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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1403669
総通号数 23 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-12-12 
確定日 2023-07-21 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7083248号発明「リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7083248号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7、〔1−6、8、9〕について訂正することを認める。 特許第7083248号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許7083248号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る発明についての出願は、2016年11月4日(優先権主張 平成27年11月5日)を国際出願日とする出願であって、令和4年6月2日にその特許権が設定登録され、令和4年6月10日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立での経緯は、次のとおりである。
令和4年12月12日 :特許異議申立人竹下瑞恵による請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年2月22日付け:取消理由通知書
令和5年4月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年6月13日 :特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年4月26日の訂正請求の趣旨は、特許第7083248号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項7に「以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含むリチウム二次電池用正極活物質の製造方法」とあるのを「以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含み、X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下である、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法」に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0268】〜【0274】を削除する。

(3)訂正事項3
明細書の段落【0296】に
「【表1】

」とあるのを、

「【表1】


に訂正する。

(4)明細書の段落【0298】に「評価の結果、実施例1〜13のリチウム二次電池用正極活物質では、いずれも、比較例1〜5のリチウム二次電池用正極活物質よりも吸着水が低減されていた。」とあるのを、「評価の結果、実施例1〜10、12、及び13のリチウム二次電池用正極活物質では、いずれも、比較例1〜5のリチウム二次電池用正極活物質よりも吸着水が低減されていた。」に訂正する。

(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2ないし6、8、9は、請求項1を引用しているものであるから、請求項1ないし6、8、9は一群の請求項を構成する。
本件訂正請求は、一群の請求項〔1−6、8、9〕及び請求項7に対して請求されたものである。

2 訂正の適否についての判断
訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項7に記載された「以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含むリチウム二次電池用正極活物質の製造方法」を、「以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含み、X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下である、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
願書に添付した明細書の段落【0022】には「本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、・・・前記正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と前記正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下であるリチウム二次電池用正極活物質である。」と記載されているので、訂正事項は、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2ないし4
ア 訂正の目的
訂正前の明細書に記載された実施例10及び実施例11は、同じ組成及び同じ製造条件で正極活物質を製造するものであることから、発明の詳細な説明の記載が不明確になっていたものを、実施例11に関連する記載を削除することにより、発明の詳細な説明の記載を明確にするものである。
したがって、訂正事項2ないし4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2ないし4は、明細書から実施例11に関連する記載を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項および第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−6、8、9〕、7について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし9に係る発明(以下「本件発明1ないし9」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な、少なくともNiを含むリチウム二次電池用正極活物質であって、
X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下であり、
以下組成式(I)で表されるリチウム二次電池用正極活物質。
Li[Lix(NiaCobMncMd)1−x]O2 ・・・(I)(ここで、0≦x≦0.2、0<a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1、MはFe、Cr、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)
【請求項2】
一次粒子が凝集してなる二次粒子を含む請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)が、0.01以上2.5以下である請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズα(Å)が400以上1200以下であり、α−NaFeO2型の結晶構造を有する請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
50%累積体積粒度D50(μm)が1以上20以下であり、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズα(Å)と50%累積体積粒度D50(μm)との比α/D50(Å/μm)が10以上400以下である請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
BET比表面積(m2/g)が0.1以上4以下である請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含み、X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下である、チウム二次電池用正極活物質の製造方法。
(1)反応槽内に、酸素含有雰囲気中または酸化剤存在下において、少なくともNiを含む金属塩水溶液、錯化剤、及びアルカリ水溶液を連続供給し、連続結晶成長させ、連続的に共沈物スラリーを得る工程。ただし、前記酸素含有雰囲気は反応槽内の気相中の酸素濃度(体積%)が2.0以上6.0以下である。
(2)前記共沈物スラリーをアルカリが含まれる洗浄液で洗浄して、脱水し、硫黄原子を含む金属複合化合物を単離する工程。
(3)前記金属複合化合物とリチウム化合物とを混合して得られる混合物を650℃以上1000℃以下の温度で焼成してリチウム複合金属酸化物を得る工程。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を有するリチウム二次電池用正極。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし9に係る特許に対して、当審が令和5年2月22日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

1.(実施可能要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2.(サポート要件)本件特許は,明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


●理由1(実施可能要件)について
・請求項1ないし9
実施例10の「リチウム二次電池用正極活物質15」と実施例11の「リチウム二次電池用正極活物質16」は、ともに共通する「ニッケルコバルトマンガンアルミニウムタングステン複合水酸化物15」に、同じ量の水酸化リチウム粉末を混合した後に同じ条件で焼成したものであるが、「リチウム二次電池用正極活物質15」(実施例10)と「リチウム二次電池用正極活物質16」(実施例11)は、「正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)」、「P/Q(原子%/質量%)」及び「吸着水分量」などの値が異なっている。
そうすると、同じ組成及び同じ製造条件で正極活物質を製造しても、正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)などの特性は異なるものとなり、どのようにして請求項1ないし6に係る発明の「リチウム二次電池用正極活物質」、請求項8に係る発明の「リチウム二次電池用正極」及び請求項9に係る発明の「リチウム二次電池」を作成することができるか不明である。
また、同じ組成及び同じ製造条件で正極活物質を製造しても、正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)などの特性は異なるものとなるので、請求項7に係る発明の製造方法で作成したリチウム二次電池用正極活物質が、どのような特性を示すものか不明である。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

●理由2(サポート要件)について
・請求項7
発明の詳細な説明には、リチウム二次電池用正極活物の保存安定性を良好なものとするためには、正極活物質の水分吸着を抑制すること(【0023】)、及び、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度を特定の範囲にし、かつ、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度を特定の範囲にすることで、リチウム二次電池用正極活物質の吸水量の低減が達成できることが記載されている(【0054】)。
しかしながら、請求項7には、正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)を0.8より大きく5.0未満として、Q(質量%)を0.01以上2.0以下とすることは特定されていない。
そうすると、請求項7に記載の製造方法で作成されたものは上記の課題を解決できず、請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された課題を解決する手段が反映されていない。
よって、請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

2 当審の判断
(1)理由1(実施可能要件)について
令和5年4月26日の訂正請求により、実施例11に関連する記載を削除することにより、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとなった。

(2)理由2(サポート要件)について
令和5年4月26日の訂正請求により、請求項7を「以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含み、X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下である、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法」に訂正することにより、請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとなった。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 訂正前の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかった申立理由の概要は、以下のとおりである。
(1)申立理由1
請求項1ないし9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術、及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)申立理由2
請求項1ないし6、8、9に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないめ、請求項1ないし6、8、9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3)申立理由3
請求項1ないし6、8、9に係る発明は明確でないため、請求項1ないし6、8、9係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

証拠方法
甲第1号証:特開2015−26455号公報
甲第2号証:特開2004−273451号公報
甲第3号証:特開2015−72801号公報

2 各号証の記載
(1)甲第1号証
ア 甲第1号には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付したものである。以下同様。)
「【0018】
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、一般式(1):Li1+uNixMnyCozMtO2(0≦u≦0.20、x+y+z+t=1、0.30≦x≦0.70、0.10≦y≦0.55、0≦z≦0.40、0≦t≦0.10、Mは、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、さらに、Na、Mg、CaおよびSO4を含有する、層状構造を有する六方晶系リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子からなり、前記Na、MgおよびCaの含有量が合計で0.01質量%〜0.1質量%であり、前記SO4の含有量が0.1質量%〜1.0質量%であり、CuKα線を用いた粉末X線回折測定により得られる(104)面の回折ピークの積分強度に対する、(003)面の回折ピークの積分強度の比が、1.20以上であることを特徴とする。」

「【0047】
(SO4について)
正極活物質中に、所定量のSO4を含有させることにより、焼成工程におけるリチウムニッケルマンガン複合酸化物(以下、「リチウム複合酸化物」という)のa軸方向の結晶成長を抑制することができるため、後述する結晶面の回折ピークの積分強度比Ii(003)/Ii(104)の制御が容易となる。」

「【0050】
本発明の正極活物質のような六方晶系層状酸化物では、充放電に伴うLiの挿入および脱離は、a面で起こることが知られている。このため、得られるリチウムイオン二次電池の入出力特性を改善するためには、リチウムイオンの拡散距離を短くするか、または、結晶の反応面であるa面の面積を大きくすることが有利となる。これらのうち、低SOC状態におけるDCIRの改善をするためには、a面の面積を大きくすることが特に効果的である。」

「【0153】
(実施例1)
[晶析工程]
最初に、反応槽(5L)内に水を入れて撹拌しながら、槽内温度を45℃に調整した後、25質量%アンモニア溶液と24質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、槽内のアンモニア濃度が10g/L、液温25℃基準におけるpH値が11.6になるように調整した。
・・・
【0160】
[正極活物質の評価]
この正極活物質について、X線回折装置(パナリティカル社製、X’Pert PRO)を用いて、CuKα線による粉末X線回折で分析したところ、結晶構造が、六方晶の層状結晶を有するリチウム複合酸化物単相からなることが確認された。また、(104)面の回折ピークの積分強度Ii(104)に対する、(003)面の回折ピークの積分強度Ii(003)の比、すなわち、積分強度比Ii(003)/Ii(104)は1.24であった。さらに、X線回折パターンの回折ピークの広がりを除き、各回折ピークからシェラーの式を用いて、(003)面の結晶子径を算出したところ、102mmであった。なお、(104)面の回折ピークの強度I(104)に対する、(003)面の回折ピークの強度I(003)の比、すなわち、ピーク強度比I(003)/I(104)は2.21であった。
【0161】
次に、ICP発光分光分析装置を用いた分析により、この正極活物質は、Liを7.51質量%、Niを19.1質量%、Coを19.1質量%、Mnを17.9質量%、Wを0.91質量%含有し、一般式:Li1.10Ni0.332Co0.331Mn0.332W0.005O2で表されるリチウム複合酸化物からなるものであることが確認された。また、この正極活物質には、SO4が0.57質量%、Naが0.036質量%、Mgが0.021質量%およびCaが0.012質量%(Na、MgおよびCaの合計で0.069質量%)含有されていることが確認された。」

