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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1402794
総通号数 22 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-05-11 
確定日 2023-10-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第7170124号発明「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7170124号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7170124号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜6に係る特許についての出願は、令和2年10月19日(優先権主張 令和1年10月28日、令和2年3月31日 いずれも日本国(JP))を国際出願日とする特許出願(特願2021−510472号、以下「本願」ということがある。)であって、令和4年11月2日にその特許権の設定登録(請求項の数:6)がなされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和4年11月11日である。)。
その後、令和5年5月11日に、本件特許の請求項1〜6に係る特許に対して、特許異議申立人である磯崎 紀雄(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜6に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
(以下、請求項番号に対応して、それぞれの請求項に係る発明を「本件発明1」、・・・「本件発明6」といい、本件発明1〜6をまとめて「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)

「【請求項1】
支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層が、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩と、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤と、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つと、を含有する、貼付剤。
【請求項2】
チオ硫酸塩、亜硫酸塩又はピロ亜硫酸塩の含有量が、粘着剤層の総質量を基準として、0.005〜1質量%である、請求項1に記載の貼付剤。
【請求項3】
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物に、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを添加して粘着剤組成物を得ることと、
前記粘着剤組成物を支持体上に展延することと、を含む、貼付剤の製造方法。
【請求項4】
チオ硫酸塩、亜硫酸塩又はピロ亜硫酸塩の量が、貼付剤の粘着剤層の総質量を基準として、0.005〜1質量%である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物に、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを添加することを含む、アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法。
【請求項6】
チオ硫酸塩、亜硫酸塩又はピロ亜硫酸塩の含有量が、貼付剤の粘着剤層の総質量を基準として、0.005〜1質量%であり、
貼付剤の製造におけるアセナピン−N−オキシドの生成を抑制する、請求項5に記載の方法。」

第3 異議申立ての理由の概要及び証拠方法
1 特許異議申立書に記載した申立理由
本件特許の請求項1〜6に係る特許は、下記(1)〜(6)の点により、特許法第113条第2号又は第4号に該当すると主張している。そして、証拠方法として、後記2の甲第1号証〜甲第8号証(以下、順に「甲1」等という。)を提出している。

(1)申立理由1(委任省令要件)について
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件発明1〜6についての特許は、同法第36条第4項第1号(委任省令要件)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。


ア 本件明細書においては、アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する技術上の意義、具体的には、アセナピン−N−オキシドが存在していることによるアセナピン含有貼付剤への影響、及び、分解物のなかでもアセナピン−N−オキシドのみに着目する理由が説明されていない。(異議申立書の3頁1行〜5頁23行)

イ 本件明細書の実施例においては、「60℃、2週間」の条件でアセナピン含有貼付剤を保管する実験を行う技術上の意義、具体的には、本件発明のアセナピン含有貼付剤を長期間保管できることを示すために、欧州医薬品審査庁のICHQ1Aガイドラインにて推奨されている条件(長期保管:25℃、又は30℃+湿度60%、12ヵ月、中期保管:30℃+湿度65%、6ヵ月、促進保管:40℃、+湿度75%、6ヵ月)から温度も期間も著しく外れた「60℃、2週間」の条件を採用する理由が説明されていない。(異議申立書の5頁24行〜33行)

(2)申立理由2(実施可能要件)について
本件明細書の発明の詳細な説明は、下記の点で、当業者が本件発明1〜6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本件発明1〜6についての特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。


ア 本件明細書に示されているアセナピン−N−オキシドの量は、高速液体クロマトグラフィーのピーク値に基づき、アセナピンの量に対する相対値から算出しているが、「60℃ 、2週間」の条件での保存後のアセナピン−N−オキシドの含有量は、製造直後の貼付剤におけるアセナピンの量に対する相対値であるのか、保存後の貼付剤におけるアセナピンの量に対する相対値であるのか、不明である。(異議申立書の5頁下から3行〜6頁10行)

イ 本件明細書は、当業者が長期間保管できる「アセナピン含有貼付剤」を製造し得るように記載されたものではない。
具体的には、本件明細書の実施例における「60℃ 、2週間」の条件での保存後のアセナピン−N−オキシドの含有量は「製造直後の貼付剤におけるアセナピンの量に対する相対値」を意味するものと解されるが、その場合においても本件実施例に記載された本件発明の貼付剤は、保管時間を長くすればするほどアセナピン−N−オキシドをより多く生成するようになるものであるので、長期間保管することができるものであると理解することができない。(異議申立書の6頁11行〜27行)

(3)申立理由3(サポート要件)について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜6の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件発明1〜6に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。


ア 本件特許発明の課題は、「長期間の保管に耐えうる」貼付剤を提供することにあるが、本件特許発明によって、「貼付剤の保管過程」において、「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制」していることを確認することはできないし、「長期間の保管に耐える」貼付剤を提供しているとも理解することができないので、本件特許の請求項1〜6に係る発明は、本件明細書に具体的に記載されているものを超えるものである。(異議申立書の6頁27行〜最終行)

イ 本件明細書に具体的に記載されているのは、「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩」と、「スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤」とを含有する「支持体上に粘着剤層を備える貼付剤」を用いて、クロマトグラムでのアセナピンに対応するピークに対するアセナピン−N−オキシドに対応するピークの変化によって、「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制」するか否かを確認したことにとどまっており、「支持体上に粘着剤層を備える貼付剤」という構成を欠く本件特許の請求項5、6に係る発明は、本件明細書に記載されているものを超えるものである。(異議申立書の8頁3行〜10行)

(4)申立理由4(明確性要件)について
本件特許の特許請求の範囲の請求項5及び6の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件発明5及び6についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。


ア 本件特許の請求項5における「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制」は、「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩」と、「スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤」とを含有する「支持体上に粘着剤層を備える貼付剤」という特定の構成の「貼付剤の製造過程」におけるものと、該特定の構成の「貼付剤の保管過程」におけるものとを意味していると理解することができるのに対し、本件特許の請求項5は「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法」とするのみであって、斯かる記載では、請求項に係る本件特許発明の範囲が明らかではない。(異議申立書の7頁1行〜下から5行)

イ 請求項5を引用する請求項6には、「チオ硫酸塩、亜硫酸塩又はピロ亜硫酸塩の含有量が、貼付剤の粘着剤層の総質量を基準として、0.005〜1質量%」と、「貼付剤」の記載があるが、請求項5には「貼付剤」の記載がなく、数値範囲が何を特定しているのか不明である。(異議申立書の7頁下から4行〜最終行)

ウ 請求項5の「組成物」と請求項6の「貼付剤」の関係が不明である。(異議申立書の8頁1行〜2行)

(5)申立理由5(新規性)について
本件発明1〜6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であって、特許法29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである

(6)申立理由6(進歩性)について
ア 本件発明1〜6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1〜6に係る発明の特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下、「申立理由6−1」という。)

イ 本件発明1〜6は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲3に記載された発明及び甲2及び4〜6に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1〜6に係る発明の特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下、「申立理由6−2」という。)

ウ 本件発明1〜6は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲4に記載された発明及び甲2、3、5、7及び8に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1〜6に係る発明の特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下、「申立理由6−3」という。)

2 証拠方法 異議申立書とともに提出された証拠方法は、以下のとおりである。
甲1:European Medicines Agency,ICH Topic Q l A (R2), Stability Testing of new Drug Substances and Products,August/2003
甲2:国際公開第2018/115010号
甲3:国際公開第2017/018322号
甲4:国際公開第2018/115001号
甲5:国際公開第2017/018321号
甲6:国際公開第2016/140087号
甲7:国際公開第2014/017595号
甲8:特開2017−25111号公報

第4 当審の判断
当審は、申立人がした申立理由1〜6のいずれによっても、本件発明1〜6に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 申立理由1(委任省令要件)について
(1)申立理由1の概要
申立理由1の概要は、上記第3の1(1)ア及びイに示したとおりである。

(2)判断
ア 特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)の判断手法
特許法36条第4項第1号で委任する経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)では、「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない」ことが規定されている。
そこで、委任省令要件は、発明の詳細な説明に、発明の属する技術分野、並びに、本件発明が解決しようとする課題及びその解決手段が記載されているか否かを検討して判断することにする。

イ 判断
発明の詳細な説明には、本件発明の技術分野は段落【0001】より「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法」に関するものであり、本件発明が解決しようとする課題は、段落【0005】より「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法を提供すること」、及び、「アセナピン−N−オキシドの生成が抑制された貼付剤を提供すること」であると理解できる。
さらに、本件明細書段落【0029】〜【0032】には、粘着剤層及び粘着剤組成物に配合するチオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩について、金属塩の種類が限定されないことやチオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩の含有量が0.02%以上であると、アセナピン−N−オキシドの生成をさらに抑制できることが説明され、本件実施例においても、アセナピンを含有する粘着剤層を有する貼付剤を製造する際に、粘着剤層に、アセナピンの安定化剤である2,6−ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)やα−トコフェロール(段落【0046】より)に代えて、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム又は亜硫酸ナトリウムを配合することによって、貼付剤の製造直後及び60℃で2週間保管後において、アセナピン−N−オキシドの生成を抑制できることが確認されているので、当業者は、本件発明はアセナピンを含有する粘着剤層及び粘着剤組成物にピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム又は亜硫酸ナトリウムを配合することによって、上記課題を解決できることを理解するものといえる。

