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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B25J
管理番号 1403238
総通号数 23 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-07-04 
確定日 2023-10-05 
事件の表示 特願2017−138547「把持システム」拒絶査定不服審判事件〔平成31年2月7日出願公開、特開2019−18280〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成29年7月14日にされた特許出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

令和3年 4月 6日付け:拒絶理由の通知
令和3年 6月11日 :意見書・手続補正書の提出
令和3年10月 5日付け:拒絶理由の通知
令和3年12月13日 :意見書・手続補正書の提出
令和4年 3月30日付け:拒絶査定
令和4年 7月 4日 :拒絶査定不服審判の請求
拒絶査定不服審判の請求と同時:手続補正書の提出
令和5年 2月 8日 :上申書の提出
令和5年 3月22日付け:当審による拒絶理由の通知
令和5年 5月26日 :意見書・手続補正書の提出

第2 本件発明
本件の請求項1〜3に係る発明は、令和5年5月26日に提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定されるとおりのもの(以下、当該補正を「本件補正」という。)であって、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、以下に記載のとおりである。
「 【請求項1】
アーム機構と、
前記アーム機構に取り付けられ、複数の指部によって対象物を把持するハンド機構と、
前記アーム機構を制御するアーム制御装置と、
前記ハンド機構を制御するハンド制御装置と、
前記ハンド機構に設けられ、該ハンド機構の所定の部位が前記対象物に接触したことを検知する接触検知部と、
前記ハンド機構に設けられる信号送信部であって、前記アーム制御装置と電気的に接続されており、該ハンド機構の前記所定の部位が前記対象物に接触したことが前記接触検知部によって検知された時点で、前記アーム機構の動作を停止させるように指令信号を該アーム制御装置に直接送信する信号送信部と、
前記対象物の位置情報を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記対象物の位置情報を補正する位置情報補正部と、を備え、
前記取得部によって取得された前記対象物の位置情報に基づいて決定される該対象物における目標位置に向けて所定の方向から該ハンド機構における前記所定の部位が移動するように、前記アーム制御装置が前記アーム機構を制御するとともに、
前記ハンド機構の前記所定の部位が前記対象物に接触したことが前記接触検知部によって検知されることで前記信号送信部から前記アーム制御装置に前記指令信号が送信されると、該アーム制御装置が前記アーム機構の動作を停止させ、
さらに、前記ハンド機構の前記所定の部位が前記対象物に接触したことが前記接触検知部によって検知されたときの接触位置に関する接触位置情報に基づいて、前記位置情報補正部が、前記取得部によって取得された前記対象物の前記所定の方向の前記位置情報を補正し、
前記所定の方向は、垂直方向又は水平方向である、
把持システム。」(下線は、本件補正の際に請求人が付したものである。)

第3 当審拒絶理由
当審が、令和5年3月22日付けで通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうち、本件補正前の請求項1に係る発明(以下「補正前発明」という。)に対する理由の概要は、以下のとおりである。
補正前発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2記載の技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2010−172992号公報
引用文献2:特開2012−11531号公報

第4 各引用文献に記載された事項及び引用発明等
1 引用発明1
(1)引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
ア 特許請求の範囲
「【請求項1】
所定の自由度を有する動作が可能なアーム部と、前記アーム部の一端部に設けられ所定の物体を把持することが可能なハンド部とを備えるロボットを制御する装置であって、
前記アーム部の他端部が接続される前記ロボットの体幹部に搭載され、作業領域の画像情報を取得する撮像装置と、
前記撮像装置により取得された画像情報に基づいて、前記物体の位置を認識する物体位置認識部と、
前記物体位置認識部により認識された前記物体の位置に基づいて、前記アーム部を動作させるアーム制御部と、
前記撮像装置により取得された画像情報に基づいて、前記ハンド部、前記物体、及び前記撮像装置の相対的な位置関係を認識し、前記位置関係に基づいて、前記ハンド部が前記物体を把持する動作を実行するのに適した適正位置にあるか否かを判定するハンド位置判定部と、
前記ハンド位置判定部により前記ハンド部が前記適正位置にあると判定された場合に、前記ハンド部に前記物体を把持する動作を実行させるハンド制御部と、
前記ハンド位置判定部により前記ハンド部が前記適正位置にないと判定された場合に、前記アーム部に前記ハンド部を前記適正位置に移動させる動作を実行させるアーム修正動作部と、
を備えるロボット制御装置。
・・・
【請求項3】
前記ハンド部が所定の構築物に接触したことを検知する接触検知部を備え、
前記アーム制御部は、前記接触検知部により前記ハンド部の接触が検知された場合に、前記アーム部の動作を停止させる、
請求項2又は3記載のロボット制御装置。」

イ 発明の詳細な説明
(ア)技術分野、背景技術(段落【0001】〜【0002】)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、物体を把持することが可能なロボットを制御する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、アーム部の先端に備えられたハンド部により、所定の物体を把持することが可能なロボットが開発されている。通常、このようなロボットは、物体位置の認識、アーム部の動作、ハンド部の動作等を自律的に実行する。把持動作を成功させるためには、ハンド部の動作を開始する前に、ハンド部を的確な位置に配置することが必要である。このようなハンド部の配置は、アーム部の動作によって行われ、アーム部の動作は、カメラ等の手段を用いた物体位置の認識結果に基づいて行われる。従って、物体位置の認識やアーム部の動作が正確に行われないと、ハンド部を的確な位置に配置することができず、把持動作を失敗する可能性が大きくなる。」

(イ)課題を解決するための手段(段落【0009】、【0012】〜【0013】)
「【0009】
上記本発明によれば、先ず前記撮像装置により取得された画像情報に基づいて、前記物体の位置が認識され、この認識結果に基づいて、前記アーム部の動作が決定される。そして、前記アーム部の動作により、前記ハンド部が、前記物体の把持が可能となる適正位置に配置される。ここで、本発明においては、前記ハンド部が前記物体を把持する動作を実行する前に、前記ハンド位置判定手段により、前記ハンド部の位置が適正なものであるか否かが判定される。即ち、前記撮像装置により取得された画像情報に基づいて、前記ハンド部、前記物体、及び前記撮像装置の相対的な位置関係を把握し、この位置関係が設定条件に適合するか否かを判定することにより、前記ハンド部が前記適正位置にあるか否かが判定される。例えば、前記ハンド部が前記物体を確実に把持することができる位置にある時の前記位置関係を、予め設定しておくことにより、上記判定が可能となる。そして、前記ハンド部が前記適正位置にないと判定された場合には、前記アーム修正動作部により、前記ハンド部の位置を修正するために、前記アーム部の動作が再度実行される。このように、前記ハンド部が前記適正位置に配置されるまで、前記アーム部の動作が繰り返され、前記ハンド部は、前記適正位置に配置された後でなければ把持動作を実行しない。これにより、把持動作の成功率を向上させることができる。また、本発明によれば、前記撮像装置を前記ハンド部や前記アーム部、又は外部施設に搭載する必要がなく、画像処理にかかる負荷も軽度なものとなる。
・・・
【0012】
また、前記ハンド部が所定の構築物に接触したことを検知する接触検知部を備え、前記アーム制御部は、前記接触検知部により前記ハンド部の接触が検知された場合に、前記アーム部の動作を停止させることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、前記物体やこの物体が載置された机等の構築物に前記ハンド部が接触すると、前記アーム部が停止される。これにより、前記ハンド部を前記適正位置、又はその近辺で停止させることができる。」