ここで、実施例1の正極活物質に着目すると、甲第1号証には、次の事項が記載されている。
・【0018】によれば、甲第1号証に記載の正極活物質は、非水電解質二次電池用正極活物質である。
そうすると、【0153】、【0160】及び【0161】より、実施例1の正極活物質は、
一般式:Li1.10Ni0.332Co0.331Mn0.332W0.005O2で表される六方晶の層状結晶を有するリチウム複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、
ICP発光分光分析装置を用いた分析により、Liを7.51質量%、Niを19.1質量%、Coを19.1質量%、Mnを17.9質量%、Wを0.91質量%含有するものである。
・【0050】及び【0160】によれば、リチウム複合酸化物は、Liの挿入および脱離を行う。
・【0018】によれば、非水電解質二次電池用正極活物質は、一般式(1):Li1+uNixMnyCozMtO2で表され、さらに、Na、Mg、CaおよびSO4を含有するのであるから、実施例1の正極活物質は、さらに、SO4が0.57質量%、Naが0.036質量%、Mgが0.021質量%およびCaが0.012質量%含有されている(【0161】)。

イ 引用発明
したがって、甲第1号証には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「一般式:Li1.10Ni0.332Co0.331Mn0.332W0.005O2で表される六方晶の層状結晶を有するリチウム複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、
リチウム複合酸化物は、Liの挿入および脱離を行い、
ICP発光分光分析装置を用いた分析により、Liを7.51質量%、Niを19.1質量%、Coを19.1質量%、Mnを17.9質量%、Wを0.91質量%含有し、
さらに、SO4が0.57質量%、Naが0.036質量%、Mgが0.021質量%およびCaが0.012質量%含有されている、
非水電解質二次電池用正極活物質。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
一般式Lix(Ni1-yCoy)1-zMzO2(0.98≦x≦1.10、0.05≦y≦0.4、0.01≦z≦0.2、但し、MはAl、Mg、Mn、Ti、Fe、Cu、ZnおよびGaからなる群から選ばれた1種以上の金属元素)で表されるリチウム金属複合酸化物であって、SO4イオンを0.4質量%以上、2.5質量%以下含有し、X線回折チャートからリートベルト解析を用いて求められるリチウム席占有率が、98%以上であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。」

「【0051】
SO4イオンは、硫酸リチウムとして存在していると考えられるが、前記反応過程を効率良く行うためには、硫酸リチウムは、そのほとんどがリチウム金属複合酸化物粒子表面に存在することが好ましい。硫酸リチウムのリチウム金属複合酸化物粒子表面に存在する量は、含有される硫酸リチウム全量の60%以上が好ましい。さらには、80%以上であることがより好ましく、90%以上であればさらに好ましい。」

「【0059】
(実施例1)
反応槽中に、硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合溶液(ニッケル濃度1.45モル/リットル、コバルト濃度0.27モル/リットル)、150g/リットル苛性ソーダ溶液、および25%アンモニア水溶液を、撹拌しつつ同時に滴下し、複合水酸化ニッケルを作成した。この複合水酸化ニッケルを吸引濾過後、水酸化物質量1kgに対して0.5kgの苛性ソーダを加え、5時間、撹拌し、アルカリ洗浄を行い、その後、吸引濾過して、掛水洗浄により、濾過水pHが9.0以下になるまで、洗浄して、サンプルAを得た。また、苛性ソーダを0.2kgにして、サンプルBを得、苛性ソーダを0.1kgにして、サンプルCを得た。
【0060】
さらに、サンプルA、B、Cのそれぞれに、水酸化ニッケル質量の4質量%のアルミン酸ソーダと純水を加えて、0.5kg/リットルのスラリーにした後、希硫酸にてpH=9.5まで中和して、水酸化アルミニウムを水酸化ニッケル表面に被覆せしめた。その後、100℃で48時間乾燥させ、リチウム金属複合酸化物原料となる複合水酸化ニッケルを作成した。
【0061】
作成した複合水酸化ニッケルの化学組成は、表1に示すようなものであった。」

「【0063】
それぞれの複合水酸化ニッケル170gに、市販の水酸化リチウム一水塩の粉末80gを混合し、酸素気流中にて250℃で4時間、450℃で9時間、および730℃で22時間焼成したのち、室温まで冷却した。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
一般式Li1+zNi1−x−yCoxNbyO2(但し、0.05≦x≦0.35、0.02≦y≦0.08、−0.05≦z≦0.10)で表されるリチウム金属複合酸化物粒子からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
酸素濃度5容量%以下の雰囲気中において、ニッケル塩及びコバルト塩を含む混合水溶液と、ニオブ塩溶液と、を含む反応液に、前記反応液の温度を40〜60℃に維持しながら、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を加え、アルカリ溶液により反応液のpHを液温25℃基準で11.1〜13.0に制御して、ニッケルコバルトニオブ複合水酸化物粒子を共沈殿させる晶析工程と、
ニッケルコバルトニオブ複合水酸化物粒子とリチウム化合物を混合してリチウム混合物を得る混合工程と、
リチウム混合物を650〜850℃の温度で焼成してリチウム金属複合酸化物の焼成粒子を得る焼成工程と、
前記焼成粒子を水洗し、乾燥することにより非水系電解質二次電池用正極活物質を得る水洗工程と、
を含むことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。」

「【0033】
さらに、酸素濃度5容量%以下、好ましくは4容量%以下の雰囲気中において晶析する。これにより、得られる複合水酸化物粒子は、一次粒子が緻密に凝集した二次粒子からなるものとなる。このような複合水酸化物粒子をリチウム化合物と混合して焼成することにより、粒子中の空隙率が低く高密度で充填性の高いリチウム金属複合酸化物粒子となる。」

3 当審の判断
(1)申立理由1(特許法第29条第2項)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明を対比すると、次のことがいえる。
a 引用発明の「リチウム複合酸化物は、Liの挿入および脱離を行」うのであるから、「Niを19.1質量%」含有する「リチウム複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質」は、本件発明1の「リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な、少なくともNiを含むリチウム二次電池用正極活物質」に相当する。
b 引用発明は、「ICP発光分光分析装置を用いた分析により、」「SO4が0.57質量%」「含有されている」から、本件発明1とは、「誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を用いた分析により、硫酸根の濃度Q(質量%)が0.01以上2.0以下であ」る点で共通する。
但し、硫酸根の濃度Q(質量%)が、本件発明1は「前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)」であるのに対して、引用発明は「ICP発光分光分析装置を用いた分析により」求めた濃度であるが、そのような特定がない点で相違する。
また、本件発明1は「X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であ」るのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
c 引用発明は、「一般式:Li1.10Ni0.332Co0.331Mn0.332W0.005O2で表される六方晶の層状結晶を有するリチウム複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、」「さらに、」「Mgが0.021質量%」「含有されている」から、本件発明1とは、「以下組成式(I)で表されるリチウム二次電池用正極活物質。 Li[Lix(NiaCobMncMd)1−x]O2 ・・・(I)(ここで、0≦x≦0.2、0<a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1、MはFe、Cr、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)」である点で共通するといえる。
しかしながら、本件発明1は「以下組成式(I)で表されるリチウム二次電池用正極活物質。 Li[Lix(NiaCobMncMd)1−x]O2 ・・・(I)(ここで、0≦x≦0.2、0<a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1、MはFe、Cr、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)」であるのに対して、引用発明は「一般式:Li1.10Ni0.332Co0.331Mn0.332W0.005O2で表される六方晶の層状結晶を有するリチウム複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、」「さらに、」「Naが0.036質量%」「およびCaが0.012質量%含有されている」点で相違する。

上記aないしcによれば、本件発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な、少なくともNiを含むリチウム二次電池用正極活物質であって、
誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行いた分析により、硫酸根の濃度Q(質量%)が0.01以上2.0以下である、
リチウム二次電池用正極活物質。」

(相違点1)
硫酸根の濃度Q(質量%)が、本件発明1は「前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)」であるのに対して、引用発明は「ICP発光分光分析装置を用いた分析により」求めた濃度であるが、そのような特定がない点。
(相違点2)
本件発明1は「X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であ」るのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点3)
本件発明1は「以下組成式(I)で表されるリチウム二次電池用正極活物質。 Li[Lix(NiaCobMncMd)1−x]O2 ・・・(I)(ここで、0≦x≦0.2、0<a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1、MはFe、Cr、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)」であるのに対して、引用発明は「一般式:Li1.10Ni0.332Co0.331Mn0.332W0.005O2で表される六方晶の層状結晶を有するリチウム複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、」「さらに、」「Naが0.036質量%」「およびCaが0.012質量%含有されている」点。

(イ)判断
事案に鑑み、先ず、上記相違点2について検討する。
引用発明の「非水電解質二次電池用正極活物質」はSO4を0.57質量%含有するが、その理由は、焼成工程におけるリチウムニッケルマンガン複合酸化物のa軸方向の結晶成長を抑制するためである(【0047】)。
そうすると、引用発明においては、結晶成長の抑制に関係する非水電解質二次電池用正極活物質全体に存在するSO4が重要であり、非水電解質二次電池用正極活物質の表面に存在するSO4の濃度に着目する必要性はなく、表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)を0.8より大きく5.0未満にする理由はない。

