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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1401685
総通号数 21 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-03-16 
確定日 2023-08-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第7144405号発明「セラミックス回路基板及びその製造方法とそれを用いたモジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7144405号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7144405号の請求項1〜6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2018年(平成30年)4月24日(優先権主張 平成29年4月25日)を国際出願日とする出願であって、令和4年9月20日にその特許権の設定登録がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜6に係る特許に対して、令和5年3月16日に特許異議申立人秋山美菜子(以下、「申立人秋山」という。)により特許異議の申立てがされ、同年3月29日に特許異議申立人茂木早苗(以下、「申立人茂木」という。)により特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜6に係る発明(以下、それぞれ順に「本件発明1」〜「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
セラミックス基板と銅板が、Ag、Cu及び活性金属を含むろう材を介して接合してなるセラミックス回路基板において、接合ボイド率が1.0%以下であり、ろう材成分であるAgの拡散距離が5〜20μmであり、活性金属がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びそれらの水素化物からなる群から選択される1以上を含む、セラミックス回路基板。
【請求項2】
セラミックス基板が窒化ケイ素または窒化アルミニウムからなる請求項1に記載のセラミックス回路基板。
【請求項3】
ろう材にSnが含まれることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミックス回路基板。
【請求項4】
接合温度への昇温過程における400℃〜700℃の温度域での加熱時間が5〜30分であり、接合温度720〜800℃で5〜30分保持して接合することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項5】
窒素雰囲気下の連続加熱炉で接合することを特徴とする請求項4に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板を用いるパワーモジュール。」

第3 申立理由の概要
1 申立人秋山は、証拠として甲第1号証〜甲第2号証(以下、「甲1−1」〜「甲1−2」という。)を提出し、以下の理由により、請求項1〜6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由1−1(サポート要件)
本件発明1〜6は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1〜6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)申立理由1−2(実施可能要件
発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、請求項1〜6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3)申立理由1−3(明確性要件)
本件発明1〜6は、特許請求の範囲の記載が明確でないから、請求項1〜6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(4)申立理由1−4(新規性
本件発明1〜4、6は、甲1−1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜4、6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(5)申立理由1−5(進歩性
本件発明1〜6は、甲1−1に記載された発明及び甲1−2に記載された事項に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

<証拠方法>
甲1−1:特開2014−90144号公報
甲1−2:特開2003−192462号公報

2 申立人茂木は、証拠として甲第1号証〜甲第7号証(以下、「甲2−1」〜「甲2−7」という。)を提出し、以下の理由により、請求項1〜6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由2−1(進歩性
本件発明1〜6は、甲2−1に記載された発明及び甲2−2、甲2−3、甲2−6又は甲2−7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)申立理由2−2(明確性要件)
本件発明1〜6は、特許請求の範囲の記載が明確でないから、請求項1〜6に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3)申立理由2−3(サポート要件)
本件発明1〜6は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1〜6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

<証拠方法>
甲2−1:特開2013−211546号公報
甲2−2:特許第4632116号公報
甲2−3:特許第4674983号公報
甲2−4:M.Singh、外3名、“Active Metal Brazing and Characterization of Brazed Joints in Titanium to Carbon-Carbon Composites”、Materials Science and Engineering A、2005年
甲2−5:Habib.A.Mustain、外2名、“Transient Liquid Phase Die Attach for High-Temperature Silicon Carbide Power Devices”、IEEE TRANSACTION ON COMPONENTS AND PACKAGING TECHNOLOGIES、2010年、Vol.33、No.3
甲2−6:特開平11−157952号公報
甲2−7:大沢 直、“最近のろう接技術”、日本金属学会会報、1982年、第21巻、第8号、p.626−635

第4 当審の判断
1 申立理由1−1及び2−3(サポート要件)について
(1) サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。

(2) サポート要件についての当審の判断
ア 本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」ともいう。)には、以下の記載がある(下線は合議体が付加した。)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス回路基板及びその製造方法とそれを用いたモジュールに関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐熱サイクル特性に優れたセラミックス回路基板とその製造方法とそれを用いたモジュールを提供することである。」

「【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のセラミックス回路基板は、セラミックス基板の一方の面に銅回路板、他方の面に銅放熱板を、Ag、Cu及び活性金属を含むろう材を介して接合してなるセラミックス回路基板である。
【0014】
本発明のセラミックス回路基板は、接合ボイド率が1.0%以下であることを特徴とする。ここで接合ボイド率とは、セラミックス基板と銅板との接合状態を評価する指標であり、超音波探傷装置で観察したセラミックス回路基板の接合ボイドの面積を計測し、銅回路パターンの面積で除して求めることができる。接合ボイド率を1.0%以下とすることで、接合強度が低下し、熱サイクル時に銅板が剥離してしまうのを抑制することができる。また、部分放電特性の低下なども抑制することができるため、パワーモジュール用のセラミックス回路基板として使用することができる。
【0015】
本発明のセラミックス回路基板は、ろう材成分であるAgの拡散距離が5〜20μmであることを特徴とする。ここでAgの拡散距離とは、セラミックス基板表面と、セラミックス基板表面から銅板表面方向(セラミックス基板表面に垂直方向)へAgが最も遠くへ拡散した部分までの距離であり、連続的なろう材層の厚みと一致するとは限らない。Agの拡散距離は、セラミックス回路基板の断面から走査型電子顕微鏡にて倍率500倍の視野(接合界面の水平方向に250μmの範囲)を重複しない範囲で無作為に3箇所選んで観察し、各視野で計測されるAgの拡散距離のうち最大のものとする。なお、走査型電子顕微鏡での観察は反射電子像で行う。反射電子像ではAgとCuの検出強度が異なり、Agが明るい色調で観察される。この色調のコントラストによりAgとCuを明確に識別することができる。本発明者は耐熱サイクル特性を向上させるために鋭意検討を行った結果、ろう材層の厚みではなく、銅板中へのAgの拡散を制御することにより、熱サイクル時に発生する熱応力を緩和させ、セラミックス基板へのクラックの発生や銅板の剥離を抑制することができることを見出した。Agの拡散距離を5μm以上とすることにより、セラミックス基板と銅板の接合が不十分となり、熱サイクル時に銅板が剥離してしまうのを抑制することができる。Agの拡散距離を20μm以下とし、銅板の機械的性質が変化して熱応力を受け易くなることを抑制することで、熱サイクル時にセラミックス基板にクラックが発生したり、銅板が剥離してしまうのを抑制することができる。品質のばらつきを減らすためにはAgの拡散距離が15μm以下であることがより好ましい。Agの拡散距離は接合温度や接合時間、ろう材の塗布量などによって調整することができる。」

「【0017】
本発明の一態様において、活性金属には、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブなどから少なくとも一種が選択される。活性金属の含有量は、AgとCuの合計100質量部に対して0.5〜10質量部が好ましい。活性金属の含有量が0.5質量部未満であるとセラミックス基板とろう材の濡れ性が低下し、接合ボイドが発生し易くなる。活性金属の含有量が10質量部を超えると接合界面に脆弱な活性金属の窒化物層が過剰に形成され、耐熱サイクル性が低下することがある。活性金属にはその水素化物を使用することもできる。この場合、水素化物中の水素が接合雰囲気による活性金属の酸化を抑制し、セラミックス基板との反応性を高め、接合性を向上させることができる。以下、活性金属にチタンを用いた場合の条件を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
ろう材にはAg、Cuまたは活性金属以外の成分を添加することもできる。中でも、ろう材の溶融温度を下げるためにSnを添加することが好ましい。ろう材の溶融温度を下げることにより、Agの拡散距離を制御し易くなる。Snの含有量は、AgとCuの合計100質量部に対して0.1〜15質量部が好ましい。Snの含有量が0.1質量部未満であるとその効果が小さく、15質量部を超えると接合時にろう材が流れ出すなどの不具合が生じてしまい、また、耐熱サイクル特性が低下することがある。」

「【0020】
耐熱サイクル特性を高めるためにAgの拡散距離を従来よりも短い5〜20μmにすると、接合不良発生のリスクが高くなり、厳密な接合温度、接合時間の制御が必要となる場合がある。本発明者は接合性と耐熱サイクル特性を両立するために鋭意検討を行った結果、接合において活性金属がセラミックス基板との反応以外で消費されるのを防ぎ、且つ、低温、短時間で接合することが有効であることを見出した。すなわち、接合温度への昇温過程における400℃〜700℃の温度域での加熱時間が5〜30分となるように急速昇温することで接合性が大幅に向上し、さらに接合温度720〜800℃で5〜30分保持して接合することで、従来では得られない耐熱サイクル特性を達成できる。
【0021】
接合温度への昇温過程における400〜700℃の温度域では、接合炉内の雰囲気またはろう材に含まれる不可避的な不純物によって活性金属の酸化反応、窒化反応などが進行し、接合性を低下させることを見出した。この温度域での加熱時間を5〜30分とすることにより、接合炉内の雰囲気によらず接合ボイド率を1.0%以下とすることができる。加熱時間を30分以内とすることで、活性金属がセラミックス基板と十分に反応せず、ろう材の濡れ性が低下して接合ボイドが発生するのを抑制することができる。接合性を高めるためには加熱時間が20分以下であることがより好ましい。加熱時間を5分以上とすることで、ろう材ペースト中の結合剤や可塑剤といった有機物が十分に熱分解されず、残留した炭素成分がセラミックス基板と銅板との接合性を低下させてしまうのを抑制することができる。400℃以上の温度域では、活性金属の反応速度が遅いことにより接合への影響が小さくなるのを抑制することができる。また、700℃以下の温度域では、一部のろう材が溶融し始めることにより雰囲気による活性金属の反応は起き難くなるのを抑制することができる。
【0022】
従来、真空雰囲気以外での接合では、昇温中に活性金属が酸化または窒化してしまい、接合不良を招いていたが、本発明のように温度制御をすることで、真空雰囲気以外でも接合を行うことが可能となる。本発明の一態様におけるセラミックス回路基板の製造方法は、窒素雰囲気下の連続加熱炉で接合することを特徴とする。ここで連続加熱炉とは、プッシャー、ベルト、ローラーなどにより、ろう材が塗布されたセラミックス基板や銅板、接合治具などを連続的に搬送し、熱処理できる加熱炉のことである。連続加熱炉は、炉内へのガス供給や炉外へのガス排気ができる構造であることが好ましい。炉内に供給するガスは窒素、アルゴン、水素などが好ましく、中でも生産性の点から窒素が好ましい。連続加熱炉内は酸素濃度50ppm以下の非酸化性雰囲気にすることが好ましい。酸素濃度を50ppm以下とすることで、ろう材が酸化され易くなるのを抑制することができる。ろう材が雰囲気に曝される隙間を減らすために、セラミックス基板と銅板を重ねた積層体を重しや治具などを用いて圧力1.0MPa以上で加圧して接合することが好ましい。加熱方法としては公知のものが適用でき、カーボンやモリブデンなどの抵抗加熱式、高周波加熱方式、マイクロ波加熱方式などを加熱源として用いることができる。
【0023】
非酸化性雰囲気で高温に保持された連続加熱炉にセラミックス基板と銅板を重ねた積層体を投入し、加熱設定温度や搬送速度を調整することにより、積層体の昇温速度を任意に制御することが出来る。そのため、従来の真空バッチ炉よりも厳密な接合温度、接合時間の制御が可能となる。接合温度720〜800℃で5〜30分保持して接合すると、従来よりも低温、短時間で接合できるため、セラミックス基板と銅板の熱膨張率差に起因する接合後の残留応力が低減し、さらにAgの拡散も抑制され、耐熱サイクル特性が格段に向上する。接合温度を720℃以上とし、保持時間を5分以上とすることで、ろう材の溶融不足により接合ボイドが生じてしまうのを抑制することができる。接合温度を800℃以下とし、保持時間を30分以内とすることで、Agの拡散距離が長くなり、熱サイクル時にセラミックス基板にクラックが発生したり、銅板が剥離してしまうのを抑制することができる。耐熱サイクル特性を高めるためには保持時間が20分以下であることがより好ましい。接合後のセラミックス回路基板は接合炉から搬出され冷却される。連続加熱炉内の加熱設定温度を変更することで冷却速度を調整することもできる。」

「【0025】
本発明のセラミックス回路基板に使用するセラミックス基板は、絶縁性、放熱性に優れた窒化ケイ素基板、窒化アルミニウム基板が好ましい。セラミックス基板の厚みは特に限定されないが、1.5mm以下とすることで熱抵抗が大きくなるのを抑制し、0.2mm以上とすることで耐久性がなくなるのを抑制するため、0.2〜1.5mmが好ましい。」

