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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M |
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管理番号 | 1403400 |
総通号数 | 23 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2023-11-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2022-10-19 |
確定日 | 2023-10-17 |
事件の表示 | 特願2020−540670「使い捨て熱伝達流体回路を備えたモジュール式加熱器/冷却器」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月11日国際公開、WO2019/068342、令和 2年12月10日国内公表、特表2020−535944〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願(以下「本願」という。)は、2017年(平成29年)10月 6日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和 2年 5月 8日 :手続補正書の提出 令和 3年 3月30日付け:拒絶理由通知書 令和 3年 6月22日 :意見書、手続補正書の提出 令和 3年11月29日付け:拒絶理由通知書 令和 4年 2月24日 :意見書、手続補正書の提出 令和 4年 7月 5日付け:拒絶査定 令和 4年10月19日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和 4年10月19日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和 4年10月19日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1) 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は、補正箇所であり、当審が付与した。)。 「【請求項1】 体外血液循環を伴う処置中に患者の血液を加熱または冷却するためのシステムであって、 第1のポンプと、一次回路配管を含む一次回路に流体的に結合され、前記一次回路内の第1の流体を加熱/冷却するように構成された加熱器/冷却器要素と、を含む加熱器/冷却器モジュールと、 前記血液と第2の流体との間で熱伝達をさせる標的デバイスに前記第2の流体を提供するように構成された二次回路配管を含む二次回路を含む熱伝達流体回路と、 前記第1の流体と前記第2の流体との間の熱伝達を促進するように、前記第1の流体が流れる前記一次回路配管に流体的に結合され、および前記第2の流体が流れる前記二次回路配管に流体的に結合される、熱交換器と、を備え、前記一次回路および前記二次回路が、別個の回路であり、そのため、前記第1の流体および前記第2の流体が、前記システム内で分離されたままであり、 前記標的デバイスが、人工肺を含み、 前記二次回路が、前記第2の流体を含む気密封止された閉回路である、システム。」 (2) 本件補正前の、令和 4年 2月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 体外血液循環を伴う処置中に患者の血液を加熱または冷却するためのシステムであって、 第1のポンプと、一次回路配管を含む一次回路に流体的に結合され、前記一次回路内の第1の流体を加熱/冷却するように構成された加熱器/冷却器要素と、を含む加熱器/冷却器モジュールと、 前記血液と第2の流体との間で熱伝達をさせる標的デバイスに前記第2の流体を提供するように構成された二次回路配管を含む二次回路を含む熱伝達流体回路と、 前記第1の流体と前記第2の流体との間の熱伝達を促進するように、前記第1の流体が流れる前記一次回路配管に流体的に結合され、および前記第2の流体が流れる前記二次回路配管に流体的に結合される、熱交換器と、を備え、前記一次回路および前記二次回路が、別個の回路であり、そのため、前記第1の流体および前記第2の流体が、前記システム内で分離されたままであり、 前記標的デバイスが、人工肺を含む、システム。」 2 本件補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項(以下「発明特定事項」という。)を全て含み、また、本件補正前の請求項1に記載された発明の発明特定事項である「二次回路」について、「第2の流体を含む気密封止された閉回路である」と限定するものである。さらに、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか)について、以下検討する。 (1) 本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)のとおりである。 (2) 引用文献の記載 ア 引用文献1 (ア) 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった刊行物である特開平6−237993号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(「…」は省略を表し、下線は当審が付与した。以下同様である。)。 a 「【0002】 【従来の技術】例えば、心臓手術等の際に血液の体外循環を行なう場合の血液体外循環回路には、血液を酸素化、脱炭酸ガスする人工肺(ガス交換器)と、血液の温度を調節する熱交換器とが設置されており、体外に導かれた血液を熱交換器により冷却または加温した後、酸素加、脱炭酸ガスすることが行われる。 【0003】しかしながら、このような血液体外循環回路では、熱交換器と人工肺とがそれぞれ別個に設置されているため、回路構成が複雑となり、また、回路中の血液のプライミング量も増大するという問題がある。 【0004】このような問題を解決するものとして、本願出願人は、平成5年2月15日付で、熱交換機能とガス交換機能とを兼ね備える熱およびガス交換器の発明を特許出願している。」 b 「【0020】図1は、本発明の流体供給装置の構成例を模式的に示す回路構成図である。同図に示す本発明の流体供給装置1は、熱交換機能とガス交換機能とを兼ね備える熱およびガス交換器として、後に詳述する熱交換器付人工肺(以下単に「人工肺」という)10に作動流体を供給する装置である。