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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  D03D
審判 全部申し立て 2項進歩性  D03D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D03D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D03D
管理番号 1403682
総通号数 23 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-06-02 
確定日 2023-10-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第7183344号発明「ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7183344号の請求項1〜10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7183344号の請求項1〜10に係る特許についての特願2021−108824号に係る出願は、令和3年6月30日の出願であって、令和4年11月25日にその特許権の設定登録がされ、同年12月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年6月2日に特許異議申立人 野田澄子(以下「申立人」という。)により、全請求項に対して本件特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
特許第7183344号の請求項1〜10に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1〜10を「本件発明」と総称することもある。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロスであって、シランカップリング剤で表面処理されており、かつ前記ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物が、5.00×10−3個/μm以下の範囲であるガラスクロス。
【請求項2】
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて2.0×10−3以下である、請求項1に記載のガラスクロス。
【請求項3】
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて1.7×10−3以下である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項4】
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて1.5×10−3以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項5】
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて1.2×10−3以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項6】
前記ガラス糸を構成するガラスのバルク誘電正接が、10GHzにおいて1.0×10−3以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項7】
前記シランカップリング剤が、下記一般式(1):
X(R)3−nSiYn ・・・(1)
(式中、Xは、アミノ基、及びラジカル反応性を有する不飽和二重結合基の1つ以上を有する有機官能基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、Rは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基から成る群より選ばれる基である)
で示されるシランカップリング剤を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項8】
プリント配線板基材用である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のガラスクロスと、熱硬化性樹脂と、無機充填材とを含有することを特徴とする、プリプレグ。
【請求項10】
請求項9に記載のプリプレグを含むことを特徴とする、プリント配線板。」

第3 申立理由の概要
申立人は、以下に示す甲第1号証〜甲第12号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、本件発明1〜10に係る特許は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。

1 申立理由1(拡大先願)
本件発明1〜5、8〜10は、その出願の日前の特許出願(特願2020−104456号。甲1に係る特許出願、以下、「先願」という。)であって、本件特許の出願後に出願公開がされた願書に最初に添付された明細書又は請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

2 申立理由2(甲2に基づく新規性
本件発明1及び8は、甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

3 申立理由3−1(甲2に基づく進歩性
本件発明1〜10は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

4 申立理由3−2(甲3に基づく進歩性
本件発明1〜10は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

5 申立理由4(明確性
本件発明1の「ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物が、5.00×10−3個/μm以下の範囲である」の意味内容を理解できず、明確でなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

6 証拠方法
甲1:特開2021−195689号公報
甲2:特開平9−13263号公報
甲3:特開2021−63320号公報
甲4:特開2020−194888号公報
甲5:国際公開第2014/049877号
甲6:鈴木芳治、前川善一郎、▲浜▼田泰以(当審注:▲浜▼は、「浜」の異字体)、幾田信生「アクリルシランの吸着挙動がガラスクロス積層材料の力学的性質に及ぼす影響」、SEN−I GAKKAISI(報文) Vol.49,No.2(1993)
甲7:宮里桂太、鈴木芳治「ガラス繊維とガラスクロス」、エレクトロニクス実装学会誌 Vol.4 No.2(2001)
甲8:特開2019−183297号公報
甲9:特開2020−2520号公報
甲10:谷村利介「プリント配線板用ガラスクロス入門」、(社)日本プリント回路工業会、2003年8月28日 第1版第1刷発行、p136−137
甲11:矢木敏博、鈴木実、下村司、吉岡真一「品種,栽培法を異にする馬鈴薯澱粉の灰分について(第1報)」、澱粉化学 第20巻第2号(1973)
甲12:特開2007−262632号公報

