ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08L |
---|---|
管理番号 | 1401634 |
総通号数 | 21 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-09-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-07-21 |
確定日 | 2023-07-07 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第7007600号発明「硬化性組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7007600号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜10〕について訂正することを認める。 特許第7007600号の請求項1〜10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7007600号(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成30年10月30日(優先日:平成29年10月31日)に国際出願され、令和4年1月12日にその特許権の設定登録(請求項数10)がされ、同月24日に特許掲載公報が発行され、その後、特許異議申立人大塚亜矢子(以下「申立人」という。)より、請求項1〜10に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。以後の主な手続の経緯は、次のとおりである。 令和4年 7月21日 :特許異議申立書の提出 同年12月 5日付け:取消理由通知書 令和5年 2月 6日 :訂正請求書及び意見書の提出(特許権者) 同年 2月24日付け:訂正の請求があった旨の通知書 同年 3月30日 :意見書の提出(申立人) 第2 訂正について 1 訂正の内容 令和5年2月6日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、一群の請求項である請求項1〜10について請求するものであって、次の訂正事項1〜13からなるものである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において、パーフルオロ(ポリ)エーテル基について、 「式:−(OC6F12)a−(OC5F10)b―(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f−で表される基」との記載を、 「式:−(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f−で表される基」と訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1において、パーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、 「式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、」との記載を、 「式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上5以下の整数であり、cおよびdの和は、5以下であり、」と訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1において、パーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、 「式中、…eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下の整数であり、」との記載を、 「式中、…eおよびfは、それぞれ独立して5以上200以下の整数であり、」と訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項1において、パーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、 「式中、…a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも5以上であり、」との記載を、 「式中、…c、d、eおよびfの和は少なくとも10以上であり、」と訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項1において、パーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、 「式中、…添字a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意であり、」との記載を、 「式中、…添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意であり、」と訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項1において、パーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、 「式中、…fに対するeの比が、1.0未満であり、」との記載を、 「式中、…fに対するeの比が、0.40以上1.0未満であり、」と訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項2において、パーフルオロ(ポリ)エーテル基について、 「式:−(OC6F12)a−(OC5F10)b−(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f−で表される基」との記載を、 「式:−(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f−で表される基」と訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項2において、パーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、 「式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、」との記載を、 「式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上5以下の整数であり、cおよびdの和は、5以下であり、」と訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項2において、パーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、 「式中、…eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下の整数であり、」との記載を、 「式中、…eおよびfは、それぞれ独立して5以上200以下の整数であり、」と訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項2において、パーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、 「式中、…a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも5以上であり、」との記載を、 「式中、…c、d、eおよびfの和は少なくとも10以上であり、」と訂正する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項2において、パーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、 「式中、…添字a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意であり、」との記載を、 「式中、…添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意であり、」と訂正する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項2において、パーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、 「式中、…fに対するeの比が、1.0未満であり、」との記載を、 「式中、…fに対するeの比が、0.40以上1.0未満であり、」と訂正する。 (13)訂正事項13 特許請求の範囲の請求項9において、 「a、b、c、d、eおよびfの和」との記載を、 「c、d、eおよびfの和」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1及び7について 訂正事項1は、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。また、願書に添付した特許請求の範囲と併せて「本件明細書等」という。)【0019】の「好ましくは、PFPE1は、−(OC4F8)c−(OC3F6)d−(OC2F4)e−(OCF2)f−」との記載に基づいて、訂正前の請求項1におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル基について、添字a及びbが付いた繰返し単位を削除した、「式:−(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f−で表される基」に限定するものである。 訂正事項7は、訂正前の請求項2におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル基を、訂正事項1と同様に、「式:−(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f−で表される基」に限定し、訂正後の請求項2の記載を、訂正後の請求項1と同様の記載としたものである。 したがって、訂正事項1及び7は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (2)訂正事項2及び8について 訂正事項2は、本件明細書【0015】の「a、b、cおよびdの和は、…特に好ましくは5以下である。」との記載に基づいて、訂正前の請求項1におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、「cおよびdの和は、5以下であり、」と特定し、また、この特定に合わせて、「cおよびdは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、」を「cおよびdは、それぞれ独立して0以上5以下の整数であり、」に限定したものである。 訂正事項8は、訂正前の請求項2のパーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、訂正事項2と同様に、「式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上5以下の整数であり、cおよびdの和は、5以下であり、」と限定し、訂正後の請求項2の記載を、訂正後の請求項1と同様の記載としたものである。 したがって、訂正事項2及び8は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (3)訂正事項3及び9について 訂正事項3は、本件明細書【0019】の「eおよびfは、それぞれ独立して…好ましくは5以上200以下」との記載に基づいて、訂正前の請求項1におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、「eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下」を、「eおよびfは、それぞれ独立して5以上200以下」に限定するものである。 訂正事項9は、訂正前の請求項2におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、訂正事項3と同様に、「式中、…eおよびfは、それぞれ独立して5以上200以下の整数であり、」と限定し、訂正後の請求項2の記載を、訂正後の請求項1と同様の記載としたものである。 したがって、訂正事項3及び9は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (4)訂正事項4及び10について 訂正事項4は、本件明細書【0012】の「a、b、c、d、eおよびfの和は…より好ましくは10以上、」との記載に基づいて、訂正前の請求項1におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、「a、b、c、d、eおよびfの和は少なくとも5以上」を、「c、d、eおよびfの和は少なくとも10以上」に限定するものである。 訂正事項10は、訂正前の請求項2のパーフルオロ(ポリ)エーテル基の繰り返し単位の添字について、訂正事項4と同様に、「式中、…c、d、eおよびfの和は少なくとも10以上であり、」と限定し、訂正後の請求項2の記載を、訂正後の請求項1と同様の記載としたものである。 したがって、訂正事項4及び10は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (5)訂正事項5及び11について 訂正事項5は、訂正事項1において、添字a及びbが付いた繰返し単位が削除されたことに伴い、訂正前の請求項1の「添字a、b、c、d、eまたはf」を「添字c、d、eまたはf」とするものである。 訂正事項11は、訂正前の請求項2の「添字a、b、c、d、eまたはf」を「添字c、d、eまたはf」とし、訂正後の請求項2の記載を、訂正後の請求項1と同様の記載としたものである。 したがって、訂正事項5及び11は、明瞭でない記載の釈明を目的するとするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (6)訂正事項6及び12について 訂正事項6は、本件明細書【0022】の「e/f比は、…さらに好ましくは0.40以上である。」