この流体供給装置1は、人工肺10において熱交換を行うための液体を貯留する容器2を有している。… 【0021】また、容器2には、液体の温度を調節する温調手段3が設置されている。この温調手段3は、容器2の底部に設置された加温装置(ヒーター)31と、容器2の側部に設置された冷却装置(クーラー)32と、容器2内の液中に浸漬された温度センサー35と、マイクロコンピュータよりなる制御手段36とで構成されている。 【0022】加温装置31の伝熱管33は、容器2の底部を貫通して容器2内の液中に設置されており、この伝熱管33内を流れる加温媒体との熱交換により、容器2内の液体が加温される。また、冷却装置32の伝熱管34は、容器2の側壁を貫通して容器2内の液中に設置されており、この伝熱管34内を流れる冷却媒体との熱交換により、容器2内の液体が冷却される。」 c 「【0024】また、流体供給装置1は、作動流体を人工肺10へ供給する作動流体供給ライン4を有している。この作動流体供給ライン4は、容器2内の液体を送液する送液手段5と、人工肺10においてガス交換を行うための気体を供給する気体供給手段6と、液体および気体が合流する合流部7と、合流部7と人工肺10の作動流体流入口142とを接続する管体71とで構成されている。 【0025】送液手段5は、一端が容器2内の底部付近に連通し、他端が合流部7に位置する管体51と、この管体51の途中に設置されたポンプ52とで構成されている。ポンプ52を作動すると、所望の温度に温調された容器2内の液体が管体51内を通って後述する合流部7へ供給される。」 d 「【0027】また、気体供給手段6は、例えば、気体を充填したボンベやコンプレッサーで構成される気体供給源61と、一端が気体供給源61に接続され、他端が合流部7に位置する送気管62と、送気管62の途中に設置され、送気管62の流路を開閉するバルブ63とで構成されている。バルブ63を開いた状態で、気体供給源61から送り出された気体は、送気管62を経て後述する合流部7へ供給される。」 e 「【0031】このような混合手段においては、管体51内を通って送られてくる液体は、チャンバー72内に流入し、一方、送気管62内を通って送られてくる気体は、ノズル73の先端からチャンバー72内に噴出され、微細な気泡となる。この気泡はチャンバー72内の液体中に混入し、気泡を含む液体は、管体71を経て人工肺10に供給される。」 f 「【0035】図4および5は、合流部7の他の構成例を示す。これらの図に示す合流部7は、液体と気体とを択一的にまたは交互に供給し得る流路変更手段で構成されている。この流路変更手段は、円筒状の本体76と、この本体76の外周に90°の角度を隔てて突出形成された3つの分岐管77a、77bおよび77cと、本体76の内腔に気密的にかつ回転可能に嵌合されている円柱状のコック78とで構成されている。 【0036】分岐管77a、77bおよび77cには、それぞれ、管体51、送気管62および管体71の端部が接続されている。また、コック78の内部には、各分岐管77a〜77cの内腔と連通し得るT字状の流路79が形成されている。 【0037】このような流路変更手段において、本体76内のコック78を図4に示す状態とすれば、分岐管77aおよび77cが流路79を介して連通し、分岐管77bは遮断される。これにより、管体51内を通って送られてくる液体のみが、分岐管77a、流路79、分岐管77cおよび管体71を順次経て人工肺10に供給される。」 g 「【0052】次に、人工肺10の作用について説明する。作動流体供給ライン4により送られてきた作動流体である気泡を含む液体は、作動流体流入口142からカバー部材14内に流入し、その圧力が所定値以上となると、各中空糸膜16の一端からその内腔に入り、この内腔を流れ、中空糸膜16の他端から流出部151内に流入し、作動流体流出口152から作動流体回収ライン8へと送り出される。」 h 「【0055】血液は、流路133内を流れる間に、中空糸膜16に形成された多数の細孔を介して、中空糸膜16の内腔を流れる気体と接触し、ガス交換が行われる。これにより、血液は、酸素加、脱炭酸ガスがなされる。また、これと同時に、血液は、流路133内を流れる間に、中空糸膜16を介して、中空糸膜16の内腔を流れる液体との間で熱交換が行われる。これにより、血液は、所望の温度に冷却または加温される。 【0056】図1に示すように、人工肺10の流出部151より排出された作動流体は、作動流体回収ライン8により回収される。この作動流体回収ライン8は、気液分離槽82と、一端が人工肺10の作動流体流出口152に接続され、他端が気液分離槽82の側壁を貫通して気液分離槽82内に連通する管体81と、一端が気液分離槽82の底部を貫通して気液分離槽82内に連通し、他端が容器2の側壁を貫通して容器2内に連通する管体85とで構成されている。」 i 「【0060】また、作動流体回収ライン8は、気液分離槽82を有さず、気泡を含む液体を容器2内に直接回収し、容器2内で気泡を浮上させて液体中から除去する構成であってもよい。」 j 「【0064】この場合、ポンプ52を停止して液体の供給を断てば、人工肺10へは作動流体として気体のみが供給されるので、ガス交換のみが行われる。逆に、バルブ63を閉じて気体の供給を断てば、人工肺10へは作動流体として液体のみが供給されるので、熱交換のみが行われる。 【0065】合流部7が図4および図5に示すような流路変更手段である場合、コック78の姿勢を図4に示す状態とすれば、人工肺10へは作動流体として液体のみが供給されるので、熱交換のみが行われ、コック78の姿勢を図5に示す状態とすれば、人工肺10へは作動流体として気体のみが供給されるので、ガス交換のみが行われる。」 k 「【0071】なお、本発明の流体供給装置1に接続される人工肺は、通常、上述した熱交換機能とガス交換機能とを兼ね備える人工肺であるが、これに限らず、熱交換機能を有さない人工肺を接続してもよい。また、ガス交換機能を有さない熱交換器を接続してもよい。熱交換機能を有さない人工肺を接続した場合には、上述した調整方法により、人工肺に供給する作動流体を気体のみとし、ガス交換機能を有さない熱交換器を接続した場合には、上述した調整方法により、人工肺に供給する作動流体を液体のみとする。」 l 「【図1】 」 m 「【図4】 」 n 「【図6】 」 (イ) 上記(ア)から、次の点が理解できる。 a 上記(ア)aより、従来の心臓手術等の際に血液の体外循環を行なう場合の血液体外循環回路では、回路構成が複雑となり、また、回路中の血液のプライミング量も増大するという問題があるところ、「熱交換機能とガス交換機能とを兼ね備える熱およびガス交換器」を用いることにより、この問題を解決している。