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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1403628
総通号数 23 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-06-14 
確定日 2023-09-07 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6983345号発明「熱伝導性シート、および電子機器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6983345号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3〜5〕について訂正することを認める。 特許第6983345号の請求項1〜3、5に係る特許を維持する。 特許第6983345号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6983345号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜5に係る特許についての出願は、令和3年 2月18日に出願され、令和 3年11月25日にその特許権の設定登録がされ、令和 3年12月17日に特許掲載公報が発行されたものである。
その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 4年 6月14日 :特許異議申立人吉澤悦子(以下、「申立人」という。)による請求項1〜5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 4年 9月21日付け:取消理由通知
令和 4年11月10日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(令和 5年 5月 1日にされた訂正請求により、この訂正請求書による訂正請求は取り下げられたものとみなす。)
令和 4年12月 1日付け:訂正拒絶理由通知
令和 5年 3月 6日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 5年 5月 1日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)の提出
なお、令和 5年 6月 5日付けで、申立人に対して意見を求めたが、申立人から意見書の提出はなかった。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年5月1日にされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜5に訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に「当該熱伝導性シートのいずれか一方の面のSzが50μm以下であり、絶縁破壊電圧が0.5kV/mm以上である、熱伝導性シート」と記載されているのを、「当該熱伝導性シートのいずれか一方の面のSzが50μm以下であり、絶縁破壊電圧が0.5kV/mm以上であり、さらに、アルミナ、窒化アルミ、酸化亜鉛、および水酸化アルミを含有する、熱伝導性シート」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3及び5も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項4を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項5に「請求項1〜4記載の熱伝導性シート」と記載されているのを「請求項1〜3記載の熱伝導性シート」に訂正する。

(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項3〜5は、いずれも直接又は間接的に請求項1を引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1、3〜5に対応する本件訂正後の請求項1、3〜5は、一群の請求項である。
よって、本件訂正は、本件訂正後の請求項〔1、3〜5〕に係る一群の請求項が訂正単位である。

2 訂正要件についての判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「熱伝導性シート」について「さらに、アルミナ、窒化アルミ、酸化亜鉛、および水酸化アルミを含有する」ことを限定するものであるから、訂正事項1に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
本件特許の明細書の段落0067には「本実施例では、下記の表1に示すように、まず、シリコーン樹脂(バインダの一例):34体積%と、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素(D50が40μm):25体積%と、窒化アルミニウム(D50が1.5μm):19体積%と、球状アルミナ粒子(D50が5μm):19体積%と、酸化亜鉛(D50が1μm):1体積%と、水酸化アルミ(D50が8μm):1体積%と、カップリング剤:1体積%と、を均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製した。」(下線は強調のため当審にて付与した。)と記載されており、窒化アルミニウム、球状アルミナ粒子、酸化亜鉛、及び水酸化アルミを熱伝導性シート形成用の樹脂組成物に含有させることが開示されている。したがって、本件訂正後の請求項1に記載された「さらに、アルミナ、窒化アルミ、酸化亜鉛、および水酸化アルミを含有する、熱伝導性シート」は、本件特許の明細書に記載された事項である。
よって、訂正事項1に係る本件訂正は、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術事項を導入しないものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 独立特許要件
訂正事項1は、上記アで示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、本件訂正前の請求項1〜5について特許異議の申立てがされているから、本件訂正前の請求項1に係る本件訂正に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、本件訂正前の請求項4を削除するものであるから、訂正事項2に係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術事項を導入しないものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項2に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 独立特許要件
訂正事項2に係る本件訂正は、上記アで示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、本件訂正前の請求項1〜5について特許異議の申立てがされているから、本件訂正前の請求項4に係る本件訂正に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、本件訂正前の請求項5が、請求項1〜4のいずれか1つの記載を引用するとしていたのを、請求項1〜3の記載のいずれか1つの記載を引用するとしたものであるから、訂正事項3に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術事項を導入しないものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項3に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 独立特許要件
訂正事項3に係る本件訂正は、上記アで示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、本件訂正前の請求項1〜5について特許異議の申立てがされているから、本件訂正前の請求項5に係る本件訂正に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 小括
以上のとおり、訂正事項1〜3に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項の規定によって準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1、3〜5〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正請求は認められるから、本件特許の請求項1〜5に係る発明(以下、本件訂正後の請求項1〜3、5に係る発明を、「本件発明1」〜「本件発明3」、「本件発明5」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
バインダと異方性熱伝導フィラーとを含み、前記異方性熱伝導フィラーが厚み方向に配向した熱伝導性シートであり、
前記バインダがシリコーン樹脂であり、
前記異方性熱伝導フィラーが窒化ホウ素であって、
当該熱伝導性シートのいずれか一方の面のSzが50μm以下であり、絶縁破壊電圧が0.5kV/mm以上であり、
さらに、アルミナ、窒化アルミ、酸化亜鉛、および水酸化アルミを含有する、熱伝導性シート。
【請求項2】
バインダと異方性熱伝導フィラーとを含み、前記異方性熱伝導フィラーが厚み方向に配向した熱伝導性シートであり、
前記バインダがシリコーン樹脂であり、
前記異方性熱伝導フィラーが炭素繊維または表面を絶縁物で被覆した炭素繊維であって、
前記炭素繊維の配合量が4体積%以上6体積%以下であり、
当該熱伝導性シートのいずれか一方の面のSzが50μm以下であり、絶縁破壊電圧が0.5kV/mm以上である、熱伝導性シート。
【請求項3】
前記窒化ホウ素が鱗片状窒化ホウ素である、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
請求項1〜3記載の熱伝導性シートを、発熱体と放熱部材の間に挟んだ、電子機器。」

第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、3〜5に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した、令和5年3月6日付けの取消理由通知(決定の予告)の概要は、次のとおりである。なお、申立人が提出した甲第1号証〜甲第4号証を、以下、「甲1」〜「甲4」という。

(取消理由1)(進歩性)本件発明1、3〜5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3〜5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

<引用文献等一覧>
甲1:国際公開第2020/105601号
引用文献1:特開2018−067695号公報
引用文献2:特開2017−135211号公報

2 取消理由についての当審の判断
(1)甲号証、引用文献の記載
ア 甲1、甲1−1発明、甲1−2発明
(ア)甲1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同じ。)
「[0012] 以下、本発明の実施形態に係る熱伝導性シートについて詳しく説明する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態の熱伝導性シートを示す。第1の実施形態に係る熱伝導性シート10は、それぞれがシリコーン樹脂11と、熱伝導性充填材とを含有する複数の単位層13を備える。・・・(中略)・・・各単位層13において、シリコーン樹脂11は、熱伝導性充填材を保持するマトリクス成分となるものであり、シリコーン樹脂11には、熱伝導性充填材が分散するように配合される。」

