• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02B
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1401705
総通号数 21 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-09-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-05-12 
確定日 2023-08-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第7173394号発明「光学フィルム、着色層形成用組成物、ジピロメテンコバルト錯体及び表示装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第7173394号の請求項19ないし26に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第7173394号(請求項の数28。以下,「本件特許」という。)に係る出願(以下,「本件特許出願」という。)は,令和4年5月30日(優先権主張 令和4年1月7日)の出願であって,令和4年11月8日にその特許権の設定登録がされ,同月16日に特許掲載公報が発行された。
その後,令和5年5月12日に特許異議申立人 竹内 美穂(以下,「申立人」という。)より本件特許の請求項19ないし26に係る特許に対して本件特許異議の申立てがされた。

2 本件特許の請求項19ないし26に係る発明
本件特許の請求項19ないし26に係る発明(以下,それぞれを「本件特許発明19」ないし「本件特許発明26」といい,本件特許発明19ないし26を総称して「本件特許発明」ということがある。)は,本件特許の特許請求の範囲の請求項19ないし26に記載された事項により特定されるものであるところ,当該請求項19ないし26の記載は,次のとおりである。

【請求項19】
下記式(I−1)で表される構造を有し,アセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上,かつ前記式(I−1)中のR1〜R5,R8及びR9を下記反応式(II)に当てはめ,量子化学計算プログラムGaussian16を用い,計算手法B3LYP,基底関数6−31G(d,p)(ただし,周期表においてKrより原子番号が大きな元素には基底関数LanL2DZを割り当てる)にて計算した反応前後の自由エネルギー変化が0.92kcal/mol以上となるようにR1〜R5,R8及びR9が組み合わされた,ジピロメテンコバルト錯体。
【化11】

【化12】

ここで,R1〜R5は各々独立に,水素原子,ハロゲン原子,脂肪族炭化水素基,アルコキシ基,アルキルチオ基,芳香族炭化水素基,複素環基,水酸基,メルカプト基,ニトロ基,置換アミノ基,非置換アミノ基,シアノ基,スルホ基,エステル基,及びアシル基からなる群から選ばれた一価基を示し,R8及びR9は各々独立に炭素数1〜6のアルキル基を示し,R6は−C(=O)−O−R8を示し,R7は−C(=O)−O−R9を示す。
【請求項20】
R8及びR9が各々独立にメチル基又はエチル基である請求項19に記載のジピロメテンコバルト錯体。
【請求項21】
R5が水素原子である請求項19又は20に記載のジピロメテンコバルト錯体。
【請求項22】
R1〜R4がアルキル基であり,R1とR2の炭素数の和が3以上かつR3とR4の炭素数の和が3以上である請求項19又は20に記載のジピロメテンコバルト錯体。
【請求項23】
R1〜R4のうち少なくとも1つが水素原子又はハロゲン原子である請求項19に記載のジピロメテンコバルト錯体。
【請求項24】
下記式(I−1)で表される構造を有し,かつアセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上である,ジピロメテンコバルト錯体。
【化13】

ここで,R1〜R5は各々独立に,水素原子,ハロゲン原子,脂肪族炭化水素基,アルコキシ基,アルキルチオ基,芳香族炭化水素基,複素環基,水酸基,メルカプト基,ニトロ基,置換アミノ基,非置換アミノ基,シアノ基,スルホ基,エステル基,及びアシル基からなる群から選ばれた一価基を示し,R8及びR9は各々独立に炭素数1〜6のアルキル基を示し,R1〜R4のうち少なくとも1つが水素原子又はハロゲン原子である。
【請求項25】
R1及びR3が各々独立に水素原子又はハロゲン原子であり,R2及びR4が各々独立に炭素数1〜4のアルキル基であるか,又は,R1及びR3が各々独立に炭素数1〜4のアルキル基であり,R2及びR4が各々独立にハロゲン原子である請求項23又は24に記載のジピロメテンコバルト錯体。
【請求項26】
アセトン溶液の吸収極大波長が470〜530nmである請求項19,20又は24に記載のジピロメテンコバルト錯体。

3 申立ての理由の概要
特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載された申立ての理由(以下,「申立理由」という。)は,概略,次のとおりである。

申立理由1(実施可能要件違反):
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明19ないし26の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから,本件特許発明19ないし26に係る特許は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって,同法113条4項に該当し,取り消されるべきものである。

申立理由2(サポート要件違反):
本件特許発明19ないし26は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないから,本件特許発明19ないし26に係る特許は,特許法36条6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって,同法113条4項に該当し,取り消されるべきものである。

4 本件明細書の発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。(下線は,合議体が付した。)
(1) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,光学フィルム,着色層形成用組成物,ジピロメテンコバルト錯体及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置は,室内外を問わず,外光が入射する環境下で使用されることが多い。表示装置に入射した外光は,表示装置の表面で反射され,視認性の低下等,表示品位の低下を引き起こす。中でも有機発光表示装置等の自発光表示装置は,電極及びその他多くの金属配線が外光を強く反射し,表示品位の低下が生じやすい。
表示装置を低反射率化し,外光反射を抑制するために,表示装置の表示面側に円偏光板を配置することがある。
【0003】
一方,表示装置には一般に,高い色純度が求められる。色純度とは,表示装置の表示可能な色の広さを示し,色再現範囲とも呼ばれる。よって高い色純度であることは,色再現範囲が広く,色再現性が良いことを意味する。色再現性の向上手段としては,例えば,表示装置の白色光源に対しカラーフィルタを用いて色分離する手法,単色光源をカラーフィルタで補正して半値幅を狭くする手法が知られている。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし,円偏光板を用いる場合には,表示装置から出射した光も円偏光板に吸収され,輝度が大きく低下する。輝度低下を補うために発光強度を高くすると,発光素子の寿命低下を引き起こす。さらに,円偏光板自体の厚みにより,表示装置の薄型化が困難となる問題もある。
従来のカラーフィルタを用いて表示装置の色再現性を向上させる場合には,カラーフィルタの厚膜化や色材の高濃度化が必要となり,画素形状や視野角特性の悪化等,表示品位を低下させる問題がある。
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果,中心元素がコバルトであるジピロメテン錯体(ジピロメテンコバルト錯体)が,波長500nm付近の光(外部光や表示装置の光源からの副発光)を選択的かつ効率的に吸収することができ,表示装置の低反射率化,高輝度化,薄膜化及び色再現性の向上に有効であること,その一方で,置換基の違い等によって,耐光性が充分ではない場合があることを見出した。
【0008】
そこで,本発明は,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができ,耐光性に優れる光学フィルム,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができ,耐光性に優れる着色層を形成できる着色層形成用組成物,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができ,耐光性に優れるジピロメテンコバルト錯体,並びに前記光学フィルムを用いた表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は,以下の態様を有する。
[1]・・・(中略)・・・
[17]下記式(I−1)で表される構造を有し,かつアセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上である,ジピロメテンコバルト錯体。
【化7】

