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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1401539
総通号数 21 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-02-07 
確定日 2023-08-22 
事件の表示 特願2018−194176「電磁波遮蔽吸収性成形体」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月19日出願公開、特開2019−161209、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。

理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年10月15日(優先権主張 平成29年10月30日、平成30年3月9日)の出願であって、令和2年3月26日に手続補正がされ、令和4年6月1日付けで拒絶理由通知がされ、同年7月28日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年11月9日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和5年2月7日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、同年3月16日に前置報告がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和4年11月9日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1−6に係る発明は、以下の引用文献1−2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開昭61−296066号公報
2.特開2001−223492号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願請求項1−6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明6」という。)は、令和5年2月7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1−6に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
ステンレス繊維を含む熱可塑性樹脂組成物からなる電磁波遮蔽吸収性成形体であって、
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体およびそれらの変性物から選ばれる1または2以上であり、
前記成形体中の前記ステンレス繊維の含有割合が0.5〜20質量%であり、
前記電磁波遮蔽吸収性成形体が、厚みが0.5mm〜5mmで、59GHz〜100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の遮蔽性が10dB以上であり、前記周波数の電磁波の吸収性が25%以上のものであり、
前記電磁波遮蔽吸収性成形体中のステンレス繊維の含有割合(R)と前記電磁波遮蔽吸収性成形体の厚み(T)の積(R・T)の範囲が0.5〜6未満であるとき、70GHz〜100GHzの周波数領域全体における電磁波の遮蔽性が10dB以上であり、前記周波数の電磁波の吸収性が40%以上のものであり、
前記成形体中のステンレス繊維の含有割合(R)と前記成形体の厚み(T)の積(R・T)の範囲が6以上であるとき、70GHz〜100GHzの周波数領域全体における電磁波の遮蔽性が50dB以上であり、前記周波数の電磁波の吸収性が20%以上のものである、電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物に含まれるステンレス繊維の繊維長が1〜30mmである、請求項1記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物が、ステンレス繊維が長さ方向に揃えた束ねられたものに熱可塑性樹脂が付着されて一体化された、ステンレス繊維の含有割合が20〜80質量%である、長さ1〜30mmの熱可塑性樹脂付着繊維束を含んでいるものである、請求項1または2記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項4】
前記電磁波遮蔽吸収性成形体の遮蔽性と吸収性が周波数76GHz〜100GHz全体のものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン及び酸変性ポリプロピレンの混合物である、請求項1〜4のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。
【請求項6】
送受信アンテナ用保護部材である、請求項1〜5のいずれか1項記載の電磁波遮蔽吸収性成形体。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

「[発明の目的]
本発明の目的は、前記のような実情に鑑みてなされたもので、導電性充填剤の形態と量を定量化し、安定して供給するとともに導電性充填剤の充填を少なく、合成樹脂中に均一に分散することができ、機械的強度を低下させることのない、電磁波シールド効果の優れた、環境衛生上もよく、かつ低コストの導電性成形材料を提供しようとするものである。」(第2頁右上欄13行−左下欄第1行)

「すなわち本発明は、長繊維状のSUS304ステンレス繊維を束ねた表面に合成樹脂層を被覆形成一体化してペレット状に切断してなるマスターペレットと、ペレット状の合成樹脂からなるナチュラルペレットとを主成分とすることを特徴とする導電性成形材料である。」(第2頁左下欄第9行−第14行)

「このSUS304ステンレス繊維の充填割合は、成形材料に対して1〜10重量%であることが望ましい。」(第2頁右下欄第7行−第9行)

「本発明に用いるナチュラルペレットは、合成樹脂そのものでペレット状のポリスチロール樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブタジエン樹脂、変性PPO樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等が挙げられ、特に前述したブレンドポリマーを形成するものを選択するのが好ましい。」(第3頁左上欄第19行−右上欄第5行)

