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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1404477
総通号数 24 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-12-09 
確定日 2023-12-12 
事件の表示 特願2021− 82890「電力変換装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年11月30日出願公開、特開2022−176448、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、令和3年5月17日の出願であって、令和4年3月31日付けで拒絶の理由が通知され、同年6月2日に意見書とともに手続補正書が提出され、令和4年10月13日付けで拒絶査定(謄本送達日同年10月18日)がなされ、これに対して同年12月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、令和5年2月24日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされ、同年3月29日に上申書が提出され、同年6月29日付けで当審により拒絶の理由が通知され、同年8月3日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年9月7日付けで当審により拒絶の理由が通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)され、同年10月23日に意見書とともに手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を、「本件補正」という。)が提出されたものである。


第2 原査定の概要

原査定(令和4年10月13日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

3.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
4.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
5.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



●理由3(特許法第36条第4項第1号)について

・請求項1−13

請求項1には、
「 前記第1の閾値は、
少なくとも、前記電力変換部若しくは前記冷却器の正常時、又は前記電力変換部の過出力時、に前記温度上昇率が達する値以上の値に設定されるとともに、前記温度上昇率が前記第1の閾値を超えてから予め定められた時間、前記電力変換部が動作できる値に設定されている、」
と記載されているところ、発明の詳細な説明の記載では、「前記第1の閾値」は、「前記温度上昇率が前記第1の閾値を超えてから予め定められた時間、前記電力変換部が動作できる値に設定されている、」という事項の実現手段が、不明であり、また、「前記温度上昇率が前記第1の閾値を超えてから予め定められた時間、前記電力変換部が動作できる」に足る「第1の閾値」の設定の仕方について、依然として、何等、開示されていない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1−13に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。


●理由4(特許法第36条第6項第1号)について

・請求項1−13

請求項1には、
「 前記第1の閾値は、
少なくとも、前記電力変換部若しくは前記冷却器の正常時、又は前記電力変換部の過出力時、に前記温度上昇率が達する値以上の値に設定されるとともに、前記温度上昇率が前記第1の閾値を超えてから予め定められた時間、前記電力変換部が動作できる値に設定されている、」
と記載されているところ、「前記第1の閾値」は、「少なくとも、前記電力変換部若しくは前記冷却器の正常時、又は前記電力変換部の過出力時、に前記温度上昇率が達する値以上の値に設定される」という事項について、発明の詳細な説明に記載されたものとの対応をとることができない。
「前記第1の閾値」は、「少なくとも」、「前記電力変換部若しくは前記冷却器の正常時」に「前記温度上昇率が達する値以上の値」に設定されるとするのであれば、「前記第1の閾値」は、「前記電力変換部若しくは前記冷却器の正常時」に「前記温度上昇率が達する値」に設定されるとしてもよいこととなるが、発明の詳細な説明に記載されたものは、このようにするものとはなっていない。
また、発明の詳細な説明には、「前記第1の閾値」は、「少なくとも」、「前記電力変換部の過出力時」に「前記温度上昇率が達する値以上の値」に設定される、という事項に対応した説明は、記載されていない。

よって、請求項1−13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。


●理由5(特許法第36条第6項第2号)について

・請求項1−13

請求項1には、
「前記温度上昇率判定部により、前記温度上昇率が前記第1の閾値を超えたことが判定されたとき、前記電力変換部の出力を抑制する保護動作を実行するように構成されている、」と記載され、
請求項2には、
「 前記制御装置は、前記温度上昇率が前記第1の閾値を超えた後、前記電力変換部の出力を抑制する保護動作を実行するように構成されている、」
と記載されているところ、前者の記載の内容、後者の記載の「前記温度上昇率が前記第1の閾値を超えた後、前記電力変換部の出力を抑制する保護動作を実行するように構成されている、」という部分の内容の各々が実際にはどのような技術内容のことを意味するのか、また、前者の記載の内容が意味する技術内容と後者の記載の内容が意味する技術内容がどのように相違するのか、が不明である。
よって、請求項1−13に係る発明は、明確でない。


第3 当審拒絶理由の概要

1.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(サポート要件)について

・請求項 1−9
・備考
本願請求項1に係る発明は、「電力変換装置」における「半導体スイッチング素子」の「温度上昇率」又はその「温度」の所定の閾値との比較に基づく異常を、単に判定することはできるものの、特許請求の範囲の請求項1の記載は、異常検知をした後「半導体スイッチング素子が動作限界温度に達して破壊されることを防ぎつつ、駆動の継続を実現する」という課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるとはいえず、出願時の技術常識に照らしたとしても、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜9の記載をもってしても、本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められないから、本願請求項1〜9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。