との記載に基づいて、訂正前の請求項1の「fに対するeの比」を、「1.0未満」から、「0.40以上1.0未満」に限定するものである。 訂正事項12は、訂正前の請求項2の「fに対するeの比」を、訂正事項6と同様に、「式中、…fに対するeの比が、0.40以上1.0未満であり、」と限定し、訂正後の請求項2の記載を、訂正後の請求項1と同様の記載としたものである。 したがって、訂正事項6及び12は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (7)訂正事項13について 訂正事項13は、訂正事項1により請求項1において添字aとbが削除されたことに伴い、訂正前の請求項9から「a、b、」を削除し、訂正後の請求項9の記載を訂正後の請求項1の記載と同様の記載としたものである。 したがって、訂正事項13は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (8)請求項1、2及び9についての訂正事項1〜13により実質的に訂正されることになる、請求項1、2、9を直接又は間接的に引用する請求項3〜10における訂正についても、同様である。 (9)独立特許要件について 特許異議の申立てがされた請求項1〜10については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する第126条第7項に規定する要件(独立特許要件)は課されない。 3 小括 上記のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜10〕について訂正することを認める。 第3 訂正発明 本件訂正は、上記第2のとおり認められるので、請求項1〜10に係る発明(以下、請求項の番号に応じて「訂正発明1」などといい、まとめて「訂正発明」ともいう。)は、令和5年2月6日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 水酸基および加水分解可能な基からなる群より選ばれる少なくとも1の基と結合したSi原子を2以上、および、パーフルオロ(ポリ)エーテル基を有する化合物であり、 パーフルオロ(ポリ)エーテル基は式: −(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f― (式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上5以下の整数であり、cおよびdの和は、5以下であり、eおよびfは、それぞれ独立して5以上200以下の整数であり、c、d、eおよびfの和は少なくとも10以上であり、添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意であり、fに対するeの比が、0.40以上1.0未満であり、X10は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。) で表される基であり、 前記水酸基および加水分解可能な基からなる群より選ばれる少なくとも1の基と結合したSi原子は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の分子主鎖の両末端に存在するパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物、 下記式(E1)〜(E5): 【化1】 [式中: Rg1は、各出現においてそれぞれ独立して、置換または非置換の炭素原子数1〜8の1価炭化水素基であり; Rg2は、各出現においてそれぞれ独立して、置換または非置換の炭素原子数1〜20の2価炭化水素基であり; Rg3は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または1価の有機基であり; Rg4は、各出現においてそれぞれ独立して、1価の有機基であり; Rg6は、Rg8−Rg7−を表し; Rg7は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合、酸素原子または2価の有機基を表し; Rg8は、各出現においてそれぞれ独立して、アミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ビニル基、またはメルカプト基であり; ε1は、各出現においてそれぞれ独立して、1以上の整数であり; ε2は、出現においてそれぞれ独立して、2または3であり; ε3は、各出現においてそれぞれ独立して、2または3であり; ε4は、2以上の整数であり; ε5は、1または2であり; ε6は、0以上の整数である。] のいずれかで示される有機ケイ素化合物、または、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ−n−オクチルトリエトキシシラン、およびトリデカフルオロ−n−オクチルトリメトキシシランからなる群から選択される有機ケイ素化合物、および 触媒 を有する、硬化性組成物。 【請求項2】 パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物が、式(A)、(B)、(C)、または(D): [式中: PFPE1は、各出現においてそれぞれ独立して、式: −(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f− (式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上5以下の整数であり、cおよびdの和は、5以下であり、eおよびfは、それぞれ独立して5以上200以下の整数であり、c、d、eおよびfの和は少なくとも10以上であり、添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意であり、fに対するeの比が、0.40以上1.0未満であり、X10は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。) で表される基であり; R13は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し; R14は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1〜22のアルキル基を表し; R11は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し; R12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し; R11”、R12”、R13”、およびR14”は、それぞれ、R11、R12、R13、およびR14と同意義であり; n1は、(−SiR13n1R143−n1)単位毎または(−SiR13”n1R14”3−n1)単位毎に独立して、0〜3の整数であり; ただし、式(A)、および(B)において、各出現においてそれぞれ独立して、R13および R13”からなる群より選ばれる基が少なくとも2存在し; X1は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し; X2は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表し; tは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜10の整数であり; α1は、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり; X3は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し; β1は、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり; X5は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し; γ1は、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり; Raは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z3−SiR71p1R72q1R73r1を表し; Z3は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し; R71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表し; Ra’は、Raと同意義であり; Ra中、Z3基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり; R72は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し; R73は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し; p1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; q1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; r1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; Ra”は、各出現においてそれぞれ独立して、−Z3−SiR71p1R72”q1R73r1を表し; R72”は、R72と同意義であり; ただし、(−Z3−SiR71p1R72q1R73r1)毎、または(−Z3−SiR71p1R72”q1R73r1)毎において、p1、q1およびr1の和は3であり、式(C)において、少なくとも1つのq1が1〜3の整数であり; Rbは、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し; Rcは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し; Rb”、およびRc”は、それぞれ、Rb、およびRcと同意義であり; k1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; l1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; m1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; ただし、(SiRak1Rb11Rcm1)毎、または(SiRa”k1Rb”l1Rc”m1)毎において、k1、l1およびm1の和は3であり; (C)において、Rb、Rb”、R72、およびR72”からなる群より選ばれる基が少なくとも2存在し; X7は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し; δ1は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり; Rdは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z4−CR81p2R82q2R83r2を表し; Z4は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し; R81は、各出現においてそれぞれ独立して、Rd’を表し; Rd’は、Rdと同意義であり; Rd中、Z4基を介して直鎖状に連結されるCは最大で5個であり; R82は、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し; Yは、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し; R85は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し; R86は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し; R83は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し; p2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; q2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; r2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; Rd”は、各出現においてそれぞれ独立して、−Z4−CR81p2R82”q2R83r2を表し; R82”は、−Y−SiR85”n2R86”3−n2を表し; ただし、(−Z4−CR81p2R82q2R83r2)毎または(−Z4−CR81p2R82”q2R83r2)毎において、p2、q2およびr2の和は3であり; n2は、(−Y−SiR85n2R863−n2)単位毎または(−Y−SiR85”n2R86”3−n2)単位毎に独立して、0〜3の整数を表し; R85”、およびR86”は、それぞれ、R85、およびR86と同意義であり; Reは、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し; Re”は、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85”n2R86”3−n2を表し; Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し; Rf”は、Rfと同意義であり; k2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり l2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり m2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; ただし、(CRdk2Rel2Rfm2)毎または(CRd”k2Re”l2Rf”m2)毎において、k2、l2およびm2の和は3であり、式(D)において、n2が1以上である−Y−SiR85n2R863−n2で表される基およびn2が1以上である−Y−SiR85”n2R86”3−n2で表される基からなる群より選ばれる基が2以上存在する。] で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物である、請求項1に記載の硬化性組成物。 