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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D06M
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  D06M
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  D06M
審判 全部申し立て 2項進歩性  D06M
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  D06M
審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  D06M
管理番号 1402750
総通号数 22 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-08-23 
確定日 2023-07-21 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7025594号発明「撥水繊維用処理剤及びその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7025594号の明細書、特許請求の範囲を令和5年2月2日の訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5〕について訂正することを認める。 特許第7025594号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7025594号の請求項1〜5に係る特許についての出願は、令和3年12月6日(優先権主張令和3年9月17日)に出願され、令和4年2月15日にその特許権の設定登録がされ、令和4年2月24日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜5に係る特許に対し、令和4年8月23日に特許異議申立人内池智恵子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。それ以降の経緯は以下とおりである。

令和4年12月 7日付け 取消理由通知書
令和5年 2月 2日 訂正請求書及び意見書(特許権者)(以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。」)
令和5年 4月18日 意見書(申立人)

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第7025594号の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜5について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、次の訂正事項を含むものである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、
前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が0.5〜680(KOHmg/g)であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20〜100%である、撥水繊維用処理剤。」と記載されているのを、
「下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、
前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が0.5〜680(KOHmg/g)であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20〜100%であり、下記条件1及び/又は下記条件2を満たす、撥水繊維用処理剤。
条件1:前記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率〔IN/(A+B+C+D+IN)〕が0〜20%である
条件2:前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が4〜75%である」に訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜5も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が10〜75%である、請求項1に記載の撥水繊維用処理剤。」と記載されているのを、
「下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、
前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が0.5〜680(KOHmg/g)であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20〜100%であり、前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が10〜75%である、撥水繊維用処理剤。
【化1】


(式中、R1は炭素数3〜5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。)
【化2】


(式中、R2及びR3は炭素数3〜5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
【化3】


(式中、R4は炭素数3〜5の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又はR5(OA)mである。R5は炭素数3〜5の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
化合物(D):トリペンチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート及びトリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートから選ばれる少なくとも1種」に訂正する。
(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3〜5も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
本件明細書の段落【0053】の記載について、「〔IN/(A+B+C+D+IN)〕は、P核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する上記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(D)の比率を示す。」と記載されているのを、
「〔IN/(A+B+C+D+IN)〕は、P核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する上記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率を示す。」に訂正する。

なお、訂正前の請求項1〜5は、請求項2〜5が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1〜5について請求されている。
また、明細書に係る訂正は、一群の請求項1〜5について請求されている。

2 訂正要件についての判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1について、「条件1」として「前記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率〔IN/(A+B+C+D+IN)〕」を特定し、その数値範囲を「0〜20%である」と限定する、及び/又は、「条件2」として、「撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率」を特定し、その数値範囲を「4〜75%である」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項1のうち、前者については、本件明細書の【0053】の「〔IN/A+B+C+D+IN〕は、・・・0〜20%が好ましく」との記載に基づくものであり、後者については、本件明細書の【0055】の「本発明の撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率は、・・・10〜75%がより好ましく」との記載並びに実施例24、25、31、37、39、42、43、45、46及び49の吸湿率(%)が4%であることに基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を、引用関係を解消し、請求項1を引用しない独立請求項へ改めるものであるから、他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件明細書の【0053】について、「上記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(D)」との記載を「上記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)」に改めるものであるから、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 むすび
したがって、本件訂正の訂正事項1〜3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するから、訂正後の請求項〔1〜5〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1〜5に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、
前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が0.5〜680(KOHmg/g)であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20〜100%であり、下記条件1及び/又は下記条件2を満たす、撥水繊維用処理剤。
条件1:前記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率〔IN/(A+B+C+D+IN)〕が0〜20%である
条件2:前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が4〜75%である
【化1】

(式中、R1は炭素数3〜5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。)
【化2】

(式中、R2及びR3は炭素数3〜5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
【化3】

(式中、R4は炭素数3〜5の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又はR5(OA)mである。R5は炭素数3〜5の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
化合物(D):トリペンチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート及びトリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートから選ばれる少なくとも1種
【請求項2】
下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、
前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が0.5〜680(KOHmg/g)であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20〜100%であり、前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が10〜75%である、撥水繊維用処理剤。
【化1】


(式中、R1は炭素数3〜5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。)
【化2】


(式中、R2及びR3は炭素数3〜5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
【化3】


(式中、R4は炭素数3〜5の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又はR5(OA)mである。R5は炭素数3〜5の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
化合物(D):トリペンチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート及びトリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートから選ばれる少なくとも1種
【請求項3】
ノニオン界面活性剤(E)をさらに含む、請求項1又は2に記載の撥水繊維用処理剤。
【請求項4】
前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値と前記化合物(B)に帰属されるP核NMR積分値との比率(A/B)が1〜50である、請求項1〜3のいずれかに記載の撥水繊維用処理剤。
【請求項5】
原料撥水繊維に対して、請求項1〜4のいずれかに記載の撥水繊維用処理剤が付与されてなる、撥水性繊維。」

第4 取消理由通知の概要
当審において令和4年12月7日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

取消理由1(新規性
本件特許の請求項1、4に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

取消理由2(進歩性
本件特許の請求項1、3〜5に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

<引用文献一覧>
甲第1号証:特表2004−502885号公報
甲第2号証:「QUADRASTAT PBK」の安全データシート、Manufacturers Chemicals、第2版、2022年6月24日
甲第3号証:「QUADRASTAT PBK」の酸価測定結果報告書、株式会社DJK、2022年8月8日
甲第4号証:「QUADRASTAT PBK」のNMR測定の実施報告書、国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアルテクノロジーセンター、令和4年8月8日

甲第6号証:特許第6906822号公報
甲第7号証:米国特許第5972497号明細書
(以下、甲第1号証等を「甲1」等という。)

第5 取消理由通知についての当審の判断
1 各甲号証の記載
(1)甲1について
ア 甲1の記載
甲1には以下の記載がある。
(ア)「【要約】
帯電防止剤と保湿剤とを含む帯電防止組成物が提供される。例えば、帯電防止剤は、有機リン酸塩又は無機塩とすることができる。さらに、好適な保湿剤の例は、グリセリン、プロピレングリコールなどである。保湿剤は、布に適用された時に結果としてその添加レベルが約0.05wt.%より少なくなるような量で存在する。このような量の保湿剤を使用することによって、結果として得られる布は、撥水性を保持していながら導電性が改善されることになる。」
(イ)「【請求項1】
帯電防止組成物が適用された布であって、前記帯電防止組成物が、帯電防止剤と、
保湿剤と、
を含み、前記保湿剤が、布に適用された時に該保湿剤の添加レベルが前記布の約0.05wt.%より少なくなるような量だけ前記帯電防止組成物中に含まれていることを特徴とする布。
・・・
【請求項16】
帯電防止組成物が適用された不織布であって、前記帯電防止組成物が、
不織布に適用された時にその添加レベルが前記不織布の約1wt.%より少なくなるような量だけ前記帯電防止組成物中に含まれている帯電防止剤と、
不織布に適用された時にその添加レベルが前記不織布の約0.02wt.%から約0.05wt.%までの間となるような量だけ前記帯電防止組成物中に含まれている保湿剤と、を含むことを特徴とする不織布。」(「・・・」は文の省略を意味する。以下同様。)
(ウ)「【0018】
具体的には、好適な帯電防止剤は、これらに限定する意味ではないが、有機リン酸エステル、無機塩類(例えば硝酸リチウム)などを含む。一実施形態においては、帯電防止剤は、例えばアルキルリン酸エステルである。市販の好適なアルキルリン酸エステルの例は、Stepan Chemicalの「ZELEC KC」(モノリン酸塩、及び二置換カリウムn−ブチルリン酸塩)、Stepan Chemicalの「ALKANOL MP」(モノリン酸塩、及び二置換カリウムn−プロピルリン酸塩)、Schill&Seilacherの「POLYFIX N」(モノリン酸塩、及び二置換カリウムi−ブチルリン酸塩)、Manufacturers Chemicalの「QUADRASTAT PBK」(モノリン酸塩、及び二置換カリウムn−ブチルリン酸塩)、及びManufacturers Chemicalの「QUADRASTAT 1662」(モノリン酸塩、及び二置換カリウムl−ブチルリン酸塩)を含む。・・・」
(エ)「【0028】
実施例1
本発明の帯電防止組成物で処理された不織布の能力を実証した。1.8オンス毎平方ヤードの坪量を有し、(キンバリー・クラーク社からWORKWEAR(登録商標)という商標名で入手可能な)ポリプロピレンから形成されたSMS不織ラミネートを、帯電防止組成物の種々の溶液で処理した。・・・」

イ 甲1に記載された発明
上記アの記載事項を総合すると、帯電防止剤と、保湿剤と、を含む帯電防止組成物(請求項1)について、帯電防止剤として「Manufacturers Chemicalの「QUADRASTAT PBK」(【0018】)が例示されていること、帯電防止剤は布の撥水性を保持しながら導電性を改善するために用いること(【要約】)、布の具体例として「ポリプロピレンから形成されたSMS不織ラミネート」(【0028】)が用いられていることから、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「帯電防止剤としてのManufacturers Chemicalの「QUADRASTAT PBK」と保湿剤とを含む、撥水性を保持していながら導電性が改善された、不織布ラミネート用帯電防止組成物。」

(2)甲2について
商品名「QUADRASTAT PBK」の安全データシートである甲2には以下の記載がある。
ア 「Product Name:
QUDRASTAT PBK
Chemical Name:
SALT OF A PHOSPHATED ALKYL ESTER」(1ページ)
イ 「Component Name CAS Number
SALT OF A PHOSPHATED ALKYL ESTER 53126-06-0」(2ページ)
ウ 「Manufacturer's/Supplier's Identification:Manufacturers Chemicals」(1ページ)