また、上記(ア)bより、流体供給装置1は、「熱交換機能とガス交換機能とを兼ね備える熱およびガス交換器」としての人工肺10に作動流体を供給する装置であり、人工肺10において熱交換を行うための液体を貯留する容器2を有している。さらに、上記(ア)c、g、h、l及びnより、人工肺10に供給され中空糸膜16の内腔を流れる液体によって、血液が加温又は冷却される。 これらに鑑みると、流体供給装置1は、心臓手術等の際に血液の体外循環を行なう場合に血液を加温又は冷却する装置である。 b 上記(ア)b及びlより、流体供給装置1は、容器2の底部に設置された加温装置(ヒーター)31及び前記容器2の側部に設置された冷却装置(クーラー)32を含む温調手段3と、前記容器2の底部を貫通して前記容器2内の液中に設置され、内部を流れる加温媒体との熱交換により、前記容器2内の前記液体を加温する前記加温装置(ヒーター)31の伝熱管33と、前記容器2の側壁を貫通して前記容器2内の液中に設置され、内部を流れる冷却媒体との熱交換により、前記容器2内の前記液体を冷却する冷却装置(クーラー)32の伝熱管34とを備える。 c 上記(ア)bないしh及びlより、流体供給装置1において、人工肺10において血液との間で熱交換を行う液体は、容器2内から、送液手段5、合流部7及び管体71を含む作動流体供給ライン4により、前記人工肺10に供給される。また、上記(ア)h、i及びlより、人工肺10より排出された液体は、作動流体回収ライン8により、前記容器2内に回収される。 さらに、上記(ア)d、f及びjないしmによれば、人工肺10として、ガス交換機能を有さない熱交換器を採用することも可能であり、その場合、バルブ63を閉じる、又はコック78の姿勢を図4に示す状態とすることにより、人工肺10に気体を供給せず容器2内の液体のみを供給する。 また、上記(ア)h及びiによれば、作動流体回収ライン8は、気液分離槽82を有さず、液体を人工肺10から容器2内に直接回収する構成とするものが記載されている。そのような場合、作動流体回収ライン8は、人工肺10から液体を他の流体と接触することなく容器2内に回収する。 これらに鑑みると、引用文献1には、流体供給装置1が、血液と液体との間で熱交換が行われガス交換機能を有さない人工肺10に容器2内の前記液体のみを供給することができ、かつ前記人工肺10から前記液体を他の流体と接触することなく前記容器2内に回収する作動流体供給ライン4及び作動流体回収ライン8を備えることが記載されている。 d 上記(ア)b及びlより、加温装置31の伝熱管33及び冷却装置32の伝熱管34は、容器2を貫通し、前記容器2内の液中に設置されていることにより、該伝熱管33内及び伝熱管34内をそれぞれ流れる加温媒体及び冷却媒体と前記容器2内の液体とが熱交換される。また、上記(ア)c、h、i及びlより、前記容器2内の液体を人工肺10に供給する作動流体供給ライン4の送液手段5の管体51は、前記容器2の底部付近に連通し、前記人工肺10から前記液体を前記容器2内に回収する作動流体回収ライン8の管体85は、前記容器2の側壁を貫通して前記容器2内に連通する。 これらに鑑みると、前記容器2は、前記加温媒体及び前記冷却媒体と前記液体との間で熱交換されるように、前記加温媒体及び前記冷却媒体がそれぞれ流れる前記伝熱管33及び前記伝熱管34が、それぞれ底部及び側壁を貫通して内部の液中に配置されるとともに、前記液体が流れる前記作動流体供給ライン4及び前記作動流体回収ライン8が、内部に連通する。さらに、前記加温媒体及び前記冷却媒体がそれぞれ流れる加温装置31及び伝熱管33並びに冷却装置32及び伝熱管34と、前記液体が流れる容器2内、流体供給ライン4、人工肺10及び前記作動流体回収ライン8とは、別個の流路を形成しており、そのため、前記加温媒体及び前記冷却媒体と前記液体とは、流体供給装置1内で分離されたままである。 (ウ) 上記(ア)及び(イ)を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「心臓手術等の際に血液の体外循環を行なう場合に血液を加温又は冷却する流体供給装置1であって、 容器2の底部に設置された加温装置(ヒーター)31及び前記容器2の側部に設置された冷却装置(クーラー)32を含む温調手段3と、前記容器2の底部を貫通して前記容器2内の液中に設置され、内部を流れる加温媒体との熱交換により、前記容器2内の前記液体を加温する前記加温装置(ヒーター)31の伝熱管33と、前記容器2の側壁を貫通して前記容器2内の液中に設置され、内部を流れる冷却媒体との熱交換により、前記容器2内の前記液体を冷却する冷却装置(クーラー)32の伝熱管34と、 前記血液と前記液体との間で熱交換が行われ、ガス交換機能を有さない人工肺10と、 前記人工肺10に前記容器2内の前記液体のみを供給することができ、かつ前記人工肺10から前記液体を他の流体と接触することなく前記容器2内に回収する作動流体供給ライン4及び作動流体回収ライン8と、 前記加温媒体及び前記冷却媒体と前記液体との間で熱交換されるように、前記加温媒体及び前記冷却媒体がそれぞれ流れる前記伝熱管33及び前記伝熱管34が、それぞれ底部及び側壁を貫通して内部の液中に配置されるとともに、前記液体が流れる前記作動流体供給ライン4及び前記作動流体回収ライン8が連通する容器2と、を備え、前記加温媒体及び前記冷却媒体がそれぞれ流れる前記加温装置(ヒーター)31及び前記伝熱管33並びに前記冷却装置(クーラー)32及び前記伝熱管34と、前記液体が流れる前記容器2内、前記流体供給ライン4、前記人工肺10及び前記作動流体回収ライン8とは、別個の流路を形成しており、そのため、前記加温媒体及び前記冷却媒体と前記液体とは、流体供給装置1内で分離されたままである、 流体供給装置1。」 イ 引用文献2、引用文献3及び引用文献4 (ア) 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった刊行物である特表2002−537005号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。 a 「【0015】 …図示するように、カテーテル20は無菌のチューブセット32と流体連絡している。カテーテル20およびチューブセット32は、第1の(主たる)流体循環路30の部分を形成し、これを通って第1の流体は、カテーテル20と熱連絡して体内の目的部位を暖めまたは冷却するべく、循環する。目的部位、例えば、患者50の脳が、挿入されたカテーテル20と直接接触してもよく、或いは、流体または組織経絡を経てカテーテルと熱連絡して、これによって目的部位とカテーテル20間の熱転移が流体または組織を通じて生じるようにしてもよい。