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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L |
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管理番号 | 1403697 |
総通号数 | 23 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-11-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-07-18 |
確定日 | 2023-10-19 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7207904号発明「パワーモジュール用基板およびパワーモジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7207904号の請求項1〜8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許7207904号の請求項1〜8に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成30年8月24日(優先権主張平成29年8月25日)に出願され、令和5年1月10日にその特許権の設定登録がされ、令和5年1月18日に特許公報が発行された。その後、本件特許の請求項1〜8に係る特許に対し、令和5年7月18日に特許異議申立人 飯田 進(以下「異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。 第2 本件発明 特許7207904号の請求項1〜8の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明8」といい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 セラミック基板と、 該セラミック基板の表面に接合された金属板と、 該金属板に部分的に設けられた金属皮膜と、を備えており、 前記金属板は凹部を有しており、 前記凹部の底面は、複数の結晶粒によって構成されており、 前記凹部の底面において結晶粒界部の少なくとも一部は凹んでおり、 前記結晶粒界部の凹みは、前記凹部の底面において網目状に形成されており、 前記金属皮膜は前記凹部の底面に設けられており、 前記金属皮膜は、前記セラミック基板側に突出する網目状の部分を有しているパワーモジュール用基板。 【請求項2】 前記金属皮膜の側面が、前記凹部の内側面に接している請求項1に記載のパワーモジュール用基板。 【請求項3】 前記金属皮膜の厚みが、前記凹部の深さより小さい請求項1または請求項2に記載のパワーモジュール用基板。 【請求項4】 前記凹部は、底面より開口の方が小さい請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のパワーモジュール用基板。 【請求項5】 前記金属皮膜の前記網目状の部分が前記結晶粒界部の前記凹みの内面を覆って密着している請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のパワーモジュール用基板。 【請求項6】 前記金属皮膜の表面は、前記結晶粒界部の凹みの上部において凹んでいる請求項5に記載のパワーモジュール用基板。 【請求項7】 前記金属皮膜の表面が銀層からなる請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のパワーモジュール用基板。 【請求項8】 請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のパワーモジュール用基板と、 該パワーモジュール用基板の前記金属皮膜上に搭載された電子部品と、を備えるパワーモジュール。」 第3 申立理由の概要 異議申立人は、証拠として甲第1号証〜甲第10号証を提出し、以下の理由により、請求項1〜8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。なお、甲第1号証〜甲第10号証を、以下それぞれ「甲1」〜「甲10」という。 