(3)甲3について
ア 甲3の記載
甲3には以下の記載がある。


」(2ページ)

イ 甲3記載事項
上記アから、甲3には次の事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されているといえる。
「「QUAQDRASTAT PBK」の乾燥品の酸価の平均値は102である。」

(4)甲4について
ア 甲4の記載
甲4には以下の記載がある。
(ア)「9.設備名:核磁気共鳴スペクトル測定装置 400MHz(NMR400MHz)
10.測定試料名:QUDRASTAT PBK」(1ページ下から8行〜7行)
(イ)「実施内容:
・・・試料乾燥後、サンプル瓶に不揮発分30mgの試料を量り取り、・・・31P−NMR測定装置・・・で測定した。より具体的には、試料1点(QUAQDRASTAT PBK)について、室温における1次元31P CPD−NMRスペクトルを測定した。」(別紙1の1〜7行)
(ウ)「測定結果のQUADRASTAT PBKの1次元31P CPD−NMRスペクトルを別紙2に記した。」(別紙1の11〜12行)
(エ)「


」(化学シフトの範囲:−25〜10ppm)
(オ)「


」(化学シフトの範囲:0〜2ppm)
(カ)「


」(化学シフトの範囲:−12〜−9ppm)
(キ)上記(エ)から、化学シフト+4〜−1ppmの領域に3つのピーク(以下、左からそれぞれ「第1ピーク」、「第2ピーク」、「第3ピーク」という。)が看取でき、化学シフト−5〜−15ppmの領域に複数のピーク(以下「第4ピーク群」という。)が看取できる。
(ク)上記(オ)及び(カ)から、第1ピーク、第2ピーク、第3ピーク及び第4ピーク群のP核NMR積分値はそれぞれ、「45.3」、「22.1」、「16.7」及び「15.9」(3.61+0.54+11.75)であることがわかる。

(5)甲5について
甲5には以下の記載がある。
ア 甲5の記載
(ア)「

」(16〜17ページ)
「リン酸モノエステル・ジエステルとポリエステルは異なる繊維応用性能を有し、リン酸エステルのその他領域用途と異なり、制電剤用リン酸エステルには相応しいモノ・ジエステル比率を有し、更には一定のポリエステル含有量を含み、それでやっと生産と加工の各工程の異なる要求を満足させる事ができる。
その中で、モノエステルは二つの親水基を持ち、吸湿性が良いので良好な制電性及び集束性がある:ジエステルは分子中に一つしか親水基が無いため吸湿性がモノエステルよりも小さく、制電性及び集束性が劣るが、乳化性及び平滑性は良い:ポリエステルはモノ・ジエステルの混和性を向上でき、原油をバランスよく安定させる作用がある。」(当審仮訳。以下同様。)
(イ)「

」(23ページ)
「3.1 高炭素アルコールリン酸エステル調合の研究
エステル化反応に影響する要素にC18脂肪アルコールとP2O5のモル比(要素A)、反応温度(要素B)、反応時間(要素C)、及び加水分解温度(要素D)がある。これらの四つの要素について、三水準のオルソゴナル実験L9(34)を実施した。オルソゴナル実験の結果を表3−1に示した。各要素のリン酸エステル指標への影響は表3−2に示した通りであつた。」
(ウ)「

」(23ページの表3−1)
(表題)「表3−1 オルゾゴナル実験の結果」
(見出し行)「番号」、「A」、「B(℃)」、「C(h)」、「D(℃)」、「転化率(%)」、「モノ/ジエステル比率」、「H3PO4合有量(%)」、「色相」
(エ)「

」(25ページ)
「3.1,1.4 加水分解工程の影響
加水分解の目的はリン酸エステルのモノ/ジエステル比率、ポリエステル量の調整である。一般的に、加水分解に十分な時間は2時間であり、加水分解温度は調整可能であり、加水分解温度を上げると、ポリエステルが加水分解し、モノエステルに変化し、モノ/ジエステル比率が増えるが、リン酸合量も増加する、また反応生成物が受ける温度が上がり、アルコールの脱水反応が増加し、酸化が激しくなり、反応生成物の色相は濃くなる。有効なモノ/ジエステル比率と良好な色相のためには70℃で2hの加水分解が好ましい。」
(オ)「

」(46ページ)
「3.4.3 中和剤KOHのポリエステル短繊維制電性に対する影響
中和剤の加入量はリン酸エステルの総酸値に基づいて計算でき、その中和程度の測定はアルカリを加えた後のリン酸エステル塩乳液のpH値によって判断する。KOHの加入量が多いとアルキルリン酸エステル塩乳液のpH値が大きくなる。KOH加入量の違いでジン酸エステル塩の性能も異なってくる。
P2O5法で合成するアルキルリン酸エステルの生成物は主にモノエステルとジエステルで組成され、KOHとリン酸エステルの反応もその中のモノエステル・ジエステル・ポリエステルとリン酸を中和しなければならない。中和ジン酸エステルの等価点はpH値の6くらいで、中和リン酸エステルジエステルの等価点pHは8.5以上。もしpH値が8.5より小さい時は、リン酸エステルがまだ完全に中和されていない。それ故、その制電性は必ず影響を受ける(図3−17)。図から分かるように、pH値の上昇に伴い、繊維抵抗率値が下がり、制電性が向上する。」
(カ)「

」(47ページの図3−17)
「図3−17 pH値のポリエステル短繊維制電性に対する影響」

イ 甲5記載事項
上記アの記載事項を総合すると、甲5には以下の各事項が記載されているといえる。
(ア)リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの吸湿性が異なること、リン酸エステルの吸湿性に対して親水基の数が支配的に影響を与えること、及び、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの吸湿性の違いにともなって両者の制電性、収束性、乳化性及び平滑性が異なること(上記「ア(ア)」参照。)。
(イ)「リン酸エステル組成物中のモノエステルとジエステルとの比率を、反応条件によって制御できること(上記「ア(イ)及び(ウ)」参照。)。
(ウ)上記事項(ア)及び(イ)が実験的に裏付けられていること(上記ア(エ)及び(オ)参照。)。

(6)甲6及び甲7について
ア 甲6の記載
甲6には以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
下記の成分(A)、下記の成分(B)、及び下記の成分(C)を含有し、前記成分(A)、前記成分(B)、及び前記成分(C)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記成分(A)を50質量部以上含有する短繊維用処理剤であって、前記短繊維用処理剤中に占める前記成分(A)の含有量の割合が40質量%を超えることを特徴とする短繊維用処理剤。
成分(A):炭素数12〜22の炭化水素基を有する1価アルコールと、炭素数12〜22の炭化水素基を有する1価脂肪酸とのエステル化合物。
成分(B):炭素数16〜22のアルキル基を有するアルキルリン酸エステル塩、及び炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキルリン酸エステル塩から選ばれる少なくとも一つ。
成分(C):炭素数12〜22の炭化水素基を有する脂肪酸、及びその塩から選ばれる少なくとも一つ。
(ただし、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸(またはジカルボン酸誘導体)との縮合物および/またはその縮合物の少なくとも1つ以上の水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルを前記短繊維用処理剤中に10質量%以上45質量%以下含有する態様を除く。)
・・・
【請求項3】
更に、成分(D)として、ポリオキシアルキレン誘導体を含有する請求項1又は2に記載の短繊維用処理剤。」
(イ)「【0001】
本発明は、短繊維用処理剤、合成繊維、及び不織布の製造方法に関する。」
(ウ)「【0038】
上記処理剤は、更に、成分(D)として、ポリオキシアルキレン誘導体を含有することが好ましい。
処理剤が、ポリオキシアルキレン誘導体を含有することにより、処理剤の溶液安定性がより向上する。」
(エ)「【0042】
上記ポリオキシアルキレン誘導体としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアルケニルアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミンと無機酸との塩、及びポリオキシアルキレンアルケニルアミノエーテルと無機酸との塩が挙げられる。」
(オ)上記(エ)に列挙されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の化合物は、ノニオン界面活性剤であることは技術常識から明らかである。

イ 甲7の記載
甲7には以下の記載がある(以下、当審仮訳。)。
(ア)「本発明の仕上げ剤を水中油型(o/w)乳化剤として適用する場合、PEOHエステルを高い割合で含有するストック乳化剤から調製することができる。ストック乳化剤は、乳化性及び/又は乳化液の安定性を向上する一つ又は複数の界面活性剤を合むことが好ましい。」(9欄26〜31行)
(イ)「実施例1
フレーク状のポリプロピレン(結晶化度60%;分子量3.5×105;分子量分布5.7:メルトフローレート9.5グラム/10分)をインパクトブレンダーで、ポリマーの重量に対して0.05%のホスファイト安定剤(チバガイギー社、タリータウン、ニューヨークからIrgafos(登録商標)168として入手可能。)と混合した。十分に混合した後、混合物を1.5インチ(3.81cm)押出機に供給し、300℃で1068穴の紡糸口金を通して紡糸し、空気冷却し、それによって平均メルトフローレート35g/10分のマルチフィラメント繊維を形成させた。このマルチフィラメント繊維を、スピンフィニッシュ組成物のタンクに部分的に浸されたフィードロール又はキスロール上に通過させた。スピンフィニッシュ組成物は、1.67%のPEOHエステル#1、0.83%のリン酸ブチルカリウム(LUROL(登録商標)AS一Y,George A.Goulston Co.,INc,Monroe,N.C.)及び0.017%のTWEEN(登録商標)85(ICI Surfactants,WilmINgton,Del.)をDISPERSMAT CV(VMA―GetzmannGMBH)を用いて水を100%になるように添加することで乳化して調製したものである。繊維とキスロールとの間の接触は、乾燥繊維の重量を基準にして約0.25重量%の仕上げを施すのに十分な時間及び速度であった。」(14欄8〜28行)
(ウ)「TWEEN(登録商標)85」は、ポリオキシエチレンソルビタントリオレートであり、界面活性剤として汎用されている商品の商品名である。