また、特許異議申立人は上記相違点2(発明特定事項B)は、甲第1号証に記載の発明と甲第2号証に記載の発明との組み合わせ、又は、甲第1号証に記載の発明と甲第3号証に記載の発明との組み合わせから、当業者が容易に想到することができた旨を主張するので検討する。(特許異議申立書21頁16行−23頁17行)。
a 甲第2号証について
甲第2号証には、SO4イオンを0.4質量%以上、2.5質量%以下含有するリチウム金属複合酸化物であって、SO4イオンは硫酸リチウムとして存在しており、硫酸リチウムのリチウム金属複合酸化物粒子表面に存在する量は、含有される硫酸リチウム全量の60%以上が好ましいことが記載されている。(【請求項1】、【0051】)
ここで、上記記載事項によると、甲第2号証のリチウム金属複合酸化物は、SO4イオンを0.4質量%以上、2.5質量%以下含有し、粒子表面に硫酸リチウム全量の60%以上が存在するものであるが、X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、リチウム金属複合酸化物粒子の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、リチウム金属複合酸化物粒子の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められるリチウム金属複合酸化物粒子全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であることは記載されていない。
また、リチウム金属複合酸化物がSO4イオンを0.4質量%以上、2.5質量%以下含有し、粒子表面に硫酸リチウム全量の60%以上が存在することに基づいて、リチウム金属複合酸化物粒子表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)を推定することは困難である。さらに、甲第2号証の実施例は、本件特許の実施例と異なりMnを含有せず(【0059】−【0063】)、その製造方法も反応槽内に酸素含有ガスを導入することが無いなど(【0059】)、本件特許の実施例と組成及び製造方法が異なることから、表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であることの蓋然性は低い。
以上のことより、甲第2号証にはリチウム金属複合酸化物の比P/Q(原子%/質量%)が0.8より大きく5.0未満であることは記載されておらず、さらに、甲第2号証に記載のリチウム金属複合酸化物の比P/Q(原子%/質量%)が0.8より大きく5.0未満である蓋然性は低いといえる。
したがって、上記相違点2に係る構成は、引用発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
b 甲第3号証について
甲第3号証には、酸素濃度5容量%以下の雰囲気中において、ニッケル塩及びコバルト塩を含む混合水溶液と、ニオブ塩溶液と、を含む反応液に、反応液の温度を40〜60℃に維持しながら、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を加え、アルカリ溶液により反応液のpHを液温25℃基準で11.1〜13.0に制御して、ニッケルコバルトニオブ複合水酸化物粒子を共沈殿させる晶析工程が記載されている(【請求項1】)。
そして、酸素濃度5容量%以下の雰囲気中において晶析することにより、得られる複合水酸化物粒子は、一次粒子が緻密に凝集した二次粒子からなるものとなり、このような複合水酸化物粒子をリチウム化合物と混合して焼成することにより、粒子中の空隙率が低く高密度で充填性の高いリチウム金属複合酸化物粒子となることが記載されている(【0033】)。
そうすると、たとえ、引用発明に甲第3号証に記載の技術を適用しても、上記相違点2に係る構成を得ることはできない。
したがって、上記相違点2に係る構成は、引用発明及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術、及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2ないし6、8、9について
本件発明2ないし6、8、9は、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術、及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明7について
本件発明7は、上記相違点2に係る構成を備えるものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術、及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)申立理由2(特許法第36条第4項第1号)、及び、申立理由3(許法第36条第6項第2号)について
ア 特許異議申立人の主張は、概略、次のとおりである。
(ア)特許法第36条第4項第1号について
本件発明1は「X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)」を測定することを要求している。
しかしながら、XPSにより硫黄原子由来のピークの強度が得られることは当業者に理解できるものの、硫黄原子の濃度P(原子%)を求める対象が不明である。すなわち、硫黄原子の濃度P(原子%)が、正極活物質の二次粒子の表面に存在する元素の総モル数に対する濃度であるか、正極活物質全体に含まれる全ての元素の総モル数に対する濃度であるかが不明である。
また、総モル数を求める手法も不明である。(特許異議申立書28頁7行−29頁3行)
(イ)特許法第36条第6項第2号について
本件発明1は「X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)」を規定するが、硫黄原子の濃度P(原子%)を求める対象が不明であり、かつ、その対象である総モル数を求める手法も不明である。(特許異議申立書30頁1−13行)

イ 当審の判断
X線光電子分光法(XPS)で測定できる範囲は、表面から5nm程度までの範囲であることは周知(例えば、特開2012−74467号公報(【0048】)等参照)である。
そうすると、本件発明1に記載された「X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)」において、硫黄原子の濃度P(原子%)を求める対象は、正極活物質の表面から5nm程度までの範囲であることは明らかである。
また、求めるのは硫黄原子の濃度P(原子%)であり、総モル数は求められていない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することができない。