「【0029】
本発明のセラミックス回路基板は、厳しい信頼性が要求される車載用パワーモジュールへ適用することができる。
【0030】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。しかし、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
実施例1
厚み0.32mmの窒化ケイ素基板に、Ag粉末(福田金属箔粉工業社製「AgC−BO」)88質量部及びCu粉末(福田金属箔粉工業社製「SRC−Cu−20」)12質量部の合計100質量部に対して、TiH2粉末(大阪チタニウムテクノロジーズ社製「TSH−350」)を2.5質量
部、Sn粉末(三津和薬品化学社製「すず粉末(−325mesh)」)を4質量部混合したろう材ペーストを塗布量8mg/cm2となるようにロールコーターで塗布した。その後、窒化ケイ素基板の一方の面に回路形成用銅板を、他方の面に放熱板形成用銅板(いずれも厚み0.8mmの無酸素銅板)を重ね、窒素雰囲気下のローラー搬送式連続加熱炉(開口部寸法W500mm×H70mm、炉長3m)へ投入した。搬送速度は10cm/分とし、表1に示す接合条件となるようにヒーターの設定温度を調整して窒化ケイ素基板と銅板を接合した。接合した銅板にエッチングレジストを印刷し、塩化第二銅溶液でエッチングして回路パターンを形成した。さらにフッ化アンモニウム/過酸化水素溶液でろう材層、窒化物層を除去した。
【0032】
得られたセラミックス回路基板について、以下の物性を測定した。評価結果を表1に示す。
(1)接合ボイド率:超音波探傷装置(日立エンジニアリングFS300−3)で観察されるセラミックス回路基板の接合ボイドの面積を計測し、銅回路パターンの面積で除して算出した。
(2)Agの拡散距離:セラミックス回路基板を切断し、樹脂包埋及び断面研磨を行った後、走査型電子顕微鏡にて倍率500倍で無作為に任意の視野(接合界面の水平方向に250μmの範囲)3箇所の反射電子像を撮影し、セラミックス基板表面と、銅板中で最も銅板表面に近いAgの位置の間の最短距離を測定した。
(3)熱サイクル後のクラック率:セラミックス回路基板を、ホットプレート上350℃にて5分、25℃にて5分、ドライアイス中で−78℃にて5分、25℃にて5分保持を1サイクルとする熱サイクルを連続で10サイクル実施した。その後、銅板、ろう材層及び窒化物層をエッチングにて除去し、セラミックス基板の表面に発生した水平クラックをスキャナーにより600dpi×600dpiの解像度で取り込み、画像解析ソフトGIMP2(閾値140)にて二値化し算出した後、水平クラック面積を回路パターン面積で除して算出した。
【0033】
実施例2〜7、比較例2〜10
接合雰囲気、400℃〜700℃の温度域での加熱時間、接合温度、保持時間を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得た。測定結果を表1に示す。
【0034】
実施例8
Sn粉末を添加しないことと、接合温度と保持時間を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得た。測定結果を表1に示す。
【0035】
実施例9
TiH2粉末の添加量を1.0質量部に変えたことと、400℃〜700℃の温度域での加熱時間を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得た。測定結果を表1に示す。
【0036】
比較例1
従来の真空雰囲気のバッチ炉での接合条件にて接合したこと以外は実施例と同様にしてセラミックス回路基板を得た。測定結果を表1に示す。
【0037】
比較例11
TiH2粉末を添加しないこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得た。
測定結果を表1に示す。
【0038】
比較例5、6、11では接合ボイド率が高く、熱サイクル時に銅板が剥離してしまったため、クラック率を正当に評価することができなかった。
【0039】
【表1】


【0040】
表1の測定結果より、本発明のセラミックス回路基板は接合ボイドが1.0%以下と低く、接合性に優れ、また、熱サイクル後のクラック率が1.0%以下と低く、耐熱サイクル特性に優れており、高性能なパワーモジュールを生産性良く提供することができる。」

イ 前記アの【0008】によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「耐熱サイクル特性に優れたセラミックス回路基板とその製造方法とそれを用いたモジュールを提供すること」(以下、「本件課題」という。)である。

ウ 発明の詳細な説明において、前記アの【0013】〜【0015】には、「セラミックス基板の一方の面に銅回路板、他方の面に銅放熱板を、Ag、Cu及び活性金属を含むろう材を介して接合してなるセラミックス回路基板であって、接合ボイド率が1.0%以下であり、ろう材成分であるAgの拡散距離が5〜20μmである、セラミックス回路基板。」が記載されている。また、前記アの【0017】には、「活性金属には、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブなどから少なくとも一種が選択される」ことが記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明には、「セラミックス基板と銅板が、Ag、Cu及び活性金属を含むろう材を介して接合してなるセラミックス回路基板において、接合ボイド率が1.0%以下であり、ろう材成分であるAgの拡散距離が5〜20μmであり、活性金属がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びそれらの水素化物からなる群から選択される1以上を含む、セラミックス回路基板。」が記載されているといえる。

エ ここで、前記アの【0014】の記載によると、セラミックス回路基板において、接合ボイド率を1.0%以下とすることにより、接合強度が低下し、熱サイクル時に銅板が剥離してしまうのを抑制することができるという効果を奏するものである。また、前記アの【0015】の記載によると、銅板中へのAgの拡散を制御することにより、熱サイクル時に発生する熱応力を緩和させ、セラミックス基板へのクラックの発生や銅板の剥離を抑制することができ、Agの拡散距離を5μm以上とすることにより、セラミックス基板と銅板の接合が不十分となり、熱サイクル時に銅板が剥離してしまうのを抑制し、Agの拡散距離を20μm以下とすることで、熱サイクル時にセラミックス基板にクラックが発生したり、銅板が剥離してしまうのを抑制することができるという効果を奏するものである。
そして、前記効果は、前記アの【実施例】(【0031】〜【0040】)において裏付けられているといえる。

オ 前記ウで示した、発明の詳細な説明に記載されたセラミックス回路基板と、本件発明1とは、同様の構成を有するものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
そして、前記エによれば、前記ウで示したセラミックス回路基板は、接合ボイド率が1.0%以下であり、ろう材成分であるAgの拡散距離が5〜20μmであることにより、熱サイクル時に発生する熱応力を緩和させ、セラミックス基板へのクラックの発生や銅板の剥離を抑制することがでるものであるから、本件課題である、「耐熱サイクル特性に優れたセラミックス回路基板とその製造方法とそれを用いたモジュールを提供する」という課題を解決し得るものであることが理解できる。
以上によれば、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものである。

カ 発明の詳細な説明の前記アの【0025】、【0018】、【0020】、【0022】、【0029】には、本件発明2〜6と同様の構成が記載されているから、本件発明2〜6は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえ、また、本件発明2〜6は、いずれも本件発明1の構成を有するものであるから、本件発明1と同様に、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものである。

(3) 申立人の主張について
ア 申立人秋山の主張について
(ア)Agの拡散距離について
a 申立人秋山は、特許異議申立書の9ページ18行〜11ページ3行において、発明の詳細な説明の【0015】によれば、本件発明1の「Agの拡散距離」には、セラミックス基板表面に重なって存在する、ろう材層の厚みが含まれ、一方で、本件発明1には、ろう材層の厚みに上限が存在しないし、また、発明の詳細な説明にも、ろう材層の厚みに関する記載が存在しないため、本件発明1には、「Agの拡散距離」の大半又は全体がろう材層の厚みで占められるものも含まれるところ、発明の詳細な説明の【0015】によれば、本件発明1は「ろう材層の厚み」ではなく、「Agの拡散」を制御することで、課題を解決するものと解されるが、本件発明1には、「Agの拡散距離」に占める「ろう材層からのAgの拡散距離」が極めて小さい回路基板や、ろう材層からのAgの飛散が実質的にない(観測できない)回路基板(以下、これらを「非Ag飛散回路基板」という。)も含まれ、このような非Ag飛散回路基板では、「ろう材層の厚み」の制御が、「Agの拡散距離」の制御と同義であり、本件発明1には、課題を解決する手段である「ろう材層の厚みに替えたAgの拡散」の制御が行われないものも含まれるから、本件発明1は、特許を請求する全ての範囲において発明の課題を解決できると認識することができない旨主張している。

b しかし、本件発明1の「セラミックス基板」は、「セラミックス基板と銅板が、Ag、Cu、及び活性金属を含むろう材を介して接合してなる」ものであるところ、前記(2)アの【0015】の「Agの拡散距離とは、セラミックス基板表面と、セラミックス基板表面から銅板表面方向(セラミックス基板に垂直方向)へAgが最も拡散した部分までの距離であり、連続的なろう材層の厚みと一致するとは限らない。」との記載によれば、Agは、ろう材層から銅板内に拡散しているといえるから、本件発明1は、ろう材層の厚みに替えたAgの拡散距離の制御が行われているといえる。
よって、申立人秋山の前記主張は採用できない。

(イ)活性金属について
a 申立人秋山は、特許異議申立書の11ページ5行〜20行において、発明の詳細な説明の記載では、TiH2(チタンの水素化合物)を用いた実施例のみが開示され、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、並びにジルコニウム、ハフニウム、及びニオブの水素化物を用いた実施例が開示されておらず、活性金属の種類とAgの拡散距離との組合せに対する、耐熱サイクル特性の変化の傾向は、本件特許の出願時において不明であるから、ろう材がTiH2以外の活性金属を含む場合に、本件発明の課題が解決されるかは、発明の詳細な説明からは不明であって、当業者が明細書等の記載から認識できる事項ではないから、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張している。

b しかし、前記(2)アの【0017】の「本発明の一態様において、活性金属には、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブなどから少なくとも一種が選択される。活性金属の含有量は、AgとCuの合計100質量部に対して0.5〜10質量部が好ましい。活性金属の含有量が0.5質量部未満であるとセラミックス基板とろう材の濡れ性が低下し、接合ボイドが発生し易くなる。活性金属の含有量が10質量部を超えると接合界面に脆弱な活性金属の窒化物層が過剰に形成され、耐熱サイクル性が低下することがある。活性金属にはその水素化物を使用することもできる。この場合、水素化物中の水素が接合雰囲気による活性金属の酸化を抑制し、セラミックス基板との反応性を高め、接合性を向上させることができる。以下、活性金属にチタンを用いた場合の条件を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。」との記載から、活性金属はセラミックス基板と反応すれば、チタンの水素化物に限らないことが理解できる。
そして、前記(2)アの【0015】によれば、「Agの拡散距離」は「接合温度や接合時間、ろう材の塗布量などによって調整することができる」ものであるから、活性金属の種類によらず調整できるといる。
よって、申立人秋山の前記主張は採用できない。

イ 申立人茂木の主張について
(ア)ろう材に含まれるAgとCuの割合について
a 申立人茂木は、特許異議申立書の40ページ下から4行〜41ページ13行において、本件発明1のろう材層に含まれるAgとCuの割合について、甲2−4の記載を踏まえると、Agが明るい色調で観察され、色調のコントラストによりAgとCuが明確に識別されるには、相当量のAgがろう材に含まれている必要があると解され、また、発明の詳細な説明の【0015】の記載からもAgの量とコントラストの間には相関があると解され、ここで、発明の詳細な説明の【0016】を参照すると、AgとCuを100質量部としたとき、Agが70〜95質量部であることが記載されており、発明の詳細な説明の【0031】の実施例ではAgが88質量部に設定されており、これらの記載からすると、本件発明1に関して、SEMにおいて白く見えるAgの拡散距離を制御するためには、ろう材に70質量部以上のAgが含まれている必要があると解されるが、本件発明には、ろう材におけるAgの量が70質量部未満である場合を含むため、本件発明1〜6は、本件特許明細書に記載された範囲を超えるものである旨主張している。

b しかし、前記(2)アにおける【0016】の「AgとCuの組成比は・・・Ag70〜95質量部・・・が好ましい。」との記載は、ろう材に含まれるAgの含有量の好ましい範囲を示しているにすぎない。
そして、本件発明1においては、「ろう材のAgの拡散距離が5〜20μm」となるようなAgがろう材に含まれていればよく、ろう材に70質量部以上のAgが含まれている必要があるとはいえない。
よって、申立人茂木の前記主張は採用できない。

(イ)Ag以外の拡散について
a 申立人茂木は、特許異議申立書の41ページ14行〜42ページ10行において、甲2−5のFig.6(c)から銀リッチ領域と比較して、AuIn2などの領域の方が、より明るい色調で観察されることがわかることを踏まえると、本件発明1に関して、SEMにおいて明るい色調の領域がAgと識別されるためには、明るい色調が観察される他の元素が十分に少ないことが必要であると解され、例えば、本件発明1において、ろう材におけるAgの量が70〜90質量部であるのに対して、活性金属は10質量部以下(発明の詳細な説明の【0017】)、Snは15質量部以下(発明の詳細な説明の【0018】)であることが必要であると解され、換言すると、ろう材における具体的な組成が何ら特定されていない本件発明1によれば、Ag以外の拡散に基づいてAgの拡散距離が計測されることとなるため、本件発明1〜6は、本件特許明細書に記載された範囲を超えるものである旨主張している。

b 前記(2)アの【0015】の記載によれば、本件発明1の「Agの拡散距離」の測定に際し、走査型電子顕微鏡の反射電子像ではAgとCuの検出強度が異なり、銅板中に拡散したAgが明るい色調で観察されるものである。
一方、甲2−5のFig.6(c)は、銅板にAg、活性金属及びSnが拡散したものではないから、甲2−5の図を根拠として、「本件発明1に関して、SEMにおいて明るい色調の領域がAgと識別されるためには、明るい色調が観察される他の元素が十分に少ないことが必要であると解される」とする主張は前提において誤っている。
よって、申立人茂木の前記主張は採用できない。

(4) 小括
したがって、申立理由1−1、2−3は理由がない。

2 申立理由1−2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断手法
明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、方法の発明にあっては、その方法を使用できるように、それぞれ具体的に記載されていることが必要であると解されるから、以下、この観点に立って検討する。

(2)実施可能要件についての当審の判断
ア 本件発明1の「セラミックス回路基板」は、「セラミックス基板と銅板が、Ag、Cu及び活性金属を含むろう材を介して接合してなる」ものであるところ、当該「セラミックス回路基板」について、発明の詳細な説明の前記1の(2)アの【0017】には、活性金属には、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブなどから少なくとも一種が選択されることが記載されている。

イ 前記1の(2)アの【0020】には、耐熱サイクル特性を高めるためにAgの拡散距離を従来よりも短い5〜20μmにすると、接合不良発生のリスクが高くなり、厳密な接合温度、接合時間の制御が必要となる場合があるところ、接合性と耐熱サイクル特性を両立するために、接合において活性金属がセラミックス基板との反応以外で消費されるのを防ぎ、且つ、低温、短時間で接合することが有効であり、すなわち、接合温度への昇温過程における400℃〜700℃の温度域での加熱時間が5〜30分となるように急速昇温することで接合性が大幅に向上し、さらに接合温度720〜800℃で5〜30分保持して接合することで、従来では得られない耐熱サイクル特性を達成できることが記載されている。
また、前記1の(2)アの【0021】には、接合温度への昇温過程における400〜700℃の温度域では、接合炉内の雰囲気またはろう材に含まれる不可避的な不純物によって活性金属の酸化反応、窒化反応などが進行し、接合性を低下させるため、この温度域での加熱時間を5〜30分とすることにより、接合炉内の雰囲気によらず接合ボイド率を1.0%以下にできることが記載されている。