ウ 甲6及び甲7記載事項
上記ア及びイの記載事項を総合すると、甲6及び甲7には以下の事項(以下「ノニオン界面活性剤に関する慣用技術」という。)が記載されているといえる。
「処理剤の溶液安定性を向上させる等の目的のためにノニオン界面活性剤を添加すること。」

2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明の「撥水性を保持していながら導電性が改善された、不織布ラミネート用帯電防止組成物」は、本件発明1の「撥水繊維用処理剤」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致し、相違する。
[一致点1−1]
「撥水繊維用処理剤。」

[相違点1−1]
撥水繊維用処理剤が、本件発明1では、「下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含」み、「前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、」「
【化1】

(式中、R1は炭素数3〜5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。)
【化2】

(式中、R2及びR3は炭素数3〜5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
【化3】

(式中、R4は炭素数3〜5の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又はR5(OA)mである。R5は炭素数3〜5の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
化合物(D):トリペンチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート及びトリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートから選ばれる少なくとも1種」であるのに対し、
甲1発明では、これらの化合物を含むか不明である点。

[相違点1−2]
撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が、本件発明1では「0.5〜680(KOHmg/g)」であるのに対し、甲1発明では不明である点。

[相違点1−3]
本件発明1では、「前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20〜100%であ」るのに対し、
甲1発明では、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)を含むか否かが不明であるため、P核NMR積分値(A)の比率も不明である点。

[相違点1−4]
撥水繊維用処理剤について、本件発明1では、「下記条件1及び/又は下記条件2を満たす」、「条件1:前記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率〔IN/(A+B+C+D+IN)〕が0〜20%である
条件2:前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が4〜75%である」とされているのに対し、
甲1発明では、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)を含むか否かが不明であるため、P核NMR積分値(IN)の比率も不明であるとともに、不揮発分の吸湿率も不明である点。

(2)判断
事案に鑑み[相違点1−4]について判断する。
最初に「条件1」について検討する。
上記1(4)アで摘記した甲4の記載事項を参酌すると、甲1発明の「QUADRASTAT PBK」のP核NMRの測定結果の第1のピーク〜第3のピーク及び第4のピーク群として検出されている「無機燐酸塩(IN)」、「化合物(A)」、「化合物(B)」及び「化合物(C)」、「化合物(D)」のP核NMR積分値はそれぞれ、「45.3」、「22.1」、「16.7」、「15.9」及び「0」である。そうすると、比率〔IN/(A+B+C+D+IN)〕を計算すると、45.3%となる。したがって、甲1発明は「条件1」を満たさない。そして、甲1発明の「QUADRASTAT PBK」は、上記1(2)で摘記した甲2の「Manufacturer's/Supplier's Identification:Manufacturers Chemicals」との記載からみて、Manufacturers Chemical社が販売する製品であるから、最適化された既存の製品にあえて成分調整を行う動機はなく、P核NMR積分値(IN)を相違点1−4に係る本件発明1の数値範囲内とすることにはむしろ阻害要因があるともいえる。
次に「条件2」について検討する。甲1には甲1発明の「QUADRASTAT PBK」の吸湿率に関しては記載も示唆もないから、吸湿率に着目して、これを調整する動機はない。さらに、甲1発明の「QUADRASTAT PBK」はManufacturers Chemical社が販売する製品であるから、甲5記載事項が公知であるとしても、最適化された既存の製品にあえて成分調整を行う動機はなく、吸湿率を相違点1−4に係る本件発明1の数値範囲内とすることにも、条件1と同様に、阻害要因があるともいえる。
したがって、甲1発明において、相違点1−4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(3)申立人の主張について
ア 申立人は、令和5年4月18日提出の意見書(以下「意見書」という。)において、甲1発明のリン酸ブチルエステルのカリウム塩である「QUADRASTAT PBK」の吸湿率に関して、意見書に添付した甲9(小田良平ほか、「繊維用油剤」、日本繊維機械学会、昭和44年9月1日発行、p70〜73、90〜91)、甲10(高橋越民ほか2名、「帯電防止剤の研究(第4報)イオン性界面活性剤,非イオン性(ポリオキシエチレン系)界面活性剤の併用による帯電防止効果」、油化学、1961年、第10巻、第4号、p232−236)及び甲11(特開昭57−128267号公報)からみて、本件発明1の「4〜75%」の範囲内であると主張する。しかしながら、甲9〜甲11に記載されているリン酸エステル類は、甲1発明の「QUADRASTAT PBK」と同一成分とはいえないから、甲1発明の「QUADRASTAT PBK」の吸湿率を示すものとはいえない。したがって、当該主張は採用できない。
イ 申立人は、意見書において、数値限定に係る本件発明は、審査基準に照らして進歩性を有しない旨も主張している。しかしながら、甲1発明の「QUADRASTAT PBK」は既存の製品であり、吸湿率に着目してこれに成分調整を行う動機はない。したがって、当該主張も採用できない。
ウ 申立人は、意見書において、本件発明1については「条件1」及び「条件2」をいずれも満たす場合について、本件発明2については本件発明1の「条件1」及び本件発明2の「吸湿率が10〜75%である」を満たす場合について、課題を解決できることを当業者は理解できる(サポートされている)旨も主張している。しかしながら、本件訂正前の請求項1に係る発明においても課題を解決できることを当業者は理解できるのであるから、本件訂正によって発明特定事項が追加された本件発明1についても課題を解決できるので、当該主張も採用できない。

(4)小括
以上のとおりであるから、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

3 本件発明2について
(1)対比
本件発明2と甲1発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、両者は、上記2(1)で示した[一致点1−1]で一致し、[相違点1−1]〜[相違点1−3]において相違することに加え、次の[相違点1−5]において相違する。
[相違点1−5]
本件発明2では、「前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が10〜75%である」のに対し、甲1発明では、不揮発分の吸湿率が不明である点。

(2)判断
[相違点1−5]については上記2(2)において「条件2」について判断したのと同じ理由により、甲1発明において、相違点1−5に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(3)申立人の主張について
上記2(3)で示したとおりである。

(4)小括
以上のとおりであるから、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明2は甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

4 本件発明3〜5について
本件発明3〜5は、本件発明1又は2の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えて限定するものであるから、上記2及び3で検討したのと同じ理由により、本件発明3〜5は甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(甲8を主引例とする新規性進歩性)について
1 甲8(特開平8−3227454号公報)の記載、発明
甲8には以下の記載がある。
(1)「本発明は防水性を有すると共に制電性の優れたシートに関する。より詳しくは包装材料、保護衣、ウインドブレーカー、雨衣、寝袋等のシートとして好んで用いることができる優れた防水性と制電性を有するポリオレフィン不織シートに関する。」(1ページ左下欄末行〜右下欄4行)
(2)「本発明で用いられる繊維処理剤は、又、リン酸塩や他の無機塩類を含んでいても効果に支障を来たさない場合はさしつかえない。このような他の化合物を混合使用しても問題のないように化学式・・・・で示される化合物のモノビスアルキルアルキレンオキサイドフオスフェート塩はpH3〜9好ましくは5〜8に調整して使用するのが望ましい。繊維処理剤溶液のpHが低すぎる場合には制電効果が出にくいとか、機械まわりが錆やすいとかの問題が起る。又、pHが高すぎる場合には取扱時に皮膚障害等を起す。」(3ページ左下欄9行〜末行)
(3)「実施例1〜3、比較例1〜3
・・・。この不織シートに、コロナ放電処理を施し、表−1に示す如き種々の繊維処理剤0.2重量%の水溶液にて処理をした。なお、これらの繊維処理剤は、すべて表−1に示したアルキル基を有するモノアルキルセロソルブフオスフェートカリウム及びビスアルキルセロソルブフオスフェートカリウムの混合物(1対1モル比率)であった。」(4ページ左下欄3〜17行)
(4)「

」(5ページの表−1)
(5)「実施例4〜8、比較例4
実施例1で得たポリエチレン不織シートに繊維処理剤としてブチルアルコールエチレンオキサイド付加物のフオスフェートカリウムのエチレンオキサイドの付加モル数を変えた場合の制電性、耐水圧の効果を調べた。尚、繊維処理剤溶液の水素イオン濃度(pH)は5〜8の間(第1と第2当量点の間)に調整して、不織シートにそれぞれ0.1重量%付与した。」(5ページ左下欄5行〜末行)

上記(1)〜(5)の記載事項を総合し、特に実施例2に着目すると、甲8には以下の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されている。
「モノブチルセロソルブフオスフェートカリウムとビスブチルセロソルブフオスフェートカリウムをモル比1:1で混合した、ポリオレフィン不織シート用処理剤。」

2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲8発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。甲8発明の「ポリオレフィン不織シート用処理剤」は、本件発明1の「撥水繊維用処理剤」に相当する。
甲8発明の「モノブチルセロソルブフオスフェートカリウム」は、本件発明1の「【化1】

(式中、R1は炭素数3〜5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。)」において、R1が炭素数4の炭化水素基であり、AOが炭素数2のオキシアルキレン基であり、mが1であり、M1及びM2がカリウム(アルカリ金属)である場合に相当する。
同様に、甲8発明の「ビスブチルセロソルブフオスフェートカリウム」は、本件発明1の「【化2】

(式中、R2及びR3は炭素数3〜5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)」において、R2及びR3がいずれも炭素数4の炭化水素基であり、AOが炭素数2のオキシアルキレン基であり、mが1であり、M1がカリウム(アルカリ金属)である場合に相当する。
甲8発明は、「モノブチルセロソルブフオスフェートカリウムとビスブチルセロソルブフオスフェートカリウムとをモル比1:1で混合した」ものであるから、本件発明1において含むことが任意の成分である「下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)」を含まない態様に相当する。