【請求項3】 触媒が、金属系触媒、有機酸系触媒、無機酸系触媒、および塩基性触媒からなる群より選ばれる少なくとも1である、請求項1または2に記載の硬化性組成物。 【請求項4】 触媒が、チタン原子、ジルコニウム原子、またはスズ原子を含む金属系触媒である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬化性組成物。 【請求項5】 触媒が、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物100質量部に対して、0.1〜5.0質量部含まれる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬化性組成物。 【請求項6】 有機ケイ素化合物が、下記式(E1)〜(E5)のいずれかで示される有機ケイ素化合物を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化性組成物。 【化2】 [式中: Rg1は、各出現においてそれぞれ独立して、置換または非置換の炭素原子数1〜8の1価炭化水素基であり; Rg2は、各出現においてそれぞれ独立して、置換または非置換の炭素原子数1〜20の2価炭化水素基であり; Rg3は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または1価の有機基であり; Rg4は、各出現においてそれぞれ独立して、1価の有機基であり; Rg6は、Rg8−Rg7−を表し; Rg7は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合、酸素原子または2価の有機基を表し; Rg8は、各出現においてそれぞれ独立して、アミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ビニル基、またはメルカプト基であり; ε1は、各出現においてそれぞれ独立して、1以上の整数であり; ε2は、出現においてそれぞれ独立して、2または3であり; ε3は、各出現においてそれぞれ独立して、2または3であり; ε4は、2以上の整数であり; ε5は、1または2であり; ε6は、0以上の整数である。] 【請求項7】 有機ケイ素化合物が、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ−n−オクチルトリエトキシシラン、およびトリデカフルオロ−n−オクチルトリメトキシシランからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化性組成物。 【請求項8】 パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物100質量部に対して、有機ケイ素化合物を0.1〜30質量部含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の硬化性組成物。 【請求項9】 c、d、eおよびfの和に対して、eおよびfの和が、0.80以上である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の硬化性組成物。 【請求項10】 X10が、フッ素原子である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の硬化性組成物。」 第4 特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由及び取消理由通知書に記載した取消理由の概要 1 特許異議の申立ての理由の概要 本件特許の設定登録時の請求項1〜10に係る特許について、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由の概要は以下のとおりである。 (なお、申立人が提出した甲第1号証〜甲第6号証は、それぞれ「甲1」〜「甲6」と記載する。) 〔申立理由1:進歩性〕 請求項1〜10に係る発明は、以下の甲号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1〜10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 ・甲1を主引例とする場合:甲1、及び、甲2、3、6 ・甲4を主引例とする場合:甲4、及び、甲2、3、6 ・甲5を主引例とする場合:甲5、及び、甲2、3、6 ・甲6を主引例とする場合:甲6、及び、甲2、3 〔申立理由2:サポート要件〕 請求項1〜10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 〔申立理由3:明確性要件〕 請求項1〜5、8〜10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 〔申立理由4:実施可能要件〕 請求項1〜10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 〔申立人が提出した甲号証〕 甲1:特開平7−53919号公報 甲2:「Structure-Property Relationships in Perfluoropolyethers: A Family of Polymeric Oils」,Comprehensive Polymer Science and Supplements,1989,pp.347〜388) ,及び抄訳文 URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/B9780080967011002482 甲3:「New fluorinated thermoplastic elastomers」,Journal of Applied Polymer Science, 1996, 59(2), pp.311-327 ,及び抄訳文 URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/1O.l002/(SICI)1097-4628(19960110)59:2%3C311::AID-APP16%3E3.0.C0;2-Z 甲4:特開平9−77777号公報 甲5:特開2008−214566号公報 甲6:特表2014−503380号公報 2 取消理由の概要 本件特許の設定登録時の請求項1〜10に係る特許について、当審が通知した取消理由の概要は次のとおりであり、上記1の申立理由2と同じである。 〔取消理由:サポート要件〕 請求項1〜10に係る特許は、以下の点において、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願日時点における当業者の技術常識を参照しても、請求項1〜10に係る発明の課題が解決されていることが実証されているのは、実施例1及び2しかないから、実施例1及び2以外の請求項1にて特定されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有化合物、有機ケイ素化合物及び触媒を含む硬化性組成物は、低温における使用に適した硬化物を形成でき、上記課題が解決できるとまでは、当業者は認識することはできない。 したがって、請求項1〜10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 第5 取消理由(サポート要件)についての当審の判断 1 本件明細書の発明の詳細な説明の記載 本件明細書には、以下の記載がある。 (本a) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、硬化性組成物に関する。 【背景技術】 【0002】 ある種のフルオロ(ポリ)エーテル系化合物を含む組成物は、優れた撥水性、撥油性等を有する。例えば、特許文献1には、室温硬化型パーフルオロ(ポリ)エーテル組成物の硬化皮膜が表面に形成されたゴムについて記載されており、離型性、耐溶剤性、耐薬品性、耐候性、撥水性、撥油性等が付与されたゴムが提供されると記載されている。特許文献1の実施例には、パーフルオロ(ポリ)エーテル構造として、(OCF2CF(CF3))mOCF2CF2O(CF(CF3)CF2O)n(式中、m+n=90)を有する化合物を用いた組成物が記載されている。 … 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 上記のような組成物には、その用途によって低温(例えば、0℃以下の温度)で使用可能な硬化物を形成し得ることを求められることがある。しかしながら、本発明者の検討により、特許文献1の実施例に記載されている上記の組成物の硬化物は、低温において使用した場合に、弾性率が大きくなり、低温における使用に適しないことがあることが分かった。 本発明の目的は、低温における使用に適する硬化物、例えば、低温における弾性率比(例えば0℃における弾性率に対する−50℃における弾性率の比)の低い硬化物を形成し得る硬化性組成物を提供することにある。」 (本b) 「【0009】 (PFPE含有シラン化合物(a)) 上記PFPE含有シラン化合物(a)は、水酸基および加水分解可能な基からなる群より選ばれる少なくとも1の基と結合したSi原子を2以上、および、パーフルオロ(ポリ)エーテル基を有する化合物である。 … 【0012】 上記パーフルオロ(ポリ)エーテル基は式: −(OC6F12)a−(OC5F10)b−(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f− で表される基である。式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下の整数である。好ましくは、a、b、c、d、eおよびfの和は5以上であり、より好ましくは10以上、例えば10以上200以下である。添字a、b、c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。上記fに対するeの比(以下、「e/f比」という)は、1.0未満である。X10は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子であり、好ましくは水素原子またはフッ素原子であり、より好ましくはフッ素原子である。以下において、上記構造を有するパーフルオロ(ポリ)エーテル基を、「PFPE1」と称することがある。 【0013】 上記aおよびbは、それぞれ独立して、0以上30以下であることが好ましく、0であってもよい。 【0014】 一の態様において上記a、b、c、およびdそれぞれ独立して、好ましくは0以上30以下の整数であり、より好ましくは20以下の整数であり、特に好ましくは10以下の整数であり、さらに好ましくは5以下の整数であり、0であってもよい。 【0015】 一の態様において、a、b、cおよびdの和は、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下、特に好ましくは5以下である。 【0016】 一の態様において、eおよびfの和は、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、さらに好ましくは50以上である。 【0017】 これら繰り返し単位は、直鎖状であっても、分枝鎖状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。例えば、−(OC6F12)−は、−(OCF2CF2CF2CF2CF2CF2)−、−(OCF(CF3)CF2CF2CF2CF2 −、−(OCF2CF(CF3)CF2CF2CF2)−、−(OCF2CF2CF(CF3)CF2CF2)−、−(OCF2CF2CF2CF(CF3)CF2)−、−(OCF2CF2CF2CF2CF(CF3))−等であってもよいが、好ましくは−(OCF2CF2CF2CF2CF2CF2)−である。−(OC5F10)−は、…、好ましくは−(OCF2CF2CF2CF2CF2)−である。−(OC4F8)−は、…、好ましくは−(OCF2CF2CF2CF2)−である。−(OC3F6)−(即ち、上記式中、X10はフッ素原子である)は、…、好ましくは−(OCF2CF2CF2)−である。また、−(OC2F4)−は、−(OCF2CF2)−および−(OCF(CF3))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCF2CF2)−である。 【0018】 一の態様において、PFPE1が直鎖状の繰り返し単位を有する。本態様では、PFPE含有シラン化合物(a)の低温における分子の運動性が低下しにくくなる。直鎖状の繰り返し単位を有することにより、PFPE含有シラン化合物(a)の物性値(例えば、低温における弾性率)が、室温における値と比べて低下にくくなり得る。なお、本明細書において、「弾性率」は、動的弾性率、より具体的には貯蔵弾性率を示す。 【0019】 好ましくは、PFPE1は、−(OC4F8)c−(OC3F6)d−(OC2F4)e−(OCF2)f−(式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)である。好ましくは、PFPE1は、−(OCF2CF2CF2CF2)c−(OCF2CF2CF2)d−(OCF2CF2)e−(OCF2)f−である。一の態様において、PFPE1は、−(OC2F4)e−(OCF2)f−(式中、eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)であってもよい。 【0020】 より好ましくは、PFPE1は、−(OC2F4)e−(OCF2)f−(式中、eおよびfは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)である。 【0021】 上記PFPE1において、a、b、c、d、eおよびfの和に対する、eおよびfの和の比は、0.80以上であることが好ましく、0.90以上であることがより好ましく、0.98以上であることがさらに好ましく、0.99以上であることが特に好ましい。 