そうすると、発明の詳細な説明には、発明の属する技術分野、本件発明の課題とその解決手段が記載されており、その記載は委任省令要件を満たすといえる。

ウ 申立理由1のア及びイについて
上記「イ 判断」で述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、委任省令要件を満たすと判断できるが、念のため、申立理由1のア及びイについても検討する。
(ア) 申立理由1のアについて
上記イにおいて述べたとおり、本件明細書には、発明の属する技術分野、並びに、本件発明が解決しようとする課題及びその解決手段が記載されていると判断でき、「生成したアセナピン−N−オキシドは減少したが、(考えうる例として)アセナピン−N−オキシド以外の化合物への変換が増加したなどの理由により、アセナピンが減少する量には変化がなかった場合に、どのような技術上の意義があるのか」又は「生成したアセナピン−N−オキシドは減少したが、アセナピンが減少する量が増えた場合に、どのような技術上の意義があるのか」などを理解することができないからといって、その判断に影響を及ぼすものではない。
なお、念のため、申立理由の内容についても検討する。
本件特許の段落【0003】にアセナピンの代謝物であるN−酸化体(アセナピン−N−オキシド)が、アセナピンが結合する受容体に対する親和性がアセナピンよりも低いか、又は脳への移行性が低いため、当初意図した治療効果に対する寄与は低いと考えられていることが説明され、段落【0005】において、貼付剤の製造過程において、アセナピンが酸化されることによりアセナピン−N−オキシドを生じ得ることが判明し、本件発明はそれに対して、アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法を提供する、或いは、アセナピン−N−オキシドの生成が抑制された貼付剤を提供するというものであることが説明されている。
そして、これらの記載に触れた当業者は、本件特許は、アセナピン−N−オキシドの生成は治療上、活性の低下等の問題の原因となりうること、アセナピン−N−オキシドは貼付剤の製造工程においても生じてしまうことが判明したので、その生成を抑制することによって、アセナピン−N−オキシドの生成に由来する治療効果の問題を防止しようとするものであると理解できるので、アセナピン−N−オキシドに着目する技術上の意義が不明であるとはいえない。
さらに、アセナピン−N−オキシドの生成抑制がアセナピン含有貼付剤からのアセナピン含有量低下の抑制をもたらす主たる原因であることが解明されていないとしても、本件特許は、少なくともアセナピン−N−オキシドの生成に起因する治療効果の問題は解決しうることは理解でき、これは技術上の意義であると解される。そして、アセナピンがアセナピン−N−オキシド以外の物質に変換する可能性があることをもって、その意義が喪失するとはいえない。
また、この点は、アセナピン−N−オキシド以外の物質の検出手段が存在することや、それらを測定した結果があるにもかかわらず結果を開示していないことをもって、その判断に影響を及ぼすものではない。
そうすると、申立理由1のアは理由がない。

(イ) 申立理由1のイについて
上記イで述べたとおり、発明の詳細な説明には、発明の属する技術分野及び本件発明が解決しようとする課題について記載されている。
そして、本件実施例において、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム又は亜硫酸ナトリウムを配合することによるアセナピン含有貼付剤の製造直後時点におけるアセナピン−N−オキシドの生成抑制が確認されていること理解できるので、仮に「60℃、2週間」の条件におけるアセナピン含有貼付剤の保管試験の結果が意味をなさないものであったとしても、それによって上記課題を解決する手段が理解できなくなるというものではない。
さらに、「60℃、2週間」なる保管条件についても、通常の保管条件よりも過酷な条件であったとしても、一般的に温度が高ければ酸化反応を含む薬物の分解反応の進行が早まることが技術常識である点に鑑みれば、医薬分野における当業者は、「60℃、2週間」なる保管条件により、アセナピン含有貼付剤の長期間保管時における安定性(アセナピン−N−オキシドの生成)を確認しようとしていることを理解できるものと解される。
そうすると、申立理由1のイは理由がない。

エ まとめ
以上のとおり、申立理由1は理由がない。

2 申立理由2(実施可能要件)について
(1)申立理由2の概要
申立理由2の概要は、上記第3の1(2)ア及びイに示したとおりである。

(2)判断
ア 特許法第36条第4項第1号の判断手法
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
以下、この観点に立って検討する。

イ 判断
本件発明1は、
「支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層が、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩と、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤と、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つと、を含有する、貼付剤。」
に係る発明であり、本件明細書の段落【0013】には「支持体」の具体的な態様が、段落【0014】〜【0019】及び【0033】〜【0047】には「粘着剤層」の具体的な態様が、段落【0020】〜【0028】には、「ゴム系粘着基剤」の具体的な態様が、段落【0029】〜【0032】には「チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩」の具体的な態様が、段落【0048】〜【0050】には「貼付剤」の具体的な態様が、それぞれ記載されている。さらに本件実施例において、本件発明1の発明特定事項を満たす具体的な「貼付剤」が記載されている。
そうすると、本件発明1の「貼付剤」自体については、発明の詳細な説明に当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作ることができる程度に明確十分に記載されているといえる。

本件発明3は、
「スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物に、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを添加して粘着剤組成物を得ることと、
前記粘着剤組成物を支持体上に展延することと、を含む、貼付剤の製造方法。」
に係る発明であり、本件明細書の段落【0050】には「貼付剤の製造方法」の具体的な態様が記載され、本件実施例において、本件発明3の発明特定事項を満たす具体的な「貼付剤の製造方法」が記載されている。
そうすると、本件発明3の「貼付剤の製造方法」については、発明の詳細な説明に当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その方法により物を生産できる程度に明確十分に記載されているといえる。

本件発明5は、
「スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物に、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを添加することを含む、アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法。」
に係る発明であり、本件明細書の段落【0029】〜【0032】には「チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩」によってアセナピン−N−オキシドの生成を抑制できることが説明されており、本件実施例において、本件発明5の発明特定事項を満たす具体的な「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法」が記載されている。
そうすると、本件発明5の「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法」については、発明の詳細な説明に当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その方法を使用できる程度に明確十分に記載されているといえる。

同様に、本件発明1、3及び5を引用する本件発明2、4及び6についても、発明の詳細な説明に当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作ることができる程度に、その方法により物を生産できる程度に、及びその方法を使用できる程度に、明確十分に記載されているといえる。

ウ 申立理由2のア及びイについて
上記「イ 判断」で述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たすと判断できるが、念のため、申立理由2のア及びイについても検討する。

(ア)申立理由2のアについて
本件明細書の段落【0052】の「アセナピン−N−オキシドの含有量は、得られたクロマトグラムにおいて、アセナピン−N−オキシドに対応するピークの曲線下面積の値をアセナピンに対応するピークの曲線下面積の値で除して算出した。」という記載について、「得られたクロマトグラム」は、その前文にある「高速液体クロマトグラフィー法により、アセナピン及びアセナピン−N−オキシドのピークが分離したクロマトグラム」を意味するものであり、段落【0052】には「アセナピン−N−オキシドの含有量は、製造直後の貼付剤、及び、製造してから60℃にて2週間又は1ヶ月間保管した後の貼付剤を用いて、以下の手順で測定した。」と記載されているのであるから、「製造してから60℃にて2週間又は1ヶ月間保管した後の貼付剤を用いて」、「高速液体クロマトグラフィー法により、アセナピン及びアセナピン−N−オキシドのピークが分離したクロマトグラム」において、アセナピン−N−オキシドに対応するピークの曲線下面積の値をアセナピンに対応するピークの曲線下面積の値で除して算出した」ことを意味するものと理解できるので、「60℃ 、2週間」の条件での保存後のアセナピン−N−オキシドの含有量は、「保存後の貼付剤におけるアセナピンの量に対する相対値」を意図するものであることは明らかである。
よって、申立理由2のアは理由がない。

なお、仮に、申立人が申立理由2のアにおいて指摘するとおり、「60℃ 、2週間」の条件での保存後のアセナピン−N−オキシドの含有量が、製造直後の貼付剤におけるアセナピンの量に対する相対値であるのか、保存後の貼付剤におけるアセナピンの量に対する相対値であるのかが不明であった場合についても、念のため検討する。
上記(2)イで述べたとおり、本件発明1及び2は「貼付剤」自体に関するもの、本件発明3及び4は「貼付剤の製造方法」に関するものであり、申立人が指摘する事項が不明であったとしても、発明の詳細な説明に当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作ることができるか否か、或いはその方法により物を生産できるか否かの判断に影響を及ぼすものではない。
また、本件発明5及び6についても、「60℃ 、2週間」の条件での保存後のアセナピン−N−オキシドの含有量は、製造直後の貼付剤におけるアセナピンの量に対する相対値であるのか、保存後の貼付剤におけるアセナピンの量に対する相対値であるのかに関わらず、本件実施例の結果からアセナピン−N−オキシドの生成抑制作用は確認できるといえるので、発明の詳細な説明に当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その方法を使用できるか否かの判断に影響を及ぼすものではない。
よって、申立人が指摘する事項が不明であったとしても、申立理由2のアは理由がない。

(イ) 申立理由2のイについて
上記(ア)で述べたとおり、アセナピン−N−オキシドの量は「保存後の貼付剤におけるアセナピンの量に対する相対値」を意味するものと認められるので、その前提において判断を行う。

本件発明1は、
「支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層が、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩と、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤と、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つと、を含有する、貼付剤。」
に係る発明であり、本件発明3は、
「スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物に、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを添加して粘着剤組成物を得ることと、
前記粘着剤組成物を支持体上に展延することと、を含む、貼付剤の製造方法。」
に係る発明であり、本件発明5は、
「スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物に、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを添加することを含む、アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法。」
に係る発明であり、いずれも「長期間保管できる」ことを発明特定事項とするものではない。そして、「アセナピン含有貼付剤」が長期間保管できる物であるか否かが、発明の詳細な説明に当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作ることができるか否か、その方法により物を生産できるか否か、及び、その方法を使用できるか否かの判断に影響を及ぼすものではない。
よって、申立理由2のイは理由がない。