「[0015] (シリコーン樹脂)
・・・(中略)・・・シリコーン樹脂11は、硬化型である場合には、硬化性シリコーン組成物を硬化することで得られるものである。シリコーン樹脂11は、付加反応型のものを使用してもよいし、それ以外のものを使用してもよい。付加反応型の場合、硬化性シリコーン組成物は、主剤となるシリコーン化合物と、主剤を硬化させる硬化剤とからなることが好ましい。」

「[0024] 異方性充填材14は、熱伝導性を有する公知の材料を使用すればよい。また、異方性充填材14は、導電性を有していてもよいし、絶縁性を有していてもよい。異方性充填材14が絶縁性を有すると、熱伝導性シート10の厚さ方向zの絶縁性を高めることができるため、電気機器において好適に使用することが可能になる。・・・(略)・・・」

「[0037] 非異方性充填材15の具体例は、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。・・・(中略)・・・
非異方性充填材15において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、アルミナに代表される酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛など、金属窒化物としては窒化アルミニウムなどを例示することができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛などが挙げられる。金属以外の酸化物、窒化物、炭化物としては、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。・・・(中略)・・・
絶縁性を有する非異方性充填材15としては、上記した中でも、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、金属炭化物が挙げられるが、特に酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムが好ましい。
非異方性充填材15は、上記したものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。」

「[0071] [実施例1]
硬化性シリコーン組成物として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)(合計で100質量部、体積充填率40体積%)と、異方性充填材として黒鉛化炭素繊維(平均繊維長100μm、アスペクト比10、熱伝導率500W/m・K)120質量部(体積充填率30体積%)と、非異方性充填材として酸化アルミニウム粉末(球状、平均粒径3μm、アスペクト比1.0)500質量部(体積充填率30体積%)を混合して、スラリー状の液状組成物を得た。液状組成物の25℃における粘度は90Pa・sであった。
[0072] 液状組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の基材フィルム上に、25℃で塗布用アプリケータとしてバーコータを用いて一方向に塗布した。異方性充填材は、塗布方向に長軸が向き、塗布面の法線方向に短軸が向いていた。次に、塗布した液状組成物を、120℃で0.5時間加熱することで、液状組成物を硬化させることで、厚さ500μmの1次シートを得た。
[0073] 得られた1次シートそれぞれの両面に対して、VUV照射装置(商品名エキシマMINI、浜松ホトニクス社製)を用いて、室温(25℃)、大気中で1次シートの表面に積算光量20mJ/cm2の条件でVUVを照射した。次に、VUVを照射した1次シートを、100枚積層して、25℃の環境下、ローラにより1.6kgf/50mmの圧力で加圧して、積層ブロックを得た。得られた積層ブロックをカッター刃により、積層方向に平行で、かつ異方性充填材の配向方向に垂直にスライスして、各単位層の厚さが500μm、厚さ2mmの熱伝導性シートを得た。」

「[0075] (実施例6)
異方性充填材を窒化ホウ素(非凝集鱗片状材料、平均粒径40μm、アスペクト比4〜8、熱伝導率100W/m・K)に変更し、さらに添加部数を180質量部に変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。得られた熱伝導性シートは厚さが2mmで、各単位層の厚さは500μmであった。異方性充填材の充填率が26体積%、非異方性充填材の充填率が41体積%であり、シリコーン樹脂の充填率が33体積%であった。なお、異方性充填材は、鱗片面の法線方向が積層方向に向いていた。」

(イ)上記(ア)によれば、甲1には次の技術事項が記載されている。
a 段落0012には「第1の実施形態」について、「各単位層13において、シリコーン樹脂11は、熱伝導性充填材を保持するマトリクス成分となるものであり」と記載されている。
よって、シリコーン樹脂は、熱伝導性充填材を保持するマトリクス成分となるものである。

b 段落0071には「実施例1」について「硬化性シリコーン組成物として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)(合計で100質量部、体積充填率40体積%)と、異方性充填材として黒鉛化炭素繊維(平均繊維長100μm、アスペクト比10、熱伝導率500W/m・K)120質量部(体積充填率30体積%)と、非異方性充填材として酸化アルミニウム粉末(球状、平均粒径3μm、アスペクト比1.0)500質量部(体積充填率30体積%)を混合して、スラリー状の液状組成物を得た。」と記載されている。
よって、甲1には、「実施例1」について、硬化性シリコーン組成物として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)(合計で100質量部、体積充填率40体積%)と、異方性充填材として黒鉛化炭素繊維(平均繊維長100μm、アスペクト比10、熱伝導率500W/m・K)120質量部(体積充填率30体積%)と、非異方性充填材として酸化アルミニウム粉末(球状、平均粒径3μm、アスペクト比1.0)500質量部(体積充填率30体積%)を混合して、スラリー状の液状組成物を得ることが記載されている。

c 段落0072には「液状組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の基材フィルム上に、25℃で塗布用アプリケータとしてバーコータを用いて一方向に塗布した。異方性充填材は、塗布方向に長軸が向き、塗布面の法線方向に短軸が向いていた。」及び「塗布した液状組成物を、120℃で0.5時間加熱することで、液状組成物を硬化させることで、厚さ500μmの1次シートを得た。」と記載されている。
よって、甲1には、液状組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の基材フィルム上に、25℃で塗布用アプリケータとしてバーコータを用いて一方向に塗布し、異方性充填材は、塗布方向に長軸が向き、塗布面の法線方向に短軸が向くこと、及び、塗布した液状組成物を120℃で0.5時間加熱することで液状組成物を硬化させることで、厚さ500μmの1次シートを得ることが記載されている。

d 段落0073には「得られた1次シートそれぞれの両面に対して、VUV照射装置」「を用いて、室温(25℃)、大気中で1次シートの表面に積算光量20mJ/cm2の条件でVUVを照射した。次に、VUVを照射した1次シートを、100枚積層して、25℃の環境下、ローラにより1.6kgf/50mmの圧力で加圧して、積層ブロックを得た。得られた積層ブロックをカッター刃により、積層方向に平行で、かつ異方性充填材の配向方向に垂直にスライスして各単位層の厚さが500μm、厚さ2mmの熱伝導性シートを得た。」と記載されている。
よって、甲1には、得られた1次シートそれぞれの両面に対して、VUV照射装置を用いて、室温(25℃)、大気中で1次シートの表面に積算光量20mJ/cm2の条件でVUVを照射し、VUVを照射した1次シートを100枚積層して、25℃の環境下、ローラにより1.6kgf/50mmの圧力で加圧して、積層ブロックを得ること、及び、得られた積層ブロックをカッター刃により積層方向に平行で、かつ異方性充填材の配向方向に垂直にスライスして得た、各単位層の厚さが500μm、厚さ2mmの熱伝導性シートが記載されている。