1 申立理由1(特許法第29条第2項) 本件発明1〜8は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて、甲1に記載された発明、甲2に記載された発明及び甲3に記載された発明に基づいて、又は、甲1に記載された発明、甲2に記載された発明、甲3に記載された発明、甲4に記載された発明及び甲5に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 申立理由2(特許法第36条第6項第1号) 本件発明1〜8は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1〜8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 [証拠方法] 甲1 :Habib A. Mustain,外2名、「Transient Liquid Phase Die Attach for High-Temperature Silicon Carbide Power Devices」、IEEE TRANSACTIONS ON COMPONENTS AND PACKAGING TECHNOLOGIES、 VOL.33、NO.3、SEPTEMBER 2010、pp.563-570 甲2 :特開2013−237100号公報 甲3 :久保田賢治、博士学位論文「金属の溶解機構の解析とその工業的応用に関する研究」、宇都宮大学大学院工学研究科、平成25年3月 甲4 :ウエブページ、「新製品情報」、厚銅貼りセラミックス部品、日刊工業新聞社、日刊工業新聞電子版、平成28年3月掲載、インターネット<URL:https://www.shinseihinjoho.jp/usr/detail_products.php?code=1160302602> 甲5 :特開2005−294668号公報 甲6 :有井一伸、外2名、「パワー半導体ダイアタッチ接合部信頼性試験方法の検討」、第28回エレクトロニクス実装学会春季講演大会、7B-04、pp.306-307、平成26年 甲7 :半導体パッケージ用語集(第2部〜組立プロセス及びテスト・ソケット用語)、半導体共通規格サブコミティ、平成27年1月9日 甲8 :甲4に記載の写真の拡大図、異議申立人作成、令和5年7月11日 甲9 :本件特許公報の図5(a)の拡大図、異議申立人作成、令和5年7月11日 甲10:本件発明1の変形例を示す模式図、異議申立人作成、令和5年7月11日 第4 甲各号証 1 甲1の記載と甲1発明 (1)甲1の記載 甲1には「Transient Liquid Phase Die Attach for High-Temperature Silicon Carbide Power Devices(高温炭化ケイ素パワーデバイス用液相拡散ダイアタッチ)」について、以下の事項が記載されている。なお、甲1の内容を当審の訳文で示す。(下線は当審で付した。) ア 「最近、炭化ケイ素パワーデバイスは300℃を超える適用で注目を受けている。」(563頁左欄1〜2行) イ 「図1は、高温SiCデバイスパッケージ用TLPダイアタッチの概略図である。」(564頁のFig.1の説明) ウ 「 」(Fig.1) エ 「図2は高温銀−インジウム合金用多層複合構造である。」(564頁のFig.2の説明箇所) オ 「 」(Fig.2) カ 「A.銀−インジウムTLP接合 図2はダイボンディング用多層Ag-In複合構造を示す。複合はんだを作製するため、インジウム酸化を避けるべく10-6トル(Torr)での単一の高真空サイクルにおいて、インジウムと銀がSiCデバイスダイ上に析出される。銀金属は格子間メカニズムによって急速にインジウムに拡散し、インジウムが銀に粒界を通して拡散係数D0が2.4×10-12m2cots-1及び0.42eVの活性エネルギーで拡散する。それゆえ、析出直後、銀は、その高い相互拡散係数のため、インジウムと相互作用してAgIn2化合物層を形成する。AgIn2化合物は、室温で15年後も安定に存在する[13]。AgIn2は安定な化合物で、それゆえ、試料が雰囲気に晒されたときにIn層を酸化から遮蔽する。その後、炭化ケイ素ダイは、フラックスまたはスクラビングの使用なしでスパッタされたAuとAgのフィルムで被覆された基板上のメタライゼーションスタックに接合される。」(564頁右欄2〜19行) キ 「C. TLP 接合方法 炭化ケイ素ウェハは、ウェハの背面にインジウムと銀を堆積後、4 mm×4 mmのダイに付着された。この接合工程において、Si3N4 活性金属ろう付け(AMB)基板は、ステンレス鋼ボート上に置かれ、SiCダイは基板上に配置された。次いで、SiCダイとSi3N4 基板は、圧縮スプリングを用いるステンレス鋼ボートに一緒に保持され、40 psiの静圧が加えられて初期接触が確保される。全ての組付けは、管状炉に導入され、窒素、次いで水素でパージされ、炉内で初期化されて酸素が除かれる。炉は、210℃まで上昇され、この温度が窒素が豊富な雰囲気にて10分維持されてインジウム酸化が避けられた。フォーミングガスのような他の不活性環境も使用可能である。その後、ボートは、酸化を避けるため、炉内において室温まで冷却された。図4(a)と(b)は、炉内に導入する前後それぞれにおけるダイアタッチ組立工程を示す。この接合前の機械的な組立工程は、伝統的なダイアタッチ工程よりも複雑な工程であるにもかかわらず、単一のダイパッケージに限らず、複数のSiCダイを伴うパワーモジュールパッケージについても実証されている。 