エ まとめ
以上のとおり、申立理由2は理由がない。

3 申立理由3(サポート要件)について
(1)申立理由3の概要
申立理由3の概要は、上記第3の1(3)ア及びイに示したとおりである。

(2)判断
ア 特許法第36条第6項第1号の判断手法
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」 と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点に立って検討する。

イ 判断
(ア)本件発明の課題について
本件発明の課題は、本件明細書の段落【0005】の記載からみて「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法を提供すること」、及び、「アセナピン−N−オキシドの生成が抑制された貼付剤を提供すること」であるといえる。

(イ)本件明細書の発明の詳細な説明の記載について
a 本件明細書段落【0029】〜【0032】の記載をみると、粘着剤層及び粘着剤組成物に配合するチオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩について、金属塩の種類が限定されないことやチオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩の含有量が0.02%以上であると、アセナピン−N−オキシドの生成をさらに抑制できることが記載されている。

b 本件実施例の記載、特に本件明細書段落【0055】〜【0061】の記載をみると、アセナピンを含有する粘着剤層を有する貼付剤を製造する際に、粘着剤層に、アセナピンの安定化剤である2,6−ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)やα−トコフェロール(段落【0046】より)に代えて、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム又は亜硫酸ナトリウムを配合することによって、貼付剤の製造直後及び60℃で2週間保管後において、アセナピン−N−オキシドの生成を抑制できることがみてとれる。

c 上記a及びbによれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、本件発明はアセナピンを含有する粘着剤層及び粘着剤組成物にピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム又は亜硫酸ナトリウムを配合することによって、上記(ア)の課題を解決することを理解するものといえるところ、本件発明1及びこれを引用する本件発明2は粘着剤層に「チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つと、を含有する」との特定を有し、本件発明3及び5並びにこれらを引用する本件発明4及び6は粘着剤組成物に「チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを添加して」との特定を有するから、本件発明は、いずれも本件発明の課題を解決するものであることを理解するといえる。

ウ 申立理由3のア及びイについて
上記「イ 判断」で述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、サポート要件を満たすと判断できるが、念のため、申立理由3のア及びイについても検討する。

(ア) 申立理由3のアについて
本件特許発明の課題は、上記イ(ア)において述べたとおり、「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法を提供すること」、及び、「アセナピン−N−オキシドの生成が抑制された貼付剤を提供すること」であり、上記イ(イ)において述べたとおり、本件発明は、いずれも本件発明の課題を解決し得ることが確認できるものである。
よって、上記申立理由3のアは理由がない。

なお、仮に本件発明の課題が「「長期間の保管に耐えうる」貼付剤を提供すること」であるとした場合についても検討する。
本件実施例では、60℃で2週間保管後におけるアセナピン−N−オキシドの生成を抑制できたことが確認されている。そして、60℃での保管というのは一般的な保管条件と比べると過酷な条件であり、一般に保管温度が高いほど酸化反応等の分解反応が進行しやすいことが技術常識であることから、60℃で2週間保管後というのは、2週間よりも長期間に渡って保管を行った場合のアセナピン−N−オキシドの生成抑制を評価しているものと理解できる。
そうすると、60℃で2週間保管後が具体的にどの程度の期間の保管のモデルであるかは明らかではないものの、少なくともある程度の長期間に渡って、実施例10の貼付剤は比較例1の貼付剤よりもアセナピン−N−オキシドの生成を抑制できていると評価できることから、本件発明は「「長期間の保管に耐えうる」貼付剤を提供すること」という課題を解決できるものであるといえる。
よって、この場合においても、上記申立理由3のアは理由がない。

(イ) 申立理由3のイについて
上記イ(イ)において述べたとおり、本件発明はアセナピンを含有する粘着剤層及び粘着剤組成物にピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム又は亜硫酸ナトリウムを配合することによってアセナピン−N−オキシドの生成を抑制しようとするものであり、アセナピンとピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム又は亜硫酸ナトリウムが粘着剤層又は粘着剤組成物中において共存していれば、粘着剤層が支持体上に存在するか否かにかかわらず、アセナピン−N−オキシドの生成抑制作用を奏するものと認められる。
そうすると、上記申立理由3のイは理由がない。

エ まとめ
以上のとおり、申立理由3は理由がない。

4 申立理由4(明確性要件)について
(1)申立理由4の概要
申立理由4の概要は、上記第3の1(4)ア〜ウに示したとおりである。

(2)判断
ア 特許法第36条第6項第2号明確性)の判断手法
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関して、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため、これを防止することにあるものと解される。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、本件明細書及び図面とを考慮し、本件出願時の技術常識にも照らして、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものである。
以下、この観点に立って判断する。

イ 判断
本件発明5は、「スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物に、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを添加することを含む、アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法。」に係る発明である。
まず、「スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体」、「ポリイソブチレン」、「ゴム系粘着基剤」「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩」及び「チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩」なる用語は、医薬分野ないしはポリマーの分野において一般的に用いられる化合物名であるし、「ゴム系粘着基剤」、「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩」及び「チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩」なる用語については、それぞれ本件明細書の段落【0020】、【0015】〜【0017】及び【0029】〜【0032】にそれぞれ用語の定義も記載されていることから、各用語の意味するところは明確である。
そして「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法」なる記載についても、「アセナピン−N−オキシド」なる用語は段落【0005】より、アセナピンが酸化されることにより生じる化合物であることは明確であり、その「生成を抑制する方法」とは、文言通りアセナピン−N−オキシドが生成するのを防止する方法を意味するものと理解でき、不明確な点は存在しない。
さらに、本件発明5が、その発明を不明確とするような記載上の瑕疵が存在するともいえない。

本件発明6は「チオ硫酸塩、亜硫酸塩又はピロ亜硫酸塩の含有量が、貼付剤の粘着剤層の総質量を基準として、0.005〜1質量%であり、貼付剤の製造におけるアセナピン−N−オキシドの生成を抑制する、請求項5に記載の方法。」に係る発明である。
まず、「貼付剤」及び「粘着剤層」なる用語は医薬分野において一般的に用いられる用語であり、さらにそれぞれ、段落【0012】及び【0048】等、並びに、段落【0014】及び【0033】等にその構成について言及があることから、その用語の意味は明確である。
そして、「貼付剤の製造におけるアセナピン−N−オキシドの生成を抑制する、請求項5に記載の方法。」という記載から、本件発明5の「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法」を「貼付剤の製造におけるアセナピン−N−オキシドの生成」の抑制に適用したものであると理解できる。
さらに、「貼付剤の粘着剤層の総質量を基準として、0.005〜1質量%であり」との記載について、本件発明5の「組成物」は「ゴム系粘着基剤」を含むことから、特許発明6の「粘着剤層」を構成するものと解され、本件発明5は、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを「粘着剤層」を構成する該組成物に添加するものであるので、「貼付剤の粘着剤層の総質量を基準として、0.005〜1質量%」なる数値範囲は、本件発明5のチオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの添加量を特定するものであることが理解できる。

してみると、本件発明5及び6の特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。

ウ 申立理由4のア〜ウについて
上記「イ 判断」で述べたように、本件発明5及び6の特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは判断できないが、念のため、申立理由4のア〜ウについても検討する。

(ア)申立理由4のアについて
本件明細書に、特定の構成の「貼付剤の製造過程」および特定の構成の「貼付剤の保管過程」における「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法」という用途について記載があり、本件発明5において用途を具体的なものに限定せずに一般的に表現していたとしても、その一般的表現の用語の存在が請求項に係る発明を不明確とはしていない、単に一般的な表現であることのみ、すなわち概念が広いということのみと根拠として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。
そうすると、上記申立理由4のアは理由がない。

(イ)申立理由4のイについて
形式上、本件発明6が引用する本件発明5に「貼付剤」なる用語がないことのみを根拠として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。
そうすると、上記申立理由4のイは理由がない。

(ウ)申立理由4のウについて
本件発明6は、本件発明5の「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法」について、「貼付剤の製造」に適用した発明であると理解できるので、請求項5の「組成物」と請求項6の「貼付剤」の関係が不明であるとはいえない。
そうすると、申立理由4のウは理由がない。

エ まとめ
以上のとおり、申立理由4は理由がない。

5 申立理由5(新規性)及び申立理由6−1(進歩性)について
(1)甲2に記載された事項及び甲2に記載された発明
ア 甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。また、甲2は英語の公報であるので、以下の訳は、当審で作成した。)

