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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1402819
総通号数 22 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-07-14 
確定日 2023-10-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第7207033号発明「燃料電池システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7207033号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第7207033号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成31年3月13日に出願され、令和5年1月10日にその特許権の設定登録がされ、同月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年7月14日に特許異議申立人小山恵(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがされた。

2 本件発明
特許第7207033号の請求項1ないし5の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
燃料ガスと酸化剤ガスとに基づいて発電可能な燃料電池を備え、管理サーバと通信可能に構成された燃料電池システムであって、
前記管理サーバから停止指示を受信した場合、通常停止指示であれば前記燃料電池を作動状態よりも温度を下げて停止させる通常停止処理を行い、強制停止指示であれば前記通常停止処理よりも高い温度で前記燃料電池を停止させる強制停止処理を行うように停止制御を実行し、前記通常停止処理による停止後は所定の低温状態からコールドスタートにより前記燃料電池を起動させ、前記強制停止処理による停止後は前記コールドスタートよりも高温状態からホットスタートにより前記燃料電池を起動可能な起動制御を実行する制御手段を備える
燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記制御手段は、前記強制停止処理による停止後に前記起動制御を実行する際、前記燃料電池の温度が所定温度以上の場合に前記ホットスタートにより前記燃料電池を起動させ、前記燃料電池の温度が前記所定温度未満の場合に前記コールドスタートにより前記燃料電池を起動させる
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池システムであって、
前記制御手段は、前記管理サーバから通信により前記燃料電池システムの更新用のデータを受信可能であり、前記停止指示に基づいて前記燃料電池の作動を停止させると前記更新用のデータに基づく更新処理を実行する
燃料電池システム。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池システムであって、
前記制御手段は、前記更新処理が完了すると前記管理サーバに更新通知を送信し、前記更新通知を受けた前記管理サーバから起動指示を受信すると前記起動制御を実行する
燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池システムであって、
前記制御手段は、前記更新通知を送信してから所定時間が経過した場合には、前記起動指示の受信を待たずに前記起動制御を実行する
燃料電池システム。」

3 特許異議申立て理由の概要
令和5年7月14日に申立人より申立てられた特許異議の申立ての理由は、概略次のとおりである。
(1)本件発明1は、甲第1号証(以下、「甲1」といい、他の証拠についても同様とする。)に記載された発明及び甲2ないし甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)本件発明2は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)本件発明3は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(4)本件発明4は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(5)本件発明5は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲1ないし甲7は、次のとおりである。
甲1:特開2013−206857号公報
甲2:入江弘毅 外5名 「SOFC−MGTハイブリッドシステムの市場導入に向けた取り組みについて」 三菱重工技報 Vol.54 No.3 2017年 86ページないし89ページ
甲3:特開2018−28988号公報
甲4:特開2017−10824号公報
甲5:特開2007−141787号公報
甲6:特開2005−293281号公報
甲7:特開2018−139092号公報

4 文献の記載
(1)甲1
ア 甲1には、次の事項が記載されている(下線は、理解のため当審で付与した。以下同様。)。
(ア)「【請求項1】
水素含有ガスと酸化剤含有ガスとを反応させて発電する複数の固体酸化物形燃料電池セルの組立体である燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックを取り囲み、その内部で前記燃料電池スタックでの余剰の水素含有ガスを燃焼させて前記燃料電池スタックを高温状態に維持するモジュール筐体と、
を含んで構成される、燃料電池システムであって、
前記モジュール筐体内のガスを吸引・排出して前記モジュール筐体内を負圧化可能な負圧化装置と、
所定の緊急停止条件にて、前記燃料電池スタックからの電流掃引と前記燃料電池スタックへの水素含有ガス及び酸化剤含有ガスの供給とを停止すると共に、前記負圧化装置を作動させて前記モジュール筐体内を負圧化する制御装置と、
を更に含んで構成される、燃料電池システム。」

(イ)「【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池システムに関し、特にその緊急停止時の制御技術に関する。」

(ウ)「【0006】
SOFCシステムは、高温での連続運転を基本とするが、ユーザーの任意により、あるいは省エネ制御の一態様として、あるいは定期的メンテナンスにより、あるいは各種機器の故障診断の結果として、あるいは様々なトラブルにより、システムを停止することが要求される。
【0007】
システム停止には、通常停止と緊急停止とがある。
通常停止の場合は、燃料電池スタックからの電流掃引は直ちに停止するが、水素含有ガスや酸化剤含有ガスの供給量を制御しつつ燃料電池スタックの温度を徐々に低下させることで、時間をかけてシステムを停止させる。
緊急停止の場合は、燃料電池スタックからの電流掃引を直ちに停止するのみならず、水素含有ガス及び酸化剤含有ガスの供給も直ちに停止して、自然放冷状態とする。
【0008】
しかしながら、上記の緊急停止の場合は、高温状態の燃料電池スタックへの水素含有ガスの供給が絶たれるため、高温雰囲気下にて金属含有の燃料極の酸化が進行する。燃料極は運転中に還元雰囲気に置かれることから、還元と酸化との繰り返しにより、燃料極の劣化、破損が惹起される。燃料極に含有される金属として代表的なものにはニッケルが挙げられる。
【0009】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、SOFCシステムの緊急停止による燃料電池スタックの損傷を極力抑制し、システムの耐久性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明に係る燃料電池システムは、燃料電池スタックを取り囲むモジュール筐体内のガスを吸引・排出してモジュール筐体内を負圧化可能な負圧化装置と、所定の緊急停止条件にて、燃料電池スタックからの電流掃引と燃料電池スタックへの水素含有ガス及び酸化剤含有ガスの供給とを停止すると共に、負圧化装置を作動させてモジュール筐体内を負圧化する制御装置と、を含んで構成される。」

(エ)「【0015】
本実施形態のSOFCシステムの主要部である発電モジュール(ホットモジュール)は、モジュール筐体1内に、改質器2と、燃料電池スタック3(複数の燃料電池セル4の組立体)と、オフガス燃焼部5とを配置して構成される。尚、モジュール筐体1の外側は補機室をなし、システム筐体(図示せず)により囲まれている。」

(オ)「【0018】
燃料電池スタック3は、複数の固体酸化物形燃料電池セル4を直列接続してなる組立体であり、各セル4は固体酸化物電解質の両面に燃料極(アノード)及び酸化剤極(カソード)を積層してなり、燃料極には改質器2出口からの改質ガスの供給通路13により改質ガスが供給され、酸化剤極には外部からの空気の供給通路11により空気が供給される。
【0019】
従って、燃料電池セル4の各々において、酸化剤極にて、下記(1)式の電極反応が生起され、燃料極にて、下記(2)式の電極反応が生起されて、発電がなされる。
酸化剤極: 1/2O2+2e−→O2−(固体電解質) ・・・(1)
燃料極: O2−(固体電解質)+H2→H2O+2e− ・・・(2)」