(3)まとめ
したがって、特許異議申立人の申立理由1ないし3にかかる主張は、採用することができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関する。
本願は、2015年11月5日に、日本に出願された特願2015−217824号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
リチウム含有複合金属酸化物は、リチウム二次電池用正極活物質として用いられている。リチウム二次電池は、既に携帯電話用途やノートパソコン用途などの小型電源だけでなく、自動車用途や電力貯蔵用途などの中・大型電源においても、実用化が進んでいる。
【0003】
リチウム二次電池の性能を向上させるために、リチウム二次電池用正極活物質に含まれる不純物元素の量を低減することが求められている。不純物元素の中でも、特に、リチウム二次電池用正極活物質に含まれる硫酸根の量を調節する試みがある。
【0004】
従来のリチウム二次電池用正極活物質として、特許文献1にはLi源及びM源(MはCo又はNi)を含む正極活物質材料に硫酸リチウムを加えて焼成することにより、0.01重量%以上、5重量%以下の硫酸根を含有するリチウム含有複合酸化物が開示されている。特許文献2には含有硫黄濃度が0.06質量%以上、0.35質量%以下であるリチウム二次電池正極材料用リチウムニッケルマンガン系複合酸化物粉体が開示されている。また、従来のリチウム二次電池用正極として特許文献3には、正極の表面に、−SOn−(1≦n≦4)で表される結合を有する化合物が存在し、−SOn−(1≦n≦4)で表される結合として存在する硫黄の含有量が、X線光電子分光法で分析した場合に、0.2原子%以上1.5原子%以下である非水電解質二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特許第4235702号公報
【特許文献2】日本国特許第4997700号公報
【特許文献3】日本国特許第5221892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来のリチウム含有複合金属酸化物を正極活物質として用いて得られるリチウム二次電池は放電容量維持率が向上することや、リチウム含有複合金属酸化物の塩基性(pH)を下げつつ、ハイレート放電容量や低温抵抗値が向上することを開示している。
しかしながら、リチウム二次電池用正極活物質の保存安定性については改良の余地があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、保存安定性が良好なリチウム二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。また、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質を用いた正極、リチウム二次電池を提供することを併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な、少なくともNiを含むリチウム二次電池用正極活物質であって、前記正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と前記正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下であるリチウム二次電池用正極活物質を提供する。
【0009】
本発明の一態様においては、一次粒子が凝集してなる二次粒子を含むことが好ましい。
【0010】
本発明の一態様においては、以下組成式(I)で表されることが好ましい。
Li[Lix(NiaCobMncMd)1−x]O2 ・・・(I)
(ここで、0≦x≦0.2、0<a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1、MはFe、Cr、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)
【0011】
本発明の一態様においては、前記正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)が0.01以上2.5以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の一態様においては、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズα(Å)が400以上1200以下であり、α−NaFeO2型の結晶構造を有することが好ましい。
【0013】
本発明の一態様においては、50%累積体積粒度D50(μm)が1以上20以下であり、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズα(Å)と50%累積体積粒度D50(μm)との比α/D50(Å/μm)が10以上400以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の一態様においては、BET比表面積(m2/g)が0.1以上4以下であることが好ましい。
【0015】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含む製造方法である。
(1)反応槽内に、酸素含有雰囲気中または酸化剤存在下において、少なくともNiを含む金属塩水溶液、錯化剤、及びアルカリ水溶液を連続供給し、連続結晶成長させ、連続的に共沈物スラリーを得る工程。
(2)前記共沈物スラリーから、金属複合化合物を単離する工程。
(3)前記金属複合化合物とリチウム化合物とを混合して得られる混合物を650℃以上1000℃以下の温度で焼成してリチウム複合金属酸化物を得る工程。
【0016】
本発明の一態様においては、前記(1)の工程において前記酸素含有雰囲気は反応槽内の気相中の酸素濃度(体積%)が2.0以上6.0以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様においては、前記(2)の工程において前記金属複合化合物は、共沈物スラリーをアルカリが含まれる洗浄液又は水の少なくともいずれか一方で洗浄し、脱水して単離した金属複合化合物であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の一態様は、上述のリチウム二次電池用正極活物質を有する二次電池用正極を提供する。
【0019】
また、本発明の一態様は上述の正極を有するリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、保存安定性が良好なリチウム二次電池用正極活物質を提供することができる。また、このようなリチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質を用いた正極及びリチウム二次電池を提供することができる。本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、車載用用途に好適なリチウム二次電池に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】リチウムイオン二次電池の一例を示す概略構成図である。
【図1B】リチウムイオン二次電池の一例を示す概略構成図である。
【図2A】本発明において、結晶子サイズを説明するための模式図である。
【図2B】本発明において、結晶子サイズを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[リチウム二次電池用正極活物質]
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な、少なくともNiを含むリチウム二次電池用正極活物質であって、前記正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と前記正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下であるリチウム二次電池用正極活物質である。
【0023】
リチウム二次電池用正極活物の保存安定性を良好なものとするためには、正極活物質の水分吸着を抑制することが好ましい。
具体的には、水分が多く吸着したリチウム二次電池用正極活物質は正極合材のペースト粘度安定性の低下を引き起こすおそれがある。また、リチウム二次電池用正極活物質に吸着した水分は電池内部において電解液の分解・ガス発生等の副反応を生じさせるおそれがある。このため、二次電池用正極活物質の水分吸着の低減が求められている。
従来、正極活物質の保存安定性を良好なものとするため、リチウム二次電池用正極活物質全体に含まれる硫酸根や硫黄の量の制御する方法がある(上記特許文献1〜3)。
しかし、これらの方法では正極活物質の水分吸着を十分に抑制することが達成できない。
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、上記の構成としたことにより、正極活物質への水分吸着を抑制し、保存安定性が良好なリチウム二次電池用正極活物質を提供することができる。
以下、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質について順に説明する。
【0024】
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質において、容量が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、Niを含むことが好ましい。
【0025】
(正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)について)
上記正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)は、正極活物質をX線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる。
【0026】
(正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)について)
上記正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)は、上記正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる。
【0027】
正極活物質への水分吸着を抑制する観点から、上記の値の比P/Q(原子%/質量%)は、1.0以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましい。また、P/Q(原子%/質量%)は4.8以下であることが好ましく、4.7以下であることがより好ましい。
上記P/Q(原子%/質量%)の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0028】
高い電流レートにおける放電容量が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)は0.02以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましい。また高温保存時の容量維持率が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)は1.8以下であることが好ましく、1.6以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。
Q(質量%)の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0029】
正極活物質への水分吸着を抑制する観点から、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、一次粒子が凝集してなる二次粒子を含むことが好ましい。一次粒子が凝集してなる二次粒子からなるリチウム二次電池用正極活物質であることが好ましいが、本願の効果を損なわない程度で一次粒子を含んでいても良い。具体的には、二次粒子に対する一次粒子の存在比率を示唆する10%累積体積粒度D10(μm)と50%累積体積粒度D50(μm)との比率D10/D50は0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましく、0.2以上であることがさらに好ましい。また、0.70以下が好ましく、0.65以下がより好ましく、0.60以下がさらに好ましい。
D10/D50の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0030】
なお、本実施形態において、10%累積体積粒度D10と50%累積体積粒度D50はレーザー回折散乱粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、得られた体積基準の累積粒度分布曲線において、10%累積時の体積粒度と50%累積時の体積粒度からそれぞれ求められる。
【0031】
リチウム二次電池のエネルギー密度を高める観点から、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、以下組成式(I)で表されることが好ましい。
Li[Lix(NiaCobMncMd)1−x]O2 ・・・(I)
(ここで、0≦x≦0.2、0<a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1、MはFe、Cr、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)
【0032】
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質において、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、前記組成式(I)におけるxは0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましく、0.03以上であることがさらに好ましい。また、初回クーロン効率がより高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、前記組成式(I)におけるxは0.18以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。
xの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
本明細書において、「サイクル特性が高い」とは、放電容量維持率が高いことを意味する。
【0033】
また、容量が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、前記組成式(I)におけるaは0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。また、高い電流レートにおける放電容量が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、前記組成式(I)におけるaは0.92以下であることが好ましく、0.82以下であることがより好ましく、0.72以下であることがさらに好ましい。
aの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0034】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、前記組成式(I)におけるbは0.07以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましく、0.13以上であることがさらに好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、前記組成式(I)におけるbは0.35以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.25以下であることがさらに好ましい。
bの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0035】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、前記組成式(I)におけるcは0.01以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.2以上であることがさらに好ましい。また、高温(例えば60℃環境下)での保存特性が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、前記組成式(I)におけるcは0.35以下であることが好ましく、0.32以下であることがより好ましく、0.30以下であることがさらに好ましい。
cの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0036】
前記組成式(I)におけるMは、Fe、Cr、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVのうちいずれか1種以上の金属である。
リチウム二次電池用正極活物質のハンドリング性を高めるために、前記組成式(I)におけるdは0を超えることが好ましく、0.001以上であることがより好ましく、0.005以上であることがさらに好ましい。また、高い電流レートでの放電容量が高いリチウム二次電池を得るために、前記組成式(I)におけるdは0.08以下であることが好ましく、0.04以下であることがより好ましく、0.02以下であることがさらに好ましい。
dの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0037】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、組成式(I)におけるMは、Al、Zr、W、Mo、及びNbからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、Mg、Al、Zr、及びWからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0038】
低温(例えば0℃環境下)において高い電流レートでの放電容量が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、前記組成式(I)において、a≧b+cの関係式を満たすことが好ましい。
【0039】
熱的安定性が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、前記組成式(I)において、b≦cの関係式を満たすことが好ましい。
【0040】
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質において、合成が容易であることから、二次粒子表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)は0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましく、0.03以上であることがさらに好ましい。また、正極活物質への水分吸着を抑制する観点から、二次粒子表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)は2.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.7以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。
P(原子%)の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0041】
(層状構造)
まず、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の結晶構造は、層状構造であり、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
【0042】
六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P−3、R−3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P−31m、P−31c、P−3m1、P−3c1、R−3m、R−3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P−6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P−6m2、P−6c2、P−62m、P−62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcm、P63/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0043】
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/c、C2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0044】
これらのうち、放電容量が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、結晶構造は、空間群R−3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
【0045】
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の空間群は、次のようにして確認することができる。
【0046】
まず、リチウム二次電池用正極活物質について、CuKαを線源とし、かつ回折角2θの測定範囲を10°以上90°以下とする粉末X線回折測定を行い、次いでその結果をもとにリートベルト解析を行い、リチウム含有複合金属酸化物が有する結晶構造およびこの結晶構造における空間群を決定する。リートベルト解析は、材料の粉末X線回折測定における回折ピークのデータ(回折ピーク強度、回折角2θ)を用いて、材料の結晶構造を解析する手法であり、従来から使用されている手法である(例えば「粉末X線解析の実際−リートベルト法入門−」2002年2月10日発行、日本分析化学会X線分析研究懇談会編、参照)。
【0047】
(結晶子サイズ)
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピーク(以下、ピークAと呼ぶこともある)における結晶子サイズα(Å)が400以上1200以下である。充電容量が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、結晶子サイズα(Å)は、500以上であることが好ましく、550以上であることがより好ましく、600以上であることがさらに好ましい。また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、結晶子サイズα(Å)は1000以下であることが好ましく、900以下であることがより好ましく、850以下であることがさらに好ましい。
α(Å)の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0048】
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質のピークAにおける結晶子サイズα(Å)は、以下のようにして確認することが出来る。
【0049】
まず、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質について、CuKαを線源とし、かつ回折角2θの測定範囲を10°以上90°以下とする粉末X線回折測定を行い、ピークAに対応するピークを決定する。さらに、決定したピークの半値幅を算出し、Scherrer式 D=Kλ/Bcosθ (D:結晶子サイズ、K:Scherrer定数、B:ピーク半値幅)を用いることで結晶子サイズを算出することが出来る。前記式により、結晶子サイズを算出することは従来から使用されている手法である(例えば「X線構造解析−原子の配列を決める−」2002年4月30日第3版発行、早稲田嘉夫、松原栄一郎著、参照)。以下にリチウム二次電池用正極活物質が空間群R−3mに帰属される六方晶型の結晶構造である場合を例に、図面を用いてより具体的に説明する。
【0050】
図2Aに、結晶子における003面の模式図を示す。図2A中、003面の垂線方向の結晶子サイズは結晶子サイズα(Å)(図2B)に相当する。
【0051】
(50%累積体積粒度)
正極活物質への水分吸着を抑制する観点から、50%累積体積粒度D50(μm)は1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましい。またハンドリング性を高める観点から、50%累積体積粒度D50(μm)は20以下であることが好ましく、18以下であることがより好ましく、15以下であることがより好ましく、12以下であることがさらに好ましい。
D50(μm)の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0052】
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質において、ハンドリング性を高める観点から、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50(Å/μm)が10以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、50以上であることがさらに好ましい。また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、α/D50(Å/μm)は400以下であることが好ましく、350以下であることがより好ましく、300以下であることがさらに好ましい。
α/D50(Å/μm)の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0053】
(BET比表面積)
本実施形態において、リチウム二次電池用正極活物質のBET比表面積(m2/g)は、高い電流レートにおける放電容量が高いリチウム二次電池を得ることが出来るという観点から、0.1以上であることが好ましく、0.12以上であることが好ましく、0.15以上がより好ましい。また、ハンドリング性を高める観点から、BET比表面積は4以下であることが好ましく、3.8以下がより好ましく、3.5以下がさらに好ましい。
BET比表面積(m2/g)の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0054】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、水分が吸着し難い。その理由は、以下のように推察される。
本発明において、リチウム二次電池用正極活物質は、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、所定の範囲を有し、かつ、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)が所定の範囲を有している。
硫酸根は通常、硫酸リチウムとして存在していると考えられ、硫酸リチウムは吸湿性があり、一水和物で安定に存在することが知られている。そのため、正極活物質全体に存在する硫酸根を減らすことで、硫酸リチウム一水和物の生成が抑制され、正極活物質への水分吸着の抑制を達成できると考えられる。
一方、リチウム二次電池用正極活物質は結晶構造内に含まれるLiと水のプロトンとのイオン交換反応が起こるため、吸湿性を有する。そのため、リチウム二次電池用正極活物質は正極活物質表面に何も存在しない場合、水と反応しやすく、水分吸着が促進する。しかし、正極活物質表面に硫酸リチウムが存在している場合、硫酸リチウムは一水和物になると安定となるため、それ以上水分吸着は起こらなくなる。
よって、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度を特定の範囲にし、かつ、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度を特定の範囲にすることで、リチウム二次電池用正極活物質の吸水量の低減が達成できると考えられる。
【0055】
