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審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 F23G 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 F23G 審判 全部申し立て 2項進歩性 F23G 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 F23G 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 F23G |
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管理番号 | 1401631 |
総通号数 | 21 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-09-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-07-07 |
確定日 | 2023-06-26 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6992194号発明「ストーカ式焼却設備及び被焼却物の焼却方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6992194号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−15〕、〔16−19〕について訂正することを認める。 特許第6992194号の請求項1ないし7、9ないし19に係る特許を維持する。 特許第6992194号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許6992194号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜19に係る特許についての出願は、2019年9月20日(優先権主張2018年10月5日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和3年12月10日にその特許権の設定登録がされ、令和4年1月13日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和4年 7月 7日 :特許異議申立人 松永健太郎(以下「申立人」という。)による請求項1〜19に係る特許に対する特許異議の申立て 同年10月12日付け:取消理由通知書 同年12月14日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 令和5年 1月20日 :申立人による意見書の提出 同年 2月24日付け:取消理由通知書(決定の予告) 同年 4月27日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 なお、令和5年4月27日付けで訂正請求がなされたことにより、令和4年12月14日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否についての判断 令和5年4月27日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示すため当審で付したものである。)。 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の 「複数の前記ノズルは、前記混合用ガスが、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部又は火炎の頂部より上の位置に向かうことが可能に、前記燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線に対する周方向に並んで設けられ、前記火炎が前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける、 ストーカ式焼却設備。」を、 「複数の前記ノズルは、前記混合用ガスが、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部に向かうことが可能に、前記燃焼ガス流路枠の前記燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線よりも搬送方向上流側及び搬送方向下流側に並んで設けられ、前記火炎が、操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルからの推定火炎位置までの距離が目標火炎位置までの距離より大きく、前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記流量調節器を調節することにより、前記操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける、 ストーカ式焼却設備。」に訂正する。 (請求項1の記載を引用する、請求項2〜15も同様に訂正する。なお、請求項8は、下記訂正事項2により削除される。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項8を削除する。 (3)訂正事項3 請求項9に「請求項1から8の」とあるのを 「請求項1から7の」と訂正する。 (4)訂正事項4 請求項11に「請求項1から10の」とあるのを 「請求項1から7、9、10の」と訂正する。 (5)訂正事項5 請求項13に「請求項1から12の」とあるのを 「請求項1から7、9から12の」と訂正する。 (6)訂正事項6 請求項14に「請求項1から12の」とあるのを 「請求項1から7、9から12の」と訂正する。 (7)訂正事項7 請求項15に「請求項1から14の」とあるのを 「請求項1から7、9から14の」と訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項16の 「複数の前記ノズルは、前記混合用ガスが、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部又は火炎の頂部より上の位置に向かうことが可能に、前記燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線に対する周方向に並んで設けられ、前記火炎が前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づけ、 前記混合用ガス供給工程は、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流速が20m/s以上で90m/s以下になるよう、前記混合用ガスの流量を調節する流量調節工程を含む、 被焼却物の焼却方法。」を、 「複数の前記ノズルは、前記混合用ガスが、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部に向かうことが可能に、前記燃焼ガス流路枠の前記燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線よりも搬送方向上流側及び搬送方向下流側に並んで設けられ、前記火炎が、操作対象の流量調節器に対応する複数の前記ノズルからの推定火炎位置までの距離が目標火炎位置までの距離より大きく、前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記流量調節器を調節することにより、前記操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づけ、 前記混合用ガス供給工程は、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流速が20m/s以上で90m/s以下になるよう、前記混合用ガスの流量を調節する流量調節工程を含む、 被焼却物の焼却方法。」に訂正する。 (請求項16の記載を引用する、請求項17〜19も同様に訂正する。) 2 訂正の適否について (1)訂正事項1 ア 訂正の目的 訂正事項1の「前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部に向かうことが可能に」との訂正は、訂正前の請求項1に記載された「前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部又は火炎の頂部より上の位置に向かうことが可能に」という択一的記載の要素の一つを削除して限定するものである。 また、訂正事項1の「複数の前記ノズル」について、「前記燃焼ガス流路枠の前記燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線よりも搬送方向上流側及び搬送方向下流側に並んで設けられ」との訂正は、複数のノズルを設ける位置に関して、具体的に限定するものであり、また、「前記火炎が、操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルからの推定火炎位置までの距離が目標火炎位置までの距離より大きく、前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記流量調節器を調節することにより、前記操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける」との訂正は、火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づけることに関して、具体的に限定するものである。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について 訂正事項1に関して、願書に添付した明細書の【0026】には、「複数の二次燃焼用空気ノズル29は、燃焼ガス流路17の水平断面における中心を通り且つ上下方向Dvに延びる流路軸線Apに対する周方向Dcに並んで、燃焼ガス流路枠16に取り付けられている。」と記載され、段落【0059】には、「本実施形態の流量調節器32は、複数の混合用ガスノズル40毎に設けられている流量調節弁33を有する。ここで、複数の混合用ガスノズル40のうち、流路軸線Apよりも搬送方向上流側Dtuに配置されている複数の混合用ガスノズル40を上流側ノズル群とし、流路軸線Apよりも搬送方向下流側Dtdに配置されている複数の混合用ガスノズル40を下流側ノズル群とする。」と記載され、段落【0070】には、「次に、操作対象決定部74が、推定火炎位置のズレ方向及びズレ量に基づいて、角度変更機構60、設置高さ変更機構65、及び複数の流量調節弁33のうち、いずれを操作対象にするかを決定する(S14:操作対象決定工程)。」と記載され、段落【0074】には、「具体的に、操作対象の流量調節弁33に対応する混合用ガスノズル40から推定火炎位置までの距離が、この混合用ガスノズル40から目標火炎位置までの距離より大きい場合、操作対象の流量調節弁33は、その混合用ガスノズル40から噴出する混合用ガスGmの流量を多くする。この制御により、この混合用ガスノズル40から噴出した混合用ガスGmが火炎Fの頂部Ftに至った際の流速を高めることができる。このため、この制御により、この混合用ガスGmによる引き寄せ効果が高まり、この火炎Fの形成領域を第一実施形態よりも最も好ましい領域に近づけることができる。」と記載されている。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書の段落【0026】、【0059】、【0070】、【0074】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「願書に添付した明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものである。 