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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1401487
総通号数 21 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-12-16 
確定日 2023-07-27 
事件の表示 特願2018−127802「放送信号送受信装置」拒絶査定不服審判事件〔令和2年1月16日出願公開、特開2020−10120〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年7月4日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和3年 1月 4日 :手続補正書の提出
令和4年 1月24日付け:拒絶理由通知書
令和4年 3月 3日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 5月10日付け:拒絶理由通知書
令和4年 6月27日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 9月16日付け:拒絶査定
令和4年12月16日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和4年12月16日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和4年12月16日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
令和4年12月16日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、令和4年6月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本件補正前の請求項1」という。)を、本件補正による特許請求の範囲の請求項1(以下「本件補正後の請求項1」という。)に補正する補正事項を含むものであり、本件補正前後の請求項1の記載は次のとおりである。
なお、下線は補正箇所を示す。

〔本件補正前の請求項1〕
MMT−TLV方式で多重されている信号を送受信する放送信号送受信装置において、
送信側は、
前記信号を放送信号として送信する送信部と、
前記信号に含まれる制御信号の情報を設定する設定部と、
を有し、
前記設定部は、前記信号がIP再放送される場合に、前記制御信号のうちのMH−CDT(MH-Common Data Table)を集約して前記信号とは別にIPマルチキャストの伝送路に送出する際に、前記信号に含まれる放送信号のストリームを識別させるために、前記MH−CDT(MH-Common Data Table)のoriginal_network_idを前記original_network_idと同じビット長であって前記信号を識別するtlv_stream_idに置き換えて設定し、
受信側は、
IP再放送された、前記信号から前記制御信号を除いたMMT−TLV方式で多重された第1の信号と前記MH−CDT(MH-Common Data Table)とを受信する受信部と、
前記受信部で受信した前記MH−CDT(MH-Common Data Table)に含まれている前記tlv_stream_idにより前記信号に含まれる放送信号のストリームを識別する識別部と、を有する放送信号送受信装置。

〔本件補正後の請求項1〕
MMT−TLV方式で多重されている信号を送受信する放送信号送受信装置において、
送信側は、
前記信号を放送信号として送信する送信部と、
前記信号に含まれる制御信号の情報を設定する設定部と、
を有し、
前記設定部は、前記信号がIP再放送される場合に、前記制御信号のうちのMH−CDT(MH-Common Data Table)を集約して前記信号とは別にIPマルチキャストの伝送路に送出する際に、前記信号に含まれる放送信号のストリームを識別させるために、前記MH−CDT(MH-Common Data Table)のoriginal_network_idを前記original_network_idと同じビット長であって前記信号を識別するtlv_stream_idに置き換えて設定し、
受信側は、
IP再放送された、前記信号から前記制御信号のうちのMH−CDT(MH-Common Data Table)を集約することにより前記MH−CDTの一部が除かれた信号をMMT−TLV方式で多重された第1の信号と前記MH−CDT(MH-Common Data Table)とを受信する受信部と、
前記受信部で受信した前記MH−CDT(MH-Common Data Table)に含まれている前記tlv_stream_idにより前記信号に含まれる放送信号のストリームを識別する識別部と、を有する放送信号送受信装置。

本件補正は、受信部が「IP再放送された、前記信号から前記制御信号を除いたMMT−TLV方式で多重された第1の信号と前記MH−CDT(MH-Common Data Table)とを受信する」ものとされていたものを、「IP再放送された、前記信号から前記制御信号のうちのMH−CDT(MH-Common Data Table)を集約することにより前記MH−CDTの一部が除かれた信号をMMT−TLV方式で多重された第1の信号と前記MH−CDT(MH-Common Data Table)とを受信する」もの(以下「本件補正事項」という。)へと補正するものである。

2 補正の適否
本件補正事項が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものであるか検討する。

(1)当初明細書等の記載
当初明細書等には次の記載がある。
なお、下線は当審が強調のために付したものである。

「【0019】
以下、実施の形態について図面を用いて説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る放送局100、IP再放送サービス事業者が運営する送信装置110、通信ネットワーク120、受信装置130のシステム全体の構成例を示す図である。
【0020】
100は、放送番組を放送する放送信号送信装置(放送局とも呼ぶ)であり、放送番組サーバ101および第1の基本機能102を備える。放送信号送信装置100は、各放送事業者の番組を集約して通信衛星150にアップリンクする地上局であってもよい。」