ここで,R1〜R5は各々独立に,水素原子,ハロゲン原子,脂肪族炭化水素基,アルコキシ基,アルキルチオ基,芳香族炭化水素基,複素環基,水酸基,メルカプト基,ニトロ基,置換アミノ基,非置換アミノ基,シアノ基,スルホ基,エステル基,及びアシル基からなる群から選ばれた一価基を示し,R8及びR9は各々独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す。
[18]R8及びR9が各々独立にメチル基又はエチル基である[17]のジピロメテンコバルト錯体。
[19]R5が水素原子である[17]又は[18]のジピロメテンコバルト錯体。
[20]R1〜R4がアルキル基であり,R1とR2の炭素数の和が3以上かつR3とR4の炭素数の和が3以上である[17]〜[19]のいずれかのジピロメテンコバルト錯体。
[21]R1〜R4のうち少なくとも1つが水素原子又はハロゲン原子である[17]〜[19]のいずれかのジピロメテンコバルト錯体。
[22]R1及びR3が各々独立に水素原子又はハロゲン原子であり,R2及びR4が各々独立に炭素数1〜4のアルキル基であるか,又は,R1及びR3が各々独立に炭素数1〜4のアルキル基であり,R2及びR4が各々独立にハロゲン原子である[21]のジピロメテンコバルト錯体。
[23]アセトン溶液の吸収極大波長が470〜530nmである[17]〜[22]のいずれかのジピロメテンコバルト錯体。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができ,耐光性に優れる光学フィルム,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができ,耐光性に優れる着色層を形成できる着色層形成用組成物,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができ,耐光性に優れるジピロメテンコバルト錯体,並びに前記光学フィルムを用いた表示装置を提供できる。」

(2) 「【発明を実施するための形態】
【0012】
[光学フィルム]
以下,本発明の一実施形態に係る光学フィルムについて,図1に基づき詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように,光学フィルム1は,着色層10と,透明基材20と,機能層30と,を有する。機能層30は,低屈折率層31と,ハードコート層32と,を有する。すなわち,光学フィルム1は,着色層10の一方の面に位置する透明基材20を有し,着色層10,透明基材20,ハードコート層32,低屈折率層31が,この順で積層された積層体である。
・・・(中略)・・・
【0015】
≪着色層≫
着色層10は,色素(A)を含有する。
好ましい一態様において,着色層10は,本発明の着色層形成用組成物の硬化物である。本発明の着色層形成用組成物は,色素(A)と,光重合性化合物(B)と,光重合開始剤(C)と,を含有する。着色層10が本発明の着色層形成用組成物の硬化物である場合,着色層10は,色素(A)と,光重合性化合物(B)の重合物と,を含有する。
着色層10及び本発明の着色層形成用組成物は,非重合性添加剤(D)をさらに含有していてもよい。本発明の着色層形成用組成物は,溶剤(E)をさらに含有していてもよい。
・・・(中略)・・・
【0017】
<色素(A)>
色素(A)は,吸収極大波長が470〜530nmの範囲内にある色材(以下,「第一の色材」とも記す。)を含有する。
第一の色材の吸収極大波長が上記下限値以上であると,青色発光の輝度を低下させにくい。第一の色材の吸収極大波長が上記上限値以下であると,緑色発光の輝度を低下させにくい。このため,吸収波長と吸収強度との制御により,色純度と輝度効率とを両立しやすい。
【0018】
第一の色材の吸光スペクトルの半値幅は,15〜30nmが好ましく,15〜25nmがより好ましい。第一の色材の吸光スペクトルの半値幅が上記数値範囲内であると,色純度と輝度効率とを両立しやすい。
【0019】
第一の色材は,特定のジピロメテンコバルト錯体(以下,「錯体(I)」とも記す。)を含有する。
錯体(I)は,下記式(I)で表される構造を有し,かつ式(I)中のR1〜R7を下記反応式(II)に当てはめて計算した反応前後の自由エネルギー変化(以下,「ΔG」とも記す。)が−1.0kcal/mol以上となるようにR1〜R7が組み合わされたものである。式(I)で表される構造を有していても,ΔGが−1.0kcal/mol未満のものは,錯体(I)に該当しない。
【0020】
【化8】

【0021】
ここで,R1〜R7は各々独立に,水素原子,ハロゲン原子,脂肪族炭化水素基,アルコキシ基,アルキルチオ基,芳香族炭化水素基,複素環基,水酸基,メルカプト基,ニトロ基,置換アミノ基,非置換アミノ基,シアノ基,スルホ基,エステル基,及びアシル基からなる群から選ばれた一価基を示す。
一価基が炭素原子を有する場合(脂肪族炭化水素基,アルコキシ基,アルキルチオ基,芳香族炭化水素基,複素環基,置換アミノ基,エステル基,アシル基等),その一価基は置換基を有していてもよい。
【0022】
【化9】

【0023】
反応式(II)は,下記式(III)で表されるボロンジピロメテンと一重項酸素との反応式である。このボロンジピロメテンと一重項酸素との反応前後のΔGは,錯体(I)と一重項酸素との反応前後のΔGと相関性がある。錯体(I)中のR1〜R7と同一の置換基を有するボロンジピロメテンを代替構造としてΔGを計算することにより,電子数が多く大きな計算負荷を要するジピロメテンコバルト錯体の構造そのものの構造を用いて計算するよりも短時間でΔGを算出することが可能となる。
【0024】
【化10】

