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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B63B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B63B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B63B
管理番号 1402739
総通号数 22 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-15 
確定日 2023-07-24 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7002474号発明「船首形状」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7002474号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕について訂正することを認める。 特許第7002474号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7002474号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)12月28日を国際出願日とする出願(特願2018−558616号)であって、令和4年1月4日にその特許権の設定登録がされ、同年1月20日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 4年 7月15日 :特許異議申立人佐藤雅彦(以下「申立人」
という。)による請求項1〜4に係る特許
に対する特許異議の申立て
令和 4年 9月28日付け:取消理由通知
令和 4年11月28日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提

令和 5年 1月17日 :申立人による意見書の提出
令和 5年 2月21日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 5年 4月 7日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提

令和 5年 5月23日 :申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年4月7日の訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜4について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。なお、本件訂正が請求されたので、令和4年11月28日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「船舶の船首形状であって、
船首端を除く左右両側の領域であると共に少なくとも満載喫水線よりも下方において、バルジ状に突出する突出部を有し、
前記突出部は、
船首端からの長さLB/L≧0.05の範囲において形成され、
最大突出位置から船首端までの長さLB,maxが LB,max/L≧0.025の範囲で定められ、
最大突出量BB,maxが船体最大幅Bに対してBB,max/B≧0.03の範囲で定められ、
満載喫水線から前記最大突出位置までの深さdB,maxがdB,max/d≦0.30の範囲で定められることを特徴とする船首形状。」
と記載されているのを、
「船舶の船首形状であって、
船首形状は、船首端において、船底に対して略垂直であり、
船首端を除く左右両側の領域であると共に少なくとも満載喫水線よりも下方において、バルジ状に突出する突出部を有し、
前記左右両側の領域であると共に前記満載喫水線の上方において、前記船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面から前記満載喫水線の下方へ前記船底に対して略垂直に続く仮想面を定義したときに、前記突出部の最大突出位置は、前記仮想面から船体の幅方向への突出量が最大の位置であり、
前記突出部は、
船首端からの長さLBが全長Lに対してLB/L≧0.05の範囲において形成され、
前記最大突出位置から船首端までの長さLB,maxが全長Lに対してLB,max/L≧0.025の範囲で定められ、
最大突出量BB,maxが船体最大幅Bに対してBB,max/B≧0.03の範囲で定められ、
満載喫水線から前記最大突出位置までの深さdB,maxがdB,max/d≦0.30の範囲で定められることを特徴とする船首形状。」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する、請求項2〜4も同様に訂正する。)

ここで、訂正事項1は、訂正前に引用関係を有する請求項1〜4に対して請求されたものであるので、本件訂正請求は、一群の請求項1〜4について請求されている。

2 訂正の目的
(1)訂正事項1に係る訂正のうち、「船首形状は、船首端において、船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面であり、」という事項を追加する訂正は、訂正前の請求項1の「船首形状」に限定を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)訂正事項1に係る訂正のうち、「前記左右両側の領域であると共に前記満載喫水線の上方において、前記船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面から前記満載喫水線の下方へ前記船底に対して略垂直に続く仮想面を定義したときに、前記突出部の最大突出位置は、前記仮想面から船体の幅方向への突出量が最大の位置であり、」という事項を追加する訂正及び訂正前の請求項1の「最大突出位置から船首端までの長さ」という事項を、「前記最大突出位置から船首端までの長さ」とする訂正は、訂正前の請求項1の「最大突出位置」を限定するとともに明確化するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(3)訂正事項1に係る訂正のうち、訂正前の請求項1の「船首端からの長さLB/L≧0.05の範囲において形成され、」という事項を「船首端からの長さLBが全長Lに対してLB/L≧0.05の範囲において形成され、」という事項とする訂正、及び、訂正前の請求項1の「最大突出位置から船首端までの長さLB,maxがLB,max/L≧0.025の範囲で定められ、」という事項を「最大突出位置から船首端までの長さLB,maxが全長Lに対してLB,max/L≧0.025の範囲で定められ、」という事項とする訂正は、訂正前の請求項1の「L」を限定するとともに明確化するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

新規事項の追加の有無
(1)訂正事項1に係る訂正のうち、「船首形状は、船首端において、船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面であり、」という事項について
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の「本実施形態に係る船首形状1は、図1に示すように、船首端において、従来船首形状Oと同様に船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面である。」(段落【0015】)という記載及び図1に基づくものであるから、新規事項を追加するものではない。

(2)訂正事項1に係る訂正のうち、「前記左右両側の領域であると共に前記満載喫水線の上方において、前記船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面から前記満載喫水線の下方へ前記船底に対して略垂直に続く仮想面を定義したときに、前記突出部の最大突出位置は、前記仮想面から船体の幅方向への突出量が最大の位置であり、」という事項について