(カ)「【0022】
次に制御装置14によるシステム停止制御について説明する。
上記のSOFCシステムは高温(600〜1000℃)での連続運転を基本とするが、ユーザーの任意により、あるいは省エネ制御の一態様として、あるいは定期的メンテナンスにより、あるいは各種機器の故障診断の結果として、あるいは様々なトラブルにより、システムを停止することが要求される。
【0023】
システム停止には、通常停止と緊急停止とがある。
通常停止の場合は、燃料電池スタック3からの電流掃引は直ちに停止するが、燃料、水及び空気の供給量を制御しつつ燃料電池スタック3の温度を徐々に低下させることで、時間をかけてシステムを停止させる。
緊急停止の場合は、燃料電池スタック3からの電流掃引を直ちに停止するのみならず、燃料、水及び空気の供給も直ちに停止して、自然放冷状態とする。
【0024】
ここにおいて、緊急停止条件のうち、所定の緊急停止条件では、燃料極の酸化抑制のため、モジュール筐体1内のガスを吸引・排出して、筐体1内を負圧化する。
このため、図1に示すように、筐体内負圧化装置15を設ける。筐体内負圧化装置15は、ポンプなどを含んで構成され、モジュール筐体1内のガスを吸引・排出して、モジュール筐体1内を負圧化可能である。」

(キ)「【0039】
図3は制御装置14により実行されるシステム停止制御のフローチャートであり、これについて説明する。
尚、本制御に際し、必要により、燃料電池スタック3のセル温度を検出する温度センサ31(図2)、及び、モジュール筐体1内の圧力を検出する圧力センサ32(図2)が使用される。
【0040】
S1では、停止要求の有無を判定し、停止要求有りの場合にS2へ進む。
S2では、緊急停止要求か否か(緊急停止要求か通常停止要求か)を判定する。
S2での判定でNOの場合(通常停止要求の場合)は、システム通常停止のため、S3へ進み、通常停止制御を実行する。
【0041】
通常停止制御では、電流掃引は直ちに停止するが、燃料、水及び空気の供給量を制御しつつ燃料電池スタック3の温度を徐々に低下させることで、時間をかけてシステムを停止させる。
【0042】
より具体的には、電流掃引停止後、セル温度を監視しながら、改質停止工程モード、カソード空気冷却工程モードを経て、システム停止に至る。改質停止工程モードでは、燃料及び水の供給量を減少させ、セル温度が第1の所定温度T1(燃料極の酸化が問題とならない温度)まで下がったら、燃料及び水の供給を完全に停止する。改質完全停止後のカソード空気冷却工程モードでは、カソード用空気の供給を継続し、カソード用空気で燃料電池スタック3を冷却する。そして、セル温度が第2の所定温度T2(T2<T1)まで下がったら、カソード用空気の供給を停止する。以上によりシステム停止がなされる。尚、かかる通常停止制御は特開2005−340075号公報などに記載されている。
【0043】
S2での判定でYESの場合(緊急停止要求の場合)は、S4へ進む。
S4では、緊急停止要求の原因が、漏電、水漏洩、ガス漏洩、火災、又は、手動緊急停止信号か否かを判定する。これらはいずれに電気を止めることが必要な停止原因である。
【0044】
S4での判定でYESの場合(漏電等の場合)は、S5へ進む。
S5では、システム緊急停止のため、電流掃引を停止し、同時に燃料、水及び空気の供給を停止する。すなわち、燃料電池スタック3からの電流掃引を停止し、燃料供給デバイス6、水供給デバイス8及び空気供給デバイス10(ポンプ21)を非作動にする。よって、燃料電池スタック3は自然放冷状態となって、システム停止に至る。
【0045】
S4での判定でNOの場合(漏電等以外の場合)は、S6へ進む。
S6では、システム緊急停止のため、電流掃引を停止し、同時に、燃料、水及び空気の供給を停止する。すなわち、燃料電池スタック3からの電流掃引を停止し、燃料供給デバイス6、水供給デバイス8及び空気供給デバイス10を非作動にする。そして、S7へ進む。
【0046】
S7では、S6とほぼ同時に、筐体内負圧化装置15を作動させ、モジュール筐体1内のガスを吸引・排出して、モジュール筐体1内を負圧化する。このとき、排気通路12は遮断する。」

(ク)「【0049】
S8では、モジュール筐体1内に負圧が確保されたか否かを判定する。具体的には、次の(1)〜(3)のいずれかにより判定する。
(1)モジュール筐体1内の圧力を検出する圧力センサ32を用い、筐体内圧力が所定圧力(例えば、相対圧で−1kPa)より低下したか否かを判定する。
(2)ポンプ21に付設される流量センサを用い、負圧化開始後の流量積算値を求め、流量積算値が所定値を超えたか否かを判定する。
(3)制御ユニットに内蔵の計時用のタイマを用い、負圧化開始後、所定時間経過したか否かを判定する。
【0050】
S8での判定でNOの場合は、S7へ戻って、モジュール筐体1内の負圧化を継続する。YESの場合は、S9へ進む。
S9では、所定の負圧が確保されたため、モジュール筐体1を密閉する。すなわち、筐体内負圧化装置15の作動を停止させる一方、モジュール筐体1を密閉して、負圧状態を保持させる。
特に第2実施形態(図2)では、ポンプ21を停止させる一方、バルブ28、30を閉じて、モジュール筐体1を密閉し、負圧状態を保持させる。
【0051】
S10では、燃料電池スタック3のセル温度を検出する温度センサ31を用い、セル温度が所定温度T1(燃料極の酸化が問題とならない温度)より低下したか否かを判定し、セル温度の低下を待つ。セル温度が所定温度T1まで低下した場合は、S11へ進む。尚、セル温度検出用の温度センサを異なる位置に複数有する場合は、全ての温度センサの検出値が所定温度T1より低下したか否かを判定する。
【0052】
S11では、モジュール筐体1の密閉状態を解除して。(当審注:「解除して。」は、「解除して、」の誤記)モジュール筐体1内の負圧を解除する。
特に第2実施形態(図2)では、バルブ28、30を閉じたまま、バルブ22、23及びバルブ26を開いて、モジュール筐体1内を実質的に大気に開放する。」

イ 甲1記載の技術的事項
(ア)甲1に記載されたSOFCシステムは、燃料電池スタック3を備えている(上記ア(エ))。さらに、この燃料電池スタック3は、複数の固体酸化物形燃料電池セル4が直列接続されたものであり、各セル4の燃料極に改質ガスが供給され、酸化剤極に空気が供給されて、燃料電池セル4の各々において、発電がされる(上記ア(オ))から、燃料電池スタック3は、改質ガスと空気が供給されて発電がされるものである。

(イ)SOFCシステムは、停止制御として、制御装置14は、まず、停止要求の有無を判定し、停止要求有りの場合、通常停止要求であれば、通常停止制御を実行している(上記ア(キ))。この通常停止制御は、燃料、水及び空気の供給量を制御しつつ燃料電池スタック3の温度を徐々に低下させることで、時間をかけてシステムを停止させる(上記ア(キ))。

(ウ)また、停止要求が緊急停止要求の場合には、燃料、水及び空気の供給を停止し、燃料電池スタック3が配置されるモジュール筐体1(上記ア(キ))内を負圧化し、所定の負圧が確保されるとモジュール筐体1を密閉し、燃料電池スタック3のセル温度が所定温度T1以下まで低下すると、モジュール筐体1の密閉状態を解除して、モジュール筐体1内の負圧を解除する(上記ア(ク))。そして、これらの動作は、緊急停止要求に対し行われる制御によるから、緊急停止制御が実行されている。