【0025】
ΔGは,量子化学計算プログラムGaussian16を用い,計算手法B3LYP,基底関数6−31G(d,p)(ただし,周期表においてKrより原子番号が大きな元素には基底関数LanL2DZを割り当てる)にて計算した値である。より詳細には,量子化学計算プログラムGaussian16を用い,計算手法B3LYP,基底関数6−31G(d,p)(ただし,周期表においてKrより原子番号が大きな元素には基底関数LanL2DZを割り当てる)にて,下記式(III)で表されるボロンジピロメテンの構造最適化計算及び振動計算をした結果得られる自由エネルギーの値と,一重項酸素の構造最適化計算及び振動計算をした結果得られる自由エネルギーの値との和を,反応式(II)の右辺の構造最適化計算及び振動計算をした結果得られる自由エネルギーの値から引いて算出する。
【0026】
ΔGは,式(II)中のR1〜R7がどのような基又は原子であるかによって異なる。したがって,式(II)中のR1〜R7は,ΔGが−1.0kcal/mol以上となるように選択される。
ΔGが−1.0kcal/mol以上であれば,ジピロメテンコバルト錯体が耐光性に優れ,これを含む着色層や光学フィルムも耐光性に優れる。
ΔGは,0.0kcal/mol以上が好ましく,0.3kcal/mol以上がより好ましい。ΔGは大きいほど好ましく,上限は特に限定されない。
・・・(中略)・・・
【0038】
式(I)においては,R1〜R4がアルキル基であり,R1とR2の炭素数の和が3以上かつR3とR4の炭素数の和が3以上であることが好ましい。この場合,ΔGが大きく耐光性が向上する傾向がある。この理由としては,R1又はR2による立体障害とR3又はR4による立体障害により,一重項酸素によるジピロメテン構造のメソ位への攻撃が抑制されることが考えられる。さらに,塗膜を構成する樹脂との相溶性が向上し,塗膜中で安定的に存在することが可能となり,耐光性が向上する。R1とR2の炭素数の和,R3とR4の炭素数の和はそれぞれ,4以上であることがより好ましい。R1とR2の炭素数の和,R3とR4の炭素数の和それぞれの上限は,例えば12,さらには8である。
【0039】
式(I)においては,R1〜R4のうち少なくとも1つが水素原子又はハロゲン原子であることも好ましい。この場合,ΔGが大きくなり,耐光性が向上する傾向がある。この場合,R1及びR3が各々独立に水素原子又はハロゲン原子であり,R2及びR4が各々独立に炭素数1〜4のアルキル基であるか,又は,R1及びR3が各々独立に炭素数1〜4のアルキル基であり,R2及びR4が各々独立にハロゲン原子であることがより好ましい。
【0040】
式(I)においては,R5が水素原子であることが好ましい。この場合,ΔGが大きくなり,耐光性が向上する傾向がある。
【0041】
式(I)においては,R6及びR7が各々独立にエステル基であることが好ましい。この場合,ΔGが大きくなり,耐光性が向上する傾向がある。この理由としては,R6及びR7が嵩高い構造であることで,一重項酸素によるジピロメテン構造のメソ位への攻撃が抑制されることが考えられる。
エステル基のなかでも,炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基が好ましく,炭素数2〜3のアルコキシカルボニル基がより好ましい。この場合,錯体(I)の分子量が比較的低くなり,色材濃度を低くできる。
【0042】
錯体(I)の好ましい一例として,下記式(I−1)で表される構造を有し,かつアセトン溶液(当該ジピロメテンコバルト錯体をアセトンに溶解した溶解液)のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であるジピロメテンコバルト錯体が挙げられる。かかるジピロメテンコバルト錯体は,耐光性に優れる。また,分子量が比較的低く,色材濃度を低くできる。
【0043】
【化11】

【0044】
ここで,R1〜R5は前記の通りであり,R8及びR9は各々独立に炭素数1〜6のアルキル基を示す。R8及びR9は各々独立にメチル基又はエチル基であることが好ましい。
【0045】
上記モル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であれば,耐光性がより優れる傾向がある。
上記モル吸光係数は,200000L/(mol・cm)以上が好ましく,210000L/(mol・cm)以上がより好ましい。上記モル吸光係数の上限は特に限定されないが,例えば300000L/(mol・cm)である。
上記モル吸光係数は,後述する実施例に記載の方法により測定される。
上記モル吸光係数は,式(I−1)中のR1〜R5,R8及びR9がどのような基又は原子であるかによって異なる。したがって,式(I−1)中のR1〜R5,R8及びR9は,上記モル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上となるように選択される。
【0046】
錯体(I)の製造方法は,特に限定されず,例えば,特開2002−212456号公報に記載の方法に準じて製造できる。
式(I)におけるR1〜R7を適宜選択することにより,錯体(I)の吸収極大波長を制御できる。」

(3) 「【0093】
[表示装置]
本発明の表示装置は,本発明の光学フィルムを備える。
表示装置の具体例としては,例えば,テレビ,モニタ,携帯電話,携帯型ゲーム機器,携帯情報端末,パーソナルコンピュータ,電子書籍,ビデオカメラ,デジタルスチルカメラ,ヘッドマウントディスプレイ,ナビゲーションシステム,音響再生装置(カーオーディオ,デジタルオーディオプレイヤ等),複写機,ファクシミリ,プリンター,プリンター複合機,自動販売機,現金自動預け入れ払い機(ATM),個人認証機器,光通信機器,ICカード等が挙げられる。中でも,金属製の電極や配線により,外光反射の影響を受けやすく,本発明の有用性が高い点で,LED,有機EL,無機蛍光体,量子ドット等の自発光素子を備えた表示装置が好適である。」