(ア)段落[0056]
「[0056]この発明の意味内で、「圧力感受性粘着剤」という用語は、特に指圧を用いて粘着し、恒久的に粘着性であり、強い保持力を発揮し、残留物を残すことなく滑らかな表面から除去可能であるべきである材料を指す。市販されている、ポリシロキサンを含む有用な圧力感受性粘着剤の例としては、標準的なBIO−PSAシリーズ(7−4400、7−4500および7−4600シリーズ)、アミン適合性(エンドキャップされている)BIO−PSAシリーズ(7−4100、7−4200および7−4300シリーズ)、Soft Skin Adhesivesシリーズ(7−9800)、およびDow Comingによって製造されたBIO−PSA Hot Melt Adhesiveが挙げられる。ポリシロキサンを含む好ましい圧力感受性粘着剤は、BIO−PSA 7−4201およびBIO−PSA 7−4301を含めて、ヘプタン溶媒和圧力感受性粘着剤である。その上、ポリイソブチレンは、圧力感受性粘着剤として作用することができる。本発明による適当なポリイソブチレンは、商標Oppanol(登録商標)の下で入手可能である。高分子量ポリイソブチレン(B100/B80)および低分子量ポリイソブチレン(B10、B11、B12、B13)の組合せも使用することができる。感圧性粘着剤層は、皮膚と接触している場合、「自己粘着性」であり、即ち、皮膚への粘着を提供するので、典型的に、皮膚上の固定のためのさらなる助剤は必要とされない。「自己接着性」層構造は、感圧接着剤マトリックスの形態でまたは追加層の形態で提供することができる、皮膚接触のための感圧性粘着剤層、即ち感圧性粘着剤皮膚接触層を含む。粘着剤オーバーレイもまた、粘着を向上させるために用いることができる。」

(イ)段落[0168]
「[0168]一実施形態において、アセナピン含有層は、安定剤をさらに含み、ここで、安定剤は、好ましくは、トコフェロールおよびそのエステル誘導体、ならびにアスコルビン酸およびそのエステル誘導体から選択される。アセナピン含有層が安定剤を含むならば、安定剤は、アセナピン含有層の総重量に基づいて0.001重量%から2.0重量%、好ましくは0.01重量%から1.0重量%の量で存在する。一部の実施形態において、好ましい安定剤としては、メタ重亜硫酸ナトリウム、脂肪酸のアスコルビルエステル、例えばパルミチン酸アスコルビル、アスコルビン酸、ブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、酢酸トコフェリルおよびリノール酸トコフェリルが挙げられる。好ましい安定剤としては、脂肪酸のアスコルビルエステル、アスコルビン酸、トコフェロール、酢酸トコフェリルおよびリノール酸トコフェリルが挙げられる。特に好ましいのはトコフェロールである。その上、特に好ましいのは、トコフェロールおよびパルミチン酸アスコルビルの組合せである。」

(ウ)段落[0206]〜[0210]
「実施例1
[0206]
・・・
コーティング組成物の調製
[0208]ビーカーにアセナピン塩基を充填した。溶媒(酢酸エチル)を添加し、続いて、シリコーン感圧粘着剤(DOW CORNING(登録商標)BIO−PSA Q7−4301)を添加した。混合物をおよそ300rpmで(少なくとも60分)撹拌したのち、均質の混合物を得た。
実施例のコーティング組成物のコーティング
[0209]結果として得られたアセナピン含有コーティング組成物を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(片側がフルオロポリマーコーティングされている、75μmの厚さ、これは剥離ライナーとして機能することができる)上にコーティングし、およそ15分間およそ室温でおよびおよそ25分間およそ60℃で乾燥させた。該コーティング厚さは、77.8g/m2のマトリックス層の面積重量を与えた。乾燥フィルムにポリエチレンテレフタレートバッキング層(ベージュに塗られている、23μmの厚さ)を積層することで、アセナピン含有自己粘着層構造が提供された。
TTSの調製(全ての実施例に関する)
[0210]個々のシステム(TTS)を次いで、アセナピン含有自己粘着性層構造から打ち抜きを行った。特定の実施形態において、上に記載されている通りのTTSは、活性薬剤がない圧力感受性粘着剤マトリックス層を含む、好ましくは丸い角を有する、より大きい表面積のさらなる自己粘着性層を設けることができる。これは、TTSが、それの物理的特性単独に基づいて、皮膚に十分に粘着しない場合および/またはアセナピン含有マトリックス層が、無駄を回避する目的で目立った角を有する(四角または長方形の形状)場合に利点である。TTSを次いで打ち抜きを行い、一次包装材料のパウチ中に密封した。」

(エ)段落[0234]
「コーティング組成物のコーティング
[0234]実施例4a〜cのため、コーティングプロセスについて実施例1を参照されたい。しかしながら、コーティングをおよそ10分間およそ室温でおよびおよそ15分間およそ90℃で乾燥させた。該コーティング厚さは、それぞれ96.2g/m2(4a)、98.8g/m2(4b)および99.4g/m2(4c)のマトリックス層の面積重量を与えた。乾燥フィルムにポリエチレンテレフタレートバッキング層(ベージュに塗られている、23μmの厚さ)を積層することで、アセナピン含有自己粘着層構造が提供された。」

(オ)段落[0238]〜[0244]
「[0238]
〔実施例5A〜C〕
コーティング組成物
実施例5a〜cのアセナピン含有コーティング組成物の製剤は、下記の表5.1a、5.1bおよび5.1cに要約されている。
・・・
[0240]

・・・
コーティング組成物の調製
[0242]実施例5aおよび5cのコーティング組成物を、実施例1に記載されている通りに調製した。もしあるならば、シリコーン感圧接着剤の添加の前にKollidon90 F(ポリビニルピロリドン)を添加しながら、混合物をおよそ200rpmからおよそ500rpmでおよそ20分にわたって撹拌した。シリコーン感圧粘着剤の添加の前に、次いで、混合物をおよそ200rpmからおよそ1000rpmでさらにおよそ60分間(実施例5cは、およそ1000rpmからおよそ1500rpmで、さらにおよそ180分間)撹拌したのち、均質の混合物を得た。実施例5bのため、ビーカーに溶媒石油エーテル、bp80〜110℃を充填した。イソブチレン感圧粘着剤を添加しながら、およそ200rpmで撹拌し、続いて、Kollidon90 F(ポリビニルピロリドン)およびアセナピン塩基を添加した。混合物を次いでおよそ200rpmからおよそ1500rpmでおよそ160分間撹拌したのち、均質の混合物を得た。
コーティング組成物のコーティング
[0243]コーティングプロセスについて実施例4を参照されたい。しかしながら、実施例5bおよび5cのコーティングを、およそ10分間およそ室温でおよびおよそ20分間およそ90℃で乾燥させた。該コーティング厚さは、それぞれ110.5g/m2(5a)、85.7g/m2(5b)、および113.5g/m2(5c)のマトリックス層の面積重量を与えた。乾燥フィルムにポリエチレンテレフタレートバッキング層(ベージュに塗られている、23μmの厚さ)を積層することで、アセナピン含有自己粘着層構造が提供された。実施例5bのため、100μmの厚さを有するシリコン処理されたポリエチレンテレフタレート剥離ライナーを使用した。
TTSの調製
[0244]実施例1を参照されたい。」

(カ)要約
「本発明は、治療有効量のアセナピンを含む自己粘着層構造を含むアセナピンの経皮投与のための経皮治療システム(TTS)に関し、前記自己粘着層構造は:A)バッキング層;B)以下を含むアセナピン含有層:1.遊離塩基の形態におけるアセナピン;および2.アセナピン含有層の総重量に基づいて50重量%超の量で、ポリシロキサンおよびポリイソブチレンからなる群から選択されるポリマー;ならびにC)場合により、追加の皮膚接触層を含む。」

イ 甲2に記載された発明
甲2の上記摘記ア(オ)の実施例5bに着目すると、
「ビーカーに溶媒石油エーテルを充填し、イソブチレン感圧粘着剤(Oppanol(商標登録)B10/B100(85:15))を添加しながら撹拌し、続いて、Kollidon90 F(ポリビニルピロリドン)およびアセナピン塩基を添加し、次いで撹拌して、均質の混合物、すなわちコーティング組成物を調整し、
該コーティング組成物を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(剥離ライナーとして機能することができる)上にコーティングし、乾燥させ、乾燥フィルムにポリエチレンテレフタレートバッキング層を積層することで、アセナピン含有自己粘着層構造を提供し、
該アセナピン含有自己粘着層構造から打ち抜きを行って得た、TTS。」の発明(以下「甲2発明1」という。)が記載されているといえる。
また、
「ビーカーに溶媒石油エーテルを充填し、イソブチレン感圧粘着剤(Oppanol(商標登録)B10/B100(85:15))を添加しながら撹拌し、続いて、Kollidon90 F(ポリビニルピロリドン)およびアセナピン塩基を添加し、次いで撹拌して、均質の混合物、すなわちコーティング組成物を調整し、
該コーティング組成物を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(剥離ライナーとして機能することができる)上にコーティングし、乾燥させ、乾燥フィルムにポリエチレンテレフタレートバッキング層を積層することで、アセナピン含有自己粘着層構造を提供し、
該アセナピン含有自己粘着層構造から打ち抜きを行って得た、TTSの製造方法。」の発明(以下「甲2発明2」という。)も記載されているといえる。