ウ 甲1に記載された発明
上記ア及びイより、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

・甲1発明
「改質ガスと空気が供給されて発電がされる燃料電池スタック3を備えるSOFCシステムであって、
停止要求の有無を判定し、停止要求有りの場合、通常停止要求であれば、燃料、水及び空気の供給量を制御しつつ燃料電池スタック3の温度を徐々に低下させることで、時間をかけてシステムを停止させる通常停止制御を実行し、緊急停止要求であれば、燃料、水及び空気の供給を停止し、燃料電池スタック3が配置されるモジュール筐体1内を負圧化し、所定の負圧が確保されるとモジュール筐体1を密閉し、燃料電池スタック3のセル温度が所定温度T1以下まで低下すると、モジュール筐体1の密閉状態を解除して、モジュール筐体1内の負圧を解除する緊急停止制御を実行する制御装置14を備える
SOFCシステム。」

(2)甲2
甲2には、次の事項が記載されている。
ア 「本システムは、SOFC、マイクロガスタービン(MGT)や再循環ブロワ等から構成される。SOFCとMGTの2段階にて発電し、更に排ガス系統に排熱回収装置を設置することで、蒸気、温水を同時に供給するコージェネレーションシステムとすることが可能である(図3)。」(86ページ下から3行ないし同ページ末行)

イ 「MHPS(当審注:「三菱日立パワーシステムズ(株)」のこと)では、SOFC−MGTハイブリッドシステムのプロトタイプ機を九州大学へ納め、2015年春から実証運転を開始した。本プロトタイプ機はモノジェネレーション仕様となっている。
負荷上昇試験、冷態停止状態やホットスタンバイ状態からの再起動試験など各種試験を実施し、運転制御方法を確立し完全自動化となっている。また、本プロトタイプ機にて遠隔監視システムを構築し、リアルタイムで遠隔から運転状態を把握することができ、また操作も可能となっている。」(88ページ1行ないし同ページ6行)

ウ 甲2には、図3として、次の図が記載されている。


(3)甲3
甲3には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、発電システム及びその保護制御方法に関するものである。」

イ 「【0002】
燃料電池は、電気化学反応による発電方式を利用した発電装置であり、燃料側の電極である燃料極と、空気(酸化剤ガス)側の電極である空気極と、これらの間にありイオンのみを通す電解質とにより構成されており、電解質の種類によって様々な形式が開発されている。
【0003】
このうち、例えば、固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:以下「SOFC」という)は、電解質としてジルコニアセラミックスなどのセラミックスが用いられ、炭素質原料をガス化設備により製造した石炭ガス化ガス等のガス、水素、都市ガス、天然ガス、石油、メタノール等を燃料として運転される燃料電池である。このSOFCは、イオン伝導率を高めるために作動温度が約700〜1000℃程度と高く、高効率な高温型燃料電池として知られている。
【0004】
このようなSOFCを例えば、マイクロガスタービン(以下「MGT」という。)等の内燃機関と組み合わせた複合発電システムが開発されている。MGTでは、圧縮機から吐出される圧縮空気をSOFCの空気極に供給するとともに、SOFCから排出される高温の排燃料ガスをMGTの燃焼器に供給して燃焼させ、燃焼器で発生した燃焼ガスを断熱膨張することでMGTのタービンを回転駆動させる。そして、タービンの回転駆動を発電機に伝達させることで発電機を発電させることにより、発電効率の高い発電が可能とされている。
【0005】
このようなSOFCは、例えば、セル電圧の著しい低下、発電セルの急激な温度上昇などの何らかの異常が検知されると、安全上の観点から緊急停止するように設計されている。
例えば、特許文献1には、SOFCの停止を必要とする異常が発生した場合に、運転状態(例えば、ブロワ運転、不活性ガス供給の可否)に応じた適切な停止動作を行うことが開示されている。
また、例えば、特許文献2には、SOFCが緊急停止することにより負荷電流が停止した場合に、空気及び水の流量を低下させて発電セルの劣化を防ぐようにした緊急停止方法が開示されている。
また、特許文献3には、正常停止の場合または安全のための停止の場合に、発電装置内に蓄えられたエネルギーを減少させるエネルギー除去装置が開示されている。このエネルギー除去装置は、例えば、正常停止の場合、電力調整システム(PCS)が故障した場合、または発電装置の負荷を切り離した場合等に、抵抗器等によって燃料電池から電流を引き出すことによって発電装置内部の残留燃料を消費させ、燃料電池スタックの保護を行う。」

ウ 「【0007】
例えば、従来のSOFCでは、異常が検知された場合に、SOFCの運転を停止させるとともに、窒素等を用いた冷却処理等が行われる。このため、運転停止後から早い段階で異常が解消された場合でも、SOFCは停止処理と冷却処理とが一旦行われているため、運転を開始し発電を再開するのに相当な時間を要していた。すなわち、SOFCは起動時や再起動時において、SOFC発電室温度を発電が可能な温度まで上昇させる温度上昇工程が必要であり、発電室温度が発電可能な温度に到達した後に発電を開始する必要がある。運転停止からの経過時間が長いほど、発電室温度は低下するため、発電室の温度上昇工程に要する時間も長期間化する。とりわけ、発電室の温度が常温レベルまで冷却された後のコールドスタートから再起動させる場合には、起動完了までに1日以上を要する場合もあった。
【0008】
また、SOFC本体の異常ではなく、SOFCで発電した電力の電力供給先である負荷設備や電力系統、あるいは、SOFCと電力系統との間に配置され、直流電力を交流電力に変換して電力系統へ供給するパワーコンディショナ等に異常が発生した場合には、同様にSOFCの運転を停止させているが、比較的早い時期にパワーコンディショナの異常が解消する場合がある。したがって、このような場合にまで、異常が発生する度にSOFCの運転を停止させてSOFCの冷却処置等が行われていたのでは、稼働率が低下し、より多くの発電電力を供給するという発電システムの目的に悖る結果となる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、燃料電池の発電出力端よりも電力の供給先側で異常が検知された場合に、その異常解消から燃料電池の発電再開までの時間を短縮することのできる発電システム及びその保護制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、燃料極と、固体電解質と、空気極とを備える複数の燃料電池セルが配置された発電室を備える燃料電池と、前記燃料電池を制御する制御装置と、前記燃料電池で発電された電力が供給される電力供給先と前記燃料電池の発電出力端との間に配置される電力変換装置とを備え、前記制御装置は、前記燃料電池の発電出力端から前記電力供給先側に発生した異常を検知する異常検知部と、前記燃料電池の前記発電室を所定の発電可能温度以上に維持する発電スタンバイ状態に移行させる出力制御部とを備え、前記異常検知部によって前記異常が検知された場合に、前記燃料電池が電力を出力しない無負荷状態とする発電システムを提供する。
【0011】
本発明の発電システムによれば、燃料電池本体よりも燃料電池の発電出力端から電力の供給先側に生じた異常が異常検知部によって検知された場合に、燃料電池が電力を出力しない無負荷状態とされるとともに、出力制御部によって燃料電池が発電スタンバイ状態に移行される。ここで、発電スタンバイ状態とは、燃料電池の発電室を所定の発電可能温度以上に維持する状態である。これにより、異常が解消された場合には、発電反応のための燃料ガスを燃料極に短時間に供給することができ、発電を開始させることが可能となる。この結果、異常解消から発電までに要する時間を従来に比べて短縮することが可能となる。」

エ 「【0027】
〔発電システムの構成〕
まず、本発明の一実施形態に係る発電システムの概略構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る発電システム10の概略構成を示した概略構成図である。図1に示すように、発電システム10は、マイクロガスタービン(以下「MGT」という。)11、発電機12、SOFC13、及びパワーコンディショナ(電力変換装置、以下「PCS」という)120等を備えている。この発電システム10は、MGT11による発電と、SOFC13による発電とを組み合わせることで、高い発電効率を得るように構成されている。」