e 段落0075には「実施例6」について「異方性充填材を窒化ホウ素(非凝集鱗片状材料、平均粒径40μm、アスペクト比4〜8、熱伝導率100W/m・K)に変更し、さらに添加部数を180質量部に変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。」と記載され、さらに、「得られた熱伝導性シートは厚さが2mmで、各単位層の厚さは500μmであった。異方性充填材の充填率が26体積%、非異方性充填材の充填率が41体積%であり、シリコーン樹脂の充填率が33体積%であった。」及び「異方性充填材は、鱗片面の法線方向が積層方向に向いていた。」と記載されている。
よって、上記bを踏まえると、甲1には「実施例6」について、硬化性シリコーン組成物として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)(合計で100質量部)と、異方性充填材として窒化ホウ素(非凝集鱗片状材料、平均粒径40μm、アスペクト比4〜8、熱伝導率100W/m・K)180質量部と、非異方性充填材として酸化アルミニウム粉末(球状、平均粒径3μm、アスペクト比1.0)500質量部を混合して、スラリー状の液状組成物を得ること、及び、厚さが2mmで各単位層の厚さは500μmであり、異方性充填材の充填率が26体積%、非異方性充填材の充填率が41体積%であり、シリコーン樹脂の充填率が33体積%であり、異方性充填材は鱗片面の法線方向が積層方向に向いている熱伝導性シート、が記載されている。

f 上記a〜dより甲1には実施例1について次の発明(以下、「甲1−1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1−1発明)
「熱伝導性シートであって、
硬化性シリコーン組成物として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)(合計で100質量部、体積充填率40体積%)と、異方性充填材として黒鉛化炭素繊維(平均繊維長100μm、アスペクト比10、熱伝導率500W/m・K)120質量部(体積充填率30体積%)と、非異方性充填材として酸化アルミニウム粉末(球状、平均粒径3μm、アスペクト比1.0)500質量部(体積充填率30体積%)を混合して、スラリー状の液状組成物を得、
液状組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の基材フィルム上に、25℃で塗布用アプリケータとしてバーコータを用いて一方向に塗布し、異方性充填材は、塗布方向に長軸が向き、塗布面の法線方向に短軸が向き、
塗布した液状組成物を120℃で0.5時間加熱することで液状組成物を硬化させることで、厚さ500μmの1次シートを得、
得られた1次シートそれぞれの両面に対して、VUV照射装置を用いて、室温(25℃)、大気中で1次シートの表面に積算光量20mJ/cm2の条件でVUVを照射し、VUVを照射した1次シートを100枚積層して、25℃の環境下、ローラにより1.6kgf/50mmの圧力で加圧して、積層ブロックを得ること、及び、得られた積層ブロックをカッター刃により積層方向に平行で、かつ異方性充填材の配向方向に垂直にスライスして得た、
シリコーン樹脂11は、熱伝導性充填材を保持するマトリクス成分となるものである、各単位層の厚さが500μm、厚さ2mmの熱伝導性シート。」

h また、上記a〜eより甲1には実施例6について次の発明(以下、「甲1−2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1−2発明)
「熱伝導性シートであって、
硬化性シリコーン組成物として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)(合計で100質量部)と、異方性充填材として窒化ホウ素(非凝集鱗片状材料、平均粒径40μm、アスペクト比4〜8、熱伝導率100W/m・K)180質量部と、非異方性充填材として酸化アルミニウム粉末(球状、平均粒径3μm、アスペクト比1.0)500質量部を混合して、スラリー状の液状組成物を得、
液状組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の基材フィルム上に、25℃で塗布用アプリケータとしてバーコータを用いて一方向に塗布し、異方性充填材は、塗布方向に長軸が向き、塗布面の法線方向に短軸が向き、
塗布した液状組成物を120℃で0.5時間加熱することで液状組成物を硬化させることで、厚さ500μmの1次シートを得、
得られた1次シートそれぞれの両面に対して、VUV照射装置を用いて、室温(25℃)、大気中で1次シートの表面に積算光量20mJ/cm2の条件でVUVを照射し、VUVを照射した1次シートを100枚積層して、25℃の環境下、ローラにより1.6kgf/50mmの圧力で加圧して、積層ブロックを得ること、及び、得られた積層ブロックをカッター刃により積層方向に平行で、かつ異方性充填材の配向方向に垂直にスライスして得た、
厚さが2mmで各単位層の厚さは500μmであり、異方性充填材の充填率が26体積%、非異方性充填材の充填率が41体積%であり、シリコーン樹脂の充填率が33体積%であり、異方性充填材は、鱗片面の法線方向が積層方向に向いており、シリコーン樹脂は、熱伝導性充填材を保持するマトリクス成分となるものである、熱伝導性シート。」

イ 引用文献1
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
「【0003】
・・・(中略)・・・そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、通常、熱伝導率が高いシート状の部材(熱伝導シート)を介在させた状態で発熱体と放熱体とを密着させている。」

「【0005】
・・・(中略)・・・そして、特許文献1では、シリコーン樹脂組成物のシートをプレスすることにより、得られる熱伝導シート表面の平滑性を向上させて密着性を高めると共に、熱伝導シート内部のピッチ系炭素繊維同士を良好に接触させて熱抵抗値を低下させている。・・・(略)・・・」

「【0059】
<表面粗さSz>
本発明の熱伝導シートは、少なくとも一方の主面の表面粗さSzが3.5μm以下であることを必要とする。・・・(中略)・・・
また、比較的低い挟持圧力での熱伝導シートの熱伝導性を更に高める観点からは、熱伝導シートは、少なくとも一方の主面の表面粗さSzが3.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上であることが好ましく、1.1μm超であることがより好ましく、1.2μm以上であることが更に好ましい。熱伝導シートの少なくとも一方の主面の表面粗さSzが上記上限以下であれば、当該主面が十分に平滑であるため、熱伝導シートを発熱体および放熱体の間に比較的低い挟持圧力で挟み込んだ場合であっても、熱伝導シートと発熱体および/または放熱体との密着性がより高まり、界面熱抵抗がより低減されるからである。」

「【0077】
<工程C>
また、本発明の熱伝導シートの製造方法は工程Cを更に含む。工程Cでは、上記工程Bで得られた二次熱伝導シートを加圧することにより、上述した所定の熱伝導シートを得る。そして、工程Cでは上記所定の工程を経て得られた二次熱伝導シートを加圧しているため、得られる熱伝導シートが平滑な表面を有し、且つ、比較的低い挟持圧力での使用に際して優れた熱伝導性を発揮する。
なお、工程Cでは、二次熱伝導シートを厚み方向に加圧することにより、通常、加圧前の二次熱伝導シートの表面粗さSzよりも、加圧後に得られる熱伝導シートの表面粗さSzが小さくなる。このように、工程Cでは、通常、二次熱伝導シートの表面粗さSzを変化させている。」