●理由2(進歩性)について

・請求項 1〜9
・引用文献等 1

<引用文献等一覧>
1.特開2015−27127号公報


第4 本願発明

本願請求項1〜9に係る発明(以下、「本願発明1」〜「本願発明9」といい、これらをまとめて、「本願発明」という。)は、令和5年10月23日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された、次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
半導体スイッチング素子により構成された電力変換部と、
前記半導体スイッチング素子を冷却する冷却器と、
前記半導体スイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置と、
前記半導体スイッチング素子の温度を検出する温度センサと、
を備え、回転電機を制御するように構成された電力変換装置であって、
前記制御装置は、
前記温度センサが検出した温度検出値に基づいて演算した温度上昇率と、予め定められた第1の閾値とを比較し、前記温度上昇率が前記第1の閾値を超えたことを判定する温度上昇率判定部と、
前記温度センサの温度検出値と予め定められた第2の閾値とを比較し、前記温度検出値が前記第2の閾値を超えたことを判定する温度上昇判定部と、
前記回転電機に対するトルク指令を抑制するトルク指令抑制部と、
を備え、
前記第1の閾値は、
前記電力変換部若しくは前記冷却器の正常時に前記温度上昇率が到達しない値であり、かつ、少なくとも前記半導体スイッチング素子の損失ばらつきと前記冷却器の性能ばらつきと前記温度センサの検出誤差とを加味し、前記温度センサの温度検出値の単位時間当たりの上昇量が高い値側にばらついたとしても、前記正常時に前記温度上昇率が到達しない値に設定され、
前記第2の閾値は、前記電力変換部若しくは前記冷却器の正常時には到達しない値に設定され、
前記温度上昇率判定部と前記温度上昇判定部とのうちの少なくとも一方が、前記判定をしたとき、前記トルク指令抑制部により、前記回転電機に対するトルク指令を抑制することで前記電力変換装置の駆動条件を制御し、前記電力変換部の出力を抑制する保護動作を実行するように構成されている、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記電力変換部の出力に基づいて、前記第1の閾値を変動させるように構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電力変換部の前記出力が比較的低いときは、前記第1の閾値の値を比較的低く設定し、前記電力変換部の前記出力が比較的高いときは、前記第1の閾値の値を比較的高く設定する、ように構成されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記保護動作を実行してから、前記温度上昇率が前記第1の閾値よりも低くなっても、前記保護動作を継続するように構成されている、
ことを特徴とする請求項1から3のうちの何れか一項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御装置は、
予め定められた第3の閾値と前記温度検出値とを比較し、前記保護動作を実行してから、前記温度検出値が前記第3の閾値を超えたとき、前記電力変換部の出力を停止させる出力停止判定部を備えている、
することを特徴とする請求項1から4のうちの何れか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記温度上昇率判定部と前記温度上昇判定部のうちの少なくとも一方が、前記判定をした後、前記保護動作を実行するように構成されている、
ことを特徴とする請求項1から5のうちの何れか一項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記保護動作を実行した後、前記温度上昇率が前記第1の閾値より低下する状態と、前記温度検出値が前記第2の閾値より低下する状態と、のうちの少なくとも一方の状態になっても、前記保護動作を継続するように構成されている、
ことを特徴とする請求項1から6のうちの何れか一項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記保護動作を実行してから、予め定められた時間の後に前記電力変換部の出力を停止するように構成されている、
ことを特徴とする請求項1から7のうちの何れか一項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記電力変換部の一つのアームを構成する前記半導体スイッチング素子は、複数の半導体スイッチング素子が並列に接続されて構成されており、
前記温度センサは、全ての半導体スイッチング素子の温度の平均値を検出するように構成されている、
ことを特徴とする請求項1から8のうちの何れか一項に記載の電力変換装置。」


第5 引用例

1 引用例に記載された事項及び引用発明
(1) 引用例に記載された事項
当審拒絶理由通知において引用した、本願の出願前に既に公知である、特開2015−27127号公報(平成27年2月5日公開。以下、これを「引用例」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)

ア 「【0001】
本明細書に開示の技術は、電気自動車やハイブリッドカー等の車両に搭載され、バッテリと走行用モータとの間で電力を変換する電力変換器に関する。特に、走行用モータに供給する電流を平滑化するコンデンサとコンデンサの電荷を放電する放電回路とを有する電力変換器に関する。
【0002】
電気自動車やハイブリッドカー等の車両では、バッテリと走行用モータとの間で電力を変換する電力変換器が用いられる。電力変換器は、例えばインバータやコンバータである。これらの電力変換器は、走行用モータに供給する電流を平滑化する為に比較的大容量のコンデンサを有していることがある。例えば車両のアクシデント等で電力変換器の使用が停止される場合には、コンデンサに蓄積された電荷を速やかに放電し消費することが望ましい。電荷を放電することにより、コンデンサに残った電荷が他の部品に影響を与えること等が防止される。コンデンサの電荷を放電する為に放電回路が使用されることがある。放電回路の一例として、放電抵抗と、放電抵抗とコンデンサとの間を接続し、あるいは切断する放電スイッチとを有するものが知られている。

