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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1403610
総通号数 23 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-02 
確定日 2023-10-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第6879422号発明「化粧シート及び化粧材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6879422号の請求項1、2、7、8、10、11に係る特許を取り消す。 特許第6879422号の請求項3〜6、9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6879422号の請求項1〜11に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和2年10月15日に出願され、令和3年5月7日にその特許権の設定登録がされ、同年6月2日に特許掲載公報が発行された。
本件特許についての異議申立人真角侑子(以下、「申立人」という。)による本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和3年12月 2日 特許異議の申立て
令和4年 3月16日付け 取消理由通知
同年 5月20日 特許権者より意見書・訂正請求書
同年 8月 1日 申立人より意見書
令和5年 1月10日付け 訂正拒絶理由通知
同年 5月 9日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 8月16日 申立人より上申書
(なお、令和5年1月10日付け訂正拒絶理由通知及び同年5月9日付け取消理由通知(決定の予告)に対し、その指定期間内に特許権者から意見書の提出はされなかった。)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年5月20日の訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、「特許第6879422号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜11について訂正することを求める。」ものである(なお、下線は訂正箇所である。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「前記トップコート層は、銀成分を含有した銀系の抗ウイルス剤を含む第1トップコート層を有し、前記第1トップコート層において、前記抗ウイルス剤が含有する銀系材料の固形分濃度(質量%)をA、前記銀系材料中の前記銀成分の割合(質量%)をB、単位面積当たりの前記抗ウイルス剤の塗布量をC(g/m2)としたときに、下記(式1)の関係が成立する化粧シート。A×B×C≧10・・・(式1)」と記載されているのを、
「前記トップコート層は、銀成分が無機材料により担持された構成の抗ウイルス剤を含む第1トップコート層を有し、前記第1トップコート層は最表層であり、前記第1トップコート層を構成する樹脂組成物中の前記抗ウイルス剤の固形分濃度(質量%)をA、前記抗ウイルス剤中の前記銀成分の割合(質量%)をB、前記第1トップコート層における単位面積当たりの前記抗ウイルス剤の塗布量をC(g/m2)としたときに、下記(式1)の関係が成立する化粧シート。10≦A×B×C<20・・・(式1)」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜6、8〜11も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8の「前記銀系材料の固形分濃度は、」と記載されているのを、「前記抗ウイルス剤の固形分濃度Aは、」に訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9〜11も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8の「請求項1から7のいずれか1項に」と記載されているのを、「請求項1から6のいずれか1項に」に訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9〜11も同様に訂正する)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9の「前記抗ウイルス剤の平均粒径(μm)の値」と記載されているのを、「前記抗ウイルス剤の平均粒径D50(μm)の値」に訂正する(請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10、11も同様に訂正する)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9の「請求項1から8のいずれか1項に」と記載されているのを、「請求項1から6、8のいずれか1項に」に訂正する(請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10、11も同様に訂正する)。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10の「請求項1から9のいずれか1項に」と記載されているのを、「請求項1から6、8、9のいずれか1項に」に訂正する(請求項10の記載を直接的に引用する請求項11も同様に訂正する)。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11の「請求項1から10のいずれか1項に」と記載されているのを、「請求項1から6、8、9、10のいずれか1項に」に訂正する。

(9)一群の請求項
本件訂正の請求は、一群の請求項〔1〜11〕について請求されたものであり、訂正事項1〜8は、一体の訂正事項として取り扱われるものである。

2 訂正事項の適否
訂正事項1〜8のうち、訂正事項1、3については以下のとおりである
(1)訂正事項1について
訂正事項1により、訂正前の請求項1の「前記第1トップコート層において、前記抗ウイルス剤が含有する銀系材料の固形分濃度(質量%)」との事項を、「前記第1トップコート層を構成する樹脂組成物中の前記抗ウイルス剤の固形分濃度(質量%)」との事項に訂正し、訂正前の請求項1の「前記銀系材料中の前記銀成分の割合(質量%)」との事項を、「前記抗ウイルス剤中の前記銀成分の割合(質量%)」との事項に訂正する。

ア まず、訂正前の請求項1の「前記第1トップコート層において、前記抗ウイルス剤が含有する銀系材料の固形分濃度(質量%)」との事項を、「前記第1トップコート層を構成する樹脂組成物中の前記抗ウイルス剤の固形分濃度(質量%)」との事項に訂正することについて検討する。
この訂正では、「前記抗ウイルス剤が含有する銀系材料の固形分濃度(質量%)」を「前記抗ウイルス剤の固形分濃度(質量%)」に訂正するが、前者は、上記抗ウイルス剤の一部である上記銀系材料の固形分濃度であるのに対し、後者は、上記抗ウイルス剤の固形分濃度であることを勘案すると、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものである。

イ 次に、訂正前の請求項1の「前記銀系材料中の前記銀成分の割合(質量%)」との事項を、「前記抗ウイルス剤中の前記銀成分の割合(質量%)」との事項に訂正することについて検討する。
上記(1)で示したとおり、上記銀系材料は上記抗ウイルス剤の一部であることを勘案すると、この訂正も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものである。

ウ したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合しないものである。

(2)訂正事項3について
訂正事項3も、上記(1)で述べた訂正事項1と同様に、「銀系材料」との事項を削除する訂正を含むものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものである。
したがって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合しないものである。

3 小括
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合しない訂正事項1、3に係る訂正を含むものである。
そして、上記1(9)のとおり、特許請求の範囲に係る訂正である訂正事項1〜8は、一体の訂正事項として取り扱われるものであり、訂正事項1及び3に係る訂正が認められないから、本件訂正請求による一群の請求項〔1〜11〕に係る訂正は認められない。

