• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 特29条の2  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1403627
総通号数 23 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-06-13 
確定日 2023-08-10 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6981563号発明「化粧シート及び化粧材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6981563号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜13〕について訂正することを認める。 特許第6981563号の請求項1〜13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6981563号の請求項1〜13に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和2年8月31日に出願した特願2020−146137号の一部を、令和3年3月25日に新たな特許出願としたものであって、令和3年11月22日に特許権が設定登録され、同年12月15日に特許掲載公報が発行された。
そして、本件特許についての、特許異議申立人古郡裕介(以下「申立人A」という。)及び特許異議申立人真角侑子(以下「申立人B」という。)による本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和4年 6月13日 申立人Aより特許異議の申立て
同年 6月14日 申立人Bより特許異議の申立て
令和5年 1月16日付け 取消理由通知
同年 3月20日 特許権者より意見書・訂正請求書
同年 5月11日 申立人Aより意見書
なお、申立人Bからは意見書の提出はされなかった。

第2 本件訂正
1 訂正の内容
令和5年3月20日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)〜(3)のとおりである(なお、下線は訂正箇所である。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記表面保護層は、前記第1表面保護層と前記絵柄模様層との間に設けられた第2表面保護層を有する化粧シート。」と記載されているのを、「前記表面保護層は、前記第1表面保護層と前記絵柄模様層との間に設けられた第2表面保護層を有し、前記第2表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている化粧シート。」に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項6〜13も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記第1表面保護層は、シリコン樹脂又はフッ素樹脂のうち少なくとも一方が含まれている化粧シート。」と記載されているのを、「前記第1表面保護層はフッ素樹脂が含まれている化粧シート。」に訂正する(請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項6〜13も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記絵柄模様層と前記表面保護層との間に設けられた透明樹脂層を備える化粧シート。」と記載されているのを、「前記絵柄模様層と前記表面保護層との間に設けられた透明樹脂層を備え、前記第1表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている化粧シート。」に訂正する(請求項3を直接的又は間接的に引用する請求項4〜13も同様に訂正する)。

(4)一群の請求項
訂正前の請求項1〜13は、請求項13が請求項1〜12を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1〜13〕について請求されたものである。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「第2表面保護層」について、「前記第2表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、訂正事項1は、願書に添付した明細書の「例えば、化粧シート10を建具に用いる場合、第1表面保護層14aの主成分となる熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂及び電子線硬化型樹脂の混合物は、熱硬化型樹脂を最も多く含有することが好ましい。具体的には、当該混合物において熱硬化型樹脂が50重量%を超えていればよく、70重量%以上を占めることが好ましく、75重量%以上を占めることがより好ましく、80重量%以上を占めることがさらに好ましい。」(【0027】。なお下線は当審が付与。以下同様。)、及び、「本実施形態では、第2表面保護層14bは、第1表面保護層14aと同様に、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも1種を含んでいる。なお、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂については、第1表面保護層14aに含まれる硬化型樹脂と同様であるため説明を省略する。」(【0052】)との記載に基づくのは明らかであり、新規事項を追加するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2の「第1表面保護層」について、「シリコン樹脂又はフッ素樹脂のうち少なくとも一方が含まれている」との事項を、「フッ素樹脂が含まれている」との事項に訂正するものであり、上記第1表面保護層が含む材料の選択肢を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、訂正事項2は、選択肢を減らすものであるから、新規事項を追加するものではないのも明らかである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3の「第1表面保護層」について、「前記第1表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、上記(1)で示したように、訂正事項3は、願書に添付した明細書の【0027】の記載に基づくのは明らかであるから、新規事項を追加するものではない。

(4)小括
以上によれば、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたから、本件訂正後の請求項1〜13に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」〜「本件発明13」という。)は、令和5年3月20日の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
着色層と、
絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤と、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種とを含む第1表面保護層を有し、
前記表面保護層に対する前記抗ウイルス剤の添加量は、0.2質量%以上10質量%以下であり、
前記抗ウイルス剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下であり、
前記抗ウイルス剤は、銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有し、
前記表面保護層は、前記第1表面保護層と前記絵柄模様層との間に設けられた第2表面保護層を有し、
前記第2表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている化粧シート。
【請求項2】
着色層と、
絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤と、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種とを含む第1表面保護層を有し、
前記表面保護層に対する前記抗ウイルス剤の添加量は、0.2質量%以上10質量%以下であり、
前記抗ウイルス剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下であり、
前記抗ウイルス剤は、銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有し、
前記第1表面保護層はフッ素樹脂が含まれている化粧シート。
【請求項3】
着色層と、
絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤と、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種とを含む第1表面保護層を有し、
前記表面保護層に対する前記抗ウイルス剤の添加量は、0.2質量%以上10質量%以下であり、
前記抗ウイルス剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下であり、
前記抗ウイルス剤は、銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有し、
前記絵柄模様層と前記表面保護層との間に設けられた透明樹脂層を備え、 前記第1表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている化粧シート。
【請求項4】
前記透明樹脂層の厚さは、30μm以上200μm以下である
請求項3に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記透明樹脂層にエンボスが形成されている
請求項3又は4に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記抗ウイルス剤は、銀系材料である
請求項1から5のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項7】
前記第1表面保護層の厚さは、3μm以上15μm以下である
請求項1から6のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項8】
前記抗ウイルス剤の平均粒径は、前記表面保護層の厚さの0.5倍以上2倍以下である
請求項1から7のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項9】
前記抗ウイルス剤は、無機材料により担持されている
請求項1から8のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項10】
前記第1表面保護層は、更に界面活性剤が添加されている
請求項1から9のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項11】
前記界面活性剤は、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤の少なくとも一種を含む
請求項10に記載の化粧シート。
【請求項12】
前記表面保護層にエンボスが形成されている
請求項1から11のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の化粧シートと、
前記化粧シートの着色層の裏面に張り合わされた建具用基材と、
を備える化粧材。」

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1〜13に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

[取消理由1]
本件特許の下記請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
[取消理由2]
本件特許の下記請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、この出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、下記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[取消理由3]
本件特許の下記請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、下記請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
[取消理由4]
本件特許の下記請求項に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、下記請求項に係る特許は、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものである。

以下、申立人A提出の各甲号証は、「甲1−○」と、申立人B提出の各甲号証は、「甲2−○」という。


引用文献1:特開2017−65196号公報(甲2−1)
引用文献2:特開平10−157031号公報(甲2−2)
引用文献3:特開2019−18541号公報(甲2−3)
引用出願4:特願2021−113040号(特開2021−181227号)(甲2−5)
引用文献5:国際公開第2005/037296号(周知技術を示す文献、甲2−9)
引用文献6:特開2015−80887号公報(周知技術を示す文献、甲2−10)
引用文献7:特開2019−25918号公報(周知技術を示す文献、甲2−11)
引用文献8:特開2014−65283号公報(周知技術を示す文献、甲2−14)
引用文献9:特開2017−7156号公報(周知技術を示す文献、甲2−15)
引用文献10:特開2018−203897号公報(周知技術を示す文献、甲2−17)
引用文献11:特開2007−268935号公報(周知技術を示す文献、甲2−18)
引用文献12:特開平10−250013号公報(周知技術を示す文献、甲2−19)

[取消理由と請求項及び引用文献等の関係]
○取消理由2
請求項 1〜13
引用文献 1

○取消理由1、2
請求項 2〜13
引用文献 2

○取消理由2
請求項 2〜13
引用文献 3

○取消理由3
請求項 2〜13
引用出願 4

○取消理由4
請求項 7〜13

第5 引用文献等の記載事項等
1 引用文献1について
(1)記載事項
引用文献1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審が付与。以下同様。)。