「【0111】
【表1】



「【0112】
表1より、樹脂および粒子状炭素材料を含み、少なくとも一方の主面の表面粗さSzが3.5μm以下であり、且つ、0.05MPa加圧下での熱抵抗値が0.25℃/W以下である実施例1〜5の熱伝導シートは、比較的低い挟持圧力にて使用した場合に、良好な熱伝導性を発揮し得ることが分かる。・・・(中略)・・・」

ウ 引用文献2
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
「【0090】
−絶縁破壊電圧−
絶縁破壊電圧は、超高電圧耐圧試験器((株)計測技術研究所製、7473)を用いて、昇圧速度0.05kV/秒、室温で測定した。絶縁破壊が生じた時点の電圧を絶縁破壊電圧(kV/mm)とした。」

「【0095】
【表4−1】


【0096】
【表4−2】



(2)対比及び判断
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1−2発明とを対比する。
a 甲1−2発明において「シリコーン樹脂は、熱伝導性充填材を保持するマトリクス成分となる」から、「シリコーン樹脂」はバインダとして機能するものであるといえる。
よって、甲1−2発明の「シリコーン樹脂は、熱伝導性充填材を保持するマトリクス成分とな」り、「シリコーン樹脂の充填率が33体積%であ」ることは、本件発明1の「バインダ」「を含み」、「前記バインダがシリコーン樹脂であ」ることに相当する。

b 甲1−2発明は「異方性充填材として窒化ホウ素(非凝集鱗片状材料、平均粒径40μm、アスペクト比4〜8、熱伝導率100W/m・K)」を「混合」するものであり、「異方性充填材」は「熱伝導率100W/m・K」であるから、熱伝導性を有するといえる。
よって、甲1−2発明の「異方性充填材」は、本件発明1の「異方性熱伝導フィラー」に相当する。また、甲1−2発明の「異方性充填材として窒化ホウ素」を「混合」することは、本件発明1の「前記異方性熱伝導フィラーが窒化ホウ素であ」ることに相当する。さらに、甲1−2発明が「異方性充填材の充填率が26体積%」であることは、本件発明1の「異方性熱伝導フィラー」「を含」むことに相当する。

c 甲1−2発明の「熱伝導性シート」は「積層ブロックを」「異方性充填材の配向方向に垂直にスライスして得た」ものであり、また、「熱伝導性シート」の厚み方向が、スライスされる方向に対し垂直であることは明らかであるから、「異方性充填材の配向方向」は「熱伝導性シート」の厚み方向である。
よって、甲1−2発明の「熱伝導性シート」が「積層ブロックを」「異方性充填材の配向方向に垂直にスライスして得た」ものであることは、本件発明1の「前記異方性熱伝導フィラーが厚み方向に配向した熱伝導性シートであ」ることに相当する。

d 甲1−2発明の「熱伝導性シート」は、上記a〜cにおいて検討したとおり、本件発明1の「バインダと異方性熱伝導フィラーとを含」み、「前記異方性熱伝導フィラーが厚み方向に配向し」、「バインダがシリコーン樹脂であり」、「前記異方性熱伝導フィラーが窒化ホウ素であ」る構成を備える点で、本件発明1の「熱伝導性シート」と一致する。

e 本件発明1が「当該熱伝導性シートのいずれか一方の面のSzが50μm以下であ」るのに対し、甲1−2発明はそのような構成が特定されていない点で、両者は相違する。

f 本件発明1が「絶縁破壊電圧が0.5kV/mm以上である」のに対し、甲1−2発明はそのような特性が特定されていない点で、両者は相違する。

g 甲1−2発明の「酸化アルミニウム粉末」はアルミナであるといえる。よって、甲1−2発明の「非異方性充填材として酸化アルミニウム粉末」「を混合」すること、及び、「非異方性充填材の充填率が41体積%で」あることは、本件発明1の「さらに、アルミナ」「を含有すること」に相当する。
しかし、本件発明1は「さらに」「窒化アルミ、酸化亜鉛、および水酸化アルミを含有する」のに対し、甲1−2発明は、そのような構成を有さない点で相違する。

h そうしてみると、本件発明1と甲1−2発明とは以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「バインダと異方性熱伝導フィラーとを含み、前記異方性熱伝導フィラーが厚み方向に配向した熱伝導性シートであり、
前記バインダがシリコーン樹脂であり、
前記異方性熱伝導フィラーが窒化ホウ素であり、
さらに、アルミナを含有する、
熱伝導性シート。」

(相違点1)
本件発明1が「当該熱伝導性シートのいずれか一方の面のSzが50μm以下であ」るのに対し、甲1−2発明はそのような構成が特定されていない点。

(相違点2)
本件発明1が「絶縁破壊電圧が0.5kV/mm以上である」のに対し、甲1−2発明はそのような特性が特定されていない点。

(相違点3)
本件発明1は「アルミナ」の他に、さらに「窒化アルミ、酸化亜鉛、および水酸化アルミを含有する」のに対し、甲1−2発明はそのような構成を有さない点。

(イ)上記相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点3から検討する。
甲1の段落0037には「非異方性充填材15の具体例は、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。」、「非異方性充填材15において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、アルミナに代表される酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛など、金属窒化物としては窒化アルミニウムなどを例示することができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛などが挙げられる。金属以外の酸化物、窒化物、炭化物としては、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。」と記載され、非異方性充填材の具体例として、アルミナに代表される酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、球状黒鉛、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素が例示されている。また、段落0037には「絶縁性を有する非異方性充填材15としては、上記した中でも、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、金属炭化物が挙げられるが、特に酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムが好ましい。非異方性充填材15は、上記したものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。」とも記載され、絶縁性を有する非異方性充填剤として酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムが好ましい材料であること、非異方性充填材は2種以上を併用してもよいことが示唆されている。
しかし、甲1には、アルミナに代表される酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、球状黒鉛、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素の中から、アルミナ、窒化アルミ、酸化亜鉛、および水酸化アルミを選択して組み合わせて用いることは記載されておらず、また、その動機も認められない。また、甲1には絶縁性を有する材料として酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムが好ましいことは示唆されているものの、これらに酸化亜鉛及び窒化アルミニウムを加えて含有させることは記載されていない。さらに、引用文献1及び2、並びに、申立人が提出した下記甲2〜4にも、非異方性熱伝導性充填材としてアルミナ、窒化アルミ、酸化亜鉛、および水酸化アルミの4種を用いることは記載されていないから、引用文献1及び2並びに下記甲2〜4に記載された事項を甲1−2発明に適用しても、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことではない。
よって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明と、引用文献1及び2並びに下記甲2〜4に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明3及び5について
請求項3及び5は請求項1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明3及び5は、甲1に記載された発明と、引用文献1及び2並びに下記甲2〜4に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明4について
本件訂正により請求項4は削除された。