ウ 前記1の(2)アの【実施例】(【0031】〜【0035】)には、実施例1のセラミックス回路基板は、窒化ケイ素基板に、Ag粉末88質量部及びCu粉末12質量部の合計100質量部に対して、TiH2粉末を2.5質量部、Sn粉末を4質量部混合したろう材ペーストを塗布量8mg/cm2となるようにロールコーターで塗布し、その後、窒化ケイ素基板の一方の面に回路形成用銅板を、他方の面に放熱板形成用銅板を重ね、窒素雰囲気下のローラー搬送式連続加熱炉へ投入し、搬送速度は10cm/分とし、表1に示す接合条件となるようにヒーターの設定温度を調整して窒化ケイ素基板と銅板を接合し、接合した銅板にエッチングレジストを印刷し、塩化第二銅溶液でエッチングして回路パターンを形成し、さらにフッ化アンモニウム/過酸化水素溶液でろう材層、窒化物層を除去して得たものであること、実施例2〜7のセラミックス回路基板は、400℃〜700℃の温度域での加熱時間、接合温度及び保持時間を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様にして得たこと、実施例8のセラミックス回路基板は、Sn粉末を添加しないことと、接合温度と保持時間を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして得たこと、実施例9のセラミックス回路基板は、TiH2粉末の添加量を1.0質量部に変えたことと、400℃〜700℃の温度域での加熱時間を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして得たことが記載されている。
そして、表1の実施例1〜9では、400℃〜700℃の温度域での加熱時間が5分〜28分、接合温度が725℃〜795℃、保持時間が7分〜28分の範囲では、接合ボイド率が0.04〜0.92、Agの拡散距離が6〜19の範囲となっている。

エ 前記ア〜ウによれば、「セラミックス基板と銅板が、Ag、Cu及び活性金属を含むろう材を介して接合してな」り、「活性金属がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びそれらの水素化物からなる群から選択される1以上を含む」、「セラミックス回路基板」の製造方法においては、400℃〜700℃の温度域での加熱時間、接合温度及び保持時間を制御することにより、接合ボイド率、及び、Agの拡散距離を調整できることが理解でき、400℃〜700℃での温度域の加熱時間を5〜30分とし、接合温度を720〜800℃で5〜30分保持して接合することで、「接合ボイド率」が「1.0%以下」であり、「ろう材成分であるAgの拡散距離」が「5〜20μm」である、「セラミックス回路基板」を製造することができることを理解することができる。
よって、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明1に係る「セラミックス回路基板」を生産し、使用することができるものであり、また、本件発明4に係る「セラミックス回路基板の製造方法」を使用することができるものであるといえる。

オ 前記1の(2)アの【0025】、【0018】、【0029】には、「セラミックス基板は、絶縁性、放熱性に優れた窒化ケイ素基板、窒化アルミニウム基板が好ましい」こと、「ろう材にはAg、Cuまたは活性金属以外の成分を添加することもできる。中でも、ろう材の溶融温度を下げるためにSnを添加することが好ましい」こと、「セラミックス回路基板は、厳しい信頼性が要求される車載用パワーモジュールへ適用することができる」ことが記載されているから、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明2、3に係る「セラミックス回路基板」を生産し、使用することができ、また、本件発明6に係る「パワーモジュール」を生産し、使用することができものであるといえる。

カ 前記1の(2)アの【0022】には、「本発明の一態様におけるセラミックス回路基板の製造方法は、窒素雰囲気下の連続加熱炉で接合すること」が記載されているから、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明5に係る「セラミックス回路基板の製造方法」を使用することができるものであるといえる。

(3) 申立人の主張について
ア 申立人秋山の主張について
(ア) Agの拡散距離及び活性金属について
a 申立人秋山は、特許異議申立書の11ページ下から4行〜12ページ8行において、本件発明1の「Agの拡散距離」には、「ろう材層の厚み」が含まれる一方で、本件発明1には、ろう材層の厚みに上限が存在しないし、また、発明の詳細な説明にも、ろう材層の厚みに関する記載が存在しないため、本件発明1では「ろう材層からのAgの拡散距離」(「Agの拡散距離」から「ろう材層の厚み」を減じた値)の範囲が不明であるから、本件発明の課題を解決できるセラミックス回路基板を得ることは、「ろう材層からのAgの拡散距離」を最適化するために当業者に過度な実験や特殊な知識を求めることとなる旨主張している。
また、申立人秋山は、特許異議申立書の12ページ10行〜20行において、発明の詳細な説明の記載では、TiH2(チタンの水素化合物)を用いた実施例のみが開示され、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、並びにジルコニウム、ハフニウム、及びニオブの水素化物を用いた実施例が開示されておらず、ろう材がTiH2以外の活性金属を含む場合に、どのような製造条件(例えば、ろう材の組成、接合条件など)で本件発明の課題を解決できるセラミックス回路基板が得られるか不明であるから、本件発明を実施することは当業者に過度な実験や特殊な知識を求めることになり、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨主張している。

b しかし、実施可能要件の判断手法は、前記(1)に示したとおりであり、前記1(1)で述べたサポート要件についての判断手法とは異なるものである。
そして、当業者が本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明1〜6を実施できることは、前記(2)で検討したとおりである。
よって、申立人秋山の前記主張は、いずれも採用できない。

(4) 小括
したがって、申立理由1−2は理由がない。

3 申立理由1−3及び2−2(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるから、以下、この観点に立って検討する。

(2)明確性要件についての当審の判断
前記1の(2)アの【0015】の記載によれば、請求項1に記載の「Agの拡散距離」とは、セラミックス基板表面と、セラミックス基板表面から銅板表面方向(セラミックス基板表面に垂直方向)へAgが最も遠くへ拡散した部分までの距離であって、セラミックス回路基板の断面から走査型電子顕微鏡にて倍率500倍の視野(接合界面の水平方向に250μmの範囲)を重複しない範囲で無作為に3箇所選んで観察し、各視野で計測されるAgの拡散距離のうち最大のものである。
すなわち、「Agの拡散距離」は、セラミックス基板表面と、セラミックス基板表面から銅板表面方向へAgが最も遠くへ拡散した部分の2点間の距離であり、その測定方法は、走査型電子顕微鏡にて倍率500倍の視野(接合界面の水平方向に250μmの範囲)を重複しない範囲で無作為に3箇所選んで観察し、各視野で計測されるAgの拡散距離のうち最大の距離とするものであることを理解することができるから、請求項1の「Agの拡散距離」との記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
そして、請求項1における「Agの拡散距離」以外の記載においても、不明確な記載は見当たらない。
したがって、本件発明1は明確である。
また、請求項2〜6にも不明確な記載は見当たらないから、本件発明2〜6は明確である。

(3) 申立人の主張について
ア 申立人秋山の主張について
(ア) 「無作為」について
a 申立人秋山は、特許異議申立書の12ページ下から5行〜13ページ8行において、発明の詳細な説明の【0015】の「無作為」の意味するところが不明確であり、一義的でないため、観察視野の選択の仕方が観察者によって異なり、測定方法が定まらないから、本件発明1の「Agの拡散距離」の範囲は一義的に定まらない旨主張している。

b 「無作為」とは、「作為のないこと。意図的に手を加えることなく、偶然にまかせること。ランダム」(広辞苑第六版)であり、前記1の(2)アの【0015】に「Agの拡散距離は、セラミックス回路基板の断面から走査線電子顕微鏡にて倍率500倍の視野(接合界面の水平方向に250μmの範囲)を重複しない範囲で無作為に3箇所選んで観察し、各視野で計測されるAgの拡散距離のうち最大のものとする」と記載されているように、Agの拡散距離は、セラミックス回路基板の断面から、上記視野を重複しない範囲で作為なくランダムに3箇所選んで観察し、各視野で計測されるAgの拡散距離のうち最大のものとするのであるから、測定方法は明確であって、本件発明1の「Agの拡散距離」の範囲は一義的に定まらないとはいえない。
よって、申立人秋山の前記主張は採用できない。

イ 申立人茂木の主張について
(ア) Agの拡散距離の定義について
a 申立人茂木は、特許異議申立書の35ページ5行〜38ページ4行において、本件特許明細書の図1、2には符号「5」で示されるAgの拡散距離よりも遠い位置に薄い白色点が観察されるが、当該白色点は計測に用いられていないことから、本件特許明細書の記載からは、Agとその他の元素との識別方法が明確でなく、Agの拡散距離もどのように計測されるべきか不明確である旨主張している。

b しかし、本件特許の願書に添付された図1、2において、符号「5」で示されるAgの拡散距離よりも遠い位置には、薄い白色点は観察されない。また、「Agの拡散距離」についての測定方法は、前記(2)のとおりであり、明確である。
よって、申立人茂木の前記主張は採用できない。

(イ) 拡散距離の基準点について
a 申立人茂木は、特許異議申立書の38ページ5行〜39ページ3行において、本件特許明細書の【0015】の記載から拡散距離の起点はセラミックス基板の表面であるが、図1では、セラミックス基板とAgとのコントラスト差から決定される面とは異なるものと推察され、本件特許明細書には、拡散距離の起点をどのように定義するか、何ら具体的な記載がないから、Agの拡散距離は計測できない旨主張している。

b しかし、前記(2)で検討したように、拡散距離の起点は、「セラミックス基板表面」であるから明確であるといえる。
よって、申立人茂木の前記主張は採用できない。

(ウ) 拡散距離の基準点について
a 申立人茂木は、特許異議申立書の39ページ4行〜8行において、本件発明1は、どのような断面においてもAgの拡散距離が5μm以下の箇所を含んでも良いのか明確でない旨主張している。

b しかし、前記(2)で検討したとおり、「Agの拡散距離」は、セラミックス基板表面と、セラミックス基板表面から銅板表面方向へAgが最も遠くへ拡散した部分の2点間の距離であり、その測定方法は、走査型電子顕微鏡にて倍率500倍の視野(接合界面の水平方向に250μmの範囲)を重複しない範囲で無作為に3箇所選んで観察し、各視野で計測されるAgの拡散距離のうち最大の距離とするものであるから、どのような断面においてもAgの拡散距離が5μm〜20μmである必要はなく、また、Agの拡散距離が5μm以下の箇所を含んでも良いことは明らかである。
よって、申立人茂木の前記主張は採用できない。

(エ) 「Agの拡散距離」の技術的な意義について
a 申立人茂木は、特許異議申立書の39ページ9行〜40ページ20行において、本件特許明細書の「Agの拡散距離」について、発明の詳細な説明の【0015】に「ろう材層の厚みではなく、銅板中へのAgの拡散を制御する」と記載されているにもかかわらず、本件発明1の「Agの拡散距離」は、ろう材の厚みを含む値となっているため、「Agの拡散距離」の技術的意義が不明である旨主張している。

b しかし、前記(2)で検討したように、「Agの拡散距離」は、セラミックス基板表面と、セラミックス基板表面から銅板表面方向へAgが最も遠くへ拡散した部分の2点間の距離であるから、「Agの拡散距離」の技術的な意義が不明であるとはいえない。
よって、申立人茂木の前記主張は採用できない。

(4) 小括
したがって、申立理由1−3、2−2は理由がない。

4 申立理由1−4(新規性)、申立理由1−5及び2−1(進歩性)について
(1) 甲号証の記載、甲号証に記載された発明
ア 甲1−1の記載、甲1−1発明
(ア) 甲1−1の記載(下線は合議体が付加した。以下同じ。)
「【請求項1】
セラミック基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板が活性金属としてTiを含有するろう材により接合されてなるセラミック回路基板において、セラミック基板の鏡面光沢度が5.0以上、セラミック回路基板の接合ボイドが10%以下であって、セラミック回路基板のろう材層がAgを含有する合金中にCuを含有する合金が分散した構造を有し、その厚みが11〜24μmであり、Ti化合物の厚みが0.4〜0.6μmで、その占有面積が12〜85%であることを特徴とするセラミック回路基板。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は半導体素子を搭載し、微細なクラックを生じることなく超音波接合により銅電極を直接接合できるセラミック回路基板とその製造方法に関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は半導体素子を搭載し、超音波接合により銅電極を直接接合しても、微細なクラックを生じることのないセラミック回路基板とその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0006】
本発明のセラミック回路基板にあっては、セラミック基板の一方の面に銅回路、他方の面に銅放熱板が、活性金属としてTiを含有するろう材により接合されてなるセラミック回路基板において、セラミック基板の鏡面光沢度が5.0以上、セラミック回路基板の接合ボイドが10%以下であって、セラミック回路基板のろう材層がAgを含有する合金中にCuを含有する合金が分散した構造を有し、その厚みが11〜24μmであり、Ti化合物の厚みが0.4〜0.6μmで、その占有面積が12〜85%であることを特徴とするものである。」