第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正請求は認められないから、本件特許の請求項1〜11に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」〜「本件発明11」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものであると認められる。

「【請求項1】
原反層の上に、着色層とトップコート層とがこの順に積層され、
前記原反層は、造核剤又は無機粒子のうちいずれか一方と樹脂材料とを含み、
前記トップコート層は、銀成分を含有した銀系の抗ウイルス剤を含む第1トップコート層を有し、
前記第1トップコート層において、前記抗ウイルス剤が含有する銀系材料の固形分濃度(質量%)をA、前記銀系材料中の前記銀成分の割合(質量%)をB、単位面積当たりの前記抗ウイルス剤の塗布量をC(g/m2)としたときに、下記(式1)の関係が成立する化粧シート。
A×B×C≧10・・・(式1)
【請求項2】
前記原反層の厚みは、50μm以上200μm以下の範囲内である
請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記トップコート層は、最表層である前記第1トップコート層と、前記第1トップコート層と前記着色層との間に設けられた第2トップコート層との2層で形成されている
請求項1又は2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記第1トップコート層の単位面積当たりの塗布量は、1g/m2以上8g/m2以下の範囲内である
請求項3に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記第2トップコート層の単位面積当たりの塗布量は、2g/m2以上9g/m2以下の範囲内である
請求項3又は4に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記トップコート層の単位面積当たりの塗布量は4g/m2以上9g/m2以下の範囲内である
請求項3から5のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項7】
前記抗ウイルス剤は、前記銀成分が無機材料により担持された構成による前記銀系材料を含有していることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項8】
前記銀系材料の固形分濃度は、0.2質量%以上13質量%以下である
請求項1から7のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項9】
前記第1トップコート層の1平方メートル当たりの塗布量(g/m2)の値は、
前記抗ウイルス剤の平均粒径(μm)の値の1倍以上3倍未満である
請求項1から8のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項10】
前記原反層の前記着色層と反対側の面に設けられたプライマー層を有する
請求項1から9のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項11】
化粧材用基材と、
前記化粧材用基材に貼り合わされた請求項1から10のいずれか1項に記載の化粧シートと、
を有する化粧材。」

第4 取消理由の概要
令和5年5月9日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由は、次のとおりである。
[取消理由4]
本件特許の下記請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[取消理由5]
本件特許の下記請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、この出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以下、申立人が提出した「甲第○号証」は「甲○」という。


[引用文献一覧]
甲1:特開平10−157031号公報
甲6:特開2015−80887号公報
甲7:特開2019−25918号公報
甲8:「プラスチックデータハンドブック」、335ページ、株式会社工業調査会、1984年4月5日2版発行
甲12:特開2011−201323号公報
甲13:特開2014−88026号公報

[上記取消理由における請求項と証拠との関係]
・取消理由 4、5
・請求項 1、2、7、8、11
・引用文献 甲1、甲6〜甲8

・取消理由 5
・請求項 10、11
・引用文献 甲1、甲6〜甲8、甲12、甲13

第5 各号証について
1 甲1について
(1)記載事項
甲1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審が付与。以下同様。)。

「【0047】・・・無機系抗菌剤として、特公昭63ー54013号公報、特開平4ー300975号公報、特許第2529574号公報等に開示されているゼオライト、アパタイト、ガラス、シリカゲル、リン酸塩、リン酸ジルコニウム等のイオン交換可能なイオンの一部又は全部を、銀、銅、亜鉛、錫、鉛、水銀、コバルト、アンモニウム等のイオンで置換したイオン交換体がある。中でも、ゼオライト、リン酸ジルコニウムのイオン交換可能なイオンの一部を銀イオンで置換したものが、安全性や実積面から望ましい。ゼオライト、リン酸ジルコニウムに担持させた金属イオンの含有量としては、銀イオンの場合は0.1〜15重量%、銅又は亜鉛イオンの場合は0.1〜8重量%が好ましい。また、上記金属イオンで置換したイオン交換体を更にアンモニウムイオンで置換したものもある。(特公平4ー28646号公報、特許第2529574号公報等に開示)」

「【0056】
【実施例】以下に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
(実施例1)高密度ポリエチレンをベースにして、これに熱可塑性エラストマーとしてスチレン−ブタジエンゴムを30重量%、無機充填剤として炭酸カルシウム10重量%、着色顔料として弁柄とカーボンブラックを5重量%、熱安定剤及びヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤を5重量%、添加したブレンド物をカレンダー製膜法によって製膜し、厚さ100μmの不透明着色シート(以下着色PEシート11aとする)を得た。次いで、図4(a)に示すように、この着色PEシート11aの表面に、ウレタン系2液硬化型プライマー液(昭和インク工業(株)製「AFS メジューム」)を塗布してプライマー層20を形成した後、ポリウレタン系2液硬化型白色インキ(昭和インク工業(株)製「UEベタホワイト着色」) を用いて、白色のベタ印刷層12bを形成し、その上に、塩化ビニルー酢酸ビニル系インキ(昭和インク工業(株)製「化X 」) を用いて、柾目柄をグラビア印刷して絵柄印刷層12aを設けた。
【0057】一方、アイソタクティックポリプロピレン50重量%とアタクティックポリプロピレン50重量%のブレンドポリプロピレンに、紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を3000ppm、光安定剤としてヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤を5000ppmを添加し、このブレンドポリプロピレンを溶融押し出し法によりシート化し、厚さ100μmの透明な軟質ポリプロピレンシート(透明PPシート)を得た。次いで、図4(b)に示すように、この透明PPシートに、抗菌剤として粒径分布が2〜5μmで、銀含有量が2.5重量%、亜鉛含有量14.5重量%である銀イオン系ゼオライト抗菌剤を5重量%添加したウレタン系2液硬化型インキ(昭和インク工業(株)製「OP-A4 コーキン」)を用いて、グラビアロールコート方式により、抗菌剤16を含有する抗菌性塗膜15を形成した。抗菌性塗膜15は硬化後の厚さが3μmになるようにした。
【0058】次に、前記着色PEシートの印刷面にウレタン系接着剤(大日精化工業(株)製「E-288L」)を塗布し、図4(c)に示すように、前記透明PPシートのPP面をドライラミネートして抗菌性化粧シート1を作製した。」