(4) 「【実施例】
【0094】
以下,実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが,本発明はこれら実施例に限定されるものではない。「部」は「質量部」を示す。後述する実施例1,9,10は参考例である。
・・・(中略)・・・
【0099】
[実施例1〜18,比較例1〜12]
(ジピロメテンコバルト錯体の合成)
以下の手順で,表1に示すジピロメテンコバルト錯体(化合物1〜18,1’〜12’)を合成した。
表1中,Meはメチル基,Etはエチル基,nBuはn−ブチル基,tBuはt−ブチル基,Phはフェニル基を示す。
【0100】
<化合物1の合成>
[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチル(2.5g)を反応容器に封入し,メタノール(50mL)に溶解させた後,47%臭化水素酸(45g)を添加して,1時間還流を行った。析出した固体を濾別することで,3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩(2.6g)を得た。
【0101】
[化合物1の合成]
3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩(0.6g)を反応容器に封入し,メタノール(5mL),トリエチルアミン(0.17g),酢酸コバルト四水和物(0.18g)を添加し,2時間還流を行った。析出した固体を濾別することで,化合物1(0.42g)を得た。
【0102】
<化合物2の合成>
[3,3’−ジメチル−5,5’−ジ−ヨード−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
上記[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]において,5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルを5−ホルミル−2−ヨード−4−メチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルに変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0103】
[化合物2の合成]
上記[化合物1の合成]において,3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩を3,3’−ジメチル−5,5’−ジ−ヨード−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩に変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0104】
<化合物3の合成>
[3,3’−ジメチル−5,5’−ジ−ブロモ−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
上記[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]において、5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルを2−ブロモ−5−ホルミル−4−メチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルに変更した以外は、同様の手順で合成した。
【0105】
[化合物3の合成]
上記[化合物1の合成]において、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩を3,3’−ジメチル−5,5’−ジ−ブロモ−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩に変更した以外は、同様の手順で合成した。
【0106】
<化合物4の合成>
[3,3’−ジメチル−5,5’−ジ−クロロ−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
上記[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]において、5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルを2−クロロ−5−ホルミル−4−メチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルに変更した以外は、同様の手順で合成した。
【0107】
[化合物4の合成]
上記[化合物1の合成]において、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩を3,3’−ジメチル−5,5’−ジ−クロロ−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩に変更した以外は、同様の手順で合成した。
【0108】
<化合物5の合成>
[5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
上記[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]において,5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルを5−ホルミル−2−メチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルに変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0109】
[化合物5の合成]
上記[化合物1の合成]において,3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩を5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩に変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0110】
<化合物6の合成>
[3,3’−ジ−クロロ−5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
上記[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]において,5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルを4−クロロ−5−ホルミル−2−メチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルに変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0111】
[化合物6の合成]
上記[化合物1の合成]において,3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩を3,3’−ジ−クロロ−5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩に変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0112】
<化合物7の合成>
[3,3’−ジ−ヨード−5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
上記[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]において,5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルを5−ホルミル−4−ヨード−2−メチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルに変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0113】
[化合物7の合成]
上記[化合物1の合成]において,3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩を3,3’−ジ−ヨード−5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩に変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0114】
<化合物8の合成>
[3,3’−ジ−ブロモ−5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
上記[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]において,5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルを4−ブロモ−5−ホルミル−2−メチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルに変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0115】
[化合物8の合成]
上記[化合物1の合成]において,3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩を3,3’−ジ−ブロモ−5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩に変更した以外は,同様の手順で合成した。
・・・(中略)・・・
【0122】
<化合物12の合成>
[5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−メトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
上記[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]において,5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルを5−ホルミル−2−メチル−1H−ピロール−3−カルボン酸メチルに変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0123】
[化合物12の合成]
上記[化合物1の合成]において,3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩を5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−メトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩に変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0124】
<化合物13の合成>
[3,3’−ジ−ブチル−5,5’−ジ−エチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
上記[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]において,5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルを4−ブチル−2−エチル−5−ホルミル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルに変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0125】
[化合物13の合成]
上記[化合物1の合成]において,3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩を3,3’−ジ−ブチル−5,5’−ジ−エチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩に変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0126】
<化合物14の合成>
[3,3’−ジ−ブチル−5,5’−ジ−エチル−4,4’−ジ−メトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
上記[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]において,5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルを4−ブチル−2−エチル−5−ホルミル−1H−ピロール−3−カルボン酸メチルに変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0127】
[化合物14の合成]
上記[化合物1の合成]において,3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩を3,3’−ジ−ブチル−5,5’−ジ−エチル−4,4’−ジ−メトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩に変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0128】
<化合物15の合成>
[3,3’−ジ−ブチル−5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
上記[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]において,5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルを4−ブチル−2−メチル−5−ホルミル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルに変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0129】
[化合物15の合成]
上記[化合物1の合成]において,3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩を3,3’−ジ−ブチル−5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩に変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0130】
<化合物16の合成>
[3,3’−ジ−プロピル−5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
上記[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]において,5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルを4−プロピル−2−メチル−5−ホルミル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルに変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0131】
[化合物16の合成]
上記[化合物1の合成]において,3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩を3,3’−ジ−プロピル−5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩に変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0132】
<化合物17の合成>
[3,3’−ジ−ブチル−5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−メトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
上記[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]において,5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルを4−ブチル−2−メチル−5−ホルミル−1H−ピロール−3−カルボン酸メチルに変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0133】
[化合物17の合成]
上記[化合物1の合成]において,3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩を3,3’−ジ−ブチル−5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−メトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩に変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0134】
<化合物18の合成>
[3,3’−ジ−エチル−5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]
上記[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]において,5−ホルミル−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルを4−エチル−2−メチル−5−ホルミル−1H−ピロール−3−カルボン酸エチルに変更した以外は,同様の手順で合成した。
【0135】
[化合物18の合成]
上記[化合物1の合成]において,3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩を3,3’−ジ−エチル−5,5’−ジ−メチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩に変更した以外は,同様の手順で合成した。
・・・(中略)・・・
【0153】
(評価)
<反応前後の自由エネルギー変化(ΔG)>
各例のジピロメテンコバルト錯体と同一の置換基を有するボロンジピロメテンについて,量子化学計算プログラムGaussian16を用い,計算手法B3LYP,基底関数6−31G(d,p)(ただし,周期表においてKrより原子番号が大きな元素には基底関数LanL2DZを割り当てる)にて,以下の手順に従ってΔGを計算した。結果を表2に示す。
(1)各例のジピロメテンコバルト錯体と同一の置換基を有するボロンジピロメテンの構造最適化計算及び振動計算を実施し,振動計算の結果から,上記ボロンジピロメテンの自由エネルギーの値GCoを得た。
(2)一重項酸素の構造最適化計算及び振動計算を実施し,振動計算の結果から,一重項酸素の自由エネルギーの値GO2を得た。
(3)上記ボロンジピロメテンの構造のメソ位に酸素が付加した構造(反応式(II)の右辺の構造)の構造最適化及び振動計算を実施し,振動計算の結果から,上記ボロンジピロメテンの酸素付加体の自由エネルギーの値GCo+O2を得た。
(4)下記式に従ってΔGを算出した。
ΔG=GCo+O2−(GCo+GO2)
【0154】
<アセトン溶液のモル吸光係数(ε)>
ジピロメテンコバルト錯体の濃度がそれぞれ異なる3点のアセトン溶液を調製し,紫外可視分光光度計((株)日立製作所製,U−4100)を用いて吸収スペクトルを測定し,波長範囲470〜530nmにおいて吸収極大波長における吸光度を各濃度に対してプロットしたときの近似直線の傾きをεとした。結果を表2に示す。
・・・(中略)・・・
【0158】
<耐光性>
評価基板の塗膜が形成されている側の面に対し,キセノンウェザーメーター試験機(スガ試験機株式会社製,X75)を用い,キセノンランプ照度60W/cm2(300〜400nm),試験機内温度45℃,湿度50%RHの条件にて120時間,光を照射する試験を行った。試験前後に,紫外可視分光光度計((株)日立製作所製,U−4100)を用い,評価基板の透過率測定を行い,波長470〜530nmの範囲にて試験前の最小透過率を示す波長での試験前後透過率差(ΔT)を算出した。結果を表2に示す。
A:ΔTが10%未満。
B:ΔTが10%以上,15%未満。
C:ΔTが15%以上。
・・・(中略)・・・
【0161】
【表1】

