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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61B |
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管理番号 | 1403397 |
総通号数 | 23 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2023-11-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2022-10-14 |
確定日 | 2023-10-04 |
事件の表示 | 特願2020−549836「涙膜挙動に基づく方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月13日国際公開、WO2019/109122、令和 3年 6月10日国内公表、特表2021−514275〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本件出願(以下「本願」と記す。)は、2017年(平成29年)12月8日を国際出願日とする出願であって、令和2年12月2日に手続補正書が提出され、令和3年10月4日付けで拒絶理由が通知され、令和4年4月11日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月1日付けで拒絶査定されたところ、同年10月14日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 2 本願発明について 本願の請求項1〜15に係る発明は、令和4年4月11日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次に特定されるとおりである。 「 【請求項1】 被験者の目の涙膜の物理的挙動を検出する方法であって、 a.少なくとも第1の捕捉データセットを生成するために、前記涙膜の画像を捕捉するステップと、 b.前記少なくとも第1の捕捉データセットを分析するステップと、 c.前記少なくとも第1の捕捉データセットから前記涙膜の物理的挙動を検出するステップとを備え、 前記検出された物理的挙動は、被験者の眼症状を診断し、または前記眼症状に関する治療計画を展開または監視するのに役立つ、方法。」 3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。 (新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ●(新規性)について ・請求項 1〜8、11、12、14 ・引用文献等 1 ・請求項 1、3〜8、12〜14 ・引用文献等 2 ・請求項 1、3、5、7、8、14 ・引用文献等 3 ・請求項 1〜5、7、8、10〜12、14 ・引用文献等 4 ●(進歩性)について ・請求項 1〜8、10〜14 ・引用文献等 1〜4 ・請求項 9 ・引用文献等 1〜5 ・請求項 15 ・引用文献等 4、6 <引用文献等一覧> 1.特開2001−309889号公報 2.米国特許出願公開第2006/0109423号明細書 3.米国特許出願公開第2013/0079660号明細書 4.特表2008−529603号公報 5.特開2016−220801号公報(周知技術を示す文献) 6.米国特許出願公開第2013/0169933号明細書 4 引用文献1について (1)引用文献1の記載 引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審において付与した。)。 ア「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、被検眼の涙液層の状態を検査する眼科装置に関する。 【0002】 【従来技術】被検眼角膜に照明光束を投光し、被検眼角膜の涙液層によって形成される干渉縞を観察することで、ドライアイ等の診断を行う眼科装置が知られている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、涙液層に形成された干渉縞を観察しての検査や診断は、検者個々の主観的な判断で行うものであるため、その正確性は検者の経験に依存するものであった。 