本件明細書等には、次の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)
「【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る船体形状の一実施形態について説明する。以下の説明においては、船体の全長方向をX方向とし、船体の幅方向をY方向とし、船体の高さ方向をZ方向として説明する。以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。図1は、本実施形態に係る船首形状1のY−Z断面図である。図2は、本実施形態に係る船首形状1のX−Y断面図である。
【0014】
本実施形態に係る船首形状1が適用される船舶Sは、全長L≧180m、方形係数(船体肥大度)CB≧0.75により定義される、幅広の低速航行の船舶である。船舶Sにおいて従来適用されている従来船首形状Oは、図1及び図2に破線で示すように、船首端から船側にかけて一様かつ緩やかな曲面を有している。図1に示すように、従来船首形状Oの船首の外壁面は、船底に対して、略垂直となっている。
【0015】
本実施形態に係る船首形状1は、図1に示すように、船首端において、従来船首形状Oと同様に船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面である。船首形状1には、図1及び図2に併せて示すように、満載喫水線に近い位置から船底にかけて、突出部1aが形成されている。
【0016】
突出部1aは、船首端を除く船首の左右両側において、船首端方向と船側方向との間の方向に向けてバルジ状に突出しており、船首端と船側との間の位置Pにおいて、従来船首形状Oからの突出量が最大となる。突出部1aは、図1の最大突出位置Pを通るY−Z断面図に示すように、満載喫水線に近い位置においては船首壁面から急峻に突出しており、船底に向けて接続されている。最大突出位置Pは、船首端からの長さLB,max、満載喫水線からの深さdB,maxにより定義される。突出部1aは、船首端の周囲から船体幅が最大となる位置まで形成されており、船首端及び船側の外壁面に対して、滑らかに接続されている。」
「【0019】
図5は、船首形状1における突出部1aの最大突出量BB,maxの変化による抵抗増加係数KAWの変化に関するシミュレーション結果である。図5は、横軸を最大突出量BB,max/B、縦軸を抵抗増加係数KAWとするグラフである。Bは、船体最大幅を示している。図5のグラフに示すように、本実施形態に係る船首形状1では、BB,max/B≧0.03において、従来船首形状Oと比較して、抵抗増加係数KAWが大きく低下することがわかる。」

また、図1及び図2には次の図が示されている。
【図1】


【図2】


上記記載等を踏まえて検討する。
本件明細書等の段落【0014】に、従来船首形状Oの船首の外壁面は、一様な曲面を有し、船底に対して、略垂直となっていることが記載されている。また、図1からは、Oで示される破線部分は、船底に対して略垂直な部分を有し、当該船底に対して略垂直な部分は満載喫水線よりも上方に連続していることが看取できる。
そうすると、従来船首形状Oの外壁面は、満載喫水線の上方において、船底に対して、略垂直であり、かつ一様な壁面から前記満載喫水線の下方へ前記船底に対して略垂直に続く面であるといえる。
また、本件明細書等の段落【0016】の記載から、突出部1aは、船首端を除く船首の左右両側において突出しており、突出量は従来船首形状Oからの突出量であると認められる。また、段落【0019】の突出部1aの最大突出量BB,maxとの記載及び図1のBB,maxの図示から、最大突出量は船体の幅方向への突出量であると認められる。
そうすると、突出部は、左右両側に領域に設けられ、突出部の最大突出位置は、従来船首形状Oから船体の幅方向への突出量が最大の位置であるといえる。
以上を踏まえれば、最大突出位置に関する「前記左右両側の領域であると共に前記満載喫水線の上方において、前記船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面から前記満載喫水線の下方へ前記船底に対して略垂直に続く仮想面を定義したときに、前記突出部の最大突出位置は、前記仮想面から船体の幅方向への突出量が最大の位置であり、」との事項は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。

(3)訂正事項1に係る訂正のうち、「全長L」という事項について
願書に添付した明細書の「本実施形態に係る船首形状1が適用される船舶Sは、全長L≧180m、方形係数(船体肥大度)CB≧0.75により定義される、幅広の低速航行の船舶である。」(段落【0014】)という記載等に基づくものであるから、新規事項を追加するものではない。

4 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正前の請求項1に記載された発明のカテゴリーを変更するものではなく、かつ、訂正前の請求項1に記載された発明の対象や目的を変更するものでもないから、当該訂正は実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

5 意見書における申立人の主張について
申立人は、令和5年5月23日の意見書において、本件明細書等の図1に記載の「点線」は満載喫水線から船底に向かう途中部分から中心線CLに向かって湾曲しているため、図1に開示された「点線」は「船底に対して略垂直に続く」ものではなく、「船底に対して略垂直に続く仮想面」は、本件明細書等に記載されていないから、訂正された請求項1は新規事項を含むものであり、この訂正は認められるべきではないと主張する。
しかしながら、上記3(2)で検討したとおり、本件明細書等の段落【0014】の記載によれば、従来船首形状を船底に対して略垂直とし、段落【0016】の記載によれば、突出部の突出量を従来船首形状からの突出量としているのであるから、船底に対して略垂直に続く仮想面を定義し、そこからの突出量をもって最大突出位置とすることは、本件明細書等に記載された事項の範囲内であり、申立人の主張は採用できない。