「【0023】
120は、送信装置110から送出されるIP再放送の信号を受信装置130に届けるための通信ネットワークである。通信ネットワーク120は、IPマルチキャストを実現するためのIPマルチキャスト網121と、ユーザの受信装置130がPIマルチキャスト網121に接続するためのアクセス回線122とIPマルチキャスト網121とアクセス回線122とのI/Fであるエッジルータ123を含む。」

「【0029】
(前略)
図3は、IP再放送サービス事業者が運営する送信装置110の構成を概略的に示した図である。送信装置110は、放送信号送信装置100から送られてくる放送信号のうちIP再放送サービスの対象の各放送信号をすべて受信して、IPマルチキャスト網121に送出するための処理を行う。
【0030】
具体的には送信装置110が、アンテナ113を経由した放送信号(番組1)を、チューナ(1)301−1で受信したとする。受信した放送信号(番組1)は、復調処理部(1)302−1に送られ16APSKなどの復調や誤り訂正復号され、TLV/MMT多重分離(1)303−1で、映像ストリーム、音声ストリーム、字幕ストリーム、TLVパケットおよびMMTの制御情報に分離される。
【0031】
ここでTLV/MMT多重分離(1)303−1は、分離したデータのうち、TLVパケットおよびMMTの制御情報に含まれる一部の制御情報を、SI専用TLVストリーム送出処理305に送り、映像ストリーム、音声ストリーム、字幕ストリームと残りのTLVパケットおよびMMTの制御情報をMMT−TLV方式で再多重し、IP送出処理(1)304−1に送る。
【0032】
同様に送信装置110が、アンテナ113を経由した放送信号(番組2)を、チューナ(2)301−2で受信したとする。受信した放送信号(番組2)は、復調処理部(2)302−2に送られ復調や誤り訂正復号され、TLV/MMT多重分離(2)303−2で、映像ストリーム、音声ストリーム、字幕ストリーム、TLVパケットおよびMMTの制御情報に分離される。
【0033】
ここでTLV/MMT多重分離(2)303−2は、分離したデータのうち、TLVパケットおよびMMTの制御情報に含まれる一部の制御情報を、SI専用TLVストリーム送出処理305に送り、映像ストリーム、音声ストリーム、字幕ストリームと残りのTLVパケットおよびMMTの制御情報をMMT−TLV方式で再多重し、IP送出処理(2)304−2に送る。
【0034】
同様に送信装置110が、アンテナ113を経由して放送信号(番組n)を、チューナ(2)301−nで受信したとする。受信した放送信号(番組n)は、復調処理部(n)302−nに送られ復調や誤り訂正復号され、TLV/MMT多重分離(n)303−nで、映像ストリーム、音声ストリーム、字幕ストリーム、TLVパケットおよびMMTの制御情報に分離される。
【0035】
ここでTLV/MMT多重分離(n)303−nは、分離したデータのうち、TLVパケットおよびMMTの制御情報に含まれる一部の制御情報を、SI専用TLVストリーム送出処理305に送り、映像ストリーム、音声ストリーム、字幕ストリームと残りのTLVパケットおよびMMTの制御情報をMMT−TLV方式で再多重し、IP送出処理(n)304−nに送る。
【0036】
