本願発明1は、「ヌクレアーゼ酵素」の「E.C.クラスE.C.3.1.21.x(式中、x=1、2、3、4、5、6、7、8、9)、E.C.3.1.22.y(式中、y=1、2、4、5)、E.C.3.1.30.z(式中、z=1、2)若しくはE.C.3.1.31.1のいずれか、又はこれらの混合物から選択され」るものであるのに対し、引用組成物発明は、「リパーゼ」、「アミラーゼ」及び「プロテアーゼ」である点。

(2)判断
ア 相違点1について検討する。
文献1には、「洗剤に酵素を添加することは、洗浄率の向上等、洗浄に対し好ましい結果を与えるものであり、種々の酵素が使用あるいは提案されている。」(上記第4の2(1)ア)ことが記載されていることから、引用組成物発明には、種々の酵素が用いられることが示唆されているといえる。
一方、「ヌクレアーゼ酵素」の「E.C.クラスE.C.3.1.21.x(式中、x=1、2、3、4、5、6、7、8、9)、E.C.3.1.22.y(式中、y=1、2、4、5)、E.C.3.1.30.z(式中、z=1、2)若しくはE.C.3.1.31.1のいずれか、又はこれらの混合物」は、本願出願前に周知であり、これらが洗剤の酵素として用いられることも周知である(必要であれば、文献2の、洗剤組成物に含まれる酵素である「DNase」に関する記載(上記第4の2(2)ア〜ウ)、文献4の、洗剤組成物に含まれる酵素に関する記載(上記第4の2(4)ア〜ウ)、文献5の、液体洗剤組成物に含まれる洗剤酵素のうち[DNase」に関する記載(上記第4の2(5)ア〜イ)参照)。
そして、引用組成物発明には、用いられる酵素が「リパーゼ」、「アミラーゼ」及び「プロテアーゼ」に限定されるものであるということは記載されていない。また、引用組成物発明において用いられる酵素として、上の所定の「E.C.クラス」のものを用いることを阻害する要因があるという技術常識も見当たらない。
そうすると、引用組成物発明において用いられる酵素として、「リパーゼ」、「アミラーゼ」及び「プロテアーゼ」に加えて、周知の「ヌクレアーゼ酵素」の「E.C.クラスE.C.3.1.21.x(式中、x=1、2、3、4、5、6、7、8、9)、E.C.3.1.22.y(式中、y=1、2、4、5)、E.C.3.1.30.z(式中、z=1、2)若しくはE.C.3.1.31.1のいずれか、又はこれらの混合物」をさらに用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 効果について
本願明細書の【0002】には、「布地の白色度は、洗濯洗剤製造業者にとって常に課題である」こと、及び「デオキシリボヌクレアーゼは、この種の汚れを洗浄するのに特に有効であり得るが、洗浄を提供するためには、酵素が生地表面に付着する必要がある。特定の界面活性剤はこの付着を低減させ得るので、酵素が付着できるようにする界面活性剤を含む洗浄又は処理組成物が依然として必要とされている」ことが記載される。
これに対して、文献1には、洗剤に酵素を添加すると種々の汚れを洗浄し好ましいことが示される(上記第4の2(1)ア)。デオキシリボヌクレアーゼがその酵素活性により汚れを洗浄することや、その結果として白色度が向上することは周知である(必要であれば、アで指摘したほか、文献2(上記第4の2(2)ア)参照)。加えて、文献1には、「従来、酵素を失活させるため酵素含有液体洗剤では利用が制限されていたアニオン界面活性剤」「をも含む、一般の洗剤用界面活性剤」を使用できる洗剤組成物を提供できるようになったことが記載されている(上記第4の2(1)イ、ウ、キ)。
そうすると、本願発明1の効果は、文献1及び周知技術より予測可能な範囲内のものであって、格別ではない。

