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審決分類 審判 全部申し立て 発明者・出願人  G16H
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G16H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G16H
管理番号 1403680
総通号数 23 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-06-01 
確定日 2023-10-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第7181540号発明「月経に伴う身体的及び/又は精神的不快症状の改善システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7181540号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第7181540号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許(以下「本件特許1」〜「本件特許4」という。)は、令和4年7月6日に出願された特許出願(特願2022−109363号)の一部を同年8月22日に新たな特許出願(特願2022−131675号)とし、その一部を同年10月26日に新たな特許出願(特願2022−171175号)として特許出願したものであり、同年11月22日にその特許権の設定登録がされ、同年12月1日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対し、令和5年6月1日に特許異議申立人 川上 真平(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされた。

2 本件特許発明
特許第7181540号の請求項1〜4の記載は、次のとおりのものである。(以下、請求項1〜4に係る発明を「本件特許発明1」〜「本件特許発明4」という。)
「【請求項1】
月経随伴症状を診断するために用いられる、少なくとも精神的症状に関する項目を含む複数の項目を含む記録である症状メモリと、
月経随伴症状の治療、予防またはセルフケア用の心理療法を実行する治療モジュールとを記憶する記憶装置と、
ユーザによって操作されるユーザ端末と、を少なくとも含む月経随伴症状の治療、予防、またはセルフケアするためのシステムであって、
前記月経随伴症状を診断するために用いられる複数の項目を含む記録である症状メモリの統計処理やAI処理が行われユーザの月経随伴症状がクラスター分けされ、クラスタに応じた前記治療モジュールが提供されることを特徴とするシステム。
【請求項2】
月経随伴症状を診断するために用いられる、少なくとも精神的症状に関する項目を含む複数の項目を含む記録である症状メモリと、
月経随伴症状の治療、予防またはセルフケア用の認知行動療法に基づく治療モジュールとを記憶する記憶装置と、
ユーザによって操作されるユーザ端末と、を少なくとも含む月経随伴症状の治療、予防、またはセルフケアするためのシステムであって、
前記月経随伴症状を診断するために用いられる複数の項目を含む記録である症状メモリの統計処理やAI処理が行われユーザの月経随伴症状がクラスター分けされ、クラスタに応じた前記治療モジュールが提供されることを特徴とするシステム。
【請求項3】
前記症状メモリでは月経随伴症状に特有の症状に対応した指標や、診断横断的な指標、質問票、心理検査の結果に基づいて統計処理・AI処理が行われ、システムは、心理教育/疾患教育、クラスタ分け、治療モジュールからなり、前記治療モジュール月経随伴症状に特異的な心理療法と診断横断的な心理療法がさらに含まれる請求項1または請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記心理療法を実行する治療モジュールまたは前記認知行動療法に基づく治療モジュールと薬物が併用される請求項1または請求項2に記載のシステム。」

3 申立理由の概要
(1)申立理由1
本件特許1〜本件特許4は、特許法36条6項2号の要件に適合しない特許出願についてなされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2
本件特許1〜本件特許4は、特許法36条6項1号の要件に適合しない特許出願についてなされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3
本件特許1〜本件特許4は、特許法36条4項1号の要件に適合しない特許出願についてなされたものであり、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4
本件特許1〜本件特許4は、特許法29条1項柱書にいう「発明」に該当しないものについてなされたものであり、取り消されるべきものである。