「実施例 1
直径約8μmの長尺のSUS304ステンレス繊維を6000本束ねて、ポリスチレン樹脂を薄く被層形成一体化して直径約2mmとし、長さ5mmにカッティングしたものをマスターペレットとした。SUS304ステンレス繊維が成形材料に対して5重量%含まれるように、このマスターペレットとポリスチレン樹脂のナチュラルペレットとを機械的に混合して導電性成形材料を製造した。得られた成形材料を使用して射出成形を行い、厚さ3mmの板状成形品を得た。この成形品の電磁波シールド効果を試験したところ、300MHzで40dBであった。」(第3頁左下欄第18行−第10行)

ここで、上記引用文献1に記載されている事項について検討する。
実施例1の記載として、「得られた成形材料を使用して射出成形を行い、厚さ3mmの板状成形品を得た。」との記載から、引用文献1には、実施例1として、導電性成形材料を使用して得た、厚さ3mmの板状成形品が記載されていると認められる。

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「SUS304ステンレス繊維を含む合成樹脂からなる電磁波シールド効果の優れた成形材料であって、
前記合成樹脂が、ポリスチロール樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブタジエン樹脂、変性PPO樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等から選ばれ、
前記成形材料中の前記SUS304ステンレス繊維の含有割合が1〜10重量%であり、
前記電磁波シールド効果の優れた成形材料を使用して得た、厚みが3mmの板状成形品。」

2.引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された上記引用文献2の段落【0028】には「この吸収ピークが現れる周波数帯は、ステンレスファイイバーの長さを調整することにより変更することができる。」と記載されている。

