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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01B |
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管理番号 | 1403371 |
総通号数 | 23 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2023-11-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2022-10-03 |
確定日 | 2023-10-12 |
事件の表示 | 特願2018− 94555「透明導電性ガラス」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年11月21日出願公開、特開2019−200910〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成30年5月16日の出願(特願2018−94555号)であって、その手続の経緯は、概略以下のとおりである。 令和4年 4月20日:拒絶理由通知(起案日) 令和4年 6月 8日:意見書の提出 令和4年 7月 6日:拒絶査定(原査定)(起案日) 令和4年10月 3日:審判請求書、手続補正書の提出 令和5年 5月10日:当審による拒絶理由通知(起案日) 令和5年 7月18日:意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1〜2に係る発明は、令和5年7月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜2に記載した事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「厚み150μm以下であり、可撓性を有するガラス基材と、 厚み300nm以下であり、前記ガラス基材の厚み方向一方側に配置される透明導電層と を備え、 前記透明導電層は、金属酸化物のみからなり、 前記透明導電層の厚み方向一方面における表面粗さRaが、10nm以下であり、 前記透明導電層の比抵抗が、1.8×10−4Ω・cm以下であることを特徴とする、 透明導電性ガラス。」 第3 当審拒絶理由 当審において令和5年5月10日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、概略、以下のとおりである。 この出願の請求項1〜3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献A.特開2007−328934号公報 引用文献B.特開2010−105900号公報 第4 引用文献と引用発明等 1 引用文献Aについて (1)引用文献Aの記載 当審拒絶理由で引用した引用文献A(特開2007−328934号公報)には以下の記載がある。(下線は当審で付した。以下、同じ。) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、透明導電膜付き基板に関し、特にスパッタリング法によりSn含有酸化インジウム膜が平坦であり、耐熱性や耐酸性に優れた透明導電膜付き基板に関する。 【背景技術】 【0002】 近年のエネルギー問題や環境問題を解決する手段として、太陽電池に代表される光電変換素子が注目を集めている。光電変換素子において、その光電変換効率を高めるために、色素の利用が考えられている。例えば、色素増感太陽電池は、ガラスなどの透明基板にSn含有酸化インジウム(以下、ITOともいう)などの透明導電膜を形成した後、酸化チタンなどの半導体微粒子を形成し、酸化チタンにルテニウム錯体色素を担持させ、白金などを形成した対向電極を貼り合わせて構成される。」 「【0006】 太陽電池に限らず透明導電膜としては、電気抵抗の低いことが望まれている。ITO膜の電気抵抗を低くするには、膜の結晶性をよくすることが重要である。そのためには、ITO膜を高温で長時間加熱するとよい。しかし、高温で長時間加熱するために、基板の材質に制約を受けたり、加熱に伴うコストや時間がかかっていた。」 「【0023】 また、この透明導電膜付き基板は、その表面粗さRaが2nm以下と平坦である。一般的に、スパッタリング法によるITO膜の表面粗さRaは、2.5〜3nm程度である。スパッタリング法によるITO膜をプラズマ処理すると、衝突するイオンによって、膜表面が平坦になる。その結果、ITO膜の表面粗さRaを2nm以下とすることができる。