「【0066】
【発明の効果】本発明の抗菌性化粧シートは、プラスチック、紙、木材、金属板、無機系素材等あらゆる基材に貼付することによりその表面に抗菌性能を付与することができるので、室内水回り関係や高温多湿の場所及び病院その他衛生的な環境を必要とする場所で使用される各種備品(電気製品、キャビネット、各種器具等)に対し、抗菌性能を付与するには非常に有効な手段である。例えば、本発明の抗菌性化粧シートを用いて化粧鋼板を作製し、この化粧鋼板を、病院の間仕切り、衝立、手摺等に利用した場合は、付着した細菌に対して殺菌作用を示すので、室内を清潔に維持できると共に、各種細菌の院内感染を防止することもできる。・・・」

【図4】


(2)甲1発明
上記(1)の記載を総合すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「高密度ポリエチレンをベースにして、無機充填剤として炭酸カルシウム10重量%を含有する、厚さ100μmの着色PEシート11a、白色のベタ印刷層12b、絵柄印刷層12a、厚さ100μmの透明PPシート、抗菌性塗膜15をこの順に形成された抗菌性化粧シート1であって、
抗菌性塗膜15は、粒径分布が2〜5μmで、銀含有量が2.5重量%、亜鉛含有量14.5重量%である銀イオン系ゼオライト抗菌剤を5重量%添加したウレタン系2液硬化型インキを用いて形成され、
抗菌性塗膜15は硬化後の厚さが3μmである抗菌性化粧シート1。」

2 甲6について
甲6には、以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は絵柄印刷や表面エンボスなどの施された化粧シートに関するものであり、特には抗ウィルス性が必要とされるドア、窓枠、家具といった日常接触する機会の多い内装箇所に使用される、抗ウィルス性を有する内装用化粧シートに関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、すなわちその課題とするところは、抗ウィルス性にすぐれ、かつ表面の各種物性に優れ、製造が容易な抗ウィルス性を有する内装用化粧シートを提供することにある。」

「【0019】
本発明における銀系無機添加剤又は亜鉛系無機添加剤としては、無機化合物のゼオライト、アパタイト、ジルコニアなどの物質に銀イオン、銅イオン、亜鉛イオンのいずれかの金属イオンを取り込んで形成した抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア等の無機系抗菌剤が使用できる、また有機抗菌剤、有機防カビ剤としてジンクピリジオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサノジン、有機チツソイオウハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシド等が使用できるが、抗菌効果の点で銀系抗菌剤が優れている。」

3 甲7について
甲7には、以下の事項が記載されている。

「【0017】
本発明の化粧板において、上記無機抗ウィルス粒子は、酸化銅(I)、酸化銅(II)、炭酸銅(II)、水酸化銅(II)、塩化銅(II)、銀イオン及び銅イオンの少なくとも一方で交換されたゼオライト、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持されたアルミナ、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持されたシリカ、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持された酸化亜鉛、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持された酸化チタン、並びに、ナノ銀及び銅の少なくとも一方が担持されたリン酸カルシウムから選ばれる少なくとも1種からなる無機粒子であることが望ましい。」

4 甲12について
甲12には、図面と共に以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
基材上に、少なくとも、柄印刷層、透明樹脂層、プライマー層及び表面保護層を有する化粧シートであって、基材がポリオレフィン系樹脂からなり、プライマー層がポリカーボネート系ウレタンアクリル共重合体及びアクリルポリオールからなり、該ポリカーボネート系ウレタンアクリル共重合体とアクリルポリオールの質量比が80:20〜20:80であり、表面保護層が電子線硬化性樹脂組成物の架橋硬化したものであり、かつ、該表面保護層のJIS K 7127に準拠した以下の測定条件で測定した引張試験における引張伸度が10〜50%である化粧シート。
測定条件;厚さ50μm、幅25mm、長さ120mmの試験片を用い、引張速度30mm/分、チャック間距離80mm、標線間距離50mm、温度23℃の条件で破断するまでの引張伸度を測定する。
・・・
【請求項9】
基材の裏面に裏面プライマー層を有する請求項1〜8のいずれかに記載の化粧シート。」

「【0052】
次に、本発明の化粧シートは、透明樹脂層4の上にプライマー層5が積層されることを特徴とする。
プライマー層5は上記ワイピング加工に用いられるインキ組成物で使用するバインダー樹脂と同様のものを用いる。すなわち、ポリカーボネート系ウレタンアクリル共重合体とアクリルポリオールからなる樹脂を用いる。これらの樹脂を用いることで、極めて高い耐候性を本発明の化粧シート1に付与することができる。
ポリカーボネート系ウレタンアクリル共重合体中のアクリル成分とウレタン成分の質量比は、特に制限されないが、耐候性を向上させるとの観点から、前記と同様にウレタン成分:アクリル成分の質量比を80:20〜20:80の範囲とすることが好ましく、70:30〜30:70の範囲とすることがより好ましい。
また、ポリカーボネート系ウレタンアクリル共重合体とアクリルポリオールの質量比は80:20〜20:80である。この範囲であると、イソシアネートとの2液架橋により硬くなり、耐溶剤性が向上する上、十分な柔軟性が得られる。なお、ウレタンアクリル共重合体のみであると、柔らかく、十分な耐溶剤性が得られない。以上の点から、ポリカーボネート系ウレタンアクリル共重合体とアクリルポリオールの質量比は70:30〜30:70の範囲がより好ましい。」