6 小括
上記のとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6号の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の記載のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1〜4に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次の事項により特定されるものと認める。
「【請求項1】
船舶の船首形状であって、
船首形状は、船首端において、船底に対して略垂直であり、
船首端を除く左右両側の領域であると共に少なくとも満載喫水線よりも下方において、バルジ状に突出する突出部を有し、
前記左右両側の領域であると共に前記満載喫水線の上方において、前記船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面から前記満載喫水線の下方へ前記船底に対して略垂直に続く仮想面を定義したときに、前記突出部の最大突出位置は、前記仮想面から船体の幅方向への突出量が最大の位置であり、
前記突出部は、
船首端からの長さLBが全長Lに対してLB/L≧0.05の範囲において形成され、
前記最大突出位置から船首端までの長さLB,maxが全長Lに対してLB,max/L≧0.025の範囲で定められ、
最大突出量BB,maxが船体最大幅Bに対してBB,max/B≧0.03の範囲で定められ、
満載喫水線から前記最大突出位置までの深さdB,maxがdB,max/d≦0.30の範囲で定められることを特徴とする船首形状。
【請求項2】
前記船舶は、方形係数 C が0.75以上であることを特徴とする請求項1記載の船首形状。
【請求項3】
前記船舶は、全長Lと船体最大幅BとがL/B≦8.0の範囲であることを特徴とする請求項1または2記載の船首形状。
【請求項4】
前記船舶は、全長Lが180m以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の船首形状。」

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1〜4に係る特許に対して、当審が令和5年2月21日付けで通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
取消理由1(明確性要件):本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
取消理由2(サポート要件):本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

1 取消理由1について
(1)請求項1の「船首形状は、船首端において、船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面であり」との記載は、一様な壁面である部分は、船首端のみとも、船首形状全体とも受け取れ、明確でない。また、船首端は左右の側壁が接続した稜線状になっていると考えられ、壁面を観念できないから明確でない。
(2)請求項1において、「最大突出位置から船首端までの長さLB,max」、「最大突出量BB,max」及び「満載喫水線から前記最大突出位置までの深さdB,max」がどのように定義されるものなのか不明であり、突出部の形状を具体的に特定することができない。

2 取消理由2について
発明の詳細な説明には、船首形状に突出部が形成されたものが記載されており、当該突出部が形成された部分は、一様な壁面であるものとは認められないから、請求項1の「船首形状は、船首端において、船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面であり」という構成は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

第5 当審の判断
1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)取消理由1(1)について
本件訂正により、「船首形状は、船首端において、船底に対して略垂直であり」という特定となり、「船首端において、」「一様な壁面」であるとの特定を含まないものとなったから、取消理由1(1)の理由は解消された。
(2)取消理由1(2)について
本件訂正により、突出部について、請求項1で「前記左右両側の領域であると共に前記満載喫水線の上方において、前記船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面から前記満載喫水線の下方へ前記船底に対して略垂直に続く仮想面を定義したときに、前記突出部の最大突出位置は、前記仮想面から船体の幅方向への突出量が最大の位置」と特定されることになった。これにより、突出部の最大突出位置及びその突出量の意味するところが明らかになったところ、「最大突出位置から船首端までの長さLB,max」、「最大突出量BB,max」及び「満載喫水線から前記最大突出位置までの深さdB,max」についても明確となったから、取消理由1(2)は解消された。
(3)取消理由2について
本件訂正により、「船首形状は、船首端において、船底に対して略垂直であり」という特定となり、船首形状は一様な壁面であるとの特定を含まないものとなったから、取消理由2の理由は解消された。

2 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由につい

(1)特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項について
ア 各甲号証
[甲号証]
甲第1号証:Chi Yang, Fuxin Huang and Lijue Wang、"A NURBS-Based
Modification Technique for Bulbous Bow Generation and
Hydrodynamic Optimization"、 31st symposium on Naval
Hydrodynamics、2016年9月、インターネット www.researchgate.net/publication/308348055_A_NURBS-Bas
ed_Modification_Technique_for_Bulbous_Bow_Generation_a
nd_Hydrodynamic_Optimization>
甲第1号証−1:甲第1号証がアップロードされたウェブサイトの1ペー
ジ目のスクリーンショット、2022年6月14日(出力日)
甲第1号証−2:Cusanelli, D. S.、"Joint High Speed Sealift (JHSS)
Baseline Shaft & Strut(Model 5653) Series 1: Bare
Hull Resistance, Appended Resistance, and
Alternative Bow Evaluations"、NSWCCD Report、
Naval Surface Warfare Center Carderock Division、
NSWCCD-50-TR-2007/066、2007年8月
甲第1号証−3:Raju Datla, Hong Yoon Kim, and John R.Stebe、
"Evaluation of a CFD Program AEGIRTM for Bare
Hull Resistance and Seakeeping Prediction
Capabi1ity"、NSWCCD Report、Naval Surface Warfare
Center Carderock Division、 NSWCCD-CISD-2009/010、
2009年7月
甲第2号証:FORCE Technology、"MOERI Container Ship (KCS)"、
2022年5月31日(出力日)、インターネット w.simman2008.dk/KCS/kcs_geometry.htm>、 w.simman2008.dk/PDF/KCS_hull_SVA.zip>
甲第2号証−1:FORCE Technology、"Simman 2008 Workshop on
Verification and Validation of Ship Manoeuvering
Simulation Methods" のウェブサイトのメインページ、
2022年5月31日(出力日)、インターネット<URL:http:
//www.simman2008.dk/index.html>
甲第2号証−2:FORCE Technology、" Announcement, SIMMAN 2008" の
ウェブサイト、2022年5月31日(出力日)、インターネ
ット<URL:http://www.simman2008.dk/announce.html