「【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
まず、本発明に関わるセラミック基板は、放熱性に優れた窒化アルミニウム基板、窒化けい素基板が好ましく、そのセラミック基板の厚みとしては、1.5mmを越えると熱抵抗が大きくなり、0.2mm未満では耐久性がなくなるため、0.2〜1.5mmが好ましい。
・・・
【0013】
本発明に関わるセラミック基板は、基板表面の鏡面光沢度が5.0以上であることが好ましく、9.0以上であることがより好ましい。詳細を説明すると、本発明に関わるろう材は、ろう材中のTiが窒化アルミニウム基板または、窒化けい素基板の表面と反応したTi化合物を形成し、それを介して溶融したろう材が基板表面および銅板表面に濡れ広がることにより接合されるものであるが、このとき、セラミック基板の表面に微小な凹凸が多数あると基板表面とTiの反応が阻害されたり、ろう材の濡れ広がりが不十分で接合できない場合がある。従来から基板表面の性状を評価する手法として、JIS B 0601記載の表面粗さ計による算術平均粗さ(Ra)や最大高さ(Ry)を用いられているが、計測される箇所は、微小な範囲であるために基板表面の状態を把握するには十分ではなかった。本発明者らは、鋭意検討をおこなった結果、JIS Z 8741に規定される鏡面光沢度(堀場製作所製グロスチェッカIG−320、入射角60°受光角60°)を用いることで基板表面の微小な凹凸を広範囲にわたってより的確に把握できることを見出し、さらに、その値が5.0以上であれば、ろう材の濡れ広がりの影響が小さくなることを見出した。鏡面光沢度が5.0を下回る場合、ろう材の濡れ広がり影響するため、部分的に接合できない場合があり、接合ボイドを生じ易くなるためである。
・・・
【0015】
本発明に関わるセラミック基板と銅板の間に形成されるろう材層は、Agを主成分とする合金中にCuを主成分とする合金が分散した構造を有し、かつその厚みが11〜24μmであることを特徴とするものである。
既に記載したが、超音波接合はセラミック回路基板の所望の位置に銅電極を配置し、回路基板と接合する電極端子の上部から荷重を負荷した後、基板の水平方向に超音波の振動を付与する手法である。そのため、セラミック基板と銅回路の界面に強い応力が発生し、セラミック基板の表面に微小なクラックを生じたり、場合によってはセラミック基板が割れ、絶縁性を確保できなくなる等、信頼性に影響することがあった。本発明者らは、鋭意検討をおこない、上記したろう材層の構造と厚みとすることにより、基板と銅回路の界面に負荷される応力を緩和することができ、セラミック基板に微小なクラックを生じることなく銅電極を超音波にて接合できることを見出した。
・・・
【0018】
さらに本発明に関わるセラミック回路基板は、活性金属であるTiとセラミック基板表面と反応したTi化合物の厚みが0.4μm〜0.6μmであり、Ti化合物の占める面積がセラミック基板の12〜85%であることを特徴とするものである。これらの計測手法としては、上記記載した走査型電子顕微鏡による回路基板の断面において、セラミック基板の表面近傍を倍率5000倍で観察することによってTi化合物の厚みを計測することができる。また、Ti化合物の占める面積の計測は、まず、セラミック回路基板を塩化第二銅にて銅板を溶解し、チオ硫酸アンモニウム水溶液に浸漬することにより、Ti化合物が残留した基板を得ることができ、その表面を走査型電子顕微鏡にて倍率200倍で観察した画像を画像解析(MediaCybernetics解析ソフトImagePro)することによってTi化合物の占める面積を求めることができる。
【0019】
ここで接合時のTi化合物の役割を簡単に説明すると、基板表面に形成するTi化合物は、ろう材とセラミック基板とを結合する化合物であって、セラミック基板と強く結合している。しかしながら、Ti化合物が厚くなるとセラミック基板との熱特性の差(線膨張率)により基板表面に微小なクラックが発生し易くなり、セラミック回路基板の信頼性が損なわれるため、Ti化合物の厚みは極力薄くすることが好ましく、Ti化合物の占める面積がセラミック基板の85%を越えると部分的にTi化合物の厚みが厚くなるためであり、12%未満であると部分的に接合していない接合ボイドを生じる場合があるためである。
【0020】
本発明に関わるセラミック回路基板の製造は、ろう材金属成分であるAg、Cu、Ti、Snであるが、上記金属成分に含有される酸素量は、0.15質量%以下(0を含まず)であることを特徴とするものである。ろう材の金属成分に含有する酸素量が0.15質量%以下であるのは、ろう材中のTiが酸化により消費され、セラミック基板との反応が不足するために部分的に接合されないために接合ボイドを生じる場合があるためである。
・・・
【0022】
本発明に関わるセラミック回路基板の接合温度は、真空度10−3Pa以下の真空炉で780〜810℃であることが好ましく、その保持時間は、いずれも10〜30分であることが望ましい。接合温度がこれより低くかったり、保持時間を短かくした場合、Ti化合物の生成が十分にできないために部分的に接合できない場合があるためであり、逆に高温であったり、保持時間が長すぎる場合には、銅板へのろう材成分の拡散が進行し、ろう材層の厚みが薄くなり、応力緩和の効果が減ぜられ、セラミック基板にクラックを生じる場合があるためである。」

「【実施例】
【0025】
実施例1〜10 比較例1〜10
Ag粉末(比表面積0.6m2/g、酸素量0.16質量%)、Cu粉末(比表面積0.7m2/g、酸素量0.05質量%)、TiH2粉末(特級試薬)、Sn粉末(特級試薬)を、表1に示す各種比率にて混合した。この粉末100質量部に、テレピネオール15質量部、ポリイソブチルメタクリレートのトルエン溶液を固形分として1.3質量部を三本ロールにて混合し、目開き20μmのナイロンメッシュを通過させ、ろう材ペーストを調整した。これを、厚み0.635mm×52mm×45mmの窒化アルミニウム基板(熱伝導率180W/mK、3点曲げ強度500MPa、鏡面光沢度15.2)の表面及び裏面に、ろう材層の厚み(乾燥後の厚み)が所望の厚みとなるようロールコーターを用いて塗布した。その後、表面に回路形成用銅板を、裏面に放熱板形成用銅板(いずれも無酸素銅板)を重ね、6.5×10−4Paの真空炉中、400℃まで昇温し、真空度が5.0×10−3Paになるまで保持した後、800℃まで昇温し20分保持した後、冷却速度5℃/minにて600℃まで冷却し、4時間保持した後、1℃/minにて冷却し、銅板と窒化アルミニウム基板の接合体を製造した。
【0026】
接合体の回路形成用銅板に、スクリーン印刷によりUV硬化型エッチングレジストを回路パターンに印刷し、UV硬化させた後、さらに放熱面形状を印刷しUV硬化させた。これをエッチャントとして塩化第2銅水溶液にてエッチングをおこない、続いて60℃のチオ硫酸アンモニウム水溶液とフッ化アンモニウム水溶液で随時処理し、回路パターンと放熱板パターンを形成し、ろう材の金属成分やろう材厚の異なった回路基板の中間体を種々製造した。
・・・
【0028】
ついで、無電解Ni−Pめっきを施した回路基板を製造し、以下の評価をおこなった。
【0029】
接合ボイド:超音波探傷検査装置(日立エンジニアリングFS300−3)にて回路基板内の接合ボイドを1条件あたり20枚計測し、回路の面積に占める比率を計算し、その20枚計測した中で最大値を用いて以下の3つにランク分けをおこなった。
A:1%以下、B;1%を越え10%以下、C:10%を越え実用に耐え得られない
【0030】
超音波接合評価:1.5mm厚の銅電極材を超音波接合試験機(アドウェルズUP−Lite3000)にて、荷重1200N、周波数20kHz、振幅50μm、接合時間0.4秒で接合した。接合後、銅電極および回路基板の銅板をエッチングにて除去し、セラミック基板の表面の観察を光学顕微鏡(倍率50倍)で観察をおこなった。試験数は1条件あたり50枚を使用し、目視で観察できる軽微なクラックが発生した枚数を以下の3つにランク分けをおこなった。
A:0枚、B:1〜5枚、C:6枚以上
【0031】
熱サイクル試験評価:作成したセラミック回路基板を熱衝撃試験に投入し、−40℃×30分、125℃×30分を1サイクルとする熱衝撃試験を500サイクルおこなった後、銅板をエッチングにて除去し、セラミック基板の表面に発生するクラックの発生状態を光学実体顕微鏡(倍率50倍)にて観察し、その20枚計測した中で最大値を用いて以下の3つにランク分けをおこなった。
A:クラックが観察されない、B:クラック長100μm未満が観察されるもの、C:クラック長100μm以上が観察されるもの
【0032】
各評価を勘案し、総合評価として以下の3段階で評価した。
◎:すべての評価においてAランクであったもの
○:超音波接合評価がAランクであるが、その他の評価がBであるもの
×:超音波接合評価がB若しくはCランクまたはその他の評価がCであるもの
【0033】
各試験評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】



(イ)甲1−1の記載事項
甲1−1には、次の技術的事項が記載されている。

a 前記(ア)の【0001】、【0005】によれば、甲1−1に記載された技術は、半導体素子を搭載し、微細なクラックを生じることなく超音波接合により銅電極を直接接合できるセラミック回路基板とその製造方法に関するものであり、半導体素子を搭載し、超音波接合により銅電極を直接接合しても、微細なクラックを生じることのないセラミック回路基板とその製造方法を提供することを目的とするものである。

b 前記(ア)の【0011】によれば、セラミック基板は、窒化アルミニウム基板、窒化けい素基板である。

c 前記(ア)の【0018】によれば、Tiは活性金属である。

d 前記(ア)の【0020】によれば、Ag、Cu、Ti、Snは、ろう材金属成分である。

e 前記(ア)の【0025】、【0026】、【0028】によれば、実施例1は、Ag粉末、Cu粉末、TiH2粉末、Sn粉末を、表1に示す各種比率にて混合し、ろう材ペーストを調整し、窒化アルミニウム基板の表面に回路形成用銅板を、裏面に放熱板形成用銅板(いずれも無酸素銅板)を重ね、銅板と窒化アルミニウム基板の接合体を製造し、接合体の回路形成用銅板に、回路パターンと放熱板パターンを形成し、中間体を種々製造し、無電解Ni−Pめっきを施して得られた、セラミック回路基板であるから、セラミック回路基板は、窒化アルミニウム基板の表面に回路形成用銅板、裏面に放熱板形成用銅板が、Ag、Cu、Ti、Snを含むろう材により接合されたものである。

f 前記(ア)の表1から、実施例1は、セラミック基板の鏡面光沢度が15.2であり、セラミック回路基板のろう材層の厚みが11μmであり、セラミック回路基板のTi化合物の厚みが0.5μm、Ti化合物の占有面積が42%、セラミック回路基板の接合ボイド率、超音波接合及び耐熱サイクル性がいずれも評価Aである。
そして、前記評価Aについて、前記(ア)の【0029】〜【0031】によれば、実施例1は、セラミック回路基板のボイド率が1%以下であり、超音波接合評価で軽微なクラックが発生しておらず、熱サイクル試験評価でクラックが観察されないものである。

(ウ)甲1−1発明
前記(ア)、(イ)から、甲1−1には、以下の発明(以下、「甲1−1発明」という。)が記載されている。

「窒化アルミニウム基板の表面に回路形成用銅板、裏面に放熱板形成用銅板が、Ag、Cu、Ti、Snを含有するろう材により接合されたセラミック回路基板において、窒化アルミニウム基板の鏡面光沢度が15.2、接合ボイドが1%以下、ろう材層の厚みが11μm、Ti化合物の厚みが0.5μm、Ti化合物の占有面積が42%である、セラミック回路基板。」

イ 甲1−2の記載、甲1−2発明
(ア) 甲1−2の記載
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は活性金属を含むろう材によって窒化珪素基板と銅板とを接合した窒化珪素回路基板およびその製造方法に係り、特に接合された銅板の板厚が従来のものよりも厚いものにおいて、耐熱サイクル特性・信頼性を向上させた窒化珪素回路基板およびその製造方法に関する。」

「【0011】本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、パワートランジスタやレーザーダイオード等の装着に使用される比較的厚い金属板を有する窒化珪素回路基板において、窒化珪素基板へのクラックの発生や金属板の剥離等が抑制された窒化珪素回路基板およびその製造方法を提供することを目的としている。
・・・
【0017】
【発明の実施の形態】以下、発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】図1は本発明の窒化珪素回路基板を示した断面図である。本発明の窒化珪素回路基板1は、窒化珪素基板2の少なくとも一方の面に、接合層3により銅板4が接合されてなるものである。銅板4は、例えば回路板等として使用されるものであり、その厚さは少なくとも0.5mm以上である。本発明では、このような厚めの銅板4を使用することで、高い放熱性、電流容量を得ることができ、レーザーダイオードやパワートランジスタ等の比較的大電力を必要とするものを搭載することができる。
・・・
【0020】本発明の窒化珪素回路基板1においては、窒化珪素基板2と銅板4とは接合層3を介して接合されている。この接合層3は、Ag、Cuおよび活性金属等からなるものである。活性金属としては、Ti、Zr、HfおよびNbから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】この接合層3はより具体的には、Ag−Cu−活性金属の混在層5と活性金属窒化物層6(TiN等)とからなるものである。活性金属窒化物層6は、接合層3のうち窒化珪素基板2側に形成されるものであり、窒化珪素基板2と銅板4とを接合する際に使用した活性金属ろう材等に含まれていた活性金属と窒化珪素基板の窒素とが反応して形成されたものである。このようなTiN層等を形成することで、比較的高い接合強度を得ることができる。
【0022】また、窒化珪素基板2に接合層3を介して接合される銅板4は、より具体的には、Ag成分が拡散したことにより形成されたAg拡散層7と、Ag成分が拡散していない非拡散層8とからなるものであることが好ましい。このAg拡散層7は、窒化珪素基板2と銅板4とを接合する際に、活性金属ろう材等に含まれていたAg成分の拡散により、あるいは窒化珪素基板2と銅板4とを接合した後に、熱処理により接合層3に含まれていたAg成分を拡散させることにより形成されたものである。
【0023】このAg成分が拡散されたAg拡散層7は、銅板(Ag成分が拡散されていない部分)の熱膨張率と窒化珪素基板の熱膨張率の間の熱膨張率を有するものである。このようなAg拡散層7を銅板4に形成することで、例えば窒化珪素回路基板の構成を、銅板から窒化珪素基板へ向かって順に、銅板、銅板+Ag、Ag+Cu、TiN、SiNのようにすることが可能となる。このように、徐々に熱膨張率を変化させていくことで、銅板と窒化珪素基板との熱膨張率の差に起因する熱応力の発生を緩和させることができ、窒化珪素基板へのクラックの発生や、銅板の剥離等を有効に抑制することが可能となる。また、板厚0.5mm以上と厚い銅板を接合しているにも関わらず熱応力の発生が緩和されるために、窒化珪素基板の板厚をこれまでよりも薄くすることが可能となる。このため、回路板として接合された板厚0.5mm以上の厚い銅板がヒートシンクの役割も果たし、さらに窒化珪素基板の板厚を薄くできるので回路基板としての熱抵抗を大幅に改善できる。
【0024】Ag成分の銅板への拡散は、銅板4の厚さをt1とし、Ag成分が拡散した層の厚さ、すなわちAg拡散層7の厚さをt2とした場合、以下の式で示されるような範囲となるようにすることが好ましい。なお、銅板4の厚さt1とは、Ag拡散層7および非拡散層8の厚さを合わせたものである。
0.5 ≧ t2/t1> 0.01
【0025】銅板4に対するAg拡散層7の比、t2/t1が0.01未満である場合、Ag拡散層7の厚さが薄すぎるため、窒化珪素基板2と銅板4との熱膨張率の差に起因する熱応力の発生を有効に緩和できなくなるおそれがあり、窒化珪素基板2へのクラックの発生や、銅板4の剥離等が発生しやすくなる。一方、t2/t1が0.5を超える場合には、銅板4が剥離しやすくなる。
・・・
【0042】(実施例1)熱伝導率90W/m・Kの窒化珪素焼結体(縦5mm×横5mm×厚さ0.635mm)の両面に、20Cu−77Ag−3Ti(質量%)を主成分とするろう材を厚さ20〜40μmの範囲内で塗布し、この部分に表1に示されるような厚さのCu板を配置し、800〜880℃で5〜15分間熱処理した後、さらに750〜800℃で10〜40分間の保持処理を行い、窒化珪素焼結体とCu板との接合、およびAg成分のCu板への拡散処理を行った。さらに、Cu板の表面部分をエッチングすることにより、回路を形成した。なお、試料1、2、3、8については保持処理を行わないものとし、試料7については保持処理時間を200分間とした。
・・・
【0047】銅板の厚さに対するAg拡散層の厚さの比、t2/t1が0.01以上である本発明の好ましい範囲を満たす窒化珪素回路基板については、接合されたCu板の厚さが0.5mm以上であるにもかかわらず、銅板が0.2mmと薄い試料1と同等にTCT特性が良好であり、耐熱サイクル性が良好であることが認められた。
・・・
【0049】(実施例2)熱伝導率90W/m・Kの窒化珪素焼結体(縦5mm×横5mm×厚さ0.32mm)の両面に板厚0.6mmの銅板を接合した窒化珪素回路基板の作製にあたり、活性金属ろう材の組成、接合条件、および接合後の保持処理条件を表2に示すように変化させて作製を行った。
【0050】次に、各窒化珪素回路基板について、実施例1と同様の熱衝撃試験(TCT試験)を実施し、各窒化珪素回路基板の耐熱サイクル性を評価した。結果を表2に示す。なお、表2における結果は、表1と同様の方法で示したものである。
【0051】
【表2】


