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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B65G
管理番号 1401567
総通号数 21 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-06-30 
確定日 2023-09-05 
事件の表示 特願2019−125514「搬送ベルト」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 2月13日出願公開、特開2020− 23396、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和1年7月4日(優先権主張 平成30年7月25日)の出願であって、令和4年10月28日付けで拒絶理由通知がされ、同年12月14日に意見書が提出されたが、令和5年4月13日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年6月30日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和5年4月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

理由(進歩性
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1
・引用文献1

・請求項2〜4
・引用文献1及び2

引用文献1:特開2015−067442号公報
引用文献2:特開昭58−045943号公報

第3 本願発明
本願の請求項1〜4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明4」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
透明熱可塑性材料からなる接着剤を含浸した、90%以上の光透過性を有する第1芯体帆布と、
透明熱可塑性材料で形成された中間層と、
透明熱可塑性材料からなる接着剤を含浸した、90%以上の光透過性を有する第2芯体帆布とを積層し、
前記第1芯体帆布、及び、第2芯体帆布は、一方の織り組織が平織りであり、他方の織り組織が綾織り、又は、朱子織りであることを特徴とする搬送ベルト。
【請求項2】
前記平織りの経糸及び緯糸の繊度は、280〜560dtexの範囲であり、
前記綾織りの経糸及び緯糸の繊度、又は、前記朱子織りの経糸及び緯糸の繊度は、56〜560dtexの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の搬送ベルト。
【請求項3】
前記平織りの経糸及び緯糸の繊度と、前記綾織りの経糸及び緯糸の繊度、又は、前記朱子織りの経糸及び緯糸の繊度とは、異なる値であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の搬送ベルト。
【請求項4】
当該搬送ベルトの外周に、透明熱可塑性材料で形成されたカバー層が積層されていることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の搬送ベルト。」

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1の記載事項について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、「第二の実施形態に係る搬送ベルト1」について、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)
(1)「【0026】
芯体帆布3は、経糸と緯糸を交差させて織られた織布(平織り、綾織り、朱子織等)である。例えば、芯体帆布3は、経糸、緯糸をほぼ直角に交差して織られた平織り布が使用できる。芯体帆布3は、光透過率が90%以上になるように、経糸と緯糸の材質、繊度、密度が決定される。芯体帆布3は、例えば、経糸密度63〜125本/5cm、緯糸密度70〜100本/5cmに織られた平織り布を使用することができる。」

(2)「【0035】
以上のように、第一の実施形態に係る搬送ベルト1によれば、90%以上の光透過性を有する芯体帆布3を用いて搬送ベルト1を形成しているため、物品の搬送に必要なベルトの強度や耐久性を確保しつつ、搬送ベルト1の裏面に光源を設置して、搬送物を目視検査する場合に、優れた視認性を得ることができる。また、表面カバー層2および芯体帆布3に含侵させる接着剤(接着層4)を透明熱可塑性材料で構成することにより光透過性の低下を防止することができる。」

(3)「【0038】
第二の実施形態に係る搬送ベルト1は、搬送ベルト1の外周側から内周側へ順に、表面カバー層2と、芯体帆布3と、中間層5と、第2の芯体帆布6とが積層された構造として形成される。ここで、芯体帆布3には、透明熱可塑性エラストマーからなる接着剤が含浸されており、接着層4が形成されている。また、第2の芯体帆布6には、透明熱可塑性エラストマーからなる接着剤が含浸されており、接着層7が形成されている。表面カバー層2と、芯体帆布3と、芯体帆布3の接着層4は、図1に示す第一の実施形態に係る搬送ベルト1の構成と同じであり、説明を省略する。
【0039】
中間層5は、上述した表面カバー層2と同じ材質で形成されて、芯体帆布3と第2の芯体帆布6とを接合する。中間層5の厚さは、例えば0.1から0.5mmである。物品の搬送に必要なベルトの強度や耐久性を確保しつつ、高い透過性を損なわないようにするためである。
【0040】
第2の芯体帆布6は、中間層5を介して、芯体帆布3と接合される。第2の芯体帆布6の構成材料は、芯体帆布3と同様であるが、光透過率が90%以上となるように、経糸と緯糸の材質、繊度、密度が決定される。尚、芯体帆布3と第2の芯体帆布6の繊度・密度・織組織が同等であると光が透過する際に干渉縞が生じるため、芯体帆布3と第2の芯体帆布6の繊度・密度・織組織が異なるように形成されることが好ましい。
【0041】
第2の芯体帆布6は、具体的には、経糸として、繊度56dtex、密度230本/3cm、緯糸として、繊度110dtex、密度135本/3cmのポリエステル繊維で織られた、光透過率が90%の平織り布を用いることができる。尚、芯体帆布3に導電繊維を使用しているため、第2の芯体帆布6には、導電性繊維を織り込まなくてもよい。」

(4)【図3】




2 引用発明
上記1の記載事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「透明熱可塑性材料からなる接着剤を含侵した、90%以上の光透過率を有する芯体帆布3と、
透明熱可塑性材料で構成された中間層5と、
透明熱可塑性エラストマーからなる接着剤を含侵した、90%以上の光透過率を有する第2の芯体帆布6とを積層し、
芯体帆布3は平織りであり、第2の芯体帆布6は平織りである、搬送ベルト1。」