本発明による透明導電膜付き基板は平坦であるので、ディスプレイに用いても、膜表面の凹凸により映像に迷光が現れることがない。」 「【0027】 本発明における透明基板としては、透明でITO膜を形成する基板として機能できるものであれば、特に限定されない。例えば、ガラス板、板状やフィルム状の透明樹脂などを例示することができる。基板としてガラス板を用いれば、スパッタリング法によりITO膜を形成する際に、基板を加熱することにより、ITO膜の結晶化を高めることも可能である。」 「【0029】 (実施例1) まず、フロート法によるガラス基板(厚み:0.7mm)を準備し、この基板に超音波を照射しながらアルカリ洗浄液に浸漬し、その後に純水で洗浄し乾燥した。このガラス基板を、この実施例1のほか、以下の実施例・比較例に用いて、スパッタリング法によりガラス基板上にITO膜を形成した。 【0030】 このガラス基板を、インライン型スパッタリング装置(ULVAC社製、SCH−3030)に装填し、ITOセラミクスターゲット(In:Sn=90:10(質量比))を使用して、dcスパッタリング法により、ITO膜を形成した。使用したガスは、アルゴンガスと酸素ガスからなる混合ガスであり、混合割合はアルゴンガスに対して酸素ガスを0.5体積%とした。成膜時のガス圧は0.8Paとし、dc放電電力密度は2.9W/cm2とした。成膜時にガラス基板は加熱していない。このITO膜の厚みは200nmとした。 【0031】〜【0038】(省略) 【0039】 図2は、本発明による透明導電膜付き基板1の断面模式図である。図2において、透明導電膜付き基板1は、ガラス基板2の主表面に、Sn含有酸化インジウム膜3が形成されてなる。 【0040】 こうして得られたITO膜のJIS K 7194で規定されている標準寸法試料(80×50mm)での4探針法による比抵抗は380μΩ・cmであった。なお、比抵抗の測定には、80×50mmの標準寸法試料と、三菱化学株式会社製の比抵抗率計(ロレスタMP、MCP−T350)を用いた。まず、比抵抗率計にてシート抵抗値を測定し、シート抵抗値から比抵抗を算出している。以下、4探針法によりシート抵抗値から算出された比抵抗を、単に「比抵抗」と略記することがある。 【0041】 このITO膜の波長550nmにおける透過率は76.6%であった。なお、ガラス基板(厚み:0.7mm)のみの、波長550nmにおける透過率は95.6%であった。またこのITO膜について、原子間力顕微鏡(AFM)でSiプローブを用い、JIS B 0601−2001で定義される、表面粗さRaは1.5nmであった。」 「【0045】 (実施例2) 実施例2は、ガラス基板を200℃に加熱しながらスパッタリングした以外は、実施例1と同様にして、ITO膜付き基板を得た。プラズマ処理は、酸素ガスとアルゴンガスの流量比を3:97とした混合ガスを用いて、ガス圧を800Paとし、放電電力密度を0.3W/cm2とした以外は、実施例1と同様にして、ITO膜付き基板をプラズマ処理した。なお、ITO膜の厚みは110nmとした。 【0046】 こうして得られたITO膜の比抵抗は200μΩ・cmであり、波長550nmにおける透過率は87.3%であり、表面粗さRaは1.6nmであった。」 (2)引用発明 ア 上記(1)の【0001】、【0002】、【0023】の記載より、引用文献Aには「太陽電池に代表される光電変換素子やディスプレイに用いられる透明導電膜付き基板」について記載されている。 イ 同【0039】、【0040】より、上記アの「透明導電膜付き基板」は、「ガラス基板の主表面に、Sn含有酸化インジウム膜(ITO膜)が形成され」たものである。 ウ 上記アの「透明導電膜付き基板」について、実施例2のものは、同【0029】、【0045】、【0046】より、「ガラス基板の厚みは0.7mm」であり、「ITO膜の厚みは110nmであり、比抵抗は200μΩ・cmであり、表面粗さRaは1.6nm」である。 エ 上記ア〜ウより、引用文献Aには、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (引用発明) 「太陽電池に代表される光電変換素子やディスプレイに用いられる透明導電膜付き基板であって、 ガラス基板の主表面に、Sn含有酸化インジウム膜(ITO膜)が形成されており、 ガラス基板の厚みは0.7mmであり、 ITO膜の厚みは110nmであり、比抵抗は200μΩ・cmであり、表面粗さRaは1.6nmである、 透明導電膜付き基板。」 (3)引用文献A記載事項 ア 引用文献A記載事項1 上記(1)の【0006】には、以下の事項(以下、「引用文献A記載事項1」という。)が記載されている。 (引用文献A記載事項1) 「太陽電池に限らず透明導電膜としては、電気抵抗の低いことが望まれており、ITO膜の電気抵抗を低くするには、膜の結晶性をよくすることが重要であり、そのためには、ITO膜を高温で長時間加熱するとよいこと。」 