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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1404551 |
総通号数 | 24 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2023-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2023-01-12 |
確定日 | 2023-11-02 |
事件の表示 | 特願2021−126970「酸化ガリウム薄膜及び積層構造体」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 1月21日出願公開、特開2022− 16427〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、令和3年1月4日(優先権主張 令和2年7月8日)に出願された特許出願(特願2021−265号、以下「原出願」という。)の一部を、令和3年8月2日に特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願2021−126970号)としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和 3年 8月 3日 :上申書の提出 令和 4年 5月31日付け:拒絶理由通知書 令和 4年 7月26日 :意見書、手続補正書の提出 令和 4年10月17日付け:拒絶査定(原査定) 令和 5年 1月12日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和5年1月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和5年1月12日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、補正後の請求項1の記載は、次のとおりである。(下線部は、補正箇所である。) 「【請求項1】 酸化ガリウム薄膜であって、 該酸化ガリウム薄膜の膜厚の平均が2.4μm以上であり、膜厚の標準偏差が0.3μm以下であり、 前記膜厚の平均および標準偏差は、光干渉式の膜厚計による膜厚の測定値からの算出値であることを特徴とする酸化ガリウム薄膜。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の、令和4年7月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 酸化ガリウム薄膜であって、 該酸化ガリウム薄膜の膜厚の平均が2.4μm以上であり、膜厚の標準偏差が0.3μm以下であることを特徴とする酸化ガリウム薄膜。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「酸化ガリウム薄膜」の「膜厚の平均」及び「膜厚の標準偏差」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の原出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2020−2396号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、合議体が付加した。以下、同じ。)。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ミスト状の原料を用いて基板上に成膜を行う成膜装置及び成膜方法に関する。」 「【0006】 本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、膜厚の面内均一性や成膜速度に優れミストCVD法が適用可能な成膜装置、及び、均一性や成膜速度に優れた成膜方法を提供することを目的とする。」 「【発明の効果】 【0023】 以上のように、本発明の成膜装置によれば、簡便な装置構成により膜厚の面内均一性が高く、成膜速度を大きく改善することが可能なものとなる。また、本発明の成膜方法によれば、簡便な方法により膜厚の面内均一性を高く、成膜速度を大きく改善することが可能となる。」 「【0037】 (成膜室) 成膜室107では、ミストを加熱し熱反応を生じさせて、基板110上に成膜を行う。基板110は、成膜室107内の載置部113に載置される。載置部113には、基板110を加熱するためのホットプレート108を備えることができる。ホットプレート108は、図1に示されるように成膜室107の外部に設けられていてもよいし、成膜室107の内部に設けられていてもよい。 ミストの供給手段111は、成膜室107の側面に設けられる。供給手段111については、後で詳述する。 また、排気口112は、成膜室107の上部であって載置部113(基板110)の上方に設けられることが好ましい。これにより、膜厚の均一性はさらに向上する。」 「【0040】 (供給手段) 上述の通り、ミストの供給手段111は、成膜室107の側面に設けられるものであり、相対する方向にミストを供給する、少なくとも1対の供給手段である。図1は、載置部113(基板110)を挟んで左右1対の供給手段111が設けられている例である。 ここで、「相対する方向」とは、成膜室107の上方から基板110を見た場合に、1対の供給手段のうちの、一方のミスト供給方向と、他方のミスト供給方向とが、互いに反対方向であることを意味する。この場合、1対の相対する方向の供給手段は、完全に同軸上で向き合っている場合に限られない。また、供給方向は完全に反対向きとなっているものの、供給方向の軸は互いに偏芯していてもよい。ここで、一方の供給方向を基準の0°とした場合、他方の供給方向が180°の方向の場合だけでなく、180°±10°の範囲内であればよい。 