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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B32B |
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管理番号 | 1402795 |
総通号数 | 22 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-10-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-05-12 |
確定日 | 2023-09-14 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7173045号発明「積層フィルム、離型フィルムおよび積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7173045号の請求項1〜11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7173045号の請求項1〜11に係る特許についての出願は、平成30年12月10日(優先権主張 平成29年12月11日、平成30年9月28日、平成30年10月5日)を国際出願日とする出願であって、令和4年11月8日にその特許権の設定登録がされ、令和4年11月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年5月12日に特許異議申立人信越化学工業株式会社(以下「申立人」という。)により、本件特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 特許第7173045号の請求項1〜11に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1〜11の記載は、次のとおりである。 【請求項1】 高分子フィルムの少なくとも片面にA層及びB層が、この順に積層されてなる積層フィルムであって、 前記A層及びB層の両層がフッ素化シリコーン樹脂を含有し、A層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が50ppm以上、900,000ppm未満であり、かつB層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が3,000ppm以上、900,000ppm以下であり、かつ、B層のフッ素原子含有割合がA層のフッ素原子含有割合より多いことを特徴とする積層フィルム。 【請求項2】 前記B層中のフッ素原子の含有割合が、前記A層中のフッ素原子の含有割合に対して1.1倍以上である請求項1に記載の積層フィルム。 【請求項3】 高分子フィルムの少なくとも片面にA層及びB層が、この順に積層されてなる積層フィルムであって、 前記A層及びB層の両層がフッ素化シリコーン樹脂を含有し、A層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が50ppm以上、900,000ppm未満であり、かつB層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が3,000ppm以上、900,000ppm以下であり、 下記の方法で測定した際の常態剥離力が100mN/cm以下であることを特徴とする積層フィルム。 <常態剥離力の測定> 積層フィルムのB層表面にシリコーン粘着剤付きテープ(スリーエム・ジャパン社製、No5413テープ、50mm幅)を貼り合わせ、剥離速度が0.3m/minの条件で180°剥離試験を行う。 【請求項4】 前記高分子フィルムが二軸延伸ポリエステルフィルムである請求項1〜3の何れかに記載の積層フィルム。 【請求項5】 A層の膜厚は50nm以上1μm以下であり、B層の膜厚は5nm以上1μm以下である請求項1〜4の何れかに記載の積層フィルム。 【請求項6】 前記A層は、非フッ素化シリコーン樹脂及びフッ素化シリコーン樹脂を含有する請求項1〜5の何れかに記載の積層フィルム。 【請求項7】 前記A層及びB層が、硬化性フッ素化シリコーン樹脂を硬化させて形成された層である請求項1〜6の何れかに記載の積層フィルム。 【請求項8】 飛行時間二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)を用いて測定したときのフッ素イオン(F−)含有割合とメチルシロキサンイオン(CH3SiO2−)含有割合との比([F−]/[CH3SiO2−])が、A層では1以上1,000以下、B層では3以上5,000以下であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の積層フィルム。 