4 当審における申立理由1の判断
(1)本件特許1について
ア 提供の実行主体について
(ア)本件特許の請求項1には、「治療モジュール」が「月経随伴症状の治療、予防またはセルフケア用の心理療法を実行する」ものであって「記憶装置」に記憶されている旨が記載され、さらに、「クラスタに応じた前記治療モジュールが提供される」と記載されている。
(イ)上記(ア)の記載に関連して、本件特許の明細書等には、次のとおり記載されている。
「【0010】
(治療用アプリを含むシステムの構成)
本発明の一実施形態として、インターネット上に設置されたネットワークシステムにインストールされたプログラムを挙げる。ネットワークシステムは、サーバやクラウド上の大容量の記憶装置を備え、ノートパソコンやスマートフォン、タブレットなどのユーザ端末がインターネットを介して接続されたサーバであり、このサーバ装置は、本実施形態に係るプログラムを実行することで、ユーザ端末とのデータ通信を通じて、ユーザ端末から入力された情報や、サーバの記憶装置に格納されている情報を用いてユーザ端末を介してユーザに月経随伴症状の治療や緩和をもたらす治療用アプリや月経随伴症状に関わる疾患教育等の各種情報を提供するものである。また、本システムはサーバとユーザ端末が協同して利用者、患者の月経随伴症状の精神的な症状や心因的な痛みなどの身体症状を改善する例として示したが、すべての要素をサーバ側だけに保持し、ユーザ端末は情報入出力と情報表示のためだけに用いるシステム、あるいは、必要なデータやプログラムをユーザ端末にダウンロードして、すべての処理をユーザ端末で実行できるシステムも本発明の範囲に含まれる。
【0011】
図1にユーザ端末101とサーバ106を含むネットワークシステム100の構成の概略を示した。ユーザ端末101は、インターネット110を介してユーザサーバ106と通信するための通信部102、個人情報や、データ、プログラムを記録するための記憶装置104、表示装置105、ユーザからの入力を受け付ける入力装置111、これらの制御を行う制御装置103などを含む。サーバ106は、インターネット110を介してユーザ端末101と通信するための通信部108、大容量の記憶装置109、および制御装置107などを含む。制御装置107には、通信部108を介してユーザ端末101と通信するための通信制御プログラムが実装されているとともに、記憶装置109に構築されたデータベースを管理するプログラムと、ユーザの現在の月経周期(以下、現月経周期)における基礎体温の変動を算出する専用のプログラム(以下、基礎体温算出プログラムとも言う)や、治療用アプリのサーバ側プログラム、治療用アプリの治療用のモジュールであるワークや疾患教育の動画などのデータが実装されている。そして、サーバ側の治療用プログラムは、ユーザ側の治療用アプリと連携して診断・治療を実行し、制御装置107が治療に必要な情報を通信制御プログラムやデータベース管理プログラムと連携させながらユーザ端末に提供する。それによってサーバ106による診断・治療あるいはセルフケアがユーザに提供される。この例では治療用アプリはサーバ側部分とユーザ端末側部分に分けられ、診断・治療またはセルフケアが実行される例を示すが、必要なプログラム・データ等をすべてユーザ端末101にダウンロードし、ユーザ端末101で独立して実行できる構成としてもよい。または、ユーザー端末101は入力手段および表示手段としてのみ機能し、サーバ106はユーザ端末101からの入力に基づいてプログラムを実行するように構成してもよい。」
「【0032】
続いて、ユーザに対して、そのユーザの分類されたクラスターに応じた治療モジュールが、典型的には8週間にわたって提供される。つまり、記憶装置109にはクラスターと治療に用いる治療モジュールの対応関係を示したリストが記憶されており、制御装置107はこのリストに応じて、ユーザ端末101に送信する治療モジュールをユーザのクラスタ分けの結果に基づいて決定する。なお、このリストは治療アプリの実施後に再度アセスメントを行い治療効果を検証した際に効果が見られなかった場合に更新することができる。また、この更新はAIを用いて自動的に行うこともできる。また、予め質問票や心理検査の回答結果と治療モジュールの治療効果の教師データを記憶装置109に記憶させ、個人の質問票や心理検査の回答と対応する治療用モジュールを治療の都度、AIで決定し、ユーザ端末101に送信するようにしてもよい。