【0005】
特許文献1、2の技術は、いずれも、放電回路の故障を検出する為の専用の部品(具体的には、専用の温度検出手段や専用の電圧検出手段等)を備えている。このため、これらの電力変換器では、部品点数が増加することにより電力変換器のコストが増加する。
【0006】
本明細書は、上記の課題を解決する技術を提供する。本明細書は、電力変換器のコストの増加を抑制しつつ、コンデンサの放電回路の故障を検出することができる技術を提供する。

【0014】
モータ7を駆動するための電力はバッテリ3から供給される。図1において、符号Pは、インバータ回路6のスイッチング素子群の高電位側の電力線を示しており、符号Nは、グランド電位側の電力線を示している。バッテリ3とモータ7の間に、電力変換器19が接続されている。システムメインリレー4は、バッテリ3と電力変換器19との間を接続したり切断したりする。システムメインリレー4は、上位コントローラ20によって切り換えられる。
【0015】
電力変換器19は、直流電力を交流に変換するインバータ回路6を含む。インバータ回路6の出力電流が、モータ7への供給電力に相当する。インバータ回路6はIGBTなどのパワー半導体素子11、12、13、14、15、16(以降の説明では、11〜16と標記する)を主とする回路である。なお、標記を簡単にするため、以下では「パワー半導体素子」を単に「パワー半導体」と称する。パワー半導体11〜16には、ダイオードが逆並列に接続されている。電力変換器19は、温度センサ17を有する。温度センサ17は、パワー半導体11の温度を検出する。ただし、温度センサ17は、パワー半導体11〜16のいずれのパワー半導体の温度を検出してもよい。電力変換器19は、電流センサ18を有する。電流センサ18は、電力変換器19とモータ7とを接続する電力供給線に取り付けられている。
【0016】
コントローラ8は、マイクロコンピュータ、メモリや入出力インタフェースなどの電子部品で構成される情報処理装置である。コントローラ8は、インバータ回路6に対して、パワー半導体11〜16への制御信号(PWM信号)を出力する。上位コントローラ20は、コントローラ8に対して、モータ7が出力すべき目標トルク(トルク指令値)を出力する。
【0017】
コントローラ8は、モータ7がトルク指令値に相当するトルクを出力するようにインバータ回路6を制御する。ここで、トルクとモータ電流は比例の関係にあり、その比例定数はトルク定数と呼ばれる。トルク指令値にトルク定数を乗じた値が電流指令値である。このため、以下の説明では、上位コントローラ20が、コントローラ8に対して、電流指令値を出力すると表現することがある。コンデンサC1は、インバータ回路6に入力される電流を平滑化する。また、コンデンサC1は、走行用のモータ7に供給するためにバッテリ3が出力する電流を一時的に蓄える。コンデンサC1は、モータを駆動するための大電流が流れるため比較的大容量である。
【0018】
放電回路5は、インバータ回路6に対して並列に接続されている。別言すれば、P線とN線の間に放電回路5が接続されている。放電回路5は、高耐熱性の放電抵抗9と放電スイッチ10の直列接続で構成される。放電スイッチ10は、例えばMOSFETやIGBT等のスイッチングトランジスタである。放電スイッチ10の制御端子は、コントローラ8に接続されており、放電スイッチ10のオンオフ(開閉)は、コントローラ8が制御する。
【0019】
図2は、電力変換器19の物理的な構成の一部(この部分を冷却部30と称する)の断面図である。冷却部30は、冷却プレート36と、放電抵抗9と、半導体モジュール31とを備える。半導体モジュール31は、冷却プレート36の図2右側の面に接して配置されており、放電抵抗9は、冷却プレート36の図2左側の面に接して配置されている。半導体モジュール31は、パワー半導体11(図1参照)と、温度センサ17(図1参照)と、放熱板34と、を有する。放熱板34と、パワー半導体11と、温度センサ17の周囲は樹脂35でモールドされている。パワー半導体11と、温度センサ17は、それぞれ放熱板34に接している。放熱板34は、パワー半導体11から発生する熱を冷却プレート36へと放出する。放熱板34の温度は、パワー半導体11の温度の影響を顕著に受ける。温度センサ17は、放熱板34に接しているため、パワー半導体11の温度を検出することができる。

【0027】
図4に、電流−温度上昇率予想値マップを示す。このマップは、は、パワー半導体11に流れる電流の大きさから予想されるパワー半導体11の温度上昇率を予め記録したものである。横軸はパワー半導体11に流れる電流の大きさである。縦軸はその電流が流れるときのパワー半導体11の温度上昇率の予想値である。電流の大きさと温度上昇率の予想値は比例関係となっている。なお、上記の温度上昇率の予想値は、放電スイッチ10が短絡故障していない状態(すなわち、放電スイッチ10が開放されている状態であって放電抵抗9が発熱していない状態)における値である。