【0022】 上記PFPE1において、e/f比は、好ましくは、0.10以上、より好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.40以上である。e/f比は、好ましくは、0.90以下、より好ましくは、0.85以下、さらに好ましくは、0.80以下である。 【0023】 上記PFPE1において、e/f比は、好ましくは、0.10以上1.0未満、より好ましくは0.20以上0.90以下、さらに好ましくは0.40以上0.85以下、特に好ましくは0.40以上0.80以下である。 【0024】 本発明の硬化性組成物は、上記のようなPFPE1を有することにより、その硬化物が低いガラス転移温度(Tg)を有し得る。 【0025】 本発明の硬化性組成物の硬化物は、上記のようなPFPE1を有することにより、低温において使用する場合であっても適切な弾性率を有し得る(例えば、0℃における弾性率に対する、−50℃における弾性率の比率が小さくなり得る)。従って、本発明の硬化性組成物は、低温でもゴム特性を維持し得る硬化物の形成に寄与し得、該硬化物は低温における使用に適し得る。 【0026】 0℃における弾性率に対する、−50℃における弾性率の比率は、例えば、2.0以下であり得、1.8以下であり得る。 【0027】 −PFPE1−部分の数平均分子量は、2,000〜20万の範囲にあり得、3,000〜10万の範囲にあることが好ましい。上記数平均分子量は、19F−NMRにより測定される値とする。 … 【0228】 (架橋剤) 上記架橋剤は、PFPE含有シラン化合物(a)(具体的には、PFPE含有シラン化合物(a)のSi原子に結合した水酸基または加水分解可能な基を有するシラン部分)と架橋反応(縮合反応)を行い得る部分を有する化合物であれば特に限定されない。PFPE含有シラン化合物(a)と架橋剤とを含むことにより、本発明の硬化性組成物から得られる硬化物の物性(例えば、引張強度、弾性率)は良好になり得る。 … 【0231】 上記架橋剤としては、 ・Rg3が水素原子である有機化合物、即ち、1分子中にシラノール基を少なくとも2有する有機ケイ素化合物、 ・後述する式(E3)〜(E5)で表される有機ケイ素化合物等を挙げることができる。 … 【0261】 好ましい態様において、上記架橋剤は、テトラエトキシシラン、テトラトリメトシキシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ−n−オクチルトリエトキシシラン、およびトリデカフルオロ−n−オクチルトリメトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1である。 … 【0267】 上記架橋剤は、本発明の硬化性組成物100質量部に対して、例えば0.1〜30質量部の範囲含むことができ、具体的には、0.3〜10質量部の範囲含むことができる。」 (本c) 「【0346】 本発明の硬化性組成物の硬化物のガラス転移温度は、比較的低い値となり得る。これは、本発明の硬化性組成物が、上記のようなPFPE1を有する化合物を含むためである。本発明の硬化性組成物は、比較的低温で使用される用途、例えば、自動車部材(例えば、シール材、具体的には、ガスケット)等、特に寒冷地(例えば−50℃以下)において使用可能な自動車部材等に使用できる。 【0347】 本発明の硬化性組成物の硬化物は、低温での弾性率が大きくなることを抑制できる。本発明の硬化性組成物の硬化物において、例えば、0℃における弾性率に対する、−50℃における弾性率の比率が大きくなることを抑制し得る。本発明の硬化性組成物は、比較的低温においてもゴム特性を求められる用途、例えば、自動車部材(例えば、シール材、具体的には、ガスケット)等、特に寒冷地(例えば−50℃以下)において使用可能な自動車部材に使用できる。」 (本d) 「【0348】 以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、パーフルオロ(ポリ)エーテルを構成する繰り返し単位の存在順序は任意である。 【0349】 (実施例1) ・硬化性組成物の調製 パーフルオロポリエーテル化合物(A)100重量部、架橋剤としてテトラエトキシシラン1重量部、および硬化触媒としてテトライソプロパキシチタン0.5重量部を混合用のガラス容器に秤量しマグネチックスターラーを用いて撹拌を行い、硬化性組成物を調製した。 ・パーフルオロポリエーテル化合物(A) (C2H5O)3SiCH2CH2CH2NHCOCF2(OC2F4)e-(OCF2)f-CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3 (式中、e=40、f=58、e/f=0.7) 【0350】 (実施例2) パーフルオロポリエーテル化合物(A)の代わりにパーフルオロポリエーテル化合物(B)を用いる以外は、実施例1と同様の手順で行い、硬化性組成物を調製した。 ・パーフルオロポリエーテル化合物(B) H(((C2H5O)3Si)CHCH2)3CF2(OC2F4)e-(OCF2)f-CF2(CH2CH(Si(OC2H5)3))3H (式中、e=40、f=58、e/f=0.7) 【0351】 (比較例1) パーフルオロポリエーテル化合物(A)の代わりに下記パーフルオロポリエーテル化合物(C)を用いる以外は、実施例1と同様に行い、硬化性組成物を調製した。 ・パーフルオロポリエーテル化合物(C) (C2H5O)3SiCH2CH2CH2NHCOCF2(OC2F4)e-(OCF2)f-CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3 (式中、e=48、f=37、e/f=1.3) 【0352】 (比較例2) パーフルオロポリエーテル化合物(A)の代わりに下記パーフルオロポリエーテル化合物(D)を用いる以外は、実施例1と同様に行い、硬化性組成物を調製した。 ・パーフルオロポリエーテル化合物(D) (C2H5O)3SiCH2CH2CH2NHCOCF2(OCF2CF(CF3))mOCF2CF2O(CF(CF3)CF2O)n-CF2CONHCH2CH2CH2Si(OC2H5)3 (式中、m+n=54) 【0353】 ・試験片の作製 実施例および比較例で調製した硬化性組成物を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で作製した型に流し込み、室温で24時間静置して硬化させ、5mm×200mmおよび厚み0.2mmの試験片を作製した。 【0354】 ・動的粘弾性評価 引張型粘弾性計測器(DMA)にて、上記で得られた試験片の動的粘弾性測定を実施した。冷却に液体窒素を用い、測定温度範囲−140〜50度、昇温速度2度/分、周波数10Hzにて測定を実施した。得られた貯蔵弾性率から0℃における弾性率に対する、−50℃における弾性率の割合(−50℃における弾性率/0℃における弾性率)を算出した。また、得られた貯蔵弾性率プロットより、ガラス転移温度(Tg)を算出した。 【0355】 表1に、Tg、および弾性率比(−50℃における弾性率/0℃における弾性率)を示す。 【0356】 【表1】 」 2 訂正発明のサポート要件についての判断 (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)訂正発明の課題 本件明細書【0004】の記載によれば、訂正発明の課題は、「低温における使用に適する硬化物、例えば、低温における弾性率比(例えば0℃における弾性率に対する−50℃における弾性率の比)の低い硬化物を形成し得る硬化性組成物を提供する」ことである。 (3)訂正発明1について ア 本件明細書の発明の詳細な説明の【0009】〜【0025】、【0346】、【0347】の記載によれば、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物において、当該化合物の中で相対的に最も長い結合鎖を表す、パーフルオロ(ポリ)エーテル基が、「−(OC6F12)a−(OC5F10)b−(OC4F8)c−(OC3X106)d −(OC2F4)e−(OCF2)f−」の構造(以下「PFPE1」という。a〜f、X10の説明は省略)を有することにより、その硬化物が、低いガラス転移温度(Tg)を有し得るものであり、また、低温において使用する場合であっても適切な弾性率を有し得るものであるから、「本発明」の硬化性組成物は、低温でもゴム特性を維持し得る硬化物の形成に寄与し得、該硬化物は低温における使用に適し得ることが記載されており、訂正発明1におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル基は、上記「PFPE1」について好ましいとされた範囲に含まれるものである。 イ 本件明細書には、実施例及び比較例として、パーフルオロポリエーテル化合物(A)、(B)、(C)又は(D)100質量部、テトラエトキシシラン(架橋剤)1重量部、テトライソプロパキシチタン(硬化触媒)0.5重量部を用いて硬化性組成物を調製し、それを硬化させた試験片(硬化物)について、Tg(ガラス転移温度)と、弾性率比(−50℃における弾性率/0℃における弾性率)を測定した結果が記載されている。 実施例1、実施例2、比較例1をみると、それぞれパーフルオロポリエーテル化合物(A)、(B)、(C)を用いており、これらはいずれも、訂正発明1におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の、c、d、e、fのそれぞれの数値、c及びdの和、e及びfの和の各数値範囲を満たしているものであるところ、e/f比(fに対するeの比)が1.3であり訂正発明1における数値範囲を満たさないパーフルオロポリエーテル化合物(C)を用いた比較例1は、Tgが−105℃、弾性率比が2.1であるのに対し、e/f比が0.7であり訂正発明1における数値範囲を満たすパーフルオロポリエーテル化合物(A)又は(B)を用いた実施例1、実施例2は、それぞれ、Tgが−125℃、−121℃、弾性率比が1.2、1.5となっており、Tgが低く、低温における弾性率比が低いため、低温における使用に適する硬化物を形成したことが示されている。 また、比較例2をみると、c=0、d=54(m+n)、e=1、f=0であって、d、e、fのそれぞれの数値、c及びdの和、e及びfの和、e/f比がいずれも訂正発明1における範囲を満たしていないパーフルオロポリエーテル化合物(D)を用いた比較例2は、Tg−71℃、弾性率比4.2となっていることから、比較例2との対比においても、実施例1及び2は、Tgが低く、低温における弾性率比が低いため、低温における弾性率比の低い硬化物を形成したことが示されている。 このように、本件明細書の発明の詳細な説明には、テトラエトキシシラン(架橋剤)と架橋反応させるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物に関し、訂正発明1に含まれないものを用いた比較例1、比較例2は、訂正発明の課題を解決できないのに対し、訂正発明1に含まれるものを用いた実施例1、実施例2は、訂正発明の課題を解決できることが、具体的に示されている。 ウ(ア)本件明細書には、e/f比について「上記PFPE1において、e/f比は、好ましくは、0.10以上1.0未満、より好ましくは0.20以上0.90以下、さらに好ましくは0.40以上0.85以下、特に好ましくは0.40以上0.80以下である。」(【0023】)と記載されているものの、e/f比が「0.40以上1.0未満」を満たせば訂正発明の課題を解決できる技術的根拠については記載されてはいない。 (イ)そこで、本件特許の出願日前の1989年に公開された、パーフルオロポリエーテル構造と物性との関係について言及した文献である甲2(抄訳)をみると、以下の事項が記載されている。 「 」(349頁1行) 「9.5.1 ガラス転移温度 異なる分子量を持つYタイプ(フォンブリンY)のPFPE流体のガラス転移温度Tgは、 Tgが公知の式 Tg=Tg∞―Kg/Mn (21) (式中、Tg∞は無限長さの鎖の場合のTgである。) に従って数平均分子量Mnに依存することを示したSianesiら48によって最初に報告された。また、Yオイル(フォンブリンY)とZオイル(フォンブリンZ)の両方に関する同様のデータが、KrytoxとDemnumのサンプル52及びフォンブリンKオイルも調査した Marchionniら51よって報告されている。 Tgに対する分子量の影響を図14に示す。これは、全てのタイプのPFPEオイルについて式(21)で与えられる。」(366頁下から14〜5行) 「 図14 異なるp/q比(○)0.54、(口)0.69、(△)1.15で区分されたものと未区分のDemnumサンプル(−)のフォンブリンZタイプの共重合体のMnの逆数を横軸としたガラス転移温度(塗りつぶされたプロットは未区分の共重合体(Polym. Eng. Sci、1990、10、829のSociety of Plastic Engineersの許可を得て複製したもの)のものである)。」(367頁 Figure14) 上記の甲2の記載によれば、図14には、パーフルオロポリエーテル構造を主構造とするフォンブリンZタイプの共重合体において、p/q比が1.15、0.69、0.54と小さくなるに連れて、Tgが低くなる傾向が示されており、また、p/q比は、「CF2CF2O単位/CF2O単位の比」であり(甲2:349頁1〜7行)、訂正発明1におけるe/f比に相当するものである。 甲2に示されるように、パーフルオロポリエーテル構造における訂正発明1におけるe/f比を小さくすれば、Tgが低くなることは、本件特許の出願日当時の技術常識となっていたといえる。 (ウ)一般に、Tgが低くなれば、低温においても分子の運動性が低下しにくくなると解されるところ、本件明細書【0017】、【0018】には、繰り返し単位が分岐鎖状より直鎖状の方が、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の低温における分子の運動性が低下しにくくなり、その結果、低温における弾性率も低下しにくくなり得ることが記載されていることを、上記(イ)に説示した技術常識と併せ考慮すれば、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物において、e/f比を小さくすることにより、Tgが低くなり、低温における分子の運動性が低下しにくくなり、その結果、低温における弾性も低下しにくくなることを、当業者は認識することができる。 (エ)そうすると、e/f比が、実施例1、2の「0.7」を含む「0.40以上1.0未満」の数値範囲であり、訂正発明1の式を満たすパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含む硬化性組成物であれば、実施例1、2と同様に、Tgが低くなり、低温における弾性が低下しにくくなり、低温における使用に適した硬化物を形成し得る硬化性組成物を提供するという訂正発明の課題が解決できることを、当業者は認識することができる。 エ また、本件明細書【0228】〜【0267】には、「架橋剤」について、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物と架橋反応して硬化物を形成できるものであれば特に限定されない旨が記載され、その具体例として、訂正発明1に特定された「有機ケイ素化合物」が記載されていることから、実施例1、2において用いられたテトラエトキシシラン以外の、訂正発明1に特定された「有機ケイ素化合物」を用いた場合にも、実施例1、2と同様に、Tgが低くなり、低温における弾性が低下しにくくなり、低温における使用に適した硬化物を形成し得る硬化性組成物を提供するという訂正発明の課題が解決できることを、当業者は認識することができる。 オ したがって、訂正発明1は、本件特許の出願日当時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 (4)訂正発明2〜10について 訂正発明2〜10は、訂正発明1において、パーフルオロ(ポリ)エーテル化合物、触媒、有機ケイ素化合物とその含有比を更に特定したものであり、これらの特定された事項についても、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている。 そうすると、訂正発明2〜10も、訂正発明1と同様の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 (5)申立人の主張について ア 申立人は、実施例1、2で訂正発明の作用効果が具体的に実証されているのは、わずかに訂正発明2における式(A)、(B)に該当するパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物のごく一部(ただ1種類ずつ)だけであって、式(C)、(D)のパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物については何ら実証されておらず、式(A)〜(D)におけるリンカーX1、X3、X5、X7が非常に長大な構造のものであると(これらが占める割合が大きくなると)、形成される硬化被膜において撥水性、撥油性等の性能が低下し、ガラス転移温度(Tg)が上昇し、低温弾性も劣化する可能性が大きいから、訂正発明はサポート要件違反に該当する旨を主張する(特許異議申立書61頁第2段落、63頁第1段落)。 しかしながら、リンカーの構造がどのようなものであったとしても、上記(3)及び(4)に説示したように、e/f比が「0.40以上1.0未満」の数値範囲であり、訂正発明1に示された式を満たすパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を用いることにより、当該式を満たさないパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を用いる場合に比べて、低温における使用に適した硬化物を形成し得る硬化性組成物を提供するという訂正発明の課題が解決できることを、当業者は認識することができる。 そして、申立人は、リンカーが非常に長大な構造のものである場合には訂正発明の課題が解決できない可能性を指摘するものの、その根拠について具体的な証拠を示していない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 イ 申立人は、架橋剤としての有機ケイ素化合物について、実施例1、2で訂正発明の作用効果が具体的に実証されているのは、テトラエトキシシランだけであって、甲1【0012】の記載を参照すると、訂正発明における有機ケイ素化合物のうち、フッ素原子を含まない場合がある式(E2)を用い、そのε1が非常に大きい数であるとき、形成される硬化被膜においてフッ素化合物の特徴である撥水性、撥油性の性能が低下する可能性が大きく、また、形成される硬化物のTgや低温弾性に影響する「PFPE1」を有するものではない架橋剤の、硬化物の構造中に占める割合が多くなると、Tgが上昇し低温弾性も劣化する可能性が大きいから、訂正発明はサポート要件違反に該当する旨を主張する(特許異議申立書61頁第3段落〜62頁末行、63頁第3段落)。 しかしながら、本件明細書【0228】〜【0267】によれば、申立人が指摘する式(E2)を含む「架橋剤」については、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物と架橋反応して硬化物を形成できるものであればよいことが記載されているところ、式(E2)で示される有機ケイ素化合物の構造、及び、架橋剤の硬化物の構造中に占める割合がどのようなものであったとしても、上記(3)及び(4)に説示したように、e/f比が「0.40以上1.0未満」の数値範囲であり、訂正発明1の式を満たすパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を用いることにより、当該式を満たさないパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を用いる場合に比べて、低温における使用に適した硬化物を形成し得る硬化性組成物を提供するという訂正発明の課題が解決できることを、当業者は認識することができる。 そして、申立人は、式(E2)の構造や架橋剤の硬化物の構造中に占める割合に関し、訂正発明の課題が解決できない可能性を指摘するものの、その根拠について具体的な証拠を示していない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 ウ 申立人は、訂正発明の課題が解決できることが示されたe/f比が0.7(実施例1、2)を除く、訂正発明の全ての範囲(0.40以上1.0未満)において、訂正発明の課題を解決できる技術的な根拠は何ら示されておらず、本件特許の出願時における技術常識を考慮しても本件明細書の記載から、e/f比と、課題解決(効果)との関係を理解することができないし、また、ガラス転移温度(Tg)を上昇させると考えられる単位についてのc及びdがゼロではない場合においてその実施例の作用効果が一切示されていないから、訂正発明はサポート要件を満たさない旨を主張する(意見書2頁下から10行〜3頁7行、6頁1行〜下から4行)。 しかしながら、上記(3)及び(4)に説示したように、実施例1、2のe/f比が0.7を含む訂正発明のe/f比の範囲(0.40以上1.0未満)において、訂正発明はその課題を解決できることを当業者が認識することができる。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 エ 申立人は、特許権者が主張する「パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物は、e/f比が小さくなっており、分子運動性の高いエーテル基(エーテル性酸素原子)の割合が高い」との説明は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物そのものの特徴を説明したものとして当業者には理解できるものの、当該化合物と架橋剤と触媒を有する組成物の「硬化物」についても、「低温下においても分子運動性は低下せず、弾性率は変化しにくい」ものとなるかは、直ちには理解できないから、訂正発明は、e/f比を調整することによって低温弾性率比の低い硬化物を形成し得る硬化性組成物の発明とまではいえないものである旨を主張する(意見書3頁8行〜末行)。 しかしながら、e/f比と硬化物物性との関係を理解できることは、上記(3)に説示したとおりである。 また、申立人が認めている特許権者が主張した説明は、訂正発明におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル基は、−(OC4F8)−及び−(OC3X106)−よりも、−(OC2F4)−及び−(OCF2)−の存在量が多く、−(OC2F4)e−(OCF2)f−を主成分とし、また、e/f比が小さくなっており、−(OCF2)−は−(OC2F4)−よりも割合が大きく、分子運動性の高いエーテル基の割合が高くなっているから、訂正発明におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物は、低温下においても分子運動性は低下せず、弾性率は変化しにくくなるというものである。 パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物が、その両末端において架橋剤と反応して「硬化物」となった場合においても、架橋点の間にあるパーフルオロ(ポリ)エーテル基の構造に由来する「低温下において分子運動性が低下しにくい」という物性が発揮されると認識するのが相当であるといえる。 そして、申立人は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の上記物性が、その硬化物においては発揮されないとする、技術根拠を具体的に示しているわけでもない。 したがって、申立人の上記主張は、採用できない。 オ 申立人は、特許権者が提出した意見書において、低温弾性率比が1.7である追加比較例1である実験データを示したが、訂正発明の課題における「低温弾性率比が低い」とは、2.0以下、あるいは1.8以下であること(【0026】、実施例1、2と比較例1の結果)と解されるものの、「低温弾性率比が1.0に近い値となっていること」と解される根拠となる本件明細書の記載は認められないから、e/f比が1.0である追加比較例1の低温弾性比が1.7であるとの実験結果が、訂正発明の範疇から当然のごとく排除される根拠は本件明細書の記載からは見いだせないから、意見書における実験データは、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていない事項を裏付けようとするものである旨を主張する(意見書4頁1行〜末行)。 しかしながら、特許権者が提出した意見書に記載された追加比較例1は、実施例1と基本構造が同じパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物において、訂正発明には含まれない「e/f=1.0」とすると、弾性率比が1.7となり、本件明細書の実施例1、2よりも劣った弾性率比となったことを示したものにすぎず、追加比較例1の弾性率比が1.7であったことにより、初めて、訂正発明が課題を解決できることが裏付けられたというわけでもない。 したがって、申立人の上記主張は、サポート要件についての上記(3)及び(4)に説示した判断を左右するものではない。 (6)小括 以上によれば、取消理由(サポート要件)は、理由がない。 第6 取消理由通知書において採用しなかった特許異議の申立ての理由について 1 甲1を主引例とする申立理由1(進歩性)について (1)甲1発明 甲1の請求項1、【0025】、実施例2、5、6等の記載によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「(A)下記一般式(1): 式中、Rf1は、パーフロロアルキル基またはパーフロロオキシアルキル基であり、 Y1は、アルキレン基であり、基内に、エステル結合、エーテル結合、アミン結合、ケトン結合、アミド結合を含んでいてもよい、 X1は、加水分解性基であり、 R1は、非置換または置換一価炭化水素基であり、 mは、2又は3の整数である、で表される有機ケイ素化合物、及び、 (B)下記一般式(2): 式中、Rf2は、パーフロロオキシアルキレン基であり、Y2は、アルキレン基であり、基内に、エステル結合、エーテル結合、アミン結合、ケトン結合、アミド結合を含んでいてもよい、 X2は加水分解性基であり、 R2は、非置換または置換一価炭化水素基であり、 nは、1〜3の整数である、で表される有機ケイ素化合物、及び、 触媒を含有して成る、常温硬化性組成物。」 (2)訂正発明1について ア 対比 訂正発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「(A)下記一般式(1)」「で表される有機ケイ素化合物」においてm=2又は3の場合は、訂正発明1の「式(E3)」から選択される「有機ケイ素化合物」に相当する。 甲1発明の「(B)下記一般式(2)」「で表される有機ケイ素化合物」は、訂正発明1の「水酸基および加水分解可能な基からなる群より選ばれる少なくとも1の基と結合したSi原子を2以上、および、パーフルオロ(ポリ)エーテル基を有する化合物であり、」「前記水酸基および加水分解可能な基からなる群より選ばれる少なくとも1の基と結合したSi原子は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の分子主鎖の両末端に存在するパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物」に相当する。 そうすると、訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「水酸基および加水分解可能な基からなる群より選ばれる少なくとも1の基と結合したSi原子を2以上、および、パーフルオロ(ポリ)エーテル基を有する化合物であり、 前記水酸基および加水分解可能な基からなる群より選ばれる少なくとも1の基と結合したSi原子は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の分子主鎖の両末端に存在するパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物、 下記式(E3): [式中: Rg3は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または1価の有機基であり; Rg4は、各出現においてそれぞれ独立して、1価の有機基であり; ε2は、出現においてそれぞれ独立して、2または3であり; のいずれかで示される有機ケイ素化合物、および 触媒 を有する、硬化性組成物。」 <相違点1> パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル基が、訂正発明1においては、「式:−(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f― (式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上5以下の整数であり、cおよびdの和は、5以下であり、eおよびfは、それぞれ独立して5以上200以下の整数であり、c、d、eおよびfの和は少なくとも10以上であり、添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意であり、fに対するeの比が、0.40以上1.0未満であり、X10は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)で表される基」と特定されているのに対し、甲1発明においては、「パーフルオロオキシアルキレン基」の具体的な構造が特定されていない点。 イ 判断 (ア)甲1【0019】には、一般式(2)における「パーフルオロオキシアルキレン基」として、 で示される2フォンブリン型のパーフルオロオキシアルキレン基(甲2におけるフォンブリンZタイプに相当)が挙げられている。 (イ)しかしながら、甲1【0006】【0030】の記載によれば、甲1発明は、「強度や撥水、撥油性に優れていると共に、金属、ガラス、セラミック等の各種基剤との接着性に優れた硬化被膜を得ることが可能な常温硬化性組成物を提供すること」を課題とするものであり、建築分野、工業プラント、各種装置類などのコーティング剤あるいは塗料として有用であるものであるが、甲1発明は、低温における使用に適した硬化物を形成し得る硬化性組成物を提供することを課題とするものではないし、特に低温(例えば甲3に開示された−50℃程度の低温)において使用されることが意図されているものであることは記載されていない。 そうすると、上記第5の2(3)ウ(イ)において認定したように、パーフルオロポリエーテル構造においてe/f比を小さくすればTgが低くなることが技術常識となっていたことを踏まえても(甲2)、甲1発明のパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物において、低温における使用に適するものとするために上記の技術常識を適用し、e/f比を調節する動機付けがあるとはいえない。 また、甲2(式(24)、図15)には、フッ素化ポリマーにおける酸素原子と炭素原子の含有量の比率(O/C)比が大きくなると(すなわち、酸素の含有量が大きくなると)、Tgが低くなることが記載されていること、及び、甲3(図13及び323頁の左欄本文1〜3行)に、フッ素化ポリウレタンにおいて、ソフトセグメント(フォンブリンZタイプの共重合体部分)のTgが低いため、−75℃や−50℃の低温を含めより広い温度範囲においてもエラストマー特性を示すことが記載されていることを考慮しても、上記の動機付けがあるとはいえない。 (ウ)仮に、上記の動機付けがあるとしても、甲1発明の一般式(2)の有機ケイ素化合物における「パーフルオロオキシアルキレン基」として、甲1【0019】に例示された式(2b)の構造を有するものとした上で、更に甲2を参照してその中の「CF2CF2O単位/CF2O単位の比」を0.4以上1.0未満とし、相違点1に係る訂正発明1の構成を有するものとすることを容易に想到することができたとまではいえない。 (エ)甲6に記載されたフッ素化層コーティング組成物5(FLC5)(【0241】【0208】)のように、2フォンブリン型のパーフロロオキシアルキレン基とその両末端に結合した加水分解性シリル基とを備える含フッ素シラン化合物と、架橋剤としてのテトラエトキシシラン(TEOS)とを含む組成物を用いて、撥水性を有する硬化被膜を形成することは一般的であることを考慮しても、上記判断には影響しない。 (オ)そして、訂正発明1は、相違点1に係る構成を有することにより、ガラス転移温度は比較的低い値となり、低温での弾性率が大きくなることを抑制でき、比較的低温においてもゴム特性を求められる用途、例えば、寒冷地において使用可能な自動車部材に使用できるという効果を奏する(本件明細書【0346】【0347】)。 (カ)したがって、訂正発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲2、3、6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)訂正発明2〜10について 訂正発明2〜10は、訂正発明1を更に特定したものであるから、訂正発明2〜10と甲1発明とは、少なくとも、相違点1において相違する。 したがって、訂正発明1と同様の理由により、訂正発明2〜10は、甲1に記載された発明、及び、甲2、3、6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)小括 以上によれば、甲1を主引例とする申立理由1(進歩性)は、理由がない。 2 甲4を主引例とする申立理由1(進歩性)について (1)甲4発明 甲4の請求項1、3、及び、【0046】、【0047】、【0057】〜【0059】、【0084】、【0085】の記載によれば、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。 「下記一般式(1): [式中、R1及びR2は独立に置換又は非置換の1価炭化水素基であり、R3は独立に水素原子又は置換若しくは非置換の1価炭化水素基であり、R4は独立に置換又は非置換の2価炭化水素基であり、Rfは2価のパーフルオロポリエーテル基であり、Xは独立に加水分解性基であり、Qは下記一般式(2): (式中、R5は結合途中に酸素原子、窒素原子及びケイ素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を介在させてもよい置換又は非置換の2価炭化水素基であり、R3は前記と同じである)又は下記一般式(3): (式中、R6及びR7は独立に置換又は非置換の2価炭化水素基である)で表される基であり、aは0以上の整数であり、bは1、2又は3である]で表される含フッ素有機ケイ素化合物、及び、触媒を含有する室温硬化性シリコーン組成物。」 (2)訂正発明1について ア 対比 訂正発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明の一般式(1)の含フッ素有機ケイ素化合物は、訂正発明1における「パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物」に対応するものであるから、訂正発明1と甲4発明とは、少なくとも次の相違点1’において相違する。 <相違点1’> パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル基が、訂正発明1においては、「式:−(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f― (式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上5以下の整数であり、cおよびdの和は、5以下であり、eおよびfは、それぞれ独立して5以上200以下の整数であり、c、d、eおよびfの和は少なくとも10以上であり、添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意であり、fに対するeの比が、0.40以上1.0未満であり、X10は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)で表される基」と特定されているのに対し、甲4発明においては、「2価のパーフルオロポリエーテル基」の具体的な構造が特定されていない点。 イ 判断 (ア)甲4には、一般式(1)で表される含フッ素有機ケイ素化合物における、Rfで表される2価パーフルオロポリエーテル基として、【0026】〜【0030】に【化16】〜【化25】の構造が記載され、そのうち、【化21】として、 「 (式中、nは平均で5〜50、例えば8であり、mは平均で1〜10、例えば2である)」 で示される、いわゆる2フォンブリン型の2価パーフルオロポリエーテル基(甲2におけるフォンブリンタイプZに相当)が挙げられている。 (イ)しかしながら、甲4の【0003】、【0052】、【0086】の記載によれば、甲4発明は、「耐薬品性、離型性及び撥水性に優れたエラストマーを得るのに適した新規含フッ素有機ケイ素化合物及びその製造方法並びにそれを含有する室温硬化性シリコーン樹脂組成物を提供すること」を課題とするものであり、甲4発明の含フッ素有機ケイ素化合物はフッ素含有率が高いため、これを含有する室温硬化性シリコーン組成物は、耐溶剤性、耐薬品性に優れ、さらには離型性及び撥水性にも優れたシーラント、成形部品、押出部品、被覆材料、離型剤等を得ることができることが記載されているが、甲4発明は、低温における使用に適した硬化物を形成する硬化性組成物を提供することを課題とするものでもないし、その適用対象についても特に低温において使用されることが意図されているものであることは記載されていない。 (ウ)そうすると、上記1(2)イ(イ)に説示した技術常識(甲2)、甲2及び甲3の記載を踏まえても、甲4発明において、低温における使用に適するように甲4発明の一般式(1)の含フッ素有機ケイ素化合物における「2価のパーフルオロポリエーテル基」の構造を工夫する動機付けがあるとはいえないし、仮に、その動機付けがあるとしても、甲4発明の一般式(1)の含フッ素有機ケイ素化合物における「2価のパーフルオロポリエーテル基」として、甲4の【化21】として記載された上記の構造を有するものとした上で、更に甲2を参照してその中の「CF2CF2O単位/CF2O単位の比」(e/f比)を0.4以上1.0未満とし、相違点1’に係る訂正発明1の構成を有するものとすることを容易に想到することができたとまではいえない。 (エ)上記1(2)イ(エ)に説示した甲6の記載を考慮しても、上記判断には影響しない。 (オ)そして、訂正発明1は、相違点1’に係る構成を有することにより、上記1(2)イ(オ)に説示した特有の効果を奏する。 (カ)したがって、訂正発明1は、甲4に記載された発明、及び、甲2、3、6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)訂正発明2〜10について 訂正発明2〜10は、訂正発明1を更に特定したものであるから、訂正発明2〜10と甲4発明とは、少なくとも、相違点1’において相違する。 そうすると、訂正発明1と同様の理由により、訂正発明2〜10は、甲4に記載された発明、及び、甲2、3、6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)小括 以上によれば、甲4を主引例とする申立理由1(進歩性)は、理由がない。 3 甲5を主引例とする申立理由1(進歩性)について (1)甲5発明 甲5の請求項1、実施例1等の記載によれば、甲5には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されている。 「(A)以下の構造を有する、1分子中に少なくとも2個の加水分解性基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状フルオロポリエーテル化合物、 (B)γ−エチレンジアミノプロピルトリエトキシシランである、カーボンファンクショナルシラン、 (C)硬化触媒である、テトラメチルグアニジノプロピルトリメトキシシラン、 を含有する、ゴム表面に硬化皮膜を形成するための、硬化性フルオロポリエーテル組成物。」 (2)訂正発明1について ア 対比 訂正発明1と甲5発明とを対比すると、甲5発明の成分(A)は、訂正発明1における「パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物」に対応するものであるから、訂正発明1と甲5発明とは、少なくとも次の相違点1''において相違する。 <相違点1''> パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル基が、訂正発明1においては、「式:−(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f― (式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上5以下の整数であり、cおよびdの和は、5以下であり、eおよびfは、それぞれ独立して5以上200以下の整数であり、c、d、eおよびfの和は少なくとも10以上であり、添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意であり、fに対するeの比が、0.40以上1.0未満であり、X10は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)で表される基」と特定されているのに対し、甲5発明においては、 「 (m+n=90)」と特定されている点。 イ 判断 (ア)甲5には、甲5発明について、「ゴム表面に室温硬化型パーフルオロポリエーテル組成物を塗布することにより、離型性、耐溶剤性、耐薬品性、耐候性、撥水性、撥油性、耐熱性、低透湿性が付与されたゴムを提供すること」を課題とすることが記載され(【0004】)、そのゴムの物品としては、Oリング、バルブ、フェースシール、オイルシール、ダイヤフラム、ガスケット、パッキン、チューブ、ホース、ロール、ベルトや、燃料電池用ゴム材料等が挙げられている(【0006】【0007】)が、甲5発明は、低温における使用に適した硬化物を形成する硬化性組成物を提供することを課題とするものではないし、その適用対象についても特に低温において使用されることが意図されているものであることは記載されていない。 (イ)そうすると、上記1(2)イ(イ)に説示した技術常識(甲2)、甲2及び甲3の記載を踏まえても、甲5発明において、低温における使用に適するように甲5発明の直鎖状フルオロポリエーテル化合物における「パーフルオロポリエーテル構造」を工夫する動機付けがあるとはいえないし、仮に、その動機付けがあるとしても、甲5発明において上記「パーフルオロポリエーテル構造」を、甲5に例示のない「CF2CF2O単位/CF2O単位の比」を有するものとし、更に甲2を参照してそれらの比を0.4以上1.0未満とし、相違点1''に係る訂正発明1の構成を有するものとすることを、当業者が容易に想到することができたとまではいえない。 (ウ)上記1(2)イ(エ)に説示した甲6の記載を考慮しても、上記判断には影響しない。 (エ)そして、訂正発明1は、相違点1''に係る構成を有することにより、上記1(2)イ(オ)に説示した特有の効果を奏する。 (オ)したがって、訂正発明1は、甲5に記載された発明、及び、甲2、3、6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)訂正発明2〜10について 訂正発明2〜10は、訂正発明1を更に特定したものであるから、訂正発明2〜10と甲5発明とは、少なくとも、相違点1''において相違する。 そうすると、訂正発明1と同様の理由により、訂正発明2〜10は、甲5に記載された発明、及び、甲2、3、6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)小括 以上によれば、甲5を主引例とする申立理由1(進歩性)は、理由がない。 4 甲6を主引例とする申立理由1(進歩性)について (1)甲6発明 甲6の【0208】、【0241】等の記載によれば、甲6には、次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。 「以下の構造を有するα,ω−ポリ(ペルフルオロオキシアルキレン)ジシランである「PPFO−Disilane」 (変数n及びmは、約9〜10の範囲)、及び、テトラエトキシシランを含有する、フッ素化層を形成するためのコーティング組成物。」 (2)訂正発明1について ア 対比 訂正発明1と甲6発明とを対比すると、甲6発明の「PPFO−Disilane」は、訂正発明1における「パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物」に対応するものであるから、訂正発明1と甲6発明とは、少なくとも次の相違点1'''において相違する。 <相違点1'''> パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物におけるパーフルオロ(ポリ)エーテル基が、訂正発明1においては、「式:−(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f― (式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上5以下の整数であり、cおよびdの和は、5以下であり、eおよびfは、それぞれ独立して5以上200以下の整数であり、c、d、eおよびfの和は少なくとも10以上であり、添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意であり、fに対するeの比が、0.40以上1.0未満であり、X10は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)で表される基」と特定されているのに対し、甲6発明においては、「(CF2O)m(C2F4O)m (変数n及びmは、約9〜10の範囲)」と特定されている点。 イ 判断 (ア)甲6には、「PPFO−Disilane」に対応するフッ素化シランにおける「二価のペルフルオロポリエーテル基」として、「−CF2O(CF2O)m(C2F4O)qCF2− (変数m及びqは、それぞれ独立して、0〜50の範囲、0〜40の範囲、0〜30の範囲、1〜30の範囲、3〜20の範囲、又は3〜10の範囲であってもよい。合計(m+q)は、多くの場合、1〜50の範囲、1〜40の範囲、1〜30の範囲、3〜20の範囲、1〜20の範囲、3〜20の範囲、1〜10の範囲、又は3〜10の範囲である。)」が例示されており(【0111】【0112】)、甲6発明における「PPFO−Disilane」における「二価のペルフルオロポリエーテル基」の繰り返し単位の数を変更し得ることが示唆されている。 (イ)他方、甲6には、甲6発明について、基材の表面に結合される酸焼結されたシリカナノ粒子のプライマー層に結合される疎水性フッ素化層を形成するための組成物であって、プライマー層及び疎水性フッ素化層を組み合わせることにより、摩擦及び/又は洗浄を繰り返し受けた場合でも、非常に耐久性があり得る疎水性コーティングを提供することができるものであることが記載され(【0012】)、実施例においては、ガラスプレート(【0247】)、ステンレススチールクーポン(【0251】)、PETフィルム(【0255】)を基材として用いたことが記載されていることからすれば、甲6発明は、低温における使用に適した硬化物を形成する硬化性組成物を提供することを課題とするものではないし、その適用対象についても特に低温において使用されることが意図されているものであることは記載されていない。 (ウ)そうすると、上記1(2)イ(イ)に説示した技術常識(甲2)、甲2及び甲3の記載を踏まえても、甲6発明において、低温における使用に適するように甲6発明の「PPFO−Disilane」における「(CF2O)m(C2F4O)m (変数n及びmは、約9〜10の範囲)」のnとmの比を工夫する動機付けがあるとはいえないし、仮に、その動機付けがあるとしても、甲6【0111】【0112】の上記記載を参照し、更に甲6発明とは具体的な組成等が異なる甲2に記載された組成物の記載を参照し、その図14に記載されたp/q比(n/m比に相当)の数値の中から、p/q比(0.69、0.54)を選択して、相違点1'''に係る訂正発明1の構成を有するものとすることを容易に想到することができたとまではいえない。 (エ)そして、訂正発明1は、相違点1'''に係る構成を有することにより、上記1(2)イ(オ)に説示した特有の効果を奏する。 (オ)したがって、訂正発明1は、甲6に記載された発明、及び、甲2、3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)訂正発明2〜10について 訂正発明2〜10は、訂正発明1を更に特定したものであるから、訂正発明2〜10と甲6発明とは、少なくとも、相違点1'''において相違する。 そうすると、訂正発明1と同様の理由により、訂正発明2〜10は、甲6に記載された発明、及び、甲2、3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)小括 以上によれば、甲6を主引例とする申立理由1(進歩性)は、理由がない。 5 申立理由3(明確性)について (1)申立人は、請求項1の「有機ケイ素化合物」(要件B)に関して式(El)、(E2)、(E3)、(E4)又は(E5)で示される有機ケイ素化合物とは別異なものとして列挙されている化合物のうち、「メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン」及び「トリデカフルオロ−n−オクチルトリエトキシシラン、トリデカフルオロ−n−オクチルトリメトキシシラン」は、それぞれ式(E3)に該当する有機ケイ素化合物であり、同じく「アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン」はそれぞれ式(E5)に該当する有機ケイ素合物であって、これらの個別に列挙されている有機ケイ素化合物は、いずれも二重に規定されているもの(double inclusion)であるから、訂正発明1の内容が不明瞭であり、訂正発明1、及び、訂正発明1を直接又は間接的に引用する訂正発明2〜5、8〜10は、明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号)に該当する旨を主張する(特許異議申立書63〜64頁)。 (2)判断 訂正発明1においては、「パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物」、「有機ケイ素化合物」、「触媒」を有する硬化性組成物であることが特定され、「パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物」及び「有機ケイ素化合物」の構造についても具体的に特定されているから、訂正発明1は、明確である。 申立人が指摘する、請求項1において、式(El)、(E2)、(E3)、(E4)又は(E5)で示される有機ケイ素化合物とは別異なものとして列挙されている化合物であるメチルトリエトキシシラン等が、式(E3)または(E5)に該当する有機ケイ素合物であって、二重に規定されていることによって、訂正発明1に係る硬化性組成物の組成自体が不明確となるものとはいえない。 したがって、訂正発明1、及び、訂正発明1を直接又は間接的に引用する訂正発明2〜5、8〜10は、明確である。 (3)小括 以上によれば、申立理由3(明確性)は、理由がない。 6 申立理由3(実施可能要件)について (1)判断 上記第5の1の記載によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、訂正発明1における各成分として使用できる具体例が記載され、実施例1、2において、訂正発明1に係る組成物を製造し、その効果についても確認されている。 そうすると、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明に基づいて、過度な試行錯誤を要することなく、訂正発明1に係る組成物を製造し、使用することができる。 また、訂正発明1を直接又は間接的に引用する訂正発明2〜10において、新たに特定された事項についても、本件明細書に具体的に説明されているから、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明に基づいて、過度な試行錯誤を要することなく、訂正発明2〜10に係る組成物を製造し、使用することができる。 (2)申立人の主張について 申立人は、訂正発明1〜10には、上記のとおり、形成される硬化被膜において撥水性や低温弾性等の性能が低いものが含まれ得るから、訂正発明1〜10の実施に当たり、形成される硬化被膜の撥水性や低温弾性を確保する上で無数の化合物を製造、スクリーニングして確認するという、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要がある旨を主張する(特許異議申立書65頁)。 申立人の上記主張における「上記のとおり、形成される硬化被膜において撥水性や低温弾性等の性能が低いものが含まれ得る」とは、具体的には、サポート要件違反に関する申立理由において主張した、「式(E2)の化合物においてε1が非常に大きい数値であるとき」、「訂正発明2の式(A)〜(D)において、リンカーであるX1、X3、X5,X7が非常に長大な構造のものであるとき」、「硬化物に構造中の架橋剤が占める割合が大きいとき」を指すものと解される。 しかしながら、上記(1)に説示したように、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度な試行錯誤を要することなく、訂正発明1〜10に係る組成物を製造し、使用することができる。 そして、申立人は、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要がある旨を主張するものの、その根拠について具体的な証拠を示していない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (3)小括 以上によれば、申立理由3(実施可能要件)は、理由がない 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。 また、その他の請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 水酸基および加水分解可能な基からなる群より選ばれる少なくとも1の基と結合したSi原子を2以上、および、パーフルオロ(ポリ)エーテル基を有する化合物であり、 パーフルオロ(ポリ)エーテル基は式: −(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f− (式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上5以下の整数であり、cおよびdの和は、5以下であり、eおよびfは、それぞれ独立して5以上200以下の整数であり、c、d、eおよびfの和は少なくとも10以上であり、添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意であり、fに対するeの比が、0.40以上1.0未満であり、X10は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。) で表される基であり、 前記水酸基および加水分解可能な基からなる群より選ばれる少なくとも1の基と結合したSi原子は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の分子主鎖の両末端に存在するパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物、 下記式(E1)〜(E5): 【化1】 [式中: Rg1は、各出現においてそれぞれ独立して、置換または非置換の炭素原子数1〜8の1価炭化水素基であり; Rg2は、各出現においてそれぞれ独立して、置換または非置換の炭素原子数1〜20の2価炭化水素基であり; Rg3は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または1価の有機基であり; Rg4は、各出現においてそれぞれ独立して、1価の有機基であり; Rg6は、Rg8−Rg7−を表し; Rg7は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合、酸素原子または2価の有機基を表し; Rg8は、各出現においてそれぞれ独立して、アミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ビニル基、またはメルカプト基であり; ε1は、各出現においてそれぞれ独立して、1以上の整数であり; ε2は、出現においてそれぞれ独立して、2または3であり; ε3は、各出現においてそれぞれ独立して、2または3であり; ε4は、2以上の整数であり; ε5は、1または2であり; ε6は、0以上の整数である。] のいずれかで示される有機ケイ素化合物、または、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ−n−オクチルトリエトキシシラン、およびトリデカフルオロ−n−オクチルトリメトキシシランからなる群から選択される有機ケイ素化合物、および 触媒 を有する、硬化性組成物。 