【0041】 また、成膜室107を側方から見た場合のミスト供給方向を、基板表面と略平行な方向とし、成膜室107の側面における供給手段111の高さを基板表面と略同程度の高さとすることが好ましい。このようにすることで、基板110の表面に平行な方向の流れを作ることができ、その結果、膜厚の面内均一性をより改善し、成膜速度をより高くすることができる。 なお、供給手段111は、成膜室107の側面に設けられた開口部でも、成膜室107の側面に設けられた成膜室107内に挿入されるノズルでもよい。 【0042】 図3は、ミストの供給手段として載置部113(基板110)を挟んで2対の開口部111a、111bが設けられている例、図4は、4対の開口部111a、111b、111c、111dが設けられている例である。なお、図中、ミスト供給方向114を一点鎖線矢印で示した(後述の図5、6も同様)。 ・・・ 【0047】 以上詳述したように、供給手段が1つの開口(ノズル)のみの場合には、成膜室107の内部が加熱されているため、成膜室107の側面から内部に向けてミストが指数関数的に減少していく。一方、成膜室107の側面に設けられた、相対する方向にミストを供給する少なくとも1対の供給手段を用いる場合には、ミストの流れ(速度)が基板110上で相殺され、結果的に基板上の広範囲に渡って高密度のミストを導入することが可能となる。これにより、基板上に均一な膜厚かつ高い成膜速度で成膜することができる。」 「【実施例】 【0053】 以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。 【0054】 (実施例1) まず、図1を参照しながら、本実施例で用いた成膜装置101を説明する。成膜装置101は、キャリアガスを供給するキャリアガス源102aと、キャリアガス源102aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103aと、希釈用キャリアガスを供給する希釈用キャリアガス源102bと、希釈用キャリアガス源102bから送り出される希釈用キャリアガスの流量を調節するための流量調節弁103bと、原料溶液104aが収容されるミスト発生源104と、水105aが収容された容器105と、容器105の底面に取り付けられた超音波振動子106と、成膜室107と、ミスト発生源104から成膜室107までをつなぐ石英管の供給管109と、成膜室107の外部に設けたホットプレート108とを備えている。基板110は成膜室107内の載置部113に設置され、ホットプレート108で加熱される。 【0055】 本実施例では、供給手段111として、成膜室107の側面の基板110の表面と略同じ高さの位置に、基板110表面と略平行な流れを形成するように、1対の開口部を設け、成膜室107の上部であって載置部113の上方に排気口112を設けた成膜装置を用いた。 【0056】 成膜は、以下のようにして行った。 まず、原料溶液の作製を行った。臭化ガリウム0.1mol/Lの水溶液を調整し、さらに48%臭化水素酸溶液を体積比で10%となるように含有させ、これを原料溶液104aとした。 【0057】 上述のようにして得た原料溶液104aをミスト発生源104内に収容した。次に、基板110として直径8インチ(200mm)のc面サファイア基板を、成膜室107内のホットプレート108に隣接する載置部113に設置し、ホットプレート108を作動させて温度を500℃に昇温した。 次に、流量調節弁103a、103bを開いてキャリアガス源102a、102bからキャリアガスを成膜室107内に供給し、成膜室107の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を20L/minに、希釈用キャリアガスの流量を60L/minにそれぞれ調節した。なお、キャリアガスとして酸素を用いた。 【0058】 次に、超音波振動子106を2.4MHzで振動させ、その振動を、水105aを通じて原料溶液104aに伝播させることによって、原料溶液104aをミスト化してミストを生成した。このミストを、キャリアガスによって供給管109を経て成膜室107内に導入した。そして、大気圧下、500℃の条件で、成膜室107内でミストを熱反応させて、基板110上にコランダム構造を有する酸化ガリウム(α-Ga2O3)の薄膜を形成した。成膜時間は30分とした。 【0059】 基板110上に形成した薄膜について、測定箇所を基板110上の面内の17点として、段差計を用いて膜厚を測定し、平均膜厚、成膜速度、標準偏差を算出した。 その結果、平均膜厚5.2μm、成膜速度10.4μm/hr、標準偏差0.4μmであった。 【0060】 (実施例2) 供給手段111として、図3に示すように成膜室107の側面に2対の開口部111a、111bを設けたこと以外は、実施例1と同じ条件で成膜を行った。 その結果、平均膜厚5.4μm、成膜速度10.8μm/hr、標準偏差0.2μmであった。 ・・・ 【0062】 実施例1、2及び比較例の結果を、表1にまとめた。 【0063】 【表1】 【0064】 実施例1、2と比較例との比較より、成膜室の側面に、相対する方向にミストを供給する1対又は2対の供給手段を設けることにより、膜厚の標準偏差が大幅に改善し、膜厚の面内分布の飛躍的な改善がみられた。また、平均膜厚も実施例1、2の方が大きくなっており、成膜速度を高くでき、原材料の利用効率の改善効果もみられることがわかった。」 図1、3は、以下のとおりのものである。 (イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。 a 実施例1、2は、基板上に形成した酸化ガリウムの薄膜に関する技術であること(【0058】〜【0063】)。 b 実施例1、2において、基板上に形成した薄膜について、段差計を用いて膜厚を測定し、平均膜厚、標準偏差を算出したこと(【0059】〜【0063】)。 c 実施例2では、薄膜の平均膜厚は5.4μm、標準偏差は0.2μmであったこと(【0060】、【0063】)。 (ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、実施例2で形成された薄膜として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「酸化ガリウムの薄膜であって、 該酸化ガリウムの薄膜の平均膜厚が5.4μmであり、標準偏差が0.2μmであり、 前記平均膜厚及び標準偏差は、段差計を用いて測定された膜厚から算出されたものである酸化ガリウムの薄膜。」 イ 引用文献A (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の原出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった周知技術を示す文献である、特開2014−157982号公報(原査定における「引用文献3」。以下「引用文献A」という。)には、次の記載がある。 「【0036】 接合膜12は、支持基板11とIII族窒化物膜13とを接合できるものであれば特に制限されないが、支持基板11とIII族窒化物膜13との接合性が高い観点から、SiO2膜、Si3N4膜、TiO2膜、Ga2O3膜などが好ましい。接合膜12の平均厚さは、特に制限されないが、たとえば、100nm〜4μm程度とすることができる。」 「【0039】 なお、接合膜の厚さは、従来公知の光干渉式膜厚計や段差計などにより測定することができる。また、該厚さは接合膜12の主面に対する垂直断面を走査型電子顕微鏡(SEM(Scanning Electron Microscope))などにより観察することによっても測定することができる。」 ウ 引用文献B (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の原出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった周知技術を示す文献である、国際公開第2017/065251号(原査定における「引用文献4」。以下「引用文献B」という。)には、次の記載がある。 「[0016] <有機光電変換素子1> 図1は、本発明の一実施形態における有機光電変換素子1の構成を模式的に示す断面図である。有機光電変換素子1は、透明基板2と、アンダーコート層3と、第1透明導電層4、金属層5及び第2透明導電層6とが順次積層された下部透明電極7と、有機活性層8と、上部電極9とが順次積層されている。・・・」 「[0019] 有機光電変換素子1の透明基板2に対して垂直方向に光が入射すると、透明基板2と、金属層5との間の距離(膜厚)d及び屈折率nで表される、透明基板2と、金属層5との間の光路長(n×d)を、以下の式(a)に代入して算出される波長λの反射光が光干渉条件により増強されることになる。・・・」 [0025] 式(1)中の膜厚dは、例えば、分光エリプソメーター、光干渉式膜厚計、触針式段差計、原子間力顕微鏡、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡等により測定することができる。・・・」 エ 引用文献C (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の原出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった周知技術を示す文献である、特開2019−54167号公報(原査定における「引用文献5」。以下「引用文献C」という。)には、次の記載がある。 「【0061】 光電変換モジュールを製造する方法は、透明電極層24,25のシート抵抗、膜厚又は透過率を測定する工程を有していてよい。透明電極層24,25のシート抵抗は、例えば4端子法による抵抗測定器、又はホール効果を利用した抵抗測定器によって測定することができる。透明電極層24,25の膜厚は、例えば、分光光度計、光干渉式膜厚計、SEM(走査型電子顕微鏡)、段差計又はレーザ顕微鏡によって測定することができる。透明電極層の透過率は、例えば分光光度計によって測定することができる。」 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「酸化ガリウムの薄膜」、「平均膜厚」、「標準偏差」は、それぞれ本件補正発明の「酸化ガリウム薄膜」、「膜厚の平均」、「膜厚の標準偏差」に相当する。 (イ)引用発明において、「前記平均膜厚及び標準偏差は、段差計を用いて測定された膜厚から算出されたものである」ところ、「段差計」は膜厚計の一種であるから、本件補正発明と引用発明とは、「前記膜厚の平均および標準偏差は」、「膜厚計による膜厚の測定値からの算出値である」点で一致する。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「酸化ガリウム薄膜であって、 該酸化ガリウム薄膜の膜厚の平均が2.4μm以上であり、膜厚の標準偏差が0.3μm以下であり、 前記膜厚の平均および標準偏差は、膜厚計による膜厚の測定値からの算出値である酸化ガリウム薄膜。」 <相違点> 本件補正発明では、「該酸化ガリウム薄膜の膜厚の平均が2.4μm以上であり、膜厚の標準偏差が0.3μm以下であり、前記膜厚の平均および標準偏差は、光干渉式の膜厚計による膜厚からの測定値からの算出値」であるのに対し、引用発明は、「該酸化ガリウムの薄膜の平均膜厚が5.4μmであり、標準偏差が0.2μmであり、前記平均膜厚及び標準偏差は、段差計を用いて測定された膜厚から算出されたものである」点。 (4)判断 ア 以下、上記相違点について検討する。 薄膜の膜厚を測定する方法として、光干渉式の膜厚計や段差計を用いて測定することは、例えば、引用文献A〜引用文献Cに記載されているように、本願の原出願の優先日前に周知技術であり、引用文献Aには、平均厚さが、たとえば、100nm(0.1μm)から4μm程度である、Ga2O3膜などの接合膜の厚さを、従来公知の光干渉式膜厚計や段差計などにより測定することができる旨が記載されている。 