イ 引用文献A記載事項2 上記(1)の【0027】には、以下の事項(以下、「引用文献A記載事項2」という。)が記載されている。 (引用文献A記載事項2) 「引用文献A記載の透明基板としては、透明でITO膜を形成する基板として機能できるものであれば、特に限定されないこと。」 2 引用文献Bについて 当審拒絶理由で引用した引用文献B(特開2010−105900号公報)には、以下の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイに用いられるガラス基板や太陽電池のガラス基板等のデバイスのガラス基板、及び有機EL照明のカバーガラス等に使用される薄板ガラスシートのガラロール、及びその製造方法に関する。」 「【0033】 薄板ガラスシート(2)の厚みは、10μm〜500μmであることが好ましく、10μm〜200μmであることがより好ましく、10μm〜100μmであることが最も好ましい。このようにすると薄板ガラスシート(2)に適切に可撓性を付与することができ、薄板ガラスシート(2)を巻き取った際に薄板ガラスシート(2)にかかる不当な応力を軽減することができ、薄板ガラスシート(2)が破損することを防止することができるからである。尚、薄板ガラスシート(2)の厚みが10μm未満であると、薄板ガラスシート(2)の強度が足りず、一方500μmを超えると、薄板ガラスシート(2)を巻き取ると引っ張り応力により破損する可能性が高くなるため、いずれの場合も好ましくない。」 「【0038】 本発明に係るガラスロール(1)は、図3に示す製造装置を使用して製造される。図2に示す装置を使用し、〔0037〕に記載されている方法で成形された薄板ガラスシート(2)(例えば日本電気硝子株式会社製OA−10G:厚み50μm)は、冷却ローラ(5)に接触したローラ接触部を除去するために、ガラスリボン(G)の板幅方向両端部から所定の幅でローラ接触部切断カッター(7)にて連続してスクライブラインが形成され、ローラ接触部が除去される。その後、スクライブラインの形成面が内側となるように薄板ガラスシート(2)をロール状に巻き取る。このようにして、所定径の大きさまで薄板ガラスシート(2)を巻き取った後、幅方向切断カッター(図示省略)を使用することによって薄板ガラスシート(2)の幅方向にスクライブラインを形成した後薄板ガラスシート(2)を切断し、巻き取ることにより本発明に係るガラスロール(1)の製造が完了する。」 上記記載から、引用文献Bには、「薄板ガラスシート」の「厚み」についての最も好ましい態様として、次の事項(以下、「引用文献B記載事項」という。)が記載されている。 (引用文献B記載事項) 「液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイに用いられるガラス基板や太陽電池のガラス基板等のデバイスのガラス基板に使用される薄板ガラスシートであって、 厚みが10μm〜100μmであり、可撓性が付与されている、 薄型ガラスシート。」 3 引用文献Cについて 当審において周知事項を示す文献として新たに引用する特開2016−155739号公報(以下「引用文献C」という。)には、以下の記載がある。 「【0052】 (実施例1) 化学強化した強化ガラス板(日本電気硝子社製 T2X−1(幅50mm、長さ50mm、厚み0.55mm、圧縮応力 796MPa、圧縮応力層の深さ 43.2μm))の上に、スピンコート法により、耐熱温度300℃以上の化合物(KR300 信越化学工業社製)を塗布し、250℃の温度下で、60分かけて化合物を硬化させることで、厚さ4μmのシリコーン樹脂からなる透明下地膜を作製した。 【0053】 その後、DCマグネトロンスパッタリング装置を用い、ターゲットとしてITOを用いて透明導電膜を成膜してサンプルを作製した。成膜時の強化ガラス板の温度(熱処理温度)を300℃とし、真空チャンバ内にアルゴンガスを導入し、真空チャンバ内の圧力が0.7Paになるように調整し、更に、比抵抗が極小となるように微量の酸素ガスを導入した。成膜されたITO膜(透明導電膜)の厚さは50nmである。 【0054】〜【0056】(省略) 【0057】 (比較例4) 実施例1と同じ強化ガラス板の上に、DCマグネトロンスパッタリング装置を用い、成膜時の強化ガラス板の温度を300℃として、厚さ50nmのITO膜(透明導電膜)を成膜してサンプルを作製した。 【0058】〜【0059】(省略) 【0060】 透明導電膜の比抵抗は、抵抗率計(三菱化学社製 Loresta−EP MCP−360)を用いて測定した。 【0061】〜【0063】(省略) 【0064】 各サンプルについて測定した結果を表1に示す。 