【図1】


5 甲13について
甲13には、図面と共に以下の事項が記載されている。

「【0013】
図1及び2は、本発明の化粧シートの好ましい態様の一例の断面を示す模式図である。図1に示す態様は、基材2上に柄印刷層3、接着層8、透明樹脂層4、プライマー層5及び表面保護層6が順に積層されたものである。また、図2に示す態様は、基材2上に柄印刷層3、接着層8、透明樹脂層4、プライマー層5及び表面保護層6がこの順に積層されたものであり、基材2の裏面に裏面プライマー層7が設けられている。・・・」

「【0071】
(表面保護層6の形成)
本発明の化粧シートの表面保護層6の形成は、以下のようにして行われる。
コーティング剤組成物の塗工は、硬化後の厚さが通常1〜20μm程度となるように、グラビアコート、バーコート、ロールコート、リバースロールコート、コンマコートなどの公知の方式、好ましくはグラビアコートにより行う。また、優れた耐候性とその持続性、さらには透明性と防汚性とを得る観点から、好ましくは2〜20μmである。
【0072】
上記コーティング剤組成物の塗工により形成した未硬化樹脂層は、電子線、紫外線などの電離放射線を照射して架橋硬化することで、表面保護層6となる。ここで、電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度で未硬化樹脂層を硬化させることが好ましい。」

「【0075】
《プライマー層5》
本発明の化粧シートにおいて、透明樹脂層4の上にプライマー層5が積層されることが好ましい。
プライマー層5は上記した着色樹脂層9を形成するインキ組成物で使用するバインダー樹脂から適宜選ばれるものを用いることが好ましい。すなわち、ポリカーボネート系ウレタンアクリレートやポリエステル系ウレタンアクリレート、あるいはポリカーボネート系ウレタンアクリレートとアクリルポリオールとからなる樹脂を用いることが好ましい。これらの樹脂を用いることで、極めて高い耐候性を本発明の化粧シートに付与することができる。」

【図1】


第6 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、その機能や構造からみて、後者の「高密度ポリエチレン」は、前者の「樹脂材料」に相当し、以下同様に、「着色PEシート11a」は「原反層」に、「炭酸カルシウム」は「無機粒子」に、「白色のベタ印刷層12b」及び「絵柄印刷層12a」は「着色層」に、「抗菌性塗膜15」は「トップコート層」及び「第1トップコート層」に、「抗菌性化粧シート1」は「化粧シート」に、それぞれ相当する。
後者の「着色PEシート11a、白色のベタ印刷層12b、絵柄印刷層12a、」「抗菌性塗膜15をこの順に形成された」ことは、前者の「原反層の上に、着色層とトップコート層とがこの順に積層され」に相当する。
後者の「高密度ポリエチレンをベースにして、無機充填剤として炭酸カルシウム10重量%を含有する、厚さ100μmの着色PEシート11a」は、前者の「前記原反層は、造核剤又は無機粒子のうちいずれか一方と樹脂材料とを含」むことに相当する。
例えば、甲6の【0006】、【0019】、甲7の【0017】に示されるように、銀イオンを取り込んだゼオライトは抗ウイルス性を有すると認められるから、後者の「銀イオン系ゼオライト抗菌剤」は、前者の「銀成分を含有した銀系の抗ウイルス剤」に相当し、後者の「抗菌性塗膜15は、」「銀イオン系ゼオライト抗菌剤を5重量%添加したウレタン系2液硬化型インキを用いて形成され」ることは、前者の「前記トップコート層は、銀成分を含有した銀系の抗ウイルス剤を含む第1トップコート層を有」することに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点1>
「原反層の上に、着色層とトップコート層とがこの順に積層され、
前記原反層は、造核剤又は無機粒子のうちいずれか一方と樹脂材料とを含み、
前記トップコート層は、銀成分を含有した銀系の抗ウイルス剤を含む第1トップコート層を有する化粧シート。」

<相違点1>
本件発明1では、「前記第1トップコート層において、前記抗ウイルス剤が含有する銀系材料の固形分濃度(質量%)をA、前記銀系材料中の前記銀成分の割合(質量%)をB、単位面積当たりの前記抗ウイルス剤の塗布量をC(g/m2)としたときに、A×B×C≧10・・・(式1)の関係が成立する」のに対し、甲1発明では、抗菌性塗膜15は、銀含有量が2.5重量%、亜鉛含有量14.5重量%である銀イオン系ゼオライト抗菌剤を5重量%添加したウレタン系2液硬化型インキを用いて形成され、抗菌性塗膜15は硬化後の厚さが3μmであるが、上記(式1)の関係が成立するのか不明である点。