【0162】
【表2】

【0163】
【表3】

【0164】
上記結果に示すように,ΔGが−1.0kcal/mol以上のジピロメテンコバルト錯体を用いた実施例1〜18の塗膜は,耐光性に優れていた。ジピロメテンコバルト錯体と他の成分との相溶性も良好であった。特に,ジピロメテンコバルト錯体のアセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上である場合に,波長500nm付近の光の吸収効率が高かった。塗膜中におけるジピロメテン金属錯体の濃度を低く抑えることができることは,製造コスト面においても有用である。」

5 判断
(1)申立理由1(実施可能要件違反)について
本件特許発明19ないし26は,「ジピロメテンコバルト錯体」という物の発明であるところ,物の発明について,発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすためには,次の3つの要件を満たすように記載されている必要があると解される(特許・実用新案審査基準第II部第1章第1節3.1.1を参照。)。
要件1:「物の発明」について明確に説明されていること
要件2:「その物を作れる」ように記載されていること
要件3:「その物を使用できる」ように記載されていること
そこで,本件特許発明19ないし26について,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,前記要件1ないし要件3を満たすか否かについて,以下判断する。

ア 要件1について
本件特許の請求項19には,本件特許発明19に係る「ジピロメテンコバルト錯体」が,式(I−1)で表される構造であって,式(I−1)中のR1〜R5は各々独立に,水素原子,ハロゲン原子,脂肪族炭化水素基,アルコキシ基,アルキルチオ基,芳香族炭化水素基,複素環基,水酸基,メルカプト基,ニトロ基,置換アミノ基,非置換アミノ基,シアノ基,スルホ基,エステル基,及びアシル基からなる群から選ばれた一価基を示し,R8及びR9は各々独立に炭素数1〜6のアルキル基である構造(以下,R1ないしR5,R8,R9の条件も含めて「式(I−1)で表される構造」という。)を有すること,アセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であること,及び所定の方法で計算した,前記「ジピロメテンコバルト錯体」の類似物質の反応式(II)の反応前後の自由エネルギー変化(以下,本件明細書の発明の詳細な説明での表現にあわせて「ΔG」という。)が0.92kcal/mol以上であることが,発明特定事項として記載されているから,当業者にとって一の請求項から本件特許発明19を把握することができる(発明が明確に説明されている)。そして,本件特許発明19は,発明の詳細な説明の【0042】ないし【0045】に記載された「錯体(1)の好ましい一例」であるジピロメテンコバルト錯体のうち,実施例2,実施例5ないし8,実施例12ないし18によって具体例が示された,ΔGが0.92kcal/mol以上のジピロメテンコバルト錯体として,発明の詳細な説明の記載から読み取ることができる。
また,前記請求項19の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載された請求項20ないし23には,請求項19に記載された前記発明特定事項に加えて,式(I−1)中のR8及びR9が各々独立にメチル基又はエチル基であること,R5が水素原子であること,R1〜R4がアルキル基であり,R1とR2の炭素数の和が3以上かつR3とR4の炭素数の和が3以上であること,R1〜R4のうち少なくとも1つが水素原子又はハロゲン原子であることが,発明特定事項としてそれぞれ記載されており,当業者にとって一の請求項から本件特許発明20ないし23をそれぞれ把握することができる。そして,本件特許発明20ないし23は,発明の詳細な説明の【0042】ないし【0045】に記載された「錯体(1)の好ましい一例」であるジピロメテンコバルト錯体のうち,実施例2,実施例5ないし8,実施例12ないし18によって具体例が示された,式(I−1)中のR8及びR9が各々独立にメチル基又はエチル基であるジピロメテンコバルト錯体,実施例2,実施例5ないし8,実施例12ないし18によって具体例が示された,式(I−1)中のR5が水素原子であるジピロメテンコバルト錯体,実施例13ないし18によって具体例が示された,式(I−1)中のR1〜R4がアルキル基であり,R1とR2の炭素数の和が3以上かつR3とR4の炭素数の和が3以上であるジピロメテンコバルト錯体,実施例2,5ないし8,12によって具体例が示された,式(I−1)中のR1〜R4のうち少なくとも1つが水素原子又はハロゲン原子であるジピロメテンコバルト錯体として,発明の詳細な説明の記載からそれぞれ読み取ることができる。
また,請求項24には,本件特許発明24に係る「ジピロメテンコバルト錯体」が,式(I−1)で表される構造のうちR1〜R4のうち少なくとも1つが水素原子又はハロゲン原子である構造を有すること,及びアセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であることが,発明特定事項として記載されており,当業者にとって一の請求項から本件特許発明24を把握することができる。そして,本件特許発明24は,発明の詳細な説明の【0042】ないし【0045】に記載された「錯体(1)の好ましい一例」であるジピロメテンコバルト錯体のうち,実施例2ないし8,12によって具体例が示された,式(I−1)中のR1〜R4のうち少なくとも1つが水素原子又はハロゲン原子であり,アセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であるジピロメテンコバルト錯体として,発明の詳細な説明の記載から読み取ることができる。
また,前記請求項24の記載を引用する形式で記載された請求項25には,請求項24に記載された前記発明特定事項に加えて,式(I−1)中のR1及びR3が各々独立に水素原子又はハロゲン原子であり,R2及びR4が各々独立に炭素数1〜4のアルキル基であるか,又は,R1及びR3が各々独立に炭素数1〜4のアルキル基であり,R2及びR4が各々独立にハロゲン原子であることが,発明特定事項として記載されており,当業者にとって一の請求項から本件特許発明25を把握することができる。そして,本件特許発明25は,発明の詳細な説明の【0042】ないし【0045】に記載された「錯体(1)の好ましい一例」であるジピロメテンコバルト錯体のうち,実施例2ないし8,12によって具体例が示された,式(I−1)中のR1及びR3が各々独立に水素原子又はハロゲン原子であり,R2及びR4が各々独立に炭素数1〜4のアルキル基であるか,又は,R1及びR3が各々独立に炭素数1〜4のアルキル基であり,R2及びR4が各々独立にハロゲン原子であり,アセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であるジピロメテンコバルト錯体として,発明の詳細な説明の記載からそれぞれ読み取ることができる。
また,前記請求項19又は請求項24の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載された請求項26には,請求項19又は請求項24に記載された前記発明特定事項に加えて,アセトン溶液の吸収極大波長が470〜530nmであることが,発明特定事項として記載されており,当業者にとって一の請求項から本件特許発明26を把握することができる。そして,本件特許発明25は,発明の詳細な説明の【0042】ないし【0045】に記載された「錯体(1)の好ましい一例」であるジピロメテンコバルト錯体のうち,実施例2ないし8,12ないし18によって具体例が示された,アセトン溶液の吸収極大波長が470〜530nmであるジピロメテンコバルト錯体として,発明の詳細な説明の記載からそれぞれ読み取ることができる。
そして,本件特許発明19ないし26の発明特定事項の各々は,相互に矛盾せず,全体として本件特許発明19ないし26のそれぞれを理解し得るように発明の詳細な説明に記載されているものと認められる。
以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明19ないし26について明確に説明されているから,要件1を満たす。