3.その他の文献について
また、前置報告書において周知技術を示す文献として引用された引用文献3(特開2013−177560号公報)において、段落【0014】−【0015】には「前記熱可塑性樹脂の中でも、電気・電子機器や自動車の部品としての用途から、軽量、かつ、力学特性や成形性のバランスに優れるポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂がより好ましく、耐薬品性や吸湿性にも優れることから、ポリプロピレン樹脂がさらに好ましい。以下、好適な熱可塑性樹脂であるポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂について説明する。ここで言うポリプロピレン樹脂とは、無変性のものも、変性されたものも含まれる。」と記載され、段落【0017】には「また、変性ポリプロピレン樹脂としては、酸変性ポリプロピレン樹脂が好ましく、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有するポリプロピレン樹脂がより好ましい。」と記載されている。更に、段落【0023】には「ここで、成形品の力学特性、特に曲げ強度を向上させるため、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂を共に用いることが好ましく、特に難燃性や力学特性のバランスの観点から、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂の重量比が95/5〜75/25となるように用いることが好ましい。」と記載されている。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明における「SUS304ステンレス繊維」は、本願発明1における「ステンレス繊維」に相当する。
引用発明の「合成樹脂」は、「ポリスチロール樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブタジエン樹脂、変性PPO樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等から選ばれ」るものであり、「ポリスチロール樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブタジエン樹脂、変性PPO樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂」が、熱可塑性樹脂であるから、引用発明の「合成樹脂」は、本願発明1の「熱可塑性組成物」に相当する。
引用発明は、「電磁波シールド効果の優れた成形材料を使用して得た、厚みが3mmの板状成形品」であるから、これが「電磁波遮蔽性成形体」であることは明らかである。
引用発明では、「前記成形材料中の前記SUS304ステンレス繊維の含有割合が1〜10重量%であ」る。これを、引用発明では、成形材料を使用して板状成形品を得ていることを考慮して、本願発明1の用語で書き下すと、「前記成形体中の前記ステンレス繊維の含有割合が1〜10重量%」となる。本願発明1の、成形体中のステンレス繊維の含有割合の取り得る範囲は、引用発明の取り得る範囲をすべて含んで、かつ、それよりも広い0.5〜20重量%であるから、成形体中のステンレス繊維の含有割合について、本願発明1と引用発明とで一致するといえる。
また、引用発明は、「前記電磁波シールド効果の優れた成形材料を使用して得た、厚みが3mmの板状成形品」である。すなわち、成形体の厚みは3mmである。そうすると、本願発明1の成形体の厚みの取り得る範囲は、引用発明の厚みを含む0.5mm〜5mmであるから、成形体の厚みについて、本願発明1と引用発明とで一致するといえる。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「ステンレス繊維を含む熱可塑性樹脂組成物からなる電磁波遮蔽性成形体であって、
前記成形体中の前記ステンレス繊維の含有割合が0.5〜20質量%であり、
前記電磁波遮蔽吸収性成形体が、厚みが0.5mm〜5mmである、電磁波遮蔽性成形体。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1の熱可塑性樹脂組成物は、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体およびそれらの変性物から選ばれる1または2以上であるのに対し、引用発明ではそのような樹脂から選択されていない点。
(相違点2)本願発明1の電磁波遮蔽吸収性成形体が、59GHz〜100GHzの周波数領域のいずれかの周波数の電磁波の吸収性が25%以上のものであるのに対し、引用発明の成形体は、電磁波遮蔽性成形体であって、そのような電磁波の吸収特性を有しているのか不明である点。
(相違点3)本願発明1の電磁波遮蔽吸収性成形体が、59GHz〜100GHzの周波数領域のいずれかの周波数における電磁波の遮蔽性が10dB以上であるのに対し、引用発明の電磁波遮蔽性成形体が、そのような電磁波の遮蔽特性を有しているのか不明である点。
(相違点4)本願発明1の電磁波遮蔽吸収性成形体中のステンレス繊維の含有割合(R)と前記電磁波遮蔽吸収性成形体の厚み(T)の積(R・T)の範囲が0.5〜6未満であるとき、70GHz〜100GHzの周波数領域全体における電磁波の遮蔽性が10dB以上であり、前記周波数の電磁波の吸収性が40%以上のものであり、
前記成形体中のステンレス繊維の含有割合(R)と前記成形体の厚み(T)の積(R・T)の範囲が6以上であるとき、70GHz〜100GHzの周波数領域全体における電磁波の遮蔽性が50dB以上であり、前記周波数の電磁波の吸収性が20%以上のものであるのに対して、引用発明の電磁波遮蔽性成形体が、そのような電磁波の遮蔽特性及び吸収特性を有しているのか不明である点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点4について検討する。電磁波遮蔽吸収性成形体中のステンレス繊維の含有割合(R)と前記電磁波遮蔽吸収性成形体の厚み(T)の積(R・T)に関して、引用発明においても、電磁波遮蔽性成形体中のステンレス繊維の含有割合と、前記電磁波遮蔽性成形体の厚みという、2つのパラメータが明記されているが、引用発明は、それらの積の範囲が、0.5〜6未満と、6以上の場合に分け、電磁波の遮蔽特性及び吸収特性を規定するものではない。
また、考慮される電磁波の周波数について、本願発明1は、70GHz〜100GHzの周波数領域全体であるが、引用文献1の実施例1では、それより低い300MHzの周波数という点でも、本願発明1と引用発明は異なっている。
さらに、令和4年7月28日付けで提出された意見書で、令和5年2月7日付けで手続補正される前の本願発明1は、R・Tの数値が必須であるとの主張がなされているところ、そもそも引用発明は、電磁波遮蔽性成形体中のステンレス繊維の含有割合と、前記電磁波遮蔽性成形体の厚みの積を算出するという発想がない。
そうすると、本願発明1の相違点4に係る構成は、引用文献1−3には記載されておらず、本願優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって、上記相違点1−3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2−6について
本願発明2−6も、本願発明1の構成を全て引用する請求項であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 原査定について
理由1(特許法第29条第2項)について
令和4年7月28日付けの手続補正により補正された、本願発明1−6は上記相違点4に係る事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1及び引用文献2に記載される周知技術に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2023-08-07 
出願番号 P2018-194176
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05K)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 山澤 宏
特許庁審判官 篠塚 隆
野崎 大進
発明の名称 電磁波遮蔽吸収性成形体  
代理人 古谷 聡  
代理人 義経 和昌  

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