【請求項9】 請求項1〜8の何れかに記載の積層フィルムを用いた離型フィルム。 【請求項10】 請求項9に記載の離型フィルムと粘着剤層とを積層させた積層体。 【請求項11】 前記A層と接しない側のB層の面に粘着剤層が設けられてなる請求項10に記載の積層体。 第3 申立理由の概要 申立人は、以下に示す甲第1号証〜甲第8号証(以下「甲1」等という。)を提出し、本件発明1〜11に係る特許は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。 1 申立理由1(進歩性) (1)甲1を主引例とした進歩性 本件発明1〜11は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)甲2〜甲5を主引例とした進歩性 本件発明1〜11は、甲2〜甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 申立理由2(明確性) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (1) 請求項1における「前記A層及びB層の両層がフッ素化シリコーン樹脂を含有し、A層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が50ppm以上、900,000ppm未満であり、かつB層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が3,000ppm以上、900,000ppm以下であり、かつ、B層のフッ素原子含有割合がA層のフッ素原子含有割合より多い」の記載について、A層とB層との界面が明確でない態様においてA層、B層の各層のフッ素原子含有割合を特定することができず、本件発明1〜11は明確でない。 (2) 請求項1の「高分子フィルムの少なくとも片面にA層及びB層が、この順に積層されてなる」の記載について、A層とB層との界面が明確でない態様も含まれるのか否かが不明確であるから、本件発明1〜11は明確でない。 3 申立理由3(実施可能要件) 発明の詳細な説明には、A層とB層との界面が明確でない態様の積層フィルムの持つ傾斜構造がどのようなフッ素濃度分布を持っているのかについて具体例が示されていないから、本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 4 申立理由4(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (1)A層とB層との界面が明確でない態様の積層フィルム(比較例3)については、常態剥離力の評価が行われておらず、本件発明の課題を解決できることが証明されていない。 (2)請求項1に記載されたフッ素原子含有割合の数値範囲、請求項2に記載されたフッ素原子の含有割合の比の数値範囲は、実施例に比べて著しく広いから、本件発明1〜11は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 [引用文献等一覧] 甲1:特表2007−502345号公報 甲2:特表2013−510921号公報 甲3:特開2015−147935号公報 甲4:特開平10−195388号公報 甲5:特表2017−505361号公報 甲6:特開平5−77364号公報 甲7:特開2011−201035号公報 甲8:特開2005−22382号公報 第4 当審の判断 1 明確性について 本件発明1及び3は、「高分子フィルムの少なくとも片面にA層及びB層が、この順に積層されてなる」ものであり、「A層」と「B層」を特定していることから、「A層」と「B層」とは別異のものとして区別可能なものと解すべきである。 本件明細書には、「一回の積層工程において当該層中で厚さ方向にフッ素原子含有割合が傾斜構造を有する(傾斜した組成となる)ように工夫することにより、実質的に上記のA層とB層との積層構成に等しい構造をとり得る場合がある。例えば、フッ素原子を含む樹脂とフッ素原子を含まない樹脂とを溶媒に希釈させて塗布液とし、高分子フィルムの少なくとも片面に当該塗布液を塗布して、乾燥させることによってフッ素原子を含む樹脂が層の表面に濃縮し、厚さ方向に傾斜構造をもたせた層とする方法が挙げられる。・・・また必ずしも両層の界面が明確でなくてもよく、一つの層中の表面側がB層,高分子フィルム側がA層となっていて,実質的に同じ構成となっていれば本発明に包含される。」(【0037】)と記載されている。 しかしながら、「界面が明確」でない「一つの層」であれば、「層中で厚さ方向にフッ素原子含有割合が傾斜構造を有」していたとしても、「A層」と「B層」を特定することができないから、これらが「積層されて」いると解することはできない。 