甲第2号証−3:FORCE Technology、" News, SIMMAN 2008" のウェブサ
イト、2022年5月31日(出力日)、インターネット<URL
:http://www.simman2008.dk/news.htm>
甲第2号証−4:The International Towing Tank Conference、"Member
Organizations,ITTC"のウェブページ、2022年5月31日
(出力日)、インターネット<URL:https://ittc.info
/members/member-organisations/korea-research-insti
tute-of-ships-and-ocean-engineering-kriso-formerly
-moeri/>
甲第2号証−5:Hafizul Islam, C.Guedes Soares、"Estimation of
hydrodynamic derivatives of a container ship using
PMM simulation in OpenFOAM"、Ocean Engineering 164
(2018)、Elsevier Ltd, 2018年、p414-425
甲第3号証:FORCE Technology、"MOERI Tanker KVLCC2"、2022年5月31日
(出力日)、インターネット<URL:http://www.simman2008
.dk/KVLCC/KVLCC2/kvlcc2_geometry.html>、<URL:https:
//www.simman2008.dk/Technical%20data/ships/Tanker%20VL
CC2/ship%20data/Geometry/Hull/kvlcc2.zip>
甲第3号証−1:FORCE Technology、"MOERI Tankers(LVLCC1+LVLCC2)"
、2022年5月31日(出力日)、インターネット<URL:ht
tp://www.simman2008.dk/KVLCC/tanker.html>
甲第3号証−2:Erhan AKSU, Ercan KOSE、"Evaluation of
Mathematical Models for Tankers' Maneuvering
Motions"、Journal of ETA Maritime Science、Volume
5、issue 1、UCTEA-The Chamber of Marine Engineers
、2017年、 p95-109
甲第4号証:特開2011−178334号公報
甲第5号証:大橋、長谷、寒河江、「広幅肥大中型船の船首形状及び船尾
形状が推進性能に及ぼす影響に関する試験例」、日本造船技
術センター技報、日本造船技術センター、第8号、昭和55
年11月、p43-52

甲第1号証〜甲第5号証は、特許異議申立書とともに申立人が提出したものである。
なお、以下、甲第1号証、甲第2号証、・・・甲第5号証を、「甲1」、「甲2」・・・「甲5」といい、枝番のついた甲第1号証−1、甲第1号証−2、・・・を「甲1の1」、「甲1の2」、・・・という。

(ア)甲1
a 甲1の記載事項
甲1には、図面とともに次の記載がある。なお、括弧内に申立人の作成した翻訳を示す。
(a)第11ページ左欄第1〜6行
「The optimal value of the design variables selected are listed in Tables 2a-d. The comparisons of the body plans, sheer plans, and 3D views between the original JHSS hulls with ST, BB, EB, and GB bows and the corresponding optimal hulls are plotted in Figures 9a, 9b and 9c, respectively.」(翻訳:選択した設計変数の最適値を表2a〜dに示す。ST、BB、EB、およびGB船首を持つ元のJHSS船体と、対応する最適な船体との間の正面線図、側面線図、および三次元図の比較を、それぞれ図9a、9b、および9cに示す。)

(b)図9a

(翻訳:図9a:JHSS船体の初期船体(最適化前)と対応する最適化後の船体の正面線図の比較)

(c)図9b

(翻訳:図9b:JHSS船体の初期船体(最適化前)と対応する最適化後の船体の側面線図の比較)

b 甲1の認定事項
(a)図9a及び図9bには、船舶の船首形状が示されており、ST originalを除くいずれの船首形状も、側面視で舳先から下方に向けて後方に傾斜する部分、正面視で側壁上端から下方に向けて内方に傾斜する部分を有すること、喫水線より下方において、上記後方に傾斜する部分の下部から前方に、かつ、上記内方に傾斜する部分の下部から外方に膨らんだ突出部を有することが看取できる。
(b)船体を左右対称にすることは技術常識であるので、上記(a)の側壁上端から下方に向けて内方に傾斜する部分を船体左右両側に有すること、上記(a)の喫水線より下方において上記内方に傾斜する部分の下部から外方に突出した突出部を船体左右両側に有することは、それぞれ明らかである。

c 甲1発明
上記a及びbから、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「船舶の船首形状であって、側面視で舳先から下方に向けて後方に傾斜する部分、正面視で船体左右両側に側壁上端から下方に向けて内方に傾斜する部分を有し、喫水線より下方において、上記後方に傾斜する部分の下部から前方に、かつ、船体左右両側の上記内方に傾斜する部分の下部から外方に膨らんだ突出部を有する船首形状。」

(イ)甲2
甲2は、MOERI Container Shipに関する船体の数値及びモデルデータであり、本件特許出願前に電気通信回線を通じて利用可能になったものと推認される。
特許異議申立書を参照すると、甲2のモデルデータを3次元CADソフトで表示すると以下(a)〜(c)の図となり、当該モデルデータに満載喫水線を加えて表示すると(d)の図となるものと認められる。
a 甲2のCADデータの表示結果
(a) 正面図