IP送出処理(1)304−1は、TLV/MMT多重分離(1)303−1から送られてきた多重化された放送信号(番組1)を、映像ストリーム、音声ストリーム、字幕ストリームとTLVパケットおよびMMTの制御情報が含まれる番組(1)ストリームとしてIPマルチキャスト網121に送出する。
【0037】
同様にIP送出処理(2)304−2は、TLV/MMT多重分離(2)303−2から送られてきた多重化された放送信号(番組2)を、映像ストリーム、音声ストリーム、字幕ストリームとTLVパケットおよびMMTの制御情報が含まれる番組(2)ストリームとしてIPマルチキャスト網121に送出する。
【0038】
同様にIP送出処理(n)304−3は、TLV/MMT多重分離(n)303−nから送られてきた多重化された放送信号(番組n)を、映像ストリーム、音声ストリーム、字幕ストリームとTLVパケットおよびMMTの制御情報が含まれる番組(n)ストリームとしてIPマルチキャスト網121に送出する。
【0039】
一方SI専用TLVストリーム送出処理305は、TLV/MMT多重分離(1)303−1、TLV/MMT多重分離(2)303−2、TLV/MMT多重分離(n)303−n各々から送られたてきたTLVパケットおよびMMTの制御情報を、MMT−TLV方式で多重し、1つのSI専用ストリームとしてIPマルチキャスト網121に送出する。
【0040】
番組(1)ストリームとしてIP送出処理(1)304−1からIPマルチキャスト網121にIPマルチキャストとして送出すること、あるいは番組(2)ストリームとしてIP送出処理(2)304−2からIPマルチキャスト網121にIPマルチキャストとして送出すること、あるいは番組(n)ストリームとしてIP送出処理(n)304−nからIPマルチキャスト網121にIPマルチキャストとして送出することを、SI伝送経路の観点から各局SIマルチキャストと呼んでもよい。
【0041】
またSI専用ストリームとしてSI専用TLVストリーム送出処理305からIPマルチキャスト網121にIPマルチキャストとして送出することを、同じくSI伝送経路の観点からSI専用マルチキャストと呼んでもよい。
図4は、受信装置130の構成を概略的に示した図である。図4の受信装置130の例は、IP再放送サービス専用の受信装置の例である。
【0042】
受信装置130は、ネットワークI/F400、通信処理401、ストリーミング受信処理402を含む。これらネットワークI/F400、通信処理401、ストリーミング受信処理402は、IP再放送サービス専用の受信装置としての機能となる。
400は、アクセス回線122とのI/FであるネットワークI/Fである。
【0043】
401は、アクセス回線122におけるプロトコルスタックの処理を行う通信処理である。
402は、エッジルータ123から送られてくる番組ストリームやSI専用ストリームの受信処理を行うストリーミング受信処理である。
受信装置130は、これらIP再放送サービス専用の受信装置としての機能以外に、デスクランブラ403、TLV/MMT分離処理404、音声デコード処理405、映像デコード処理406、制御データ解析部407、提示処理408、提示処理409、スピーカー410、表示画面411を含む。これらデスクランブラ403、TLV/MMT分離処理404、音声デコード処理405、映像デコード処理406、制御データ解析部407、提示処理408、提示処理409、スピーカー410、表示画面411からなる機能は、テレビジョン受信装置が持つ機能と同じような機能である。」