【0032】
図5のフローを用いて電力変換器19の短絡故障検出処理50を説明する。上述したように、短絡故障検知処理50は、予め定められている次の関係、即ち、パワー半導体11の通電状態及び放電スイッチ10の短絡故障の状態とパワー半導体11の温度との関係(図3)を利用する。図3の関係は、コントローラ8に予め記憶されている。短絡故障検出処理50は、パワー半導体11の通電状態、及び、パワー半導体11の温度上昇率及び温度の状態に基づいて、放電スイッチ10が短絡故障しているか否かを判定する。図5の処理は、コントローラ8が放電スイッチ10に対して閉じる指令(放電抵抗9を回路に接続する指令)を出していない状態(別言すれば放電スイッチ10に対してこれを開放する指令を出している状態)において実行される。
【0033】
まず、コントローラ8は、パワー半導体11に流れている電流の大きさを検出する(S12)。具体的には、コントローラ8は、電流センサ18から入力される電流センサ値を検出する。次に、コントローラ8は、電流−温度上昇率予想値マップを参照する(S13)。コントローラ8は、電流センサ値を電流−温度上昇率予想値マップに対応させることによって、その電流センサ値に対応するパワー半導体11の温度上昇率の予想値を取得する。
【0034】
次に、コントローラ8は、パワー半導体11の温度を検出する(S14)。具体的には、コントローラ8は、温度センサ17で検出された温度センサ値を検出する(S14)。温度センサ17による温度検出は、例えば、所定時間間隔で複数回行われる。コントローラ8は、所定時間間隔で変動した温度差から温度上昇率を算出する(S15)。コントローラ8は、S13において取得した温度上昇率の予想値と、S15において算出した温度上昇率とを比較する(S16)。
【0035】
ここで、上述のように、電流−温度上昇率予想値マップは、放電スイッチ10が短絡していない状態での、パワー半導体11の温度上昇率の予想値である。従って、温度上昇率が電流−温度上昇率予想値マップから得られた温度上昇率の予想値よりも高い場合(図3中の状態2、又は、状態4)には、放電スイッチ10は短絡故障している。従って、コントローラ8は、温度上昇率が温度上昇率予想値よりも高い場合(S16:YES)には、フェールセーフ処理(S17)を行う。

【0037】
フェールセーフ処理(S17)は、放電抵抗9の温度上昇を低減する為の処理である。フェールセーフ処理(S17)として、種々の処理を行うことができる。フェールセーフ処理(S17)の一例は、電力変換器19(放電抵抗9)へ供給される電力を遮断する処理である。具体的には、コントローラ8は、短絡故障が発生したことを示す信号を上位のコントローラ20に出力する。上位のコントローラ20は、短絡故障発生の信号を受信すると、システムメインリレー4を開放する。システムメインリレー4の開放により、電力変換器19への電力供給が遮断される。なお、上位コントローラ20は、システムメインリレー4の開放とともに、放電回路5で短絡故障が発生したことを示すインパネのランプを点灯させ、さらに、短絡故障発生を示すメッセージをダイアグ用の不揮発性メモリに記憶させる。

【0040】
次に、実施例2の電力変換器19を説明する。実施例2の電力変換器19は、ハードウエア構成は実施例1の電力変換器19と同じであるが、コントローラ8が実行する短絡故障検知処理が異なる。図6を参照して、電力変換器19の短絡故障検出処理52を説明する。下記に示すように、短絡故障検出処理52は、パワー半導体11に電流が流れていない状態における、パワー半導体11の温度を検出することによって、放電スイッチ10の短絡故障を検出する。
【0041】
まず、実施例1の短絡故障検出処理50と同様に、コントローラ8は、電流センサ値を検出する(S22)。次に、コントローラ8は、パワー半導体11に電流が流れているか否かを判断する(S23)。すなわち、コントローラ8は、電流センサ値がゼロであるか否かを判断する。ただし、現実には、コントローラ8は、測定誤差による誤判定を回避するため、電流センサ値を所定の電流閾値と比較することに留意されたい。ここで、所定の電流閾値には、電流センサの誤差の大きさに適当な余裕量を足した値が選定される。上述のように、短絡故障検出処理52は、パワー半導体11に電流が流れていない状態(図3中の状態3、4)において、放電スイッチ10の短絡故障を検出するものである。従って、コントローラ8は、電流センサ値がゼロの場合(S23:YES)には、パワー半導体11の温度を検出する(S24)。一方、パワー半導体11に電流が流れている場合(S23:NO)には、コントローラは、次のステップに進むことなく、処理を終了する。
【0042】
電流センサ値がゼロの場合(S23:YES)には、コントローラ8は、パワー半導体11の温度が通常の温度より高いか否かを判断する(S25)。ここで、「通常の温度」とは、前述したように、パワー半導体11に電流が流れていない状態であり、かつ、放電スイッチ10が開放されている場合に予想されるパワー半導体11の温度である。なお、現実には、コントローラ8は、誤判定を回避するため、「通常の温度」に一定の余裕量を足した値とパワー半導体11の温度を比較することに留意されたい。パワー半導体11に電流が流れていない(S23:YES)にも関わらず、パワー半導体の温度が通常の温度より高い(S25:YES)場合(図3中の状態4)には、放電スイッチ10は短絡故障している。この場合、コントローラ8は、フェールセーフ処理(S26)を行う。フェールセーフ処理(S26)の内容は実施例1の場合と同じでよい。