「【0009】
(化粧板10)
本実施形態の化粧板10は、図1に示すように、印刷用下台1(広義には、「基材層」)の一方の面(以下「表面1S」とも呼ぶ)側に、印刷層2(広義には、「絵柄模様層」)、透明樹脂層3、及び表面保護層4がこの順に積層されて化粧シート20が形成され、印刷用下台1の他方の面(以下「裏面1T」とも呼ぶ)側に、裏面プライマー層5を介して、基板6を貼り合わせて構成される。本実施形態の化粧板10は、特に、住宅、店舗、病院、老健施設等の床材に好適なものである。・・・
【0010】
(印刷用下台1)
印刷用下台1は、樹脂フィルムからなるシート状の層である。樹脂フィルムとしては、例えば、PE(polyethylene)樹脂に顔料を混合したものを使用できる。これにより、印刷用下台1は、印刷層2で付加される絵柄(後述)の下地色を形成している。顔料としては、例えば、イソインドリノンイエロー、ポリアゾレッド、フタロシアニンブルー、カーボンブラック、酸化鉄、酸化チタンのいずれか、或いはこれらの混合物を使用できる。
【0011】
(印刷層2)
印刷層2は、印刷用下台1上全体または部分的に形成され、意匠性を付与するための絵柄を付加する層である。絵柄としては、例えば、木目、コルク、石目、タイル、焼き物、抽象柄等、化粧シート20の設置箇所に適した絵柄を使用できる。印刷層2の材料としては、例えば、ウレタン樹脂、塩酢ビ樹脂等の樹脂に、顔料を混合したものを使用できる。
【0012】
(透明樹脂層3)
透明樹脂層3は、印刷層2上に形成され、印刷層2の全体を覆うシート状の層である。なお、印刷層2が印刷用下台1全体を覆っていない場合には、透明樹脂層3は、印刷層2に加え、印刷層2で覆われていない印刷用下台1の部分も覆うようにする。透明樹脂層3は、透明樹脂層3を通して、印刷層2の絵柄を透視できる程度に透明または半透明な材料(樹脂)で形成されている。・・・
【0013】
(表面保護層4)
表面保護層4は、透明樹脂層3上に形成され、透明樹脂層3の全体を覆い、透明樹脂層3等を保護するためのシート状の層である。表面保護層4は、表面保護層4、透明樹脂層3を通して、印刷層2の絵柄を透視できる程度に透明または半透明な材料(樹脂)で形成されている。表面保護層4では、透明樹脂層3に、ウレタン表面保護層4aとUV(ultra violet)表面保護層4bと抗菌剤入りUV表面保護層4cとがこの順に積層されて形成される。ウレタン表面保護層4aの材料としては、例えば、ウレタン樹脂を使用できる。
【0014】
UV表面保護層4bは、ウレタン表面保護層4aのUV表面保護層4b側の面を覆う層である。UV表面保護層4bの材料としては、例えば、紫外線硬化型樹脂を使用できる。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アミド系樹脂、エポキシ系樹脂を使用できる。これにより、UV表面保護層4bの硬度を増大でき、表面保護層4の硬度を増大できる。
抗菌剤入りUV表面保護層4cは、UV表面保護層4bの抗菌剤入りUV表面保護層4c側の面を覆う層である。抗菌剤入りUV表面保護層4cは化粧シート20の最外層を形成している。抗菌剤入りUV表面保護層4cの材料としては、例えば、紫外線硬化型樹脂に抗菌剤を添加したものを使用できる。これにより、抗菌剤入りUV表面保護層4c、つまり化粧シート20の最外層の硬度を増大でき、表面保護層4の硬度を増大できる。
【0015】
抗菌剤としては、例えば、床材に潜む黄色ブドウ球菌や大腸菌への抗菌効果を考慮すれば、無機化合物に銀イオンが担持された銀系抗菌剤4dが好ましい。無機化合物としては、例えば、ジルコニウムまたはその塩を採用できる。特に、リン酸ジルコニウムが好ましく、人体への安全性、抗菌速度、及び抗菌性能の持続性を向上できる。質量比率は、紫外線硬化型樹脂100質量部に対し、銀系抗菌剤4dを0.5質量部以上1.0質量部以下が好ましい。銀系抗菌剤4dを0.5質量部以上とすることで、優れた抗菌機能を発現しつつ、抗菌剤の添加量を低減できる。また、銀系抗菌剤4dを1.0質量部以下とすることで、抗菌剤入りUV表面保護層4cを良好に形成でき、耐汚染性、耐候性等の表面物性を向上できる。銀系抗菌剤4dの粒子の形状としては、球体状、楕円体、多面体状等を使用できる。特に、球状が好ましく、平均粒径は0.1以上20.0μm以下が好ましい。
【0016】
また、抗菌剤入りUV表面保護層4cの厚さは、表面保護層4の各層、つまり、ウレタン表面保護層4a、UV表面保護層4b及び抗菌剤入りUV表面保護層4cのうちで最も厚くするのが好ましい。これにより、銀系抗菌剤4dを抗菌剤入りUV表面保護層4cに十分に添加でき、また、抗菌剤入りUV表面保護層4cの強度を向上することができる。
なお、本実施形態では、表面保護層4が、ウレタン表面保護層4a、UV表面保護層4b、及び抗菌剤入りUV表面保護層4cの3層からなる例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、これらの層4a、4b、4cに加え、他の層を設けて4層以上とする構成としてもよく、UV表面保護層4bを省略して2層とする構成としてもよい。」

図1


(2)引用発明1
上記(1)の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「下地色を形成している印刷用下台1、絵柄を付加する印刷層2、透明樹脂層3及び表面保護層4がこの順に積層され、
表面保護層4は、透明樹脂層3に、ウレタン表面保護層4aとUV表面保護層4bと抗菌剤入りUV表面保護層4cとがこの順で積層されて形成され、
抗菌剤入りUV表面保護層4cは、紫外線硬化型樹脂に抗菌剤を添加したものであり、
抗菌剤は、無機化合物に銀イオンが担持された銀系抗菌剤4dであり、
銀系抗菌剤4dの平均粒径は0.1以上20.0μm以下であり、
抗菌剤入りUV表面保護層4cでは、紫外線硬化型樹脂100質量部に対し、銀系抗菌剤4dを0.5質量部以上1.0質量部以下添加する、化粧シート20。」

2 引用文献2について
(1)記載事項
引用文献2には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プラスチック、紙、木材、金属板、無機系素材等あらゆる基材に抗菌性能を付与するために使用される化粧シートに関するものである。」

「【0003】一方、従来、建築物の壁、天井等の内装、家具、キャビネット等の表面装飾材として用いられる化粧シートは、そのシートにポリ塩化ビニルシートが多く使用されているが、近年、ポリ塩化ビニルシートに代わるものとして、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系シートを使用した化粧シートが提案されている(特開昭54ー62255号公報参照)。」

「【0042】抗菌性能を有する抗菌性塗膜は以下のようにして形成される。抗菌性能を有する抗菌性塗膜は、抗菌剤を添加した樹脂組成物を用いて、公知のコート法により抗菌性の樹脂層を形成したものである。抗菌性塗膜の厚さは2〜10μmが好ましい。抗菌性塗膜に用いられる樹脂としては、抗菌剤に悪影響を与える物質が含まれないことが必要であり、また、抗菌剤と反応して着色したり、熱、光、電離放射線等で変色したりするものは使用できない。特に熱硬化性樹脂の硬化に用いる酸触媒や抗菌剤の金属イオンを還元する性質を有する化合物等は添加しないようにする。
・・・
【0044】熱硬化性樹脂としては、二液硬化型のポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂系、エポキシ樹脂系、アミノアルキッド樹脂系、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化型アクリル樹脂等がある。
【0045】電離放射線硬化性樹脂としては、分子中に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等の重合性不飽和基、エポキシ基、チオール基等を含む単量体及び/又はプレポリマーから成る組成物を電離放射線で重合(架橋反応、附加反応等)硬化させてなる物であり、電離放射線としては、電子線、紫外線等が用いられる。これらのプレポリマー例としては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート、不飽和ポリエステル等が挙げられる。単量体の例としては、スチレン、αーメチルスチレン等のスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ー2ーエチルヘキシル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等がある。」

「【0047】・・・無機系抗菌剤として、特公昭63ー54013号公報、特開平4ー300975号公報、特許第2529574号公報等に開示されているゼオライト、アパタイト、ガラス、シリカゲル、リン酸塩、リン酸ジルコニウム等のイオン交換可能なイオンの一部又は全部を、銀、銅、亜鉛、錫、鉛、水銀、コバルト、アンモニウム等のイオンで置換したイオン交換体がある。中でも、ゼオライト、リン酸ジルコニウムのイオン交換可能なイオンの一部を銀イオンで置換したものが、安全性や実積面から望ましい。ゼオライト、リン酸ジルコニウムに担持させた金属イオンの含有量としては、銀イオンの場合は0.1〜15重量%、銅又は亜鉛イオンの場合は0.1〜8重量%が好ましい。また、上記金属イオンで置換したイオン交換体を更にアンモニウムイオンで置換したものもある。(特公平4ー28646号公報、特許第2529574号公報等に開示)」

「【0056】
【実施例】以下に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
(実施例1)高密度ポリエチレンをベースにして、これに熱可塑性エラストマーとしてスチレン−ブタジエンゴムを30重量%、無機充填剤として炭酸カルシウム10重量%、着色顔料として弁柄とカーボンブラックを5重量%、熱安定剤及びヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤を5重量%、添加したブレンド物をカレンダー製膜法によって製膜し、厚さ100μmの不透明着色シート(以下着色PEシート11aとする)を得た。次いで、図4(a)に示すように、この着色PEシート11aの表面に、ウレタン系2液硬化型プライマー液(昭和インク工業(株)製「AFS メジューム」)を塗布してプライマー層20を形成した後、ポリウレタン系2液硬化型白色インキ(昭和インク工業(株)製「UEベタホワイト着色」) を用いて、白色のベタ印刷層12bを形成し、その上に、塩化ビニルー酢酸ビニル系インキ(昭和インク工業(株)製「化X 」) を用いて、柾目柄をグラビア印刷して絵柄印刷層12aを設けた。
【0057】一方、アイソタクティックポリプロピレン50重量%とアタクティックポリプロピレン50重量%のブレンドポリプロピレンに、紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を3000ppm、光安定剤としてヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤を5000ppmを添加し、このブレンドポリプロピレンを溶融押し出し法によりシート化し、厚さ100μmの透明な軟質ポリプロピレンシート(透明PPシート)を得た。次いで、図4(b)に示すように、この透明PPシートに、抗菌剤として粒径分布が2〜5μmで、銀含有量が2.5重量%、亜鉛含有量14.5重量%である銀イオン系ゼオライト抗菌剤を5重量%添加したウレタン系2液硬化型インキ(昭和インク工業(株)製「OP-A4 コーキン」)を用いて、グラビアロールコート方式により、抗菌剤16を含有する抗菌性塗膜15を形成した。抗菌性塗膜15は硬化後の厚さが3μmになるようにした。
【0058】次に、前記着色PEシートの印刷面にウレタン系接着剤(大日精化工業(株)製「E-288L」)を塗布し、図4(c)に示すように、前記透明PPシートのPP面をドライラミネートして抗菌性化粧シート1を作製した。」

「【0059】(実施例2)実施例1と同様に、着色PEシート11aに、プライマー層20、ベタ印刷層12b、絵柄印刷層12aを形成した後、この着色PEシート11aに、図5(a)に示すように、実施例1と同じ透明PPシート14を、実施例1と同様にドライラミネートして積層シート2を作製した。上記積層シート2の透明PPシート14の表面に、図5(b)に示すように、熱プレス方式のエンボス機を用いて、木目導管のエンボス模様18を形成した。次いで、前記積層シートのエンボス模様面にコロナ処理を行った後、図5(c)に示すように、抗菌剤を添加しないウレタン系樹脂のワイピングインキ17a(昭和インク工業(株)製「W-1411」)を用いて、そのエンボス凹部にワイピングインキ17aを充填した。更にその上に、図5(d)に示すように、実施例1と同様に、抗菌剤を添加したインキを用いて、グラビアロールコート方式により、厚さ3μmの抗菌性塗膜15を形成して、抗菌性化粧シート1を作製した。」