【0052】活性金属ろう材中のCu成分の量が、本発明の好ましい範囲である10〜20質量%である試料14〜17については、耐熱サイクル性が良好であることが認められた。
【0053】試料18のように活性金属ろう材中のCu成分の量が多く、かつ保持処理をしなかったものは、Ag成分の銅板への拡散量が少なく、耐熱サイクル性が若干劣ることが認められた。また、試料19のように活性金属ろう材中のCu成分の量が多く、かつ保持処理を長時間行ったものでは、Ag成分が銅板へ入り込みすぎたために、耐熱サイクル性に優れるものの、銅板が剥がれる場合があることが確認された。」

(イ) 甲1−2の記載事項
甲1−2には、次の技術的事項が記載されている。

a 前記(ア)の【0001】、【0011】によれば、甲1−2に記載された技術は、活性金属を含むろう材によって窒化珪素基板と銅板とを接合した窒化珪素回路基板およびその製造方法に係り、特に接合された銅板の板厚が従来のものよりも厚いものにおいて、耐熱サイクル特性・信頼性を向上させた窒化珪素回路基板およびその製造方法に関するものであり、パワートランジスタやレーザーダイオード等の装着に使用される比較的厚い金属板を有する窒化珪素回路基板において、窒化珪素基板へのクラックの発生や金属板の剥離等が抑制された窒化珪素回路基板およびその製造方法を提供することを目的とするものである。

b 前記(ア)の【0020】によれば、窒化珪素回路基板1は、窒化珪素基板2と銅板4とは接合層3を介して接合され、接合層3は、Ag、Cu、及び、活性金属からなり、活性金属として、Tiが選択できることが記載されている。

c 前記(ア)の【0022】、【0023】によれば、銅板4は、Ag成分が拡散したことにより形成されたAg拡散層7と、Ag成分が拡散していない非拡散層8とからなり、Ag拡散層7は、銅板の熱膨張率と窒化珪素基板の熱膨張率の間の熱膨張率を有するものであり、このようなAg拡散層7を銅板4に形成することで、銅板と窒化珪素基板との熱膨張率の差に起因する熱応力の発生を緩和させることができ、窒化珪素基板へのクラックの発生や、銅板の剥離等を有効に抑制することができるものである。

d 前記(ア)の【0024】、【0025】によれば、銅板4の厚さをt1とし、銅板4にAg成分が拡散したAg拡散層7の厚さをt2とする場合、銅板4に対するAg拡散層7の比、t2/t1が0.01未満であると、Ag拡散層7の厚さが薄すぎるため、窒化珪素基板2と銅板4との熱膨張率の差に起因する熱応力の発生を有効に緩和できなくなるおそれがあり、窒化珪素基板2へのクラックの発生や、銅板4の剥離等が発生しやすくなり、t2/t1が0.5を超える場合には、銅板4が剥離しやすくなるため、t2/t1は、0.01より大きく、0.5以下である。

e 前記(ア)の【表2】によれば、試料14は、窒化珪素焼結体の両面に板厚0.6mmの銅板をろう材を介して接合した窒化珪素回路基板において、ろう材が、Cu、Ag、Tiであり、t2/t1が0.02である。
ここで、銅板4の厚さt1が0.6mmであるから、銅板4にAg成分が拡散したAg拡散層7の厚さt2は、0.6mm×0.02=0.012mm、すなわち12μmである。

f 前記bから、前記eの試料14の窒化珪素回路基板は、窒化珪素基板の両面に板厚0.6mmの銅板をろう材を介して接合したものである。

(ウ) 甲1−2発明
前記(ア)、(イ)から、甲1−2には、以下の発明(以下、「甲1−2発明」という。)が記載されている。

「窒化珪素基板の両面に板厚0.6mmの銅板を接合した窒化珪素回路基板において、ろう材が、Cu、Ag、Tiからなり、銅板にAg成分が拡散したAg拡散層の厚さt2が、12μmである、窒化珪素回路基板。」

ウ 甲2−1の記載、甲2−1発明
(ア) 甲2−1の記載
「【0001】
本発明は、電子部品のパワーモジュール等に使用される窒化珪素−銅接合体およびその製造方法に関する。」

「【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたもので、窒化珪素回路基板にパワー半導体素子を接合して使用した際に発生するろう材接合層のクラック等の不具合を防ぎ、加熱・冷却サイクルに対する耐性である耐ヒートサイクル性を改善することのできるセラミックス−銅接合体およびその製造方法を提供することを目的とする。
・・・
【0015】
図1に示す回路基板8は、例えば、以下の通りにして製造できる。
[窒化物セラミックスの作製]
まず、本発明に好適に用いることのできる窒化物セラミックス4の製造方法について説明する。窒化物セラミックスの構成原料である窒化物原料粉末および焼結助剤に溶媒および分散剤を添加しボールミルで混合、粉砕する。ここで、混合、粉砕した原料に、バインダー、可塑剤を添加、混練し、粘度が所定の値になるように調整しスラリーとする。スラリーをドクターブレード法、押出し法等のシート成形手段により所定板厚でシート成形する。このシート成形体を所定形状に切断後、脱脂し、焼結炉内で1800〜2000℃の窒素雰囲気で焼結して窒化物セラミックス(以下、セラミックス基板とも記す)4を得る。本発明のセラミックスー銅接合体に用いられるセラミックスは、回路基板または放熱基板として使用されることから、強度、放熱性を考慮して、その厚さは、0.1〜1mmの板状形状であることが好ましい。セラミックスの厚さが0.1mm未満の場合は、回路基板または放熱基板とした場合に破損することもあるからであり、1mmを超えると放熱性が低下することもあるからである。同様の理由から、より好ましい厚さは0.2〜0.7mmであり、更に好ましくは、0.3〜0.5mmである。
・・・
【0017】
[回路基板の作製]
セラミックス基板4の両面に活性金属であるTiが添加された合金からなる活性金属ろう材層10、11を印刷形成する。ろう材層を印刷する厚さは、接合後のろう材層の厚さが2〜50μmとなる厚さとすることが好ましい。接合後のろう材層の厚さが2μm未満であると、セラミックス基板または無酸素銅板の表面にうねりや反りにより接合できないこともあるからであり、接合後のろう材層の厚さが50μmを超えると、接合体として十分な強度が得られないこともあるからである。より好ましい接合後のろう材層の厚さは、5〜40μmであり、更に好ましくは10〜20μmである。

窒化物セラミックスと無酸素銅とを接合する活性金属ろう材の組成はAgおよびCuを主成分とすることが好ましく、特にAg−Cu−In−Ti系合金粉末からなるろう材が好ましく、活性金属であるチタンの含有量は従来と同等の0.5〜9重量%とすることができ、好ましくは0.5〜5重量%、更に好ましくは1〜3重量%とすることができる。少なすぎると十分な接合強度が得られず、多量に添加すると、ろう材そのものが脆化する。特に好ましいチタンの量は1〜3重量%である。ろう材の酸素含有量は金属回路/ろう材相/窒化珪素基板間の安定した接合強度が得やすいことから5〜1000ppmとすることが好ましい。活性金属ろう材層に接して、表面を酸化処理した無酸素銅板を載置し加圧・加熱してセラミックス基板と接合する。接合条件は、加熱温度700〜850℃、無酸素銅板とセラミックス基板の押付け圧力1400〜15200Paとすることが好ましい。冷却後、両方の面の無酸素銅板上にレジストパターンを形成後に、塩化第二鉄溶液によってエッチング処理して回路側金属板3と放熱側金属板5を形成する。ろう材層のうち露出した部分は過酸化水素とフッ化アンモニウムとの混合溶液によりエッチング除去する。さらに回路側金属板及び放熱側金属板にNi−Pメッキを施し回路基板8を作製する。
・・・
【0027】
(実施例1〜3)
原料粉末はSi3N4:94重量%、焼結助剤としてMgO:3重量%およびY2O3:3重量%、焼成温度1800℃の条件で前述の製造手順にしたがって寸法50×40×0.32mmのセラミックス基板を作製した。セラミックス基板に接合する寸法50×40×0.5mmの回路側金属板および寸法50×40×0.4mm放熱側金属板は何れも酸素濃度2ppmの無酸素銅板を用い、この無酸素銅板を予め100℃×5hr,200℃×4hr,300℃×4hrの大気中で表面を酸化処理したものを用いた。表1に酸化処理後の無酸素銅板の表面をEPMA分析した結果を示す。使用機器に島津製EPMA1610を使用して定量分析を行った。分析条件は加速電圧15KV、ビーム電流100nA、ビーム径100μm、時間0.0854sec/pointとした。
【0028】
【表1】

【0029】
接合に用いたろう材の組成、酸素含有量を表2に示す。接合条件は加熱温度750℃、圧力1400Paとした。作製した回路基板のボイド率を測定し、次いで2000サイクルの冷熱サイクル試験を実施し、再び回路基板のボイド率を測定した。その後、ろう材接合後のろう材層における切断面において回路側金属板3と回路側ろう材層10との界面および回路側ろう材層10とセラミックス基板4との界面を含む長さを評価長さとし、加速電圧:15kV、ビーム径:0.1μmの条件でAg,Cu,Ti,Si,O,N成分についてEPMAによるライン分析を行った結果を実施例1,2についてのみそれぞれ図2,図3に示す。横軸が回路基板の厚さ方向の相対距離、縦軸が各元素の相対強度である。横軸0の位置から相対距離を増加させたとき回路側金属板を構成するCuの相対強度が急に低下し且つろう材の主成分であるAgの相対強度が急に立ち上る位置が無酸素銅板とろう材層との第1界面である。この界面と同じ位置にTiの相対強度の第1ピークがある。また、更に相対距離を増加させたときろう材の主成分であるAgの相対強度が急に低下し且つセラミックス基板の主成分であるSiの相対強度が急に立ち上る位置がろう材層と窒化物セラミックスとの第2界面である。この界面と同じ位置にTiの相対強度の第2ピークがある。
【0030】
図2において第1界面ではTiの相対強度の第1ピーク(SPTi1)はろう材層の中心部のTi相対強度(STiC)に対して7.2倍のTi相対強度を有し且つ半価幅が3μm、第2界面ではTiの相対強度の第2ピーク(SPTi2)はろう材層の中心部のTi相対強度(STiC)に対して20倍のTi相対強度を有し且つ半価幅が2μmであることが認められた。
【0031】
図3において第1界面ではTiの相対強度の第1ピークはろう材層の中心部のTi相対強度に対して18倍のTi相対強度を有し且つ半価幅が2μm、第2界面ではTiの相対強度の第2ピークはろう材層の中心部のTi相対強度に対して33倍のTi相対強度を有し且つ半価幅が2μmであることが認められた。冷熱サイクル試験前後のボイド率の差は小さく、ろう材層にクラックは生じていなかった。
・・・
【0035】