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明1とを対比する。
a 甲2発明1の「バッキング層」は、「バッキング」とは裏材を意味するものであることから、本件発明1の「支持体」に相当する。
b 甲2発明1の「OppanolB10/B100」は、上記(1)ア(ア)に記載のとおりポリイソブチレン粘着剤を含むものであることから、「コーティング組成物を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(剥離ライナーとして機能することができる)上にコーティングし、乾燥させ」て形成した層(以下、「アセナピン含有層」という。)は、本件発明1の「粘着剤層」に相当する。
c 甲2発明1の「アセナピン塩基」なる用語の「塩基」とは、「酸と反応して塩を与える物質」を意味し、アセナピンは塩基性化合物であることから遊離形態のアセナピンを意味するものと解される。よって、甲2発明1の「アセナピン塩基」は本件発明1の「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩」に相当する。
d 甲2発明1の「TTS」は、上記(1)ア(カ)のとおり「経皮治療システム」を意味し、さらにその製造方法からみて貼付剤であることは自明であるので、本件発明1の「貼付剤」に相当する。
e 甲2発明1の「アセナピン含有層」は、ポリイソブチレン粘着剤を含むものであり、これは本願発明1の「粘着基剤」に相当することから、「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩」と、「ポリイソブチレンからなる粘着基剤」とを含有する「粘着剤層」である限りにおいて、本件発明1の「粘着剤層」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2発明1とは、
「支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層が、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩と、ポリイソブチレンと、を含有する、貼付剤。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
a 相違点2−1−1:本件発明1は、支持体上に粘着剤層を備えることが特定されているのに対し、甲2発明1はバッキング層と「アセナピン含有層」の上下関係について特定がない点。
b 相違点2−1−2:本件発明1は、粘着剤層がスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンの両方からなるゴム系粘着基剤を含むのに対し、甲2発明1はイソブチレン感圧粘着剤を含む点。
c 相違点2−1−3:本件発明1は、粘着剤層がチオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つと、を含有するのに対し、甲2発明1はそのような特定がない点。

イ 判断
上記相違点2−1−3について、甲2発明1には、「チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つ」を含有していないから、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

次に、本件発明1が、相違点2−1−3について、甲2発明1及び甲2に記載された技術的事項から容易に発明をすることができたかについて検討する。
甲2の段落[0168]には、安定剤が多数列挙され、「メタ重亜硫酸ナトリウム」(ピロ亜硫酸ナトリウムと同義)が例示されているものの、「好ましい安定剤としては、メタ重亜硫酸ナトリウム、脂肪酸のアスコルビルエステル、例えばパルミチン酸アスコルビル、アスコルビン酸、ブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、酢酸トコフェリルおよびリノール酸トコフェリルが挙げられる。好ましい安定剤としては、脂肪酸のアスコルビルエステル、アスコルビン酸、トコフェロール、酢酸トコフェリルおよびリノール酸トコフェリルが挙げられる。特に好ましいのはトコフェロールである。その上、特に好ましいのは、トコフェロールおよびパルミチン酸アスコルビルの組合せである。」(下線は当審で付与した。)と記載され、これら多数の安定剤のうち、「メタ重亜硫酸ナトリウム」を特に選択する動機付けは存在しない。
また、本件明細書の実施例を確認すると、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウムを含む実施例に比べて、これらを含まない比較例は、貼付剤の製造直後及び「60℃、2週間」の保管後においてN−オキシドの生成が増加する結果を示しており、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウムの、貼付剤の製造直後及び「60℃、2週間」の保管後におけるN−オキシドの生成を抑制する効果について確認されている。一方、甲2には、メタ重亜硫酸ナトリウムの当該効果については、何ら記載されていない。
そうすると、相違点2−1−1及び相違点2−1−2について判断するまでもなく、本件発明1は、甲2発明1及び甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
さらに、本件発明1が相違点2−1−3について、甲2発明1及び甲3〜8に記載された発明から容易に発明をすることができたかどうかを確認すると、甲4の段落[0207]には「ある特定の実施形態において、マトリックス層組成物は、メタ重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸およびそのエステル誘導体、ブチルヒドロキシトルエン、トコフェロールおよびそのエステル誘導体、例えば酢酸トコフェリルおよびリノール酸トコフェリルから、好ましくはトコフェロールおよびそのエステル誘導体、ならびにアスコルビン酸およびそのエステル誘導体から選択される安定剤を含み、より好ましくは脂肪酸のアスコルビルエステルおよびトコフェロールから選択され、最も好ましくはパルミチン酸アスコルビルまたはα−トコフェロールである。その上、特に好ましいのは、トコフェロールおよびパルミチン酸アスコルビルの組合せである。マトリックス層組成物が安定剤を含む場合、安定剤の量は、マトリックス層組成物の0.001%から2%である。」(下線は当審で付与した。)(翻訳文は当審で作成。)、甲6の段落[0051]には「[0051]本発明において前記粘着剤層中に配合することが可能な安定化剤としては、用いる薬物、他の添加成分に応じて適宜配合され、特に限定はされないが、酸化防止剤(トコフェロール誘導体、アスコルビン酸誘導体、エリソルビン酸誘導体、ノルジヒドログアヤレチン酸、没食子酸誘導体、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど)、紫外線吸収剤(イミダゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、p−アミノ安息香酸誘導体、アントラニル酸誘導体、サリチル酸誘導体、ケイヒ酸誘導体、ベンゾフェノン誘導体、クマリン酸誘導体、カンファー誘導体など)などが例示される。」とは記載されているものの、いずれの文献も、甲2発明1において「チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つ」を積極的に含有させる動機付けとなる記載はなく、また、本願発明の上記効果を示唆する記載もない。
したがって、本件発明1は、甲2発明1及び甲3〜8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明でもない。さらに、本件発明1は、甲2発明1及び甲3〜8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明でもない。

(3)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲2発明2とを、上記「(2)本件発明1について」「ア 対比」での検討を踏まえて、対比する。
a 甲2発明2の「バッキング層」は、本件発明3の「支持体」に相当する。
b 甲2発明2の「OppanolB10/B100」はポリイソブチレン粘着剤を含むものであることから、アセナピン塩基とOppanolB10/B100を含む「コーティング組成物」は、本件発明3の「粘着剤組成物」に相当する。
c 甲2発明2の「アセナピン塩基」は、本件発明3の「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩」に相当する。
d 甲2発明2の「コーティング」は、本件発明3の「展延」に相当する。
e 甲2発明2の「経皮治療システムの製造方法」は、本件発明3の「貼付剤の製造方法」に相当する。
f 甲2発明2の「コーティング組成物」は、ポリイソブチレン粘着剤を含むものであり、これは本願発明3の「粘着基剤」に相当することから、「ポリイソブチレンからなる」「粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物」である限りにおいて、アセナピン本件発明3の「組成物」に相当する。

そうすると、本件発明3と甲2発明2とは、
「ポリイソブチレンからなる粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物を用いて粘着剤組成物を得ることと、前記粘着剤組成物を展延することと、を含む、貼付剤の製造方法。」
で一致し、以下の点で相違する。
a 相違点2−3−1:本件発明3は、支持体上に粘着剤組成物を展延するのに対し、甲2発明2は剥離ライナー上にコーティングを行っている点。
b 相違点2−3−2:本件発明3は、粘着剤組成物がスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンの両方からなるゴム系粘着基剤を含むのに対し、甲2発明2はイソブチレン感圧粘着剤を含む点。
c 相違点2−3−3:本件発明3は、粘着剤組成物がチオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを添加するのに対し、甲2発明2はそのような特定がない点。

イ 判断
相違点2−3−3は、上記相違点2−1−3と同じであるから、上記「(2)本件発明1について」「イ 判断」で検討したとおり、本件発明3は、甲2に記載された発明とはいえず、また、甲2及び甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないし、甲2発明2及び甲3〜8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明3は甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明でもない。さらに、本件発明3は、甲2発明2及び甲3〜8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明でもない。

(4)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲2発明2とを、上記「(3)本件発明3について」「ア 対比」での検討を踏まえて、対比する。
a 甲2発明2の「アセナピン塩基」は、本件発明5の「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩」に相当する。
b 甲2発明2の「OppanolB10/B100」はポリイソブチレン粘着剤を含むものであり、これは本願発明5の「粘着基剤」に相当することから、甲2発明2の「コーティング組成物」は「ポリイソブチレンからなる」「粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物」である限りにおいて、本件発明5の「組成物」に相当する。

そうすると、本件発明5と甲2発明2とは、
「ポリイソブチレンからなる粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
a 相違点2−5−1:本件発明5は、「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法」に関するものであるのに対し、甲2発明2はそのような特定がない点。
b 相違点2−5−2:本件発明5は、粘着基剤がスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンの両方からなるゴム系粘着基剤を含むのに対し、甲2発明2はイソブチレン感圧粘着剤を含む点。
c 相違点2−5−3:本件発明5は、「組成物に、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを添加することを含む」ことを特定するのに対し、甲2発明2はそのような特定がない点。

イ 判断
相違点2−5−3は、上記相違点2−1−3と同じであるから、上記「(2)本件発明1について」「イ 判断」で検討したとおり、本件発明5は、甲2に記載された発明とはいえず、また、甲2及び甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないし、甲2発明2及び甲3〜8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明5は甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明でもない。さらに、本件発明5は、甲2発明2及び甲3〜8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明でもない。

(5)本件発明2、4及び6について
本件発明2、4及び6は、それぞれ本件発明1、3及び5を引用するものであり、それぞれ本件発明1、3及び5の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)〜(4)と同様の理由により、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明でもない。さらに、本件発明2、4及び6は、甲2発明1及び2並びに甲3〜8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明でもない。

(6)異議申立書における申立人の主張と判断
異議申立書において、申立人は、甲2は、
「自己接着層構造を含むアセナピンの経皮投与のための経皮治療システムであって、前記自己接着層構造は、バッキング層と、
・遊離塩基の形態におけるアセナピン;および
・ポリインブチレンとスチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマーとを含むアセナピン含有層を含み、
アセナピン含有層がさらに安定剤を含み、
安定剤がメタ重亜硫酸ナトリウムであり
安定剤は、アセナピン含有層の総重量に基づいて0.001重量%から2.0重量%で
存在する、前記経皮治療システム。」(「甲2発明」)、
及び、
「ポリイソブチレンとスチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー、アセナピン、及び安定剤としてのメタ重亜硫酸ナトリウムを組み合わせて、コーティング組成物を得ることと、前記コーティング組成物をバッキング層にコーティングすることと、を含む、貼付剤の製造法。」(「甲2−2発明」)、
の発明を記載しているとした上で、それぞれ本件発明1、3及び5と相違しないか、あるいは、本件発明1、3及び5は、甲2に記載されたこれらの発明から当業者が容易に発明をすることができたと主張している。