オ 「【0031】
SOFC13は、圧力容器内に燃料極13Aと空気極13Bと固体電解質とが収容されて構成される。なお、SOFC13の詳細な構成については後述する。
SOFC13は、空気極13Bに酸化剤ガスが供給され、燃料極13Aに燃料ガス(還元剤ガス)が供給されることで、所定の作動温度にて反応して発電を行う。
酸化剤ガスは、例えば、酸素を略15%から30%含むガスであり、代表的には空気が好適であるが、空気以外にも燃焼排ガスと空気の混合ガスや、酸素と空気の混合ガスなどが使用可能である。本実施形態では、SOFC13に供給される酸化剤ガスとして、圧縮機21によって圧縮された空気Aの少なくとも一部(空気A1)を採用する場合を例示して説明する。」

カ 「【0064】
PCS異常検知部140は、PCS異常の発生を検知する。PCS異常とは、SOFC13の発電出力端から電力を供給する側にあたる電力供給先側に発生する異常である。PCS異常は、本実施形態では、例えば、電力系統異常やPCS故障や送電・連系の機器故障を含む。電力系統異常として、電力系統135の停電、瞬停、所定幅以上の周波数変動、所定値以上の電圧変動、所定値以下への電圧低下等が一例として挙げられる。また、PCS故障として、PCS120を構成する各素子や各部品の故障や断線、PCS120と制御装置60との間の通信異常(例えば、PCS120に対して送信したリクエストに対するPCS120からのアンサーが受信できないPCSアンサーバック異常)等が一例として挙げられる。また、送電・連系の機器故障として、PCS120と電力系統135との間に設置された送電設備130、系統開閉器131、変圧器132などの各機器や電力線の故障や破損等が一例として挙げられる。PCS異常は上記例に限定されず、SOFC13の発電電力を電力系統135に対して正常に送電できないような様々な異常であって、その異常を検知しSOFCの保護制御を行う必要性のある異常をいう。」

キ 「【0080】
図8は、本実施形態に係る発電システムによる保護制御(以下、単に「保護制御」という。)と、従来の発電システムの緊急停止制御(以下、単に「緊急停止制御」という。)とを実行した場合の各種制御量の時間的推移を比較して示した図である。各種制御量の時間的推移は、本実施形態の保護制御のものを太線で、従来の発電システムの緊急停止制御のものを細線で示している。
図8(a)には、SOFC出力、発電室温度、MGT出力の時間的推移の一例が示されている。また、図8(b)〜(d)には、空気極13Bに供給される空気A1の空気流量、燃料極13Aに供給される燃料ガスL2の燃料流量、及び燃料極13Aに供給される純水流量の時間的推移の一例がそれぞれ示されている。
【0081】
図8に示すように、SOFC13が定格出力で運転している場合に、時刻t1でPCS異常が検知されると、保護制御及び緊急停止制御ともに、SOFC13が電力系統135と解列し、SOFC13が電力を出力しない無負荷状態とすることにより、SOFC出力はゼロとなる。
PCS異常の発生後、緊急停止制御では、SOFC13及びMGT11の運転を停止させる。これにより、図8(a)に示すようにMGT出力はゼロとなり、また、図8(b)、(c)に示すように、空気流量は所定の流量に向けて短時間で低下し、燃料流量も所定値まで短時間で低下する。
【0082】
そして、緊急停止制御では、PCS異常が検知された場合に、SOFC13の運転を停止させて冷却処理へ移行できるように準備するので、図8(a)の時刻t1〜t2に示すように、発電室温度は継続して低下する。そして、時刻t2において、PCS異常が解消すると、緊急停止制御では、発電室温度を発電可能温度まで上昇させるために、空気流量を増加させる(図8(b)参照)。続いて、緊急停止制御では、時刻t3において、空気極13Bに供給する燃料流量を増加させ(図8(c)参照)、触媒燃焼を生じさせて発電室温度を昇温させる(図8(a)参照)。そして、時刻t6において、発電室温度が発電可能温度に到達すると発電を開始させる(図8(a)参照)。これにより、時刻t6以降において、SOFC出力が増加する。更に、緊急停止制御では、時刻t3における空気極13Bへの燃料ガスL2の流量増加開始後において、純水流量を徐々に低下させる(図8(d)参照)。その後、緊急停止制御では、時刻t7において、SOFC出力が燃料の改質の為に純水供給が不要となる所定出力に到達し、続く時刻t8にてSOFC13の出力が定格負荷に到達する。
このように、従来の発電システムでの緊急停止制御では、発電スタンバイ状態を実施しないため、PCS異常が時刻t2の早い段階で解消された場合においても、発電室温度を発電可能温度まで上昇させる温度上昇工程を要するので、PCS異常が解消されてから発電開始までに時間がかかる(例えば、図8の時刻t2〜t6までの時間を要する)。」
【0083】
これに対し、本実施形態の保護制御では、時刻t1においてPCS異常が検知されると、SOFC13が発電スタンバイ状態で維持される。すなわち、図8(b)に示すように、空気流量はPCS異常の発生時において一定流量まで短時間に低下するものの、発電室温度を発電可能温度以上に保持するために必要な流量で一定とされ、また、図8(c)に示すように、燃料流量についても燃料電池セルの燃料極13Aの劣化を防止するために、所定流量が維持される。また、改質に必要な純水についても短時間に供給が開始される(図8(d)参照)。また、MGT11の発電運転については、発電出力を低下させた状態で発電が継続される。このとき、高効率運転モードよりも多くの燃料ガスL1を燃焼器22に供給する他の運転モードが採用され、燃焼器22における安定した燃焼が維持される。
続いて、時刻t2において、PCS異常が解消すると、保護制御では、SOFC13の出力増加に合わせて純水流量が徐々に低下する。そして、時刻t4において、SOFC出力が燃料の改質の為に純水供給が不要となる所定出力に到達と純水流量はゼロとされ、続く時刻t5にてSOFC出力が定格出力に到達する。
【0084】
このように、図8(a)の時刻t1〜t2に示すように、保護制御では、発電室温度を発電可能温度以上に維持することが可能となる。この結果、例えば、時刻t2において、PCS異常が解消した場合には、空気流量及び燃料流量を速やかに増加させることにより(図8(b)、(c)参照)、SOFC13の発電を速やかに開始させることが可能となる(図8(a))。このように、保護制御では、従来の緊急停止制御が要していた温度上昇工程を不要とすることができ、短時間に発電を開始させることが可能となる。よって、目標負荷に到達するまでの時間を緊急停止制御に比べて短くすることが可能となる。更に、保護制御によれば、図8(a)の時刻t1〜t2に示すように、PCS異常が検知された場合でも、MGT11の運転を継続して行うので、MGT出力を電力系統135に継続して供給することが可能となる。」