したがって、引用発明において、引用文献A〜引用文献Cに記載された周知技術に基づき、膜厚を測定するために用いる膜厚計を、段差計から光干渉形式のものに代えることは、当業者であれば、適宜なし得たことと認められる。 次に、そのように、引用発明において、膜厚計を段差計から光干渉形式のものに代えた場合の「膜厚の平均」と「膜厚の標準偏差」の数値範囲について検討する。 段差計による膜厚の測定点それぞれの測定値と、光干渉形式の膜厚計による膜厚の測定点それぞれの測定値は、完全に同一の数値とはならないと考えるのが自然である。しかしながら、それらの測定値からの算出された数値、すなわち、段差計による測定値からの算出値と、光干渉形式の膜厚計による測定値からの算出値は、測定方法は異なるものの、同じ薄膜の膜厚の測定結果から求められた「膜厚の平均」と「標準偏差」である以上、これらの「膜厚の平均」および「標準偏差」は、いずれも、真の値からある程度の誤差があるとしても、段差計によるものと、光干渉形式の膜厚計によるものとで、膜厚の測定値が大きく異なるようでは膜厚の測定値として意味が無くなるので、ほぼ近い数値となる蓋然性が高いはずである。 しかも、引用文献1には、膜厚の面内均一性に優れた成膜方法を提供することを目的とする旨が記載されている(段落【0006】)ので、引用発明において、「酸化ガリウムの薄膜」の膜厚測定は、面内均一性に優れた薄膜を測定するものであり、精度が高い測定結果を得ることが求められるものといえる。 そうすると、引用発明において、膜厚計を段差計から光干渉形式の膜厚計に代えたとしても、測定される「平均膜厚」と「標準偏差」は、無視できないほどに変わることはなく、ほぼ同じ数値となる蓋然性が高いと認められる。 したがって、引用発明において、膜厚計を段差計から光干渉形式のものに代えた場合に、「平均膜厚」「5.4μm」と「標準偏差」「0.2μm」は、それぞれ、「2.4μm以上」と「0.3μm以下」の数値範囲内に収まるものと認められる。仮にそうでないとしても、引用発明において、「平均膜厚」を「2.4μm以上」、「標準偏差」を「0.3μm以下」の数値範囲とすることは、当業者であれば適宜なし得たことと認められる。 イ また、本件補正発明が奏する作用効果は、引用発明が奏する作用効果と同様であるから、引用発明が奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということもできない。 したがって、引用発明において、引用文献A〜引用文献Cに記載された周知技術に基づき、上記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者であれば、適宜なし得たことと認められる。 ウ よって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献A〜引用文献Cに記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和5年1月12日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和4年7月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1〜3、5、6に係る発明は、その原出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、請求項1、3、5、6に係る発明は、その原出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、また、請求項1〜3、5、6に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、請求項1〜3、5、6に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、請求項4に係る発明は、引用文献1または引用文献2に記載された発明及び引用文献3〜5に記載された周知技術に基いて、その原出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 1.特開2020−2396号公報(上記第2[理由]2(2)アの「引用文献1」) 2.特開2016−146442号公報 3.特開2014−157982号公報(周知技術を示す文献。上記第2[理由]2(2)イの「引用文献A」) 4.国際公開第2017/065251号(周知技術を示す文献。上記第2[理由]2(2)ウの「引用文献B」) 5.特開2019−54167号公報(周知技術を示す文献。上記第2[理由]2(2)エの「引用文献C」) 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記膜厚の平均および標準偏差」に係る限定事項を削除したものである。 本願発明と引用文献1に記載された発明(引用発明)とを対比すると、前記第2[理由]2(3)ア(ア)に記載したとおりであるから、本願発明の構成は全て引用文献1に示されているものであって、本願発明は引用文献1に記載された発明ということとなる。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2023-08-30 |
結審通知日 | 2023-09-05 |
審決日 | 2023-09-20 |
出願番号 | P2021-126970 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L) P 1 8・ 575- Z (H01L) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
瀧内 健夫 |
特許庁審判官 |
市川 武宜 恩田 春香 |
発明の名称 | 酸化ガリウム薄膜及び積層構造体 |
代理人 | 小林 俊弘 |
代理人 | 大塚 徹 |
代理人 | 好宮 幹夫 |