「【0061】(実施例4)図7(a)に示すように、実施例1と同様に、抗菌性化粧シート1を作製した。次に、この抗菌性化粧シート1の抗菌剤16を含有する抗菌性塗膜15面に、実施例2と同様に、エンボス模様を形成して、図7(b)に示すように、表面にエンボス模様を有する抗菌性化粧シート1を作製した。」

図4


(2)引用発明2
上記(1)の記載(特に、【0056】、【0057】、図4)を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「着色PEシート11aの上に、絵柄印刷層12aと、厚さ100μmの透明PPシート14と、厚さが3μmの抗菌性塗膜15をこの順で設け、
抗菌性塗膜15は、粒径分布が2〜5μmである銀イオン系ゼオライト抗菌剤を5重量%添加したウレタン系2液硬化型インキを用いて形成された抗菌性化粧シート1。」

3 引用文献3について
(1)記載事項
引用文献3には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有する化粧シートに係り、特に光(紫外線)を必要とせず、抗菌性を有する建装材化粧シート等の好適な技術に関する。」

「【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
・・・
本実施形態の化粧シート5は、図1に示すように、シート状の基材1の上に、印刷インキ層2、透明熱可塑性樹脂層3、表面保護層4がこの順に積層されて構成されている。本実施形態の表面保護層4には、リン酸塩及び酸化還元補助化合物が配合されている。
【0011】
<基材>
基材1は、例えば樹脂シートからなる。樹脂シートを構成する樹脂には、公知の樹脂が使用可能であるが、その中でも熱可塑性樹脂が好ましい。
・・・
基材1の厚さとしては30μm〜200μmの範囲内が好適である。基材1は、意匠性の観点から、透明もしくは任意に着色されていてもよい。
【0012】
<印刷インキ層>
印刷インキ層2には、公知の各種有機、無機顔料が使えるが、耐候性を考慮した顔料、バインダー樹脂を選定する方が望ましい。
・・・
印刷インキ層2は、周知の任意の印刷方法により、基材1の上に形成可能である。特に、調子再現性、生産コストの点でグラビア印刷法が好適である。
【0013】
<透明熱可塑性樹脂層>
透明熱可塑性樹脂層3には、公知の樹脂であればいずれも使用可能である。・・・その中でも、耐候性の点でポリプロピレンが好適である。
【0014】
透明熱可塑性樹脂層3の厚さとしては30μm〜200μmの範囲内が好適である。
・・・
特に、透明熱可塑性樹脂層3の表面に、意匠性向上のために表面エンボス加工を施す場合には、押出ラミネート法が好適である。
【0015】
<表面保護層>
表面保護層4は、樹脂材料の主成分として、熱硬化型樹脂及び光硬化型樹脂(紫外線硬化型樹脂や電子線硬化型樹脂)の少なくとも1つが用いられる。本明細書で主成分とは、樹脂材料100質量部に対し70質量部以上、好ましくは80質量部以上含まれる樹脂材料のことを指す。
熱硬化型樹脂としては、特に限定されるものではないが、ウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、シリコーン系樹脂などが好ましく用いられる。これらは単体もしくは混合物として用いてもよい。
光硬化型樹脂としてはアクリル系樹脂が好ましく用いられる。
硬化型樹脂として、熱硬化型樹脂と光硬化型樹脂の両方を混合して使用しても良い。
表面保護層4の厚さとしては0.1μm〜20μmの範囲内が好適である。
【0016】
(リン酸塩化合物)
本実施形態の表面保護層4には、リン酸塩化合物が配合されている。
リン酸塩化合物を構成するリン酸塩は、公知のものであれば特に限定されるものではないが、チタン、セリウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、カリウム、カルシウム、アルミニウムおよびガリウムからなる群から選択される金属を一種類以上含むものが好ましい。これらの金属は、その同位体の使用が可能である。コストの点から特に好ましいのはチタンである。
リン酸塩を製造する方法として公知の方法を用いればよい。
また、リン酸塩化合物は平均粒子径で0.1〜20μmであることが好ましい。粒子径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定機を用いて測定できる。その粒度分布より平均粒子径が算出できる。
リン酸塩は、表面保護層4の樹脂材料100質量部に対し、1×10−3質量部以上5質量部以下の範囲で配合されていることが好ましい。」

「【実施例】
【0024】
以下に、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
<実施例1>
基材1として、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤0.5質量部、ヒンダードアミン系光安定剤0.5質量部を添加して押出成形された厚さ70μmのポリプロピレンシートに、接着助剤としてポリエステルポリオール樹脂を10μmの厚さになるようにグラビアコーティング法により塗布した。
この上にベンゾフェノン系紫外線吸収剤0.5質量部、ヒンダードアミン系光安定剤0.5質量部を添加したポリプロピレン樹脂を押出ラミネート法により厚さ90μmとなるよう設けた。
更にこの上に、抗菌剤として銀担持リン酸カルシウム(平均粒子径2.0μm)を0.2質量部添加したウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂を表面保護層として6.0μm設けることにより、実施例1の化粧シートを作製した。
【0025】
<比較例1>
実施例1における抗菌剤を銀担持リン酸カルシウム(平均粒子径0.2μm)に代替した以外は、実施例1と同様にして比較例1の化粧シートを作製した。
<比較例2>
実施例1における抗菌剤を水酸化カルシウム(平均粒子径3.0μm)に代替した以外は、実施例1と同様にして比較例2の化粧シートを作製した。
【0026】
<評価>
以下に、実施例と比較例の抗菌性能評価を行った。
(抗菌性能評価)
JIS Z 2801:2010(フィルム密着法)に基づいて、抗菌性試験を実施した。具体的には、実施例1、比較例1、2の化粧シートそれぞれに、汚染物質として大腸菌、黄色ブドウ球菌を滴下し、25℃環境下、24時間暗所にて保管した。その後、生菌数をカウントし、抗菌活性値を算出した。抗菌活性値は、2.0以上で合格(抗菌性あり)となる。性能評価は、初期値、および清掃を想定した水拭き後の評価を行った。
表1に評価結果を示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1から分かるように、同じ添加量(配合量)であっても、リン酸塩化合物の平均粒子径をA、上記表面保護層の膜厚をBとした場合、0.1<(A/B)である実施例1の場合が一番、抗菌性効果が高かったことが分かる。なお、比較例2では、水溶性の水酸化カルシウムを用いたため、水拭きにより欠落が生じ、水拭き後の抗菌性効果が著しく低下したものと考えられる。」

図1


(2)引用発明3
上記(1)の記載を総合すると、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「基材1の上に、印刷インキ層2、透明熱可塑性樹脂層3、表面保護層4がこの順に積層されて構成され、
表面保護層4は、抗菌剤として平均粒子径2.0μmの銀担持リン酸カルシウムを、表面保護層4の樹脂材料100質量部に対し、0.2質量部添加したウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂を用いて、厚さが6.0μmであり、
透明熱可塑性樹脂層3の厚さは30μm〜200μmの範囲内である化粧シート5。」

4 引用出願4について
(1)記載事項
引用出願4の当初明細書等には、以下の事項が記載されている。

「【0019】
<硬化性樹脂組成物の硬化物>
硬化物層は、硬化性樹脂組成物の硬化物を含む。本明細書において、「硬化性樹脂組成物の硬化物」のことを「硬化物」と略称する場合がある。
硬化性樹脂組成物の硬化物は、主としてバインダー樹脂としての役割を有する。当該硬化物を含むことにより、抗ウイルス性物品の耐擦傷性が良好となり、抗ウイルス性を長期に渡って持続させやすくできる。
【0020】
硬化性樹脂組成物の硬化物としては、熱硬化性樹脂組成物の硬化物又は電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物が挙げられ、中でも耐擦傷性及び生産効率の観点から電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物が好ましい。
【0021】
熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも熱硬化性樹脂を含む組成物であり、加熱により、硬化する樹脂組成物である。
熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂組成物には、これら熱硬化性樹脂に加えて、必要に応じて硬化剤及び硬化触媒等が添加される。」

「【0118】
<用途>
本開示の抗ウイルス性物品は、各種用途に用いることができる。具体的な用途としては、下記(1)〜(12)のものが挙げられる。
尚、本開示の抗ウイルス性物品を、下記の各種表面材として使用する場合、表面材と、表面材を積層する対象となる被着体との間には、必要に応じて、公知の接着剤層を介在させても良い。使用可能な接着剤としては、加熱熔融した後に冷却固化させることにより接着する熱融着型接着剤、加熱による重合乃至架橋反応によって接着する熱硬化型接着剤、紫外線及び電子線等の電離放射線照射による重合乃至架橋反応によって接着する電離放射線硬化型接着剤、接着剤自体の粘着性を利用して、加圧のみにより接着する粘着剤等が挙げられる。
(1)住宅、事務所、店舗、病院、診療所等の建築物の壁、床、天井等の内装部分の表面材。
(2)住宅、事務所、店舗、病院、診療所等の建築物の外壁、屋根、軒天井、戸袋等の外装部分の表面材。
(3)窓、窓枠、扉、扉枠等の建具の表面材(内装部分又は外装部分);建具の付随備品(取っ手等)の表面材;建具の治具の表面材。
(4)手すり、腰壁、廻り縁、敷居、鴨井、笠木の造作部材の表面材。
(5)塀、門扉、物干台の柱や手すり等の屋外(外装)部分の表面材。
(6)箪笥、机、椅子、食器棚、厨房の流し台等の家具の表面材;家具の付随備品(取っ手等)の表面材;家具の治具の表面材。
(7)テレビジョン受像機、ラジオ受信機、冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、扇風機、空調機等の各種家電製品の筐体等の表面材;家電製品の付随備品(取っ手、スイッチ、タッチパネル等)の表面材;家電製品の治具の表面材。
(8)電子複写機、ファクシミリ、プリンタ、パーソナルコンピュータ等の各種電算機器等のOA機器の表面材;銀行、郵便局等の金融機関のATM装置の各種OA機器類の筐体の表面材;各種OA機器類の付随備品(キーボード鍵盤、タッチパネル等)の表面材;各種OA機器類の治具の表面材。
(9)自動車、鉄道車両等の車輛、船舶、航空機等の乗物の内装又は外装部分(壁、床、天井、手すり、支柱、操作盤、レバー、ハンドル、舵輪等の操縦機器類)の表面材。
(10)各種建築物の間仕切;店舗、事務所、官公庁等の窓口、会計精算場所等におけるウイルスの飛沫感染防止のための遮蔽板又は遮蔽カーテン;保護面(フェイスガード)、保護眼鏡(ゴーグル)等の顔面保護具;あるいはこれらの表面材。
(11)伝票類等のビジネスフォーム;預金通帳;金融機関のキャッシュカード、クレジットカード、ポイントカード等のカード類;あるいはこれらの表面材。
(12)硝子、樹脂等の瓶;金属缶;樹脂レトルト容器等の樹脂軟包装材;各種チューブ類等の包装材料;あるいはこれらの表面材。」