そして、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的 訂正事項2は、請求項8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について 訂正事項2は、請求項8を削除するものであるから、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (3)訂正事項3 ア 訂正の目的 訂正事項3は、請求項9が請求項1〜8を引用する記載であったものを、訂正事項2により請求項8が削除されたことに伴い、請求項8の記載を引用しないものとするためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について 訂正事項3は、請求項8の記載を引用しないものとするためのものであるから、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (4)訂正事項4 ア 訂正の目的 訂正事項4は、請求項11が請求項1〜10を引用する記載であったものを、訂正事項2により請求項8が削除されたことに伴い、請求項8の記載を引用しないものとするためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について 訂正事項4は、請求項8の記載を引用しないものとするためのものであるから、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (5)訂正事項5 ア 訂正の目的 訂正事項5は、請求項13が請求項1〜12を引用する記載であったものを、訂正事項2により請求項8が削除されたことに伴い、請求項8の記載を引用しないものとするためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について 訂正事項5は、請求項8の記載を引用しないものとするためのものであるから、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (6)訂正事項6 ア 訂正の目的 訂正事項6は、請求項14が請求項1〜12を引用する記載であったものを、訂正事項2により請求項8が削除されたことに伴い、請求項8の記載を引用しないものとするためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について 訂正事項6は、請求項8の記載を引用しないものとするためのものであるから、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (7)訂正事項7 ア 訂正の目的 訂正事項7は、請求項15が請求項1〜14を引用する記載であったものを、訂正事項2により請求項8が削除されたことに伴い、請求項8の記載を引用しないものとするためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について 訂正事項7は、請求項8の記載を引用しないものとするためのものであるから、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 よって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (8)訂正事項8 ア 訂正の目的 訂正事項8の「前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部に向かうことが可能に」との訂正は、訂正前の請求項16に記載された「前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部又は火炎の頂部より上の位置に向かうことが可能に」という択一的記載の要素の一つを削除して限定するものである。 また、訂正事項8の「複数の前記ノズル」について、「前記燃焼ガス流路枠の前記燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線よりも搬送方向上流側及び搬送方向下流側に並んで設けられ」との訂正は、複数のノズルを設ける位置に関して、具体的に限定するものであり、また、「前記火炎が、操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルからの推定火炎位置までの距離が目標火炎位置までの距離より大きく、前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記流量調節器を調節することにより、前記操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づけ」るとの訂正は、火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づけることに関して、具体的に限定するものである。 したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について 訂正事項8に関して、願書に添付した明細書の【0026】には、「複数の二次燃焼用空気ノズル29は、燃焼ガス流路17の水平断面における中心を通り且つ上下方向Dvに延びる流路軸線Apに対する周方向Dcに並んで、燃焼ガス流路枠16に取り付けられている。」と記載され、段落【0059】には、「本実施形態の流量調節器32は、複数の混合用ガスノズル40毎に設けられている流量調節弁33を有する。ここで、複数の混合用ガスノズル40のうち、流路軸線Apよりも搬送方向上流側Dtuに配置されている複数の混合用ガスノズル40を上流側ノズル群とし、流路軸線Apよりも搬送方向下流側Dtdに配置されている複数の混合用ガスノズル40を下流側ノズル群とする。」と記載され、段落【0070】には、「次に、操作対象決定部74が、推定火炎位置のズレ方向及びズレ量に基づいて、角度変更機構60、設置高さ変更機構65、及び複数の流量調節弁33のうち、いずれを操作対象にするかを決定する(S14:操作対象決定工程)。」と記載され、段落【0074】には、「具体的に、操作対象の流量調節弁33に対応する混合用ガスノズル40から推定火炎位置までの距離が、この混合用ガスノズル40から目標火炎位置までの距離より大きい場合、操作対象の流量調節弁33は、その混合用ガスノズル40から噴出する混合用ガスGmの流量を多くする。この制御により、この混合用ガスノズル40から噴出した混合用ガスGmが火炎Fの頂部Ftに至った際の流速を高めることができる。このため、この制御により、この混合用ガスGmによる引き寄せ効果が高まり、この火炎Fの形成領域を第一実施形態よりも最も好ましい領域に近づけることができる。」と記載されている。 したがって、訂正事項8は、願書に添付した明細書の段落【0026】、【0059】、【0070】、【0074】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 そして、訂正事項8は、特許請求の範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 よって、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (4)一群の請求項についての説明 訂正前の請求項1〜15について、請求項2〜15は、直接的又は間接的に請求項1を引用しているのであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1〜15に対応する訂正後の請求項1〜15は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 また、訂正前の請求項16〜19について、請求項17〜19は、それぞれ請求項16を引用しているのであって、訂正事項8によって記載が訂正される請求項16に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項16〜19に対応する訂正後の請求項16〜19は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 小活 したがって、本件訂正の訂正事項1〜8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するから、訂正後の請求項〔1〜15〕、〔16〜19〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正により訂正された請求項1〜19に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明19」ということがある。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 水平方向成分を有する方向に被焼却物を搬送するストーカと、 前記ストーカを覆い、前記ストーカ上の被焼却物が燃焼する火炉と、 前記被焼却物の燃焼で発生する燃焼ガスを上方に導く燃焼ガス流路が形成され、前記ストーカの一部の上方に位置するよう前記火炉に接続されている燃焼ガス流路枠と、 前記ストーカ上の前記被焼却物に燃焼用空気を供給する燃焼用空気供給部と、 前記燃焼用空気の一部と前記燃焼ガスの一部とのうち、少なくとも一のガスを混合用ガスとして前記火炉内又は前記燃焼ガス流路中に送る混合用ガス供給部と、を備え、 前記混合用ガス供給部は、前記混合用ガスを前記火炉内又は前記燃焼ガス流路中に噴出する複数のノズルと、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を調節する流量調節器と、を有し、 前記ノズルにおける前記混合用ガスを噴出する噴出口の開口面積は、7850mm2以上で49060mm2以下であり、 前記流量調節器は、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流速が20m/s以上で90m/s以下になるよう、前記混合用ガスの流量を調節し、 複数の前記ノズルは、前記混合用ガスが、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部に向かうことが可能に、前記燃焼ガス流路枠の前記燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線よりも搬送方向上流側及び搬送方向下流側に並んで設けられ、前記火炎が、操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルからの推定火炎位置までの距離が目標火炎位置までの距離より大きく、前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記流量調節器を調節することにより、前記操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける、 ストーカ式焼却設備。 【請求項2】 請求項1に記載のストーカ式焼却設備において、 複数の前記ノズルは、水平方向成分を有する方向に並んでおり、 前記水平方向成分を有する前記方向で隣り合っている二つの前記ノズルは、上下方向の位置が異なる、 ストーカ式焼却設備。 【請求項3】 請求項1又は2に記載のストーカ式焼却設備において、 前記混合用ガス供給部は、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の形成領域を把握するための火炎形成領域情報を取得する情報取得部を有し、 前記流量調節器は、前記情報取得部が取得した前記火炎形成領域情報に基づいて、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を調節する、 ストーカ式焼却設備。 