したがって、本件発明1〜11は明確である。 2 サポート要件について (1)発明の詳細な記載 本件発明が解決しようとする課題は、「シリコーン粘着剤などの強粘着性を有する粘着層に対して優れた剥離性を有する離型フィルムを提供すること」(【0005】)である(以下「本件課題」という。)。 本件課題を解決する手段に関して、発明の詳細な説明には次の記載がある(下線は当審で付した。)。 「【課題を解決するための手段】 【0006】 上記の課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、高分子フィルムの少なくとも片面にA層とB層がこの順に積層された積層フィルムの、各々の層にフッ素原子を含有させるとともに、この両層のフッ素原子含有割合を制御することにより、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成した。 即ち、本発明の要旨は、高分子フィルムの少なくとも片面にA層及びB層が、この順に積層されてなる積層フィルムであって、前記A層及びB層の両層がフッ素原子を含有し、かつB層のフッ素原子含有割合がA層のフッ素原子含有割合より多いことを特徴とする積層フィルムである。 【0007】 また、本発明の要旨は、高分子フィルムの少なくとも片面にA層及びB層が、この順に積層されてなる積層フィルムであって、前記B層がフッ素原子を含有し、下記の方法で測定した際の常態剥離力が100mN/cm以下であることを特徴とする積層フィルムである。」 「【0017】 2.A層(アンダーコート層) 本発明では、高分子フィルムの少なくとも片面にA層(アンダーコート層)を備える。 <A層の構成> A層は通常、フッ素原子を含有する。これにより、A層と後述のB層との密着性を有するだけでなく、離型フィルムとして用いた場合にB層と被着体である粘着剤層との軽剥離性が発現され、被着体を剥がれやすくすることができる。 ・・・ さらに、離型フィルムとして用いる際、A層の上にB層を積層することによって、被着体に対する剥離力が小さくなり、軽剥離性を有することができる。本発明者によれば、積層フィルムにA層が積層されていない場合、積層フィルムの剥離時に剥離方向に被着体(粘着剤)も追随されるため、被着体と剥離するためにはより大きな力が必要となり、剥離しにくいこと(重剥離)が推測された(図2(a))。一方、本発明の通り、積層フィルムにフッ素原子を含有するA層が積層されている場合、A層が相対的に柔軟性を有するため、剥離時にA層がクッションのように働き、被着体の変形が抑制されるため、より小さな力で被着体と剥離することができ、剥離しやすくなった(軽剥離)ものと推測される(図2(b))。 【0018】 <A層のフッ素原子含有割合> A層はフッ素原子を含有する材料を含み、そのフッ素原子含有割合(原子数分率)は、密着性や軽剥離性の観点から、A層全体として、50ppm以上が好ましく、500ppm以上がより好ましく、1,000ppm以上がさらに好ましく、50,000ppm以上が特に好ましい。一方上限は特に限定されないが、900,000ppm未満が好ましく、800,000ppm以下がより好ましく、700,000ppm以下がさらに好ましい。 ・・・ 【0019】 A層のフッ素原子含有割合を上記範囲とすることにより、同様にフッ素原子を含むB層(離型層)を、A層上に塗布法で設ける際に均一に塗布できるとともに、塗布や積層後のA層とB層との密着性も高くすることができる。 ・・・ 【0021】 <フッ素原子を含む樹脂> 本発明に用いるフッ素原子を含む樹脂としては、樹脂骨格の側鎖部分にフッ素原子を含む樹脂が挙げられる。フッ素原子を含む樹脂の具体例としては、フッ素化シリコーン樹脂の他に、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素炭化水素樹脂、その他のフッ素化処理された各種樹脂等が挙げられるが、これらの中でも、剥離性の観点からフッ素化シリコーン樹脂が好ましい。」 「【0032】 3.B層(離型層) <B層の構成> B層(離型層)を形成する材料としては、前述のA層(アンダーコート層)に記載と同様のフッ素原子を含む樹脂を同様に用いることができる。中でも、被着体との離型性の観点から、フッ素化シリコーン樹脂が好ましく、特に、硬化性フッ素化シリコーン樹脂が好ましい。硬化性フッ素化シリコーン樹脂をB層(離型層)に用いることで、シリコーン粘着剤層に対して安定した剥離性を持つ離型フィルムを得ることができる。 ・・・ 【0035】 <B層のフッ素原子含有割合> 本発明の積層フィルムは、A層(アンダーコート層)の上にB層(離型層)が形成されている。このB層の材料として好適なものは、前記A層の説明に記載したものと同様であるが、密着性や軽剥離性の観点から、B層に含まれる単位体積当たりのフッ素原子含有割合はA層より多く含まれていることが必要である。 