「【0125】
1.抗ウイルス性物品の作製及び評価
−抗ウイルス性物品の作製−
[実施例1]
下記の組成を混合及び攪拌してなる、実施例1の硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物a)を調製した。
【0126】
<硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物a)>
・電離放射線硬化性樹脂組成物100質量部
(重量平均分子量4000の3官能ウレタンアクリレートオリゴマー)
・担体に銀イオンを含有させてなる抗ウイルス剤3質量部
(興亜硝子社製の品番「PG711」、担体はガラス、平均粒子径3μm)
・NR型ヒンダードアミン系化合物2質量部
(BASF社の品番「Tinuvin144」)
・紫外線吸収剤2質量部
(ヒドロキシフェニルトリアジン、TINUVIN479、BASF社製)
・体質顔料(不定形シリカ) 16質量部
(平均粒子径:10μm)
・溶剤50質量部
(酢酸エチル)
【0127】
次いで、両面コロナ放電処理を施した基材(厚み60μmの酸化チタン含有ポリプロピレン樹脂シート)の一方の面に、2液硬化型のアクリル−ウレタン樹脂及び着色剤を含む装飾層用インキをグラビア印刷法で塗布、乾燥して、厚み3μmの木目模様の装飾層を形成した。
次いで、装飾層上に、ウレタン樹脂系接着剤からなる厚み3μmの接着剤層を形成し、さらに、接着剤層上に、ポリプロピレン系樹脂をTダイ押出し機により加熱溶融押出し、厚み80μmの透明性樹脂層を形成した。
次いで、透明性樹脂層の表面にコロナ放電処理を施した後、透明性樹脂層上に、下記組成のプライマー層用インキをグラビア印刷法で塗布、乾燥し、厚み2μmのプライマー層を形成した。
次いで、プライマー層上に、上記硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物a)をロールコート法で塗布して未硬化の硬化物層を形成し、60℃で1分間乾燥させた後、電子線(加速電圧:175kV、5Mrad(50kGy))を照射して、硬化性樹脂組成物(電離放射線硬化性樹脂組成物)を架橋硬化して、厚み15μmの硬化物層を形成し、実施例1の抗ウイルス性物品を得た。なお、硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物a)は、調製した直後にプライマー層上に塗布するようにした。」

(2)引用発明4
上記(1)の記載(特に、【0125】〜【0127】)を総合すると、引用出願4の当初明細書等には、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。

「酸化チタン含有ポリプロピレン樹脂シートからなる基材と、装飾層と、透明性樹脂層と、硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物a)とを、この順で形成し、
硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物a)は、電離放射線硬化性樹脂組成物100質量部に対して、ガラスである担体に銀イオンを含有させてなる抗ウイルス剤を3質量部、NR型ヒンダードアミン系化合物を2質量部、紫外線吸収剤を2質量部、体質顔料を16質量部、溶剤を50質量部添加して形成したものであり、
抗ウイルス剤の平均粒子径は3μmであり、
硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物a)の厚さは15μmであり、
透明性樹脂層の厚さは80μmである抗ウイルス性物品。」

第6 対比・判断
1 引用発明1を主引用発明とする場合(取消理由2(進歩性))
(1)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と引用発明1とを対比すると、その機能や構造からみて、後者の「下地色を形成している印刷用下台1」は、前者の「着色層」に相当し、以下同様に、「絵柄を付加する印刷層2」は「絵柄模様層」に、「表面保護層4」は「表面保護層」に、「UV表面保護層4b」は「第2表面保護層」に、「抗菌剤入りUV表面保護層4c」は「第1表面保護層」に、「紫外線硬化型樹脂」は「紫外線硬化型樹脂」に、「化粧シート20」は「化粧シート」に、それぞれ相当する。

(イ)上記(ア)を参照すると、後者の「下地色を形成している印刷用下台1、絵柄を付加する印刷層2」「及び表面保護層4がこの順に積層され」ることは、前者の「着色層と、絵柄模様層と、表面保護層と、を備え」ることに相当し、後者の「絵柄を付加する印刷層2、透明樹脂層3及び表面保護層4がこの順に積層され」ること及び「透明樹脂層3に、ウレタン表面保護層4aとUV表面保護層4bと抗菌剤入りUV表面保護層4cとがこの順で積層され」ることは、前者の「前記表面保護層は、前記第1表面保護層と前記絵柄模様層との間に設けられた第2表面保護層を有する」ことに相当する。

(ウ)後者の「紫外線硬化型樹脂」は、前者の「熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種」にも相当するから、上記(ア)を参照して、後者の「表面保護層4は、」「抗菌剤入りUV表面保護層4cとがこの順で積層されて形成され」ること及び「抗菌剤入りUV表面保護層4cは、紫外線硬化型樹脂に抗菌剤を添加したものであ」ることは、前者の「前記表面保護層は、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤と、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種とを含む第1表面保護層を有」することと、「前記表面保護層は、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種を含む第1表面保護層を有」する点で共通する。

そうすると、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は以下のとおりである。

<一致点1−1>
「着色層と、
絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種を含む第1表面保護層を有し、
前記表面保護層は、前記第1表面保護層と前記絵柄模様層との間に設けられた第2表面保護層を有する化粧シート。」

<相違点1−1>
本件発明1では、第1表面保護層は、「エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤」を含み、
前記表面保護層に対する前記「抗ウイルス剤」の添加量は、「0.2質量%以上10質量%以下」であり、
前記「抗ウイルス剤」の平均粒径は、「1μm以上10μm以下」であり、
前記「抗ウイルス剤」は、「銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有する」のに対し、
引用発明1では、抗菌剤入りUV表面保護層4cは、紫外線硬化型樹脂に「抗菌剤」を添加したものであり、
抗菌剤入りUV表面保護層4cでは、紫外線硬化型樹脂「100質量部に対し」、「銀系抗菌剤4d」を「0.5質量部以上1.0質量部以下」添加し、
「銀系抗菌剤4d」の平均粒径は「0.1以上20.0μm以下」であり、
「抗菌剤」は、「無機化合物に銀イオンが担持された銀系抗菌剤4d」である点。

<相違点1−2>
本件発明1では、「前記第2表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている」のに対し、引用発明1では、そのような構成を有しない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、まず相違点1−2から検討する。
引用文献2、3、5〜12だけでなく、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20にも、相違点1−2に係る本件発明1の構成について、記載も示唆も見いだせないから、引用発明1において、相違点1−2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって、相違点1−1について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1及び引用文献2、3、5〜12、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。なお、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20は以下のとおりである。

甲2−4:特開2017−25170号公報
甲2−8:製品紹介、[online]、株式会社タイショーテクノス、[令和3年11月2日出力]、<URL:https://www.taishotechnos.co.jp/products/tech_bn001.html>
甲2−12:国際公開第2010/026730号
甲2−13:特開2012−71421号公報
甲2−16:特開2019−155776号公報
甲2−20:特開2000−351182号公報

(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と引用発明1とを対比する。
上記(1)アで説示したのを踏まえると、本件発明2と引用発明1との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点1−2>
「着色層と、
絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種を含む第1表面保護層を有する化粧シート。」

<相違点1−3>
本件発明2では、第1表面保護層は、「エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤」を含み、
前記表面保護層に対する前記「抗ウイルス剤」の添加量は、「0.2質量%以上10質量%以下」であり、
前記「抗ウイルス剤」の平均粒径は、「1μm以上10μm以下」であり、
前記「抗ウイルス剤」は、「銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有する」のに対し、
引用発明1では、抗菌剤入りUV表面保護層4cは、紫外線硬化型樹脂に「抗菌剤」を添加したものであり、
抗菌剤入りUV表面保護層4cでは、紫外線硬化型樹脂「100質量部に対し」、「銀系抗菌剤4d」を「0.5質量部以上1.0質量部以下」添加し、
「銀系抗菌剤4d」の平均粒径は「0.1以上20.0μm以下」であり、
「抗菌剤」は、「無機化合物に銀イオンが担持された銀系抗菌剤4d」である点。

<相違点1−4>
本件発明2では、前記第1表面保護層は「フッ素樹脂」が含まれているのに対し、引用発明1では、抗菌剤入りUV表面保護層4cは、「紫外線硬化型樹脂」を含むものである点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、まず相違点1−4から検討する。
引用文献2、3、5〜12だけでなく、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20にも、相違点1−4に係る本件発明2の構成について、記載も示唆も見いだせないから、引用発明1において、相違点1−4に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって、相違点1−3について検討するまでもなく、本件発明2は、引用発明1及び引用文献2、3、5〜12、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と引用発明1とを対比すると、後者の「透明樹脂層3」は、前者の「透明樹脂層」に相当するから、後者の「絵柄を付加する印刷層2、透明樹脂層3及び表面保護層4がこの順に積層され」ることは、前者の「前記絵柄模様層と前記表面保護層との間に設けられた透明樹脂層を備える」ことに相当する。
そして、上記(1)アで説示したのを踏まえると、本件発明3と引用発明1との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点1−3>
「着色層と、
絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種を含む第1表面保護層を有し、
化粧シート。」