(2)相違点についての判断
本件特許の明細書の【0047】の記載を参照すると、本件発明1の「前記抗ウイルス剤が含有する銀系材料の固形分濃度(質量%)」は、上記抗ウイルス剤における銀系材料の固形分である銀成分と無機担持体の濃度(質量%)であると認められる。
よって、甲1発明の「銀イオン系ゼオライト抗菌剤を5重量%添加」の「5重量%」が、本件発明1の「A」に相当し、甲1発明の「銀含有量が2.5重量%」の「2.5重量%」が、本件発明1の「B」に相当すると認められるところ、本件発明1の「C」に相当する、単位面積あたりの銀イオン系ゼオライト抗菌剤の塗布量は不明である。
抗菌性塗膜15の密度が、主成分であるウレタン樹脂の密度と同じとすると、例えば、甲8の335ページの(54)には、各種ウレタン樹脂の密度が「1.15」〜「1.26」とあり、抗菌性塗膜15の密度は、1.15〜1.26×106(g/m3)となる。また、抗菌性塗膜15の硬化後の厚さは3μm=3×10―6mである。
そうすると、本件発明1の「C」に相当する(単位面積あたりの銀イオン系ゼオライト抗菌剤の塗布量)は、(1.15〜1.26×106(g/m3))×(3×10―6m)=3.45〜3.78(g/m2)であり、A×B×C=43.125〜47.25となる。
甲1発明において、抗菌性塗膜15の密度は不明であるが、1.15〜1.26(g/cm3)から大きく異なることはないから、単位面積あたりの銀イオン系ゼオライト抗菌剤の塗布量も「43.125〜47.25」から大きく異ならないはずであり、甲1発明の抗菌性塗膜15は、上記(式1)の「10以上」の条件を満たす蓋然性が高いものといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点とはいえないから、本件発明1は甲1発明であり、仮に相違点1が実質的な相違点であるとしても、当業者が適宜なし得る程度のものであるから、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 本件発明2について
甲1発明の「厚さ100μmの着色PEシート11a」は、本件発明2の「前記原反層の厚みは、50μm以上200μm以下の範囲内である」ことに相当する。

3 本件発明7について
甲1発明の「銀イオン系ゼオライト抗菌剤」は、本件発明7の「前記抗ウイルス剤は、前記銀成分が無機材料により担持された構成による前記銀系材料を含有していること」ことに相当する。

4 本件発明8について
甲1発明の「銀イオン系ゼオライト抗菌剤を5重量%添加」したことは、本件発明8の「前記銀系材料の固形分濃度は、0.2質量%以上13質量%以下である」ことに相当する。

5 本件発明10について
化粧シートにおいて、原反層(基材)の裏面にプライマー層を設けることは、本件特許の出願前の周知技術(例えば、甲12の請求項9、甲13の【0013】等参照。)にすぎない。

6 本件発明11について
甲1の【0066】には、抗菌性化粧シートを基材に貼付して、例えば、化粧鋼板(本件発明11の「化粧材」に相当。)を作製することが記載されている。

7 小括
したがって、本件発明1、2、7、8、11は、甲1発明である、又は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであり、本件発明10、11は、甲1発明及び周知技術(甲12、13等参照。)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の内容
申立人は、特許異議申立書において、本件発明1〜11について、以下の(1)〜(5)を主張する。

甲2:特開2017−19837号公報
甲3:「微粒子ハンドブック」、52〜61、174〜207ページ、初版第1刷、株式会社朝倉書店、1991年9月1日発行
甲4:国際公開第2005/037296号
甲5:株式会社タイショーテクノスのウェブページ「工業用抗菌剤「ビオサイドTB−B100」」、[online]、<URL:http://www.taishotechnos.co.jp/products/tech_bn001.html>
甲9:国際公開第2010/026730号
甲10:特開2015−217620号公報
甲11:特開2020−76015号公報
甲14:特開2008−238771号公報

(1)特許異議申立理由1(明確性要件)
本件発明1〜11は、明確ではなく、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜11の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、請求項1〜11に係る特許は、同法第36条第6項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。

(2)特許異議申立理由2(サポート要件)
本件発明1〜11は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜11の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、請求項1〜11に係る特許は、同法第36条第6項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。

(3)特許異議申立理由3(実施可能要件
本件発明1〜11について、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないので、請求項1〜11に係る特許は、同法第36条第4項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。

(4)特許異議申立理由4(新規性
本件発明3〜6、9は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するので、請求項3〜6、9に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。

(5)特許異議申立理由5(進歩性
本件発明3〜6、9は、甲1に記載された発明及び甲2〜14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項3〜6、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。

2 特許異議申立理由についての判断
(1)特許異議申立理由1(明確性要件)について
ア 「第1トップコート層」、「抗ウイルス剤」、「銀系材料」について
申立人は、特許異議申立書(16〜19ページ参照。)において、請求項1では、発明の詳細な説明を参酌しても、「銀成分を含有した銀系の抗ウイルス剤」と「抗ウイルス剤が含有する銀系材料」との相互の関係が不明確であり、そのためにそれらを含む「第1トップコート層」も不明確であるとともに、「抗ウイルス剤が含有する銀系材料の固形分濃度(質量%)をA、前記銀系材料中の前記銀成分の割合(質量%)をB、単位面積当たりの前記抗ウイルス剤の塗布量をC(g/m2)としたとき」に、「A×B×C≧10・・・(式1)」の関係が成立することの技術的意味が不明確であるから、本件発明1、及び、請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2〜11は不明確である旨主張する。