(ウ)発明を実施するための形態(段落【0018】〜【0030】)
「【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明に係るロボット制御装置1の構成を示す機能ブロック図である。このロボット制御装置1は、撮像装置2、物体位置認識部3、アーム制御部4、ハンド位置判定部5、ハンド制御部6、アーム修正動作部7を備えている。
【0019】
撮像装置2は、レンズ、CCD(Charge Coupled Device)センサ、イメージプロセッサ等を備える周知のデジタルビデオカメラ等の装置であり、ロボットの作業範囲の画像情報を取得するものである。
【0020】
物体位置認識部3は、撮像装置2により取得された画像情報に基づいて、把持動作の対象となる物体の位置を認識する。この物体位置認識部3は、中央処理装置(CPU)、記憶装置(ROM,RAM等)、入出力装置(I/Oポート)、所定のプログラム等の協働により構成される。
【0021】
アーム制御部4は、物体位置認識部3により認識された物体の位置に基づいて、ロボットのアーム部を動作させる。このアーム制御部4は、中央処理装置、記憶装置、入出力装置、所定のプログラム等の協働により構成される。
【0022】
ハンド位置判定部5は、撮像装置2により取得された画像情報に基づいて、ハンド部、物体、及び撮像装置2の相対的な位置関係を認識し、この位置関係に基づいて、ハンド部が物体を把持する動作を実行するのに適した適正位置にあるか否かを判定する。このハンド位置判定部5は、中央処理装置、記憶装置、入出力装置、所定のプログラム等の協働により構成される。
【0023】
ハンド制御部6は、ハンド位置判定部5によりハンド部が適正位置にあると判定された場合に、ハンド部に物体を把持する動作を実行させる。このハンド制御部6は、中央処理装置、記憶装置、入出力装置、所定のプログラム等の協働により構成される。
【0024】
アーム修正動作部7は、ハンド位置判定部5によりハンド部が適正位置にないと判定された場合に、アーム部にハンド部を適正位置に移動させる動作を実行させる。このアーム修正動作部7は、中央処理装置、記憶装置、入出力装置、所定のプログラム等の協働により構成される。
【0025】
図2(a)及び図3(a)は、上記構成のロボット制御装置1 が適用されるロボット11の例を示している。同図において、ロボット11のアーム部12、ハンド部13、撮像装置2、体幹部14、駆動部15が示されている。アーム部12は、各種の関節構造やアクチュエータを備え、所定の自由度を有する動作が可能な機構である。ハンド部13は、アーム部1 2 の一端部に設けられ、各種の関節構造やアクチュエータを備え、所定の物体21を把持可能な、例えば指形状の機構を備えるものである。体幹部14は、ロボット11の体躯を構成する部分であり、アーム12の他端部が接続されている。また、体幹部14の一部を構成する頭部16には、撮像装置2が搭載されている。更に、体幹部14の下部には、車輪、モータ等から構成される駆動部15が設けられている。また、同図において、ハンド部13による把持動作の対象となる物体21、物体21が載置される机22が示されている。
・・・
【0028】
図5は、上記構成のロボット制御装置1による処理の流れを示している。先ず、物体位置認識部3により、撮像装置2からの画像情報を入力し(S101)、この画像情報に基づいて、物体21の3次元位置を推定する(S102)。その後、アーム制御部4は、推定された物体21の位置に基づいて、ハンド部13を物体21まで移動させるためのアーム部12の動作軌道を計画し(S201)、アーム部12の各関節機構への指令値を生成し(S202)、アーム部12を動作させる(S203)。
【0029】
その後、アーム制御部4は、ハンド部13が所定の構築物に接触したか否かを判定する(S204)。この接触についての判定は、図6に示すように、ハンド部13に備えられた接触センサ31等の手段を利用して行うことができる。接触センサ31としては、周知のものを適宜利用することができる。例えば、接触センサ31をハンド部13の指状部材25の先端に設置することが好ましい。上記ステップS204(図5参照)において、ハンド部13の接触が検知されない場合(N)には、アーム部12の動作を継続し(S203)、ハンド部13の接触が検知された場合(Y)には、アーム部12の動作を終了する(S205)。
【0030】
上記のようにして、アーム部12の動作が一端終了すると、ハンド位置判定部5は、撮像装置2からハンド部13周辺の画像情報を入力し(S301)、この情報内に物体21の画像が存在するか否かを判定する(S302)。このステップS302において、物体21が存在すると判定された場合(Y)には、ハンド部13は適正位置にないとして、ステップS101に戻り、再度アーム部12の動作を実行する。一方、物体21が存在しないと判定された場合(N)には、ハンド部13が適正位置にあるとして、ハンド制御部8によるハンド部13の動作が実行される(S401)。ハンド制御部8は、ハンド部13が物体21を把持したか否かを判定し(S402)、把持していないと判定された場合(N)には、ステップS401に戻りハンド部13の動作を継続し、把持したと判定された場合(Y)には、ハンド部13の動作を終了する(S403)。」

ウ 図面(【図1】〜【図3】、【図5】〜【図6】)
「【図1】

【図2】


【図3】

【図5】

【図6】



(2)上記(1)から、引用文献1には以下の事項が記載されていると理解することができる。
ア 上記(1)ア及び(1)イ(ア)の記載から、引用文献1には、物体21を把持することが可能なロボット11を制御するロボット制御装置1が記載されていることがわかる。

イ 上記(1)イ(ウ)の記載、並びに上記(1)ウの【図2】〜【図3】及び【図5】〜【図6】から、引用文献1に記載されたロボット制御装置1が適用されるロボット11(段落【0025】)は、
アーム部12(段落【0025】、【図2】〜【図3】)と、
アーム部12の一端部に設けられ、複数の指状部材25によって物体21を把持するハンド部13(段落【0025】、【0029】〜【0030】、【図2】〜【図3】、【図6】)と、
アーム部12を制御するアーム制御部4(段落【0021】、【図5】)と、
ハンド部13を制御するハンド制御部6(段落【0023】、【図5】)と、
ハンド部13に設けられ、ハンド部13の指状部材25の先端が所定の構築物に接触したことを検知する接触センサ31(段落【0029】、【図6】)と、
物体21の3次元位置を認識する撮像装置2及び物体位置認識部3(段落【0019】、【0020】、【0028】、【図5】のS101〜102)と、を備えると理解できる。
また、上記(1)イ(イ)の段落【0013】の記載から、「所定の構築物」とは、物体21やこの物体が載置された机等の構築物であることがわかる。

ウ 上記(1)イ(ウ)の段落【0029】及び上記(1)ウの【図5】から、引用文献1に記載されたロボット制御装置1は、ハンド部13の指状部材25の先端が所定の構築物に接触したことが接触センサ31によって検知された時点(段落【0029】、【図5】のS204にて(Y))で、アーム部12の動作を終了させる(段落【0029】、【図5】のS205)ものであることがわかる。
また、段落【0029】のS204に関する記載、及び【図5】からみて、接触センサ31にてハンド部13の指状部材25の先端と所定の構築物との接触を検知した際の検出信号(以下「接触検知信号」という。)は、「接触センサ31」から「ハンド制御部6」を介することなく「アーム制御部4」に送信されるものであることがわかり、当該接触検知信号は「接触センサ31」から電気的に接続された「アーム制御部4」に直接送信されるものである、といえる。
してみると、引用文献1のロボット制御装置1のハンド部13に設けられる接触センサ31は、上記イに示したハンド部13の指状部材25の先端が所定の構築物に接触したことを検知する機能のほか、アーム制御部4と電気的に接続されており、ハンド部13の指状部材25の先端が所定の構築物に接触したことが検知された時点で、アーム部12の動作を終了させるように接触検知信号をアーム制御部4に直接送信する機能(以下「接触センサ31の送信機能部分」という。)も備えることがわかる。

エ 上記(1)イ(イ)の段落【0009】、【0013】及び同(ウ)の段落【0021】、【0028】〜【0029】の記載、及び上記(1)ウの【図5】から、引用文献1に記載されたロボット制御装置1は、撮像装置2及び物体位置認識部3によって認識された物体21の3次元位置(S101〜102)に基づいて決定される物体21における適正位置に向けて計画された動作軌道(S201)にてハンド部13における指状部材25の先端が移動する(S203〜S204)ように、アーム制御部4がアーム部12を制御する(S202〜S204)ものであることがわかる。
また、上記ウのとおり、引用文献1に記載されたロボット制御装置1は、ハンド部13の指状部材25の先端が所定の構築物に接触したことが接触センサ31によって検知される(S204)ことで接触センサ31の送信機能部分からの接触検知信号がアーム制御部4に直接送信されると、アーム制御部4がアーム部12の動作を終了させる(S205)ものであることがわかる。

(3)上記(1)及び(2)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「アーム部12と、
アーム部12の一端部に設けられ、複数の指状部材25によって物体21を把持するハンド部13と、
アーム部12を制御するアーム制御部4と、
ハンド部13を制御するハンド制御部6と、
ハンド部13に設けられ、ハンド部13の指状部材25の先端が所定の構築物に接触したことを検知する接触センサ31と、
ハンド部13に設けられる接触センサ31の送信機能部分であって、アーム制御部4と電気的に接続されており、ハンド部13の指状部材25の先端が所定の構築物に接触したことが接触センサ31によって検知された時点で、アーム部12の動作を終了させるように接触検知信号をアーム制御部4に直接送信する接触センサ31の送信機能部分と、
物体21の3次元位置を認識する撮像装置2及び物体位置認識部3と、
を備え、
撮像装置2及び物体位置認識部3によって認識された物体21の3次元位置に基づいて決定される物体21における適正位置に向けて計画された動作軌道にてハンド部13における指状部材25の先端が移動するように、アーム制御部4がアーム部12を制御するとともに、
ハンド部13の指状部材25の先端が所定の構築物に接触したことが接触センサ31によって検知されることで接触センサ31の送信機能部分からの接触検知信号がアーム制御部4に直接送信されると、アーム制御部4がアーム部12の動作を終了させる、
ロボット制御装置1が適用されるロボット11。」

2 引用文献2記載の技術的事項
(1)引用文献2には、以下の事項が記載されている。
ア 発明の詳細な説明
(ア)技術分野、背景技術(段落【0001】〜【0004】)
「【技術分野】
【0001】
この発明は、ロボット装置およびロボット装置による把持方法に関し、特に、ロボットアームおよび多指ハンド部を備えたロボット装置およびロボット装置による把持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットアームおよび多指ハンド部を備えたロボット装置が知られている(たとえば、特許文献1および2参照)。
【0003】
上記特許文献1には、ロボットアームと、ロボットアームの先端に設けられた多指ハンド部と、カメラとを備えたロボット装置が開示されている。
【0004】
また、上記特許文献2には、ロボットアームと、ロボットアームの先端に設けられた多指ハンド部と、カメラと、対象物の形状などの情報が登録されたデータベースとを備えたロボット装置が開示されている。」

(イ)発明が解決しようとする課題(段落【0006】)
「【0006】
しかしながら、従来のロボット装置では、画像データに基づいて対象物の位置情報を取得して、取得した位置情報に基づいて対象物の把持を行っているので、ロボット装置(ロボットアームおよび多指ハンド部)の座標系とカメラの座標系とが正確に一致していない場合など、画像認識による対象物の位置情報に誤差が含まれる場合には、対象物の正確な位置情報を取得することができない場合があるという不都合がある。この場合には、対象物を把持することが困難になるという問題点がある。」