加熱すると、In-AgIn2複合物におけるインジウム層は157℃で溶融し、210℃までの上昇過程の間、40 psiの圧力印加の結果として、接合された炭化ケイ素ダイと基板との間の界面から白い液相が徐々に絞り出される。インジウムが溶融し、さらに、それはAgIn2金属間層を分解して固体相互拡散を通してSi3N4 AMB 基板上の金層と銀層を濡らして溶解させる。液状インジウムは、銀と金と相互作用してさらなるAgIn2化合物とAuIn2化合物を形成する。この反応が生じる際、接合は本質的に生成する。金の量は銀に比べてとても少ないので、接合の構造への寄与は大きくない。温度が166℃を超えているので、銀とインジウムの反応は継続し、Ag2In金属間化合物は成長し続ける。この反応は進行が許される場合、ほぼすべてのインジウムは消費されるであろう。全ての接合材料が均一な接合を形成する場合、74.2 wt.%のAgと25.8 wt.%のInの全体組成が期待される。」(565頁左欄下から3行目〜566頁左欄12行) ク 「図5(a)はアニール前のAg-In接合の超音波顕微鏡像である。(b)は空気中で400℃で100時間アニール後のAg-In接合の超音波顕微鏡像である。」(566頁のFig.5の説明) ケ 「 」(Fig.5) コ 「図6(a)はインジウム−銀系で作製した接合のアニール前のSEM像である。(b)はSi3N4(AMB)基板の銅層とSiCダイとの間のアニール前の界面である。(c)はアニール前の界面の拡大図である。」(566頁のFig.6の説明) サ 「 」(Fig.6) シ 「A. 銀−インジウムTLP接合 図5(a)は、Si3N4 AMB基板に接合された炭化ケイ素ダイの超音波顕微鏡像を示す。画像から明らかなとおり、接合はほとんどボイドフリーである。超音波顕微鏡(SAM)の解像度限界のため、10μmよりも小さい空隙が存在する可能性がある。図5(b)は、空気中で400°Cで100時間アニール後のAg-In接合の超音波顕微鏡像を示す。図面から観察され得ることは、ダイ領域は、アニール前に比較してより均一であることである。温度増加で、接合の均一性は改良され、Ag-In金属間形成の継続のために極めて均一になるように見える。この観察は、アニール後に接合強度が増加することを示すダイシェアテストによってさらにサポートされる。 作製された接合の微細構造を調べるため、いくつかの試料は断面化されて研磨された。エネルギー分散型X線(EDX)を備えた走査電子顕微鏡(SEM)が、微細構造を調べ、かつ接合領域の元素組成を解析するために使用された。図6(a)は、Ag-Inで製造された試料のアニール前のSEM像を示す。接合の厚さは、図6(b)に示す断面に沿ってとても均一であることがわかる。図6(c)のSEM像から、接合層厚さは約8.5μmである。4つの異なる層、Ag、AgIn2、AuIn2及びAg2Inは、EDXによって接合に重量%単位で検出された。図6(c)に示す接合の上部において、確認された層はAgIn2(白い粒である)である。接合の中間と下部において、EDXは、下部接合とSi3N4 AMB基板との間の界面に沿って位置する純銀層のすぐ上にAg2Inの層を検出した。Si3N4基板上に析出した厚さ5.5μmの銀層が、炭化ケイ素ダイ上のIn層との相互作用によるAg2Inの形成に寄与する。」 (566頁右欄2行目〜567頁左欄13行) (2)甲1発明 上記(1)の記載から次のことがいえる。 ア 上記(1)のア〜オより、甲1には、「炭化ケイ素パワーデバイスのための多層複合構造」が記載されている。 イ 前記「多層複合構造」は、同コ、サより、「Si3N4基板と、該Si3N4基板上に配置された銅層と、該銅層上に配置されたダイアタッチの層を備え、アニーリング前のダイアタッチの層は銅層側からAuIn2層、Agリッチの層、Ag2In層、AgIn2層が積層されたもの」といえる。 また、同キに「Si3N4 活性金属ろう付け(AMB)基板」と記載されているように、「銅層」は、「Si3N4基板にろう付けされて接合された」ものである。 また、「ダイアタッチの層」は、同ケより、Si3N4基板上のダイアタッチ領域に配置されている。そして、同ウも考慮すると、「ダイアタッチの層は、銅層上のダイアタッチ領域に配置された」ものといえる。 ウ 上記ア、イを総合すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 [甲1発明] 「Si3N4基板と、 該Si3N4基板にろう付けされて接合された銅層と、 該銅層上のダイアタッチ領域に配置されたダイアタッチの層と、を備え、 アニーリング前のダイアタッチの層は、銅層側からAuIn2層、Agリッチの層、Ag2In層、AgIn2層が積層されたものである、 炭化ケイ素パワーデバイスのための多層複合構造。」 