第4 当審の判断
以下に記載のとおり、申立人の申立理由1〜4には理由がないと判断する。
1 申立理由1(拡大先願)について
(1)先願の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲(以下、「先願明細書等」という。)の記載
先願明細書等には、以下の記載がある(下線は参考のため当審が付与したものである。以下同じ。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスクロスに熱処理が施されたアニールド石英ガラスクロスであって、
SiO2含有量が99.5質量%以上で、10GHzでの誘電正接が0.0010未満であり、引張強さがクロス重量(g/m2)当たり1.0N/25mm以上のものであることを特徴とするアニールド石英ガラスクロス。
・・・
【請求項7】
石英ガラスクロスを500℃〜1500℃の温度で加熱処理した後、前記加熱処理した石英ガラスクロスの表面をエッチング液でエッチング処理して、10GHzでの誘電正接が0.0010未満で引張強さがクロス重量(g/m2)当たり1.0N/25mm以上のアニールド石英ガラスクロスとすることを特徴とするアニールド石英ガラスクロスの製造方法。
・・・
【請求項12】
更に、前記エッチング処理した石英ガラスクロスの表面をカップリング剤処理することを特徴とする請求項7から請求項11のいずれか一項に記載のアニールド石英ガラスクロスの製造方法。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術では、5Gなどの高速通信化に伴って要求される誘電特性と引張強さを共に満足する低誘電正接ガラスクロスを得ることができないといった問題がある。
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、誘電正接が低く、引張強さにも優れたアニールド石英ガラスクロスと、高温加熱処理後に強度が回復するアニールド石英ガラスクロスの製造方法を提供することを目的とする。」
「【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明では、石英ガラスクロスに熱処理が施されたアニールド石英ガラスクロスであって、SiO2含有量が99.5質量%以上で、10GHzでの誘電正接が0.0010未満であり、引張強さがクロス重量(g/m2)当たり1.0N/25mm以上、即ち引張強さはクロス重量(g/m2)×1.0N/25mm以上のものであることを特徴とするアニールド石英ガラスクロスを提供する。」
「【0036】
本発明者らは、石英ガラスクロスの誘電正接を石英本来の値に近づけるべく鋭意検討した結果、石英ガラスクロスを構成する石英中に残存するシラノール基を高温で加熱除去し、更にクロスを構成する石英ガラスフィラメント等の表面層を溶解除去することで高強度、低誘電正接のアニールド石英ガラスクロスが得られることを見出し、本発明を完成させた。」
「【0089】
(調製例1:石英ガラスクロス(SQ1)の製造例)
石英ガラス糸をバーナー火炎中に投入し、延伸しながら石英ガラス繊維用集束剤を塗布し、直径7.0μmの石英ガラスフィラメント200本からなる石英ガラスストランドを作製した。次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.2回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製した。
得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が60本/25mm、よこ糸密度が58本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織した。石英ガラスクロスは厚さ0.086mm、クロス重量が85.5g/m2であった。
この石英ガラスクロスを400℃で10時間加熱処理することで繊維用集束剤を除去した。除去後の石英ガラスクロスの誘電正接(10GHz)は0.0011、引張強さは80N/25mmであった。表1に調製例に記載した石英ガラスクロスの基本物性を示す。
なお、上記石英ガラスクロス中のアルカリ金属の総和は0.5ppm、P(リン)は0.1ppm、UおよびThの含有量はそれぞれ0.1ppbであった。各元素の含有量は原子吸光法により測定した(質量換算)。
【0090】
(調製例2:石英ガラスクロス(SQ2)の製造例)
調製例1と同様にして直径5.0μmの石英ガラスフィラメント200本からなる石英ガラスストランドを作製した。次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.4回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製した。
得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が54本/25mm、よこ糸密度が54本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織した。石英ガラスクロスは厚さ0.045mm、クロス重量が42.5g/m2であった。
この石英ガラスクロスを400℃で10時間加熱処理することで繊維用集束剤を除去した。除去後の石英ガラスクロスの誘電正接(10GHz)は0.0011、引張強さは35N/25mmであった。調製例1と同様に表1に基本物性を示す。
【0091】
(調製例3:石英ガラスクロス(SQ3)の製造例)
調製例1と同様にして直径5.0μmの石英ガラスフィラメント100本からなる石英ガラスストランドを作製した。次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.8回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製した。
得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が66本/25mm、よこ糸密度が68本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織した。石英ガラスクロスは厚さ0.030mm、クロス重量が26.5g/m2であった。
この石英ガラスクロスを400℃で10時間加熱処理することで繊維用集束剤を除去した。除去後の石英ガラスクロスの誘電正接(10GHz)は0.0011、引張強さは22N/25mmであった。調製例1と同様に表1に基本物性を示す。
・・・
【0095】
(実施例4)
調製例1で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロス(SQ1)を管壁に穴があいた石英管にロール状に巻いた状態で700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行った。加熱後、8時間かけて室温まで冷却した。
その後、pH13のアルカリ電解水を入れ、70℃に加熱したエッチング槽に上記した石英ガラスクロスをロールから解きほぐしながらクロスを24時間かけて浸漬させて通過することでエッチング処理を行った。エッチング槽には超音波発振装置が設置されており、超音波を印加して行った。
エッチング後連続してイオン交換水で満たされた洗浄槽を通し、乾燥させ石英管に再度巻き取ることで低誘電、高強度のアニールド石英ガラスクロスを作製した。
上記アニールド石英ガラスクロスの誘電正接(10GHz)は0.0001で引張強さは105N/25mmであった。また、アニールド石英ガラスクロスを180°折り曲げても折り目もつかず破断もしなかった。
上記アニールド石英ガラスクロスを0.5質量%のKBM−903(商品名:信越化学工業(株)製、3−アミノプロピルトリメトキシシラン)水溶液に10分間浸漬し、次いで110℃/20分加熱乾燥させて表面処理した。表面処理したアニールド石英ガラスクロスの引張強さを含め、測定した諸物性(誘電正接、引張強さ、柔軟性)を表4に示す。
【0096】
(実施例5)
調製例2で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロス(SQ2)を管壁に穴があいた石英管にロール状に巻いた状態で700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行った。加熱後、8時間かけて室温まで冷却した。
その後、実施例4と同様に、同1条件でエッチング処理を行い、測定した諸物性(誘電正接、引張強さ、柔軟性)を表4に示す。また、同様に表面処理したアニールド石英ガラスクロスの引張強さを表4に示す。
【0097】
(実施例6)
調製例3で製造した幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロス(SQ3)を管壁に穴があいた石英管にロール状に巻いた状態で700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行った。加熱後、8時間かけて室温まで冷却した。
その後、実施例4と同様に、同1条件でエッチング処理を行い、測定した諸物性(誘電正接、引張強さ、柔軟性)を表4に示す。また、同様に表面処理したアニールド石英ガラスクロスの引張強さを表4に示す。」
「【0104】
【表4】