(3)小括
上記のとおりであるから、本件発明1、3及び5は、甲1に記載された発明と、引用文献1及び2並びに下記甲2〜4に記載された事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件の請求項1、3及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。したがって、取消理由1のうち、請求項1、3及び5に係る特許に対する取消理由は理由があるとはいえない。
また、本件訂正により請求項4は削除された。

第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
1 特許異議の申立ての理由の概要
令和5年3月6日付けの取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった、申立人が主張する特許異議の申立ての理由は以下のとおりである。
(申立理由1)(新規性)請求項1〜5に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(申立理由2)(進歩性)請求項2に係る発明は、甲1に記載された発明と甲3及び甲4に記載された周知技術とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(申立理由3)(新規性)請求項1、3〜5に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、3〜5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(申立理由4)(進歩性)請求項1、3〜5に係る発明は、甲2に記載された発明と甲3及び甲4に記載された周知技術とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲1:国際公開第2020/105601号
甲2:特開2012−201106号公報
甲3:特開2014―234407号公報
甲4:特開2012−23335号公報

2 特許異議の申立ての理由についての当審の判断
(1)申立理由1について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1−2発明とを対比すると、上記「第4 2(2)ア(ア)h」のとおり少なくとも相違点3の点で両者は相違する。
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。

イ 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲1−1発明とを対比する。
a 甲1−1発明は「硬化性シリコーン組成物として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)」を含有する「液状組成物」を「硬化させ」たものであり、また、甲1の段落0015には「シリコーン樹脂11は」「硬化性シリコーン組成物を硬化することで得られるものである。」と記載されているから、甲1−1発明においてアルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)とが硬化されてシリコーン樹脂が得られると認められる。
また、甲1−1発明において「シリコーン樹脂11は、熱伝導性充填材を保持するマトリクス成分となるものである」から、「シリコーン樹脂」はバインダとして機能するものであるといえる。
よって、甲1−1発明において「アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)」を含有する「液状組成物」を硬化させること、及び、「シリコーン樹脂11は、熱伝導性充填材を保持するマトリクス成分となるものである」ことは、本件発明2の「バインダ」「を含み」、「前記バインダがシリコーン樹脂で」あることに相当する。

b 甲1−1発明は「異方性充填材として黒鉛化炭素繊維(平均繊維長100μm、アスペクト比10、熱伝導率500W/m・K)」を「混合」するものであり、「黒鉛化炭素繊維」は「熱伝導率500W/m・K」であるから、熱伝導性を有するといえる。よって、甲1−1発明の「異方性充填材」は、本件発明2の「異方性熱伝導フィラー」に相当する。
また、甲1−1発明の「黒鉛化炭素繊維(平均繊維長100μm、アスペクト比10、熱伝導率500W/m・K)」は、本件発明2の「炭素繊維」に相当する。
さらに、甲1−1発明の「異方性充填材として黒鉛化炭素繊維(平均繊維長100μm、アスペクト比10、熱伝導率500W/m・K)」を「混合」することは、本件発明2の「異方性熱伝導フィラーとを含み」、「前記異方性熱伝導フィラーが炭素繊維」であることに相当する。
しかし、本件発明2が「前記炭素繊維の配合量が4体積%以上6体積%以下で」あるのに対し、甲1−1発明はそのような特定がされていない点で、両者は相違する。

c 甲1−1発明の「熱伝導性シート」は「積層ブロックを」「異方性充填材の配向方向に垂直にスライスして得た」ものであり、「熱伝導性シート」の厚み方向が、スライスされる方向に対し垂直であることは明らかであるから、「異方性充填材の配向方向」は「熱伝導性シート」の厚み方向であるといえる。
よって、甲1−1発明の「熱伝導性シート」が「積層ブロックを」「異方性充填材の配向方向に垂直にスライスして得た」ものであることは、本件発明2の「前記異方性熱伝導フィラーが厚み方向に配向した熱伝導性シートであ」ることに相当する。

d 甲1−1発明の「熱伝導性シート」は、上記a〜cにおいて検討したとおり、本件発明2の「バインダと異方性熱伝導フィラーとを含」み、「前記異方性熱伝導フィラーが厚み方向に配向し」、「バインダがシリコーン樹脂であり」、「前記異方性熱伝導フィラーが炭素繊維で」ある構成を備える点で、本件発明2の「熱伝導性シート」と一致する。

e 本件発明2が「当該熱伝導性シートのいずれか一方の面のSzが50μm以下であ」るのに対し、甲1−1発明はそのような構成が特定されていない点で、両者は相違する。

f 本件発明2が「絶縁破壊電圧が0.5kV/mm以上である」のに対し、甲1−1発明はそのような特性が特定されていない点で、両者は相違する。

g 上記a〜fより、本件発明2と甲1−1発明とは以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「バインダと異方性熱伝導フィラーとを含み、前記異方性熱伝導フィラーが厚み方向に配向した熱伝導性シートであり、
前記バインダがシリコーン樹脂であり、
前記異方性熱伝導フィラーが炭素繊維である、
熱伝導性シート。」

(相違点4)
本件発明2が「前記炭素繊維の配合量が4体積%以上6体積%以下で」あるのに対し、甲1−1発明はそのような特定がされていない点。

(相違点5)
本件発明2が「当該熱伝導性シートのいずれか一方の面のSzが50μm以下であ」るのに対し、甲1−1発明はそのような構成が特定されていない点。

(相違点6)
本件発明2が「絶縁破壊電圧が0.5kV/mm以上である」のに対し、甲1−1発明はそのような特性が特定されていない点。

(イ)上記相違点が実質的なものか否かについて検討する。
事案に鑑み、相違点6から検討する。
甲1の段落0024には「異方性充填材14は、導電性を有していてもよいし、絶縁性を有していてもよい。異方性充填材14が絶縁性を有すると、熱伝導性シート10の厚さ方向zの絶縁性を高めることができるため、電気機器において好適に使用することが可能になる。」と記載されている。よって、甲1には、熱伝導性シート10の厚さ方向zの絶縁性を高めるために、異方性充填材14を絶縁性を有するものとすることが開示されているといえる。そうすると、甲1−1発明は、異方性充填材としての「黒鉛化炭素繊維」が導電性を有するものであるから、熱伝導性シート10の厚さ方向zの絶縁性を高めたものではなく、相違点6に係る本件発明2の構成を備えたものではない。
よって、相違点6は実質的なものである。したがって、相違点4及び5について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

ウ 本件発明3について
請求項3は請求項1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記アにおける本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明3は、甲1に記載された発明ではない。