<相違点1−5>
本件発明3では、第1表面保護層は、「エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤」を含み、
前記表面保護層に対する前記「抗ウイルス剤」の添加量は、「0.2質量%以上10質量%以下」であり、
前記「抗ウイルス剤」の平均粒径は、「1μm以上10μm以下」であり、
前記「抗ウイルス剤」は、「銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有する」のに対し、
引用発明1では、抗菌剤入りUV表面保護層4cは、紫外線硬化型樹脂に「抗菌剤」を添加したものであり、
抗菌剤入りUV表面保護層4cでは、紫外線硬化型樹脂「100質量部に対し」、「銀系抗菌剤4d」を「0.5質量部以上1.0質量部以下」添加し、
「銀系抗菌剤4d」の平均粒径は「0.1以上20.0μm以下」であり、
「抗菌剤」は、「無機化合物に銀イオンが担持された銀系抗菌剤4d」である点。

<相違点1−6>
本件発明3では、「前記第1表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている」のに対し、引用発明1では、そのような構成を有しない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、まず相違点1−6から検討する。
引用文献2、3、5〜12だけでなく、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20にも、相違点1−6に係る本件発明3の構成について、記載も示唆も見いだせないから、引用発明1において、相違点1−6に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって、相違点1−5について検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明1及び引用文献2、3、5〜12、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明3の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、上記(3)イで説示したのと同様の理由により、引用発明1及び引用文献2、3、5〜12、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明6〜13について
本件発明6〜13は、本件発明1〜3のいずれか1つの全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、上記(1)イ〜上記(3)イのいずれか1つで説示したのと同様の理由により、引用発明1及び引用文献2、3、5〜12、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 引用発明2を主引用発明とする場合(取消理由1、2(新規性進歩性))
(1)本件発明2について
ア 対比
(ア)本件発明2と引用発明2とを対比すると、その機能や構造からみて、後者の「着色PEシート11a」は、前者の「着色層」に相当し、以下同様に、「絵柄印刷層12a」は「絵柄模様層」に、「抗菌性塗膜15」は「表面保護層」及び「第1表面保護層」に、「抗菌性化粧シート1」は「化粧シート」に、それぞれ相当する。

(イ)後者の「ウレタン系2液硬化型インキ」は、引用文献2の【0044】を参照すると、前者の「熱硬化性樹脂」に相当する。

(ウ)上記(ア)を参照すると、後者の「着色PEシート11aの上に、絵柄印刷層12aと、」「厚さが3μmの抗菌性塗膜15をこの順で設け」ることは、前者の「着色層と、絵柄模様層と、表面保護層と、を備え」ることに相当する。

(エ)上記(イ)を参照すると、後者の「ウレタン系2液硬化型インキ」は、前者の「熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種」」にも相当するから、上記(ア)、(ウ)も参照すると、後者の「抗菌性塗膜15は、粒径分布が2〜5μmである銀イオン系ゼオライト抗菌剤を5重量%添加したウレタン系2液硬化型インキを用いて形成された」ことは、前者の「前記表面保護層は、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤と、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種とを含む第1表面保護層を有」することと、「前記表面保護層は、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種を含む第1表面保護層を有」するという点で共通する。

そうすると、本件発明2と引用発明2との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点2−1>
「着色層と、
絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種を含む第1表面保護層を有する化粧シート。」

<相違点2−1>
本件発明2では、第1表面保護層は、「エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤」を含み、
前記表面保護層に対する前記「抗ウイルス剤」の添加量は、「0.2質量%以上10質量%以下」であり、
前記「抗ウイルス剤」の「平均粒径は、1μm以上10μm以下」であり、
前記「抗ウイルス剤」は、「銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有し、
前記第1表面保護層はフッ素樹脂が含まれている」のに対し、
引用発明2では、抗菌性塗膜15は、「粒径分布が2〜5μm」である「銀イオン系ゼオライト抗菌剤」を「5重量%」添加したウレタン系2液硬化型インキを用いて形成された点。

イ 相違点についての判断
引用文献2には、抗菌性塗膜15の材料としてフッ素樹脂を含むことについては、何ら記載されておらず、引用発明2は、相違点2−1に係る本件発明2の構成のうち、少なくとも「前記第1表面保護層はフッ素樹脂が含まれている」との事項に相当する構成を有しないから、相違点2−1は実質的な相違点であり、本件発明2は引用発明2ではない。
そして、引用文献1、3、5〜12だけでなく、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20にも、相違点2−1に係る本件発明2の構成のうちの上記事項について、記載も示唆も見いだせないから、引用発明2において、相違点2−1に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって、本件発明2は、引用発明2及び引用文献1、3、5〜12、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と引用発明2とを対比すると、後者の「透明PPシート14」は、前者の「透明樹脂層」に相当するから、後者の「絵柄印刷層12aと、厚さ100μmの透明PPシート14と、厚さが3μmの抗菌性塗膜15をこの順で設け」ることは、前者の「前記絵柄模様層と前記表面保護層との間に設けられた透明樹脂層を備える」ことに相当する。
そして、上記(1)アで説示したのを踏まえると、本件発明3と引用発明2との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点2−2>
「着色層と、
絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種を含む第1表面保護層を有し、
前記絵柄模様層と前記表面保護層との間に設けられた透明樹脂層を備える化粧シート。」

<相違点2−2>
本件発明3では、第1表面保護層は、「エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤」を含み、
前記表面保護層に対する前記「抗ウイルス剤」の添加量は、「0.2質量%以上10質量%以下」であり、
前記「抗ウイルス剤」の「平均粒径は、1μm以上10μm以下」であり、
前記「抗ウイルス剤」は、「銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有し、
引用発明2では、抗菌性塗膜15は、「粒径分布が2〜5μm」である「銀イオン系ゼオライト抗菌剤」を「5重量%」添加したウレタン系2液硬化型インキを用いて形成された点。

<相違点2−3>
本件発明3では、「前記第1表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている」のに対し、引用発明2では、そのような構成を有しない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、まず相違点2−3から検討する。
相違点2−3は実質的な相違点であると認められるから、本件発明3は引用発明2ではない。
そして、引用文献1、3、5〜12、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20には、相違点2−3に係る本件発明3の構成について、記載も示唆も見いだせないから、引用発明2において、相違点2−3に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって、相違点2−2について検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明2及び引用文献1、3、5〜12、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明3の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、引用発明2ではなく、また、上記(2)イで説示したのと同様の理由により、引用発明2及び引用文献1、3、5〜12、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明6〜13について
本件発明6〜13は、本件発明2又は3の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、引用発明2ではなく、また、上記(1)イ又は上記(3)イで説示したのと同様の理由により、引用発明2及び引用文献1、3、5〜12、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 引用発明3を主引用発明とする場合(取消理由2(進歩性))
(1)本件発明2について、
ア 対比
(ア)本件発明2と引用発明3とを対比すると、その機能や構造からみて、後者の「印刷インキ層2」は、前者の「絵柄模様層」に相当し、以下同様に、「表面保護層4」は「表面保護層」及び「第1表面保護層」に、「ウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂」は「紫外線硬化型樹脂」に、「化粧シート5」は「化粧―と」に、それぞれ相当する。

(イ)上記(ア)を参照すると、後者の「印刷インキ層2、」「表面保護層4がこの順に積層されて構成され」ることは、前者の「絵柄模様層と、表面保護層と、を備え」に相当する。

(ウ)上記(ア)を参照すると、後者の「ウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂」は、前者の「熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種」にも相当し、後者の「表面保護層4は、」「銀担持リン酸カルシウムを」「添加したウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂を用い」ることは、前者の「前記表面保護層は、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤と、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種とを含む第1表面保護層を有」することと、「前記表面保護層は、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種を含む第1表面保護層を有する」という点で共通する。

そうすると、本件発明2と引用発明3との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点3−1>
「絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種を含む第1表面保護層を有する化粧シート。」

<相違点3−1>
本件発明2では、「着色層」を備えるのに対し、引用発明3では、「基材1」が構成される点。

<相違点3−2>
本件発明2では、第1表面保護層は、「エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤」を含み、
前記表面保護層に対する前記「抗ウイルス剤」の添加量は、「0.2質量%以上10質量%以下」であり、
前記「抗ウイルス剤」の「平均粒径は、1μm以上10μm以下」であり、
前記「抗ウイルス剤」は、「銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有し、
前記第1表面保護層はフッ素樹脂が含まれている」のに対し、
引用発明3では、表面保護層4は、「抗菌剤」として平均粒子径「2.0μm」の「銀担持リン酸カルシウム」を、表面保護層4の樹脂材料「100質量部」に対し、「0.2質量部」添加したウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂を用いる点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、まず相違点3−2について検討する。
引用文献1、2、5〜12だけでなく、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20にも、相違点3−2に係る本件発明2の構成のうち、少なくとも「前記第1表面保護層はフッ素樹脂が含まれている」との事項について、記載も示唆も見いだせないから、引用発明3において、相違点3−2に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって、相違点3−1について検討するまでもなく、本件発明2は、引用発明3及び引用文献1、2、5〜12、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と引用発明3とを対比すると、後者の「透明熱可塑性樹脂層3」は、前者の「透明樹脂層」に相当するから、後者の「印刷インキ層2、透明熱可塑性樹脂層3、表面保護層4がこの順に積層され」ることは、前者の「前記絵柄模様層と前記表面保護層との間に設けられた透明樹脂層を備える」ことに相当する。
そして、上記(1)アで説示したのを踏まえると、本件発明3と引用発明3との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点3−2>
「絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種を含む第1表面保護層を有し、
前記絵柄模様層と前記表面保護層との間に設けられた透明樹脂層を備える化粧シート。」