【0004】本発明は、上記問題点に鑑み、被検眼の涙液層の状態を客観的に検査することができる眼科装置を提供することを技術課題とする。」 イ「【0012】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係わる眼科装置の光学系と制御系の概略構成図である。 【0013】5は被検眼前眼部を観察する観察光学系であり、その光軸上には被検眼E側から1/4波長板4、対物レンズ6、偏光ビームスプリッタ7、撮像レンズ8、エリアセンサであるカラーCCDカメラ10が配置されている。 【0014】11は照明光学系で、ハロゲンランプ等の白色光源12を出射した照明光束は、投影レンズ15を透過した後、偏光ビームスプリッタ7に入射する。14はブルーフィルタであり、フルオレセイン(蛍光物質)を被検眼Eに点眼して蛍光観察によりドライアイ診断する場合に挿脱機構部25によって光路に挿入する。 【0015】偏光ビームスプリッタ7に入射した照明光束の内、可視域におけるs偏光成分の大部分は偏光ビームスプリッタ7によって反射され、被検眼E方向に導光される。 【0016】被検眼E方向に反射されたs偏光の照明光束は対物レンズ6を透過して、直線偏光を円偏光に変換する特性を有する1/4波長板4に入射する。1/4波長板4に入射したs偏光成分の照明光束は、例えば右回りの円偏光に変換され、被検眼角膜上の涙液層を照明する。照明位置は角膜上の涙液最表層の油層に選択される。 【0017】油層の表面及び裏面で反射された油層の厚みの変化により干渉縞模様を形成する。ここで、右回りの円偏光の照明光束が反射されると、円偏光の回転方向が反転し、左回りの円偏光の反射光束として1/4波長板4に入射する。左回りの円偏光である反射光束が1/4波長板4を通過するときには直線偏光に変換される。このとき、変換の元になる円偏光が涙液層での反射によって右回りから左回りに反転しているので、1/4波長板4を通過した反射光束はs偏光の照明光束とは直交する偏光方向を有するp偏光に変換される。 【0018】左回りの円偏光からp偏光に変換された反射光束は、対物レンズ6を透過した後、偏光ビームスプリッタ7に入射する。反射光束はp偏光に変換されているので、その大部分は偏光ビームスプリッタ7を透過し、撮像レンズ8によってカラーCCDカメラ10の撮像面上に結像する。 【0019】一方、偏光ビームスプリッタ7によって被検眼E方向へ反射されたs偏光の照明光束の内、一部が対物レンズ6でカラーCCDカメラ10方向へと反射される。この反射光束は照明光束と同じs偏光であるので、その殆どは偏光ビームスプリッタ7を透過することなく遮光(反射)され、妨害光となってカラーCCDカメラ10に入射することがないので、対物レンズ6での反射光束によるフレアは観察されない。カラーCCDカメラ10に結像した涙液層による干渉縞像はカラーモニタ22に表示され、検者はカラーモニタ22によって涙液層の状態を観察する。 【0020】また、カラーCCDカメラ10からの干渉縞像は画像記憶メモリ21に逐次入力され、演算制御部20は画像記憶メモリ21に入力された干渉縞の色相を解析し、その経時的変化の情報を得る。演算制御部20で得られる解析結果は、図形生成部23を介してカラーモニタ22に表示される。図形生成部23では測定結果等のグラフが演算制御部20の指示により生成される。24は各種のスイッチを備えるスイッチ入力部であり、演算制御部20に接続されている。」 ウ「【0021】以上のような構成を持つ眼科装置において、次にその動作を図2のフローチャートを用いて説明する。 【0022】測定は測定開始スイッチ27を押すことにより開始することも可能であるが、以下ではスイッチ入力部24に配置されるスイッチ24aで自動的に測定が開瞼状態から開始するモードを選択して行うものとして説明する。 【0023】ハロゲンランプ12からの照明光束により涙液層の干渉縞が形成され、これが観察光学系5のカラーCCDカメラ10に撮像されてカラーモニタ22に映し出される。検者は図3に示す干渉縞像122が中心で観察されるように、また、観察像のピントが合うように光学系を移動してアライメントする。 