「【図1】


「【図2】


「【図3】



(イ) 甲2−1の記載事項
甲2−1には、次の技術的事項が記載されている。

a 前記(ア)の【0001】、【0007】によれば、甲2−1に記載された技術は、電子部品のパワーモジュール等に使用される窒化珪素−銅接合体およびその製造方法に関するものであり、窒化珪素回路基板にパワー半導体素子を接合して使用した際に発生するろう材接合層のクラック等の不具合を防ぎ、加熱・冷却サイクルに対する耐性である耐ヒートサイクル性を改善することのできるセラミックス−銅接合体およびその製造方法を提供することを目的とするものである。

b 前記(ア)の【0015】から、窒化物セラミックスは、セラミックス基板である。

c 前記(ア)の【0017】によれば、回路基板の作製は、セラミックス基板4の両面に活性金属であるTiが添加された合金からなる活性金属ろう材層10、11を印刷形成し、活性金属ろう材層に接して、表面を酸化処理した無酸素銅板を載置し加圧・加熱して窒化物セラミックス基板と接合し、冷却後、両方の面に回路側金属板3と放熱側金属板5を形成し、さらに回路側金属板3及び放熱側金属板5にNi−Pメッキを施し回路基板8を作製するものであって、ろう材層を印刷する厚さを、接合後のろう材層の厚さが2〜50μmとなる厚さとし、ろう材は、Ag−Cu−In−Ti系合金粉末からなることが記載されているから、当該回路基板は、セラミックス基板4の両面に、無酸素銅板の回路側金属板3及び放熱側金属板5をろう材層10、11により接合したものであるといる。

d 前記(ア)の【0027】〜【0029】によれば、実施例1、2は、セラミックス基板の両面に、回路側金属板及び放熱側金属板を表2に示す組成、酸素含有量のろう材により接合した回路基板であり、表2から、ろう材は、Ag、Cu、In、Tiを含むものである。

e 前記(ア)の【0029】によれば、図2、3は、それぞれ、ろう材接合後のろう材層における切断面において、回路側金属板3と回路側ろう材層10との界面および回路側ろう材層10とセラミックス基板4との界面を含む長さを評価長さとし、Ag、Cu、Ti、Si、O、N成分についてEPMAによるライン分析を行った結果を実施例1、2について示したものである。
そして、図2から、回路側金属板3である銅板、及び、回路側ろう材層10は、それぞれ、相対距離において、0〜15μmの範囲、及び、15〜25μmの範囲に位置するから、回路側金属板3である銅板の厚さは15μm、回路側ろう材層10であるろう材層の厚さは10μmであり、銅板中のAgは、相対距離において0〜5μmの範囲に少なくとも2つのピークが存在することが見てとれるから、銅板中のAgは、銅板とろう材の境界から銅板の厚み方向において、10μmを超える距離に拡散しているといえる。
また、図3から、回路側金属板3である銅板、及び、回路側ろう材層10は、それぞれ、相対距離において、0〜10μmの範囲、及び、10〜25μmの範囲に位置するから、回路側金属板3である銅板の厚さは10μm、回路側ろう材層10であるろう材層の厚さは15μmであり、銅板中のAgは、相対距離において0〜5μmの範囲に少なくとも1つのピークが存在することが見てとれるから、銅板中のAgは、銅板とろう材の境界から銅板の厚み方向において、5μmを超える距離に拡散しているといえる。

(ウ) 甲2−1発明
前記(ア)、(イ)から、甲2−1には、以下の発明(以下、「甲2−1発明」という。)が記載されている。

「セラミックス基板4の両面に、無酸素銅板の回路側金属板3及び放熱側金属板5をろう材層10、11により接合した回路基板であって、ろう材層10、11は、Ag、Cu、In、Tiを含み、
回路側ろう材層10の厚さが10μm、回路側金属板3の厚さが15μmである場合、回路側金属板3中のAgは、回路側金属板3と回路側ろう材層10の境界から回路側金属板3の厚み方向において、10μmを超える距離に拡散しており、
回路側ろう材層10の厚さが15μm、回路側金属板3の厚さが10μmである場合、回路側金属板3中のAgは、回路側金属板3と回路側ろう材層10の境界から回路側金属板3の厚み方向において、5μmを超える距離に拡散している、回路基板。」

エ 甲2−2の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、特にパワー半導体モジュールに使用されるセラミックス回路基板に係わり、セラミックス基板の少なくとも一方の面にろう材層を介して回路パターンを形成する金属板を接合したセラミックス回路基板に関するものである。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、実施例により本発明を説明するが、それら実施例により本発明が限定されるものではない。
先ず、ろう材について説明する。本発明のセラミックス回路基板で用いるろう材は、母材合金がAg−Cu−In−Tiの4元系であって、質量%でAgを85〜55質量%、Inを5〜25質量%、Tiを0.2〜2.0質量%、Cuを35〜20質量%及び不可避不純物から組成されたものである。合金粉末の作製は、ガスアトマイズ法により平均粒径d50値が50μmとなる様に噴霧し、50μm以上の粉末は篩分けによりカットし、50μmアンダーの粉末を用いるもので、ここでは合金粉末の平均粒子径d50は28μmである。また、合金粉末の作製は、低コストの水アトマイズ法でも可能であるが、活性金属として作用するTiの酸化を防止するため、この場合、合金粉末中の酸素量を0.5質量%以下に制御することが肝要である。
【0030】
上記の混合粉末中(合金粉末と添加したAg粉末)に占めるInおよびTiを除いた、AgとCuの組成比は、AgとCuの合計重量を100質量%(AgとCuで100%)としたとき、Agを95〜75質量%、Cuを5〜25質量%が好ましい。この組成比の範囲では、加熱冷却後のろう材表面部の凹凸形状の抑制に効果があり、更には、Ag−Cu状態図における共晶組成(72%Ag−28%Cu)よりもAg−rich側の固液共存組成域において、処理温度を任意に選択することで、接合処理時の融液量を調整することができ、これにより、ろう材の流れ出し現象を抑制することが可能となる。ここで用いられるAg−Cu−In−Tiからなる合金粉末は、スクリーン印刷を行う場合のパターン印刷精度や接合する銅板への流れ出しを抑制する上で平均粒径45μm以下が好ましく、10〜30μm程度のものがより好適である。
【0031】
活性金属としては、周期律表第IVa族に属する元素を用いることができ、一般にはチタン、ジルコニウム、ハフニウムが用いられる。この中でも特にチタンは窒化アルミニウム基板や窒化ケイ素基板との反応性が高く、接合強度を非常に高くすることができるため本発明ではチタン(Ti)を用いている。さらにチタンの水素化物、即ち水素化チタンを用いれば、接合工程中における酸素の影響による酸化が起こり難くなり、より好適な接合状態が得られる。これは水素化チタンは接合工程での加熱処理によって初めて水素を放出して活性な金属チタンとなり、これが窒化アルミニウム基板や窒化ケイ素基板と反応するためである。更に、これら活性金属成分を予め合金粉末中に含有させると、Ag−Cu―In−Tiの比が均一となり、加熱昇温時において、基板あるいは金属板に印刷されたろう材粉末の局所的な溶融むらが抑制でき、しいてはろう材融液中を拡散するTiを容易に制御することができるため望ましい。AgとCuおよびInの合計量100質量%に対する活性金属粉末の添加量は、活性金属粉末による窒化アルミニウム基板/窒化ケイ素基板−ろう材−銅板の間の接合強度を十分に保つためには、0.2〜2.0質量%が好ましい。より好ましくは0.6〜1.5質量%である。
・・・
【0038】
また、窒化アルミニウムや窒化ケイ素基板との接合に供される金属板としては、前記ろう材が接合でき且つ金属板の融点がろう材融点よりも高ければ特に制約はない。一般的には、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銀、銀合金、ニッケル、ニッケル合金、ニッケルメッキを施したモリブデン、ニッケルメッキを施したタングステン、ニッケルメッキを施した鉄合金等を用いることが可能である。
この中でも銅を金属部材として用いることが、電気的抵抗及び延伸性、高熱伝導性(低熱抵抗性)、マイグレーションが少ない等の点から最も好ましい。
また、アルミニウムを金属部材として用いることは、電気的抵抗、高熱伝導性(低熱抵抗性)は、銅に劣るものの、アルミニウムが持つ塑性変形性を利用して、冷熱サイクルに対する実装信頼性を有する点で好ましい。
その他にも電気的抵抗を重視すれば銀を用いることも好ましく、また電気的特性よりも接合後の信頼性を考慮する場合にはモリブデンやタングステンを用いれば、該金属の熱膨張率が窒化アルミニウム、窒化ケイ素に近いことから接合時の熱応力を小さくすることができるので好ましい。
【0039】
次に、セラミックス回路基板の構成例を図2に示す。図2において7は厚さ0.3〜0.6mm、熱伝導率70W/m・K以上、曲げ強度600MPa以上の窒化ケイ素焼結体からなるセラミックス基板(以下、窒化ケイ素基板を例にする。)である。窒化ケイ素基板7の一方の面(主面)には、銅板3、4、5が上述したろう材からなるろう材層8、9、10を介して接合されている。一方、窒化ケイ素基板7の他方の面(下面)には、放熱用の平板状の銅板11がろう材層12を介して接合されている。ろう材層8、9、10及び12は、各銅板3、4、5及び銅板11の外周端面から所定量だけはみ出したはみ出し部20を有している。このはみ出し部のはみ出し長さLは、少なくとも0.2mm以上、好ましくは0.3〜1.2mmとすることにより窒化ケイ素基板7と銅板3、4、5及び銅板11の端面部に集中する熱応力を緩和させることができる。また、銅板3、4、5及び銅板11の端面の全周には傾斜面3a、4a、5a及び11aが形成されている。この傾斜面の傾斜角度は30°〜60°に設定し曲面状に形成しても良い。尚、傾斜面3a、4a、5a、11aは銅板接合後のエッチング処理により形成しても良いし、銅板をプレス加工して予め形成したものでも良い。
・・・
【0048】
さて、図6(A)についても同様に密着強度を確認したところピール強度は20(kN/m)超となり密着強度が向上することも確認された。これらのことより鱗状の凹凸部が密着強度に強く関与しており、定量的には凹部の最大長さが1.0mmの未満にあれば十分な密着強度を確保できることが分かった。例えば、5μm未満とする場合には、合金粉末中のIn量を低減することで可能となるが、この場合、Ag-Cu合金の共晶温度の780℃以下での冷却過程で瞬時に液相凝固が起こり、局所的な核生成が起こり不均一凝固が進む。この過程では収縮挙動にも局所的な差異が発生し、ろう材と銅板間に引け巣が発生しやすく最大径が1.0mm超の大きなボイドを残留させてしまう。この大きなボイドは回路基板としては致命的な欠陥であり、高電圧負荷時はリーク電流が生じ絶縁性低下を招来する。したがって、十分な密着強度を確保し、回路基板の絶縁耐圧を維持ならびに冷熱繰り返しに対する接合信頼性の堅持するために、接合層中におけるボイド率を0.5%以上、5%以下、最大径が1.0mm以下に制御したボイドを微細分散させることが必要であり、これには、鱗状の定量的には凹部の最大長さが1.0mmの未満に制御することが好ましい。
以上によるAg粒子あるいはCu粒子の平均粒径と添加量による凹凸面の粗さ、マイクロボイドの最大径、ボイド率、密着強度の相関を下記する実施例に示す。
・・・
【0050】
以下、実施例と比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
(実施例)
Ag:58.8質量%、Cu:27.5質量%、In:12.5質量%、Ti:1.2質量%及び不可避不純物からなる合金粉末に、下表1に示すAg粒子粉末およびCu粉末粒子を添加し、全ペーストに占める割合でα-テネピネオール6質量%、ジエチレングリコール・モノブチルエーテル5質量%、ポリイソブチルメタクリレート5質量%、分散剤0.1質量%を配合したのちプラネタリーミキサーを用いて混合を行い、120Pa・sのペーストを作成した。使用した母材合金粉末の平均粒径は30μmであった。
このペーストを縦50mm×横30mm×厚さ0.63mm寸法の窒化ケイ素質焼結体製の基板上にスクリーン印刷により図3のようなパターンで厚み25μmではみ出し部Lが0.3mmとなるように塗布した。ここで、ろう材はみ出し量を0.25mm以上を設計値としているが、これは、金属回路板端部付近のセラミックス基板への応力集中を緩和する効果が最大となる値であり、この場合、応力集中を約60%に低減できる。
この後、120℃×30分大気中で乾燥し、続いて、回路用銅板−窒化ケイ素基板−放熱用銅板と重ねた後、70g/cm2の荷重をかけながら真空中(10-2Pa)、760℃×10分保持の熱処理を施して銅板と窒化ケイ素基板の接合を行った。用いた銅板の板厚は、エッチング後の回路基板の反り、ならびにはんだリフロー後のモジュール実装形状、さらには、回路基板と放熱基板(例えば、Cu、Cu-W、Mo、Cu-Cu0、Al-SiC等)のはんだ不良欠陥の防止を考慮して、回路側が0.3mmt、放熱側を0.2mmtとした。その後、図4のパターンとするためにエッチング公差を考慮したレジストパターンの印刷、不要部分の銅部材の除去を行い各々のセラミックス回路基板を作製した。
【0051】
それぞれのセラミックス回路基板の凹凸面の粗さ(凹部の最大長さ)、最大ボイド径、ボイド率を超音波顕微鏡機にて評価した。その結果を表2に示す。ここで、凹凸面の粗さは、窒化ケイ素基板に表1および表2に示すろう材粉末を用い、加熱処理後のろう材層部の凹凸面に対して凹部の長さを評価した。また、用いた超音波探査映像装置は日立建機社製Mi-Scopeである。評価条件については、金属回路板の種類と厚みおよびセラミックス基板の種類と厚みにより異なるが、本発明では、金属回路板は、Cuで回路板の厚み0.3mm、放熱板の厚み0.2mm、セラミックス基板は窒化ケイ素で厚みは0.6mmである。プローブは50MHzのものを使用した。
接合界面のボイド率については、白黒の256階調の評価画像についてのしきい値を92として2値化処理を行い、反射法にて評価面積(黒色部)に対する白色部の割合を評価した。また、ボイド径については、評価面積に存在するマイクロボイド全数について最大長さを評価した。図7(A)および(B)に本発明の回路基板における接合界面の超音波探査映像ならびに2値化像を示す。この例のボイド率は、(A)および(B)はそれぞれ、0.8%および5.0%である。また、図7(C)および(D)に比較例のものを示す。これら例のボイド率は、それぞれ、0.4%および18.0%であった。また、本発明のマイクロボイド形状については、上述したように単一な球形でなく、多くの曲率を持つ形状が特徴である。
さらに、接合した銅板を窒化ケイ素基板に対して90°方向に引っ張り、ピール強度を測定して密着強度とした。
また、回路基板の接合界面における耐冷熱サイクル性の評価は、−40℃での冷却を20分、室温での保持を10分および125℃における加熱を20分とする昇温/降温サイクルを1サイクルとし、これを繰り返し付与し、接合界面におけるボイド率について初期の値の1.5倍以上となるまでのサイクル数を測定した。
【0052】
(比較例)
ろう材ペーストの作製、窒化ケイ素基板への印刷、ろう付け条件等は上記実施例と同様に行い、表1の試料No.51〜61および71〜81に示す合金粉末及びAg粉末あるいはCu粉末を添加した。これらについて上記と同様の項目を測定した。」