2 甲2の記載事項 甲2の段落【0006】〜【0009】、【0013】、【0030】及び【0032】には、「セラミックス基板と、セラミックス基板にろう材を介して接合される銅からなる回路原板と、回路原板の表面に被着されるNiメッキ層を有する回路基板は、セラミックス基板と回路原板との接合工程で回路原板を構成する結晶が再結晶し、成長方位の異なる結晶相をそれぞれ構成する結晶子が粗粒化した回路板が形成された場合、接合工程に引き続き行われる回路板の表面を清浄化する化学研磨工程において、成長方位の異なる結晶相の境界部に過度な大きさの凹部や段差が生じること。」が記載されている。 3 甲3の記載事項 甲3の37〜53頁(特に50〜53頁)には、「ペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)水溶液中における銅のエッチングレートは、結晶配向性に依存し、{001}、{101}、{111}面といった低指数面は低く、{327}面や{425}面といった高指数面は高くなり、試料の銅板をエッチングすると、結晶粒ごとのエッチングレートの差に起因する凹凸が現れること。」が記載されている。 4 甲4の記載事項 甲4には、厚銅貼りセラミック部品の画像が表示され、銅の表面に凹凸形状が看取できる。 5 甲5の記載事項 甲5の要約、請求項1、段落【0001】、【0005】及び【0007】には、「セラミックス基板の少なくとも一方の面に厚さが0.2mm以上の金属層3を形成し、位置決めマーカーとして、金属層表面に深さが0.15mm以上、金属層表面開口部の直径が1.5mm以下、金属層表面開口部の直径と底部の直径の差が0.2mm以下、且つ凹状部底部の金属層の厚さが0.05mm以上のサイズの、貫通しない凹状部をミリング加工により形成すること。」が記載されている。 第5 当審の判断 1 申立理由1(特許法第29条第2項)について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「Si3N4基板」は、本件発明1の「セラミック基板」に相当する。 (イ)甲1発明の「該Si3N4基板にろう付けされて接合された銅層」は、本件発明1の「該セラミック基板の表面に接合された金属板」に相当する。 (ウ)甲1発明の「該銅層上のダイアタッチ領域に配置されたダイアタッチの層」は、「アニーリング前のダイアタッチの層」が、「銅層側からAuIn2層、Agリッチの層、Ag2In層、AgIn2層が積層されたものである」から、本件発明1の「該金属板に部分的に設けられた金属皮膜」に相当する。 (エ)甲1発明の「炭化ケイ素パワーデバイス」は、本件発明1の「パワーモジュール」に相当し、甲1発明の「多層複合構造」は「Si3N4基板」を備えるから、甲1発明の「炭化ケイ素パワーデバイスのための多層複合構造」は、後述の相違点を除き本件発明1の「パワーモジュール用基板」に相当する。 (オ)上記(ア)〜(エ)より、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点及び相違点を有する。 [一致点] 「セラミック基板と、 該セラミック基板の表面に接合された金属板と、 該金属板に部分的に設けられた金属皮膜と、を備えている パワーモジュール用基板。」 [相違点] (相違点1) 本件発明1は、「前記金属板は凹部を有しており」、「前記金属皮膜は前記凹部の底面に設けられて」いるのに対し、甲1発明は、当該構成を有しない点。 (相違点2) 相違点1の「凹部」に関し、さらに、本件発明1は、「前記凹部の底面は、複数の結晶粒によって構成されており」、「前記凹部の底面において結晶粒界部の少なくとも一部は凹んでおり」、「前記結晶粒界部の凹みは、前記凹部の底面において網目状に形成されており」、「前記金属皮膜は、前記セラミック基板側に突出する網目状の部分を有している」のに対し、甲1発明は、当該構成を有しない点。 イ 判断 まず、相違点1について検討する。 甲2〜甲5に記載された事項は、上記第4の2〜5で示したとおりであり、甲2及び甲3には、金属板が有する「凹部」について記載されていない。 また、甲4には、「厚銅貼りセラミック部品」の画像が表示され、銅の表面に凹凸形状が看取できるものの、凹部に金属皮膜を形成することは記載されていない。 また、甲5の「凹状部」は、「位置決めマーカー」であって、「凹状部」に金属皮膜を形成することは記載されていない。 そうすると、甲1発明に、甲2〜甲5に記載された事項をどのように組み合わせても、「前記金属板は凹部を有しており」、「前記金属皮膜は前記凹部の底面に設けられて」いること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の構成を導出することはできない。 よって、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、甲1発明と甲2に記載された事項、甲1発明と甲2〜甲3に記載された事項、又は、甲1発明と甲2〜甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 異議申立人の主張について (ア)異議申立人は、特許異議申立書17頁9行〜19頁5行及び31頁下から8行〜33頁8行において、甲1の図6(c)に示すダイアタッチとSi3N4基板との界面の微細構造について、下記参考図とともに以下のとおり主張し、以下のとおり甲1に記載された発明(以下「甲1発明A」という。)