<相違点3−3>
本件発明3では、「着色層」を備えるのに対し、引用発明3では、「基材1」が構成される点。

<相違点3−4>
本件発明3では、第1表面保護層は、「エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤」を含み、
前記表面保護層に対する前記「抗ウイルス剤」の添加量は、「0.2質量%以上10質量%以下」であり、
前記「抗ウイルス剤」の「平均粒径は、1μm以上10μm以下」であり、
前記「抗ウイルス剤」は、「銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有」するのに対し、
引用発明3では、表面保護層4は、「抗菌剤」として平均粒子径「2.0μm」の「銀担持リン酸カルシウム」を、表面保護層4の樹脂材料「100質量部」に対し、「0.2質量部」添加したウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂を用いる点。

<相違点3−5>
本件発明3では、「前記第1表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている」のに対し、引用発明3では、そのような構成を有しない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、まず相違点3−5から検討する。
引用文献1、2、5〜12だけでなく、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20にも、相違点3−5に係る本件発明3の構成について、記載も示唆も見いだせないから、引用発明3において、相違点3−5に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとは認められない。
したがって、相違点3−3及び3−4について検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明3及び引用文献1、2、5〜12、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明3の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、上記(2)イで説示したのと同様の理由により、引用発明3及び引用文献1、2、5〜12、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明6〜13について
本件発明6〜13は、本件発明2又は3の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、上記(1)イ又は上記(2)イで説示したのと同様の理由により、引用発明3及び引用文献1、2、5〜12、甲2−4、2−8、2−12、2−13、2−16、2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 引用発明4に基づく場合(取消理由3(拡大先願))
(1)本件発明2について
ア 対比
(ア)本件発明2と引用発明4とを対比すると、その機能や構造からみて、後者の「装飾層」は、前者の「絵柄模様層」に相当し、以下同様に、「硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物a)」は「表面保護層」及び「第1表面保護層」に、「電離放射線硬化性樹脂組成物」は「電子線硬化型樹脂」に、「抗ウイルス剤」は「エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤」に、「平均粒子径」は「平均粒径」に、それぞれ相当する。

(イ)酸化チタンは白色の顔料の一種であることを勘案すると、後者の「酸化チタン含有ポリプロピレン樹脂シートからなる基材」は、前者の「着色層」に相当し、後者の「抗ウイルス性物品」は、装飾層等を含んだシート状の物品であることを勘案すると、前者の「化粧シート」に相当する。

(ウ)上記(ア)を参照すると、後者の「電離放射線硬化性樹脂組成物」は、前者の「熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種」にも相当し、後者の「抗ウイルス剤」は、前者の「前記抗ウイルス剤は、銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有」することにも相当し、後者の「抗ウイルス剤の平均粒子径は3μmであ」ることは、前者の「前記抗ウイルス剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下であ」ることに相当する。

(エ)上記(ア)、(イ)を参照すると、後者の「酸化チタン含有ポリプロピレン樹脂シートからなる基材と、装飾層と、」「硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物a)とを、この順で形成」することは、前者の「着色層と、絵柄模様層と、表面保護層と、を備え」ることに相当する。

(オ)上記(ア)、(ウ)を参照すると、後者の「硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物a)は、電離放射線硬化性樹脂組成物)100質量部に対して、ガラスである担体に銀イオンを含有させてなる抗ウイルス剤を3質量部」「添加して形成したものである」ことは、前者の「前記表面保護層は、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤と、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種とを含む第1表面保護層を有」することに相当する。

(カ)後者の「硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物aは、電離放射線硬化性樹脂組成物100質量部に対して、ガラスである担体に銀イオンを含有させてなる抗ウイルス剤を3質量部、NR型ヒンダードアミン系化合物を2質量部、紫外線吸収剤を2質量部、体質顔料を16質量部、溶剤を50質量部添加して形成したものであ」ることは、抗ウイルス剤の添加量は、硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物a173質量部に対して、3質量部添であり、硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物aに対して、3/173≒1.7質量%であるから、前者の「前記表面保護層に対する前記抗ウイルス剤の添加量は、0.2質量%以上10質量%以下であ」ることに相当する。

以上によれば、本件発明2と引用発明4との以下の一致点4−1で一致し、相違点4−1で相違する。

<一致点4−1>
「着色層と、
絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤と、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種とを含む第1表面保護層を有し、
前記表面保護層に対する前記抗ウイルス剤の添加量は、0.2質量%以上10質量%以下であり、
前記抗ウイルス剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下であり、
前記抗ウイルス剤は、銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有する化粧シート。」

<相違点4−1>
本件発明2では、前記第1表面保護層は「フッ素樹脂」が含まれているのに対し、引用発明4では、硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物a)は、「電離放射線硬化性樹脂組成物」を含む点。

イ 相違点についての判断
引用出願4の当初明細書等には、硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物a)の材料としてフッ素樹脂を含むことは何ら記載されておらず、相違点4−1は実質的な相違点であり、課題解決のための具体化手段における微差ともいえないことから、本件発明2は引用発明4と同一であるとはいえない。

(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と引用発明4とを対比すると、後者の「透明性樹脂層」は、前者の「透明樹脂層」に相当するから、後者の「装飾層と、透明性樹脂層と、硬化物層用インキa(抗ウイルス性樹脂組成物aとを、この順で形成」することは、前者の「前記絵柄模様層と前記表面保護層との間に設けられた透明樹脂層を備える」ことに相当する。
そして、上記(1)アで説示したのを踏まえると、本件発明3と引用発明4との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点4−2>
「着色層と、
絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤と、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種とを含む第1表面保護層を有し、
前記表面保護層に対する前記抗ウイルス剤の添加量は、0.2質量%以上10質量%以下であり、
前記抗ウイルス剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下であり、
前記抗ウイルス剤は、銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有し、
前記絵柄模様層と前記表面保護層との間に設けられた透明樹脂層を備える化粧シート。」

<相違点4−2>
本件発明3では、「前記第1表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている」のに対し、引用発明4では、そのような構成を有しない点。

イ 相違点についての判断
相違点4−2は実質的な相違点であり、課題解決のための具体化手段における微差ともいえないことから、本件発明3は引用発明4と同一であるとはいえない。

(3)本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明3の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、引用発明4と同一であるとはいえない。

(4)本件発明6〜13について
本件発明6〜13は、本件発明2又は3の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、引用発明4と同一であるとはいえない。

5 取消理由4(明確性要件)について
請求項7の記載は明確であるのは明らかであるから、請求項7、及び、同項を直接又は間接的に引用する請求項8〜13に係る発明は明確である。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の内容
申立人Aは、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜13に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正前発明1」〜「本件訂正前発明13」という。)について、以下の(1)〜(4)を主張し、申立人Bは、特許異議申立書において、本件訂正前発明1〜13について、以下の(5)〜(9)を主張する。
なお、申立人Aが提出した「甲1−1」〜「甲1−7」、申立人Bが提出した「甲2−6」、「甲2−7」は以下のとおりである。

[証拠一覧]
甲1−1:特開平11−268224号公報
甲1−2:特開2018−203897号公報(引用文献10(甲2−17)と同じ)
甲1−3:特開2015−80887号公報(引用文献6(甲2−10)と同じ)
甲1−4:特開2018−79603号公報
甲1−5:神保元二ら編、微粒子ハンドブック、株式会社朝倉書店、1991年9月1日初版第1刷、52〜58ページ
甲1−6:製品紹介、[online]、株式会社タイショーテクノス、[令和4年6月10日出力]、<URL:https://www.taishotechnos.co.jp/products/tech_bn001.html>(甲2−8と同じ)
甲1−7:参考図1(技術常識を示すもの)
甲2−6:神保元二ら編、微粒子ハンドブック、株式会社朝倉書店、1991年9月1日初版第1刷、52〜61、174−207ページ
甲2−7:特開2017−19837号公報

(1)特許異議申立理由A−1(進歩性
本件訂正前発明1〜13は、甲1−1に記載された発明(以下「甲1−1発明」という。)、甲1−2に記載された発明(以下「甲1−2発明」という。)、甲1−3に記載された発明(以下「甲1−3発明」という。)、甲1−1〜甲1−3発明の組み合わせ、これらの少なくとも1つと、甲1−4に記載された事項との組み合わせ、更には、これらに技術常識を加味することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項1〜13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。

(2)特許異議申立理由A−2(明確性要件)
本件訂正前発明1〜13は明確ではなく、訂正前の請求項1〜13に係る特許は、同法第36条第6項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。

(3)特許異議申立理由A−3(サポート要件)
本件訂正前発明1〜13は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、訂正前の請求項1〜13に係る特許は、同法第36条第6項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。

(4)特許異議申立理由A−4(実施可能要件
本件訂正前発明1〜13について、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、訂正前の請求項1〜13に係る特許は、同法第36条第4項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。

(5)特許異議申立理由B−1(明確性要件)
本件訂正前発明1〜13は明確ではなく、訂正前の請求項1〜13に係る特許は、同法第36条第6項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。

(6)特許異議申立理由B−2(サポート要件)
本件訂正前発明1〜13は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、訂正前の請求項1〜13に係る特許は、同法第36条第6項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。

(7)特許異議申立理由B−3(実施可能要件
本件訂正前発明1〜13について、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、訂正前の請求項1〜13に係る特許は、同法第36条第4項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。

(8)特許異議申立理由B−4(新規性進歩性
本件訂正前発明1〜13は、甲2−1に記載された発明(引用発明1)、甲2−3に記載された発明(引用発明3)又は甲2−4に記載された発明(以下「甲2−4発明」という。)であり、甲2−4発明及び甲2−1〜2−3(引用文献1〜3)、甲2−13〜2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正前発明1及び訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する本件訂正前発明6〜13は、甲2−2に記載された発明(引用発明2)及び甲2−1、2−3、2−4、2−8〜2−20に記載された事項、又は、引用発明3及び甲2−1、2−3、2−4、2−8〜20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜13に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(9)特許異議申立理由B−5(拡大先願)
本件訂正前発明1は引用発明4と同一であるから、訂正前の請求項1に係る特許は、同法第29条の2の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