「【0054】
図5は、IP再放送において、SI専用マルチキャストで送信する制御情報の一覧を示した図である。
図5(A)は、非特許文献7記載の地上デジタルテレビジョン放送におけるIP再放送において、SI専用マルチキャストで送られてくるSI等の番組関連情報や制御情報の一覧を示している。
【0055】
また図5(B)は、現状の地上デジタルテレビジョン放送におけるIP再放送において使用されているSI等の番組関連情報や制御情報の種類から想定される、高度BSデジタル放送においてIP再放送を行う場合に、SI専用マルチキャストで送られてくるTLVパケットおよびMMTの制御情報の例の一覧を示している。MH-SDT、MH−EIT、MH−CDT、TLV−NIT、MH−BIT、AMTは、非特許文献3記載のTLVパケットおよびMMTの制御情報である。」

「【0068】
図7は、MH−CDTのシンタックスを表している図である。702に示すフィールドがoriginal_network_idである。
なお高度BSデジタル放送では、MH−CDTは、各放送事業者が提供するTLVストリーム内でのみ伝送される想定である。MH−CDTのシンタックスには、download_data_idが存在しているが、この識別子は各放送事業者の管理のもとにTLVストリーム内でユニークに割り当てられるものであり、ネットワーク内では一意性は保証されない。したがってMH−CDTがSI専用ストリームで送出された場合、download_data_idは、もともと多重されていた放送信号識別する情報として利用することができない。
【0069】
そこで本実施形態の放送信号送信装置は、MH−CDTに放送信号を識別する情報を付与した、拡張MH−CDTのMMT制御信号を生成する機能を備える。
図8Aは、拡張MH−CDTのシンタックスの例を示す図である。図8Aに示した例は、放送信号を識別する情報の付与として、MH−CDTのoriginal_network_idのフィールドをtlv_stream_idのフィールド801で置き換えた例である。フィールドの置き換えに伴い、CRC_32(Cyclic Redundancy Check32)802の値は、再計算して設定し直す。」

「【図3】



「【図5】((B)のみ抜粋)



(2)当初明細書等に記載された技術事項
上記(1)の記載から、当初明細書には以下の技術事項が記載されているといえる。

ア 【0019】、【0020】には、放送信号送信装置(放送局)100、IP再放送サービス事業者が運営する送信装置110、通信ネットワーク120、受信装置130のシステムが記載されている。

イ 【0030】、【0031】、【0039】、【0036】、図3には、送信装置110において、受信した放送信号が、復調や誤り訂正復号され、映像ストリーム、音声ストリーム、字幕ストリーム、TLVパケットおよびMMTの制御情報に分離され、
分離されたデータのうち、TLVパケットおよびMMTの制御情報に含まれる一部の制御情報を、MMT−TLV方式で多重し、1つのSI専用ストリームとしてIPマルチキャスト網に送出し、
映像ストリーム、音声ストリーム、字幕ストリームと残りのTLVパケットおよびMMTの制御情報をMMT−TLV方式で再多重し、多重化された放送信号を、映像ストリーム、音声ストリーム、字幕ストリームとTLVパケットおよびMMTの制御情報が含まれる番組ストリームとしてIPマルチキャスト網に送出することが記載されている。

ウ 【0055】、図5(B)には、高度BSデジタル放送においてIP再放送を行う場合に、SI専用マルチキャストで送られてくるTLVパケットおよびMMTの制御情報の例として、MH−CDT等が記載されている。

エ 【0068】、【0069】には、MH−CDTがSI専用ストリームで送出された場合、download_data_idは、もともと多重されていた放送信号識別する情報として利用することができないため、放送信号送信装置は、MH−CDTのoriginal_network_idのフィールドをtlv_stream_idのフィールドで置き換えることにより、MH−CDTに放送信号を識別する情報を付与した、拡張MH−CDTのMMT制御信号を生成する機能を備えることが記載されている。

オ 【0042】、【0043】、【0023】には、受信装置130は、ストリーミング受信処理402において、通信ネットワーク120のエッジルータ123から送られてくる番組ストリームやSI専用ストリームの受信処理を行うことが記載されている。

(3)新規事項に係る判断
本件補正事項は、受信部が「前記信号から前記制御信号のうちのMH−CDT(MH-Common Data Table)を集約することにより前記MH−CDTの一部が除かれた信号をMMT−TLV方式で多重された第1の信号」と「前記MH−CDT(MH-Common Data Table)」とを受信するものである。
ここで、「前記信号」とは同請求項中に記載されている「MMT−TLV方式で多重されている信号」のことであり、「前記制御信号」とは同請求項中に記載されている「前記信号に含まれる制御信号」すなわち「MMT−TLV方式で多重されている信号に含まれる制御信号」のことであると認められる。

一方、当初明細書等には、受信装置130が番組ストリームやSI専用ストリームの受信処理を行うこと(上記(2)オ)、SI専用ストリームはTLVパケットおよびMMTの制御情報に含まれる一部の制御情報を、MMT−TLV方式で多重したものであり、番組ストリームは映像ストリーム、音声ストリーム、字幕ストリームと残りのTLVパケットおよびMMTの制御情報をMMT−TLV方式で再多重した放送信号であること(上記(2)イ)、及び、SI専用ストリームにおいて多重される制御情報にMH−CDTが含まれること(上記(2)ウ、エ)は、記載されている。