【0024】ここで、図3における符号121aは干渉縞の色相(以下、干渉色という)の解析を行う測定エリアを示しており、測定エリア121aの設定を変更する場合は次のようにする。スイッチ入力部24のスイッチ24cで測定エリア設定のモードにすると、測定エリア121aが画面上に表示される。その領域の縦サイズ及び横サイズのパラメータを、スイッチ24e,24f,24g,24hで所望する大きさに変更し、スイッチ24iの移動キーで所望する部位へ移動する。そして、スイッチ24cで設定モードを解除することにより、設定登録が完了する。 【0025】アライメント完了後、スイッチ27を押すと開瞼検出がスタートする。この時点で開瞼検出のために測定エリア121a内の光量測定をし、画像記憶メモリ21に保存する。一度、被験者に瞼を閉じ、再び開いてもらう。カラーCCDカメラ10からの画像信号は画像記憶メモリ21に逐次入力され、演算制御部20は逐次入力される測定エリア121aにおける画像信号から瞼の開いたことを検出して測定を自動的に開始する。すなわち、瞼が閉じられた時は被検眼からの反射光量が大きく変化するので、測定エリア121aにおける光量が測定エリア121aの開瞼時の光量と比較して同等(光量差が10%以内)であれば、開瞼していると演算制御部20は判断する。なお、開瞼状態の検出は周知の技術(特開平9-149884)を用いても良い。被検眼は複数回の瞬きをすることがあるので、この場合には時間計測により瞼の開きがある時間以上継続したときに、その開瞼開始の時間を測定開始のタイミングとする。 【0026】測定開始後、演算制御部20はカラーCCDカメラ10により撮像された干渉縞像を所定のサンプリング間隔で画像メモリ21に順次記憶させる。その後、予め設定された測定時間が過ぎると、測定終了の旨を音やカラーモニタ22上の表示で検者に知らせる。サンプリング間隔及び測定時間は、スイッチ入力部24のスイッチ操作で所望する値を設定しておく。例えば、サンプリング間隔を0.1、測定時間を5秒と設定しておくと、画像メモリ21には50枚の干渉縞画像が記憶される。 【0027】演算制御部20は画像メモリ21に記憶された画像から干渉色の経時的変化を解析する。この解析は次のように行う。予め設定しておいた前述の測定エリア121a内における干渉色の成分を、例えば、予め指定された256色や16色の階調で抽出する。そして、抽出した各色の測定エリア内における占有面積の比率(相対面積)を求める。これを各画像毎に行うことにより干渉色の経時的変化が得られる。解析結果は図形生成部23でグラフ化されカラーモニタ2上に表示される。図4はその表示例であり、256色や16色の階調で分けられた干渉色、面積比及び経過時間の関係を3次元的にグラフ表示したものである。図において、符号50はカラーバーを示し、色解析した階調をスペクトル的に表している。 【0028】ここで、一般に、正常な涙液層は最上層の油層が薄く均一な状態ため、反射される干渉色は白色に近い色となる。一方、ドライアイが進行してくると、干渉色は赤や黄色の迷彩色を示し、経時変化を追った場合、この迷彩部分の涙液層が破砕(ブレークアップ)されて角膜表層が露出してくるので、迷彩部分の色は徐々に変化する。例えば、赤色を例に挙げると、軽度のドライアイでも初めの段階から赤色を帯びた干渉色を示し、時間経過と共に徐々に赤色が増える。これを赤色に限らず、スペクトルのような多彩な色でその経時的変化を追い、図4に示したように、所定のエリア内における各色の面積比を時系列的に表すことにより、干渉色の変化を客観的、定量的に把握できるようになる。つまり、涙液層の状態の変化、ドライアイの進行具合が客観的に分かるようになる。」 エ「【0032】 【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、涙液層の状態を客観的に検査することができ、診断の信頼性を向上することができる。」 オ 図1 カ 図2 キ 図3 ク 図4 (2)引用文献1に記載された発明 前記(1)の記載から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(各構成要素の末尾の括弧内に認定の根拠となる記載箇所を示す。)