そうすると、本件発明1と甲8発明は、以下の点で一致し、相違する。
[一致点2−1]
「下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含む、撥水繊維用処理剤。
【化1】

(式中、R1は炭素数3〜5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。)
【化2】

(式中、R2及びR3は炭素数3〜5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
【化3】

(式中、R4は炭素数3〜5の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又はR5(OA)mである。R5は炭素数3〜5の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
化合物(D):トリペンチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート及びトリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートから選ばれる少なくとも1種」

[相違点2−1]
撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が、本件発明1では「0.5〜680(KOHmg/g)」であるのに対し、甲8発明では不明である点。

[相違点2−2]
本件発明1では、「前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20〜100%であ」るのに対し、
甲8発明では、P核NMR積分値(A)の比率が不明である点。

[相違点2−3]
本件発明1では、「下記条件1及び/又は下記条件2を満たす、撥水繊維用処理剤。
条件1:前記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率〔IN/(A+B+C+D+IN)〕が0〜20%である
条件2:前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が4〜75%である」のに対し、
甲8発明では、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)を含むか否かが不明であるため、P核NMR積分値(IN)の比率も不明であるとともに、不揮発分の吸湿率も不明である点。

(2)判断
事案に鑑み[相違点2−1]について判断する。
甲8発明の「ポリオレフィン不織シート処理剤」の不揮発分の酸価について、甲8には、直接的な記載はない。しかしながら、甲8の表−1には、実施例2として「ブチルセロソルブフオスフオスフェート塩」と記載されているから、実施例2のモノブチルセロソルブフオスフェートカリウムとビスブチルセロソルブフオスフェートカリウムをモル比1:1で混合したポリオレフィン不織シート用処理剤は、中和されており、酸価は0であると認められる。
ここで、上記1(2)及び(5)に示したように、甲8には、pHを好ましくは5〜8に調整して使用することが望ましい旨記載されているものの、これらの記載は他の化合物を混合する場合にpHを調整することが示唆されているに過ぎないものであり、甲8の実施例2を参照しても甲8発明においてpHを調整することを示唆するものとまではいえず、かえって、甲8発明自体の組成は一定であるから、一定のpHを有するはずである。
そうすると、相違点2−1は実質的な相違点である。
そして、上記1(5)ア(オ)に示したように、甲5に「中和リン酸エステルジエステルの等価点pHは8.5以上」であることが記載されているとしても、これら甲8の記載及び甲5の記載をもって、甲8発明において、相違点2−1に係る本件発明1の構成とすることが、当業者が容易に想到し得たことであったとまではいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲8発明ではなく、また、甲8発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

3 本件発明2について
(1)対比
本件発明2と甲8発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、両者は、上記アで示した[一致点2−1]で一致し、[相違点2−1]及び[相違点2−2]において相違することに加え、次の[相違点2−4]においても相違する。
[相違点2−4]
本件発明2では、「前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が10〜75%である」のに対し、甲8発明では、不揮発分の吸湿率が不明である点。

(2)判断
[相違点2−1]については上記1(2)で示したとおりである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は甲8発明ではなく、甲8発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