ク 甲3には、図1及び図8として、次の図が記載されている。


(4)甲4
甲4には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。」

イ 「【0015】
A.第1実施形態:
図1は、本発明の第1実施形態における燃料電池システム100の構成を示す概略図である。燃料電池システム100は、燃料電池10と、制御部20と、酸化ガス流路30と、燃料ガス流路50と、を備える。本実施形態の燃料電池システム100は、車両に搭載され、車両の電力源として利用される。
【0016】
燃料電池10は、反応ガスとして水素(燃料ガス)と空気(酸化ガス)との供給を受けて発電する固体高分子形燃料電池である。燃料電池10は、複数のセル11が積層されたスタック構造を有する。各セル11は、電解質膜の両面に電極を配置した膜電極接合体と、膜電極接合体を狭持する1組のセパレータとを有する。燃料電池10によって発電された電力は、DC/DCコンバータ90を介してバッテリ92に蓄電される。バッテリ92には、種々の負荷93が接続されている。後述するエアコンプレッサ32や循環用ポンプ64、各種弁には、燃料電池10またはバッテリ92から電力が供給され、駆動される。」

ウ 「【0029】
詳細な処理内容は後述するが、制御部20は、燃料電池システム100の通常停止時には、燃料ガス流路50および酸化ガス流路30の少なくとも一方から水を排出する排水処理と、酸化ガス流路30を封止するカソード封止処理と、の少なくとも一方を含む通常停止処理を完了させた後、燃料電池システム100を停止させる機能を備える。また、制御部20は、燃料電池システム100が予め定められた緊急停止条件に該当する場合には、通常停止処理の少なくとも一部を実行せずに、燃料電池システム100が停止してから第1の期間経過後に燃料電池システム100が起動するように設定した後に、燃料電池システム100を停止させる緊急停止処理を行う機能を有する。更に、制御部20は、燃料電池システム100の停止後、前述の設定に従って、第1の期間経過後に燃料電池システム100を起動させ、通常停止処理を実行する再起動処理を行う機能を有する。
【0030】
図2は、制御部20によって実行されるシステム停止処理のフローチャートである。このシステム停止処理は、利用者によってイグニションスイッチ80がオフにされた場合に実行される。なお、このシステム停止処理の開始にあたり、前提として、後述する完了フラグがオフになっているものとする。」

エ 「【0039】
図2に示した通常停止処理(ステップS100)では、図3に示した各処理が、図3に示した処理順で実行される。そして、その各処理の実行中に、制御部20は、燃料電池システム100が緊急停止条件に該当したか否かを判断し(ステップS110)、緊急停止条件に該当しなければ(ステップS110:NO)、図3に示した通常停止処理が全て完了したかを判断する(ステップS120)。制御部20は、通常停止処理が完了していなければ(ステップS120:NO)、処理をステップS100に戻して、図3に示した通常停止処理を引き続き行う。図2には、ステップS100からステップS120までの処理が段階的に示されているが、これは図示の都合のためであり、実際は、ステップS100の実行中において、所定の制御タイミングにおいて、ステップS110とステップS120とが繰り返し実行される。後述する図4のステップS240からステップS260までの処理についても同様である。
【0040】
上記ステップS120において、通常停止処理が完了していると判断した場合には(ステップS120:YES)、制御部20は、完了フラグをオンにして、その情報(以下、「完了フラグ情報」という)を制御部20内のメモリに不揮発的に記憶させる。また、制御部20は、再起動までの時間を90分に設定して、その情報(以下、「再起動時間情報」という)もメモリに不揮発的に記憶させる(ステップS130)。完了フラグとは、図3に示した通常停止処理が全て完了したことを示すフラグである。通常停止処理が完了した後にステップS130において、再起動までの時間を設定するのは、後述する凍結抑制処理を燃料電池システム100の停止後に実行するためである。
【0041】
上記ステップS130において、完了フラグ情報と再起動時間情報とをメモリに不揮発的に記憶させると、制御部20は、燃料電池システム100を停止させる。本実施形態において、「燃料電池システム100を停止させる」とは、制御部20が、再起動時間情報としてメモリに記憶した時間の経過後に起動可能な状態で燃料電池システム100を停止させることをいう。」

オ 甲4には、図1及び図2として、次の図が記載されている。



(5)甲5
甲5には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、電気化学反応により電気エネルギーを得る燃料電池発電装置の異常を検出し、異常の種類と異常発生時の運転工程とに応じて制御運転を行う燃料電池発電装置の運転方法に関する。」

イ 「【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。図1に固体高分子型燃料電池発電装置のシステムフローを示す。
【0024】
同図に示す固体高分子型燃料電池発電装置は、既に知られている構成であるため、個々では、同図に示すシステムフローに基づき、この燃料電池発電装置の動作について簡単に説明する。
【0025】
燃料ガス(本形態では、都市ガス)は脱硫器2へ導入されて燃料ガス内に含まれる硫黄成分が除去される。そして、硫黄成分が除去された燃料ガスがガス昇圧器1にて、改質用水蒸気とともに改質装置3の改質部3aに供給されて、上述した(4)式に示す反応により水素リッチな改質ガスが生成される。
【0026】
この改質装置3は、燃焼筒3eを中心に改質部3aとCO変成部3bとCO除去部3cとが同軸円筒状に配置されており、改質部3aで生成された改質ガスは、CO変成部3bにおいて、上述した(5)式に示す反応により改質ガス中のCO濃度が1%未満まで低減される。そして、CO編成部3bでCO濃度が所定に低減された改質ガスがCO除去部3cに供給され、選択酸化空気ブロワ4によって供給された空気との反応(2CO+O2→2CO2)で、COを選択酸化させ、CO濃度を更に10ppm未満に低減させる。そして、CO除去部3cでCOが所定に除去された改質ガスが燃料電池本体7の燃料極7aに供給される。
【0027】
燃料電池本体7は電解質層(図示せず)を挟んで燃料極7aと空気極7bとが配設されており、更に冷却板7cを通過する純水により冷却すると共に加湿部7dが内蔵されている。この加湿部7dには、反応空気ブロワ8から空気が供給されており、供給された空気を加湿した後、空気極7bへ供給する。
【0028】
燃料電池本体7では燃料極7aに供給された改質ガスと空気極7bに供給された空気とを電気化学反応させて発電し、この発電出力をインバータユニット(図示せず)にて、所定電圧の交流電力に変換し電力系統に連係される。」

ウ 「【0050】
本形態では、制御レベルを、故障の程度の比較的軽いレベル1から故障の程度が比較的重いレベル6までの6段階に設定している。各制御レベルで実行される運転制御は以下の通りである。
・レベル1(10%負荷軽減)
燃料電池本体7の発電出力を10%低下させ、負荷軽減させて発電を継続させる。
・レベル2(最下限まで負荷低減)
燃料電池本体7の発電出力を最下限まで低下させて、発電を継続させる。
・レベル3(自立・待機)
燃料電池本体7は発電を継続させるが、電力系統とは切り離して自立運転させる。
・レベル4(起動時通常停止)
起動操作を中止して、システムを停止させる。
・レベル5(発電時通常停止)
燃料電池本体7は自立運転で発電を継続させるが、燃料電池本体7が一定温度に低下するまで冷却し、その後、システムを停止する。
・レベル6(緊急停止)
燃料電池本体7を冷却することなく直ちに発電を停止させ、全ての機器を停止させる。」

エ 甲5には、図1として、次の図が記載されている。


(6)甲6
甲6には、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
燃料電池とプログラムを記憶可能な記憶部とを有する燃料電池ユニットを接続した情報処理装置において、
前記燃料電池ユニットに送信されるプログラムを外部から入力する入力部と、
前記入力部に入力されたプログラムを前記燃料電池ユニットに送信するための通信を行う制御部とを備え、
前記制御部によって前記燃料電池ユニットへ送信されるプログラムは、前記燃料電池ユニットの有する前記記憶部へ記憶されるプログラムであることを特徴とする情報処理装置。」