(ウ)発明を実施するための形態:第1実施形態によるロボット装置100の構造(段落【0022】〜【0038】)
「【0022】
(第1実施形態)
まず、図1を参照して、本発明の第1実施形態によるロボット装置100の構造について説明する。なお、第1実施形態では、日常生活(環境)において用いられる生活支援ロボットに本発明を適用した例について説明する。
【0023】
図1に示すように、第1実施形態によるロボット装置100は、ユーザの指示に基づいてロボットアーム10の先端に装着された多指ハンド部20により物体(把持対象物110)を把持して持ち上げ、指定された位置に物体を移動させる機能を有する。
【0024】
ロボット装置100は、ロボットアーム10と、ロボットアーム10の先端に装着された多指ハンド部20と、把持対象物110および把持対象物110の周辺を検出する視覚センサ30と、ロボット装置100の動作制御を行う制御装置40とを備えている。なお、視覚センサ30は、本発明の「検出手段」の一例であるとともに、制御装置40は、本発明の「制御部」の一例である。
【0025】
ロボットアーム10は、複数のアーム(リンク)11および各アーム11を接続する関節部12とを含んでいる。各関節部12には図示しないモータがそれぞれ設けられており、各関節部12は接続されたアーム11を所定の駆動方向(関節軸回りの回転方向)に駆動するように構成されている。これにより、ロボットアーム10は、たとえば6自由度の動きが可能な構成を有する。
【0026】
多指ハンド部20は、ロボットアーム10の先端に装着されているとともに、等角度間隔で配置された3本の指部21、22および23を含んでいる。3本の指部21、22および23は、同一の構成を有するとともに、先端(指先)にそれぞれ力センサ21a、22aおよび23aを有している。また、各指部21、22および23は、それぞれ、根元側の関節部21b、22bおよび23bと、中間部の関節部21c、22cおよび23cとを有する。各指部21、22および23は、これらの関節部(21b?23bおよび21c?23c)に設けられた図示しないモータにより、所定の駆動方向(関節軸回りの回転方向)に駆動されるように構成されている。したがって、指部21、22および23の自由度は、それぞれ、2自由度である。なお、力センサ21a、22aおよび23aは、本発明の「指先力センサ」の一例である。
【0027】
力センサ21a、22aおよび23aは、それぞれ、直交する3軸方向の力を検出する圧力センサからなる。この力センサ21a、22aおよび23aは、それぞれ、指部21、22および23の指先に加えられた外力(負荷)を検出するように構成されている。また、力センサ21a、22aおよび23aの検出信号は、制御装置40に出力されるように構成されている。これにより、第1実施形態では、力センサ21a、22aおよび23aの出力に基づいて、多指ハンド部20(指部21、22および23)と物体(把持対象物110および周囲の壁やテーブルなどの物体)との接触を検出することが可能なように構成されている。
【0028】
視覚センサ30は、把持対象物110および把持対象物110の周囲を撮像するカメラにより構成されている。視覚センサ30により撮像される画像データは、制御装置40により取り込まれるように構成されている。
【0029】
制御装置40は、アーム制御部41と、ハンド制御部42と、画像処理部43と対象物データベース44とを含んでいる。また、制御装置40には、ロボット装置100の動作制御を行うための作業動作プログラム45が記憶されている。なお、画像処理部43は、本発明の「情報取得手段」の一例である。
【0030】
アーム制御部41は、作業動作プログラム45に基づいて、ロボットアーム10の各部の動作制御を行う機能を有する。具体的には、アーム制御部41は、画像処理部43により取得された把持対象物110の位置情報および姿勢情報に基づいてロボットアーム10の各関節部12を駆動させるように構成されている。また、把持対象物110の把持動作時には、アーム制御部41は、把持対象物110へのアプローチ動作(ロボットアーム10を移動させて把持対象物110に多指ハンド部20を近づけていく動作)を行うようにロボットアーム10を制御するように構成されている。
【0031】
ハンド制御部42は、作業動作プログラム45に基づいて、多指ハンド部20の各指部21?23の動作制御を行う機能を有する。具体的には、ハンド制御部42は、多指ハンド部20の3本の指部21、22および23をそれぞれ制御することによって、把持対象物110を把持する把持姿勢や、把持姿勢の前段階としてのアプローチ姿勢(把持姿勢をとるために把持対象物110の近傍(周囲)に各指部を配置する姿勢)をとる把持動作制御を行うように構成されている。
【0032】
また、把持対象物110の把持動作においては、ハンド制御部42は、力センサ21a、22aおよび23aの出力に基づいて力制御(インピーダンス制御)を行うことにより、多指ハンド部20(指部21、22および23)を把持対象物110の位置が変化しないような強さで把持対象物110に接触させることが可能なように構成されている。具体的には、各指部21、22および23に対して、仮想的な機械インピーダンス(慣性係数、粘性係数および剛性(バネ)係数)によって力と変位量との関係を規定するインピーダンスモデルを設定するとともに、各指部21、22および23への入力位置指令に対して、インピーダンスモデルに基づいて力センサ21a、22aおよび23aの出力(力情報)を位置変位量に変換してフィードバックすることにより、入力位置指令の修正を行う。この仮想的な機械インピーダンス(慣性係数、粘性係数および剛性(バネ)係数)の値を小さく設定する場合には、外力に対する抵抗力が小さくなるので、物体との接触時に物体に作用する力を小さくすることができる。したがって、この機械インピーダンスの値を適切に調整することにより、把持対象物110に対していわゆる柔らかい接触が可能になり、把持対象物110の位置を変化させることなく多指ハンド部20を把持対象物110に接触させることが可能である。
【0033】
画像処理部43は、視覚センサ30により撮像された画像データを取り込み、画像データを画像処理することにより、把持対象物110の位置情報、姿勢(向き)情報、形状情報を取得することが可能なように構成されている。ここで、把持対象物110の位置情報は、視覚センサ30に設定された座標系(たとえばX、YおよびZ軸の直交座標系)における3自由度の位置の情報である。また、把持対象物110の姿勢情報は、視覚センサ30に設定された座標系(たとえばX、YおよびZ軸の直交座標系)における各軸回りの3自由度の回転角度位置の情報である。これらの位置情報および姿勢情報を、視覚センサ30の座標系からロボットアーム10および多指ハンド部20の座標系へと変換すれば、ロボットアーム10および多指ハンド部20の座標系における把持対象物110の位置情報および姿勢情報が得られる。また、把持対象物110の形状情報は、画像処理によって取得される把持対象物110の輪郭などの情報である。この形状情報を対象物データベース44の情報と照合することにより、画像データに含まれる形状(把持対象物110の形状)から対象物データベース44に登録された把持対象物110が特定される。
【0034】
対象物データベース44は、把持対象となる物体を予め把持対象物110として登録可能に構成され、把持対象物110の寸法情報や、多指ハンド部20による把持位置(把持対象物110に対してどの位置で把持するか)および把持姿勢(どの方向からどの関節角度で把持するか(たとえば、上方から把持する、側方から把持するなど))を定めた把持形態データなどを含んでいる。制御装置40は、画像処理部43によって検出された把持対象物110の形状情報を対象物データベース44の情報と照合することにより、把持対象物110の寸法情報などを取得することが可能なように構成されている。
【0035】
上記の構成により、制御装置40は、視覚センサ30により撮像された画像データに基づいて把持対象物110の位置情報、姿勢情報、寸法情報、把持位置および把持姿勢を取得するとともに、これらの情報に基づいてアーム制御部41およびハンド制御部42を介してロボットアーム10および多指ハンド部20を駆動することにより、把持対象物110の把持動作を行うように構成されている。しかしながら、視覚センサ30により撮像された画像データに基づいて取得された把持対象物110の位置情報および姿勢情報に誤差が含まれる場合などには、多指ハンド部20による把持位置および把持姿勢(把持する方向)がずれてしまう場合がある。
【0036】
つまり、視覚センサ30により取得された把持対象物110の位置情報および姿勢情報に基づいてロボットアーム10および多指ハンド部20を駆動するためには、視覚センサ30の座標系(カメラ座標系)とロボットアーム10および多指ハンド部20の座標系(ロボット装置100の座標系)とが正確に一致することが必要である。このため、両方の座標系を一致させるためのキャリブレーション(校正)が予め行われる。しかしながら、キャリブレーションが不十分な場合や、ロボットアーム10および多指ハンド部20と、視覚センサ30との位置関係が変化する場合などもある。この場合には、把持対象物110の位置情報および姿勢情報に誤差が含まれることに起因して、多指ハンド部20による把持位置および把持姿勢(把持する方向)がずれてしまうことになる。
【0037】
そこで、この第1実施形態では、把持対象物110に対する実際の接触位置の情報に基づいて把持対象物110の位置情報および姿勢情報を修正することにより、多指ハンド部20による把持位置および把持姿勢がずれるのを抑制するように構成している。すなわち、制御装置40は、視覚センサ30により取得された把持対象物110の位置情報および姿勢情報に基づいてロボットアーム10を移動させて把持対象物110に多指ハンド部20を近づけていき、多指ハンド部20の各指先の力センサ21a、22aおよび23aの出力に基づいて把持対象物110に対する実際の接触位置を検出するように構成されている。具体的には、力センサ(21a、22aおよび23a)が把持対象物110に対する接触を検出した時の接触位置を、ロボットアーム10の関節角度および多指ハンド部20の関節角度から算出する。そして、制御装置40は、検出した接触位置の情報に基づいて把持対象物110の位置情報および姿勢情報を修正する位置補正機能を有している。また、第1実施形態では、制御装置40は、この位置補正機能を使用するか否かをユーザにより設定可能に構成されている。
【0038】
なお、位置補正機能を実行する際には、上記のように力センサ21a、22aおよび23aの出力に基づいてハンド制御部42により力制御(インピーダンス制御)を行うことによって、多指ハンド部20の3つの指部21、22および23の全てが把持対象物110に接触するようにロボットアーム10と各指部21、22および23とを駆動したとしても、把持対象物110の位置が変位するような力が把持対象物110に対して加わることなく動作することが可能である。」