発明の詳細な説明の【0046】の「銀系材料は、銀成分が無機材料による担持体(無機担持体)に担持されている構成であってもよいし、銀成分単体で構成されてもよい。」との記載を参酌すると、請求項1の上記「抗ウイルス剤が含有する銀系材料」は、抗ウイルス剤が含有する銀成分及び無機担持体、又は、抗ウイルス剤が含有する銀成分単体であると認められ、「銀成分を含有した銀系の抗ウイルス剤」と「抗ウイルス剤が含有する銀系材料」との相互の関係は明確であり、その結果、「第1トップコート層」も明確である。
また、(式1)について、発明の詳細な説明の【0046】の「例えば銀系抗ウイルス剤における銀系材料が、銀成分が無機材料により担持された構成であるとする。この場合、上記「A」の「固形分濃度」とは、銀系抗ウイルス剤中の「銀系材料」、つまり「銀成分」及び「無機担持体」(銀成分+無機担持体)の濃度を示す。」との記載を参照すると、上記Aは抗ウイルス剤中の銀系材料の濃度を表すと認められる。そうすると、A×B×Cは上記第1トップコート層における単位面積当たりの銀成分の量であり、また、本件発明1の(式1)に係る構成は、該銀成分の量を上記Aと上記Bと上記Cの積で求めることを特定するものであることから、不明確な点は見いだせない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

イ 「平均粒径」について
申立人は、特許異議申立書(19〜24ページ参照。)において、本件発明9の「前記抗ウイルス剤の平均粒径(μm)」は、どのように定義されるものであるのか不明確であり、本件発明9は、「前記第1トップコート層の1平方メートル当たりの塗布量(g/m2)の値」と「前記抗ウイルス剤の平均粒径(μm)の値」とを比較するものであるところ、単位の異なる2つの物理量を比較すること自体、技術常識を参酌してもその技術的意味が不明確であるから、本件発明9の「前記第1トップコート層の1平方メートル当たりの塗布量(g/m2)の値は、前記抗ウイルス剤の平均粒径(μm)の値の1倍以上3倍未満」は、技術常識及び発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その技術的範囲を特定することができず、第三者に不測の不利益を及ぼす程度に不明確であり、請求項9を直接的又は間接的に引用する本件発明10、11も同様である旨主張する。

発明の詳細な説明の【0049】には、「抗ウイルス剤の平均粒径(μm)を「D50」とする。」と記載され、また、抗ウイルス剤の平均粒径として、発明の詳細な説明には、実施例において、「平均粒径5μmの銀系無機添加剤(株式会社タイショーテクノス製、ビオサイドTB−B100)」(【0093】)を使用することが記載されている。ここで、「D50」は平均粒径を中央値として定義することを表すものである。
以上のことを勘案すると、本件発明9の「前記抗ウイルス剤の平均粒径(μm)」は、中央値として定義されるものであり、製品の仕様として認識し得る程度のものと解され、明確である。
また、本件発明9の「前記第1トップコート層の1平方メートル当たりの塗布量(g/m2)」は、前記第1トップコート層の厚さに関連するものであり、前記第1トップコート層の厚さと前記抗ウイルス剤の平均粒径との関係は、抗ウイルス性に影響し得ると認められることを勘案すると、本件発明9において、「前記第1トップコート層の1平方メートル当たりの塗布量(g/m2)の値」と「前記抗ウイルス剤の平均粒径(μm)の値」とを比較することには、技術的意味はあると認められる。
よって、本件発明9の「前記第1トップコート層の1平方メートル当たりの塗布量(g/m2)の値は、前記抗ウイルス剤の平均粒径(μm)の値の1倍以上3倍未満である」との構成は明確であり、第三者に不測の不利益を及ぼす程度に不明確ではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

ウ 小括
以上によれば、本件発明1〜6、8〜11は明確であり、特許異議申立理由1は成り立たない。

(2)特許異議申立理由2(サポート要件)について
ア 請求項1の「A×B×C≧10・・・(式1)」について
申立人は、特許異議申立書(25〜31ページ参照。)において、本件特許の発明が解決しようとする課題は、「高い耐傷性と優れた抗ウイルス性とを有する化粧シート及び化粧材を得ること」(【0006】)であるところ、そもそも(式1)の関係が成立することのみで発明が解決しようとする課題を解決することができないことは、発明の詳細な説明の【0106】の表1の実験結果(例えば、実施例5と実施例16。)をみても明らかであって、例えば、銀系抗ウイルス剤の塗布量(C)を増やしたのみでは、第1トップコート層の厚みが厚くなるだけで銀系抗ウイルス剤中の銀系材料中の銀成分が第1トップコート層の表面に現出するとは限らないものであり、本件発明1は、発明の詳細な説明において課題を解決できると当業者が認識できない例を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2〜11も、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない旨主張する。

本件特許の発明が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の【0006】にも記載されているように、高い耐傷性と優れた抗ウイルス性とを有する化粧シート及び化粧材を得ることと認められるところ、発明の詳細な説明の【0106】に記載された表1に示されるように、例えば、本件発明1の上記(式1)を満たす実施例2、3、6、8、9では、抗ウイルス性能及び耐傷性がともに「◎」であることを勘案すると、本件発明1は上記課題を解決できるものであることは、当業者であれば認識できることである。請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2〜11についても同様である。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

イ 「抗ウイルス剤」について
申立人は、特許異議申立書(31〜36ページ参照。)において、発明の詳細な説明には、第1トップコート層に添加した「抗ウイルス剤」は、「平均粒径5μmの銀系無機添加剤(株式会社タイショーテクノス製、ビオサイドTB−B100)」のみであって、そのほかの抗ウイルス添加剤を用いた実験結果は示されていないから、当業者は、「平均粒径5μmの銀系無機添加剤(株式会社タイショーテクノス製、ビオサイドTB−B100)」を第1トップコート層に添加することによって、上記の発明が解決しようとする課題を解決することが一応できると認識し得るが、「平均粒径5μmの銀系無機添加剤(株式会社タイショーテクノス製、ビオサイドTB−B100)」以外の銀系無機添加剤を含む本件発明1は、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないものであって、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2〜11も、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない旨主張する。