しかしながら、甲2には、アセナピン含有層やコーティング組成物にメタ重亜硫酸ナトリウムを含有するTTSまたはTTSの製造方法については、具体的な製造例は存在せず、申立人の「甲2発明」及び「甲2−2発明」は、甲2中の複数の記載を恣意的に組合せたものであり、これらを甲2に具体的に記載された発明であるということはできない。
さらに、上記(2)イ、(3)イ及び(4)イにおいて検討したとおり、甲2発明1及び2のアセナピン含有層やコーティング組成物に対して、チオ硫酸塩、亜硫酸塩又はピロ亜硫酸塩を配合することは、甲3〜8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないので、本件特許1〜6は、甲2に記載された発明及び甲3〜8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものでもない。

(7)申立理由5(新規性)及び申立理由6−1(進歩性)のまとめ
以上のとおり、申立理由5(新規性)及び申立理由6−1(進歩性)は理由がない。

6 申立理由6−2(進歩性)について
(1)甲3に記載された事項及び甲3に記載された発明
ア 甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。)

(ア)段落[0029]及び[0032]
「[0029]粘着剤層は、その他の添加剤をさらに含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、粘着付与樹脂、可塑剤、経皮吸収促進剤、安定化剤、充填剤、香料などが挙げられる。」
「[0032]安定化剤としては、例えば、トコフェロールおよびそのエステル誘導体、アスコルビン酸およびそのエステル誘導体、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、2−メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。安定化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。安定化剤としては、アセナピンの分解をより抑制できる点から、ジブチルヒドロキシトルエンが好ましい。
粘着剤層が安定化剤を含有する場合、安定化剤の含有量は、粘着剤層全体の質量を基準として0〜5質量%であることが好ましく、0〜3質量%であることがより好ましい。安定化剤の含有量が5質量%以下であると、吸湿後であっても粘着性が低下しない傾向がある。」

(イ)段落[0040]
「[0040](1)貼付剤の製造
表1に記載の質量比で各成分を混和し、ゴム系粘着剤1を調製した。表2に記載の成分をそれぞれ秤取し、必要に応じて溶剤を加えて混和し、粘着組成物を得た。得られた粘着組成物をポリエステル製の剥離ライナーに塗布し、溶剤を乾燥除去することにより、粘着剤層を形成した。得られた粘着剤層に、ポリエステルフィルム(支持体)を積層し、適宜裁断して、所望の貼付剤を得た。なお、表2中の数字は、質量%を意味する。




イ 甲3に記載された発明
甲3の上記摘記(イ)の実施例1に着目すると、
「SIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体) 70質量比
PIB(ポリイソブチレン) 30質量比
粘着付与樹脂 290質量比
流動パラフィン 40質量比
で各成分を混和し、ゴム系粘着剤1を調製し、
アセナピンマレイン酸塩 4.5質量%
上記ゴム系粘着剤1 82.8質量%
パルミチン酸イソプロピル 10質量%
モノエタノールアミン 2.7質量%
をそれぞれ秤取し、必要に応じて溶剤を加えて混和し、粘着組成物を得て、
得られた粘着組成物をエステル製の剥離ライナーに塗布し、溶剤を乾燥除去することにより、粘着剤層を形成し、
得られた粘着剤層に、ポリエステルフィルム(支持体)を積層し、適宜裁断して、得た貼付剤。」の発明(以下「甲3発明1」という。)が記載されているといえる。
また、
「SIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体) 70質量比
PIB(ポリイソブチレン) 30質量比
粘着付与樹脂 290質量比
流動パラフィン 40質量比
で各成分を混和し、ゴム系粘着剤1を調製し、
アセナピンマレイン酸塩 4.5質量%
上記ゴム系粘着剤1 82.8質量%
パルミチン酸イソプロピル 10質量%
モノエタノールアミン 2.7質量%
をそれぞれ秤取し、必要に応じて溶剤を加えて混和し、粘着組成物を得て、
得られた粘着組成物をエステル製の剥離ライナーに塗布し、溶剤を乾燥除去することにより、粘着剤層を形成し、
得られた粘着剤層に、ポリエステルフィルム(支持体)を積層し、適宜裁断する
貼付剤の製造方法。」の発明(以下「甲3発明2」という。)
も記載されているといえる。

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明1とを対比する。
a 甲3発明1の「アセナピンマレイン酸塩」は、本件発明1の「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩」に相当する。
b 甲3発明1の「ゴム系粘着剤」は、本件発明1の「ゴム系粘着基剤」に相当する。
c 甲3発明1の「粘着剤層」は、SIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)とPIB(ポリイソブチレン)を含むゴム系粘着剤とアセナピンマレイン酸塩を含むものであるので、「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩と、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤」とを含有する「粘着剤層」である限りにおいて、本件発明1の「粘着剤層」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲3発明1とは、
「支持体と粘着剤層を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層が、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩と、スチレン−イソプレン −スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤と、を含有する、貼付剤。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点3−1−1:本件発明1は、支持体上に粘着剤層を備えることが特定されているのに対し、甲3発明1は支持体と粘着剤層の上下関係について記載がない点。
・相違点3−1−2:本件発明1は、粘着剤層がチオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つと、を含有するのに対し、甲3発明1はそのような記載がない点。

イ 判断
上記相違点3−1−2について、甲3発明1及び甲2及び4〜6に記載された技術的事項から容易に発明をすることができたか検討すると、甲3の段落[0029]及び[0032]には粘着剤層に安定化剤を添加してもよいことは記載されているものの、チオ硫酸塩、亜硫酸塩又はピロ亜硫酸塩を添加することについては記載されていない。そして、上記5(2)イで検討したとおり、甲2(段落[0168])、甲4(段落[0207])、甲6(段落[0051])には、貼付剤に用いられる安定化剤としてピロ亜硫酸ナトリウムや亜硫酸ナトリウムとは記載されているものの、いずれの文献も、甲3発明1において「チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つ」を積極的に含有させる動機付けとなる記載はなく、また、本願発明の貼付剤の製造直後及び「60℃、2週間」の保管後におけるN−オキシドの生成を抑制する効果を示唆する記載もない。
したがって、本件発明1は、相違点3−1−1について判断するまでもなく、甲3に記載された発明及び甲2及び4〜6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲3に記載された発明及び甲2及び4〜6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲3発明2とを、上記「(2)本件発明1について」「ア 対比」での検討を踏まえて、対比する。
a 甲3発明2の「アセナピンマレイン酸塩」は、本件発明3の「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩」に相当する。
b 甲3発明2の「ゴム系粘着剤」は、本件発明31の「ゴム系粘着基剤」に相当する。
c 甲3発明2の「粘着組成物」は、アセナピン本件発明3の「組成物」に相当する。
d 甲3発明2の「塗布」は、本件発明3の「展延」に相当する。

そうすると、本件発明3と甲3発明2とは、
「スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物を用いて粘着剤組成物を得ることと、前記粘着剤組成物を展延することと、を含む、貼付剤の製造方法。」
で一致し、以下の点で相違する。
・相違点3−3−1:本件発明3は、支持体上に粘着剤組成物を展延するのに対し、甲3発明2は剥離ライナー上に塗布を行っている点。
・相違点3−3−2:本件発明3は、粘着剤組成物がチオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを添加するのに対し、甲3発明2はそのような特定がない点。

イ 判断
相違点3−3−2は、上記相違点3−1−2と同じであるから、上記「(2)本件発明1について」「イ 判断」で検討したとおり、本件発明3は、甲3及び甲2及び4〜6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明3は、甲3に記載された発明及び甲2及び4〜6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲3発明2とを、上記「(3)本件発明3について」「ア 対比」での検討を踏まえて、対比する。
甲3発明2の「アセナピンマレイン酸塩」は、本件発明5の「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩」に相当する。

そうすると、本件発明5と甲3発明2とは、
「スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンからなるゴム系粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
a 相違点3−5−1:本件発明5は、「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法」に関するものであるのに対し、甲3発明2はそのような特定がない点。
b 相違点3−5−2:本件発明5は、「組成物に、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを添加することを含む」ことを特定するのに対し、甲3発明2はそのような特定がない点。

イ 判断
相違点3−5−2は、上記相違点3−1−2と同じであるから、上記「(2)本件発明1について」「イ 判断」で検討したとおり、本件発明5は、甲3及び甲2及び4〜6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明5は、甲3に記載された発明及び甲2及び4〜6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

(5)本件発明2、4及び6について
本件発明2、4及び6は、それぞれ本件発明1、3及び5を引用するものであり、それぞれ本件発明1、3及び5の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)〜(4)と同様の理由により、甲3に記載された発明及び甲2及び4〜6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