(2) 先願明細書等に記載された発明
上記(1)に記載したように、実施例4〜6の各々に着目すると、先願明細書等には、以下の石英ガラスクロス発明(以下、「先願実施例4発明」等という。)が記載されているものと認められる。
<先願実施例4発明>
「石英ガラス糸をバーナー火炎中に投入し、延伸しながら石英ガラス繊維用集束剤を塗布し、直径7.0μmの石英ガラスフィラメント200本からなる石英ガラスストランドを作製し、次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.2回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製し、得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が60本/25mm、よこ糸密度が58本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織し、この石英ガラスクロスを400℃で10時間加熱処理することで繊維用集束剤を除去して得られた石英ガラスクロス(SQ1)を管壁に穴があいた石英管にロール状に巻いた状態で700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行い、加熱後、8時間かけて室温まで冷却し、その後、pH13のアルカリ電解水を入れ、70℃に加熱したエッチング槽に上記した石英ガラスクロスをロールから解きほぐしながらクロスを24時間かけて浸漬させて通過することでエッチング処理を行い、エッチング後連続してイオン交換水で満たされた洗浄槽を通し、乾燥させ石英管に再度巻き取ったアニールド石英ガラスクロスを0.5質量%のKBM−903(商品名:信越化学工業(株)製、3−アミノプロピルトリメトキシシラン)水溶液に10分間浸漬し、次いで110℃/20分加熱乾燥させて表面処理して得られた表面処理したアニールド石英ガラスクロス。」

<先願実施例5発明>
「石英ガラス糸をバーナー火炎中に投入し、延伸しながら石英ガラス繊維用集束剤を塗布し、直径5.0μmの石英ガラスフィラメント200本からなる石英ガラスストランドを作製し、次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.4回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製し、得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が54本/25mm、よこ糸密度が54本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織し、この石英ガラスクロスを400℃で10時間加熱処理することで繊維用集束剤を除去して得られた石英ガラスクロス(SQ2)を管壁に穴があいた石英管にロール状に巻いた状態で700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行い、加熱後、8時間かけて室温まで冷却し、その後、pH13のアルカリ電解水を入れ、70℃に加熱したエッチング槽に上記した石英ガラスクロスをロールから解きほぐしながらクロスを24時間かけて浸漬させて通過することでエッチング処理を行い、エッチング後連続してイオン交換水で満たされた洗浄槽を通し、乾燥させ石英管に再度巻き取ったアニールド石英ガラスクロスを0.5質量%のKBM−903(商品名:信越化学工業(株)製、3−アミノプロピルトリメトキシシラン)水溶液に10分間浸漬し、次いで110℃/20分加熱乾燥させて表面処理して得られた表面処理したアニールド石英ガラスクロス。」

<先願実施例6発明>
「石英ガラス糸をバーナー火炎中に投入し、延伸しながら石英ガラス繊維用集束剤を塗布し、直径5.0μmの石英ガラスフィラメント100本からなる石英ガラスストランドを作製し、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.8回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製し、得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が66本/25mm、よこ糸密度が68本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織し、この石英ガラスクロスを400℃で10時間加熱処理することで繊維用集束剤を除去して得られた幅1.3mで長さ2000mの石英ガラスクロス(SQ3)を管壁に穴があいた石英管にロール状に巻いた状態で700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行い、加熱後、8時間かけて室温まで冷却し、その後、pH13のアルカリ電解水を入れ、70℃に加熱したエッチング槽に上記した石英ガラスクロスをロールから解きほぐしながらクロスを24時間かけて浸漬させて通過することでエッチング処理を行い、エッチング後連続してイオン交換水で満たされた洗浄槽を通し、乾燥させ石英管に再度巻き取ったアニールド石英ガラスクロスを0.5質量%のKBM−903(商品名:信越化学工業(株)製、3−アミノプロピルトリメトキシシラン)水溶液に10分間浸漬し、次いで110℃/20分加熱乾燥させて表面処理して得られた表面処理したアニールド石英ガラスクロス。」

(3) 本件発明1との対比・判断
ア 先願実施例4発明との対比・判断
本件発明1と先願実施例4発明とを対比する。
先願実施例4発明における「直径7.0μmの石英ガラスフィラメント200本からなる石英ガラスストランドを作製し、次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.2回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製し、得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が60本/25mm、よこ糸密度が58本/25mmの平織の石英ガラスクロス」は、本件発明1の「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロス」に相当する。
先願実施例4発明における「0.5質量%のKBM−903(商品名:信越化学工業(株)製、3−アミノプロピルトリメトキシシラン)水溶液に10分間浸漬し、次いで110℃/20分加熱乾燥させて表面処理して」は、本件発明1の「シランカップリング剤で表面処理されており」に相当する。

そうすると、本件発明1と先願実施例4発明とは、
「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロスであって、シランカップリング剤で表面処理されている、ガラスクロス。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−1>
本件発明1は、「前記ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物が、5.00×10−3個/μm以下の範囲である」と特定するのに対し、先願実施例4発明は、この点を特定しない点。

以下、<相違点1−1>について検討する。
まず、先願実施例4発明における「前記ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物」について、先願明細書等には記載がない。
そして、申立人の提出したその他の証拠をみても、先願実施例4発明において、「ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物」が、「5.00×10−3個/μm以下の範囲である」ことを示すものもない。