例えば、カテーテル20を脳への血液供給において順行性移植(前方移植、前転移植、implanted antegrade)し、カテーテルによって冷却された血液は脳と血液の温度を変えるのを助け、これによって低体温の所望の利益(利点)、例えば、血液/脳障壁の浸透性を低下させ、神経伝達物質の放出を抑制し、カルシウム仲介(媒介)効果を抑制し、脳水腫を抑制し、そして脳圧の低下を達成する。 【0016】 また、脳外科手術について論じているが、本発明は、患者の体の困難な部分への外科手術、例えば、体外処置が関係する心臓バイパス手術と結びつけて実施することができることは明らかである。…このように、温度制御は、しばしば熱交換器を用いて血液の温度を制御する体の外側での血液の循環を包含する処置において実行され、これによって患者の温度に作用する。このような処置には、ECMO(長期体外膜酸素化(酸素投与))および心臓と肺(心肺)のバイパス手術があり、これは、熱交換器を用いて室温でチューブ内の血液循環の効果を埋め合わせるだけでなく、臨床目的のために低体温を確立する典型的な例である。 【0017】 ポンプ34は、従来の設計のものでもよいが、好ましくは、第1の(主たる)独立式循環路の完全性を維持し、これによってその無菌性を保持するためのローラーポンプである。」 b 「【0018】 第1の循環路30における流体の漏洩を検出するために、本発明による構成(装置)は、流体容量液溜めを含有する流体レベル検出システム36を用いており、この液だめは、好ましくは、従来のIV(静脈)バッグ(38)であり、図2およ図3に示すような方法でフレーム42に支持されている。静脈バッグ38は、従来の取り付け部品48および52を用いてチューブセット32のセグメント32Bおよび32Cと連結している。通常、静脈バッグ38の方向において外側に付勢されている可動レバー46を有するスイッチ44が、静脈バッグ38に付勢された状態で配置され、バッグが許容可能な充満したレベルにあるときには、バッグがふくらみ、バッグ内の重さおよび/または圧力が、可動レバー46を、スイッチ44の第1の状態に対応する第1の位置へと付勢し、一方、第1の循環路30からの流体損失のために、バッグが許容不可能な消耗(減少)したレベルにあるときには、バッグがしぼみ(収縮し)、例えば、(不図示の)ばね機構によって付勢された可動レバー46は、スイッチ44の第2の状態に対応する通常の外側に付勢された位置に戻る。第2の状態で、スイッチ44を用いてポンプを停止させたり、または他の調整動作(例えば、操作者に聴覚的または視覚的アラームを送る)を作動させてもよい。」 c 「【0021】 第1の循環路30は、第2の流体をその中で循環させる第2の循環路40と熱交換を行う関係にある。無菌の熱交換器50はこの目的のために提供され、無菌性の第1の循環路30の一部を形成する。熱交換器50は、2つの流体循環路間を仲介し、公知の方法で(その詳細はここでは明解化のために削除する)、その間の熱転移を促進する役目を果たす。… 【0022】 流体循環路30および40は、少なくとも第1の流体循環路30の無菌性を維持し、第2の流体循環路40中の生物学的適合性のない流体の使用を可能にするために、その流体を互いに独立して保持している。 【0023】 第2の循環路40は、セグメント54Aおよび54Bを有するチューブセット54を有し、これらは、好ましくは、熱交換器50に取り外し可能に連結している。温度制御モジュール56は、以下に記載する制御方法で、チューブセット54中を循環する第2の流体を冷却または温める役目を果たす。温度制御モジュール56は、冷却器58およびヒーター(不図示)を備え、これらは作動して、公知の方法で直接的にまたは水浴(ウォーターバス)60を経て第2の流体の温度を制御可能に変更する。熱源の使用は、第2の流体の温度のより正確な制御を提供するため、或いは、特に、先立つ冷却段階(相)の後に、システムの使用によって患者の体内の目的部位の温度を高くすることを可能ならしめるために、好ましい。 【0024】 ポンプ26(図8)は、第2の流体を第2の流体循環路40を通って循環させ、これによって所望の温度に第2の循環路を維持する。」 d 「【図1】 」 e 「【図2】 」 f 「【図3】 」 g 「【図8】 」 (イ) 本審決で新たに引用する、本願の国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった刊行物である米国特許出願公開第2014/0172050号明細書(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。なお、当審による翻訳を{}内に示す。 a 「[0068] …Chilled or warmed biocompatible fluid such as saline, is pumped into the closed circuit catheter, which exchanges heat directly with the patient's blood.」 {[0068] …生理食塩水のような冷却又は加温された生体適合性流体を閉回路カテーテルに送出し、患者の血液と直接熱交換する。} b 「[0080] FIG. 5 shows a heating/cooling system 200 having a heat exchange catheter 205 in fluid communication with a pump 220 and a heat exchanger 225 through fluid lines 210, 215. In this embodiment, pump 220 receives heat exchange fluid from an outlet side of catheter 205 through line 210, and pumps the heat exchange fluid through heat exchanger 225 into the inlet side of catheter 205 through line 215. [0081] The heat exchanger 225 is typically placed in thermal contact with heat block 230. Heat block 230 is part of a primary fluid circuit 235 that is separate and not in fluid communication with