(b) 側面図

(c) 斜視図

(d) 満載喫水線を加えた正面線図

b 甲2の認定事項
(a)上記a(a)〜(d)には、船舶の船首形状が示されており、側面視で舳先から下方に向けて後方に傾斜する部分、正面視で側壁上端から下方に向けて内方に傾斜する部分を有すること、満載喫水線より下方において、上記後方に傾斜する部分の下部から前方に、かつ、上記内方に傾斜する部分の下部から外方に膨らんだ突出部を有することが看取できる。
(b)船体を左右対称にすることは技術常識であるので、上記(a)の側壁上方から下方に向けて内方に傾斜する部分を船体左右両側に有すること、上記(a)の喫水線より下方において上記内方に傾斜する部分の下部から外方に突出した突出部を船体左右両側に有することは、それぞれ明らかである。

c 甲2発明
上記a及びbから、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「船舶の船首形状であって、側面視で舳先から下方に向けて後方に傾斜する部分、正面視で船体左右両側に側壁上端から下方に向けて内方に傾斜する部分を有し、満載喫水線より下方において、上記後方に傾斜する部分の下部から前方に、かつ、船体左右両側の上記内方に傾斜する部分の下部から外方に膨らんだ突出部を有する船首形状。」

(ウ)甲3
甲3は、MOERI Tanker KVLCC2に関する船体の数値及びモデルデータであり、本件特許の出願前に電気通信回線を通じて利用可能になったものと推認される。
特許異議申立書を参照すると、甲3のモデルデータを3次元CADソフトで表示すると以下(a)〜(c)の図となり、当該モデルデータに満載喫水線を加えて表示すると(d)の図となるものと認められる。
a 甲3のCADデータの表示結果
(a) 正面図


(b) 側面図


(c) 斜視図


(d) 満載喫水線を加えた正面線図

b 甲3の認定事項
(a)上記a(a)〜(d)には、船舶の船首形状が示されており、側面視で舳先から下方に向けて後方に傾斜する部分、正面視で側壁上端から下方に向けて内方に傾斜する部分を有すること、満載喫水線より下方において、上記後方に傾斜する部分の下部から前方に、かつ、上記内方に傾斜する部分の下部から外方に膨らんだ突出部を有することが看取できる。
(b)船体を左右対称にすることは技術常識であるので、上記(a)の側壁上方から下方に向けて内方に傾斜する部分を船体左右両側に有すること、上記(a)の喫水線より下方において上記内方に傾斜する部分の下部から外方に突出した突出部を船体左右両側に有することは、それぞれ明らかである。

c 甲3発明
上記a及びbから、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「船舶の船首形状であって、側面視で舳先から下方に向けて後方に傾斜する部分、正面視で船体左右両側に側壁上端から下方に向けて内方に傾斜する部分を有し、満載喫水線より下方において、上記後方に傾斜する部分の下部から前方に、かつ、船体左右両側の上記内方に傾斜する部分の下部から外方に膨らんだ突出部を有する船首形状。」

(エ)甲4
甲4には、図面とともに次の記載がある。
a 甲4の記載事項
・「【0009】
図11は、波浪時における入射波が船底部に及ぼす影響を説明するための説明図である。この図11は、大型肥大船が実航海中に遭遇する頻度が高い短波長の向波が船底部に及ぼす影響について示している。なお、図11(A)は、満載状態の肥大船の船首部2を示している(側面図)。図11(B)は、軽荷状態の肥大船の船首部2を示している(側面図)。図11(C)は、図11(B)のX−X断面模式図である。」

・「【0027】
図6及び図7に示すように、船首部2は船型15の形状(図4(C))を採用している。つまり、船底部の形状は略V字状となっており、DWL’付近にはくびれ6が形成され、側面部には凸部7が設けられている。
【0028】
より詳しくは、DWL’におけるウォーターラインにおいてγ1が0°<γ<55°となるように、くびれ6が形成されている。また、本実施の形態に係る船首部2は、側面視において船首部先端が略直線状となる、いわゆるレッジバウとなっている。このため、DWL’におけるウォーターラインにおいて、本実施の形態に係る船首部2のγ1は、従来の船首部のγ2よりも小さくすることができる。したがって、本実施の形態1に係る船舶1は、満載状態で波浪中を航行する際の波浪による抵抗RAWを従来の船舶よりも低減することが可能となる。
なお、船首部2は、必ずしもレッジバウである必要はない。DWL’におけるウォーターラインにおいてγ1が0°<γ<55°となるように、くびれ6が形成されていればよい。」

・【図6】


・【図11】


b 甲4の認定事項
(a)図6(B)は、船首部2の正面図と認められ、同図から、側壁は、船首形状の側壁上端から、下方に向けて内方に傾斜する部分を有することが看取できる。また、段落【0027】の記載を踏まえると、側壁にはくびれ6が形成され、側面部に凸部7が設けられるものと認められる。
(b)段落【0009】の記載から、図11(A)及び(B)は、船首部2の側面図であり、図11(B)のX−X断面模式図である図11(C)は、正面断面図であると認められる。そうすると、図11(A)〜(C)から、船首部2は、側面視先端が略直線状となっており、正面断面図で側壁が側壁上端から下方に向けて垂直部分を有することが看取できる。

c 甲4記載の技術事項
上記a及びbから、甲4には、図6及び図11に関する次の技術事項(以下、それぞれ「甲4記載の技術事項1」、「甲4記載の技術事項2」という。)がそれぞれ記載されていると認められる。