申立人は、先願実施例4発明は、ガラスクロスを700℃で加熱処理していることから、「前記ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物が、5.00×10−3個/μm以下の範囲である」蓋然性が高い旨主張する。
確かに、先願実施例4発明は、本件発明1とほぼ同様に「低誘電正接」のガラスクロスを得ることを目的としてなされたものであり、シランカップリング剤で表面処理されているものであるが、シランカップリング剤で表面処理された後の誘電正接は測定されていないから、本件特許の実施例と対比できるものではないし、また、シランカップリング剤の表面処理後には、110℃/20分加熱乾燥させているのみである(上記先願明細書等段落【0095】)。
そして、先願実施例4発明は、「本発明者らは、石英ガラスクロスの誘電正接を石英本来の値に近づけるべく鋭意検討した結果、石英ガラスクロスを構成する石英中に残存するシラノール基を高温で加熱除去し、更にクロスを構成する石英ガラスフィラメント等の表面層を溶解除去することで高強度、低誘電正接のアニールド石英ガラスクロスが得られることを見出し、本発明を完成させた。」(上記(1)の段落【0036】)とされていて、先願実施例4発明においても、「700℃に設定された電気炉に入れ5時間加熱を行」う加熱処理に加えて、「pH13のアルカリ電解水を入れ、70℃に加熱したエッチング槽に上記した石英ガラスクロスをロールから解きほぐしながらクロスを24時間かけて浸漬させて通過することでエッチング処理を行」っている。
そうすると、先願実施例4発明における上記700℃で5時間の加熱は、石英ガラスフィラメントを構成する石英中に残存するシラノール基を除去するために行うものであり、その後の「エッチング処理」により、石英ガラスフィラメント等の表面層が溶解除去されているものであることからみても、本件特許の発明の詳細な説明に記載されているガラスクロスの表面に付着している有機物の処理工程とは異なるものである。
そうすると、申立人の上記主張は失当であって採用できない。

以上のとおりであるから、<相違点1−1>は形式的な相違点ではなく、実質的な相違点であるから、本件発明1は、先願実施例4発明と同一とはいえない。

イ 先願実施例5又は6発明との対比・判断
本件発明1と先願実施例5又は6発明とを対比すると、上記アと同様に、<相違点1−1>で相違し、その判断は、上記アのとおりである。
そうすると、本件発明1は、先願実施例5又は6発明と同一とはいえない。

(4) 本件発明2〜10について
本件発明2〜10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記(3)で検討したのと同じ理由により、本件発明2〜10は、先願実施例4、5又は6発明と同一とはいえない。

(5) まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1には理由がない。

2 申立理由2及び申立理由3−1(甲2に基づく新規性進歩性)について
(1) 甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガラス繊維織物を予備焼きする工程、予備焼きしたガラス繊維織物に水もしくは酸化剤を含む水溶液を付与する工程、水もしくは酸化剤を含む水溶液を付与した状態の予備焼きしたガラス繊維織物を本焼きする工程を含むことを特徴とするガラス繊維織物のヒートクリーニング方法。」
「【0009】
【発明が解決しようとする課題】そこで、ガラス繊維織物の強度を低下させない熱処理温度で、且つヒートクリーニング後のガラス繊維織物上に不純物が残存しないヒートクリーニング時間の短縮技術が望まれている。
【0010】
【課題を解決するための手段】本願発明者等は、前記課題解決のため鋭意検討した結果、ガラス繊維織物の生機に付着している集束剤、糊剤の約90%程度を予備焼き工程により除去し、予備焼きされた織物に、水もしくは酸化剤を含む水溶液を付与し、水もしくは酸化剤を含む水溶液を付与した状態の織物を加熱炉で加熱処理することにより、ガラスの歪点温度よりも低温で短時間にヒートクリーニングが可能であることを見出した。」
「【0017】
【実施例】以下の実施例では、ガラス繊維織物として平織りEガラス繊維織物(旭シュエーベル(株)製、7628、目付210g/m2、集束剤・整経糊剤付着量2%)の生機を準備し、予備焼き工程として、炉長3.5m、炉温570℃、ライン速度15m/minの条件で熱風炉を通過させ、織物白度94%の予備焼きガラス繊維織物を作成した。
〔実施例1〕予備焼きしたガラス繊維織物に、2流体スプレイノズルにより過酸化水素水(有効成分3重量%)をガラス繊維織物に対して10重量%付与した後、過酸化水素水を保持させたまま本焼き工程として、炉長0.5m、ライン速度1m/min、炉内温度600℃の管状電気炉に通過させヒートクリーニングガラス繊維織物を得た。
〔実施例2〕予備焼きしたガラス繊維織物に、2流体スプレイノズルにより水をガラス繊維織物に対して10重量%付与した後、水を保持させたまま本焼き工程として、炉長0.5m、ライン速度0.5m/min、炉内温度600℃の管状電気炉に通過させヒートクリーニングガラス繊維織物を得た。
〔比較例1〕予備焼きしたガラス繊維織物を、本焼き工程として、炉長0.5m、ライン速度0.1m/min、炉内温度600℃の管状電気炉に通過させヒートクリーニングガラス繊維織物を得た。
〔比較例2〕予備焼きしたガラス繊維織物を、本焼き工程として、炉長0.5m、ライン速度1m/min、炉内温度800℃の管状電気炉に通過させヒートクリーニングガラス繊維織物を得た。
・・・
〔実施例・比較例の製品の評価〕実施例1〜2及び比較例1〜3によるヒートクリーニングガラス繊維織物(脱糊織物という)について、下記の試験を行った結果を表1にまとめて示す。表1で明らかなように、実施例1〜2によるガラス繊維織物は、短時間の本焼き処理で脱糊が可能であり、しかも織物の残留残査量及び白度並びに使用性能について優れている。
・試験方法
(1)ヒートクリーニングガラス繊維織物の残留残査量(脱糊織物の残査量という)の測定
JIS R 3420〜1989 §5.3の「強熱減量」の測定に準じて測定。
(2)脱糊織物白度の測定
脱糊織物を〔株〕ミノルタ製の色差計により標準白度板上に置いたガラス繊維織物にキセノンランプ光を照射し、その照射光量に対する反射光量の比率(%)を測定した。
(3)表面処理織物引張強度測定
脱糊織物に以下の方法でエポキシシランSH−6040(東レシリコン〔株〕製)で表面処理し、処理織物について、JIS R 3020−1989 §5.4(定速荷重形引張試験機)に準じて測定した。
【0018】エポキシシランSH−6040の1重量%水溶液に脱糊織物を浸漬し、次いでガラス脱糊織物に対し約20重量%の処理液保持率になるように絞液した後、170℃の熱風によって乾燥し表面処理織物を調製した。
(4)積層板ハンダ耐熱性評価試験
【0019】
【表1】