【請求項4】 請求項1から3のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記ノズルからの前記混合用ガスの主噴出方向が、下方向成分と前記燃焼ガス流路の水平断面における中心を通り且つ上下方向に延びる流路軸線に近づく水平方向成分とを有する方向、叉は前記流路軸線に近づく水平方向になるよう、前記ノズルが設けられている、 ストーカ式焼却設備。 【請求項5】 請求項4に記載のストーカ式焼却設備において、 前記主噴出方向は、水平方向に対して0°以上で且つ60°以下の角度の方向である、 ストーカ式焼却設備。 【請求項6】 請求項1から5のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記ノズルは、前記燃焼ガス流路枠に設けられている、 ストーカ式焼却設備。 【請求項7】 請求項1から6のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記燃焼ガス流路を流れてきた前記燃焼ガスを処理する燃焼ガス処理部を備え、 前記混合用ガスに含まれ得る前記燃焼ガスには、前記燃焼ガス処理部で処理された前記燃焼ガスである排気ガスが含まれる、 ストーカ式焼却設備。 【請求項8】 (削 除) 【請求項9】 請求項1から7のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記混合用ガス供給部は、前記ノズルからの前記混合用ガスの主噴出方向を変える角度変更機構を有する、 ストーカ式焼却設備。 【請求項10】 請求項9に記載のストーカ式焼却設備において、 前記混合用ガス供給部は、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の形成領域を把握するための火炎形成領域情報を取得する情報取得部を有し、 前記角度変更機構は、前記情報取得部が取得した前記火炎形成領域情報に基づいて、前記ノズルの前記主噴出方向を変える、 ストーカ式焼却設備。 【請求項11】 請求項1から7、9、10のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記混合用ガス供給部は、前記ノズルの上下方向における位置を変える設置高さ変更機構を有する、 ストーカ式焼却設備。 【請求項12】 請求項11に記載のストーカ式焼却設備において、 前記混合用ガス供給部は、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の形成領域を把握するための火炎形成領域情報を取得する情報取得部を有し、 前記設置高さ変更機構は、前記情報取得部が取得した前記火炎形成領域情報に基づいて、前記ノズルの上下方向における位置を変える、 ストーカ式焼却設備。 【請求項13】 請求項1から7、9から12のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記ノズルには、前記混合用ガスが流れる第一ガス流路及び第二ガス流路が形成され、 前記第一ガス流路は、前記ノズルのノズル軸線を中心として、前記ノズル軸線に沿ったノズル軸線方向に延び、前記ノズル軸線方向の端が前記混合用ガスを噴出する第一噴出口を成し、 前記第二ガス流路は、前記ノズル軸線に対して鋭角を成し且つ水平方向成分を有する軸線傾斜方向に延び、前記軸線傾斜方向の端が前記混合用ガスを噴出する第二噴出口を成し、 前記第二噴出口は、前記第一噴出口に対して水平方向に離間した位置に形成されている、 ストーカ式焼却設備。 【請求項14】 請求項1から7、9から12のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記ノズルの前記混合用ガスを噴出する噴出口は、水平方向の開口幅より上下方向の開口幅の方が広い、 ストーカ式焼却設備。 【請求項15】 請求項1から7、9から14のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記混合用ガス供給部が前記混合用ガスを噴出する位置よりも高い位置から、前記燃焼ガス流路中に二次燃焼用空気を供給する二次燃焼用空気供給部を備える、 ストーカ式焼却設備。 【請求項16】 水平方向成分を有する方向に被焼却物を搬送するストーカと、 前記ストーカを覆い、前記ストーカ上の被焼却物が燃焼する火炉と、 前記被焼却物の燃焼で発生する燃焼ガスを上方に導く燃焼ガス流路が形成され、前記ストーカの一部の上方に位置するよう前記火炉に接続されている燃焼ガス流路枠と、 前記ストーカ上の前記被焼却物に燃焼用空気を供給する燃焼用空気供給部と、 を備えるストーカ式焼却設備における被焼却物の焼却方法において、 前記燃焼用空気の一部と前記燃焼ガスの一部とのうち、少なくとも一のガスを混合用ガスとして複数のノズルから前記火炉内又は前記燃焼ガス流路中に送る混合用ガス供給工程を実行し、 複数の前記ノズルにおける前記混合用ガスを噴出する噴出口の開口面積は、7850mm2以上で49060mm2以下であり、 複数の前記ノズルは、前記混合用ガスが、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部に向かうことが可能に、前記燃焼ガス流路枠の前記燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線よりも搬送方向上流側及び搬送方向下流側に並んで設けられ、前記火炎が、操作対象の流量調節器に対応する複数の前記ノズルからの推定火炎位置までの距離が目標火炎位置までの距離より大きく、前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記流量調節器を調節することにより、前記操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づけ、 前記混合用ガス供給工程は、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流速が20m/s以上で90m/s以下になるよう、前記混合用ガスの流量を調節する流量調節工程を含む、 被焼却物の焼却方法。 【請求項17】 請求項16に記載の被焼却物の焼却方法において、 前記混合用ガス供給工程は、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の形成領域を把握するための火炎形成領域情報を取得する情報取得工程を含み、 前記流量調節工程では、前記火炎形成領域情報に基づいて、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を調節する、 被焼却物の焼却方法。 【請求項18】 請求項16に記載の被焼却物の焼却方法において、 前記混合用ガス供給工程は、 前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の形成領域を把握するための火炎形成領域情報を取得する情報取得工程と、 前記火炎形成領域情報に基づいて、前記混合用ガスの主噴出方向を変える角度変更工程と、 を含む、 被焼却物の焼却方法。 【請求項19】 請求項16に記載の被焼却物の焼却方法において、 前記混合用ガス供給工程は、 前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の形成領域を把握するための火炎形成領域情報を取得する情報取得工程と、 前記火炎形成領域情報に基づいて、前記混合用ガスを噴出する上下方向の位置を変える位置変更工程と、 を含む、 被焼却物の焼却方法。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 令和5年2月24日付けの取消理由通知書(決定の予告)の概要 (1)特許法第36条第6項第2号(明確性)について ア 請求項1について 請求項1の「推定火炎位置のズレ方向に基づいて」とは、それ以降のどの発明特定事項にかかるのか不明であり、結局のところ、推定火炎位置のズレ方向に基づいて、何を行っているのかが不明である。 よって、請求項1に係る発明は、明確でなく、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2〜7、9〜15に係る発明も同様に明確でない。 イ 請求項16について 請求項16は、請求項1と同様の記載を含むものであるから、同様に明確でなく、請求項16を引用する請求項17〜19に係る発明も同様に明確でない。 (2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について ア 請求項1について 請求項1の「推定火炎位置のズレ方向に基づいて」について、発明の詳細な説明の【0070】には、推定火炎位置のズレ方向及びズレ量に基づいて、角度変更機構60、設置高さ変更機構65、及び複数の流量調節弁33のうち、いずれを操作対象にするかを決定することが記載されている。また、【0074】には、操作対象の流量調節弁33に対応する混合用ガスノズル40から推定火炎位置までの距離が、この混合用ガスノズル40から目標火炎位置までの距離より大きい場合、操作対象の流量調節弁33は、その混合用ガスノズル40から噴出する混合用ガスGmの流量を多くすることが記載されている。 すなわち、発明の詳細な説明には、混合用ガスノズル40と目標火炎位置までの距離と、混合用ガスノズル40と推定火炎位置までの距離との違い、すなわち、推定火炎位置のズレ量に基づいて流量調節器を調整することが記載されているものの、推定火炎位置のズレ方向に基づいて流量調節器を調整することは記載されていない。 よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2〜7、9〜15に係る発明も同様に発明の詳細な説明に記載したものでない。 イ 請求項16について 請求項16は、請求項1と同様の記載を含むものであるから、同様に発明の詳細な説明に記載したものでなく、請求項16を引用する請求項17〜19に係る発明も同様に発明の詳細な説明に記載したものでない。 2 令和4年10月12日付けの取消理由通知書の概要 (1)(明確性)本件特許の請求項1〜19に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ア 請求項1について 請求項1の「前記火炎が前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける」との記載は、何が形成領域を近づけているのか不明である。 そして、火炎は、物が燃えるときの光や熱を出している部分であるから、一般的な物体のように目標位置に移動させることが容易でないことは技術常識であるから、このような技術常識を考慮すれば、上記の記載は「火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける」ための技術的手段が十分に特定されていないことは明らかである。 よって、請求項1に係る発明は明確でなく、請求項1に係る発明を引用する請求項2〜15に係る発明も明確でない。 イ 請求項8について 請求項8の「前記ノズルは、前記ストーカの上面から1500mm以上で4000mm以下の位置に設置されている」との記載において、「ストーカの上面」とはどこを指すのか特定することができない。 すなわち、水平方向成分を有する方向に被焼却物を搬送するストーカの形状は多種多様であることは当業者においてよく知られており、ストーカが水平方向に平坦ではない形態においては、「ストーカの上面」の高さ位置が連続的に変化することとなるから、その位置を特定することができない。