3 引用文献2の記載事項について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
(1)「本発明は,ポリエステルフィルムと一般織物と一般織物に対し格子状の太糸を有する織物とからなる積層体に関する。
本発明の目的は,ポリエステルフィルムを2種類の織物の間にはさんだ構造とすることによりモアレ現象が少なく、機械的性質にすぐれた積層体を提供することにある。織物の積層体をつくる時、それぞれの織物を構成する糸の重なりによる光の干渉によってモアレ現象が生じ、商品品位を著しくそこねることがあることはよく知られている。」(第1ページ左下欄11行〜右下欄2行)

(2)「積層体を構成する織物の地糸デニールの範囲には特に制限はないが、通常30〜100デニールの維度のものを用いることが多い。地糸に対し格子状に入れる繊維のデニールは地糸デニールの2〜5倍の太さを有する太糸を用いる必要があり、太糸の配列間隔は12本/吋〜4本/吋が好ましい。
この太糸を格子状に配列せしめたことにより地糸と地糸の重りによつて発生するモアレ現象が打消される作用効釆が発現するものと考えられる。
又他方の織物は糸デニール30〜250の糸からなる一般織物である。」(第2ページ左上欄7〜19行)

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
後者の「透明熱可塑性材料」及び「透明熱可塑性エラストマー」は、前者の「透明熱可塑性材料」に相当するから、
後者の「透明熱可塑性材料からなる接着剤を含侵した、90%以上の光透過率を有する芯体帆布3」は前者の「透明熱可塑性材料からなる接着剤を含浸した、90%以上の光透過性を有する第1芯体帆布」に相当し、
後者の「透明熱可塑性材料で構成された中間層5」は前者の「透明熱可塑性材料で形成された中間層」に相当し、
後者の「透明熱可塑性エラストマーからなる接着剤を含侵した、90%以上の光透過率を有する第2の芯体帆布6」は前者の「透明熱可塑性材料からなる接着剤を含浸した、90%以上の光透過性を有する第2芯体帆布」に相当する。

後者の「積層」した構成は、前者の「積層」した構成に相当する。

後者の「搬送ベルト1」は、前者の「搬送ベルト」に相当する。

後者の「芯体帆布3は平織りであり、第2の芯体帆布6は平織りである」ことと、前者の「前記第1芯体帆布、及び、第2芯体帆布は、一方の織り組織が平織りであり、他方の織り組織が綾織り、又は、朱子織りである」こととは、「前記第1芯体帆布、及び、第2芯体帆布は、一方の織り組織が平織りである」限りで共通する。

したがって、本願発明1と引用発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違すると認められる。
[一致点]
「透明熱可塑性材料からなる接着剤を含浸した、90%以上の光透過性を有する第1芯体帆布と、
透明熱可塑性材料で形成された中間層と、
透明熱可塑性材料からなる接着剤を含浸した、90%以上の光透過性を有する第2芯体帆布とを積層し、
前記第1芯体帆布、及び、第2芯体帆布は、一方の織り組織が平織りである搬送ベルト。」

[相違点]
本願発明1は「前記第1芯体帆布、及び、第2芯体帆布は、一方の織り組織が平織りであり、他方の織り組織が綾織り、又は、朱子織りである」であるのに対し、引用発明は「芯体帆布3は平織りであり、第2の芯体帆布6は平織りである」点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
引用文献1には、「芯体帆布3と第2の芯体帆布6の繊度・密度・織組織が異なるように形成されることが好ましい」(段落【0040】)との記載があり、芯体帆布3と第2の芯体帆布6の織組織を異ならせることが示唆されている。
そして、引用文献1には「経糸と緯糸を交差させて織られた織布(平織り、綾織り、朱子織等)」(段落【0026】)との記載があり、織組織の具体例として「平織り」、「綾織り」、「朱子織」が例示されている。

しかしながら、引用文献1の段落【0040】に記載されている繊度・密度・織組織が異なるように形成する点に関し、引用文献1の段落【0026】に並列に例示されている「平織り」「綾織り」「朱子織」の中から、織組織を異なるように形成する場合、「綾織り」と「朱子織」の組合せも含まれており、当該組合せを排除して、一方の織り組織を「平織り」に限定しなければならないことは、引用文献1に記載も示唆もされていないし、一方の織り組織を「平織り」に限定する動機付けもない。
また、2層の芯体帆布を有する搬送ベルトにおいて、一方を平織りとし、他方を綾織り、又は、朱子織りとすることが周知技術であったとも認められない。

そして、本願発明1は、上記相違点に係る本願発明1の構成により、「物品の搬送に必要な強度や耐久性を確保しつつ、搬送ベルトの裏面に光源を設置して物品を目視検査する際に、光の干渉縞が生じることを防止して、優れた視認性を有する搬送ベルトを提供する」(段落【0009】参照。)という格別顕著な効果を奏する。

そうであれば、本願発明1は、当業者であっても、引用発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2〜4について
本願発明2〜4は、本願発明1の「前記第1芯体帆布、及び、第2芯体帆布は、一方の織り組織が平織りであり、他方の織り組織が綾織り、又は、朱子織りである」という事項を備えるものである一方、引用文献2にも、平織りと、綾織り又は朱子織りを組み合わせることについての記載ないし示唆はない。
したがって、本願発明1と同様に、本願発明2〜4は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2023-08-21 
出願番号 P2019-125514
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B65G)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 小川 恭司
特許庁審判官 内田 博之
中屋 裕一郎
発明の名称 搬送ベルト  
代理人 弁理士法人ATEN  

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