4 本件発明3〜5について
本件発明3〜5は、本件発明1又は2の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えて限定するものであるから、上記2及び3で検討したのと同じ理由により、本件発明3〜5は甲8発明ではなく、甲8発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】撥水繊維用処理剤及びその利用
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水繊維用処理剤及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、紙おむつや合成ナプキンを代表とする生理用品等の吸収性物品は、少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む繊維(ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維等)を主材とする各種不織布に親水性を付与したトップシートと、撥水性を付与したバックシートと、トップシートとバックシートの間に綿状パルプや高分子吸収体等からなる材料とを配置した3層から形成される構造になっていることが多い。バックシートは、尿や血液の漏れを防ぐために強い撥水性が求められる。またバックシート不織布を製造する工程において、静電気が発生すると不織布の地合が悪くなる事から静電気防止性(制電性)が求められるが、撥水化処理された繊維は静電気が発生しやすく撥水性と制電性の両立が求められる。
【0003】
そこで、繊維表面にアルキル基の炭素数が14〜18で、且つカリウム塩の割合が50〜90重量%、ナトリウム塩の割合が10〜50重量%であるアルキルホスフェート塩を用いることで撥水性と制電性を両立させる提案(特許文献1)がなされているが、撥水性と制電性の両立の程度がまだ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−325937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、高温高湿での耐久制電性と撥水性とに優れる撥水繊維用油剤を提供することである。又、該処理剤が付着した繊維および不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の燐酸化合物を特定量含有し、その酸価が一定の値を示す撥水繊維用処理剤であれば、解決できることを突き止めた。
すなわち、本発明の撥水繊維用処理剤は、下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が0.5〜680(KOHmg/g)であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20〜100%である。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1は炭素数3〜5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、R2及びR3は炭素数3〜5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、R4は炭素数3〜5の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又はR5(OA)mである。R5は炭素数3〜5の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
化合物(D):トリペンチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート及びトリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートから選ばれる少なくとも1種
【0013】
前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が10〜75%であると好ましい。
ノニオン界面活性剤(E)をさらに含むと好ましい。
前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値と前記化合物(B)に帰属されるP核NMR積分値との比率(A/B)が1〜50である、と好ましい。
【0014】
本発明の撥水性繊維は、原料撥水繊維に対して、上記撥水繊維用処理剤が付与されてなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の撥水繊維用処理剤は、高温高湿での耐久制電性と撥水性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の撥水繊維用処理剤は、上記化合物(A)、上記化合物(B)、上記化合物(C)、上記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む。以下に詳細に説明する。
【0017】
〔化合物(A)〕
化合物(A)は、本願発明の撥水繊維用処理剤に必須に含まれる成分であり、撥水性及び制電性に寄与する成分である。
化合物(A)は、上記一般式(1)で示される。
式中、R1は炭素数3〜5の炭化水素基である。R1は直鎖でも分岐鎖でもよい。炭化水素基としては、アルキル基が挙げられる。R1は炭素数4の炭化水素基が最も好ましい。
【0018】
AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基である。オキシアルキレン単位の繰り返し数であるmは0〜15の整数であり、0〜10が好ましく、0〜3がさらに好ましく、mが0でポリオキシアルキレン基を含有しない場合が、高温高湿での耐久制電性と撥水性の観点から、特に好ましい。(AO)mは、オキシアルキレン単位としてオキシエチレン単位を50モル%以上有するポリオキシアルキレン基が好ましい。
【0019】
M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。
アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウム、リチウム等が挙げられ、撥水性及び制電性の観点から、カリウム又はナトリウムが好ましい。
有機アミン塩としては、例えば、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩や、トリエチルアミン塩が挙げられる。
M2は、M1と同様である。
【0020】
化合物(A)の具体例としては、特に限定されないが、モノブチルホスフェートモノカリウム塩、モノブチルホスフェートジカリウム塩、モノブチルホスフェートモノナトリウム塩、モノブチルホスフェートジナトリウム塩、ポリオキシエチレン3モル付加モノブチルホスフェートモノカリウム塩、ポリオキシエチレン3モル付加モノブチルホスフェートモノカリウム塩等が挙げられる。中でも、モノブチルホスフェートモノカリウム塩、モノブチルホスフェートジカリウム塩、モノブチルホスフェートモノナトリウム塩、モノブチルホスフェートジナトリウム塩が好ましい。
【0021】
化合物(A)は、31P−NMRの方法で検出することができる。
測定試料不揮発分約30mgを直径5mmのNMR用試料管に秤量し、重水素化溶媒として約0.5mlの重水(D2O)あるいは重クロロホルム(CDCl3)を加え溶解させて、31P−NMR測定装置(BRUKER社製AVANCE400,162MHzおよび日本電子株式会社製JNM−ECZ400R,162MHz)で測定した。
化合物(A)に由来する燐元素のピークは、+4〜−1ppmにて検出される。化合物(A)、後述する化合物(B)及び後述する無機燐酸に由来する燐元素のピークは、いずれも+4〜−1ppmにて検出されるが、低磁場側から、無機燐酸、化合物(A)、化合物(B)の順に帰属が決定される。
なお、本発明における不揮発分とは、処理剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
【0022】
〔化合物(B)〕
化合物(B)は、本願発明の撥水繊維用処理剤に必須に含まれる成分であり、化合物(A)と併用することにより、撥水性及び制電性の効果を高める性能を有する。化合物(B)は、撥水性を有する。
化合物(B)は、上記一般式(2)で示される。
式中、R2及びR3は炭素数3〜5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖でも分岐鎖でもよい。炭化水素基としては、アルキル基が挙げられる。R2及びR3は炭素数4の炭化水素基が最も好ましい。
【0023】
AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基である。オキシアルキレン単位の繰り返し数であるmは0〜15の整数であり、0〜10が好ましく、0〜3がさらに好ましく、mが0でポリオキシアルキレン基を含有しない場合が、撥水性及び制電性の観点から、特に好ましい。(AO)mは、オキシアルキレン単位としてオキシエチレン単位を50モル%以上有するポリオキシアルキレン基が好ましい。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。
【0024】
M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。
アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウム、リチウム等が挙げられ、撥水性及び制電性の観点から、カリウム又はナトリウムが好ましい。
有機アミン塩としては、例えば、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩や、トリエチルアミン塩が挙げられる。
【0025】
化合物(B)の具体例としては、特に限定されないが、ジブチルホスフェートカリウム塩、ジブチルホスフェートナトリウム塩、ジブチルホスフェートトリエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0026】
化合物(B)は、化合物(A)と同様に、31P−NMRの方法で検出することができる。
化合物(B)に由来する燐元素のピークは、+4〜−1ppmにて検出される。化合物(A)、化合物(B)及び無機燐酸に由来する燐元素のピークは、いずれも+4〜−1ppmにて検出されるが、低磁場側から、無機燐酸、化合物(A)、化合物(B)の順に帰属が決定される。
【0027】
[化合物(C)]
化合物(C)は、本願発明の撥水繊維用処理剤に任意に含まれる成分である。
本願発明の撥水繊維用処理剤は化合物(C)を含むと、制電性が向上するため好ましい。
【0028】
化合物(C)は、上記一般式(3)で示される。
式中、R4及びR5は炭素数3〜5の炭化水素基である。R4及びR5は直鎖状であっても分岐を有していてもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数であり、0〜10が好ましく、0〜3がさらに好ましく、mが0でポリオキシアルキレン基を含有しない場合が、撥水性の観点から、特に好ましい。
M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又はR5O(AO)mである。Yは1又は2である。分子内にM2、(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。
【0029】
化合物(C)の具体例としては、特に限定されないが、ピロブチルホスフェートカリウム塩、ピロブチルホスフェートナトリウム塩、ピロブチルホスフェートトリエタノールアミン塩等が挙げられる。中でも、ピロブチルホスフェートナトリウム塩が好ましい。
【0030】
化合物(C)は、次のようにして検出することができる。
〔31P−NMR法〕
測定試料不揮発分約30mgを直径5mmのNMR用試料管に秤量し、重水素化溶媒として約0.5mlの重水(D2O)あるいは重クロロホルム(CDCl3)を加え溶解させて、31P−NMR測定装置(BRUKER社製AVANCE400,162MHzおよび日本電子株式会社製JNM−ECZ400R,162MHz)で測定した。
化合物(C)に由来する燐元素のピークは、−5〜−15ppmにて検出される。
【0031】
〔化合物(D)〕
化合物(D)は、本願発明の撥水繊維用処理剤に任意に含まれる成分である。
化合物(D)は、トリペンチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート及びトリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートから選ばれる少なくとも1種である。
トリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートは、炭素数3〜5のアルキル基を有して且つ、オキシアルキレン基の炭素数は2〜4であり、オキシアルキレン単位の繰り返し数は0〜15の整数である。
本願発明の撥水繊維用処理剤は、トリホスフェート化合物(D)を含むと、撥水性が向上するため好ましい。
トリホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリ(モノエチレングリコールモノブチルエーテル)ホスフェート、等が挙げられる。中でも、トリブチルホスフェートが好ましい。
【0032】
〔無機燐酸塩(IN)〕
無機燐酸塩(IN)は、本願発明の撥水繊維用処理剤に任意に含まれる成分である。無機燐酸塩(IN)は、リン酸、リン酸二水素金属塩、リン酸水素二金属塩及びリン酸三金属塩から選ばれる少なくとも一つである。具体的に、リン酸二水素一金属塩としてはリン酸二水素一カリウム塩、リン酸二水素一ナトリウム塩等が挙げられ、リン酸水素二金属塩としてはリン酸水素二カリウム塩、リン酸水素二ナトリウム塩等が挙げられ、リン酸三金属塩としてはリン酸三カリウム塩、リン酸三ナトリウム塩等が挙げられる。
本願発明の撥水繊維用処理剤は、無機燐酸塩(IN)を含むと、撥水性が向上するため好ましい。
【0033】
〔ノニオン界面活性剤(E)〕
本発明の撥水繊維用処理剤は、ノニオン界面活性剤(E)を含むと前記化合物(A)〜(D)の乳化を補助し、制電性を向上できるため、好ましい。
ノニオン界面活性剤(E)としては、多価アルコールと脂肪酸とがエステル結合した構造を有し、分子中に水酸基が1つ以上有するエステル化合物(E1)、ポリオキシアルキレンヒマシ油エーテル(E2)、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油エーテル(E3)、ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテル(E4)及びPEGエステル(E5)等が挙げられる。
【0034】
エステル化合物(E1)は、多価アルコールと脂肪酸とがエステル結合した構造を有し、分子中に水酸基が1つ以上有する化合物である。後述するエステル化合物(F1−2)とは水酸基が1つ以上有する点で別の化合物である。
【0035】
多価アルコールと脂肪酸とがエステル結合した構造を有し、分子中に水酸基が1つ以上有するエステル化合物(E1)としては、特に限定されるものではないが、ソルビタンモノエステル(ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノラウレート)、ソルビタンジエステル(ソルビタンジステアレート、ソルビタンジオレエート、ソルビタンジパルミテート、ソルビタンジラウレート)、ソルビタントリエステル(ソルビタントリステアレート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリパルミテート、ソルビタントリラウレート)、グリセリンモノエステル(グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート)、グリセリンジエステル(グリセリンジステアレート、グリセリンジオレエート、グリセリンジパルミテート、グリセリンジラウレート)等が挙げられる。
【0036】
ポリオキシアルキレンヒマシ油エーテル(E2)は、ヒマシ油に対し、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシドを付加した構造を持つ化合物である。
ポリオキシアルキレンヒマシ油エーテル(E2)としては、特に限定されるものではないが、ポリオキシエチレンヒマシ油エーテル(ポリオキシエチレン(1〜25モル)ヒマシ油エーテル)が挙げられる。
【0037】
ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油エーテル(E3)は、硬化ヒマシ油に対し、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシドを付加した構造を持つ化合物である。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル(E3)としては、特に限定されるものではないが、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル(ポリオキシエチレン(1〜25モル)硬化ヒマシ油エーテル)が挙げられる。