the fluid circuit formed by catheter 205, pump 220, heat exchanger 225 and lines 210, 215. [0082] …When heat exchanger 225 is in thermal contact with heat block 230, heat is removed from heat exchanger 225 as the heat block cools, and thus heat is also removed the circulating heat exchange fluid circulating between heat exchanger 225 and catheter 205. [0083] As is typical for refrigeration systems, a compressor compresses a compressible fluid or gas. The compressed fluid or gas is then cooled by routing the fluid or gas through a condenser 250. …The compressed gas or fluid then is allowed to expand through an expansion valve and then into heat block 230. The expanding fluid or gas cools the heat block.」 {[0080] 図5は、流体ライン210、215を介してポンプ220と熱交換器225と流体連通する熱交換カテーテル205を有する加熱/冷却システム200を示している。この実施形態では、ポンプ220は、ライン210を介してカテーテル205の出口側から熱交換流体を受け、ライン215を介して熱交換器225を通して熱交換流体をカテーテル205の入口側に送出する。 [0081] 熱交換器225は、典型的には、熱ブロック230と熱接触して配置されている。ヒートブロック230は、カテーテル205、ポンプ220、熱交換器225及びライン210、215によって形成された流体回路と分離し流体連通していない一次流体回路235の一部である。 [0082] …熱交換器225が熱ブロック230と熱接触しているとき、熱ブロックが冷却されると、熱が熱交換器225から除去されるため、熱は熱交換器225とカテーテル205との間を循環する熱交換流体からも除去される。 [0083] 冷凍システムに典型的であるように、圧縮機は、圧縮性流体又は気体を圧縮する。圧縮された流体又はガスは、その後、凝縮器250を流体又はガスが通ることによって冷却される。…圧縮されたガス又は流体は、次に、膨張弁を通って膨張させられ、次いで熱ブロック230の中に流入する。膨張流体又はガスは、熱ブロックを冷却する。} c 「 」 (ウ) 本審決で新たに引用する、本願の国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった刊行物である特表2010−535596号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。 a 「【0033】 図2Aおよび3から理解されるように、熱交換カテーテル12は、一般に、体内熱交換器28が搭載されている細長いカテーテル本体21を備える。図3Aの断面に示すように、カテーテルの近位部分は、第1熱交換流体管腔24を有する近位軸21a、第2熱交換流体管腔26、および作動管腔22aを備える。近位軸21aの遠位端で、または、遠位端の近くで、第1熱交換流体管腔24は終端し、開口を通して3つの全体が円柱のバルーンローブ29a、29b、および29c内に連通するため、熱交換流体は、バルーンローブ29a、29b、および29cの近位部分から出て、第1熱交換流体管腔24に流入する。そのため、この特定の例では、第1熱交換流体管腔24は、体内熱交換器28から体外熱交換器へ戻るように熱交換流体の流出物を運ぶ。 【0034】 …バルーンローブ29a、29b、および29cならびに第2熱交換流体管腔26は、カテーテル軸の中央部分21bの遠位端で終端する。同様に、カテーテル軸の中央部分21bの遠位端で、または、遠位端の近くで、第2熱交換流体管腔26は終端するとともに開口を通して3つの全体が円柱のバルーンローブ29a、29b、および29c内に連通するため、熱交換流体は、第2熱交換流体管腔26からバルーンローブ29a、29b、および29cの遠位部分に流入する。そのため、この特定の例では、第2熱交換流体管腔26は、熱交換流体の流入物を体内熱交換器28に運ぶ。」 b 「【0038】 一方の腕にコック栓を有するY管などの第2弁付きポート40を、第1熱交換管腔24の近位端に取付けることで、熱交換流体によるシステムの最初の充満中に、システムから空気または好ましくない流体を排気またはパージすることが容易になる。 【0039】 図1を参照すると、体外熱交換器14は内側チューブ32を有するシェル30を備える。流出管45は、第1熱交換管腔24と内側チューブ32の入口とを接続し、流入管43は、内側チューブ32の出口と第2熱交換管腔26とを接続する。こうして、熱交換流体は、体外熱交換器14の内側チューブ32から第2(流入)熱交換管腔26を通り、バルーンローブ29a、29b、29cの遠位部分に入り、近位方向にバルーンローブ29a、29b、29cを通り、第1(流出)熱交換管腔24に入り、管5を通って体外熱交換器14の内側チューブ32内に戻るように圧送される。管15は、体外熱交換器14のシェル30からの出口を冷却器16や加熱器18に接続する。管19は、冷却器16や加熱器18を体外熱交換器14のシェル30の入口に接続する。こうして、加熱された流体または冷却された流体(例えば、プロピレングリコールまたは他の適した熱交換流体などのグリコール)は、冷却器16や加熱器18から管19を通り、体外熱交換器14のシェル30を通り、管15を通り、再び冷却器16や加熱器18を通って循環する。」 c 「【0041】 …そのため、体内熱交換器28は、バルーンローブ29a、29b、29cが空でつぶれているときに第1外接直径D1を有し、バルーンローブ29a、29b、29cが完全に満たされ膨張したとき第2外接直径D2を有するバルーンを有することになる。第1外接直径D1は、カテーテル12が所望のサイズの血管導入器を通して挿入されることが可能になるのに十分に小さいことが望ましい。さらに、熱交換の効率および迅速性は多数の因子によって直接影響を受ける。