【0020】「表面処理織物引張強度試験」におけると同じ方法で表面処理した脱糊織物を、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂DER514(ダウケミカル日本(株)製)85重量部(固形)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂N690(大日本インキ化学工業(株)製)15重量部(固形)、N,N′−ジメチルホルムアミド10重量部、メトキシエタノール10重量部、ジシアンジアミド2.4重量部および2−エチル−4−メチルイミダゾール0.2重量部を配合してエポキシ樹脂ワニスに浸漬し、乾燥して樹脂分42重量%のプリプレグを調製した。
【0021】次に、このプリプレグを4枚重ね、その両表層に厚さ18μmの銅箔を重ね、真空プレスを用いて、10torrの減圧下に120℃で30分、次いで常圧下に175℃で60分間、40Kg/cm2の条件で加熱加圧して一体に成形し、厚さ0.8mmの銅張り積層板を得た。さらに、エッチング液で銅箔を全面エッチアウトした後、水洗し、風乾して、吸湿はんだ耐熱性試験用積層板とした。」

(2) 甲2に記載された比較例2に着目すると、甲2には、「ヒートクリーニングガラス繊維織物」に表面処理した織物の引張強度を測るときの織物として、以下の甲2比較例2発明が記載されていると認める。
<甲2比較例2発明>
「ガラス繊維織物として平織りEガラス繊維織物(旭シュエーベル(株)製、7628、目付210g/m2、集束剤・整経糊剤付着量2%)の生機を準備し、予備焼き工程として、炉長3.5m、炉温570℃、ライン速度15m/minの条件で熱風炉を通過させ、織物白度94%の予備焼きガラス繊維織物を作成し、予備焼きしたガラス繊維織物に、本焼き工程として、炉長0.5m、ライン速度1m/min、炉内温度800℃の管状電気炉に通過させてガラス脱糊織物を得、エポキシシランSH−6040の1重量%水溶液に該ガラス脱糊織物を浸漬し、次いでガラス脱糊織物に対し約20重量%の処理液保持率になるように絞液した後、170℃の熱風によって乾燥して得た表面処理織物ヒートクリーニングガラス繊維織物。」

(3) 本件発明1との対比・判断
本件発明1と甲2比較例2発明とを対比する。
甲2比較例2発明における「平織りEガラス繊維織物(旭シュエーベル(株)製、7628、目付210g/m2、集束剤・整経糊剤付着量2%)」は、本件発明1の「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロス」に相当する。
甲2比較例2発明における「エポキシシランSH−6040の1重量%水溶液に該ガラス脱糊織物を浸漬し、次いでガラス脱糊織物に対し約20重量%の処理液保持率になるように絞液した後、170℃の熱風によって乾燥」されていることは、本件発明1の「シランカップリング剤で表面処理されており」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2比較例2発明とは、
「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロスであって、シランカップリング剤で表面処理されている、ガラスクロス。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2−1>
本件発明1は、「前記ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物が、5.00×10−3個/μm以下の範囲である」と特定するのに対し、甲2比較例2発明は、この点を特定しない点。