「【0056】
【表2ー2】



「【図2】



オ 甲2−3の記載
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、パワーモジュールに使用される回路基板の製造に好適なセラミック体と銅板との接合体の製造方法に関する。」

「【0005】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、窒化アルミニウム又は窒化珪素を主体とするセラミック体と銅板とを、銀40〜64%、銅12〜28%、錫12〜22%、ジルコニウム8〜16%(金属成分の合計が100%)を含むろう材を介して積層し、それを1.0MPa以上の圧力で加圧しつつ、酸素濃度1〜100ppmの窒素雰囲気中、温度750〜850℃で0.5〜2時間保持した後、冷却する方法であって、しかも750℃までの昇温速度と750℃からの降温速度をいずれも300℃/時以上とすることを特徴とする接合体の製造方法である。
・・・
【0014】
積層体の接合雰囲気は、酸素濃度1〜100ppmの窒素雰囲気である。酸素濃度が100ppmを超えると、ろう材が酸化され、接合が不十分となる。また、酸素濃度1ppm未満では、ろう材の濡れ性が極端に良くなり、温度制御が困難となるため好ましくない。また、装置が大がかりなものとなるので製品コストが十分に下がらない。
【0015】
接合は、温度750〜850℃で0.5〜2時間保持して行われる。750℃未満では接合が十分でなく、また850℃を超えると、銀や錫の銅板への拡散が過度となり、接合層が脆弱なものとなる。この温度範囲における保持時間が0.5時間よりも短いと接合が不十分となり、また2時間よりも長くなると、同様に銀や錫の銅板への拡散が過度となり、接合層が脆弱なものとなる。
【0016】
本発明においては、昇温開始から750℃までの昇温速度と、750℃から室温等の取り出し温度までの冷却速度も重要であり、いずれも300℃/時間以上とする。昇温速度が300℃/時間未満の速度であると、ろう材が酸化されてしまい、接合が不十分となる。冷却速度が300℃/時間未満であると、特に600℃以上の温度範囲ではろう材層中のAgやSn等の成分が銅板側へ拡散し、回路基板の信頼性が低下する。また、600℃よりも低温域において冷却速度が遅いことは生産性の向上につながらない。
【0017】
本発明で用いられるセラミック体は、窒化アルミニウム又は窒化珪素を主体とするものである。窒化アルミニウムを主体とするものとしては、強度と熱伝導率純度が400MPa以上、150W/mK以上、93%以上であることが好ましく、また窒化珪素を主体とするものとしては強度と熱伝導率純度が600MPa以上、50W/mK以上、93%以上であることが好ましい。これらのセラミック体には、市販品があるのでそれを用いることができる。
【0018】
本発明で用いられる銅板は、無酸素銅板、特に酸素量が50ppm以下、特に30ppm以下の無酸素銅板であることが好ましい。
・・・
【0020】
【実施例】
以下、本発明を実施例、比較例をあげて具体的に説明する。なお、本明細書に記載の「%」、「部」はいずれも質量基準である。
【0021】
実施例1〜7 比較例1〜15
銀粉末(1.1μm、99.3%)、銅粉末(14.1μm、99.8%)、錫粉末(5.0μm、99.9%)、ジルコニウム粉末(5.5μm、99.9%)を表1の割合で配合し、ポリイソブチルメタアクリレートのテルピネオール溶液を加えて混練し、金属成分71.4%を含むろう材ペーストを調製した。
【0022】
このろう材ペーストを窒化アルミニウム基板(サイズ:60mm×36mm×0.65mm 曲げ強さ:500MPa 熱伝導率:155W/mK、純度95%以上)又は窒化珪素基板(サイズ:57mm×34mm×0.65mm 曲げ強さ:700MPa 熱伝導率:70W/mK、純度92%以上)の両面にロールコーターによって全面に塗布した。その際の塗布量は乾燥基準で9mg/cm2 である。
【0023】
つぎに、セラミック体の銅回路形成面に56mm×32mm×0.3mmの無酸素銅板(酸素量:10ppm)を、また放熱銅板形成面に56mm×32mm×0.15mmの無酸素銅板(酸素量:10ppm)を接触配置してから、表1に示す接合条件で接合した。そして、銅回路形成面には所定形状の回路パターンを、放熱銅板形成面に放熱板パターンを形成させるように、レジストインクをスクリーン印刷してから銅板と接合層のエッチングを行い、無電解Ni−Pメッキ(厚み3μm)を行って回路基板を作製した。
【0024】
回路基板の接合層の厚み、ピール強度及び接合特性を以下に従って測定し、表1に示した。
【0025】
(1)接合層の厚み:回路基板の断面を研磨後、EPMA装置(日本電子社製「JXA8600」)にて測定した。
(2)ピール強度:シンポ工業社製プッシュプルゲージ「DFG−20TR」を用いて測定した。
(3)接合特性(ボイド率):接合層中のボイド(円相当直径が1.0mm以上の未接合部分)の面積を超音波探傷装置(本多電子社製「HA−701」)を用いて測定し、セラミック体と銅板の接合面積に対する比率を算出した。
【0026】
【表1】



カ 甲2−4の記載
「3.1 Interface Microstructure
Figures 2 through 7 display the interface microstructure of the joints made using the three braze materials. Both low- and high-magnification views of the C-C/braze interface for each of the braze materials indicate an intimate contact between the carbon and the braze. The interfaces are free of commonly-found structural defects such as microvoids and porosity. An interfacial interphase appears to have preferentially precipitated on the carbon surface in all the cases (Figs. 3, 5 & 7). The EDS analysis across the interface regions shows evidence of solute redistribution during brazing. High Ti concentrations were detected at the interface in C-C/TiCuNi (Fig. 5a) and C-C/TiCuSil (Fig. 7a) joints, suggesting possible formation of a Ti-rich interphase, such as TiC1-x, which bonds well to both the carbon and the braze. At the braze/Ti interface, some dissolution of the metal in the molten braze appears to have occurred, leading to near-interfacial changes in the composition. Overall, the interfaces appear to be microstructurally sound, and well-bonded due to interdiffusion of solutes and the formation of secondary phases.」(3ページ15行〜最下行)
(当審訳)
「3.1 界面微細構造
図2〜7は、3つのろう付け材料を使用して作製された接合部の界面微細構造を示す。各ろう付け材料についてのC-C/ろう付け界面の低倍率および高倍率の両方の図は、炭素とろう付けとの間の密接な接触を示す。界面は、微小空隙および多孔性などの一般的に見られる構造欠陥を含まない。界面相は、全てのケースにおいて、炭素表面上に優先的に沈殿している(図3、5及び7)。界面領域全体のEDS分析は、ろう付け中の溶質の再分配の結果を示す。C-C/TiCuNi(図5a)およびC-C/TiCuSil(図7a)接合部の界面で高濃度のTiが検出され、炭素およびろうの両方に良好に結合するTiC1-xなどのTiに富む界面相が形成されることを意味する。ろう材/Ti界面において、溶融ろう材中の金属のいくらかの溶解が発生し、組成物中の界面近傍の変化をもたらされる。全体として、界面は微細構造として健全であり、溶質の相互拡散及び二次相の形成により良好に結合されている。」



」(14ページ)

キ 甲2−5の記載
「To examine the microstructure of the joints fabricated, several specimens were cross-sectioned and polished. A scanning electron microscope (SEM) with an energy dispersive X-ray(EDX) system was used to examine the microstructure and analyze the elemental composition of the bonded area. Fig.6(a) shows and SEM image of a specimen produced with Ag-In before annealing. 」(566ページ右欄)
(当審訳)
「作製した接合部の微細構造を調べるために、いくつかの試験片を断面化し研磨した。エネルギー分析X線(EDX)システムを備えた走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて微細構造を調査し、結合領域の元素成分を分析した。図6(a)に、加熱前のAg−Inで作製した試料のSEM像を示す。」






ク 甲2−6の記載
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば耐ヒートサイクル性に優れた高信頼性の基板(回路基板、放熱基板等)を製造するのに好適な、セラミックス基板と金属板との接合体の製造方法に関する。
・・・
【0013】本発明で使用されるセラミックス基板の材質としては、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、アルミナ等であるが、パワーモジュールには窒化アルミニウムが適している。セラミックス基板の厚みとしては、薄すぎると耐久性がなくなるため、0.5mm以上が好ましく、特に1〜3mmが好ましい。
・・・
【0015】金属板の材質は、銅又はアルミニウムが好ましく、その厚みは100〜500μmが好ましい。また、金属板は、アルミニウム−銅、アルミニウム−チタン、ニッケル又はクロム−銅等のクラッド箔であってもよい。
・・・
【0017】セラミックス基板に金属回路を形成する方法としては、セラミックス基板と金属板との接合体をエッチングする方法、金属板から打ち抜かれた金属回路パターンをセラミックス基板に接合する方法等によって行うことができる。これらの際における接合は、活性金属ろう付け法によることが好ましい。
【0018】活性金属ろう付け法については、金属板が銅である場合は、銀を主成分とし、溶融時のセラミックス基板との濡れ性を確保するために活性金属を副成分とした銀ロウが使用され、また金属板がアルミニウムである場合は、例えば特開昭60−177634号公報に記載されているように、アルミニウムとシリコンを主成分とし、これに活性金属を添加したアルミニウム系ロウが使用される。活性金属成分は、セラミックス基板と反応して酸化物や窒化物を生成し、ロウ材とセラミックス基板との結合を強固なものにする。活性金属の具体例をあげれば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、バナジウムやこれらの化合物である。
【0019】ロウの金属成分の比率としては、銀ロウの場合、銀60〜100重量部、銅40〜0重量部の合計量100重量部あたり、活性金属1〜30重量部である。また、アルミニウム系ロウの場合、アルミニウム70〜95重量部、シリコン30〜5重量部、銅0〜5重量部の合計量100重量部あたり、活性金属1〜30重量部である。
【0020】接合は、ロウの金属成分が金属板に拡散するのを抑制するために、赤外線加熱方式による接合炉を用い、波長0.8〜2.5μmの赤外線を照射して急速加熱をし、可及的低温かつ短時間で行われる。加熱後は、赤外線照射をやめ、そのまま放冷ないしは不活性ガスを供給し、1℃/分以上の速度で急冷する。
【0021】接合温度と時間については、銀ロウを用いる場合は、780〜830℃が好ましく、アルミニウム系のロウ材を用いる場合は600〜640℃が好ましい。また、保持時間は、3〜30分が望ましい。接合温度が低く、また保持時間が短すぎる場合は、接合が不十分となり、逆に高温で保持時間が長くなると、ロウの金属成分が金属板に拡散するのが多くなり、金属板が固くなって耐ヒートサイクル性が低下する。なお、測温は、金属板に直接測温体を接触させて行われる。
・・・
【0025】次いで、真空度0.1Torr以下の真空下、600℃以上の昇温を最大出力で行い(昇温速度は約20℃/分)、表1の条件で赤外線加熱をした後、600℃までを自然放冷(降温速度は約20℃/分)し、その後は2℃/分の速度で冷却して回路基板を製造した。」

ケ 甲2−7の記載
「(b)Cdフリー銀ろう
従来からのCd含有の銀ろうは融点が低く、流動性が良いなどの優れた性質を有し、作業性に関してはCdフリー銀ろうより遙かに能率的であるが、一方においてCd公害という宿命的な問題をも持ち合せている。その結果Cdフリー銀ろうが強く要求されるようになり、多くのろう合金が開発されている。表6に主なCdフリー銀ろうを示すが、それらは次の4つのタイプに分類される。
(1)Ag−Cu−Zn系(BAg−5型)
(2)Ag−Cu−Zn−Ni系(BAg−4型)
(3)Ag−Cu−Zn−Sn系(BAg−7型)
(4)Ag−Cu−Zn−In、−Mn系」(630ページ左欄)

(2) 申立理由1−4、申立理由1−5(甲1−1を主引例とする新規性進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲1−1とを対比する
a 甲1−1発明の「窒化アルミニウム基板」は、前記(1)ア(イ)bによれば、セラミック基板であるから、本件発明1の「セラミックス基板」に相当する。

b 甲1−1発明の「回路形成用銅銅板」及び「放熱板形成用銅板」は、何れも銅板であるといえるから、本件発明1の「銅板」に相当する。

c 甲1−1発明の「ろう材」は、「Ag、Cu、Ti、Snを含有する」ものであるところ、前記(1)ア(イ)cによれば、Tiは活性金属であるから、甲1−1発明の「ろう材」は、活性金属を含んでいるといえる。
そうすると、甲1−1発明の「Ag、Cu、Ti、Snを含有するろう材」は、本件発明1の「Ag,Cu及び活性金属を含むろう材」に相当する。

d 甲1−1発明の「窒化アルミニウム基板の表面に回路形成用銅板、裏面に放熱板形成用銅板が、Ag、Cu、Ti、Snを含有するろう材により接合されたセラミック回路基板」は、本件発明1の「セラミックス基板と銅板が、Ag、Cu及び活性金属を含むろう材を介して接合してなるセラミックス回路基板」に相当する。

e 本件発明1のボイド率は、前記1の(2)アの【0014】のとおり、「超音波探傷装置で観察したセラミックス回路基板の接合ボイドの面積を計測し、銅回路パターンの面積で除して求める」ものであり、甲1−1のボイド率は、前記(1)ア(ア)の【0029】のとおり、「接合ボイド:超音波探傷検査装置(日立エンジニアリングFS300−3)にて回路基板内の接合ボイドを1条件あたり20枚計測し、回路の面積に占める比率を計算し、その20枚計測した中で最大値」であり、両者のボイド率は同様の方法で測定しているから、甲1−1発明の「接合ボイドが1%以下」であることは、本件発明1の「接合ボイド率が1.0%以下であ」ることに相当する。

f 以上によれば、本件発明1と甲1−1発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。

<一致点>
「セラミックス基板と銅板が、Ag、Cu及び活性金属を含むろう材を介して接合してなるセラミックス回路基板において、接合ボイド率が1.0%以下であり、活性金属がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びそれらの水素化物からなる群から選択される1以上を含む、セラミックス回路基板。」

<相違点>
相違点1−1:本件発明1は、「ろう材成分であるAgの拡散距離が5〜20μmであ」るのに対し、甲1−1発明は、そのような構成を有しているのかどうか不明な点。