本件発明1において、「抗ウイルス剤」は、「銀成分を含有した銀系の抗ウイルス剤」であり、銀系材料を含有するものであるところ、発明の詳細な説明の【0046】の「銀系材料は、銀成分が無機材料による担持体(無機担持体)に担持されている構成であってもよいし、銀成分単体で構成されてもよい。」との記載を参酌すると、本件発明1の「銀成分を含有した銀系の抗ウイルス剤」は、「銀成分が無機材料により担持された構成の抗ウイルス剤」又は「銀成分単体を含有した抗ウイルス剤」であると認められる。
そして、発明の詳細な説明には、上記「銀成分が無機材料により担持された構成の抗ウイルス剤」の具体例として、「平均粒径5μmの銀系無機添加剤(株式会社タイショーテクノス製、ビオサイドTB−B100)」(【0093】)が記載され、該銀系無機添加剤(ビオサイドTB−B100)を使用した実施例の評価等が表1(【0106】)に示されている。
上記アで説示したように、本件特許の発明が解決しようとする課題は、高い耐傷性と優れた抗ウイルス性とを有する化粧シート及び化粧材を得ることであり、本件発明1の「抗ウイルス剤」は、そのうちの主に優れた抗ウイルス性に関する構成であり、本件発明1の「銀成分を含有した銀系の抗ウイルス剤」においては、主に該銀成分が抗ウイルス性についての有効成分であると認められるところ、上記銀系無機添加剤(ビオサイドTB−B100)と有効成分が同じである、本件発明1の「銀成分を含有した銀系の抗ウイルス剤」が、上記銀系無機添加剤(ビオサイドTB−B100)と同様の効果を奏することは、当業者であれば認識できることであると認められる。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

ウ 小括
以上によれば、本件発明1〜11は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許異議申立理由2は成り立たない。

(3)特許異議申立理由3(実施可能要件)について
申立人は、特許異議申立書(37ページ参照。)において、特許異議申立理由1で述べたように、本件発明1の「第1トップコート層」、「抗ウイルス剤」、「銀系材料」は不明確であり、その結果、「抗ウイルス剤が含有する銀系材料の固形分濃度(質量%)をA、前記銀系材料中の前記銀成分の割合(質量%)をB、単位面積当たりの前記抗ウイルス剤の塗布量をC(g/m2)としたとき」に、「A×B×C≧10・・・(式1)」の関係が成立することの技術的意味が不明確であるから、本件発明1の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1をどのようにすれば実施できるかを見いだすために、当業者が過度の試行錯誤を要するものであるといわざるを得ないから、当業者が本件発明1及び請求項1を引用する本件発明2〜11を実施することができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていない旨主張する。

しかしながら、上記(1)で説示したように、本件発明1は明確であり、上記技術的意味も明確であるから、申立人の上記主張は、前提において根拠を欠くものであり、採用できない。
したがって、特許異議申立理由3は成り立たない。

(4)特許異議申立理由4、5(新規性進歩性)について
ア 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と甲1発明とを対比する。上記「第6 1」で説示したことを参照すると、本件発明3と甲1発明とは以下の点で相違し、その余の点で一致する。

<相違点2>
本件発明3では、「前記トップコート層は、最表層である前記第1トップコート層と、前記第1トップコート層と前記着色層との間に設けられた第2トップコート層との2層で形成されている」のに対し、甲1発明では、そのような構成を有しない点。

(イ)相違点についての判断
相違点2は実質的な相違点であるから、本件発明3は甲1発明ではない。
また、化粧シートにおいて、抗ウイルス剤、若しくは、少なくとも抗菌剤を含むトップコート層が2層で形成されることについて、甲1〜14には何ら記載も示唆もないから、甲1発明において、相違点2に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
申立人は、特許異議申立書(6、51ページ参照。)において、表面保護層(本件発明3の「第1トップコート層」に相当。)の下にプライマー層(本件発明3の「第2トップコート層」に相当。)に設けることは、周知技術(例えば、甲12の図1、【0052】、甲13の図1、【0075】等参照。)であるから、甲1発明において、該周知技術を適用して、相違点2に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである旨主張する。
しかしながら、甲12、甲13に記載されたものは、表面保護層が抗ウイルス剤や抗菌剤を含むものではなく、甲1発明の抗菌性塗膜15とは構成が異なるものであるから、仮に、申立人が主張するように、表面保護層の下にプライマー層を設けることが周知技術であるとしても、甲1の図4(c)で図示されている「プライマー層20」を考慮すれば、抗菌性塗膜15の直下にプライマー層を設けることは、甲1において想定していないと解され、甲1発明に該周知技術を適用して、抗菌性塗膜15の下にプライマー層を設けることには、動機付けがあるとは認められない。
よって、申立人の上記主張は当を得たものとはいえず、採用できない。
また、申立人は、上申書とともに下記の甲19〜甲23を提出し、上申書(10〜21ページ参照。)において、表面保護層を2層とすることは、周知技術(例えば、甲19の【0020】、図1、甲20の【0022】、図1、甲21の[0022]、図1、甲22の【0027】、図1、甲23の【0014】、図1等参照。)であるから、甲1発明において、該周知技術を適用して、相違点2に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである旨主張する。
甲19:特開2017−80910号公報
甲20:特開2017−13436号公報
甲21:国際公開第2018/070356号
甲22:特開2019−84762号公報
甲23:特開2000−158595号公報
しかしながら、甲19〜甲23に記載されたものも、表面保護層が抗ウイルス剤や抗菌剤を含むものではなく、甲1発明の抗菌性塗膜15とは構成が異なるものであるから、仮に、申立人が主張するように、表面保護層を2層にすることが周知技術であるとしても、甲1発明に該周知技術を適用して、抗菌性塗膜15を2層にすることには、動機付けがあるとは認められない。
よって、申立人の該主張も当を得たものとはいえず、採用できない。
以上によれば、本件発明3は、甲1発明及び甲2〜11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明4〜6について
本件発明4〜6は、本件発明3の発明特定事項を全て含み、更なる限定を追加するものであるから、上記アで説示したのと同様の理由により、甲1発明及び甲2〜11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明9について
(ア)対比
本件発明9のうち、請求項3を引用するものは、上記ア、イで説示したのと同様の理由により、甲1発明ではなく、甲1発明及び甲2〜11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
そこで、本件発明9のうち、請求項3を引用しないもの(以下、「本件発明9’」という。)について検討する。
本件発明9’と甲1発明とを対比すると、上記「第6 1」で説示したことを参照して、本件発明9’と甲1発明とは以下の点で相違し、その余の点で一致する。