因子の1つは、膨張したバルーンローブ29a、29b、29cの血液に接触する表面積である。本質的には、バルーンローブ29a、29b、29cの血液に接触する表面積が大きくなればなるほど血液冷却または加温の効率および迅速性が大きくなる。しかし、第2外接直径D2は、通常、その血管腔を通る血液の流れを実質的に妨害しないように、体内熱交換器28がその中に位置決めされる血管腔の直径より小さくあるべきである。」 d 「【図3】 」 (エ) 上記(ア)a、c、d及びg並びに上記(イ)に開示されるように、次の技術事項(以下「技術事項A」という。)は、本願の国際出願日前において周知の技術であると認められる。 「加熱又は冷却された第1の流体が流れる一次回路配管と、第2の流体が流れる二次回路配管と、前記一次回路配管及び前記二次回路配管に流体的に結合され、前記第1の流体と前記第2の流体との間の熱伝達を行う熱交換器とを備え、前記二次回路配管によって患者の血液と前記第2の流体との間で熱伝達を行う別の熱交換器に前記第2の流体を提供することにより、前記血液を加熱又は冷却するシステムにおいて、前記一次回路配管が、前記第1の流体を流すためのポンプを有する点。」 (オ) 上記(ア)a及びcによれば、引用文献2に記載されたシステムの第1の循環路30は、無菌性が維持されるべく、独立式循環路の完全性を維持する。さらに、上記(ア)b、e及びfによれば、引用文献2に記載されたシステムは、第1の循環路30における流体の漏洩を検出するために静脈バッグ38を含有する流体レベル検出システム36を用いており、バッグが許容可能な充満したレベルにあるときには、静脈バッグ38がふくらみ、第1の循環路30からの流体損失のために、バッグが許容不可能な消耗したレベルにあるときには、静脈バッグ38が収縮する。そして、上記(ア)e及びfより、前記静脈バッグ38内の流体は密封されている点が看取され、上記(ア)d及びgより、血液を加熱又は冷却する処置中に、前記第1の循環路30は当該第1の循環路30の外部と連通しない閉回路である点が看取される。これらに鑑みれば、前記第1の循環路30は、血液を加熱又は冷却する処置中に、その無菌性が維持されるべく、気密封止された閉回路である。 また、上記(ウ)a及びbによれば、引用文献4に記載されたシステムにおいて、熱交換流体によるシステムの最初の充満中に、第2弁付きポート40を通じて、システムから空気又は好ましくない流体が排気又はパージされ、その後、当該熱交換流体は、体外熱交換器14の内側チューブ32、流入管43、第2(流入)熱交換管腔26、バルーンローブ29a、29b及び29c、前記第2弁付きポート40が取り付けられた第1(流出)熱交換管腔24並びに流出管45を循環する。そして、上記(ウ)cのように、前記熱交換流体によってバルーンローブ29a、29b及び29cを通じて血液を冷却又は加温しているときは、前記第2弁付きポート40から該熱交換流体が流出しないように、かつ空気又は好ましくない流体が流入しないように、前記第2弁付きポート40は閉じられ、前記熱交換流体が循環する流路は当該流路の外部と連通しない閉回路であることは明らかである。これらに鑑みれば、前記熱交換流体が循環する流路は、血液を加熱又は冷却する処置中に、空気などの好ましくない流体が流入しないようにするべく、気密封止された閉回路である。 これらを総合すると、次の技術事項(以下「技術事項B」という。)は、本願の国際出願日前において周知の技術であると認められる。 「加熱又は冷却された第1の流体が流れる一次回路配管と、第2の流体が流れる二次回路配管と、前記一次回路配管及び前記二次回路配管に流体的に結合され、前記第1の流体と前記第2の流体との間の熱伝達を行う熱交換器とを備え、前記二次回路配管によって患者の血液と前記第2の流体との間で熱伝達を行う別の熱交換器に前記第2の流体を提供することにより、前記血液を加熱又は冷却するシステムにおいて、前記第2の流体が循環する流路が、血液を加熱又は冷却する処置中に、その無菌性が維持されるべく、又は空気などの好ましくない流体が流入しないようにするべく、気密封止された閉回路である点。」 (3) 対比 ア 本件補正発明と引用発明との対比 本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「心臓手術等の際に血液の体外循環を行なう場合の血液を加温又は冷却する」は本件補正発明の「体外血液循環を伴う処置中に患者の血液を加熱または冷却する」に相当し、以下同様に「流体供給装置1」は「システム」に、「加温媒体」及び「冷却媒体」は「第1の流体」に、「液体」は「第2の流体」に、「熱交換が行われる」は「熱伝達をさせる」に、「人工肺10」は「人工肺を含」む「標的デバイス」に、「熱交換されるように」は「熱伝達を促進するように」にそれぞれ相当する。 さらに、引用発明の「伝熱管33」及び「伝熱管34」のうち「容器2内の液中に設置された」部分を除いた部分(以下「伝熱管の容器2内除外部分」という。)は本件補正発明の「一次回路配管」に相当する。また、引用発明では、「加温装置(ヒーター)31の伝熱管33」は「容器2の底部を貫通して前記容器2内の液中に設置され、内部を流れる加温媒体との熱交換により、前記容器2内の前記液体を加温する」こと、及び「冷却装置(クーラー)32の伝熱管34」は「容器2の側壁を貫通して前記容器2内の液中に設置され、内部を流れる冷却媒体との熱交換により、前記容器2内の前記液体を冷却する」ことから、「加温装置(ヒーター)31」及び「冷却装置(クーラー)32」は、それぞれ「伝熱管33」及び「伝熱管34」と流体的に結合され、それぞれ「伝熱管33」の「内部を流れる加温媒体」を「加温」及び「伝熱管34」の「内部を流れる冷却媒体」を「冷却」している。してみると、引用発明の「加温装置(ヒーター)31」及び「伝熱管33」並びに「冷却装置(クーラー)32」及び「伝熱管34」は本件補正発明の「一次回路」に、以下同様に「加温装置(ヒーター)31」及び「冷却装置(クーラー)32」は「一次回路配管を含む一次回路に流体的に結合され、前記一次回路内の第1の流体を加熱/冷却するように構成された加熱器/冷却器要素」に、「加温装置(ヒーター)31」及び「冷却装置(クーラー)32」並びに伝熱管の容器2内除外部分は「加熱器/冷却器モジュール」にそれぞれ相当する。 また、引用発明の「人工肺10に前記容器2内の前記液体のみを供給することができ、かつ前記人工肺10から前記液体を他の流体と接触することなく前記容器2内に回収する」は本件補正発明の「標的デバイスに前記第2の流体を提供するように構成された」に相当し、以下同様に「作動流体供給ライン4」及び「作動流体回収ライン8」は「二次回路配管」に相当する。