第8 特許異議申立理由についての判断
1 特許異議申立理由A−1(進歩性)について
(1)本件発明1について
甲1−1〜1−7には、本件発明1の「前記第2表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている」との構成について、何ら記載も示唆も見いだせない。
したがって、本件発明1は、甲1−1発明、甲1−2発明、甲1−3発明、甲1−1〜甲1−3発明の組み合わせ、これらの少なくとも1つと、甲1−4に記載された事項との組み合わせ、更には、これらに技術常識を加味することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2について
甲1−1〜1−7には、本件発明2の「前記第1表面保護層はフッ素樹脂が含まれている」との構成について、何ら記載も示唆も見いだせない。
したがって、本件発明2は、甲1−1発明、甲1−2発明、甲1−3発明、甲1−1〜甲1−3発明の組み合わせ、これらの少なくとも1つと、甲1−4に記載された事項との組み合わせ、更には、これらに技術常識を加味することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明3について
甲1−1〜1−7には、本件発明3の「前記第1表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている」との構成について、何ら記載も示唆も見いだせない。
したがって、本件発明3は、甲1−1発明、甲1−2発明、甲1−3発明、甲1−1〜甲1−3発明の組み合わせ、これらの少なくとも1つと、甲1−4に記載された事項との組み合わせ、更には、これらに技術常識を加味することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明3の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、上記(3)で説示したのと同様の理由により、甲1−1発明、甲1−2発明、甲1−3発明、甲1−1〜甲1−3発明の組み合わせ、これらの少なくとも1つと、甲1−4に記載された事項との組み合わせ、更には、これらに技術常識を加味することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明6〜13について
本件発明6〜13は、本件発明1〜3のいずれか1つの全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、上記(1)〜上記(3)のいずれか1つで説示したのと同様の理由により、甲1−1発明、甲1−2発明、甲1−3発明、甲1−1〜甲1−3発明の組み合わせ、これらの少なくとも1つと、甲1−4に記載された事項との組み合わせ、更には、これらに技術常識を加味することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)小括
以上によれば、特許異議申立理由A−1は成り立たない。

2 特許異議申立理由A−2及び特許異議申立理由B−1(明確性要件)について
(1)申立人の主張
申立人Aは、特許異議申立書(46〜49ページ参照。)において、以下のア、イを主張し、申立人Bは、特許異議申立書(56〜67ページ参照。)において、以下のウ、エを主張する。

ア 本件訂正前発明1等の「前記抗ウイルス剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下であり」との事項について、本件明細書等には、上記平均粒径の定義や測定方法が記載されておらず、上記記載が不明確であるから、本件訂正前発明1〜13は不明確である。

イ 本件訂正前発明3の「透明樹脂層」は、光透過率が特定されておらず、不明確であるから、本件訂正前発明3〜13は不明確である。

ウ 本件訂正前発明1等の「前記抗ウイルス剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下であり」との事項について、本件明細書等には、上記平均粒径の定義が記載されておらず、上記記載が不明確であるから、本件訂正前発明1〜13は不明確である。

エ 本件訂正前発明1の「第2表面保護層」と本件訂正前発明3の「透明樹脂層」との区別ができず不明確であるから、本件訂正前発明1、3〜13は不明確である。

(2)判断
ア 「平均粒径」(上記(1)ア、ウ)について
抗ウイルス剤の実施例として、本件明細書等の【0071】に「最表層の熱硬化性樹脂中に、抗ウイルス剤として銀系無機添加剤(株式会社タイショーテクノクス製、ビオサイドTB−B100)を、固形分比率で0.2質量%配合した。なお、抗ウイルス剤は、無機系材料に銀イオンを担持させた構造となっている。また、抗ウイルス剤の平均粒径(Φ)を5μmとした。」と記載され、【0044】に「抗ウイルス剤の平均粒径が表面保護層14の0.5倍以上2倍以下である場合、抗ウイルス剤との接触面先拡大、及び抗ウイルス剤自体の表面積拡大により抗ウイルス性が良好になる。また、抗ウイルス剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下であることが望ましい。抗ウイルス剤の平均粒径が1μm以上である場合、表面保護層14と抗ウイルス剤との接触面積が向上し、抗ウイルス性が良好になる。」と記載されていることから、本件発明1〜13は、抗ウイルス剤の形状が特殊な形状でないと所望の効果が発揮できないという発明ではないことは明らかである。また、工業分野において「平均粒径」はレーザ回折法等を用いて「測定値」として測定できることが周知である。
そうすると、本件発明1〜13の「平均粒径」は、一般に流通する製品に用いられ、測定値として示されるものであるから、当業者であれば理解でき、本件発明1〜13は明確である。

イ 「透明樹脂層」(上記(1)イ)について
本件発明3の「透明樹脂層」は、表面保護層と絵柄模様層の間に設けられるものであるところ、本件明細書等の【0062】には、「透明樹脂層36は、化粧シート30の表面(上面)から絵柄模様層13の絵柄を透視可能な程度の透明性(無色透明、有色透明、半透明)を有することが好ましい。」と記載されていることから、本件発明3の「透明樹脂層」は明確であり、本件発明3〜13は明確である。

ウ 上記(1)エについて
本件発明1と本件発明3は、互いに独立した発明であるので、本件発明1の「第2表面保護層」と本件発明3の「透明樹脂層」との関係は、本件発明1、本件発明3それぞれの明確性に影響しない。
また、特許法第36条第5項の「・・・一の請求に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。」との規定を勘案すると、仮に本件発明1の「第2表面保護層」と本件発明3の「透明樹脂層」とが同じであっても問題はない。
したがって、申立人Bの上記主張は当を得たものとはいえず、採用することはできない。

エ 小括
以上によれば、特許異議申立理由A−2及び特許異議申立理由B−1は成り立たない。

3 特許異議申立理由A−3及び特許異議申立理由B−2(サポート要件)について
(1)申立人の主張
申立人Aは、特許異議申立書(45〜46ページ参照。)において、以下のアを主張し、申立人Bは、特許異議申立書(68〜77ページ参照。)において、以下のイ、ウを主張する。

ア 発明の詳細な説明の【0045】や表1の記載からも、抗ウイルス剤において、粒径が異なる2つのピークを有するものによって優れた抗ウイルス性が得られると認められるところ、本件訂正前発明1〜13は、抗ウイルス剤について、粒径が異なる2つのピークを有することを構成とするものはなく、当業者が「優れた抗ウイルス性を有する」という発明の課題(【0005】参照)を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないから、発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められない。

イ 平均粒径と第1ピーク、第2ピークとは独立に決まるものではなく、相互に大きく影響を及ぼし合うものであり、平均粒径は第1ピークと第2ピークの間に存在すると考えるのが通常である。
しかしながら、本件明細書等に記載の実施例及び比較例では、そうでないものが複数あり、特に、実施例7、8では、第1ピークが3μm、第2ピークが7μmでありながら、平均粒径が、実施例7では1μmとその両者より小さい値になっており、実施例8では10μmとその両者より大きい値となっており、通常あり得ない数値になっているところ、実施例7、8は、本件訂正前発明1〜13の「前記抗ウイルス剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下であり」との事項の上限値と下限値に対応する実施例であるが、実施例7、8の実験データは信憑性に欠くものといわざるを得ず、その結果、上記「前記抗ウイルス剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下であり」との事項について、当業者が「優れた抗ウイルス性を有する」という発明の課題(【0005】参照)を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないから、本件訂正前発明1〜13は発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められない。

ウ 本件訂正前発明1〜13は、「前記抗ウイルス剤は、銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有し」との事項を有しており、抗ウイルス剤として複数種類のものを対象としているところ、実施例では、銀系無機添加剤(株式会社タイショーテクノクス製、ビオサイドTB−B100)を用いたものしか示されておらず、発明の詳細な説明には、「ビオサイドTB−B100」以外の抗ウイルス剤についても、「優れた抗ウイルス性を有する」という発明の課題(【0005】参照)を解決できると当業者が認識できる程度に技術が開示されているとは認められないから、本件訂正前発明1〜13は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(2)判断
ア 上記(1)アについて
本件明細書等の発明の詳細な説明には、上記課題の解決手段として、抗ウイルス剤の粒径が異なる2つのピークを有することだけでなく、例えば、【0044】には、表面保護層に抗ウイルス剤を0.2質量%以上10質量%以下に添加すること、【0045】には、抗ウイルス剤の平均粒径を1μm以上10μm以下にすることが開示され、本件発明1〜13はこれら2つの解決手段を有するところ、表1も参照すれば、当業者であれば、上記2つの解決手段が上記課題の解決に寄与することが理解できると認められる。
したがって、申立人Aの上記主張は当を得たものとはいえず、採用することはできない。

イ 上記(1)イについて
本件明細書等の発明の詳細な説明の【0044】に示されるように、本件発明1〜13は、抗ウイルス剤の平均粒径をある程度以上にして、表面保護層と抗ウイルス剤との接触面積や抗ウイルス剤自体の表面積を大きくするという物理的な性質に基づいて上記課題を解決するものであると認められるから、抗ウイルス剤の平均粒径がある値のものについて、実施例等によりその効果が示されれば、その値の前後のある程度の範囲までは、同様の効果を奏するものであると、当業者であれば理解できると解するのが相当である。
そうすると、表1において、例えば、申立人Bが主張するような瑕疵のない実施例1、2、5、10に示されるように、抗ウイルス剤の平均粒径が5μmであれば、優れた抗ウイルス性があるという効果を奏すると認められるから、当業者であれば、その前後を含む1μm以上10μm以下の範囲において、同様の効果を奏するものと理解できると認められる。
したがって、申立人Bの上記主張は当を得たものとはいえず、採用することはできない。