また、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)を制御する方法としては、リチウム二次電池用正極活物質の原料となる金属複合化合物の粒子形態および硫黄原子の分布を調整する方法が挙げられる。さらに、後述する焼成条件を調整することにより制御する方法が好ましい。例えば、金属複合化合物の粒子内部に空隙が存在する状態にしたうえで、適度に洗浄すると硫黄原子の分布を制御することができる。また、前記金属複合化合物とリチウム塩を混合し、焼成すると上述のように正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)と、その比P/Q(原子%/質量%)を、所定の範囲とすることができる。
【0056】
[リチウム含有複合金属酸化物の製造方法]
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含む製造方法である。
(1)反応槽内に、酸素含有雰囲気中または酸化剤存在下において、少なくともNiを含む金属塩水溶液、錯化剤、及びアルカリ水溶液を連続供給し、連続結晶成長させ、連続的に共沈物スラリーを得る工程。
(2)前記共沈物スラリーから、金属複合化合物を単離する工程。
(3)前記金属複合化合物とリチウム化合物とを混合して得られる混合物を650℃以上1000℃以下の温度で焼成してリチウム複合金属酸化物を得る工程。
【0057】
本実施形態における前記(1)の工程において、オーバーフロー型反応機が好ましく用いられる。
【0058】
本実施形態における前記(1)の工程における酸素含有雰囲気において、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)を特定の範囲に調整するためには、酸素濃度(体積%)が2.4以上であることが好ましく、2.6以上であることがより好ましく、2.8以上であることがさらに好ましい。また、正極活物質の重装密度を高める観点から、酸素濃度(体積%)は5.5以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましく、4.5以下であることがさらに好ましい。
酸素含有雰囲気の酸素濃度の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
また酸化剤を用いる場合は使用する酸化剤の酸化力に応じて、上記の酸素濃度と同程度の酸化力となるように、適宜、濃度を調整することでQおよびPを調整することも可能である。
【0059】
本実施形態における前記(2)の工程において前記金属複合化合物は、共沈物スラリーをアルカリが含まれる洗浄液で洗浄し、脱水して単離した金属複合化合物であることが好ましい。アルカリが含まれる洗浄液としては水酸化ナトリウム溶液が好ましい。
【0060】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質を製造するにあたって、まず、リチウム以外の金属、すなわち、必須金属であるニッケル、並びに、コバルト、マンガンといった任意金属を含む金属複合化合物を調製し、前記金属複合化合物を適当なリチウム塩と焼成することが好ましい。金属複合化合物としては、金属複合水酸化物又は金属複合酸化物が好ましい。以下に、正極活物質の製造方法の一例を、金属複合化合物の製造工程と、リチウム含有複合金属酸化物の製造工程とに分けて説明する。
【0061】
(金属複合化合物の製造工程)
金属複合化合物は、通常公知のバッチ法又は共沈殿法により製造することが可能である。金属複合化合物の製造においては、通常は後述する金属複合水酸化物を合成する際に用いる金属塩の少なくとも一つが硫酸塩であるか、または後述する錯化剤として硫酸アンモニウム等のアンモニウムイオン供給体を用いるため、金属複合化合物は少なくとも硫黄原子を含有する。以下、金属として、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む金属複合水酸化物を例に、その製造方法を詳述する。
【0062】
まず共沈殿法、特に特開2002−201028号公報に記載された連続法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液、及び錯化剤を反応させ、NisCotMnu(OH)2(式中、s+t+u=1)で表される複合金属水酸化物を製造する。
【0063】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れかを使用することができる。上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、及び塩化コバルトのうちの何れかを使用することができる。上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、及び塩化マンガンのうちの何れかを使用することができる。以上の金属塩は、上記NisCotMnu(OH)2の組成比に対応する割合で用いられる。また、溶媒として水が使用される。
【0064】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケル、コバルト、及びマンガンのイオンと錯体を形成可能なものであり、例えばアンモニウムイオン供給体(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシルニ酢酸、及びグリシンが挙げられる。
【0065】
沈殿に際しては、水溶液のpH値を調整するため、必要ならばアルカリ水溶液(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加する。
【0066】
反応槽内は不活性雰囲気であることが好ましい。不活性雰囲気であると、ニッケルよりも酸化されやすい元素が凝集してしまうことを抑制し、均一な複合金属水酸化物を得ることができる。
【0067】
また、反応槽内は、不活性雰囲気を保ちつつも、適度な酸素含有雰囲気または酸化剤存在下であることが好ましい。これは遷移金属を適度に酸化させることで、金属複合水酸化物の形態を制御しやすくなるためである。金属複合水酸化物の状態を制御することで、金属複合水酸化物における硫黄原子の分布を調整しやすくなる。酸素含有ガス中の酸素や酸化剤は、遷移金属を酸化させるために十分な酸素原子があればよい。多量の酸素原子を導入しなければ、反応槽内の不活性雰囲気を保つことができる。
【0068】
反応槽内を酸素含有雰囲気とするには、反応槽内に酸素含有ガスを導入すればよい。酸素含有雰囲気は、反応槽内の気相中の酸素濃度(体積%)が2.0以上6.0以下であることが好ましい。反応槽内の溶液の均一性を高めるために、酸素含有ガスをバブリングさせることがより好ましい。酸素含有ガスとしては、酸素ガスもしくは空気、酸素ガスもしくは空気と窒素ガスなどの酸素非含有ガスとの混合ガスが挙げられる。反応槽内の酸素濃度を調整しやすい観点から、上記の中でも混合ガスであることが好ましい。
【0069】
反応槽内を酸化剤存在下とするには、反応槽内に酸化剤を添加すればよい。酸化剤としては過酸化水素、塩素酸塩、次亜塩素酸塩、過塩素酸塩、過マンガン酸塩などを挙げることができる。反応系内に不純物を持ち込みにくい観点から過酸化水素が好ましく用いられる。
【0070】
以上の反応後、得られた反応沈殿物を洗浄した後、乾燥し、ニッケルコバルトマンガン複合化合物としてのニッケルコバルトマンガン水酸化物を単離する。
【0071】
前記単離には、反応沈殿物を含むスラリー(共沈物スラリー)を遠心分離や吸引ろ過などで脱水する方法が好ましく用いられる。
【0072】
前記脱水により得た共沈物は水またはアルカリが含まれる洗浄液で洗浄することが好ましい。とくに水酸化ナトリウム溶液で洗浄することがより好ましい。また、硫黄元素を含有する洗浄液を用いて洗浄してもよい。
【0073】
なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製してもよい。
【0074】
反応槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、酸素含有ガスの導入量、酸化剤添加量及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、下記工程で最終的に得られるリチウム含有複合金属酸化物の50%累積体積粒度D50、BET比表面積等の各種物性を制御することができる。反応条件については、使用する反応槽のサイズ等にも依存することから、最終的に得られるリチウム含有複合金属酸化物の各種物性をモニタリングしつつ、反応条件を最適化すればよい。
【0075】
(リチウム含有複合金属酸化物の製造工程)
上記金属複合酸化物又は水酸化物を乾燥した後、リチウム塩と混合する。乾燥条件は、特に制限されないが、例えば、金属複合酸化物又は水酸化物が酸化・還元されない条件(具体的には、酸化物同士、又は水酸化物同士で乾燥する条件)、金属複合水酸化物が酸化される条件(具体的には、水酸化物から酸化物へ酸化する乾燥条件)、金属複合酸化物が還元される条件(具体的には、酸化物から水酸化物へ還元する乾燥条件)のいずれの条件でもよい。
酸化・還元がされない条件のためには、窒素、ヘリウム及びアルゴン等の希ガス等の不活性ガスを使用すればよく、水酸化物が酸化される条件では、酸素又は空気を雰囲気下として行えばよい。また、金属複合酸化物が還元される条件としては、不活性ガス雰囲気下、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を使用すればよい。リチウム塩としては、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、酸化リチウム、硫酸リチウムのうち何れか一つ、又は、二つ以上を混合して使用することができる。
【0076】
金属複合酸化物又は水酸化物の乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。以上のリチウム塩と金属複合酸化物又は水酸化物とは、最終目的物の組成比を勘案して用いられる。例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を用いる場合、リチウム塩と前記複合金属水酸化物は、Li[Lir(NisCOtMnu)1−r]O2(式中、s+t+u=1)の組成比に対応する割合で用いられる。ニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物及びリチウム塩の混合物を焼成することによって、リチウム−ニッケルコバルトマンガン複合酸化物が得られる。均一なリチウム−ニッケルコバルトマンガン複合酸化物が得られる観点から、rは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。また、純度の高いリチウム−ニッケルコバルトマンガン複合酸化物が得られる観点から、rは0.1以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.06以下であることがさらに好ましい。
上記のrの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられ、必要ならば複数の加熱工程が実施される。
【0077】
上記金属複合酸化物又は水酸化物と、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物との焼成温度としては、特に制限はないが、好ましくは650℃以上1000℃以下、より好ましくは675℃以上950℃以下である。焼成温度が650℃を下回ると、充電容量が低下するという問題を生じやすい。これ以下の領域ではLiの移動を妨げる構造的要因が存在している可能性がある。
【0078】
一方、焼成温度が1000℃を上回ると、Liの揮発によって目標とする組成の複合酸化物が得られにくいなどの作製上の問題や、初回クーロン効率が低下するなどといった問題が生じやすい。これは、1000℃を上回ると、一次粒子成長速度が増加し、粒子の均一性が低下するためと考えられるが、それに加えて、局所的にLi欠損量が増大して、構造的に不安定となっていることも原因ではないかと考えられる。
【0079】
さらに、高温になるほど、一次粒子成長速度の増加が促進される。一次粒子のサイズが大きくなることで、Liの脱挿入を伴う充放電を行ったときに生じる結晶構造の体積変化が、二次粒子に及ぼす影響が大きくなり、二次粒子の割れなどといったサイクル特性を低下させる現象が起こりやすくなると考えられる。焼成温度を675℃以上950℃以下の範囲とすることによって、特に高いクーロン効率を示し、サイクル特性に優れた電池を作製できる。焼成時間は、0.5時間〜20時間が好ましい。焼成時間が20時間を超えると、電池性能上問題はないが、Liの揮発によって実質的に電池性能に劣る傾向となる。焼成時間が0.5時間より少ないと、結晶の発達が悪く、電池性能が悪くなる傾向となる。なお、上記の焼成の前に、仮焼成を行うことも有効である。この様な仮焼成の温度は、300〜900℃の範囲で、0.5〜10時間行うことが好ましい。仮焼成を行うことにより、焼成時間を短縮することができることもある。
【0080】
焼成によって得たリチウム含有複合金属酸化物は、粉砕後に適宜分級され、リチウム二次電池に適用可能なリチウム二次電池用正極活物質とされる。
【0081】
[リチウム二次電池]
次いで、リチウム二次電池の構成を説明しながら、本実施形態のリチウム含有複合金属酸化物をリチウム二次電池の正極活物質として用いた正極、およびこの正極を有するリチウム二次電池について説明する。
【0082】
本実施形態のリチウム二次電池の一例は、正極および負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0083】
図1A、図1Bは、本実施形態のリチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0084】
まず、図1Aに示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、および一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0085】
次いで、図1Bに示すように、電池缶5に電極群4および不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7および封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0086】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形、角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0087】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0088】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、ペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0089】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
本実施形態の正極は、まず正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を調整し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0090】
(導電材)
本実施形態の正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量を正極合剤中に添加することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率および出力特性を向上させることができるが、多く入れすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体との結着力、および正極合剤内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
【0091】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0092】
(バインダー)
本実施形態の正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
【0093】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極集電体との密着力および正極合剤内部の結合力がいずれも高い正極合剤を得ることができる。
【0094】
(正極集電体)
本実施形態の正極が有する正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0095】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、正極合剤を正極集電体上で加圧成型する方法が挙げられる。また、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体に正極合剤を担持させてもよい。
【0096】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0097】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。
【0098】
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
(負極)
本実施形態のリチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、および負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0099】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0100】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0101】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO2、SiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO2、TiOなど式TiOx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V2O5、VO2など式VOx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe3O4、Fe2O3、FeOなど式FeOx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO2、SnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO3、WO2など一般式WOx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li4Ti5O12、LiVO2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する複合金属酸化物;を挙げることができる。
【0102】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti2S3、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V3S4、VS2、VSなど式VSx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe3S4、FeS2、FeSなど式FeSx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo2S3、MoS2など式MoSx(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS2、SnSなど式SnSx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS2など式WSx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb2S3など式SbSx(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se5S3、SeS2、SeSなど式SeSx(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0103】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li3N、Li3−xAxN(ここで、AはNiおよびCoのいずれか一方又は両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0104】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
【0105】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属およびスズ金属などを挙げることができる。
【0106】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Si、Li−Sn、Li−Sn−Niなどのリチウム合金;Si−Znなどのシリコン合金;Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金;Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金;を挙げることもできる。
【0107】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0108】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0109】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンおよびポリプロピレンを挙げることができる。
【0110】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0111】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0112】
(セパレータ)
本実施形態のリチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。
【0113】
本実施形態において、セパレータは、電池使用時(充放電時)に電解質を良好に透過させるため、JIS P 8117で定められるガーレー法による透気抵抗度が、50秒/100cc以上、300秒/100cc以下であることが好ましく、50秒/100cc以上、200秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0114】
また、セパレータの空孔率は、好ましくは30体積%以上80体積%以下、より好ましくは40体積%以上70体積%以下である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0115】
(電解液)
本実施形態のリチウム二次電池が有する電解液は、電解質および有機溶媒を含有する。
【0116】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(COCF3)、Li(C4F9SO3)、LiC(SO2CF3)3、Li2B10Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。なかでも電解質としては、フッ素を含むLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2およびLic(SO2CF3)3からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0117】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N, N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、又はこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。
【0118】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒および環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。このような混合溶媒を用いた電解液は、動作温度範囲が広く、高い電流レートにおける充放電を行っても劣化し難く、長時間使用しても劣化し難く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという多くの特長を有する。
【0119】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPF6などのフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、高い電流レートにおける充放電を行っても容量維持率が高いため、さらに好ましい。
【0120】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖又はポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi2S−SiS2、Li2S−GeS2、Li2S−P2S5、Li2S−B2S3、Li2S−SiS2−Li3PO4、Li2S−SiS2−Li2SO4、Li2S−GeS2−P2S5などの硫化物を含む無機系固体電解質が挙げられ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。これら固体電解質を用いることで、リチウム二次電池の安全性をより高めることができることがある。
【0121】
また、本実施形態のリチウム二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【0122】
以上のような構成の正極活物質は、上述した本実施形態のリチウム含有複合金属酸化物を用いているため、該正極活物質を用いたリチウム二次電池の、電池内部で生じる副反応を抑制することができる。
【0123】
また、以上のような構成の正極は、上述した本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質を有するため、リチウム二次電池の、電池内部で生じる副反応を抑制することができる。
【0124】
さらに、以上のような構成のリチウム二次電池は、上述した正極を有するため、従来よりも電池内部で生じる副反応が抑制されたリチウム二次電池となる。
【実施例】
【0125】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
本実施例においては、リチウム二次電池用正極活物質の評価、正極およびリチウム二次電池の作製評価を、次のようにして行った。
【0126】
(1)リチウム二次電池用正極活物質の評価
1.リチウム二次電池用正極活物質の組成分析、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度分析
後述の方法で製造されるリチウム含有複合金属酸化物の組成分析は、得られたリチウム含有複合金属酸化物の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行った。
【0127】
2.リチウム二次電池用正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度分析
リチウム含有複合金属酸化物表面に存在する硫黄原子の濃度分析組成分析は、XPS(Quantera SXM、アルバック・ファイ株式会社製)を用いて行った。具体的には、得られたリチウム含有複合金属酸化物を専用の基板に充填し、AlKα線を用い、光電子取り出し角を45度、アパーチャー直径を100μmとして測定を行い、データを取得した。そして、光電子分光分析のデータ解析ソフトウェアMuitiPakを用い、表面汚染炭化水素のC 1Sに帰属されるピークを284.6eVとして帯電補正の基準として使用した場合、165〜175eVの範囲に存在する硫黄原子由来のピークの強度から、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度Pを算出した。