(エ)発明を実施するための形態:第1実施形態によるロボット装置100の把持動作時の処理フロー(段落【0039】〜【0051】)
「【0039】
次に、図2を参照して、本発明の第1実施形態によるロボット装置100の把持動作時の制御装置40の処理フローを説明する。この第1実施形態では、制御装置40の作業動作プログラム45に基づいてロボット装置100の把持動作が行われる。
【0040】
まず、図2に示すように、ステップS1において、視覚センサ30により撮像された画像データに基づき、制御装置40の画像処理部43により把持対象物110の位置情報、姿勢情報および形状情報が取得される。次に、ステップS2において、取得された把持対象物110の形状情報を制御装置40の対象物データベース44内のデータと照合することにより、形状情報に対応する把持対象物110の寸法情報や、把持対象物110の把持形態データ(把持位置および把持姿勢)などが取得される。
【0041】
ステップS3では、取得された把持対象物110の位置情報および姿勢情報と、把持対象物110の寸法情報および把持形態データとに基づいて、アーム制御部41およびハンド制御部42により、把持対象物110の把持位置への移動経路、および、把持姿勢に対応する多指ハンド部20のアプローチ姿勢(各指部21、22および23の関節角度、指部同士の間隔など)が決定される。そして、各指部21、22および23の関節部(21b?23bおよび21c?23c)が駆動されることにより、多指ハンド部20の各指部21、22および23が把持対象物110に対するアプローチ姿勢となるように配置される。
【0042】
次に、ステップS4において、制御装置40により、ユーザにより位置補正機能が有効に設定されているか否かが判断される。そして、位置補正機能が有効に設定されていた場合には、ステップS5に進み、接触位置の検出および位置情報(姿勢情報)の修正が実行される。また、位置補正機能が無効に設定されていた場合には、ステップS9に進む。
【0043】
ステップS5では、取得された把持対象物110の位置情報および姿勢情報に基づいて制御装置40のアーム制御部41によりロボットアーム10が移動され、多指ハンド部20を把持対象物110に近づけるアプローチ動作が開始される。
【0044】
アプローチ動作を継続すると、多指ハンド部20が把持位置に配置された後、アプローチ姿勢から把持姿勢に近づけるように各指部21、22および23が駆動される。このとき、把持対象物110の位置情報に誤差が含まれる場合には、多指ハンド部20が把持位置へ移動する過程、または、把持位置においてアプローチ姿勢から把持姿勢に近づけるように各指部21、22および23が駆動される過程において、多指ハンド部20の指部21、22および23のそれぞれと把持対象物110とが接触する。これにより、指部21、22および23の先端の力センサ21a、22aおよび23aにより把持対象物110に対する接触が検出される。この際、制御装置40のハンド制御部42が各指部21、22および23の力制御(インピーダンス制御)を行うことにより、把持対象物110の位置が変化しないような強さで(いわゆる柔らかい接触で)接触動作が行われる。把持対象物110に対する接触が検出されると、ロボットアーム10および多指ハンド部20の動作が一旦停止される。
【0045】
ステップS6では、力センサ21a、22aおよび23aにより把持対象物110に対する接触が検出された位置(接触位置)が、それぞれ制御装置40(ハンド制御部42)により取得される。このステップS6により、把持対象物110の実際の位置(ロボットアーム10および多指ハンド部20の座標系における位置)が取得される。また、把持対象物110に対する複数(3点)の接触位置に基づいて、把持対象物110の実際の姿勢が算出される。
【0046】
なお、上記ステップS1で取得された把持対象物110の位置情報に誤差が含まれる場合には、検出された実際の接触位置と画像データに基づく位置情報とには、位置ずれが生じることになる。同様に、上記ステップS1で取得された把持対象物110の姿勢情報に誤差が含まれる場合には、実際の把持対象物110の姿勢と画像データに基づく姿勢情報とには、姿勢(向き)のずれが生じることになる。
【0047】
そこで、ステップS7では、検出された3点の接触位置の情報に基づいて、把持対象物110の位置情報および姿勢情報が修正される。これに伴い、修正後の把持対象物110の位置情報および姿勢情報に基づいて、アーム制御部41によりロボットアーム10の位置(すなわち、多指ハンド部20の把持位置)が修正されるとともに、ハンド制御部42により多指ハンド部20(指部21、22および23)の把持姿勢が修正される。
【0048】
その後、ステップS8では、修正された把持位置に多指ハンド部20が配置された状態で、ハンド制御部42により指部21、22および23がそれぞれ移動され、多指ハンド部20が修正された把持姿勢をとることにより、把持対象物110の把持が実行される。
・・・
【0050】
第1実施形態では、上記のように、把持対象物110の位置情報に基づいてロボットアーム10を移動させて把持対象物110に多指ハンド部20を近づけていき、多指ハンド部20の力センサ21a、22aおよび23aの出力に基づいて把持対象物110に対する実際の接触位置を検出し、検出した接触位置に基づいて把持対象物110の位置情報を修正する制御装置40を設けることによって、多指ハンド部20による把持対象物110に対する実際の接触位置に基づいて把持対象物110の位置情報を修正することができる。これにより、画像処理部43により取得した把持対象物110の位置情報に誤差が含まれる場合にも、実際の接触位置に基づいて把持対象物110の位置情報のずれを修正することができるので、把持対象物110を確実に把持することができる。
【0051】
また、第1実施形態では、上記のように、制御装置40を、接触位置を用いて修正された位置情報に基づいて多指ハンド部20の把持位置を修正するとともに、多指ハンド部20により把持対象物110を把持する制御を行うように構成することによって、把持対象物110の位置情報に誤差が含まれる場合にも、実際の接触位置に基づいて把持位置が修正された多指ハンド部20により把持対象物110を確実に把持することができる。」

(オ)第1実施形態の変更例(段落【0099】〜【0104】)
「【0099】
また、上記第1〜第3実施形態では、多指ハンド部の3本の指部にそれぞれ指先力センサを設けた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、少なくとも1本の指部に指先力センサが設けられていればよい。
・・・
【0101】
また、上記第1〜第3実施形態におけるロボット装置の動作説明においては、把持対象物に対する実際の接触位置を検出し、検出した接触位置に基づいて把持対象物の位置情報および姿勢情報を修正する例を説明したが、本発明はこれに限られない。本発明では、実際の接触位置の検出は、把持対象物以外の物体を対象物としてもよい。すなわち、把持対象物110がテーブル(図5参照)などの上面に設置されている場合には、まずテーブルに多指ハンド部20の指部21、22または23を接触させ、テーブルに対する接触位置を検出することにより、把持対象物110の高さ位置(Z軸方向の位置情報)に関する位置情報を修正することが可能である。
・・・
【0104】
また、上記第1〜第3実施形態では、検出した接触位置に基づいて把持対象物の位置情報および姿勢情報を修正する例を説明したが、本発明はこれに限られない。本発明では、検出した接触位置に基づいて把持対象物の位置情報のみを修正するように構成してもよい。」

イ 図面(【図1】〜【図2】)
「【図1】



【図2】



(2)上記(1)から、引用文献2には以下の事項が記載されていると理解することができる。
ア 上記(1)ア(ウ)の段落【0023】に記載された事項から、引用文献2には、把持対象物110を把持することが可能なロボット装置100が記載されているといえる。

イ 上記(1)ア(ウ)及び(エ)の以下の括弧内の段落に記載された事項から、引用文献2に記載されたロボット装置100は、
ロボットアーム10(段落【0025】)と、
ロボットアーム10の先端に装着され、指部21、22及び23によって把持対象物110を把持する多指ハンド部20(段落【0023】、【0026】、【0048】)と、
ロボットアーム10を制御するアーム制御部41(段落【0030】)と、
多指ハンド部20を制御するハンド制御部42(段落【0031】)と、
多指ハンド部20に設けられ、多指ハンド部20の指部21、22及び23の指先が把持対象物110等に接触したことを検知する力センサ21a、22a及び23a(段落【0026】〜【0027】、【0044】)と、
把持対象物110の位置情報を取得する視覚センサ30及び画像処理部43(段落【0024】、【0028】、【0033】、【0040】)と、
視覚センサ30及び画像処理部43によって取得された把持対象物110の位置情報を修正する制御装置40(段落【0037】、【0047】)と、
を備えていることがわかる。

ウ 上記(1)ア(エ)の以下の括弧内の段落に記載された事項から、引用文献2に記載されたアーム制御部41は、
視覚センサ30及び画像処理部43によって取得された把持対象物110の位置情報に基づいて、把持対象物110の把持位置への移動経路を決定し(段落【0040】、【0041】、【0044】)、多指ハンド部20における指部21、22及び23の指先を把持対象物110に近づけるようにロボットアーム10を移動させる(段落【0043】)制御を行うことがわかる。

エ 上記(1)ア(エ)の段落【0044】に記載された事項から、引用文献2に記載されたアーム制御部41は、
多指ハンド部20の指部21、22及び23の指先が把持対象物110に接触したことが力センサ21a、22a及び23aによって検知されると、ロボットアーム10の動作を停止させることがわかる。