さらに、引用発明では、「液体」は「作動流体供給ライン4」及び「作動流体回収ライン8」により、「容器2内」から「人工肺10」に供給され、「人工肺10」から「容器2内」に回収されるから、引用発明の「作動流体供給ライン4」、「人工肺10」、「作動流体回収ライン8」及び「容器2内」は本件補正発明の「二次回路」に相当し、以下同様に「作動流体供給ライン4」及び「作動流体回収ライン8」並びに「人工肺10」は「熱伝達流体回路」に相当する。 また、引用発明では「前記加温媒体及び前記冷却媒体がそれぞれ流れる前記伝熱管33及び前記伝熱管34」は、それぞれ「容器2」の「底部及び側壁を貫通して」、「容器2」の「内部の液中に配置され」ているから、引用発明の伝熱管の容器2内除外部分は、「容器2」並びに「伝熱管33」及び「伝熱管34」のうち「容器2内の液中に設置された」部分(以下「伝熱管の容器2内部分」という。)に流体的に結合している。また、引用発明の「「作動流体供給ライン4及び作動流体回収ライン8が連通する」は、本件補正発明の「二次回路配管に流体的に結合される」に相当する。したがって、引用発明の「容器2」及び伝熱管の容器2内部分は、本件補正発明の「第1の流体が流れる一次回路配管に流体的に結合され、および第2の流体が流れる二次回路配管に流体的に結合される、熱交換器」に相当する。さらに、引用発明の「別個の流路を形成しており」は本件補正発明の「別個の回路であり」に相当する。 イ 一致点 したがって、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で一致している。 「体外血液循環を伴う処置中に患者の血液を加熱または冷却するためのシステムであって、 一次回路配管を含む一次回路に流体的に結合され、前記一次回路内の第1の流体を加熱/冷却するように構成された加熱器/冷却器要素を含む加熱器/冷却器モジュールと、 前記血液と第2の流体との間で熱伝達をさせる標的デバイスに前記第2の流体を提供するように構成された二次回路配管を含む二次回路を含む熱伝達流体回路と、 前記第1の流体と前記第2の流体との間の熱伝達を促進するように、前記第1の流体が流れる前記一次回路配管に流体的に結合され、および前記第2の流体が流れる前記二次回路配管に流体的に結合される、熱交換器と、を備え、前記一次回路および前記二次回路が、別個の回路であり、そのため、前記第1の流体および前記第2の流体が、前記システム内で分離されたままであり、 前記標的デバイスが、人工肺を含む、システム。」 ウ 相違点 また、本件補正発明と引用発明とは、次の(相違点A)及び(相違点B)で相違している。 (相違点A) 本件補正発明では、「加熱器/冷却器モジュール」が、「第1のポンプ」を含むのに対し、引用発明では、そのように特定されていない点。 (相違点B) 本件補正発明では、「二次回路が、第2の流体を含む気密封止された閉回路である」のに対し、引用発明では、「作動流体供給ライン4及び作動流体回収ライン8」が、「人工肺10に容器2内の液体のみを供給することができ、かつ前記人工肺10から前記液体を他の流体と接触することなく前記容器2内に回収する」ものであるものの、「作動流体供給ライン4」、「人工肺10」、「作動流体回収ライン8」及び「容器2内」が、気密封止された閉回路であるか不明である点。 (4) 判断 ア (相違点A)について 上記(相違点A)について検討する。 引用発明では、「加温媒体」及び「冷却媒体」は、それぞれ「伝熱管33」及び「伝熱管34」の「内部を流れる」ものである。そして、「加温媒体」及び「冷却媒体」が、それぞれ「伝熱管33」及び「伝熱管34」の「内部を流れる」ようにするための具体的な構成として、周知・慣用の流体を流す機構であるポンプを採用することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。このとき、前記「伝熱管33」及び「伝熱管34」のうち、「容器2内の液中に設置された」部分は、「加温媒体及び冷却媒体と液体との間で熱交換される」部分であるから、伝熱管の容器2内除外部分にポンプを設けることは、当業者であれば当然に想到し得たことである。 また、上記(2)イ(エ)で述べたように、技術事項A、すなわち、一次回路配管が第1の流体を流すためのポンプを有することは、本願の国際出願前において周知の技術であり、引用発明において、上記周知の技術を適用して、伝熱管の容器2内除外部分に「加温媒体」又は「冷却媒体」を流すためのポンプを設けることは、当業者が容易に想到したことである。 イ (相違点B)について 上記(相違点B)について検討する。 引用発明の「作動流体供給ライン4及び作動流体回収ライン8」は、「人工肺10に容器2内の液体のみを供給することができ、かつ前記人工肺10から前記液体を他の流体と接触することなく前記容器2内に回収する」ものであるから、気密であるといえる。 また、引用発明の「人工肺10」は、「ガス交換機能を有さない」ものであるから、「人工肺10」を流れる「液体」は、他の流体(血液等)と接触する必要がない。したがって、引用発明の「ガス交換機能を有さない人工肺10」は、当該「人工肺10」を流れる「液体」と他の流体(血液等)とが接触しないと表現できるものであり、「人工肺10」の「液体」が流れる流路は気密であるといえる。 また、引用発明の「容器2内」について、上記(2)ア(ア)iで摘記したとおり、引用文献1には、「容器2内」に気泡を含む液体を回収し、「容器2内」で気泡を浮上させて液体中から除去する構成が記載されている。しかし、上記(2)ア(ア)dないしh、j及びkによれば、「容器2内」に回収される液体に気泡が含まれるのは、「作動流体供給ライン4」により「人工肺10」に気泡を含む液体を供給する場合であって、「人工肺10」がガス交換機能を有するときである。してみると、引用発明は、「人工肺10」が「ガス交換機能を有さない」ものであって、「人工肺10に容器2内の液体のみを供給する」ものであって、「容器2内」に回収される液体に気泡は含まれないから、「容器2内」で気泡を浮上させて液体中から除去する構成は、必要ではない。 そして、「容器2内」で気泡を浮上させて液体中から除去する必要がなければ、前記「容器2内」と該「容器2」の外部とを連通させる必要がない。 してみると、引用発明は、「容器2内」で気泡を浮上させて液体中から除去する必要がなく、「容器2内」と該「容器2」の外部とを連通させる必要がないから、引用発明において、「容器2」の外部から「液体」への他の物質の混入や、「容器2」の外部への「液体」の放出による「液体」の量の低下等を防止し、「液体」を安定して循環させるべく、該「容器2内」と外部との連通を遮断して気密封止すること(例えば「容器2」に蓋をすること)は、当業者であれば容易に想到し得たことである。 