【0128】
3.リチウム二次電池用正極活物質の結晶子サイズ測定
リチウム含有複合金属酸化物の粉末X線回折測定は、X線回折装置(X‘Prt PRO、PANalytical社)を用いて行った。得られたリチウム含有複合金属酸化物を専用の基板に充填し、CuKα線源を用いて、回折角2θ=10°〜90°の範囲にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を得た。粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェアJADE5を用い、前記粉末X線回折図形からピークAに対応するピークの半値幅を得て、Scherrer式により、結晶子サイズαを算出した。
【0129】
4.リチウム二次電池用正極活物質の10%累積体積粒度D10と50%累積体積粒度D50の測定
測定するリチウム含有複合金属酸化物の粉末0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、前記粉末を分散させた分散液を得た。得られた分散液についてマルバーン社製マスターサイザー2000(レーザー回折散乱粒度分布測定装置)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た。得られた累積粒度分布曲線において、10%累積時の体積粒度をリチウム二次電池用正極活物質の10%累積体積粒度D10、50%累積時の体積粒度をリチウム二次電池用正極活物質の50%累積体積粒度D50とした。
【0130】
5.リチウム二次電池用正極活物質のBET比表面積測定
測定するリチウム含有複合金属酸化物の粉末1gを窒素雰囲気中、150℃で15分間乾燥させた後、マイクロメリティックス製フローソープII2300を用いて測定した。
【0131】
6.リチウム二次電池用正極活物質の吸着水分量の測定
測定するリチウム含有複合金属酸化物の粉末1gを真空中、150℃で3時間乾燥させた後、温度30℃、相対湿度55%の雰囲気下で3日間保存した。得られた粉末はすぐに蓋をし、かしめ機でかしめて、その後、電量法カールフィッシャー水分計(831 Coulometer、Metrohm社製)を用いて正極活物質の吸着水分量を測定した。
【0132】
(実施例1)
1.リチウム二次電池用正極活物質1の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0133】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.315:0.330:0.355となるように混合して、混合原料液を調整した。
【0134】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が2.6%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせた。反応槽内の溶液のpHが12.5になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、遠心分離機で脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1のBET比表面積は、37.2m2/gであった。
【0135】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.12となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下700℃で5時間焼成し、さらに、大気雰囲気下925℃で6時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質1を得た。
【0136】
2.リチウム二次電池用正極活物質1の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質1の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.06、a=0.316、b=0.330、c=0.354、d=0.00であった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.34質量%であった。
【0137】
リチウム二次電池用正極活物質1の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは1.09原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは3.21原子%/質量%であった。
【0138】
リチウム二次電池用正極活物質1のピークAから算出される結晶子サイズαは857Åであった。
【0139】
リチウム二次電池用正極活物質1の50%累積体積粒度D50は、3.8μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は226Å/μmであった。
【0140】
リチウム二次電池用正極活物質1のBET比表面積は、2.50m2/gであった。
【0141】
2.リチウム二次電池用正極活物質1の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質1の吸着水分量は1857ppmであった。
【0142】
(実施例2)
1.リチウム二次電池用正極活物質2の製造
反応槽内の溶液のpHが12.3になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下した以外は実施例1と同様の操作を行い、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物2を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物2のBET比表面積は、34.7m2/gであった。
【0143】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物2と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.13となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下700℃で5時間焼成し、さらに、大気雰囲気下925℃で6時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質2を得た。
【0144】
2.リチウム二次電池用正極活物質2の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質2の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.06、a=0.317、b=0.329、c=0.355、d=0.00であった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.34質量%であった。
【0145】
リチウム二次電池用正極活物質2の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは1.13原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは3.32原子%/質量%であった。
【0146】
リチウム二次電池用正極活物質2のピークAから算出される結晶子サイズαは936Åであった。
【0147】
リチウム二次電池用正極活物質2の50%累積体積粒度D50は、3.6μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は260A/μmであった。
【0148】
リチウム二次電池用正極活物質2のBET比表面積は、2.40m2/gであった。
【0149】
2.リチウム二次電池用正極活物質2の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質2の吸着水分量は1914ppmであった。
【0150】
(実施例3)
1.リチウム二次電池用正極活物質3の製造
反応槽内気相中の酸素濃度が2.4%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせ、反応槽内の溶液のpHが12.3になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下した以外は実施例1と同様の操作を行い、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物3を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物3のBET比表面積は、25.2m2/gであった。
【0151】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物3と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.13となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下700℃で5時間焼成し、さらに、大気雰囲気下925℃で6時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質3を得た。
【0152】
2.リチウム二次電池用正極活物質3の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質3の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.06、a=0.317、b=0.329、c=0.353、d=0.00であった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.24質量%であった。
【0153】
リチウム二次電池用正極活物質3の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは1.02原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは4.25原子%/質量%であった。
【0154】
リチウム二次電池用正極活物質3のピークAから算出される結晶子サイズαは866Åであった。
【0155】
リチウム二次電池用正極活物質3の50%累積体積粒度D50は、3.6μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は241Å/μmであった。
【0156】
リチウム二次電池用正極活物質3のBET比表面積は、1.92m2/gであった。
【0157】
2.リチウム二次電池用正極活物質3の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質3の吸着水分量は1414ppmであった。
【0158】
(実施例4)
1.リチウム二次電池用正極活物質4の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0159】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.55:0.21:0.24となるように混合して、混合原料液を調整した。
【0160】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が3.0%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせた。反応槽内の溶液のpHが12.5になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、吸引ろ過により脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4のBET比表面積は、82.3m2/gであった。
【0161】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物4と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.08となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で5時間焼成し、さらに、大気雰囲気下850℃で10時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質4を得た。
【0162】
2.リチウム二次電池用正極活物質4の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質4の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.03、a=0.552、b=0.207、c=0.241、d=0.00であった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.49質量%であった。
【0163】
リチウム二次電池用正極活物質4の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは1.67原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは3.41原子%/質量%であった。
【0164】
リチウム二次電池用正極活物質4のピークAから算出される結晶子サイズαは782Åであった。
【0165】
リチウム二次電池用正極活物質4の50%累積体積粒度D50は、4.2μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は186Å/μmであった。
【0166】
リチウム二次電池用正極活物質4のBET比表面積は、2.70m2/gであった。
【0167】
2.リチウム二次電池用正極活物質4の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質4の吸着水分量は2343ppmであった。
【0168】
(実施例5)
1.リチウム二次電池用正極活物質5の製造
反応槽内気相中の酸素濃度が2.5%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせた以外は実施例4と同様の操作を行い、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物5を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物5のBET比表面積は、79.0m2/gであった。
【0169】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物5と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.09となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で5時間焼成し、さらに、大気雰囲気下850℃で10時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質5を得た。
【0170】
2.リチウム二次電池用正極活物質5の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質5の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.04、a=0.552、b=0.207、c=0.241、d=0.00であった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.36質量%であった。
【0171】
リチウム二次電池用正極活物質5の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは1.66原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは4.61原子%/質量%であった。
【0172】
リチウム二次電池用正極活物質5のピークAから算出される結晶子サイズαは805Åであった。
【0173】
リチウム二次電池用正極活物質5の50%累積体積粒度D50は、4.2μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は192Å/μmであった。
【0174】
リチウム二次電池用正極活物質5のBET比表面積は、2.60m2/gであった。
【0175】
2.リチウム二次電池用正極活物質5の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質5の吸着水分量は2590ppmであった。
【0176】
(実施例6)
1.リチウム二次電池用正極活物質6の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を30℃に保持した。
【0177】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.58:0.17:0.25となるように混合して、混合原料液を調整した。
【0178】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が5.5%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせた。反応槽内の溶液のpHが12.5になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、遠心分離機で脱水、単離し、250℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物6を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物6のBET比表面積は、66.5m2/gであった。
【0179】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物6と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.08となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で5時間焼成し、さらに、大気雰囲気下850℃で10時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質6を得た。
【0180】
2.リチウム二次電池用正極活物質6の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質6の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.03、a=0.585、b=0.170、c=0.245、d=0.00であった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.64質量%であった。
【0181】
リチウム二次電池用正極活物質6の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは1.43原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは2.23原子%/質量%であった。
【0182】
リチウム二次電池用正極活物質6のピークAから算出される結晶子サイズαは848Åであった。
【0183】
リチウム二次電池用正極活物質6の50%累積体積粒度D50は、5.3μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は160Å/μmであった。
【0184】
リチウム二次電池用正極活物質6のBET比表面積は、0.69m2/gであった。
【0185】
2.リチウム二次電池用正極活物質6の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質6の吸着水分量は1531ppmであった。
【0186】
(実施例7)
1.リチウム二次電池用正極活物質7の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0187】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液と硫酸アルミニウム水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子とアルミニウム原子との原子比が0.90:0.07:0.02:0.01となるように混合して、混合原料液を調整した。
【0188】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が2.0%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせた。反応槽内の溶液のpHが12.2になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、吸引ろ過により脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物7を得た。このニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物7のBET比表面積は、18.4m2/gであった。
【0189】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物7と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn+Al)=1.02となるように秤量して混合した後、酸素雰囲気下700℃で5時間焼成し、さらに、酸素雰囲気下760℃で10時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質7を得た。
【0190】
2.リチウム二次電池用正極活物質7の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質7の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.01、a=0.902、b=0.067、c=0.019、d=0.012、M=Alであった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.23質量%であった。
【0191】
リチウム二次電池用正極活物質7の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは0.39原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは1.70原子%/質量%であった。
【0192】
リチウム二次電池用正極活物質7のピークAから算出される結晶子サイズαは822Åであった。
【0193】
リチウム二次電池用正極活物質7の50%累積体積粒度D50は、12.1μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は68Å/μmであった。
【0194】
リチウム二次電池用正極活物質7のBET比表面積は、0.24m2/gであった。
【0195】
2.リチウム二次電池用正極活物質7の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質7の吸着水分量は1934ppmであった。
【0196】
(比較例1)
1.リチウム二次電池用正極活物質8の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を30℃に保持した。
【0197】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.60:0.20:0.20となるように混合して、混合原料液を調整した。
【0198】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が6.3%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせた。反応槽内の溶液のpHが12.4になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、水で洗浄した後、遠心分離機で脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物8を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物8のBET比表面積は、73.4m2/gであった。
【0199】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物8と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.12となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で5時間焼成し、さらに、大気雰囲気下850℃で10時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質8を得た。
【0200】
2.リチウム二次電池用正極活物質8の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質8の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.04、a=0.604、b=0.199、c=0.197、d=0.00であった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは1.64質量%であった。
【0201】
リチウム二次電池用正極活物質8の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは1.28原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは0.78原子%/質量%であった。
【0202】
リチウム二次電池用正極活物質8のピークAから算出される結晶子サイズαは905Åであった。
【0203】
リチウム二次電池用正極活物質8の50%累積体積粒度D50は、6.0μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は151Å/μmであった。
【0204】
リチウム二次電池用正極活物質8のBET比表面積は、0.90m2/gであった。
【0205】
2.リチウム二次電池用正極活物質8の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質8の吸着水分量は4621ppmであった。
【0206】
(比較例2)
1.リチウム二次電池用正極活物質9の製造
得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を、水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した以外は比較例1と同様の操作を行い、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物9を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物9のBET比表面積は、74.2m2/gであった。
【0207】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物9と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.12となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で5時間焼成し、さらに、大気雰囲気下850℃で10時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質9を得た。
【0208】