そのため、「ストーカの上面」を基準として特定されるノズルの設置位置も特定できない。 よって、請求項8に係る発明は明確でなく、請求項8に係る発明を引用する請求項9〜15に係る発明も明確でない。 ウ 請求項16について 請求項16に係る発明は、上記アで指摘した請求項1に係る発明と同様の発明特定事項を有しているから、同様に明確でない。また、請求項16に係る発明を引用する請求項17〜19に係る発明も明確でない。 (2)(サポート要件)本件特許の請求項1〜19に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、不備があるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ア 請求項1について (ア)「周方向に並んで設けられ」に関して 請求項1の「複数の前記ノズルは、前記混合用ガスが、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部又は火炎の頂部より上の位置に向かうことが可能に、前記燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線に対する周方向に並んで設けられ」との記載において、「流路軸線に対する周方向」とは、特許異議申立書の第21頁に記載された参考図1〜3の形態があり得る。 しかしながら、上記「参考図2の形態」は、ノズルから混合用ガスを供給して火炎が混合用ガスに引き寄せられたとしても、火炎が燃焼ガス流路枠の幅方向(参考図2の上下方向)に移動するのみであり、本件特許の明細書段落【0058】に記載された「混合用ガスGmによる火炎Fの引き寄せ効果により火炎Fの形成領域を最も好ましい領域に近づけることができる」という効果が得られない。 したがって、請求項1に係る発明は、本件特許の明細書段落【0007】に記載の課題である「本開示は、被焼却物の燃焼効率を高めることができる技術を提供すること」を解決することができないものを含むものであり、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 (イ)「火炎の頂部より上の位置に向かう」に関して 請求項1の「複数の前記ノズルは、前記混合用ガスが、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部又は火炎の頂部より上の位置に向かうことが可能に、前記燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線に対する周方向に並んで設けられ」との記載において、「火炎の頂部より上の位置」とは、火炎の頂部よりも上の全ての空間を含むものと解される。 これに対し、本件特許の明細書には、混合用ガスが提供される箇所が、火炎の頂部よりも上のいずれの空間であっても、上記段落【0058】に記載された効果が得られるのかどうかについて、記載も示唆もされていない。 そうすると、請求項1に係る発明は、本件特許の明細書段落【0007】に記載の課題である「本開示は、被焼却物の燃焼効率を高めることができる技術を提供すること」を解決することができないものを含むものであり、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 (ウ)「前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける」に関して 本件特許の明細書の段落【0069】〜【0074】によれば、火炎位置推定部71が、推定火炎位置のズレ方向及びズレ量を求め、操作対象決定部74が、推定火炎位置のズレ方向及びズレ量に基づいて、操作対象(角度変更機構60、設置高さ変更機構65又は流量調節弁33)を決定し、操作量算出部75が、推定火炎位置のズレ方向及びズレ量に基づいて、操作対象の操作量を求めることにより、角度変更機構60を用いて混合用ガスノズル40の角度αを変更したり、設置高さ変更機構65を用いて混合用ガスノズル40の設置高さを変更したり、流量調節弁33を用いて混合用ガスノズル40から噴出される混合用ガスGmの流量を調節したりしており、火炎Fの形成領域を最も好ましい領域に近づけるための判断手段及び制御手段が開示されている。 しかしながら、請求項1に係る発明は、そのような判断手段及び制御手段を一切備えていないのであり、上記の発明特定事項である「前記火炎が前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける」を具体的にどのように実現するのかを特定していない。 そうすると、請求項1に係る発明は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。 よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、請求項1に係る発明を引用する請求項2〜15に係る発明も発明の詳細な説明に記載したものではない。 イ 請求項16について 請求項16に係る発明は、上記ア(ア)〜(ウ)で指摘したものと同様の発明特定事項を含むものであるから、同様に、発明の詳細な説明に記載したものではなく、請求項16を引用する請求項17〜19に係る発明も発明の詳細な説明に記載したものではない。 (3)(実施可能要件)本件特許の請求項1〜19に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 本件特許の明細書によれば、請求項1、16の「前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づけ」ることに関して、次のように説明されている。 「【0014】 混合用ガスノズルから混合用ガスが噴出されると、この混合用ガスの周りの静圧が低下するため、火炎の頂部は、噴出された混合用ガスのそばに引き寄せられる。このため、以上の態様では、最も好ましい領域に火炎が形成されていない場合でも、この火炎の形成領域を最も好ましい領域に近づけることができる。」 「【0057】 混合用ガスノズル40から混合用ガスGmが噴出されると、この混合用ガスGmの周りの静圧が低下するため、火炎Fの頂部Ftは、噴出された混合用ガスGmのそばに引き寄せられる。このため、本実施形態では、最も好ましい領域に火炎Fが形成されていない場合、例えば、搬送方向Dtにおける流路軸線Apが存在する位置よりも搬送方向下流側Dtdに火炎F(図1中、二点鎖線で示す)が形成されている場合でも、この火炎Fの形成領域を最も好ましい領域に近づけることができる。従って、本実施形態では、この観点からも、被焼却物Mの燃焼効率を高めることができる。」 しかしながら、本件特許の明細書には、混合用ガスの噴出によりその周りの静圧が低下して火炎が引き寄せられるという説明の根拠が具体的に記載されておらず、その説明が物理現象として正しいかどうか、疑義がある。 以上のことから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1、16に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 また、請求項2〜15に係る発明は、請求項1に係る発明を引用するものであり、請求項17〜19に係る発明は、請求項16に係る発明を引用するものであるから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1〜19に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 (4)(進歩性)本件特許の請求項1、2、4〜8、14〜16に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1、2、4〜8、14〜16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 甲第1号証:特開平7−233921号公報 甲第2号証:特開2013−181732号公報 甲第3号証:特許4361907号公報 甲第4号証:志垣政信、「絵とき 廃棄物の焼却技術」、第1版第1刷、株式会社オーム社、平成7年1月25日、p.35 甲第5号証:特表2014−513786号公報 甲第6号証:特開平10−288325号公報 甲第7号証:特許6443758号公報 甲第8号証:特開平10−047634号公報 甲第9号証:特許6116545号公報 甲第10号証:特開2007−271226号公報 甲第11号証:特開2001−182922号公報 甲第12号証:株式会社キャットテックラボ、「ベルヌーイの定理の誤解を流体解析で確かめてみる」、[online]、2022年6月17日、[2022年6月17日検索]、インターネット (以下、甲第1号証〜甲第12号証をそれぞれ「甲1」〜「甲12」という。) 3 当審の判断 3−1 令和5年2月24日付けの取消理由通知書(決定の予告)について (1)特許法第36条第6項第2号(明確性)について ア 請求項1について 請求項1の「推定火炎位置のズレ方向に基づいて」は、本件訂正により、請求項1の発明特定事項ではなくなったため、請求項1に係る発明は、全体として明確となった。 よって、請求項1に係る発明は、明確であり、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2〜7、9〜15に係る発明も、同様に明確である。 イ 請求項16について 請求項16は、請求項1と同様の記載を含むものであるから、同様に明確であり、請求項16を引用する請求項17〜19に係る発明も、同様に明確である。 (2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について ア 請求項1について 請求項1の「推定火炎位置のズレ方向に基づいて」は、本件訂正により、請求項1の発明特定事項ではなくなったため、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとなった。 よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2〜7、9〜15に係る発明も同様に発明の詳細な説明に記載したものである。 イ 請求項16について 請求項16は、請求項1と同様の記載を含むものであるから、同様に発明の詳細な説明に記載したものであり、請求項16を引用する請求項17〜19に係る発明も同様に発明の詳細な説明に記載したものである。 3−2 令和4年10月12日付けの取消理由通知書について (1)特許法第36条第6項第2号(明確性)について ア 請求項1について 本件訂正により、請求項1は、「前記火炎が・・・前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記流量調節器を調節することにより、前記操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける」との事項を発明特定事項としたものである。 してみると、「火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づけ」ているのは、「流量調節器を調節することにより、操作対象の複数のノズルから噴出する混合用ガスの流量を多く」するとの技術的手段によってなされるものであることは明らかである。 したがって、請求項1に係る発明は明確であり、請求項1に係る発明を引用する請求項2〜7、9〜15に係る発明も明確である。 イ 請求項8について 本件訂正により、請求項8は削除された。 ウ 請求項16について 請求項16に係る発明は、請求項1に係る発明と同様の発明特定事項を有しているから、同様に明確である。また、請求項16に係る発明を引用する請求項17〜19に係る発明も明確である。 (2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について ア 請求項1について (ア)「周方向に並んで設けられ」に関して 本件訂正により、請求項1は、「複数の前記ノズルは、・・・前記燃焼ガス流路枠の前記燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線よりも搬送方向上流側及び搬送方向下流側に並んで設けられ」との事項を発明特定事項としたものである。 してみると、請求項1に係る発明は、複数のノズルの配置について、「燃焼ガス流路枠の燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線よりも搬送方向上流側及び搬送方向下流側に並んで設けられた」ものと限定されたから、発明の詳細な説明において、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものとなった。 (イ)「火炎の頂部より上の位置に向かう」に関して 本件訂正により、請求項1は、「前記混合用ガスが、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部に向かうことが可能に、」との事項を発明特定事項としたものである。 してみると、訂正前の請求項1の「又は火炎の頂部より上の位置」との発明特定事項は削除されたから、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものとなった。 (ウ)「前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける」に関して 本件訂正により、請求項1は、「前記火炎が・・・前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記流量調節器を調節することにより、前記操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける」との事項を発明特定事項としたものである。 してみると、請求項1に係る発明は、「火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける」ための制御手段は、具体的に「流量調節器を調節することにより、操作対象の複数のノズルから噴出する混合用ガスの流量を多くする」との技術的手段によってなされることが特定されたから、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものとなった。 (エ)小括 よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、請求項1に係る発明を引用する請求項2〜7、9〜15に係る発明も発明の詳細な説明に記載したものである。 イ 請求項16について 請求項16に係る発明は、上記ア(ア)〜(ウ)で指摘したものと同様の発明特定事項を含むものであるから、同様に、発明の詳細な説明に記載したものであり、請求項16を引用する請求項17〜19に係る発明も発明の詳細な説明に記載したものである。 (3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について 請求項1、16に係る発明の「前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づけ」ることに関して、特許権者は、以下の解析図を用いて説明する。 図1、及び2は、請求項1、16に係る発明のストーカ式焼却設備の火炉から燃焼ガス流路枠にかけての解析図である。 図1は、混合用ガス流量の前後配分比の調整による火炎位置の調整を示すものである。 図1をみると、搬送方向上流側と搬送方向下流側の混合用ガス流量の前後配分比が30:70の場合は、火炎位置が下流側に寄っている。 これに対し、搬送方向上流側の混合用ガス流量を増加させて、前後配分比を50:50に調整することにより、火炎を上流側に引き寄せることが出来ている。 また、図2は、混合用ガス流量の前後配分比の調整時の炉内静圧分布を示すものである。 図2をみると、炉内静圧分布は、搬送方向下流側(燃焼ガス流路枠の後壁側)の混合用ガス流量の配分が、70%の時には、搬送方向下流側のノズル廻りの静圧が負圧となっていることを確認できる。 これに対して、搬送方向下流側(燃焼ガス流路枠の後壁側)の混合用ガス流量の配分を70%から50%とすることで、搬送方向下流側のノズル近傍の静圧がプラス側に変化しており、搬送方向下流側(燃焼ガス流路枠の後壁側)への火炎引き寄せ効果が小さくなっていることを確認できる。 以上を踏まえると、本件特許明細書に記載の「ストーカ式焼却設備」は、段落【0014】、及び【0057】に記載されている「混合用ガスノズルから混合用ガスが噴出されると、この混合用ガスの周りの静圧が低下するため、火炎の頂部は、噴出された混合用ガスのそばに引き寄せられる」という作用効果を奏するものであって、物理現象として成立するものといえる。 よって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1、16に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものである。 また、請求項2〜7、9〜15に係る発明は、請求項1に係る発明を引用するものであり、請求項17〜19に係る発明は、請求項16に係る発明を引用するものであるから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1〜7、9〜19に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものである。 (4)特許法第29条第2項(進歩性)について ア 甲1 甲1には以下の事項が記載されている(下線は当審にて付したものである。)。 「【0009】 【実施例】以下に実施例を説明する。都市ゴミ用の焼却炉は、図2に示すように、ホッパ2に投入された被焼却物(都市ゴミ等)をその下部に設けたプッシャ1の往復駆動により主燃焼室3に搬送し、主燃焼室3で焼却された灰を灰ピット4に回収するように構成してある。 【0010】主燃焼室1は、被焼却物を乾燥させ着火点近傍温度まで加熱する乾燥帯Aと、乾燥された被焼却物を燃焼させる燃焼帯Bと、被焼却物を灰化させる後燃焼帯Cを上方から下方に段階的に配置し、それらの下方から一次燃焼用空気を供給する空気供給手段12を備えて構成してある。乾燥帯A、燃焼帯B、後燃焼帯Cは、その配置方向に固定の火格子と可動の火格子とを交互に配置してそれら火格子の前記配置方向への相対移動によりゴミを攪拌搬送するストーカ式の搬送手段5で構成してある。さらに、プッシャ1や搬送手段5の搬送速度、或いは空気供給手段12からの供給量を調整して安定的に燃焼させるコンピュータ等でなる燃焼制御手段(図示せず)を設けてある。 【0011】主燃焼室3の上部であって、燃焼帯Bの上方空間には、一次燃焼後の排ガスを完全燃焼させる二次燃焼室を構成する煙道13、その下流側に廃熱ボイラ9を設けてあり、排ガスは、排ガス中の熱エネルギィが廃熱ボイラ9により蒸気の形で取り出されて発電機10に供された後に、電気集塵機等からなる排ガス処理設備11によりばいじんや有害ガスが除去されて煙突から排気される。 【0012】主燃焼室3の煙道13を挟んだ上部壁面3には、燃焼帯B上の炎の上部先端近傍に向けて二次燃焼用空気を供給する複数のノズルでなる二次燃焼用空気供給機構14A,14Bを設けてあり、煙道13に排ガスが収束され激しい上昇気流となる前に、一酸化炭素が分散された状態で二次燃焼用空気と攪拌混合する。さらに、二次燃焼用空気供給機構14A,14Bによる二次燃焼用空気の供給量を、被焼却物の搬送方向に沿って上流側及び下流側から各別に調整するブロワファンとダンパ、そしてダンパの開度を制御する制御回路でなる空気供給量調整手段15A,15Bを設けてある。 【0013】主燃焼室3の側壁上方には、被焼却物の搬送方向に沿って複数の光センサを取り付けて、それらの検出光量から燃焼帯Bにおける被焼却物の燃えきり点を検出する燃えきり点検出手段16を構成してある。空気供給量調整手段15A,15Bは、燃えきり点検出手段16により検出された燃えきり点が下流側に移行して未燃焼ごみが発生するおそれのあるときには、空気供給量調整手段により上流側からの燃焼用空気量を減少させ、かつ、下流側からの燃焼用空気の供給量を増加させて上流側での被焼却物の燃焼を促進させて燃えきり点を迅速に上流側に移行させ、燃えきり点が上流側に移行して未燃焼ごみが発生するおそれのないものの燃焼帯が有効に利用されていない場合には、空気供給量調整手段により下流側からの燃焼用空気量を減少させ、かつ、上流側からの燃焼用空気の供給量を増加させて燃えきり点を迅速に下流側に移行させる。」 「【図1】 」 そして、上記図1から、主燃焼室3は、搬送手段5を覆うことが把握できる。 以上の事項を総合すると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「火格子の配置方向への相対移動によりゴミを攪拌搬送するストーカ式の搬送手段5と、 前記搬送手段5を覆い、被焼却物を乾燥させ着火点近傍温度まで加熱する乾燥帯Aと、乾燥された被焼却物を燃焼させる燃焼帯Bと、被焼却物を灰化させる後燃焼帯Cを配置した主燃焼室3と、 前記主燃焼室3の上部であって、燃焼帯Bの上方空間に設けられ、一次燃焼後の排ガスを完全燃焼させる二次燃焼室を構成する煙道13と、 乾燥帯A、燃焼帯B、後燃焼帯Cの下方から一次燃焼用空気を供給する空気供給手段12と、 燃焼帯B上の炎の上部先端近傍に向けて二次燃焼用空気を供給する複数のノズルでなる二次燃焼用空気供給機構14A,14Bと、を備え、 二次燃焼用空気供給機構14A,14Bによる二次燃焼用空気の供給量を、調整する空気供給量調整手段15A,15Bを有し、 空気供給量調整手段15A,15Bは、燃えきり点検出手段16により検出された燃えきり点が下流側に移行して未燃焼ごみが発生するおそれのあるときには、空気供給量調整手段により上流側からの燃焼用空気量を減少させ、かつ、下流側からの燃焼用空気の供給量を増加させて上流側での被焼却物の燃焼を促進させて燃えきり点を迅速に上流側に移行させる、 都市ゴミ用の焼却炉。」 イ 対比・判断 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「ストーカ式の搬送手段5」が水平方向成分を有する方向に被焼却物を搬送することは、自明な事項であるから、甲1発明の「火格子の配置方向への相対移動によりゴミを攪拌搬送するストーカ式の搬送手段5」は、本件発明1の「水平方向成分を有する方向に被焼却物を搬送するストーカ」に相当する。 甲1発明の「乾燥帯A」、「燃焼帯B」及び「後燃焼帯C」は、搬送手段5上の被焼却物を燃焼することは、明らかであるから、甲1発明の「前記搬送手段5を覆い、被焼却物を乾燥させ着火点近傍温度まで加熱する乾燥帯Aと、乾燥された被焼却物を燃焼させる燃焼帯Bと、被焼却物を灰化させる後燃焼帯Cを配置した主燃焼室3」は、本件発明1の「前記ストーカを覆い、前記ストーカ上の被焼却物が燃焼する火炉」に相当する。 甲1発明の「煙道13」に被焼却物の燃焼で発生する燃焼ガスを上方に導く燃焼ガス流路が形成されることは、明らかであるから、甲1発明の「前記主燃焼室3の上部であって、燃焼帯Bの上方空間に設けられ、一次燃焼後の排ガスを完全燃焼させる二次燃焼室を構成する煙道13」は、本件発明1の「前記被焼却物の燃焼で発生する燃焼ガスを上方に導く燃焼ガス流路が形成され、前記ストーカの一部の上方に位置するよう前記火炉に接続されている燃焼ガス流路枠」に相当する。 甲1発明の「乾燥帯A、燃焼帯B、後燃焼帯Cの下方から一次燃焼用空気を供給する空気供給手段12」は、本件発明1の「前記ストーカ上の前記被焼却物に燃焼用空気を供給する燃焼用空気供給部」に相当する。 