イ 「【請求項5】
前記制御部は、前記記憶部に記憶されるプログラムを更新するためのコマンドを、前記燃料電池ユニットへ送信し、
前記制御部によって前記燃料電池ユニットへ送信され、前記記憶部に記憶されるプログラムは、前記燃料電池を用いて行われる発電が停止した状態において更新されることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。」

ウ 「【請求項8】
前記制御部は前記記憶部に記憶されるプログラムの更新が終了したことを示す情報を前記燃料電池ユニットから受信した後、前記電力供給部は前記燃料電池ユニットへの電力供給を停止し、
前記電力供給部から前記燃料電池ユニットへの電力供給を停止した後、前記制御部は前記燃料電池ユニットに前記燃料電池を用いた発電を再開させるコマンドを送信することを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項9】
燃料電池を用いて発電する燃料電池ユニットと電力供給部とを備えた情報処理装置の制御方法において、
前記燃料電池ユニットを制御するプログラムを外部から入力し、
前記燃料電池ユニットに前記プログラムの送信をし、
前記燃料電池ユニットに前記送信したプログラムへの更新を実行させることを特徴とする情報処理装置の制御方法。
【請求項10】
前記プログラムを送信の前に、前記燃料電池ユニットに前記電力供給部の電力を供給し、
前記燃料電池ユニットに前記プログラムの更新を指令するコマンドを送信し、
前記燃料電池を用いた発電を停止させ、
前記燃料電池ユニットから前記プログラムの更新のための準備が完了したことを示す情報を受信することを特徴とする請求項9に記載の情報処理装置の制御方法。
【請求項11】
前記プログラムへの更新を実行させた後に、
前記燃料電池ユニットから前記更新が終了したことを示す情報を受信し、
前記燃料電池を用いた発電を再開させることを特徴とする請求項9に記載の情報処理装置の制御方法。」

エ 「【0001】
本発明は、情報処理装置および情報処理装置の制御方法に係り、特に、燃料電池ユニットを備えた情報処理装置および燃料電池ユニットの制御プログラムを更新する情報処理装置の制御方法に関する。」

オ 「【0018】
一般に、制御プログラム等のソフトウェアを用いたシステムでは、ハードウェアを変更せずにソフトウェアのみを変更することによってシステム全体の機能・性能を向上させることが可能である。また例えば、燃料電池ユニットに用いる燃料自体の種類が発電効率の向上等を目的として変更される場合も考えられ、これに伴って制御プログラムが保有する燃料自体の種別情報の変更が必要となってくる場合も考えられる。
【0019】
制御プログラムの変更の方法は種々考えられるが、情報処理装置のユーザが、例えばインターネット等の電気通信回線を介して更新用の制御プログラム入手し、ユーザ自信が制御プログラムを容易にインストールできる方法とすれば、ユーザにとって極めて利便性の高いものとなる。
【0020】
また、燃料電池ユニットを備えた情報処理装置においては、燃料電池ユニットの制御プログラムの更新中は燃料電池ユニット自体を制御することができない。このため、制御プログラムの更新前に燃料電池ユニットの発電を停止する一方、制御プログラムの更新に必要となる電源を発電電力以外から確保しておく必要がある。
【0021】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、本発明が解決すべき課題は、燃料電池ユニットの制御プログラムを簡便な方法で更新することができる情報処理装置および情報処理装置の制御方法を提供することにある。」

カ 「【0035】
燃料電池ユニット10は、発電部40と、燃料電池制御部41とから構成される。燃料電池制御部41は発電部40の制御を行う他、情報処理装置本体2との通信を行う通信制御部としての機能を有する。」

キ 「【0099】
図10は、燃料電池ユニット10側における制御プログラム更新処理手順を示したフローチャートである。
【0100】
まず、マイクロコンピュータ95は、電源制御部77から「更新」コマンドを受信したか否かを判断する(S20)。マイクロコンピュータ95が「更新」コマンドを受信すると(S20のyes)、マイクロコンピュータ95は、燃料電池ユニット10にて行われている発電の停止処理を実施する(S21)。」

ク 「【0105】
このように、燃料電池ユニット10の発電停止処理(S21)によって、燃料電池ユニット10は更新コマンドを受信した時の状態にかかわらず「スタンバイステート」ST20に移行させる。
【0106】
「スタンバイステート」ST20に移行させた後(図10のステップ21)、マイクロコンピュータ95は電源制御部77に対して「更新準備完了」信号を送信する(S22)。
【0107】
この後、電源制御部77から送信されてくる更新用制御プログラム95cを受信する(S23)。
【0108】
マイクロコンピュータ95は、更新用制御プログラム95cが正常に受信されたことを例えばチェックサムを用いて判断する(S24)。
【0109】
チェックサム法はデータを送受信する際の誤り検出方法の一つである。送信前にデータを所定長のブロックに分割し、それぞれのブロック内のデータを数値とみなして合計を取ったものをチェックサムと呼ぶ。求めたチェックサムはデータと一緒に送信する。受信側では送られてきたデータ列から同様にチェックサムを計算し、送信側から送られてきたチェックサムと一致するかどうかを検査する。両者が異なれば、通信系路上でデータに誤りが生じたと判断するものである。
【0110】
チェックサムが正常の場合は、マイクロコンピュータ95は「プログラム受信正常」情報を電源制御部77に送信する(S25)。
【0111】
その後、マイクロコンピュータ95の記憶部95aに記憶されている制御プログラム95b(旧プログラム)を、情報処理装置本体2の電源制御部77から送られてきた更新用制御プログラム95c(新プログラム)に更新する(S27)。
【0112】
さらに記憶部95aの所定のデータ領域に対して初期化処理を実行させることにより、更新用制御プログラム95cを実行可能な状態に設定する(S28)。
【0113】
その後、電源制御部77へ更新処理が完了したことを示す「更新完了」信号を送信する(S29)。「更新完了」信号を送信後、燃料電池ユニット10は状態「スタンバイステート」に戻して(S30)、制御プログラムの更新処理を終了する。」

ケ 甲6には、図10として、次の図が記載されている。


(7)甲7
甲7には、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項6】
連結運転を行う第1電源システム及び第2電源システムを備える電力システムの制御方法であって、
前記制御方法は、前記第1電源システムが、
(A)該第1電源システム自体のファームウェアの更新を実行するステップと、
(B)ステップ(A)の後に、前記第1電源システム自体の発電を再開させるステップと、
(C)ステップ(B)の後に、前記第2電源システムを待機状態に移行させてファームウェアの更新を実行させるステップと、
を含む、電力システムの制御方法。」

イ 「【0001】
本開示は、電力システム、電力システムの制御方法及び電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムなどの電源システムにおいて、該電源システムを構成する装置は、ファームウェアなどの制御ソフトウェアによって制御されている。
【0003】
ファームウェアは、機能追加及び不具合改善などのためにバージョンアップされることがある。ファームウェアがバージョンアップされると、更新作業が必要となる。」