以下、<相違点2−1>について検討する。

新規性について
甲2比較例2発明における「前記ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物」について、甲2には記載がない。また、甲2においては、脱糊織物の残渣量として、「(1)ヒートクリーニングガラス繊維織物の残留残査量(脱糊織物の残査量という)の測定、JIS R 3420−1989 §5.3の「強熱減量」の測定に準じて測定」(【0017】)により脱糊織物の残渣量が0.03%(甲2の第1表)であったことが記載されているが、これは脱糊織物についてであって、シランカップリング処理された後の脱糊織物についてではないし、甲2比較例2発明の脱糊織物の残査量と「前記ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物」との関係は不明であって、当該0.03%が、本件発明1の<相違点2−1>に係る構成である「5.00×10−3個/μm以下」を満たすという証拠もない。
そして、申立人の提出したその他の証拠をみても、甲2比較例2発明においての「ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物」が、「5.00×10−3個/μm以下の範囲である」ことを示す証拠はない。
そうすると、<相違点2−1>は、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点であって、本件発明1は、甲2比較例2発明でない。

申立人は、甲2比較例2発明においても「予備焼きしたガラス繊維織物に、2流体スプレイノズルにより過酸化水素水(有効成分3重量%)をガラス繊維織物に対して10重量%付与した後、過酸化水素水を保持させたまま本焼き工程として、炉長0.5m、ライン速度1m/min、炉内温度800℃の管状電気炉に通過させてガラス脱糊織物を得」ているとの技術的事項を備えていることから、<相違点2−1>の発明特定事項を満たしている蓋然性が高い旨主張する。
しかし甲2には、当該技術的事項は、ガラスクロスに付着している有機物を効率よく除去する手段として記載されているのであり、ガラスクロスを650℃よりも高い温度で加熱処理することで、必ず、「ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物」が、「5.00×10−3個/μm以下の範囲」のものとなるとは、下記の理由でいえない。
すなわち、本件特許の明細書において、高温での加熱は、ガラスクロスに付着している有機物を効率よく除去する手段として記載されているものの、ガラスクロスに付着している有機物の除去の程度は、繊維用集束剤の種類、加熱時の酸素濃度、加熱時間等により異なることは当業者の技術常識といえる。そうすると、加熱処理の温度、及び、時間が本件特許の発明の詳細な説明に記載の温度条件と処理時間を満たすとしても、集束剤の種類や加熱時の酸素濃度等も有機物の除去の程度に影響するのであるから、「ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物」が、「5.00×10−3個/μm以下の範囲」となると判断することができない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

進歩性について
次に、進歩性について検討する。
「シランカップリング剤処理後のガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物が、5.00×10−3個/μm以下の範囲である」ことについて、申立人が提示するいずれの文献にも記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2比較例2発明において、<相違点2−1>に係る発明特定事項とすることは、当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。
よって、本件発明1は、甲2比較例2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4) 本件発明2〜10について
本件発明2〜10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記(3)で検討したのと同じ理由により、本件発明2〜10は、甲2比較例2発明とはいえないし、甲2比較例2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5) まとめ
以上のとおりであるから、申立理由2及び申立理由3-1には理由がない。