を認定するとともに、本件発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点を認定し、当該相違点について、甲1発明Aに甲2発明を適用して本件発明1にすることは、当業者が容易に想到し得たことである旨主張している。 【参考図1】 図6(c)において、本異議申立人が付与した枠線によって囲まれた領域では、AuIn2層とAuIn2層が設けられている銅層は全体的にSi3N4セラミック側に凹んでおり、そのうちの白矢印(本異議申立人が付与)で示す箇所が部分的にSi3N4セラミック側に凹んだ形状となっている。また、AuIn2層は凹部内に収まっていることから、AuIn2層の厚さは凹部の深さより小さいと言える。すなわち、銅層は凹部を有し、凹部の底面は複数の凹みを有し、凹部の底面に設けられたAuIn2層が複数の結晶粒からなり、かつSi3N4セラミック側に突出した複数の凹部を有している。 (異議申立人が認定した甲1発明A) 「セラミック基板と、 該セラミック基板の表面に接合された銅層と、 該銅層に部分的に設けられたAuIn2層と、を備えており、 前記銅層は凹部を有しており、 前記凹部の底面は、少なくとも一部が凹んでおり、 前記AuIn2層は前記凹部の底面に設けられており、 前記AuIn2層は、前記セラミック基板側に突出する部分を有しているパワーモジュール用基板。」 (イ)本件発明1と甲1発明Aを対比すると、本件発明1の金属板が有する「凹部」は、その底面に金属皮膜が設けられるものであって、参考図1に枠で囲まれた部分で示される凹みのような微視的なものではない。さらに、甲1の「銅層」における、TLP接合する「ダイアタッチ領域」(第4の1(1)ケ)が、本件発明1の「凹部」がある領域に対応するといえるところ、「銅層」が「ダイアタッチ領域」において凹部を有することは、甲1には記載がないから、甲1に、本件発明1の「凹部」が記載されているとはいえない。 そうすると、本件発明1と甲1発明Aとは、実質的に上記アの相違点1で相違し、上記イで説示したとおり、本件発明1に甲2〜甲5に記載された事項をどのように組み合わせても、相違点1に係る本件発明1の構成を導出することはできない。 よって、異議申立人が特許異議申立書で主張する甲1発明Aに基づく申立理由は、採用できない。 (2)本件発明2〜8について 本件発明2〜7は、本件発明1を減縮した発明であり、また、本件発明8は、本件発明1〜7のいずれかに記載のパワーモジュール用基板を備えるパワーモジュールの発明であり、いずれも上記(1)で検討した相違点1に対応する「前記金属板は凹部を有しており」、「前記金属皮膜は前記凹部の底面に設けられて」いる構成を備えているから、本件発明1について検討したものと同様の理由により、甲1発明と甲2に記載された事項、甲1発明と甲2〜甲3に記載された事項、又は、甲1発明と甲2〜甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 申立理由2(特許法第36条第6項第1号)について (1)申立理由2の概要 異議申立人は、甲10において発明の課題を解決できない図A〜図Cの変形例を提示するとともに、特許異議申立書39頁12〜17行において、「本件発明1は、金属皮膜3が設けられている凹部2aは、平面視の寸法が搭載される電子部品11の寸法より一回り大きく、金属皮膜3と同程度の大きさであるものに特定されていないため、本件発明1の課題を解決できない構成を含み、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているものである。よって、本件発明1−8は発明の詳細な説明に記載したものでない。」と主張する。 (2)判断 ア 本件特許の願書に添付した明細書には、以下の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 従来技術のパワーモジュール用基板等のように、金属板の表面に部分的に金属皮膜を設けた場合には、金属皮膜の接着強度が低い場合があった。金属皮膜と金属板との界面の端部が露出しているため、洗浄剤等の処理液が界面の外縁部に浸入してしまう場合があるためであった。金属皮膜の接着強度が低いと、例えば、パワーモジュールがエンジン制御用である場合には、エンジンルーム等の車内における温度変化による熱応力の繰り返しによって、金属皮膜と金属板との界面での破壊によって電子部品がはがれるおそれがあり、パワーモジュールの信頼性が低いものとなってしまうものであった。