。 「眼科装置により被検眼の涙液層の状態を検査する方法であって、(【0001】) 白色光源12を出射した照明光束は、投影レンズ15を透過した後、偏光ビームスプリッタ7に入射し、(【0014】) 偏光ビームスプリッタ7に入射した照明光束の内、可視域におけるs偏光成分の大部分は偏光ビームスプリッタ7によって反射され、被検眼E方向に導光され、(【0015】) 被検眼E方向に反射されたs偏光の照明光束は対物レンズ6を透過して、直線偏光を円偏光に変換する特性を有する1/4波長板4に入射し、1/4波長板4に入射したs偏光成分の照明光束は、右回りの円偏光に変換され、被検眼角膜上の涙液層を照明し、照明位置は角膜上の涙液最表層の油層に選択され、(【0016】) 油層の表面及び裏面で反射された油層の厚みの変化により干渉縞模様を形成し、ここで、右回りの円偏光の照明光束が反射されると、円偏光の回転方向が反転し、左回りの円偏光の反射光束として1/4波長板4に入射し、左回りの円偏光である反射光束が1/4波長板4を通過するときには直線偏光に変換され、このとき、変換の元になる円偏光が涙液層での反射によって右回りから左回りに反転しているので、1/4波長板4を通過した反射光束はs偏光の照明光束とは直交する偏光方向を有するp偏光に変換され、(【0017】) 左回りの円偏光からp偏光に変換された反射光束は、対物レンズ6を透過した後、偏光ビームスプリッタ7に入射し、反射光束はp偏光に変換されているので、その大部分は偏光ビームスプリッタ7を透過し、撮像レンズ8によってカラーCCDカメラ10の撮像面上に結像し、(【0018】) カラーCCDカメラ10に結像した涙液層による干渉縞像はカラーモニタ22に表示され、検者はカラーモニタ22によって涙液層の状態を観察し、(【0019】) また、カラーCCDカメラ10からの干渉縞像は画像記憶メモリ21に逐次入力され、演算制御部20は画像記憶メモリ21に入力された干渉縞の色相を解析し、その経時的変化の情報を得、演算制御部20で得られる解析結果は、図形生成部23を介してカラーモニタ22に表示される、(【0020】) 以上のような構成を持つ眼科装置において、(【0021】) 測定は、スイッチ入力部24に配置されるスイッチ24aで自動的に測定が開瞼状態から開始するモードを選択して行い、(【0022】) ハロゲンランプ12からの照明光束により涙液層の干渉縞が形成され、これが観察光学系5のカラーCCDカメラ10に撮像されてカラーモニタ22に映し出され、検者は干渉縞像122が中心で観察されるように、また、観察像のピントが合うように光学系を移動してアライメントし、(【0023】) ここで、干渉縞の色相(以下、干渉色という)の解析を行う測定エリア121aの設定を変更する場合は、スイッチ入力部24のスイッチ24cで測定エリア設定のモードにすると、測定エリア121aが画面上に表示され、その領域の縦サイズ及び横サイズのパラメータを、スイッチ24e,24f,24g,24hで所望する大きさに変更し、スイッチ24iの移動キーで所望する部位へ移動し、そして、スイッチ24cで設定モードを解除することにより、設定登録が完了し、(【0024】) アライメント完了後、スイッチ27を押すと開瞼検出がスタートし、カラーCCDカメラ10からの画像信号は画像記憶メモリ21に逐次入力され、演算制御部20は逐次入力される測定エリア121aにおける画像信号から瞼の開いたことを検出して測定を自動的に開始し、(【0025】) 測定開始後、演算制御部20はカラーCCDカメラ10により撮像された干渉縞像を所定のサンプリング間隔で画像メモリ21に順次記憶させ、その後、予め設定された測定時間が過ぎると、測定終了の旨を音やカラーモニタ22上の表示で検者に知らせ、サンプリング間隔及び測定時間は、スイッチ入力部24のスイッチ操作で所望する値を設定しておき、例えば、サンプリング間隔を0.1、測定時間を5秒と設定しておくと、画像メモリ21には50枚の干渉縞画像が記憶され、(【0026】) 