(イ)相違点1−1についての判断
a 前記3の(2)において示した、本件発明1の「Agの拡散距離」の定義から、本件発明1の「ろう材成分であるAgの拡散距離が5〜20μmであ」るとは、セラミックス基板表面から銅板表面方向にAgが最も遠くへ拡散した部分までの距離のうち最大のものが5〜20μmであると解される。

b 甲1−1には、ろう材成分であるAgの拡散距離が5〜20μmであることは記載も示唆もされておらず、また、本件特許の優先権主張の日前における技術常識であるともいえない。
したがって、相違点1−1は、実質的な相違点である。
さらに、甲1−2には、前記相違点1−1に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。
したがって、甲1−1発明に、甲1−2に記載された事項を適用しても、相違点1−1に係る本件発明1の構成は得られない。

(ウ) 申立人秋山の主張について
a 申立理由1−4について
(a)申立人秋山は、特許異議申立書の13ページ11行〜19行において、甲1−1には、ろう材の厚みを9〜15μmとすることが開示されており、また、甲1−1の回路基板において、ろう材からのAgの拡散がない、又はAgの拡散があっても微少である可能性は否定されないため、甲1−1には「Agの拡散距離が9〜15μm」とすることが開示されている旨主張している。

(b) 前記3の(2)において示した本件発明1の「Agの拡散距離」の定義からすると、本件発明1は、Agが銅板に拡散しているものである。
そうすると、甲1−1発明において、ろう材からAgの拡散がないものについては「Agの拡散距離が9〜15μm」となっているとはいえない。また、前記ア(イ)a(b)のとおり、甲1−1には、ろう材成分であるAgの拡散距離が5〜20μmであることは記載も示唆もされていない。
よって、申立人秋山の前記主張は採用できない。

(c)申立人秋山は、特許異議申立書の13ページ20行〜14ページ20行において、仮に甲1−1において、ろう材層からAgが拡散していると仮定すると、甲1−1の比較例1、2の回路基板は、ろう材層におけるAgの含有量が87%、800℃×20分の条件で銅板が接合されており、甲1−2には、ろう材層におけるAgの含有量が88%で800℃×30分の条件で、銅板が接合された試料14が開示され、また、試料14の銅板の厚みt1は600μmであるあるから、Agのろう材層(接合層3)からの拡散距離(Ag拡散層の厚みt2)は、600μm×0.02=12μmであり、
金属の拡散距離が加熱時間の平方根に比例することは、拡散方程式から技術常識であるから、甲1−1の比較例1,2の回路基板における「ろう材層からのAgの拡散距離」は、ろう材層におけるAgの含有量が略等しい甲1−2の試料14の拡散距離を用いて、12μm×(20/30分)1/2=9.8μmと推定され、比較例1,2の回路基板のろう材の厚みは、9μm及び10μmであるから、これらの回路基板における「Agの拡散距離」は、
比較例1:9μm+9.8μm=18.8μm
比較例2:10μm+9.8μm=19.8μm
となるから、甲1−1には、「Agの拡散距離が5〜20μmである回路基板」が記載されている旨主張している。

(d) しかし、甲1−1の接合条件は、前記(1)ア(ア)の【0025】から、6.5×10−4Paで400℃まで昇温し、5.0×10−3Paになるまで保持した後、800℃で20分保持した後、5℃/minにて600℃まで冷却し、4時間保持した後、1℃/minにて冷却するのに対して、甲1−2の接合条件は、前記(1)イ(ア)の【表2】(試料14)から、800℃で30分熱処理後、730℃で10分保持処理するものである。
すなわち、甲1−1は、800℃で20分保持した後冷却しているが、甲1−2については、前記(1)イ(ア)の【0042】によると、800〜880℃で5〜15分間熱処理した後、さらに750〜800℃で10〜40分間の保持処理を行い、窒化珪素焼却体とCu板との接合、およびAg成分のCu板への拡散処理を行うことが記載されているから、甲1−1と甲1−2とは熱処理条件が異なるものである。
そうすると、両者のAgの拡散距離は800℃の加熱時間(20分と30分)の平方根に比例するとはいえないから、甲1−1には、「Agの拡散距離が5〜20μmである回路基板」が記載されているとはいえない。
よって、申立人秋山の前記主張は採用できない。

(e)申立人秋山は、特許異議申立書の14ページ22行〜15ページ6行において、甲1−1には、400℃まで昇温し、真空度が5.0×10−3Paになるまで保持した後、800℃まで昇温し20分保持することで、接合ボイド率を1%以下とするセラミックス基板の製造方法が記載されており(【0025】、【表1】の比較例1、2)、甲1−1には400℃まで昇温した後の保持時間は明記されていないが、本件発明1と同様にボイド率が1%以下となっていることから、400℃に到達してから、真空度が5.0×10−3Paになるまで保持し、さらに800℃に向けての昇温により700℃に到達するまでの時間が5〜30分である蓋然性が高い旨主張している。

(f) 本件特許明細書の【0021】には、接合温度への昇温過程における400〜700℃の温度域での加熱時間を5〜30分とすることにより、接合炉内の雰囲気によらず接合ボイド率を1.0%以下とすることができると記載されている。
一方、前記(1)ア(ア)の【0006】、【0013】、【0018】〜【0020】によれば、甲1−1のセラミック基板表面の鏡面光沢度を5.0以上、活性金属であるTiとセラミック基板表面とが反応したTi化合物の厚みを0.4μm〜0.6μm、Ti化合物の占める面積をセラミック基板の12〜85%、ろう材金属成分に含有される酸素量を0.15質量%以下(0を含まず)とすることによって、接合ボイドを10%以下にできるといえる。
また、前記(1)ア(ア)の【0022】には、セラミック基板の接合温度として、真空度10−3Pa以下の真空炉で780〜810℃であることが好ましく、その保持時間は、いずれも10〜30分であることが望ましいと記載されている。
そして、実施例1(【0025】、【0034】の【表1】)には、具体的な接合条件として、セラミック基板の鏡面光沢度を15.2、ろう材金属成分に含有される酸素量を0.14質量%とし、6.5×10−4Paの真空炉中、400℃まで昇温し、真空度が5.0×10−3Paになるまで保持した後、800℃まで昇温し20分保持した後、冷却速度5℃/minにて600℃まで冷却し、4時間保持した後、1℃/minにて冷却して、銅板と窒化アルミニウム基板を接合することにより、活性金属であるTiとセラミック基板表面とが反応したTi化合物の厚みを0.5μm、Ti化合物の占める面積をセラミック基板の42%であるセラミック基板が得られ、当該セラミック基板の接合ボイドは1%以下になることが記載されている。
ここで、甲1−1には、400〜700℃の温度域の加熱時間について何ら記載されていない。
そうすると、甲1−1の実施例1においては、400〜700℃の温度域の加熱時間によらず、接合ボイドが1%以下になっているのであるから、400〜700℃の温度域の加熱時間が5〜30分であるとはいえない。
よって、申立人秋山の前記主張は採用できない。

b 申立理由1−5について
(a) 申立人秋山は、特許異議申立書の17ページ2行〜13行において、仮に、本件発明1と甲1−1に記載された発明との間に相違点が存在するとしても、それは微差であり、甲1−1に記載の発明に基づいて本件発明1−1に想到することは当業者にとって容易なことであり、例えば、甲1−1において「Agの拡散距離」が開示されていないとしても、甲1−2に開示されているように、Agの拡散を制御することで耐熱サイクル特性(熱応力の発生の緩和)を図ることは、既知の課題であるため、甲1−1における「Agの拡散距離」の範囲は、技術水準から予測される範囲を超えた顕著な効果を発揮させるものではなく、当業者が容易に想到する旨主張している。

(b) しかし、前記(1)イ(ア)の【0047】には、「銅板の厚さに対するAg拡散層の厚さの比、t2/t1が0.01以上である本発明の好ましい範囲を満たす窒化珪素回路基板については、接合されたCu板の厚さが0.5mm以上であるにもかかわらず、銅板が0.2mmと薄い試料1と同等にTCT特性が良好であり、耐熱サイクル性が良好であることが認められた。」と記載されているから、銅板の厚さに対するAg拡散層の厚さの比を制御するものであって、Agの拡散のみを制御するものではない。
したがって、Agの拡散を制御することで耐熱サイクル特性(熱応力の緩和)を図ることは、既知の課題であるとはいえない。
よって、申立人秋山の前記主張は採用できない。

(c) 小括
よって、本件発明1は、甲1−1発明ではないし、甲1−1発明及び甲1−2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、相違点1−1に係る本件発明1の構成を有しているから、前記ア(イ)で検討したのと同様の理由により、本件発明2〜4、6は、甲1−1発明ではないし、本件発明2〜6は、甲1−1発明及び甲1−2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)申立理由2−1(甲2−1を主引例とする進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲2−1発明とを対比する。
a 甲2−1の「セラミックス基板4」は、本件発明1の「セラミックス基板」に相当する。

b 甲2−1発明の「無酸素銅板の回路側金属板3及び放熱側金属板5」は、何れも銅板であるといえるから、本件発明1の「銅板」に相当する。

c 甲2−1発明の「ろう材層10、11」は、「Ag、Cu、In、Tiを含」ものであるところ、前記(1)ウ(イ)cによれば、Tiは活性金属であるから、甲2−1発明の「ろう材層10、11」は、活性金属を含んでいるといえる。
そうすると、甲2−1発明の「Ag、Cu、In、Tiを含」む「ろう材層10、11」は、本件発明1の「Ag,Cu及び活性金属を含むろう材」に相当する。

d 甲2−1発明の「セラミックス基板4の両面に、無酸素銅板の回路側金属板3及び放熱側金属板5をろう材層10、11により接合した回路基板」は、本件発明1の「セラミックス基板と銅板が、Ag、Cu及び活性金属を含むろう材を介して接合してなるセラミックス回路基板」に相当する。

e 以上によれば、本件発明1と甲2−1発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。

<一致点>
「セラミックス基板と銅板が、Ag、Cu及び活性金属を含むろう材を介して接合してなるセラミックス回路基板、セラミックス回路基板」

<相違点>
相違点2−1a: 本件発明1は、「接合ボイド率が1.0%以下であ」るのに対し、甲2−1発明は、接合ボイド率が不明な点。

相違点2−1b: 本件発明1は、「ろう材成分であるAgの拡散距離が5〜20μmであ」るのに対し、甲2−1発明は、「回路側ろう材層10の厚さが10μm、回路側金属板3の厚さが15μmである場合、回路側金属板3中のAgは、回路側金属板3と回路側ろう材層10の境界から回路側金属板3の厚み方向において、10μmを超える距離に拡散しており、回路側ろう材層10の厚さが15μm、回路側金属板3の厚さが10μmである場合、回路側金属板3中のAgは、回路側金属板3と回路側ろう材層10の境界から回路側金属板3の厚み方向において、5μmを超える距離に拡散している」点。

(イ)相違点についての判断
a 事案に鑑み、相違点2−1bから検討する。
(a) 前記3の(2)のとおり、本件発明の「Agの拡散距離」の定義から、本件発明1の「ろう材成分であるAgの拡散距離が5〜20μmであ」るとは、セラミックス基板表面から銅板表面方向にAgが最も遠くへ拡散した部分までの距離のうち最大のものが5〜20μmであると解される。

(b) 一方、甲2−1発明は、回路側ろう材層10の厚さが10μmの場合、回路側金属板3中のAgは、回路側金属版3と回路側ろう材層10の境界から回路側金属版3の厚み方向において、10μmを超える距離に拡散し、回路側ろう材層10の厚さが15μmの場合、回路側金属板3中のAgは、回路側金属版3と回路側ろう材層10の境界から回路側金属版3の厚み方向において、5μmを超える距離に拡散しているから、セラミックス基板4の表面から回路側金属版3中に拡散したAgまでの距離は、回路側ろう材層10の厚さに、回路側金属版3と回路側ろう材層10の境界から回路側金属版3の厚み方向においてAgが拡散した距離を加算した合計の距離であり、いずれも20μmより長くなっているといえる。
そして、甲2−1には、ろう材の成分であるAgの拡散距離が5〜20μmであることは記載も示唆もされておらず、また、本件特許の優先権主張の日前における技術常識であるともいえない。
さらに、甲2−2、甲2−3、甲2−6及び甲2−7には、前記相違点1−2bに係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。
したがって、甲2−1発明に甲2−2、甲2−3、甲2−6又は甲2−7に記載された事項を適用しても、相違点1−2bに係る本件発明1の構成は得られない。

(c) 小括
よって、相違点2−1aについて判断するまでもなく、本件発明1は、甲2−1発明及び甲2−2、甲2−3、甲2−6又は甲2−7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ) 申立人の主張について
a 申立人茂木は、特許異議申立書の29ページ10行〜32ページにおいて、甲2−1の図2、3には、ろう材層とCuとの境界(15μm、10μm)でAgの濃度が大きく低下していることが見てとれ、Agの拡散距離を計算すると、図2では25μm−15μm=10μm、図3では25μm−10μm=15μmとなるため、相違点2は甲1−1に実施的に記載されている旨主張している。

b 前記ウ(イ)eのとおり、図2、3では、それぞれ銅板中のAgは、銅板とろう材の境界から銅板の厚み方向において、10μm、5μmを超える距離に拡散しているところ、甲2−1の図2の15μmの位置、図3の10μmの位置は、ろう材層とCuとの境界であり、この位置ではAgは拡散していないから、当該位置をAgの拡散位置とすることはできない。
よって、申立人茂木の前記主張は採用できない。

イ 本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、相違点2−1bに係る本件発明1の構成を有しているから、上記ア(イ)で検討したのと同様の理由により、本件発明2〜6は、甲2−1発明及び甲2−2、甲2−3,甲2−6又は甲2−7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜6に係る発明を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜6に係る発明を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり、決定する。

 
異議決定日 2023-08-01 
出願番号 P2019-514515
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01L)
P 1 651・ 536- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 河本 充雄
特許庁審判官 市川 武宜
松永 稔
登録日 2022-09-20 
登録番号 7144405
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 セラミックス回路基板及びその製造方法とそれを用いたモジュール  
代理人 園田・小林弁理士法人  

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