ウ 上記(1)ウについて
本件明細書等の発明の詳細な説明の【0044】に示されるように、本件発明1〜13は、抗ウイルス剤の平均粒径をある程度以上にして、表面保護層と抗ウイルス剤との接触面積や抗ウイルス剤自体の表面積を大きくするという物理的な性質に基づいて上記課題を解決するものであると認められるから、抗ウイルス剤の1種について、実施例等によりその効果が示されれば、同じような物理的な性質を持つ他の抗ウイルス剤についても同様な効果を奏するものであると、当業者であれば理解できると解するのが相当である。
そうすると、本件明細書等の発明の詳細な説明に接した当業者であれば、本件発明1〜13の上記事項に含まれる抗ウイルス剤が、「ビオサイドTB−B100」と同様の効果を奏することが理解できると認められるから、申立人Bの上記主張は当を得たものといえず、採用することはできない。

エ 小括
以上によれば、特許異議申立理由A−3及び特許異議申立理由B−2は成り立たない。

4 特許異議申立理由A−4及び特許異議申立理由B−3(実施可能要件)について
(1)申立人の主張
申立人Aは、特許異議申立書(43〜45ページ参照。)において、以下のアを主張し、申立人Bは、特許異議申立書(77〜78ページ参照。)において、以下のイを主張する。

ア 実施例7〜18において、抗ウイルス剤の粒径の第1ピークと第2ピークをどのように実現するのか不明であり、少なくとも実施例7〜18について、当業者であっても、どのように実施するのか不明であるから、本件訂正前発明1〜13は実施可能要件を満たしていない。

イ 上記2(1)ウ、エで示したように、「平均粒径」等について、本件訂正前発明1〜13は不明確であるから、その実施において、過度な試行錯誤を要するのは明らかであり、上記3(1)イで示したように、実施例はいずれも、当業者であっても再現することが非常に困難ものであるから、本件訂正前発明1〜13は実施可能要件を満たしていない。

(2)判断
本件明細書等の発明の詳細な説明の【0071】には、実施例1についての記載があり、当業者であれば、その記載から、過度な試行錯誤をすることなく、実施例1を実施できると認められ、実施例1は、少なくとも本件発明1〜3、5〜13に対応するものであり、本件発明4の「前記透明樹脂層にエンボスが形成されている」との事項は、当業者であれば適宜実施し得る程度のことである。
そして、本件発明1〜13が実施可能であるというためには、発明の詳細な説明において、実施可能な具体例を1つ示せば十分であるところ、上記のとおり、本件発明1〜13は、実施例1に基づいて実施可能であると認められるから、本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件発明1〜13について、当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

以上によれば、特許異議申立理由A−4及び特許異議申立理由B−3は成り立たない。

5 特許異議申立理由B−4(新規性進歩性)について
(1)引用発明1を主引用発明とする場合(新規性
上記「第6 1(1)」で示したように、本件発明1と引用発明1は、相違点1−1、1−2を有し、少なくとも相違点1−2は実質的な相違点であるから、本件発明1は引用発明1ではない。
同様に、上記「第6 1(2)」及び「第6 1(3)」で示したように、本件発明2、3も引用発明1ではない。
そして、本件発明4、5は、本件発明3の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、引用発明1ではないことは明らかである。
また、本件発明6〜13は、本件発明1〜3のいずれか1つの全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、引用発明1でないことは明らかである。

(2)引用発明2を主引用発明とする場合(進歩性
ア 本件発明1について
引用発明2は、少なくとも相違点1−2に係る本件発明1の構成に相当する構成を有しておらず、相違点1−2に係る本件発明1の構成について、甲2−1、2−3、2−4、2−8〜2−20には、記載も示唆もないから、本件発明1は、引用発明2及び甲2−1、2−3、2−4、2−8〜2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件発明6〜13について
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明6〜13は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、上記アで説示したのと同様の理由により、引用発明2及び甲2−1、2−3、2−4、2−8〜2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)引用発明3を主引用発明とする場合(新規性進歩性
新規性について
引用発明3は、少なくとも相違点1−2に係る本件発明1の構成に相当する構成を有していないから、本件発明1は引用発明3ではない。
上記「第6 3(2)」及び「第6 3(3)」で示したように、本件発明2、3も、引用発明3とは実質的な相違点を有するから、引用発明3ではない。
そして、本件発明4、5は、本件発明3の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、引用発明3ではないことは明らかである。
また、本件発明6〜13は、本件発明1〜3のいずれか1つの全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、引用発明3でないことは明らかである。

進歩性について
(ア)本件発明1について
相違点1−2に係る本件発明1の構成について、甲2−1、2−2、2−4、2−8〜2−20には、記載も示唆もないから、本件発明1は、引用発明2及び甲2−1、2−2、2−4、2−8〜2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)本件発明6〜13について
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明6〜13は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、上記(ア)で説示したのと同様の理由により、引用発明3及び甲2−1、2−2、2−4、2−8〜2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)甲2−4発明を主引用発明とする場合(新規性進歩性
新規性について
甲2−4発明は、少なくとも、相違点1−2に係る本件発明1の構成に相当する構成、相違点1−4に係る本件発明2の構成に相当する構成、及び、相違点1−6に係る本件発明3の構成に相当する構成を有していないから、本件発明1〜3は甲2−4発明ではない。
そして、本件発明4、5は、本件発明3の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、甲2−4発明ではないことは明らかである。
また、本件発明6〜13は、本件発明1〜3のいずれか1つの全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、甲2−4発明でないことは明らかである。

進歩性について
(ア)本件発明1〜3について
相違点1−2に係る本件発明1の構成、相違点1−4に係る本件発明2の構成、及び、相違点1−6に係る本件発明3の構成について、甲2−1〜2−3、2−8〜2−20には、記載も示唆もないから、本件発明1〜3は、甲2−4発明及び甲2−1〜2−3、2−8〜2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明4、5について
本件発明4、5は、本件発明3の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、上記(ア)で説示したのと同様の理由により、甲2−4発明及び甲2−1〜2−3、2−8〜2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)本件発明6〜13について
本件発明6〜13は、本件発明1〜3のいずれか1つの全ての発明特定事項を含み、更なる限定を追加するものであるから、上記(ア)で説示したのと同様の理由により、甲2−4発明及び甲2−1〜2−3、2−8〜2−20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)小括
以上によれば、特許異議申立理由B−4は成り立たない。

6 特許異議申立理由B−5(拡大先願)について
引用発明4は、少なくとも相違点1−2に係る本件発明1の構成に相当する構成を有していないから、本件発明1は引用発明4と同一ではない。
したがって、特許異議申立理由B−5は成り立たない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、本件請求項1〜13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色層と、
絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤と、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種とを含む第1表面保護層を有し、
前記表面保護層に対する前記抗ウイルス剤の添加量は、0.2質量%以上10質量%以下であり、
前記抗ウイルス剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下であり、
前記抗ウイルス剤は、銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有し、
前記表面保護層は、前記第1表面保護層と前記絵柄模様層との間に設けられた第2表面保護層を有し、
前記第2表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている化粧シート。
【請求項2】
着色層と、
絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤と、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種とを含む第1表面保護層を有し、
前記表面保護層に対する前記抗ウイルス剤の添加量は、0.2質量%以上10質量%以下であり、
前記抗ウイルス剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下であり、
前記抗ウイルス剤は、銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有し、
前記第1表面保護層はフッ素樹脂が含まれている化粧シート。
【請求項3】
着色層と、
絵柄模様層と、
表面保護層と、
を備え、
前記表面保護層は、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤と、熱硬化性樹脂、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種とを含む第1表面保護層を有し、
前記表面保護層に対する前記抗ウイルス剤の添加量は、0.2質量%以上10質量%以下であり、
前記抗ウイルス剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下であり、
前記抗ウイルス剤は、銀系抗ウイルス剤、抗菌性ゼオライト、抗菌性アパタイト、抗菌性ジルコニア、ジンクピリチオン、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、10、10−オキシビスフェノキサルシン、有機窒素硫黄ハロゲン系、ピリジン−2−チオール−オキシドの少なくとも1種を含有し、
前記絵柄模様層と前記表面保護層との間に設けられた透明樹脂層を備え、
前記第1表面保護層は、熱硬化性樹脂と、紫外線硬化型樹脂又は電子線硬化型樹脂のうち少なくとも一種との混合物を含み、前記混合物における前記熱硬化性樹脂の比率が50重量%を超えている化粧シート。
【請求項4】
前記透明樹脂層の厚さは、30μm以上200μm以下である
請求項3に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記透明樹脂層にエンボスが形成されている
請求項3又は4に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記抗ウイルス剤は、銀系材料である
請求項1から5のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項7】
前記第1表面保護層の厚さは、3μm以上15μm以下である
請求項1から6のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項8】
前記抗ウイルス剤の平均粒径は、前記表面保護層の厚さの0.5倍以上2倍以下である
請求項1から7のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項9】
前記抗ウイルス剤は、無機材料により担持されている
請求項1から8のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項10】
前記第1表面保護層は、更に界面活性剤が添加されている
請求項1から9のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項11】
前記界面活性剤は、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤の少なくとも一種を含む
請求項10に記載の化粧シート。
【請求項12】
前記表面保護層にエンボスが形成されている
請求項1から11のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の化粧シートと、
前記化粧シートの着色層の裏面に張り合わされた建具用基材と、
を備える化粧材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-08-01 
出願番号 P2021-052289
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B32B)
P 1 651・ 536- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 16- YAA (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 井上 茂夫
八木 誠
登録日 2021-11-22 
登録番号 6981563
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 化粧シート及び化粧材  
代理人 宮坂 徹  
代理人 廣瀬 一  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 宮坂 徹  
代理人 廣瀬 一  
代理人 田中 秀▲てつ▼  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