しかしながら、受信装置130が受信する番組ストリームにおいて多重化されている「残りのTLVパケットおよびMMTの制御情報」は、SI専用ストリームにおいて多重されるMH−CDT等の制御情報が除かれた残りのものであることは記載されているものの、除かれる制御情報が「MH−CDTの一部」であることは、当初明細書等に記載されていないし、当初明細書等から自明の事項であるとも認められない。
したがって、番組ストリームにおいて多重されている信号は、上記「第1の信号」ではない。

また、受信装置130が受信するSI専用ストリームにおいて多重されるMH−CDT等の制御情報は、「制御信号のうちMH−CDTの一部が除かれた信号」ではないことは明らかであるから、SI専用ストリームにおいて多重された信号も上記「第1の信号」ではない。

以上から、受信部が「前記信号から前記制御信号のうちの」「MH−CDTの一部が除かれた信号をMMT−TLV方式で多重された第1の信号」を受信するものであることは、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえない。

したがって、本件補正事項は、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものではない。

なお、請求人は、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」の(3−3)において、次のとおり主張している。

「 確かに、前回補正した請求項1については、原審査官殿のご指摘のとおりであると思料いたします。
しかし、今回の補正により、本願の発明で記述している上記の「MMT−TLV方式で多重された第1の信号」の内容が明確になったものと思料致します。
そして、送信側から、IPマルチキャストの伝送路に送出される制御信号と、受信側で受信される制御信号との整合性が得られたものと思料いたします。
即ち、「受信部は、IP再放送された、前記信号から前記制御信号のうちのMH−CDT(MH-Common Data Table)を集約することにより前記MH−CDTの一部が除かれた信号をMMT−TLV方式で多重された第1の信号と前記MH−CDT(MH-Common Data Table)とを受信する」と記載することにより、IPマルチキャストで送信する制御情報は、その一部が除かれており、これを受信側において、受信することが明確になりました。
この内容は、段落0031、0033、0035において図3を参照している中で、「一部の制御信号をSI専用TLVストリーム送出処理305に送り」と記載していることから、
制御信号が全てではないことを意味しています。
これは(一部の制御信号は)、段落0006にて説明している2つ目の伝送経路におけるストリームの中の制御信号を意味するものであり、この段落0006では、以下の様に記載しています、即ち、「ここでは、2つ目の伝送経路は、・・・・番組関連情報や制御情報の信号を取り出して集約して、別の1つのIPマルチキャストにて送信するSI専用マルチキャストである」と説明しています。
また、段落0007では、「SI専用マルチキャストに対応する受信装置は、SI専用マルチキャストで送られてくるSI等の番組関連情報や制御情報の各信号が、どの放送信号送信装置が送出する(どの持つネットワークもしくはどのTSで送信された)放送信号に多重されていたかを判別できる必要がある。そのため、SI専用マルチキャストで送られてくるSI等の番組関連情報や制御情報の各信号は、もともとの放送信号を正しく識別できる情報を含んでいる。」
と説明しています。
上記のルール(送信側と受信側の整合性)を実現する送信側は、図3に示すように構成されております。したがって、当然、受信側においては、「「受信部は、IP再放送された、前記信号から前記制御信号のうちのMH−CDT(MH-Common Data Table)を集約することにより前記MH−CDTの一部が除かれた信号をMMT−TLV方式で多重された第1の信号と」「MH−CDT(MH-Common Data Table)と」受信することになります。
以上説明しましたように、今回の補正により本願発明は明確となりました。」

しかしながら、上記主張は、「IPマルチキャストで送信する制御情報は、その一部が除かれており、これを受信側において、受信すること」が明細書に記載されていることについては説明されているものの、除かれる制御情報が「前記MH−CDTの一部」であることについて何ら根拠が示されていないから、上記主張を採用することはできない。

3 むすび
以上のとおり、本件補正事項は、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものではないから、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
よって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願の請求項1について
1 本願の請求項1
令和4年12月16日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1は、令和4年6月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、上記第2[理由]1の〔本件補正前の請求項1〕に示したとおりのものである。