【0048】
実施例におけるフェールセーフ処理は、システムメインリレー4を開放し、バッテリから電力変換器への電力供給を遮断するものであった。フェールセーフ処理は、バッテリの出力電力を低減する処理であってもよい。バッテリの出力電力を低減することで、放電抵抗に流れ込む電力を抑制して放電抵抗の発熱を抑えることができる。」

イ 「図1



(2)引用発明
上記(1)の記載事項(特に下線部)から、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「コンデンサの放電回路の故障を検出することができる(【0006】)バッテリと走行用モータとの間で電力を変換する電力変換器であって(【0001】、図1)、
モータ7を駆動するための電力はバッテリ3から供給され、バッテリ3とモータ7の間に、電力変換器19が接続され(【0014】)、
電力変換器19はIGBTなどのパワー半導体素子を主とする回路であるインバータ回路6を含み、インバータ回路6の出力電流が、モータ7への供給電力に相当し、パワー半導体11の温度を検出する温度センサ17を有し(【0015】)、
コントローラ8は、パワー半導体11〜16への制御信号を出力し、上位コントローラ20は、コントローラ8に対して、モータ7が出力すべき目標トルク(トルク指令値)を出力し(【0016】)、
コントローラ8は、モータ7がトルク指令値に相当するトルクを出力するようにインバータ回路6を制御し(【0017】)、
放電回路5は、インバータ回路6に対して並列に接続され、高耐熱性の放電抵抗9と放電スイッチ10の直列接続で構成され(【0018】)、
冷却部30は、冷却プレート36と、放電抵抗9と、半導体モジュール31とを備え、半導体モジュール31は、パワー半導体11と、温度センサ17と、放熱板34と、を有し、放熱板34は、パワー半導体11から発生する熱を冷却プレート36へと放出するものであり(【0019】)、
パワー半導体11に流れる電流の大きさから予想されるパワー半導体11の温度上昇率を予め記録した電流−温度上昇率予想値マップを有し、電流の大きさと温度上昇率の予想値は比例関係となっていて、上記の温度上昇率の予想値は、放電スイッチ10が短絡故障していない状態における値であり(【0027】)、
短絡故障検出処理50は、パワー半導体11の通電状態、及び、パワー半導体11の温度上昇率及び温度の状態に基づいて、放電スイッチ10が短絡故障しているか否かを判定するものであり(【0032】)、
コントローラ8は、パワー半導体11に流れている電流の大きさを検出し、電流−温度上昇率予想値マップを参照し(S13)、電流センサ値を電流−温度上昇率予想値マップに対応させることによって、その電流センサ値に対応するパワー半導体11の温度上昇率の予想値を取得し(【0033】)、
コントローラ8は、パワー半導体11の温度を検出し、具体的には、温度センサ17で検出された温度センサ値を検出し、所定時間間隔で変動した温度差から温度上昇率を算出して(S15)、S13において取得した温度上昇率の予想値と、S15において算出した温度上昇率とを比較し(【0034】)、
コントローラ8は、温度上昇率が温度上昇率予想値よりも高い場合には、フェールセーフ処理を行い(【0035】)、
フェールセーフ処理は、放電抵抗9の温度上昇を低減する為の処理であって、フェールセーフ処理の一例は、電力変換器19へ供給される電力を遮断する処理であり(【0037】)、
短絡故障検出処理52は、パワー半導体11に電流が流れていない状態における、パワー半導体11の温度を検出することによって、放電スイッチ10の短絡故障を検出してもよく(【0040】)、その際、コントローラ8は、パワー半導体11に電流が流れているか否かを判断し、測定誤差による誤判定を回避するため、電流センサ値を所定の電流閾値と比較し、ここで、所定の電流閾値には、電流センサの誤差の大きさに適当な余裕量を足した値が選定され、電流センサ値がゼロの場合には、パワー半導体11の温度を検出し(【0041】)、
電流センサ値がゼロの場合には、コントローラ8は、パワー半導体11の温度が通常の温度より高いか否かを判断し、ここで「通常の温度」とは、パワー半導体11に電流が流れていない状態であり、かつ、放電スイッチ10が開放されている場合に予想されるパワー半導体11の温度であり、誤判定を回避するため、「通常の温度」に一定の余裕量を足した値とパワー半導体11の温度を比較し、パワー半導体11に電流が流れていないにも関わらず、パワー半導体の温度が通常の温度より高い場合には、放電スイッチ10は短絡故障していると判断し、フェールセーフ処理を行い(【0042】)、
フェールセーフ処理は、バッテリの出力電力を低減する処理であってもよい(【0048】)
電力変換器。」