オ 上記(1)ア(エ)の以下の括弧内の段落に記載された事項から、引用文献2に記載された制御装置40は、
多指ハンド部20の指部21、22及び23の指先が把持対象物110等に接触したことが力センサ21a、22a及び23aによって検知されたときの接触位置を取得すること(段落【0045】)、及び、接触位置に関する接触位置情報に基づいて、視覚センサ30及び画像処理部43によって取得された把持対象物110の位置情報を修正すること(段落【0047】)ができるものであるとわかる。
なお、段落【0045】及び【0047】には、多指ハンド部20の指部21、22及び23の指先の力センサ21a、22a及び23aによって、把持対象物110に対する複数(3点)の接触位置を取得する態様が記載される。
他方、段落【0044】には、「把持対象物110の位置情報に誤差が含まれる場合には、多指ハンド部20が把持位置へ移動する過程、または、把持位置においてアプローチ姿勢から把持姿勢に近づけるように各指部21、22および23が駆動される過程において、多指ハンド部20の指部21、22および23のそれぞれと把持対象物110とが接触する。」と記載されることからみて、引用文献2に記載の制御装置40による接触位置の検知は、「把持位置においてアプローチ姿勢から把持姿勢に近づけるように各指部21、22および23が駆動される過程」で3点の接触位置を取得する態様のみならず、「多指ハンド部20が把持位置へ移動する過程」での接触検知の態様も想定していることが理解できる。

(3)上記(1)及び(2)から、引用文献2には、次の技術的事項(以下「引用文献2記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「把持対象物110を把持することが可能なロボット装置100であって、
ロボットアーム10と、
ロボットアーム10の先端に装着され、指部21、22及び23によって把持対象物110を把持する多指ハンド部20と、
ロボットアーム10を制御するアーム制御部41と、
多指ハンド部20を制御するハンド制御部42と、
多指ハンド部20に設けられ、多指ハンド部20の指部21、22及び23の指先が把持対象物110等に接触したことを検知する力センサ21a、22a及び23aと、
把持対象物110の位置情報を取得する視覚センサ30及び画像処理部43と、
視覚センサ30及び画像処理部43によって取得された把持対象物110の位置情報を修正する制御装置40と、を備え、
視覚センサ30及び画像処理部43によって取得された把持対象物110の位置情報に基づいて、把持対象物110の把持位置への移動経路を決定し、多指ハンド部20における指部21、22及び23の指先を把持対象物110に近づけるように、アーム制御部41がロボットアーム10を制御するとともに、
多指ハンド部20の指部21、22及び23の指先が把持対象物110に接触したことが力センサ21a、22a及び23aによって検知されると、アーム制御部41がロボットアーム10の動作を停止させ、
さらに、多指ハンド部20の指部21、22及び23の指先が把持対象物110等に接触したことが力センサ21a、22a及び23aによって検知されたときの接触位置に関する接触位置情報に基づいて、制御装置40が、視覚センサ30及び画像処理部43によって取得された把持対象物110の位置情報を修正すること。」

3 周知技術
(1)周知例1に記載された事項
ア 新たに周知例として示す特開2015−85458号公報(以下「周知例1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項6】
力を検出する力検出部が設けられた作業部の一点を対象物に接触させ、前記対象物と接触した位置を前記作業部の一点の基準点と定める制御部と、
を備えるロボット制御装置。
・・・
【請求項9】
前記制御部は、前記作業部の一点を前記対象物に接触させる際、前記作業部の一点を水平面に垂直な方向に移動させ、前記対象物と接触した位置の前記垂直な方向の座標値を前記基準点の前記垂直な方向の座標値と定める請求項6から請求項8のいずれか1項に記載のロボット制御装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記作業部の一点を前記対象物に接触させる際、前記作業部の一点を前記水平面に平行な方向に移動させ、前記対象物と接触した位置の前記平行な方向の座標値を前記基準点の前記平行な方向の座標値と定める前記請求項9に記載のロボット制御装置。」

(イ)発明の詳細な説明
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット制御装置、ロボットシステム、及びロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
製造等の作業現場では、製品の組み立てや検査等の作業に多軸ロボットが用いられ、人手で行っていた作業の自動化が図られてきた。ロボットを構成するハンド等の構成部を動作させる際、その位置及び姿勢には作業に応じた精度が求められる。そこで、作業環境において予めキャリブレーション(calibration、校正ともいう)を行って基準点の位置を取得しておく。従来、キャリブレーションは、主に人手で厳密に行われていた。例えば、0.02mmの精度を確保するために、キャリブレーションだけで数時間から1日以上費やされることもあった。
ここで、キャリブレーションを厳密に行った上で、特許文献1、特許文献2に記載されているような作業が行われていた。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、キャリブレーションが行われていない場合や、行われていたとしても不十分な場合には、特許文献1、2に記載の方法では、ロボットが設置された位置、姿勢、その他の要因により精度が確保されない。そのため、対象物を把持するハンドが意図せずに対象物に接触することや、対象物やハンド自体が破損するおそれがあった。
・・・
【0013】
(6)本発明の他の態様は、上記のロボット制御装置において、力を検出する力検出部が設けられた作業部の一点を対象物に接触させ、前記対象物と接触した位置を前記作業部の一点の基準点と定める制御部と、を備えるロボット制御装置である。
この構成によれば、対象物とロボットの作業部の端点とが接触した位置を作業部の位置や姿勢を制御する際の基準点として人手に頼らずに定められる。そのため、キャリブレーションに係る作業を効率化することができる。
・・・
【0016】
(9)本発明の他の態様は、上記のロボット制御装置であって、前記制御部は、前記作業部の一点を前記対象物に接触させる際、前記作業部の一点を水平面に垂直な方向に移動させ、前記対象物と接触した位置の前記垂直な方向の座標値を前記基準点の前記垂直な方向の座標値と定める。
この構成によれば、基準点からの水平面に垂直な方向への基準点の座標値を人手に頼らずに定められるのでキャリブレーションに係る作業を効率化することができる。
【0017】
(10)本発明の他の態様は、上記のロボット制御装置であって、前記制御部は、前記作業部の一点を前記対象物に接触させる際、前記作業部の一点を前記水平面に平行な方向に移動させ、前記対象物と接触した位置の前記平行な方向の座標値を前記基準点の前記平行な方向の座標値と定める。
この構成によれば、基準点からの水平面に平行な方向への基準点の座標値を人手に頼らずに定められるのでキャリブレーションに係る作業を効率化することができる。
・・・
【0035】
ハンド26は、例えば、少なくとも2個の指状の構成部を備える。指状の構成部を、指と呼ぶ。ハンド26は、指を用いて対象物(例えば、W1、W2)を把持することができる。ハンド26は、アームの22の先端部に対して着脱可能であってもよい。ハンド26は、エンドエフェクターの一種ということができる。つまり、ロボット20は、ハンド26に代え、又はハンド26とともにハンド26以外の種類のエンドエフェクターを備えてもよい。エンドエフェクターとは、対象物を把持したり、持ち上げたり、吊り上げたり、吸着したり、加工する、等の操作を行う部材である。エンドエフェクターは、ハンドフック、吸盤、等、様々な形態をとることができる。また、エンドエフェクターは、1本のアーム22について各1個に限らず、2個、又は2個よりも多く備えられてもよい。
・・・
【0087】
次に、キャリブレーション処理におけるハンド26の動作例について説明する。
図8は、本実施形態に係るキャリブレーション処理におけるハンド26の動作の一例を示す図である。
図8において、上方、右方は、それぞれZ方向、X方向を示す。破線で表されたハンド26は、対象物W12から第2の距離としてL2だけZ方向に離れていることを示す(図7、ステップS104)。対象物W12の表面は、XY平面上にある。実線で表されたハンド26は、ハンド26の端点(この例では、最先端)が対象物W12に接触していることを示す(図7、ステップS107)。ハンド26の直上に示した下向きの矢印は、ハンド26を破線で示した位置から実線で示した位置に移動させることを示す。即ち、図8は、ハンド26をZ方向に移動させ、対象物W12に接触した位置をもってZ座標の基準点を定めることを示す(図7、ステップS109)。
【0088】
図9は、本実施形態に係るキャリブレーション処理におけるハンド26の動作の他の例を示す図である。
この例では、目標位置は対象物W11の側面に設定され、ステップS111(図7)によりハンド26をX方向に動作させてX座標の基準点を定める場合を示す。破線で表されたハンド26は、長手方向がZ方向を向くように配置された対象物W11から第2の距離としてL2だけX方向に離れていることを示す。実線で表されたハンド26は、ハンド26の端点(この例では、側面)が対象物W11に接触していることを示す。この位置において、ハンド26の端点のX座標のキャリブレーションが行われる(図7、ステップS109)。ハンド26の左側面に示した右向きの矢印は、ハンド26を破線で示した位置から実線で示した位置に移動させることを示す。即ち、ハンド26をX方向に移動させ、対象物W11に接触した位置をもってX座標の基準点が定められる。
【0089】
図9に示す例は、ハンド26の向きが図8に示す例と同一である場合を示すが、これには限られない。次に説明するようにハンド26の向きを変更し、変更後に変更前と同一の方向にハンド26を移動させてもよい。
図10は、本実施形態に係るキャリブレーション処理におけるハンド26の動作のさらに他の例を示す図である。
この例では、目標位置は対象物W12の表面に設定され、ハンド26の向きの変更前のX座標の基準点を定める場合を示す。破線で表されたハンド26は、ステップS111(図7)により向きがZ方向からX方向に変更され、対象物W12の表面から第2の距離としてL2だけZ方向に離れていることを示す。実線で表されたハンド26は、ハンド26の端点(この例では、側面)が対象物W11に接触していることを示す。この位置において、ハンド26の端点のX座標のキャリブレーションが行われる(図7、ステップS109)。
【0090】
ハンド26の上側面に示した下向きの矢印は、ハンド26を破線で示した位置から実線で示した位置に移動させることを示す。即ち、図10は、ハンド26をZ方向(変更後)に移動させ、対象物W11に接触した位置をもってZ座標(変更後)の基準点を定めることを示す。この変更後のZ座標は、変更前のX座標に相当する。作業環境により作業部21が移動可能な領域が制限される場合(所定の対象物以外の物体が配置されている場合、等)でも、3次元のキャリブレーションを行うことができる。
【0091】
図9、10は、X座標の基準点を定める場合を例にとったが、Y座標についてもハンド26をY方向に移動させて接触した点、又はY方向(変更前)をZ方向(変更後)に方向を変更したうえでZ方向に移動させて接触した点、をもってX座標の基準点を定めてもよい。
本実施形態では、上述したようにビジュアルサーボを用いて作業部21の端点を対象物に接近させ、その後、力制御を用いて対象物に接触させることで精密なキャリブレーションを実現し、キャリブレーションを簡易に行うことができる。」