【0038】
ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテル(E4)とは、脂肪族一価アルコール及び/又は脂肪族多価アルコールに対し、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのアルキレンオキシドを付加した構造を持つ化合物である。
ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテルとしては、例えば、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、グリセリン、ソルビトール、ソルビタン、トリメチロールプロパン等の脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加物が挙げられる。
アルキレンオキシドの付加モル数としては、1〜100モルが好ましく、2〜70モルがより好ましく、3〜50モルがさらに好ましい。また、アルキレンオキシド全体に対するエチレンンオキシドの割合は、20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましい。
【0039】
ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテル(E4)としては、特に限定されるものではないが、ポリオキシアルキレン脂肪族アルコールエーテル(ポリオキシエチレン(1〜20モル)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(1〜20モル)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(1〜20モル)パルミチルエーテル、ポリオキシエチレン(1〜20モル)ラウリルエーテル)、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル(ポリオキシエチレン(1〜20モル)ステアリルエステル、ポリオキシエチレン(1〜20モル)オレイルエステル、ポリオキシエチレン(1〜20モル)パルミチルエステル、ポリオキシエチレン(1〜20モル)ラウリルエステル)が挙げられる。
【0040】
PEGエステル(E5)について、PEGとは、ポリエチレングリコールを意味し、PEGの水酸基と1価の脂肪酸とがエステル化した構造を有するポリエチレングリコールのエステル(以下、PEGエステル)を意味する。
1価の脂肪酸の炭素数については、特に限定されるものではないが、好ましくは4〜24、より好ましくは10〜22、さらに好ましくは12〜20である。脂肪酸は、飽和と不飽和とを問わない。
PEGの重量平均分子量については、特に限定されるものではないが、200〜600が好ましい。
【0041】
〔化合物(F)〕
化合物(F)は、前記ノニオン界面活性剤(E)及び前記化合物(A)〜(D)と併用されることにより、撥水繊維に対して、付与前よりも撥水性を付与する効果がある。
化合物(F)は、(ポリ)オキシアルキレン基及びヒドロキシル基を含まないエステル化合物(F1)及び炭素数が6〜22のアルコール(F2)及び炭素数7〜70の炭化水素化合物(F3)から選ばれる少なくとも1種である。
【0042】
((ポリ)オキシアルキレン基及びヒドロキシル基を含まないエステル化合物(F1))
エステル化合物(F1)は、(ポリ)オキシアルキレン基及びヒドロキシル基のいずれも含まない化合物である。
(ポリ)オキシアルキレン基及びヒドロキシル基を含まないエステル化合物(F1)としては、炭素数6〜22の炭化水素基を有する1価アルコールと炭素数6〜22の炭化水素基を有する脂肪酸とのエステル化合物(F1−1)、多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物(F1−2)等が挙げられる。
エステル化合物(F1−2)は、多価アルコールの水酸基の全てが脂肪酸とエステル結合された構造を有し、いわゆる完全封鎖エステルである。
【0043】
炭素数6〜22の炭化水素基を有する1価アルコールと炭素数6〜22の炭化水素基を有する脂肪酸とのエステル化合物(F1−1)としては、ステアリルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、オレイルステアレート、ラウリルステアレート、オレイルオレエート、オレイルステアレート等が挙げられる。
【0044】
多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物(F1−2)としては、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラカプリレート、ペンタエリスリトールテトララウレート、ヤシ油、ひまわり油、パーム油、菜種油、魚油、牛脂等が挙げられる。
【0045】
(炭素数が6〜22のアルコール(F2))
炭素数が6〜22のアルコール(F2)としては、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナオール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘネイコサノール、ドコサノール等の直鎖アルカノール;2−エチルヘキサノール、2−プロピルヘプタノール、2−ブチルオクタノール、1−メチルヘプタデカノール、2−ヘキシルオクタノール、1−ヘキシルヘプタノール、イソデカノール、イソトリデカノール、3,5,5−トリメチルヘキサノール等の分岐アルカノール;ヘキセノール、ヘプテノール、オクテノール、ノネノール、デセノール、ウンデセノール、ドデセノール、トリデセノール、テトラデセノール、ペンタデセノール、ヘキサデセノール、ペンタデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール、エイセノール、ドコセノール、等の直鎖アルケノール;イソヘキセノール、2−エチルヘキセノール、イソトリデセノール、1−メチルヘプタデセノール、1−ヘキシルヘプテノール、イソトリデセノールおよびイソオクタデセノール等の分岐アルケノール等が挙げられる。これらのアルコールは、1種または2種以上を併用してもよい。
【0046】
(炭素数7〜70の炭化水素化合物(F3))
炭素数7〜70の炭化水素化合物としては、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等のパラフィン系炭化水素やデカリン等のナフテン系炭化水素、またベンゼンやナフタリン等の芳香族炭化水素、石油から分離精製されたスピンドル油、ケロシン油、流動パラフィンが挙げられる。これら炭化水素化合物は単体又は2種類以上の混合物として使用することが出来る。
【0047】
〔その他成分〕
本発明の撥水繊維用処理剤は、その他成分として、脂肪酸、脂肪酸金属塩、化合物(A)〜化合物(D)以外のアルカンスルフォネート塩、ジアルキルスルフォサクシネート塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルカンサルフェート塩、アルキルエーテルサルフェート塩、などのアニオン界面活性剤等を含むことができる。また、エチレングリコール、1,3プロパンジオール、アルキレンジオール、ポリオキシアルキレンエーテルを含むことができる。また、必要があれば適切な防腐剤、防錆剤、消泡剤を添加してもよい。
【0048】
〔撥水繊維用処理剤〕
本発明の撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価は、0.5〜680である。酸価が0.5未満では、繊維が黄変する。酸価が680を超えると、制電性が不足する。
本発明の撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価の下限値は、撥水性及び制電性の観点から、2.0が好ましく、4.0がより好ましく、8.0がさらに好ましい。
本発明の撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価の上限値は、撥水性及び制電性の観点から、300が好ましく、250がより好ましく、200がさらに好ましい。
【0049】
〔A/(A+B+C+D+IN)〕
〔A/(A+B+C+D+IN)〕は、上記一般式(1)で示される化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値、上記一般式(2)で示される化合物(B)に帰属されるP核NMR積分値、上記一般式(3)で示される化合物(C)に帰属されるP核NMR積分値、上記化合物(D)及び上記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)(以下、P核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)という。)に対する下記一般式(1)で示される化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率を示す。
〔A/(A+B+C+D+IN)〕は、20〜100%であり、22〜98%が好ましく、25〜95%がより好ましく、30〜92%がさらに好ましい。20%未満では、撥水性及び耐久制電性が不足する。
【0050】
〔B/(A+B+C+D+IN)〕は、P核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する上記化合物(B)に帰属されるP核NMR積分値(B)の比率を示す。〔B/(A+B+C+D+IN)〕は、1〜65%が好ましく、3〜50%がより好ましく、5〜40%がさらに好ましい。
【0051】
〔C/(A+B+C+D+IN)〕は、P核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する上記化合物(C)に帰属されるP核NMR積分値(C)の比率を示す。〔C/(A+B+C+D+IN)〕の下限値は、本願効果を奏する観点から、0%が好ましく、4%がより好ましく、8%がさらに好ましい。〔C/(A+B+C+D+IN)〕の上限値は、本願効果を奏する観点から、40%が好ましく、30%がより好ましく、20%がさらに好ましい。
【0052】
〔D/(A+B+C+D+IN)〕は、P核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する上記化合物(D)に帰属されるP核NMR積分値(D)の比率を示す。〔D/(A+B+C+D+IN)〕は、本願効果を奏する観点から、0〜10%が好ましく、1〜5%がより好ましく、2〜4%がさらに好ましい。
【0053】
〔IN/(A+B+C+D+IN)〕は、P核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する上記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率を示す。0〜20%が好ましく、0.5〜18%がより好ましく、1〜16%がさらに好ましい。
【0054】
化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値と化合物(B)に帰属されるP核NMR積分値との比率(A/B)は、本願効果を奏する観点から、1〜50が好ましく、2〜40がより好ましく、4〜20がさらに好ましい。
【0055】
〔吸湿率〕
本発明の撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率は、高温下での耐久制電性の観点から、5〜75%が好ましく、10〜75%がより好ましく、15〜70%がさらに好ましく、20〜60%が特に好ましい。
吸湿率は、実施例に記載された条件、方法で実施した値をいう。
【0056】
本発明の撥水繊維用処理剤の不揮発分に対する、上記化合物(A)、上記化合物(B)、上記化合物(C)、上記化合物(D)及び上記無機燐酸塩(IN)の合計の重量割合の下限値は、低油剤付着量でも撥水性及び制電性に優れる観点から、50重量%、60重量%、70重量、80重量%の順で好ましい。
本発明の撥水繊維用処理剤の不揮発分に対する、上記化合物(A)、上記化合物(B)、上記化合物(C)、上記化合物(D)及び上記無機燐酸塩(IN)の合計の重量割合の上限値は、低油剤付着量でも撥水性及び制電性に優れる観点から、100重量%、98重量%、95重量%、90重量%がこの順で好ましい。
なお、ここでいう低油剤付着量は、繊維に対する処理剤の不揮発分の重量が0.03〜0.10%が好ましく、0.03〜0.09重量%がより好ましく、0.06〜0.08重量%がさらに好ましい。一般的に、短繊維処理剤の短繊維に対する油剤付着量は、0.11〜0.3%程度である(以下、一般的な油剤付着量という。)。
【0057】
(化合物(E)又は化合物(F)を含有する場合)
本発明の撥水繊維用処理剤が、上記化合物(E)又は化合物(F)を含有する場合、一般的な油剤付着量で撥水性及び制電性に優れる観点から、上記化合物(A)、上記化合物(B)、上記化合物(C)、上記化合物(D)及び上記無機燐酸塩(IN)の合計の重量割合の下限値は、8重量%、10重量%、15重量%、20重量の順で好ましい。本発明の撥水繊維用処理剤の不揮発分に対する、上記化合物(A)、上記化合物(B)、上記化合物(C)、上記化合物(D)及び上記無機燐酸塩(IN)の合計の重量割合の上限値は、一般的な油剤付着量で撥水性及び制電性に優れる観点から、100重量%、98重量%、95重量%、90重量%がこの順で好ましい。
【0058】
本発明の撥水繊維用処理剤が、上記化合物(E)を含有する場合、本発明の撥水繊維用処理剤の不揮発分に対する化合物(E)の重量割合の下限値は、一般的な油剤付着量で撥水性及び制電性に優れる観点から、5重量%、10重量%、20重量%の順で好ましい。
本発明の撥水繊維用処理剤が、上記化合物(E)を含有する場合、本発明の撥水繊維用処理剤の不揮発分に対する化合物(E)の重量割合の上限値は、一般的な油剤付着量で撥水性及び制電性に優れる観点から、50重量%、40重量%、30重量%の順で好ましい。
【0059】
本発明の撥水繊維用処理剤が、上記化合物(F)を含有する場合、本発明の撥水繊維用処理剤の不揮発分に対する化合物(F)の重量割合の下限値は、一般的な油剤付着量で撥水性及び制電性に優れる観点から、10重量%、20重量%、30重量%の順で好ましい。
本発明の撥水繊維用処理剤が、上記化合物(F)を含有する場合、本発明の撥水繊維用処理剤の不揮発分に対する化合物(F)の重量割合の上限値は、一般的な油剤付着量で撥水性及び制電性に優れる観点から、85重量%、75重量%、65重量%の順で好ましい。
【0060】
本発明の撥水繊維用処理剤は、ポリオルガノシロキサンは、含有していてもよいが、撥水性及び制電性の観点から、その含有量は、20重量%未満、10重量%以下、5重量%以下の順で好ましい。
【0061】
〔撥水性繊維〕
本発明の撥水性繊維は、不織布製造用合成繊維(繊維本体)とこれに付着した上記撥水繊維用処理剤とから構成される撥水性繊維であり、一般的には所定の長さに切断した短繊維である。撥水繊維用処理剤の撥水繊維用とは、不織布製造用合成繊維(繊維本体)に処理剤を付与することで結果的に、繊維に撥水機能を付与することを意味する。
撥水繊維用処理剤の不揮発分の付着率は、撥水性及び制電性が優れる観点から、前記撥水性繊維に対して0.03〜2重量%が好ましく、0.1〜1重量%がさらに好ましい。
【0062】
不織布製造用合成繊維(繊維本体)としては、たとえば、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、塩ビ繊維、2種類以上の熱可塑性樹脂からなる複合繊維等であり、複合繊維の組み合わせとしては、ポリオレフィン系樹脂/ポリオレフィン系樹脂の場合、例えば、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、直鎖状高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、プロピレンと他のα−オレフィンとの二元共重合体または三元共重合体/ポリプロピレン、直鎖状高密度ポリエチレン/高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレン等が挙げられる。また、ポリオレフィン系樹脂/ポリエステル系樹脂の場合、例えば、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、直鎖状高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。また、ポリエステル系樹脂/ポリエステル系樹脂の場合、例えば、共重合ポリエステル/ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。さらにポリアミド系樹脂/ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂/ポリアミド系樹脂等からなる繊維も例示することができる。これら不織布製造用合成繊維(繊維本体)のなかでも、柔らかな肌触りが好まれる理由から、不織布製造用ポリオレフィン系繊維(ポリオレフィン繊維やポリオレフィン繊維を含む複合繊維)、不織布製造用ポリエステル系繊維(ポリエステル繊維やポリエステル繊維を含む複合繊維)等の疎水性合成繊維に本発明の撥水繊維用処理剤は好適であり、さらには不織布製造用ポリオレフィン系繊維に本発明の撥水繊維用処理剤は好適である。