イ 要件2について
(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明の【0046】には,本件特許発明19ないし26の「ジピロメテンコバルト錯体」の製造方法について,「特に限定されず,例えば,特開2002−212456号公報に記載の方法に準じて製造できる」ことが記載されている。
また,【0161】の【表1】に示された各実施例のR1ないしR7,及び【0162】の【表2】に示された各実施例のΔG及びε(モル吸光係数)の値からみて,発明の詳細な説明に記載された実施例2,実施例5ないし8,実施例12は,本件特許発明19ないし21,23ないし26の実施例に該当し,実施例2ないし8,実施例12は,本件特許発明23ないし26の実施例に該当する。そして,【0102】ないし【0115】,【0122】ないし【0135】には,実施例2ないし8の化合物2ないし8,実施例12ないし18の化合物12ないし18の製造方法について,具体的に記載されており,当該記載中で引用している[3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジ−エトキシカルボニル−2,2’−ジピロメテン臭化水素酸塩の合成]及び[化合物1の合成]は,【0100】及び【0101】に記載されている。
そうすると,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,直ちに,本件特許発明19ないし26の「ジピロメテンコバルト錯体」に該当する化合物2ないし8,化合物12ないし18を製造することができる。

(イ) また,本件特許発明19ないし23の「ジピロメテンコバルト錯体」は,アセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であるとの発明特定事項及びΔGが0.92kcal/mol以上であるとの発明特定事項を有する点で,物の有する機能,特性等からその物の構造等を予測することが困難な技術分野において,機能,特性等で特定された物といえ,本件特許発明24ないし25の「ジピロメテンコバルト錯体」は,アセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であるとの発明特定事項を有する点で,物の有する機能,特性等からその物の構造等を予測することが困難な技術分野において,機能,特性等で特定された物といえ,本件特許発明26は,少なくとも,アセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であるとの発明特定事項を有する点で,物の有する機能,特性等からその物の構造等を予測することが困難な技術分野において,機能,特性等で特定された物といえるところ,要件2を満たすためには,このような物のうち,発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物及びその物から技術常識を考慮すると製造できる物以外の物については,当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮すると,どのように作るか理解できる必要があると解される。(特許・実用審査基準第II部第1章第1節3.1.1(2)なお書を参照。)
これを本件についてみると,本件明細書の発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された化合物2,化合物5ないし8,化合物12ないし18以外の本件特許発明19ないし21,本件特許発明23の「ジピロメテンコバルト錯体」を製造するには,本件特許出願の出願当時の技術常識からみて,各本件特許発明の発明特定事項を満足するR1ないしR5,R8,R9を選択し,量子化学計算プログラムGaussian16を用いて,当該選択したR1ないしR5,R8,R9を有する「ジピロメテンコバルト錯体」のΔGを計算して,0.92kcal/mol以上であるのか否か確認し,ΔGが0.92kcal/mol以上である「ジピロメテンコバルト錯体」を,本件明細書の発明の詳細な説明の【0102】,【0103】,【0108】ないし【0115】,【0122】ないし【0135】に記載されたのと同様な方法で製造し,当該製造した「ジピロメテンコバルト錯体」について,アセトン溶液のモル吸光係数を測定して,190000L/(mol・cm)以上のものを選択するという方法(以下,「第1方法」という。)によって,製造することが可能であると理解されるから,そのような物を作るために,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験等をする必要があるとはいえない。
また,化合物2ないし8,化合物12以外の本件特許発明24,25の「ジピロメテンコバルト錯体」を製造するには,本件特許出願の出願当時の技術常識からみて,各本件特許発明の発明特定事項を満足するR1ないしR5,R8,R9を選択し,当該選択したR1ないしR5,R8,R9を有する「ジピロメテンコバルト錯体」を,本件明細書の発明の詳細な説明の【0102】,【0103】,【0108】ないし【0115】,【0122】ないし【0135】に記載されたのと同様な方法で製造し,当該製造した「ジピロメテンコバルト錯体」について,アセトン溶液のモル吸光係数を測定して,190000L/(mol・cm)以上のものを選択するという方法(以下,「第2方法」という。)によって,製造することが可能であると理解され,そのような物を作るために,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験等をする必要はない。
また,化合物2ないし8,化合物12ないし18以外の本件特許発明26の「ジピロメテンコバルト錯体」について製造するには,本件特許出願の出願当時の技術常識からみて,前記第1方法又は前記第2方法によって,製造することが可能であると理解されるから,やはり,そのような物を作るために,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験等をする必要があるとはいえない。

(ウ) 以上のとおり,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明19ないし26の「ジピロメテンコバルト錯体」を作れるように記載されているから,要件2を満たす。

ウ 要件3について
本件明細書の発明の詳細な説明の【0013】,【0015】,【0017】等の記載からみて,本件特許発明の「ジピロメテンコバルト錯体」は,光学フィルムに形成された着色層に含有されて用いられる。
また,【0006】ないし【0008】,【0093】等の記載や本件特許出願の出願当時の技術常識から,前記光学フィルムは,表示装置のカラーフィルターとして用いられることが理解される。
そうすると,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明19ないし26の「ジピロメテンコバルト錯体」使用できるように記載されているから,要件3を満たす。