(a)甲4記載の技術事項1
「側面視において船首部先端が略直線状となる、いわゆるレッジバウとなっており、正面図で、側壁上端から下方に向けて内方に傾斜する部分を有し、側壁にはくびれ6が形成され、側面部に凸部7が設けられる船首部。」

(b)甲4記載の技術事項2
「側面視先端が略直線状となっており、正面断面図で側壁が側壁上端から下方に向けて垂直部分を有する船首部。」

(オ)甲5
甲5には、図面とともに次の記載がある

・第43ページ左欄第13〜17行
「1.船型及び模型船 試験に用いた模型船は垂線間長さ6mのパラフィン製で、その模型船の主要目等をTable 1に、船首部の形状をFig.1に、また横載面積曲線形状をFig.2に、また水線面形状をFig.3に示した。」

・Fig.1


イ 対比・判断
(ア)甲1を主引例とした場合について
a 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「船舶」及び「船首形状」は、本件発明1の「船舶」及び「船首形状」に相当する。
満載喫水線は、通常、喫水線のうちで最も上方に位置することから、甲1発明の「喫水線より下方」であることは、「満載喫水線よりも下方」であるともいえる。また、「バルジ」とは、膨らんでいる部分を意味する。そうすると、甲1発明の「喫水線より下方において、上記後方に傾斜する部分の下部から前方に、かつ、船体左右両側の上記内方に傾斜する部分の下部から外方に膨らんだ突出部」は、本件発明1の「船首端を除く左右両側の領域であると共に少なくとも満載喫水線よりも下方において、バルジ状に突出する突出部」と、「左右両側の領域であると共に少なくとも満載喫水線よりも下方において、バルジ状に突出する突出部」の点で共通する。

そうすると、両者は以下の点で一致する。
「船舶の船首形状であって、船首形状は、左右両側の領域であると共に少なくとも満載喫水線よりも下方において、バルジ状に突出する突出部を有する船首形状。」

また、両者は以下の点で相違する。
[相違点1]
船首形状について、本件発明1は「船首端において、船底に対して略垂直であり」、突出部は「船首端を除く」左右両側の領域でバルジ状に突出するのに対し、甲1発明は、側面視で舳先から下方に向けて後方に傾斜しており、喫水線より下方において上記後方に傾斜した部分の下部から前方に膨らんだ突出部を有する点。
[相違点2]
突出部について、本件発明1は、「前記左右両側の領域であると共に前記満載喫水線の上方において、前記船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面から前記満載喫水線の下方へ前記船底に対して略垂直に続く仮想面を定義したときに、前記突出部の最大突出位置は、前記仮想面から船体の幅方向への突出量が最大の位置であり、
前記突出部は、
船首端からの長さLBが全長Lに対してLB/L≧0.05の範囲において形成され、
前記最大突出位置から船首端までの長さLB,maxが全長Lに対してLB,max/L≧0.025の範囲で定められ、
最大突出量BB,maxが船体最大幅Bに対してBB,max/B≧0.03の範囲で定められ、
満載喫水線から前記最大突出位置までの深さdB,maxがdB,max/d≦0.30の範囲で定められる」のに対し、甲1発明は、正面視で船体左右両側に側壁上端から下方に向けて内方に傾斜する部分を有し、喫水線より下方において船体左右両側の上記内方に傾斜する部分の下部から外方に膨らんだ突出部を有するものである点。

b 判断
相違点1について、検討する。
甲1発明は、側面視で舳先から下方に向けて後方に傾斜する部分を有し、その下部から前方に膨らんでいる突出部を有する、いわゆるバルバスバウであるところ、バルバスバウの船首部を、後方に傾斜せず、かつ、前方に膨らんでいる突出部を有しないものとする理由は、申立人の提出した全証拠を参酌しても、これを認めることはできない。そうすると、甲4記載の技術事項1及び甲4記載の技術事項2のように「船首端において、船底に対して略垂直」なレッジバウが公知技術あるいは周知技術であるとしても、甲1発明に適用する動機づけは見いだせない。
また、ほかに、甲1発明において、相違点1の発明特定事項とすることが容易想到であるといえる証拠もない。
よって、甲1発明において、相違点1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たものではない。

相違点2について、検討する。
甲1発明は、正面視で船体左右両側に側壁上端から下方に向けて内方に傾斜する部分を有し、突出部は上記内方に傾斜する部分の下部から外方に膨らんでいるものであるから、本件発明1に係る、前記左右両側の領域であると共に前記満載喫水線の上方において、前記船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面を有していないし、当該一様な壁面に続く仮想面を定義することもできない。また、甲4記載の技術事項2のように正面断面図で側壁が側壁上端から下方に向けて垂直部分を有する船首部が公知技術又は周知技術であるとしても、甲1発明は、正面視で船体左右両側に側壁上端から下方に向けて内方に傾斜する部分の下部に突出部を設けたものであるから、当該内方に傾斜する部分を、船底に対して略垂直な垂直である一様な壁面に変更する動機づけも見いだせない。そうすると、甲1発明において、「前記左右両側の領域であると共に前記満載喫水線の上方において、前記船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面から前記満載喫水線の下方へ前記船底に対して略垂直に続く仮想面を定義」することが容易想到であるとはいえないし、当該仮想面から突出部の最大突出位置を定めることも、最大突出位置に基づく各種数値範囲を定めることも容易想到であるとはいえない。
また、ほかに、甲1発明において、相違点2に係る発明特定事項とすることが容易であるといえる証拠もない。
よって、甲1発明において、相違点2に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。