3 申立理由3−2(甲3に基づく新規性進歩性)について
(1) 甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2組成量が96.0〜100.0質量%含まれるガラスフィラメントからなる加熱処理シリカガラスクロスであって、
前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHz以上で0.0015以下であり、
前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.7以下のものであることを特徴とする加熱処理シリカガラスクロス。
【請求項2】
前記加熱処理シリカガラスクロスは、前記非加熱処理シリカガラスクロスの450℃〜1650℃、1分〜72時間加熱処理体であることを特徴とする請求項1に記載の加熱処理シリカガラスクロス。
【請求項3】
前記加熱処理シリカガラスクロスが、平均フィラメント径が3μm〜20μmのガラスフィラメントを10本〜400本の本数で束ねたガラスストランドに対して、1m当たり4回〜40回の撚りを掛けて、番手の大きさが0.5〜40texとしたガラスヤーンを製織してなるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加熱処理シリカガラスクロス。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の加熱処理シリカガラスクロスと、前記加熱処理シリカガラスクロスに含浸された硬化性樹脂とからなるものであることを特徴とするプリプレグ。
【請求項5】
請求項4に記載のプリプレグを備えるものであることを特徴とするプリント配線基板。
【請求項6】
加熱処理シリカガラスクロスの製造方法であって、
SiO2組成量が96.0〜100.0質量%含まれるガラスフィラメントからなる非加熱処理シリカガラスクロスを準備する工程と、
前記非加熱処理シリカガラスクロスを450℃〜1650℃の温度で、1分〜72時間加熱処理して加熱処理シリカガラスクロスを得る工程を含み、
前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1を、周波数9GHz以上で0.0015以下とし、
前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の前記非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2を0.7以下とすることを特徴とする加熱処理シリカガラスクロスの製造方法。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、誘電正接が低く、伝送損失が小さい基板(「基板」とは、プリプレグ、プリント配線板、又はこれらの積層板等を含む概念である)を作製することのできるシリカガラスクロス、前記シリカガラスクロスを用いたプリプレグ、及びプリント配線板を提供することを目的とする。」
「【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、SiO2組成量が96.0〜100.0質量%含まれるガラスフィラメントからなる加熱処理シリカガラスクロスであって、前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1が、周波数9GHz以上で0.0015以下であり、前記加熱処理シリカガラスクロスの誘電正接tanδ1の非加熱処理シリカガラスクロスの周波数9GHz以上での誘電正接tanδ2に対する比tanδ1/tanδ2が0.7以下のものであることを特徴とする加熱処理シリカガラスクロスを提供する。」
「【0035】
本発明におけるシリカガラスクロスはシリカガラスヤーンを製織して製造することができる。
シリカガラスヤーンとしては、上記シリカガラスフィラメントを束ねてシリカガラスストランドとし、前記シリカガラスストランドに対して、1m当たり4回〜40回の撚りを掛けて、番手の大きさが0.5〜40texとしたシリカガラスヤーンを用いることができる。」
「【0041】
シリカガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の総フィラメント数は特に制限はないが、290,000本/m2以上400,000本/m2以下であることが好ましい。該範囲とすることにより、製織工程、水洗工程、及び開繊工程での、ガラスフィラメントに係る張力や加工圧に対しても、糸切れを生じにくくなり、毛羽立ちを抑制することが可能となる。また、経糸及び緯糸の総ガラスフィラメント数を400,000本/m2以下とすることにより、ガラスクロスの厚さを薄くすることができ、厚さの薄い基板を得ることができる。これにより、従来よりも、薄く、より一層誘電率が低い基板を作製できるガラスクロスを提供することができる。総ガラスフィラメント数は、打ち込み密度や、ガラスフィラメント数を調整することによって制御することができる。」
「【0058】
必要に応じて、シリカガラスヤーンやシリカガラスクロスは、シランカップリング剤等の公知の表面処理剤で表面処理されることが好適である。」
「【0065】
(実施例1)
SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)を電気加熱炉に入れ、500℃で10分加熱を行った。加熱後はクロス形状を維持していた。得られた加熱処理ガラスクロスの誘電正接(tanδ1)を測定し、値を算出したところtanδ1が0.0014であった。処理前との比はtanδ1/tanδ2=0.66であり、良好な結果であった。
・・・
【0067】
(実施例3)
実施例1と同様に、SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)を電気加熱炉に入れ、700℃で5時間加熱を行った。加熱後はクロス形状を維持していた。得られた加熱処理ガラスクロスの誘電正接を測定し、値を算出したところtanδ1が0.0006であった。処理前との比はtanδ1/tanδ2=0.28であり、実施例1より良好な結果であった。
【0068】
(実施例4)
実施例1と同様に、SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)を電気加熱炉に入れ、700℃で10時間加熱を行った。加熱後はクロス形状を維持していた。得られた加熱処理ガラスクロスの誘電正接を測定し、値を算出したところtanδ1が0.0002であった。処理前との比はtanδ1/tanδ2=0.10であり、実施例2より良好な結果であった。
【0069】
(実施例5)
実施例1と同様に、SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)を電気加熱炉に入れ、1100℃で10時間加熱を行った。加熱後はクロス形状を維持していた。得られた加熱処理ガラスクロスの誘電正接を測定し、値を算出したところtanδ1が0.0002であった。処理前との比はtanδ1/tanδ2=0.10であり、実施例4と同様の良好な結果であった。」
「【0072】
実施例及び比較例の結果を表1に示す。




(2) 甲3に記載された発明
甲3の実施例3〜5にそれぞれ着目すると、甲3、甲4又は甲5には、それぞれ加熱処理ガラスクロスとして、以下の発明が記載されていると認める。
<甲3実施例3発明>
「SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)を電気加熱炉に入れ、700℃で5時間加熱を行った加熱処理ガラスクロス。」

<甲3実施例4発明>
「SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)を電気加熱炉に入れ、700℃で10時間加熱を行った加熱処理ガラスクロス。」

<甲3実施例5発明>
「SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)を電気加熱炉に入れ、1100℃で10時間加熱を行った加熱処理ガラスクロス。」

(3) 本件発明1との対比・判断
本件発明1と甲3実施例3、4又は5発明とを対比する。
甲3の段落【0035】及び【0041】の記載から、甲3実施例3、4又は5発明は、複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るものを共通する構成であるといえる。
そうすると、甲3実施例3、4又は5発明において共通する構成である「SiO2が99.9質量%以上でtanδ2が0.0022のシリカガラスクロス(2116)」は、本件発明1の「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロス」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲3実施例3、4又は5発明とのそれぞれを対比すると、以下の点で一致し、かつ、相違する。

<一致点>
「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロス。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3−1>
ガラスクロスに関し、本件発明1は、「シランカップリング剤で表面処理されており」と特定されるとともに、「前記ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物が、5.00×10−3個/μm以下の範囲である」と特定するのに対し、甲3実施例3、4又は5発明は、この点を特定しない点。

以下、<相違点3−1>について検討する。
甲3には、「必要に応じて、シリカガラスヤーンやシリカガラスクロスは、シランカップリング剤等の公知の表面処理剤で表面処理されることが好適である。」(段落【0058】)との記載はあるが、シランカップリング剤処理後の「ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物」についての記載はない。
そして、申立人が提出したいずれの証拠にも、「シランカップリング剤処理後の」「ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物が、5.00×10−3個/μm以下の範囲である」ことについて記載されているものはない。
そうすると、甲3実施例3、4又は5発明において、<相違点3−1>に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者といえども容易に想到し得たこととはいえない。