ウ 「【0015】
図1に、本開示の一実施形態に係る電力システム2を含むファームウェア更新システム1の概略構成を示す。ファームウェア更新システム1は、複数の燃料電池システム(電源システム)10−1〜10−Nと、サーバ40とを備える。燃料電池システム10−1〜10−N及びサーバ40は、ネットワーク50を介して情報を送受信可能である。また、燃料電池システム10−1〜10−Nは、有線又は無線により互いに接続して電力システム2を構成し、連結運転を行う。
【0016】
図1においては、N個の燃料電池システム10が連結運転している。Nは、2以上の任意の整数であってよい。以後、特に区別する必要がない場合は、図1における燃料電池システム10−1〜10−Nは、単に燃料電池システム10として説明する。コントローラ20−1〜20−N、及び、燃料電池装置30−1〜30−Nについても同様に、特に区別する必要がない場合は、それぞれ、コントローラ20及び燃料電池装置30として説明する。
【0017】
燃料電池システム10は、サーバ40からネットワーク50を介して、更新用のファームウェアを受信する。燃料電池システム10は、USB(Universal Serial Bus)メモリなどのメモリから、更新用のファームウェアを取得してもよい。」

エ 「【0028】
制御部24は、サーバ40又はUSBメモリなどのメモリから取得したファームウェアのうち、燃料電池装置30用のものを燃料電池装置30に送信する。」

オ 「【0038】
制御部36は、コントローラ20から更新用のファームウェアを取得すると、子システムに設定されている他の燃料電池システム10が同じバージョンの更新用のファームウェアを取得済みであるか否かを確認する。制御部36は、子システムに設定されている他の全ての燃料電池システム10から、同じバージョンの更新用のファームウェアを取得済みであるとの応答を受信すると、親システムの燃料電池装置30を待機状態に移行させる。ここで、「待機状態」とは、通電は行っているが発電は行っていない状態である。
【0039】
制御部36は、親システムの燃料電池装置30を待機状態に移行させた後、ファームウェアの更新を実行する。ファームウェアの更新が完了すると、制御部36は、親システムの燃料電池装置30を必要に応じて再起動させ、その後発電を再開させる。」

5 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「改質ガス」及び「空気」は、それぞれ本件発明1の「燃料ガス」及び「酸化剤ガス」に相当するから、甲1発明の「改質ガスと空気が供給されて発電がされる」ことは、本件発明1の「燃料ガスと酸化剤ガスとに基づいて発電可能な」ことに相当する。また、甲1発明の「燃料電池スタック3」は、本件発明1の「燃料電池」に相当し、甲1発明の「SOFCシステム」と本件発明1の「燃料電池システム」は、燃料電池を用いた発電システムである限りで一致する。
甲1発明において、「停止要求の有無を判定し、停止要求有りの場合」とは、SOFCシステムに停止要求を示す停止信号が入力され、受信した場合にほかならないから、甲1発明の「停止要求の有無を判定し、停止要求有りの場合」と本件発明1の「前記管理サーバから停止指示を受信した場合」とは、停止信号を受信した場合である限りで一致する。また、甲1発明の「通常停止要求」は、本件発明1の「通常停止指示」に相当し、甲1発明1の「燃料、水及び空気の供給量を制御しつつ燃料電池スタック3の温度を徐々に低下させることで、時間をかけてシステムを停止させる通常停止制御を実行」することは、本件発明1の「前記燃料電池を作動状態よりも温度を下げて停止させる通常停止処理を行」うことに相当する。さらに、甲1発明の「緊急停止要求」は、本件発明1の「強制停止指示」に相当する。そして、甲1発明において「燃料、水及び空気の供給を停止」すれば、燃料電池スタック3の動作は停止し、このときの燃料電池スタック3の温度は、「温度を下げて停止させる通常停止処理」が行われたときの温度より高いと解されるから、甲1発明の「燃料、水及び空気の供給を停止」することは、本件発明1の「前記通常停止処理よりも高い温度で前記燃料電池を停止させる強制停止処理を行うように停止制御を実行」することに相当し、甲1発明の「制御装置14」は、本件発明1の「制御手段」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点1ないし3で相違する。
【一致点】
燃料ガスと酸化剤ガスとに基づいて発電可能な燃料電池を備えた燃料電池システムであって、
停止指示を受信した場合、通常停止指示であれば前記燃料電池を作動状態よりも温度を下げて停止させる通常停止処理を行い、強制停止指示であれば前記通常停止処理よりも高い温度で前記燃料電池を停止させる強制停止処理を行うように停止制御を実行する制御手段を備える
燃料電池を用いた発電システム。

【相違点1】
燃料電池を用いた発電システムである点に関し、本件発明1は、「管理サーバと通信可能に構成され」、停止指示を「管理サーバから」受信する燃料電池システムであるのに対し、甲1発明のSOFCシステムは、管理サーバと通信可能であることが特定されておらず、したがって、停止指示を受信することに関し、管理サーバから受信することが特定されていない点。

【相違点2】
本件発明1は、「前記通常停止処理による停止後は所定の低温状態からコールドスタートにより前記燃料電池を起動させ」るのに対し、甲1発明は通常停止制御を実行した後にSOFCシステムを起動することが特定されていない点。

【相違点3】
本件発明1は、「前記強制停止処理による停止後は前記コールドスタートよりも高温状態からホットスタートにより前記燃料電池を起動可能な起動制御を実行する」のに対し、甲1発明は、緊急停止要求により、「燃料、水及び空気の供給を停止」した後に、「燃料電池スタック3が配置されるモジュール筐体1内を負圧化し、所定の負圧が確保されるとモジュール筐体1を密閉し、燃料電池スタック3のセル温度が所定温度T1以下まで低下すると、モジュール筐体1の密閉状態を解除して、モジュール筐体1内の負圧を解除する」ことが特定されているものの、起動制御を実行することは、特定されていない点。

イ 相違点の検討
事案に鑑み、相違点3から検討する。
甲1発明は、緊急停止要求により、「燃料、水及び空気の供給を停止」した後に、「モジュール筐体1内を負圧化し」、この負圧が確保される状態で、燃料電池スタック3のセル温度を所定温度T1以下まで低下させるものであるが、甲1には、緊急停止要求により、「燃料、水及び空気の供給を停止」した後に、SOFCシステムを「ホットスタートにより前記燃料電池を起動可能な起動制御を実行する」ことは、記載も示唆もされていない。
そして、下記(ア)ないし(エ)に示すように、甲2ないし甲5をみても、「前記強制停止処理による停止後は」、「高温状態からホットスタートにより前記燃料電池を起動可能な起動制御を実行する」ことは、記載されていない。

(ア)甲2には、SOFC−MGTハイブリッドシステムにおいて、ホットスタンバイ状態からの再起動試験を実施したことが記載(上記4(2)イ参照)されているが、この「ホットスタンバイ状態」が「強制停止処理による停止後」の状態であるとはいえないから、この状態から再起動したとしても、「前記強制停止処理による停止後は」、「高温状態からホットスタートにより前記燃料電池を起動可能な起動制御を実行する」ものでない。

(イ)甲3には、パワーコンディショナの異常が検知されると、空気流量を低下させるものの一定流量供給し、所定の燃料流量を維持し、改質に必要な純水を供給することで、SOFC13を発電可能温度以上に保持し、パワーコンディショナの異常が解消した場合には、空気流量及び燃料流量を速やかに増加させることにより、SOFC13の発電を速やかに開始させることが記載(上記4(3)キ参照)されている。しかし、甲3に記載されたパワーコンディショナの異常が検知されると、空気流量を低下させるものの一定流量供給し、所定の燃料流量を維持し、改質に必要な純水を供給することで、SOFC13を発電可能温度以上に保持する動作は、燃料と空気の流量を低下させるものの所定量供給するから、「燃料電池を停止させる強制停止処理」とはいえない。そうすると、その後、パワーコンディショナの異常が解消した場合には、空気流量及び燃料流量を速やかに増加させることにより、SOFC13の発電を速やかに開始させていても、これは、「前記強制停止処理による停止後は」、「高温状態からホットスタートにより前記燃料電池を起動可能な起動制御を実行する」ものでない。