【0033】
次に、ユーザ端末101で実行されている治療用アプリは、受信した治療モジュールを患者に対して実行する機能を有している。治療用アプリは、各疾患に特有な場面、状況等に対して、各クラスターに適切な技法で、当該疾患に応じた健康で新しい行動パターンの学習/獲得を目指すための心理的介入を行う。例えば、アセスメントにおいて、クラスター1(「情緒不安」の得点が平均的な水準より高い)に分類された患者であれば、「注意訓練」を実施する。「注意訓練」とは、問題に対して過度に注意を向けるのではなく、注意の向け方を分散させることを目的とする。この注意訓練は、ユーザ端末101を介して患者に提供され、典型的には、音声又はテキストによる、注意訓練実施項目の説明と注意訓練用の音声、チャットボット形式の治療用アプリを含む治療用システムとの対話から構成される。また、治療モジュールには、分類されたクラスターに対応して、患者が実行するべきホームワークが用意されている。治療モジュールとしてホームワークが選択される場合、記憶装置109に記憶され、治療モジュール毎にリンク付けされたホームワークをユーザ端末101に提供することが出来る。係るホームワークは、患者が実施すると症状の改善が期待でき、且つ、患者の主体性を向上させる様な内容に、予め編集されている。」
(ウ)上記(ア)の請求項1の文言上、「治療モジュール」が「記憶装置」から「提供」されることは、明らかであるところ、上記(イ)の明細書の段落【0010】の「必要なデータやプログラムをユーザ端末にダウンロードして、すべての処理をユーザ端末で実行できるシステムも本発明の範囲に含まれる」の記載及び段落【0011】の「この例では治療用アプリはサーバ側部分とユーザ端末側部分に分けられ、診断・治療またはセルフケアが実行される例を示すが、必要なプログラム・データ等をすべてユーザ端末101にダウンロードし、ユーザ端末101で独立して実行できる構成としてもよい。」の記載からみて、この「記憶装置」は、「ユーザ端末101」と「サーバ106」を含む「ネットワークシステム100」のうち、サーバ106の記憶装置109とユーザ端末101の記憶装置104のいずれであってもかまわないものとされている。
さらに、明細書の段落【0032】の「ユーザに対して、そのユーザの分類されたクラスターに応じた治療モジュールが、典型的には8週間にわたって提供される」「ユーザ端末101に送信する治療モジュール」の記載及び段落【0033】の「ユーザ端末101で実行されている治療用アプリは、受信した治療モジュールを患者に対して実行する機能を有している」の記載からみて、「ユーザ端末101」が「治療モジュール」を患者であるユーザに対して実行する機能を有していることから、患者であるユーザに対して「治療モジュール」が「提供」されるとは、患者であるユーザに対して実行されるべき「治療モジュール」がサーバ106の記憶装置109又はユーザ端末101の記憶装置103から読み出され、「ユーザ端末101」において読み出された「治療モジュール」が実行される旨を包括的に示しているのであって、「ネットワークシステム101」以外の情報処理装置(ユーザ端末でもサーバでもない情報処理装置)による「治療モジュール」の「提供」が想定されていないことは、明らかである。
(エ)以上によれば、「治療モジュール」の「提供」の主体は、「ネットワークシステム100」であって、具体的にはこの「ネットワークシステム100」に含まれる「記憶装置109を有するサーバ106」と「記憶装置103を有するユーザ端末101」のいずれかであることが明らかであるといえる。
よって、請求項1の記載は、明確性要件に適合する。
(オ)申立人は、提供の実行主体について「治療モジュール」の「提供」を行う実行主体が、「システム」なのか、それ以外なのかが、明確でなく、システム以外の実行主体が「システム」に「提供」する態様を含み得、また、治療モジュールの特定等の情報処理の記載がなく、「システム」以外の実行主体が治療モジュールの特定等を行ったものを「システム」が提供する態様を含み得ると主張している。
しかし、上記(ア)〜(エ)に照らせば、「治療モジュール」の「提供」の主体がシステム以外である態様は含まれていないし、後述イ及びウに照らせば、「システム」以外の実行主体が治療モジュールの特定等を行ったものを「システム」が提供する態様も含まれていないことが明らかである。よって、申立人の主張を採用することはできない。