【0065】 【表1】 」 「【0068】 (実施例2) 無アルカリガラス板(日本電気硝子社製 OA−10G(幅50mm、長さ50mm、厚み0.5mm))の上に、スピンコート法により、耐熱温度300℃以上のポリエステル変性シリコーン化合物を塗布し、240℃の温度下で、30分かけてポリエステル変性シリコーン化合物を硬化させることで、厚さ0.3μmのポリエステル変性シリコーン樹脂からなる透明下地膜を作製した。 【0069】 その後、DCマグネトロンスパッタリング装置を用い、ターゲットとしてITOを用いて透明導電膜を成膜してサンプルを作製した。成膜時の強化ガラス板の温度(熱処理温度)を300℃とし、真空チャンバ内にアルゴンガスを導入し、真空チャンバ内の圧力が0.7Paになるように調整し、更に、比抵抗が極小となるように微量の酸素ガスを導入した。成膜されたITO膜(透明導電膜)の厚さは180nmである。 【0070】〜【0071】(省略) 【0072】 (比較例7) 実施例2と同じ無アルカリガラス板の上に、DCマグネトロンスパッタリング装置を用い、成膜時の無アルカリガラス板の温度を300℃として、厚さ180nmのITO膜(透明導電膜)を成膜してサンプルを作製した。 【0073】(省略) 【0074】 各サンプルについて、透過ヘイズ、比抵抗、機械的強度の測定結果を表2に示す。 【0075】 【表2】 」 ここで、表1より、「比較例4」の透明導電膜の比抵抗が0.95×10−4Ω・cmであり、表2より、「比較例7」の透明導電膜の比抵抗が1.27×10−4Ω・cmであることが看取できる。 そうすると、引用文献Cには、次の事項(以下「引用文献C記載事項」という。)が記載されている。 (引用文献C記載事項) 「強化ガラス板の上に、DCマグネトロンスパッタリング装置を用い、成膜時の強化ガラス板の温度を300℃として成膜したITO膜(透明導電膜)の比抵抗は0.95×10−4Ω・cmとなり、無アルカリガラス板の上に、DCマグネトロンスパッタリング装置を用い、成膜時の無アルカリガラス板の温度を300℃として成膜したITO膜(透明導電膜)の比抵抗は1.27×10−4Ω・cmとなること。」 第5 対比・判断 1 対比 本願発明と引用発明を対比する。 (1)引用発明の「厚みは0.7mm」である「ガラス基板」と、本願発明の「厚み150μm以下であり、可撓性を有するガラス基材」とは、「ガラス基材」である点で共通する。 (2)引用発明の「Sn含有酸化インジウム膜(ITO膜)」は、「透明導電膜付き基板」の「透明導電膜」であって、後述の相違点を除き本願発明の「透明導電層」に相当する。 また、引用発明の「Sn含有酸化インジウム膜(ITO膜)」が、「厚みが110nm」であり、「ガラス基板の主表面に」「形成されて」いることは、本願発明の「透明導電層」が、「厚み300nm以下であり、前記ガラス基材の厚み方向一方側に配置される」ことに相当する。 また、引用発明の「Sn含有酸化インジウム膜(ITO膜)」は、Sn(スズ)とインジウムの酸化物からなる金属酸化物であるから金属酸化物のみからなるといえる。したがって、引用発明の「Sn含有酸化インジウム膜(ITO膜)」と本願発明の「透明導電層」は、「金属酸化物のみからなる」点で一致する。 さらに、引用発明の上記「ITO膜」の「表面粗さRa」が「1.6nmである」ことは、ITO膜の厚み方向の一方の面の表面粗さRaが1.6nmであることが明らかであるから、本願発明の「前記透明導電層の厚み方向一方面における表面粗さRaが、10nm以下」であることに相当する。 また、引用発明の「ITO膜」の比抵抗と本願発明の「透明導電層」の比抵抗は、前者が200μΩ・cm(=2×10−4Ω・cm)である一方、後者が1.8×10−4Ω・cm以下である点で異なる。 (3)引用発明の「透明導電膜付き基板」は、「ガラス基板の主表面」に、「透明導電膜」が付いたものであるから、本願発明と同様の「透明導電性ガラス」といえる。 (4)上記(1)〜(3)より、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。 [一致点] 「ガラス基材と、 厚み300nm以下であり、前記ガラス基材の厚み方向一方側に配置される透明導電層と を備え、 前記透明導電層は、金属酸化物のみからなり、 前記透明導電層の厚み方向一方面における表面粗さRaが、10nm以下である、 透明導電性ガラス。」 [相違点] <相違点1> 本願発明では、「ガラス基材」は「厚み150μm以下であり、可撓性を有する」のに対して、引用発明では、「ガラス基板」の「厚みは0.7mm」であり、可撓性を有するとの特定がされていない点。 <相違点2> 本願発明では、「透明導電層」の「比抵抗」が「1.8×10−4Ω・cm以下」であるのに対し、引用発明では、「ITO膜」の「比抵抗」が「2×10−4Ω・cm」である点。 2 判断 (1)相違点1について 引用文献A記載事項2にあるように、引用文献Aには、「引用文献A記載の透明基板としては、透明でITO膜を形成する基板として機能できるものであれば、特に限定されない」ことが示唆されており、この示唆に基づき、引用発明と同様に太陽電池やディスプレイに用いられる、引用文献B記載事項に示される「薄膜ガラスシート」を採用することは当業者が容易になし得ることである。 そして、引用文献B記載事項に示される「薄膜ガラスシート」は、「厚さが10μm〜100μmであり、可撓性が付与されて」いるから、引用発明の「ガラス基板」として、引用文献B記載事項に示される「薄膜ガラスシート」を採用すると、引用発明は、本願発明の相違点1に係る構成と同様の構成を備えることとなる。 (2)相違点2について 引用文献A記載事項1にあるように、「透明導電膜(ITO膜)の電気抵抗を低くすること」は透明導電膜を有する基板の技術分野における一般的な技術課題であり、「ITO膜の電気抵抗を低くするには、膜の結晶性をよくすることが重要であり、そのためには、ITO膜を高温で長時間加熱するとよいこと」は、当該分野における周知事項である。 そして、引用文献C記載事項にあるように、ガラス基板上に比抵抗が1.8×10−4Ω・cm以下のITO膜を成膜することも周知事項である。 そうすると、引用発明において、一般的な課題である「透明導電膜(ITO膜)の電気抵抗を低くする」ために上記各周知事項を採用して、「ITO膜」の比抵抗を1.8×10−4Ω・cm以下とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。 (3)本願発明の効果について 引用発明は、ITO膜の表面粗さRaは1.6nmであるから、本願発明の「前記透明導電層の厚み方向一方面における表面粗さRaが、10nm以下」であることにより奏する効果と同様の効果を奏することは明らかである。 また、本願発明の奏するその他の効果についても、引用文献A、B及びCから当業者が想起し得る範囲内のものである。 (4)請求人の主張について 請求人は、令和5年7月18日に提出した意見書(以下「意見書」という。)において、引用文献Aの実施例2及び比較例2について、以下のとおり主張している。 「実施例2および比較例2は、ITO膜の形成時に加熱をしているものの、その加熱温度が、本願の参考例5と同様の200℃であるため、プラズマ処理の有無にかかわらず、ITO膜の結晶化が不十分であると考えられ、比抵抗が高くなっています。また、引用文献Aの明細書[0006]には、背景技術の説明として、「ITO膜の電気抵抗を低くするには、膜の結晶性をよくすることが重要である。そのためには、ITO膜を高温で長時間加熱するとよい。しかし、高温で長時間加熱するために、基板の材質に制約を受けたり、加熱に伴うコストや時間がかかっていた」と記載されており、本願のように、より高い加熱温度によって、比抵抗が1.8×10−4Ω・cm以下の透明導電層を実現するという思想はありません。」 上記主張について検討すると、引用文献Aの【0006】の特に「高温で長時間加熱するために、基板の材質に制約を受けたり、加熱に伴うコストや時間がかかっていた」との記載は、従来技術では、比抵抗が1.8×10−4Ω・cm以下の透明導電層を実現することが技術的に不可能であったことを意味するものではなく、また「透明導電膜(ITO膜)の電気抵抗を低くすること」は、一般的な技術課題であるから、基板の材質や加熱条件を適宜設定して透明導電膜(ITO膜)の比抵抗を1.8×10−4Ω・cm以下とすることは、引用文献Aの想定の範囲内の事項であるといえる。 したがって、請求人の主張を採用することはできない。 (5)小括 したがって、本願発明は、引用発明、引用文献A記載事項1及び2、引用文献B記載事項並びに周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2023-08-09 |
結審通知日 | 2023-08-16 |
審決日 | 2023-08-30 |
出願番号 | P2018-094555 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01B)
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最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
瀧内 健夫 |
特許庁審判官 |
中野 浩昌 市川 武宜 |
発明の名称 | 透明導電性ガラス |
代理人 | 岡本 寛之 |