(6)異議申立書における申立人の主張と判断
異議申立書において、申立人は、甲3は、
「支持体と、支持体の片面に積層された粘着剤層と、を備え、
粘着剤層が、アセナピンまたはその薬学的に許容される塩、粘着基剤を含有する、貼付剤であって、粘着基剤は、ゴム系粘着基剤であって、安定化剤を粘着剤層全体の質量を基準として0〜5質量%含み
ゴム系粘着基剤は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体 (SIS)およびポ リイソブチレン (PIB)である、前記貼付剤。」(「甲3発明」)、
及び、
「スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)およびポリイソブチレン(PIB)、アセナピンまたはその薬学的に許容される塩を混和し、安定剤を加えて、粘着組成物を得て、粘着剤層を形成することと、前記粘着層を支持体に積層することと、を含む、貼付剤の製造方法。」(「甲3−2発明」)、
の発明を記載しているとした上で、
本件発明1、3及び5について、粘着剤層に安定化剤を配合することは当業者が普通に試みることに過ぎず、そのような安定化剤として、甲2、4及び6などで広く知られている亜硫酸塩、ピロ亜硫酸塩を用いたことに、格別の創意を要するものでもなく、特定の安定剤を選択した効果も、当業者が予想する程度のものであって、格別なものではない旨、主張し、本件発明1、3及び5は、甲3に記載された発明並びに甲2及び4〜6に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたと主張している。

しかしながら、甲3には、粘着剤層や粘着組成物に安定化剤を含有する貼付剤又は貼付剤の製造方法については、具体的な製造例は存在せず、申立人の「甲3発明」及び「甲3−2発明」は、甲3中の複数の記載を恣意的に組合せたものであり、これらを甲3に具体的に記載された発明であるということはできない。
さらに、上記(2)イ、(3)イ及び(4)イにおいて検討したとおり、甲3発明1及び2の粘着剤層や粘着組成物に対して、チオ硫酸塩、亜硫酸塩又はピロ亜硫酸塩を配合することは、甲2及び4〜6に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないので、本件特許1〜6は、甲3に記載された発明及び甲2及び4〜6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものでもない。

(7)申立理由6−2(進歩性)のまとめ
以上のとおり、申立理由6−2(進歩性)は理由がない。

7 申立理由6−3(進歩性)について
(1)甲4に記載された事項及び甲4に記載された発明
ア 甲4に記載された事項
甲4には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。また、甲4は英語の公報であるので、以下の訳は、当審で作成した。)
(ア)段落[0207]
「[0207]ある特定の実施形態において、マトリックス層組成物は、メタ重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸およびそのエステル誘導体、ブチルヒドロキシトルエン、トコフェロールおよびそのエステル誘導体、例えば酢酸トコフェリルおよびリノール酸トコフェリルから、好ましくはトコフェロールおよびそのエステル誘導体、ならびにアスコルビン酸およびそのエステル誘導体から選択される安定剤を含み、より好ましくは脂肪酸のアスコルビルエステルおよびトコフェロールから選択され、最も好ましくはパルミチン酸アスコルビルまたはα−トコフェロールである。その上、特に好ましいのは、トコフェロールおよびパルミチン酸アスコルビルの組合せである。マトリックス層組成物が安定剤を含む場合、安定剤の量は、マトリックス層組成物の0.001%から2%である。」

(イ)段落[0182]及び[0183]
「[0182]対応する市販製品は、例えば、Bio−PSAs(ポリシロキサン)、Oppanol B10/B100(ポリイソブチレンポリマー、85:15)、JSR−SIS(スチレン−イソプレン−スチレンコポリマー)またはDuro−Tak(商標)(アクリルポリマー、詳細については下記を参照されたい)という商標名下で入手可能である。
[0183]本発明による適当なポリイソブチレンは、Oppanol(登録商標)という商標下で入手可能である。高分子量ポリイソブチレン(B100/B80)および低分子量ポリイソブチレン(B10、B11、B12、B13)の組合せが使用されることがある。低分子量ポリイソブチレン対高分子量ポリイソブチレンの適当な比は、100:1から1:100、好ましくは95:5から40:60、より好ましくは90:10から80:20の範囲である。典型的に、低分子量ポリイソブチレンは、10,000g/molから70,000g/molの粘度平均分子量、および/または10,000g/molから70,000g/molの重量平均分子量を有し、高分子量ポリイソブチレンは、1,000,000g/molから1,200,000g/molの粘度平均分子量、および/または1,400,000g/molから1,600,000g/molの重量平均分子量を有する。ポリイソブチレン組合せのための好ましい例は、85/15または90/10の比におけるB10/B100である。Oppanol(登録商標)B100は、1,110,000の粘度平均分子量Mv、および1,550,000の重量平均分子量Mwを有する。Oppanol(登録商標)B10は、40,000の粘度平均分子量Mv、および36,000の重量平均分子量Mwを有する。ある特定の実施形態において、ポリブテンは、ポリイソブチレンに添加することができる。」

(ウ)段落[0297]
「TTSの調製(全ての実施例に関する)
[0297]個々のシステム(TTS)を次いで、アセナピン含有自己粘着性層構造から打ち抜きを行った。特定の実施形態において、上に記載されている通りのTTSは、活性薬剤がない圧力感受性粘着剤マトリックス層を含む、好ましくは丸い角を有する、より大きい表面積のさらなる自己接着性層を設けることができる。これは、TTSが、それの物理的特性単独に基づいて、皮膚に十分に粘着しない場合および/またはアセナピン含有マトリックス層が、無駄を回避する目的で目立った角を有する(四角または長方形の形状)場合に利点である。TTSを次いで打ち抜きを行い、一次包装材料のパウチ中に密封した。」

(エ)段落[0302]〜[0308]
「〔実施例2A〜D〕
コーティング組成物
[0302]実施例2a〜dのアセナピン含有コーティング組成物の製剤は、下記の表2.1に要約されている。製剤は、表2.1にも示されている通り、重量パーセントに基づいている。
[0303]

コーティング組成物の調製
・・・
[0305]実施例2bのため、ビーカーに溶媒(石油エーテル)を最初に充填し、ポリイソブチレン粘着剤を添加した。ポリビニルピロリドン(Kollidon(登録商標)90 F)を添加しながら、およそ200rpmで撹拌した。アセナピン塩基を添加しながら、最大1500rpmで撹拌したのち、均質な混合物を得た。
コーティング組成物のコーティング、実施例2a〜2c
[0306]結果として得られたアセナピン含有コーティング組成物を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(シリコン処理されている、100μmの厚さ、これは剥離ライナーとして機能することができる)上にコーティングし、およそ10分間室温でおよび20分間60℃で(実施例2aおよび2c)または90℃で(実施例2b)乾燥させた。該コーティング厚さは、それぞれ91.3g/m2(実施例2a)、85.7g/m2(実施例2b)、および90.15g/m2(実施例2c)のマトリックス層の面積重量を与えた。乾燥フィルムにポリエチレンテレフタレートバッキング層(23μmの厚さ)を積層することで、アセナピン含有自己粘着性層構造が提供された。
・・・
TTSの調製
[0308]実施例1を参照されたい。」

(オ)90頁33〜39行
「64.安定剤が、メタ重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸およびそのエステル誘導体、ブチルヒドロキシトルエン、トコフェロールおよびそのエステル誘導体、例えば酢酸トコフェリルおよびリノール酸トコフェリル、同様にトコフェロールおよびパルミチン酸アスコルビルの組合せから、好ましくはトコフェロールおよびそのエステル誘導体ならびにアスコルビン酸およびそのエステル誘導体から選択され、より好ましくは脂肪酸のアスコルビルエステルおよびトコフェロールから選択され、最も好ましくはパルミチン酸アスコルビルもしくはα−トコフェロールまたはその組合せである、
項目62に従った経皮治療システム。」

(カ)要約
「本発明は、治療有効量のアセナピンを含有する自己粘着性層構造を含むアセナピンの経皮投与のための経皮治療システム(TTS)、例えば処置の方法における使用のためのアセナピンTTS、こうしたTTS、同様に処置の方法における使用のためのアセナピンおよびアセナピンを含有する経皮治療システムの製造のプロセス、ならびにアセナピンの経皮投与によってヒト患者を処置する方法に関する。」

イ 甲4に記載された発明
甲4の上記摘記ア(エ)の実施例2bに着目すると、
「ビーカーに溶媒(石油エーテル)を最初に充填し、ポリイソブチレン粘着剤を添加し、ポリビニルピロリドン(Kollidon(登録商標)90F)を添加しながら、撹拌し、アセナピン塩基を添加しながら、撹拌したのち、均質な混合物、すなわちコーティング組成物を調整し、
得られたアセナピン含有コーティング組成物を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(剥離ライナーとして機能することができる)上にコーティングし、乾燥させてマトリックス層を形成し、乾燥フィルムにポリエチレンテレフタレートバッキング層を積層することで、アセナピン含有自己粘着性層構造を提供し、
該アセナピン含有自己粘着性層構造から打ち抜きを行って得た、TTS。」の発明(以下「甲4発明1」という。)が記載されているといえる。
また、
「ビーカーに溶媒(石油エーテル)を最初に充填し、ポリイソブチレン粘着剤を添加し、ポリビニルピロリドン(Kollidon(登録商標)90F)を添加しながら、撹拌し、アセナピン塩基を添加しながら、撹拌したのち、均質な混合物、すなわちコーティング組成物を調整し、
得られたアセナピン含有コーティング組成物を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(剥離ライナーとして機能することができる)上にコーティングし、乾燥させてマトリックス層を形成し、乾燥フィルムにポリエチレンテレフタレートバッキング層を積層することで、アセナピン含有自己粘着性層構造を提供し、
該アセナピン含有自己粘着性層構造から打ち抜きを行って得た、TTSの製造方法。」の発明(以下「甲4発明2」という。)も記載されているといえる。