エ 本件発明4について
本件訂正により請求項4は削除された。

オ 本件発明5について
請求項5は請求項1又は2を引用するものであり、本件発明1又は2の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記ア及びイにおける本件発明1及び2についての判断と同様の理由により、本件発明5は、甲1に記載された発明ではない。

カ 小括
上記ア〜オのとおりであるから、本件発明1〜3、5は、甲1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、本件の請求項1〜3、5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではなく、申立理由1のうち請求項1〜3、5に係る特許に対する申立理由は理由があるとはいえない。
また、申立理由1のうち請求項4に係る特許に対する申立理由は、本件訂正により請求項4が削除されたため、その対象が存在しないものとなった。

(2)申立理由2について
ア 本件発明2について
(ア)甲3、甲4、周知技術
a 甲3には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
有機合成樹脂と、熱伝導性フィラーと、無機短繊維を含有した樹脂組成物を成形した成形体であって、
前記成形体の表面粗さが十点平均粗さRzで6μm未満であることを特徴とする放熱樹脂成形体。」

「【0039】
このようにして形成された樹脂組成物の放熱樹脂成形体は、熱伝導性フィラーによって高い熱伝導性が確保されつつ、無機短繊維が配合されたことで、表面粗さが向上して十点平均粗さRzで6μm未満と平滑な表面性が得られ、優れた表面外観となる。したがって、表面粗さが向上したことによって、放熱対象物に接合させると、その放熱対象物との接触面積が大きく密着性が高くなり、それによって、接触熱抵抗や放熱対象物との間隙で生じる断熱性が低減し、放熱対象物の熱が伝導されやすく、熱の放散によって対象物の温度を下げる放熱性が高まる。」

b 甲4には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
ポリマー、異方性熱伝導性フィラー、及び充填剤を含有する熱伝導性組成物を押出機で押出して、前記異方性熱伝導性フィラーが押出し方向に沿って配向した押出成形物を成形する押出成形工程と、
前記押出成形物を硬化させて硬化物とする硬化工程と、
前記硬化物を、超音波カッターを用いて前記押出し方向に対し垂直方向に所定の厚みに切断する切断工程と、を少なくとも含むことを特徴とする熱伝導性シートの製造方法。
【請求項2】
ポリマー、異方性熱伝導性フィラー、及び充填剤を含有する熱伝導性組成物を押出機で押出して、前記異方性熱伝導性フィラーが押出し方向に沿って配向した押出成形物を成形する押出成形工程と、
前記押出成形物を硬化させて硬化物とする硬化工程と、
前記硬化物を超音波カッターで所定の厚みに切断する際に、前記超音波カッターで切断される前記硬化物の厚み方向に対して前記異方性熱伝導性フィラーが5°〜45°の角度に配向するように前記硬化物を配置して切断する切断工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする熱伝導性シートの製造方法。
【請求項3】
異方性熱伝導性フィラーの平均繊維長が100μm以上である請求項1から2のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項4】
異方性熱伝導性フィラーが、炭素繊維である請求項1から3のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項5】
異方性熱伝導性フィラーの熱伝導性組成物中の含有量が、16体積%〜25体積%である請求項1から4のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項6】
充填剤の平均粒子径が1μm〜40μmである請求項1から5のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項7】
充填剤が、球形状のアルミナ粒子である請求項1から6のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項8】
ポリマーがシリコーン樹脂である請求項1から7のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法により製造されたことを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項10】
熱伝導性シートにおける外周部の微粘着性が、熱伝導性シートにおける内部の微粘着性よりも高い請求項9に記載の熱伝導性シート。
【請求項11】
熱伝導性シートの切断面の表面粗さRaが9.9μm以下である請求項9から10のいずれかに記載の熱伝導性シート。」

「【0035】
前記切断は、超音波カッターを用いて行われる。前記超音波カッターでは、発信周波数と振幅を調節することができ、発信周波数は10kHz〜100kHz、振幅は10μm〜100μmの範囲で調節することが好ましい。前記切断を超音波カッターではなく、カッターナイフ、ミートスライサー(回転刃)で行うと、切断面の表面粗さRaが大きくなり、熱抵抗が大きくなってしまう。」

「【0038】
本発明の熱伝導性シートの製造方法により製造された熱伝導性シートは、切断後の切断面の表面粗さRaは9.9μm以下が好ましく、9.5μm以下がより好ましい。前記表面粗さRaが、9.9μmを超えると、表面粗さが増して熱抵抗が大きくなることがある。
前記表面粗さRaは、例えばレーザー顕微鏡により測定することができる。」

c 上記a及びbより、次の事項は本願出願時に周知の技術事項であるといえる。
「熱伝導シートの表面が平滑であるほど、熱伝導率が高くなること、並びに、熱伝導シートの平滑性を示すパラメータを所定値以下とすること。」

(イ)本件発明2と甲1−1発明とを対比する。
上記(1)イ(ア)gにおいて説示した点で、本件発明2と甲1−1発明は一致し、相違する。

(ウ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点6について検討する。
上記(1)イ(イ)において検討したとおり、甲1には、熱伝導性シート10の厚さ方向zの絶縁性を高めるために、異方性充填材14を絶縁性を有するものとすることが開示されている。そうすると、異方性充填材として導電性を有するものを含む甲1−1発明は熱伝導性シート10の厚さ方向zの絶縁性を高めるものではないから、甲1−1発明に、引用文献1及び2、並びに、甲3及び甲4に記載された上記周知の技術事項を適用しても、相違点6に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得なかったことである。
よって、相違点4及び5について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1−1発明と甲3及び甲4に記載された上記周知の技術事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 小括
上記アのとおり、本件発明2は、甲1−1発明と甲3及び甲4に記載された上記周知の技術事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件の請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、申立理由2は理由があるとはいえない。

(3)申立理由3及び4について
ア 甲号証の記載
(ア)甲2、甲2発明
a 甲2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
六方晶窒化ホウ素粉末(A)の平均粒子径が20〜50μmであり、酸化アルミニウム粉末(B)の平均粒子径が0.5〜5μmであり、(A):(B)の配合割合が体積比で7:3〜9:1の熱伝導性フィラー40〜70体積%含有してなるシリコーン樹脂組成物を積層したシリコーン積層体を、積層方向から切断することを特徴とする熱伝導性成形体。
【請求項2】
六方晶窒化ホウ素粉末(A)の平均粒子径が20〜50μmであり、窒化アルミニウム粉末(B)の平均粒子径が0.5〜5μmであり、(A):(B)の配合割合が体積比で7:3〜9:1の熱伝導性フィラー40〜70体積%含有してなるシリコーン樹脂組成物を積層したシリコーン積層体を、積層方向から切断することを特徴とする熱伝導性成形体。
【請求項3】
シリコーン樹脂が質量平均分子量15000〜30000(C)と質量平均分子量400000〜600000(D)のビニル基をもつオルガノポリシロキサンであり、その体積比が(C):(D)=7:3〜5:5であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導性成形体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の熱伝導性成形体を用いた電子部品用放熱部材。」