ここで、本件補正前の請求項1における「IP再放送された、前記信号から前記制御信号を除いたMMT−TLV方式で多重された第1の信号と前記MH−CDT(MH-Common Data Table)とを受信する受信部」は、上記令和4年12月16日にされた手続補正の前の、令和4年3月3日にされた手続補正により「IP再放送された、前記信号から前記第1の制御情報を除いたMMT−TLV方式で多重された第1の信号と前記MH−CDT(MH-Common Data Table)とを受信する受信部」から「IP再放送された、前記信号から前記制御信号を除いたMMT−TLV方式で多重された第1の信号と前記MH−CDT(MH-Common Data Table)とを受信する受信部」(下線は補正箇所を示す。以下「原審補正事項」という。)へと補正されたものである。

2 原査定における拒絶の理由
原査定における拒絶の理由の内容は、概略、次のとおりである。

令和4年6月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に含まれる「IP再放送された、前記信号から前記制御信号を除いたMMT−TLV方式で多重された第1の信号と前記MH−CDT(MH-Common Data Table)とを受信する」との事項は、依然として当初明細書等に記載した事項の範囲内にないことが明らかである。
したがって、令和4年6月27日付け手続補正書でした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、本願は拒絶をすべきものである。

3 補正の適否
令和4年6月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に含まれる原審補正事項が当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであるか検討する。

原審補正事項は、受信部が「前記信号から前記制御信号を除いたMMT−TLV方式で多重された第1の信号」と「前記MH−CDT(MH-Common Data Table)」とを受信するものである。
ここで、「前記信号」とは同請求項中に記載されている「MMT−TLV方式で多重されている信号」のことであり、「前記制御信号」とは同請求項中に記載されている「前記信号に含まれる制御信号」すなわち「MMT−TLV方式で多重されている信号に含まれる制御信号」のことであると認められる。
そうすると「前記信号から前記制御信号を除いたMMT−TLV方式で多重された第1の信号」とは「MMT−TLV方式で多重されている信号」から「MMT−TLV方式で多重されている信号に含まれる制御信号」を除いたMMT−TLV方式で多重された信号である。

一方、当初明細書等の記載及び当初明細書に記載された技術事項は、上記第2の2(1)、(2)のとおりである。

当初明細書等には、受信装置130が番組ストリームやSI専用ストリームの受信処理を行うこと(上記(2)オ)、SI専用ストリームはTLVパケットおよびMMTの制御情報に含まれる一部の制御情報を、MMT−TLV方式で多重したものであり、番組ストリームは映像ストリーム、音声ストリーム、字幕ストリームと残りのTLVパケットおよびMMTの制御情報をMMT−TLV方式で再多重した放送信号であること(上記(2)イ)、及び、SI専用ストリームにおいて多重される制御情報にMH−CDTが含まれること(上記(2)ウ、エ)は、記載されている。

しかしながら、受信装置130が受信する番組ストリームにおいて「TLVパケットおよびMMTの制御情報」が除かれていること(制御情報が含まれないこと)は、当初明細書等に記載されていないし自明の事項であるとも認められないから、番組ストリームにおいて多重されている信号は、上記「第1の信号」ではない。

また、受信装置130が受信するSI専用ストリームは、MH−CDT等の制御情報が多重されるから、制御情報が除かれていないこと(制御情報が含まれること)は明らかである。よって、SI専用ストリームにおいて多重された信号も上記「第1の信号」ではない。

以上から、受信部が「前記信号から前記制御信号を除いたMMT−TLV方式で多重された第1の信号」を受信するものであることは、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえない。

したがって、原審補正事項は、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものではないから、原審補正事項が含まれる令和4年6月27日にされた手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび
以上のとおり、令和4年6月27日にされた手続補正は、特許法第17の2第3号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2023-05-29 
結審通知日 2023-05-30 
審決日 2023-06-12 
出願番号 P2018-127802
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H04N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 畑中 高行
特許庁審判官 樫本 剛
川崎 優
発明の名称 放送信号送受信装置  
代理人 弁理士法人スズエ国際特許事務所  

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