【0036】 本発明においては、SIMS法などによって測定されるB層中に含まれるフッ素原子含有割合(原子数分率)の下限は、3,000ppm以上であることが好ましく、5,000ppm以上がより好ましく、10,000ppm以上がさらに好ましく、20,000ppm以上が特に好ましい。一方上限は、特に限定されないが、900,000ppm以下が好ましく、800,000ppm以下がより好ましく、700,000ppm以下が特に好ましい。 ・・・」 「【0047】 5.本発明の積層フィルムの物性 <常態剥離力> 本発明の積層フィルムの常態剥離力は、100mN/cm以下であるのが好ましい。 積層フィルムを離型フィルムとして用いる際、常態剥離力が低いほど、粘着剤層との剥離に必要な力が少なくて済む。そのため、粘着剤層が積層された積層体から離型フィルムを剥離し、粘着剤層を各種部材に貼着するような生産工程における剥離の失敗、粘着剤層の変形などの不具合を抑制することができる。中でも、本発明の積層フィルムは、シリコーン粘着剤などの強粘着性を有する粘着層であっても、上記不具合は抑制され、低い剥離性を有することができる。また、離型フィルムとして、粘着剤層の両面に離型フィルムを備える積層体において、意図しない側の離型フィルムが剥がれてしまう現象を防止することが可能である。 かかる観点から、常態剥離力は70mN/cm以下であるのが好ましく、中でも40mN/cm以下であるのがさらに好ましく、35mN/cm以下であるのが特に好ましく、30mN/cm以下であるのが最も好ましい。一方、下限は特に限定されないが、積層フィルムと粘着剤層とを積層させた積層体の保存安定性の観点から、1mN/cm以上が好ましく、3mN/cm以上がより好ましい。」 (2)判断 ア 本件発明1について 本件発明1は、「高分子フィルムの少なくとも片面にA層及びB層が、この順に積層されてなる積層フィルムであって」、「B層のフッ素原子含有割合がA層のフッ素原子含有割合より多いこと」を発明特定事項としており、B層のフッ素原子含有割合がA層のフッ素原子含有割合より多いことによって、「被着体に対する剥離力が小さくなり、軽剥離性を有する」ものであるから、上記(1)に示した発明の詳細な説明の記載を総合すると、当該発明特定事項により、本件課題を解決できることが当業者であれば認識することができるといえる。 イ 本件発明3について 本件発明3は、「高分子フィルムの少なくとも片面にA層及びB層が、この順に積層されてなる積層フィルムであって」、「常態剥離力が100mN/cm以下であること」を発明特定事項としており、常態剥離力が100mN/cm以下であることによって、「粘着剤層が積層された積層体から離型フィルムを剥離し、粘着剤層を各種部材に貼着するような生産工程における剥離の失敗、粘着剤層の変形などの不具合を抑制することができる」ものであるから、上記(1)に示した発明の詳細な説明の記載を総合すると、当該発明特定事項により、本件課題を解決できることが当業者であれば認識することができるといえる。 ウ 本件発明2、4〜11について 本件発明2、4〜11は、本件発明1又は3の発明特定事項を含むものであるから、上記ア、イと同様、本件課題を解決できることが当業者であれば認識することができるといえる。 (3)申立人の主張について ア 上記第3の3(1)の主張について 上記1で示したとおり、「A層」と「B層」とは別異のものとして区別可能なものであるから、申立人の主張は採用できない。 イ 上記第3の3(2)の主張について 上記(2)のとおり、本件発明は、本件課題を解決できることが当業者であれば認識することができるものであり、申立人の主張は採用できない。 (4)小括 したがって、本件発明1〜11は、いずれも、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものである。 3 実施可能要件について 申立人は、A層とB層との界面が明確でない態様の積層フィルムについて、実施可能要件違反である旨主張しているが、上記1で示したとおり、「A層」と「B層」とは別異のものとして区別可能なものであるから、申立人の主張は採用できない。 発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 4 甲1を主引例とした進歩性について (1)甲1に記載された発明 甲1には、実施例1(【0149】、【0151】、【0158】、【0159】)に記載された組成物を、「基材に塗布」(【0106】)して硬化させたものであって、スポットAにおいて分析したもの(【0159】)に着目すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「1,800〜2,400cPの粘度を有する58.37%のジメチルビニルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン;390cPの粘度及び1%のビニル含量を有する6.6%ジメチルヘキセニルシロキシ末端、ジメチルシロキサン/メチルヘキセニルシロキサン;27.34%の沈降シリカ充填剤(Degussa)、5μmの平均粒子直径を有する1.89%のジルコン、ケイ酸ジルコン充填剤、0.38%の触媒(98%ジメチルビニルシロキシ末端ジメチルシロキサン及び2%の1,3−ジエテニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンとプラチナの錯体の混合物。