第6 対比・判断

1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「パワー半導体11」、「IGBTなどのパワー半導体素子を主とする回路であるインバータ回路6」、「冷却部30」、「パワー半導体11〜16への制御信号を出力」する「コントローラ8」、「パワー半導体11の温度を検出する温度センサ17」、「モータ7」及び「電力変換器19」はそれぞれ、本願発明1の「半導体スイッチング素子」、「半導体スイッチング素子により構成された電力変換部」、「半導体スイッチング素子を冷却する冷却器」、「半導体スイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置」、「半導体スイッチング素子の温度を検出する温度センサ」、「回転電機」及び「電力変換装置」に相当するから、引用発明は、本願発明1の「半導体スイッチング素子により構成された電力変換部と、」「前記半導体スイッチング素子を冷却する冷却器と、」「前記半導体スイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置と、」「前記半導体スイッチング素子の温度を検出する温度センサと、」「を備えた電力変換装置」との構成を有する。

イ 引用発明の「電力変換器19」は、「コントローラ8」が、「パワー半導体11〜16への制御信号を出力し、」「モータ7がトルク指令値に相当するトルクを出力するようにインバータ回路6を制御」するものであるから、本願発明1の「回転電機を制御するように構成された電力変換装置」であるといえる。

ウ 引用発明は、「コントローラ8は、パワー半導体11の温度を検出し、具体的には、温度センサ17で検出された温度センサ値を検出し、所定時間間隔で変動した温度差から温度上昇率を算出」するところ、当該「温度上昇率」は、“温度センサが検出した温度検出値に基づいて演算した温度上昇率”といい得る。
また、引用発明は、「コントローラ8は、パワー半導体11に流れている電流の大きさを検出し、電流−温度上昇率予想値マップを参照し(S13)、電流センサ値を電流−温度上昇率予想値マップに対応させることによって、その電流センサ値に対応するパワー半導体11の温度上昇率の予想値を取得」するところ、当該「温度上昇率の予想値」は、「パワー半導体11に流れる電流の大きさから予想されるパワー半導体11の温度上昇率を予め記録した」「電流−温度上昇率予想値マップ」に基づいて求められるものであるから、“予め定められた第1の値”といい得る。
そして、引用発明の「コントローラ8」が、「パワー半導体11の温度を検出し、具体的には、温度センサ17で検出された温度センサ値を検出し、所定時間間隔で変動した温度差から温度上昇率を算出して(S15)、S13において取得した温度上昇率の予想値と、S15において算出した温度上昇率とを比較し」た上、「温度上昇率が温度上昇率予想値よりも高い場合には、フェールセーフ処理を行」うことから、上記認定及びアの認定を踏まえると、引用発明と本願発明1とは、下記の点(相違点1)で相違するものの、“制御装置”が“前記温度センサが検出した温度検出値に基づいて演算した温度上昇率と、予め定められた第1の値とを比較し、前記温度上昇率が前記第1の値を超えたことを判定する温度上昇率判定部を備え”る点で一致する。

エ 引用発明は、「短絡故障検出処理52」において、「パワー半導体11に電流が流れていない状態における、パワー半導体11の温度を検出することによって、放電スイッチ10の短絡故障を検出してもよ」いものであるところ、「電流センサ値がゼロの場合には、コントローラ8は、パワー半導体11の温度が通常の温度より高いか否かを判断」した上、「パワー半導体の温度が通常の温度より高い場合には、放電スイッチ10は短絡故障していると判断」することから、当該「通常の温度」と、本願発明1の「温度センサの温度検出値」と比較される「予め定められた第2の閾値」とは、“予め定められた第2の値”である点で共通する。
そして、引用発明の「コントローラ8」は、「パワー半導体11の温度が通常の温度より高いか否かを判断」するところ、本願発明1の「温度上昇判定部」とは、“前記温度センサの温度検出値と予め定められた第2の値とを比較し、前記温度検出値が前記第2の値を超えたことを判定する”ものである点で共通するといえるから、引用発明と本願発明1とは、下記の点(相違点2)で相違するものの、“制御装置”が“前記温度センサの温度検出値と予め定められた第2の値とを比較し、前記温度検出値が前記第2の値を超えたことを判定する温度上昇判定部”を備える点で一致する。