「【0002】
トランジスタ、サイリスタ、CPU等の発熱性電子部品においては、使用時に発生する熱を如何に除去することが重要な問題となっている。従来、このような除熱方法としては、発熱性電子部品を電気絶縁性の放熱シートを介して放熱フィンや金属板に取り付け、熱を逃がすことが一般的に行われており、その放熱シートとしてはシリコーンゴムに熱伝導性フィラーを分散させたものが使用されている。」

「【0015】
本発明のシリコーン樹脂としては、シリコーンゴムを用いる。シリコーンゴムは柔軟性、形状追随性、電子部品に接触させる際の発熱面への密着性、更には耐熱性が優れているので最適である。」

「【0022】
平均粒子径20〜50μmである六方晶窒化ホウ素粉末と平均粒子径0.5〜5μmである酸化アルミニウム粉末の配合割合は7:3〜9:1である必要があり、さらに配合割合は7.5:2.5〜8.5:1.5の範囲のものが好ましい。平均粒子径20〜50μmである六方晶窒化ホウ素粉末の割合が7より小さくなると、フィラーの充填性が悪くなる傾向にある。反対に平均粒子径20〜50μmである六方晶窒化ホウ素粉末の割合が9より大きくなると、フィラーが緻密に充填しづらくなり、熱伝導性が減少する傾向にある。」

「【0025】
本発明の熱伝導性成形体の製造方法の一例を示す。付加反応型液状シリコーン及び熱伝導性フィラーを室温下で混合して、シリコーン樹脂組成物のコンパウンドを調整した。このコンパウンドをピストン式又はスクリュー式の押し出し機で押し出して、未硬化の薄板(グリーンシート)に仮成形した後、それを積層し加熱硬化させた後、積層方向から所望の幅に切断する方法があげられる。
・・・(中略)・・・
【0027】
本発明の熱伝導性成形体は、発熱性電子部品又は熱熱性電子部品の搭載された回路基板と冷却装置との間に挟みこんで使用されるものであるが、冷却装置にあらかじめ貼り付け一体化するなどして電子部品用放熱部材として供給することも可能である。冷却装置としては、例えばヒートシンク、放熱フィン、金属又はセラミックスのケース等があげられ、またはそのセラミックスとしては窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム等があげられる。
・・・(中略)・・・
【実施例】
【0029】
実施例1〜30 比較例1〜18
熱伝導性フィラーとして表1に示される六方晶窒化ホウ素粉末5種類、酸化アルミニウム粉末5種類、窒化アルミニウム粉末5種類、付加反応型シリコーンとして、表2にしめされるD液5種類(白金触媒を含有したビニル基を有するオルガノポリシロキサン)、E液5種類(H−Si基を有するオルガノポリシロキサン及びビニル基を有するオルガノポリシロキサン)、F液5種類(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン)を室温下で表3〜7に示す配合(体積%)で、自転・公転ミキサーであるシンキー社製「あわとり練太郎」を用いて、回転速度2000rpmで10分混合して、シリコーン樹脂組成物のコンパウンドを作製した。
【0030】
このコンパウンドをスリット(1mm×60mm)付きダイスの固定されたシリンダー構造金型内に充填し、ピストンで圧力をかけながらスリットから押し出して、シリコーン樹脂組成物の未硬化の薄板(グリーンシート)を作製した。
【0031】
厚さ1mm、幅60mm、長さ120mmのグリーンシート25枚から縦横の長さが50mmの正方形となるようにカッターでグリーンシートを切り出した。そして、正方形のグリーンシート同士の各角を合わせつつ、50mmの高さになるまで50層積層した。その後、乾燥機を用いて150℃で22時間加熱硬化させて、シリコーン積層体を作製した。この1辺の長さが50mmの立方体であるシリコーン積層体をカッターでグリーンシートを重ねた面に対して垂直であり、その辺に対して平行に刃を下ろしながら切断し、本発明のシート状熱伝導性成形体(1mm)を作製した。
【0032】
上記で得られたシート状熱伝導性成形体について、10mm×10mmに裁断し、熱伝導率を測定した。それらの結果を表3〜7に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】



b 上記aより、甲2には以下の技術事項が記載されている。
(a)請求項1には「六方晶窒化ホウ素粉末(A)の平均粒子径が20〜50μmであり、酸化アルミニウム粉末(B)の平均粒子径が0.5〜5μmであり、(A):(B)の配合割合が体積比で7:3〜9:1の熱伝導性フィラー40〜70体積%含有してなるシリコーン樹脂組成物を積層したシリコーン積層体を、積層方向から切断することを特徴とする熱伝導性成形体。」と記載されている。
よって、甲2には、六方晶窒化ホウ素粉末(A)の平均粒子径が20〜50μmであり、酸化アルミニウム粉末(B)の平均粒子径が0.5〜5μmであり、(A):(B)の配合割合が体積比で7:3〜9:1の熱伝導性フィラーを40〜70体積%含有してなるシリコーン樹脂組成物を積層したシリコーン積層体を、積層方向から切断したことを特徴とする、熱伝導性成形体が記載されていると認められる。

(b)段落0002には「放熱シートとしてはシリコーンゴムに熱伝導性フィラーを分散させたものが使用されている。」と記載されており、熱伝導性フィラーは分散されているものと認められる。

(c)段落0031には「シリコーン積層体を」「グリーンシートを重ねた面に対して垂直であり、その辺に対して平行に」「切断し、本発明のシート状熱伝導性成形体(1mm)を作製した。」と記載されている。ここで、「重ねた面に対して垂直であり、その辺に対して平行に切断」することは、積層方向から積層体の辺に対して平行に切断することであるといえる。
よって、甲2には、シリコーン積層体を、積層方向から積層体の辺に対して平行に切断したシート状熱伝導性成形体が記載されている。

(d)上記(a)〜(c)より、甲2には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「六方晶窒化ホウ素粉末(A)の平均粒子径が20〜50μmであり、
酸化アルミニウム粉末(B)の平均粒子径が0.5〜5μmであり、
(A):(B)の配合割合が体積比で7:3〜9:1の熱伝導性フィラーを40〜70体積%含有してなるシリコーン樹脂組成物を積層したシリコーン積層体を、積層方向から積層体の辺に対して平行に切断したことを特徴とする、シート状熱伝導性成形体であって、
熱伝導性フィラーは分散されている、
シート状熱伝導性成形体。」