演算制御部20は画像メモリ21に記憶された画像から干渉色の経時的変化を解析し、この解析は、予め設定しておいた測定エリア121a内における干渉色の成分を、予め指定された256色や16色の階調で抽出し、そして、抽出した各色の測定エリア内における占有面積の比率(相対面積)を求め、これを各画像毎に行うことにより干渉色の経時的変化が得られ、解析結果は図形生成部23でカラーモニタ2上に、256色や16色の階調で分けられた干渉色、面積比及び経過時間の関係を3次元的にグラフ表示され、(【0027】) ここで、一般に、正常な涙液層は最上層の油層が薄く均一な状態のため、反射される干渉色は白色に近い色となり、一方、ドライアイが進行してくると、干渉色は赤や黄色の迷彩色を示し、経時変化を追った場合、この迷彩部分の涙液層が破砕(ブレークアップ)されて角膜表層が露出してくるので、迷彩部分の色は徐々に変化するから、所定のエリア内における各色の面積比を時系列的に表すことにより、干渉色の変化を客観的、定量的に把握できるようになり、つまり、涙液層の状態の変化、ドライアイの進行具合が客観的に分かるようになり、(【0028】) 診断の信頼性を向上することができる、(【0032】) 方法。」 5 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1) ア 引用発明の「被検眼」及び「涙液層」は、本願発明の「被験者の目」及び「涙膜」に相当する。 イ 引用発明は、「油層の表面及び裏面で反射された油層の厚みの変化により干渉縞模様を形成」するところ、引用発明の「演算制御部20は画像メモリ21に記憶された画像から干渉色の経時的変化を解析し、この解析は、予め設定しておいた測定エリア121a内における干渉色の成分を、予め指定された256色や16色の階調で抽出し、そして、抽出した各色の測定エリア内における占有面積の比率(相対面積)を求め、これを各画像毎に行うことにより干渉色の経時的変化が得られ」、「ここで、一般に、正常な涙液層は最上層の油層が薄く均一な状態のため、反射される干渉色は白色に近い色となり、一方、ドライアイが進行してくると、干渉色は赤や黄色の迷彩色を示し、経時変化を追った場合、この迷彩部分の涙液層が破砕(ブレークアップ)されて角膜表層が露出してくるので、迷彩部分の色は徐々に変化する」ことから、引用発明の「涙液層」の「測定エリア121a内における干渉色の成分を」「抽出し、」「抽出した各色の測定エリア内における占有面積の比率(相対面積)を求め、これを各画像毎に行うことにより干渉色の経時的変化」を「得」ることは、涙液層(油層)の測定エリア内における厚みの経時的変化を得ているといえることから、引用発明の「干渉色の経時的変化」は、本願発明の「涙膜の物理的挙動」に相当するといえる。 すると、引用発明の「涙液層」の「測定エリア121a内における干渉色の成分を」「抽出し、」「抽出した各色の測定エリア内における占有面積の比率(相対面積)を求め、これを各画像毎に行うことにより干渉色の経時的変化」を「得」ることは、本願発明の「涙膜の物理的挙動を検出する」ことに相当する。 ウ 前記ア及びイの対比を踏まえると、引用発明の「被検眼の涙液層」の「測定エリア121a内における干渉色の成分を」「抽出し、」「抽出した各色の測定エリア内における占有面積の比率(相対面積)を求め、これを各画像毎に行うことにより干渉色の経時的変化」を「得」る「方法」は、本願発明の「被験者の目の涙膜の物理的挙動を検出する方法」に相当する。 (2) ア 前記(1)の対比を踏まえると、引用発明の「干渉縞画像」は、本願発明の「涙膜の画像」に相当する。 イ 引用発明は、「測定開始後、演算制御部20はカラーCCDカメラ10により撮像された干渉縞像を所定のサンプリング間隔で画像メモリ21に順次記憶させ、その後、予め設定された測定時間が過ぎると、測定終了の旨を音やカラーモニタ22上の表示で検者に知らせ、サンプリング間隔及び測定時間は、スイッチ入力部24のスイッチ操作で所望する値を設定しておき、例えば、サンプリング間隔を0.1、測定時間を5秒と設定しておくと、画像メモリ21には50枚の干渉縞画像が記憶され」ることから、引用発明の「所望する値」に「設定」した「サンプリング間隔及び測定時間」「で画像メモリ21に順次記憶させた」「干渉縞画像」(「例えば」「50枚の干渉縞画像」)は、本願発明の「第1の捕捉データセット」に相当するといえる。 ウ 前記ア及びイの対比を踏まえると、引用発明の「干渉縞画像を」「所望する値」に「設定」した「サンプリング間隔及び測定時間」「で画像メモリ21に順次記憶させ」る工程は、本願発明の「a.