イ 統計処理やAI処理の実行について
(ア)本件特許の請求項1には、「システム」が「月経随伴症状の治療、予防、またはセルフケアするため」のものである旨及び「前記月経随伴症状を診断するために用いられる複数の項目を含む記録である症状メモリの統計処理やAI処理が行われユーザの月経随伴症状がクラスター分けされ、クラスタに応じた前記治療モジュールが提供される」旨が記載されており、これらの記載を踏まえれば、「システム」において「提供」される「治療モジュール」は、クラスター分けされた「月経随伴症状」の患者に対して実行されるものである必要があり、そのためのクラスター分けやクラスター分けのための統計処理やAI処理を「システム」が行うことは、明らかである。クラスタに応じた治療モジュールを決定する処理に関しても同様であり、「システム」が行うことは当然のことである。
(イ)上記(ア)の記載に関連して、本件特許の明細書等には、次の記載がある。
「【0030】
次に、各ユーザの質問票や心理検査への回答を用いて各ユーザを症状ごとのクラスターへ、それぞれの回答結果の統計処理あるいはAIを用いて制御装置107または制御装置103で分類する。処理の一例を示すと、月経周期2周期分の各項目についての平均スコアに基づいて、それぞれのユーザの症状を(1)情緒不安、(2)身体不快感、(3)イライラ、(4)乳房・身体への過敏症、(5)痛み、(6)食行動への影響、のクラスターに分類する。ここで、ユーザの前述の質問票や心理検査結果の(A)〜(G)、(H)〜(M)、(N)〜(Q)、(R)〜(U)、(V)〜(X)、(Y)〜(Z)の各群の平均値を算出し、それぞれの群の平均値を比較し、(A)〜(G)の平均値が高い場合は(1)に、(H)〜(M)の平均値が高い場合は(2)に、(N)〜(Q)の平均値が高い場合は(3)に、(R)〜(U)の平均値が高い場合は(4)に、(V)〜(X)の平均値が高い場合は(5)に、(Y)〜(Z)の平均値が高い場合は(6)の各クラスターに分類する。あるいは、(A)〜(G)、(H)〜(M)、(N)〜(Q)、(R)〜(U)、(V)〜(X)、(Y)〜(Z)それぞれの群におけるスコアの高群と低群の区別や、それぞれの群間における組み合わせのパターンに対してクラスター分析を行って(1)〜(6)の各クラスターに分類してもよい。」
「【0032】
続いて、ユーザに対して、そのユーザの分類されたクラスターに応じた治療モジュールが、典型的には8週間にわたって提供される。つまり、記憶装置109にはクラスターと治療に用いる治療モジュールの対応関係を示したリストが記憶されており、制御装置107はこのリストに応じて、ユーザ端末101に送信する治療モジュールをユーザのクラスタ分けの結果に基づいて決定する。なお、このリストは治療アプリの実施後に再度アセスメントを行い治療効果を検証した際に効果が見られなかった場合に更新することができる。また、この更新はAIを用いて自動的に行うこともできる。また、予め質問票や心理検査の回答結果と治療モジュールの治療効果の教師データを記憶装置109に記憶させ、個人の質問票や心理検査の回答と対応する治療用モジュールを治療の都度、AIで決定し、ユーザ端末101に送信するようにしてもよい。
【0033】
次に、ユーザ端末101で実行されている治療用アプリは、受信した治療モジュールを患者に対して実行する機能を有している。治療用アプリは、各疾患に特有な場面、状況等に対して、各クラスターに適切な技法で、当該疾患に応じた健康で新しい行動パターンの学習/獲得を目指すための心理的介入を行う。例えば、アセスメントにおいて、クラスター1(「情緒不安」の得点が平均的な水準より高い)に分類された患者であれば、「注意訓練」を実施する。「注意訓練」とは、問題に対して過度に注意を向けるのではなく、注意の向け方を分散させることを目的とする。この注意訓練は、ユーザ端末101を介して患者に提供され、典型的には、音声又はテキストによる、注意訓練実施項目の説明と注意訓練用の音声、チャットボット形式の治療用アプリを含む治療用システムとの対話から構成される。また、治療モジュールには、分類されたクラスターに対応して、患者が実行するべきホームワークが用意されている。治療モジュールとしてホームワークが選択される場合、記憶装置109に記憶され、治療モジュール毎にリンク付けされたホームワークをユーザ端末101に提供することが出来る。係るホームワークは、患者が実施すると症状の改善が期待でき、且つ、患者の主体性を向上させる様な内容に、予め編集されている。」
(ウ)上記(イ)で摘記した明細書の記載では、「情緒不安」を含む6のクラスターにクラスター分類を行い、「情緒不安」のクラスターについて「注意訓練」の実施に係るホームワークを用意する治療モジュールを提供する旨が例示されている。この記載は、上記(ア)で示した、「システム」において「提供」される「治療モジュール」について、クラスタに応じた治療モジュールを決定する処理を「システム」が行うことが請求項1の記載において当然のことであるとする解釈と整合している。
さらに、上記ア(ウ)に示した段落【0010】【0011】の記載や上記(イ)の段落【0030】の「各ユーザの質問票や心理検査への回答を用いて各ユーザを症状ごとのクラスターへ、それぞれの回答結果の統計処理あるいはAIを用いて制御装置107または制御装置103で分類する」との記載からみて、統計処理やAI処理を行う主体がサーバ106の制御装置107とユーザ端末101の制御装置103のいずれかであることも明らかである。
(エ)以上によれば、「システム」が「統計処理やAI処理」を行うことで提供される「治療モジュール」が特定されることは明らかであり、請求項1の記載は、明確性要件に適合する。
(オ)申立人は、統計処理やAI処理によるクラスター分けの実行主体が、「システム」なのか、それ以外なのかが、明確でないと主張するが、上記(ア)〜(エ)に照らせば、統計処理やAI処理によるクラスター分けの実行主体が、「システム」であることが明らかである。また、請求人は、症状メモリの統計処理と症状メモリのAI処理の両方が行われることを規定しているのか、いずれか一方が行われるのかが明確でなく、両方が行われる場合について開示がない、とも主張しているが、請求項1の「統計処理やAI処理が行われ」の記載における「や」が少なくともいずれか一方の趣旨を示す助詞であることは明らかであって、この理解は、明細書の上記(ウ)に示した段落【0030】の記載や段落【0025】(摘記省略)の「ここでは、症状と介入プログラムとの対応関係のリストを参照して、各種介入プログラムをユーザに提供しているが、症状と介入プログラムの対応関係は症状と介入プログラムの治療効果のデータの統計処理やAIによって導き出して、症状に応じた介入プログラムをユーザに提供するようにしてもよい。」という記載とも整合している。そもそも「統計処理やAI処理」としてどのようなことを行うかは、発明特定事項としていないのであり、このことを踏まえれば、両方が行われる場合について開示がないことは、特許請求の範囲の記載要件違反とは関係がない。(後述5で検討する実施可能要件の観点からみても、上記(イ)の例示で十分であるといえる。)よって、申立人の主張を採用することはできない。