2.リチウム二次電池用正極活物質9の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質9の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.05、a=0.607、b=0.199、c=0.194、d=0.00であった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは1.60質量%であった。
【0209】
リチウム二次電池用正極活物質9の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは1.22原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは0.76原子%/質量%であった。
【0210】
リチウム二次電池用正極活物質9のピークAから算出される結晶子サイズαは875Åであった。
【0211】
リチウム二次電池用正極活物質9の50%累積体積粒度D50は、5.7μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は154Å/μmであった。
【0212】
リチウム二次電池用正極活物質9のBET比表面積は、1.20m2/gであった。
【0213】
2.リチウム二次電池用正極活物質9の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質9の吸着水分量は4805ppmであった。
【0214】
(比較例3)
1.リチウム二次電池用正極活物質10の製造
反応槽内気相中の酸素濃度が1.7%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせ、反応槽内の溶液のpHが12.6になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、単離したニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を250℃で乾燥した以外は実施例4と同様の操作を行い、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物10を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物10のBET比表面積は、95.2m2/gであった。
【0215】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物10と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.09となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で5時間焼成し、さらに、大気雰囲気下850℃で10時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質10を得た。
【0216】
2.リチウム二次電池用正極活物質10の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質10の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.04、a=0.553、b=0.207、c=0.240、d=0.00であった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.13質量%であった。
【0217】
リチウム二次電池用正極活物質10の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは0.65原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは5.00原子%/質量%であった。
【0218】
リチウム二次電池用正極活物質10のピークAから算出される結晶子サイズαは866Åであった。
【0219】
リチウム二次電池用正極活物質10の50%累積体積粒度D50は、4.0μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は217Å/μmであった。
【0220】
リチウム二次電池用正極活物質10のBET比表面積は、1.60m2/gであった。
【0221】
2.リチウム二次電池用正極活物質10の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質10の吸着水分量は3275ppmであった。
【0222】
(比較例4)
1.リチウム二次電池用正極活物質11の製造
反応槽内気相中の酸素濃度が1.2%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせた以外は比較例3と同様の操作を行い、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物11を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物11のBET比表面積は、97.1m2/gであった。
【0223】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物11と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.08となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で3時間焼成し、さらに、酸素雰囲気下850℃で2時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質11を得た。
【0224】
2.リチウム二次電池用正極活物質11の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質11の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.03、a=0.550、b=0.209、c=0.241、d=0.00であった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.04質量%であった。
【0225】
リチウム二次電池用正極活物質11の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは0.59原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは14.75原子%/質量%であった。
【0226】
リチウム二次電池用正極活物質11のピークAから算出される結晶子サイズαは732Åであった。
【0227】
リチウム二次電池用正極活物質11の50%累積体積粒度D50は、3.2μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は229Å/μmであった。
【0228】
リチウム二次電池用正極活物質11のBET比表面積は、3.50m2/gであった。
【0229】
2.リチウム二次電池用正極活物質11の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質11の吸着水分量は5449ppmであった。
【0230】
(比較例5)
1.リチウム二次電池用正極活物質12の製造
反応槽内気相中の酸素濃度が1.8%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせた以外は実施例4と同様の操作を行い、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物12を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物12のBET比表面積は、82.0m2/gであった。
【0231】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物12と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.06となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で5時間焼成し、さらに、大気雰囲気下850℃で10時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質12を得た。
【0232】
2.リチウム二次電池用正極活物質12の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質12の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.03、a=0.552、b=0.207、c=0.241、d=0.00であった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.22質量%であった。
【0233】
リチウム二次電池用正極活物質12の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは1.47原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは6.68原子%/質量%であった。
【0234】
リチウム二次電池用正極活物質12のピークAから算出される結晶子サイズαは813Åであった。
【0235】
リチウム二次電池用正極活物質12の50%累積体積粒度D50は、4.1μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は198Å/μmであった。
【0236】
リチウム二次電池用正極活物質12のBET比表面積は、2.80m2/gであった。
【0237】
2.リチウム二次電池用正極活物質12の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質12の吸着水分量は5147ppmであった。
【0238】
(実施例8)
1.リチウム二次電池用正極活物質13の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0239】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.55:0.21:0.24となるように混合して、混合原料液を調整した。
【0240】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が3.7%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせた。反応槽内の溶液のpHが12.5になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、吸引ろ過により脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物13を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物13のBET比表面積は、90.3m2/gであった。WO3を61g/Lで溶解したLiOH水溶液を作製した。作製したW溶解LiOH水溶液をW/(Ni+Co+Mn+W)=0.0025となるように前記ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物13に被着させ、ニッケルコバルトマンガンタングステン複合水酸化物13を得た。
【0241】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガンタングステン複合水酸化物13と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn+W)=1.07となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で5時間焼成後、大気雰囲気下850℃で10時間焼成し、さらに大気雰囲気下875℃で10時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質13を得た。
【0242】
2.リチウム二次電池用正極活物質13の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質13の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.03、a=0.548、b=0.209、c=0.240、d=0.003、M=Wであった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.39質量%であった。
【0243】
リチウム二次電池用正極活物質13の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは0.94原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは2.41原子%/質量%であった。
【0244】
リチウム二次電池用正極活物質13のピークAから算出される結晶子サイズαは875Åであった。
【0245】
リチウム二次電池用正極活物質13の50%累積体積粒度D50は、3.3μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は262Å/μmであった。
【0246】
リチウム二次電池用正極活物質13のBET比表面積は、1.80m2/gであった。
【0247】
2.リチウム二次電池用正極活物質13の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質13の吸着水分量は2981ppmであった。
【0248】
(実施例9)
1.リチウム二次電池用正極活物質14の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0249】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.51:0.22:0.27となるように混合して、混合原料液を調整した。
【0250】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が2.6%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせた。反応槽内の溶液のpHが12.5になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、吸引ろ過により脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物14を得た。このニッケルコバルトマンガン複合水酸化物14のBET比表面積は、42.8m2/gであった。WO3を61g/Lで溶解したLiOH水溶液を作製した。作製したW溶解LiOH水溶液をW/(Ni+Co+Mn+W)=0.005となるように前記ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物14に被着させ、ニッケルコバルトマンガンタングステン複合水酸化物14を得た。
【0251】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガンタングステン複合水酸化物14と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn+W)=1.07となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で5時間焼成後、大気雰囲気下900℃で10時間焼成し、さらに大気雰囲気下900℃で5時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質14を得た。
【0252】
2.リチウム二次電池用正極活物質14の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質14の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.03、a=0.508、b=0.221、c=0.266、d=0.005、M=Wであった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.17質量%であった。
【0253】
リチウム二次電池用正極活物質14の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは0.82原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは4.82原子%/質量%であった。
【0254】
リチウム二次電池用正極活物質14のピークAから算出される結晶子サイズαは857Åであった。
【0255】
リチウム二次電池用正極活物質14の50%累積体積粒度D50は、5.1μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は167A/μmであった。
【0256】
リチウム二次電池用正極活物質14のBET比表面積は、1.55m2/gであった。
【0257】
2.リチウム二次電池用正極活物質14の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質14の吸着水分量は2428ppmであった。
【0258】
(実施例10)
1.リチウム二次電池用正極活物質15の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を60℃に保持した。
【0259】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液と硫酸アルミニウム水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子とアルミニウム原子との原子比が0.875:0.095:0.02:0.01となるように混合して、混合原料液を調整した。
【0260】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が7.0%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせた。反応槽内の溶液のpHが11.0になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、吸引ろ過により脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物15を得た。このニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物15のBET比表面積は、20.6m2/gであった。
WO3を61g/Lで溶解したLiOH水溶液を作製した。作製したW溶解LiOH水溶液をW/(Ni+Co+Mn+Al+W)=0.001となるように前記ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物15に被着させ、ニッケルコバルトマンガンアルミニウムタングステン複合水酸化物15を得た。
【0261】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガンアルミニウムタングステン複合水酸化物15と水酸化リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn+Al+W)=1.03となるように秤量して混合した後、酸素雰囲気下760℃で5時間焼成し、さらに酸素雰囲気下780℃で5時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質15を得た。
【0262】
2.リチウム二次電池用正極活物質15の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質15の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.01、a=0.876、b=0.094、c=0.020、d=0.01、M=Al+Wであった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.33質量%であった。
【0263】
リチウム二次電池用正極活物質15の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは1.58原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは4.83原子%/質量%であった。
【0264】
リチウム二次電池用正極活物質15のピークAから算出される結晶子サイズαは925Åであった。
【0265】
リチウム二次電池用正極活物質15の50%累積体積粒度D50は、9.6μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は96Å/μmであった。
【0266】
リチウム二次電池用正極活物質15のBET比表面積は、0.28m2/gであった。
【0267】
2.リチウム二次電池用正極活物質15の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質15の吸着水分量は2112ppmであった。
【0268】(削除)
【0269】(削除)
【0270】(削除)
【0271】(削除)
【0272】(削除)
【0273】(削除)
【0274】(削除)
【0275】
(実施例12)
1.リチウム二次電池用正極活物質17の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0276】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.55:0.21:0.24となるように混合して、混合原料液を調整した。
【0277】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が3.6%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせた。反応槽内の溶液のpHが12.5になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、吸引ろ過により脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物17を得た。
【0278】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物17と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.08となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で3時間焼成し、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを得た。Zr/(Ni+Co+Mn+Zr)=0.003となるように酸化ジルコニウムを前記ニッケルコバルトマンガン酸リチウムと共に混合し、混合粉を得た。得られた混合粉を大気雰囲気下850℃で10時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質17を得た。
【0279】
2.リチウム二次電池用正極活物質17の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質17の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.04、a=0.547、b=0.209、c=0.241、d=0.003、M=Zrであった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.40質量%であった。
【0280】
リチウム二次電池用正極活物質17の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは1.04原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは2.60原子%/質量%であった。
【0281】
リチウム二次電池用正極活物質17のピークAから算出される結晶子サイズαは925Aであった。
【0282】
リチウム二次電池用正極活物質17の50%累積体積粒度D50は、3.9μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は237Å/μmであった。
【0283】
リチウム二次電池用正極活物質17のBET比表面積は、1.10m2/gであった。
【0284】
2.リチウム二次電池用正極活物質17の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質17の吸着水分量は1953ppmであった。
【0285】
(実施例13)
1.リチウム二次電池用正極活物質18の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0286】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液と硫酸ジルコニウム水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子とジルコニウム原子との原子比が0.5489:0.2096:0.2395:0.002となるように混合して、混合原料液を調整した。
【0287】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が2.7%となるよう酸素含有ガスをバブリングさせた。反応槽内の溶液のpHが12.5になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガンジルコニウム複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、吸引ろ過により脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガンジルコニウム複合水酸化物18を得た。
【0288】
以上のようにして得られたニッケルコバルトマンガンジルコニウム複合水酸化物18と炭酸リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn+Zr)=1.07となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で5時間焼成し、さらに大気雰囲気下850℃で10時間焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質18を得た。
【0289】
2.リチウム二次電池用正極活物質18の評価
得られたリチウム二次電池用正極活物質18の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.04、a=0.550、b=0.209、c=0.239、d=0.002、M=Zrであった。また、正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Qは0.21質量%であった。
【0290】
リチウム二次電池用正極活物質18の表面に存在する硫黄原子の濃度Pは1.00原子%であり、正極活物質表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Qは4.76原子%/質量%であった。
【0291】
リチウム二次電池用正極活物質18のピークAから算出される結晶子サイズαは797Åであった。
【0292】
リチウム二次電池用正極活物質18の50%累積体積粒度D50は、4.3μmであった。また、50%累積体積粒度D50と、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαとの比α/D50は185A/μmであった。
【0293】
リチウム二次電池用正極活物質18のBET比表面積は、2.30m2/gであった。
【0294】
2.リチウム二次電池用正極活物質18の吸着水分量の評価
リチウム二次電池用正極活物質18の吸着水分量は2297ppmであった。
【0295】
以下、表1〜2に実施例および比較例の結果等をまとめて記載する。
【0296】
【表1】