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
a 甲2発明の「シリコーン樹脂組成物」は「熱伝導性フィラーを」「含有」すると共に、「熱伝導性フィラーは分散されている」から、甲2発明の「シリコーン樹脂組成物」はバインダであるといえる。よって、甲2発明の「熱伝導性フィラーを」「含有」し、「熱伝導性フィラーは分散されている」ことは、本件発明1の「バインダ」「を含み」、「バインダがシリコーン樹脂で」あることに相当する。

b 六方晶窒化ホウ素が鱗片状であり、異方性の形状を有することは本願出願時において技術常識である。
よって、甲2発明の「六方晶窒化ホウ素粉末(A)の平均粒子径が20〜50μmであり」、「(A):(B)の配合割合が体積比で7:3〜9:1の熱伝導性フィラーを」「含有」することは、本件発明1の「異方性熱伝導フィラーが窒化ホウ素で」あることに相当する。

c 甲2発明の「酸化アルミニウム粉末(B)の平均粒子径が0.5〜5μmであり、(A):(B)の配合割合が体積比で7:3〜9:1の熱伝導性フィラーを」「含有」することは、本件発明1の「アルミナ」「を含有する」ことに相当する。

d 本件発明1が「熱伝導性シートのいずれか一方の面のSzが50μm以下で」あるのに対し、甲2発明はそのような構成が特定されない点で、両者は相違する。

e 本件発明1が「絶縁破壊電圧が0.5kV/mm以上で」あるのに対し、甲2発明はそのような特性が特定されない点で、両者は相違する。

f 本件発明1が「窒化アルミ、酸化亜鉛、および水酸化アルミを含有する」のに対し、甲2発明はそのような構成を有さない点で、両者は相違する。

g 上記a〜cを踏まえると、甲2発明の「シート状熱伝導性成形体」は、バインダを含み、バインダがシリコーン樹脂であり、異方性熱伝導フィラーが窒化ホウ素であり、アルミナを含有する点で、本件発明1の「熱伝導性シート」と一致する。

h 上記a〜gより、本件発明1と甲2発明とは以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「バインダと異方性熱伝導フィラーとを含み、前記異方性熱伝導フィラーが厚み方向に配向した熱伝導性シートであり、
前記バインダがシリコーン樹脂であり、
前記異方性熱伝導フィラーが窒化ホウ素であって、
さらに、アルミナを含有する、熱伝導性シート。」

(相違点7)
本件発明1が「当該熱伝導性シートのいずれか一方の面のSzが50μm以下で」あるのに対し、甲2発明はそのような構成が特定されない点。

(相違点8)
本件発明1が「絶縁破壊電圧が0.5kV/mm以上で」あるのに対し、甲2発明はそのような特性が特定されない点。

(相違点9)
本件発明1が「窒化アルミ、酸化亜鉛、および水酸化アルミを含有する」のに対し、甲2発明はそのような構成を有さない点。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点9から検討する。
熱伝導性シートが含有するフィラーの材料が異なることは、明らかな構成上の相違であり、相違点9は実質的なものである。
甲2の段落0022には「平均粒子径20〜50μmである六方晶窒化ホウ素粉末と平均粒子径0.5〜5μmである酸化アルミニウム粉末の配合割合は7:3〜9:1である必要があり」、「平均粒子径20〜50μmである六方晶窒化ホウ素粉末の割合が7より小さくなると、フィラーの充填性が悪くなる傾向にある。反対に平均粒子径20〜50μmである六方晶窒化ホウ素粉末の割合が9より大きくなると、フィラーが緻密に充填しづらくなり、熱伝導性が減少する傾向にある。」と記載されており、甲2発明において六方晶窒化ホウ素粉末と酸化アルミニウム粉末の配合割合は、フィラーの充填性及び緻密性の観点から所定の範囲に特定されるものと認められる。
そうすると、甲2発明において酸化アルミニウム粉末に加えて、フィラーとして窒化アルミ、酸化亜鉛、および水酸化アルミを配合させることにより、フィラーの充填性及び緻密性が最適化された状態から変化することは明らかであるから、甲2発明を相違点9に係る本件発明1の構成とすることには阻害要因がある。さらに、甲3及び4のいずれにも、熱伝導性シートにアルミナ、窒化アルミ、酸化亜鉛、および水酸化アルミを含有させることは記載されていない。
よって、相違点7及び8について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明ではなく、甲2発明と甲3及び4に記載された上記周知の技術事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明3及び5について
請求項3及び5は請求項1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記アにおける本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明3及び5は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2発明と甲3及び4に記載された上記周知の技術事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明4について
本件訂正により請求項4は削除された。

エ 小括
上記のとおり、本件発明1、3及び5は、甲2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、甲2発明と甲3及び4に記載された上記周知の技術事項とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、本件の請求項1、3及び5に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、申立理由3及び4のうち請求項1、3及び5に係る特許に対する申立理由は、理由があるとはいえない。
また、本件訂正により請求項4は削除されたため、申立理由3及び4のうち請求項4に係る特許に対する申立理由は、その対象が存在しないものとなった。

第6 むすび
以上のとおり、本件の請求項1〜3及び5に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。また、他に本件の請求項1〜3及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により本件の請求項4に係る特許は削除され、請求項4に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダと異方性熱伝導フィラーとを含み、前記異方性熱伝導フィラーが厚み方向に配向した熱伝導性シートであり、
前記バインダがシリコーン樹脂であり、
前記異方性熱伝導フィラーが窒化ホウ素であって、
当該熱伝導性シートのいずれか一方の面のSzが50μm以下であり、絶縁破壊電圧が0.5kV/mm以上であり、
さらに、アルミナ、窒化アルミ、酸化亜鉛、および水酸化アルミを含有する、熱伝導性シート。
【請求項2】
バインダと異方性熱伝導フィラーとを含み、前記異方性熱伝導フィラーが厚み方向に配向した熱伝導性シートであり、
前記バインダがシリコーン樹脂であり、
前記異方性熱伝導フィラーが炭素繊維または表面を絶縁物で被覆した炭素繊維であって、
前記炭素繊維の配合量が4体積%以上6体積%以下であり、
当該熱伝導性シートのいずれか一方の面のSzが50μm以下であり、絶縁破壊電圧が0.5kV/mm以上である、熱伝導性シート。
【請求項3】
前記窒化ホウ素が鱗片状窒化ホウ素である、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
請求項1〜3記載の熱伝導性シートを、発熱体と放熱部材の間に挟んだ、電子機器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-08-28 
出願番号 P2021-023935
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 棚田 一也
松永 稔
登録日 2021-11-25 
登録番号 6983345
権利者 デクセリアルズ株式会社
発明の名称 熱伝導性シート、および電子機器  
代理人 弁理士法人虎ノ門知的財産事務所  
代理人 弁理士法人虎ノ門知的財産事務所  

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