ウ クラスタに応じて提供される治療モジュールについて
(ア)本件特許の請求項1の「ユーザの月経随伴症状がクラスター分けされ、クラスタに応じた前記治療モジュールが提供される」の記載がクラスター分けされた月経随伴症状の患者であるユーザに対して実行されるべき「クラスタに応じ」た「治療モジュール」が提供される趣旨の記載であることは明らかである。
(イ)発明の詳細な説明に記載された課題は、「特に身体に物理的な刺激を与えることなく、また経口によらず、月経前及び/又は月経中の、身体的及び/又は精神的不快症状を手軽に、かつ安全に緩和すること」(段落【0006】)であり、上記(ア)の請求項1の記載がこの課題の解決のための構成を特定するものであることは明らかである。
また、上記(ア)の請求項1の記載に関連して、本件特許の明細書等には、上記イ(イ)に摘記した例示記載があり、請求項1の記載は、この例示記載と整合しているといえる。
(ウ)以上によれば、上記(ア)に示した請求項1の記載は、明確性要件に適合する。
(エ)申立人は、クラスタに応じて提供される治療モジュールについて、各ユーザに対してどのような治療モジュールが提供されるかが明確でない、ユーザの月経随伴症状がどのような基準で各クラスタに分類されるのか、および、各クラスタに対してどのような治療モジュールを提供するのかが規定されておらず、発明の詳細な説明に記載された本願発明の課題をどのような情報処理により解決するかが明確でない、と主張しているが、上記(ア)〜(ウ)に照らして、この主張を採用することはできない。
さらに、申立人は、治療モジュールが「月経随伴症状」ごと、もしくは「月経随伴症状」のクラスタ毎に準備されているか否かが明確でなく、クラスタ分類によらずに、各ユーザに同一の治療モジュールを提供する内容を含み得る記載となっている等とも主張しているが、上記(ア)に示したとおり、請求項1の「ユーザの月経随伴症状がクラスター分けされ、クラスタに応じた前記治療モジュールが提供される」の記載は、クラスター分けされた月経随伴症状の患者であるユーザに対して実行されるべき「クラスタに応じ」た「治療モジュール」が提供される趣旨の記載であることが明らかであって、クラスタ分類によらずに、各ユーザに同一の治療モジュールを提供するものではないことが明らかであるから、この主張も採用することはできない。