オ 引用発明は、「短絡故障検出処理50は、パワー半導体11の通電状態、及び、パワー半導体11の温度上昇率及び温度の状態に基づいて、放電スイッチ10が短絡故障しているか否かを判定するものであ」るとともに、「短絡故障検出処理52は、パワー半導体11に電流が流れていない状態における、パワー半導体11の温度を検出することによって、放電スイッチ10の短絡故障を検出してもよ」いものでもあるところ、当該「短絡故障検出処理50」及び「短絡故障検出処理52」は、それぞれ「パワー半導体11」の「温度上昇率」及び「温度」と所定の値との比較によって、「フェールセーフ処理を行」うものであり、当該「フェールセーフ処理」は、「バッテリの出力電力を低減する処理であってもよい」ことから、上記アの認定を踏まえると、“電力変換部の出力を抑制する保護動作を実行する”ものであるといえる。
したがって、引用発明と本願発明1とは、下記の点(相違点3)で相違するものの、“前記温度上昇率判定部と前記温度上昇判定部とのうちの少なくとも一方が、前記判定をしたとき、前記電力変換部の出力を抑制する保護動作を実行するように構成されている”点で一致する。

カ 以上、ア〜オの検討から、本願発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。

〈一致点〉
半導体スイッチング素子により構成された電力変換部と、
前記半導体スイッチング素子を冷却する冷却器と、
前記半導体スイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置と、
前記半導体スイッチング素子の温度を検出する温度センサと、
を備え、回転電機を制御するように構成された電力変換装置であって、
前記制御装置は、
前記温度センサが検出した温度検出値に基づいて演算した温度上昇率と、予め定められた第1の値とを比較し、前記温度上昇率が前記第1の値を超えたことを判定する温度上昇率判定部と、
前記温度センサの温度検出値と予め定められた第2の値とを比較し、前記温度検出値が前記第2の値を超えたことを判定する温度上昇判定部と、
を備え、
前記温度上昇率判定部と前記温度上昇判定部とのうちの少なくとも一方が、前記判定をしたとき、前記電力変換部の出力を抑制する保護動作を実行するように構成されている、
ことを特徴とする電力変換装置。

〈相違点1〉
本願発明1の「温度センサが検出した温度検出値に基づいて演算した温度上昇率」と比較する値が、「第1の閾値」であり、当該「第1の閾値」は、「前記電力変換部若しくは前記冷却器の正常時に前記温度上昇率が到達しない値であり、かつ、少なくとも前記半導体スイッチング素子の損失ばらつきと前記冷却器の性能ばらつきと前記温度センサの検出誤差とを加味し、前記温度センサの温度検出値の単位時間当たりの上昇量が高い値側にばらついたとしても、前記正常時に前記温度上昇率が到達しない値に設定され」るのに対し、引用発明の「パワー半導体11の温度を検出し、具体的には、温度センサ17で検出された温度センサ値を検出し、所定時間間隔で変動した温度差から」「算出」される「温度上昇率」と比較される値は、「パワー半導体11に流れている電流の大きさを検出し、電流−温度上昇率予想値マップを参照し(S13)、電流センサ値を電流−温度上昇率予想値マップに対応させることによって」求められる、「その電流センサ値に対応するパワー半導体11の温度上昇率の予想値」である点。

〈相違点2〉
本願発明1の「温度上昇判定部」が、「温度センサの温度検出値」と比較する値が、「第2の閾値」であり、当該「第2の閾値」は、「前記電力変換部若しくは前記冷却器の正常時には到達しない値に設定され」るのに対し、引用発明は、「電流センサ値がゼロの場合」に、「コントローラ8」が「パワー半導体11の温度」と比較する値が、「通常の温度」である点。

〈相違点3〉
本願発明1が、「電力変換部の出力を抑制する保護動作を実行」するにあたり、「前記電力変換装置の駆動条件を制御して」実行するのに対し、引用発明は、「電力変換器19」の駆動条件を制御して「フェールセーフ処理」を実行することが特定されていない点。