(ウ)図面
「【図8】


【図9】


【図10】



イ 上記ア(ア)〜(ウ)から、周知例1には次の事項が記載されていると理解することができる。
「ロボットシステムのキャリブレーション処置として、
所定の方向からハンド26における所定の部位が移動するように制御するとともに、ハンド26の所定の部位が対象物W11、W12に接触したことが検知されたときの接触位置に関する接触位置情報に基づいて、対象物W11、W12に対するハンド26の所定の方向の位置情報を補正し、
所定の方向は、Z方向(垂直方向)又はX方向(水平方向)であること。」

(2)周知例2に記載された事項
ア 新たに周知例として示す特開2014−176943号公報(以下「周知例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)発明の詳細な説明
「【0024】
次に、図6、7を用いてロボットシステム1の校正方法を説明する。図6は、校正方法の動作を説明するフローチャート、図7は校正方法を説明する概要図である。ここではツール102としてハンドを用いた場合を説明する。
【0025】
図6に示すように、最初にロボット10が作業台30に対して配置される(S10)。S10の処理では、例えばロボット10が移動ロボット5によって作業台30の手前に移動する。ロボット10が作業台30の前に到着すると、キャリブレーション処理(検出工程、校正工程)へ移行する(S12)。
【0026】
S12の処理では、キャリブレーション部112が、ロボット10の姿勢及び位置を特定し、キャリブレーション処理を行う。図7の(A)に示すように、ツール102は、被加工物を把持するために対向した2つの把持平面102eを有するとともに、2つの把持平面102eに直交する平面である下面102dを有している。まず、ロボット制御部113は、冶具50の配置位置までツール102を移動させる。冶具50の配置位置は、例えば教示データとして予め与えられている。ロボット制御部113は、ツール102を第1部材51の上方で停止させ、z方向に沿って下方へ移動させ、図7の(B)に示すように、ツール102の下面102dと冶具50の上面51a、52aとを当接させる。このとき、ロボットアーム101に備わるアクチュエータを駆動させてツール102の下面102dと冶具50の上面51a、52aとを力制御で押しつけ、突き当てる。このように、冶具50とツール102とをxy方向に沿った面で接触させることにより、zの基準位置が決定される。
【0027】
次に、図7の(C)に示すように、ロボット制御部113は、ロボットアーム101をx方向へ移動させる。図7の(C)に示すように、ツール102は、上述した2つの把持平面102e及び下面102dのそれぞれに直交する平面である側面102fを有している。側面102fは、直方体を呈する把持爪102aの側面である。ロボット制御部113は、把持爪102aの側面102fと冶具50の側面52bとを当接させる。このとき、ロボットアーム101に備わるアクチュエータを駆動させて把持爪102aと冶具50の上面51a、52aとを力制御で押しつけ、突き当てる。このように、冶具50とツール102とをyz方向に沿った面で接触させることにより、xの基準位置が決定される。また、この動作によって、ツール102は、xy方向及びyz方向に沿った面に当接されることになるため、y軸回りの姿勢も決定される。
【0028】
次に、図7の(D)に示すように、ロボット制御部113は、把持爪102aを制御して冶具50の第1部材51を把持する。ロボット制御部113は、把持爪102aの把持平面102eで冶具50の側面51b,51cを挟み込み、把持爪102aの把持平面102eと冶具50の側面52bとを当接させる。このとき、ロボットアーム101に備わるアクチュエータを駆動させて力制御で把持する。このように、冶具50とツール102とをzx方向に沿った2つの面で接触させることにより、yの基準位置が決定される。また、この動作によって、x軸回りの姿勢及びz軸回りの姿勢も決定される。
【0029】
キャリブレーション部112は、x、y、zの基準位置及びx軸、y軸、z軸の基準姿勢に基づいてロボット座標(原点位置)を校正する。S12に示す処理が終了すると、図6に示す制御処理を終了する。
【0030】
図6に示す制御処理を実行することで、センサの性能や周囲環境に依存することなくロボット10のキャリブレーション処理を正確かつ簡易に行うことができる。なお、図6の制御処理は、被加工物を加工する前のオフライン動作として実施され得る。従って、当該校正処理を行ったあとに、ロボット10により被加工物が加工され、製造される(加工工程)。」

(イ)図面
「【図7】



イ 上記ア(ア)及び(イ)から、周知例2には次の事項が記載されていると理解することができる。
「ロボットシステム1のキャリブレーション処置として、
所定の方向からハンドであるツール102における所定の部位が移動するように制御するとともに、ツール102の所定の部位が治具50に接触したことが検知されたときの接触位置に関する接触位置情報に基づいて、治具50に対するツール102の所定の方向の位置情報を補正し、
所定の方向は、Z方向(垂直方向)又はX方向(水平方向)であること。」

(3)周知例3に記載された事項
ア 新たに周知例として示す特開2012−101306号公報(以下「周知例3」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
(ア)発明の詳細な説明
「【0027】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るロボットの校正装置を含む産業用ロボットの全体構造を示す構成図である。この産業用ロボットの全体構造は、従来から広く使用されているものである。図1において、この産業用ロボットは、ロボット本体11、ロボット制御部12、ティーチングボックス13、力覚センサ14およびロボットハンド15から構成されている。
【0028】
ロボット本体11は、一般に垂直多関節型ロボットと呼ばれるものである。ロボット制御部12は、ロボット本体11に所望の動作をさせるために、駆動部(図示せず)の制御を実行する。ロボット本体11を動作させるためには、一般的に、所望の動作を定義したロボットプログラムを、例えばパソコン(図示せず)からロボット制御部12に送信するか、または、ティーチングボックス13と呼ばれる手動操作盤を介して、作業者が移動命令をロボット制御部12に送信する。
【0029】
ロボット本体11の手首には、力覚センサ14が取り付けられている。力覚センサ14は、6軸成分(並進3成分および並進方向の軸回りモーメント3成分)を検知することができるもので、従来から使用されているものである。力覚センサ14は、この発明の実施の形態1では、ロボットとの校正対象である作業対象20との接触を判定する接触判定部として機能する。
【0030】
力覚センサ14の先には、ロボットハンド15が取り付けられている。ロボットハンド15は、ロボット本体11が実運転する際に利用されるもので、この発明の実施の形態1においては、物体との接触点と力覚センサ14との間に、接触判定を妨げるほどの弾性体が存在しないことが望ましい。また、ロボットハンド15の形状は、ハンドの根元から先端に向けて直線部分を有することが望ましい。
【0031】
作業対象20は、ロボットとの校正対象であり、その上にロボットの作業点(教示点)が定められるもので、2本の直交する直線部分(詳細については、後述する)を有するものである。また、作業対象20は、ロボットの作業の対象となるワーク自体、またはワークを固定する治具や部品供給部等である。
・・・
【0034】
まず、ロボット制御部12は、ロボットハンド15を作業対象20の1つの平面内の3点に接触させる(ステップS21)。この3点は、ロボット座標系の基で同一直線上にはない任意の点とする。また、3点の接触では、ロボットハンド15の姿勢は全て同一とし、接触させる際には、一方向からアプローチするものとする。このとき、ロボットハンド15と作業対象20との接触は、力覚センサ14を用いて判定されるものとし、ロボットが実現可能な最小分解能での移動量、またはロボットが実現可能な位置決め精度よりも小さい移動量で最終的な接触位置を判定する。
・・・
【0042】
次に、ロボット制御部12は、周りに干渉物がない位置で、ロボットの姿勢を姿勢M1に変更する(ステップS24)。これによって、ロボットハンド15の向きが、作業対象20の平面に対して垂直になる。
【0043】
続いて、ロボット制御部12は、図5に示されるように、作業対象20の平面に対して垂直になっているロボットハンド15の直線部分を、対象ワークの直線部分の2点に接触させる(ステップS25)。2点の接触では、ロボットハンド15の姿勢は互いに同一とし、接触させる際には、一方向からアプローチするものとする。接触判定については、3点の接触の場合と同様である。このとき、作業対象20の平面の垂直方向において、ロボットハンド15の位置を厳密に一致させる必要はない。
・・・
【0050】
続いて、ロボット制御部12は、ワーク座標系X−Y平面内に写像したときにワーク座標系の座標軸(X軸またはY軸)と平行で、かつ互いに平行でない(直交する)、作業対象20上の異なる2直線部分のそれぞれ1点に、作業対象20の平面に対して垂直になっているロボットハンド15の直線部分を接触させる。また、同時に、ロボット制御部12は、作業対象20のワーク座標系X−Y平面と平行な面に対して、ロボットハンド15を、ワーク座標系と方向が一致しているツール座標系の基でZ方向に移動させながら接触させる(ステップS29)。
・・・
【0054】
この方法によれば、位置P1、P2およびP3の計測では、ロボットハンド15の姿勢が同一であり、かつ作業対象20の同一平面内の接触なので、ロボットハンド15の接触位置は同一となる。また、力覚センサ14を接触判定部として用いることにより、接触位置の計測を、ロボットの位置決め精度と同等の精度で実行することができる。これにより、作業対象20の平面の垂線方向が、ロボット座標系の基でロボットの位置決め精度と同等の精度で算出される。
【0055】
また、位置P4およびP5の計測では、計測された平面の垂線方向と、ロボットハンド15の直線部の方向とを一致させた上で、ロボットハンド15の直線部が作業対象20の直線部に接触される。これにより、位置P4およびP5における作業対象20とロボットハンド15との接触位置が、作業対象20の垂線方向に多少ずれたとしても、作業対象20のワーク座標系の座標軸方向が、ロボット座標系の基でロボットの位置決め精度と同等の精度で算出される。
【0056】
さらに、位置P6、P7およびP8の計測では、作業対象20のワーク座標系とロボットハンド15の座標系とを一致させた上で、計測が実行される。これにより、作業対象20の位置姿勢が変更された場合であっても、位置P6、P7およびP8とロボットハンド15との接触位置関係が、ワーク座標系の原点位置を算出するのに必要な部分において常に一定となるので、作業対象20の原点位置が、ロボット座標系の基でロボットの位置決め精度と同等の精度で算出される。」