<相違点3>
本件発明9’では、「前記第1トップコート層の1平方メートル当たりの塗布量(g/m2)の値は、前記抗ウイルス剤の平均粒径(μm)の値の1倍以上3倍未満である」のに対し、甲1発明では、抗菌性塗膜15の1平方メートル当たりの塗布量(g/m2)は不明であり、銀イオン系ゼオライト抗菌剤の粒径分布は2〜5μmであって、銀イオン系ゼオライト抗菌剤の平均粒径は不明である点。

(イ)相違点についての判断
甲1発明において、抗菌性塗膜15の密度は不明であるが、上記「第6 1(2)」で説示したように、仮に1.15〜1.26(g/m2)とすると、単位面積あたりの銀イオン系ゼオライト抗菌剤の塗布量(本件発明9の「第1トップコート層の1平方メートル当たりの塗布量(g/m2)」に相当。)は、3.45〜3.78(g/m2)となる。しかし、銀イオン系ゼオライト抗菌剤の平均粒径は不明であり、甲1発明において、単位面積あたりの銀イオン系ゼオライト抗菌剤の塗布量は、銀イオン系ゼオライト抗菌剤の平均粒径の1倍以上3倍未満であるとは必ずしもいえないから、相違点3は実質的な相違点である。
よって、本件発明9’は甲1発明ではない。
そして、甲1発明の抗菌性塗膜15の密度が不明であるところ、銀イオン系ゼオライト抗菌剤の平均粒径を調整して、単位面積あたりの銀イオン系ゼオライト抗菌剤の塗布量を、銀イオン系ゼオライト抗菌剤の平均粒径の1倍以上3倍未満にすることについては、甲1だけでなく、甲2〜11にも記載も示唆も見いだせないから、動機付けがあると認められない。
また、申立人は、上申書とともに下記の甲24、甲25を提出し、上申書(21〜26ページ参照。)において、甲1発明に甲24(【0034】等)に記載された事項又は甲25(【0024】等)に記載された事項を適用して、相違点3に係る本件発明9’の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである旨主張する。
甲24:特開2017−25170号公報
甲25:特開2019−18541号公報
まず、甲24について検討すると、【0034】には、化粧シートの表面に抗菌剤を含む塗料組成物を塗布して形成された塗膜の厚さや抗菌剤の平均粒子径について記載されているが、塗膜の1平方メートル当たりの塗布量(g/m2)と平均粒子径(μm)の比に着目して、塗膜の1平方メートル当たりの塗布量(g/m2)を、抗菌剤の平均粒子径の1倍以上3倍未満にすることについて、記載も示唆もない。
次に、甲25について検討すると、【0024】には、実施例1として、銀担持リン酸カルシウム(平均粒子径2.0μm)を添加したウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂を表面保護層として6.0μm設けた化粧シートが記載されているが、やはり、表面保護層の1平方メートル当たりの塗布量(g/m2)と平均粒子径(μm)に着目して、表面保護層の1平方メートル当たりの塗布量を、銀担持リン酸カルシウムの平均粒子径の1倍以上3倍未満とすることについて、記載も示唆もない。
そうすると、甲1発明に甲24又は甲25に記載された事項を適用しても、相違点3に係る本件発明9’の構成とはならないから、申立人の上記主張は当を得たものとはいえず、採用できない。
よって、甲1発明において、相違点3に係る本件発明9’の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではないから、本件発明9’は、甲1発明及び甲2〜11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件発明9は甲1発明ではなく、甲1発明及び甲2〜11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
以上によれば、本件発明3〜6、9は甲1発明ではなく、甲1発明及び甲2〜11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、特許異議申立理由4、5は成り立たない。

第8 むすび
以上のとおり、本件発明1、2、7、8、11は、甲1発明である、又は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであり、本件発明10、11は、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、請求項1、2、7、8、10、11に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。
また、請求項3〜6、9に係る特許については、取消理由通知で示した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって取り消すことはできない。さらに、他に請求項3〜6、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
異議決定日 2023-09-05 
出願番号 P2020-174206
審決分類 P 1 651・ 536- ZE (B32B)
P 1 651・ 113- ZE (B32B)
P 1 651・ 121- ZE (B32B)
P 1 651・ 537- ZE (B32B)
最終処分 08   一部取消
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 井上 茂夫
八木 誠
登録日 2021-05-07 
登録番号 6879422
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 化粧シート及び化粧材  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 廣瀬 一  
代理人 宮坂 徹  

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