【請求項2】 パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物が、式(A)、(B)、(C)、または(D): [式中: PFPE1は、各出現においてそれぞれ独立して、式: −(OC4F8)c−(OC3X106)d−(OC2F4)e−(OCF2)f− (式中、cおよびdは、それぞれ独立して0以上5以下の整数であり、cおよびdの和は、5以下であり、eおよびfは、それぞれ独立して5以上200以下の整数であり、c、d、eおよびfの和は少なくとも10以上であり、添字c、d、eまたはfを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意であり、fに対するeの比が、0.40以上1.0未満であり、X10は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。) で表される基であり; R13は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し; R14は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1〜22のアルキル基を表し; R11は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表し; R12は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し; R11”、R12”、R13”、およびR14”は、それぞれ、R11、R12、R13、およびR14と同意義であり; n1は、(−SiR13n1R143−n1)単位毎または(−SiR13”n1R14”3−n1)単位毎に独立して、0〜3の整数であり; ただし、式(A)、および(B)において、各出現においてそれぞれ独立して、R13およびR13”からなる群より選ばれる基が少なくとも2存在し; X1は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し; X2は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2価の有機基を表し; tは、各出現においてそれぞれ独立して、1〜10の整数であり; α1は、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり; X3は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し; β1は、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり; X5は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し; γ1は、各出現においてそれぞれ独立して、1〜9の整数であり; Raは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z3−SiR71p1R72q1R73r1を表し; Z3は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し; R71は、各出現においてそれぞれ独立して、Ra’を表し; Ra’は、Raと同意義であり; Ra中、Z3基を介して直鎖状に連結されるSiは最大で5個であり; R72は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し; R73は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し; p1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; q1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; r1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; Ra”は、各出現においてそれぞれ独立して、−Z3−SiR71p1R72”q1R73r1を表し; R72”は、R72と同意義であり; ただし、(−Z3−SiR71p1R72q1R73r1)毎、または(−Z3−SiR71p1R72”q1R73r1)毎において、p1、q1およびr1の和は3であり、式(C)において、少なくとも1つのq1が1〜3の整数であり; Rbは、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し; Rcは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し; Rb”、およびRc”は、それぞれ、Rb、およびRcと同意義であり; k1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; l1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; m1は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; ただし、(SiRak1Rbl1Rcm1)毎、または(SiRa”k1Rb”l1Rc”m1)毎において、k1、l1およびm1の和は3であり; (C)において、Rb、Rb”、R72、およびR72”からなる群より選ばれる基が少なくとも2存在し; X7は、それぞれ独立して、単結合または2〜10価の有機基を表し; δ1は、それぞれ独立して、1〜9の整数であり; Rdは、各出現においてそれぞれ独立して、−Z4−CR81p2R82q2R83r2を表し; Z4は、各出現においてそれぞれ独立して、酸素原子または2価の有機基を表し; R81は、各出現においてそれぞれ独立して、Rd’を表し; Rd’は、Rdと同意義であり; Rd中、Z4基を介して直鎖状に連結されるCは最大で5個であり; R82は、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し; Yは、各出現においてそれぞれ独立して、2価の有機基を表し; R85は、各出現においてそれぞれ独立して、水酸基または加水分解可能な基を表し; R86は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または低級アルキル基を表し; R83は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し; p2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; q2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; r2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; Rd”は、各出現においてそれぞれ独立して、−Z4−CR81p2R82”q2R83r2を表し; R82”は、−Y−SiR85”n2R86”3−n2を表し; ただし、(−Z4−CR81p2R82q2R83r2)毎または(−Z4−CR81p2R82”q2R83r2)毎において、p2、q2およびr2の和は3であり; n2は、(−Y−SiR85n2R863−n2)単位毎または(−Y−SiR85”n2R86”3−n2)単位毎に独立して、0〜3の整数を表し; R85”、およびR86”は、それぞれ、R85、およびR86と同意義であり; Reは、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85n2R863−n2を表し; Re”は、各出現においてそれぞれ独立して、−Y−SiR85”n2R86”3−n2を表し; Rfは、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子、水酸基または低級アルキル基を表し; Rf”は、Rfと同意義であり; k2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; l2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; m2は、各出現においてそれぞれ独立して、0〜3の整数であり; ただし、(CRdk2Rel2Rfm2)毎または(CRd”k2Re”l2Rf”m2)毎において、k2、l2およびm2の和は3であり、式(D)において、n2が1以上である−Y−SiR85n2R863−n2で表される基およびn2が1以上である−Y−SiR85”n2R86”3−n2で表される基からなる群より選ばれる基が2以上存在する。] で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物である、請求項1に記載の硬化性組成物。 【請求項3】 触媒が、金属系触媒、有機酸系触媒、無機酸系触媒、および塩基性触媒からなる群より選ばれる少なくとも1である、請求項1または2に記載の硬化性組成物。 【請求項4】 触媒が、チタン原子、ジルコニウム原子、またはスズ原子を含む金属系触媒である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬化性組成物。 【請求項5】 触媒が、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物100質量部に対して、0.1〜5.0質量部含まれる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬化性組成物。 【請求項6】 有機ケイ素化合物が、下記式(E1)〜(E5)のいずれかで示される有機ケイ素化合物を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化性組成物。 【化2】 [式中: Rg1は、各出現においてそれぞれ独立して、置換または非置換の炭素原子数1〜8の1価炭化水素基であり; Rg2は、各出現においてそれぞれ独立して、置換または非置換の炭素原子数1〜20の2価炭化水素基であり; Rg3は、各出現においてそれぞれ独立して、水素原子または1価の有機基であり; Rg4は、各出現においてそれぞれ独立して、1価の有機基であり; Rg6は、Rg8−Rg7−を表し; Rg7は、各出現においてそれぞれ独立して、単結合、酸素原子または2価の有機基を表し; Rg8は、各出現においてそれぞれ独立して、アミノ基、エポキシ基、メタクリル基、ビニル基、またはメルカプト基であり; ε1は、各出現においてそれぞれ独立して、1以上の整数であり; ε2は、出現においてそれぞれ独立して、2または3であり; ε3は、各出現においてそれぞれ独立して、2または3であり; ε4は、2以上の整数であり; ε5は、1または2であり; ε6は、0以上の整数である。] 【請求項7】 有機ケイ素化合物が、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ−n−オクチルトリエトキシシラン、およびトリデカフルオロ−n−オクチルトリメトキシシランからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化性組成物。 【請求項8】 パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物100質量部に対して、有機ケイ素化合物を0.1〜30質量部含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の硬化性組成物。 【請求項9】 c、d、eおよびfの和に対して、eおよびfの和が、0.80以上である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の硬化性組成物。 【請求項10】 X10が、フッ素原子である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の硬化性組成物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2023-06-29 |
出願番号 | P2019-550426 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L) P 1 651・ 121- YAA (C08L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
近野 光知 |
特許庁審判官 |
海老原 えい子 藤原 浩子 |
登録日 | 2022-01-12 |
登録番号 | 7007600 |
権利者 | ダイキン工業株式会社 |
発明の名称 | 硬化性組成物 |
代理人 | 吉田 環 |
代理人 | 澤内 千絵 |
代理人 | 川本 真由美 |
代理人 | 山田 卓二 |
代理人 | 川本 真由美 |
代理人 | 山田 卓二 |
代理人 | 吉田 環 |
代理人 | 澤内 千絵 |
代理人 | 式見 真行 |
代理人 | 式見 真行 |