エ 申立人の主張について
申立書の12ページ1行ないし8行,12ページ下から3行ないし13ページ5行,13ページ下から5行ないし14ページ1行,及び14ページ11行ないし16行において,申立人は,無数のR1ないしR5,R8,R9の組み合わせのうち本件明細書の【0161】ないし【0163】に記載の実施例2,5ないし8,12ないし18の組合せ以外では,いかなる組合せをいかなる配置で適用すれば「アセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上」かつ「自由エネルギー変化が0.92kcal/mol以上」,又は「アセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上」を充足し得るのか,発明の詳細な説明の記載を参照したとしても,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験等を必要とするから,本件特許発明19ないし26は実施可能要件違反である旨主張する。
しかしながら,前記イ(イ)で述べたように,実施例2ないし8,12ないし18以外の本件特許発明19ないし26の「ジピロメテンコバルト錯体」については,本件特許出願の出願当時の技術常識からみて,前記第1方法又は前記第2方法によって,製造することが可能であると理解されるから,そのような物を作るために,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験等をする必要があるとはいえない。
したがって,申立人の主張は採用できない。

オ 小括
以上のとおりであるから,申立理由1によって,請求項19ないし26に係る特許を取り消すことはできない。

(2)申立理由2(サポート要件違反)について
ア 本件発明が解決しようとする課題について
本件明細書の発明の詳細な説明の【0006】ないし【0008】等の記載から,本件特許発明が解決しようとする課題は,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができ,耐光性に優れるジピロメテンコバルト錯体を提供することと理解される。
そこで,各本件特許発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が前記課題を解決できると認識できる範囲のものであるのか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるのか否かについて,以下で判断する。

イ 本件特許発明19について
(ア)本件明細書の発明の詳細な説明の【0007】には,中心元素がコバルトであるジピロメテン錯体(ジピロメテンコバルト錯体)が,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができることが記載されている。
そして,ジピロメテンコバルト錯体が,波長500nm付近の光を選択的に吸収することができることは,【0162】の【表2】に示された,ジピロメテンコバルト錯体である実施例1ないし18及び比較例1ないし12が,いずれも500nm付近に吸収極大波長を有するとともに,23ないし44nmという非常に小さな半値幅を有していることによって,確かめられてもいる。
しかるに,本件特許発明19は,ジピロメテンコバルト錯体であるから,波長500nm付近の光を選択的に吸収することができると,当業者は理解するといえる。

(イ) また,モル吸光係数とは,光がある媒質に入射したとき,その媒質がどれくらいの光を吸収するのかを示す定数を,溶液の単位モル濃度で規格化したパラメータであって,その値が大きいほど,光の吸収率が高い物質であることを表しているから,アセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上である本件特許発明19のジピロメテンコバルト錯体は,光を効率的に吸収することができると,当業者は理解するといえる。

(ウ) また,発明の詳細な説明の【0019】ないし【0026】には,式(I)で表される構造(本件特許発明19の式(I−1)で表される構造は,式(I)で表される構造のうち,R6として−C(=O)−O−R8を,R7として−C(=O)−O−R9(R8及びR9は各々独立に炭素数1ないし6のアルキル基)を選択したものに該当する。)を有するジピロメテンコバルト錯体であって,式(I)中のR1ないしR7を反応式(II)に当てはめ(式(I−1)では,R1ないしR5,R8及びR9を反応式(II)に当てはめることに相当する。),量子化学計算プログラムGaussian16を用いて計算した反応前後の自由エネルギー変化ΔGが−1.0kcal/mol以上となるようにR1ないしR7が組み合わされた(式(I−1)では,R1ないしR5,R8及びR9を組み合わされたことに相当する。)ジピロメテンコバルト錯体が,耐光性に優れることが説明されているところ,反応式(II)は,式(III)で表されるボロンジピロメテンの酸化反応を表す反応式であるから,技術的にみて,自由エネルギー変化ΔGの大きさは,前記ボロンジピロメテンの酸化のしにくさを表していると理解される。ボロンジピロメテンが酸化するということは,色素として劣化することにほかならないから,前記ボロンジピロメテンは,前記自由エネルギー変化ΔGの値が大きくなるほど,耐光性が高くなる傾向にあると推察される。
また,【0045】には,モル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であれば,耐光性がより優れる傾向があることが記載されている。
そして,発明の詳細な説明の【0162】の【表2】には,自由エネルギー変化ΔGが0.92kcal/mol以上であるとともにモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上である実施例2,5ないし8,12ないし18(本件特許発明19の実施例に該当する。)のジピロメテンコバルト錯体の耐光性(評価方法については【0158】を参照。)が,いずれもA評価であるのに対して,少なくとも自由エネルギー変化ΔGが0.92kcal/mol未満である実施例1,3,4,9ないし11,比較例1ないし12は,耐光性について,A評価やB評価のものが若干存在するものの,その多くがC評価であることが示されている。
そうすると,当業者は,式(I)で表される構造(式(I−1)で表される構造を含む)を有するジピロメテンコバルト錯体であって,式(I)中のR1ないしR7(式(I−1)においてはR1ないしR5,R8及びR9)を反応式(II)に当てはめ,量子化学計算プログラムGaussian16を用いて計算した反応前後の自由エネルギー変化ΔGが0.92kcal/mol以上となるようなR1ないしR7(式(I−1)においてはR1ないしR5,R8及びR9)の組み合わを選択することによって,アセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であるジピロメテンコバルト錯体は,耐光性に優れていると理解するといえる。

(エ) 前記(ア)ないし(ウ)で述べたとおりであって,本件特許発明19のジピロメテンコバルト錯体について,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願の出願当時に技術常識から,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができ,耐光性に優れるものと理解するといえるから,本件特許発明19は,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって,本件特許発明19は,発明の詳細な説明に記載したものであるから,申立理由2(サポート要件違反)によって,本件特許発明19に係る特許を取り消すことはできない。

(オ) 申立人は,申立書の15ページ15行ないし21行において,無数のR1ないしR5,R8,R9の組み合わせのうち本件明細書の【0161】ないし【0163】に記載の実施例2,5ないし8,12ないし18の組合せ以外については,発明の課題を解決できることを当業者であっても認識することができず,また,出願時の技術常識に照らしても,本件特許発明19の式(I−1)中のR1ないしR5,R8,R9の全ての組み合わせについてまでは,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないことから,本件特許発明19は,サポート要件違反である旨主張する。
しかしながら,前記(イ)ないし(オ)で述べたとおり,本件特許発明19のジピロメテンコバルト錯体について,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願の出願当時に技術常識から,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができ,耐光性に優れるものと理解するといえるから,本件特許発明19は,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,申立人の主張は,採用できない。

ウ 本件特許発明24について
(ア) 前記イ(ア)及び(イ)で述べたのと同様の理由で,本件特許発明24のジピロメテンコバルト錯体が,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができると,当業者は理解するといえる。