〈相違点4〉
本願発明1が、「前記回転電機に対するトルク指令を抑制するトルク指令抑制部」を備えるとともに、「前記トルク指令抑制部により、前記回転電機に対するトルク指令を抑制することで前記電力変換装置の駆動条件を制御」するものであるのに対し、引用発明は、「上位コントローラ20」が「コントローラ8に対して、モータ7が出力すべき目標トルク(トルク指令値)を出力」するとともに、当該「コントローラ8」が「モータ7がトルク指令値に相当するトルクを出力するようにインバータ回路6を制御」するものの、トルク指令を抑制する制御を行うことは特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、先に相違点4について検討する。
本願発明は、電力変換装置に関するものであって(本願明細書段落【0001】)、従来、電力変換装置における半導体スイッチング素子の配置環境に関連し、冷却器に流れる冷却媒体の流入が停止することで、半導体スイッチング素子等の温度が一定の温度上昇率で急激に上昇し続け、半導体スイッチング素子の動作限界温度に達する可能性がある場合に、冷却器に流れる冷却媒体の温度を監視し、その温度の異常時に電力変換装置の駆動条件を制御して半導体スイッチング素子を保護する技術が提案されているところ(【0010】)、電力変換装置の駆動条件、および配置環境が正常なときに異常を誤検知しないように、温度センサの検知誤差、半導体スイッチング素子の発熱量のバラつき、冷却媒体の流入量のバラつき、等を加味して高めに閾値が設定されるため、前述のバラつきがない状態で電力変換装置の駆動条件、配置環境が異常となった場合、高めに設けられた閾値に温度検出値が達するまでの時間が長くなり(【0015】)、温度センサの温度検出値と予め定められた閾値とを比較して、電力変換装置の駆動条件、配置環境、の異常を検知する技術は、冷却媒体の流入の停止、或いは冷却媒体が消失する等の故障時に達する半導体スイッチング素子の温度が高くなるという課題があり(【0017】。以下、この課題を、「本願発明の解決しようとする課題」という。)、半導体スイッチング素子が動作限界温度に達して破壊されることを防ぎつつ、駆動の継続を実現する電力変換装置を提供することを目的としたもの(【0018】)と認められる。
一方、引用発明は、従来、電気自動車やハイブリッドカー等の車両において、バッテリと走行用モータとの間で電力を変換する電力変換器が用いられ、この電力変換器は、走行用モータに供給する電流を平滑化する為に比較的大容量のコンデンサを有していて、例えば車両のアクシデント等で電力変換器の使用が停止される場合には、コンデンサに蓄積された電荷を速やかに放電し消費することが望ましく、電荷を放電することにより、コンデンサに残った電荷が他の部品に影響を与えること等が防止されるところ、コンデンサの電荷を放電する為に放電回路が使用される場合、放電回路の一例として、放電抵抗と、放電抵抗とコンデンサとの間を接続し、あるいは切断する放電スイッチとを有するものが知られていたが(引用例の段落【0002】)、放電回路の故障を検出する為の専用の部品を備えることによって部品点数が増加し、電力変換器のコストが増加することを課題とし(同【0005】)、「短絡故障検出処理50」や「短絡故障検出処理52」により、「放電回路5」の「放電スイッチ10が短絡故障」していることを判定した上、「放電抵抗9の温度上昇を低減する為の処理」として、「電力変換器19へ供給される電力を遮断する処理」や、「バッテリの出力電力を低減する処理」などの「フェールセーフ処理」を行うものである。
してみれば、本願発明とは異なる課題を有する引用発明は、「モータ7」への「トルク指令値」を減じるように、すなわちトルク指令を抑制するように構成する動機付けを欠くものであり、相違点4に係る構成が本願出願前の周知技術であったとは必ずしもいえないから、引用発明において相違点4に係る構成を想到することは、当業者といえども容易とまではいえない。
したがって、上記その余の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2〜9について
本願発明2〜9は、請求項1を直接または間接的に引用するものであり、本願発明1と同様、上記相違点4に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。


第7 原査定についての判断

本件補正により、補正後の請求項1〜9は、上記第4に示したとおりのものとなり、原査定の理由3〜5において指摘された事項は、いずれも本件補正により解消した。
したがって、原査定を維持することはできない。


第8 当審拒絶理由通知について

1 理由1(特許法36条6項1号)について
本件補正により、本願発明1〜9は、本願発明が解決しようとする課題に対し、「前記回転電機に対するトルク指令を抑制するトルク指令抑制部」を備えるとともに、「前記トルク指令抑制部により、前記回転電機に対するトルク指令を抑制することで前記電力変換装置の駆動条件を制御」することによって当該課題を解決するものであることが明確となった。
したがって、本願発明1〜9は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

2 理由2(同法29条2項)について
上記第5及び第6において判断したとおり、本願発明1〜9は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 当審拒絶理由通知についてのむすび
したがって、当審拒絶理由通知において指摘した理由1及び2は、本件補正によりいずれも解消した。


第9 むすび

以上のとおり、原査定の拒絶理由及び当審の拒絶理由のいずれを検討してもその理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2023-11-28 
出願番号 P2021-082890
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02M)
P 1 8・ 537- WY (H02M)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 須田 勝巳
特許庁審判官 吉田 美彦
山崎 慎一
発明の名称 電力変換装置  
代理人 弁理士法人ぱるも特許事務所  

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