以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に想到し得たものでもない。
また、本件発明2〜4は、本件発明1の全ての構成要素を含み、さらに限定を加えたものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものでもない。

c 申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、甲1のGB originalの船体は、甲1の図9bにおける図面上の実測寸法や、甲1のGB originalの船体と同じものと推測される甲1の3における図2の正面線図における図面上の寸法の実測値に基けば、本件訂正前の請求項1に係る発明のバルジ状の突出部に関する各種数値範囲を開示すると主張する。
しかしながら、甲1発明は、側面視で舳先から下方に後方に向けて傾斜する部分を有し、突出部は前方にも膨らんでおり、正面視で船体左右両側に側壁上端から下方に内方に向けて傾斜する部分を有し、その下部に側方に膨らんだ突出部を有するものであるから、(本件訂正後の)本件発明1の突出部とは、前提において異なるものであり、申立人の主張は採用できない。

(イ)甲2、甲3を主引例とした場合について
甲2発明、甲3発明は、甲1発明と同様のものであるところ、対比及び判断についても上記(ア)で検討したのと同じである。

そうすると、本件発明1〜4は、甲2発明でも甲3発明でもなく、また、甲2発明又は甲3発明に基いて当業者が容易に想到し得たものともいえない。

(2)特許法第36条第6項第2号について
ア 申立人の主張する取消理由
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の記載が以下の点で明確でないと主張する。
(ア)請求項1は「L」が示すものがなんであるのか不明確である。
発明の詳細な説明の「全長L」が「L」に該当するとも考えられるが、全長LがLOAか、LPP又はLBPか、LWLか、それ以外なのか、発明の詳細な説明には記載がない。
(イ)請求項1は「LB,max」の定義が不明確である。
請求項1は最大突出位置が定義されていない。発明の詳細な説明から、最大突出位置は「従来船首形状Oからの突出量が最大となる位置」を意味すると考えられるが、従来船首形状Oは多種多様であり一義的に定めることはできず、また、明細書には、従来船首形状Oについて「外壁面が船底に対して略垂直になっている」との記載があるが、「略」とは、垂直角である90°からのどの程度のずれを許容するのか不明である。
(ウ)請求項1は「BB,max」の定義が不明確である。
請求項1では、BB,maxが定義されていない。発明の詳細な説明から、従来船首形状Oと突出部1aの船幅方向の差の最大値を示すものと解されるが、上記(イ)のとおり、従来船首形状が一義的に特定できない。
(エ)請求項1は「dB,max」の定義が不明確である。
請求項1では、満載喫水線から最大突出位置までの深さと規定しているが、上記(イ)のとおり、最大突出位置を一義的に定めることができない。
(オ)請求項1は「d」の定義が不明確である。
請求項1ではdが定義されておらず、発明の詳細な説明にもdの定義が全く記載されていない。そのため「d」が喫水のdなのか、深さのdなのか、それ以外なのか、仮に喫水のdだとしても、dが満載喫水なのか、軽荷喫水なのか、それ以外なのか不明である。
(カ)請求項3は「全長L」が示すものがなんであるのか不明確である。
上記(ア)のとおり、全長LがLOAか、LPP又はLBPか、LWLか、それ以外なのか、発明の詳細な説明には記載がない。
(キ)請求項4は「全長L」が示すものがなんであるのか不明確である。
上記(ア)のとおり、全長LがLOAか、LPP又はLBPか、LWLか、それ以外なのか、発明の詳細な説明には記載がない。

イ 判断
(ア)について
本件訂正により「全長L」と訂正されたことにより、「L」の示すものが明確となった。また、例えば、令和4年11月28日の意見書とともに特許権者が提出した乙第1号証(池田ほか5名、「船舶算法と復元性」、(株)成山堂書店、平成24年4月18日発行、p7〜9)の第9ページ、図1.35には「LOA:全長」と記載されるように、全長とは、LOAを意味するものと解され、明確である。
(イ)について
本件訂正により、請求項1には「前記左右両側の領域であると共に前記満載喫水線の上方において、前記船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面から前記満載喫水線の下方へ前記船底に対して略垂直に続く仮想面を定義したときに、前記突出部の最大突出位置は、前記仮想面から船体の幅方向への突出量が最大の位置であり、」との特定が加わり、最大突出位置の定義が明確となったから、最大突出位置から船首端までの長さ「LB,max」も明確である。なお、「略」垂直とは、ほぼ垂直なものを意味するものとして、明確である。
(ウ)について
本件訂正により「前記突出部の最大突出位置は、前記仮想面から船体の幅方向への突出量が最大の位置」との特定が加わったから、最大突出量「BB,max」は明確である。
(エ)について
上記(イ)について、で説示したとおり、最大突出位置の定義が明確となったから、満載喫水線から前記最大突出位置までの深さ「dB,max」も明確である。
(オ)について
乙第1号証の第9ページの図1.35には、喫水dが水面(WL)から船底までの距離として図示され、型喫水dmが水面(WL)からキール上面までの距離として図示されており、同第8ページの「型喫水:キール上面から満載喫水線までの鉛直距離」との記載からすると、水面(WL)は満載喫水線であるから、喫水dは、船底から満載喫水線までの距離と認められる。してみれば、dは、船底から満載喫水までの距離を意味すると解するのが通常であって、明確である。
(カ)、(キ)について
上記(ア)について、で説示したとおり明確である。