【0063】
繊維の断面構造は鞘芯型、並列型、偏心鞘芯型、多層型、放射型あるいは海島型が例示できるが、繊維製造工程での生産性や、不織布加工の容易さから、偏心を含む鞘芯型または並列型が好ましい。また、断面形状は円形または異形形状とすることができる。異形形状の場合、例えば扁平型、三角形〜八角形等の多角型、T字型、中空型、多葉型等の任意の形状とすることができる。
【0064】
本発明の撥水繊維用処理剤は、そのまま希釈等せずに繊維本体に付着させてもよく、水等で不揮発分全体の重量割合が0.5〜5重量%となる濃度に希釈してエマルジョンとして繊維本体に付着させてもよい。撥水繊維用処理剤を繊維本体へ付着させる工程は、繊維本体の紡糸工程、延伸工程、捲縮工程等のいずれであってもよい。本発明の撥水繊維用処理剤を繊維本体に付着させる手段については、特に限定はなく、ローラー給油、ノズルスプレー給油、ディップ給油等の手段を使用してもよい。繊維の製造工程やその特性に合わせ、より均一に効率よく目的の付着量が得られる方法を採用すればよい。また、乾燥の方法としては、熱風および赤外線により乾燥させる方法、熱源に接触させて乾燥させる方法等を用いてよい。
【0065】
〔不織布の製造方法〕
不織布の製造方法として、特に限定なく、公知の方法を採用できる。原料繊維としては短繊維や長繊維を用いることができる。原料繊維が短繊維のウェブ形成方式としては、カード方式やエアレイド方式等の乾式法や抄紙方式等の湿式法が挙げられる。また原料繊維が長繊維のウェブ形成方式としては、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法等が挙げられる。また、繊維間結合方式としては、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、スティッチボンド法等が挙げられる。
本発明の不織布の製造方法は、本発明の撥水性繊維(例えば短繊維)をカード機等に通し繊維ウェブを作製し、得られた繊維ウェブを熱処理する工程を含むものが好ましい。すなわち、本発明の撥水繊維用処理剤は、不織布の製造において繊維ウェブを熱処理する工程を有する場合に、特に好適に使用されるものである。
繊維ウェブを熱処理して接合させる方法としては、加熱ロールまたは超音波によるによる熱圧着、加熱空気による熱融着、熱圧着点(ポイントボンディング)法等の熱融着法が挙げられる。繊維ウェブを熱処理して接合させる一例としては、芯に高融点の樹脂を使用し鞘に低融点の樹脂を使用する鞘芯型の複合繊維の場合、低融点の樹脂の融点付近で熱処理することで、繊維交点の熱接着を容易に行なうことができる。
不織布の製造方法としては、撥水繊維用処理剤が付与された短繊維をカード機等に通しウェブとしたものを上述のように熱処理して接合させ一体化する方法、エアレイド法でパルプ等を積層する際に本発明の撥水性繊維(短繊維)と混綿して、上述のように熱処理して接合させる方法等も挙げられる。その他、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法等により得られた繊維成形体に対して、本発明の撥水繊維用処理剤を付着させたものを加熱ロールまたは加熱空気等で熱処理して、または加熱ロールまたは加熱空気等で熱処理したものに本発明の撥水繊維用処理剤を付着させて、不織布を製造する方法も挙げられる。
【0066】
スパンボンド法の一例としては、複合繊維樹脂を紡糸し、次に、紡出された複合長繊維フィラメントを冷却流体により冷却し、延伸空気によってフィラメントに張力を加えて所期の繊度とする。その後、紡糸されたフィラメントを捕集ベルト上に捕集し、接合処理を行ってスパンボンド不織布を得る。接合手段としては、加熱ロールまたは超音波によるによる熱圧着、加熱空気による熱融着、熱圧着点(ポイントボンディング)法等がある。
得られたスパンボンド不織布に本発明の撥水繊維用処理剤を付与する方法としては、グラビア法、フレキソ法、ゲートロール法等のロールコーティング法、スプレーコーティング法等で行うことができるが、不織布への塗布量を片面ずつ調節できるものであれば特に限定されるものではない。また、乾燥の方法としては、熱風および赤外線により乾燥させる方法、熱源に接触させて乾燥させる方法等を用いてよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に示される「パーセント(%)」及び「部」は、特に限定しない限り、「重量%」及び「重量部」を示す。なお、実施例及び比較例において、撥水繊維用処理剤の各特性の評価は次の方法に従って行った。
【0068】
(実施例1〜50及び比較例1〜24)
表1〜10に示す各成分及び水を混合して、撥水繊維用処理剤全体に占める不揮発分の重量割合が25重量%の実施例1〜50、比較例1〜24の撥水繊維用処理剤をそれぞれ調製した。得られた撥水繊維用処理剤をそれぞれ約60℃の温水で不揮発分の重量割合が0.9重量%の濃度になるよう希釈して希釈液を得た。
次に、繊維本体300gに対しそれぞれの撥水繊維用処理剤の希釈液150gをディップ給油法で付着させ、撥水性繊維に付着する撥水繊維用処理剤の不揮発分の付着量を0.45重量%にした。繊維本体は、撥水繊維用処理剤等の繊維処理剤が付着していない、ポリプロピレン(芯)−ポリエチレン(鞘)系複合繊維であり、単繊維繊度が2.2Dtex、繊維長が38mmのものであった。それぞれの撥水繊維用処理剤の希釈液を付着させた繊維を、80℃の温風乾燥機の中に2時間入れた後、室温で8時間以上放置して乾燥させて、撥水性繊維を得た。
【0069】
得られた撥水性繊維をそれぞれ開繊工程およびカード試験機を用いたカード工程に通し、目付25g/m2のウェブを作製した。その際、それぞれの撥水性繊維について、下記に示す評価方法でカード工程における物性(制電性)を評価した。得られたウェブを用いて変色防止性を評価した。得られたウェブをエアースルー型熱風循環乾燥機中140℃で熱処理してウェブを固定し、不織布を得た。得られた不織布について、下記に示す評価方法で物性(撥水性)をそれぞれ評価した。その結果を表1〜8に示す。
【0070】
[吸湿率]
撥水繊維用処理剤をシャーレ上で4日間風乾した。蓋付秤量瓶を105℃で30分間、蓋を開けた状態で乾燥させた。秤量瓶の蓋を閉め30分間、デシケーター内で放冷後、重量を精秤した(X)。風乾した試料を約1gずつ秤量瓶に入れ、60℃で8時間、真空度を760mmHgで真空乾燥後、サンプル入りの秤量瓶の重量を精秤した(Y)。精秤後、秤量瓶の蓋を開け、室温20℃、湿度65%で3日間吸湿させた。吸湿後、サンプル入り秤量瓶の重量を精秤した(Z)。吸湿率は下記式に従い算出した。
吸湿率=((Z)−(Y))/((Y)−(X))×100
[撥水性]
不織布(25g/m2)を15cm角に切断し、JIS L1092の6.1 耐水度A法(低水圧法)による(a)静水圧法に準拠して耐水圧を測定し以下の基準で評価した。なお、◎が最も良い評価である。○〜◎が実用に供し得る。
◎ … 30mm以上
○ … 20mm以上〜30mm未満
× … 20mm未満
【0071】
[カード工程評価]
(制電性)
カード試験機を用いて20℃×45%RH(RHは、相対湿度を意味する。)の条件で試料撥水性繊維40gをシリンダー回転数970rpm(設定可能な最高回転数)でミニチュアカード機に通す。発生した静電気の電圧を測定し、以下の基準で評価する。なお、◎が最も良い評価であり、○〜◎が実用に供し得る。
◎ … 0.1kV未満、
○ … 0.1kV〜1.0kV、
× … 1.0kVより大
【0072】
[経時変化綿カード工程評価]
(経時綿制電性)
本明細書でいう「耐久制電性」の評価方法である。
50℃×65%RH×2週間の条件下で経時変化させた試料撥水性繊維40gをカード試験機を用いて20℃×45%RHの条件でシリンダー回転数970rpm(設定可能な最高回転数)でミニチュアカード機に通す。
発生した静電気の電圧を測定し、以下の基準で評価する。なお、◎が最も良い評価であり、○〜◎が実用に供し得る。
◎ … 0.1kV未満、
○ … 0.1kV〜1.0kV、
× … 1.0kVより大
【0073】
[不織布撥水性評価]
得られた撥水性繊維をそれぞれ開繊工程およびカード試験機を用いたカード工程に通し、目付25g/m2のウェブを作製した。その際、それぞれの撥水性繊維について、下記に示す評価方法でカード工程における物性(制電性)を評価した。得られたウェブを用いて変色防止性を評価した。得られたウェブをエアースルー型熱風循環乾燥機中140℃で熱処理してウェブを固定し、不織布を得た。得られた不織布について、下記に示す評価方法で物性(撥水性)をそれぞれ評価した。その結果を表1〜8に示す。
【0074】
(P−1〜2、8〜10、13〜16、24の製造方法)
500mL四つ口フラスコにn−ブタノールあるいはモノエチレングリコールモノブチルエーテルを250g及び水を10g加えて撹拌しながら、10酸化4リンを総量200gになるように徐々に加えて反応させた。得られた未中和物の酸価を測定した。
その後、未中和物の酸価及び目標酸価から算出した必要な水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液に未中和物をを滴下し、得られた反応物の酸価を測定した。P核NMR積分値を測定し、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、及び無機燐酸塩(IN)の帰属を行った。
なお、後述する(A−1)〜(C−4)、(a−1)〜(c−2)のM1、M2に係る「H又はNa」は、水酸化ナトリウム水溶液の添加により、未中和物と中和物との混合物であることを意味する。
【0075】
(酸価の測定方法)
なお、本発明でいう酸価(x KOHmg/g)は次の方法で測定した。
各サンプルを絶乾させ、0.01%フェノールフタレインを溶かしたキシレン/エタノール=1/1溶液50mLに各サンプル1gを溶解させた。当該溶液に0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液を滴下し、微紅色に呈色するまでの液量(y mL)を測定し、下記計算式より算出した。
x=y×5.61
【0076】
(P−3〜5、11〜12、25の製造方法)
500mL四つ口フラスコにn−ブタノールあるいはモノエチレングリコールモノブチルエーテル250gを加えて撹拌しながら、10酸化4リンを総量200gになるように徐々に加えて反応させ、未中和物を得た。未中和物の酸価及び目標酸価から算出した必要な量の水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液に未中和物を滴下し、得られた反応物の酸価を測定した。
【0077】
(P−6〜7、17〜23、26の製造方法)
モノブチルホスフェート、モノエチレングリコールモノブチルエーテルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジ(モノエチレングリコールモノブチルエーテル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(モノエチレングリコールモノブチルエーテル)ホスフェート及び無機燐酸(これは、各成分を試薬購入後配合して、配合物の酸価を測定した。測定酸価及び目標酸価から算出した必要な量の水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液に配合物を滴下し、得られた反応物の酸価を測定した。
【0078】
(p−1及びp−2の製造方法)
500mL四つ口フラスコにn−ヘキサノールを250g及び水を10g加えて撹拌しながら、10酸化4リンを総量150gになるように徐々に加えて反応させた。得られた未中和物の酸価を測定した。未中和物の酸価及び目標酸価から算出した必要な量の水酸化カリウム水溶液に未中和物を滴下し、得られた反応物の酸価を測定した。
(p−3及びp−4の製造方法)
500mL四つ口フラスコにn−ヘキサノールを250gを加えて撹拌しながら、10酸化4リンを総量150gになるように徐々に加えて反応させた。得られた未中和物の酸価を測定した。未中和物の酸価及び目標酸価から算出した必要な量の水酸化カリウム水溶液に未中和物を滴下し、得られた反応物の酸価を測定した。
(p−5の製造方法)
500mL四つ口フラスコにステアリルアルコールを250g及び水を5g加えて、液温を60℃で撹拌しながら、10酸化4リンを総量50gになるように徐々に加えて反応させた。得られた未中和物の酸価を測定した。未中和物の酸価及び目標酸価から算出した必要な量の水酸化カリウム水溶液に未中和物を滴下し、得られた反応物の酸価を測定した。
(p−6及びp−7の製造方法)
500mL四つ口フラスコにステアリルアルコールを250gを加えて60℃で撹拌しながら、10酸化4リンを総量50gになるように徐々に加えて反応させた。得られた未中和物の酸価を測定した。未中和物の酸価及び目標酸価から算出した必要な量の水酸化カリウム水溶液に未中和物を滴下し、得られた反応物の酸価を測定した。
(p−8〜p−12の製造方法)
モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ポリーブチルホスフェート及び無機燐酸を試薬購入後配合して、配合物の酸価を測定した。測定酸価及び目標酸価から算出した必要な量の水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液に配合物を滴下し、得られた反応物の酸価を測定した。
なお、P−1〜P−26、p−1〜12は、表9〜表10に示す。
【0079】
なお、表1〜10中に示す成分は次の通りである。なお、表3〜8に示すP−1〜P−7及びp1〜p−6は、表9及び10に示すモル比率で含有する。
A−1 一般式(1)化合物、R1=n−ブチル基、m=0、M1:H又はNa、M2:H又はNa
A−2 一般式(1)化合物、R1=n−ブチル基、m=0、M1:H又はK、M2:H又はK
A−3 一般式(1)化合物、R1=n−ブチル基、m=1、AO=炭素数2のオキシアルキレン基、M1:H又はNa、M2:H又はNa
A−4 一般式(1)化合物、R1=n−ブチル基、m=1、AO=炭素数2のオキシアルキレン基、M1:H又はK、M2:H又はK
a−1 一般式(1)中、R1=n−ヘキシル基、m=0、M1:H又はK、M2:H又はK
a−2 一般式(1)中、R1=ステアリル基、m=0、M1:H又はK、M2:H又はK
B−1 一般式(2)化合物、R2=n−ブチル基、R3=n−ブチル基、m=0、M1:H又はNa
B−2 一般式(2)化合物、R2=n−ブチル基、R3=n−ブチル基、m=0、M1:H又はK
B−3 一般式(2)化合物、R2=n−ブチル基、R3=n−ブチル基、AO=炭素数2のオキシアルキレン基、m=1、M1:H又はNa
B−4 一般式(2)化合物、R2=n−ブチル基、R3=n−ブチル基、AO=炭素数2のオキシアルキレン基、m=1、M1:H又はK
b−1 一般式(2)中、R2=n−ヘキシル基、R3=n−ヘキシル基、m=0、M1:H又はK
b−2 一般式(2)中、R2=ステアリル基、R3=ステアリル基、m=0、M1:H又はK
C−1 一般式(3)化合物、R4=n−ブチル基、m=0、M1:H又はNa、M2:H又はNa、Y=1、Q=M2
C−2 一般式(3)化合物、R4=n−ブチル基、m=0、M1:H又はK、M2:H又はK、Y=1、Q=M2
C−3 一般式(3)化合物、R4=n−ブチル基、m=1、AO=炭素数2のオキシアルキレン基、M1:H又はNa、M2:H又はNa、Y=1、Q=M2
C−4 一般式(3)化合物、R4=n−ブチル基、m=1、AO=炭素数2のオキシアルキレン基、M1:H又はK、M2:H又はK、Y=1、Q=M2
c−1 一般式(3)中、R4=n−ヘキシル基、m=0、M1:H又はK、M2:H又はK、Y=1、Q=M2
c−2 一般式(3)中、R4=ステアリル基、m=0、M1:H又はK、M2:H又はK、Y=1、Q=M2
D−1 トリブチルホスフェート
D−2 トリ(モノエチレングリコールモノブチルエーテル)ホスフェート
d−1 トリヘキシルホスフェート
d−2 トリステアリルホスフェート
E−1 ソルビタンモノステアレート
E−2 グリセリンモノステアレート
E−3 ポリオキシエチレン(10モル)硬化ヒマシ油エーテル
E−4 ポリオキシエチレン(7モル)ステアリルエーテル
E−5 ポリオキシエチレン(20モル)オレイルエーテル
F1−1−1 ステアリルステアレート
F1−1−2 2−エチルヘキシルステアレート
F1−1−3 セチルパルミテート
F1−2−1 ペンタエリスリトールテトラカプリレート
F2−1 ステアリルアルコール
F2−2 セチルアルコール
F3−1 パラフィンワックス
F3−2 オクタン
G−1 オレイン酸カリウム塩
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
【表5】