(3)請求人の主張について
ア 令和3年10月22日付けで提出した審判請求書での主張について
請求人は、当該審判請求書において、「比較実験報告」として追加実験した結果を提出した。そして、ヌクレアーゼ酵素としてSerrafia marcescens由来のE.C.クラスE.C.3.1.30.2を有する「Benzonase(登録商標)」を用い、アニオン性界面活性剤の非イオン性界面活性剤に対する重量比が「1.72:1(比較例)」である組成物に対して、「1:1」及び「1:8」とした組成物は、DNA加水分解において、「有意かつ顕著な効果がある」ことから、「比較的低いアニオン性界面活性剤:非イオン性界面活性剤比率を有する洗剤組成物中で酵素を使用することにより、ヌクレアーゼ活性の予期し得ない顕著ともいえる向上効果」のある旨を主張する。
しかしながら、(2)イで指摘したように、アニオン界面活性剤に酵素を失活させる傾向のあることは知られていたのであるから、アニオン界面活性剤の多いもの(比較例)のほうが、少ないものよりも、酵素を失活させ易く、その結果、「比較実験報告」のように、%DNA減少は小さくなるだろうことは、当業者であれば予期し得るものであり、顕著とはいえない。
また、当該「比較実験報告」は、アニオン性界面活性剤として「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム」(LAS)及び「アルキルエーテルスルホン酸ナトリウム」(AES)、非イオン性界面活性剤として「平均7モルのエトキシ化を有する直鎖アルコールエトキシレート」を用いた実験であることが記載されているところ、これらの界面活性剤のアルキル鎖長といった詳細な組成は不明である。仮にその鎖長が明らかになったとしても、当該実験結果は、「特定のLAS及び特定のAES」の「平均7モルのエトキシ化を有する特定の直鎖アルコールエトキシレート」に対する重量比が特定の範囲において、「E.C.3.1.30.2」を含んでいる場合のDNA減少率が高いことを示すにとどまる。そしてアニオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤によっては、同様な界面活性作用を示すものであっても、アルキル鎖長によって重量が異なるものとなることからすれば、当該実験結果から、本願発明1に包含される、「E.C.3.1.30.2」に限らないE.C.クラスE.C.3.1.21.x(式中、x=1、2、3、4、5、6、7、8、9)、E.C.3.1.22.y(式中、y=1、2、4、5)、E.C.3.1.30.z(式中、z=1、2)若しくはE.C.3.1.31.1のいずれか、又はこれらの混合物から選択される」ヌクレアーゼ酵素と、本比較実験報告で用いられた組み合わせに限らない、あらゆる種類のアニオン性界面活性剤のあらゆる種類の非イオン性界面活性剤に対する重量比が1.5:1〜1:10である界面活性剤系とを含む、洗剤組成物のいずれもが、格別なDNA加水分解性を示す、ということまでを理解できるともいえない。
したがって、請求人の主張は、採用することができない。

イ 令和5年2月17日付けで提出した意見書での主張について
請求人は、「(1)引用文献1との技術的課題の対比」を前提とした「(2)引用文献1が教示している技術的事項について」の項で、「主引例に記載されている重要な技術的事項」「によれば、ヌクレアーゼ酵素を一般的な洗剤組成物に配合する場合には当該酵素をマイクロカプセル化して安定性を維持する必要があ」ることを主張する。
この主張とは、「主引例」である文献1に接した当業者は、引用組成物発明において、当審からの拒絶理由に示したような周知のヌクレアーゼ酵素を配合する場合には、当該酵素をマイクロカプセル化して安定性を維持させるようにすればよいと考える、ということを主張していると解される。しかしながら、本願発明1では、酵素のマイクロカプセル化の有無について何ら特定されておらず、酵素をマイクロカプセル化した態様をも包含するといえるから、請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、採用できない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 門前 浩一
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2023-03-09 
結審通知日 2023-03-10 
審決日 2023-03-22 
出願番号 P2019-177533
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C11D)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 東 裕子
田澤 俊樹
発明の名称 洗剤組成物  
代理人 出口 智也  
代理人 小島 一真  
代理人 宮嶋 学  
代理人 村田 卓久  
代理人 中村 行孝  

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