(イ) 本件明細書の発明の詳細な説明の【0039】には,式(I)(本件特許発明24の式(I−1)で表される構造は,式(I)で表される構造のうち,R6として−C(=O)−O−R8を,R7として−C(=O)−O−R9(R8及びR9は各々独立に炭素数1ないし6のアルキル基)を選択したものに該当する。)に中のR1〜R4のうち少なくとも1つが水素原子又はハロゲン原子である場合,ΔGが大きくなり,耐光性が向上する傾向があることが説明されている。
また,【0045】には,作用機序は示されていないものの,モル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であれば,耐光性がより優れる傾向があることが記載されている。
そして,発明の詳細な説明の【0162】の【表2】には,式(I)中のR1〜R4のうち少なくとも1つが水素原子又はハロゲン原子であるとともにモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上である実施例2ないし8,12(本件特許発明24の実施例に該当する。)のジピロメテンコバルト錯体の耐光性が,いずれもA評価であるのに対して,式(I)中のR1〜R4のいずれもが水素原子又はハロゲン原子でない場合や,モル吸光係数が190000L/(mol・cm)未満である実施例1,実施例9ないし11,実施例13ないし18や比較例1ないし12のジピロメテンコバルト錯体の耐光性は,A評価及びB評価のみではなく,C評価のものが多数存在することが示されている。
そうすると,当業者は,式(I−1)で表される構造を有するジピロメテンコバルト錯体であって,式(I−1)中のR1〜R4のうち少なくとも1つが水素原子又はハロゲン原子であり,モル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であるジピロメテンコバルト錯体は,耐光性に優れていると理解するといえる。

(ウ) 前記(ア)及び(イ)で述べたとおりであって,本件特許発明24のジピロメテンコバルト錯体について,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願の出願当時に技術常識から,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができ,耐光性に優れるものと理解するといえるから,本件特許発明24は,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって,本件特許発明24は,発明の詳細な説明に記載したものであるから,申立理由2(サポート要件違反)によって,本件特許発明24に係る特許を取り消すことはできない。

(エ)a 申立人は,申立書の17ページ14行ないし19行において,本件特許発明24について,R5,R8,R9の組み合わせのうち,実施例で示されている特定の置換基の組合せ以外の置換基の組合せについては,発明の課題を解決できることを当業者であっても認識することができず,また,出願時の技術常識に照らしても,本件特許発明24の式(I−1)中のR5,R8,R9の全ての組み合わせについてまでは,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないことから,本件特許発明24は,サポート要件違反である旨主張する。
しかしながら,前記(ア)ないし(ウ)で述べたとおり,本件特許発明24のジピロメテンコバルト錯体について,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願の出願当時に技術常識から,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができ,耐光性に優れるものと理解するといえるから,本件特許発明24は,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって,前記申立人の主張は,採用できない。
b また,申立人は,申立書の17ページ19行ないし23行において,本件特許発明24について,実施例11では,R1ないしR4の全てが水素原子である場合には,モル吸光係数の構成要件を満たさないことが示されており,「R1ないしR4のうち少なくとも1つが水素原子又はハロゲン原子である」という範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張する。
当該申立人の主張は,その主旨を理解しがたいものの,仮に,R1ないしR4の全てが水素原子である場合には,R5,R8,R9がどのような置換基であるのかに関わらず,ジピロメテンコバルト錯体のアセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上になることはないから,R1ないしR4の全てが水素原子である場合をも包含するように記載された本件特許の請求項24に係る発明は,サポート要件に違反するという意味だとすると,本件特許の請求項24が,R1ないしR4の全てが水素原子である場合をも包含するように記載されているからといって,本件特許発明24が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できないものや,発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できないものを,包含することになるわけではない。
したがって,そのような主旨の申立人の主張は採用できない。
また,前記申立人の主張が,仮に,R1ないしR4の全てが水素原子であり,アセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であるジピロメテンコバルト錯体については,課題を解決できることが実施例によって確かめられていないから,本件特許発明24はサポート要件に違反するという意味だとすると,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例11のジピロメテンコバルト錯体は,モル吸光係数が本件特許発明24の要件を満足しないことから,本件特許発明24の実施例ではないものの,アセトン溶液の吸収極大波長及び塗膜の吸収極大波長がそれぞれ483nm及び489nm,半値幅24nm,アセトン溶液のモル吸光係数が178000L/(mol・cm),耐光性がB評価であることから,波長500nm付近の光を選択的かつ十分効率的に吸収することができ,耐光性に十分優れるものである。
しかるに,R1ないしR4の全てが水素原子であり,アセトン溶液のモル吸光係数が190000L/(mol・cm)以上であるジピロメテンコバルト錯体は,前記実施例11よりもアセトン溶液のモル吸光係数が高いことから,当業者は,波長500nm付近の光をさらに効率的に吸収することができ,本件明細書の発明の詳細な説明の【0045】の記載に基づいて,耐光性もさらに向上することが期待できると理解するといえる。
したがって,当業者は,本件特許発明24のジピロメテンコバルト錯体のうち,R1ないしR4の全てが水素原子であるものについても,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願の出願当時に技術常識から,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができ,耐光性に優れるものと理解するといえるから,本件特許発明24は,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって,そのような主旨の申立人の主張も,採用できない。

エ 本件特許発明20ないし23,25,26について
本件特許発明20ないし23,25,26が解決しようとする課題は,アで述べたとおり,波長500nm付近の光を選択的かつ効率的に吸収することができ,耐光性に優れるジピロメテンコバルト錯体を提供することと理解される。
そして,本件特許の請求項20ないし23,25,26は,請求項19又は24のいずれかを直接又は間接的に引用する形式で記載されていて,本件特許発明20ないし23,25,26は,本件特許発明19又は24の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに該当するところ,前記イ及びウで述べたとおり,当業者は,本件特許発明19及び24は,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,当該本件特許発明19又は24の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに該当する本件特許発明20ないし23,25,26についても,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって,申立理由2(サポート要件違反)によって,本件特許発明20ないし23,25,26に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから,特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては,請求項19ないし26に係る特許を取り消すことはできない。さらに,他に請求項19ないし26に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-07-31 
出願番号 P2022-087750
審決分類 P 1 652・ 537- Y (G02B)
P 1 652・ 536- Y (G02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 関根 洋之
清水 康司
登録日 2022-11-08 
登録番号 7173394
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 光学フィルム、着色層形成用組成物、ジピロメテンコバルト錯体及び表示装置  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 松沼 泰史  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 鈴木 史朗  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