少なくとも第1の捕捉データセットを生成するために、前記涙膜の画像を捕捉するステップ」に相当する。 (3)引用発明の「演算制御部20」が「画像メモリ21に記憶された画像から干渉色の経時的変化を解析」する工程は、ここでの「画像メモリ21に記憶された画像」が、前記(2)イにおける「所望する値」に「設定」した「サンプリング間隔及び測定時間」「で画像メモリ21に順次記憶させた」「干渉縞画像」(「例えば」「50枚の干渉縞画像」)であることは自明であるから、本願発明の「b.前記少なくとも第1の捕捉データセットを分析するステップ」に相当する。 (4)前記(1)イ及び前記(3)の対比を踏まえると、引用発明の「演算制御部20」が「画像メモリ21に記憶された画像から」、「涙液層」の「測定エリア121a内における干渉色の成分を」「抽出し、」「抽出した各色の測定エリア内における占有面積の比率(相対面積)を求め、これを各画像毎に行うことにより干渉色の経時的変化」を「得」る工程は、本願発明の「c.前記少なくとも第1の捕捉データセットから前記涙膜の物理的挙動を検出するステップ」に相当する。 (5)引用発明において、「演算制御部20は画像メモリ21に記憶された画像から干渉色の経時的変化を解析し、この解析は、予め設定しておいた測定エリア121a内における干渉色の成分を、予め指定された256色や16色の階調で抽出し、そして、抽出した各色の測定エリア内における占有面積の比率(相対面積)を求め、これを各画像毎に行うことにより干渉色の経時的変化が得られ、解析結果は図形生成部23でカラーモニタ2上に、256色や16色の階調で分けられた干渉色、面積比及び経過時間の関係を3次元的にグラフ表示され、」「所定のエリア内における各色の面積比を時系列的に表すことにより、干渉色の変化を客観的、定量的に把握できるようになり、つまり、涙液層の状態の変化、ドライアイの進行具合が客観的に分かるようになり、」「診断の信頼性を向上することができる」ことから、前記(4)の対比を踏まえると、引用発明の「演算制御部20」で「得」た「干渉色の経時的変化」は、「図形生成部23で」「干渉色、面積比及び経過時間の関係を3次元的にグラフ表示され」ることにより、「ドライアイの進行具合が客観的に分かるようになり、診断の信頼性を向上することができる」ことは、本願発明の「前記検出された物理的挙動は、被験者の眼症状を診断」「するのに役立つ」ことに相当する。 6 小括 そうすると、本願発明と引用発明とに相違点は存在せず、本願発明は、引用発明である。 また、仮に本願発明を後記7(1)における主張1〜3及び5のように解したとしても、後記7(2)当審の見解ア〜ウ及びオにおいて説示したとおり、本願発明は、引用発明であり、また、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 7 請求人の主張について (1)請求人は、審判請求書の「3.本願が特許されるべき理由」の欄において、「本願発明について」以下の主張をする(下線は請求人において付与した。)。 「・本願発明は、涙膜の一部だけではなく、涙膜全体の物理的挙動を検出/可視化するものです(段落[0044]ご参照)。」(以下「主張1」という。)、 「・本願発明は、涙膜の形成/消失、または涙膜の欠如を検出/可視化するものです。」(以下「主張2」という。)、 「・本願発明は、涙膜全体の物理的挙動をリアルタイムで検出/可視化します。」(以下「主張3」という。)、 「・本願発明は、数学的なデータの操作を必要とすることなく、涙膜全体の物理的挙動を検出/可視化します。」(以下「主張4」という。)、 「・本願発明は、異物の介入/補助(例えば、色素(例えばフルオロセイン)で涙を染色すること)を必要とすることなく、涙膜全体の物理的挙動を検出/可視化します。」(以下「主張5」という。)、 「・本願発明は、涙膜全体から自然に放出される赤外線を検出することにより、涙膜全体の物理的挙動を検出/可視化します。」(以下「主張6」という。) (2)当審の見解 ア 主張1について (ア)本願発明は、物理的挙動の検出対象物が「涙膜」であって、涙膜「全体」に特定しているわけではないため、主張1は、本願発明(令和4年4月11日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるもの)に基づくものではない。