申立人は、本件発明1と甲3実施例3、4又は5発明との相違点を、「本件発明1は、シランカップリング剤で表面処理されているのに対し、甲3実施例3、4又は5発明は、この点を特定しない点(以下、<相違点3−1−1>という。)と、さらに、本件発明1は、ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物が、5.00×10−3個/μm以下の範囲であると特定するのに対し、甲3実施例3、4又は5発明は、この点を特定しない点(以下<相違点3−1−2>という。)の2つとして、<相違点3−1−1>については、甲3の段落【0058】の記載及びシランカップリング処理を行うことが当業者において周知慣用技術であるから、当業者が容易になし得たことであるとし、<相違点3−1−2>については、上記申立理由1、申立理由2、申立理由3−1と同様に、650℃以上で加熱処理をしていることから実質的な相違点でないと主張している。
当該主張について検討するに、申立人のいう<相違点3−1−1>については、上記1における<相違点1−1>、上記2における<相違点2−1>、上記3における<相違点3−1>で検討したとおりであり、申立人の主張は採用できないものである。
加えて、申立人は、<相違点3−1−2>に関して、実質的な相違点であったとしても、甲2、甲5及び甲6に基づいて当業者が容易に想到し得たことと主張するが、甲2及び甲5からは、ガラスクロス上に残存する有機物を除去した方がよいことが読み取れるに過ぎず、甲6にはシランカップリング剤処理後にメタノール洗浄を行うことが記載されているのみであって、「シランカップリング剤処理後の」「ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物が、5.00×10−3個/μm以下の範囲である」ことは記載も示唆もされていないから、当該主張も採用できない。

よって、本件発明1は、甲3実施例3、4又は5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4) 本件発明2〜10について
本件発明2〜10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(3)で検討したのと同じ理由により、本件発明2〜10は、甲3実施例3、4又は5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5) まとめ
以上のとおりであるから、申立理由3−2には理由がない。

4 申立理由4(明確性)について
(1)発明の詳細な説明の記載について
本件発明1の「ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物が、5.00×10−3個/μm以下の範囲である」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0030】
〔カーボンもしくは有機物の粒状異物〕
本実施形態に係るカーボンもしくは有機物の粒状異物とは、マイクロスコープや走査型電子顕微鏡等によって、ガラスクロスを構成するガラスフィラメントの表面に付着していることが観察される、カーボンもしくは有機物の不定形の粒子である。前記不定形粒子のサイズは、数10nm〜数μmであることが通常であるが、糊剤の種類やヒートクリーニングの条件、表面処理の条件によっては前記のサイズ範囲以外となることもある。一例として、ガラスクロス表面に付着している粒状異物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図1に示す。前記不定形粒子の組成がカーボンであるか、有機物であるか、無機物であるかは、SEM−EDXや顕微ラマン分光測定により判別が可能である。
【0031】
前記カーボンもしくは有機物の粒状異物は、付着頻度が増加するとガラスクロスの誘電正接を上昇させる傾向にある。ガラスクロスを構成する低誘電ガラスの低い誘電正接を発揮させるには、前記カーボンもしくは有機物の粒状異物の付着頻度が5.00×10−3個/μm以下であることが好ましく、4.00×10−3個/μm以下であることがより好ましく、3.00×10−3個/μm以下であることが更に好ましい。また、付着頻度の下限値は、例えば、0個/μmでよく、または0個/μmを超えてよい。」
「【0073】
〔ガラスクロス表面に付着している粒状異物の頻度〕
4cm角サイズに切り出したガラスクロスを、カーボン両面テープを用いて、試料台に張り付けることで、測定の準備を行った。キーエンス社製超深度マルチアングル顕微鏡VHX−D500を用いて、経糸および緯糸に沿って、それぞれ1325μmずつ観察を行う操作を計5回実施し、カウントした粒状異物の数と観察長から、ガラスクロスに付着している粒状異物の頻度を求めた。
<測定条件>
測定モード:超深度観察モード
倍率:1000倍
プリセット:25mm
【0074】
〔粒状異物のラマン分析〕
粒状異物頻度の測定で確認できた粒状異物を、下記の条件でラマン分析することで、粒状異物をカーボン、有機物、無機物の3タイプに大別した。本操作による分類を粒状異物20点に実施することで、各組成分類の付着率を求めた。
<ラマン測定条件>
装置:Renishaws社製 in Via Reflex
レーザー:532nm
照射時間:10sec
レーザーパワー:5%
対物レンズ:×50
【0075】
〔ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物頻度〕
ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物頻度を下記、計算式に従い、求めた。
カーボンもしくは有機物の粒状異物頻度[×10−3 個/μm]=粒状異物頻度[×10−3 個/μm]×(カーボン粒状異物の付着率[%]+有機物の粒状異物付着率[%])÷100」

(2) 判断
当業者は、上記記載をみれば、請求項1の「ガラスクロス表面に付着しているカーボンもしくは有機物の粒状異物」とは、上記段落【0073】〜【0075】に記載された測定方法によって把握できるものであると、当業者であれば理解できるから、請求項1の記載は明確である。また、請求項1を引用する請求項2〜10の記載も明確である。

(3) まとめ
よって、申立理由4には理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2023-10-06 
出願番号 P2021-108824
審決分類 P 1 651・ 113- Y (D03D)
P 1 651・ 537- Y (D03D)
P 1 651・ 121- Y (D03D)
P 1 651・ 16- Y (D03D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 稲葉 大紀
久保 克彦
登録日 2022-11-25 
登録番号 7183344
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板  
代理人 三間 俊介  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 齋藤 都子  
代理人 中村 和広  

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