ウ 意見書における申立人の主張について
(ア)申立人は、令和5年5月23日の意見書において、以下の点を主張する
a 従来船首形状Oを仮想面と言い換えたとしても、本件明細書の図1において点線で示される仮想面は、満載喫水線から船底に向かって直進する距離、中心線CLに向かって湾曲を開始する位置及びその曲率等、一切定義されておらず、仮想面は不明確である。
b 本件発明1の「少なくとも満載喫水線よりも下方において、バルジ状に突出する突出部」との特定からは、満載喫水線よりも上方に突出部が存在する構成を含んでおり、このとき満載喫水線よりも上方において「船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面」とならず、その結果、仮想面がどのように定義されるか不明である。
c 突出部が仮想面に対して平行となる部分を含む場合、最大突出位置Pは上下方向Zあるいは全長方向Xにおいて無数に存在し、満載喫水線から最大突出位置までの深さdB,max、最大突出位置から船首端までの長さLB,maxを一義的に定義できない。

しかしながら、aに関して、請求項1で特定されるのは、「前記左右両側の領域であると共に前記満載喫水線の上方において、前記船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面から前記満載喫水線の下方へ前記船底に対して略垂直に続く仮想面」であり、湾曲面として特定されたものではなく、湾曲の位置や曲率等を定義する必要がないことは明らかである。また、bに関して、本件発明1の仮想面は、満載喫水線の上の、前記船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面から続く面であって、当該仮想面から突出部の突出量を定義されるのであるから、仮想面を定義する一様な壁面にはバルジ状の突出部は含まないと解するのが相当であって、仮想面がどのように定義されるかは明確である。また、cに関して、仮に最大突出位置が無数にあるとしても、最大突出位置がひとつでも決まれば、最大突出位置との間で、満載喫水線から最大突出位置までの深さdB,max、最大突出位置から船首端までの長さLB,maxを定めることができる。
そうすると、申立人の上記主張は採用できない。

(イ)申立人は、令和5年1月17日の意見書で参考資料1を示し、型喫水を「d」とする記載があるから、「d」との文言は、船底から満載喫水までの深さを意味することは当業者が技術常識であるとの主張は認められるべきではないと主張する。

しかしながら、参考資料1は大学での講義に用いられる講義資料であって、この講義資料に記載された事項が、当業者に広く知られた事項であるとはいえない。また、本件発明は、波浪による船舶の抵抗を低減することを課題とするものであり(本件明細書等の段落【0005】参照)、波浪に影響を与えるのは船体の内面ではなく外面であることは技術常識であるから、本件発明における「d」が、船体内面の寸法を意味する型喫水を意味するのではなく、船体外面の寸法である船底より満載喫水までの喫水を意味すると解することが合理的である。
そうすると、申立人の上記主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船首形状であって、
船首形状は、船首端において、船底に対して略垂直であり、
船首端を除く左右両側の領域であると共に少なくとも満載喫水線よりも下方において、バルジ状に突出する突出部を有し、
前記左右両側の領域であると共に前記満載喫水線の上方において、前記船底に対して略垂直であり、かつ一様な壁面から前記満載喫水線の下方へ前記船底に対して略垂直に続く仮想面を定義したときに、前記突出部の最大突出位置は、前記仮想面から船体の幅方向への突出量が最大の位置であり、
前記突出部は、
船首端からの長さLBが全長Lに対してLB/L≧0.05の範囲において形成され、
前記最大突出位置から船首端までの長さLB,maxが全長Lに対してLB,max/L≧0.025の範囲で定められ、
最大突出量BB,maxが船体最大幅Bに対してBB,max/B≧0.03の範囲で定められ、
満載喫水線から前記最大突出位置までの深さdB,maxがdB,max/d≦0.30の範囲で定められることを特徴とする船首形状。
【請求項2】
前記船舶は、方形係数CBが0.75以上であることを特徴とする請求項1記載の船首形状。
【請求項3】
前記船舶は、全長Lと船体最大幅BとがL/B≦8.0の範囲であることを特徴とする請求項1または2記載の船首形状。
【請求項4】
前記船舶は、全長Lが180m以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の船首形状。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-07-11 
出願番号 P2018-558616
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B63B)
P 1 651・ 121- YAA (B63B)
P 1 651・ 113- YAA (B63B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 筑波 茂樹
中村 則夫
登録日 2022-01-04 
登録番号 7002474
権利者 ジャパンマリンユナイテッド株式会社
発明の名称 船首形状  
代理人 西澤 和純  
代理人 西澤 和純  
代理人 寺本 光生  
代理人 高橋 久典  
代理人 高橋 久典  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 寺本 光生  
代理人 清水 雄一郎  

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