【0297】
【表2】

【0298】
評価の結果、実施例1〜10、12、及び13のリチウム二次電池用正極活物質では、いずれも、比較例1〜5のリチウム二次電池用正極活物質よりも吸着水が低減されていた。
【0299】
[正極合剤調製時の沈殿発生試験]
温度30℃、相対湿度55%の雰囲気下で3日間保存後のリチウム二次電池用正極活物質5(上記実施例5)を導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N−メチル−2−ピロリドンを有機溶媒として用いた。得られた正極合剤を静置すると、沈殿は生じなかった。
【0300】
温度30℃、相対湿度55%の雰囲気下で3日間保存後のリチウム二次電池用正極活物質10(上記比較例3)を導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N−メチル−2−ピロリドンを有機溶媒として用いた。得られた正極合剤を静置すると、沈殿が生じた。
【0301】
上記の結果から、吸着水が低減された本発明のリチウム二次電池用正極活物質では、正極作製時のペースト安定性が向上することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0302】
本発明によれば、保存安定性が良好なリチウム二次電池用正極活物質を提供することができる。また、このようなリチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極活物質を用いた正極及びリチウム二次電池を提供することができる。本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、車載用用途に好適なリチウム二次電池に有用である。
【符号の説明】
【0303】
1…セパレータ、2…正極、3…負極、4…電極群、5…電池缶、6…電解液、7…トップインシュレーター、8…封口体、10…リチウム二次電池、21…正極リード、31…負極リード

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な、少なくともNiを含むリチウム二次電池用正極活物質であって、
X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下であり、
以下組成式(I)で表されるリチウム二次電池用正極活物質。
Li[Lix(NiaCobMncMd)1−x]O2 ・・・(I)(ここで、0≦x≦0.2、0<a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4、0≦d≦0.1、a+b+c+d=1、MはFe、Cr、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)
【請求項2】
一次粒子が凝集してなる二次粒子を含む請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)が、0.01以上2.5以下である請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズα(Å)が400以上1200以下であり、α−NaFeO2型の結晶構造を有する請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
50%累積体積粒度D50(μm)が1以上20以下であり、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズα(Å)と50%累積体積粒度D50(μm)との比α/D50(Å/μm)が10以上400以下である請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
BET比表面積(m2/g)が0.1以上4以下である請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
以下の(1)、(2)および(3)の工程をこの順で含み、X線光電子分光法(XPS)で分析することで求められる、リチウム二次電池用正極活物質の表面に存在する硫黄原子の濃度P(原子%)と、前記リチウム二次電池用正極活物質の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)を行い、硫黄元素を測定して、この測定される硫黄元素の量を硫酸根に換算することによって求められる前記リチウム二次電池用正極活物質全体に存在する硫酸根の濃度Q(質量%)との比P/Q(原子%/質量%)が、0.8より大きく5.0未満であり、Q(質量%)が0.01以上2.0以下である、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
(1)反応槽内に、酸素含有雰囲気中または酸化剤存在下において、少なくともNiを含む金属塩水溶液、錯化剤、及びアルカリ水溶液を連続供給し、連続結晶成長させ、連続的に共沈物スラリーを得る工程。ただし、前記酸素含有雰囲気は反応槽内の気相中の酸素濃度(体積%)が2.0以上6.0以下である。
(2)前記共沈物スラリーをアルカリが含まれる洗浄液で洗浄して、脱水し、硫黄原子を含む金属複合化合物を単離する工程。
(3)前記金属複合化合物とリチウム化合物とを混合して得られる混合物を650℃以上1000℃以下の温度で焼成してリチウム複合金属酸化物を得る工程。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を有するリチウム二次電池用正極。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2023-07-13 
出願番号 P2017-549122
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 篠原 功一
特許庁審判官 須原 宏光
山本 章裕
登録日 2022-06-02 
登録番号 7083248
権利者 住友化学株式会社 株式会社田中化学研究所
発明の名称 リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 松沼 泰史  
代理人 加藤 広之  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 ▲高▼梨 航  
代理人 加藤 広之  
代理人 加藤 広之  
代理人 松沼 泰史  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 加藤 広之  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 松沼 泰史  
代理人 ▲高▼梨 航  
代理人 ▲高▼梨 航  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 松沼 泰史  
代理人 ▲高▼梨 航  
代理人 佐藤 彰雄  

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