また、涙膜の物理的挙動を「可視化」することも、本願発明に基づくものではない。 (イ)仮に本願発明が、物理的挙動の検出対象物が涙膜「全体」であったとしても、引用発明が、「ハロゲンランプ12からの照明光束により涙液層の干渉縞が形成され、これが観察光学系5のカラーCCDカメラ10に撮像されてカラーモニタ22に映し出され、」「ここで、干渉縞の色相(以下、干渉色という)の解析を行う測定エリア121aの設定を変更する場合は、スイッチ入力部24のスイッチ24cで測定エリア設定のモードにすると、測定エリア121aが画面上に表示され、その領域の縦サイズ及び横サイズのパラメータを、スイッチ24e,24f,24g,24hで所望する大きさに変更し、スイッチ24iの移動キーで所望する部位へ移動し、そして、スイッチ24cで設定モードを解除することにより、設定登録が完了」することを踏まえると、引用発明において、「カラーモニタ22に映し出」した「涙液層」に対して、どのような「大きさ」で「測定エリア」を設定するかは、「検者」が適宜なし得ることであるから、「涙液層」全体を「カラーモニタ22に映し出」し、「カラーモニタ22に映し出」した「涙液層」全体に対して「測定エリア」を設定することで、検出対象物を「涙液層」全体とすることは、当業者が容易になし得ることである。 また、引用発明は、「干渉色の経時的変化」を「グラフ表示」することから、物理的挙動を「可視化」しているといえる。 (ウ)よって、主張1は採用できない。 イ 主張2について (ア)本願発明は、「涙膜の物理的挙動を検出する」ものであって、涙膜の物理的挙動が、「形成/消失、または涙膜の欠如」であると特定しているわけではないため、主張2は、本願発明に基づくものではない。 (イ)仮に本願発明が、涙膜の「形成/消失、または涙膜の欠如」を検出するものであったとしても、引用発明が、前記5(1)イに説示したとおり、涙液層の厚みの経時的変化を得ているといえるところ、涙液層の厚みの経時的変化を得る過程で、「涙液層が破砕(ブレークアップ)されて角膜表層が露出してくる」状態を把握できることから、引用発明において、涙液層の厚みの経時的変化を得る過程で、涙膜の「形成/消失、または涙膜の欠如」を検出することは、当業者が容易になし得ることである。 (ウ)よって、主張2は採用できない。 ウ 主張3について (ア)本願発明は、物理的挙動の検出を「リアルタイム」で行うことを特定しておらず、また、前記ア(ア)に説示したとおり、物理的挙動の検出対象物が涙膜「全体」ではないため、主張3は、本願発明に基づくものではない。 (イ)仮に本願発明が、涙膜「全体」の物理的挙動を「リアルタイム」で検出するものであったとしても、引用発明において、「測定開始後、演算制御部20はカラーCCDカメラ10により撮像された干渉縞像を所定のサンプリング間隔で画像メモリ21に順次記憶させ、その後、予め設定された測定時間が過ぎると、測定終了の旨を音やカラーモニタ22上の表示で検者に知らせ、サンプリング間隔及び測定時間は、スイッチ入力部24のスイッチ操作で所望する値を設定しておき、例えば、サンプリング間隔を0.1、測定時間を5秒と設定しておくと、画像メモリ21には50枚の干渉縞画像が記憶され、」「演算制御部20は画像メモリ21に記憶された画像から干渉色の経時的変化を解析し、この解析は、予め設定しておいた測定エリア121a内における干渉色の成分を、予め指定された256色や16色の階調で抽出し、そして、抽出した各色の測定エリア内における占有面積の比率(相対面積)を求め、これを各画像毎に行うことにより干渉色の経時的変化が得られ、解析結果は図形生成部23でカラーモニタ2上に、256色や16色の階調で分けられた干渉色、面積比及び経過時間の関係を3次元的にグラフ表示され」ることを踏まえると、測定開始から解析結果がグラフ表示されるまでの間に、検者の操作が要求されることもないことから、引用発明は、干渉色の経時的変化を「リアルタイム」に得ているともいえなくもないし、仮に「リアルタイム」に得ているとまではいえないとしても、引用発明において、干渉色の経時的変化を「リアルタイム」に得ることは、当業者が容易になし得ることである。 