(イ)図面
「【図1】



「【図5】



イ 上記ア(ア)及び(イ)から、周知例3には次の事項が記載されていると理解することができる。
「ロボットの校正装置による処置として、
所定の方向からロボットハンド15における所定の部位が移動するように制御するとともに、ロボットハンド15の所定の部位が作業対象20に接触したことが検知されたときの接触位置に関する接触位置情報に基づいて、作業対象20の所定の方向の位置情報を補正し、
所定の方向は、Z方向(段落【0050】、【0056】、垂直方向)又は水平方向(段落【0043】、【0055】、【図5】)であること。」

(4)上記(1)〜(3)から、以下の事項は本願出願前において周知の技術的事項であったといえる。
「ロボットシステムのキャリブレーション処置として、
所定の方向からハンド機構における所定の部位が移動するようにアーム機構を制御するとともに、ハンド機構の所定の部位が対象物に接触したことが検知されたときの接触位置に関する接触位置情報に基づいて、所定の方向の位置情報を補正し、
所定の方向は、垂直方向又は水平方向であること。」(以下「周知の技術的事項」という。)

第5 本件発明と引用発明1との対比
1 本件発明と引用発明1との相当関係
本件発明と、引用発明1とを対比すると、以下の関係にある。
(1)引用発明1における「アーム部12」、「複数の指状部材25」、「物体21」及び「ハンド部13」は、その機能及び構造からみて、本件発明における「アーム機構」、「複数の指部」、「対象物」及び「ハンド機構」のそれぞれに相当する。
また、引用発明1における「ハンド部13」が「アーム部12の一端部に設けられ」る態様は、本件発明における「ハンド機構」が「アーム機構に取り付けられ」る態様と、同義である。

(2)引用発明1における「アーム制御部4」及び「ハンド制御部6」は、その作用・機能からみて、本件発明における「アーム制御装置」及び「ハンド制御装置」のそれぞれに相当する。

(3)引用発明1における「ハンド部13の指状部材25の先端」は、本件発明における「ハンド機構の所定の部位」に相当し、また、引用発明1のハンド部13に設けられた「接触センサ31」は、ハンド部13の指状部材25の先端が接触したことを検知する機能を有することから、本件発明のハンド機構に設けられた「接触検知部」に相当する。
さらに、引用発明1における「所定の構築物」は、「物体やこの物体が載置された机等の構築物」(上記第4の1(1)イ(イ)の段落【0013】)であって「物体21」を含むことから、本件発明における「対象物」とは、「対象物等」の概念で共通する。

(4)引用発明1における「接触センサ31の送信機能部分」は、ハンド部13に設けられ、アーム制御部4と電気的に接続されており、ハンド部13の指状部材25の先端が所定の構築物に接触したことが接触センサ31によって検知された時点で、アーム部12の動作を終了させるように接触検知信号をアーム制御部4に直接送信する機能を有しているところ、「アーム部12の動作を終了させる」ことと「アーム機構の動作を停止させる」こととは同義であるといえる。
よって、引用発明1における「接触センサ31の送信機能部分」は、
「ハンド機構に設けられる信号送信部であって、アーム制御装置と電気的に接続されており、ハンド機構の所定の部位が『対象物等』に接触したことが接触検知部によって検知された時点で、アーム機構の動作を停止させるように『信号』をアーム制御装置に直接送信する信号送信部」である限りにおいて、
本件発明における「信号送信部」に相当する。

(5)引用発明1における「物体21の3次元位置を認識する」ことにより、物体21の位置情報が得られることから、引用発明1における「物体21の3次元位置を認識する」動作は、本件発明における「対象物の位置情報を取得する」動作に相当する。してみると、引用発明1における「撮像装置2及び物体位置認識部3」は、その作用・機能からみて、本件発明における「取得部」に相当する。

(6)引用発明1における「撮像装置2及び物体位置認識部3によって認識された物体21の3次元位置」は、上記(5)の関係からみて、本件発明における「取得部によって取得された対象物の位置情報」に相当する。
また、引用発明1における「物体21における適正位置」とは、物体21の位置の認識結果に基づいて決定される位置であって、アーム部12の動作によりハンド部13が配置されることで物体21の把持が可能となる位置(上記第4の1(1)イ(イ)の段落【0009】)であり、かつ、接触センサ31等の接触検知部によりハンド部13の接触が検知され、アーム部12の動作が停止される位置(同段落【0013】)であることから、本件発明における「対象物における目標位置」に相当する。
さらに、引用発明1における「適正位置に向けて計画された動作軌道にてハンド部13における指状部材25の先端が移動する」態様とは、ハンド部13を物体21まで移動させるためのアーム部12の動作軌道を計画(上記第4の1(1)イ(ウ)の段落【0028】)し、その計画された動作軌道にてハンド部13における指状部材25の先端が移動することから、指状部材25の先端は、計画された動作軌道に沿った所定の方向から移動するといえるため、本件発明における「目標位置に向けて所定の方向からハンド機構における所定の部位が移動する」ことに対応する。

(7)引用発明1における「ハンド部13の指状部材25の先端が所定の構築物に接触したことが接触センサ31によって検知されることで接触センサ31の送信機能部分からの接触検知信号がアーム制御部4に直接送信されると、アーム制御部4がアーム部12の動作を終了させる」との態様は、上記(3)及び(4)のとおり、
「ハンド機構の所定の部位が「対象物等」に接触したことが接触検知部によって検知されることで信号送信部からアーム制御装置に「信号」が送信されると、アーム制御装置がアーム機構の動作を停止させ」るとの限りにおいて、
本件発明における「ハンド機構の所定の部位が対象物に接触したことが接触検知部によって検知されることで信号送信部からアーム制御装置に指令信号が送信されると、アーム制御装置がアーム機構の動作を停止させ」るとの態様と一致する。

(8)引用発明1における「ロボット制御装置1が適用されるロボット11」は、物体21を把持することが可能なロボット11である(上記第4の1(1)イ(ア)の段落【0001】〜【0002】)ことから、本件発明における「把持システム」に相当する。

2 本件発明と引用発明1との一致点
上記1を踏まえると、本件発明と引用発明1とは以下の<一致点>にて一致する。
<一致点>
「アーム機構と、
前記アーム機構に取り付けられ、複数の指部によって対象物を把持するハンド機構と、
前記アーム機構を制御するアーム制御装置と、
前記ハンド機構を制御するハンド制御装置と、
前記ハンド機構に設けられ、該ハンド機構の所定の部位が前記対象物等に接触したことを検知する接触検知部と、
前記ハンド機構に設けられる信号送信部であって、前記アーム制御装置と電気的に接続されており、該ハンド機構の前記所定の部位が前記対象物等に接触したことが前記接触検知部によって検知された時点で、前記アーム機構の動作を停止させるように信号を該アーム制御装置に直接送信する信号送信部と、
前記対象物の位置情報を取得する取得部と、を備え、
前記取得部によって取得された前記対象物の位置情報に基づいて決定される該対象物における目標位置に向けて所定の方向から該ハンド機構における前記所定の部位が移動するように、前記アーム制御装置が前記アーム機構を制御するとともに、
前記ハンド機構の前記所定の部位が前記対象物等に接触したことが前記接触検知部によって検知されることで前記信号送信部から前記アーム制御装置に前記信号が送信されると、該アーム制御装置が前記アーム機構の動作を停止させる、
把持システム。」

3 本件発明と引用発明1との相違点
他方、本件発明と引用発明1とは、以下の(1)〜(4)の点で相違する。
(1)相違点1
接触検知部の検知対象である「対象物等」に関し、本件発明においては、「対象物」であるのに対し、
引用発明1においては、「物体21」を含むものの、「物体21」のみを検知対象としていない点(以下「相違点1」という。)。

(2)相違点2
「信号送信部」に関し、本件発明においては、「信号送信部」が「ハンド機構に設けられる」のに対し、
引用発明1においては、アーム制御部4がアーム部12の動作を終了させるための「指令信号」を送信する「信号送信部」がハンド部13に設けられているとはいえない点(以下「相違点2」という。)。