【0085】
【表6】

【0086】
【表7】

【0087】
【表8】

【0088】
【表9】

【0089】
【表10】

【0090】
表1〜5から分かる通り、実施例1〜50の撥水繊維用処理剤は、下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が0.5〜680(KOHmg/g)であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20〜100%であるため、本願課題を解決できている。
また、P−1〜P−16の各処理剤について、撥水繊維用処理剤の不揮発分の付着量を0.03重量%にした以外は実施例1〜10と同様にして評価した結果、いずれも、撥水性◎、制電性◎、耐久制電性○という結果が得られた。
一方、表6〜8から分かる通り、化合物(A)及び化合物(B)のうち少なくともいずれか一方を含まない場合(比較例1〜7、12〜24)、〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20〜100%でない場合(比較例8、10、11、25)、酸価が0.5〜680(KOHmg/g)の範囲にない場合(比較例9〜11)、本願の課題である撥水性又は耐久制電性のいずれかを解決できていない。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の撥水繊維用処理剤を用いて処理した撥水繊維及び不織布は、紙おむつやナプキンを代表とする生理用品等の吸収性物品のバックシートに用いられる。その他、食品用途、医療用途、及び工業用途での撥水シートを必要とする場面で使用することもできる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、
前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が0.5〜680(KOHmg/g)であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20〜100%であり、下記条件1及び/又は下記条件2を満たす、撥水繊維用処理剤。
条件1:前記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率〔IN/(A+B+C+D+IN)〕が0〜20%である
条件2:前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が4〜75%である
【化1】

(式中、R1は炭素数3〜5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。)
【化2】

(式中、R2及びR3は炭素数3〜5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
【化3】

(式中、R4は炭素数3〜5の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又はR5(OA)mである。R5は炭素数3〜5の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
化合物(D):トリペンチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート及びトリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートから選ばれる少なくとも1種
【請求項2】
下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、
前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が0.5〜680(KOHmg/g)であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20〜100%であり、前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が10〜75%である、撥水繊維用処理剤。
【化1】

(式中、R1は炭素数3〜5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。)
【化2】

(式中、R2及びR3は炭素数3〜5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
【化3】

(式中、R4は炭素数3〜5の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であって、mは0〜15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又はR5(OA)mである。R5は炭素数3〜5の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)
化合物(D):トリペンチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート及びトリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートから選ばれる少なくとも1種
【請求項3】
ノニオン界面活性剤(E)をさらに含む、請求項1又は2に記載の撥水繊維用処理剤。
【請求項4】
前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値と前記化合物(B)に帰属されるP核NMR積分値との比率(A/B)が1〜50である、請求項1〜3のいずれかに記載の撥水繊維用処理剤。
【請求項5】
原料撥水繊維に対して、請求項1〜4のいずれかに記載の撥水繊維用処理剤が付与されてなる、撥水性繊維。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-07-11 
出願番号 P2021-197423
審決分類 P 1 651・ 857- YAA (D06M)
P 1 651・ 113- YAA (D06M)
P 1 651・ 853- YAA (D06M)
P 1 651・ 852- YAA (D06M)
P 1 651・ 121- YAA (D06M)
P 1 651・ 851- YAA (D06M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 稲葉 大紀
門前 浩一
登録日 2022-02-15 
登録番号 7025594
権利者 松本油脂製薬株式会社
発明の名称 撥水繊維用処理剤及びその利用  

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