また、引用発明において、検出対象物を涙膜「全体」とすることが容易想到であることは、前記ア(イ)に説示したとおりである。 (ウ)よって、主張3は採用できない。 エ 主張4について (ア)本願発明は、物理的挙動の検出に「数学的なデータの操作」を用いることを排除するものではなく、また、前記ア(ア)に説示したとおり、物理的挙動の検出対象物が涙膜「全体」ではないため、主張4は、本願発明に基づくものではない。 (イ)また、本願発明で使用される装置は、本願明細書の記載(【0089】、【0099】など)によれば、感熱性カメラであり、感熱性カメラが入力データの画像化のため「数学的なデータの操作」を行うことは自明であるから、主張4は、本願明細書の記載に基づくものでもない。 なお、引用発明において、検出対象物を涙膜「全体」とすることが容易想到であることは、前記ア(イ)に説示したとおりである。 (ウ)よって、主張4は採用できない。 オ 主張5について (ア)本願発明は、物理的挙動の検出に「異物の介入/補助(例えば、色素(例えばフルオロセイン)で涙を染色すること)」を用いることを排除するものではなく、また、前記ア(ア)に説示したとおり、物理的挙動の検出対象物が涙膜「全体」ではないため、主張5は、本願発明に基づくものではない。 (イ)仮に本願発明が、「異物の介入/補助(例えば、色素(例えばフルオロセイン)で涙を染色すること)を必要とすることなく、」涙膜「全体」の物理的挙動を検出するものであったとしても、引用発明は、異物の介入/補助(例えば、色素(例えばフルオロセイン)で涙を染色すること)を必要としない。(なお、引用文献1には、「【0014】・・・14はブルーフィルタであり、フルオレセイン(蛍光物質)を被検眼Eに点眼して蛍光観察によりドライアイ診断する場合に挿脱機構部25によって光路に挿入する。」と記載されていることから、引用文献1の眼科装置は、必要に応じて適宜、フルオレセイン(蛍光物質)を被検眼Eに点眼して蛍光観察できるものであるが、引用発明は、「ハロゲンランプ12からの照明光束により」「形成され」た「涙液層の干渉縞」を「解析」する方法であって、蛍光観察をする方法ではない。) また、引用発明において、検出対象物を涙膜「全体」とすることが容易想到であることは、前記ア(イ)に説示したとおりである。 (ウ)よって、主張5は採用できない。 カ 主張6について (ア)本願発明は、涙膜の物理的挙動の検出を「涙膜全体から自然に放出される赤外線を検出することにより」行うことを特定しておらず、また、前記ア(ア)に説示したとおり、物理的挙動の検出対象物が涙膜「全体」ではないため、主張6は、本願発明に基づくものではない。 (イ)よって、主張6は採用できない。 (3)また、請求人は、審判請求書の「3.本願が特許されるべき理由」「引用文献1について」の欄において、本願発明と引用発明との違いを主張しているが、当該主張は、本願発明について前記(1)の解釈を前提としたものであるところ、当該解釈を採用できないことは、前記(2)において説示したとおりであるから、当該主張は採用できない。 8 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明、及び他の原査定の拒絶の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 審判長 石井 哲 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2023-04-26 |
結審通知日 | 2023-05-02 |
審決日 | 2023-05-15 |
出願番号 | P2020-549836 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61B)
P 1 8・ 113- Z (A61B) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
石井 哲 |
特許庁審判官 |
渡戸 正義 ▲高▼見 重雄 |
発明の名称 | 涙膜挙動に基づく方法 |
代理人 | 高岡 亮一 |
代理人 | 三好 玲奈 |
代理人 | 高橋 香元 |
代理人 | 小田 直 |
代理人 | 岩堀 明代 |