甲1発明の「二次燃焼用空気」は、本件発明1の「燃焼用空気」に相当する。そして、甲1発明において、燃焼帯B上の炎の上部先端近傍に向けて供給される二次燃焼用空気は、混合用ガスとしても機能するものであるから、甲1発明の「燃焼帯B上の炎の上部先端近傍に向けて二次燃焼用空気を供給する複数のノズルでなる二次燃焼用空気供給機構14A,14B」と、本件発明1の「前記燃焼用空気の一部と前記燃焼ガスの一部とのうち、少なくとも一のガスを混合用ガスとして前記火炉内又は前記燃焼ガス流路中に送る混合用ガス供給部」とは「前記燃焼用空気を混合用ガスとして前記火炉内に送る混合用ガス供給部」という限りにおいて、一致する。 甲1発明の「二次燃焼用空気供給機構14A,14B」は、上記のとおり、二次燃焼用空気を供給する複数のノズルで構成されるから、甲1発明の「二次燃焼用空気供給機構14A,14Bによる二次燃焼用空気の供給量を、調整する空気供給量調整手段15A,15B」は、本件発明1の「前記混合用ガス供給部は、前記混合用ガスを前記火炉内又は前記燃焼ガス流路中に噴出する複数のノズルと、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を調節する流量調節器」に相当する。 甲1発明の「ストーカ式の搬送手段5」を備えた「都市ゴミ用の焼却炉」は、本件発明1の「ストーカ式焼却設備」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「 水平方向成分を有する方向に被焼却物を搬送するストーカと、 前記ストーカを覆い、前記ストーカ上の被焼却物が燃焼する火炉と、 前記被焼却物の燃焼で発生する燃焼ガスを上方に導く燃焼ガス流路が形成され、前記ストーカの一部の上方に位置するよう前記火炉に接続されている燃焼ガス流路枠と、 前記ストーカ上の前記被焼却物に燃焼用空気を供給する燃焼用空気供給部と、 前記燃焼用空気を混合用ガスとして前記火炉内に送る混合用ガス供給部と、を備え、 前記混合用ガス供給部は、前記混合用ガスを前記火炉内又は前記燃焼ガス流路中に噴出する複数のノズルと、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を調節する流量調節器と、を有する、ストーカ式焼却設備。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 「前記燃焼用空気を混合用ガスとして前記火炉内に送る混合用ガス供給部混合用ガス」に関して、本件発明1では、「前記燃焼用空気の一部と前記燃焼ガスの一部とのうち、少なくとも一のガスを混合用ガスとして前記火炉内又は前記燃焼ガス流路中に送る混合用ガス供給部」であるのに対し、甲1発明では、「二次燃焼用空気供給機構14A,14Bによる二次燃焼用空気の供給量を、調整する空気供給量調整手段15A,15B」である点。 [相違点2] 本件発明1は、「前記ノズルにおける前記混合用ガスを噴出する噴出口の開口面積は、7850mm2以上で49060mm2以下」であるのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。 [相違点3] 本件発明1は、「前記流量調節器は、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流速が20m/s以上で90m/s以下になるよう、前記混合用ガスの流量を調節」するのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。 [相違点4] 本件発明1は、「複数の前記ノズルは、前記混合用ガスが、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部に向かうことが可能に、前記燃焼ガス流路枠の前記燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線よりも搬送方向上流側及び搬送方向下流側に並んで設けられ」るのに対して、甲1発明は、「複数のノズル」は、「燃焼帯B上の炎の上部先端近傍に向けて二次燃焼用空気を供給する」ものの、流路軸線に対してどのように設けられるか不明である点。 [相違点5] 本件発明1は、「前記火炎が、操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルからの推定火炎位置までの距離が目標火炎位置までの距離より大きく、前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記流量調節器を調節することにより、前記操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける」のに対し、甲1発明は、「燃えきり点検出手段16により検出された燃えきり点が下流側に移行して未燃焼ごみが発生するおそれのあるときには、空気供給量調整手段により上流側からの燃焼用空気量を減少させ、かつ、下流側からの燃焼用空気の供給量を増加させて上流側での被焼却物の燃焼を促進させて燃えきり点を迅速に上流側に移行させる」点。 上記相違点について検討する。 事案に鑑み、まず、上記相違点5について検討する。 本件発明1は、「前記火炎が、操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルからの推定火炎位置までの距離が目標火炎位置までの距離より大きく、前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合」には、「操作対象の前記流量調節器に対応する複数のノズルから噴出する混合用ガスの流量を多くして」「前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける」ものである。この場合に、「操作対象の前記流量調節器に対応する複数のノズル」とは、火炎が搬送方向下流側に形成されたときに、推定火炎位置までの距離が目標火炎位置までの距離より大きくなるノズルである搬送方向上流側のノズルであると解されるから、「操作対象の前記流量調節器に対応する複数のノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして」とは、具体的には「搬送方向上流側の混合用ガス流量を多くする」ことである。 一方、甲1発明は、「燃えきり点検出手段16により検出された燃えきり点が下流側に移行して未燃焼ごみが発生するおそれのあるときには、空気供給量調整手段により上流側からの燃焼用空気量を減少させ、かつ、下流側からの燃焼用空気の供給量を増加させて上流側での被焼却物の燃焼を促進させて燃えきり点を迅速に上流側に移行させる」もの、つまり、「火炎が、流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合」には、「搬送方向上流側の混合用ガス流量を減少させ、搬送方向下流側の混合用ガス流量を増加させ」るものである。 してみると、火炎が、流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合に火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づけるために、本件発明1は、搬送方向上流側の混合用ガス流量を多くする」ものであるのに対し、甲1発明は、「搬送方向上流側の混合用ガス流量を減少させる」ものであるから、両者は、搬送方向上流側の混合用ガス流量の制御について、相反する制御を行っているものである。 したがって、上記相違点5に係る本件発明1の構成は、甲1発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。 また、甲5〜8や甲2〜4に記載された周知技術にも、上記相違点5に係る本件発明1の構成に関する記載や示唆はない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲5〜8に記載された事項及び甲2〜4に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲9〜12に記載された事項を考慮しても当業者が容易に発明をすることができたものではない。 さらに、本件発明2、4〜7、14、及び15は、本件発明1の発明特定事項に更なる発明特定事項を追加して限定を付加したものであり、本件発明16は、物の発明であるか方法の発明であるかの違いがあるものの、本件発明1と同等の構成を有するものであるから、同様の理由により、本件発明2、4〜7、14〜16は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1、2、4〜7、14〜16は、甲1発明及び甲2〜12に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4 申立人の主張について 申立人は、令和5年1月20日付け意見書において次のとおり主張する。 (1)特許法第36条第6項第2号(明確性)について ア 「複数のノズル」について 申立人は、訂正後の請求項1において、「操作対象の前記流最調節器に対応する複数の前記ノズル」及び「前記操作対象の複数の前記ノズル」との特定がなされている。このうち「操作対象の」とは、何らかの判断過程を経て、複数のノズルのうちいずれかのノズルを操作の対象とする趣旨のように推察されるが、複数のノズルのうちどのノズルを操作の対象としているのかが示されていないため、「操作対象の」複数のノズルがどのノズルを指しているのか明確でないと主張する(意見書第3ページ第7〜13行)。 しかしながら、上記3イで検討したとおり、「操作対象の複数のノズル」とは、火炎が搬送方向下流側に形成されたときに、推定火炎位置までの距離が目標火炎位置までの距離より大きくなるノズルである搬送方向上流側のノズルであると解されるから、どのノズルを指しているかは、明確である。 イ 「操作対象の複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして」について 申立人は、訂正後の請求項1には、混合用ガスの流量を、何に対して、どの程度「多く」するのかが全く特定されていない。そのため、「多く」の基準もその程度も把握できないことが明白であると主張する(意見書第4ページ第3〜5行)。 しかしながら、訂正後の請求項1には、「前記流量調節器を調節することにより、前記操作対象の複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける」と特定されているから、混合用ガスの流量は、流量調節器を調節する前に比べて多くすることは明らかであり、また、どの程度「多く」するかについては、「前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける」ことができる程度であると理解できる。 ウ 「推定火炎位置」について 申立人は、訂正後の請求項1の「推定火炎位置」は、それ以上の何らの特定もされておらず、本件特許の技術分野における一般的な用語であるともいえないことから、火炎のどのような位置を特定しようとしているのかが、明らかでないと主張する(意見書第4ページ第14〜17行)。 しかしながら、「推定火炎位置」について、本件特許の明細書を参酌すると、例えば、段落【0069】に「ズレ量算出部73は、目標火炎位置を基準にして、火炎位置推定部71が推定した推定火炎位置のズレ方向、及びこの推定火炎位置のズレ量を求める(S13:ズレ量算出工程)。」と記載されているから、推定火炎位置は、火炎位置推定部71が推定した火炎位置と解される。そして、当該「推定火炎位置」の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 エ 訂正後の請求項9−15について 申立人は、令和4年12月14日付けの訂正請求書による訂正で、訂正前の請求項8が削除されている。