(3)相違点3
本件発明においては、「取得部によって取得された対象物の位置情報を補正する位置情報補正部」を備えるのに対し、
引用発明1においては、本件発明のような「位置情報補正部」に相当する部分を備えているか不明である点(以下「相違点3」という。)。

(4)相違点4
「取得部によって取得された対象物の位置情報に基づいて決定される該対象物における目標位置に向けて所定の方向から該ハンド機構における所定の部位が移動する」際、及び、本件発明の「位置情報補正部」が「前記取得部によって取得された前記対象物の前記所定の方向の前記位置情報を補正」する際の当該「所定の方向」に関し、
本願発明においては「垂直方向又は水平方向である」のに対し、
引用発明1においては、移動する方向が「垂直方向又は水平方向である」かは不明であって、上記(3)のとおり「位置情報補正部」を備えるかも不明である点(以下「相違点4」という。)。

第6 相違点に対する当審の判断
1 相違点1、3について
(1)引用文献2記載の技術的事項
上記第4の2(3)に示した引用文献2記載の技術的事項のとおり、引用文献2記載のロボット装置100は、「視覚センサ30及び画像処理部43によって取得された把持対象物110の位置情報を修正する制御装置40」を備えており、「視覚センサ30及び画像処理部43によって取得された把持対象物110の位置情報に基づいて、把持対象物110の把持位置への移動経路を決定し、多指ハンド部20における指部21、22及び23の指先を把持対象物110に近づけるように、アーム制御部41がロボットアーム10を制御」し、「多指ハンド部20の指部21、22及び23の指先が把持対象物110に接触したことが力センサ21a、22a及び23aによって検知されると、アーム制御部41がロボットアーム10の動作を停止」させたうえで、「多指ハンド部20の指部21、22及び23の指先が把持対象物110等に接触したことが力センサ21a、22a及び23aによって検知されたときの接触位置に関する接触位置情報に基づいて、制御装置40が、視覚センサ30及び画像処理部43によって取得された把持対象物110の位置情報を修正」する技術的事項を含むものである。
そして、多指ハンド部20における指部21、22及び23の指先を把持対象物110に近づける際には、把持対象物110の把持位置への移動経路を決定し、その移動経路にしたがって近づけることから、引用文献2記載の技術的事項は、その移動経路によって定まる「所定の方向」から近づくものといえ、更に、その「所定の方向」から近づけた際の接触位置情報に基づいて修正をするのであるから、必然的に、把持対象物110の位置情報は、その「所定の方向」の位置情報を含む情報を修正するものであると解される。その点、引用文献2には、上記第4の2(1)ア(オ)の段落【0101】に、接触対象物は異なるものの、テーブルの上面の接触位置を検出して、高さ位置(Z軸方向の位置情報)に関する位置情報を修正するとの技術思想が記載されることからみても、引用文献2記載の技術的事項において把持対象物110の位置情報を修正する際にも少なくとも「所定の方向」の位置情報を修正するものであると解するのが妥当である。

(2)引用発明1に引用文献2記載の技術的事項を適用することの容易想到性
引用発明1と引用文献2記載の技術的事項とは、いずれも、ロボットのハンド機構の指部にて対象物を把持する把持システムである点で、技術分野が関連し、対象物の位置情報を取得部で取得し、ハンド機構の指部の先端が対象物等に接触したことを接触検知部で検知した時点で、アーム制御装置がアーム機構の動作を停止させる点で、作用・機能が共通し、さらに、引用文献1の例えば段落【0030】〜【0032】には、物体21の把持動作の成功率を向上させるとの課題も記載されている。
そして、引用発明1において「接触センサ31(接触検知部)」によって接触したことが検知される「所定の構築物」には、把持対象である「物体21」が含まれる(上記第4の1(1)イ(イ)の段落【0013】)ことから、引用発明1における「接触センサ31(接触検知部)」は、「ハンド部13(ハンド機構)の指状部材25の先端(所定の部位)が物体21(対象物)に接触したことを検知する」機能を有するものである。

(3)してみると、引用発明1において、把持動作の成功率を向上させるために把持対象である物体21のより正確な位置情報を得るために、引用文献2記載の技術的事項を適用して、上記相違点1に係る本件発明のように接触センサ31(接触検知部)による検知対象を物体21(対象物)とすること、及び、上記相違点3に係る本件発明のように対象物の位置情報を補正する位置情報補正部を備えるようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

2 相違点2について
引用発明1においても、「接触センサ31の送信機能部分」から送信される「接触検知信号」は、ハンド制御部3(ハンド制御装置)を介することなくアーム部12(アーム機構)の動作を停止させるための判別信号としてアーム制御部4(アーム制御装置)に直接送信されるものであることから、「接触検知信号」をアーム部12(アーム機構)の動作を停止させる「指令信号」に変換する「信号送信部」を、接触センサ31(接触検知部)とアーム制御部4(アーム制御装置)との電気的な接続の間に介在させることは、当業者であれば適宜なし得たことであって、当該信号送信部をハンド部13(ハンド機構)に設けることも、配置スペース等を勘案して当業者が適宜決定し得た設計的事項である。

3 相違点4について
上記1のとおり、引用発明1に引用文献2記載の技術的事項を適用し、物体21(対象物)における適正位置(目標位置)に向けて計画された動作軌道に沿って「所定の方向」からハンド部13(ハンド機構)における指状部材25の先端(所定の部位)を移動させ、接触位置情報に基づいて物体21の「所定の方向」の位置情報を補正することは、当業者であれば容易に想到し得たことであるところ、その際に、上記第4の3(4)で示した周知の技術事項を踏まえ、当該「所定の方向」を「垂直方向又は水平方向」とすることは、当業者であれば普通に採用し得たことである。
また、本件発明において、当該「所定の方向」を「垂直方向又は水平方向」とする作用・効果について、本件出願の明細書等の、例えば段落【0036】、【0046】等には、「対象物10の位置情報を高精度で把握することができる」点が明記されているものの、その奏する作用・効果は、引用発明1、引用文献2記載の技術的事項及び周知の技術的事項からみて、格別顕著なものであるともいえない。
してみると、引用発明1に引用文献2記載の技術的事項を適用するにあたり、「所定の方向」を「垂直方向又は水平方向」とすることとし、上記相違点4に係る本件発明のようにすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。

第7 請求人の意見書での主張に対する当審の見解
1 本件審判請求人(以下単に「請求人」という。)は、令和5年5月26日に提出の意見書(以下単に「意見書」という。)にて、以下の主張をする。
(1)本件発明は、多方向に動かさずに、一定の方向からハンド機構における所定の部位を移動させることで、所定の方向における対象物の端部にハンド機構の所定の部位を接触させることができるため、ハンド機構の所定の部位が対象物の特定の端部に接触する確実性を高めることができる(例えば、垂直方向の上方から下方にアーム機構を動かすことで、ハンド機構の所定の部位が対象物の上面に接触する確実性を高めることができる)。そのため、ハンド機構の所定の部位が対象物に接触する部位の不確定性を低減し、対象物の特定の部位で対象物の位置の把握可能であるため、対象物の所定の方向の位置情報を高精度に補正することができ、その結果、対象物の所定の方向の位置情報を簡易的かつ高精度で把握することができるという優れた効果を奏する(出願当初の明細書段落0036、0046等参照)(意見書第2ページ)。

(2)引用文献2においては、把持対象物110に各指部21、22および23が接触した場合に、検出された3点の接触位置の情報に基づいて、把持対象物110の位置情報が修正されることが記載されているものの、引用文献2においては、把持対象物110に向けて垂直方向又は水平方向からアプローチ動作が行われることは開示も示唆もされていない(意見書第3ページ)。

2 上記1(1)〜(2)の請求人の主張に対する当審の見解は、以下のとおりである。
(1)上記1(1)の点については、上記第6の3に示したとおりである。
してみると、請求人が主張する本件発明が奏する効果については、引用発明1、引用文献2記載の技術的事項及び周知の技術的事項からみて、格別顕著なものであるとは認められない。
したがって、請求人の上記1(1)の主張は採用できない。

(2)上記1(2)の点についてみると、引用文献2には、第6の1(1)に示したように、垂直方向である高さ位置(Z軸方向の位置情報)に関する位置情報を修正することの示唆が認められる(段落【0101】)。
また、引用文献2の段落【0099】、【0104】(上記第4の2(1)ア(オ)参照)に記載されるように、引用文献2記載の技術的事項は、多指ハンド部20の3本の指部21、22および23にそれぞれ指先力センサ21a、22aおよび23aを設けた例には限定されず、1本の指部に指先力センサが設けられていても成立するものであり、その場合、検出した接触位置に基づいて把持対象物の位置情報のみを修正するように構成することも当業者であれば適宜なし得たことである。
さらに、同じく段落【0044】の記載からみて、多指ハンド部20の指部21、22および23のそれぞれと把持対象物110との接触は、把持位置においてアプローチ姿勢から把持姿勢に近づけるように各指部21、22および23が駆動される過程のみならず、多指ハンド部20が把持位置へ移動する過程にて生じるものも想定されていることは明らかである。
なお仮に、引用文献2に請求人が主張する点の記載や示唆がなかったとしても、キャリブレーション処理を垂直方向又は水平方向からのアプローチ動作にて実施することが周知であったことは前述のとおりである。
したがって、請求人の上記1(2)の主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明1、引用文献2記載の技術的事項及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2023-08-02 
結審通知日 2023-08-08 
審決日 2023-08-22 
出願番号 P2017-138547
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B25J)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 渋谷 善弘
特許庁審判官 大山 健
鈴木 貴雄
発明の名称 把持システム  
代理人 弁理士法人秀和特許事務所  

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