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲4発明1とを対比する。
a 甲4発明1の「バッキング層」は、「バッキング」とは裏材を意味するものであることから、本件発明1の「支持体」に相当する。
b 甲4発明1の「マトリックス層」はポリイソブチレン粘着剤を含むものでありことから、本件発明1の「粘着剤層」に相当する。
c 甲4発明1の「アセナピン塩基」は遊離形態のアセナピンを意味するので、本件発明1の「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩」に相当する。
d 甲4発明1の「TTS」は、上記(オ)のとおり「経皮治療システム」を意味し、その製造方法からみて貼付剤であることは自明であるので、本件発明1の「貼付剤」に相当する。
e 甲4発明1の「マトリックス層」は、ポリイソブチレン粘着剤を含むものであり、これは本願発明1の「粘着基剤」に相当することから、「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩と、ポリイソブチレンからなる粘着基剤とを含有する」「粘着剤層」である限りにおいて、本件発明1の「粘着剤層」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲4発明1とは、
「支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層が、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩と、ポリイソブチレンと、を含有する、貼付剤。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
a 相違点4−1−1:本件発明1は、支持体上に粘着剤層を備えることが特定されているのに対し、甲4発明1はバッキング層とマトリックス層の上下関係について特定がない点。
b 相違点4−1−2:本件発明1は、粘着剤層がスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンの両方からなるゴム系粘着基剤を含むのに対し、甲4発明1はポリブチレン粘着剤を含む点。
c 相違点4−1−3:本件発明1は、粘着剤層がチオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つと、を含有するのに対し、甲4発明1はそのような特定がない点。

イ 判断
上記相違点4−1−3について、甲4発明1及び甲2、3、5、7及び8に記載された技術的事項から容易に発明をすることができたか検討すると、甲4の段落[0207]には、安定剤が多数列挙され、「メタ重亜硫酸ナトリウム」(ピロ亜硫酸ナトリウムと同義)が例示されているものの、「好ましくはトコフェロールおよびそのエステル誘導体、ならびにアスコルビン酸およびそのエステル誘導体から選択される安定剤を含み、より好ましくは脂肪酸のアスコルビルエステルおよびトコフェロールから選択され、最も好ましくはパルミチン酸アスコルビルまたはα−トコフェロールである。その上、特に好ましいのは、トコフェロールおよびパルミチン酸アスコルビルの組合せである。」と記載され、安定剤のうち、「メタ重亜硫酸ナトリウム」を特に選択する動機付けは存在しない。さらに、甲3、5、7及び8には、チオ硫酸塩、亜硫酸塩又はピロ亜硫酸塩に関する記載は存在しないし、上記5(2)イで検討したとおり、甲2(段落[0168])には、貼付剤に用いられる安定化剤としてメタ重亜硫酸ナトリウムとは記載されているものの、甲4発明1において「チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つ」を積極的に含有させる動機付けとなる記載はなく、また、本願発明の貼付剤の製造直後及び「60℃、2週間」の保管後におけるN−オキシドの生成を抑制する効果を示唆する記載もない。

したがって、本件発明1は、相違点4−1−1及び相違点4−1−2について判断するまでもなく、甲4に記載された発明及び甲2、3、5、7及び8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲4に記載された発明及び甲2、3、5、7及び8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲4発明2とを、上記「(2)本件発明1について」「ア 対比」での検討を踏まえて、対比する。
a 甲4発明2の「バッキング層」は、本件発明3の「支持体」に相当する。
b 甲4発明2の「コーティング組成物」はポリイソブチレン粘着剤を含むものであることから、「コーティング組成物」は、本件発明3の「粘着剤組成物」に相当する
c 甲4発明2の「アセナピン塩基」は、本件発明3の「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩」に相当する。
d 甲4発明2の「コーティング」は、本件発明3の「展延」に相当する。
e 甲4発明2の「TTSの製造方法」は、本件発明3の「貼付剤の製造方法」に相当する。
f 甲4発明2の「コーティング組成物」は、ポリイソブチレン粘着剤を含むものであり、これは本願発明3の「粘着基剤」に相当することから、「ポリイソブチレンからなる粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物」である限りにおいて、アセナピン本件発明3の「組成物」に相当する。

そうすると、本件発明3と甲4発明2とは、
「ポリイソブチレン、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物を用いて粘着剤組成物を得ることと、前記粘着剤組成物を展延することと、を含む、貼付剤の製造方法。」で一致し、以下の点で相違する。
a 相違点4−3−1:本件発明3は、支持体上に粘着剤組成物を展延するのに対し、甲4発明2は剥離ライナー上にコーティングを行っている点。
b 相違点4−3−2:本件発明3は、粘着剤組成物がスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンの両方からなるゴム系粘着基剤を含むのに対し、甲4発明2はポリブチレン粘着剤を含む点。
c 相違点4−3−3:本件発明3は、粘着剤組成物がチオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを添加するのに対し、甲4発明2はそのような特定がない点。

イ 判断
相違点4−3−3は、上記相違点4−1−3と同じであるから、上記「(2)本件発明1について」「イ 判断」で検討したとおり、本件発明3は、甲4に記載された発明及び甲2、3、5、7及び8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明3は、甲4に記載された発明及び甲2、3、5、7及び8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲4発明2とを、上記「(3)本件発明3について」「ア 対比」での検討を踏まえて、対比する。
a 甲4発明2の「アセナピン塩基」は、本件発明5の「アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩」に相当する。
b 甲4発明2の「コーティング組成物」はポリイソブチレン粘着剤を含むものであり、これは本願発明3の「粘着基剤」に相当することから、「ポリイソブチレンからなる粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物」である限りにおいて、本件発明5の「組成物」に相当する。

そうすると、本件発明5と甲4発明2とは、
「ポリイソブチレンからなる粘着基剤、及び、アセナピン又はその薬学的に許容可能な塩を含有する組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
a 相違点4−5−1:本件発明5は、「アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法」に関するものであるのに対し、甲4発明2はそのような特定がない点。
b 相違点4−5−2:本件発明5は、粘着基剤がスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体及びポリイソブチレンの両方からなるゴム系粘着基剤を含むのに対し、甲4発明2はポリブチレン粘着剤を含む点。
c 相違点4−5−3:本件発明5は、「組成物に、チオ硫酸塩、亜硫酸塩及びピロ亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1つを添加することを含む」ことを特定するのに対し、甲4発明2はそのような特定がない点。

イ 判断
相違点4−5−3は、上記相違点4−1−3と同じであるから、上記「(2)本件発明1について」「イ 判断」で検討したとおり、本件発明5は、甲4に記載された発明及び甲2、3、5、7及び8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明5は、甲4に記載された発明及び甲2、3、5、7及び8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

(5)本件発明2、4及び6について
本件発明2、4及び6は、それぞれ本件発明1、3及び5を引用するものであり、それぞれ本件発明1、3及び5の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)〜(4)と同様の理由により、甲4に記載された発明及び甲2、3、5、7及び8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものともいえない。

(6)異議申立書における申立人の主張と判断
異議申立書において、申立人は、甲4には、
「自己接着性層構造を含むアセナピンの経皮投与のための経皮治療システムであって、前記自己接着性層構造は:バッキング層、以下を含むマトリックス層組成物からなるアセナピン含有マトリックス層:
1.アセナピン;および
2.アクリルポリマーから選択されるポリマー;
を含み、
マトリックス層組成物が、安定剤を含み、
安定剤がメタ重亜硫酸ナトリウムであり、その量は、マトリックス層組成物の0.001%から2%である、前記経皮治療システム。」(「甲4発明」)、
及び、
「アセナピン、アクリルポリマーから選択されるポリマー、メタ重亜硫酸ナトリウムとを組み合わせて、コーティング組成物を得ることと、前記コーティング組成物をバッキング層にコーティングすることと、を含む、マトリックス層の製造方法。」(「甲4−2発明」)、
の発明を記載しているとした上で、本件発明1、3、5は、甲4に記載されたこれらの発明及び甲2、3、5、7及び8に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたと主張している。

しかしながら、甲4にはマトリックス層やコーティング組成物にメタ重亜硫酸ナトリウムを含有するTTSまたはTTSの製造方法については、具体的な製造例は存在せず、申立人の「甲4発明」及び「甲4−2発明」の認定は、甲4中の複数の記載を恣意的に組合せたものであり、これらを甲4に具体的に記載された発明であるということはできない。
さらに、上記(2)イ、(3)イ及び(4)イにおいて検討したとおり、甲4発明1及び2のマトリックス層やコーティング組成物に対して、チオ硫酸塩、亜硫酸塩又はピロ亜硫酸塩を配合することは、甲2、3、5、7及び8に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえないので、本件特許1〜6は、甲4に記載された発明及び甲2、3、5、7及び8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものでもない。

よって、本件発明1〜6は、甲4に記載された発明並びに甲2、3、5、7及び8に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(7)申立理由6−3(進歩性)のまとめ
以上のとおり、申立理由6−3(進歩性)は理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、申立人が主張する異議申立ての理由1〜6及び証拠によっては、本件発明1〜6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-09-27 
出願番号 P2021-510472
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 杉江 渉
特許庁審判官 田中 耕一郎
磯部 洋一郎
登録日 2022-11-02 
登録番号 7170124
権利者 久光製薬株式会社
発明の名称 アセナピン−N−オキシドの生成を抑制する方法  
代理人 清水 義憲  
代理人 木元 克輔  
代理人 長谷川 芳樹  

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