一方で、訂正後の請求項9−15は、依然として、請求項8を直接的に又は間接的に引用している。すなわち、訂正後の請求項9−15は、存在していない請求項8の従属請求項となっているため、明確でないと主張する(意見書第4ページ第22行〜第5ページ第3行)。 しかしながら、本件訂正により請求項9−15は、請求項8を引用しないものとなった。 オ 訂正後の請求項16について 申立人は、訂正前の請求項16は、令和4年12月14日付けの訂正請求書により、訂正前の請求項1と同様の訂正がなされている。そのため、訂正前の請求項1と同じ理由により、訂正後の請求項16の記載及び訂正後の請求項16を引用する訂正後の請求項17〜19の記載は、明確でないと主張する(第5ページ第4〜9行)。 しかしながら、上記ア〜ウにおける検討と同様の理由により、請求項16に係る発明は、明確である。 (2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について ア 「操作対象の複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして」について 申立人は、補正後の請求項1では、流量調節器について、「前記流量調節器は、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流速が20m/s以上で90m/s以下になるよう、前記混合用ガスの流量を調節し」と規定されているため、流量調節器は複数のノズルに流れる混合用ガスを一括して調節することが明らかである。すなわち、訂正によって追加された「操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズル」のうち「複数の前記ノズル」とは、複数のノズルのうち全てを意味するものと解することができる。ところが、特許権者は、令和4年12月14日付けの意見書において、「『操作対象の複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして』とは、具体的には『搬送方向上流側の混合用ガス流量を多くする』ことである」と主張している。当該主張は、上記の解釈に明らかに矛盾するものであり、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であることが明白である。換言すれば、訂正後の請求項1は、「搬送方向上流側の混合用ガス流量を多くする」を超えた形態、すなわち、本件特許の明細書に記載された課題を解決することができない形態を含んでいるといえるのであり、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであると主張する(意見書第5ページ第13行〜第6ページ第9行)。 しかしながら、上記3イで検討したとおり、「操作対象の複数のノズル」とは、火炎が搬送方向下流側に形成されたときに、推定火炎位置までの距離が目標火炎位置までの距離より大きくなるノズルである搬送方向上流側のノズルであると解されるものである。また、請求項1の「前記流量調節器は、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流速が20m/s以上で90m/s以下になるよう、前記混合用ガスの流量を調節し」との記載は、操作対象、或いは操作対象でない「複数のノズル」の流速をその範囲内の流速に調節すると理解できるものである。そして、流量調節器については、本件特許の明細書の段落【0059】に、「本実施形態の流量調節器32は、複数の混合用ガスノズル40毎に設けられている流量調節弁33を有する。」と記載されており、ノズル毎に調節することも可能であるから、一括して調節することが明らかとまではいえない。 そうすると、補正後の請求項1の記載は、矛盾するものではなく、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。 イ 「推定火炎位置」について 申立人は、(特許権者の主張する)作業者の目視によって推定される火炎の位置が推定火炎位置であるとは、本件明細書の発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない。同発明の詳細な説明には、推定火炎位置を取得するための手段として上記第二実施形態の判断手段しか記載されておらず、技術常識を参酌しても、上記判断手段以外の推定火炎位置を取得するための手段を認識することはできない。そうすると、訂正後の請求項1は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求していることが明らかであると主張する(第7ページ第10〜19行)。 しかしながら、特許権者がいかなる主張をしたとしても、上記(1)ウで検討したとおり、訂正後の請求項1に記載された「推定火炎位置」について、本件特許の明細書には、火炎位置推定部71が推定した火炎位置であることが記載されているから、訂正後の請求項1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものではない。 ウ 訂正後の請求項16について 申立人は、訂正前の請求項16は、令和4年12月14日付けの訂正請求書により、訂正前の請求項1と同様の訂正がなされている。そのため、訂正前の請求項1と同じ理由により、訂正後の請求項16の記載及び訂正後の請求項16を引用する訂正後の請求項17〜19の記載は、発明の詳細な説明に記載したものではないと主張する(第8ページ第21〜26行)。 しかしながら、上記ア、イにおける検討と同様の理由により、請求項16に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について 申立人は、特許権者が、令和4年12月14日付けの意見書において、各種解析図を用いて、混合用ガスの流量を増加させると静圧が負圧となり、火炎の引き寄せ効果が生じていると主張していること対して、当該主張が物理現象として正しいとは、必ずしもいえないとし、次のとおり主張している。 まず、ノズルから吹き出される混合用ガスの流速は、訂正後の請求項1によれば20m/s以上で90m/s以下であり、一般的にいえばかなりの高速である。このような高速で混合用ガスがノズルから吹き出される場合、混合用ガスの動圧は数百Pa〜 数千Pa程度の大きさとなるのである。すなわち、静圧が負圧となることでノズルの噴出口付近に火炎が引き寄せられる影響は、混合用ガスによって火炎が吹き飛ばされる影響と比較すると微々たるものであることが理解できる(第9ページ第15行〜第10ページ第4行)。 また、特許権者は、混合用ガス流量の前後配分比の調節と火炎の引き寄せとの間にあたかも因果関係があるかのように主張しているが、そのような因果関係があるとは、直ちにはいえない。すなわち、火格子上の火炎形状がどのようになるかは、火炉の形状、混合用ガスの噴流形状、混合用ガスの動圧、混合用ガスの流速、火炉内の温度などの多数の要因の影響を受ける複雑なものであり、混合用ガス流量の前後配分比あるいは静圧分布のみで説明をすることはできないのである(第10ページ第18行〜第11ページ第6行)。 しかしながら、上記3(3)で検討したとおり、図1をみると搬送方向上流側と搬送方向下流側の混合用ガス流量の前後配分比が30:70の場合(流速は、搬送方向上流側が21.4m/s、搬送方向下流側は49.8m/s)は、火炎位置が下流側に寄っており、図2をみると、炉内静圧分布は、混合用ガス流量の配分が、70%の時には、搬送方向下流側のノズル廻りの静圧が負圧となっていることが確認できるから、混合用ガスの流速が高速であっても実際に負圧が発生し、火炎の引き寄せが生じているといえる。 また、火炎の引き寄せについては、他の要因もあることは否定できないものの、一般的には、負圧が発生すれば対象物を引き寄せることは技術常識であるから、混合用ガス流量の前後配分比の調節による負圧の発生と火炎の引き寄せとの間には一定の因果関係があると認められる。 (4)訂正要件違反について 申立人は、令和4年12月14日付けの訂正請求書により、請求項1及び請求項16に追加された「推定火炎位置のズレ方向に基づいて」との限定事項について、新たな技術的事項を導入するものに他ならず、当該訂正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものとはいえないと主張する。 しかしながら、本件訂正により、もはや「推定火炎位置のズレ方向に基づいて」との限定事項は、請求項1及び請求項16の発明特定事項ではなくなったため、本件訂正は、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (5)小括 上記のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許法第36条第6項第2号(明確性)について 申立人は、請求項1の「火炎の頂部」に関して、常に上下前後左右に相当程度の変動幅で変動し且つ多数存在しうる火炎の「頂部」というのが具体的にどの位置であるのかを特定することは、不可能であり、当該頂部を基準として規定されている複数のノズルの向きも特定することもできないから、本件特許発明1は、明確ではない旨主張する(特許異議申立書第11ページ第17行〜第13ページ第21行)。 しかしながら、「火炎の頂部」とした記載は、文言上は明確であり、火炎の頂部が変動し得る状況が発生することをもってしても、直ちに不明確であるとまではいえない。 2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について 申立人は、請求項1の「火炎の頂部」について、常に相当程度の変動幅で時々刻々と変動し且つ多数存在する火炎Fの頂部Ftに混合用ガスGmを供給する前提としての、火炎Fの頂部Ftを把握するための手段が開示されておらず、「複数の前記ノズルは、前記混合用ガスが、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部又は火炎の頂部より上の位置に向かうことが可能に、・・・設けられ」を発明特定事項として有する請求項1に係る発明をどのように実施することができるのか、本件特許の明細書の記載から明らかではないと主張する(特許異議申立書第30ページ第6〜12行)。 しかしながら、本件特許の明細書の段落【0069】には、「制御演算工程(S11)では、まず、制御器70の火炎位置推定部71が、情報取得部50が取得した火炎形成領域情報に基づいて、つまり赤外線カメラ51叉は水分計52からのデータに基づいて、火炉12内の火炎Fの形成領域の位置を推定する(S12:火炎位置推定工程)。」と記載されており、火炎位置推定部71が推定した火炎Fの形成領域により、火炎の頂部も把握することが可能であるといえる。 