上記混合物は0.88%の白金含量を有する);3.85%のヘキサメチルジシラザン;並びに1.57%の脱イオン水を含有した比較例1基剤(【0149】)50.0gに、1%ビニル及び1,000cStの粘度を有する2.30gのジメチルビニル末端ポリ(メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシロキサン)を添加し混合して、フルオルガノシリコーンが添加される実施例1基剤とし(【0151】)、 1,800〜2,400cPの粘度を有する27.40%のジメチル、ビニルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン;67.00%の鎖延長剤(86%水素末端ポリジメチルシロキサン、7%オクタメチルシクロテトラシロキサン、4%デカメチルシクロペンタシロキサン及び3%ジメチルシクロシロキサン(1分子当たり6又はそれ以上のケイ素原子を有する)の混合物である。上記混合物は9〜13cStの粘度を有する);平均で1分子当たり3のジメチルシロキサン単位及び1分子当たり5のメチル水素シロキサン単位を有し、0.8%のケイ素結合水素原子を含有する1.60%のトリメチルシロキシ末端ポリ(ジメチルシロキサン/メチル水素シロキサン);1.50%の混合物(1分子当たり4〜5個のケイ素原子を有するメチルビニルシクロシロキサンを含有する);並びに2.50%のグリーン酸化クロム顔料(Harcros G−6099)を含有する比較例1硬化剤(【0150】)5.0gに、平均で1分子当たり28のメチル水素シロキサン単位及び1分子当たり12のメチル−6,6,6,5,5,4,4,3,3−ノナフルオロヘキシルシロキサン単位を有し、35cStの粘度を有する0.19gのトリメチルシロキシ末端ポリ(メチル水素シロキサン/メチル−6,6,6,5,5,4,4,3,3−ノナフルオロヘキシルシロキサン)を添加し混合して実施例1硬化剤とし(【0151】)、 実施例1基剤及び実施例1硬化剤を混合した組成物を、基材に塗布し(【0106】)、硬化させた物であって、 自由表面(上部)においてF(フッ素)元素が5.3原子パーセントで、バルク(中間)においてF(フッ素)元素が1.2原子パーセントである(【0138】、【0159】)、物。」 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「基材」と本件発明1の「高分子フィルム」とは、「基材」の限りで一致する。 甲1発明の「物」と本件発明1の「積層フィルム」とは、「積層物」の限りで一致する。 甲1発明において、「実施例1基剤及び実施例1硬化剤を混合した組成物」を「硬化させ」たフルオルガノシリコーン(【0151】)は「フッ素化シリコーン樹脂」であるから、甲1発明の「1,800〜2,400cPの粘度を有する58.37%のジメチルビニルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン;390cPの粘度及び1%のビニル含量を有する6.6%ジメチルヘキセニルシロキシ末端、ジメチルシロキサン/メチルヘキセニルシロキサン;27.34%の沈降シリカ充填剤(Degussa)、5μmの平均粒子直径を有する1.89%のジルコン、ケイ酸ジルコン充填剤、0.38%の触媒(98%ジメチルビニルシロキシ末端ジメチルシロキサン及び2%の1,3−ジエテニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンとプラチナの錯体の混合物。上記混合物は0.88%の白金含量を有する);3.85%のヘキサメチルジシラザン;並びに1.57%の脱イオン水を含有した比較例1基剤50.0gに、1%ビニル及び1,000cStの粘度を有する2.30gのジメチルビニル末端ポリ(メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルシロキサン)を添加し混合して実施例1基剤とし、1,800〜2,400cPの粘度を有する27.40%のジメチル、ビニルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン;67.00%の鎖延長剤(86%水素末端ポリジメチルシロキサン、7%オクタメチルシクロテトラシロキサン、4%デカメチルシクロペンタシロキサン及び3%ジメチルシクロシロキサン(1分子当たり6又はそれ以上のケイ素原子を有する)の混合物である。上記混合物は9〜13cStの粘度を有する);平均で1分子当たり3のジメチルシロキサン単位及び1分子当たり5のメチル水素シロキサン単位を有し、0.8%のケイ素結合水素原子を含有する1.60%のトリメチルシロキシ末端ポリ(ジメチルシロキサン/メチル水素シロキサン);1.50%の混合物(1分子当たり4〜5個のケイ素原子を有するメチルビニルシクロシロキサンを含有する);並びに2.50%のグリーン酸化クロム顔料(Harcros G−6099)を含有する比較例1硬化剤5.0gに、平均で1分子当たり28のメチル水素シロキサン単位及び1分子当たり12のメチル−6,6,6,5,5,4,4,3,3−ノナフルオロヘキシルシロキサン単位を有し、35cStの粘度を有する0.19gのトリメチルシロキシ末端ポリ(メチル水素シロキサン/メチル−6,6,6,5,5,4,4,3,3−ノナフルオロヘキシルシロキサン)を添加し混合して実施例1硬化剤とし、実施例1基剤及び実施例1硬化剤を混合した組成物を、基材に塗布し、硬化させ」、「自由表面(上部)においてF(フッ素)元素が5.3原子パーセントで、バルク(中間)においてF(フッ素)元素が1.2原子パーセントである」こと(以下「甲1積層構造」という。)と、本件発明1の「高分子フィルムの少なくとも片面にA層及びB層が、この順に積層されてなる積層フィルムであって、前記A層及びB層の両層がフッ素化シリコーン樹脂を含有し、A層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が50ppm以上、900,000ppm未満であり、かつB層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が3,000ppm以上、900,000ppm以下であり、かつ、B層のフッ素原子含有割合がA層のフッ素原子含有割合より多い」こととは、「基材の少なくとも片面に層が、積層されてなる積層物であって、層が、フッ素化シリコーン樹脂を含有する」ことの限りで一致する。 そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点1] 基材の少なくとも片面に層が、積層されてなる積層物であって、 層が、フッ素化シリコーン樹脂を含有する、積層物。 [相違点1−1] 「基材」に関して、本件発明1は「高分子フィルム」であるのに対して、甲1発明は「基材」である点。 [相違点1−2] 「積層物」に関して、本件発明1は「積層フィルム」であるのに対して、甲1発明は「物」である点。 [相違点1−3] 「基材の少なくとも片面に層が、積層されてなる積層物であって、層が、フッ素化シリコーン樹脂を含有する」ことに関して、本件発明1は、「高分子フィルムの少なくとも片面にA層及びB層が、この順に積層されてなる積層フィルムであって、前記A層及びB層の両層がフッ素化シリコーン樹脂を含有し、A層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が50ppm以上、900,000ppm未満であり、かつB層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が3,000ppm以上、900,000ppm以下であり、かつ、B層のフッ素原子含有割合がA層のフッ素原子含有割合より多い」のに対して、甲1発明は、甲1積層構造である点。 イ 判断 事案に鑑み、相違点1−3について検討する。 甲1発明の「組成物」を硬化させた層は、自由表面(上部)とバルク(中間)とでフッ素元素の原子パーセントが異なるものの、層構成としては一層である。 ここで、A層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が50ppm以上、900,000ppm未満であり、かつB層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が3,000ppm以上、900,000ppm以下であり、かつ、B層のフッ素原子含有割合がA層のフッ素原子含有割合より多くなるように、高分子フィルムにA層及びB層を積層させることは、甲1や他の証拠には記載も示唆もされていない。 したがって、甲1発明において、相違点1−3に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明3について ア 対比 本件発明3と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点2] 基材の少なくとも片面に層が、積層されてなる積層物であって、 層が、フッ素化シリコーン樹脂を含有する、積層物。 [相違点2−1] 「基材」に関して、本件発明3は「高分子フィルム」であるのに対して、甲1発明は「基材」である点。 [相違点2−2] 「積層物」に関して、本件発明3は「積層フィルム」であるのに対して、甲1発明は「物」である点。 [相違点2−3] 「基材の少なくとも片面に層が、積層されてなる積層物であって、層が、フッ素化シリコーン樹脂を含有する」ことに関して、本件発明3は、「高分子フィルムの少なくとも片面にA層及びB層が、この順に積層されてなる積層フィルムであって、前記A層及びB層の両層がフッ素化シリコーン樹脂を含有し、A層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が50ppm以上、900,000ppm未満であり、かつB層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が3,000ppm以上、900,000ppm以下であり」、「<常態剥離力の測定>積層フィルムのB層表面にシリコーン粘着剤付きテープ(スリーエム・ジャパン社製、No5413テープ、50mm幅)を貼り合わせ、剥離速度が0.3m/minの条件で180°剥離試験を行う。」の「方法で測定した際の常態剥離力が100mN/cm以下である」のに対して、甲1発明は、甲1積層構造である点。 イ 判断 事案に鑑み、相違点2−3について検討する。 甲1発明の「組成物」を硬化させた層は、自由表面(上部)とバルク(中間)とでフッ素元素の原子パーセントが異なるものの、層構成としては一層である。 ここで、A層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が50ppm以上、900,000ppm未満であり、かつB層のフッ素原子含有割合(原子数分率)が3,000ppm以上、900,000ppm以下であり、かつ、常態剥離力が100mN/cm以下であるように、高分子フィルムにA層及びB層を積層させることは、甲1や他の証拠には記載も示唆もされていない。 したがって、甲1発明において、相違点2−3に係る本件発明3の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明2、4〜11について 本件発明2、4〜11は、本件発明1又は3の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)イ又は(3)イと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 5 甲2〜甲5を主引例とした進歩性について 甲2に記載された発明(【請求項1】、【請求項13】、【請求項14】、【0064】〜【0070】)、甲3に記載された発明(【請求項1】、【請求項13】、【請求項14】、【0064】〜【0070】)、甲4に記載された発明(【0001】、【0071】、【0076】〜【0081】)、甲5に記載された発明(【請求項14】、【請求項15】、【0108】、【0113】、【0124】)は、いずれも、上記相違点1−3に係る本件発明1の構成、及び上記相違点2−3に係る本件発明3の構成を有していない点で、本件発明1及び本件発明3と相違し、この相違点については、上記4(2)イ及び(3)イで説示したとおりである。 よって、本件発明1及び3、並びに本件発明1又は3の発明特定事項を全て含む本件発明2、4〜11は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第5 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜11に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1〜11に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-09-06 |
出願番号 | P2019-559616 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B32B)
P 1 651・ 536- Y (B32B) P 1 651・ 537- Y (B32B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
藤原 直欣 |
特許庁審判官 |
中野 裕之 藤井 眞吾 |
登録日 | 2022-11-08 |
登録番号 | 7173045 |
権利者 | 三菱ケミカル株式会社 |
発明の名称 | 積層フィルム、離型フィルムおよび積層体 |
代理人 | 大塚 徹 |
代理人 | 好宮 幹夫 |
代理人 | 小林 俊弘 |
代理人 | 弁理士法人特許事務所サイクス |