また、上記(2)イ(オ)で述べたように、技術事項B、すなわち、第2の流体が循環する流路が、血液を加熱又は冷却する処置中に、その無菌性が維持されるべく、又は空気などの好ましくない流体が流入しないようにするべく、気密封止された閉回路であることは、本願の国際出願日前において周知の技術である。そして、引用発明においても、血液を加熱又は冷却する処置中に、二次回路すなわち「作動流体供給ライン4」、「人工肺10」、「作動流体回収ライン8」及び「容器2内」の無菌性を維持する、又はこれらに空気などの好ましくない流体が流入しないようにすることは、当然の課題であるから、引用発明において、周知の技術である技術事項Bを適用して、「作動流体供給ライン4」、「人工肺10」、「作動流体回収ライン8」及び「容器2内」を気密封止された閉回路とすること(例えば「容器2」に蓋をして気密封止すること)は、当業者が容易になし得たことである。 ウ 請求人の主張について (ア) 請求人は、令和 4年10月19日提出の審判請求書「3.本願発明が特許されるべき理由」の項において、「引用文献1の図1及び段落[0058]を参照すると、引用文献1には、作動流体が人工肺10を通過した後に気液分離槽82に供給され、作動流体に含まれる気泡が脱気口8から排気されることが開示されています。つまり、引用文献1における作動流体が流れる回路は、気密封止された閉回路ではありません。」と主張している。 しかし、上記(2)ア(ア)iで摘記したとおり、引用文献1には、作動流体回収ライン8は、気液分離槽82を有さず、液体を容器2内に直接回収する構成とすることが記載されている。 したがって、上記イのとおりである。 (イ) また、請求人は、同審判請求書の同項において、「引用文献1は、「1つの交換器で熱交換とガス交換とを行うことができる熱およびガス交換器に、作動流体を供給することができる流体供給装置を提供すること」を目的としています(段落[0009]参照)。このため、引用文献1の流体供給装置1は、ガス交換器にガスを供給する必要があり、熱およびガス交換器(人口肺10)を通過した作動流体から気泡を排気する構成を有している必要があります。そうすると、引用文献1を参照した当業者が、作動流体が流れる回路を、気密封止された閉回路とするとは考えにくいものと思料致します。」と主張している。 しかし、上記(2)ア(ア)j及びkで摘記したとおり、引用文献1には、人工肺10として、ガス交換機能を有さない熱交換器を採用することが記載されており、その場合、人工肺10にはガスを供給せず液体のみを供給することが記載されている。また、上記イで述べたとおり、熱およびガス交換器(人工肺10)を通過した作動流体から気泡を排気する構成は、人工肺10としてガス交換機能を有するものを採用し、作動流体供給ライン4により人工肺10に気泡を含む液体を供給する場合に必要となる構成であって、人工肺10としてガス交換機能を有さない熱交換器を採用し、人工肺10にガスを供給せず液体のみを供給する態様においては、必要な構成ではないことは明らかである。 したがって、上記イのとおりである。 (5) 本件補正発明の効果について さらに、本件補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、又は引用発明、技術事項A及び技術事項Bの奏する効果から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 (6) 小括 したがって、本件補正発明は、引用発明に基いて、又は引用発明及び技術事項A若しくは技術事項Bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 3 むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しない。したがって、本件補正は、同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和 4年10月19日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和 4年 2月24日にされた手続補正により補正された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定における拒絶の理由 原査定における拒絶の理由は、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 3 引用文献の記載 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献の記載事項は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、上記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から「二次回路が、第2の流体を含む気密封止された閉回路である」との限定を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2(3)及び(4)に記載したとおり、引用発明に基いて、又は引用発明及び技術事項A若しくは技術事項Bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、同様の理由で、引用発明に基いて、又は引用発明及び技術事項A若しくは技術事項Bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 審判長 村上 聡 出訴期間として在外者に対し90日を附加する。 |
審理終結日 | 2023-04-11 |
結審通知日 | 2023-04-12 |
審決日 | 2023-06-07 |
出願番号 | P2020-540670 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61M)
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最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
村上 聡 |
特許庁審判官 |
栗山 卓也 角田 貴章 |
発明の名称 | 使い捨て熱伝達流体回路を備えたモジュール式加熱器/冷却器 |
代理人 | 道下 浩治 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 松尾 淳一 |
代理人 | 宮前 徹 |