よって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1〜7、9〜19に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜7、9〜19に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜7、9〜19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、請求項8に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項8に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 水平方向成分を有する方向に被焼却物を搬送するストーカと、 前記ストーカを覆い、前記ストーカ上の被焼却物が燃焼する火炉と、 前記被焼却物の燃焼で発生する燃焼ガスを上方に導く燃焼ガス流路が形成され、前記ストーカの一部の上方に位置するよう前記火炉に接続されている燃焼ガス流路枠と、 前記ストーカ上の前記被焼却物に燃焼用空気を供給する燃焼用空気供給部と、 前記燃焼用空気の一部と前記燃焼ガスの一部とのうち、少なくとも一のガスを混合用ガスとして前記火炉内又は前記燃焼ガス流路中に送る混合用ガス供給部と、を備え、 前記混合用ガス供給部は、前記混合用ガスを前記火炉内又は前記燃焼ガス流路中に噴出する複数のノズルと、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を調節する流量調節器と、を有し、 前記ノズルにおける前記混合用ガスを噴出する噴出口の開口面積は、7850mm2以上で49060mm2以下であり、 前記流量調節器は、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流速が20m/s以上で90m/s以下になるよう、前記混合用ガスの流量を調節し、 複数の前記ノズルは、前記混合用ガスが、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部に向かうことが可能に、前記燃焼ガス流路枠の前記燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線よりも搬送方向上流側及び搬送方向下流側に並んで設けられ、前記火炎が、操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルからの推定火炎位置までの距離が目標火炎位置までの距離より大きく、前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記流量調節器を調節することにより、前記操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づける、 ストーカ式焼却設備。 【請求項2】 請求項1に記載のストーカ式焼却設備において、 複数の前記ノズルは、水平方向成分を有する方向に並んでおり、 前記水平方向成分を有する前記方向で隣り合っている二つの前記ノズルは、上下方向の位置が異なる、 ストーカ式焼却設備。 【請求項3】 請求項1又は2に記載のストーカ式焼却設備において、 前記混合用ガス供給部は、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の形成領域を把握するための火炎形成領域情報を取得する情報取得部を有し、 前記流量調節器は、前記情報取得部が取得した前記火炎形成領域情報に基づいて、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を調節する、 ストーカ式焼却設備。 【請求項4】 請求項1から3のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記ノズルからの前記混合用ガスの主噴出方向が、下方向成分と前記燃焼ガス流路の水平断面における中心を通り且つ上下方向に延びる流路軸線に近づく水平方向成分とを有する方向、叉は前記流路軸線に近づく水平方向になるよう、前記ノズルが設けられている、 ストーカ式焼却設備。 【請求項4】 請求項1から3のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記ノズルからの前記混合用ガスの主噴出方向が、下方向成分と前記燃焼ガス流路の水平断面における中心を通り且つ上下方向に延びる流路軸線に近づく水平方向成分とを有する方向、叉は前記流路軸線に近づく水平方向になるよう、前記ノズルが設けられている、 ストーカ式焼却設備。 【請求項5】 請求項4に記載のストーカ式焼却設備において、 前記主噴出方向は、水平方向に対して0°以上で且つ60°以下の角度の方向である、 ストーカ式焼却設備。 【請求項6】 請求項1から5のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記ノズルは、前記燃焼ガス流路枠に設けられている、 ストーカ式焼却設備。 【請求項7】 請求項1から6のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記燃焼ガス流路を流れてきた前記燃焼ガスを処理する燃焼ガス処理部を備え、 前記混合用ガスに含まれ得る前記燃焼ガスには、前記燃焼ガス処理部で処理された前記燃焼ガスである排気ガスが含まれる、 ストーカ式焼却設備。 【請求項8】 (削 除) 【請求項9】 請求項1から7のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記混合用ガス供給部は、前記ノズルからの前記混合用ガスの主噴出方向を変える角度変更機構を有する、 ストーカ式焼却設備。 【請求項10】 請求項9に記載のストーカ式焼却設備において、 前記混合用ガス供給部は、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の形成領域を把握するための火炎形成領域情報を取得する情報取得部を有し、 前記角度変更機構は、前記情報取得部が取得した前記火炎形成領域情報に基づいて、前記ノズルの前記主噴出方向を変える、 ストーカ式焼却設備。 【請求項11】 請求項1から7、9、10のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記混合用ガス供給部は、前記ノズルの上下方向における位置を変える設置高さ変更機構を有する、 ストーカ式焼却設備。 【請求項12】 請求項11に記載のストーカ式焼却設備において、 前記混合用ガス供給部は、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の形成領域を把握するための火炎形成領域情報を取得する情報取得部を有し、 前記設置高さ変更機構は、前記情報取得部が取得した前記火炎形成領域情報に基づいて、前記ノズルの上下方向における位置を変える、 ストーカ式焼却設備。 【請求項13】 請求項1から7、9から12のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記ノズルには、前記混合用ガスが流れる第一ガス流路及び第二ガス流路が形成され、 前記第一ガス流路は、前記ノズルのノズル軸線を中心として、前記ノズル軸線に沿ったノズル軸線方向に延び、前記ノズル軸線方向の端が前記混合用ガスを噴出する第一噴出口を成し、 前記第二ガス流路は、前記ノズル軸線に対して鋭角を成し且つ水平方向成分を有する軸線傾斜方向に延び、前記軸線傾斜方向の端が前記混合用ガスを噴出する第二噴出口を成し、 前記第二噴出口は、前記第一噴出口に対して水平方向に離間した位置に形成されている、 ストーカ式焼却設備。 【請求項14】 請求項1から7、9から12のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記ノズルの前記混合用ガスを噴出する噴出口は、水平方向の開口幅より上下方向の開口幅の方が広い、 ストーカ式焼却設備。 【請求項15】 請求項1から7、9から14のいずれか一項に記載のストーカ式焼却設備において、 前記混合用ガス供給部が前記混合用ガスを噴出する位置よりも高い位置から、前記燃焼ガス流路中に二次燃焼用空気を供給する二次燃焼用空気供給部を備える、 ストーカ式焼却設備。 【請求項16】 水平方向成分を有する方向に被焼却物を搬送するストーカと、 前記ストーカを覆い、前記ストーカ上の被焼却物が燃焼する火炉と、 前記被焼却物の燃焼で発生する燃焼ガスを上方に導く燃焼ガス流路が形成され、前記ストーカの一部の上方に位置するよう前記火炉に接続されている燃焼ガス流路枠と、 前記ストーカ上の前記被焼却物に燃焼用空気を供給する燃焼用空気供給部と、 を備えるストーカ式焼却設備における被焼却物の焼却方法において、 前記燃焼用空気の一部と前記燃焼ガスの一部とのうち、少なくとも一のガスを混合用ガスとして複数のノズルから前記火炉内又は前記燃焼ガス流路中に送る混合用ガス供給工程を実行し、 複数の前記ノズルにおける前記混合用ガスを噴出する噴出口の開口面積は、7850mm2以上で49060mm2以下であり、 複数の前記ノズルは、前記混合用ガスが、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の頂部に向かうことが可能に、前記燃焼ガス流路枠の前記燃焼ガス流路の水平断面の中心を通り且つ上下方向の延びる流路軸線よりも搬送方向上流側及び搬送方向下流側に並んで設けられ、前記火炎が、操作対象の流量調節器に対応する複数の前記ノズルからの推定火炎位置までの距離が目標火炎位置までの距離より大きく、前記流路軸線が存在する位置よりも搬送方向下流側に形成されている場合には、前記流量調節器を調節することにより、前記操作対象の前記流量調節器に対応する複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を多くして前記火炎の形成領域を前記流路軸線が存在する位置を含む領域に近づけ、 前記混合用ガス供給工程は、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流速が20m/s以上で90m/s以下になるよう、前記混合用ガスの流量を調節する流量調節工程を含む、 被焼却物の焼却方法。 【請求項17】 請求項16に記載の被焼却物の焼却方法において、 前記混合用ガス供給工程は、前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の形成領域を把握するための火炎形成領域情報を取得する情報取得工程を含み、 前記流量調節工程では、前記火炎形成領域情報に基づいて、複数の前記ノズルから噴出する前記混合用ガスの流量を調節する、 被焼却物の焼却方法。 【請求項18】 請求項16に記載の被焼却物の焼却方法において、 前記混合用ガス供給工程は、 前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の形成領域を把握するための火炎形成領域情報を取得する情報取得工程と、 前記火炎形成領域情報に基づいて、前記混合用ガスの主噴出方向を変える角度変更工程と、 を含む、 被焼却物の焼却方法。 【請求項19】 請求項16に記載の被焼却物の焼却方法において、 前記混合用ガス供給工程は、 前記ストーカ上の前記被焼却物の燃焼で形成される火炎の形成領域を把握するための火炎形成領域情報を取得する情報取得工程と、 前記火炎形成領域情報に基づいて、前記混合用ガスを噴出する上下方向の位置を変える位置変更工程と、 を含む、 被焼却物の焼却方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2023-06-16 |
出願番号 | P2020-550289 |
審決分類 |
P
1
651・
853-
YAA
(F23G)
P 1 651・ 537- YAA (F23G) P 1 651・ 121- YAA (F23G) P 1 651・ 851- YAA (F23G) P 1 651・ 536- YAA (F23G) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
西村 泰英 |
特許庁審判官 |
平城 俊雅 白土 博之 |
登録日 | 2021-12-10 |
登録番号 | 6992194 |
権利者 | 三菱重工業株式会社 |
発明の名称 | ストーカ式焼却設備及び被焼却物の焼却方法 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 伊藤 英輔 |
代理人 | 伊藤 英輔 |
代理人 | 橋本 宏之 |
代理人 | 鎌田 康一郎 |
代理人 | 古都 智 |
代理人 | 鎌田 康一郎 |
代理人 | 橋本 宏之 |
代理人 | 古都 智 |