(ウ)甲4には、燃料電池システム100が予め定められた緊急停止条件に該当する場合には、通常停止処理の少なくとも一部を実行せずに、燃料電池システム100が停止してから第1の期間経過後に燃料電池システム100が起動するように設定した後に、燃料電池システム100を停止させる緊急停止処理を行い、燃料電池システム100の停止後、第1の期間経過後に燃料電池システム100を起動させ、通常停止処理を実行することが記載(上記4(4)ウ参照)されているが、緊急停止処理を行い燃料電池システム100の停止後、第1の期間経過後に燃料電池システム100を起動させるのは、その後、通常停止処理を行うことで、緊急停止処理では実行されなかった「通常停止処理の少なくとも一部」を実行するためであり、これは、停止処理の一連の処理と理解できるから、「前記強制停止処理による停止後は」、「高温状態からホットスタートにより前記燃料電池を起動可能な起動制御を実行する」ものでない。また、甲4に記載された、緊急停止処理を行い燃料電池システム100の停止後、第1の期間経過後に行われる燃料電池システム100の起動は、ホットスタートによる起動制御でもない。

(エ)甲5には、発電時通常停止では、燃料電池本体7は自立運転で発電を継続させ、燃料電池本体7が一定温度に低下するまで冷却し、その後、システムを停止させ、緊急停止では、燃料電池本体7を冷却することなく直ちに発電を停止させ、全ての機器を停止させることが記載(上記4(5)ウ参照)されているが、緊急停止の後、ホットスタートにより燃料電池を起動可能な起動制御を実行することは記載されていない。

そうすると、上記(ア)ないし(エ)に示すように、甲2ないし甲5をみても、「前記強制停止処理による停止後は」、「高温状態からホットスタートにより前記燃料電池を起動可能な起動制御を実行する」ことは、記載されていないから、甲1発明に、甲2ないし甲5に記載された事項を適用したとしても、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者であっても容易でない。

さらに、甲1発明において、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、次のように、阻害要因がある。すなわち、甲1発明は、「緊急停止の場合は、高温状態の燃料電池スタックへの水素含有ガスの供給が絶たれるため、高温雰囲気下にて金属含有の燃料極の酸化が進行」し、「燃料極は運転中に還元雰囲気に置かれることから、還元と酸化との繰り返しにより、燃料極の劣化、破損が惹起される」(【0008】 上記4(1)ア(ウ))ことを解決する課題としてなされたものと理解できる。しかし、緊急停止要求により、「燃料、水及び空気の供給を停止」し、「モジュール筐体1内を負圧化し」た後に、あるいは、負圧化しているときに、所定温度T1より高い状態で燃料電池スタックに燃料、水及び空気を供給し、起動することは、燃料極に還元と酸化との繰り返しにより、燃料極の劣化、破損が惹起されるものとなるから、甲1発明において、「燃料、水及び空気の供給を停止」した後に、燃料電池スタックに燃料、水及び空気を供給し、起動することには、阻害要因がある。したがって、この点からみても、甲1発明に、甲2ないし甲5に記載された事項を適用したとしても、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者であっても容易でない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、甲2には、「ホットスタンバイ状態からの再起動試験などを実施し、運転制御方法を確立し完全自動化となっている点」が開示されており、「ホットスタンバイ状態から再起動すること」は、本件発明1における「ホットスタート」に相当する旨主張する(特許異議申立書52ページ14行ないし同ページ20行 なお、行数に空白行は含まない。以下同様。)。しかし、本件発明1の「ホットスタート」は、「前記強制停止処理による停止後」「ホットスタートにより前記燃料電池を起動可能な起動制御を実行する」における「ホットスタート」であるのに対し、甲2に記載された「ホットスタンバイ状態から再起動すること」が、「前記強制停止処理による停止後」によるものであることは、明らかでないから、「ホットスタンバイ状態から再起動すること」は、本件発明1における「ホットスタート」に相当するとする申立人の主張は採用できない。
また、申立人は、甲3には、PCSの異常が検知された場合に、燃料電池が電力を出力しない無負荷状態とされるとともに、出力制御部によって燃料電池が発電スタンバイ状態に移行されることで、その異常解消から燃料電池の発電再開までの時間を短縮することができる点が示されている点を鑑みれば、「強制停止処理後はホットスタートにより起動可能な場合があるため、強制停止処理による停止後はホットスタートにより燃料電池を起動可能な起動制御を実行することで、常にコールドスタートで起動するものに比して暖機運転などにかかる時間を抑えて効率よく起動することができ、省エネルギ性を向上させることができる」との本件発明の課題解決原理は、本件特許の出願日前より公知であった旨主張する(特許異議申立書53ページ20行ないし54ページ8行。)。しかし、甲3に示された「発電スタンバイ状態」が本件発明1の「強制停止処理後」に相当しないことは、上記(イ)に示すとおりであるから、申立人の主張は、採用することができない。
さらに、申立人は、甲4に、燃料電池システム100の停止後、(起動指示を受信しなくても)燃料電池システム100が停止してから所定期間経過後に燃料電池システム100の再起動処理を行うように構成されている点が記載されていると主張する(特許異議申立書54ページ17行ないし同ページ21行)。しかし、仮に申立人の主張する事項が甲4に記載されていたとしても、「燃料電池システム100が停止してから所定期間経過後」の「燃料電池システム100の再起動処理」が「ホットスタートにより前記燃料電池を起動可能な起動制御を実行する」ことによるものでない。
申立人は、甲5に、「発電時通常停止(「通常停止」に相当)の場合は、燃料電池本体7は自立運転で発電を継続させるが、燃料電池本体7が一定温度に低下するまで冷却し、その後、システムを停止させる点」及び「緊急停止(「強制停止」に相当)の場合は、燃料電池本体7を冷却することなく直ちに発電を停止させ、全ての機器を停止させる点」が記載されていると主張する(特許異議申立書51ページ1行ないし同ページ9行)。しかし、仮に申立人の主張する事項が甲5に記載されていたとしても、甲5には、「前記強制停止処理による停止後」「ホットスタートにより前記燃料電池を起動可能な起動制御を実行する」ことは、記載されていない。
したがって、申立人の主張は採用することができない。

エ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たものでない。

(2)本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は、請求項1を直接または間接的に引用する請求項であって、本件発明2ないし5は、本件発明1をさらに限定したものである。
また、申立人が、甲1ないし甲5に加えて、本件発明3ないし5が容易に発明することができたものであるとして示す甲6及び甲7をみても、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項は、記載されていない(上記4(6)及び4(7))。
そうすると、上記(1)に示すように、本件発明1が甲1発明、甲2ないし甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたといえないのと同様の理由により、本件発明2も甲1発明、甲2ないし甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、本件発明3ないし5も、甲1発明、甲2ないし甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-09-29 
出願番号 P2019-045619
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 村上 聡
特許庁審判官 八木 敬太
長馬 望
登録日 2023-01-10 
登録番号 7207033
権利者 株式会社アイシン
発明の名称 燃料電池システム  
代理人 弁理士法人アイテック国際特許事務所  

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