(2)本件特許2〜本件特許4について
本件特許2に係る請求項2の記載は、「治療モジュール」に係る「療法」が「心理療法」でなく「認知行動療法」である点を除いて、請求項1の記載と同じである。また、本件特許3及び本件特許4に係る請求項3及び請求項4は、いずれも、請求項1又は請求項2を被引用請求項とする請求項である。
そして、本件特許2〜本件特許4についての申立理由は、実質的には本件特許1に対する申立理由と同じであり、上記(1)に照らして、いずれも採用することができない。

(3)小括
以上のとおり、請求項1〜請求項4の記載は、特許法36条6項2号の要件に適合するものであり、申立理由1は、理由がない。

5 当審における申立理由2〜4の判断
(1)申立理由2について
ア 本件特許1について
(ア)本件特許の請求項1の記載は、上記4の(1)ア(ア)、(1)イ(ア)及び(1)ウ(ア)のとおりであり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記4の(1)ア(イ)、(1)イ(イ)及び(1)ウ(イ)のとおりである。
(イ)上記4に示したとおり、(ア)の請求項1の記載は、(ア)の発明の詳細な説明に整合する内容となっているといえる。よって、本件特許の請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載したものであり、サポート要件に適合する。

イ 本件特許2〜本件特許4について
上記4(2)に示した申立理由1についてと同様に、本件特許2〜本件特許4についての申立理由2は、実質的には本件特許1に対する申立理由2と同じであり、上記アに照らして、いずれも採用することができない。

ウ 申立人の主張について
申立人の主張は、実質的に上記4で検討した申立理由1の主張を申立理由2の主張としたものにすぎず、採用することはできない。

エ 小括
以上のとおり、請求項1〜請求項4の記載は、特許法36条6項1号の要件に適合するものであり、申立理由2は、理由がない。

(2)申立理由3について
ア 本件特許1について
(ア)本件特許の請求項1の記載は、上記4の(1)ア(ア)、(1)イ(ア)及び(1)ウ(ア)のとおりであり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記4の(1)ア(イ)、(1)イ(イ)及び(1)ウ(イ)のとおりである。
(イ)上記4に示したとおり、(ア)の請求項1の記載は、(ア)の発明の詳細な説明に整合する内容となっており、さらには、本件特許の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明の実施のために必要となる例示の記載を含むものとなっていることから、実施可能要件に適合することが明らかである。

イ 本件特許2〜本件特許4について
上記4(2)に示した申立理由1についてと同様に、本件特許2〜本件特許4についての申立理由3は、実質的には本件特許1に対する申立理由3と同じであり、上記アに照らして、いずれも採用することができない。

ウ 申立人の主張について
申立人の主張は、実質的に上記4で検討した申立理由1の主張を申立理由3の主張としたものにすぎず、採用することはできない。

エ 小括
以上のとおり、本件特許1〜本件特許4に係る発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号の要件に適合するものであり、申立理由3は、理由がない。

(3)申立理由4について
ア 本件明細書等の記載は、上記4の(1)ア(イ)、(1)イ(イ)及び(1)ウ(イ)のとおりであり、この記載によれば、本件特許発明1〜本件特許発明4においては、動作主体であるシステムが、該システムの構成である「症状メモリ」、「記憶装置」及び「ユーザ端末」を用いて「前記月経随伴症状を診断するために用いられる複数の項目を含む記録である症状メモリの統計処理やAI処理」による「ユーザの月経随伴症状」の「クラスター分け」及び「クラスタに応じた前記治療モジュール」の「提供」の情報処理が実現されている。このことを踏まえれば、本件特許発明1〜本件特許発明4は、いずれも、特許法上の発明に該当するといえる。

イ 申立人の主張は、申立理由1〜3についての主張と実質的に同じものであり、いずれも、本件特許発明1〜本件特許発明4が特許法上の「発明」に該当しないことの主張になっていない。

ウ 小括
以上のとおり、本件特許発明1〜本件特許発明4は、いずれも特許法上の「発明」に該当し、特許法29条1項柱書の規定の適用がある。よって、申立理由4は、理由がない。

6 むすび
以上のとおり、申立人の申立理由1〜4はいずれも理由がなく、これらの申立理由によって、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-09-25 
出願番号 P2022-171175
審決分類 P 1 651・ 536- Y (G16H)
P 1 651・ 15- Y (G16H)
P 1 651・ 537- Y (G16H)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 松尾 俊介
相崎 裕恒
登録日 2022-11-22 
登録番号 7181540
権利者 ロゴスサイエンス株式会社
発明の名称 月経に伴う身体的及び/又は精神的不快症状の改善システム  
代理人 松下 亮  

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