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明の1つの態様のパワーモジュール用基板は、セラミック基板と、該セラミック基板の表面に接合された金属板と該金属板に部分的に設けられた金属皮膜とを備えており、前記金属板は凹部を有しており、前記金属皮膜は前記凹部の底面に設けられている。」 「【発明の効果】 【0008】 本発明の実施形態のパワーモジュール用基板によれば、金属皮膜は凹部の底面に設けられていることから、金属板の凹部の底面と金属皮膜との界面に処理液等が浸入し難いので、金属皮膜の金属板への接着強度が高いものとなる。」 「【0014】 パワーモジュール100において、パワー半導体素子等の電子部品11が搭載される部分、すなわち回路導体として機能する金属板2の表面の一部に金属皮膜3が設けられている。この金属皮膜3は、金属板2の表面に設けられた凹部2aの底面に設けられている。そのため、金属皮膜3と金属板2との界面、すなわち金属皮膜3と金属板2の凹部2aの底面との界面に、パワーモジュール基板10を作製する際の、例えば金属皮膜3をめっき法で形成する際の処理液等が浸入し難い構造となっている。そのため、処理液等が金属皮膜3と金属板2との界面の周縁部に浸入することによって、例えばこの界面の周縁部に腐食等が生じるなどして金属皮膜3と金属板2との接合強度が低下してしまう可能性が低減されている。 【0015】 また、図2に示す例のように、金属皮膜3の側面が、凹部2aの内側面に接しているものとすることができる。このような構成の場合には、処理液等がより侵入し難くなるのに加えて、金属皮膜3が側面でも金属板2と接合しているので、金属皮膜3の金属板2に対する接合強度をより向上させることができる。」 「【0037】 金属皮膜3が設けられている凹部2aは、平面視の寸法が搭載される電子部品11の寸法より一回り大きく、金属皮膜3と同程度の大きさである。凹部2aの深さは、例えば2μm〜20μmである。凹部2aは、金属板2の表面に、ブラスト加工等の機械的加工あるいは化学エッチング等の化学的加工を施すことによって形成することができる。いずれの場合でも、例えば、金属皮膜3を形成する位置に開口を設けた被覆材(レジスト膜)を金属板2の上に設けて、開口から露出した部分のみを加工することで凹部2aを形成することができる。そのため、上述した被覆材を用いためっき法による金属皮膜3の形成の前に凹部2aの形成を行なうことで、効率よく凹部2aと金属皮膜3の形成ができる。」 イ 上記明細書の記載によれば、本件発明は、パワーモジュール用基板等のように、金属板の表面に部分的に金属皮膜を設けた場合には、金属皮膜と金属板との界面の端部が露出しているため、洗浄剤等の処理液が界面の外縁部に浸入してしまう(【0005】)という課題を解決するために、「パワーモジュール用基板」は、「前記金属板は凹部を有しており、前記金属皮膜は前記凹部の底面に設けられている。」(【0006】)という手段を備え、これにより、「金属皮膜は凹部の底面に設けられていることから、金属板の凹部の底面と金属皮膜との界面に処理液等が浸入し難いので、金属皮膜の金属板への接着強度が高いものとなる。」(【0008】)との効果を奏するものである。 そうすると、「金属板」の「凹部」は、「金属被膜」を設けるために形成されたものであるから、【0037】に記載のとおり「金属被膜3と同程度の大きさ」であると解するのが自然であり、これにより、【0014】に記載のとおり、「金属皮膜3と金属板2の凹部2aの底面との界面に、パワーモジュール基板10を作製する際の、例えば金属皮膜3をめっき法で形成する際の処理液等が浸入し難い構造となっている」といえる。 したがって、本件発明の構成により、上記課題を解決することができるといえるから、本件請求項1〜8の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。 以上によれば、本件発明は、上記課題を解決できない構成を含んでいるとはいえないから、異議申立人の上記主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、特許7207904号の請求項1〜8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に特許7207904号の請求項1〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2023-10-11 |
出願番号 | P2018-157454 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
河本 充雄 |
特許庁審判官 |
市川 武宜 中野 浩昌 |
登録日 | 2023-01-10 |
登録番号 | 7207904 |
権利者 | 京セラ株式会社 |
発明の名称 | パワーモジュール用基板およびパワーモジュール |
代理人 | 弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK |